日本のデジタル音楽市場の現状と課題

<日本のデジタル音楽市場の現状と課題>
(社)日本レコード協会(RIAJ)
日本レコード協会(RIAJ) 常務理事
田中純一
まず、冒頭に日本のデジタル音楽市場の現状とその課題、そしてその全体像についてお話し、三
田さんの方から実際日本のデジタル音楽産業のビジネスがどうなっているのかに詳細なお話を
いたします。まず、今日は大きな三つのテーマでお話いたします。まず、最初に日本レコード協
会についてお話します。詳細な内容はお手元の資料をご参照ください。
2番目に今日のメインテーマである日本のレコード産業の全体の状況についてお話します。最後
に日本レコード協会が取り組んでいる新たな仕事について報告いたします。
日本レコード協会は1942年に設立されました。現在、会員社の数は42社に上っています。
この会員社の42社で日本レコード市場シェアの90%をカバーしています。後残りの10%が
インディーズということで、まさに世界各国の中でもメジャー比率が非常に高い国だということ
ができます。
次に日本レコード産業の現状についてご報告いたします。
このグラフからもよくわかるように、日本のレコード産業、オーディオ産業のマーケットですが、
このように生産金額が減少傾向にあります。1998年に6000億だった市場が2005年に
は3600億と、約3分2に減少しています。世界的にオーディオレコードが苦戦していること
を知ることができます。皆さんもよくご存知だと思いますが、ここで音楽を記録するメディアが
どのように変化したかについて、簡単にお話します。
1950年に LP レコードが発売されて以来、その後30年間アナログの時代でありました。1
982年に CD、コンパクト・ディスクが登場して、ここからアナログ時代からデジタル時代に
入りました。それから25年経過しています。一方、音楽を録音するメディアにつきましては、
1962年にカセットが登場しまして、それから30年間音楽を録音するメディアとして使われ
てきました。1992年にミニディスク(MD)が登場して、初めて音楽を録音するメディアがア
ナログからデジタルに変わりました。それから現在まで15年が経過しています。
1998年に MP3が開発され、音楽を高度に圧縮して記録することができるようになりました。
1999年にはナプスターという技術が提供されたり、2003年にはi-Pod、ハードディ
スクレコーダーが出たり、2004年には携帯電話で音楽を聞けるようになりました。
次の図はメディアがどのように変わってきたかを表しています。左側の一番上にあるブルーの線
がカセットテープです。このようにアナログ記録のできるメディアが減少傾向にある一方で、デ
ジタル記録のできるメディア、すなわち赤い線の MD や CD-R などは増加傾向にあることを知る
ことができます。次も、メディアの変遷の図になりますが、さっきの図との違いは2007年に
どのようになるかをここには書いてあります。音楽を届けるメディアが CD からハードディスク
や半導体メモリーに移っていくかどうか、2007年には知ることができると思います。
先ほど、日本レコード産業の現状を説明する際、8年間日本のオーディオレコード市場が縮小傾
向にあると説明しました。しかしながら、先ほどのグラフとの違いは、音楽ビデオ(DVD)、音楽
配信といった新しいメディアが音楽市場で伸びていることです。CD は相変わらず少なくなって
いますが、音楽ビデオ(DVD)、音楽配信といった新しいメディアが急速に伸長するようになり、
2005年は8年連続の減少傾向から脱皮し、前年実績を超えることが出来、音楽の下げ止まり
が起きたということができます。音楽配信の増加には、二つの理由があります。まず、そのひと
つはインターネット料金の値下げです。日本と韓国は世界の中でもインターネット料金の非常に
安い国です。右側の図はブロードバンド(ADSL)加入者数の推移を示していますが、ここで強調し
たいのは、光ファイバーや CATV などブロードバンドがインターネット接続環境として急速に整
いつつあるということです。次の図は携帯電話の世帯普及率です。日本の家にどれくらい携帯電
話があるかを示していますが、日本の世帯の94%、95%、ほとんどの家に携帯電話環境があ
るということを示しています。
後ほど三田さんの方から詳しい説明があると思いますけど、これは日本における音楽のダウンロ
ードの金額推移を示したものです。赤い部分がインターネットダウンロード、ブルーの部分が携
帯電話のダウンロードを示しています。多分、これは韓国と日本の大きな違いのひとつだと思い
ますが、日本では携帯電話のダウンロードが大半を占めています。一方、ダウンロードした音楽
を再生する環境として、i-Podに代表されるようなデジタルプレーヤーがありますが、この
赤い部分がその数を示しています。一方、下の方にある線は MD プレーヤーや CD プレーヤー、ラ
ジオカセですが、この図を見ると、デジタルオーディオプレーヤが急速に増えていることがご理
解いただけます。音楽を再生できる携帯電話や音楽を再生できるデジタルオーディオプレーヤが、
今後急速に増えることが予想されますので、レコード会社が音楽を届ける手段も従来の CD から
ダウンロードに大きくシフトしていく可能性があります。
ここからは話題を変えまして、日本レコード協会が取り組んでいるいくつかの新しい事業につい
てお話します。これは「音楽の森(Music Forest)」というインターネットサイトの絵ですが、こ
のサイトで音楽のレパートリーデーターベースに関する情報を日本の音楽産業が中心となって
公開しています。この音楽の森からは 作曲家や作詞家あるいは歌手や演奏家の情報なども公開
されており、現在230万曲の情報が公開されています。このポータルサイトは日本音楽著作権
協会のジャスラック(JASRAC)
、日本芸能実演家団体のクプラ(CPRA)、レコード産業団体の RIAJ
の3団体によって運営されております。一般のユーザの方や音楽ダウンロード事業を行っている
方が、このサイトを非常にたくさん利用しています。
もうひとつ日本レコード協会が取り組んでいる事業の一つは、レコード店の店頭で CD の音楽を
試聴できるサービスを提供することです。右側にある写真がレコード店にある音楽店頭試聴機
と呼ばれるものです。CD の裏側にバーコードが印刷されていますが、そのバーコードを試聴機
の下に持ってくると、その CD の曲を45秒聴くことができます。また左側にあるのはインター
ネットで CD の販売を行っているウェブサイトですが、このようなサイトに対しても、ウェブ上
で CD が試聴できるサービスを行っております。
もうひとつレコード協会が取り組んでいる非常に大きな事業として、レコードの違法利用に対し
て、それを行わないように促すキャンペーンを展開しております。左側の写真は、レコード協会
が Respect Our Music、Love Music、Save
Music というキャンペーンロゴで展開している
プログラムです。レコード店を始めとする様々な場所に左側のアーチストのポスターを展示して、
音楽を大切にしてほしいと、違法な音楽ファイル交換をやらないでほしいと言うことをプロモー
トしています。一方、違法で P2P で音楽ファイルを交換しているユーザに対しては、レコード
協会が、24時間、365日、そういうユーザにインスタントメッセージを送ることによって、
P2P 交換をしないよう働きかけを行っております。右側の図は P2P ユーザの数、比率ですが、
2003年をピークに減っております。これはレコード協会が P2P ユーザに対してメッセージ
を継続して送り続けた成果ではないかと見ております。日本では2011年に全ての放送がアナ
ログからデジタルに移行することになっております。そのような時代が到来したときには、放送
番組がインターネットで、ブロードバンドでどんどん利用されていくと見られます。 放送番組
をインターネットで配信するときには、レコード会社から事前に許諾を受けることが法律で義務
付けられています。しかし、それでは放送会社が権利者すなわち、一つ一つのレコード会社に全
部許諾を取りに回らなければならないので、日本レコード協会では今年中に全てのレコード会社
から委託(委任)を受けて、レコード音楽の利用に対する許諾を出せる集中管理事業を開始する予
定で取り組んでいます。これも新しいデジタル時代における音楽の利用をできるだけ簡便に済ま
せることができるような取り組みです。
日本レコード協会はアジアとの音楽交流についても、積極的に取り組んでおります。これは日本
と韓国の音楽文化交流に向けた取り組みとして、日本レコード協会が毎年開催している日本ゴー
ルドディスク大賞、今年は第20回でしたが、そこで「日韓友情年2005特別賞」ということで
Kさん、パク・ヨンハさん、SEVENさんを表彰したときの写真です。
最後に、日本がアジア諸国に対して日本の音楽をライセンスすることについても、非常に積極的
に取り組んでおります。左側にあるように、2005年には韓国に日本から 213 タイトルのライ
センスが行われ、全体の数の2割を占めています。右側にあるのは自分の国の音楽がどれくらい
の比率を占めているかです。日本、韓国、フランスが非常に自国の音楽を愛していることを知る
ことができます。我々は自分の音楽を大切にしながら、さらに近くの国と音楽の交流をさらに積
極的に行っていきたいと思っています。改めて、このような貴重な機会を与えていただき、あり
がとうございます。