Title Author(s) Journal URL 7%重曹水の心臓血管作用 : 第1編 注入速度、 Hypoxiaの有無、Acidosisの程度による作用の差異 中沢, 誠 東京女子医科大学雑誌, 44(4):359-367, 1974 http://hdl.handle.net/10470/2353 Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database. http://ir.twmu.ac.jp/dspace/ 21 (蕪講67第繍4趨言) 7%重曹水の心臓血管作用 注入速度Hypoxiaの有無, Acidosis 第1編 の程度による作用の差異 東京女子医科大学付属日本心臓血圧研究所小児科(高尾篤良教授) 中 ナカ 沢 誠 ザワ マコト (受付 昭和49年1月26日) Cardio▼asc闘1ar EH6cts of 7%Sodium Bicarbonate 1.Rate of I㎡usion, Prese凱ce of Acidosis or Hypoxia Makoto NAKAZAWA, M.D. section of Pediatric Cardiology, Heart Institute ofJapan, Tokyo Women,s Medical College Cardiovascular ef琵cts of intravenous in{hsion of 7%sodium bicarbollate were studied in allesthetized, thoracotomized cats. A銑er administration of 7%sodium bicarbonate(2 ml/kg iv), blood pH was elevated by O.11 and base excess by十8.4 to十10.O mEq/L Cardiovascular ef琵cts of NaHCO8 are analysed as two parts;the且rst is a direct cf琵ct of NaHCO3 and another is a result of correction of ac量dosis. Direct e飴cts were resulted f}om an increase in cardiac output, both systemic and pulmonary vaso− dilatation, and decrease in isometric myocardial tension. Correction of acidosis caused increase in cardiac output and pulmonary vasodilatation, but an increase in cardiac output was not prominent, Rapid intravenous i両ection resulted in significant myocardial depression, which was augmented by hypoxemia, and ventl icular premature beats. Clinically,7%NaHCO3 should be used, recognizing all eHbcts described above, especially that of myocardial depression. 1・緒 ように8),肺血管を収縮させ3)∼7),直接作用とし 言 .代謝性acidos三sは,ファロー四徴症の低酸素 て心筋抑制を導く3)7)∼16).他方,交感神経副腎系 発作,人エ心肺使用や低体温麻酔の手術中および を興奮させて循環尤進ないしは直接の抑制作用を 手術後,糖尿病,腎不全,小児の消化不良性中毒 代償(軽減)するべく作用する8)10)18)16)即19).Acido− 症,種々の原:因によるshock,低酸素血症,新生 sisにhyPoxiaが加われば常に抑制的である3)18). 児や未熟児の呼吸窮迫症候群などでみられる1)2). 更に,臨床的にも,また多くの実験でもacidosis Acidosisの心臓血管作用はわれわれも報告した の存在下では外因性カテコールアミンの効果が低 一359一 22 下することが観察されている9)1。)17)20)21). sec,または50mm/secとし,1匹の実験について連続し したがって臨床上,acidosisの治療はその原因 て記録した.直腸温を測定し,電気パッドなどで体温保 の治療とともに重要となり,7%重曹水はこの目 持につとめた. 各実験で7%重曹水注入前後に動脈血を採り,Astrup 的で極めて頻繁にまた容易に使用されている.と 法によりpH, PaO、, PaCO、, base excessを測定した. ころが,この7%重曹水が高張でかつ高ナトリウ 血液サンプルは採血後4時間以内に測定したが,それま ム溶液であることは知られているものの,心臓血 管系に対する作用についての詳細な研究がみられ では氷水中に保存した. 以上の準備のもとに次の2つの実験を行なった. ない.そこで今回,臨床においても動物実験にお (1) 100%酸素呼吸下に7%重曹水2ml/kgを股静 いても多用されている7%重曹水の心臓血管に対 する作用を,畠山による実験によって総合的に検 脈より注入し,全量を注入するに要した時間から2つの グループに分けた.すなわち,5ないし15秒で全量を注入 討した. したものを急速注入群(n=1エ),Harvard infusion pump n・研究目的 を用い1分半ないし2分半で注入したものをゆっくり注 7%重曹水の末梢静脈内注入によって起こる心臓血管 入(n=16)とした.次に低酸素血症を得るため10%酸 系の変化の解明と,その臨床的意義の検討を目的とし 素90%窒素による呼吸を行い,同様に急速注入(n=7) た. とゆっくり注入(n=8)を行なった.低酸素血症にお この論文においては,7%重曹水注入に際し,注入速 ける注入は,10%酸素呼吸開始後5分経過した後に行な 度の緩急および吸入酸素濃度を変えることによる作用発 った.このcontrol studyとして同様の低酸素呼吸を8 現の差異を検討した.更に,注入前の動脈血画により正 分間続け,5分値と8分値の六出を測定し,それらを比 常から強いacidosisまで4つの群に分け,それぞれの 較した. それぞれの実験において注入前と注入終了後3分の循 群における作用の差およびacidosis補正による効果を検 討した. 環諸量と血液ガスを測定した.急速注入においては注入 直後の心筋張力をも測定した, 皿・研究対象および研究方法 (2)0.15規定塩酸をHarvard infusion pumpで注入 体重2.2㎏ないし4.1㎏の成猫18匹を用いた,pento・ し,画7.45から岡6.99以下の各面をつくり,重曹水心入 barbital−Na 25mg/㎏の静脈内注入により麻酔し,気管切 開により気管内挿管を行い,アコマ製AR−300人工呼吸 器で人工呼吸を行なった。1回換気量は13ml/kg,1分間 15回の呼吸数とした.肺虚脱を防ぐため呼気終末圧を3 前の動脈血酬によってA群(画7.45∼7.35,n=12),B 群 (置{7.34∼7.20, n=10),C群 (#{7.19∼7.00, n= 13),D群(画6.99以下, n=9)の4つのグループに分 け,7%重曹水2ml/kg注入による注入3分後の心拍出 cm水柱に保つた。 量:,心筋張力,体および肺血管抵抗の変化を検討した. 左右股静脈にそれぞれビニールカテーテルを挿入し, なお各変化はStudentt分布表に従って検定した。 一方を7%重曹水飼入用に,他:方をacidosis作成のた 1V・研究成績 めの0.15規定塩酸注入用とした.左右股動脈より胸部大 動脈までカテーテルを進め,一本目大動脈圧測定用,他 1.呼吸酸素濃度および注入速度の違いによる の一本を血液ガス分析のための動脈血採取用に用いた. 作用発現の差異 次に第4肋間で開胸し,胸骨を横断して心臓大血管を (i)血液ガス:7%重曹水2ml/kgの注入で 露出させた.左室,左房,肺動脈,右房へ直接カテーテ 動脈血1刑は平均十〇.11,base excessは十8。4∼ ルを挿入し,それぞれの内圧測定に用いた,上行大動脈 十10.0の上昇を示した.PaO2は注入前後で変化 に電磁流量計(日本光電製)のproveを装着し,心拍出 を示さなかったが,PaCO2は多少上昇した(表 量(冠血流量を除く)を測定した.また,右室前壁に strain gauge archを縫着し,等尺性心筋張力を測定し 1). (ii)脈拍数:100%酸素呼吸中の例では増加 た22)傅2り. しなかったが,低酸素血症例で軽度増加した.低 これらの測定値は,三栄測器製8素子生体監視記録装 酸素血症のcontrol studyでも2.1%の増加を示 置で監視され記録された.記録器の紙送り速度は1mm/ しており,3分後では7%重曹水そのものによる 一360一 23 表1 7%重:曹水(2m1!kg)注入前および3分後の血液ガス所見 急速注入 ゆっくり注入 前 pH in=8) 前 後 7.14 PaCO2 50.4 7。26*** 54.8 7.30 in=7) 後 前 前 後 7.37 7.48*** 7.41* 7.24 1後 7.35*** 32 35 31.9 一11.9 −2.8**** 一12.3 B.Ex. 後 7.24 7.38*** 183 186 PaO、§ 前 全 実 験 in=42) 10%酸素 100%酸素 in=11) 10%酸素 100%酸素 in=16) 37.9 38.9 −2.3**** 一6.0 31.3 44.2 一5,7 十2.4* 38.1* 十3.5**** §PaO,はゆっくり注入,急速注入の別には分けず100%酸素呼吸時および10%酸素 呼吸時のそれぞれ27例,15例について平均値を示した. B.Ex.:base excess **;P<0.05 ***:P<0.01 注入前との比較における危険率 ****:Pく0.005 表2 注入条件の違いによる循環測量の変化 (脈拍数,心血管内圧は絶対値,心拍出量,心筋張力,肺および体血管抵抗は注入前司を!00とした指数:平均値±標準誤差) i7%重曹水を注入せ in=42) 前1後 脈拍数 202 206 (1分) 大動脈 平均圧 肺動脈 平均圧 左 房 平均圧 右 房 平均圧 10%酸素§ 急速注入2mllkg 5∼15秒 ゆっくり注入2ml/kg 1.5∼2.5分 全実験 100%酸素 in=16) 「後 前 200 200 ± 5.0 10%酸素 in=8) 100%酸素(n=11) 前1後 前「後 201±9.0 ±8.7(一ト2.3タ6) (十〇.5%) ±5.8 59±6.7 97±4.7 99±6,2 64±3.4 (一2.2%) (一7.8%) 4.7 118±9.6 116±9.7 (十1.7%) 1篤劣124±・・31覧1嬬 26±2.3 5.1 5.9 6.4 3.3 3.6 5.9 ± 0.3 ±0.4 宙碧1001驚・100 腰噸1・・李§・1・・ 112 100 118 100 十2.1% 102±9.8 112±13.0 一5.1% 23± 1.1 100 ±3.5** ±10.9 23± 1.0 − 1.1タ6 105±1.6** 一 8.6% 91±・・11・・臨灘圭鋸11・・{碧分灘圭1欝 97± 3、0 100 87±4.5* 100 78 83±6.4* 100 62 in=14) 209±8.9 190±7.0 (十10%) (一8.9%) 17± 0.5 ク3分間) 2.4±0.53.0±0.46.1±0,47.1±0.5十1.4㎜H9 ±0.9 ±6.7** 察勢1・・9甕・1・・ 毯噂1・・§§・1・・ 5.4 ± 1.1 17± 0.6 1後 4.5±:0.95.2±0.86。3±1.37.8±1.9−0.4㎜H9 ±0.7 ±0.8 ±0.6 ±0.6 121 前 223±12。6202±9.5 218 10%酸素(n=7) 一4.6% 100 87± 3.4** 100 84± 5.0* 十〇.6% 100 78±4.0*** 100 82± 6.0* 十 6.4タ6 ±4.4** ±6.4** §文献3)より *:P<0.05 **:P〈0.01 注入前との比較における危険率 ***:P〈0.005 脈拍数の変化はなかった(表2). 8∼9%の低下を示すが有意でなく(P>0.05), (iii)大動脈平均圧:急速注入では,注入直後 一過性の低下を示すが(図1一上段),3分後には しかも低酸素血症のみでも596の低下を示してい た(表2). ほぼ注入前に復する.低酸素血症のある場合は, (iv)肺動脈平均圧:各注入条件において注入 一361一 24 鰍 2DD 0 +30 』』』幽幽幽』油断翫 +20 :…八議轟…:一:…、1……:㌧…:目}・押}… ヱの 」 的 r ilil 1「I I i1 …「2 「…{ iE「旨 1i 旨】 1; rF{; 壬 +10 ;1 3 _超」 :iにlili訓ii臨;lliii臨川illll「匿…臨1…・π:i ”ド’”… 1’…「ト’9.「.’ i’’”「’…’ 0 {%1 1’ 2’ 3’ 0、{q旬 図1 7%重曹水静脈内注入による大動脈圧およ び心筋張力の変化(Ao:大動脈圧, MC: 心筋張力(収縮力)) □ 翅 懸 國 (上段)急速注入:注入時, 軽度の血圧上昇が みられる.心筋張力は注入なかばから低下 をはじめ終了時最低となり, これと同時に 血圧も下降する. (下段)ゆっくり注入:7%重日水7ml(2ml/ kg)を1分45秒で注入した. 注入終了時に 騨 100 S10W 10 slOW 100 rapid 10 rapid 至鵬・n・f・llcase・ わずかに血圧下降があるのみで大ぎな変化 はない。心筋張力も注入開始15秒後より低 図2 7%重曹水注入3分後の反応一こ入条件の 違いによる作用の差一(平均値および標準 下を示すが,その程度は少ない. 誤差) (1) 心拍出量;平均して!6%の増加がある. 前後で有意の変化を示さなかったが,その中で, 10%酸素呼吸中の急速注入は増加率が最も 低酸素血症下のゆっくり注入では比較的大きく低 小さい. 急速注入はゆっくり注入より, ま 下した(表2). た10%酸素呼吸中は100%酸素呼吸中より, それぞれ心拍出量増加率が少ない. (v)心房圧:注入3分後で上昇し,各注入と も左房圧において大きかった.また,10%酸素呼 後ないし数秒後に著しい低下を示し,その低下率 吸中での急速注入で,右房圧,左房圧とも大きな は25∼28%にも及んだ(図1一上段,図3).しか 上昇を示した.低酸素血症,ゆっくり注入におい も,その後の回復も充分でなく,3分後の低下は てのみ右房圧の低下をみた(表2). 注入前にくらべて有意差を示し,低酸素血症群で (vi)心拍出量:注入3分後に5∼21%(平均 より大きな低下を示した(表2,図3). 16%)の増加を示した. 100%酸素呼吸中におけ (viii)体血管抵抗:大動脈平均圧を心拍出量 る増加率は,ゆっくり注入が21%,急速注入が18 で除した値を,注入前後の変化率として表わした. %であり,低酸素血症存在下ではそれぞれ12%と 13∼22%(平均17%)の低下を示し,低酸素血症 5%であった.すなわち,それぞれの酸素濃度に 群で大きい傾向であった(P<0.05) (表2,図 おいて,ゆっくり注入による増加率が急速注入の 4). それより大きかった.また注入速度が同じ場合に (量x)肺血管抵抗:肺動脈平均圧から左房平均 は, 100劣酸素呼吸中の増加率が低酸素血症のそ 圧を引いた値を,心拍出量で除した値を肺血管抵 れより大きかった(表2,図2). 抗とし,変化率で検討した.7%重曹水注入によ (vii)心筋張力:平均して8%の低下がみら って,17∼38%(平均22%)の低下を示した,低 れた.ゆっくり注入では注入中に軽度の低下をみ 酸素血症ゆっくり注入で最も大きな低下を示した たが(図1一下段),3分後の低下は少なく,推計学 が,他の群と有意の差はなかった(P<0.05) 的に有意とならなかった.急速注入では,注入直 一362一 (表2,図5). 25 0 1%} ■ 寧 ‘%} 壬 黷P 口10 壬 │20 一20 │30 一30 100 測 slOW 10 slOW 100 rapid 10 rapid 0、醐 □ 囮 懸 ■ 廓 ゴぎ 8f愉 0、圃 □ 囮 100 slOW 10 slOW 100 rapid ■ 10 rapid 翻 inj㏄tion 至一ω・朋ca・。・ speod. 重㎜α・ll cases 図3 7%重曹水注入3分後の反応一注入条件の 図4 7%重曹水注入3分後の反応一注入条件の 違いによる作用の差一(平均値および標準 違いによる作用の差一(平均値および標準 誤差) 誤差) (2) 心筋張力:急速注入では直後ないし数秒 後の最低下率をも示した(★印).急速注入 では直後に大きな低下があり, 低酸素血症 があれば回復が悪い. 100%酸素呼吸下で のゆっくり注入はほとんど低下を生じなか (3) 体血管抵抗:平均して17%の低下を示し たが,層群で差はなかった. つた. 表3 注入前の動脈血pHの違いによる7%重曹水(2ml/kg)注入の影響 (A∼Dの分類は研究方法の項に記した) 後 前 SE 平均 平均 0.0317.48*** SE 平均 SE 0.05 7.25 0.04 7.36** pH§ 7.38 心拍出量x 100 113*** 3.1 100 心筋張力x 100 89*** 2.9 体血管抵抗X 肺血管抵抗翼 100 100 84*** 3.3 82*** P3・1 平均 SE 平均 0.02 7.14*** 0。03 100 100 81*** 3.1 100 90** 3.1 100 76*** 3・・11・・ 72*** 5。6 97 4.7 100 100 184*** 4.1 6.3 *=注入前との比較においてP<0.05であったもの 一363一 平酬・E 4.1 100 x:変化率(%) SE 91* 100 §=平均±標準偏差 平均 100 6.8 SE:標準誤差 0.05 7。25*** SE 5.2 124* **:P〈0.05, ***:P<0.001 平均 6.92 7.10 171*** SE 後 前 0.07 0.07 100 後 前 後 前 D(n=9) C(n=13) B(n=10) A(n騙12) 120*** 115* 6.6 90*** 2.5 26 (X)不整脈:急速注入直後で心筋張力が最も 0 低下する時期に,心室性期外収縮と思われる不整 1%} 脈をしぼしば認めた.2匹の猫はこの時期に心室 細動による循環停止を来たして死亡した. 黷P0 2.注入前動脈血pHの違いによる作用発現の │20 壬 +10 │30 1%1 C40 蜘 slOW α鱒 □ 100 A D C 8 一10 囮10・1・w 懸100・apid 一20 ■■ ・0・a炉d 重㎜㎡・ll・・鈴・ 晦 図5 7%重曹水注入3分後の反応一注入条件の n 違いによる作用の差一(平均値±標準誤差) (4) 肺血管抵抗:平均して22%の低下を示し C D A B .45一,35−7 12 ね 13 9 一 一 図7 7%重曹水注入3分後の反応一注入前動脈 た.10%酸素呼吸中でのゆっくり注入にお いて比較的大きな低下を認めたが,他群と 血pHの違いによる作用の差一(平均値およ び標準誤差) 有意差はなかった. (2) 心筋張力:B群での低下が少ないが, 他は一様に低下した.pHによる作用の差は なかったと考えられる. 1%1 0 A C B A C B D _10 D _20 %1 Groups pH n C D A B 745−735−72 −7 12 ’10 「3 一30 一 9 図6 7%重曹水注入3分後の反応一注入前動脈 血pHの違いによる作用の差一(平均値およ 晦 び標準誤差) (1)心拍出量:B,C群で大きな増加を示し n たが,D群における増加率が比較的少なか つた.A群における増加は7%重曹水その ものの作用であり,BC群ではそれに加え A .45一 12 B C D 一7 10 一 13 @ . } 9 図8 7%重曹水注入3分後の反応一門入前動脈 血pHの違いによる作用の一一(平均値およ び標準誤差) てacidosisの補正が関与したと考えられる. 強いacidosisでは(D群),acidosisの補正 のみでは充分の増加が得られない. (3) 体血管抵抗:D群における低下率がやや 小さいが置戸と有意差がなかった. 一364一 27 差異(これまでの実験のなかから画7.45以下の実 低下,体血管拡張,肺血管拡張であった.心房圧 験37回と,新らたにD群に7回転実験を加えた) の上昇は心拍出量増加と心筋張力低下の双方の影 (i)心拍出量:軽度のacidosis(B群)で24 %,中等度のacidosis(C群)で20%の増加を示 し,その増加率は,正常出(A群)の13%,強 響と考えられる.これらの心臓血管作用は2つの いacidosis(D群)の15%より大きかった(P< idosisの補正を介しての作用である. 作用の総和として表現されている.その第1は7 %重曹水そのものによる作用であり,第2はac− 7%重曹水そのものの作用発現機序と詳細は, 0.05) (表3,図6). (ii)心筋張力:B群の低下は小さかったが 他の論文25)に発表した.簡単に述べると,心拍出 (P<0.05),他の各論は同程度の低下を示した 量増加,体血管拡張,肺血管拡張は,血漿の約5 (表3,図7). 倍にも達する高張性に由来するものであり,肺血 管拡張作用には,心拍出量増加による関与もあ り26),acidosisの補正も影響していた.心筋抑制 覧1 A B C 作用は重炭酸ナトリウ.ムーNaHCOrそのものの D 作用が大部分を占め,一部に高ナトリウムが関与 していた.末梢から注入されたこの程度の高張液 10 では,はっきりした心筋への抑制作用はみられな かった.抑制作用の機序は次のごとく説明される. 20 重曹水注入後は高CO2血症を来たし,このCO2 が細胞膜を容易に通過するため,一時的に細胞内 30 のacidosisが生じ,これが心筋抑制を生ずると 考えられている8)12)ユ4)27)28). 晦 P n A ,45一 . 12 B C D 一7 10 一 , 13 一 9 臨床上,7%重曹水を静脈内に投与する必要の ある症例の中には,低酸素血症を合併したacido・ sisや,緊急を要する症例が多く,そのような症 例に対して,本剤は安易に比較的早い注入速度で 図9 7%重曹水注入3分後の反応一注入前動脈 血pHの違いによる作用の差一(平均値およ び標準誤差) (4) 肺血管抵抗:正常pH群よりacidosis群}こ 大きな低下を示す傾向を認める.正常pH群 における低下が7%重曹水の高張性による ものであろうから,acidosis群では,それに acidosisの補正による肺血管拡張が加つたと 考えられる. 注入されてきた.しかるに今回の実験の成績で は,低酸素血症における急速な注入は直後に大き な心筋張力の低下を招き,3分後にも有意の低下 を残していたぽかりでなく,心拍出量の増加も他 の注入に比べて最少にとどまった(図2,3).一 旦大きく低下した心筋収縮力は完全に元へ戻るこ とはなく,低酸素血症の存在はそれ自体心筋抑制 (iiり体血管抵抗:A, B, c各群はほぼ同じ を来たすうえ29),その回復を阻害すると考えら 低下率を示したが,D群では比較的少なかった. れ,これは次に述べる事実で裏付けられよう.す (P<0.05) (表3,図8). なわち,急速注入では直後に25∼28%の低下を示 し,酸素が充分供給されている場合には,3分後 (iv)肺血管抵抗:acidosis群(B, C, D群) において正常餌群(A群)より大きな低下が認め られた(P<0.05) (表3,図9). に軽度の低下を残すのみであったが,10%酸素呼 吸では18%の低下を残していた.更に,心拍出 V.考 按 7%重曹水の静脈内注入によって共通してみら 量増加率の低さはこの心筋抑制によると考えられ れた循環系の反応は,心拍出量増加,心筋張力の 場合,注入中の心筋張力の低下は軽度であり(図 る.逆に,100%酸素呼吸中でゆつくり注入した 一365一 28 脈内注入にあたっては,まず第1に,強いacid・ 1一下段),しかも充分の酸素によって,その低下 osisまで進行する前に投与すべきであること,次 からの回復もよい. 急性acidosisは常に肺血管を収縮させ3)酬7), に低酸素血症の改善に努め,ゆっくりと注入する 多くの場合,心拍出量を減少させる3)4)30). した ことを念頭に入れておく必要がある.事実,新生 がってacidosisの補正ないしは改善は,これらの 児呼吸障害に対して,本剤を急速に注入すると不 変化を解除する方向に作用すると考えられる.7 整脈を生じたり,皮膚が斑らになるなどの記載が %重曹水注入によって正常画群でみられた肺血管 あり83)34),今回の研究成績の一端を示唆するもの の拡張は,高張性8Dと肺血流量 (心拍出量)増 であろう. 加26)によって生じたと考えられる.一方,acidosis VL 結 論 群では正常声群におけるより大きな肺血管抵抗減 成猫を用いて7%重曹水の静脈内注入の心臓血 少をみたことから,その差:(acidosis群の肺血 管作用を研究した,特にこの研究では,注入速 管抵抗減少率)一(正常揖群の肺血管抵抗減少 度,hypoxiaの有無, acidosisの程度による心臓 率)が,田の上昇によるものであると考えられ 血管作用の差異を検討した. る.このことはまた,acidOsisによる肺血管収縮 その結果次の結論を得た. はそのacidosisの強さにかかわらず可逆的であ (1) 7%重曹水注入により,注入条件のいか ることを示すものであろう. んを問わず,心拍出量増加,肺血管拡張,体血管 心拍出量増加と注入前餌との関係をみると,軽 拡張および心筋張力低下が生じた. 度ないし中等度のacidosisによって生じた心拍 (2)Acidosisの補正による作用は,心拍出量 出量減少に対する7%重曹:水注入の効果は,高張 増加および肺血管拡張であった.しかし,acidosis 性によることに加えて,acidosisの補正による影 により極度に悪化した循環系には,7%重曹水の 響が比較的良く現われていると考えられる.しか 投与は,それのみではさほど有効でなく,そのよ し,強いacid・sisにより生じた心拍出量減少に うな状態における急速注入は却って危険である. 対しては,注入後もacidosisが残っていたことも (3) 7%重曹水の急速な静脈内注入は,心筋 あるが,その効果は少なかった。このことは強い 抑制作用が強く,低酸素血症の存在はこの抑制に acidosisにより生じた循環抑制はacidosisの補正 相乗的に作用する. ないしは改善のみでは回復しえないか82),あるい は不可逆性のものとなっていることによると解釈 (4)急速注入でしぼしば心室性期外収縮をみ た. 最後に,臨床上の使用において,以上のことを される. 7%重曹水注入による心筋張力低下および体血 注意しながら投与する必要があることを述べた. 管抵抗の低下は,出にほぼ無関係にみられた. 文 Acidosisは直接作用として心筋抑制8)7M5),体血 献 豆)Go星dbe望gef, E・=Aprimar of water, elec− 管拡張18)82)を示す一方,交感神経副腎系を介して trolyte and acid−base syndromes. Lea and Febiger, Philadelphfa (1970)p.194 循環充血へと導く8)10)18)16)陶19). 7%重曹水によ 2)o雌va, P.B・3 Lanctic acidosis. Amer J Med る補正が,直接の抑制作用を弱め,同時に交感神 48209∼225 (1970) 経副腎系への刺激をも弱める結果となっているこ 3)門間和夫・中沢 誠:急性acidos三sの心臓血 管作用.心臓51670∼1679(1973) とは充分に考えられる.したがって,心筋張力お よび体血管抵抗に対するacidosis補正の影響は, 4)R腿dolph, A.M. and S. Yua皿3 Response of the pulmonary vasculature to hypoxia and H 今回の方法では認知しえず,注入された薬剤その ion concentrat三Qn changes, J Clin Invest 45 399∼411 (1966) ものの効果のみが得られたのであろう. 5)Grand, G.M. and E.S。 Do㎜董ng 3 Meta. 生体におけるacidosis補正の必要性はいうまで bolic and reflex inHuences on pulmonary もないが,以上の結果から,臨床上7%重曹水静 vasomotion, Amer J physiol 218654∼661 一366一 29 (1970) J Physiol 210 1327--1334 (1966) 6) Hyman, A.L., W.C. Woolverton, P.S. Guth 20) Campbell, G.S., D.B. Houle, N.W. Crisp Jr., M.H. Weil and E.B. Brown Jr.: De- and H. Ichinose: The pulmonary vasopressor response to decreases in blood pH in pressed response to intravenous sympathicomimetic agents in humans during acidosis. 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