「アメリカにおけるオフショアリングの進展と雇用問題」 大阪市立大学大学院経済学研究科 後期博士課程:田村太一 はじめに Ⅰ オフショアリングとは何か Ⅱ オフショアリングの進展 Ⅲ 国内雇用への影響 おわりに はじめに 現代の資本主義諸国はいわゆるサービス経済化の進展を経験し、アメリカは その最たる国である。サービス経済化現象は、国内経済にとどまらず、貿易・ 投 資 を 通 じ て グ ロ ー バ ル に 展 開 し て い る 1 。現 在 の サ ー ビ ス 貿 易 や サ ー ビ ス 多 国 籍企業の大規模な展開はその証左にほかならない。このサービス貿易やサービ ス多国籍企業の行動を反映するのが世界経済の国際分業関係であって、これが 明らかにされない限り昨今のグローバリゼーションの全貌を描き出すことはで きないだろう。現に国際分業関係が多国籍企業を主体に構成されており、また わけてもアメリカ多国籍企業の発展によって国際分業関係の再編成が顕著な進 展を見せていることを鑑みれば、なおさらである。 本稿では、現在のアメリカ企業の国際分業の一部を構成しているオフショア リ ン グ ( offshoring of services) を 考 察 す る 。 オ フ シ ョ ア リ ン グ と は 一 般 に サ ー ビス業務・間接業務の在外調達を称している。国際分業の歴史のなかで、多国 籍 企 業 に よ る 財 の 在 外 生 産 、在 外 調 達 は す で に 1960 年 代 か ら 盛 ん に 行 わ れ て い るが、サービス業務・間接業務の在外生産、在外調達はきわめて新しい現象で ある。新しいのは現象のみにとどまらず、それに対して与えられた アリング オフショ という名称自体が新しい造語なのである。 このオフショアリング現象をグローバリゼーションの潮流のひとつと見るな -1- らば、多国籍企業のグローバルな活動と労働力の再編成の実態分析が重要であ る。なぜならば、直接投資を通じてグローバリゼーションを牽引している経済 主体こそ多国籍企業だからである。本稿でオフショアリングを多国籍企業が主 導する国際分業体制とそれに伴う労働力の再編成という視角から分析するのは このためにほかならない。ただし、オフショアリングを貿易と投資における製 造業からサービス業への産業のグローバルな発展という文脈のなかでとらえる ならば、それは不十分である。なぜならば、産業区分を基礎とした分析はある 程度の有効性を持つとはいえ、それだけではこの現象を十分にとらえることは 出来ないからである。現在の企業活動は研究・開発、原材料・中間財の調達、 生産、販売、金融といった一連の流れが細分化され、それが連動化されて成り 立っている。オフショアリングはそれら活動の一部が在外調達の形態をとって いることを意味している。この事実をふまえた上で、本稿ではオフショアリン グ の 実 態 に 接 近 す る た め に 、 あ る 程 度 「 パ タ ン 認 識 」 の 手 法 を 採 っ て い る 2。 ところで、このオフショアリングの分析は外向きのグローバリゼーションの み を 課 題 と し て い る の で は な い 。『 2001 年 大 統 領 経 済 諮 問 委 員 会 報 告 』 が 指 摘 し て い る と お り 、「 ニ ュ ー エ コ ノ ミ ー 」 と い わ れ た 20 世 紀 末 景 気 は 情 報 ・ 通 信 技術の発展とグローバリゼーションが大きく関わっている。その点でオフショ ア リ ン グ の 拡 大 は 1990 年 代 後 半 か ら の 現 象 で あ る こ と か ら 、 1990 年 代 の ア メ リカ経済にオフショアリングが拡大する萌芽を探索するという方法も挙げられ よ う 。し か し オ フ シ ョ ア リ ン グ の 分 析 は 、1990 年 代 ア メ リ カ の 経 済 諸 条 件 の 結 果としてそれをとらえるのみならず、市場原理主義を貫徹させて進行するアメ リ カ ン・グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン の 構 造 の 一 環 と し て も と ら え な け れ ば な ら な い 。 そのためにもこの分析を通して、グローバルに展開する多国籍企業の行動実態 という作用の側面とともに国内経済への影響という反作用の側面を抽出する作 業が必要である。本稿で取り上げる雇用問題はこの反作用の側面の一端を担う ものであり、オフショアリングの拡大は産業空洞化に次ぐ新たな問題を提起し ている。 以上のような視点から、本稿では、①オフショアリングとは何か、②それは なぜ、どのように進展しているのか、③オフショアリングはアメリカ国内の雇 用にどのような影響をもたらしているのか、という問題を分析する。それとと もに、 「 ニ ュ ー エ コ ノ ミ ー 」と 呼 ば れ た ア メ リ カ 国 内 経 済 の 現 象 に と ど ま ら な い -2- ア メ リ カ ン ・グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン の 一 側 面 を と ら え る こ と に し た い 。 Ⅰ オフショアリングとは何か 1. オ フ シ ョ ア リ ン グ の 概 念 昨今、新聞やビジネス誌をにぎわせているオフショアリングとは一体何を指 すのだろうか。そこでまず、オフショアリングとは何かということを確認して お く 必 要 が あ る 。 オ フ シ ョ ア リ ン グ の 定 義 は 一 様 で は な い が 、 GAO に よ る と 、 オフショアリングとは従来国内企業が社内で行っていたか、国内の他企業から 購 入 し て い た サ ー ビ ス 業 務 を 在 外 調 達 に 転 換 す る こ と を 指 す 3 。こ の 定 義 を 理 解 す る に あ た っ て 、 簡 単 な 図 を 用 い て 考 え よ う 。 図 2-1 は サ ー ビ ス 業 務 が 行 わ れ る場所とその業務の担い手をマトリクスで表した概念図である。要するに、サ ービス業務が国内で行われるのか外国かという「場所」とその業務が企業内で 行われるのかそれとも第三者企業かという「担い手」によって、オフショアリ ングを分類している。上記の定義に当てはめれば、この図中の影がついている ② と ④ が オ フ シ ョ ア リ ン グ に 該 当 す る 。こ の ② と ④ 二 つ に 共 通 し て い る こ と は 、 サービス業務が提供される場所が外国だということである。アウトソーシング とは企業内の分業に代えて市場を通して企業間の分業に転換することにほかな らないが、オフショアリングには国内のアウトソーシングは含まれず、外国へ のアウトソーシングだけが含まれる。 詳細に見ていくと、オフショアリングには外国に子会社を設けてサービス業 務 を 集 約 し 移 管 す る パ タ ン ( 図 2-1 の ① → ② ) と 第 三 者 企 業 に 委 託 す る パ タ ン ( 同 ① → ④ ) に 大 別 さ れ る 。 前 者 は キ ャ プ テ ィ ブ ・ オ フ シ ョ ア リ ン グ ( captive offshoring) の 形 態 で あ り 、 新 規 投 資 と と も に 合 併 ・ 買 収 ( M&A ) 投 資 が 含 ま れ る 。後 者 は オ フ シ ョ ア・ア ウ ト ソ ー シ ン グ( offshore outsourcing)と 呼 ば れ 、 この場合はさらに現地の地場企業に委託するケースと現地進出の多国籍企業に 委託するケースに区分できる。 -3- < 図 2-1 オフショアリングの定義> 国内 外国 ①国内企業内生産 ②企業内在外調達 企 業 例:アメリカ企業が国内で 内 サービスを生産する ③国内のアウトソーシング 外 注 例:アメリカ企業が国内のほかの 企業からサービスを購入する 例:アメリカ企業が在外子会社 から提供されたサービスを中間 投入として使用する ④オフショア・アウトソーシング 例:アメリカ企業が外国の第三者 企業からサービスを購入し、中間 投入として使用する 出所)GAO [2004a], p. 58. より作成。 ①→②、①→④と大別されるパタンを細分すれば、サービス業務の委託先企 業、すなわちアウトソーシングを受託している企業がその業務を国内から外国 に移転する場合がある。①→③・③→④のパタンである。この場合はサービス 業務の担い手は同じであるが、その提供場所が国内から外国に移転するため、 オフショアリングとなる。これとは別に、アメリカ企業が外国にサービスセン ターを設置してそこから調達していたサービス業務を第三者企業にアウトソー シングする場合がある。①→②・②→④に転換するパタンである。この場合、 外国からサービス業務を調達するためオフショアリングには変わりはないが、 その業務の担い手が異なっているのが特徴である。これは多国籍企業固有にみ られるパタンである。また同じ企業であっても、業務によって子会社に移管す る場合と第三者企業に委託する場合の両方を行っているケースもある。 このように、オフショアリングにはいくつかのパタンを見出すことができる が 、基 本 的 に は サ ー ビ ス 業 務 を 外 国 か ら 調 達 す る と い う こ と で あ る 。そ の た め 、 アメリカ企業が在外子会社に移管し調達する場合だけではなく、第三者企業に 委託し調達する場合も含まれる。したがって、オフショアリングの分析はサー ビス業務を外国に移管・委託する企業の分析だけではなく、その業務を受託す る企業の分析も必要である。 -4- 2. オ フ シ ョ ア リ ン グ の 内 容 次にオフショアリングの業務内容をみていこう。オフショアリングの業務に は ど の よ う な も の が あ る の だ ろ う か 。 表 2-1 は オ フ シ ョ ア リ ン グ の 業 務 内 容 の 種類を示している。オフショアリングの業務内容は大きく分けて、①バック・ オ フ ィ ス 業 務 、 ② 顧 客 対 応 業 務 、 ③ 企 業 に 共 通 す る 業 務 ( 財 務 ・ 会 計 、 IT 関 連 業 務 )、④ 調 査・ 分 析 業 務 、⑤ 研 究・開 発 業 務 に 分 類 す る こ と が で き る 。表 中 の 番号①→⑤にしたがって、その業務に必要な知識・技能が高度であることをあ らわしている。 当初、オフショアリングされる業務は国内で行われてきた労働集約的なデー タ 入 力 業 務 ( 表 2-1 の ① ) や コ ー ル セ ン タ ー 業 務 ( 同 ② ) で あ っ た 。 情 報 ・ 通 信技術の発達とともにビジネス・サービス業も急速に拡大し、本社業務の一部 で あ る 経 理 ・ 会 計 業 務 や 情 報 技 術 ( IT) 関 連 業 務 ( 同 ③ ) が 在 外 調 達 さ れ る よ う に な っ た 。特 に 、1990 年 代 後 半 以 降 ビ ジ ネ ス ・ プ ロ セ ス ・ ア ウ ト ソ ー シ ン グ ( Business Process Outsourcing: BPO) と 呼 ば れ る ビ ジ ネ ス ・ サ ー ビ ス 業 が 拡 大 しそれが外国にまで広がっている。その理由は、職場にコンピュータが導入さ れ ネ ッ ト ワ ー ク 化 さ れ る に あ た っ て の 、当 該 業 務 に 関 連 す る IT の 運 用 や 管 理 そ のものは企業にとってコア・ビジネスではない場合が多いからである。そのた め 、IT 環 境 の 整 備 や 運 用 管 理 を そ れ ぞ れ の 業 務 と ワ ン セ ッ ト に し て 、第 三 者 企 業への委託が拡大している。そして最近では、本社組織の意思決定に関連した 調査・分析業務(同④)や研究・開発(同⑤)のような高度な専門知識や専門 技術が必要となる業務にまで展開している。 オフショアリングはサービス業務・間接業務の在外調達であるが、それはサ ービス業だけに限るものではない。企業組織を職種の集合体とみれば、いまや 製 造 業 企 業 に お い て も お よ そ 半 分 が 非 製 造 職 で 構 成 さ れ て い る 4 。そ し て 企 業 は さ ま ざ ま な サ ー ビ ス を 中 間 投 入 と し て 購 入 す る よ う に な っ て い る 5 。つ ま り 、ア メ リ カ に お け る「 サ ー ビ ス 経 済 化 」の 進 展 で あ る 6 。こ の た め オ フ シ ョ ア リ ン グ の展開は、インテル、テキサス・インスツルメンツなどの半導体メーカーやマ イ ク ロ ソ フ ト 、 オ ラ ク ル な ど ソ フ ト ウ ェ ア 開 発 企 業 、 IBM、 ヒ ュ ー レ ッ ト ・ パ ッ カ ー ド( HP)、EDS な ど の IT 企 業 、デ ル タ ・ エ ア ラ イ ン な ど の 航 空 会 社 、 ア メ リ カ ン ・ エ キ ス プ レ ス な ど の ク レ ジ ッ ト カ ー ド 会 社 、 シ テ ィ グ ル ー プ 、 J.P. -5- モ ル ガ ン チ ェ ー ス と い っ た 金 融 機 関 な ど 、 多 様 な 業 種 に 及 ん で い る 7。 < 表 2-1 オフショアリングの業務内容> 業務の内容 ① バック・オフィス業務 デ ー タ 入 力( デ ー タ 変 換 )、取 引 処 理 、書 類 管 理 な ど ② 顧客対応業務 コールセンター、オンライン顧客サービス、テレマ ーケティングなど ③ 企業に共通する業務 財 務 、 会 計 、 調 達 、IT 関 連 業 務 ( IT 補 助 、 メ ン テ ナ ン ス 、 IT ネ ッ ト ワ ー ク 設 置 、 ア プ リ ケ ー シ ョ ン ・ ソ フトウェア開発)など ④ 調査・分析業務 調査サービス、顧客分析、資産構成分析、クレーム 処理、リスクマネジメントなど ⑤ 研究・開発業務 技術開発、新製品の設計など 出 所 ) McKinsey Global Institut e [2003], p. 6. に 加 筆 し て 作 成 。 オ フ シ ョ ア リ ン グ は 民 間 企 業 だ け で は な く 政 府 部 門 に も 該 当 す る 8 。連 邦 政 府 および州政府はさまざまな財・サービスを民間企業から購入する。その政府購 入に含まれるサービスが在外調達されるケースがある。例えば、州政府がフー ド ス タ ン プ ( food stamp) の 配 布 に 関 す る 電 話 対 応 業 務 を 外 国 の 企 業 に 委 託 す る場合やソフトウェア開発を国内の企業と契約しているときに、この企業がそ の業務を外国の子会社に移管する場合がオフショアリングに当たる。オフショ アリング全般をとらえるためには、民間企業とともに政府部門のサービスの在 外調達もみる必要がある。 では、オフショアリング先にはどのような国があるのだろうか。主なオフシ ョアリング先としては、インドや中国、マレーシア、シンガポール、フィリピ ン 、 そ し て チ ェ コ や ポ ー ラ ン ド 、 ハ ン ガ リ ー な ど の 旧 東 欧 諸 国 が 挙 げ ら れ る 9。 アメリカ企業はこのような国にオフショアリング拠点を構えたり、現地企業や 現地進出の多国籍企業にサービス業務を委託したりしている。また、ニアショ ア リ ン グ( Near-shoring)と も 呼 ば れ る よ う に 、ア メ リ カ か ら 近 い カ ナ ダ や メ キ シコ、コスタリカがオフショアリング先として選択されている。 最後に、オフショアリングの拡大についてサービス貿易統計を使って確認し -6- ておこう。サービスの国際取引、すなわちサービス貿易はサービス対価の受取 り( 輸 出 )と 支 払 い( 輸 入 )と し て 国 際 収 支 表 に 計 上 さ れ て い る 。し た が っ て 、 サービス業務の在外調達であるオフショアリングはサービス輸入の一部として 捕捉することができる。オフショアリングに関連するビジネス・専門・技術サ ー ビ ス ( Business, Professional and Technical Services: BPT Service) の 輸 入 を み る と 、 1997 年 の 208 億 ド ル か ら 2004 年 に は 407 億 ド ル と ほ ぼ 倍 増 し て い る 1 0 。 こ の う ち お よ そ 7 割 は 多 国 籍 企 業 の 企 業 内 貿 易( intra-firm trade)と み な さ れ て い る が 、第 三 者 企 業 と の 貿 易( arm’s length trade)も 増 え て き て お り 、コ ン ピ ュ ー タ ・ 情 報 サ ー ビ ス ( 同 期 間 で 2.6 倍 ) や 会 計 ・ 会 計 監 査 、 経 理 サ ー ビ ス ( 2.6 倍 )、経 営・コ ン サ ル テ ィ ン グ サ ー ビ ス( 2.2 倍 )で は 、そ の 伸 び が 顕 著 で あ る 。 国際収支表のサービス貿易統計を使うことでオフショアリングの拡大傾向は うかがえるが、ここで注意しなければならないのは、このサービス輸入はアメ リカの居住者が外国の居住者からそれらサービスを購入したことを示してはい るが、そのデータ自体は以前にアメリカ国内から購入していたサービスを外国 からの調達に転換したかどうかは示していないということである。また他国の サ ー ビ ス 貿 易 の デ ー タ は 未 整 備 で あ り 、各 国 比 較 が で き る 国 は 限 ら れ て い る 1 1 。 オフショアリングをとらえるデータとしてこのような限界がある以上、これを 包括的に分析するには個別具体的な事実でもって現状を把握する作業が必要で ある。 このように、オフショアリングにはさまざまな業務が含まれており、サービ ス業だけではなく製造業、航空会社、金融業など多様な業種に及ぶ企業が、イ ン ド 、中 国 、フ ィ リ ピ ン な ど か ら サ ー ビ ス 業 務・間 接 業 務 を 在 外 調 達 し て い る 。 サービス業務の在外調達といっても財の取引とは違い、サービスの取引は統計 で正確に捕捉することは非常に困難である。したがって、体系立ってオフショ アリングの実態へ接近するためには、日々みずからの具体的な行動において新 しい現象を創造している個別企業の具体的な事実の分析が重要である。 Ⅱ オフショアリングの進展 本節では、オフショアリング拡大の基本的な要因を技術要因とプッシュ・プ -7- ル要因とに簡単にまとめたうえで、オフショアリングの二つの側面である企業 内在外調達とオフショア・アウトソーシングの実態を明らかにする。その際、 ケ ー ス ス タ デ ィ と し て オ フ シ ョ ア リ ン グ の 一 部 で あ る 研 究・開 発 と BPO に 限 定 して論じていく。 1. 貿 易 可 能 化 革 命 の イ ン パ ク ト オフショアリングの拡大は、情報・通信技術の発展とグローバリゼーション に大きな関わりを持っている。なぜならば、前述したオフショアリング対象の サ ー ビ ス は 貿 易 で き な い も の( non-tradable)で あ っ た か ら で あ る 。サ ー ビ ス は 財と異なって在庫をつくったうえで国際的に取引することが出来なかったため、 しばしば生産者と消費者の近接性を必要とした。情報に関連する間接業務・サ ー ビ ス 業 務 の 国 際 取 引 を 技 術 的 に 可 能 と し た の が 、20 世 紀 末 景 気 を 担 っ た 情 報 化 投 資 の 拡 大 と と も に 急 速 に 発 達 し て い っ た 情 報・通 信 技 術 で あ っ た 。 「ムーア の 法 則 12」 に 象 徴 さ れ る よ う に 、 情 報 ・ 通 信 技 術 の 進 歩 は 情 報 処 理 能 力 を 大 幅 に 拡 大 さ せ 、そ れ ら の 価 格 は 大 き く 下 落 し た た め 、企 業 内 に IT の 利 用 が 普 及 し て い っ た 1 3 。 パ ー ソ ナ ル ・ コ ン ピ ュ ー タ ( PC) の 発 達 は 企 業 の な か で 各 個 人 に 情 報 関 連 の 労 働 を 増 加 さ せ る と と も に 、そ れ ぞ れ の 労 働 が 単 純 化・細 分 化 さ れ 、 会計処理、給与管理、生産計画、設計などの分業が進み、ネットワークを通じ て そ れ を 結 合 さ せ 管 理 で き る よ う に な っ た 。1980 年 代 半 ば か ら 進 ん で い た 組 織 変化と情報・通信技術の発展が融合し、労働を変えていったのである。こうし て 1990 年 代 後 半 に は 、情 報 化 投 資 の 効 果 と し て 徐 々 に 生 産 性 の 上 昇 が 顕 在 化 し て い っ た 14。 情報・通信技術のなかでも特にデータ処理技術、データ記憶技術、データ転 送技術の発展が重要であった。大容量の情報を処理し電子化して記憶すること ができ、その情報は「在庫」として送受信可能となったのである。インターネ ッ ト の 発 達 は 電 子 商 取 引( E-Commerce)と い っ た 取 引 の あ り 方 を 大 き く 変 え て い っ た 15。 急 激 な 通 信 速 度 の 高 速 化 と 急 速 な 通 信 コ ス ト の 低 下 と 相 ま っ て 、 情 報に関連したサービス業務は国境を越えて取引可能となった「 。貿易可能化革命 ( Tradability Revolution)1 6 」と い わ れ る 事 態 で あ る 。こ う し て 、ソ フ ト ウ ェ ア ・ プログラムやデータベース、テレフォンコールのような情報に関連するサービ -8- ス業務は電子化されて、光ファイバーなど大容量情報通信網を通じて国際的に 取引可能となったのである。 2. オ フ シ ョ ア リ ン グ の 拡 大 要 因 情報・通信技術の発展という技術的要因を基礎として、オフショアリングの 拡大要因はアメリカ企業のオフショアリング先の国へのプッシュ要因とオフシ ョアリング先の国におけるアメリカ企業のプル要因に大別できる。すなわち、 貿易可能化革命のインパクトは大きいが、実際にオフショアリングが起こるの はこのプッシュ要因とプル要因が結びついたときなのである。以下、オフショ アリングの拡大要因をプッシュ要因とプル要因に分けて考えていこう。 まず、アメリカ企業のオフショアリング先へのプッシュ要因である。プッシ ュ要因としてアメリカ企業がオフショアリングを行う主たる動機は、コスト削 減戦略である。競争の激化により、さらなるコスト削減の圧力からアメリカ企 業 は 給 与 水 準 の 低 い 国 に サ ー ビ ス 業 務 を 移 転 す る よ う に な っ た 。 UNCTAD [ 2004] が 公 表 し て い る 企 業 へ の ア ン ケ ー ト 調 査 結 果 に お い て も 、 こ の 要 因 が オ フ シ ョ ア リ ン グ へ の イ ン セ ン テ ィ ブ の 上 位 を 占 め て い る 17。 事 実 、 オ フ シ ョ アリング先の給与水準はアメリカのそれと比べて大きな格差がある。例えば、 金 融 ア ナ リ ス ト や 半 導 体 設 計 士 で は ア メ リ カ の 給 与 水 準 の 1/7、 エ ン ジ ニ ア で は 1/9、 ア ー キ テ ク ト で は 1/12、 会 計 士 で は 1/16 と か な り の 低 水 準 で あ る 1 8 。 また、アメリカ多国籍企業が各国で分散しているサービス業務を数ヶ所に集約 し そ こ か ら 調 達 す る こ と に よ っ て 、「 規 模 の 経 済 性 」 を 発 揮 す る こ と が 出 来 る 。 これはアメリカ企業のオフショアリング先の市場戦略とも大きく関わっており、 プッシュ要因となる。 次に、オフショアリング先の国におけるアメリカ企業のプル要因は、オフシ ョアリング先の豊富な高学歴の労働力、時差という現地の立地条件、政府の優 遇政策などである。現在拡大しているオフショアリングの職種をみると、デー タ処理やコールセンターだけではなく、設計、研究・開発など専門技術が必要 な職種にまで広がっている。これが可能となるためには、オフショアリング先 の現地でそれらの職種に対応でき、英語などコミュニケーション能力のある人 材が調達できなければならない。その点、オフショアリングが拡大しているイ -9- ンドや中国、フィリピンでは大学卒業者数は多く、企業は高学歴で優秀な労働 者を確保することが出来る。これにはグローバルな労働力移動として「頭脳循 環 ( brain circulation) 1 9 」 と 呼 ば れ る 現 象 も 関 係 し て お り 、 プ ル 要 因 の ひ と つ と し て 機 能 し て い る 。 ま た プ ル 要 因 に は 時 差 と い う 立 地 条 件 が 含 ま れ 、「 24 時 間体制」が可能となる上記のような国が選ばれる。このほかにプル要因には、 現地での新産業振興や雇用の確保という戦略からオフショアリング誘致を目的 とした現地政府の投資優遇政策がある。マレーシア、フィリピンでの政府機関 へのインタビューによれば、インフラ整備や税制優遇措置、人材育成政策など に よ っ て 外 国 か ら の 投 資 を 誘 致 し て い る 20。 このように、一般的にはアメリカ企業のコスト削減、市場戦略行動というプ ッシュ要因とオフショアリング先の豊富な労働力や時差という立地条件、政府 の誘致政策というプル要因がうまく合致することによって、オフショアリング が展開されている。このオフショアリングの展開を具体的にみていくために、 ケーススタディを通してその特徴をみていこう。 3. オ フ シ ョ ア リ ン グ の 二 面 性 では、どのようにオフショアリングが進展しているのか。これを考えていく ためには、オフショアリングを企業内在外調達とオフショア・アウトソーシン グに分けて分析する必要がある。なぜならば、サービス業務の在外調達として 企業内在外調達とオフショア・アウトソーシングは同じオフショアリングとし て考えられているが、その性質はまったく異なっているからである。そこでそ れぞれのオフショアリングの特徴を明らかにするためにも、企業内在外調達と し て の 研 究・開 発 と オ フ シ ョ ア・ア ウ ト ソ ー シ ン グ と し て の BPO を ケ ー ス ス タ ディとして取り上げる。 ( 1) 企 業 内 在 外 調 達 まず企業内在外調達、すなわちサービス業務を在外子会社から調達する場合 を考えよう。このパタンは多国籍企業本社のグローバルな研究・開発、調達、 生産、販売といった経営戦略と大きく関わっており、また市場戦略とも関わっ - 10 - ている。これまで原材料の在外調達、中間財の在外調達・在外生産、現地販売 は行われてきているが、現在では研究・開発においても外国で行われるように な っ た 。 研 究 ・ 開 発 は 従 来 ア メ リ カ 国 内 で 行 わ れ る こ と が 多 か っ た が 21、 現 在 では先進国だけではなくインドや中国のような開発途上国内でも行われている。 < 表 2-2 インテルのグローバルな事業展開> 立地 活動 従業員数(人) 立地 活動 アイルランド F, OS, SD, SM 3,710 台湾 OS, SM イギリス R, SM 950 シンガポール OS, SM ベル ギー OS, SM 90 韓国 OS, SM オ ランダ L 150 日本 デンマーク A, C, SD, SM 110 東京 SD, SM フランス C, OS, SM 110 つくば R, SM ドイツ ブラジル OS, SM ブラウンシュバイグ C 90 コスタリカ A ミュンヘン SD, SM 220 メキシコ C, OS, SM ポーランド OS, SM 220 アメリカ合衆国 ロシア アリゾナ A, F, OS, R, SM モスクワ R, SD, SM 330 カリフォルニア ニジニノブゴロド R, SD 300 フォルサム C, OS, R, SD, SM ノボシビルスク SD 190 フリモント C, R サロブ SD 100 アーバイン C, R サンクトペテルブルグ SD 60 サンディエゴ C, R, SM イスラエル サンタクララ C, F, OS, R, SM ハイファ C, OS, R, SD 1,700 コロラド F, R イエルサレム F 740 イリノイ R, SD ラキッシュ F 2,000 マサチューセッツ C, F, R, SD ペタチクバ C 500 ニューハンプシャー SD インド OS, R, SD, SM 2,440 ニュージャージー C マレーシア ニューメキシコ F, OS, R クリム A, L, SM, SY 2,500 ニューヨーク C ペナン A, L, R 6,200 ノースカロライナ C, R フィリピン A, C, L, R, SM 5,090 オレゴン C, F, L, OS, R, SD, SM 中国 サウスカロライナ C, R 北京 R, SD, SM 400 テキサス C, R 成都 A 130 ユタ OS 香港 OS, SM 210 ヴァージニア OS 上海 A, C, SD, SM 3,600 ワシントン OS, R, SD 深セン SM 200 A: 組立・テスト、 C: 通信、 F: 製造、 L: ロジスティックス(物流管理)、 OS: その他サポート、 R: 研究・開発 SD: ソフトウェア設計、 SM: 販売・マーケティング、 SY: システム製造 注)2004年時点、50人以上の事業所のみ。 出所)Intel [2004], p. 7.より作成。 従業員数(人) 350 240 120 300 160 110 2,090 150 8,990 6,000 350 80 440 6,080 960 50 2,080 70 640 5,120 70 50 15,300 160 540 260 60 1,140 例 え ば 、半 導 体 メ ー カ ー 、イ ン テ ル の 研 究・開 発 の 事 例 を み て み よ う 。表 2-2 によると、インテルはさまざまな国に工場やオフィス、研究所を設け、グロー バルな事業展開を行っている。組立・テスト、製造部門はマレーシア、フィリ ピン、中国、コスタリカなどに立地しており、従業員数が際立って多い。これ はそれらの国の労働コストが相対的に低いからである。アメリカ商務省統計に よれば、アメリカのコンピュータ・電子機器製造多国籍企業の多数株所有子会 社 の 一 人 当 た り 報 酬 ( 2003 年 ) は 、 マ レ ー シ ア で 10.6 千 ド ル 、 フ ィ リ ピ ン 5.7 千 ド ル 、 中 国 7.1 千 ド ル で あ っ て 、 こ の 相 対 的 に 低 い 報 酬 が そ れ ら の 国 の 大 き な 強 み と な っ て い る 22。 - 11 - 他方、研究・開発業務に目を転じれば、アメリカ国内ではオレゴン州、アリ ゾナ州、コロラド州、カリフォルニア州フォルサム・サンタクララなどで行っ ている。外国では日本、イスラエル、マレーシア、フィリピン、イギリスなど で 研 究 ・ 開 発 が 行 わ れ て お り 、 近 年 で は 北 京 に 中 国 研 究 セ ン タ ー ( 1998 年 )、 バ ン ガ ロ ー ル に イ ン ド 開 発 セ ン タ ー ( 1999 年 )、 ロ シ ア に ソ フ ト ウ ェ ア 開 発 セ ン タ ー ( 2000 年 )が 設 け ら れ て い る 。 設 計 、研 究 ・ 開 発 な ど 重 要 な 部 門 に お い ては在外子会社を通じて行われることが多く、オラクルやマイクロソフト、テ キ サ ス・イ ン ス ツ ル メ ン ツ 、モ ー ト ロ ー ラ 、ジ ェ ネ ラ ル・エ レ ク ト リ ッ ク( GE) などのアメリカ多国籍企業もインドや中国に子会社の形態で研究・開発センタ ー を 設 置 し て い る 23。 この背景には、競争の激化に起因した膨大な研究・開発費用の高まり、技術 サイクルの短期化という技術集約型産業の特徴がある。新技術と新製品の開発 を敏速に行うために、世界規模で最も効率よく行える国や地域が選ばれる。な ぜ企業内で行われるのかというと、それは当該部門が企業の利潤獲得にとって 非常に重要だからである。特に研究・開発は企業独自の技術と直結し、したが って技術独占による利潤獲得と直結する。企業内国際分業の場合、多国籍企業 本社は技術や労働力など生産諸力を不均等発展の世界経済のなかで国際的に組 み 合 わ せ コ ン ト ロ ー ル ( 結 合 ・ 配 分 ・ 整 合 ) す る 24。 そ の た め に は 、 本 社 組 織 が情報処理や意思決定を支配する必要があり、これを可能とするためには市場 は排除されなければならない。生産諸力のコントロールは、国際的に展開され ることによって当然一定の分断を生じざるをえないが、それを結びつけている のが技術体系をつなぐ情報・通信技術である。この支配を通じた技術独占とそ れ を 基 盤 と し た 市 場 独 占 こ そ が 企 業 内 国 際 分 業 の 特 質 で あ る 25。 オ フ シ ョ ア リ ングのひとつの側面である企業内在外調達とはこの一形態にほかならない。こ うして、多国籍企業本社による意思決定の支配や特許技術の温存、組織内での 調 整 と 再 編 成 と い っ た 要 因 に よ り 、研 究・開 発 は 子 会 社 を 通 し て 行 わ れ て い る 。 ( 2) オ フ シ ョ ア ・ ア ウ ト ソ ー シ ン グ 次にオフショア・アウトソーシングをみよう。このパタンはサービス業務を 外国の第三者企業にアウトソーシングする場合である。このオフショア・アウ - 12 - ト ソ ー シ ン グ の 事 例 を プ ロ ク タ ー・ア ン ド・ギ ャ ン ブ ル( Procter & Gamble: P&G) でみていこう。 P&G は 世 界 規 模 で 事 業 展 開 を し て い る 家 庭 用 製 品 最 大 手 の 多 国 籍 企 業 で あ る 。も と も と P&G は 1999 年 に 80 ヶ 国 に ま た が る 全 世 界 の 従 業 員 に 対 し て サ ー ビ ス を 提 供 す る 「 Global Business Services Unit」 を 自 社 内 に 設 置 し 、 そ の サ ー ビスセンターをコスタリカ:サンホセ、フィリピン:マニラ、イギリス:ニュ ーキャッスルの 3 拠点に集中させ、そこからサービス業務・間接業務を調達し て い た 26。 す な わ ち 、 担 当 地 域 を 数 ヶ 所 に 分 割 し た う え で 分 散 し て い る サ ー ビ ス業務を集中させて設備などを節約して、 「 規 模 の 経 済 性 」の 利 益 を 得 よ う と し たのである。さらに自社のコア・コンピタンスに資源を集中してコストを削減 す る た め 、2001 年 以 降 の 模 索 の 結 果 、サ ー ビ ス セ ン タ ー に 集 中 さ せ て い た 一 部 の業務を第三者企業に委託している。これらの業務を請け負っているのが、企 業 向 け の BPO に 力 を 入 れ て い る IBM や HP、 EDS な ど の IT 企 業 で あ る 2 7 。 2006 年 現 在 P&G は 、 IT サ ポ ー ト 業 務 は HP に 、 給 与 計 算 や 付 加 給 付 管 理 な ど を 取 り 扱 う ヒ ュ ー マ ン ・ リ ソ ー ス 業 務 は IBM に そ れ ぞ れ 委 託 を し て い る 。 P&G は 2003 年 4 月 に HP と IT サ ポ ー ト 業 務 の ア ウ ト ソ ー シ ン グ 契 約 を 10 年 約 30 億 ド ル で 結 び 、 約 2000 人 の 従 業 員 が HP の 管 轄 に 移 っ て い る 。 他 方 IBM の 場 合 は 、 2003 年 9 月 に 10 年 約 4 億 ド ル の 契 約 が 締 結 さ れ 、 約 800 人 の 従 業 員 が IBM の 管 轄 に 移 っ て い る 。こ の ア ウ ト ソ ー シ ン グ 契 約 の 仕 組 み は 、そ の 特 定 業務と配置されている従業員をセットにして受託した企業の管轄に移して、そ こから委託元の企業にサービスを提供するというものである。移転された従業 員 は 従 来 通 り 電 話 や PC な ど の 通 信 機 器 を 使 い な が ら 、 委 託 元 企 業 の 従 業 員 に 対して個別にサービスを行う。移転された従業員からみた場合、業務内容は基 本的に同じであるため業務の継続は維持されることになるが、より効率的な作 業 が 行 わ れ る よ う に 配 置 転 換 と 人 員 削 減 が 行 わ れ る 。HP の P&G 向 け IT サ ポ ー ト 業 務 の 場 合 、 実 際 に オ フ シ ョ ア リ ン グ の 現 地 で 働 い て い る の は HP で 雇 用 さ れている社員ではなく、人材派遣会社から派遣されている派遣社員が担ってい る 2 8 。 こ れ は 労 働 の 柔 軟 性 を 活 用 す る 手 段 で あ る 。 こ う し て BPO 受 託 企 業 は 顧 客企業のリエンジニアリングを促進している。 では、オフショア・アウトソーシングの特徴とは何なのだろうか。オフショ ア・アウトソーシングをみる場合には、企業間提携を考えなければならない。 - 13 - それは在外調達される業務はいままでの水準の維持が最低でも必至であるため、 それが可能となる企業と契約が結ばれるからである。ソフトウェア開発などの オフショア・アウトソーシングの場合は、インドなど現地企業に業務委託がさ れ る こ と が 多 い 2 9 。 し か し 、 BPO の よ う な 高 度 な 技 術 が 必 要 な オ フ シ ョ ア ・ ア ウトソーシングの場合には、受託企業において一定水準の資金や技術の集中・ 集積が必要である。そのため、アメリカ企業は外国とはいえ現地の地場企業と 提 携 す る こ と は 少 な く 、 現 地 進 出 の 多 国 籍 企 業 と 提 携 し て い る こ と が 多 い 30。 BPO の オ フ シ ョ ア ・ ア ウ ト ソ ー シ ン グ の 内 実 は 、現 地 進 出 の 多 国 籍 企 業 に よ る 資金、技術、経営ノウハウと現地の相対的に低賃金な労働者の活用という組み 合わせである。 このような企業間提携による業務委託は、受託企業にとって受注生産という 点 に 特 徴 が あ る 。し た が っ て 、こ の 限 り に お い て は 過 剰 生 産 に は な り え な い 3 1 。 受託企業はこの受注生産という特殊性を活かすために、委託元の企業と契約を 維持し続ける必要がある。そのため、委託元企業の顧客満足度を高める努力が 受託企業側で起こってくる。実際、オフショアリングの受託企業内には教育・ 訓 練 制 度 や 顧 客 満 足 度 の 測 定 と い っ た 評 価 基 準 の 仕 組 み が つ く ら れ て い る 32。 すなわち、サービスセンターを設置して得られていた「規模の経済性」の維持 と教育・訓練制度を用いた労働の柔軟性の発揮である。こうして受注生産とい う特殊性のなかで、受託企業は相対的に低賃金な労働を活用しながら、委託元 企業との業務の連動化を達成しているのがオフショア・アウトソーシングの実 態である。 以上、多国籍企業主導による国際分業関係の再編成という視点からオフショ アリングを検討した。一方で企業内分業、他方で市場取引という一見相反する ことがオフショアリングとして一括されているが、その内実は異なっているこ とが明らかになった。敢えて共通性を見出そうとすれば、それはアメリカ多国 籍企業による外国の低賃金労働の活用である。つまり、サービス業務を在外調 達する企業だけではなく、それを受託する企業も相対的に低賃金の労働を利用 することでグローバル化が進行している。 - 14 - Ⅲ 国内雇用への影響 1. オ フ シ ョ ア リ ン グ の 雇 用 へ の 影 響 前節までにみたアメリカ企業によるオフショアリングの拡大は、国内の雇用 問題を引き起こしている。それは、外国に移転した雇用は以前アメリカの労働 者によって担われていたと推測されているからである。かつては多国籍企業の 在外生産、在外調達によるブルーカラー労働者の「職の輸出」問題であったの が、今日ではサービス業務の在外調達としてホワイトカラー労働者や専門・技 術 者 ま で も が そ の 対 象 と な っ て い る 。こ の 雇 用 問 題 は 、特 に 2002 年 以 降 の「 雇 用 な き 回 復( Jobless Recovery)」の 局 面 で 大 き く 取 り 上 げ ら れ る よ う に な っ た 。 それは、景気が上向いてきても雇用が増大しないのはオフショアリングが原因 のひとつだと考えられたのである。つまり、オフショアリングは国内の雇用喪 失の一因として問題視されている。 実際アメリカの雇用統計をみれば、全体の雇用の 4 割はサービス業(狭義) が 担 っ て お り 、 新 規 雇 用 の ほ と ん ど が サ ー ビ ス 生 産 部 門 で 起 こ っ て い る 33。 ま た現代の企業は経営の大規模化や複雑化に起因して中間管理層やオフィス労働 者が多数を占め、職種区分でみれば非製造職は 7 割にも上る。このような事実 から、雇用の大部分を担っているホワイトカラーの職が外国に移転される不安 となっている。しかしオフショアリングの拡大には、アメリカ労働者の職が奪 われることなく外国で事業展開を拡大する場合も考えられ、統計としてもオフ ショアリングに起因する失業者数を正確に捕捉することは困難な状態である。 にもかかわらず、オフショアリングに関連した雇用問題は新聞やビジネス誌 などマスメディアを通じて拡大し、 「 オ フ シ ョ ア リ ン グ 論 争 」に 発 展 し た 。2002 年 11 月 の フ ォ レ ス タ ー ・ リ サ ー チ ( Forrester Research) に よ る 「 330 万 人 の サ ー ビ ス 雇 用 が 海 外 へ 流 出 す る 34」 と い う 衝 撃 的 な 予 測 結 果 を 皮 切 り に 、 オ フ シ ョ ア リ ン グ に 関 連 し た 雇 用 流 出 予 測 が 次 々 と 出 さ れ て い っ た 。2004 年 に は 大 統 領選挙の主要論点として大々的に取り上げられ政治問題化していった。このオ フ シ ョ ア リ ン グ 論 争 の 賛 成 派 は 、 当 該 企 業 や 業 界 団 体 ( U.S. Chamber of Commerce や Information Technology Association of America な ど )、政 府 関 係 者 で は 経 済 学 者 で ブ ッ シ ュ 政 権 の マ ン キ ュ ー 元 CEA 委 員 長 や ス ノ ー 元 財 務 長 官 な - 15 - どであった。大方の共通意見は、オフショアリングは企業にとってコスト削減 となり、長期的にはアメリカの生産性と競争力に対して利益となるというもの で あ る 35。 オ フ シ ョ ア リ ン グ は サ ー ビ ス 貿 易 の 新 し い 形 態 に ほ か な ら ず 、 保 護 主義によるオフショアリング規制は自由貿易を阻害し経済成長を削ぐ恐れがあ ると非難した。 これに対してオフショアリング反対派は、労働組合や一部の研究者などであ っ た 3 6 。 ア メ リ カ 労 働 総 同 盟 ・ 産 業 別 組 合 会 議 ( AFL-CIO) な ど 労 働 組 合 は 、 オフショアリングの拡大は国内の雇用喪失によってホワイトカラー職の「空洞 化」を引き起こすと主張する。そのうえ外国の低賃金労働を活用して企業が得 た利益が国内の労働者や失業者に還元されることはない、また州や連邦政府の オフショアリングは国民の税金が外国人給与になることを意味するということ か ら 反 対 し て い る 37。 このように、さまざまな経済主体の立場からみれば利害も変わってくるので あり、オフショアリングに起因する失業者の実数値も得られない以上、オフシ ョアリングの評価自体は難しい問題である。確かに賛成派の主張するように、 すべてのサービス職がオフショアリングのリスクにさらされているのではなく、 高 度 な 専 門 ・ 技 術 職 で あ れ ば こ の 限 り で な い こ と も 事 実 で あ る 38。 し か し 現 在 では、情報関連の多くのサービス業務のなかで貿易可能化革命によって、いわ ばバーチャルな労働市場がつくられ、アメリカ国内のホワイトカラー労働者に は賃金の下方圧力がかかっている。生産性の向上で生み出された利益が社会で どのように分配されるのか、特に雇用を通じた分配の問題はアメリカ国内のホ ワイトカラー労働者にとって焦眉の重要課題となる。また短期的な問題ではあ れ、失業や雇用の不安定化という事態は社会的な問題である。要するに、企業 の利益と国民経済の利益が相反することになる。アメリカの企業が会社単位で 競争するのはかまわないが、結果として生じた失業や他のマクロ経済的作用は 経済全体にとって好ましいものではない。この「合成の誤謬」問題を解決しよ うと、雇用をめぐって政府の政策が執られている。 2. 雇 用 を め ぐ る 政 府 の 政 策 上記のようなオフショアリングの拡大に対する国内の反応を受けて、連邦政 - 16 - 府 や 州 政 府 の 業 務 で は オ フ シ ョ ア リ ン グ を 規 制 す る 動 き が み ら れ た 3 9 。 2004 年 上院が可決した包括的歳出法案のなかに連邦政府の調達に関してオフショアリ ングを制限する項目が含まれた。またオフショアリングを行っている企業と政 府機関との契約を制限する法案が可決された。インディアナ州、ミシガン州、 ノースカロライナ州、サウスカロライナ州、ニュージャージー州などでは、州 政府の業務のオフショアリングを禁止する規制が施行されている。 これに対して、民間企業へのオフショアリング規制はなされていない。なぜ ならば、民間企業のオフショアリングへの規制は保護貿易とみなされ、在外生 産、在外調達、外国市場販売を進めているアメリカ多国籍企業と貿易・投資の 自由化を推し進めているアメリカの通商政策にとって、矛盾する結果となるか らである。そこで貿易・投資の自由化を進めるうえでの対応策として取り上げ られているのが、オフショアリングにともなった失業者の再雇用支援や産業構 造調整と労働力政策としての教育・訓練の拡充である。 アメリカには貿易自由化で影響を受けた労働者に対するセーフティ・ネット と し て 貿 易 調 整 支 援 策( Trade Adjustment Assistance: TAA)が あ る 。TAA は 1962 年の通商拡大法に盛り込まれて発足した制度であり、貿易自由化によって経済 的 損 失 を 被 っ た 労 働 者 を 救 済 す る 措 置 で あ る 4 0 。現 在 、TA A は 2002 年 貿 易 調 整 支 援 改 革 法( Trade Adjustment Assistance Reform Act of 2002)に よ り 、プ ロ グ ラ ム の 資 格 基 準 と 給 付 額 が 拡 充 さ れ て い る 4 1 。し か し 、現 行 の TAA は 製 造 業 労 働 者に限られているため、オフショアリングにともなう失業者には給付資格が得 られない。またアメリカの場合、再就職できたとしても大幅な賃金ダウンを余 儀なくされる場合が多い。そのため、通商法を改正しオフショアリングによっ て影響を受けたサービス業の労働者にも適用することや貿易自由化にともなう 50 歳 以 上 の 有 資 格 失 業 者 に 試 験 的 に 導 入 さ れ て い る 「 賃 金 保 険 ( Wage Insurance)」を 拡 充 さ せ る と い う 法 案 が 提 出 さ れ て い る 。ま た 、企 業 に 対 す る 減 税 措 置 に よ り 国 内 投 資・雇 用 拡 大 を 促 す 雇 用 創 出 法( American Jobs Creation Act of 2004) が 施 行 さ れ て い る 。 こ う し て 国 内 で は 、 貿 易 自 由 化 と 保 護 主 義 圧 力 の トレードオフ関係が調整されているのである。 しかしこれだけにとどまらず、国内の労働力政策にも変化が見られる。すで に 1980 年 代 か ら の 政 府 の 労 働 市 場 政 策 は 、 福 祉 政 策 と 連 動 す る か た ち で 教 育 ・ 訓 練 と い っ た 就 労 重 視 の 政 策 に 転 換 し て い る 。「 福 祉 か ら 就 労 へ ( welfare to - 17 - work)」、「 就 労 優 先 ( work first)」 と い わ れ る の は こ の 証 左 に ほ か な ら な い 。 つ まり、失業問題は給付ではなく教育・訓練で対応するという、いわばミクロレ ベ ル の サ プ ラ イ ・ サ イ ド 政 策 に 転 換 し て い る の で あ る 42。 いずれにしても、ブルーカラー労働者に続いてアメリカ国内のホワイトカラ ー労働者に対しても雇用喪失や賃金低下圧力、雇用不安の増大が生じているこ と自体、明らかに新たな現象である。情報・通信技術の発達と多国籍企業の行 動によって、アメリカの労働市場がグローバルな労働市場の競争にさらされて い る の で あ り 、そ の 結 果「 労 働 市 場 の グ ロ ー バ ル 化 」と い う 事 態 が 生 じ て い る 。 しかし、上でみた一連の対応策のように市場原理主義をワークさせる政策だけ では、到底「労働市場のグローバル化」に対応できるものではない。オフショ アリングという新しい現象の真価は、こうした問題を含めて問われるべきであ り 、し た が っ て ア メ リ カ ン・グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン も そ の 真 価 を 問 わ れ て い る 。 おわりに 本稿では、国際分業関係の新たな展開としてオフショアリングの進展とその 影響を検討した。以下、分析によって明らかにされた点を示すことにしたい。 オフショアリングとは、サービス業務・間接業務の在外調達であって、現在 では主として多国籍企業のグローバルな展開の下に大規模に拡大している。オ フショアリングの展開においても、アメリカ多国籍企業を中心とする国際分業 関係が編成されており、それにともなって労働力の再編成が起こっている。こ の展開はアメリカ多国籍企業の在外調達というだけではなく、直接投資による 現地市場展開をも見据えており、サービス分野の貿易・投資の自由化を推進す るアメリカ多国籍企業の行動とそれに対応した政策はその反映にほかならない。 このオフショアリングを通じた多国籍企業の展開は、反作用として国内経済 にも影響を与えている。本稿で取り扱った雇用問題はその顕著な反映の一端で ある。アメリカ国内の労働市場はグローバルな労働市場の競争にさらされるよ うになり、その結果、国内の雇用喪失や失業、賃金低下、雇用不安といった事 態が生じている。雇用問題は分配問題と直接的に関わっているため、アメリカ のホワイトカラー労働者にとって焦眉の課題となっている。こうした問題への - 18 - 対応策として再雇用支援、労働力政策などサプライ・サイド側への政策がとら れている。しかし、上述したように市場原理主義をワークさせるような一連の 政策だけでは、この問題に対応できるものではない。本稿の分析で明らかにな ったように、オフショアリングは主としてアメリカ企業行動の結果であり、む しろ構造的な問題として対処すべきである。こうした実体をもつアメリカン・ グローバリゼーションの行方がいま問われている。 - 19 - <参考文献> 板 木 雅 彦[ 1989]、 「企業内国際分業の労働体系」 ( 吉 信 粛 編『 現 代 世 界 経 済 論 の 課 題 と 日 本 』、 同 文 舘 )。 板 木 雅 彦[ 2006]、 「 世 界 経 済 の サ ー ビ ス 化 と グ ロ ー バ ル 化 」 ( 関 下 稔・ 板 木 雅 彦 ・ 中 川 涼 司 編 『 サ ー ビ ス 多 国 籍 企 業 と ア ジ ア 』、 ナ カ ニ シ ヤ 出 版 )。 井 出 文 紀[ 2006]、 「 サ ー ビ ス の オ フ シ ョ ア リ ン グ と ア ジ ア 」 ( 関 下 稔・ 板 木 雅 彦 ・ 中 川 涼 司 編 『 サ ー ビ ス 多 国 籍 企 業 と ア ジ ア 』、 ナ カ ニ シ ヤ 出 版 )。 小 島 眞[ 2004]、 『 イ ン ド の ソ フ ト ウ ェ ア 産 業 : 高 収 益 復 活 を も た ら す 戦 略 的 IT パ ー ト ナ ー 』、 東 洋 経 済 新 報 社 。 財 団 法 人 国 際 金 融 情 報 セ ン タ ー[ 2006]、 『米国経常収支と米国産業の構造変化 の 関 係 に 関 す る 調 査 』。 ス テ ィ ー ブ ン・ハ イ マ ー[ 1979]、 『多国籍企業論』 ( 宮 崎 義 一 編 訳 )、岩 波 書 店 。 田 村 太 一[ 2005]、 「アメリカ製造業の変貌とリエンジニアリング」 『季刊経済研 究 』( 大 阪 市 立 大 学 ) 第 28 巻 第 1 号 。 内 閣 府 政 策 統 括 官 室( 経 済 財 政 分 析 担 当 ) [ 2004]、 『 世 界 経 済 の 潮 流 2004 春 』、 国立印刷局。 中 本 悟 [ 1999]、『 現 代 ア メ リ カ の 通 商 政 策 : 戦 後 に お け る 通 商 法 の 変 遷 と 多 国 籍 企 業 』、 有 斐 閣 。 宮 崎 義 一 [ 1982]、『 現 代 資 本 主 義 と 多 国 籍 企 業 』、 岩 波 書 店 。 渡 辺 慧 [ 1978]、『 認 識 と パ タ ン 』、 岩 波 書 店 ( 岩 波 新 書 )。 Council of Economic Advisers [2001], Economic Report of the President, Washington, D.C.: U.S.G.P.O. 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U.S. Government Accountability Office (GAO) [2006], Offshoring in Six Human Services Programs: Offshoring Occurs in Most States, Primarily in Customer Services and Software Development, GAO-06-342, Washington, D.C.: GAO, March. Yuskavage, Robert E., Erich H. Strassner, and Gabriel W. Medeiros [2006], “Outsourcing and Imported Services in BEA’s Industry Accounts”, BEA Papers. - 21 - 1 こ の 点 は 、 板 木 [ 2006] を 参 照 。 パタン認識とは、 「 個 物 の パ タ ン を 言 い あ て る こ と 、個 体 の 性 質 を 記 述 す る デ ー タ を い ろ い ろ の 類 型 に 入 れ 込 む こ と 」 を 指 し て い る 。 渡 辺 [ 1978]、 13 ペ ー ジ ; 宮 崎 [ 1982]、 9-12 ペ ー ジ 。 3 GAO [2004a], pp. 2, 55-58. 4 2002 年 産 業・職 業 雇 用 マ ト リ ク ス 統 計 に よ る と 、50 人 以 上 の 事 業 所 調 査 で 製 造 業 全 体 の 直 接 生 産 業 務 に 従 事 し て い る 者 の 割 合 は 52%で あ る 。 も ち ろ ん 個 別 に み て い け ば 、ア パ レ ル 産 業 で は 70% 、自 動 車 産 業 は 64% 、化 学 産 業 は 38% 、 コ ン ピ ュ ー タ ・ 周 辺 機 器 製 造 業 は 23% と そ の 割 合 は さ ま ざ ま で あ る 。 U.S. Department of Labor, Bureau of Labor Statistics, Employment Projections, 2002-12 National Industry-Occupation Employment Matrix.( http://bls.gov/emp/empiols.htm) 5 Yuskavage, Strassner, and Medeiros [2006] を 参 照 。 6 ここでいうサービス経済化は、①産業部門でサービス産業が拡大する広義の サービス経済化と②財生産部門(主に製造業)内部においても直接生産関連職 種以外の間接部門職種が増大する狭義のサービス経済化の 2 種類を指している。 こ の 点 は 、 財 団 法 人 国 際 金 融 情 報 セ ン タ ー [ 2006]、 65 ペ ー ジ 、 を 参 照 。 7 Engardio, Pete, Aaron Bemstein, and Manjeet Kripalani [2003], “Is Your Job Next?” Business Week, 3 February, pp. 36-44; Schwartz, Nelson D. and Ann Harrington [2003], “Down and Out in White-Collar America”, Fortune, 23 June, pp. 38-44; Engardio, Pete, Bruce Einhorn, Manjeet Kripalani, Andy Reinhardt, Bruce Nussbaum and Peter Burrows [2005], “Outsourcing Innovation”, Business Week, 21 March, pp. 50-57. 8 政 府 部 門 に み ら れ る オ フ シ ョ ア リ ン グ に つ い て は 、 GAO [2006] を 参 照 。 9 A.T. Kearney, Inc. [2004], Making Offshore Decision: A.T. Kearney’s 2004 Offshore Location Attractiveness Index, Chicago: A.T. Kearney, p. 2. 途 上 国 の 経 済 成 長 の 点 か ら 言 え ば 、「 工 業 化 」 に か わ る 経 済 発 展 と し て 注 目 さ れ よ う 。 10 Nephew, Koncz, Borga and Mann [2005], pp. 33, 38-40, 46. 11 例 え ば 、 ア メ リ カ の イ ン ド か ら の BPT サ ー ビ ス 輸 入 額 と イ ン ド の ア メ リ カ へ の BPT サ ー ビ ス 輸 出 額 に は 大 き な 差 が 見 ら れ る 。そ れ は サ ー ビ ス 貿 易 の 定 義 とその捕捉範囲がそれぞれ違うのが原因である。アメリカはサービス貿易統計 に 関 し て IMF マ ニ ュ ア ル ( International Monetary Fund (IMF) [1993], Balance of Payments Manual, 5 t h edition, Washington, D.C.: International Monetary Fund; United Nations, European Commission, Organization for Economic Co-operation Development, United Nations Conference on Trade and Development, World Trade Organization [2002], Manual on Statistics of International Trade in Services, New York: United Nations Publications.)に 準 拠 し て い る が 、イ ン ド で は そ う で は な く 、 ①アメリカにおける臨時労働者の稼得収入を含めている、②パッケージ・ソフ トウェアやハードウェア財に体化されているソフトウェアを含めている、③米 系在インド子会社のアメリカ以外への売上をアメリカのサービス貿易に含めて いる、などの理由でインドの対アメリカサービス輸出額は過大評価となってい る 。 GAO [2005], International Trade: U.S. and India Data on Offshoring Show Significant Differences, GAO-06-116, Washington, D.C.: GAO, October, p. 3. 12 イ ン テ ル の ゴ ー ド ン ・ ム ー ア 会 長 の 「 ト ラ ン ジ ス タ の 集 積 度 は 約 18 ヶ 月 で 倍増する」という半導体技術の進歩に関する予測に由来する。 13 Council of Economic Advisers [2001], pp. 95-102. 14 内 閣 府 政 策 統 括 官 室 ( 経 済 財 政 分 析 担 当 )[ 2004]、 14-16 ペ ー ジ 。 15 U.S. Department of Commerce, Economics and Statistics Administration [1998], 2 - 22 - Chap. 3; “Seller Beware”, Economist, 4 March, 2000, pp. 67-68. UNCTAD [2004], pp. 148-149. 17 UNCTAD [2004], pp. 164-167. 18 Engardio, Pete, Aaron Bemstein, and Manjeet Kripalani [2003], “Is Your Job Next?” Business Week, 3 February, pp. 38-43. 19 そ れ は 短 期 の H-1B ビ ザ ( 専 門 職 ビ ザ ) な ど を 利 用 し て ア メ リ カ の シ リ コ ン バ レ ー に あ る IT 企 業 で 技 術 者 と し て 働 い た 後 に 、イ ン ド に 帰 国 し て 起 業 し た 企 業 か ら 調 達 す る 場 合 が 典 型 で あ る 。 こ れ に つ い て は 以 下 を 参 照 。 Saxenian, AnnaLee [2002], Local and Global Networks of Immigrant Professionals in Silicon Valley, San Francisco: Public Policy Institute of California, pp. 2-3. 20 2005 年 9 月 12〜 13 日 、2006 年 3 月 27〜 28 日 の JETRO Manila お よ び フ ィ リ ピ ン 通 産 省 投 資 委 員 会 ( Department of Trade and Industry Philippines, Board of Investments) で の イ ン タ ビ ュ ー に よ る 。 マ レ ー シ ア お よ び フ ィ リ ピ ン 政 府 の 誘 致 政 策 に つ い て は 、 井 出 [ 2006] を 参 照 。 21 Doremus, Keller, Pauly and Reich [1998], p. 114. 22 日 本 61.7 千 ド ル 、 ド イ ツ 54.9 千 ド ル 、 フ ラ ン ス 53.1 千 ド ル 、 UK51 千 ド ル と 比 べ れ ば 、 そ の 差 は 明 白 で あ る 。 U.S. Department of Commerce [2006], U.S. Direct Investment Abroad: Operations of U.S. Parent Companies and Their Foreign Affiliates, Preliminary 2003 Estimates, Washington, D.C.: U.S.G.P.O., pp. 87, 89. よ り算出。 23 UNCTAD [2005], p. 141. 24 多国籍企業の企業内国際分業を理論的に労働体系の視点から取り扱った先 駆 的 研 究 と し て 、 板 木 [ 1989] が あ る 。 25 多 国 籍 企 業 研 究 の 第 一 人 者 S・ ハ イ マ ー の い う 「 優 位 性 」 の 内 実 は こ の こ と に ほ か な ら な い 。 ハ イ マ ー [ 1979]、 35-38 ペ ー ジ 。 26 P&G [1999], Annual Report, p. 21; “Offshore Services Grow in Lean Times”, New York Times, 3 January, 2004, Section C, p. 1. な お 、 2006 年 現 在 で は 、 サ ン ホ セ 、 マニラ、ダブリンの 3 拠点である。 27 IBM の ビ ジ ネ ス ・ サ ー ビ ス 業 の 展 開 に つ い て は 、 田 村 [ 2005] を 参 照 。 28 HP マ ニ ラ の P&G 向 け IT サ ポ ー ト 業 務 は 、 日 本 を 含 む ア ジ ア 全 域 と オ ー ス ト ラ リ ア 地 域 を カ バ ー し て い る が 、 P&G 担 当 社 員 は 全 員 ( 2005 年 9 月 14 日 時 点 で 56 人:う ち 日 本 の P&G 担 当 は 12 人 )が 人 材 派 遣 会 社 マ ン パ ワ ー か ら の 派 遣社員であり、契約も 1 年更新という。これは現地において離職率が高いため の 措 置 で あ る 。ち な み に HP マ ニ ラ の P&G 担 当 オ フ ィ ス で 2 度 イ ン タ ビ ュ ー を 行 っ た が 、日 本 デ ス ク 以 外 の 担 当 者 の ほ と ん ど が 一 新 し て い た( 2005 年 9 月 14 日 、 2006 年 3 月 29 日 の HP マ ニ ラ オ フ ィ ス で の イ ン タ ビ ュ ー に よ る )。 29 シ テ ィ グ ル ー プ や メ リ ル リ ン チ 、 GE キ ャ ピ タ ル な ど ア メ リ カ 金 融 関 連 会 社 の 多 く は 、イ ン ド 現 地 企 業 で あ る タ タ・コ ン サ ル タ ン シ ー・サ ー ビ シ ー ズ( Tata Consultancy Services) に ソ フ ト ウ ェ ア 開 発 を 委 託 し て い る 。 な ぜ 現 地 企 業 へ の オフショア・アウトソーシングが可能となったかについては、別で分析する必 要がある。インドへのソフトウェア開発のオフショアリングについては、小島 [ 2004] が 詳 し い 。 30 マ レ ー シ ア ・ フ ィ リ ピ ン で の イ ン タ ビ ュ ー に お い て も 、ほ と ん ど の 技 術 、経 営ノウハウなどは現地進出のアメリカ企業が担っているということである。ま た、フィリピンにはコールセンター企業が多数進出しているが、そのほとんど が ア メ リ カ 多 国 籍 企 業 で あ る( 2005 年 9 月 12〜 13 日 、2006 年 3 月 27〜 28 日 の JETRO Manila お よ び フ ィ リ ピ ン 通 産 省 投 資 委 員 会 で の イ ン タ ビ ュ ー と 配 布 資 料 に よ る )。 16 - 23 - 31 た だ し 、受 注 生 産 で 過 剰 に な ら な い の は 商 品 資 本 で あ り 、受 託 側 の 生 産 資 本 は過剰となりうる。 32 P&G と HP の 場 合 、契 約 の 継 続 を 得 る た め に 、HP の IT サ ポ ー ト 業 務 で は 英 語 、日 本 語 と い っ た 言 語 や IT 分 野 の ス キ ル ア ッ プ の 教 育・訓 練 制 度 が つ く ら れ 、 ま た P&G 独 自 の 評 価 基 準 に 沿 っ て 顧 客 満 足 度( 1〜 5 で 評 価 さ れ 、5 が 最 高 )を 測定し、コスタリカのサンホセで一括集計してアメリカの本社に送られる仕組 み が つ く ら れ て い る ( HP マ ニ ラ で の イ ン タ ビ ュ ー に よ る )。 33 1987 年 標 準 産 業 分 類 に よ る 2002 年 の 数 値 よ り 算 出 。サ ー ビ ス 生 産 部 門 と は 、 運輸・公益事業、卸・小売業、金融・保険・不動産、サービス業(狭義)で構 成 さ れ る 。U.S. Department of Labor, Bureau of Labor Statistics [2003], Employment and Earnings, Washington, D.C.: Bureau of Labor Statistics, January and March issues. 34 Forrester Research [2002], “3.3 Million U.S. Services Jobs to Go Offshore”, 11 November. 35 Risen, Clay [2004], “Missed Target”, The New Republic, 2 February, pp. 10-12; Swann, Christopher [2004], “More Offshore Jobs Mean Higher US Employment, say Economists Political Debate”, Financial Times, 2 April, p. 8; Drezner, Daniel W. [2004], “The Outsourcing Bogeyman”, Foreign Affairs, May/June. 36 Mandel, Michael J. and Kathleen Madigan [2003], “Outsourcing Jobs: Is It Bad?” Business Week, 25 August, pp. 28-30; WashTech [2004], “Your Tax Dollars At Work…Offshore: How Foreign Outsourcing Firms Are Capturing State Government Contracts”, July; 『 日 本 経 済 新 聞 』 2004 年 6 月 28 日 。 37 オフショアリングをめぐるさまざまな見解については、以下を参照。 Helsenrath, Jon E. [2004], “Behind Outsourcing Debate: Surprisingly Few Hard Numbers”, Wall Street Journal, 12 April, pp. A1, A7; GAO [2005]. 38 例 え ば 、ソ フ ト ウ ェ ア 職 で は 明 確 な 職 種 階 層 構 造 が あ り 、ソ フ ト ウ ェ ア 開 発 においてプログラム全体を設計するアーキテクト職ではオフショアリングのリ ス ク は な い と 言 わ れ て い る 。Baker, Stephen, Manjeet Kripalani, Robert D. Hof and Jim Kerstetter [2004], “Software”, Business Week, 1 March, pp. 46-47. 39 労 働 政 策 研 究 ・ 研 修 機 構[ 2004] 「オフショアリングをめぐる議論が活発化」 6 月 。“The Law of Outsourcing”, Wall Street Journal, 19 April, 2004; 日 本 政 策 投 資 銀 行 [ 2005]『 米 国 企 業 の オ フ シ ョ ア リ ン グ の 進 展 と そ の 影 響 』 17 ペ ー ジ 。 40 詳 し く は 、 中 本 [ 1999]、 第 3 章 、 を 参 照 。 41 GAO [2004b] 42 1990 年 代 の 労 働 力 政 策 に つ い て は 、 Krueger, and Rouse [2002] を 参 照 。 - 24 -
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