Vol.89 - テレコム先端技術研究支援センター|SCAT

Vol.89
IN ACTIVITY
一般財団法人への移行のお知らせ
平成 2 4 年 4 月 1日
一般財団法人テレコム先端技術研究支援センター
会長 安
田 靖 彦
当センターでは、一般財団法人への移行に向け内閣府への移行認可申請を行っておりましたが、このたび、内閣総
理大臣の認可を受け、平成 24 年 4 月 1日をもちまして、
「一般財団法人テレコム先端技術研究支援センター」に移行
しましたのでお知らせいたします。
当センターは、引き続き、情報通信分野の先端技術に関する調査研究およびその支援、研究開発に関する知識の
普及などの活動を通じて、広く情報通信技術の研究開発の推進に寄与して参りますので、今後ともより一層のご支
援、ご鞭撻を承りますようお願い申し上げます。
SCAT 研究助成贈呈式
● と き:平成 24 年 4 月 20 日(金)
分を含めた助成総額 3 , 0 0 0 万円 )
、研究奨励金 5 件
(後
● ところ:KKR ホテル東京
年度の助成分を含めた助成総額 1, 80 0 万円 )
および国際
会議助成 2 8 件
(助成総額 7 0 0 万円)
を採用することとしま
平成 2 3 年度計画 SCAT 研究助成(平成 24 年度から助成
した。
開始)
につきましては、平成 2 3 年 9 月から 11月にかけて公
このたび、これらの助成採用者に対する研究助成贈呈式を
募を行い、研究費助成 113 件、研究奨励金 12 件、国際会
行い、辻井委員長から助成対象者に対する激励のご挨拶
議助成 2 8 件の応募を受けました。SCAT 研究助成審査
に続き、審査専門部会の富永部会長から審査の講評と対
委員会
(委員長:辻井重男 中央大学研究開発機構教授、
象者の紹介がありました。
審査専門部会長:富永英義 早稲田大学名誉教授 )に
また、助成対象者からは、それぞれ研究計画や抱負などが
よる厳正な審査の結果、研究費助成 15 件
(後年度の助成
表明されました。
1
SCATLINE 89
第 86 回テレコム技術情報セミナー
■ 講演 1
「電波の伝搬を目視できる電界カメラ」
(独)情報通信研究機構
光ネットワーク研究所
上席研究員 土屋 昌弘 氏
■ 講演 2
「電磁波放射源可視化装置の開発と
電気エネルギー機器の絶縁診断への応用」
● と き:平成 24 年 3 月 16 日(金)
九州工業大学 大学院工学研究院
電子電気工学研究系
電気エネルギー部門
准教授 大塚 信也 氏
● ところ:SCAT会議室
財団の賛助会員企業などから 6 2 名が参加されました。今
回は
「電磁波センシング技術 」をテーマとして、以下の講師
■ 講演 3
の方々にご講演いただきました。
本講演の要旨は第90 号 SCAT LINE(9 月発行予定 )に掲
「ミリ波パッシブイメージングの
航空セキュリティへの応用」
載します。
東北大学大学院 工学研究科
電気・通信工学専攻 澤谷研究室
助教 佐藤 弘康 氏
理事会および評議員会
● 理事会:平成 24 年 3 月 15 日(木)
平成 24 年度の事業計画では、平成 2 3 年度に引き続き、研
● 評議員会:平成 24 年 3 月 26 日(月)
究助成事業、技術情報の提供および知識の普及事業、調査
● ところ:SCAT
研究およびその支援事業を三本柱とする事業計画が、また、
収支予算では約 2. 4 6 億円の一般会計収支予算計画が承認
S CATでは、第 5 6 回理事会と第 4 9 回評議員会を開催し、
されました。
平成 24 年度の事業計画および収支予算を決定しました。
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ACTIVITIES REPORT
平成23年度の事業活動報告
1 研究助成事業
(1)研究費助成
( 3 )国際会議助成
大学等の研究者、研究グループが行う先端的な情報通信技
先端的な情報通信技術に関する国際会議の開催経費に対
術の研究に対して助成を行うものである。平成 23 年度は、
して助成を行うものである。平成 23 年度は、3 0 件の国際会
平成 21年度開始分 10 件、平成 2 2 年度開始分 15 件および
議に対して助成を行った。また、平成 24 年度に助成を行う
平成 23 年度開始分 15 件の計 4 0 件の研究に対して助成を
国際会議 28 件の採用を決定した。
行った。また、平成 24 年度から助成を開始する 15 件の採用
平成 24 年度新規助成案件
( 4)
を決定した。
平成 24 年度からの新規助成案件については、平成 23 年
(2)研究奨励金
9 月から 11月にかけて公募を行い、研究費助成 113 件、研
先端的な情報通信技術の研究を行う大学院博士後期課程
究奨励金 12 件、国際会議助成 28 件の応募を受けました。
進学者に対して研究奨励金を支給するものである。平成 23
SCAT 研究助成審査委員会
(委員長:辻井重男中央大学研
年度は、平成 21年度開始分 2 人、平成 2 2 年度開始分 3 人
究開発機構教授、審査専門部会長:富永英義早稲田大学名
および平成 23 年度開始分 5 人の計 10 人に対し研究奨励金
誉教授 )による厳正な審査の結果、研究費助成 15 件
(後年
を支給した。また、平成 24 年度から支給を開始する 5 人の
度の助成分を含めた助成総額 3 , 0 0 0 万円)、研究奨励金 5
採用を決定した。
件
(後年度の助成分を含めた助成総額 1 , 8 0 0 万円 )および
国際会議助成 28 件
(助成総額 70 0 万円)を採用することと
しました。採用した助成対象は次のとおりです。
■ 研究費助成
研究テーマ
研究代表者および所属
干渉分離重畳適応制御による
無線アクセス周波数利用の効率化
岡本 英二 名古屋工業大学大学院 工学研究科 准教授
光波形合成による超高速光通信用の信号波形最適化と
ファイバ網特性解析
柏木 謙 東京農工大学大学院 工学研究院 先端電気電子部門 助教
動的環境下における知覚
ー行動系の柔軟なタイミング制御法 ー
川嶋 宏彰 京都大学大学院 情報学研究科 画像メディア分野 講師
円滑なヒューマン・ロボット・コミュニケーションのための
相手の反応に基づく振る舞いのリアルタイム適応
北原 鉄朗 日本大学 文理学部 情報システム解析学科 専任講師
ハンズフリー音声対話システムにおける
高次統計量追跡に基づく自律的システム最適化
猿渡 洋 奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 准教授
偏波多重多値光位相変調信号用遅延干渉計の
高密度集積に関する研究
千葉 明人 群馬大学大学院 工学研究科 助教
3
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音声ユビキタス情報環境実現のための
次世代音声技術基盤に関する研究
徳田 恵一 名古屋工業大学大学院 工学研究科 教授
生物の非線形ダイナミクスに学んだ
柔軟な動的再構成可能インパルス通信
鳥飼 弘幸 大阪大学大学院 基礎工学研究科 准教授
広領域に分散している多数の人間からのリアルタイムデータ収集法
ーサッカー選手からのバイタルデータ取得を例にしてー
原 晋介 大阪市立大学大学院 工学研究科 教授
言語で推論し音声で対話応答する携帯型秘書システムの開発
原田 実 青山学院大学 理工学部 情報テクノロジー学科 教授
トポロジカル絶縁体表面における
微視的電子・スピン輸送計測とデバイスへの応用
平原 徹 東京大学大学院 理工学系研究科 物理学専攻 助教
テラヘルツ波集積回路の実現に向けた
フォトニック結晶デバイスの研究
冨士田 誠之 大阪大学大学院 基礎工学研究科 准教授
60GHz 帯空間多重無線信号分離・光信号変換デバイスの開発
村田 博司 大阪大学大学院 基礎工学研究科 システム創成専攻 准教授
単結晶1次元ナノ構造を用いたメモリスタ素子の創成
柳田 剛 大阪大学 産業科学研究所 極微材料プロセス分野 准教授
高信頼情報通信ソフトウェア開発における
欠陥防止と検出の自動化に関する研究
劉 少英 法政大学大学院 情報科学研究科 教授
■ 研究奨励金
研究者(大学院博士後期課程 1 年)および所属
研究テーマ
マルチ GPU コンピューティングによる
音場シミュレーションの高速可視化に関する研究
河田 直樹
首都大学東京大学院 システムデザイン研究科 情報通信システム学域
Si 基板上に無触媒成長させた
化合物半導体ナノワイヤの物性研究
鈴木 章生
宮崎大学大学院 農学工学総合研究科 物質・情報工学専攻
高齢者の歩行のメカニズムに整合した
靴型歩行機能計測装置の開発と実用化試験の研究
中嶋 香奈子 お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科 ライフサイエンス専攻
視聴覚融合型知的音響サーベランスシステムの構築
林田 亘平 立命館大学大学院 情報理工学研究科 情報理工学専攻
損失を考慮した人工磁気導体の設計法に関する研究
村上 靖宜 福井大学大学院 工学研究科 システム設計工学専攻
■ 国際会議助成
国際会議名
開催時期
開催場所
第 75 回 IEEE 移動技術会議
2012 年 5 月 6 日∼ 5月 9 日
パシフィコ横浜
(神奈川県)
地盤工学における ICT の応用に関する
国際ワークショップ
2012 年 5月17日∼ 5月18 日
ハートピア京都
(京都府)
第 5 回知的対話マルチメディア・システムとサービス及び
第 4 回知的決定技術に関する合同国際会議
2012 年 5 月 23日∼ 5月 25日
岐阜国際会議場
(岐阜県)
第 23 回書換え技術とその応用に関する国際会議
2012 年 5 月 28 日∼ 6月 3 日
名古屋大学
(愛知県)
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SCATLINE 89
革新的な情報サービスとシステムに関する国際会議
2012 年 5 月 30 日∼ 5 月 31 日
上海市
(中国)
iPOP2012 第 8 回 I Pと光ネットワークに関する国際会議
2012 年 5 月 31 日∼ 6 月 1 日
慶應義塾大学
(神奈川県)
第 5 回光学、光電、
フォトニック材料および
その応用に関する国際会議
2012 年 6 月 3 日∼ 6 月 7 日
奈良県新公会堂
(奈良県)
ソフトウェアエージェントによる自動交渉技術に関する国際会議
2012 年 6 月 4 日∼ 6 月 5 日
バレンシア
(スペイン)
国際電気通信連合メディアアクセシビリティフォーカスグループ
東京会合および国際講演会
2012 年 6 月 5 日∼ 6 月 7 日
NHK 放送技術総合研究所 (東京都)
第8回光学設計・製造に関する国際会議
2012 年 7 月 2 日∼ 7 月 5 日
サンクトペテルブルク市
(スペイン)
第19 回アクティブマトリックスフラットパネルディスプレイ
国際会議
2012 年 7 月 4 日∼ 7 月 6 日
龍谷大学
(京都府)
ネットワークと
第 13 回 ACIS ソフトウェア工学、人工知能、
並列分散処理に関する国際会議(SNPD2012)
2012 年 8 月 8 日∼ 8 月 10 日
京都工芸繊維大学
(京都府)
第 6 回コラボレーション技術に関する国際会議
2012 年 8月 27日∼ 8 月 29 日
北海道大学
(北海道)
フレキシブル・プリンテッド・エレクトロニクス国際会議
2012 年 9 月 5 日∼ 9 月 8 日
東京大学安田講堂
(東京都)
第 6 回 IEEE 組み込みマルチコア・システム・オン・チップに
関する国際会議
2012 年 9 月 20 日∼ 9 月 22日
会津大学
(福島県)
第 17 回分子線エピタキシー国際会議
2012 年 9 月 23日∼ 9月 28 日
奈良県新公会堂
(奈良県)
2012 年国際固体素子・材料コンファレンス(SSDM2012)
2012 年 9月 24日∼ 9月 27日
国立京都国際会館(京都府)
シミュレーション技術国際会議
2012 年9月 27日∼ 9月 28 日
神戸大学(兵庫県)
光メモリ国際シンポジウム 2012
2012 年 9月 30 日∼10月4 日
日本科学未来館(東京都)
半導体生産技術国際シンポジウム 2012
2012年10月15日∼ 10月17日
ハイアットリージェンシー東京
(東京都)
2012 年非線形理論とその応用に関する国際シンポジウム
2012年10月23日∼10月26日
Gran Melia Victoria
Hotel,Palma de Mallorca (スペイン)
2012 年情報理論とその応用国際シンポジウム
2012 年10月28日∼10月31日
Hawaii Convention Center (アメリカ)
第16 回化学・生命科学マイクロシステム国際会議
2012 年10月 28 日∼ 11月1 日
沖縄コンベンションセンター (沖縄県)
2012 年アンテナ伝播国際シンポジウム
2012 年10月 29 日∼ 11月 2 日
名古屋国際会議場
(愛知県)
米国電気電子学会アジア地区固体回路会議 2012
2012 年11月12 日∼ 11月 14 日
神戸国際会議場
(兵庫県)
第10 回ナノ分子エレクトロニクス国際会議
2012年12月12日∼12月14日
淡路夢舞台国際会議場
(兵庫県)
アジア南太平洋設計自動化会議 2013
2013 年 1月 22 日∼ 1月 25 日
パシフィコ横浜
(神奈川県)
第 5 回先進プラズマ科学と窒化物及び
ナノ材料への応用に関する国際シンポジウム
2013 年1月 28 日∼ 2月1 日
名古屋大学
(愛知県)
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Vol.89
SEMINAR REPORT
超高速インターネット衛星「きずな」
(WINDS)
の東日本大震災におけるN ICT 支援について (独)情報通信研究機構
ワイヤレスネットワーク研究所
宇宙通信システム研究室
研究マネージャー
高橋 卓氏
本日は、3 月11日にありました東日本大震災で NICTが超高
速インターネット衛星
「きずな」で行った支援活動について紹介
〈図1〉高速インターネット衛星「きずな」の概要
します。
はじめに、今回使用した
「きずな」の概要を説明し、この
「きず
な」を使って NICTが行った代表的な実験事例を紹介します。そ
の後で、東日本大震災時の活動について紹介します。
超高速インターネット「きずな」
の概要
超高速インターネット衛星
「きずな」の概要を図1に示します。
お椀型のマルチビームアンテナ(MBA)が 2つと、四角いアク
ティブ・フェーズド・アレー・アンテナ(APAA)を備えています。
また、ATM(Asynchronous Transfer Mode )
で動作する交換
機を搭載しており、地上からの信号を一旦復調し、スイッチングし
〈図 2〉アジア太平洋全域をブロードバンドでカバー
た後、再度変調して地上に送信しています。
この衛星では、交換機を使った再生中継では 15 5 Mbps、交
換器をバイパスした Bent-pipe 中継では 1 . 2 Gbpsまでの通信
10 dB 程送受信能力が劣っており、その分地球局を大きくしてカ
が可能です。この衛星が使用できる帯域幅は 1 . 1 GHzあります。
バーする必要があります。
図 3「WINDS の通信回線構成 」は地球局の大きさと、通信の
使用周波数帯は Ka バンドで、アップリンクが 2 8 GHz 帯、ダウ
伝送レートを表した模式図です。 ンリンクが 18 GHz 帯となっています。
一番小さい地球局は 4 5 ㎝径のアンテナで、アップリンクは
1 . 5 または6Mbps、ダウンリンクは 15 5 Mbpsです。これは再
生交換機を使用します。次に大きい 1 . 2 m径のアンテナはアップ
リンクで 15 5 Mbpsまで使用できます。その上になると、2 . 4 m
径のアンテナで、これはベントパイプ中継で 6 2 2 Mbps の通信
が可能です。さらに上の 4 . 8 m径のアンテナの4種類にカテゴ
屋内装置
(In Door Unit:IDU)のインタフェースは地上系と接
続しやすいイーサネットを使っています。
図 2 は WINDS のカバー域です。
MBAでは、日本と東南アジアの主要な都市をカバーしていま
す。APAAは 12 8 素子のもので、衛星から見える全地域にビーム
を動かすことができますが、MBAに比べるとビームが大きいため
6
SCATLINE 89
N ICTの W INDS 実験
NICT では
「きずな」を使った色々な実験を行っていますので、
幾つか紹介します。
スーパーハイビジョン(SHV)
伝送実験
(1 )
「きずな」は、1 . 1 GHzという非常に広い帯域を持っています
ので、高精細映像伝送などに力を発揮するだろうということで、
NHK 放送技術研究所と共同で 2 0 0 9 年5月、NHK 放送技術
研究所の一般公開に合わせてスーパーハイビジョンの伝送実験
を行いました。
〈図 3〉WINDS 通信回線構成
札幌のテレビ塔にスーパーハイビジョン用のカメラとマイクロホ
ライズして地球局の開発を行ってきました。
ンアレーを設置し、その映像をテレビ塔の近くにある NHKで符
「NICTが運用する主な WIND 地球局」です。
図 4は
号化などの処理をして、地上網
(JGN 2 plus)を使って NICT 鹿島
大きく分けて6種類のアンテナを持っています。LETは NICT
へ伝送しました。NICT 鹿島であらかじめ録画していた番組 2 つと
鹿島にあるもので、アンテナ径が 4 . 8 mあります。SDR-VSAT
併せて、3 番組を多重して、
「きずな」を使って、砧のNHK放送技
はアンテナ径が 2 . 4 mあり、車に搭載し、目的地に移動してア
術研究所に伝送し、特設のモニタで来場者に公開しました。
ンテナを広げて通信が可能というものです。
C-VSATはベントパイプで使用するもので、多様な伝送レート
(2)
日食映像伝送実験
を扱えるものを作りたいということで、JAXA 殿と一緒に共同開発
「きずな」のもう一つの特徴である APAAを使うと MBA がカ
したものです。1 . 2 mのアンテナで、4 0 Wの出力を持っています。
バーしていない所でも実験ができますので、当初の計画になかっ
再生中継系では、1 . 2 mのアンテナで 4 0 Wの 51 M-VSAT、
た地域も、後から実験に組み込むことができます。
1mで 4 0 Wの可搬 型 VSAT、1 . 2 mで 2 5 0 Wの HDR-VSAT
2 0 0 9 年7月の皆既日食の時、硫黄島へ地球局を持っていき、
があります。可搬型 VSATは今回の震災被災地の気仙沼などに
APAAを使ってハイビジョンカメラの映像を伝送しました。硫黄
持っていったものです。これは大きなスーツケースに入れて持ち
島からの信号は小金井の NICTに置いてある JAXA 殿のアンテ
運ぶことができる可搬型です。
ナで受けて、JGN 2 を経由して、インターネットなどへ伝送されま
した。また、伝送された映像はNHKの番組で硫黄島からの映像
として使ってもらいました。
〈図 4 〉N ICTが運用する主な W I N DS 地球局
7
SCATLINE 89
〈 図 5 〉WINDSメッシュネットワーク接続実験
〈 図 6〉超高速インターネット衛星
(WINDS)を用いた災害時対応
(3)
立体ハイビジョン映像伝送実験
●立体 4 K 映像伝送実験
2 010 年1月に神戸国際展示場で開催された外科医師の会議
2 010 年 11月には
「けいはんな情報通信研究フェア」での公
(CCT 2 010)の場で立体ハイビジョン映像の公開実験を行いま
開実験で、立体4K映像をライブ中継しました。この時も大極殿
の映像を送りましたが、今度はベントパイプ中継で、NICT で開発
した。神奈川県の大和成和病院で実際に手術している映像を、
した 6 2 2 Mbpsを通すモデムを使った実験です。
「きずな」を使って神戸へ伝送して、神戸の会場で来場者にご覧
いただくという実験です。これは眼鏡を使ったタイプの 3 D 映像
この時は 6 2 2 Mbpsを使える地球局が2つしかなく、1つは
です。これは医療技術の伝承、医療関係の教育などに非常に有
鹿島固定ですので、結局、大極殿から一回鹿島に伝送し、そこか
効であると関係者の方から評価をいただいています。
ら光ファイバー網
(JGN 2 plus)で
「けいはんな」に伝送するとい
う長距離伝送実験でした。
( 4 )WINDS サバイバリティアプリケーション実験
( 5 )防災機関等との共同実験
災害が起こった時に衛星通信を役立たせるためのアプリケー
ションとして N I C Tが検討していたものに、サバイバビリティ・
2 010 年 10 月、沖縄で APEC 電気通信・情報産業大臣会合
アプリケーションがあります。このアプリケーションの1つは飛
が行われました。その時に
「きずな」を使ってデモンストレーション
行機からのリモートセンシングデータをそのまま衛星経由で伝送
実験を行っています。この時はタイで震災があり、東京消防庁から
するアプリケーションです。これは
「きく8号 」を使って 2 011 年
国際救助隊が派遣されたというシナリオで実験しました。派遣さ
3月に実験しています。今後、
「きずな」でも実験できないかと、
れた人たちと派遣元の人たちが
「きずな」を介して通信しながら救
開発を進めているところです。
援活動を行うというデモンストレーション実験をしています。この
時の縁で、今回、震災の後、東京消防庁の方と一緒に気仙沼など
もう一つ、被災地の状況を遠隔地から把握するのに映像は非
に出かけることになりました。
常に重要だということで、より多くの情報を得られる高精細映像
の伝送実験を行っています。
また、被災地で通信設備が利用できなくなった時に、地球局を
超高速インターネット衛星「きずな」
(WINDS)の
東日本大震災におけるNICT支援について
設置して、臨時の通信網を開設する研究などを行ってきています。
●「きずな」メッシュネットワーク実験
2 011 年1月には
「きずな」メッシュネットワーク実験を行いま
した。これは図 5 に示しますように、被災地を想定したところに、
図 6に
「超高速インターネット衛星
「きずな」
(WINDS)を用い
た災害時対応」を示します。
東日本大震災での被害は死者・行方不明者が約2万人で、
メッシュの無線 LAN のネットワークを展開し、そこに IP 電話や
ネットワークカメラなどを接続して、コントロールセンターからの
倒壊家屋が約 11 万棟です。通信インフラも携帯の基地局が1
操作で、現地の状況を確認したり、リモコンを操縦したりすると
4 , 0 0 0 局停波したり、固定電話が 15 0 万回線不通なったりと
いった実験です。
地上網も非常に大きな被害を受けています。
今回、私たち NICTは気仙沼と東松島にある航空自衛隊の松
●平城京大極殿の超高精細映像
(4 K 映像 )伝送実験
島基地に行きました。この時、JAXA 殿も岩手で支援活動を行っ
2 010 年7月に、奈良平城京で遷都 13 0 0 年祭が行われた時
に、ハイビジョンの 4 倍の精細さをもつ4Kカメラによる大極殿
ていましたので、衛星のリソースをシェアする調整を行ってから出
の映像を、
「きずな」を使って伝送し、NICT で一般公開を行って
いる会場で投影しました。奈良からの送信には車載の 2 . 4 mの
我々は 3 月14 日に出発し、実際に気仙沼で運用を始めたのは
15 日です。東京消防庁の方と一緒に行き、気仙沼と東京消防庁
地球局を設置し、小金井は 1 . 2 mのアンテナで受信しました。
の本庁の間を
「きずな」の回線で結びました。その後、初期の活
同じことを鹿島でも行っています。
動に目途が立ったということで、2 0 日で気仙沼を切り上げ、松島
かけました。
へ移動し、航空自衛隊の支援のため埼玉県の入間基地と衛星回
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SCATLINE 89
ここではハイビジョンのテレビ会議、ファイル転送用の PC、IP
電話といった普段、実験でよく使いなれたものを持っていって、東
京消防庁に使っていただくために提供しました。電源は、気仙沼
消防署付近は停電していましたので、東京消防庁から派遣された車
の発電機から供給していただきました。消防庁の方々が本来の業務
を行う時には
「きずな」回線は休みという形での作業になりました。
硫黄島での日食実験のときの縁で、松島基地と入間基地間の
通信に自衛隊から日食の実験で使った衛星が使えないかという
話があり、検討の結果、気仙沼から松島へ移動することになりま
した。
図 8は
「災害派遣活動を行う自衛隊基地の支援」です。
松島側は気仙沼から1mのアンテナを移設して使いました。入
間側には、鹿島から別の 1 . 2 mのアンテナを運んで使っています。
〈 図 7 〉気仙沼市における緊急消防援助隊の活動支援
今回の支援において色々な要望がありました、その対応も含め
紹介します。
線で結びました。こちらは4月 6 日まで行っています。
東日本大震災は非常に大きな地震でしたので、各地から緊急消
( 1)
インターネット接続
防支援などの災害派遣が行われましたが、今回は特に地上網が被
気仙沼では、気仙沼と大手町の間だけを結んでいましたが、松
害を受け、使用することが困難でしたので、派遣された人たちと派
島ではインターネット接続の要求があり、松島と鹿島の間を結
遣元の間での通信が非常に厳しい状況になっていました。
び、鹿島を経由してインターネットに接続しました。ハイビジョン
今回は衛星が活躍しました。防災機関も衛星携帯電話を持っ
テレビ会議やファイル転送用の PCなども提供しています。
ているのですが、通信できるのは音声だけでしたので、複雑な情
報の伝送が困難だったようでした。気仙沼消防署は丘の上にあ
(2)2 地点間の常時通信確保
るため、この付近だけを見るとただ停電しているだけのように見
常時、派遣先と派遣元の2地点間の通信ができるようにして
えましたが、1∼ 2 Km 程先は非常にひどい状況で、まだ煙が立
欲しいという要求があり、この要求は、今回持って行ったテレビ会
ち上っており、消防の方も忙しそうでした。
議や IP 電話で通信が確保されていましたので達成できました。
3 月 20 日に気仙沼から松島に移動した際は、道路の部分だけ
は一応片づいていましたが、まだ周りにがれきが寄せられている状
(3)大容量ファイル転送
態でした。人の高さ程の水が来た跡が残っている所もありました。
動画などの大容量のファイルを送りたいという要求に対して
図 7は
「気仙沼市における緊急消防援助隊の活動支援」です。
は、約 3 0 Mbps 程度のスループットで映像のファイルを転送で
気仙沼には1mのアンテナの地球局を持っていって設置し
きましたので、実現できたと思います。
ました。これは 下 に 4 0 ワ ット の SSPA(Solid-State Power
Amplifier)が入っている箱があり、そこから別の場所に設置した
IDUにケーブルで接続するという形になっています。
〈 図 8 〉災害派遣活動を行う自衛隊基地の支援
9
SCATLINE 89
(4)
ハイビジョン映像の伝送
活動のまとめ
相手側に張った地図を、普通の映像では何が書いてあるかわ
からないので、ハイビジョンクラスの映像で映したいという要望
もありました。ハイビジョンクラスのネットワークカメラは持って
「きずな」を使った、再生交換機による通信で、消防庁や自衛
いきましたが、映し方などスムーズに利用できなかった点など、今
隊の活動の支援を行ってきました。今回は岩手で活動していま
後の検討課題として残りました。
した JAXA 殿と帯域をシェアすることによって、私たちの活動を
行っています。
「きずな」は東北ビームを持っており、51 Mbps の
ファックスの利用
( 5)
波を 3 波使えるようになっています。そのうちの 2 波を JAXA 殿
ファクスを使いたいという希望がありました。PCでのファイル
が使い、私たちが1波使いました。
転送では不十分ということで、スキャナとプリンターで実現する
利用したアプリケーションは次のものです。
手法などを今後の課題として検討しています。
① ハイビジョンのテレビ会議、IP 電話
② PCによる高速ファイル転送
(6)
ワイヤレスシステムの利用
回線をシェアして約 3 0 Mbps 相当のスループットを使用する
IP 電話は持参したのですが、離れた場所からワイヤレスで使い
ことができ、それから、セキュリティを考慮して、IPSecが使える
たいという希望がありました。ワイヤレスのシステムも鹿島には
市販の VPNルータも持って行きプライベートネットワークも構
準備してあったのですが、今回は持って行きませんでした。次回
成可能であることも確認しました。
は、そういったことも考慮したいと考えています。
③ インターネット接続
インターネットへの接続は鹿島宇宙技術センターから ISPに
( 7 )離れた場所との通信確保
接続しました。
放水場所のように地球局と離れた場所との通信を確保したい
今後の課題としては、初動の早さが非常に大切と感じていま
という要望もありました。今回は地球局のある場所の間での通
す。今回、私たちは 3 月 15 日から回線提供を行いましたが、その
信しか行いませんでした。放水場所は地球局から多少離れた所
2、3 日後には気仙沼では携帯電話が復旧し始めました、もっと
にありますので、そことの通信の確保が課題になっています。こ
早くから行って利用してもらえていれば、もっと効果が大きかった
れには無線 LANを使って対応できるのではないかということで、
と思いました。
今、実験の準備を進めています。
今回は私たちの思い込みでアプリケーションを用意して持っ
現在、メッシュネットワークを展開して、それを現地に設置した
て行きましたが、もう少し役に立てるようなアプリケーションを
VSATに接続して、災害対策本部などに接続するといったものを
現場の方たちと平素から連携をとって開発していく必要があると
考えています。地球局から離れた場所には長距離用
(数 Km)の
感じています。
無線 LANを使用することを検討しており、今回、この震災の後
また、地球局から離れた場所で、例えば無線 LANなどの利用
で私たちが用意したもので 3 Km程通信できるものを入手しまし
が現場の方から求められたことから、衛星区間以外の通信アプ
たので、それを使ったネットワークの構築を考えています。
リケーションの重要性も考慮した支援体制を検討したいと考え
ています。
今後も東京消防庁の消防訓練に、
「きずな」を使った通信支
援という形で参加しようと考えています。
本講演録は、平成 2 3 年 11月 11 日に開催されました、財団主催の
「第 8 5 回テレコム技術情報セミナー」、テーマ「災害時における衛星通信の貢献 」の講
演要旨です。
*掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます。
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Vol.89
SEMINAR REPORT
超高速インターネット衛星「きずな」
(WINDS)
の東日本大震災におけるJAXA 支援について
(独)
宇宙航空研究開発機構
宇宙利用ミッション本部
衛星利用推進センター
ミッションマネージャ 中尾正博氏
本日は、今回の東日本大震災の前に JAXA が行ってきた
「きず
な」の実験事例を紹介させていただいた後に、
「きずな」の震災
における支援について紹介することにします。
〈 図1〉
「きずな」
「 ず の目的と概要
「きずな」の実験概要
図1に「『きずな』の目的と概要 」を、
図 2 に「
『きずな』の実験
概要」を示します。
実験は「 きずな」の特長を活かして、バックボーンバッチ、
アクセスバッチ、デジタルデバイド解消、マルチキャストな
どの4つの分 類で実施してきました。
JAXAは、実験の目的に合わせて様々な種類の実験ユーザ地
球局を整備しました。
図 3 に JAXAの
「『きずな』実験ユーザ地球局」を示します。
〈 図 2〉
「きずな」の実験概要
直径 2. 4mの地球局から、4 5 ㎝の地球局まで、ここには7種
類の地球局を載せていますが、これらとは別に船舶用の地球局
も開発して使っています。
左側の4種類は固定的に使う地球局で、右側の 3 種類が簡
単に運べる可搬型の地球局です。今回の東日本大震災におけ
る支援では図に示している可搬型 VSATと可搬型 USATを使
いました。
固定的に使う地球局は、世界的にみると、北はモンゴルから西
はカザフスタン、キルギス、南はフィジー、インドネシアあたりま
で、その他、タイ、スリランカ、ベトナム、ネパール、フィリピン等
の様々な国に設置しています。日本国内では JAXAの筑波宇宙
センター、情報通信研究機構 (NICT) 殿の小金井本部と鹿島宇
宙技術センターに常設の地球局がありますし、可搬型の地球局
「きずな」実験ユーザ地球局
〈 図 3〉
11
SCATLINE 89
を用いれば、日本全国で実験ができる体制になっています。
ここで、JAXA が実施してきた幾つかの実験を紹介させていた
だきます。
遠隔教育実験
(1 )
日本の筑波大とタイのアジア工科大、マレーシアのマルチメ
ディア大学の間で衛星回線による
「多地点における遠隔授業の
有効性 」を検証するために実施しました。
「きずな」の通信では制御局を介さずにユーザの地球局同士
で直接通信ができるため遅延時間が半分ですみます。筑波大と
タイ、筑波大とマレーシア、タイとマレーシアの3地点で双方向通
信をしました。ハイビジョン映像で、画像も綺麗な上に会話も支
〈 図 4 〉非常用等通信実験
(徳島県)
障なくできることから、遠隔教育に十分使えるという評価をいた
だきました。
図 4 実施した
「非常用等通信実験
(徳島県)
」です。
これまで 3 年間続けて実験を実施しており、この成果は、日本
この実験は、実際に災害が起きた時を想定し、技術的なことを
に本部がある国連アジア太平洋統計研修所
(SIAP)で遠隔研修
事前に検証したもので、実際の災害時には、そのまま適用しよう
に使われるなど、発展的に使われています。
ということで行ったものです。
( 2 )海洋ブロードバンド実験
( 5)
災害 NPO 非常用通信等伝送実験
海洋研究開発機構
(JAMSTEC)と協力して実験を実施しま
災害 NPO 非常用通信等伝送実験はボランティア団体のバ
した。船は揺れるものですが、揺れる船に地球局を載せた状態
イク隊等の方々と一緒に実施しました。現地のボランティアセン
で通信を確保するためには、安定して衛星方向に向きを維持す
ターと被災地外のボランティア本部の間でインターネットを使っ
る必要があります。このため、東京海洋大の協力を得て、可搬型
たテレビ会議等で現地との情報を共有することを想定した実験
VSATと組み合わせて、船上で通信実験を行いました。
です。バイク隊であれば、ヘリコプターでの確認や自動車では移
ここに示す実 験は、深 海生物追 跡 調 査ロボットシステム
動できない場所へも移動でき、確認もできますので、住民レベル
「PICASSO」という海底探査機で撮った海中のハイビジョン映像
できめ細かにサービスができると想定して行ったものです。
を相模湾から JAMSTECの横浜研究所と筑波宇宙センターに送
この実験は 3 年間行っており、平成 2 3 年 3 月 12、13 日にも
りました。筑波宇宙センターの特別公開日に合わせて実施しまし
佐渡島でこの訓練を行う予定でした。3 月 11日に機材一式を積
たので、来場された大勢の方々にその様子を見ていただきました。
んで筑波宇宙センターから佐渡島に向けて出発し、新潟港から
この成果を生かして、遠距離航海している船で使える船舶用
佐渡島行のフェリーに乗ろうとしていた直前の 2 時 4 0 分頃に地
の地球局を開発し、大阪から鹿児島へ航海している
「きりしま」
震が発生し、かなり大きい地震で被害も大きいことが予想されま
と陸上の神戸本部間でテレビ会議を実施しました。
したので、佐渡島での訓練は中止することにして、被災地で何か
貢献できることはないかと考えました。
( 3)
遠隔医療実験
遠隔医療実験を東京から約 1 ,0 0 0 ㎞南にある小笠原村の診
超高速インターネット衛星「きずな」
(WINDS)の東日本大震災における
JAXA 支援について
療所と、その支援病院である都内の広尾病院の間で行いました。
小笠原に常駐の医師は 2 名です。専門外の診察を行う必要もあ
ることから、専門外の診察の支援を想定して実験を実施しまし
た。ハイビジョンカメラでレントゲン写真を撮って送り、その写真
を広尾病院側で診る。テレビ会議を用いて、広尾病院の専門家
後に公表された総務省のホームページの
「東日本大震災にお
と相談しながら診断し、その後の処置を決めるという実験でし
ける通 信 回 線 被 害 状 況 」
(http://www.soumu.go.jp/main_
た。小笠原診療所の先生から、こういうシステムがあると非常に
content/ 0 0 01316 5 8 .pdf)を見ると NTTや携帯の多くの局
安心でき、心強いというコメントをいただきました。このような使
が停止していることがわかりますが、当日からしばらくは輻輳が
い方は、災害現場での緊急医療にも応用できると考えています。
発生し、最大 8 0 ∼ 9 0 %の通話制限がかかり、岩手県でも電話
が繋がり難く、沿岸部は完全に通信が途絶している状況でした。
( 4 )非常用等通信実験
その中でしばらくして、岩手県と連絡がとれ、JAXAは岩手県
非常用等通信実験では、被災地で撮った映像を無線 LAN、
を支援することにしました。図 5「
『きずな』の岩手県支援 」はそ
地球局、
「きずな」を介して、対策本部で見ることができたり、テ
の経緯です。
レビ会議により対策本部間での災害情報共有ができることを確
3 月15 日の状況では、電話回線も通じておらず、情報の共有
認するのが目的です。ハイビジョン映像を使いますので、鮮明な
に困難をきたしているため、テレビ会議システムと電話を持って
映像で地図等も拡大して見ることができます。その他、インター
きて欲しいということでした。しかしながら、釜石に到着した 3 月
ネットへの接続等や庁内システムの補完としても使用できること
18 日には現地対策本部の固定電話は開通していましたので、IP
も確認します。
電話は接続の確認を実施したのみで、実際には使われることは
12
SCATLINE 89
〈 図 5〉
「きずな」の岩手県支援
〈 図 7〉
「きずな」ユーザ地球局設置状況
5 0 mの LANケーブルでは足りず、急遽、5 0 mの LANケーブル
を購入し、繋いで接続しました。
結果的に IP 電話使われませんでしたので、今回の
「きずな」通
信回線の利用方法は次の 3 つに分けられます。
① 災害対策本部による利用
岩手県庁の災害対策本部で毎朝 3 0 分から1時間、対策会議
が開かれていました。この会議に釜石の現地対策本部が参加す
るため、テレビ会議を設置したものです。復旧はどの程度か、ど
ういう支援が来たのか、通信、電力がどれだけ復旧しているかと
いった状況報告です。一方、釜石からも、大船渡、宮古の状況を
含めて県に報告します。
〈 図 6 〉支援での
「きずな」通信システム構成
テレビ会議が利用できるまでは、紙でやり取りしていたため、
ありませんでした。また、衛星回線に余裕がありましたので、イン
釜石の情報もよく伝わらないし、県の対策本部からの情報も半
ターネット回線を提供することにしました。
日∼1日遅れていました。また、県全体の資料としてファクスなど
図 6 が今回構築した
「きずな」通信システムの構成です。
情報が膨大に来るので、今、何が重要で、何が課題で、何をすべ
岩手県の災害対策本部は岩手県庁にあります。岩手県から災
きかがなかなかわからなかったが、テレビ会議だとそれが即座に
わかるので非常に助かったと聞いています。
害対策本部と釜石にある沿岸広域振興局、大船渡ある副振興
局との回線を確保したいとの要望があり、岩手県庁と釜石と大
② 派遣チームによるインターネット利用
船渡の間の回線を提供することとしました。またインターネット
派遣チームは色々な所から派遣されて来ていますので、派遣
へは、筑波宇宙センター経由で接続することとしました。
私自身は県庁がある盛岡と釜石に行きました。当時は既に地
地情報や派遣元の機関との情報共有のために利用されていまし
震から1週間経っており、盛岡は停電もなく、携帯も通じ、電気も
た。被災地の地図情報や道路状況の確認などに非常に良く使わ
水も問題はなく、見た目では地震の被害は全く感じられませんで
れていました。
した。釜石も地震による直接の被害はそれほどには見受けられ
③ 被災地住民による利用
ませんでしたが、津波による様々な問題が起きていました。
盛岡と釜石、大船渡間については、NICTと回線をシェアして
被災地住民の方々はインターネットをかなり利用されていまし
おり、盛岡と大船渡からは 2 0 Mbps、釜石は可搬型の USAT で
た。統計を取ったところ、派遣チーム利用を含め、全部で 1 , 7 9 0
したので 6 Mbps、筑波からは 4 0 Mbpsという速度でそれぞれ
回程度使っていました。毎日、釜石では 2 0 人くらい、大船渡では
の回線を繋ぎました。
4 0 人くらいの方々が使っていました。利用目的は、最初の1∼2
3 カ所ともテレビ会議、IP 電話、インターネットの回線を設置
週間は安否確認が主で、誰が何処にいるのかといった避難所情
しました。地球局は可搬型 VSATと可搬型 USATを現地に運び
報、避難者検索等でした。4週間程度過ぎて避難者を探すのが
ました。これらは、持ち運びを考慮して IATA 規格サイズのスーツ
一段落すると、今度は生活関連情報
(罹災証明、保険契約確認、
ケースに収納されています。
電気・電話・ガス等の解約、仮設住宅情報、中古車情報、病院・
学校情報、求人情報など)での利用が多くなりました。
設置の様子を図 7「
『きずな』ユーザ地球局設置状況 」に示し
ます。
県庁には可搬型 VSAT、釜石には可搬型 USAT、大船渡には可
最初はパソコンだけ置いていたのですが、罹災証明や保険契
搬型 VSATを設置しました。組立等はそれまでの色々な訓練を
約など役所に紙で出す必要があるということで、プリンターを準
通じて慣れていましたので問題はありませんでしたが、岩手県庁
備して紙も出せるようにしました。
電話も初期の安否確認等には非常に役に立ちますが、生活関
では地球局から災害対策本部までの距離が長く、持っていった
13
SCATLINE 89
連情報の入手になると災害時でもインターネットが役に立ってい
災害時の小規模通信インフラとして、無線 LANやフェムトセ
ました。今後は、平常時以上に災害時でもインターネット利用が
ルのようなものを利用できるのではないかと考えています。これ
必須になると思います。
らが使えれば、通常個人使用している PCや携帯がそのまま使
え、非常に役立つと考えます。フェムトセルについては JAXAの
今回の被災地での回線提供支援から得られた知見をまとめ
中で確認したところ、まだ1社だけですが、問題なく通じました。
ました。
今後、緊急時には被災者の利便性を考えフェムトセルの活用も
① 災害前まで使えた電話やインターネットが災害後でも同質
考慮すべきと思っています。
で使えることが理想である。
最後に、今回得られた知見と課題と、課題の全てに対応でき
② 3 . 11で津波被害の沿岸域は、瞬時にデジデバとなり、被害地
るものではありませんが、今後の取り組みを次のようにまとめま
住民の安否確認や地震や津波速報など同報が重要である。
した。
③ 場所や場面によって多様な情報通信回線が必要である。
● 知見
① 今回の対応で、これまで実施してきた災害通信実験が、実
岩手県では JAXAを含む関係者で打ち合わせをし、東日本大
際の災害対策に利用できることを確認した。
震災を踏まえた情報通信の在り方を以下のようにまとめました。
② アプリケーションとして有効だったのは、県レベルではテ
レビ会議、派遣チームにとってはインターネット接続、住民
① 初動で必要なのは、水や電気よりも、まずは通信手段であ
レベルでもインターネット接続で、今後インターネット接続
る。不足や危険の情報を得た上で、救援活動ができる。
は必須になる。
② 県レベルでは、通信手段が全く使えない事態を余り想定し
ていなかった。連絡が取れない地域こそが甚大な被害に
● 課題
見舞われている。これが最も恐るべき事態である。
① 地球局の小型化、端末の操作性・容易性の向上が望ましい。
② 停電時の通話不可回避のための無停電装置や省電力の
③ 復旧に数時間以上要する間の住民の安否確認の遅れが
地球局の開発が必要である。
救命活動の遅れにも繋がった。
③ 今回は実験の延長線上で支援したため、無線従事者が必
須であったが、今後は無線従事者の取り扱いについても対
④ 地上系の最大の欠点は地上回線網切断や基地局の破壊
策が必要である。
にあり、地上系によらない補完回線が必要である。
④ 岩手県の通信担当の方も
「きずな」があることさえ知らな
⑤ 県レベルでは、今回の TV 会議利用のように、沿岸広域振
かったということから、PR 不足であったことがわかった。
興局
(釜石市、大船渡市)との情報共有が役立った。
● 今後の対応
⑥ 国民の尊い生命を守るために、民間のみではなく、一歩踏
① 大地震発生の可能性が高いと言われている東海・東南海
み込んで国としての通信衛星を持つ必要性があるのではな
を含めて、災害関連府省の方や自治体の方に、万が一の時
いか。
には我々が
「きずな」を提供し、支援できますという利用促
進を行う。
こういった意見を受けて、災害時の
「きずな」の使い方を考え
②「きずな」に関心をお持ちのところとは協定を結んで、様々
ました。
な利用形態を考慮し、実際に使う訓練を実施する。
図 8が
「災害時の『きずな』の応用利用例」です。
③ 我々は災害指定対応機関ではないため、今後、災害対応
要請があった場合は、その時の要員と機材の体制の可能
な範囲で対応する。
まとめ
今回の岩手県に対する
「きずな」での支援では課題が幾つ
かありましたが、災害時の通信衛星の有効性、特にインターネット接
続の有効性が改めて確認されました。これまで行っていた災害を含め
た訓練も、そういう意味では有効だったと思いますし、今後も災害発
生時には可能な範囲で支援していきたいと思います。
今回得た知見が将来の通信衛星に反映されるよう、望んで
〈 図 8 〉災害時の
「きずな」の応用利用例
おります。
本講演録は、平成 2 3 年 11月 11 日に開催されました、財団主催の
「第 8 5 回テレコム技術情報セミナー」、テーマ「災害時における衛星通信の貢献 」の講
演要旨です。
*掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます。
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Vol.89
SEMINAR REPORT
東日本大震災での IPSTAR の利用
② ブロードバンドに加え、条件不利地域・被災地等での携帯電
話基地局向けの中継回線としても提供しています。
③ 今後、災害バックアップ回線、遠隔監視、IPマルチキャスト
等、新分野で安価な価格で衛星通信サービスを提供したいと
考えています。
IPSTAR CO.,Ltd
事業割合としては、今はブロードバンドが1割以下で、携帯基
日本支店長
地局向けの中継回線が 9 割を超えています。
田中靖人氏
IPSTARという衛星は、低料金で衛星通信を実現するために、
幾つかの機能を犠牲にしていますので、災害対応のようなミッ
本日は IPSTAR CO.,Ltd の会社概要、事業内容を紹介させて
ションクリティカルな衛星通信には向かないのではないかと考え
いただき、その後で、東日本大震災での経験について紹介したい
ていたのですが、広帯域衛星通信として役に立てるところがあり
と思います。
ましたので、今後も災害支援などで少しでも役に立てればと思っ
3 月11日は初 動態 勢として、通信 状 況とスタッフの 確 認、
VSATの機材の在庫確認を行いました。当時、日本に 2 5 0 台程
ています。
「会社概要」を図1に示します。
衛星を管理・運用するのは親会社の THAICOMです。IPSTAR
の VSATの機器がありましたが、アンテナの架台がなく、製造の
の位置づけはその衛星を使ってサービスを提供する会社になり
発注など、被災地支援に向けた準備に追われました。
ます。日本でも事業を行っていますが、事業規模の大きい国とし
翌日はお客様の第一陣がすでに車載局に入られましたので、
そのサポートをしながら、私どもも現地訪問の準備をして 13 日
てはオーストラリアとニュージーランドがあります。
オーストラリアでは初期費用を国が全額
(2 , 75 0 豪ドル)補助
に現地入りしました。第一陣は日帰りで行き、今後の対応の仕方
しますので、3 年程で 10 万台以上採用されています。ニュージー
を決めるという方針で作業を進めました。
ランドでも最近 2 万台を超えました。
その時に決めたのは余りにも被害範囲が広くて、自分たちだけ
では対応できないので、他の通信事業者の支援に回るのが一番
日本での拠点は、新宿に管理部門、営業部門があり、埼玉県
秩父郡小鹿野町に 8 . 1mの Ka バンドのアンテナを構えたメイ
役に立てるだろうという方針です。
我々のサービスは商用サービスで、NICTさん、JAXAさんと異
ンの制御地球局、予備局として南房総市に 8 . 1mの Ka バンド
なり、どちらかというと市町村民の方々に良く使っていただいて
のアンテナを構えた自社の通信センターを持っています。千葉は
いるということです。また、携帯事業者4社の後方支援をしまし
他の通信キャリアの施設内に場所を借りしてロケーションしてい
たので、民間事業者による利用が多かったと思います。
る形ですが、秩父は完全に自社設備です。
IPSTAR 会社概要、事業概要
IPSTARは衛星通信事業者です。日本で現在約 3 0 名の態勢
で事業を行っています。
日本での事業概要は以下のとおりです。
① 2 0 0 9 年 4 月、全国を対象に日本ではじめて個人向け衛星ブ
ロードバンドサービスを開始しました。衛星という利点を生か
し、条件不利地域に住む方も他の地域同等の低廉な料金で
ブロードバンドサービスをご利用いただけます。
〈 図 1 〉会社概要
15
SCATLINE 89
図 2に
「衛星の概要」を示します。
販売利用可能帯域が 1 ∼ 3 % 程度しか残っていないので、今後
ニーズ増えるようでしたら予備ビームの利用を国に相談しながら
進めていきたいと思っています。予備ビームを使えると、上り、下
り合わせて 5 0 0 Mbps ∼ 6 0 0 Mbps 程度、インターネットユー
ザーでしたら3万ユーザー程が使用できる帯域が確保できます。
日本の場合は、北海道の 4 01と関西の 4 0 3 ビームで同じ周
波数を使っています。4 0 2と 4 0 4 でも同じ周波数を使っていま
す。これが隣り合うと周波数の干渉が起こりますが、エリアを
絞って、お互いが重ならないようにし干渉を避け、同じ周波数の
帯域を倍に増やして利用しています。
図 4 は海外のサービスエリアです。
海外のサービスエリアの場合は、小さい丸がスポットビームで
〈図 2〉衛星概要
8 6 本程あります。オレンジ色が Kaバンドのビームが使える所で、
ハブ局の設置が可能なエリアです。小さいスポットの所が Kuバ
ンドになっています。大きな円のある、中国の内陸とインドネシア、
ブロードバンド衛星の定義を考えると、1つは、周波数の利用
効率が良い Kaバンドを使うこと。もう一つは、マルチビーム
(我々
オーストラリアはシェープドビームといい、スポットビームのカバー
はスポットビームと呼んでいます)を使っていることだと思います。
エリアを広げた形になっています。こちらは電力が弱いので、スポッ
日本向けにはスポットビームが4本向いています。最大通信容量
トビームより大きなアンテナを使うことが前提になっています。通
は 1 . 2 mのアンテナを使うと 3 Gbpsですが、8 4cmのアンテナ
常の VSATですと 84㎝とか 1. 2mを使いますが、シェープドビーム
を使うと 2 . 5 Gbpsと 20%程帯域量が減ってしまいます。本土か
を使うときは 2 . 4 m程のアンテナを使うことを想定しています。
青色の地域は、7 本程の放送用ワンウェイの Kuバンドのブロー
ら大きく離れた離島を除いて、日本全域をカバーしています。
図 3 は国内のサービスエリアです。
ドキャストビームを持っています。これは現在タイでしか使っていま
国内の場合、総務省から免許をいただいているのが 4 本のス
せん。日本でも使用したいのですが、衛星通信に割り当てられてい
ポットビームです。関東から東北に向けた 4 0 2 ビームが今回の
ない周波数帯ですので、利用できません。
震災で一番多く使われた帯域です。衛星としては、これと同じエ
図 5に
「サービスの概要」を示します。
リアに予備ビームのトランスポンダーを搭載しているのですが、日
特徴は、通信容量が大きく、14 カ国の数百万人の利用者で支
本ではまだ衛星通信向けに周波数が割り当てられていませんの
えられて成り立っている衛星で、1人当たりのユーザーの料金は
で、予備ビームは使える見込みが立っていません。
安くなるという考え方で、安価な衛星ブロードバンドを実現してい
震災前から既に 8 割程が予約済みでしたが、震災後の需要で、
ることです。
〈図 3 〉サービスエリア(国内)
〈 図 4 〉サービスエリア(海外)
サ ビス概要
〈図 5 〉サービス概要
16
SCATLINE 89
ラーのような周波数の繰り返し利用を行っています。
ネットワークは、制御地球局と衛星、ユーザー機器、VSAT で
構成されています。通常の衛星、通信サービスと異なるのは、制
アンテナのサイズは通常は 1 . 2 mと 8 4 ㎝ですが、今回の震
御地球局、ハブ局をそれぞれの国ごとに設置する形になってい
災後帯域が足りなくなったため、臨機の措置で Ka バンドの周波
て、国内に閉じたネットワーク構成になっています。国をまたぐ場
数を総務省に拡張していただくまでの1週間程の間、1 . 8 mの
合は地上の光ファイバーや海底ケーブルを経由して他の国と接
アンテナを使って北海道ビームで東北のサポートをしました。
サービスの特徴として、次のような強みと弱みがあります。
続します。
制御地球局と衛星の間の通信は Ka バンド、衛星と VSATの
通信は Ku バンドを使っています。Kaと Ku の両方をふんだんに
● 強み
使わせていただいて、衛星通信の割り当てられた周波数を効率
① 南南西の空が見え、電気があれば、高速IP通信が可能
である。
的に利用することによって、帯域をさらに倍に増やしています。
② 初期費用が 3 0 万円、月々数千円からの固定料金で衛星
IP 通信用に開発された衛星であるため、データ、音声、画像、電
経由の高速インターネットを利用できる。
話等、車載、遠隔監視、VPAなど、様々な用途に利用可能です。
③ データだけでなく、音声、画像、動画等にも対応している。
サービス開始当時は、衛星通信はまだ高価なものでしたので、
④ 大容量
(3 Gbps)、パケット交換方式のため輻輳しない。
自社で安いモデムを開発する必要がありました。自社開発モデ
ムを使った最大通信速度は、下り4Mbps、上り2Mbpsです。ま
● 弱み
た、サードパティの SCPC(シングル・チャンネル・パー・キャリア)
① 直径 8 4 ㎝、1. 20 m等、大きなパラボラアンテナが必要
のモデムを使うと、下り最大 10 Mbps ∼ 3 4 Mbps の高速通信
である。
も可能です。日本では SCPC の需要はありませんが、今後お客
② 豪雨時、通信速度低下や、数十分間サービス断が発生す
様からのニーズがあれば利用したいと考えています。
ることがある。
現在までの利用実績は、アジア・太平洋 14 カ国で、累計約
③ 奄美、沖縄、小笠原、伊豆諸島の一部はカバーできてい
2 5 万台の機器を販売しています。残念ながら台湾だけは、小さ
ない。
な国土に人が集中しているのでニーズが見つからず、まだサービ
ス準備中です。
IPSTARは衛星通信の強みである広域性、同報性には向いて
また、IPSTARはバックアップ衛星を持っていません。衛星が
いません。理由は、ビームが分かれているので、同報の場合 4 方
悪くなる確率は1% 以下で、もし悪くなったら他の手段で対策を
向に対して 4 回電波を上げる必要があるからです。既存の通信
とろうということで、バックアップ衛星を持たないことで料金を
衛星に比べると、広域性、同報性は多少犠牲にして、狭いスポッ
下げています。
トでの拠点間の通信を高速化することを強調したネットワーク
構成になっています。
インターネット利用の場合のネットワーク構成は VSATから
東日本大震災での対応
衛星を経由して、秩父にあるハブ局
(ゲートウェイ)に接続し、そ
こからインターネットに入っていく形になっています。周波数帯
は、ゲートウェイと衛星の区間が Ka バンド、衛星と VSATの区
まず、東日本大震災でのサービスの状況を紹介します。
間に Ku バンドを使っています。
リソースの割当状況から見て、上りと下り合わせると、最大時
ゲートウェイのアンテナが 8. 1mで、VSAT 側が 8 4 ㎝または
には 5 0 0 Mbps 程度の通信量がありました。電波帯域は総務
1 . 2 mです。VSATの出力は WINDSに比べるとささやかで、日本
省の臨機の処置で追加割り当てをいただきました。
では1Wを使っています。海外では1Wも必要ない場合は 0 . 2 5
VSATも最大時 5 0 0 台程が利用されました。2 5 0 台程は国
Wを使い、最大でも 2Wまでしか使いません。小出力の BUC
内に在庫がありましたが、途中で足りなくなって、本社から急きょ
輸入しました。
(Block Up Converter)を使うことで、機器料金を下げていま
利用された場所は携帯基地局、避難所、仮設の役場、診療
す。
所、災害対策本部などでしたが、災害対策本部は少なく、主に、
企業の方からゲートウェイ(地上 )
を経由せずに衛星経由で
携帯電話基地局向け中継回線への提供でした。
VSAT − VSAT 間の通信はできないかという質 問を受けます。
IPSTARはベントパイプ方式のみ搭載していますので、一回ゲー
本社では社会的貢献ということで、携帯事業者、慶応の村井
トウェイにデータを折り返して、そこからもう一回 VSATに行くと
先生が行われた震災復興インターネット、シスコシステムズ、日
いう折り返ししかできません。
本マイクロソフト、岩手県立大学研究室など、色々な方たちに通
信機器、回線、設置費用などを寄贈しています。
マスコミの方から、日本の VSATを海外にも持っていって使え
ないかと聞かれます。国内で閉じたネットワーク構成になってい
当社自身でも、若林区の避難所となっていた中学校に VSAT
るので、VSATに搭載されているアドレスが国ごとのゲートウェ
を設置して、パソコンとスカイプのクレジットを 10 万円程準備
イに設定してあります。その VSATを他の国へ持っていっても、
し、NTTの電話が復旧するまでの 1 週間ほど、0 5 0 で電話を
その国のゲートウェイに設定し直す必要があります。また、電波
使ってもらいました。
はそれぞれの国で許認可が必要ですので、日本のものを海外に
図 6は
「東日本大震災での利用事例
(1 / 3 )」です。
持っていくことはできません。
図 7「東日本大震災での利用事例
(2 / 3)
」は地震から多少時
周波数の使い方としては、上りは TDMと TDMAを使ってセル
間が経過した後です。
17
SCATLINE 89
〈図 6 〉東日本大震災での利用事例(1 / 3)
1 石巻市の大原小学校の真ん中にアンテナがあります。
これは携帯電話事業者がフェムトセルを使ってエリア
化しました。通常のフェムトセルは一般の携帯電話が
そのまま使えますが、混 雑するといけないということ
で、アクセスできる携帯電話を指定して、携帯電話貸
出局を使っていました。
2
1
2 トレーラーハウスが暫定の診療所になっていました。
ここでは色々なデータ入力等でインターネットを使っ
たと伺っています。
3 仮役場もインターネット接続に使いました。
4 携帯キャリアの利用エリアを確保するためにアンテ
ナを上に上げようと、この車を使って急遽取った対策
です。2 0 Wの出力で、周り1∼ 2㎞のエリアをカバー
しています。
4
3
●携帯電話 小型 I P 基地局
〈図 8 〉東日本大震災での利用事例( 3 / 3 )
●携帯電話 超小型基地局(フェムトセル)
ランスをとった写真です。鉄塔を立てると 7 ∼ 8㎞のエリアをカ
バーできます。
東日本大震災で当社が経験したことを紹介します。
今回、神戸の時と違うのは携帯電話が普及していたことで
す。携帯電話を支援することができたのは大きかったと思いま
す。震災直後や仮設住宅ができた時に、急遽、携帯基地局のア
ンテナを設置する場合に当社の設備も使われています。電話通
信は0. 6 秒程度の遅延はありますが、会話は十分できますので
利用されています。最初は、電話に利用されましたが、その後は
〈図 7〉東日本大震災での利用事例( 2 / 3 )
データ通信でも使われています。そういうところが IP の良いとこ
ろだと思いました。
インターネット回線を経由して IP 電話、IPファクスも意外に
柱上にアンテナを設置すると、半径1km 前後の範囲で使え
使われていました。
ると聞いています。同時通話が最大 16 通話と約1Mbps のデー
タ通信が可能です。車載局ですが、部材がなかったので仮付け
衛星通信は電気
(発電機 )がないと機能しません。私も被災
で携帯基地局を作っています。下は学校に設置した、フェムトセ
地に発電機を1台だけ持って行ったので助かりました。また、重
ルを使った時の仮置きです。携帯電話の貸し出し活動の一環と
要拠点に VSATを置いていくのですが、1週間もすると、地上系
して使われていました。
が復活するので、撤去する必要があります。我々や NGO の方は
少人数ですので、設備のポータブル化、設置の簡略化が今後の
図8「東日本大震災での利用事例
(3 / 3)
」は、小型の基地局
課題だと思いました。
だけではエリアがカバーできないということで、鉄塔の上や、3 5 m
程の高い場所に当社のアンテナを設置して、山を逃げてクリア
18
SCATLINE 89
震災の後も、9 月の台風 12 号による水害で、近畿でも衛星
まとめ
通信が使われました。ケーブル局のデータセンターが水没した
ため、携帯電話基地局、市役所、出張所、消防本部・分署等で
10 0 台程度利用されたことが当社の情報からも見えています。
今回、災害対応で我々が役に立てたのはあくまでも事後の対
応でしたが、重点拠点には、非常時に備えて少ない経済的負担
最後に、タイも最近洪水が発生しました。洪水なので柱上に
で衛星インターネットを導入していただける仕組みが必要だと思
配線されているケーブルや電源は余り水の影響を受けていない
いました。理想的には事前に設備を設置しておいて震災直後か
のですが、それでも電源が水没して通信が切れている一部の箇
ら使っていただくような、初期費用のみいただいて、使わない限
所を、VSATを使って通信を確保しています。現在、災害対策本
り、月額使用料はかからないサービスの実現を、我々は今検討し
部や水位監視等で利用されていますが、今後は避難所での利用
ています。
が考えられていると本社から情報が入っています。
衛星通信が命を守る、予備、予防として使われることが究極
的な目標だと思いました。
本講演録は、平成 2 3 年 11月 11 日に開催されました、財団主催の
「第 8 5 回テレコム技術情報セミナー」、テーマ「災害時における衛星通信の貢献 」の講
演要旨です。
*掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます。
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東北地方太平洋沖地震後、
電離圏に現れた波紋状の波
−大気の波が高度約300kmまで到達−
津川 卓也(つがわ たくや)
電磁波計測研究所
宇宙環境インフォマティクス研究室 主任研究員
じょうらん
大学院博士課程修了後、日本学術振興会特別研究員
(名古屋大学、マサチューセッツ工科大学)等を経て、2007年、
NICTに入所。電波伝播に障害を与える電離圏擾乱現象の監視・予測・補正に関する研究に従事。博士(理学)。
はじめに
地震後の電離圏観測
きょくたんしがいせん
高さ約60km以上の地球の大気は、太陽からの極端紫外線等
電離圏を突き抜ける電波は、伝播経路上の電子の総数と電
によってその一部が電離され、プラスとマイナスの電気を帯びた
波の周波数に依存して、速度が遅くなります。
この性質を利用し、
粒子から成る電離ガス(プラズマ)となっています。このプラズマ
GPS衛星から送信される周波数の異なる2つの信号から、受信
状態の大気が濃い領域を電離圏と呼びます。この「宇宙の入り
機と衛星を結ぶ経路に沿って積分したTECが測定できます。
口」とも言える電離圏は、高さ300km付近でプラズマの濃さ
(電
TECには、電子密度が最大となる高さ約300kmの電離圏の変
子密度)が最も高く、短波帯の電波を反射したり、人工衛星か
化が強く反映されます。約1,200観測点から成るGEONETの
らの電波を遅らせたりする性質を持ちます。電離圏は、太陽や
データを利用して算出されたTEC変動を図3に示します。このよ
下層大気の活動等の影響を受けて常に変動しており、しばしば
うに稠密なGEONETと視野内にあるすべてのGPS衛星を用い
ちゅう
短波通信や、衛星測位の高度利用、衛星通信等に障害を与え
ることで、高い空間解像度で広範囲に電離圏が観測できます。
ます(図1)。このような電離圏の変動の監視や、その予報につ
図3では、TECの10分以下の短周期変動を示しており、単位
ながる研究を行うため、電磁波計測研究所宇宙環境インフォマ
はTEC Unit(TECU)= 1016個/㎡で表されます。色はTEC変
ティクス研究室では、イオノゾンデ網による電離圏定常観測に
動の振幅を示しており、赤は定常レベルから+0.2TECU、黒は
加え、京都大学、名古屋大学と共同して国土地理院のGPS受
−0.4TECUです(この時刻の背景TECは20∼30TECU)。こ
信機網(以下「GEONET」)を利用した電離圏全電子数(以下
「TEC」)観測を行っています。この観測の中で、2011年3月11
日14時46分に発生した東北地方太平洋沖地震(マグニチュード
9.0)の約7分後から数時間にかけ、震源付近から波紋のように
拡がり電離圏内を伝播する大気波動を捉えました(図2)。
図2●地震後に高度300kmの電離圏まで大気波動が到達したことを示す
現象の概要図
高さ20,000kmを周 回するGPS衛星の 信号を、地 上のGPS受 信 機 網
(GEONET、約1,200観 測点)で受 信し、高さ300km付近の電離圏を
観測します。地震後に、震央付近の海面で励起された大気の波が、高
さ300kmまで到達し、電離圏に波紋を作ったと考えられます。
図1●電波伝播に対する電離圏の影響
20
14:50(JST=日本標準時)
[地震の約3分後]
15:00(JST)
[地震の約13分後]
のTEC観測によると、赤い星印で示した震央(北緯38.322°
、
東経142.369°
、アメリカ地質調査所による)から、約170km南
東にずれた場所(×印)を中心に、地震の約7分後から電離圏
で波が現れ始め、同心円状に広がっていました。私たちは、こ
の同心円の中心を「電離圏震央」と名付けました。この電離圏
震央は、海底津波計等で推定された津波の最初の隆起ポイン
トとほぼ一致していました。同心円状の波は、西日本では18時
00分頃まで観測されていました。
図4は、イオノゾンデを用いた電離圏電子密度の高度分布を
示しています。電離圏は電子密度に応じた周波数の電波を反
15:25(JST)
[地震の約38分後]
射する性質がありますが、イオノゾンデは地上から周波数を変え
15:55(JST)
[地震の約68分後]
ながら上空に電波を発射し、電離圏からのエコーの時間を計測
することにより、電子密度の高度分布を観測します。NICTでは、
国内4箇所(北海道、東京、鹿児島、沖縄)で定常的に観測
を行っています。図4では、鹿児島・山川の地震直後(左図)
と前日同時刻(右図)の電子密度の高度分布を示していますが、
地震直後の高度分布が通常の滑らかな分布とは異なって乱れて
おり、20∼30kmの鉛直波長を持つ波が高さ150∼250kmの
電離圏内を伝播していたことが分かりました。
これらの観測結果から、巨大地震は、地中の波(地震波)
、
海洋の波(津波)だけではなく、大気の波(音波、大気重力波)
図3●GEONETを利用して算出されたTEC変動
を起こし、
その大気の波が電離圏まで到達したと考えられます
(図
TECは単位面積を持つ鉛直の仮想的な柱状領域内の電子の総数で、一般にTEC
Unit(TECU)= 1016個/㎡で表されます。ここでは、10分以下の短周期変動のみを
示しています。色はTEC変動の振幅を示しており、赤は定常レベルから+0.2TECU、
黒は−0.4TECUです(この時刻の背景TECは20∼30TECU)。赤い星印は震央、×
印は電離圏震央を示しています。同心円の補助線は電離圏震央を中心としています。
動画は下記ウェブサイトで閲覧・ダウンロードが可能です。
http://www.seg.nict.go.jp/2011TohokuEarthquake/index_j.html
5)。このような電離圏内の波は、2004年のスマトラ地震や
2010年のチリ地震等、ほかの巨大地震でも観測されています
が、高い分解能かつ広範囲に、現象の起こり始めから伝播過
程までの全体像を詳細に捉えたのは今回が初めてです。
今後の展望
近年、電離圏の変動は、太陽や磁気圏な
ど上方からの影響に加え、対流圏など下層の
中性大気の変動も大きく関わっていることが明
らかになってきました。しかしながら、下層大気
の広範囲かつ高解像度の観測が難しいことも
あり、その電離圏への影響は未だ明らかになっ
図4●鹿児島・山川のイオノゾンデ観測から得られた地震の約43分後(左図)と前日同時刻(右図)のイオノグラム
イオノグラムの横軸は周波数(1∼15MHz)、縦軸は見かけの高さ(0∼600km)で、電離圏に打ち上げた電波の反射(エコー)の様
子を示しています。通常の電離圏エコー(右図)と異なり、見かけの高さ200∼300km(実高度で150∼250km)付近において、電
離圏エコーの乱れが見られました(赤丸部分)。この乱れは、電離圏内に20∼30kmの鉛直構造を持つ波が存在したことを示しています。
ていません。今回の観測は、下層大気の変
動と電離圏の変動の因果関係が比較的はっき
りしているため、両者の関係を明らかにする研
究の貴重な資料になります。また、地震の約
7分後には電離圏で変動が現れ始めることと、
その変動の中心が津波の波源とほぼ一致する
ことから、広域かつ高解像度のリアルタイム
電離圏観測が進めば、宇宙からの津波監視と
いった実利用にも応用できる可能性を示して
います。なお、本研究結果の詳細は、英文
科学誌『Earth, Planets and Space』に5編
の論文として掲載されました。
図5●地震後の大気波動と電離圏変動の発生メカニズム
電離圏で観測された同心円状の波の第一波(約3.5km /秒)は、レイリー波(表面波)で励起された音波によるものと考えられま
す。第二波以降の波は、津波波源(または電離圏震央)の海面で励起された音波が、直上の電離圏下部で起こした大気重力
波によるものと考えられますが、海面で励起された音波及び大気重力波が直接影響した可能性もあります。また、電離圏震央
付近では、地震後に電離圏プラズマ密度の減少(背景に対して20%程度)や、約4分周期のプラズマ密度変動も観測されました。
※共同研究者(敬称略)
NICT: 丸山隆、西岡未知、品川裕之、加藤久雄、
長妻努、村田健史
京都大学: 齊藤昭則、松村充、陳佳宏
名古屋大学: 大塚雄一
*独立行政法人情報通信研究機構発行の情報誌「N I CT NEWS」2011年 12 月号の記事を、筆者および情報通信研究機構の承諾を得て掲載しています。
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