SDGs の最新状況と今後に向けて

第 43 回定例会 議事録
2016 年 9 月 29 日 13:30~16:45
場所:リバティホール 早稲田奉仕園
(〒169-8616
東京都新宿区西早稲田 2-3-1)
SDGs の最新状況と今後に向けて
司会:小俣典之/(特活)横浜 NGO 連絡会
Ⅰ.はじめに (5 分)
13:30~13:35
開会あいさつ
[進行]司会
参加メンバー自己紹介
[進行]司会
Ⅱ.基調講演(30 分)
13:35~14:05
稲場雅紀氏
動く→動かす 事務局長/
「SDGs の最新状況について」
(特活)アフリカ日本協議会 国際保健部門ディレ
クター
Ⅲ.事例発表(50 分)
14:05~14:55
中尾洋三氏
「SDGs を経営戦略に入れ込む 味の素グループの事例」
味の素株式会社
(発表 20 分、質疑応答 5 分)
グローバルコミュニケーション部 PR・CSR グルー
プシニアマネージャー
齋藤 斐子、小泉 優子
「SDGs をどう NGO の活動に取り込んでいくか」
(特活)国際協力 NGO センター(JANIC)
(発表 20 分、質疑応答 5 分)
能力強化グループ/調査提言グループ
休 憩 (10 分)
Ⅳ.ワークショップ (95 分)
15:05~16:40
「2030 年の世界を作る!国連が全会一致で採択した SDGs をゲー 稲村 健夫氏
ムで体験する」
ゲームチェンジラボ 代表
Ⅴ.おわりに(5 分)
16:40~16:45
・メンバーからの報告と事務連絡
[進行]司会
Ⅱ.基調講演
稲場雅紀氏 動く→動かす 事務局長 / SDGs 市民社会ネットワーク 事務局 / (特活)アフリカ日本協議会 国際保
健部門ディレクター
「SDGs の最新状況について」
SDGs 策定から 1 年 何が起こったか?
本日は SDGs について、パブリックセクターで何が起こってきたかを中心にお
話しする。なぜなら、策定の過程で様々なセクターが関わったとはいえ、SDGs は
国連で採択されたものであり、国連といえば基本は「国家政府の集まり」だから
だ。しかし、パブリックセクターでどのような事が起こっているのかを知ることは、
プラベートセクターの皆様にとっても極めて重要なことと言える。パブリックセクタ
ーの動きを意識した上で、SDGs をどのように NGO や企業が取り組んでいけるの
か、その可能性についてお話ししたい。
2030 年に向けた世界の指針「持続可能な開発目標(SDGs)」
SDGs は、「Transforming our world:我々の世界を変革する 持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」が正式な名称
である。17 の目標は、「世界をどのように変革し、持続可能なものにしていくか」と、「どのように貧困をなくしていくのか」
の 2 つの柱に集約される。例えば、シリアで全面戦争が起こり、大量の死者、大量の難民を生み出し、シリアの人々の生
活や命は持続不能な状況にある。こうした背景から、ヨーロッパに大量の難民が流出し、それが引き金となってイギリス
の EU 離脱が起こるなど、様々な問題が発生している。他にも、アメリカ大統領選挙にみるトランプ現象のように、「わが
国は自分のところだけでやっていくのだ」、「グローバリズムはもうたくさんだ!」という意見が世界的にも強くあり、それが
脅威を生み出している。それは、SDGs とは程遠い世界だ。
ハイレベル政治フォーラム(HLPF)という、世界全体で SDGs の進展状況をどのように評価していくか、毎年閣僚レベ
ルで会議を行っている。今年の 7 月にも、22 カ国が自発的に手を挙げ SDGs を自国でどのように実施していくのか報告を
行い、レビューを受けるという非常に重要な会議があった。残念なことに、日本は参加しなかった。では他の国はどうか。
先進国で言えばドイツやスイス、フランスなどが手を挙げ、アジアでは韓国、中国もレビュー国に立候補し、自主的にレビ
ューを受けている。日本は来年出席すると言っているが、それまでに実績をしっかり作らないと、遅れを取ることになる。
これに関しては、NGO も民間セクターも一致協力し、「日本がこれだけ SDGs について頑張っている」ということをアピール
出来るようにしていく必要がある。
今年 9 月の国連総会では、SDGs もひとつの主要テーマとなり、首脳の一般討論演説で SDGs について議論された。
SDGs はまだ 1 年目で、各国も「とりあえずやってみた」というのが実質的なところではあり、例えば難民問題やグローバリ
ズムの行き詰まりなどに対して、しっかり応えられるものになっているかというと、必ずしもそうではないと言わざるを得な
い。一方、実は日本は様々なことを実施している。日本国内においても、「持続不能」が非常に大きな問題になっていると
いうことが根底にある。少子高齢化にみる日本の社会保障や地方経済の疲弊は、まさに日本は持続不能であることを明
確に示している。金融緩和を強化してもインフレ目標を達成できないのは、潜在的成長率が伸びていないという事であり、
これらは現代日本の経済の持続不能性を示している。もう一つは、気候変動における災害多発によって、日本も真っ向
から持続不能に直面している。日本も真剣に SDGs に取り組まなければならない。
2012~15 年:世界が 4 年かけて議論してできた SDGs
SDGs は、途上国の貧困をなくすことを目指す MDGs(ミレニアム開発目標)と、リオ+20 などから始まる持続可能な世
界を目指す 2 つの概念から始まっている。それらを 4 年間かけて様々なプロセスを経て統合し、2015 年 9 月の国連総会
におけるポスト 2015 サミットで、193 ヵ国の首脳が採択し、完成した。17 のゴールは大きく 4 つに分類される。ゴール 1~
6 は「あらゆる貧困をなくす」ため、ゴール 7~11 は「つづく経済をつくる」ため、ゴール 12~15 は「環境を守り育てる」ため、
そしてゴール 16、17 は「ゴール 1~15 を実現する」ための目標である。実はこのゴール 16、17 が非常に重要である。16
は「平和」と略されることが多いが、ターゲットまで読むと、ゴール 1~15 を達成するための効率的で能力の高い行政機
構を作ると明記されている。これは途上国では特に重要になってくる。実施能力が無ければ、何を決めても絵に描いた
餅になってしまうからだ。実施能力のある行政機構を transparent(透明性), accountable(説明責任), democratic(民主
的)なやり方で作る、というのがゴール 16 である。つまり、政治的にどのようにゴール 1~15 までを実現するかがゴール
16 の課題である。ゴール 17 はゴールを達成するための資金をどう調達するのか、モノ・カネの面でどう実現するか、とい
う目標を示している。
総復習 SDGs のトレンドとは?
SDGs は「Transforming our world:我々の世界を変革する」の名の下に、2030 年までに世界の貧困をなくし、持続可能
な世界を作ることを目指すものである。「Leave no one behind:誰ひとり取り残さない」を掲げる意味は、これまでのように
「出来るところからやっていく」だと、取り残される人はますます貧困に陥ってしまう。出来るところからではなく、出来ない
ところからやっていく、というように考え方を逆にしたのである。出来ないところからやることによって、本当に貧困を無くす
ぞという気合を見せている。
SDGs は、下記のコンセプトをもとに成り立っている
・普遍性(途上国だけでなく、先進国も実施)
・包摂性(誰も取り残さない。出来ないところから実施する)
・統合性(縦割りを排し、分野横断的に)
・強靭性(強くしなやか。問題が起きても解決力のあるしなやかさを持つ)
・全員参加型(あらゆるセクターが参加。トップが決定した事にただ従うのではなく、皆の意見を聞いた上で実施する)
SDGs を達成するにあたり、資金の問題がある。今、世界経済は厳しい状況にあり、開発資金が非常に心許ない。
SDGs を読んでわかるのは、実施手段については様々な記載がある一方、どれも細々とした実施手段しかなく、貧困を無
くすと言っているにも関わらず、貧困を無くすための資金の部分には何も言及していない。理想は掲げていても、現実が
追いついていないというのが SDGs の現状があり、これは残念なことでもある。
SDGs=「指標」が未完成
今年の 3 月に国連統計委員会第 47 回セッションがあり、ここで 230 の指標を提案、「枠組み」への合意は出来たが、
決定までには至らなかった。指標を測るためのデータの収集が困難であるもの、国際的に合意された手法が未確立であ
るものが多く残されていたからだ。現状の指標は「TIER1:手法確立、データ入手容易」、「TIER2:手法確立、データ入手
に課題」、「TIER3:国際的に合意された手法未確立」に分けられ、今年 10 月 18 日~21 日にアディスアベバで開催される
IAEG-SDGs(持続可能な開発目標の指標に関する機関間・専門家委員会)第 4 回会合、2017 年 3 月の国連統計委員会
第 48 セッションに持ち込んで決めることになっている。(注:同会議はエチオピアの政治情勢の悪化によって延期された)
指標の議論は専門的で進行が遅いため、注目が薄れがちである。しかし、進捗を評価できるグローバル指標の確定
は「誰も取り残さない」フォローアップ&レビューにとって何より大事である。なぜなら、国・地域での優先課題や指標の形
成にはグローバル指標の存在が不可欠であり、「ルール形成+データ革命」こそがイノベーションと社会的責任の根拠
になる。
今後皆様の持つ様々な技術やイノベーションがどのように評価されるかはこの指標にかかっているため、指標の議論
をしっかりウォッチしておく必要がある。指標の議論も参加型で行われており、「国際的に合意された手法の未確立な指
標に関して、皆さんどういう意見がありますか?」というアンケートが最近専門家委員会によって実施された。そのような
機会を利用して自分達の求める指標になるよう働きかけをせず、何処かで誰かが決めてくれるという他人事の姿勢のま
までは上手くいくはずがない。決まったことに対してどうするかを考えるのではなく、自分も決める側にまわる必要がある。
全員参加型でやっている以上、突っ込んでくる人たちはたくさんいる。そこで負けないよう訴える力が必要である。そのよ
うな意味において、指標の議論にはしっかりと注目をしなければならない。
各国の SDGs に関する取り組み例
スイス、アメリカ、ドイツはそれなりに SDGs が進展しており、彼らを含む 22 カ国が SDGs 第 1 回公式レビューに手を挙
げ、何かしら実施をしている。
・スイス:連邦参事会(内閣)が SDGs を反映した「持続可能な開発戦略 2016-19」を採択。ビュルカルテ連邦参事(外相、
前大統領)は「SDGs がスイスの国内・国際開発戦略に決定的な役割を果たす」と発言。国家としてのコミットメントを表
明。
・アメリカ:SDGs の 17 ゴールにかかわる米国内外のデータを収集・分析。SDGs の進捗をモニタリングすることを掲げ
る「開かれた政府国家行動計画」を施行。
・ドイツ:SDGs 採択直後、スウェーデン、コロンビアなど 9 カ国の首脳と共同で、SDGs の実施にコミットメントすることを
宣言。連邦政府、現行の「持続可能な開発戦略」と SDGs の整合性を点検、新たな「持続可能な開発戦略」を形成中。
途上国や新興国でも SDGs に積極的に取り組んでいる国々がある。実は SDGs を言い出したのは中南米のコロンビア
であり、9 月 28 日に 50 年に渡ったコロンビアの内戦を最終的に終結させる合意が結ばれた。つまりゲリラと政府の和解
が達成されたわけである。コロンビアにおいては、この和解交渉を含め、国のすべての重要政策に SDGs の文脈を入れ、
あらゆることが SDGs を軸に実施されている。例えば和平交渉はゴール 16 の重要な課題として位置づけている。他にも
インドネシアやルワンダなどが積極的に取り組んでいる。
日本では:積極的に動いた市民社会:「SDGs 市民社会ネットワーク」
あらゆる分野の NGO の代表(ジェンダー、障害、ユースなど)が集まり、SDGs 市民社会ネットワークを今年 4 月に立ち
上げた。目的としては、SDGs/2030 アジェンダの達成に向けて、「広範な市民社会のネットワークを作る」「政府・国会等
との対話の窓口になる」「多様性を反映した SDGs 推進体制づくりの触媒となる」を掲げている。
日本では:民間セクターの活発な動き
民間セクターでも、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン、OPEN2030、SHIP(SDGs Holistic Innovation
Platform)、コー円卓会議、各個別企業などが SDGs に関する様々なイニシアチブを立ち上げたり、活動を開始したりして
いる。
日本政府も SDGs 推進本部を設立 SDGs 実施指針の策定へ
日本は G7伊勢志摩サミット開催を前に、内閣総理大臣を本部長とする SDGs 推進本部を 5 月 20 日に設置した。伊勢
志摩サミットを開催する上で、日本が社会貢献で何をやっているのかを示す必要があったからだ。仕組みとしては、全閣
僚が参加する SDGs 推進本部があり、その下に局長や審議官級の幹事会を内閣官房が取りまとめ、さらにその下に省
庁間連絡会議という課長級の各省庁の会議があり、その会議を外務省の地球規模課題審議官が取りまとめる、という
三層構造になっている。
指針策定プロセスと SDGs 推進円卓会議
政府だけで進めるのではなく、多くのステークホルダーを巻き込むべく、9 月 12 日に第一回 SDGs 推進円卓会議が実
施された。円卓会議は、NGO/NPO(3 団体)、国連機関(3)、有識者(3)、労組・消費者団体(3)、民間企業(2)(GCNJ、
経団連)で構成される。今後、12 月の幹事会と推進本部で承認され、ほぼ閣議決定レベルの「SDGs 実施指針」ができる
ことになり、それは 2030 年まで日本政府を拘束する SDGs の方針という事になる。10 月半ばに骨子案が発表され、それ
に対するパブリックコメントが募集される。
現状の課題は、①地方の意見が反映されているかどうか、②8 つの優先課題を作る事になっているが、その課題が本
当に日本で優先的な課題になっているか、③SDGs を日本で進める上で重要な、貧困格差の是正、ジェンダー平等の推
進、地方興しの推進、の 3 点が指針及び優先課題に入っているか、この辺りに市民セクターとしては非常に注目している。
民間セクターにとっては、イノベーションを生み出せるようなシステムが指針の中に書き込まれているかが重要なポイント
になるだろう。ぜひみなさんには、パブリックコメントなどで積極的に意見を言っていただきたい。
Ⅲ.事例発表①
中尾洋三氏 味の素株式会社 グローバルコミュニケーション部 PR・CSR グループシニアマネージャー
「SDGs を経営戦略に入れ込む 味の素グループ事例」
SDGs に取り組むまでの経緯
味の素がグローバルゴールを自社の経営に活用する原点となったのが MDGs
である。2000 年に MDGs が策定されたが、その存在を知ったのは 2009 年に味の
素がグローバルコンパクトに参加した時だった。しかし当時は「国連が決めた開発
目標」という理解で、一般に存在自体が知られていなかったため、MDGs を CSR に
活用しようと思ってもいなかったのが実情である。
その後、ガーナ栄養改善プロジェクトを味の素の 100 周年記念事業としてスター
トすることになったが、その時点でも MDGs を全く意識することなくスタートした。も
ともとは、アミノ酸のリジンの用途開発からビジネスを立ち上げるという目的で始ま
ったもので、乳幼児の離乳食の栄養を改善し、子どもの死亡率減少に貢献するという話は目的ではなかった。
しかし、開発を進め様々なセクターと連携を取り始めると、MDGs の存在が大きいことを知った。日本ではほとんど知ら
れていないが、海外は栄養に関する会議に参加すると、枕詞のように MDGs という言葉が必ず出てきた。また、2010 年
の Scaling Up Nutrition という栄養に関する国連主導のイニシアチブでは、「子ども・妊産婦の栄養問題は、国だけではと
ても達成できない。民間、NGO、アカデミア、いろんなセクターが一緒に取り組まなければいけない。」という話になった。
そうした背景から、MDGs を意識して活用する必要性を感じた。
NGO との連携
プロジェクトを実施するに当たり、研究開発、生産、販売などでいろいろなセクターの協力を得る時にグローバルゴー
ルが共通言語になった。「乳児の栄養問題を改善する」という共通ゴールを伝えることで、他セクターとの連携が組みや
すくなった。お互いが理解している共通な言語があるからこそ、共通の目標設定ができたのだと思う。
初め NGO に連携の話を持って行ったとき、「KOKO Plus(栄養サプリメント)を売る」ことが目的になっていたため、「女
性の生計向上のための販売員のネットワークを作り」を持ちかけた。すると「企業が自分たちのモノを売るために NGO を
使うのではないか」と捉えられてしまい、なかなか話に乗ってもらえなかった。しかし、「乳幼児の栄養を改善し、死亡率を
削減する」という共通のゴールを提案することで、初めて同じの土俵の上で話すことができた。お互い手段は違うが目指
す目的は同じであることが理解できた。
さらに、連携を組むことによって新しいイノベーションの領域をつくることができる。まず事業発想の際に、従来のやり
方だと今までやってきた領域からの発想になってしまうが、連携によって社会課題から入っていくと、イノベーションの領
域を拡大することができる。また、いろいろなセクターと連携し話しをすると、相手が自分たちの持っていない知見を持っ
ていることが分かる。そうして議論をしていく中で「こんなことができるのだ」という気づきが新しいイノベーションを生んで
いく。こうした連携を組むための一つのツールが SDGs である、という使い方を企業は考えるべきである。
SDGs 達成に向けた様々な取り組み
欧米では、WBCSD(持続可能な開発のための経済人会議)などが、SDGs の活用の仕方として「SDG コンパス」を出し
ている。これは、企業がグローバルな課題にただコミットするのではなく、サステナビリティを自社の中心に据え事業戦略
に落とし込む、SDGs をそのためのツールとして活用していくという位置づけだと考えられる。その具体的な事例集として、
SDG industry matrix が用意されており、欧米企業がどのような切り口で SDGs を使っているのか、参考になるのではない
かと思う。
また、SDGs はグローバルな取り組みという印象が強く、国内問題に対してどのように取り組むべきかイメージがつきに
くいが、「SDGs 達成に向けた日本への処方箋」というレポートでは SDGs を日本の文脈で見る方法を提案している。こうし
たものを使いながら、国内の課題についての企業としてのアプローチを考えることができる。
新しい連携の形として、「OPEN2030 PROJECT」という、SDGs のゴール 12「持続可能な消費と生産」をテーマにした取
り組みが立ち上がった。この前身は、フードロスを削減するという取り組みだった。しかし、一企業で取り組むには限界が
あるため、NGO など他セクターと連携するにはどういう枠組みがあるかを模索していた。その時に SDGs が策定されフー
ドロスがテーマとして出てきたため、SDGs を使っていろいろなセクターに声をかけて、広い枠組みで取り組むことでその
効果を大きくすることができるのではないか、という思いから始まった。
業界団体による取り組みとしては、CGF(The Consumer Goods Forum)が立ち上がった。ここでは、食品、トイレタリー
を扱っているメーカー、流通、小売りが集まっていろいろな議論をしている。競争分野は独禁法があるので議論できない
が、サステナビリティの分野に関しては、業界団体が集まることで非常に大きな影響力を発揮することができる。特に最
近は SDGs の具体的なコミットメントなどについて議論しており、フードロスを 2025 年には半減させていくなどのコミットメ
ントを出し、参加企業が積極的に関わっていくことを求めている。当然のことながらこれは経営者が入ってやってくもので
あり、かなりコミットせざるを得ない状況となってきている。
味の素株式会社の取り組み
味の素としては、来年中期経営計画を策定するに当たり、ASV(Ajinomoto Group Shared Value)を中心に考えていく。
これは、経済活動をやりながら、社会的インパクトを創出して競争力を高めていくという考え方である。このとき、社会的
なインパクトを大きくするには、自分たちがやっている延長線上で考えるのではなく、社会がそれを課題と認識しているか
どうか、あるいは世の中の優先順位が高い大きな社会課題に対して事業を通して貢献しているかどうかを考える必要が
ある。大きなインパクトが得られる社会課題とは、SDGs に掲げられているようなものであり、これを使っていくことが社会
価値を最大化し競争力を高めることにつながっていく。
2009 年から、味の素は自社で取り組む重要な社会課題として、健康な生活、食資源、地球持続性の 3 つを掲げている。
これらはグローバルな社会が抱えている問題であり、事業との関わりの中でも重要なものであり、そのほとんどは SDGs
に網羅されている。これらを引き続きやっていくことが大きな社会インパクトにつながる、と説明をしている。
さらに最近、NGO やアカデミア、コンサルタントの方などに送ったアンケートでは、味の素に対して SDGs の 2 番(飢餓
の撲滅)や 12 番(持続可能な生産消費形態)への期待が大きいことが分かった。これらを中期経営計画に反映させ、ビ
ジネスに取り組んでいくつもりである。加えて、マテリアリティマップを使って、3 つの重要な社会課題のさらに個別のテー
マにどう取り組んでいくかを考えていきたい。
最後に、コンサルタントのアトキンソン氏に、SDGs の視点で当社のレポートを見てもらった。その際、次のようなことを
おっしゃっていた。「17 の目標に法的な義務はなく、企業は責任を負っているわけではないが、サステナビリティに間接的
に影響を与えている。欧米のサステナビリティに関する主要アクターは、すでに重要性の高い課題を認識して、アライメ
ントや新たな協働の動きにつなげている。ユニリーバなどは、SDGs を統合したコミュニケーションを始めている。日本で
の SDGs の取り組みは遅れているが、企業経営への統合化に向かって進んでいくだろう。」味の素としても、その動きを
やっていかねばならないと感じている。
企業にとっては、SDGs に正面から取り組んでいくというよりも、SDGs をうまく活用していかに新しいビジネス生み出す
か、あるいは既存ビジネスの社会インパクトを大きくすることによって、いかに競争力を上げていくか、を考えることがポイ
ントであると思う。
≪質疑応答≫
Q. 味の素として SDGs に取り組む上での指標はあるか?
A. 今のところはっきりとしたものはないが、17 のゴールと 169 のターゲットをベースに検討している。また、SDGs に求め
られる要素について、自分たちで解釈した定量的な目標を設定している。しかし、定量化できていないものも多く、それら
は定性的になってしまうと思うが、3 か年のスタートにあたっては、非財務目標を大々的に発表していくつもりだ。
Q. 味の素の経営陣の理解度や、それに対する働きかけについて教えてほしい。
A. 社長は SDGs の理解はある程度あるが、経営者全体への働きかけは正直あまりできていない。これからだと思ってい
る。
Ⅲ.事例発表②
小泉 優子/ 齋藤 斐子(特活)国際協力 NGO センター(JANIC)調査提言グループ/ 能力強化グループ
「SDGs をどう NGO の活動に取り込んでいくか」
JANIC と SDGs
JANIC は「平和で公正で持続可能な世界の実現に貢献する」ことを理念として掲げている。これは、SDGs で言われて
いる、誰も取り残さない持続可能な社会を作る“Leave no one behind” の精神と非常に近いものがあると考えている。そ
のため、今年から始まった 3 か年計画の軸に SDGs を据え、SDGs 達成を目指す社会を作ることを目標に活動していく。
NGO 向け SDGs 推進プロジェクトとは
1. SDGs ガイドライン…NGO の中長期計画に反映させる
2. SDGs 実践研修…既に実施しているプロジェクトに SDGs の視点を取り入れる
SDGs を NGO の中長期計画と各プロジェクトの両方に反映させることにより、SDGs が共通言語となり、他セクターとの
連携を促進させることで、持続可能な社会の実現により近づけていく取り組みである。
この取り組みを進めるにあたり、NGO に対してアンケート(NGO56 団体が回答)を実施している。「現在、貴団体の中長
期計画に SDGs を反映させているか?」という問いに対しては、23%の団体が「既に反映させている」と答え、44%が「今
後反映させたいと考えている」と答えた。つまり、67%の団体が SDGs を中長期計画に反映することに関心があるというこ
とである。また、「SDGs を活用して他セクターとの連携を進めているか?」という問いに対しては、22%の団体が「既に連
携している」と答え、43%が「今後連携したいと考えている」と答え、65%の団体が SDGs を活用した他セクターとの連携
に関心があるという結果が出ている。これらの結果をふまえ、JANIC は NGO 向けにガイドブックや実施研修を進めていこ
うと考えている。
NGO 向け SDGs ガイドブック
作成の背景として、MDGs からの反省をもとにしている。MDGs 時代は、個々の NGO が独自で取り組みを進めており、
その全体的な効果の把握は困難だった。そこで、国際的な枠組みである SDGs を活用することで、日本の国際協力 NGO
の取り組みの測定や、組織強化、アドボカシー能力の向上、事業の方向性の検討につなげていこうと考えた。
SDGs ガイドブックとは、SDGs の NGO アクションガイドであり、組織の経営者・マネジメント層がどのように団体の中長
期計画に統合するか、STEP 別に示したものである。SDG コンパスの NGO 版と思っていただくとわかりやすいだろう。
SDGs ガイドブック:4 つの使い方
1. SDGs を利用し、自分達のミッションや目標を国際的標準に近づけるツール
2. 組織の活動を SDGs で表現する外部へのコミュニケーションツール
3. 内部の教育ツール。評価や効果測定を可能とするモニタリングツール
4. Shared Measurement and Collective Impact
 Shared Measurement…すべてのアクターが共通のインディケーターを使って事業のモニタリング評価がで
きるため、NGO 総体としての効果測定もできる。
 Collective Impact…すべてのアクターが共通のゴール達成のために協力をするということ。国際協力がス
ケールアップしてより大きなインパクトを生み出すことができる。
SDGs ガイドブック:4 つのステップ
STEP1:SDGs を理解する
・SDGs とは何か
・国際協力 NGO が SDGs に取り組むべき理由
STEP2:優先課題を決定する
・各団体の優先課題の所在を明らかにする
・各ゴールの関連性を考慮する
・Goal のみならず Target まで読み込む→各地域特有の目標設定をする
STEP3:組織運営(中長期計画)に反映させる
・持続可能な開発目標を組織に定着させる
・団体の各部署に持続可能な開発目標を組み込む
・他セクターとの連携に取り組む
STEP4:報告とコミュニケーション
・組織の活動を外部向けに SDGs で表現する
団体の取り組みを表現することを容易にする
他ドナーへのアピーリングポイントとなる可能性→助成金など
・SDGs を利用した相互学習:共通言語があることで、異なるセクター間で切磋琢磨して、課題の解決に向けて取
り組める
・日本国内での SDGs 実施について:SDGs は途上国も先進国も一緒に取り組む目標である。各国間で課題を共
有し、一緒に課題を解決していくことにもつなげていきたい。
・アドボカシーにつなげる
SDGs 下における開発効果
資金確保
SDGs 達成のためには毎年 39 億ドルの資金が必要と言われており、ODA ではその数%しか確保できないといわれて
いる。こうした取り組みを行うことで、その資金確保のアドボカシーにつなげていきたい。ガイドブックは 2017 年 3 月に完
成予定。シンポジウムも開催予定である。
SDGs の実践研修
SDGs ガイドブックは NGO の経営層に働きかけるという動きであるが、SDGs 実践研修は、NGO のプロジェクト担当者
を対象に考えている。一言でいうと、現場で SDGs を達成するための実践力をつける研修である。本研修実施の背景とし
ては、SDGs は NGO にとって達成すべき目標であり、日ごろの活動のインパクトを最大化させるチャンスであると考えた
ためだ。国際的な枠組みである SDGs を活用することで、マルチステークホルダーで課題解決に取り組むきっかけにする
ことができる。NGO が SDGs への理解を深め、SDGs 達成のため、既存のプロジェクトにマルチステークホルダーの視点
を具体的に取り入れられるようになることを目指している。
SDGs の実践研修の流れ
1. 座学&ワークショップ
SDGs そのものを理解する。既存のプロジェクトに SDGs 達成に不可欠なマルチステークホルダーの視点をどのよ
うに入れていくか理解する。ワークショップを通して、これからすべきアクションが具体的に可視化された成果物が
できる予定。
2. アドバイザー派遣
ワークショップで学んだことを団体に持ち帰り実践することになるが、受講者の希望に応じてアドバイザーを派遣
する。プロジェクト地に赴きワークショップで学んだことを実施するにあたりどのような課題があるのかヒアリングを
したり、国内事務所に伺いアドバイスをしたりする。
3.
フォローアップ研修
初回の研修から 5~6 か月後に行う。実際にやってみてどうだったかなど、参加者で成功事例や課題を共有す
る。
このような研修を行うことで、既存のプロジェクトに SDGs を達成するために必要な具体的なマルチステークホルダーの
視野が入り、より高い効果を得られると考えている。既存のプロジェクトに SDGs の文脈をプラスするのが、SDGs 実践研
修である。プロジェクトの案件別で、10 年後になりたい姿=グランドデザインを策定する。そして、現状からなりたい姿に
向けてどのようなアクションが必要なのか、5W1H で具体的に考え、可視化する。アクションプランは、誰と何をどのよう
な参加のレベルで行っていくのかまで考えていく。また、グランドデザインでプロジェクトがどのゴールに紐づいているの
かが一目で分かるようにする。今後については、2017 年 1 月に東京、2 月に名古屋で初回の研修を実施予定している。
まとめ
NGO 向け SDGs ガイドブックは、マネジメント層が中期経営計画に SDGs を反映させるためのものであり、SDGs 実践
研修は、プロジェクト担当者が SDGs を達成する実践力をつけるためのものである。これらによって、NGO が SDGs 達成
に貢献すること、そして、SDGs を共通言語としながら様々なセクターが連携・協働することで、2030 年に向けた持続可能
な社会の実現につなげていきたい。
≪質疑応答≫
Q. ガイドブックと実施研修は関連するようになっているのか。
A. 具体的には検討中である。研修は 1 月 2 月に行われるが、フォローアップ研修は 2017 年 6 月以降に行う予定である。
フォローアップの時点でガイドブックが完成している。今後、双方が連携するように考えていく。
Ⅳ.ワークショップ (95 分)
「2030 年の世界を作る!国連が全会一致で採択した SDGs をゲームで体験する」
稲村 健夫氏 ゲームチェンジラボ 代表
ゲームの説明
本日プレイするゲームは、「2030 SDGs」という。2030 年の私たちの世界がどうなっているのかをシュミレーションするゲ
ームである。まず、「人生の目標」が書かれたカードを各グループで一枚ずつ引く(目標にしたいカードを選んでも良い)。
ゲームの成否は、各グループの「人生の目標」を達成できたかどうかで決まる。(例:大いなる富、マスターオブライフ、貧
困撲滅の聖者、観光保護の闘士、人間賛歌の伝道師など)
配布物
下記の 3 つを組み合わせてプロジェクトを成立させる。
・お金
・タイムカード:(2030 年までの有限な時間)
・プロジェクトカード:(人生の目標を達成するために実行するプロジェクト)
ゲームの内容
各グループの「人生の目標」を達成するために、お金やタイムカードを使い、プロジェクトを実行する。プロジェクトの実
行は、世界の現状を表すパラメーターと連動している。
・青:経済のパラメーター
・緑:環境のパラメーター
・黄:社会のパラメーター
実行したプロジェクトの内容によって、青・緑・黄の三つのパラメーターが増えたり減っ
たりする。例えば経済のプロジェクトを実施すると、経済は発展する(青+1)が、環境破
壊が起こる(緑-1)こともある。また、パラメーターが一定の水準にないと実行できないプロジェクトもある。例えば、「教
育の無償化」プロジェクトは、経済のパラメーターが 3 以上でないと実施できない。パラメーターはプロジェクトの遂行によ
って変化し、それが世界の現状を表している。
グループ間で交渉も可能であるため、お金と時間、時間とプロジェクトカードなどを交換することも可能である。
行動タイム(前半)と中間発表
行動タイム:各グループの「人生の目標」を達成するために、お金やタイムカードを使い、プロジェクトを実行する。
各グループの目標:半分ほどのグループが達成。
世界のパラメーター中間発表:壊滅的に悪くはないが、かなり努力が必要。
◆青(経済):14 ・・・GDP で見ると、経済絶好調。
◆緑(環境):7
・・・ CO2 が増え止まったという段階。2030 年までにもう一歩改善が必要。
◆黄(社会):6
・・・格差が広がっている地域がある。貧富の差、富の再配分がうまくいっていない。
そこから社会不安につながる可能性がある。
行動タイム(後半)と最終発表
行動タイム:各グループの「人生の目標」を達成するために、お金やタイムカードを使い、プロジェクトを実行する。
各グループの目標:全グループが達成!
世界のパラメーター最終発表:2030 年、17 のゴール、169 のターゲットも含め、SDGs すべて達成!!(大拍手)

青(経済):14

緑(環境):10

黄(社会):10
まとめ
最後にこのゲームを開発した意図、狙いを紹介したい。ビジネスゲームで上手くいったチームと上手くいかなかったチ
ームがある。上手くいかなかった方が学びが深いように思われるが、現場で体感するのは違う。上手くいかなかったチー
ムに対して、「どうだったか」と聞くと、こちらに攻める意思がなくても、人はそれを「自分たちはどこがいけなかったのか」
と変換される習性があり、元気がなくなってしまう。逆に成功したチームは、「こういう可能性があった」「こういうチャレンジ
も出来たかもしれない」など、ポジティブに、クリエイティブな発想をする傾向があった。
世界で起こっている社会課題というのはあまりにも大きなことで、自分には何もできないのではないかと絶望を感じた
経験がある人も多いと思う。そこで、この社会課題とポジティブアプローチをうまく組み合わせることで、相乗効果を生み
出すことが出来るのではないかと思い、このゲームを開発した。実はこのゲーム、基本的には目標が達成できるように作
られている。ゲームではあるが、「ある条件、ある環境の中で目標を達成する」という、成功体験のイメージトレーニング
になる。なぜゲームでは出来ていて、現実では出来ないのか、自分たちの事業にどう落とし込むといいのか、成功体験
は学びを深めていくパワーになる。課題ばかりではなく、先に成功をイメージして、そこから自分たちは何ができるのかと
いうところに落としていくと、SDGs に掲げられている“社会の変革”が実現できるのではないかと思う。
*2030 SDGs / ゲームチェンジラボ
https://gc-labo.org/games/2030sdgs/
以上