2016 年 ビル・トッテン 講演録 日本はどう動くのか 〜世界の

2016 年 ビル・トッテン 講演録
日本はどう動くのか 〜世界の動向と技術〜
「講演会」にご参加いただきありがとうございました。限られた時間の中で、また日本語での講演のためにお
聞き苦しい点が多々ありましたことを、改めてお詫び申し上げます。
以下に、この講演のために準備した内容をまとめたものです。本稿をもちまして講演録とさせていただきます。
ご一読いただければ幸甚です。
ビル・トッテン
■情報技術の問題
IoT(モノのインターネット)が話題になっているが、私から見ると、IoHT(Internet of Hackable
Things)、インターネットに接続されているモノはすべてハッキングできる、と呼ぶほうがふさわしいと思う。情報技
術は利便性や経済性を提供するが、安全性は十分なのか、ということだ。
例えば飛行機は 1 つの巨大なコンピュータで、パイロットが操縦するのは数分で、ほとんどの任務はコンピュータ
が行っている。そしてそのコンピュータへのハッキングが可能であることを、あるセキュリティ研究家が実際にス
マートフォンを使い、機内エンターテインメントシステムの BUS に接続して飛行操縦システムを短時間乗っ取っ
たという米国の事件が報じられている。
自動車も同様で、昨年、米ワイアード誌の記者が実際にハッカーによる乗っ取りを実証し記事を書き、話題になっ
た。ハッカーが遠隔から車のワイパーを動かしたり、ブレーキが利かないようにすることができるのも、コンピュー
タ化された自動車がインターネットに接続されているからにほかならない。これらは実験にすぎないが、悪意のあ
る人が同じことを行わないという保証はない。
不正な動作を行う意図で作られるマルウェアもオンラインバンキングでは問題となっている。1 つのマルウェアで、
英国では 37 億円、世界で 121 億円もの被害がでたといい、日本にもその脅威は確実に浸透しつつある。不正
送金マルウェアの拡大による被害額は今後も増加の一途を辿ると予測されている。
IoT のもう1つの側面は IoST(Internet of Spying Things)、スパイ、つまり監視がインターネットのビジネスモデ
ルにあるということだ。インターネットで何か検索するとその後もその商品広告が表示されるようになった経験が
あるだろう。ソーシャルメディアやネットショッピングは顧客のデータを集め、それにあわせて広告をうつ。これは顧
客をだましているのではなく利用規約に明確にうたわれている。我々ユーザは無料なもの、便利なものが好きな
ので行動を監視されることを承知してそのサービスを利用しているのだ。IoT を利用する場合はこういったマイナ
ス面を理解しておく必要があると思う。
■自動化が職を奪う
情報技術により我々が直面しているもう 1 つの脅威がある。IoLJ(Internet of Lost Jobs)、インターネットやコン
ピュータ、ロボット、人工知能などによる自動化のために、雇用が失われるという問題だ。10 年から 20 年のうち
に現在の半分の仕事がなくなるという研究結果を、バンク・オブ・アメリカ、イングランド銀行、ボストン・コンサル
ティング・グループ、マッキンゼー、オックスフォード大学などが発表している。日本でも野村総合研究所が 2015
年 12 月に同様の研究結果を発表した。
(http://www.nri.com/Home/jp/news/2015/151202_1.aspx)
これら機関の研究結果で共通しているのは、まだ世にでていない新技術ではなく、既存の技術と想定されるその
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進化によって、10 年から 20 年で 5 割の仕事が自動化されるだろうという。
平成になってから日本の産業は欧米同様空洞化が進んだ。最大の経費である人件費削減のために経営者は
賃金の安い海外に仕事を移転する。これから残る仕事は、特定の場所でなければできないか、対面での交流が
必要な仕事に限定されてくるであろう。残るのは主に、高賃金で知的な仕事と低賃金の単純作業となり、中間的
なルーチン作業は空洞化、そしてコンピュータ、人工知能、ロボットなどに置き換わっていくとみられる。
BBC がオックスフォード大学の研究をもとに作った興味深い Web サイトがある。
(http://www.bbc.com/news/technology-34066941) 366 種類の仕事を分析し、それが自動化される確率を示している。職業を入力すると、自動化される確率が表
示される。例えば公認会計士の仕事は 95%、つまりほとんどが自動化される。図書館司書は 52%、またあまり
自動化されない職種としてプログラマーの自動化される確率は 8%となっている。しかしソフトウェアの自動化も
近年増えているので、私はこの数字は楽観的だと思っている。いずれにしても、今後自動化が進むほど、様々な
職種で必要とされる労働者の数は減ってくるだというとこれらの権威ある機関が発表している。
イギリスの理論物理学者スティーヴン・ホーキング博士は、世の中の脅威は資本家の強欲だと言ったが、私はそ
れは違うと思う。現在の資本主義経済において、企業は生き残るために競争に勝たなければならない。人件費
などの経費を抑えなければ株価が下がる。これは資本家の貪欲ではなく社会がそういうシステムの中で動いて
いるのだ。規制緩和によって弱肉強食の経済体制の中で企業が生き残るためには競争をしなければならない。
資本家が貪欲なのではなく、社会の仕組みがそうなっているのだと思う。
■日本の経済
1988 年は高度成長期の末期であり、また消費税が導入される最後の年だった。1988 年、公的債務は GDP
の 70%だったが、現在は GDP の 2.5 倍、約 1,000 兆円に増えた。日本の経済は 97%が国内消費である。直
接の消費は 80%だが 21%は先行投資であり、先行投資とは需要に応えるための投資なので消費が 80%な
ら 21%の 8 割を加えると 97%が国内消費となる。まずこのことを忘れてはならない。
また日本は輸出経済だといわれているが、輸出額から輸入額を差し引くと輸入のほうが多く、日本はマイナス輸
出国なのである。(https://www.jetro.go.jp/world/japan/stats/stat_01.html)
しかしメディアは輸出中心の国だといい、円安は打撃だと報じる。政府のホームページは誰でも見ることができる
し、政府統計をみれば日本が輸出ではなく国内経済中心の国だということは明白である。
■税制を再考する
もし日本の景気を良くしたいのであれば、高度成長期の税制に戻すべきだと私は思っている。当時、日本の所得
税の最高税率は 75%で、今は 45 %である。同じように相続税も法人税も減税されている。そのかわり消費税
が導入され現在は 8%である。消費税で増えた税収の半分は、同じ時期に減税された所得税、相続税、法人税
の税収に等しい。所得税減税で恩恵を受けたのは主に高額所得者であり、中間層の減税はわずかだった。それ
は、収入のほとんどを消費にまわす人々の税金を上げることであり、日本の消費を抑えることになる。日本政府は
まさにそれを行ったのである。
また規制緩和により、人件費削減の目的で非正規雇用が急激に増えたことも国内消費が減った一因である。
パート、アルバイト、派遣社員の給与は正社員と比べるとずっと少ない。このため非正規雇用の増加で失業率は
減っても消費が増えることはなかった。
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■マイナス金利の目的は?
2016 年 1 月 21 日、日銀の黒田総裁は参議院決算委員会でマイナス金利は導入しないと発言したが、22 日
からスイスのダボス会議に出席し、帰国後の 1 月 29 日、マイナス金利導入を発表した。あたかもダボスでマイナ
ス金利の採用を命令されたかのようである。
マイナス金利はすでに欧州では数ヵ国が導入し、米国も検討中である。民間銀行が日銀の当座預金に預けた時
にこれまで利子をもらっていたのが、金利をとられるというものであり、一般の預金者が銀行に預金すると利子を
とられるのではない。しかし黒田総裁は経済を伸ばすために今はマイナス 0.1%だが、制限を設けることなくさら
にマイナス 1%、2%とすると公言している。実際スイスでは預金者から利子をとっている銀行もあり、いずれ日本
の銀行も預金者に対して利子や手数料を取ることになる可能性は高い。
また、エコノミストや米国の経済誌は盛んにキャッシュレス社会の到来を喧伝している。理由は麻薬密売や犯罪
者が犯罪に現金を使うため、というのがその理由だが実際は違うと思う。マイナス金利を採用した日銀の目的は
経済を活性化する、すなわち民間銀行がもっとお金を貸出し、国民が貯金より消費を増やすことを期待してのこ
とである。しかし人々は金利がマイナスになればお金を銀行からおろしてタンス預金などの形で持つことを選ぶ。
なぜなら今の消費よりも将来のために預金を選んでいるからである。すでに、あるホームセンターではマイナス金
利発表後に金庫の売上げが増えたという。しかしこれではマイナス金利の意味がない。そのため政府は、人々が
現金に切り替えることがないように、現金のない、「キャッシュレス社会」を目指しているのである。
■現金取引禁止
例えばウルグアイは 56 万 5 千円以上の現金取引は禁止、フランスは 12 万 4 千円以上、スペインは 31 万円以
上現金による支払いができないし、欧州では交通機関で現金が使えない国もある。米モルガン銀行では貸金庫
への現金保管ができないようにしており、住宅ローンやクレジットカードなどを現金で返済する場合には上限を
設けるなど、現金の利用が制限され始めている。
■デリバティブ経済
今、米国の店頭デリバティブの総額は 24,860 兆円であり、債券は 6,554 兆円もある。しかし米国で流通してい
る現金はわずか 113 兆円しかない。これが米国の金融システムである。レバレッジを利用したバクチに等しいデ
リバティブがどれほど巨額か、そしていかに危険かということは、日本ではほとんど報道されていないのではない
だろうか。このデリバティブの 96%は、JPモルガン・チェース、シティグループ、バンク・オブ・アメリカ、ゴールドマ
ン・サックスの 4 行が保有している。米国政府はこの4行のために金融政策を行っているとも言える。
■ベイル・アウトからベイル・インへ
これまで金融危機で銀行が危なくなると「ベイル・アウト」、つまり国民の税金で銀行に資本注入が行われた。し
かし 2013 年のキプロスで起きた金融危機から「ベイル・イン」という方法がとられるようになった。ベイル・インと
いうのは、銀行が不良債権により破綻しそうになれば預金者のお金を投入して銀行を助けるスキームである。
2010 年に米国ではドッド・フランク法という法律が施行され、金融機関が危なくなったら一番優先的に保護さ
れる対象がデリバティブになった。今日本では預金は 1 千万円までが保護されているという。しかしこれは約束
にすぎない。現にイギリスでは昨年、一方的に政府が保護金の減額を国民に通達している。
■まとめ
1. インターネットの問題は国民にはどうすることもできない。ハッキングやスパイを危ないと思っても何もで
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きないのが現状である。例えば食品衛生に関して様々な法律があるように、インターネットに関しても政
府が企業に対し、個人情報を守らなければならないといったような法律を作り、規制を強めていくことが
必要ではないかと思う。例えば中国はインターネットにかなり強い規制をかけている。中国のまねをした
くないという声もあるだろうが、日本が追従する米国はスノーデンが暴露したように CIA や NSA を使っ
て国民を総監視し、通話履歴を集め、インターネット関連企業から個人の検索履歴やチャット、メールの
通信記録などを収集しているという事実を忘れてはならないと思う。
2. 自動化によって仕事がなくなる未来の解決策は、政府が国民を雇用することである。採算がとれないた
めに民間企業がやらない、国や国民に有益な仕事を国営で行う。例えば休耕地で失業者を使い農業を
すれば日本の自給率はすぐに上がるだろう。
3. キャッシュレス社会の到来を防ぐために、我々は現金をしつこく使うべきである。私も利便性のために電
子財布を使っていたが、最近はなるべく現金を使うようになった。国民が現金を使っていれば政府が
キャッシュレス社会へ移行しようとしても抵抗が多く、困難になると思う。
日本の経済を回復させるには、高度成長期の税制に戻すことだ。消費税をやめ、所得税の累進率を取
り戻す。日本の消費停滞を復活する最善の策は、所得の大部分を消費に回す人々の可処分所得を増や
すことである。
4. 量的緩和、ゼロ金利政策を 20 年とりつづけ、それでも日本の景気を回復できない日銀を国有化するべ
きである。日銀は民間銀行であり株主構成は政府が 55%、その他の株主は秘密である。もし日銀を国
有化すれば、例えば私が右のポケットのお金を左に移動しても私の経済状況が変わらないように、政府
が作った約 1,000 兆円の公的債務の多くは日銀が買っている。したがって国の借金はあっというまに
なくなるのである。イギリスの中央銀行であるバンク・オブ・イングランドは民間の株式会社だったが、
1946 年に国有化された。日本も米国の属国でなく独立国家ならできるはずだ。そして勇気があれば、
欧米の命令に NO と言い、日本の債務問題を解決することは可能である。
最後に、日本の債務は国民一人当たり 760 万円にもなる。もし政府がこのお金を国民に配布すれば、消費が増
えて経済は元気になり、失われた 25 年は解決するだろう。政府が国民にお金を配って経済を活性化する方法
は「ヘリコプターマネー」とも呼ばれるが、政府が本当に日本経済の回復を望んでいるのなら、これまでの失敗
続きの政策をやめ、新たな試みをする時期にきていると思う。
ビル・トッテン特別資料
http://www.ashisuto.co.jp/corporate/information/bill-totten/document/
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株式会社アシスト 広報部 [email protected]
以上
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