新金属熱処理業ビジョン - 日本金属熱処理工業会

新金属熱処理業ビジョン
平成 27 年 3 月
日本金属熱処理工業会
新金属熱処理業ビジョン 目次
日本金属熱処理工業会
1.会長挨拶
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐1.
2.新金属熱処理業ビジョンの取りまとめについて
(大山委員)‐‐3.
3.新金属熱処理業ビジョン(一覧表)について‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐5.
4.新金属熱処理業ビジョン内容のポイント
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐7.
1)世界で勝てる技術力を持つ
(技術委員会)‐‐7.
2)健全な取引慣行で強靭なサプライチェンを作る
(営業委員会)‐‐9.
3)海外市場を取込み、グローバル企業を目指す
(営業委員会)‐‐11.
4)仕事の幅を広げて付加価値を高める
(営業委員会)‐‐12.
5)魅力的なものづくりの現場で魅力的な人材を育てる(技術委員会)‐‐13.
6)自らの仕事をもっと世の中に発信する
7)環境と省エネルギー
(IT委員会) ‐‐14.
(技術委員会)‐‐15.
5.参考資料(平成 18 年度金属熱処理業ビジョンオリジナル版)‐‐‐‐‐‐ 16.
6.委員名簿及び審議日程 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐17.
新金属熱処理業ビジョンについて
日本金属熱処理工業会
会長 川嵜 修
素形材産業の一角を担う金属熱処理業は、川上産業から川下産業に移る中継
点として、自動車、建設機械、工作機械、家電、精密機器、風力などの発電関
連機器、航空機産業に至るまで幅広い分野で寄与してまいりました。
そんな中で将来の金属熱処理業のあるべき姿を描くために「金属熱処理業ビ
ジョン」が策定されました。しかし平成 20 年の米国の金融危機に端を発したリ
ーマンショックは、素形材産業にも大きな影響を与え、ものづくり分野で優位
に立っていた日本の産業構造を見直さざるを得ず、平成 23 年に「金属熱処理業
ビジョン追補版」を策定しました。
更に平成 23 年には、日本の産業構造を根底から覆すような東日本大震災が起
き、エネルギーの高騰と安定供給不安、グローバル競争力低下等、喫緊の課題
が山積し、それらの問題解決の一助となればと、この度新しい角度から従来の
ビジョンを見直し、「新金属熱処理業ビジョン」を策定いたしました。
今回の新たなビジョンの項目の、1)世界で勝てる技術力を持つ、2)健全
な
取引慣行で強靭なサプライチェーンを作る、3)海外市場を取込み、グローバ
ル企業を目指す、4)仕事の幅を広げて付加価値を高める、5)魅力的なもの
づくりの現場で魅力的な人材を育てる、6)自らの仕事をもっと世の中に発信
する、
7)環境と省エネルギー、の各項目を常設委員会である、技術委員会、営業委
員会、IT 委員会の各委員会で、分担し委員会の中で活発な検討が行われ、全体
の取りまとめを営業委員会にお願いし、ここに「新金属熱処理ビジョン」が取
りまとめられました。
会員企業がこの「新金属熱処理業ビジョン」をヒントにしこの難局を切り開
くことができれば幸いです。
本ビジョン策定に当たりアンケートにご協力いただきました各位に御礼申し
上げるとともに、全体取り纏めをお願いした営業委員会はじめ、技術委員会、IT
委員会の委員の皆さまに、改めて感謝申し上げます。
新金属熱処理業ビジョンの取りまとめにあたって
営 業
委 員
会
委員長 大山照雄
金属熱処理業は自らの製品を持たず、顧客から預かった製品や部品に熱処理加工す
ることで、機械的性質を与える賃加工業であるため、顧客の業績に左右され、景気動
向、顧客業界の業況などの外覧要素に気を配り、ニーズの先取りが必要である。
真空技術やプラズマ技術の活用、コーティング等ではまだ加工技術の発展は期待で
きるが、通常の焼なまし、焼ならし、焼入焼戻し、浸炭焼入れ、窒化、等は基本的な
メカニズムに大きな変化はなく、受注した製品や部品に要求された機械的性質をいか
に効率よく、ムラなく、実現できるかが求められている。
この他エネルギー高騰の折、いかに最小のエネルギーで処理できるか、また、顧客の
設計段階に共同で熱処理プランに参加するか、少量多種への対応は、問題点の解析能
力向上等も顧客のニーズにこたえるには大事な要素となっている。
効率的な物流や納期短縮にも対応が必要であり、川上や川下工程の取込み、工程間
の効率化を図る事も必要である。
又、自動車業界に限らず、地産地消の傾向から生産拠点が海外に移される中、技術
的にもコスト的にもグローバル競争力を持つことで、国内での生産確保をあるいは海
外進出してもローカル企業と戦えるように、ニッチな分野でもトップを争えるように
体質強化をすることも必要である。
平成 23 年 3 月に「金属熱処理ビジョン・追補版」が策定されたがその直後東日本
大震災が日本を襲いサプライチェーンの途絶、エネルギーの高騰と安定供給不安など
が日本の経済に大きな影響を与え、金属熱処理業においても少なからず打撃があった。
そこで、喫緊の7つの課題を上げ夫々を常設の委員会に分担し委員会の中で検討し新
しい角度から従来ビジョンを見直しとり纏めた。
項目と担当の委員会は次の通り。
技術委員会では、
1)世界で勝てる技術力をもつ。
平成 26 年秋に中部金属熱処理協同組合で実施した欧州視察及び、今後更なる
進化が見込まれるコーティング技術にも言及し、海外の先端 技術の現状と我が
国の金属熱処理業が進むべき道を探る。
5)魅力的なものづくりの現場で魅力的な人材を育てる。
金属熱処理業の根幹は現場の技能レベルの向上と維持である。
組合で行っている層別の人材育成事業、国家試験である技能検定試験への受検
サポート体制、作業環境の整備、改善により高齢者や女性の受け入れに努め、少
子高齢化に対応している現状を記述。
7)環境と省エネルギー。
エネルギー多消費型の金属熱処理業にとって省エネルギー活動は不可欠であ
り、平成 23 年の東日本大震災以降の原発停止による、火力発電依存の為、電力
料金のみならず、都市ガスを始めガス料金の高騰を招いており、更なる省エネを
が求められる。また作業環境、周辺環境への負荷軽減も欠かせない。
営業委員会では、
2)健全な取引慣行で強靭なサプライチェーンを作る。
経済産業省・素形材産業室では以前より適正取引実現のために素形材 産業取
引ガイドラインの策定及び見直しを行っており、金属熱処理業においてもそれに
沿った周知活動を行ってきた。
中でも有償支給制度の改善、エネルギーコスト高騰に対する、適正な価格転嫁
など、不利な取引条件の押し付けを受けやすい取引環境であるため、それを排除
し適正な取引慣行の実現を目指す。
3)海外市場を取込み、グローバル企業を目指す。
金属熱処理業は基本的には国内限定の取引となるため、日本にいて、海外需要
を取込むには限界がある。そのために熱処理ニーズのある現場に事業展開をする
必要がある。海外進出状況と今後の方向を示す。
4)仕事の幅を広げて付加価値を高める。
仕事の幅を広げる一環として川上産業、川下産業との異業種連携、同業者相互
支援で得意な熱処理工程の活用、航空宇宙、医療、エネルギー、ロボットなどの
新規分野への参入に会員企業は積極的に取組み等を紹介する。
IT委員会では、
6)自らの仕事をもっと世の中に発信する。
もっと、一般の方にも金属熱処理を知って頂くために、平成 25 年度に日本金
属熱処理工業会のパンフレットを作製したが、その改訂版作成を、またHPの拡
充によって金属熱処理分野以外の人への関心を持って貰えるようにする。
新金属熱処理業ビジョン(2014年見直し)
金属熱処理業ビジョン追補版(H23年3月)
1 技術・技能を生かした攻めの経営
◎技術・技能を正確に評価し、収益につなげる
◎自社にとって必要な技術・技能の認識
◎自社技術のアピール、受注を得る仕組み
◎提案型ビジネスの構築
2 健全な取引慣行で共存共栄
◎高付加価値化、ユーザーコストダウンの抑制
◎ユーザーの適正な支払い、知的財産、
ノウハウの保管
主なフォローアップの活動
適正取引ガイドラインベストプラクテイス策定
(H20年7月)
有償支給取引制度の実態調査(H21年8月)
有償支給取引制度の実態調査取引改善
◎政府のガイドライン作成
ベスト回答集(H22年10月)
◎ユーザーと共存共栄のできる価格決定
エネルギー及び副資材等のコスト増に対する
(環境コストへの配慮をお願いするとともに、情勢の変化 お願い(H24年7月)
などには双方とも十分に協議、納得して価格変更を行う) 同上 (H25年8月)
3 産業集積を活用した競争力強化
◎産業集積のメリットの活用(ブランド力)
◎同業/異種、他の企業、研究機関などとの
ネットワーク
◎産業の実態を的確に把握し、政策に反映
4 海外で儲ける仕組み
◎海外の素形材産業の能力把握
◎分業体制の構築
◎情報収集、情報提供(政府、団体)
◎技術流出防止、海外に出すものの整理
金属熱処理業におけるアジア進出の現況と
◎中小企業なりの海外進出方法をさがす
今後の課題(H24年3月)
海外進出実態調査(H23年度、H24年度実施)
5 同業/異種との積極的な連携
◎生産技術、ITの革新、グローバル化
◎企業間連携、企業のグループ化
◎同業/異種との連携、M&A
6 これからの成長産業への供給
◎自社技術を高める(新加工法、新素材技術)
◎次世代自動車の普及による新部品に対応
した熱処理方法の開発
◎航空機、ロボット、医療福祉など新産業への参入
◎環境・エネルギーなどの関連産業への参入
◎川上・川下との連携、産官学連携
7 息の長い人材の確保・育成
◎大学における金属系学科の存立と充実
各組合による層別の教育プログラム
◎産官学連携による素形材エンジニアの育成
入門編
◎大学・工業専門学校へ熱処理の重要性をPRし、
初級編
就職を促す
中級編
◎航空機・環境など、新たな産業が立ち上がる事
中核人材育成(熱処理マイスター)
により、それらに対応できる人材が求められる
8 素形材産業に国民の目を向かせるために
◎社会的認知度の向上(イベント)
◎素形材産業自身の取り組み、発信
工業会 パンフレット作成(H25年7月)
9 環境と省エネルギー
◎廃熱利用やリサイクルなどの環境対策
金属熱処理業にための省エネマニュアルと
◎地域社会との共生
と改善例(H25年3月)
◎省エネルギー型生産設備への転換
◎各設備にエネルギー測定装置を付け、
消費量がいつでも解るように監視
◎廃棄物の出ない生産工程の構築
新素形材産業ビジョン(H25年3月
1 世界で勝てる技術力を持つ
① 中小企業の多い素形材企業の競争力の源泉は技術力
である。絶えず技術革新を続け技術力を差別化し、
グローバル戦争をを勝ち抜く
② 技能に偏重したものづくりから、IT(情報技術)等を積極
的に活用した、技術に立脚したものづくりに変革する
③ 技術は自らを差別化する素形材産業の「魂」。
流出対策を徹底し、技術情報の管理体制を整備する。
4健全な取引慣行で強靭なサプライチェーンを作る
① 健全な取引慣行の確保は、これが資源の最適配分を
実現し我が国素形材産業の健全な発展と競争力強化
に貢献し強靭なサプライチェーンを構築する上で極めて
重要であることを、ユーザー企業を含めた関係者が
共通認識を持つ
② ユーザー企業及び素形材企業が各種の取引ガイド
ラインの内容を社内で周知徹底する。不健全な取引
慣行の排除に向けたベストプラクテイスを素形材業界
で情報共有する
6 海外市場を取り込み「グローバル企業」を目指す
① 国内にしっかりとしたものづくりの現場を維持した上で、旺盛
な海外需要の確保を目指した海外展開を行う。
② 目立たない製品に特化しつつも、自社の定める製品市場に
おいて、グローバルに活躍できる素形材企業(グローバル・
ニッチトップ企業)を目指すめき。
2仕事の幅を広げて付加価値を高める
① 単工程の下請企業形態から脱するため、前工程や後工程を
内製化していくことで、自らが出来る仕事の幅を広げ、生み
出す付加価値を高めていく。また対応できる仕事の幅を広げ
ることによって、素形材企業に対する提案力や営業力などの
工場を目指す。
② 素形材産業は自動車産業に多くを依存。今後も自動車産業は
極めて重要なユーザー産業であるが、航空宇宙分野、医療
分野、環境エネルギー分野など素形材部品を使う他の産業
分野に対しても新たな需要の獲得を行う。
3魅力的なものづくりの現場で、魅力的な人材を育てる
① 素形材産業において優秀な人材を確保するには、まずは
職場環境を整備することが重要。3Kとされる工程は徹底的
に自動化・省人化することによって、情勢を含めた幅広い
人材を確保・育成する。
② 素経済分野のエンジニア人材や技能者を育成するためには
OJTのみならず、企業外部の人材育成リソース(産学共同の
技術開発を通じた人材育成、業界全体の人材育成プログラム
、国家技能検定制度等)を活用する。
③ 営業人材やマネジメント人材の確保・育成も不可欠。即戦力
として、大企業OBや外国人の活用も重要。
5.自らの仕事をもっと世の中に発信する。
① 社会的認知度の工場(イベント)
② 素形材産業自身の取り組み、発信
2014年
追補版に新たに加わった事項
差別化を図ることでビジネス
チャンスを拡げる
エネルギー等のコスト高騰
への対応
取引契約の実態把握
6.で言及
海外展開のフォローアップ
1.6.で言及
追補版を踏襲
取り組むべき課題?
グローバル競争に勝ち
抜く方策は?
担当組織
技術委員会
エネルギー等のコスト増
への適正な価格転嫁?
新・素形材取引ガイドライン
及び自動車取引ガイドライン
の周知徹底?
基本取引契約書の
フォーマット策定必要か?
営業委員会
海外進出状況のフォローアップ 営業委員会
仕事の幅を拡げる工夫?
営業委員会
新分野への参入のフォローアップ
職場環境の整備と人材確保
職場環境の実態把握
産業別高齢者雇用推進事業 への取り組みで実態把握
外部の人材育成リソースの活用 技能検定・要素試験見直し 要素試験変更の影響を見定め 技術委員会
あるべき姿を取り戻すべきか 営業人材及びマネジメント
人材の確保育成
追補版を踏襲
工業会パンフレットの
IT委員会
フォローアップするべきか? 更なる省エネを目指すか?
技術委員会
新金属熱処理業ビジョン内容のポイント
1)世界で勝てる技術力をもつ(技術委員会・栗山委員・池永委員)
①世界を知ること
(栗山委員)
まずは世界で勝てるためには世界を知る必要がある。
そのためには文献・展示会・セミナー等での情報収集の他、経産省主催の海外ミッシ
ョン、等で直に見聞きすることが大事である。
中部金属熱処理協同組合では数年来海外視察を重ねており、平成 26 年 10 月には
ドイツの熱処理業者、熱処理設備業者4社を視察したが、その一端を以下に述べる。
Hauzer 社においてはコーテイングの前洗浄技術の改善で品質向上を。
Ipsen 社、においては北米、欧州、中南米向けに 30 基程を同時に製造し、冷却技術の
工夫による性能向上を、
Reese Bochum 社においては納期やコストにあった柔軟な処理方法、
SMS
Elother 社においてはロボットの活用でインライン化を見据えた生産体制の構
築などについて、強い印象を持った。
今回の視察では欧州の熱処理加工業者や熱処理設備業者が日本に比べ、ハード・ソ
フト面で技術レベルが飛びぬけているという印象はなかった。しかし、各社ともにあ
る一面には強い拘りを見せ、そこに注力してレベルを上げ差別化を図っているようだ。
ただ、作業環境についてはかなり 5S が行き届いておりきれいな現場であった。
勤務時間もシフトがしっかり組まれており、始業、終業が時間通りに守られていた。
一方、中部組合での過去に、台湾、ベトナム、インドネシアなど東南アジアにも視
察を行ってきた。その際の印象では日本の最先端技術を望んでいるわけではなく、少
し高い技術や技能をリーズナブルなコストで取り入れたいとする姿勢もあった。
つまり現地のニーズをしっかり把握しそれに見合ったハードやソフトを提供し、時代
の変化と共に提供する内容に変化を持たせる必要がある。
②コーテイング技術
(池永委員)
コーテイング技術は欧州勢が先を行っており、これについて別記したい。
ヨーロッパにおける表面改質処理技術(熱処理を含む)の中で特筆することは、コー
テイング技術のレベルが高いことである。環境規制が厳しいヨーロッパでは鍍金に代
替としてドライコーテイング技術が進んでいる。
窒化技術も同様であり、環境に配慮したプラズマ窒化(イオン窒化も多く採用され
ている。これによって、ヨーロッパ圏のコーテイングメーカー、ハウザー社、エリコ
ンバルザース社がソフト及びハード共に世界的なシェアを持っている。
ヨーロッパ圏のコーテイングメーカーのソフト開発の強みは、ユーザーのニーズを把
握し、研究開発とタイアップして実験データの蓄積を行っていることである。
コーテイングに関する論文も圧倒的にヨーロッパ圏の物が多いことがそれを物語っ
ている。これによって、様々な知見からコーテイングに関する開発が進められ、開発
スピードも速いことが特徴である。
日本におけるコーテイング技術については、品質については世界レベルの技術では
あるが、ソフト開発に関してはヨーロッパ圏の技術と比較して一歩遅れている。
この原因は2つ考えられる。
1つ目は用途開発について、もっと世界的な視野に立ち、また工業製品だけにとどま
らず、幅広い用途を追求すべきである。
2つ目は、ハード(設備)の開発である。
例えば、日本製の2-3倍するヨーロッパ圏のコーテイング設備を導入したとしても
トップランナーになるとは限らない。ヨーロッパ圏でコーテイングに求める品質と
日本のそれとは違いがあるためである。つまり、設備開発の出発点にこのプロセスに
何を求めるのか、生産についての考え方や思想を理解し明確に定めてから行う必要が
ある。逆に海外展開をするためにはそれにマッチしたコーテイング設備の設計でなけ
ればならない。
日本の表面処理技術が世界的に進出していくためには、国内に合わせたものづくり
の思想だけではなく、世界的な思想を理解して行くべきである。
③日本の優位性
日本には欧米にはない活動や文化がある。例えば
・技能検定試験制度=金属熱処理技能士をめざし毎年行う試験制度は、世界的に見ても
日本だけである。この高い熱処理技能を持った作業委員のいつ現
場はそれだけで、高い熱処理品質が実現できる。
・OJT や QC 活動 =これも世界的に見ても日本特有の文化であり、現場において常に
更なる技術・技能の向上を目指す姿勢が日本の優位性で勝る。
・人材育成制度
=組合や企業で行う人材育成事業も世界で勝てる大きな要素になる。
2)健全な取引慣行で強靭なサプライチェーンを作る。
(営業委員会・冨田委員)
①素形材取引ガイドラインについて
経済産業省・素形材産業室では以前より適正取引実現のために素形材 産業取
引ガイドラインの策定及び見直しを行っており、金属熱処理業においてもそれに
沿った周知活動を行ってきた。
平成 26 年 3 月に「素形材産業取引ガイドライン」改訂版が策定されたのを受け、
当工業会では周知徹底の為、東部・中部・西部の各組合で説明会を開催。
当工業会で平成 26 年 8 月に実施したガイドラインフォローアップ調査による
と、改定を行ったことを知っているは 47%、その内容を知っているは 40%、
取引改善のため、
改訂版を活用しているは 10%で周知活動の成果が表れている。
今回の改定版の大きなポイントである、消費税増税の価格転嫁、エネルギー価
格のコスト増の転嫁と、有償支給材の早期決済について重点的に説明した。
取引ガイドライン改訂版のフォローアップ調査によると、殆どが外税取引の為
ほゞ適正に転嫁できた。
②エネルギー価格のコスト増の転嫁について
東日本大震災の影響で、原子力発電所の停止に伴い、電力料金のみならず都市
ガス等全てのエネルギーコストが高騰しており、適正な価格転嫁を進めないと金
属熱処理のみならず日本のものづくりは国内での維持が難しい。
都市ガスの単価は平成 23 年 2 月から平成 26 年 6 月で 49%上昇、電気料金は
同比較で 40%上昇している。そのため、平成 23 年 2 月には売り上げに占めるエ
ネルギー比率は 15%であったが平成 26 年 6 月には 22%と7ポイントも上昇し
ている。
(金属熱処理加工月報による)
そのために工業会として、会長名で顧客向けにお願い書を作成し会員に配布、
また、加工月報によるエネルギー比率の推移を会員に提供し価格転嫁に資料と
して活用して頂いた。
取引ガイドライン改訂版のフォローアップ調査によると、エネルギーコスト増
の価格転嫁については、僅かでも顧客に認めてもらったという件数を含めても全
体の4分の1にとどまっている。転嫁のお願いに際してどんなツールを利用した
かについては、工業会のお願い書を利用した企業が 27%、自社作成資料が 32%、
加工月報資料が 19%、取引ガイドラインが 10%であった。
価格転嫁できる企業数を更に上げるべく、待ちの姿勢ではなく他の提案と複合
したような能動的な提案ができるよう、今後もこの活動を通じて適正な価格転嫁
が実現できるようサポートしたい。そして、それが従業員の給与改善などになっ
て業界自体の活力の源になるよう努力したい。
③金属熱処理業特有の有償支給制度について
工業会の平成 22 年の調査結果によると、35%の会員企業が有償支給買取り制
度を採用していた。
(地区別の採用率 東部 33%、中部 45%、西部 14%)
また本制度の不具合点として、受入数が処理数を上廻り滞留在庫が増え、結果
買掛が売掛を上回る逆鞘が起きること、また在庫が増えた場合には、その保管ス
ペースや在庫管理費などの負担がかかる等の不満があった。
その改善策として支給品の検収月見直し、長期滞留品の処分、在庫管理の簡素
化、有償支給制度そのものの見直し等の申し入れを行いある程度の結果があった。
また、平成 26 年の同取引のアンケート調査によると、24%に減少していた。
(地区別の採用率 東部 30%、中部 40%、西部 8%)
④顧客からの定期的な原価低減要請について
この要請も相変わらず続いており、平成 26 年の同取引アンケート調査でも
17%の会員企業が要請を受けている。平成 26 年末頃からの原油価格下落を材料
にしてユーザーによる、値下げ要求も散見されガイドラインを適切に活用し、
優越的地位の濫用を食い止めていきたい。
また一方的な原価低減も 22%あり、優越的な地位濫用とみられかねない現状
が見受けられる。 改訂版の取引ガイドラインの更なる活用で改善したい。
⑤取引基本契約書
金属熱処理業は受託加工業であるため、顧客の提示する取引契約書にサインす
るという形式が多く、自らの契約書を以て相手にサインを求めることは極めて
少ないが、基本取引契約書を結ぶ際には最低限どんなことに、注意を払わければ
ならないかあくまでも参考として、取引改善の一助として、工業会では基本取引
契約書(雛型)の策定を検討しており、会員企業に参考資料として提示したい。
3)海外市場を取込み、グローバル企業をめざす。(営業委員会・畠中委員)
顧客の 50 数%が輸送機械、30 数%が建機、工作機械等の一般機械であるが、
これら業界は昨今のグローバル価格競争力の影響で生産拠点の海外移転の傾向
が止まらない。従来、熱処理加工を施す部品は日本国内で加工され、組み付けを
する海外拠点に輸出されてきた。これは品質管理の点から海外ローカル企業では
対応できない、また少量の生産では現地に熱処理ラインを設置するメリットがな
い、等の理由であった。しかし、最近ではアセアン地域での生産量も増加し、韓
国系や台湾、香港、などの中華系資本による熱処理会社が増え技術レベルも上が
ってきた。
一方、日本の熱処理企業が国内で培ってきたノウハウが、ユーザーの要請によ
って内容を開示させられ、海外へ流出、転用され現地企業の管理能力が向上し
これらも相俟って、ニーズのある現場に事業展開せざるを得ない状態になった。
経済産業省・素形材産業室で毎年行われている、海外ミッションのレポートで
も東南アジアをはじめとして、現地の企業誘致活動が盛んである。
しかし、平成 26 年 11 月以降の急激な円安の進行で電子機器など一部で国内回
帰の傾向も出てきているが、輸送機器等多くは戻ってこない。
工業会では平成 24 年 3 月「金属熱処理業におけるアジア進出の現況と今後の
課題」策定に取り組み関連のアンケート調査を行った。
その結果会員企業 19 社が 10 か国 49 事業所を展開していることが分かった。
進出先で多いのは、中国の 24 事業所、タイの 9 事業所、アメリカ合衆国の 5
事業所、マレーシアの 4 事業所、ベトナム・台湾の2事業所、インド・韓国・メ
キシコの1事業所であった。
進出企業へのヒアリングで分かったことは、小さく生んで、大きく育てる。
郷に入れば、郷に従え。良いパートナーに巡り合う。というのが、海外進出の
成功する要因であることが解った。
平成 26 年の会員企業に対するフォローアップ調査では、海外進出をそのうち
にと考えている会員が 22%あり、進出検討先はタイ・インドネシアが多かった。
今後も東南アジアを中心に進出が進むものとみられる。
しかし国内に特化したいという会員も 43%あり、国内での市場を堅持する覚
悟を決めている会員もいる。
そんな中で、ニッチな分野で世界的なシェアで存在感を示し、生き残りを図っ
ている会員企業もあり、平成 25 年度に経済産業省が定めた、
「グローバルニッチ
トップ企業 100 選」に認定された会員企業もあり、目指すひとつの姿である。
4)仕事の幅を広げ付加価値を高める。(営業委員会・田村委員)
①前後工程の取込みについて
仕事の幅を広げる一環として製鉄業等の川上産業、輸送機器メーカー等の川
下産業から前後工程を一気通貫で受注することでの顧客の欲しい要求がより把
握でき、ひいては品質向上、物流の効率化、納期短縮、環境負荷軽減、知識の向
上等が期待できる。
特に前後工程の中には素形材産業である、鋳造、鍛造、金型、機械加工、めっき
等との取引があることからそれらとの連携や他団体との情報交換を行い、効率
ニーズの把握、新たな提案、人脈作りが図れるのではないか。
また、同業者相互支援で得意な熱処理工程の活用、量的効果によるコストダウ
ン、設備投資の最適化、等の利点がある。
そのためには日ごろから培った技術や技能に裏付けされた提案力を持ち、又
顧客の設計段階から一緒に参加し競合他社との差別化を図る事が大切である。
②分野でのオンリーワンを目指す
今まで自社で培ってきた技術・技能を体系化し技術的な裏付けを基に確立し、
顧客のニーズを先取りしオンリーワン技術を得ることで仕事の幅を拡げるとと
もにコスト競争力を実現できる。
次の項で述べるような新規分野への参入においても自社の持っているオンリー
ワン技術が問題解決に役立つのではないかと、いつもアンテナを張る必要がある。
そのために、目標を設定しその実現のために、人材や設備への積極的な投資が
欠かせないが、国の補助金制度や支援制度を活用し、又学や官との連携も視野に
入れることも大事である。
③新規分野への参入
また、航空宇宙、医療、エネルギー、ロボットなどの新規分野への参
入に会員企業は積極的に取り組んでおり、徐々に成果が出ている。
平成 26 年度に新規参入分野への進出状況の調査を行った。これによると、
既に取引があるとしている中で、多い分野はロボット、エネルギー、医療、つ
いで航空・宇宙であった。具体的に検討している件数は医療、エネルギー、航空
宇宙、環境の順であった。また、近いうちにとしているのは、環境、ロボット、
エネルギー、次いで航空・宇宙、医療の順であった。
しかしながら、輸送機器や一般機械程のボリュームが無いため、投資に見合う
かの判定が難しい。航空宇宙でいえば、JIS Q 9100、Nadcap 等の認証を受ける
ことでネームバリューを期待する側面もある。
5)魅力的なものづくりの現場で魅力的な人材を育てる。
(技術委員会・秋山委員)
①人材育成について
当業界の現場技術に必要な、熱処理、金属、等の大学や高専での学部・学科
は減少の一途を辿っており現在数えるほどしかない。
そこで当工業会傘下の各地区熱処理組合は、次世代を担う優れた技能を持った
ものづくりマイスターの育成と充実が極めて重要と位置付けている。具体的に
は、技能レベルや経験年数に合わせ、階層別人材育成カリキュラムを構築して
いる。
a.入社間もない新人研修、
b.入社数年までの初級熱処理研修
c.現場経験を積んだ人材に対する中級熱処理研修
d.将来の工場長と期待する人材(マイスター育成)を目的とした中核人材教育
特に大学等と連携した高い熱処理技術レベルや、工場運営までも視野に入れ
た中堅技術者対象の中核人材教育事業は大きな実績を上げている。
熱処理加工は外見で品質が容易に判定しにくいことから、顧客も国家試験の熱
処理の技能検定資格者の多寡が加工業者の技術判定基準の一つとなっている。
平成 25 年度の実績では、熱処理技能検定(1~3 級合計)受験者数が 5,000 名
を超え素形材産業の中でも技能検定資格取得者比率が高い。各地区組合および
会員企業とも技能検定試験への受験を積極的に進めており、そのための講習会
を組合毎に実施し、サポートしている。
②現場の作業環境について
平成 26-27 年度で(独法)高齢・障害・求職雇用支援機構の委託事業であ
る、高齢者雇用推進事業を行っており、その中で、作業環境等をふくめたア
ンケ
ートを実施した。
今後、各地区組合および会員企業は、様々な多様性に適応・対応していく
必要がある。具体的には年齢の多様性(高齢者や障害者雇用)
、グローバル化
による国籍の多様性、性別の多様性(女性の活用)についてである。
これらに対応するためには、社内施設の充実や、重筋労働軽減、騒音軽減、
作業周辺温度の低下のため自動化、設備改善などハード面の環境整備のみな
らず、教育研修の機会や仕事の課題を均等に与えること、また出産・育児と
いったライフイベントについての支援などソフト面の環境整備が重要となっ
てくる。これらは一方に特化してしまうとそれぞれがバランスを失う可能性
を持っている。当工業会では、これら環境を整え、多様化された人材から新
しい技術・技能の蓄積へと発展させるための取組を行っていきたい。
6)自らの仕事をもっと世の中に発信する。(IT委員会・委員各位)
日本の人口は 2010 年に 128 百万人であったが、2040 年には 107 百万人余
と 16%も減少する。一方、働く世代(15~64 歳)も 2010 年の 81 百万人から
2040 年には 58 百万人と 28%も減少する(いずれも内閣府資料)
この著しい人口減少の中で、男性中心であった熱処理現場に、女性やシニア
層の活用が欠かせない。また、人口減少は求人をより困難なものになるため、
もっと、一般の方にも金属熱処理を知って頂き、就業の機会を増やす必要がある。
そのため平成 25 年度に日本金属熱処理工業会のパンフレットを作製した。
対象としては、文系の大学生を対象とし、あまり専門的な表現でなく身の回りの
ものがいかに金属熱処理の工程を経て作られているかを知って頂くというコン
セプトである。今後更に改訂版を造ってより良いものにしていきたい。
金属熱処理業は今までは物流や納期を考慮すると、顧客は周辺地域に限定され、
顧客と太くて短いパイプで繋がっており、細くて遠い糸のようなパイプでは繋が
りにくい業種である。そのため、不特定多数に向けての「自らの仕事をもっと
世の中に発信する」という作業を不得手としてきた。
近年、物流業界の発展は目覚ましく、距離感や納期対応も今までの概念を覆そ
うとしている。このためもっと広範囲に情報を流すことで、ビジネスチャンスが
生まれ、更に金属熱処理業への就業の機会を得られればよいと考える。
そのために、ホームページの見直しを行う。トップページをリニューアルし、
見やすくまた検索機能を整備する。また、会員企業においてもホームページの見
直しをし、ITを今以上に有効活用することで高い競争力を身に着けて欲しい。
7)環境と省エネルギー(技術委員会・坪田委員)
①省エネルギー
エネルギー多消費型の金属熱処理業にとって省エネルギー活動は不可欠で
あるが、平成 23 年の東日本大震災以降の原発停止、火力発電依存の為、電力
料金のみならず、都市ガスを始めガス料金の高騰を招いている。
こんな中、当工業会では平成 25 年 3 月「金属熱処理業のための省エネマニ
ュアルと改善事例」を取り纏め、更なる省エネを進めるべく会員に配布した。
これによると、平成 20 年に省エネ法の改正により、事業者はエネルギー消
費設備管理の強化が求められ、これまでの工場単位のエネルギー管理から、事
業者単位のエネルギー管理への移行が要求されている。
これに伴い事業者には、非生産部門を含めたすべての工場などのエネルギー使
用量及び原単位の把握、エネルギー管理標準の策定と遵守、エネルギー削減実
施の中長期計画、設備投資計画の立案が求められている。
その具体策としては、
a.空気比管理、排熱回収等、燃焼加熱炉の熱損失削減対策
b.照明の省エネ、力率改善等、電力消費削減対策
c.処理時間の短縮、充填率の適正化等、熱処理プロセスによる対策
d.設備の集約、負荷の平準化等、操業合理化による対策
などが上げられ、実際の改善例が披瀝された。
平成 26 年にフォローアップ調査で最近の省エネ活動について聞いてみた。
それによると、照明・空調関係で 37%、電力契約条件見直しが 21%、更なる
省エネ設備に更新が 19%、新電力の採用 9%、高周波電源変更 7%など、更な
る省エネ活動を熱心に行っていることが伺えた。
また、補助金制度を活用するために、常に工場設備の省エネ診断、
工程の見直し、顧客との条件設定改善等を行う必要がある。
②作業環境
洗浄工程に関わる課題として、水質環境基準健康項目のうち、トリクロロエ
チレンの基準値が改定された。また、ジクロロメタンによる健康障害を防止す
るための指針が公表されるなど、洗浄装置、洗浄液の取扱い、洗浄作業の改善
や管理方法を更に強化する必要がある。
また、より安全な洗浄方法や洗浄剤の検討および油冷却に代わる新たな冷却
技術の開発が重要になる。
新金属熱処理ビジョン策定委員名簿及び審議日程
①委員名簿
技術委員会
委員長
早川 浅海
内藤誘機工業株式会社
代表取締役社長
副委員長
渡邊 弘子
富士電子工業株式会社
代表取締役社長
副委員長(代) 竹田 文彦
浅川熱処理株式会社
品質保証部部長
担当委員
栗山 盛伸
株式会社栗山熱処理
代表取締役社長
担当委員
池永
日本電子工業株式会社相模原工場 品質技術課 課長
担当委員
秋山 正稔
高周波熱錬株式会社寒川工場
寒川工場長
担当委員
坪田 輝一
國友熱工株式会社
代表取締役社長
委員長
大山 照雄
株式会社東洋金属熱錬工業所
代表取締役社長
副委員長
鈴木 武造
オリエンタルエンヂニアリング株式会社
取締役加工担当
副委員長
冨田 正徳
株式会社共和熱処理
代表取締役社長
担当委員
畠中喜代治
株式会社東研サーモテック
取締役 営業部長
担当委員
田村 大輔
田村工業株式会社
代表取締役社長
委員長
横山 聡洋
日新化熱工業株式会社
大宮工場長
副委員長
相原 通宏
東伸工業株式会社
代表取締役社長
副委員長
葛村 和正
株式会社ダイネツ
代表取締役会長
薫
営業委員会
IT委員会
②審議日程
技術委員会
第1回
平成 26 年 7 月 3 日(木)
第2回
平成 26 年 10 月 23 日(木)
名鉄グランドホテル
17 名
第3回
平成 27 年 2 月 12 日(木)
メルパルク大阪
17 名
アジュール竹芝
17 名
営業委員会
第1回
平成 26 年 7 月 3 日(木)
アジュール竹芝
15 名
第2回
平成 26 年 10 月 23 日(木)
名鉄グランドホテル
13 名
第3回
平成 27 年 2 月 12 日(木)
メルパルク大阪
13 名
平成 26 年 7 月 8 日(火)
機械振興会館
7名
IT委員会
第1回
新金属熱処理業ビジョン
発
行 日
平成 27 年 3 月
発
行 所
日本金属熱処理工業会
〒105-0011
東京都港区芝公園 3 丁目 5 番 8 号
機械振興会館 514 号
TEL
03-3431-5420
FAX
03-3431-5398
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