Windows 10 のアップグレードは強制になったわけではない ただし

Windows 10 のアップグレードは強制になったわけではない
ただし、Windows 7/8.1 ユーザーは要注意
米 Microsoft は 2 月 1 日(米国時間)、Windows 7/8.1 における「Windows 10 アップ
グレード用の更新プログラム」を、Windows Update における「オプションの更新プログ
ラム」から「推奨される更新プログラム」へと格上げする措置を採った。
これにより、Windows Update で各種アップデートを自動更新に設定している
Windows 7/8.1 のユーザーは、自動的に Windows 10 へのアップグレードを行う更新
プログラムが導入され、OS の移行へと誘導されることになる(Windows 10 のインスト
ール自体はキャンセル可能)。
この背景と問題点、回避策をあらためてまとめよう。
●「推奨される更新プログラム」になるとはどういうことなのか
この方針変更は、2015 年 10 月に米 Microsoft の Windows&デバイス部門(WDG)
を率いるテリー・マイヤーソン氏が公式ブログで予告していたものだ。
まず前提として Windows 7/8.1 を搭載した PC は、2016 年 7 月まで「Windows 10
への無償アップグレード」が無料で行える。既存の PC ユーザーを Windows 10 へ誘
導するために Microsoft が実施した普及策の一環だが、「2015 年 7 月 29 日の提供
開始から 1 年間限定」とのことで、早期の移行を促すのが狙いだ。
なお、Windows Vista 以前のユーザーや企業でボリュームライセンス版を利用する
ユーザーは、Windows 10 への無料アップグレードの対象には含まれていない。また、
Windows 8 のユーザーは「いったん Windows 8.1 にアップグレード」した後に、
Windows 10 への無料アップグレードが可能になっている。
2015 年 10 月の発表時点では、Windows 10 へのアップグレードを行う更新プログラ
ムは、Windows 7/8.1 において「オプションの更新プログラム」という扱いだった。多く
のユーザーは、Microsoft が「推奨」している「更新プログラムを自動的にインストール
する」という設定で Windows Update を利用しているだろうが、この場合、Windows 10
へのアップグレードを行う更新プログラムが自動的にインストールされることはない。
ところが今回の方針変更によって、Windows 10 へのアップグレードを行う更新プロ
グラムが「推奨される更新プログラム」へと格上げされたことで、上記の設定をしてい
る場合、Windows Update で自動的にインストールされるようになった。つまり、多くの
Windows 7/8.1 ユーザーは半ば強制的に Windows 10 のアップグレードへと誘導さ
れるようになったと言える。
●Windows 10 のインストールが強制されるわけではない
ただし、Windows 10 へのアップグレードを行う更新プログラムは、導入後すぐに
Windows 10 がインストールされるわけではなく、一度「Windows 10 のインストールを
行うかどうか」を確認するためのウィンドウが表示され、ここで同意した場合のみ、イ
ンストールが開始される手順となる。Windows 10 のインストールが強制されるわけで
はない。
また、仮に Windows 10 のアップグレードインストールが完了してしまっても、31 日以
内であれば、Windows 10 の設定メニューから「アップデートとセキュリティ」→「回復と
Windows 10 のアンインストール」を選択することで、旧 OS の環境にいつでも戻すこと
が可能だ。特に利用中のアプリケーションやハードウェアでアップグレード後にトラブ
ルが発生した場合に有効な手段となる。
ただし、Windows 10 へのアップグレード更新プログラムが出現した時点で、PC 内部
の HDD や SSD には 4〜6GB 程度のインストール用ファイルがバックグラウンドでダ
ウンロードされ、ストレージ容量の少ないマシンでは、残り容量を圧迫してしまう。特に
古いマシンやタブレットを利用しているユーザーにとって、負担となる点は注意した
い。
●Microsoft 非推奨だが、Windows Update の設定で回避可能
現在のところ、これに対する簡単な回避策としては、Windows Update の設定変更が
挙げられる。Microsoft が「非推奨」としている「更新プログラムを確認するが、ダウン
ロードとインストールを行うかどうかは選択する」や「更新プログラムを確認しない」の
オプションを Windows Update で設定すれば、Windows 10 へのアップグレード更新プ
ログラムが自動的にインストールされることはなくなる。
ただし、これらの設定変更をした場合、ユーザーが自ら定期的に手動で Windows
Update から更新プログラムのインストールをすることが必要だ。Windows Update で
は Windows 10 アップグレード関連の更新プログラムが一見分からない形で表示され
ていることも多々あり、内容を確認する手間がかかることは否めない。
もし自動更新を選択しなかった場合、Windows 10 へのアップグレードを行う更新プ
ログラムは「オプションの更新プログラム」として存在し続けるようだが、標準状態で
「インストールを行う」にチェックが入っていることもあり、油断は禁物と言える。
繰り返しになるが、Windows 10 のインストール自体はユーザーの許可なく行われな
いので、基本的にこのままでも大きな問題はない。ただし、タスクトレイの「Windows
10 を入手する(Get Windows 10)」アプリなどから、Windows 10 へのアップグレードを
催促されるのを避けたい、Windows 10 アップグレードの準備でストレージ容量が圧迫
されるのを避けたい、といったユーザーもいることだろう。
複数の海外メディアなどの検証結果から、現状では KB2952664、KB2976978、
KB3021917、KB3035583、KB3112336、KB3112343 が Windows 10 アップグレードに
関連した更新プログラムと言われている(一部は Windows 7 もしくは Windows 8.1 でし
か表示されないものもある)。こうした Windows 10 のアップグレードに関する自動更
新を一切受けたくない場合、Microsoft 非推奨の行為だが、これらの更新プログラム
をアンインストールして Windows を再起動した後、再度ダウンロードしないようにする
設定を行う。
Windows Update で「更新プログラムの確認」→「利用可能なすべての更新プログラ
ムを表示」を選択すると、一覧にアンインストールしたプログラムが表示される。インス
トールしたくないプログラムは、1 つずつ右クリックして「更新プログラムの非表示」に
設定すれば、更新リストに表示されなくなる(ただし、非表示にしたプログラムが何か
のきっかけで復活したり、Windows 10 のアップグレードに関する更新プログラムが今
後この他にも増えたりする可能性はある)。
後日 Windows 10 にアップグレードする際は、Windows Update の「非表示の更新プ
ログラムの再表示」から、非表示にしたプログラムを元に戻せばよい。
これらは「非推奨」の方法ではあるものの、何らかの事情で最新 PC であっても既存
の環境を維持したかったり、あるいは旧式の PC で旧 OS を運用したかったりというニ
ーズはあるため、紹介しておく。
●Microsoft はなぜ Windows 10 への移行を急ぐのか
こうした Windows 10 への強い誘導策について、「まだ Windows 7/8.1 のままでい
たいのに、なぜ Microsoft は嫌がらせのようなことをするのか」という声もネット上では
見かける。確かにかなり強引な手段ではあるものの、Microsoft には Microsoft の事
情があり、その目標に向けて動いているのだ。
Microsoft は過去に「Windows XP のサポート終了」にまつわる騒動でパートナーや
ユーザーを巻き込んで散々苦労した経験があり、その轍を踏まないように新環境へ
ユーザーの移行を急いでいるとみられる。
2016 年 1 月 12 日には Windows 8 と Internet Explorer 旧バージョンのサポートが
終了して話題となったが、その影響はまだ軽微で、企業ユーザーの一部が IE の互換
性問題で苦労しているという状態にとどまっている。
恐らく、今後 1〜2 年以内に顕在化してくるのは、「Windows 7 の延長サポート終了」
だろう。サポート期限である 2020 年まではまだ余裕があるが、Windows XP のサポー
ト期間が終了しても同 OS のシェアが一定数以上を維持している現状を考えれば、今
後 1〜2 年以内に移行のめどをつけたいと考えても不思議ではない。
旧 OS からのユーザーの引き剥がしの取り組みは、この Windows Update での更新
プログラム以外にもみられる。Microsoft は今後登場する新しいアーキテクチャやプロ
セッサを採用した PC、タブレット、スマートフォンにおいて、Windows 10 以外の OS を
サポートしない予定だという。
また、現在市販されている Intel の第 6 世代 Core プロセッサ(Skylake)を搭載した
PC は、Windows 7/8.1 において 2017 年 7 月 17 日まではサポート(つまりアップデ
ートや修正)が提供されるが、これ以降は致命的なセキュリティパッチなど、重要な更
新を除いてアップデートの提供が終了するという。つまり、Windows 7 や Windows 8.1
本来の延長サポート終了を待たずに、新しいアーキテクチャの PC 製品ではこれら旧
OS のサポートが(事実上)終了するので注意が必要だ。
まとめると、Windows 7/8.1 のような旧 OS をユーザーに使い続けられることを防ぐ
のが狙いであり、これを防ぐために Windows 10 へのアップグレード更新プログラムを
(ほぼ)全ユーザーに提供しているわけだ。
しかし前述のように「まだしばらくは旧マシンとその環境で使い続けたい」と考え、
(サポートが終了して)お蔵入りになるその日が来るまで活用したいというユーザーニ
ーズも存在する。これらを切り分けるのは難しいが、後に Windows 7 の延長サポート
終了で混乱を招き、その負担を強いられるのは Microsoft 自身であり、一連の
Windows 10 推進策は批判を受けつつも苦汁の判断なのだろう。
ユーザーとしては、こうした Windows 10 への誘導策を正しく理解したうえで、
Windows Update の設定を見直したり、購入すべき PC のスペックを選んだりする必要
がある。Microsoft の思惑は別として、無料アップグレード期間やサポート期間が継続
しているうちは、PC を自由に使いたいところだ。
[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]