世界雇用情勢 2012 年・女性編 (概要)

世界雇用情勢 2012 年・女性編
(概要)
(労働市場における 5 つの主要な男女格差を分析)
本報告書は、失業、雇用、労働力率、脆弱な不安定雇用および産業・職業上の男
女区分など、女性に不利になる 5 つの主要な格差又は男女間の差異を評価し分析
することにより、労働市場における女性の状況を検証したものである。
(収斂傾向の終わり)
本報告書は、過去10年間にわたる失業、雇用、脆弱な不安定雇用、職業上の男
女の区分を示す経済指標、並びに過去20年間にわたる労働参加への緩慢な動き
を示す人口統計学、および行動指標などの長期的動向から、労働市場における男
女格差を検証している。また、経済指標は、直近5年間の世界金融経済危機との
関連においても検討している。
世界の失業と雇用に関する経済指標を 2002-07 年で見ると、男女格差は収斂の方
向に向かったが、多くの地域において、2008-12 年の経済危機と時期を同じくして
収斂動向は反転した。過去20年という長期で見ると、労働力率の男女格差は
1990 年代に収斂したが、2000 年代には収斂が殆ど見られず、南アジア、中欧及び
東欧といった幾つかの地域では格差はむしろ拡大傾向を示した。経済危機の影響
が大きかった先進国や中欧・東欧地域では、人口動態変化および経済状況に対応
した行動の変化が経済危機に加わり、収斂は逆戻りしたように見える。
2012 年、脆弱性の観点から見た男女格差や男女間の職業区分など、仕事の質に関
する経済指標は大きな男女格差を示している。産業上の職業区分を示す指標では、
男女格差が20年という長期にわたって見られ、先進国・途上国ともに女性はサ
ービス分野に集中していることがわかる。本報告書は、雇用に見られる男女格差
を縮小させることで経済成長と一人当たりの所得を大幅に改善できる、と述べて
いる。
救済策は、男女格差の収斂に取り組まねばならない。さらに、労働市場において
性差に根ざす格差拡大を引き起こす一連の複雑な経済的・人口学的および行動要
因に取り組む必要がある。
世界経済危機
(危機で失われ回復されない 2,900 万の仕事)
本報告書の直接的な背景として、世界金融経済危機がある。2009 年の景気刺激策
が 2011-12 年の景気緊縮策に取って代わられた結果、2012 年に幾つかの国々の
GDP 成長率は二番底に陥った。そして、世界経済危機で失われた 2,900 万の雇用は
回復しなかった。米国の「財政の崖」の脅威と結びついたユーロ圏の経済危機は、
成長の下降リスクを生み出した。ILO は、IMF が 2013 年の世界の GDP 成長率を
3.8%から 3.6%に下方修正したことを受けて、2013 年に 250 万の新たな仕事が失わ
れる可能性がある、との予測を出した。
失業の男女格差
(経済危機以前には一定だった失業の男女格差は、経済危機で拡大)
2002-07 年、女性の失業率は 5.8%で男性の 5.3%と比較して高く、失業の男女格差
は約 0.5%ポイントで推移した。(2007 年、世界の女性被用者 12 億人のうち 7,200
万人が失業、世界の男性被用者 18 億人のうち 9,800 万人が失業) 2012 年、経済
危機でこの男女格差は 0.7%ポイントに拡大し、新たに 1,300 万人の女性の職を奪
い、2017 年まで女性の失業率が大幅に低下する兆候は見えていない。
地域別動向を分析すると、2002-07 年、アフリカ、南アジア、東南アジア、中南米
では女性の失業率が男性より高く、東アジア、中欧・東欧、最近では先進国にお
いては男性の失業率が女性を上回った。経済危機以前、女性の失業率が同時期の
男性失業率を上回っていた地域では、格差は穏やかに収斂していた。男女格差が
あまり見られない地域では失業率の男女格差も小さく、0.5-1%ポイントの間だっ
た。
経済危機は、先進諸国のような危機の前線にあろうと、アジアやアフリカのよう
に前線から離れていようと、全地域を通じて失業の男女格差を悪化させたように
見える。南アジア、東南アジア、アフリカにおいて危機前に見られた男女格差の
収斂は、危機が契機で反転した。先進諸国や中欧・東欧においては、経済危機が
失業の男女格差の縮小を元に戻してしまった。一方、失業の男女格差が大きい中
東や中南米及びカリブ海地域と、格差が縮小した東アジアは、経済危機の影響を
受けないままであった。
雇用(就業者)の男女格差
(世界の雇用の男女格差は、経済危機以前には僅かに縮小したが危機で反転)
2002-2007 年にかけて、世界の対人口就業率に見る男女格差は微かに減少したもの
の、24.6%ポイントで高止まった。2000-2007 年の就業率の格差縮小は、中南米と
カリブ海諸国、先進諸国、アフリカ及び中東において特に大きかった。危機以前
に格差が顕著だったのは、唯一、中欧・東欧であった。危機以前、世界における
就業率の男女格差の縮小は、男性の就業者増加率 1.6%と比較して、それまで低水
準だった女性の就業者の伸び率が 1.8%と歴史的に高かったことによるものであっ
た。これは全地域に当てはまった。
しかし、歴史的に高かった女性の就業者の伸びは、経済危機の間に男性のそれを
0.1%ポイント下回り、2017 年までに以前の趨勢に戻るだろう、という予測は見当
たらない。
経済危機時に起きた就業者の伸び率の反転は、就業率における男女格差が弱いな
がらも収斂に向かっていた趨勢をも反転させ、南アジア、中欧・東欧、中東と東
アジア周辺国の3地域で、男女格差は拡大した。
南アジアは特に謎が多い。危機の大部分の時期に女性の就業者の伸び率は一貫し
てマイナス成長で、対人口比で見て既に大きかった就業率の男女格差を 45.9%から
48.1%ポイントに押し上げた。
南アジアは経済危機で被害を受けた主要地域ではなかったことから、雇用の男女
格差の反転は、人口構成がピラミッド型をした労働市場や労働力率など更に広範
な理由によるものである。
労働力率の男女格差
(労働力率は、過去10年間収斂したが、最近の10年は一定で推移)
労働力率は、雇用と失業の双方の変化に影響される。それは人口動態や行動上の
変化を反映し、特に労働市場における年齢別集団の労働力率の増減に左右される
点が重要である。
世界の労働力率の男女格差は、1990 年代に 27.9%から 26.1%ポイントへと縮小し、
全地域で男性の労働力率は女性のそれより早く低下した。しかし、2002-2012 年の
10 年間、この格差は一定で男女の労働力率は同じように低下した。労働力率低下
の理由で最も重要なのは、若年層の教育、高齢化、「就業意欲を喪失した労働者」
の3つの影響が挙げられる。
(労働力率の格差拡大は、主に東アジア、南アジア及び中欧・東欧で発生)
東アジア、南アジア、中欧・東欧の3地域における、男女間労働力率の大幅な格
差拡大は、労働力率の格差収斂が世界的に停止したことで説明がつく。労働力率
の格差が最大であった南アジアにおいて、女性の労働力率が過去10年間で4%ポ
イント低下したことから、全体で格差は2%ポイント増加した。東アジアと中欧・
東欧では、労働力率の格差はそれぞれ 0.6%ポイント、1.6%ポイント拡大したが、
これは東アジアで女性労働力率が 2.6%ポイント低下したこと、中欧・東欧では男
性の労働力率(2.7%ポイント増)が女性の労働力率(1.1%ポイント増)と比べて大
幅に上昇したことによる。
年齢別では、若い女性の労働力率が全地域で低下したが、成人女性の労働力率は
南アジアと東アジアで、それぞれ 3.7%ポイント、1.9%ポイントの低下に留まった。
(教育水準の向上が成人女性の労働力率を押し上げたが、教育期間の長期化で若
い女性の労働力率は低下)
女性の労働力率には、2つ対照的な動きがある。1 つは、特に途上国において女性
が益々教育を受けるようになり、労働力率の上昇によってより高い生産性と所得
創出の恩恵を十分に享受できるようになったことである。2つ目は成人女性の高
学歴化が進んだことによって若い女性層が教育システムに長期間留まる現象が起
こり若い女性の労働力率の低下傾向を引き起こし、若年層の相対的規模の程度に
もよるが、いくつかの地域では女性の労働力率全体を低下させることとなった。
不安定雇用(脆弱性)の男女格差
(脆弱性の格差は根強く、アフリカとアジアでは未だ大きい)
女性は、男性と比較して、雇用の質の差においても被害を受けている。(賃金及び
給与を受け取る被用者とは対照的に)家族従業員と個人事業主で構成される脆弱
な雇用は、男性より女性の方に多い。2012 年、脆弱性で見た世界の男女格差は
2.3%ポイントであり、脆弱な雇用に占める割合は女性が多い(女性被用者の 50.4%
に対し、男性被用者は 48.1%)。
脆弱性の男女格差は地域により異なり、北アフリカでは 24%ポイント、中東とサハ
ラ以南アフリカでは 15%ポイント、アジア地域では 0-10%ポイントである。先進諸
国では、中欧・東欧、中南米とカリブ海諸国で女性の脆弱な雇用に就く割合が男
性より小さい。カテゴリー別で見ると、男性は個人事業主の割合が多く、女性は
家族従業員の割合が多い。家族従業員に占める女性の割合は高く、個人事業主で
ある男性の割合を上回ることが、脆弱性の男女格差を生む結果となっている。
産業区分による男女格差
(産業上の男女区分は、女性がサービス分野に多く移行することから長期にわた
り増加)
女性は、分野に関わらず、職を選択する際に産業上の制約がある。産業上の男女
区分は長期にわたり増加し、途上国の女性は農業からサービス業へ、先進国の女
性は工業からサービス業への移動が進んでいる。
2012 年、世界では女性の 3 分の 1 が農業、約半数がサービス業、6 分の1が工業
部門で雇用されている。工業部門で働く女性の割合は、多くの女性が農業から直
接サービス業へと移行したために、過去 20 年では微増に留まった。
先進諸国では、工業における女性の雇用は半減し、その 85%以上が主に教育分野と
保健のサービス業へ移動した。
多くの途上国では、工業分野における女性の雇用が 4 分の1を占める東アジアを
例外として、女性は農業からサービス業へ移動した。
職業上の区分による男女格差
(職業上の男女区分は過去10年間不変)
職業上の男女区分は、過去10年間に格差が縮小した証拠はあるものの、ここ 10
年間に収斂は停止し変化は見られない。先進国と途上国双方の場合でも、男性は
技能職、貿易、プラント、機械操作、管理及び立法職に就く割合が多いのに対し、
女性は事務職、サービス職、店員・販売員といった中程度の技能の職業に就く割
合が非常に多い。
経済危機の初期段階において、先進国では、保健や教育分野で働く女性よりも貿
易分野で働く男性が強い影響を受けた。逆に、途上国では、貿易関連分野で働く
女性たちの被害が甚大だった。
男女格差に取り組む政策
(ジェンダー、特に格差に取り組む法整備は進む)
ILO/世界銀行の政策インベントリー・データベースに基づく世界経済危機への対
応策調査によれば、低・中所得 55 カ国中の 39 カ国、および高所得 22 カ国中の 17
カ国が、雇用と労働力率における大きな男女格差に取り組むべく新たな施策を採
用した。諸規定の範囲は、差別、平等及びセクシュアル・ハラスメントに関する
法改正から、税制度、選挙パリティ(男女同一比率)、雇用におけるパリティの変
更に至る。一般的に、経済危機関連のジェンダー政策は各国の所得水準によって
異なる。高所得国の中には、子育て支援を一層重視する国もあれば削減する国も
ある。一方、低・中所得国は失業女性への対策に焦点を当てている。
失業女性に対し、大規模な労働市場政策を提供できる国々、例えばチリでは技能
を持たない女性世帯主を対象に政策を講じたり、南アフリカでは公共事業プログ
ラムの拡大に女性枠を定めたり、トルコでは女性被用者へ補助金を出したり、イ
ンドでは国家農村雇用保障計画を策定したりする措置を採った。
危機の最中は、男女平等を促進するよりも包括的なアプローチを採用した国が何
カ国かあるが、有名なのは 2009 年にオランダが制定した両親休暇の延長、育児ケ
アへのアクセスの向上、自営業女性に対する公的給付の拡大をパッケージにした
クライシス・パクトである。
(各国の事情に合わせた政策が求められる)
女性は、労働市場に参入する際に多くの障壁に直面し続けている。これらの障壁
は女性の労働市場への参入を躊躇させるだけでなく、労働市場において男女格差
の大きい国の経済成長や発展を阻害することにも繋がる。
労働市場における男女格差の複雑さや格差の収斂と分散を説明する一連の複合要
因がある中で、政策勧告は各国の事情に応じて経済的、社会学的、文化的要因と
統合したものでなければならない。
(背景によって相対的重要度が変化する 6 つの一般的な政策手段)
本報告書の最終章は、一般的及び特定の政策措置を論じている。一般政策に関し
ては、脆弱な立場にある女性を減らすための社会的保護施策拡大の必要性、技能
及び教育投資の必要性、および産業と職業を横断した雇用促進政策を論じている。
さらに、最終章では、仕事に関する事項を決定する際に、家庭におけるジェンダ
ーバイアスを減じるために役立つ正しい条件作りに焦点を当てた 6 つの政策ガイ
ドラインを示している:
(a) 主に電気、水、衛生、移動、および学校へのアクセスなど、より良いインフ
ラ整備を通じて家事負担を軽減する。
(b) 女性の労働力率に連動した育児ケア(そしていくつかの国では人口構成から
見て高齢者へのケア)など、ケアサービスを提供することで無償ケア労働の負担
を軽減する。
(c) 主に父親が子育てに関わる割合を増やすプログラムなど、有償労働と無償労
働の性的役割分担のバランスを取る。
(d) 主に税制、共働き家庭を支援するための所得移転など、男女別に特化した施
策を採用することで生じるコストとベネフィットの転換を図る。
(e) 主に有給休暇や元職に復帰する権利を通じて、キャリアを分断することで発
生する負の影響の補償など、性に根ざした不平等な雇用機会を補償する。
(f) 性差に対する固定観念への挑戦、および差別に対する法律を適切に実行する
ための公共キャンペーンを実施する。