ある朝起きると僕は猫だった3つの話。∼今回は写真だけ先に撮って、話は後から作りました∼ 「あらあら、寝ぼすけさんね」妻の声で目が覚めた。 いつもより数倍も大きな妻の手が、僕のアゴをさする。 「ダルちゃんの朝ごはんよ」僕の前に味噌汁ご飯が置かれた。 ダルは5年前からうちで飼い始めたダルそうな顔をした猫だ。 「僕は宏だよ」そう言おうとして、僕は「ニャア」と答えた。 ・・・どうやら僕は猫になってしまったらしい。まぁ良いか。 パタパタと目の前をスリッパで通り過ぎる妻の足。 細い足首と、歳の割に奇麗な踵(かかと)に思わず見とれる。 「さて」と言って、鼻歌交じりに野菜を洗い始める彼女。 水の反射に浮かぶ笑顔。普段はこんなに楽しそうな顔なのか。 「肉は蒸して脂を落して・・・」オイオイ、脂が旨いんだって。 「その分、あの人が大好きなチーズをたっぷり使いましょう」 何気ない一言。でもすごく嬉しかった。チーズは僕の好物だ。 「僕と結婚してくれてありがとう」 そう言おうとしたら、僕の喉がゴロゴロと鳴った。 最近、朝起きると僕は猫になっている確率が高い。 猫の仲間も増え、世間話をするような仲にもなった。 猫って奴は意外と世の中の事を哲学的に考えている。 やれ「人間の出すゴミから始まる新しい生態系」だの 「夏の騒音増加と、ネズミの増加の因果関係」だの。 それに比べて犬は、やたらと自分の事ばかり喋る。 誉めてくれと尻尾を振りながら自慢話ばかり並べる。 猫になって見る我が家は、新鮮で楽しい事ばかりだ。 妻や娘達の新しい一面も発見し、益々愛おしくなる。 夫婦の営みが増えたからか、妻の肌が艶々してきた。 苦労してローンを組み、造り上げた夢のマイホーム。 いつまでもいつまでも、この素晴らしい幸せな時間を 掛け替えのない家族達と。妻と娘達。そしてダル。 ――いつも不思議だったのだが、もしかして 僕が猫になる間はダルが人間になってるのだろうか? この時期は毎年忙しい。セール対応品の卸値の付け替え。 タグの変更から伝票の書き換え。今日も終電で帰宅だ。 満月に照らされた夜道は、馴染みの顔の猫が沢山居る。 茶トラのポコが「お帰り」と鳴いた。 僕は、人間の言葉で「ただいま」と答える。 もうすぐ我が家。あの角を曲がれば家族が待っている。 いつも妻は僕が遅く帰っても、必ず起きて待っている。 仕事で疲れ果てた心と体に冷たいビールが待っている。 もう先に寝てしまった娘達の可愛い寝顔が待っている。 ・・・しかし、角を曲がった先は何も無い空き地だった。 茶トラのポコが、女っ垂らしのジョウに言った 「可愛そうに。また自分が人間になった夢を見てるよ」 夢!?さっきまでアパレルの在庫管理の仕事をしていた。 同僚と交わした会話や、PCのキーボードの感触も夢? 妻や娘達と過ごした夢のマイホーム。本当に夢なのか? 「僕は人間だ!」僕は人間の言葉で叫んだつもりだった。 「うるさい猫だな!」隣の家の男が怒鳴った。 その男は妻にも娘達にも嫌われ、相手にされてない ダルそうな顔をした人間の僕だった。
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