役に立つ乳房MRIの 撮り方と読み方

役に立つ乳房MRIの
撮り方と読み方
秋田大学医学部放射線科
石山公一
第138回磁気共鳴懇話会(京都市)2010/11/10
本日の内容
乳房MRIの撮り方
体位、シーケンス
撮像時期、撮像タイミング
乳房MRIの読み方
乳房MRI撮像のガイドライン
• 欧州
– 2008年 EUSOBI(European Society of Breast
imaging:欧州乳房画像診断学会)のガイドライン
• 米国
– 2008年 ACR(American College of Radiology)
診療ガイドライン改訂版
• 日本
– 2008年 日本磁気共鳴医学会
「ルーチンMRI撮像の標準化検討」
撮像プロトコルを決めるにあたって
• 撮像体位
• 撮像方向
T1強調や
腹臥位?
矢状断?
両側撮像?
T2強調,
それとも
水平断?
それとも
拡散強調は
仰臥位?
冠状断?
片側撮像?
必要?
• 撮像シーケンス
撮像体位
• 乳房コイルを持っているか
–乳房コイル(+) ⇒ 腹臥位
–乳房コイル(-) ⇒ 仰臥位
• 手術体位と同一に撮るかどうか
– 外科医の必要性による
体位
• 腹臥位撮像の利点
– 乳腺が伸展する ⇒乳管内成分の描出向上
– 体動が少ない
– 信号雑音比(SNR)が良い
– 両側同時高分解能撮像ができる
• 弱点
– 手術体位との乖離
体位
仰臥位撮像は
両側乳房を同時
• 仰臥位撮像の利点
に高分解撮像
– 手術体位と一致し、シミュレーションが可能
できないのが
欠点です
• 弱点
– 乳房の変形(大きい乳房)
– 専用コイルがない(工夫が必要)
– 呼吸による動きのアーチファクト
– 両側同時高分解撮像が難しい
EUSOBIのガイドライン
• 撮像装置,コイル,体位
– 1.5T以上推奨
– 乳腺専用コイル,腹臥位
• 撮像法
– 造影が必須
– 両側乳腺を同時撮像
• 左右の比較読影が可能
• 対側乳癌の発見(3-5%程度)
– スライス厚2.5mm以下
以下(米国:3mm以下)
以下
– ピクセルサイズ1×1mm以下
• 撮像方向は?
– 矢状断
• 両側撮像の場合、枚数・時間が多くなってしまう
• 左右の比較読影がしにくい
• マンモグラフィ(MLO・ML撮影)と比較しやすい
– 冠状断
• 横方向の広がり範囲が把握しやすい
• 乳管に沿う広がりや胸筋との関係が分かりにくい
– 軸位断
• 乳管に沿う広がりが把握しやすい
• マンモグラフィ(CC撮影)と比較しやすい
乳房MRIで撮像されるシーケンス
•
•
•
•
造影前T1強調画像
T2強調画像
造影後T1強調画像(ダイナミック撮像)
拡散強調画像
• 造影前T1強調(脂肪抑制併用なし)
– 内部の脂肪の評価が可能(過誤腫、乳房内リンパ節)
– 脂肪性乳房では辺縁の評価がしやすい
撮像しておくと,有用なことがたまにある
• 造影前T1強調(脂肪抑制)
– 血性乳汁分泌を伴うと乳管構造が高信号
充実腺管癌
• T2強調
– 組織型の推定に有用
• 高信号⇒浮腫、壊死を反映
• 低信号⇒線維成分を反映
– 嚢胞性病変の評価に有用
• 嚢胞性腫瘍
• 粘液癌
• 変性を伴う線維腺腫
嚢胞
嚢胞
硬癌
粘液癌
• ダイナミック撮影⇒必須!
– Pre、早期相、遅延相の最低3回同じ撮り方
– 脂肪抑制(and/or subtraction)
–2分(3分)以内の早期相
• 乳がんの造影ピーク(1~2分の間)をとらえる
• 1回の撮像時間は60秒~120秒
拡散強調画像(DWI)
• 利点
– コントラストが高い
– 癌の感度が高い
• 浸潤癌100%,非浸潤癌80-90%
• 弱点
– 空間分解能が低い
– 小さい乳管内成分は描出困難
拡散強調は必要か?
• ガイドラインでは推奨シーケンスでない
– 検査時間を短くしたい場合は省略可
• DWIを追加する利点
– 病変のピックアップが容易
• 見逃しが減り、読影が楽になる
– 良悪性鑑別の参考(信号、ADC値)
b値の設定
b=800
– b値 ~800
• がんも見えるが正常乳腺や
良性病変も見える.
– b値 1000~
• 背景乳腺が抑制される
• がんが良く見える
b=1500
b=800
b=1500
high b valueで高信号の病変が癌の候補
ただし、high b valueでも高信号になる良性病変は
ときどき経験する
乳房MRIの撮り方 ―まとめ―
• ダイナミック
– 両側同時撮像!
– 造影剤注入後2分以内に撮像する
– 撮像時間60秒~120秒
– 2.5mmスライス以下,1mmピクセルサイズ
• T2強調も撮像すべき
• 拡散強調は拾い上げに有用
– 余裕があるなら複数のb値で
本日の内容
乳房MRIの撮り方
体位、シーケンス
撮像時期、撮像タイミング
乳房MRIの読み方
EUSOBIのガイドライン
• 至適撮像時期
–月経周期開始後5日目~12日目
月経後半の分泌期に乳管、小葉が増生するため
正常乳腺の染まりが強くなる
ガイドラインの元になっている文献
① Kuhl CK, et al. Radiology 1997
乳腺の染まりは月経2週<3週<4週=1週の順
月経7~13日に施行すべき
② Muller-Schimpfle M, et al. Radiology 1997
乳腺の染まりは月経7~20日に弱い
③ Delille JP, et al. Breast J. 2005
月経周期3~14日に施行すべき
① Dr.Kuhlの報告
• 対象:20人の健常ボランティア(21~41歳)
乳腺の染まりの
早さ(強さ)は
月経2週が弱く
次いで3週
「月経2週以内、できれば7日~13日に撮像すべき」
② Dr.Muller-Schimpfleの報告
• 対象:103人の患者(27~55歳)
乳腺の
染まりは
月経7-20日
に弱い
「月経周期7日~20日に撮像すべき」
③ Dr.Delilleの報告
• 対象:対側乳房が正常の50人(30-52歳)
EFP:Extraction Flow Product(単位時間・体重当たりの血流量を反映)
月経3~14日に
撮像すべき
月経周期の文献まとめ
報告によりばらつきあり
– Dr.Kuhl
– Dr.Muller
– Dr.Delille
月経7~13日
月経7~20日
月経3~14日
⇒ 間をとって月経5日~12日にした?
広く解釈すれば月経3~20日もOK?
最低限、第4週は避けるべきか
月経第4週
月経第2週
どちらも同一症例のMIP像だが、
月経第4週のほうが正常乳腺の染まりが強い
月経周期の考慮は重要!
でも、いつもできるとは限らない
2週目に撮ると、濃染は消えるの?
月経周期と 小濃染の数との関係
撮影に向かない時期
月経1~4日、15日~
n=20
なし,
なし , 0
撮影に向く時期
月経5~14日
n=13
少, 7
なし,
なし , 2
少, 1
多 , 10
多, 8
中, 2
中, 3
5~14日に撮像しても、濃染が出る人には出る!
乳腺の小濃染の数 閉経後 vs 閉経前
閉経後患者(n=58)
閉経前患者(n=37)
なし
8%
多
10%
中
10%
少
19%
なし
61%
多
54%
少
24%
中
14%
閉経前は非特異的濃染が多い
閉経後は明らかに少ない
正常乳腺内の濃染を減らすには
月経開始5日~12日に検査すのが理想だが、
第4週は外すように放射線科医、乳腺外科医にPR!
でも、閉経前の患者は月経第2週に撮っても小濃染
は結構出ることも経験される
⇒ もっと早いタイミングで撮ってはどうか?
ふたたびEUSOBIのガイドライン
–造影剤注入2分以内のピークを捉える
–最低2回の撮像(約2分後、遅延相)
–1回の収集時間を60秒~120秒
時間の
時間の流れ
注入
2分
1回
回の撮像
注入
1分
1相目
相目
2分
2相目
注入
45秒
1相目
相目
2分
2相目
40代 microinvasive ductal ca.
1:30
2相目
0:30
1相目(超早期相)
秋田大学病院の撮り方
Pre
GE Excite HD 1.5T 4ch乳房コイル
VIBRANT両側同時撮像
3ml/s+生食
第1相(超早期)
第2相 Ax
0:10
第1相
相(超早期相)
超早期相)
1分
3mm厚,1.5mmZIP
マトリクス256×256
撮像時間35秒間
2分
Pre,
,2相,4相
第3相 Cor
5分
第4相 Ax
6分半
2mm厚,1mmZIP
マトリクス384×320
撮像時間 1:23
超早期相による濃染減少効果
2相目との比較
閉経前患者
n=48
元 々 なし
8%
同じ
5%
やや減少
やや 減少
18%
著明減少
69%
乳癌の描出能(n=50)
超早期相を2相目と比べた場合
2相目
相目
(2分以内
分以内)
分以内
超早期相
(45秒以内
秒以内)
秒以内
描出なし
描出され
るが劣る
2相目
相目
(2分以内
分以内)
分以内)
14%
16%
超早期相
(45秒以内
秒以内)
秒以内)
70%
同等
2相目
相目
(2分以内
分以内)
分以内)
超早期相
(45秒以内
秒以内)
秒以内)
症例1 両側乳癌(右DCIS,左乳頭腺管癌)
0:30
超早期
1:30
2相目
症例1
0:30(超早期)
4:00(4相目)
1:30(2相目)
病理診断:
high grade DCIS
症例2 50代 右乳癌術前MRI
2相目
超早期
1相目(超早期)
2相目
遅延相
病理診断:
invasive ductal ca.
別の場所(内側)
fibrocyctic change?
線維腺腫?
DCIS?
経過観察中
超早期相で分かること、分からないこと
• 正常乳腺の濃染が明らかに減少する
• 浸潤癌、high grade DCISは染まる
⇒ 濃染に隠れていた小さい癌が見つかる
• low grade DCISはおそらく染まらない
撮像時期・タイミングのまとめ1
• MRI撮像時期のタイミング
– 最終月経開始5~12日(ガイドライン推奨)
– 月経第4週は特に正常乳腺の染まりが多い
• 外せるように放射線科医、乳腺外科医にPR!
• 最終月経開始日の問診・記録もお勧め
撮像時期・タイミングのまとめ2
• 可能であれば(特に閉経前患者)
– 2分以内に2回撮像すると正常乳腺の
染まりを減らせる
• 60秒間×2回撮像
• 30秒と1分半の2回撮像
本日の内容
乳房MRIの撮り方
体位、シーケンス
撮像時期、撮像タイミング
乳房MRIの読み方
BI-RADS(Breast Imaging Recording and Data System)
ACR(American College of Radiology)で発行
ACRのHPにて通信販売
Member-$175
Nonmember-$300
Member-in-Training-$175
乳がん術前MRI:読影の進め方
①主病巣の拡がり診断
②副病変・対側病変の発見
と質的診断
拡がり診断
科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン2008年版
– 乳房温存療法において術前の拡がり診断に有用か?
• MRI 推奨グレードB (CからBへUP)
– エビデンスがあり,日常診療で実践するよう推奨する
• CT 推奨グレードC
– エビデンスは十分とはいえないので,日常診療で実践する際は
十分な注意を必要とする
乳房温存療法
乳房円状部分切除 乳房扇状部分切除
(Bp+Ax)
3cm以下のがん
1~2cmのマージン
(Bq+Ax)
乳頭を中心とする乳腺の
扇状部分切除
Quadrantectomy に相当
する
浸潤癌の範囲は
USで把握可能
MRIに求められて
いるのは
乳管内成分の範囲
MIP像の追加が有用
乳がんの拡がり
乳頭方向
範囲
末梢方向
どちらの方向に
どのくらい離れて
乳頭との距離
範囲
MIP像
温存手術可能か
断端陽性に
注意する場所
多発乳がんの検出
科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン2008年版
• 多発乳がんの検出に勧められるか?
– MRI 推奨グレードB
• エビデンスがあり,日常診療で実践するよう推奨する
• 3~5%に対側乳がんがみつかる
副病変・対側病変をみつけたら
⇒ 質的診断をしよう
• 腫瘤(Mass)
– 辺縁
– 内部構造
– 造影パターン(血流情報)
• 非腫瘤(Non-mass like enhancement)
– 分布・対称性
– 形態
– 内部構造
辺縁
平滑
smooth
良性寄り
不整
irregular
スピキュラ
spiculated
悪性寄り
マンモグラフィとほとんど同じ!
良性寄り
内部構造
均一
homogenous
悪性寄り
不均一
heterogenous
悪性
を疑う
造影される
内部隔壁
リング状造影
Rim enhancement enhancing
internal
septation
中心型
central
早期相(2分以内)
遅延相(5分~)
内部構造は遅延相のほうが良く見えやすい
造影パターン
Pre,早期相(2分以内),遅延相(5分以降)の少なくとも3回
100%SI
悪性
良性
50%SI
良性
Pre
2分
早期相
Preの信号値の
2倍以上 ⇒fast・rapid
1.5倍以下⇒slow
悪性
5分~
ROI設定方法
設定方法
最も早期に濃染する部分
最もwashoutが疑われる部分
ROI設定の注意
早期相
遅延相
乳房が動いたため
ROIが腫瘤から外れている
分布・形態(非腫瘤の場合)
branching ductal
segmental
⇒ 悪性を疑う
clustered ring enhancement
乳管周囲間質の染まり
⇒乳がん(特にDCIS)に特徴的
乳房MRIのカテゴリー診断
カテゴリー1
カテゴリー2
カテゴリー3
カテゴリー4
カテゴリー5
(カテゴリー6
異常なし
良性
おそらく良性(経過観察)
悪性の疑い(要生検)
ほぼ悪性
がんと判明)
マンモグラフィとほぼ同じ!
腫瘤性病変の質的診断
① 辺縁
② 内部構造
③ 造影パターン
(④ DWIの信号)
辺縁
内部構造
造影パターン
平滑
均一
不均一
Rim
slow
-persistent
カテゴリー3
rapid-washout カテゴリー
4(5)
辺縁
スピキュラ
内部構造
造影パターン
スピキュラが弱いとき
カテゴリー4
カテゴリー5
辺縁
内部構造
均一
造影パターン
slow
-persistent
カテゴリー3
不整
不均一 medium-plateau
カテゴリー4
Rim
rapid
-washout
カテゴリー5
非腫瘤性病変の質的診断
(non-mass-like enhancement)
① 分布・対称性
② 形態
③ 内部構造
分布・対称性
びまん性
領域性
左右対称
カテゴリー2
非対称
カテゴリー3
分布
集簇性
領域性
形態
内部構造
カテゴリー3
branching
不均一
-ductal
clustered ring カテゴリー
4(5)
分布
形態
内部構造
カテゴリー3
左右対称
区域性
branching
不均一
-ductal
clustered ring
カテゴリー4
(5)
カテゴリー5
症例3:40代
早期相
slow-persistent
後期相
b=800
b=1500
カテゴリー3
⇒ 線維腺腫
症例4:60代
遅延相
早期相
rapid-washout
b=800
カテゴリー5
⇒浸潤性乳管癌
b=1500
症例4の同一乳房内
早期相
遅延相
medium-persistent
カテゴリー4
⇒ 乳管内乳頭腫
b=800
b=1500
造影前T1WIで高信号を示す場合(血性乳汁分泌)
造影前T1WI
造影後T1WI
subtraction
subtractionが有用
病理診断:DCIS
読み方のまとめ
• 乳がんのMRI診断
– ①主病巣の拡がり診断
– ②対側病変の発見と質的診断
• 質的診断
– 腫瘤:Mass
• 辺縁・内部構造・造影パターン
– 非腫瘤:Non-masslike enhancement
• 分布・対称性
• 形態
– branching ductal
• 内部構造
– clustered ring enhancement
乳房MRIの今後の展望・課題
• 乳房MRIの重要性はこれからも変わらない
(と信じています!)
• 乳がんの高リスク群へのスクリーニング
• MRIのみでしか見えない病変への対処
– MRIガイド下生検の普及の必要性
ご清聴ありがとうございました
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