動向レポートNo.5: 持続可能な開発に関する世界首脳会議の成果

2002 年 9 月 15 日
FASID 国際開発研究センター主任
大原
淳子
最新開発援助動向レポート No.5
持続可能な開発に関する世界首脳会議の成果
南アフリカのヨハネスブルグにおいて、2002 年 8 月 26 日から 9 月 4 日にかけて「持続
可能な開発に関する世界首脳会議(World Summit on Sustainable Development: WSSD,
以下、ヨハネスブルグ・サミット)」が開催された。ヨハネスブルグ・サミットは 10 年前
の国連開発環境会議(United Nations Conference on Environment and Development:
UNCED, 以下、リオ・サミット)における成果の実施状況を包括的にレビューし、リオ・
サミットで合意された「アジェンダ 211」の更なる実施のための方策や、リオ・サミット
以後世界が新たに直面している課題につき討議することを目的としていたが、議論の最大
の焦点は開発途上国の貧困問題であった。会議最終日に採択された「ヨハネスブルグ実施
計画」および「持続可能な開発に関するヨハネスブルグ宣言(政治宣言)」、ならびに同日
発表された「タイプ 2・パートナーシップ・イニシアティブ(約束文書)」の要旨は以下の
通りである。
1.ヨハネスブルグ実施計画
「ヨハネスブルグ実施計画」は、
「アジェンダ 21」のさらなる実施のための方策とリオ・
サミット以後浮上した地球規模で取り組むべき課題への対応を明記したものであり、貧困
撲滅から持続可能でない生産消費パターンの変更、天然資源の保全と管理、健康問題、小
島嶼開発途上国やアフリカの開発問題、実施手段に至るまで、さまざまなテーマに関する
合意が盛り込まれている。しかし、その大半は「アジェンダ 21」と 2000 年 9 月の国連ミ
レニアム・サミットで採択された「ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:
MDGs) 2」、昨年 11 月の第 4 回 WTO 閣僚会議で採択された「ドーハ閣僚宣言」、今年 3
月の国連開発資金国際会議で採択された「モンテレー合意3」など、過去の国際的合意の再
確認にとどまっている。そうしたなかで進展が見られたのは、有害化学物質の管理、公衆
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アジェンダ 21 とは、貧困撲滅、消費パターンの変更、人の健康の保護、自然資源の管理、廃棄物の管
理、資金援助、技術移転など全 40 章からなる地球再生のための長期的な行動計画である。1992 年のリオ・
サミットにおいて、各国は環境と開発の両立を目指すと約束し、アジェンダ 21 を採択した。
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ミレニアム開発目標(MDGs)とは、2015 年に向けた貧困、教育、保険、環境に関する世界規模の目
標である。MDGs には以下の 7 つの目標がある。「極度の貧困と飢餓の撲滅」「初等教育の完全普及」「ジ
ェンダーの平等、女性のエンパワーメントの達成」「子供の死亡率削減」「妊産婦の健康の改善」「HIV/エ
イズ、マラリアなどの疾病の蔓延防止」「持続可能な環境作り」(世界銀行東京事務所「ミレニアム開発目
標について」参照)
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FASID「最新開発援助動向レポート No.2 モンテレー開発資金国際会議の成果」参照
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衛生の改善、漁業資源の回復、生物多様性の保護に関して、新たに数値目標や達成期限が
設定されたことであった。「ヨハネスブルグ実施計画」の要点は以下の通りである。
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有害化学物質の管理:「2020 年までに、化学物質の使用・生産による健康や環境への
悪影響を最小限に抑える方法を確立する。」
EU は内分泌撹乱物質などの脅威を重視しており、有害科学物質の使用・生産の削
減に達成期限を設定して取り組むことを主張したが、開発途上国は科学物質の農業・
工業生産力への効用が大きく、また、化学物質の代替手段は安価に入手しにくいこと
から、達成期限の設定に反対した。日本と米国は開発途上国を支持。結局、文書には
「削減」という言葉を用いず、健康や環境への悪影響を「最小限」に抑えると表現す
ることによって合意が得られた。
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公衆衛生の改善:「2015 年までに、基本的な衛生施設を利用できない人々の割合を半
減する。」
これは MDGs の一つである「2015 年までに、安全な飲み水を利用できない人々の
割合を半減する」という目標に付随する新目標である。当初米国は下水道設備に要す
る投資資金が膨大になることを懸念して反対したが、最終的には容認した。
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漁業資源の保護:「2015 年までに、可能な限り、枯渇した漁業資源を持続可能な量を
漁獲できるレベルにまで回復させる。」
「2015 年まで」という達成期限の明記については、EU や一部の開発途上国が主張
し、日本を含む漁業国は明確な期限目標設定に反対していたが、「可能な限り」とい
う表現を付け加えることで合意に至った。
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生物多様性の保護:「2010 年までに、現在の生物多様性の喪失傾向を大きく低下させ
る。そのための追加的な資金と技術を開発途上国に提供する。」
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共通だが差異のある責任(common but differentiated responsibilities):「リオ宣言
における『共通だが差異のある責任』の原則に留意し、あらゆるレベルで具体的な行
動、措置をとるとともに、国際協力を強化する。」
リオ宣言の「共通だが差異のある責任(先進国がより多くの責任を負う)」の原則
の適用については、これまで環境分野に限られていたが、開発途上国は、貧困の大き
な原因は過去の植民地支配と開発途上国に不利な国際経済の仕組みにあるとして、こ
の原則を環境分野から開発分野へ拡大することを主張した。当初先進国はさらなる資
金負担を要求されることを恐れてこの原則の環境分野以外への適用を拒んだが、結局、
開発途上国の主張に応じて文書の序論と実施手段の部分に 「共通だが差異のある責
任」の原則が言及されることになり、文書全体にこの原則が影響を与えることになっ
た。
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良い統治(good governance):「各国内や国際的レベルでの良い統治は、持続可能な
開発にとって不可欠である。国内レベルでは、健全な環境・社会・経済政策、国民の
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ニーズに対応する民主的な制度、法の支配、腐敗防止対策、男女平等、投資のための
環境整備は、持続可能な開発の基礎である。」
先進国は開発途上国が民主化の促進や政治腐敗撲滅など「良い統治」へ向けて努力
することを要求したが、開発途上国は内政干渉だと反対した。9 月 2 日、ジンバブエ
のムガベ大統領は「ブレアよ、英国に専心しなさい。私はジンバブエに専心する。」
と演説し、アフリカ各国の代表から拍手喝采を浴びた。最終的には、
「市民の情報へ
のアクセスを促進する」などの記述が交渉案から削除されることによって合意に至っ
た。
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世界連帯基金(world solidarity fund)の設立:「開発途上国における貧困を撲滅し、
社会・人間開発を促進するため、世界連帯基金を設立する。資金調達については自主
的な寄付を基本とし、政府、企業、個人の役割を奨励する。」
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生産・消費パターンの変革の 10 年計画:「持続可能な生産・消費パターンへの転換を
加速させる 10 年計画の策定を奨励、促進する。持続可能な生産・消費に向けた国や
地域の取り組みを支援する。」
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企業の責任:「環境や社会に対する企業の行動責任および説明責任を向上させる。」
企業の責任については、厳しく明記したいノルウェーや一部の開発途上国と、企業
の自主的な取り組みに任せる表現にしたい日本、米国、EU などが対立した。
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再生可能エネルギー:「総エネルギー供給量への再生可能エネルギーの寄与率を高め
ることを目的として、国や地域の自主的な目標や取り組みの役割を考慮しながら、切
迫感を持って、再生可能エネルギーの利用を地球規模で実質的に増加させる。また、
その進展状況を検証するため、入手できるデータを定期的に評価する。」
EU は、世界の総エネルギー供給量に占める再生可能エネルギーの割合を 2010 年
までに 15%まで引き上げることと、先進国の再生可能エネルギー供給比率を 2010 年
までに 2000 年比で 2%伸ばすことの 2 点を文書に含ませるよう主張したが、日本と
米国は自国の産業界への打撃を恐れて、「エネルギー事情および政策は国によって異
なるため、一律の目標を設定するべきではない」と反対し、また石油消費の減少を懸
念する産油国や開発途上国の多くも反対したため、EU は数値目標・達成期限の明記
を断念せざるを得なくなった。最終的には、数値目標や達成期限を明記する代わりに
「切迫感を持って」という表現を挿入することで合意に達した。
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京都議定書:「京都議定書を批准した国は批准していない国に時期を得た批准を促
す。」
京都議定書の早期発効と議定書が地球温暖化対策の世界共通のルールであることを
明記するよう日本と EU が主張し、それに対して議定書から離脱している米国と議定
書批准に消極的なオーストラリアが反対した。日本は「京都議定書の発効に向けてそ
のタイムリーな締結を強く求める」との調停案を作成し、最終的には上記の内容で合
意に至った。当初、ヨハネスブルグ・サミットでの京都議定書発効が期待されていた
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が、米国の議定書からの離脱、ロシアの批准の遅れなどにより時間的に不可能になっ
た4。サミット会期中の 8 月 30 日、世界第 2 位の CO2 排出国である中国の朱鎔基首
相は京都議定書批准を正式に発表5し、また、議定書発効の鍵を握るロシアのカシヤノ
フ首相も近い将来議定書を批准する意向を表明した。
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感染症対策:
「マラリアや結核などの感染症対策と同時に、15-24 歳のエイズ感染率を、
感染状況が深刻な国においては 2005 年までに、世界全体では 2010 年までに、25%
減少させる。」
この数値目標、達成期限については、2001 年 6 月の国連エイズ特別総会のコミッ
トメント宣言で提示されたものが再確認された。
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感染症対策のための医薬品と関連技術の調達:「エイズ、マラリア、結核などの感染
症対策において、持続可能かつ手ごろな方法で必要な医薬品と関連技術を入手できる
ようにする。」
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開発資金:「国民総生産(GNP)の 0.7%を政府開発援助(ODA)に当てるという目
標をまだ達成していない先進国に対して、目標達成に向けて具体的な努力をするよう
奨励する。目標達成に向けて、手段と期限を精査することの重要性を強調する。」
開発途上国は ODA の GNP 比 0.7%への増額に達成期限を設定することを主張し
たが、先進国は反対し、結局、達成期限は設定しないがその重要性は強調することで
合意に達した。
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補助金:「環境に有害であり持続可能な開発と両立しない補助金の改革を奨励する。」
先進国の農業補助金は開発途上国の農産品の輸出の妨げになっているとして、開発
途上国はその削減・撤廃を文書へ明記することを主張し、膨大な農業補助金を支出し
ている EU などがそれに反対した。結局、上記の内容で合意されたが、「ドーハ閣僚
宣言(農業交渉において 2004 年までに市場アクセスの実質的改善と貿易歪曲的な国
内補助金の実質的削減を目指す)」以上の内容が盛り込まれることはなかった。開発
途上国や NGO は、先進国の農業補助金は開発途上国の経済的自立を妨げ貧困を助長
していると批判している。
2.持続可能な開発に関するヨハネスブルグ宣言(政治宣言)
「持続可能な開発に関するヨハネスブルグ宣言(以下、政治宣言)」は、「ヨハネスブル
グ実施計画(以下、実施計画)」を土台として作られた世界首脳による決意表明の文書で
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京都議定書発効の条件は、第 1 に条約締約国の 55 カ国以上が批准すること、第 2 に批准した先進国の 1990
年時点の CO2 排出量が排出総量の 55%を占めていることである。前者は EU と日本の議定書批准により
満たされたが、後者は 1990 年当時 CO2 排出総量の 36.1%を占めていた米国が議定書を批准していない
ことが主な原因となり、依然満たされていない。米国の批准なしに後者の条件を満たすには、1990 年当
時 CO2 排出総量の 17.4%を占めていたロシアの批准が必要となる。両者の条件が満たされた日から 90
日後に京都議定書は発効される。
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京都議定書において、中国は発展途上国に分類されているため、議定書に批准しても二酸化炭素などの
温室効果ガス排出削減義務を直接負うことにはならない。
4
あり、各国や国際機関などに実施計画を実行に移すよう呼びかけている。政治宣言は「持
続可能な開発へのコミットメント」「多国間主義の未来」などの 6 分野から構成されてお
り、以下のようなことが提唱されている。
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我々は、飢餓や武力紛争、政治腐敗、自然災害、テロリズム、エイズ、マラリア、結
核などの感染症など、持続可能な開発への脅威との戦いを特に重視するという公約を
再確認する。
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我々は、国際的に合意された ODA 目標をまだ達成していない先進国に対して、目標
達成に向けて具体的な努力をするよう奨励する。
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我々は、「アフリカ開発のための新パートナーシップ(New Partnership for Africa’s
Development: NEPAD) 6 」のような、持続可能な開発を促進する地域レベルでの強
力なパートナーシップの誕生を歓迎し支持する。
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我々は、民間企業が公正で持続可能な共同体や社会の発展に貢献する義務を負うこと
に同意する。
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我々は、民間企業の説明責任を強化する必要があることに同意する。
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我々は、「アジェンダ 21」、「ミレニアム開発目標」、「ヨハネスブルグ実施計画」を効
果的に実行するため、すべてのレベルでの統治を強化し改善する義務を負う。
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我々が持続可能な開発を達成するには、より効果的、民主的、責任のある国際機関が
必要である。
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我々は、持続可能な開発の推進において、国連が主導的な役割を果たすことを支持す
る。
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我々は、持続可能な開発の目標達成に向けての進捗状況を定期的に評価する義務を負
う。
政治文書は、国連総会に対してヨハネスブルグ・サミットの成果である実施計画の進捗
状況を評価するための効果的なメカニズムを創設するよう求めている。この背景には、10
年前のリオ・サミットの成果である「アジェンダ 21」が 3〜4 割しか達成されなかったこ
とへの反省がある。また、政治文書に「民間企業の説明責任を強化する必要」が盛り込ま
れたのは、ヨハネスブルグ・サミット会期中、貧困・環境対策での企業の役割、とくに企
業とのパートナーシップの有効性が強調され、開発途上国と一部の NGO がそれに対して
懸念を示したからである。
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NEPAD とは、民主主義と健全な経済管理を強化し、平和、安全、人間中心の開発を促進するという、
アフリカの指導者たちによるアフリカの人々への誓約である。アフリカの指導者たちは、自らその策定と
実施を行い、貧困削減のための原動力として投資主導の経済成長および経済ガバナンスに焦点を置いてい
る。また、アフリカ内の地域・準地域のパートナーシップを重視している。さらに、2015 年までに年平
均 7%の経済成長を達成するとの数値目標を設定している。詳細については、FASID「開発援助の新しい
潮流:文献紹介 No.11 The New Partnership for Africa’s Development」参照。
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3.タイプ2・パートナーシップ・イニシアティブ(約束文書)
「タイプ2・パートナーシップ・イニシアティブ(以下、約束文書)」は、貧困削減や
環境保全のために、政府、国際機関、NGO、企業などのさまざまな主体が協力して取り組
む具体的計画をまとめたものである。ヨハネスブルグ・サミットではパートナーシップの
概念が大きく取り上げられたが、これは国連のアナン事務総長が 2000 年 7 月に打ち出し
た「パートナーシップ計画」に基づいている。この計画は、2015 年までに MDGs を達成
するため、企業や NGO など政府以外の主体の協力を求めるものであり、その背景には
MDGs 達成に要する資金の不足を企業に補充してもらいたいという考えがある。ヨハネス
ブルグ・サミット会期中、アナン事務総長は、閣僚会議での意思決定が大幅に遅れたこと
を受けて、開発における企業の役割の重要性を主張した。サミットに出席していた産業界
の代表に対して、「企業は政府レベルでの意思決定や法の制定を待つことなく、開発への
取り組みを推進するべきである。我々は、企業の参加をなくしては、持続可能な開発に向
けての大幅な進展を望めないことを認識している。」と表明した。こうした国連の動きを
反 映 し て 、「 持 続 可 能 な 開 発 の た め の ビ ジ ネ ス ア ク シ ョ ン( Business Action for
Sustainable Development: BASD)」のムーディースチュアート会長(シェル社前会長)
を初めとする産業界のリーダーたちは、MDGs の達成を支援するために、大企業が 50 カ
国の最貧国に向けて投資を増やすよう呼びかけ、さらに、NEPAD に対して産業界のリー
ダーで構成される理事会の設置を提案した。また、WHO のブランドランド事務局長は、
企業が被雇用者の健康に対してより責任を持つよう求めた。実際、南アフリカのアングロ
アメリカン社(鉱山資源会社)やデビアス社(ダイアモンド開発会社)は、エイズ患者で
ある被雇用者やその家族の生命延長を目的として、抗レトロウイルス療法(anti-retroviral
drug treatment: ART)に対する資金提供を始めている。
近年、企業の持つ知識や技術を開発に役立てようと、企業とのパートナーシップのもと
に活動する地域コミュニティや NGO は増加しているが、その一方で、依然として開発に
おける企業の役割を疑問視している NGO が多く存在する。また、パートナーシップの有
効性が強調されるにつれて、開発途上国はパートナーシップが ODA の代わりとなるので
はないかと懸念を示すようになり、国連は、パートナーシップは ODA を補完するもので
あり代わりとなるものではないと説得した。
なお、約束文書に日本の組織が登録した計画は、外務省による「アフリカにおける理数
科教育のための能力開発」「感染症対策人材育成」「ネリカ米の普及に対する支援」、環境
省による「重要生態系の保全」「アジア太平洋地域地球温暖化情報ネットワークを通じた
気候変動地域戦略の強化」「アジア太平洋環境開発フォーラム:知識ネットワークと能力
開発」、経済産業省による「クリーン開発メカニズム・キャパシティ・ビルディング・プ
ログラム」「WTO 関連キャパシティ・ビルディング・イニシアティブ」、国土交通省によ
る「地球地図」、北九州市による「共通の繁栄に向けたアジア・パートナーシップ・プロ
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グラム(アジアの大都市の環境問題に対する取り組み)」など、30 件にのぼる。
4.ヨハネスブルグ・サミットにおける主要援助国の発表のポイント
小泉首相はヨハネスブルグ・サミットでの演説で、開発途上国の人材育成等への支援策
をまとめた「小泉構想」に基づき、今後 5 年間で 2500 億円以上の教育援助を実施するこ
と(これは今年 6 月の G8 サミットですでに発表されている)、2002 年度からの 5 年間で
開発途上国の環境分野における人材を 5000 人養成すること、南部アフリカの食糧危機に
対して約 3000 万ドルの食糧支援を実施することなどを表明した。また、日米両国は、水・
衛生分野における共同支援として「きれいな水を人々へ」イニシアティブを実施していく
と発表した。英国のブレア首相とフランスのシラク大統領は、アフリカに対する資金援助
と総額 10 億ドル規模の民間投資促進計画を共同で実施すると発表した。
ヨハネスブルグ・サミット会期中、英国、フランス、ドイツは、ODA の増額を表明し
た。具体的には、英国は「アフリカへの ODA を倍増し、ODA 全体では 50%増額する」
と、フランスは「今後 10 年間で GNP 比 0.7%まで ODA を増額する」と、ドイツは「再
生可能エネルギーの分野における協力を促進するため、5 億ユーロの貢献をする」と発表
した。
5.ヨハネスブルグ・サミットの成果に対する評価
今年 6 月のバリにおけるヨハネスブルグ・サミット最終準備会合では、開発資金問題、
貿易問題をめぐって先進国と開発途上国が決裂し、サミットは失敗するのではないかと危
ぶまれていたが7、その翌月、そうした危機的状況を打開するため、各国の代表を招いた「フ
レンズ・オブ・チェア」と呼ばれる非公式会合がニューヨークで開催された。そこで、先
進国と開発途上国は「モンテレー同意、ドーハ閣僚宣言の内容を超えない」ということで
基本的合意に達し、サミット本番でこれらの問題が蒸し返され争点となることは避けられ
た。
しかしながら、サミット開催に合わせて邦人約 500 人を含む約 1 万人の、主として環境
保護を訴える NGO 関係者が現地入りするなど会場周辺は物々しい雰囲気に包まれ、会場
の外から会議の進行に対する批判の声が投げかけられた。また、会場内においても、エイ
ズ問題を開発問題の重要な一部として取り扱わない議場に対して国連エイズ合同計画
(UNAIDS)や NGO が批判したり、多国籍企業の開発途上国での人権侵害や環境破壊を
NGO が指摘したりするなど、白熱した議論が繰り広げられた。
サミットでの実施計画を作成する過程では、さまざまな項目において各国の利害が対立
し、数値目標や達成期限を明記しないことで妥協を促す動きが目立った。米国はあらゆる
項目において新たな数値目標が設定されることに反対の姿勢を示した。こうして妥協を重
ねて作り上げられた実施計画は、実効性、具体性に欠け、理念の主張に終始した内容とな
7
った。このような結果を導いたもう一つの理由としては、サミットではあまりにも多くの
テーマが取り上げられたため、各テーマについてつっこんで話し合う時間的余裕がなかっ
たことが挙げられる。国連は今後、ヨハネスブルグ・サミットのような大規模な多国間会
合を開催する場合には、議論の焦点を絞り、重点的に対象とするテーマを予め設定するな
ど、効果的な会合の運営方法を再検討する必要があると思われる。
実効性に欠ける実施計画が採択されたことを受けて、ヨハネスブルグ・サミットは失敗
に終わったという声も多く聞かれる。その一方で、世界約 190 カ国からの代表者が一堂に
集まり、持続可能な開発に向けての取り組みについて議論を交わし、公衆衛生の改善、再
生可能エネルギーの利用、京都議定書の発効を含む地球温暖化対策(とりわけ中国の批准
とロシアの批准意向の表明)、エイズなどの感染症対策、ODA 増額、農業補助金の撤廃な
どの重要性が再確認されたことは評価されるべきであろう。採択された実施計画の内容は
確かに不十分であるが、それでも持続可能な開発に向けて国際社会が今後進んでいく方向
性を示している。
実施計画自体に法的拘束力はないが、今後、各国政府や国際機関は実施計画に基づいて
援助政策、環境政策等の策定・実施を行うことになる。例えば、わが国は再生可能エネル
ギーの利用に関して数値目標が導入されることに反対したものの、実施計画に同エネルギ
ーの利用拡大が盛り込まれたことを受けて、同エネルギーの普及を推進する取り組みを始
めている。具体的には、2003 年度から電力会社に風力、太陽光、地熱などのエネルギーの
調達を義務づけることで、再生可能エネルギーの使用比率を現在の 5%から 2010 年まで
に 7%へ引き上げる計画を実施していく方針である8。今後、実施計画が有効に活用される
かどうかは、政府や国際機関などが、いかに実施計画の実現に向けて具体的な政策を策定・
実施していくかにかかっている。そうした意味で、政治宣言が国連に実施計画の進捗状況
を評価するためのメカニズム創設を求めたことは、非常に理にかなっていると言えるだろ
う。いずれにしても、ヨハネスブルグ・サミットは、今後のプロセスの多難さとさまざま
な利害関係者の思惑の開きを象徴した会議であったと言える。
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FASID「最新開発援助動向レポート No.3 ヨハネスブルグ・サミットまでの経緯」参照
この計画は「先進国の再生可能エネルギー供給比率を 2010 年までに 2000 年比で 2%伸ばす」という EU
の提案に極めて近い数値目標、達成期限を設定しているが、日本が EU の提案に対して国際的に合意しな
かったのは、企業の自主的な取り組みを尊重したいという理由からである。
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