巽ゼミD班 映画配給業の戦略 - NIKKEIBP Blog

巽ゼミD班
─映画配給業の戦略─
杉浦 太一・小林 脩子・宮武 孝治・陳 錫暉
1章
はじめに
日本の映画は 1899 年に始まり、明治・大正・昭和初期の映画は活動写真、キネマ、シネ
マ等と呼ばれた 1。それから時は経ち、1930 年代から 1950 年代にかけて映画会社撮影所
(東宝・日活・松竹など)が次々に創立された。当時、動く映像は映画しかないため、映
画を見るのは庶民たちにとって一番の娯楽だった。そして 1960 年代に突入すると、日本映
画の制作本数は日本映画史上最高の 574 本となり、日本映画の黄金期のピークとなった。
しかし 1960 年代後半になると、テレビの普及等に伴い、次第に日本映画は集客力を失い、
縮小再生産を繰り返してきた。さらに 1990 年代以降は、ビデオテープ・DVDなどの記録
媒体の普及が急速に進み、一次利用より二次利用が活発となった。また、時同じくしてパ
ソコンが普及しはじめ、その後さらにネットワーク通信・メディア再生ともに機器の性能
やインフラの整備が格段に向上した事により、近年では高音質高画質の映像コンテンツ 2デ
ータのネットワーク配信が可能になった。こうした流れの中で、映画もネットを通じ配信
されるようになった。このようにコンテンツ供給形態が多様化する現在、かつては娯楽の
一部として映画に多くの時間を割いてきた人々が、最近は直接映画館に足を運ばなくなっ
てきている。
映画業界にとって映像ソフトの二次利用は、複合的な収益を得られるチャンスであると
考えられるが、果たして本当にそうなのであろうか。日本の映画産業は、その発展の中で
苦戦を強いられているのではないか。このような問題意識をもとに、私達は特に映像コン
テンツビジネスにスポットを当て、斜陽産業といわれて久しい日本の映画産業の活性化に
ついて考えていく。
具体的に本論文では、映画産業の歴史と現状を確認した後、1990 年代後半に現れた DVD
などの二次利用が映画に与える影響を示し、パソコン・インターネットの台頭により生み
出された P2P 技術とユーザー間のファイル共有問題を分析する。また、配給コンテンツの
面で映画業界に類似している音楽業界を例に取り、イノベーションのジレンマについて述
1
2
山田[2003]
定義は非常に広いが、ここでは「知的資産」・
「経済的に取引される情報財」を意味する
-1-
べ、映画産業の取るべき道を考える。
2章 映画配給の現状
①
映画の仕組み
2章ではまず簡単に映画の仕組みを紹介する。
映画産業は、映画を企画、制作する「制作」
(映像制作会社、プロダクション等)と、そ
の映画制作会社から映画を買って、映画館に配布(配給)したり、映画を宣伝する「配給」
(映
画配給会社、映画宣伝会社等)と、映画を映画館で観客に見せる「興行」(映画興行会社)
の、大別すると 3 つの過程から成り立っている 3。以前は邦画の大手といわれる松竹、東映、
東宝の3社はこの全ての過程を一手に行ってきた。すなわちそれぞれが撮影所を持ち、自
社の資金で作品を制作し、その作品を配給し、3 社はそれぞれ直営の映画館で興行する方
法を取っていた。これは、取引コスト削減のメリットを汲んでのことであった。
②
日本映画の衰退
さて、先にも述べたが第二次世界大戦後の復興期から高度成長が始まる頃までにかけて、
映画はわが国の代表的な大衆娯楽としての地位を占めていた。映画鑑賞人口は、1958 年に
1 億 7000 万人、映画館数も 7000 館を超えた 4。それをピークに、その後は家庭における
テレビやビデオの普及、日本人の余暇指向の多様化などによって減少し続け、1996 年には
1 億 1 千万人縮小していた(下図1を参考)。しかし映画産業は、減少する興行収入を入場
料金の値上げでしのぐ以外、ほとんど何の手立ても講じなかった。そうした中、経営不振
に陥っていた映画会社は次々にブロックブッキング方式(後述)から撤退することを余儀
なくされることとなる。
3
4
シネマワーカーのホームページより引用:(06’ 12/8 アクセス)
http://www.cinemaworker.com/10eiganosikumi.html
株式会社三菱総合研究所 [2001]
-2-
全国映画館
全国映画館
国民1人当り
入場人員(千人)興行収入(百万円)年間入場回数
昭和 54(1979) 165,088
158,177
1.4
55(1980)
164,422
165,918
1.4
56(1981)
149,450
163,259
1.27
57(1982)
155,280
169,522
1.32
58(1983)
170,430
186,300
1.44
59(1984)
150,527
172,202
1.26
60(1985)
155,130
173,438
1.28
61(1986)
160,758
179,428
1.33
62(1987)
143,935
161,155
1.19
63(1988)
144,825
161,921
1.19
平成元(1989) 143,573
166,681
1.17
2(1990)
146,000
171,910
1.19
3(1991)
138,330
163,378
1.12
4(1992)
125,600
152,000
1.02
5(1993)
130,720
163,700
1.05
6(1994)
122,990
153,590
0.986
7(1995)
127,040
157,865
1.019
8(1996)
119,575
148,870
0.957
9(1997)
140,719
177,197
1.123
10(1998)
153,102
193,499
1.219
(図1
全国の映画館入場人員と興行収入の推移)
社団法人日本映画製作者連盟の資料より作成
③
映画の配給方式
ブロックブッキング方式とは、配給と興行が一体になって年間のラインナップを組んで
いくことで安定した作品供給を行うことで、大手 3 社(松竹・東映・東宝)がそれぞれ契
約館を中心に自社作品を専門に配給、興行することである。配給側のメリットとは、一定
の観客動員を見込める作品を継続的に配給出来れば、配給先は確保されている。興行側の
メリットとしては、配給側から作品の供給が保証されていることが挙げられる。しかし、
あらかじめ公開の初日と最終日が決まっている興行形態をいうので、上映作品が大ヒット
している場合でも、次回作の初日がブロック(固定)されているので、上映を打ち切らな
ければならないなど、興行会社にとっては柔軟性が確保されていないデメリットもある。
-3-
そこで松竹をはじめ、大手配給会社は 2000 年から製作本数を減らし、邦画しか上映して
いなかった系列館でも自社配給の洋画が上映できるような体制である「フリーブッキング」
方式に変更することを決めた。フリーブッキング方式とは、洋画の配給および邦画におい
ても系列に属さない独立映画館への配給について行われているシステムで、配給会社が作
品ごとに直接映画館に売り込む方式のことである。ブロックブッキングとは異なり初日と
最終日が決まっていないので、ヒットしていれば上映を続けられるメリットがある。また
客足が不入りの場合は、予定前で打ち切ることも出来る。
近年、比較的人気を集めている洋画に比べ、邦画はかつての人気を失い、興行収入をのば
すことが困難になっている。配給会社は映画館での作品の広告費、宣伝費を負担するため、
それに見合う収入が得られなければ、邦画特有ともいえるブロックブッキング制を維持す
るメリットはなくなる。つまりブロックブッキング制は、映画の質は関係なく、出せば当
たるといわれたかつての日本映画の黄金期であれば常に効率的なシステムであったが、ヒ
ット作品の多くを洋画が占めるようになった今では、非常に非効率なシステムであるとい
える。その上ブロックブッキング制では、配給会社と劇場の取り分の割合はほぼ一定で、
邦画では 50 対 50 が一般的である。それに対し、フリーブッキング制では毎回作品の内容
を考えて交渉が行われるため、取り分の割合は交渉のたびに作品の内容を考えて行われる
ので、ヒットが見込まれているような映画を仕入れてきた場合には、配給側の高レートで
の交渉が可能である。これは配給会社側の強いモチベーションとなるであろう。いまやフ
リーブッキング方式は映画会社にとって最も効率的な制度である。
④
映画産業の復興―シネマコンプレックス
そのフリーブッキング制の波に乗り、日本では 1993 年から複合型映画館であるシネマコ
ンプレックスが勢力を増大している。社団法人経済産業統計協会 [2003]によると、シネマ
コンプレックスは「同一建物又は複合ビル内に複数のスクリーンを持ち、かつ、入場券売
場、売店、人口および映写室等を共有している映画館」と定義されている。要するに複合
型映画館のことである。シネマコンプレックスには客席数が異なる複数のスクリーンがあ
るため、上映時間をずらして同じ作品を上映したり、客席数に応じてスクリーンを割り振
ることが出来るので効率的な作品の上映が可能である。席も全席指定で総入替制であるた
め立ち見がなく顧客にとっても利便性が高い。その上従来の映画館では上映作品の出来不
出来により興行収入が大きく変化せざるを得ないが、シネマコンプレックスは常に複数の
作品を上映することによって、リスクが軽減され経営が安定するというメリットもある。
先述した通り 1960 年代をピークとして、映画鑑賞人口、および映画館数は減少傾向を続
け、映画産業は衰退の一途をたどっていたが、こうしたシネマコンプレックスの普及に伴
い、汚い、席取りが大変といった映画館のイメージが変わり観客が足を運びやすくなって
きている。1990 年代からこの流れが続き、現在スクリーン数は 3000 以上あり、その 7 割
-4-
がシネマコンプレックスである 5。しかし未だに映画はフィルムを焼いて映写機でかけたり、
フィルムも宅急便で運んだりとまだアナログが根強く残る世界であるために、デジタルへ
の対応が必然といえよう。次章では映画産業のデジタル化の足掛けともいえる映像コンテ
ンツの二次利用について触れる。
3章
二次利用について
①映画の二次利用とブロードバンド
①―1
ビデオテープから DVD へ
映画会社は映画館で映画を上映して得る収入以外にも映像コンテンツの二次利用を上手
に活用して多額の収入を得ることに成功してきた。ここではインターネットビジネスの先
駆者であるといえるアメリカのハリウッド映画を例に取り映画の二次利用の変化をみてみ
たい。
1983 年におけるハリウッドの映画会社の米国内と海外を合わせた総収入は 93 億ドルで、
その内訳は上映料 39.2%、テレビ 47.4%、ビデオテープ 13.4%であった 6。この十年後の
1993 年は総収入 277 億ドルで内訳は上映料 18.6%、テレビ 33.7%、ビデオテープ 47.7%
であった。この十年間にビデオテープからの収入は約 10 倍に増大し、ハリウッドにとって
最大の収入源となる。そしてビデオテープのあとをDVDが襲い、2000 年を境にして映画ビ
デオテープの売り上げは低下し、早くも 2002 年にDVDがかつてのビデオテープの販売個
数を上回った。
①―2
DVD-巨大な収入源
2002 年に「ロード・オブ・ザ・リング」のDVDは 2 億 8000 万ドル(上映収入 3 億 7000
万ドル)、
「スパイダーマン」のDVDは 2 億 1500 万ドル(上映収入 4 億 700 万ドル)という驚
異的な売り上げを記録した 7。この二つの映画はそれぞれの上映収入額にはおよばなかった
が、ハリウッド全体の数字を見ると、2002 年のアメリカ国内の上映料収入の 95 億ドルに
たいして、DVDの売り上げは 140 億ドルを記録した。2002 年は初めて二次利用の売り上
げが上映料収入を上回った年である 8。
映画制作費に莫大なお金を投資したものの上映料収入が期待に反した場合、映画会社の
5
6
7
8
Forbes (2007 年 2 月号)参考
北野[2001]
Movie Web:(06’ 12/25 アクセス)
http://www.movieweb.com/movies/boxoffice/alltime.php
赤木[2003]
-5-
残された収入源の拡大方法は、いかに多くのDVDを売るかである。DVDの中に出演者のイ
ンタビューや映画メイキングの舞台裏などが入った特典映像などを盛り込むのも二次利用
の好調な売り上げを支えている秘訣だ。同じく上映収入が期待はずれでもDVDの売り上げ
でカバーできるケースもある。下の図2の「Ray」はその良い例である 9。映画界としては
上映料収入と二次利用収入(DVD販売)によって、利潤を確保していけるのが望ましい。
単位(100 万)
制作費
上映収入
DVD 収入
Mr. Incredible
$92.00
$261.438
$285.00
Ray
$40.00
$75.300
$119.00
Shark Tale
$70.00
$161.412
$160.00
$150.0
$206.456
$113.00
チャーリーと
チョコレート工場
(図2
①―3
制作費、上映収入、DVD 収入の比較)
ブロードバンドの脅威
その一方でインターネットの普及によって生じる情報交換技術が、映画業界の脅威とな
る場合もある。「スターウォーズ
エピソード 1、2」そして「スパイダーマン」が映画館
で上映される前にインターネットで流された。いわゆる海賊版である。どちらの場合も試
写会のスクリーン上映像をデジタル・カメラで記録しそれをインターネット上のサイトで
流されたのだ。全米映画協会は海賊版の対策として、常時インターネットのサイトをチェ
ックし、その種の行為を見つけると、それにサーバを提供しているプロバイダーに警告し、
サーバから取り下げることで被害拡大を防いだ
10。しかしこのやり方は時間を要する上に
インターネット技術の発達により、全ての海賊版を見つけ出すのは困難であり、大変非効
率である。
①―4
インターネットとの共存
そこでインターネット技術を逆に映画会社が利用するという新しい動きが最近見られる。
それはインターネットによる映像配信である。すでに米大手映画配給会社のウォルト ディ
ズニーはアップルコンピュータと提携した。アップルは自身が持つI tunes storeでディズ
ニーの映画をダウンロード販売しており、このサービスを開始して一週間で 12 万 5000 本
の映画を販売し、100 万ドルの売上を記録した。映画ネット配信の価格は$10~$15 で、
Lee’s movie info:(06’ 12/27 アクセス)
http://www.leesmovieinfo.net/Video-Sales.php
10 赤木 [2003]
9
-6-
DVDの平均小売価格の$18~よりも安い価格で自宅のパソコンから簡単に映画を楽しめ
る。また米Warner Bros. Home Entertainment Groupも全米映画協会と海賊版の撲滅を目
指して、米Bit Torrentと提携し同社のP2Pファイル交換プラットフォームを用いた、イン
ターネット上での映画やTV番組コンテンツの有料配信サービスを行っている
11 。また
Amazon.comも動画ダウンロード販売に参入、
「Amazon Unbox」を開始した。
そこに用意されているコンテンツはBBC、CBS、FOX、MTVなどを含む 26 のテレビ局
と、20th Century FOX、Paramount、Sony、Universal、Warner Bros.などの映画会社
による映画である。価格はテレビ番組 1 話が 1.99 ドル、映画が 7.99 ドルから 14.99 ドル
でアップルのダウンロード販売価格と同様にDVDよりも安く提供している 12。
①―5
映画 DVD が消滅する日がやってくる可能性
上で説明したこの画期的なダウンロード販売で苦しむのはDVDを販売している専門店や
小売業界である。彼らは「DVDが売れなくなる」と一斉に反発し映画業界にDVDの値引き
を求める一方、自らも相次いでダウンロード販売に踏み切る構えを見せている。DVD販売
で全米シェア 15%を握る米小売り 2 位ターゲットのグレッグ・スタインハフェル社長は、
ハリウッドの映画製作大手各社にDVDソフトの値下げを求める手紙を出した
13。
またス
タインフェルはネット配信を開始したディズニーに対して「卸売価格をネット配信並みに
下げないと店内の陳列スペースの縮小を考える」と警告した 14。
映画会社から小売チェーンへの新作映画の DVD は卸値 17~18 ドルに対し、小売価格は
16~19 ドル。逆ざやが発生するほどの薄利商売で、小売り段階での値下げ余地はほとんど
ない。
これに対し、2000 年 9 月にアップルが始めたダウンロード販売の価格はわずか 12 ドル
99 セント。DVD を販売する小売店が音を上げるのも無理はない。
①―6
小売店でもダウンロード販売
小売り大手にとって、サイトに頼る販売は、膨大なチェーン店舗網の強みを生かし切れ
ない悩みがあるが、店頭でのダウンロード販売技術も着々と開発されている。
ブルームバーグによると米ソフト開発のソニック・ソルーションズは、店頭で来店客が
MYCOM ジャーナル:(06’ 12/28 アクセス)
http://journal.mycom.co.jp/news/2006/05/10/004.html
12 C NET JAPAN:
(06’ 11/13 アクセス)
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20227087,00.htm
13 Fuji Sankei Business:
(06’ 11/12 アクセス)
http://www.business-i.jp/news/world-page/news/200610130002a.nwc
14 読売新聞 2006/12/24 号
11
-7-
選んだ映画をダウンロードし、DVD に焼き付けるシステムを開発した。陳列棚を大幅に縮
小できる上、DVD パッケージの 4 分の 1 のコストで済むという。
一方、英紙フィナンシャル・タイムズによると米コンサルティング会社ベイン&カンパ
ニーは映画業界の海賊版DVDなどによる被害額が 23 億ドルに上ると試算。対策としてダ
ウンロード配信の導入を急ぐ必要があると警告した。知財保護の面からもDVDは減少しそ
うだ。米調査会社アダムス・メディア・リサーチは今年の米国でのDVD売り上げが昨年並
みの 166 億ドルとピークを付け、翌年以降減少する一方、映画のダウンロードは 2010 年
までに 27 億ドル市場に拡大するとみている 15。
このように大容量通信が可能となったインターネット技術の発展により、映画の二次利
用を取り巻く環境が劇的に変わっている。過去にもビデオテープから DVD へ、そして今度
は DVD からインターネットへと、コンテンツのデリバリー手段が変わってきている。
②P2Pについて
そのコンテンツのデリバリー手段の一員としてここ数年でP2P技術を使ったアプリケー
ションがテレビや新聞を賑わせている。それらの多くは、このアプリケーションのユーザ
ーがこの技術を悪用し、違法で音楽や映画などのデータファイルを入手しているというも
のである 16。しかし、このP2P技術は映画の二次利用において、その使い方(使われ方)に
よっては映画業界全体に革命的な影響を与えるものであると言える。そもそもP2Pとは何な
のか?そこで、ここではP2Pについて詳しく説明して行くこととする。
②―1
P2P(ピア・ツー・ピア)とは?
P2Pとは不特定多数の個人間で直接情報のやり取りを行なうインターネットの利用形態
であり、またそれを可能にする「Napster 17」などのアプリケーションソフトのことである。
簡単に言うと多数のコンピュータを相互につないで、ファイルや演算能力などの情報資源
を共有するシステムである。
②―2
2 種類のP2P技術
C NET JAPAN「米国 映画DVD消滅!? ダウンロード販売が急伸」:(06’ 11/15 ア
クセス)
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20271447,00.htm
16 音楽の被害は次章参照。
17 IT 用語辞典 e-Words:より引用:
(06’ 12/1 アクセス)
http://e-words.jp/w/Napster.html
15
-8-
P2P技術はハイブリッドP2P(中央サーバの媒介を要するもの)と、ピュアP2P(バケツリレ
ー式にデータを運ぶもの)の 2 種類がある 18。ハイブリッドP2Pとは、各コンピュータが中
央サーバ(そのアプリケーションの持ち主が管理)に接続し、ユーザーのパソコンに保存
されている音声ファイルのリストを送信する。これを、世界中のユーザーが共有すること
により、互いに他のユーザーの所持する音楽ファイルを検索し、ダウンロードすることが
できる。中央サーバはファイル検索データベースの提供とユーザーの接続管理のみを行っ
ており、音楽データ自体のやり取りはユーザー間の直接接続によって行われている。無駄
な通信が少なく、管理しやすいという特徴があるが、中央サーバが停止するとサービス全
体が停止してしまう。『Napster』や『WinMX』、『IRC』などがこれにあたる。
ピュア P2P とは、中央サーバを必要とせず、すべてのデータがバケツリレー式に各ユー
ザー間を直接流れるシステムで、このシステムはどこか一ヶ所が寸断されてもサービス全
体が停止することはないがユーザー数が増えると加速度的にネットワークが混雑するとい
う弱点がある。また、違法なデータがやり取りされていても当局が監視や規制を行なうこ
とが事実上不可能に近いという重大な特徴を持つ。
『Gnutella』や『Winny』などがこれに
あたる。
②―3
P2Pの普及
このシステムのさきがけとなったのはアメリカの大学生が開発した「Napster」で、1999
年 1 月にmp3 ファイルの交換ソフトとして誕生した。インターネットを通じて個人間で音
楽データの交換ができるシステムで、タダで音楽が手に入ることから爆発的に普及した。
Napsterは企業化してビジネスとしての展開を探るも、音楽業界による著作権侵害訴訟に敗
訴し 2002 年 6 月に破産した。その資産はアメリカのRoxio 19社に買収され、2003 年 10 月
から有料音楽配信サービスとして再出発(2004 年 8 月には社名をNapsterに変更)する。
そして 2005 年 10 月にはタワーレコード株式会社と合弁でナップスタージャパン株式会社
を設立し、2006 年 10 月には日本での音楽配信サービス開始する事となる 20。
日本では 2001 年ごろから「WinMX」が普及し、2002 年ごろからはさらに匿名性を高め
た。
「Winny」が普及を始めた。このWinnyだが、2004 年には著作権侵害幇助の疑いで作者
の金子勇氏が逮捕されるという事態に発展した。そして 2006 年 12 月 15 日には刑事責任
INTERNET Watch より引用:(06’ 12/1 アクセス)
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/column/wp2p/wp2p01.htm
19 Roxio 社のホームページ
http://www.roxio.jp/index.html
20 TOWER RECORDS、プレスリリース:
(06’ 12/13 アクセス)
http://www.towerrecords.jp/company/pdf/051025napsterjp.pdf
18
-9-
の有罪判決が言い渡される事となった 21。
②―4
ファイル共有ネットワークの法的問題
P2P ネットワークで最も一般的に共有されているファイルは人気のある音楽の mp3 ファ
イルと映画の DivX コーデックを使った AVI ファイルであり、このような利用の実態から、
P2P ネットワーク上のファイル共有が大手のレコード会社や映画関連企業などのビジネス
に対する重大な脅威となっていると考えられている。アメリカでは政府や有力企業、団体
を巻き込んだ大規模な論争が巻き起こり、ファイル交換ソフトを悪用されて著作権を侵害
された音楽業界・映画業界・ソフトウェア業界など産業界は「ファイル交換ソフト自体が
違法」との主張を続けているが、
「悪用するユーザーを裁くべきでファイル交換ソフト自体
は合法」とする主張との間で議論は平行線をたどっている。
そこで、P2P ネットワークは潜在的な脅威として、RIAA(アメリカ合衆国のレコード会
社による業界団体)や MPAA(アメリカ合衆国の映画産業の業界団体)によって標的にされて
きた。 Napster のサービスは RIAA の訴訟によって打ち切られ、RIAA と MPAA は、法
規制を求め大金をつぎ込んだロビー活動を行っている。
反P2Pファイル共有運動の動きで顕著な例を挙げると、カリフォルニア州のHoward
Berman(ハワード・バーマン)下院議員は、著作権保持者に、著作物を違法に配布している
と考えられているコンピュータに侵入し、P2Pネットワークの機能を停止させる正当な権
利を認めるという法案を作成したという例がある
22。(この法案は
2002 年に下院の委員会
で廃案となったが、Berman議員は 2003 年に再び法案を提出する旨を表明している。)
レコード会社や映画関連企業から攻撃を受けることによって、P2P ネットワークはそう
した攻撃をより受けにくい仕組みに姿を変えていく事となる。 P2P ネットワークを運営し
ている仕組みへの攻撃が困難になると、P2P ネットワークの利用者がレコード会社や映画
関連企業の攻撃の対象になった。それによって利用者はその攻撃から逃れるために、不特
定多数に広く公開されるタイプの P2P ネットワークを使わず、ファイルを受け取る側は送
る側が誰かを特定できないような、閉鎖的で暗号化されたものを利用しだしたと考えられ
ている。別の秘匿性の高い接続手段として、ピュア P2P 型モデル上の各ノードがその場限
りのワイヤレスネットワーク(ワイヤレスアドホックネットワーク)上の近隣のデバイスと
接続するといった形態が考えられている。
南日本新聞より引用:(06’ 12/22 アクセス)
http://373news.com/_column/syasetu.php?ym=200612&storyid=1781
22 ASCII24/P2P ファイル共有 vs レコード業界 ハッカー戦争が勃発する?より引用:
(06’
12/22 アクセス)
http://ascii24.com/news/inside/2002/08/01/637636-000.html
21
- 10 -
②―5
ウイルスと情報流出問題
また秘匿性が高いゆえにP2Pを使いファイルをダウンロードするとウイルスに感染して
しまう可能性がある。さらにその感染が広まり(これを増殖と呼ぶ)それによって情報流出な
どの2次問題にも発展している。そこで、ここ1年で相次いでメディアで報道されたWinny
23によって企業や学校、警察などの個人情報のデータファイルが流出してしまっている事
件を例に説明する 24。
まず、Winnyの利用者数を正確に把握することは困難であるが、06 年 3 月上旬の 1 日当
たりの利用者数が約 54 万人で、その日に使っていなかった人なども考えると、100 万人以
上の利用者がいると考えられる。05 年春の利用者数は約 30 万人弱であった事から、1 年で
約 2 倍に急増した。セキュリティベンダーのネットエージェント
25代表取締役社長の杉浦
隆幸氏は、利用者が急増した理由は単純に「情報流出事件が報道されて『どのような情報
が流出したのだろう』と、騒ぐのが好きなユーザーがWinnyを利用したから」と指摘する。
このWinny利用者の増加によって、流出してしまった個人情報などを目にする人が増え、
また、新しくWinnyを利用し始め、情報流出のメカニズムをよく知らない者が、新たに自
分の持っている情報を流出させてしまう危険性が増加した。一度Winnyネットワークでフ
ァイルが流出してしまうと、Winny独特のキャッシュ機能(ユーザーの意図と関係なくダウ
ンロードしたファイルのコピーが自動公開される機能)が存在するために回収が困難とな
る。キャッシュ機能は転送効率の向上と匿名性を得られるという利点があるが、この匿名
性のためにダウンロードした人もキャッシュの所有者も分かりにくくなってしまう。
Winnyに出回っているウイルスの大半は普通のファイル(実行形式)であるため、きちんと対
策ソフトを使えば感染前に検出・削除することが出来るが、新種のウイルスも発生する可
能性があるので、確実な対策はWinnyを使わないことだといえる。
②―6
P2Pの今後
このようにファイル交換ソフトを悪用されて著作権を侵害されてきた音楽業界・映画業
界だが、ここにきてアメリカの大手がP2P技術を使ったファイル交換ソフトでのコンテン
ツ配信に力を入れ始めた
26。その理由は大容量の情報を手軽に配布できる技術的な利点に
注目したからである。アメリカでは著作権管理の手法を確立すれば市場拡大が見込めるコ
23
日経パソコン(2006/4/24)
Microsoft のホームページより引用:(06’ 12/22 アクセス)
http://www.microsoft.com/japan/athome/security/online/p2pdisclose.mspx
25 ネットエージェントのホームページ
http://www.netagent.co.jp/
26 かつては P2P 技術を敵対視していたが、ハリウッドが高画質動画の流通に最適の手段で
あると認識し始めた(2006 年 6 月 9 日付日経産業新聞)
24
- 11 -
ンテンツ配信サービスP2P技術の利用価値はあるとして、見直しの機運が高まっている。
4章
音楽業界の例
本章ではそのコンテンツ配信サービスの先駆けとも言える音楽業界について考察する。
レコード・CDは 1990 年までの 販売枚数が約 1 億 6 千万枚であった。総務省の調査に
よれば、2000 年からパソコン・インターネットなどのインフラの整備が格段に向上したた
27、音楽データのネットワーク配信が可能になった。このことによって、消費者のニー
め
ズは「コンテンツの所有 28」から「コンテンツの消費」となり、CDを購入する意欲が毎年
減っていた
29。その影響で、CDの生産数が
から約 30 億枚(2005 年)と大幅に減少した
1999 年より毎年減少し、約 45 億枚(1998 年)
30。
ここで音楽業界と映画業界の類似点を簡単に整理すると、
a 同じ娯楽
b 制作システムが似ていること(映画の場合は制作所→配給会社→映画館、音楽業界の場
合は作詞・作曲→レーベル→市販)
c 映画より早くパッケージからデータとなった
などの点が挙げられる。次節では音楽業界をより詳しく紹介する。
①
日本の音楽業界全体の現状
1990 年代に低価格のCDシングルの登場やカラオケやテレビドラマ・CMとのタイアップ
と連動する形でCD生産は拡大を続いて、ピーク時の日本のオーディオレコード生産金額は
5878 億円、生産数量は 4 億 5717 万枚だった 31。翌年から毎年少しずつ減少し、2005 年の
生産金額は、4,222 億円(前年比 97%)、生産数量 3 億 3,521 万枚(同 101%)と、金額は前年
を下回ったが、生産数は僅か増えた。
社団法人日本レコード協会(RIAJ)では「長引く景気低迷の中、音楽ソフト購入の中心を
占める若年層の人口減少や携帯電話に代表される情報通信費への消費増等のため」が原因
27
情報通信政策局[2004]
28
コンテンツ:定義は非常に広いが、ここでは「知的資産」
・
「経済的に取引される情報財」
を意味する。
29「コンテンツの所有」―ハード(ここでは CD を指す)を所有して消費すること。
「コンテンツの消費」―聞く権利だけを所有する。
30 日本レコード業界 HP 過去 10 年間の生産実績:
(06’ 12/11 アクセス)
http://www.riaj.or.jp/data/cd_all/cd_all_q.html
31 日本レコード業界ホームページ:より引用
http://www.riaj.or.jp/report/index.html
- 12 -
だと分析している 32。また、違法コピーなどの著作権の侵害も大きな原因と考えられる。
②
著作権 33
違法コピーや違法ダウンロードによって日本の音楽業界は大きな被害を受け、著作権を
侵害されている。身近な様で、複雑な著作権について本項で少し触れたいと思う。
著作権法第一条 34より、著作権法は上手下手が関係なく、人のマネでなく、その人の思
想や感情が創作的に表現されているものであれば、たとえ 3 歳の子どもの絵も小学1年生
の作文も著作権法によって守られる。著作物とは、文化的な創作物で文芸、学術、美術、
音楽などのジャンルに入り、人間の思想、感情を創作的に表現した物のことであり、また
それを創作した人が著作者である。小説、脚本をはじめ、音楽、絵画、美術品、建設物、
地図、映画、写真など、人の手により様々な形で生み出されたあらゆる著作物や創作物に
は、すべて著作権が存在すると考えられる。このように多岐にわたる著作物を、他者が何
らかの形で利用したい場合、つまり著作物の利用承諾や譲渡を受けたい場合は、著作権の
保有者である著作権者、またはその代理人と交渉する。もしくは、音楽著作権管理事業者
を通じて交渉する必要がある。一般には「著作権」と一言で表現されているが、実際には
使用状況に応じて、著作権はいくつもの種類にわかれている。
音楽業界の著作権と関連するものは、著作者(レコード会社)が音楽録画することで発
生する「録音録画権(複製権)」、コンサートや放送局などで音楽が使用される場合に発生
する「演奏権」と「放送権」、さらにレンタル店から一般市民への「貸与権」がある 35。例
えばテレビ局が番組中にBGMとしてある音楽を使用した場合には、テレビ局は著作者に対
して、「放送権」に対する使用料を支払わなければならない。
一方、実演家(歌手や演奏家)やレコード制作者の権利は「著作隣接権」によって守ら
れている。実演家は著作物の作者ではないが、著作権法第九一条で「録音及び録画する権
利を有する」とされているからである。実演家は、この権利を対価として、業界団体等か
ら印税を受け取ることができる。またレコード会社や放送局などにもいくつかの権利が与
えられている。このように、それぞれが有する権利の譲渡や使用承諾によって音楽ビジネ
スは成立しているのである。
日本レコード協会 2005 年度「音楽メディアユーザー実態調査」:(06’ 12/11 アクセス)
http://www.riaj.or.jp/report/mediauser/index.html
33 社団法人著作権情報センターHP 著作権法
http://www.cric.or.jp/db/fr/a1_index.html
34 著作権法第一条:著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利
及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作
者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。
35 実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約:
(06’ 12/11 アクセス)
http://www.cric.or.jp/db/z/wjr_index.html
32
- 13 -
③
違法コピーについて
また 1999 年から音楽 CD の売り上げが毎年下がった原因として、音楽の「違法コピー」
の氾濫が挙げられる。その被害を広げている要因として、CD-R によるコピーとインター
ネット上のファイル交換ソフト等の発達である。それゆえ音楽とインターネットの関係を
論じる上で違法コピーとファイル交換問題を避けて通るわけにはいかない。
自分のオリジナ ルである
Tを作
コピーした ものでMY BES
。
れる
る
人にあ げやすい ・ 喜ばれ
ング
コピー した ものは更にダビ
できる
ーできる
他のメディアより早くコピ
12%
20%
22%
23%
30%
42%
43%
48%
安い
CD-Rは他のメディアより
車の中で使いやすい
コピーできる
オリジナ ルと同じ音質で
75%
る
CDプレイヤー で再生でき
0%
20%
40%
60%
80%
(図3「音楽コンテンツに関わるCD-R等の利用実態」CD-Rの音楽用利用の理由 36)
図3によると、CD-Rの音楽用利用としては、「CDプレーヤーや車の中で、CDと同じ音
質で楽しめるから使う」という理由が上位を占める。また他メディアより安く、早くコピ
ーができるから」という理由が続いている。CD-Rによる音楽コピーは著作権法第 30 条「私
的使用のための複製」 37により個人的な限られた範囲内で使用する目的で、使用する本人
がコピーする場合は、著作者から承諾を得なくても自由にコピーしてもいい。ただし、他
人に送る目的でコピーすることはできないと定められている。それにも関わらず友達・知
人のためにCD-Rを録音した人は約半分もいる。
この影響が 1999 年から CD の生産数と売り上げが下がる要素の一つだと考えられる。
日本レコード協会 音楽コンテンツに関わるCD-R等の利用実態:
(06’ 10/30 アクセス)
http://www.riaj.or.jp/report/index.html
37 著作権の目的となっている著作物は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた
範囲内において使用することを目的とする時は、その使用するものが複製することがで
きる。
36
- 14 -
④
ファイル交換ソフトについて
パソコンの普及によって、音楽データの配信がネットワークを通じて可能になった。イ
ンターネットがない時代は友達間の交換ぐらいだけでそんなに影響に及ばなかったが、ネ
ットワークを通して音楽データは約 2-3 分だけで世界中へ広がっていく。その上、音楽デ
ータコピーの音質は音源と同じである。ユーザーはこの行為は違法であるとわかっている
にもかかわらず、音楽データの収集をやめることは現在にいたっても無い。当初はホーム
ページから堂々と音楽データをダウンロードしたが、レコード会社や JASRAC(日本音楽
著作権協会)の警告キャンペーンにより、ダウンロードできる場所は少なくなった。その
後、ユーザーは ICQ・Hotmail・Yahoo メッセージャーなどのコミュニケーションソフト
のファイル転送機能を利用して、音楽データの交換を始めた。
⑤
違法コピーへの対応
(1)コピーコントロールCD(CCCD) 38
CCCD とは「パソコンでコピーできないようにした音楽ディスク」のことである。日本
で初めて CCCD が発売されたのは、2002 年の 3 月。エイベックス所属アーティストの BoA
のシングル『Every Heart - ミンナノキモチ』で導入された。5 月には東芝 EMI がコンピ
レーションアルバムで CCCD を導入し、その後ワーナーミュージック、
ポニーキャニオン、
ユニバーサルミュージック、キングレコード、ビクターエンタテインメントなどの大手レ
コード会社が続々と CCCD タイトルを発売。11月には、ソニーミュージックエンタテイ
ンメント(SME)が、独自形式となる CCCD「レーベルゲート CD」を発表した。
(2)レーベルゲートCD(LGCD) 39
通常 CCCD ではセカンドセッションに圧縮音源が収録されており、PC の CD-ROM ドラ
イブに挿入すると自動的に専用再生ソフトがインストールされて、音源を聴くことができ
るようになっている。LGCD ではこの圧縮音源へのアクセスにライセンスが必要となって
おり、再生したり PC に複製したりするたびにネット接続して認証および課金を行う仕組
みになっている。2003 年 11 月には LGCD2 にバーョンアップし、複製しないで再生する
だけの場合にはライセンスを確認しなくなった 2004 年 7 月、CCCD を発売したことがあ
るのは日本レコード協会正会員 21 社のうち、約半数にあたる 10 社。SME、東芝 EMI、
エイベックスという大手 3 社が CCCD を積極的にリリースしていることもあって、CCCD
化は業界的な流れのように思えるが、それでもメジャーレコード会社の約半分は静観して
Music Liberation Front 「CCCD」:(06’ 10/30 アクセス)
http://www4.plala.or.jp/precious/cccd.html
39 Sony 「LGCD」
:(06’ 11/1 アクセス)
http://www.sonymusic.co.jp/cccd/
38
- 15 -
いる状況である。
2002 年の導入当初は、どのレコード会社も CCCD 化するタイトルは少なく、リスナーの
反応を見つつ導入しているという状況だった。だが、2 年以上が経過し、現在は CCCD に
積極的な会社と消極的な会社がはっきりと分かれるようになっている。現在もっとも
CCCD に対して積極的なのは、エイベックスと SME の2社だ。両社とも基本的にはシン
グル、アルバムともほぼ全タイトルを CCCD 化している。
⑥
日本の音楽配信サービス開始
違法コピーやファイル交換ソフトの問題で、パソコン・インターネットを利用して幅広
い層に楽曲を販売しようとする方法も模索されてきた。それが、インターネット上でアー
ティストの楽曲をダウンロードしてパソコンなどで音楽を聴くことができる「音楽配信」
サービスである。日本の音楽配信サービスの歴史は、米国よりも古い。20 世紀末には既に
インディーズ系の音楽配信サービスが 2 つオープンしている。1999 年 9 月にミュージッ
ク・シーオー・ジェーピーが MP3 形式による単曲ダウンロード型音楽配信を開始。この
MP3 ファイルには電子透かし技術が使われ、不正使用監視や権利処理、売上分配などに応
用された。同年 10 月には、ノエル(現在はイメージクエストインタラクティブに営業譲渡)
による「indiesmusic.com」が開始。インディーズ系の音楽配信から遅れること 3 ヶ月。12
月に国内初となるメジャーレーベルの SME による音楽配信「bit music」がスタートする。
価格は一曲¥300~¥350 円でダウンロードできた。
以後、有料音楽配信サイトが急増し、現在では約70サイトぐらいある。価格は一曲
¥150~である。また、2006 年 10 月 3 日より、ナップスターはタワーレコードと連携
し、新しい有料音楽配信サービスをスタートした。価格は月¥1280~の定額制の上、曲
数は 150 万曲ほどタウンロードし放題というアピールで注目を浴びている。
9%
10%
42%
39%
2005年以後はじめ
て利用いしていた
(図4
40
利用したことがなく、
今後も利用したくな
い
利用したことはない
が、今後は利用した
い
2004年以前から利
用していた
総務省情報通信政策局[2006]
- 16 -
有料音楽配信サービスの状況 40 )
⑦
APPLE社・i Tunes Music Storeの開設 41
米 Apple Computer 社は 2003 年 4 月 28 日にオンラインのミュージック・ストア「iTunes
Music Store」を開設した。ストアを利用にはデジタル音楽のジュークボックス・ソフト
「iTunes 4」が必要だが、1 曲 99 セントだけでダウンロードできる。ストアが個人で利用
することを条件に,焼き付け可能な CD の枚数,再生に利用する i Pod の数は規制を受け
ない。また、ストアに BMG、EMI、Sony Music Entertainment、Universal,Warner か
ら 20 万を越える楽曲が用意され、ユーザーは検索エンジンで自分が求めているアーティス
ト・アルバムを検索できる。ユーザーは購入前に無償で 30 秒間試聴してから購入するかど
うかを決める。 iTunes Music Store ストアは音楽のジュークボックス・ソフト「iTunes 4」
と統合され,1 つのアプリケーションから購入、ダウンロード、整理、再生ができ、非常
に便利である。アメリカ限定での販売だったが、それにも関わらず、i Pod の出荷台数が
2003 年 6 月 24 日時点で 100 万台を超え、楽曲のダウンロード販売数は、サービス開始か
ら 8 週間で 500 万曲を超えた。そして、2005 年1月時点ではダウンロード数が累計 2 億
3000 万曲に達したこと、そして日々のダウンロード数が 125 万曲になった。
2005 年、8 月にiTunes Music Storeのサービスが日本に開始され、開始 4 日で販売数が
100 万曲を越え大人気となった
42。しかし、日本の音楽業界は保守的な部分が多く、iTunes
Music Storeがスタートしたにもかかわらず、大手レコード会社の中には楽曲を提供しない
企業がある。消費者にとって利便性の低い商品・サービスを提供する企業は、長期的には
衰退することは想像にたやすい。このように、短期的な視点からP2Pやコピーを恐れ、収
益機会を遺失しているのが日本の音楽業界の実情である 43。
日本音楽業界は 1990 年後半から、パソコンとインターネットの影響を受け、低迷してい
た。今までの手段・戦略を使っても、もはや無意味のため、音楽業界はCCCDとLCCDの
実施・有料音楽配信サービスの実行などを開始した。CCCDとLCCDは音楽会社によって
積極的に使用すると使用しない会社があるが、2005 年アップル社のiTunesサービスが大人
気の影響で、有料音楽配信サービスは各会社に積極的に使われた。その結果、日本中約 30%
の人が使用し、2005 年日本の音楽配信による収入は 3 億を超えた 44。音楽業界は最初ネッ
ITPro:(06’ 12/23 アクセス)
http://itpro.nikkeibp.co.jp/index.html
42 Apple 「日本の iTunes Music Store、開始から 4 日で 100 万曲を超える販売達成」
:
(06’
12/30 アクセス)
http://www.apple.com/jp/news/2005/aug/08itms.html
43 slash games「音楽業界は P2P やコピーをおそれて販売チャンスを失っている」
:
(06’ 12/23 アクセス)
http://www.rbbtoday.com/news/20051021/26430.html
44 国際レコード産業連盟
2006 年レポート 11 ページ:(06’ 12/13 アクセス)
http://www.ifpi.org/content/library/digital-music-report-2006.pdf
41
- 17 -
トによって大きな被害を受けたが、2 年前から逆にそれを利用して、新しい商売を始める
ことができた。企業は新しい技術、たとえそれが既存の市場構造や利益を獲得する方法を
壊す可能性を秘めているとしても、それに積極的に順応し、利用する必要がある。果たし
てこの波に映画産業も追随することが出来るであろうか、次章で詳しく述べたい。
5章
①
映画業界のジレンマ
イノベーションのジレンマ
さて、一時期の音楽業界のように今現在映画業界が窮地に立たされているというのは推
測するに難くないが、今のところ映画配給会社の対抗策としては、3章で述べたように二
次利用である DVD などの映像コンテンツを販売し、興行収入を得ているのみである。この
ままでは音楽業界と同様、アップルのような新規参入者に隙を与えてしまい、衰退の一途
をたどるのではないだろか。
ここに、技術面と主とするあらゆる面において広範囲に、かつ急速に進化し続けてきた
ハードディスク業界の「イノベーションのジレンマ」の例を挙げてみようと思う 45。
この業界では、14 インチ、8 インチ、5.25 インチ、3.5 インチと、ディスクドライブの
大きさが徐々に小型化していったが、不思議なことに、14 インチ→8 インチ、8 インチ→
5.25 インチ、5.25 インチ→3.5 インチと主力商品が交替するとき、それまでの主力メーカ
ーはほぼすべて競争に敗れ、市場から姿を消した。
当初、失敗の原因は「技術」にある
と考えられたが、技術仕様と性能向上の関係性を詳しく分析した結果、根底にあるのは技
術革新の速度や難しさではないという結論に達する。実際、当時の主力メーカーはいずれ
も、小さなディスクドライブの開発は技術的に可能であった。
しかし当時、主力メーカーが主要顧客から要求されていた要件は、1 台あたりのハードデ
ィスク容量、1MB あたりのコスト、そして性能であった。だがそのいずれも小さなディス
クドライブの方が劣っていて、しかも小型ディスクは単価が安いので粗利率も低い。
「顧客
は欲しがっておらず、しかも儲からない技術にこだわる理由などない」と考えた既存メー
カーの経営陣は、その技術を見限る。しかし、その技術を使って何とかビジネスしたいと
必死の新興企業は、別の売り先を探す。その結果、8 インチではミニコン、5.25 インチで
はパソコン、3.5 インチでは小型パソコンやラップトップ・パソコンという新たな市場を発
見する。
この新たな市場で、新たなディスクが採用されるに至った理由は、ディスク容量や性能
ではなく、物理的な大きさや 1 台あたりの価格、つまり、これまでとは異なる基準であっ
た。
さらに、安定供給先を確保した新興企業は、徐々に既存の性能基準である、ディスク容
45
Christensen [1997]
- 18 -
量や 1MB あたりの価格やアクセス・タイムを向上させ、ついには上位市場も奪い、かつて
の主力メーカーを市場から追い落としていった。
このことから分かるように、優良な企業であるほど投資は完全に収益性の高い顧客の意
向に沿ったものになるので、まったく異なる価値基準、すなわち「破壊的技術」が出現し
たとき、何の手立ても出せないでいる。
映画業界にこの状況を当てはめると、3 章で取り上げた P2P が「破壊的技術」となる可
能性がある。配給会社が分析的な投資プロセスに固持するあまり、低収益、低価格の分野
に空白が出来、そこに P2P という「破壊的技術」により、音楽業界におけるアップルのよ
うな新規参入者が入り込む隙間を与えてしまうかもしれない。
Amazonがダウンロード販売を開始したのも、音楽業界が参入者であるAmazonの技術を
見限り、主要顧客のみに耳を貸した結果かもしれない 46。
米タワーレコードが廃業を余儀なくされたのもイノベーションのジレンマが原因なので
はないか
47。ではイノベーションのジレンマに陥った企業が取るべき戦略は何なのであろ
うか。
②
バリューネットワーク
その疑問を紐解いていくには、バリューネットワークの理解が不可欠であるといえよう。
先述したが、映画産業は長年の間、製作、配給、興行という密接した「バリューチェーン」
を展開してきた。ここでいうバリューチェーンとは付加価値をつける連鎖のことをいう 48。
1 つの産業が成立するには、原材料を製造加工し、卸業者から小売店に渡って、消費者の
もとへ届けるという連鎖が必要である。家電製品を例にとると、昔は、松下やソニーとい
った企業が、開発・生産・販売までを一手に担うというのが普通であった。しかし、現在
はメーカーが開発したものを協力工場が生産し、小売ルートも自社グループに限らず多様
な会社が担う。このように、バリューチェーンをばらばらに分解することをデコンストラ
クションという。
ところが、インターネットを基準にあらゆるコンピュータがつながり、サイバースペー
ス上を膨大な量と種類の情報が行きかう現在では、従来の直列的な製作、配給、興行とい
う密接したバリューチェーンは解体されつつある。ビジネスの付加価値をサイバースペー
スに移行すると変動コストはほとんどかからないのだ。強い機能だけがサイバースペース
Amazon.com ニュースリリース:(07’ 1/6 アクセス)
http://phx.corporate-ir.net/phoenix.zhtml?c=97664&p=irol-newsArticle&ID=903243&
highlight=
47 日経ネット
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20061007AT2M0701J07102006.html
48 バリューチェーン(価値連鎖)は Porter[1985]により広められた、企業の価値創造活動
を分析するフレームワーク。ここでは程他 [1998]を参考にした。
46
- 19 -
上で再接続されることをバリューネットワークと呼び、バリューネットワークにおいては、
自社の強みを絞りきれない企業や規模の大きさだけを誇る企業は衰退のリスクにさらされ
る。
例えば、日本の金融業界は営々と築き上げてきた店舗網を重んじるあまり、インターネ
ットへの取り組みが遅れている。そこに目をつけたソニーが、シュワブとの提携で本格参
入を表明したのである
49。こうした既存企業の空白部分を狙う新規参入、異業種参入は後
を絶たない。
またバリューネットワークへの再編は、従来の直列的なバリューチェーンのなかでは自
社と直接接触のなかった顧客の顧客をも対象とするので、企業は従来の流通機構とは別に、
直接顧客との接点を持つことが可能になるが、一方で自社の顧客接点をサプライヤーに奪
われる恐れもある。業界横断的なネットワークが形成され、業界をまたぐ新たな市場が創
出されることもありうる。
いまマルチメディアの到来、グローバリゼーションの加速により、ビジネスが根底から
代わろうとしている。既存顧客をより満足させ維持していこうとする従来の考え方は、既
存顧客を失ってしまうかもしれない恐怖感により、現状維持から抜け出せず守りの姿勢を
促してしまう。優良な企業であるほど、主要顧客に耳を傾け、新規参入者に隙間を与えて
しまうのだ。しかしバリューイノベーションを実践する企業は(バリューイノベーターと
いう)バリューネットワークを持つことで社内外の組織能力を活かし、チャンスを現実の
ものにしていく。ここでいうバリューイノベーションとは、既存の市場においてまったく
新しく優れた価値を提供することで競争を無意味にしてしまうというもので、その新しい
価値から新しい市場を生み出すことである
50。つまり得意領域を持つ者同士が協力して新
しい機能ミックスで付加価値を創出していくのだ。
ネットワーク時代のビジネスの主役が企業から顧客に移っているのは、音楽業界をみる
からに明らかだが、そこでの成功の鍵はどれだけ顧客中心のビジネスモデルを構築できる
かにかかっているのかもしれない。
6章
映画業界の今後の展望~まとめ
音楽業界は著作権を無視する無料ダウンロードサイト、「Napster」や「Winny」に大き
なダメージを受けてかつての成功、輝きは見られない。CD の売り上げも年々減少傾向にあ
49
日経ネット
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20061007AT2M0701J07102006.html(07’ 1/6 アク
セス)
50 Kim and Mauborgne[1999]
- 20 -
る。米大手タワーレコードも「Napster」や「I-pod」だけが全ての原因ではないが、ICT
(情報通信技術)革命による時代の変化にうまく乗れなくて倒産した。映画業界も海賊版
や無料ダウンロードサイトに少なからずダメージを受けてはいるがまだ壊滅的な打撃はう
けていない。しかし、いつその日がくるのか。
ICT の進化によって、映画と私たちを取り巻く環境は 20 年前とはずいぶん違う。すくな
くとも映画がより身近になったと答える人が多いであろう。映画会社のホームページや
「YouTube」などのサイトに行って、探そうと思えば映画の予告編やワンシーンを見るこ
とも可能である。
また、映画の二次利用の形態も変わってきた。1990 年初頭は皆、ビデオテープを買って
いた。それから画像もきれいで薄くて小さい DVD が普及した。十年前の映画のビデオテー
プに比べて、今日店頭に並ぶ DVD はより手ごろな値段になったし、高画質であり、字幕設
定や特典映像なども見ることができる。2章で述べたように映画によっては上映収入より
も DVD の売り上げの方が高い作品もあるほど映画業界にはかかせないものとなっている。
しかし今後、二次利用が主流の DVD のポジション(居場所)も、変わっていくであろう。
すなわち、ビデオテープや DVD のようなパッケージで販売するのではなく P2P 技術を利
用したデジタル配信が主流になっていくことが予想される。このデジタル配信は破壊的イ
ノベーションになりかねない。
もとより、日々進化していく ICT 技術を止めることはできない。もし止めようとしても
それは時代の流れに逆らうだけであって不可能であるし逆効果であろう。これからは発展
した IT 技術を利用して、どのようにビジネスに応用し、いかに新たな収入を得るかが大き
な課題となる。P2P 技術を利用した有料ダウンロードサービスが代表的な例である。既存
の映画会社に大ダメージを与えかねない破壊的イノベーションとも言える P2P 技術をどの
ようにうまく映画会社が利益を得られるようにすることに知恵を絞っている。ここで大事
なのは充実した課金システムを作り、浸透させること、そして一度ダウンロードしたコン
テンツを非合法的に(複数の DVD-R に焼くなど)利用出来なくする技術を搭載すること
である。この課金システムこそが今後の映画業界が取り組むべき課題になるであろう。
もちろんその際には、高品質の映像と魅力的なコンテンツが豊富に用意されていること
も必須条件である。P2P 技術はリスクが高いものでもあるが、映画業界に莫大な富をもた
らす可能性も大いにある。音楽業界は既得権益維持に拘泥して、新たなデジタル・ネット
ワークに対して否定的だったところをアップルに利益を奪われてしまった。これを教訓と
して映画会社は著作権保護に集中する守りの姿勢をみせるのではなく、より多くの映画を
より多くの人に提供(販売)する攻めの動きにでる必要があるであろう。その戦略が実現
されたとき、映画会社は非常に大きなビジネスチャンスを手にするかもしれない。DVD を
売る小売店のように物理的、時間的な制限がないインターネットの世界で何倍もの作品を
供給することで、より多くのそして新しい顧客を呼び込むことができる。商品の選択肢を
増やすことによって潜在需要が解き放たれるであろう。昔、青春時代に見た思い出の映画
- 21 -
をみたいと思ったとしよう。その映画がとても古くてそこまで有名でない場合、レンタル
ショップは限られたスペースの中で人気商品を並べるので、マイナーな作品を見つけるこ
とは困難であろう。しかし、無限の商品スペースを持つ有料ダウンロード販売ではこれが
可能になる日が遠からずくるかもしれない。なぜなら完全にデジタル化されたサービスの
ため金のかかる商品棚や流通コストもいらないのでマイナー映画(ニッチ)の販売にも積
極的に投資できるであろう。
それはインターネット上での無限の在庫スペースを利用し大成功したAmazonのビジネ
スモデル真似てである
51。すべての商品を手に入るようにすることと、欲しい商品を手に
入れる手助けをすることでAmazonは成功した。しかし映画にこの顧客中心のビジネスモデ
ルをそのまま当てはめることができるかが今後の課題である。映画は本や音楽とは違い初
期投資が莫大なため「売れない商品、ニッチ」では資金回収が難しいという懸念もある。
有料ダウンロード販売は未知数であり現在開拓されている市場である。ダウンロード販売
はすでに始まっていてアップルと提携したディズニーなどは幸先の良いスタートを切った
が、これで満足してはいけない。映画会社が目指すべき方向は顧客が真に価値を認める製
品機能の一定の構成と、そのターゲットまでの距離(新たな競争空間を開くための価格及
び性能の構成を実現する上で克服すべき技術その他の障害)を決定することである。製品
やサービスは、その機能、価格、及び性能が目標市場に迅速かつ深く浸透するに足る完全
に正しい割合で構成されている時にヒットする 52。
人々は映画に笑い、学び、悲しみ、感動を受ける。人々は第二次世界大戦後、傷ついた
心の癒し先を映画に求め、映画も常に期待に答えた。白黒の世界でチャップリンが体 1 つ
で大衆を笑わせた時代から、宇宙人が地球を襲ってくる話や、クモ男がビルからビルに飛
び移ったりする映画が大人気の現代を考えると、映画の内容や映像技術はずいぶん変わっ
たが、その時代ごとに映画は愛され続けた。映画は人々の人生や考え方に影響を及ぼすと
信じている。そしてまた映画はスクリーンを通じて戦争、人種差別、宗教問題、貧困など
様々な社会問題を世に訴える。多大な影響力を持つ映画自体への需要はこれからもなくな
らないであろう。しかし、2006 年度の公開となる映画は、
「スパイダーマン 3」、
「パイレー
ツ・オブ・カリビアン 3」、
「007 カジノ・ロワイヤル」、
「ソウ 3」、
「テキサス・チェーンソ
ー:ビギニング」、
「バタリアン 5」、
「オーシャンズ 13」、
「バットマン The Dark Knight」、
「シュレック 3」など、シリーズものや続編ばかりで、「リング」「呪怨」、「南極物語」な
どの日本映画のリメイクも増えてきた。これはハリウッドがオリジナルの発想の映画が作
れなくなってきている典型例ではないだろうか。
配給システムの崩壊、顧客中心のビジネスモデルの構築以前にこのようなシリーズものや
続編やリメイクものに頼らざるを得なくなってきている映画産業の現状にも不安が残る。
51
52
Anderson [2006] Page35~37
Hamel andPrahalad [1991]は「企業は市場を開拓したからといって優位な位置を維持で
きるとは限らない」と指摘している。
- 22 -
つまり、本論文で述べてきた情報技術の発達により、映画産業の創作に関するコンピテン
ス、すなわち他社に真似のできない技術・営業上の本質的な強みが、実は張子の虎であっ
たことが露呈するだけかもしれない。そのときが私達映画を愛するものが落胆し、映画産
業の本当の危機かもしれない。
参考文献
■Anderson, C. [2006], The Long Tail: Why the Future of Business Is Selling Less of
More, Hyperion.(篠森ゆりこ訳[2006]、
『ロングテール―「売れない商品」を宝の山に
変える新戦略』,早川書房。)
■Bower, J. L., and C. M. Christensen [1995], "Disruptive Technologies: Catching the
Wave," Harvard Business Review, January-February 1995, pp.43-53. (「ハイテク萌
芽市場を制する分岐技術」、『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー』 1995
年 6-7 月号。)
■Christensen, C. M. [1997],The Innovator‘s Dilemma, when New Technologies Cause
Great Firms to Fail.(伊豆原弓訳[1997]、「イノベーションのジレンマ」翔泳社。)
■Kim, W. C., and R, Mauborgne [1999], "Value Innovation;The Strategic Logic of High
Growth", Harvard Business Review, January-February 1999, pp.83-93.(「バリュー・
ブレークスルー・マーケティング」
、
『 ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー』
1999 年 6-7 月号。)
■Stern, H. [2004],I Pod And I Tunes Hacks.(株式会社エディックス 訳 [2005]『I Pod &
I Tunes Hacks
デジタルミュージックを自由に楽しむテクニック-』、株式会社オライリ
ージャパン。
)
■ Porter,M.E[1985],Competitive Advantage: Creating and Sustaining Superior
Performance,The Free Press.(土岐坤,中辻萬治,小野寺武夫訳,[1985],『競争優位の戦略
―いかに高業績を持続させるか―』,ダイヤモンド社。)
■赤木昭夫 [2003]、『ハリウッドはなぜ強いか』
、筑摩書房。
■大川正義 [2006]、「最新音楽業界の動向とカラクリがよ~くわかる本」、秀和システム。
■株式会社三菱総合研究所 [2001]、
『映画産業に関する商慣行改善調査研究報告書』』
』、経
済産業省。
■株式会社電通 電通総研[2003]、『米国におけるメディア・コンテンツ産業競争政策の動
向調査報告書』、経済産業省。
■株式会社 UFJ 総合研究所[2003]、
『映像ソフトに係る著作権等の処理に関する調査研究』、
経済産業省。
- 23 -
■北野圭介 [2001]、『ハリウッド 100 年始講義-夢の工場から夢の王国へ』、平凡社。
■社団法人経済産業統計協会[2003]、『特定サービス産業実態調査報告書』経済産業省。
■総務省情報通信政策局[2006]、『平成18年「情報通信に関する現状報告」(平成18年
版情報通信白書)』、総務省。
■総務省情報通信政策局[2004]、『通信利用動向調査
報告書世帯編』
、総務省。
■程近智、勝屋信昭、日置克史 [1998]、
『e エンタープライズへの挑戦
バリューネットワ
ークの再構築-』、ダイヤモンド社。
■三野明洋 [2002]、『業界の最新常識 よくわかる音楽業界』
、日本実業出版社。
■山田和夫 [2003]、『日本映画の歴史と現在』、新日本出版社。
- 24 -