HIV/エイズと仕事 2006 年版:

HIV/エイズと仕事 2006 年版:
世界の推計、子どもと若者に対する影響、そして対応
エグゼクティブ・サマリー
2005 年の時点で、エイズウイルス(HIV)の影響がきわめて深刻な世界 60 カ国において、
HIV 感染率は 1%未満から 30%を優に超えるまでの広い範囲に及んでいた。アフリカ諸国
は依然としてこの感染症の猛威にさらされ続けている。アフリカ諸国における HIV の平均
感染率は、15 歳から 49 歳までの成人で 6.4%であった。これは、世界平均の 1.4%をはるか
に超えている。感染が深刻なその他の二つの発展途上地域(ラテンアメリカ・カリブ海諸国
とアジア)では、地域平均は 1%以下である。
国連合同エイズ計画(UNAIDS)による推計によれば、2005 年末の時点で、全世界で 3,860
万の人々が HIV に感染しており、その大半(3,630 万人)が 15 歳以上の人々、つまり生産
年齢の人々であった。ILO は、国連人口部による最新の人口データと、ILO 自身による労働
力人口に関する最新の推計とに基づき、HIV 感染症が、今の時点で世界の労働力に与えて
いる影響と、将来的に世界の労働力と生産年齢人口とに与えるであろう影響について、それ
ぞれ評価を行った。
この ILO の調査によれば、2005 年には世界全体で、15 歳から 64 歳までの労働力人口の
うち 2,456 万人が HIV 感染者またはエイズ患者で、その多く(67%近く)がアフリカに住
んでいた。以下の 5 カ国では、100 万人以上の労働者が HIV/エイズをかかえながら生きて
いた。つまり、モザンビーク(140 万人)、ナイジェリア(180 万人)、南アフリカ(370
万人)、タンザニア共和国(120 万人)、ジンバブエ(110 万人)である。それに対して、
労働力人口の中で HIV 感染者またはエイズ患者が 100 万人を超えるのは、アフリカ以外で
はアジアにただ一国存在し、それはインドである。インドでは、390 万の人々が HIV/エイ
ズをかかえていると推計されている。世界全体では、HIV/エイズとともに生きている全労
働力人口の 41%が女性である。アフリカではこの割合はさらに高くなり、43%となってい
る。
さらに、資源が乏しい環境(とくにアフリカ)においては、すべての成人と大半の若者が
ある程度まで経済的な活動に従事しているとするならば(それによってもたらされる生計手
段がたとえ既存の経済用語では容易に評価されないものであったとしても、そのように仮定
するならば)、HIV/エイズをかかえながら生産能力のある人々の総数は、労働力人口を上
回っており、感染した生産年齢人口の総数に近いものと思われる。成人は、たとえば将来的
に労働を担うことになる子どもを養うことなど、他の形を通じても経済に貢献していること
に鑑みるならば、HIV が全成人人口、とくに女性に与える影響を考慮することは重要であ
る。
この意味で、全世界で 3,630 万の生産年齢にある人々が HIV に感染しているという推計
は、HIV 感染症が仕事の世界に与える影響を十分に示していると言える。すなわち、HIV
感染者/エイズ発症者である推計 2,460 万の労働力人口に加えて、1,200 万近くの人々がな
んらかの生産活動に従事し、よってある程度まで経済的に生産能力を有しつつ、HIV/エイ
ズとともに生きているのである。
HIV 感染症が労働力人口と生産年齢のすべての人々とに与える影響は、HIV 感染症が経
済成長や雇用増加に及ぼす全般的影響から知ることができる。ILO は 2004 年に、HIV/エ
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イズで深刻な影響をこうむっている国々では、同感染症が労働力供給や生産性、投資に及ぼ
す影響によって経済成長率が過去 10 年以上にわたって低下してきたことを実証し、2006 年
には最新のデータによってこれを確認した。2006 年には、1992 年から 2004 年のあいだに
43 カ国が平均で経済成長率の 0.5%を毎年失ったことを指摘した。なかでもサハラ以南アフ
リカの 31 カ国の場合は、年平均経済成長率の 0.7%が失われている。ILO は本報告書でも、
雇用増加に及ぼす影響の評価モデルを用いて、上記の 43 カ国で経済成長の低下によって、
同期間において雇用増加率が年平均で 0.3%低下したことも指摘した。これは、毎年 130 万
人の雇用が失われたことを意味する。サハラ以南アフリカの 31 カ国では、毎年平均で雇用
増加の 0.5%が失われたが、これは、アフリカだけで毎年 110 万の雇用が失われたことに等
しい。
しかし、エイズとともに生きている労働者が、効果的な抗レトロウィルス薬(ARV)療
法を利用できるならば、企業、世帯、家族、コミュニティ、そして経済は、その恩恵をこう
むることができる。たとえば、本報告書で ILO が用いたモデルでは、エイズを発症して 2004
年に治療を受けた労働者は、全世界平均で治療後 54 カ月のうち 34 カ月のあいだ就労が可能
であったとされ、その結果として、生存している 12 カ月ごとに、世界経済に対して、世界
の一人当たり平均所得の 7 倍以上にあたる貢献ができた可能性があるとされている。抗レト
ロウィルス薬による恩恵は、他のどの地域よりもアフリカにとって大きいと思われる。エイ
ズを発症した平均的労働者は、治療後 54 カ月のうち 36 カ月のあいだ生存が可能であり、そ
の労働者は生存する 12 カ月ごとに、アフリカ経済に対して、サハラ以南アフリカ地域の一
人当たり平均所得の 8 倍にあたる貢献ができた可能性があるとされている。
抗レトロウィルス薬の利用が、現在及び今後において増加すると予測され、いまや人口予
測モデルにも含まれているにもかかわらず、現実には、HIV 感染症は労働力人口に対して
依然としてきわめて深刻なダメージを与え続けている。2005 年には、全世界で 300 万人以
上の労働力人口が、エイズに起因する疾病のために、十分にあるいは全く働くことができな
かった。そして、その 4 分の 3 がサハラ以南のアフリカに暮らす人々であった。そのうえ、
労働力人口のうち就労が不能となった者は、全世界の総数で今後 2020 年までのあいだは減
少はしないものの横ばいで安定すると予想されているが、抗レトロウィルス薬の利用がなか
なか増加しないと予測されるアフリカにおいては、増大し続けると予想されるのである。
昨年 2005 年には、抗レトロウィルス薬の利用拡大に向けてある程度の進展が見られたも
のの、同薬の利用は資源の乏しい環境でははなはだしく立ち遅れている。これから発症し死
亡してゆく労働力人口の予測から、抗レトロウィルス薬に対する新たな需要が予想され、同
薬に対する世界的な累積需要の見込みが計算できる。薬が利用しやすくなることでこうした
需要がある程度までは満たされるにしても、今後予測される労働力の損失を回避するために
アクセスを緊急に最高水準にまで増加させることの重要性が、この予想数値からはっきりと
読み取れる。
当面のあいだは、HIV 感染症による影響の結果として、世界全体の労働力人口における
累積死亡者数は、2005 年の推計 2,800 万人から 2010 年には 4,500 万人、2015 年には 6,400
万人以上、そして 2020 年にはおよそ 8,600 万人にまで増大し続けるものと予想されている。
この数字には抗レトロウィルス薬利用の増加予想は織り込み済みである。HIV 感染症が生
産年齢の全人口に対して及ぼす世界的影響を考えるなら、抗レトロウィルス薬の利用が増加
すると予想されることを考慮しても、2005 年の時点で年間で 340 万人の生産年齢の若者と
成人が死亡したのに対して、2010 年には年間死亡者数は 410 万人、2015 年には 440 万人へ
と増加し、2020 年には 450 万人にまで達するものと予想されている。発展途上地域のラテ
ンアメリカ・カリブ海諸国では、死亡者数はこれよりも下回ると予想されているが、アジア
とサハラ以南アフリカでは、これを上回る死亡者数が予測されている。
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また、HIV/エイズにより、労働力人口に対する経済的負担と、成人世帯員に対する社会
的負担とが増大し続けるものと予想される。これは、労働者の病気と死亡による複合的影響
によるもので、ことにサハラ以南アフリカにおいて顕著である。労働力人口一人当たりの経
済的負担は、世界全体では 2005 年の 0.5%から 2020 年には 1.7%へと増大するものと予想さ
れる。サハラ以南アフリカでは、この期間に 4%から 7.2%への増大が予想される。生産年
齢人口一人当たりの社会的負担も同様に増大すると思われ、2020 年には世界全体で 1%以
上、サハラ以南アフリカでは 5.3%それぞれ増大すると考えられる。
HIV 感染症による影響は、生活も希望も将来もくじかれている子どもや若者たちの窮状
に目を向けるならば、とりわけ衝撃的である。子ども自身が HIV に感染して生まれたり、
両親の片方または両方をエイズのために亡くしたり、生き延びるために最悪な形態の児童労
働に従事して HIV 感染の危険にさらされたりしている場合、HIV/エイズは子どもに対し
て、直接的あるいは間接的に生死に関わる重大な結果をもたらす。
もっとも深刻な被害をこうむっている国々では、子どもに対するこうした影響の結果とし
て、将来の労働力が HIV 感染症のために危機にさらされている。HIV 感染症は人的資源形
成のプロセスを損なう。子どもの死はその将来もたらされるはずであった貢献を家族や社会
から奪い去り、家族や社会の資源を枯渇させ、気力を萎えさせる。子どもの死は残酷であり、
非人間的である。何世代にもわたり、親に死なれた孤児たちは、自分の属する社会や経済に
貢献するのに必要な技能を身につけ、ディーセント・ワークに就く機会を追求する上での庇
護や指導、教育を受けることができない。子どもたちは孤児となるとき、自分の両親が極度
に衰弱して死んでいくさまを目にするというトラウマ的体験にすでにさらされてしまって
いる。児童労働に従事する子どもが存在するという事実、そして生き延びるための闘いで最
悪な形の児童労働に従事して HIV 感染の危険にさらされている子どもが存在するという事
実は、社会正義のあらゆる根本原則に反し、子どもの権利をはなはだしく侵害し、人類全体
をおとしめるものである。
HIV/エイズが子どもに対して及ぼす影響の全容は、次のような暗澹とした統計からうか
がえる。つまり、子どもの死亡数、孤児の人数、児童労働に従事している子どもの人数、そ
して学校に通っていない子どもの人数といった統計である。現在、全世界ではいつの時点で
も 230 万人近い子どもがエイズとともに生きている。そして、そのうちの 60 万人以上が毎
年死亡している。エイズによって片親または両親が死亡して孤児となった子どもは、世界で
1,500 万人と推計されている。現在、サハラ以南アフリカだけでも 1,200 万人の孤児がおり、
2010 年になるとその数は 2,000 万人にまで増加すると予測されている。ILO の推計によれば、
2004 年には世界で 1 億 9,100 万の子どもたちが働いており、そのうちの 1 億 6,600 万人が児
童労働に従事し、また 7,400 万人が危険有害業務に携わっていたとされる。それ以外にもさ
らに、人数さえ明らかではないが、子どもたちが健康や安全、道徳心を損なう最悪な形の児
童労働(奴隷、人身取引、武力紛争での徴用、強制労働、売春、ポルノ、そして不正活動)
で搾取されていた。さらに、2001 年から 2002 年には、推計で 1 億 1,500 万の子どもたちが
学校に通っていなかった。また、世界 40 カ国以上で小学校児童の 3 分の 1 強が最終学年ま
で進むことができないでいる。こうしたことが読み書き計算能力の欠如の基本的な原因とな
っている。読み書き計算能力こそ、貧困から脱する基礎となる手段なのであるが。
しかし、集団として HIV 感染症のリスクがもっとも高いのは若者である。それは以下の
三つの理由による。まず、若い男女は労働者としての生活を始めたばかりであり、労働者集
団の中では訓練や経験がもっとも不足している。また、若者は年長の成人にくらべて 2 倍か
ら 3 倍も失業の恐れがある。さらに、若者は大人の性生活を開始したばかりである。以上に
加えて、若者の多くは貧しい暮らしをしている。推計によれば、世界中の若者の 18%にあ
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たる 2 億人が、一日 1 米ドル未満で暮らしており、5 億 1,500 万人が一日 2 米ドル未満で暮
らしている。
世界の生産年齢人口の 4 分の 1 を占めているに過ぎない若者が、世界の失業者のほぼ半数
を占めている。若者はまた、その多くがインフォーマル経済で働いている。このことは、若
者がディーセント・ワークを知らず、不完全雇用の状態にあり、不安定な条件のもとで就業
しており、社会的な保護や手当による利益をほとんどあるいはまったく受けていない、とい
うことを意味する。若者は仕事の世界では最悪の条件のなかに身を置いている。多くの研究
によれば、日々の糧を得るためにセックス産業に従事する男女の大多数は、10 代か 20 代は
じめでその仕事を始めているとされる。また、世界の多くの地域では、セックスワーカーの
ほとんどの者が 25 歳未満とされる。
以上の事柄は、最新データによって得られた、すべての新規 HIV 感染者の半数までが若
者であるという結果と符合している。毎日、推計で 5,000 人から 6,000 人の若者が HIV に感
染している。そのうえ、HIV とともに生きている若者の大多数は、自分がウィルスのキャ
リアであることに気づいていない。資源が乏しい環境では、とりわけその傾向が顕著である。
当然の結果として、リスクは若者の中でも男性よりも女性のほうが大きくなる。調査によれ
ば、HIV/エイズに関する若者の知識レベルは、ほとんどの場合、男性よりも女性のほうが
低い。
HIV/エイズに冒された世帯に暮らす若者は、自活のためや病気の縁者や兄弟姉妹を養う
ために働き、就学がきわめて困難となる。貧困と HIV/エイズとが絡みあって、若者の教
育や技能、就業能力に重大な結果を及ぼすのである。必要な教育や訓練が受けられなければ、
こうした若者が大人になったときに、仕事を見つけられる可能性、とくにディーセント・ワ
ークを見つけられる可能性は低くなってしまう。エイズに冒された世帯に暮らす若者は往々
にして、自分がそれまで教育や訓練を受けてこなかったことで、ディーセント・ワークが見
つからないか高嶺の花であることに、後になって気づくことになる。
教育や訓練が不十分で技能不足であったり、必要な分野の技能が身についていない若者は
就業能力が低下し、周縁化や社会的疎外のリスクが高まる。この状況はいっぽうで、企業の
競争力も損なうことになる。そこで、社会的疎外を解決するとともに HIV を予防する最善
の方策の一つとして、ディーセント・ワークがある。ディーセント・ワークを得る最善の方
法は、適切な訓練と技能の伝授を提供する教育である。ここで問題となるのは、学校を退学
してしまった者、HIV/エイズの恐れのある者など、疎外された恵まれない若者に対して、
正規の教育や訓練システムでは手を差しのべられない場合に、いかにして別の選択肢を示す
かという点である。学校外での訓練は、若者が仕事に適合した資格を身につけるよう手助け
するほか、教育・技能訓練や少額融資をはじめとする数々の介入策への道を開くきわめて重
要な手段である。こうした学校外の体制はまた、高い感染リスクにさらされているにもかか
わらず支援の手の届きにくい若者に対して、HIV 予防のメッセージや情報を伝えることも
可能にしてくれる。恵まれない若者がさらされている HIV 感染の高いリスクに対しては、
仕事の世界からきめ細かく状況に応じた対応を打ち出す必要があるのである。
児童労働を根絶し、若者が適切な年齢で労働市場に参入する準備を整えるとともに、若者
の失業を減らす国家政策を策定する長期的戦略を練り上げるうえで、児童労働が若者の失業
に及ぼす影響に取り組むことはきわめて重要である。子どもを児童労働から救い出すには、
原則として、雇用の創出を促進し、労働生産性を向上させ、若者の賃金を上げる代替的方策
を育成することが必要である。それに加えて、現世代の子どもたちに対しては、長期的に見
てその労働技能を高めることができる代替的援助を提供することも必要である。多くの場
合、失業中の若者は児童労働に従事する子どもの代わりにはならない。しかし、子どもの労
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働力に対する需要を若者労働力に対する需要に向け直すという可能性は、何よりも優先して
取り組み、集中的かつ綿密に検討しなければならない事項である。
子どもや若者に対する HIV/エイズの影響に取り組む政府の対応の目的は、①HIV/エ
イズに係わる状況における子どものあらゆる人権に関する理解を高め、②児童の権利に関
する条約で保障されているように、HIV/エイズに係わる状況における子どもの人権の実
現を推進し、③国内的及び国際的に、HIV/エイズの影響を緩和し、感染をなくすため、
子どもを優先させた行動計画、法及び政策の策定及び推進に寄与することである。
したがって、子どもの権利を保護する現行の枠組みは、仕事の世界への子どもの合法的
な参入、教育の機会、基本的権利を規制する法律文書で構成されている。とりわけ、労働
または就業を許可される最低年齢を規制する第 138 号ILO条約(1973 年)と、最悪の
形態の児童労働を禁じ、その撤廃を図る第 182 号ILO条約(1999 年)をあげることが
できる。
結果として、HIV/エイズに基づいて降りかかってくる特別の危害から子どもや若者を
救い出すためにまだ強く実行されていない法的保護が多数存在する。治療を受ける機会が
誰にでも与えられることを含め、包括的で集中的な事業計画を通じてこの流行病を制御す
ることに努力が集中されているものの、エイズとの共存の有無にかかわらず、この世界の
基礎である子どもと若者の人的資源の保護と育成になお一層注力していく必要がある。
この 2006 年に向けての予測では、続いて、とりわけアフリカ及びアジアの開発途上地域
における HIV/エイズに対する広範な職場内活動を強く主張している。ILO は抗レトロウィ
ルス薬へのユニバーサル・アクセス(訳注:社会階層・地域の違いなどにかかわらず、すべ
ての人が利用できること)という原則を支持し、国連合同エイズ計画によるこの戦略に寄与
している。この先長きにわたって多数の労働者が発病し続け、治療の開始によって生存する
人々が増えるにつれて、ますます多くの労働者が治療へのアクセスを必要とするようになる
であろう。 職場における抗レトロウィルス薬の利用は、本予測が期待するように、これに
よってより多くの労働者が生存できるようになるためだけでなく、その目的を越えて、治療
を必要とするすべての労働者に対して真にユニバーサルな治療を行き渡らせるためにも、大
幅に増加させなければならない。
ILO は 2006 年版の本報告書で、抗レトロウィルス薬の利用拡大をはじめとする HIV/エ
イズに対するさらに精力的な対応によって仕事の世界にもたらされる利益を検証する目的
で、二つの新たな予測を提示している。第一は、ユニバーサル・アクセスを推進しようとい
う意図の高まりの認識に基づき、抗レトロウィルス薬へのユニバーサル・アクセスがもたら
された場合に労働力人口がどれほど生存可能となるかについての予測(治療継続率の違いも
考慮済み)、第二は、完全に有効で誰でも入手可能な HIV ワクチンによって得られる利益
の予測である。
治療アクセスに関するこうした ILO の予測では、労働力人口の生存者は抗レトロウィル
ス薬の利用に比例して大幅に増加すること、そして治療を受け続ける率が高まればいっそう
増加するということが示されている。進行したエイズ患者の労働者全員に 2006 年に治療が
開始され、そののち毎年この治療を受ける層に労働者が新たに加わるものと仮定すると、労
働者の 80%が毎年治療を継続した場合には、2010 年末には全世界で、何もしなければ死ん
でしまう運命にあった 250 万の労働者が、そして労働者の 93%が毎年治療を継続した場合
では、370 万の労働者が生き続けることになろう。労働者が抗レトロウィルス薬の利用の恩
恵をもっとも受けると考えられるのはアフリカで、2010 年に、80%が治療を続けた場合は
180 万の労働者が、93%の場合では 260 万の労働者が、それぞれ生き続けるとされている。
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また、ワクチンの出現によっても、いまは HIV に感染していない労働力人口のたくさん
の命が救われることになるであろう。じゅうぶん効果的なワクチン接種が誰にでも行われる
状況が 2006 年に開始されるならば、4 年後の 2010 年には 3%の労働者の命が、9 年後の 2015
年には 11%以上の労働者の命が、そして 14 年後の 2020 年までには 28%以上の労働者の命
が、それぞれ救われることになる。HIV 感染症が蔓延した(または今後蔓延が予想される)
地域では、さらに多くの命が救われることになるであろう。すでに労働者の多くが HIV 感
染者であるサハラ以南アフリカでは、2020 年には、そのままでは死亡する運命にあった労
働者の 24%以上が生き続けるとされる。HIV 感染症の発生が今後ピークを迎えるように見
えるアジアでは、2020 年には、救命率は 41%以上に達するであろう。アジアでは、HIV 感
染が予測されている労働力人口の大部分に対する HIV の感染を予防することが、現在なら
ばまだ可能だからである。
この ILO の予測は、HIV 感染症の進行により今後生じると予測される世界の労働力人口
の損失を阻止するうえで、迅速かつユニバーサルで効果的なワクチン接種などの介入策が大
いに寄与することを示している。こうした介入策がとりわけ成果を上げるのは、これから蔓
延が予想される地域、また異性間感染の伸びがまだ今後の話である地域の女性たちに対して
であると思われる。しかしながら、そうした方策も、すでに HIV に感染してしまった労働
力がいずれは死亡することを阻止する効果はない。HIV 感染症の勢いは現在きわめて強力
なため、抗レトロウィルス薬の利用増加にもかかわらず、効果的な介入策をもってしても、
全世界的に目下予測されている労働力の損失の 70%以上が 2020 年までに現実のものとなる
恐れがある。そうした人々の命を救うためには、抗レトロウィルス薬へのユニバーサル・ア
クセスに向けての道を、信念をもって計画的に、ただちに留保なく、進まなければならない。
要約すれば、ワクチン接種というシナリオは、労働力に関するもっとも楽天的なシナリオ
のきわめて重要な事項の一つを占めている。この楽天的なシナリオのその他のきわめて重要
な事項としては、世界中で(とりわけ、HIV の感染や流行が今後大いに予想される地域で
は最重要で)、HIV に感染する労働者の数を抑制するために予防を強化すること、加えて、
すでに HIV に感染している何百万もの人々のために、治療へのアクセスを抜本的かつ迅速
に拡大することがあげられる。
以上の新たな分析は、予防と治療の両方が全世界の労働力と仕事の世界とに対して重要な
恩恵をもたらすことができるということをはっきりと示している。たとえすでに HIV とと
もに生きている何百万もの人々にとっては予防は手遅れであるにしても、少なくとも、HIV
感染者にも未来への希望ができる。助かった労働者の生命のひとつひとつは、企業、公共部
門(とりわけ医療や教育、そしてより一般的な公共サービス)、世帯、家族、そしてとくに
子どもたちにとって潜在的な生産力の増大を意味すると同時に、男女労働者ひとりひとりの
基本的諸権利の認識でもあるのである。
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