メンテナンスサービス事業の再構築による地域活性化

メンテナンスサービス事業の再構築による地域活性化 -地域住民の生活サービス機能を充実させる自動車メンテナンスサービスの展開要件に関する研究- 氏名 鈴木 誠二(法政大学大学院) Keyword: 地域の自動車生活、自動車メンテナンス、地域小売業、都市交流ツーリズム、テーマコミュニティ 【問題・目的・背景】 解明にあたっては、メンテナンス状況が、自動車の安
地域の過疎化が進んでいる。これにより、中学校区を基
心・安全運転に直接起因する「自動車タイヤ」を取上げ
準に取組みされているコミュニティ活動(盆踊り大会や、
る。自動車タイヤの主な商品特性は、以下の通りである。
消防・交通安全イベント等)に支障をきたしている。さら
ひとつめに、自動車メンテナンス市場のなかで、需要規
には、コミュニティエリア内の、スーパーや、飲食店、理
模が大きく、主な収益源として、SS や整備工場等でひろ
美容店など、地域小売業の閉鎖が加速している。故に、過
く販売されていること。二つ目に、タイヤの残溝や空気
疎化が進む地域の住民は、コミュニティエリアや、生活エ
圧不足、降雪タイヤへの未交換が要因で、事故やトラブ
リアの拡大を強いられている。このような影響を鑑み、
「ま
ルの主な原因になっていること。三つ目に、タイヤの交
ち・ひと・しごと創世総合戦略」の基本的な考え方には、
換作業は、専用機材が必要であり、
「小さな拠点」などの
「人口減少が地域経済の縮小を呼び、地域経済の縮小が人
住民活動では対処できないこと。最後に、自動車技術が
口減少を加速させる」という負のスパイラルに陥るリスク
発達しても機能の変化が見込まれないことがあげられる。
を考慮し、
「地域経済縮小の克服と、まち・ひと・しごとの
よって解明は、自動車メンテナンス拠点が地域から消
創世と好循環の確立」を示している。実現に向けては、基
滅した、過疎化が進む降雪中山間地域を取り上げる。こ
本目標のひとつに、
「地域と地域を連携する小さな拠点」の
のような地域は、人口減におけるコミュニティエリア拡
整備推進があり、コミュニティエリア・生活エリア拡大に
大と、生活圏における地域小売業の発展に向けて難易度
向けた対策を講じている。 が高い。よって導かれた政策は、展開する地域事情に応
一方、地域の生活には、自動車は欠かすことのできない
じた対応が可能となり、拡大展開が早まると考えられる。
地域インフラである。特に、ガソリンスタンド(以下、SS)
【研究方法】 は、自動車走行に必要な、燃料補給、メンテナンス 1)、安
本研究では、以下の方法で分析を行う。 心・安全の啓発という役割を担い、地域の身近な拠点とし
1.概要 て機能している。しかし SS 経営を取り巻く環境は、需要の
研究内容で述べたことを構造化するために、①先行研
縮小、大規模な改修工事の必要性に迫られ、地域にある SS
究サーベイ、②事例研究による自動車メンテナンス拠点
は廃業し、
「SS 過疎」と言われる現象を引き起こしている。
の喪失地域への、量的・質的調査の研究方法を用いる。 このことは、地域生活を営むうえで、給油やメンテナンス
先行研究サーベイでは、岡本[2014 年]の「6 次産業化
のたびに、郊外への移動が強いられ、移動時の自動車トラ
と地域イノベーション」をもとに、地域小売業の成立要
ブルや、事故リスクも伴うなど、地域需要の郊外流出だけ
件をまとめる。事例研究では、ケース・スタディ研究法
ではなく、地域の安心・安全な自動車生活に影響を及ぼし
を用い、自動車メンテナンス拠点が喪失した、群馬県み
ていると考えられる。これらの現象は、自動車を保有する
なかみ町藤原地区を取上げる。解明に向け、地域住民へ
住民の個人問題として対処することが出来ないことから、
の質問票調査と、半構造化インタビュー調査を実施する。
地域社会の問題として認識することが必要である。 得られたフィールドリサーチデータを、自動車メンテナ
よって本稿では、過疎化が進む地域の生活エリア・コミ
ンス事業の再構築に向けた必要要件としてまとめる。 ュニティエリア拡大を下支えする、自動車メンテナンスの
2.調査内容 必要取組みを導き、
「自動車メンテナンス事業を触媒とする
本稿では、
「経済産業省による SS 過疎化に関する調査」
地域活性化」に向けた政策を提言する。 や、
「自動車メンテナンス商材の販売実績」など、地域の
【研究内容】 自動車生活と、自動車のメンテナンス市場に関わる二次
本稿では、
「自動車メンテナンス事業の再構築による地
データを抽出したうえで、自動車メンテナンスの推定需
域活性化」を図るために、事業の展開方法と、展開を推
要と、
「SS 過疎」と、
「メンテナンス不良によるトラブル
進させる条件の解明を、事例研究において試みる。 発生軒数」との因果関係を確認した。また、地域小売業
に関する文献調査から、
「地域の小売業として、自動車メ
織概念上の課題と展望において、情報・意見交換の中か
ンテナンスを展開するための条件」を導いた。導かれた
ら、地域コミュニティにおいて、必要とされる取り組み
条件を証明するための、主な、情報源は、群馬県みなか
課題としての共通目的、あるいはコミュニティ文化を認
み町藤原中地区(120 世帯)へのアンケートと、地域住民
識し、ステークホルダー間の協力が得られるようにその
(8 名)
へのインタビューデータとした。
筆者はこれまで、
課題解決に取組んでいることが必要とされよう。と述べ
群馬県みなかみ町を題材とした、農家民泊の推進による
られている [3]。よって、ステークホルダーの協力を得ら
地域コミュニティの醸成や、SS を廃業させない住民活動
れるような“活動意義を伝達する力”が求められる。 に関する研究を行なうなど、フィールドワークを定期的
3. 地域住民の関心を引出す方法 に行っている。これまでの活動を詳細に記したフィール
辻井[2014 年]は、経済産業省の実態調査をもとに繁栄
ドノートと、ボイスレコーダーとの照合をおこないなが
している商店街は 1%しかいないとと述べており、その要
ら、自動車移動の回帰を導くアンケートを設計し、半構
因は、規模が小さくても、魅力的、個性的な商品やサー
造化されたインタビュー調査をまとめた。得られた調査
ビスで、顧客を呼びよせる力のある商店(強い店)がな
結果をもとに、
「自動車メンテナンス事業の再開発による
い事が理由であるとの見解を示している [4]。よって、
“広
地域活性要因」を考察した。その後、インタビュー対象
域から顧客を呼びよせる素材の開発”が求められる。 者への考察フィードバックや、同一人物に対する電話や
4.地域小売業の成立要件 メールでの再調査を通じて、確からしさを向上させた。 研究により、過疎化が進む地域で、コミュニティ・ビ
これらのデータを用い、先行研究で明らかになった展
ジネスとして地域小売業を成立させる要件は、ひとつ目
開要件と照合し、
「地域の自動車生活を支える必要取組」
は、
“ステークホルダーの協力を得られるような伝達力”
と、
「取組を定着させる条件」に関する理論的検討を行う。
を有していること、ふたつ目は、
“顧客を呼びよせる素材
3.分析方法 の開発”を恒久的に行なわれることであると導けた。 調査内容の分析は、Robert k yin 原著近藤公彦訳[1996]
【事例研究】 が述べるケース・スタディの方法を用いて分析を行う。 本研究は、SS による事業撤退を受け、メンテナンスの
分析を行う証拠減は、文書、資料記録、面接、直接/参
住民対処方法を明らかにし、
“自動車メンテナンス事業の
与観察、物理的人口物である。評価は、三角測量的手法
再構築”に向けた必要要件を導くものである。 を用いて、
「コミュニティ・生活エリア拡大の触媒となり
1.地域の生活を取り巻く環境 得る、自動車メンテナンスの展開要件」を解析する。 藤原地域は、群馬県みなかみ町にある谷川山系の谷間
【先行研究】 に位置する集落である。藤原地区は 390 ㎢という広大な
本研究は、過疎化が進む地域で小売業が成立する要件
土地に 249 世帯 443 名が暮らしている。人口は過去 20 年
を導くために行なうものである。 間で約 60%減少し、高齢化率は 42%である。生活環境は、
1.研究アプローチの設定 過疎化診療地域に認定されるなど、集落の中心部に郵便
岡本[2014 年]は、地域活性化の活動には人によって、
局、SS、小さな酒屋があるだけである。地域にある SS は、
多様な取組内容が込められているとしても、最終的には
2012 年 4 月より経営者が変わり、SS 過疎の危機を脱した
雇用の増加や所得上昇が伴わなければ地域は活性化しな
ものの、自動車メンテナンスは行われなくなった。 いだろうと述べられている[1]。また、細内[1999 年]は、
地域生活は、自動車の依存度が高く、町の中心部を往
地域コミュニティに利害関係者や関心を持つ人々によっ
復するバスも、廃止の危機にさらされている。商業地へ
て事業が営まれることで、雇用が創出され、資金が潤滑
の移動は、国道に出るまで約 30 分の山道走行が余儀なく
し、地域コミュニティに対する責任感や当事者意識が醸
され、冬には3m の近くの積雪がある。また、地域活性の
成されてくるのですと、述べられている[2]。 取組は、グリーンツーリズム・農家民泊・移住促進など
よって、研究アプローチを、コミュニティ・ビジネス
を、地元の経営者や、NPO 法人が中心となって取組んでい
を地域小売業として成立させる利害関係者の創出方法と、
るが、目標値までは遠く及ばない状況である。 地域住民の関心を引出す方法とした。 2.アンケート調査 2. 利害関係者を創出させる方法 (1)内容 松本[2008 年]は、コミュニティ・ビジネスにおける組
・対象:群馬県みなかみ町藤原中地区(120 世帯) ・方法:調査員の個別訪問による、聞き取り方式 ・対象:群馬県みなかみ町藤原地域在住の住民8名 ・時期:2016 年 7 月 10 日開始(8 月 31 日終了予定) ・方法:親から引き継いだホテル経営者(30 代男性) ・質問項目:地域生活と移動に関する 86 項目 からのスノーボール方式 ・回収数:35 世帯(7 月 31 日現在) ・時期:2016 年 7 月 16 日 (2)結果 ・質問項目:地域間交流・購入動機に関して 4 項目 自動車移動と、コミュニティ活動、地域生活満足度の
・時間:約 45 分/人 相関分析をおこない、分析結果を、図 1 に示す。分析は、
(2)結果 自動車移動を独立変数とし、コミュニティ活動、地域生
インタビューデータを、M-GTA 法で分析した概念図を、
活満足度の下位尺度(住み易さ、住民との関係)を従属
図 3 に示す。分析により、概念をまとめたカテゴリーは、
変数とした。分析より、変数間には正の相関があり、自
8 つに生成され、
群は2つに大別された。
群のひとつ目は、
動車移動の強度が強いほど、コミュニティ活動が活発で、
“移動の不便さを認識しないような打ち手を講じている
生活満足度が高いことが明らかになった。 群”である。群を形成するカテゴリーは、①移動時間(ド
ライブ)の充実(同乗者との会話・考えごと・運転操作・
景観鑑賞等)、②計画立案の充実(購入商品、帰宅後の
取組み、目的地での活動)、③移動価値の創出(消費の
節約、DIY 活動、リスク回避、コミュニケーション)であ
った。群のふたつ目は、“地域生活からの開放や逃避を
示す群”である。群を形成するカテゴリーは、①消費思
考の高揚(消費場の欠如、消費動機の阻害)、②生活鮮
図 1:自動車移動とコミュニティ活動、生活満足度相関係
度の向上(日常的交流機会の欠如、既存イベントの疲弊、
数表(筆者作成) 入拡大)であった。また、群に適合しないカテゴリーは、
また、自動車移動と、移動要因の因果関係を重回帰分
地域内に限定された運動や扶助控除であった。 析した結果を、図 2 に示す。分析より、「目的地への訪
これらの分析により、長時間の自動車移動が余儀なく
問頻度」は、「自分のために役立つ」「地域のために役
された地域の住民は、“自動車移動を愉しむ”傾向と、
立つ」が強く影響していた。一方、「近くて行きやすい」
“地域外交流を愉しむ”という側面で、生活/コミュニテ
は、移動頻度への影響が弱く、遠くて不便な場所に行く
ィエリア拡大を受入れられていたことが明らかになった。
交流目的の欠如)、③生活力の強化(衣食住の補完、収
ことが苦にならないことが、明らかになった。 -
-
-
-
DIY
図 2:自動車移動と移動要因に関する重回帰分析まとめ図
(筆者作成) 図 4:M-GTA 概念図(筆者作成) これらの分析により、自動車移動の活発化は、コミュ
4.調査結果 ニティ活動と、生活満足感の両方に影響を与え、それを
(1)潜在需要及び地域外への流出金額 目的とした自動車移動の距離は、地域の自動車生活に影
二次データで算出した潜在需要を、調査結果をもとに
響しないことが、明らかになった。 推計すると、住民の自動車移動に関する年間費用(自動
3.インタビュー調査 車メンテナンス費用+燃料消費額)
は、
1 台あたり167,836
(1)内容 円/台で、地域の潜在需要は、50,000 千円と導かれた。 (2)地域住民が期待する自動車の機能と、運転傾向 何かを創出するための議論をする機会”を得ていた。 地域住民は、自動車とのアイデンティティが強く作用
【考察】 しており、自らの運動能力に比喩しながら、自動車もセ
地域の商店街需要は、モータリゼーションの影響を受
ルフメディケーションの一部として受入れられていた。 け、郊外のショッピングセンターに流出した。近年は、
これにより、自らの運転能力を超えるような自動車機
自動車性能や、燃費の向上を受け、地域のガソリンスタ
能は期待せずに、無理をしない運転操作こそが、安全運
ンドも地域から消滅させている。このような現象は、気
転に繋がるとの意識が強いことが明らかになった。 軽な自動車移動を阻害し、地域に必要なインフラを弱体
(3)自動車移動を活発にする動機づけ内容 化させ、無居住地域を拡大させる懸念材料として危惧す
自動車移動を活発にするには、移動を愉しむことを、
る。そこで、
“自動車メンテナンスを触媒に、自動車移動
住民自らが検討し、実行するプロセスが必要であった。
の活発化による地域活性を促進”させられないだろうか。
これらを動機づけるものは、非日常を感じるツーリズム
この問いに対し、本研究では「自動車移動を、都市交
意識であった。更に、主に訪問する店舗の品揃えや接客
流を愉しむ体験ツーリズムと位置付け、地域住民へのデ
は、
“観光地の特産品”として受入れられていた。これら
ィスネーションマネジメントを実践すること」が、結果
を受け、自動車メンテナンスは、ツーリズムを愉しむ必
として、自動車メンテナンスのセルフメディケーション
須アイテムとして、自らを動機づけていた。 意識を醸成させ、地域の安心・安全な自動車生活を下支
(4)自動車メンテナンスの位置付けと小売店活動 えしつつ、テーマコミュニティ創出により地域活性が実
メンテナンス拠点の喪失により、住民が定期的に訪問
現可能であると示した。取組を推進させる条件を以下に
する郊外店舗において、自動車メンテナンスも DIY 商品
示す。一点目は、自動車メンテナンスは、セルフメディ
としてガイドされ始めた。これにより、園芸や木材品等
ケーションと位置付けること。二点目は、集落を股がる
などと同様な、テーマコミュニティも創出された。更に
近郊店舗で、DIY ガイドブックの作成とガイドを配置する
販売店は、
“安全啓発”を軸にディスネーションマネジメ
こと。三点目は、メンテナンスも、
“体験メニュー化”し、
ントを実践していた。このような活動は、安心な自動車
テーマコミュニティを創出する場を提供する事であった。
移動を下支えしながら、テーマコミュニティの参画意識
【今後の展開】 を喚起させていた。 本研究により“メンテナンスサービス事業の再構築に
(5)先行調査との照合 による地域活性化”は、集落住民が適時訪問する郊外店
先行研究で導いた成立要件を、事例研究で明らかにな
舗で、
“DIY 商品の一部として、ガイド展開すれば、地域
った内容と照合し、再構築された要因を明らかにする。 の潜在需要の獲得と、コミュニティ・ビジネス成立によ
①ステークホルダーの協力を得られるような伝達 り地域活性”が可能であると示した。しかし、事例研究
住民は、郊外型店舗へのツーリズムによって、地域生
の為、政策の確からしさにおいて懸念が残る。よって今
活を活発化させていた。その要因は、
「DIY のガイドブッ
後は、実証や比較研究を通じ懸念を払拭したいと考える。
ク(実施日や場所、準備物や参加要件等)や、ガイド(従
【参考文献】 業員)の接客を通じた伝達であった。このような伝達方
[1]岡本義行,2014,地域イノベーション2013 vol6, 6 次産
法により、コミュニティ・ビジネス成立に向け、テーマ
業化と地域イノベーションについて,P1-2 コミュニティを創出されていた。 [2]細内信孝,1999,中央大学出版部,コミュニティ・ビジ
②顧客を呼びよせる素材の開発 ネス,P26 住民は、近郊のホームセンターやショッピングセンタ
[3] 松 本 潔 ,2008,GIYUGAOKA SANNO college Bulletin ーに定期的に訪問していた。このような店舗が、遠方の
no.41,コミュニティ・ビジネスにおける組織概念におけ
客を虜にしていたのは、DIY 商品の実演販売や、商品の飼
る一考察,P33 育・育成方法の伝授であった。住民はこのような販売手
[4]辻井啓作,2013,阪急コミュニケーションズ,なぜ繁栄
法を、
「体験メニュー」として受入れていた。このような
している商店街は 1%しかないのか,P19/32 手法を展開することで店舗は、商品、実施者、受講者等
【註】 の様々な組み合せによって、毎回違う演出を可能にして
1)部品の不具合によって、安全走行に支障をきたすもの
いた。このような提供方法により、
“住民は定期的に集い、
の点検や交換を示す。