循環型社会における自動車業界のあり方

「循環型社会における自動車業界のあり方」
枚数:26枚
指導教員名:水越康介准教授
学修番号:06159213
氏名:小林哲郎
目次
はじめに
1.環境問題と循環型社会への問題点
(1)環境問題が人類に与える影響
2.社会の環境意識の高まり
(1)企業が環境配慮型市場に参入する理由
(2)環境配慮型製品のマーケティングのあり方
(3)政策の中での環境
(4)消費者の環境意識高まり
3.自動車業界における環境問題
(1)自動車業界の規模と概要
(2)自動車産業の CO2 排出量
4.メーカー各社の戦略
(1)トヨタの戦略
(2)ホンダの戦略
(3)日産の戦略
まとめ
謝辞
参考文献
はじめに
「利便性を追求した消費型社会は大量生産、大量消費、大量破棄というビジネスシステ
ムに支えられてきた。しかし、一方、そのビジネスシステムは、環境問題1を引きおこし、
我々自身の生活を脅かすまでに至った。この環境問題を解決するには、消費型社会から脱
却し、持続可能な循環型社会に移行することが必要だ。そのためには、生活者が意識を変
え、環境負荷低減を前提とした行動をとらなければならない」(上野 2008 VPP 公開審査
レジュメ l.1~5)。という指摘に挙げられるように、現代は今までにない以上に、企業は環
境を意識した中で企業活動を行っている。このような状況の中、自動車業界において、ト
ヨタ自動車は、1997 年のプリウス発売以来、「環境」というブランドを手に入れ、日本の
産業界を牽引してきた。それ自体は、とても大切な取り組みであり、なぜならば、2007
年度において、わが国における二酸化炭素の排出量のうち、約2割を運輸部門が占めてお
り、さらに、運輸部門における二酸化炭素排出量において自家用乗用車の割合が第一位で、
他の要素に比べて、39.0%→48.2%へと大幅に上がっているからだ(図 1)。さらに言うと、
自家用自動車部門をはじめ、運輸部門全体が二酸化炭素排出量を減らしていかないと、持
続可能な社会を創っていくことはできないと考えられる。なぜなら、気候変動に関する政
府間パネル(IPCC)第 4 次評価報告書によれば、もはや地球温暖化の原因は、人為的な
活動にその原因があることは逃れられない事実となったからである。しかし、米国でのサ
ブプライムローン問題に端を発した金融問題の影響もあって、2008 年度の決算でトヨタは
赤字に転落した。しかし、ホンダは、そんな厳しい市場環境でも、赤字を出していない。
トヨタは、環境ばかりに力を入れてきたが、果たしてそれは企業として、利潤を出す意味
においてそれでよかったのか?ということをもう一度考えていきたい。
図1
1
ここで言う環境問題とは地球温暖化、オゾン層の破壊、森林破壊、酸性雨、海洋汚染、
野生生物種類の減少、廃棄物問題などを指す。
図2
()
(図 1、2それぞれ引用
国土交通省ホームページ)
1.環境問題と循環型社会への問題点(上野 2008 p.5∼7、Wikipedia を参考に作成)
(1)環境問題が人類に与える影響
①環境問題が人類に与える影響
環境問題が人類に与える影響が指摘されている。環境問題とは、人類の行動によって生
じる自然界の変化が人類及びその他の生物の生存に支障をきたす現象としてあらわれる問
題である。
「人類は誕生当初より、生活の中で、自然環境に負担をかけてきたと考えられる
が、それは自己修復性を超えた過剰なものではなかった。例えば、狩猟採集生活は考古学
の資料などから数万年の間継続されてきたと推定され、この事実が負担の小ささを証明し
ている。しかし、人口が増えたり、コミュニティが密集してくると、しだいに悪影響がみ
られるようになってくる。紀元前に存在した古代エジプト文明やインダス文明などは、森
林の過伐採による砂漠化が文明衰退の原因と指摘されている。環境破壊はこれまで各地域
で発生し、そして、人類はその地域から姿を消した。いままでは、地球環境の規模に対し
て人類の行動が与える影響が限られていたため、特定の地域で環境が破壊されても、人類
は 環 境 が 破 壊 さ れ て し ま っ た 土 地 か ら 他 の 土 地 へ 移 動 す れ ば よ か っ た の で あ る 。」
(Wikipedia)
しかし、今日、環境問題は地球規模となって国境を越えている。経済活動がグローバル
化する中、そこから発生する環境問題もグローバル化しているのだ。その規模は地球の自
然が破壊されてから回復するまでのスピードをはるかに越えている。我々人類は自己の行
動により、その生存の源である地球環境を破壊し続け、それが回復する間もなくさらに別
な地域の環境を破壊している。これらは地球温暖化に代表される環境問題としてあらわれ
てきた。これらの問題は世界中の至るところで発生し、その地域の人々の生活を脅かして
いる。しかし、日本は、食料や資源を輸入に頼っているため、他の地域で発生している環
境問題はすなわち我が国の問題として認識しなければならない。現在世界の人口は 66 億
人を超え、2050 年には 90 億人を突破すると予測されている。人類を支える地球環境を維
持しなければ我々は将来の人口増加に対応しきれなくなってしまう。地球規模で限界が訪
れてしまう前に我々は環境問題に対して行動を起こさなければならない。
2
②環境問題の原因と解決の考え方
環境問題がグローバルの規模で発生している原因は、急激な人口増加と、先進国の利便
性を追求した消費型のライフスタイルに原因がある。しかもこの二つの原因は、密接に関
係している。
地球は有限であり、その有限な環境下では人口が増えれば増えるほど環境負荷が増大し
ていく。人口が増え続け、全ての国々が先進国のように消費型社会を目標にして発展して
いった場合には、地球はそれを支えきれずに人々の生活が脅かされる。人口増加のほとん
どは農林水産業に代表される一次産業が主体となっている発展途上国で起こっている。そ
の原因の一つには、労働力として人口を増やしていることがある。この労働力は先進国の
要望を満たすために発生していると言える。先進国は安価な労働力を求めて世界中の発展
途上国で企業活動を行う。そのおかげで、発展途上国は一時的に潤い、食料や医療が発展
し死亡率の低下とともに人口が増える。経済の拡大により、さらに労働力として、人口を
増やす。このスパイラルが、食料や水、住宅や雇用不足などへの問題へとつながり、貧困
をもたらす結果となる。
一方、もう一つの大きな環境問題の原因は、先進国の消費型社会にある。環境に大きな
影響を及ぼしているのは、我々の消費型のライフスタイルの中にある。環境問題で将来我々
の生活に大きく影響する地球温暖化の原因は、大気中の二酸化炭素の増加である。二酸化
炭素増加の主な原因は、先進国の人々が望む製品を製造する際に必要な原料やエネルギー、
自動車の排気ガスなど、化石燃料の消費活動によるところが大きい。それは、我々が快適
であると認識している消費型のライフスタイルを支える活動である。
③大量生産、大量消費、大量廃棄からの脱却
我々は、発展途上国の安価な資源や人件費に支えられ、利便性の向上した食料や製品を
得てきた。我々の目に見えない場所で採掘された資源を大量に使用し、食料や製品を生産
して日本に輸入している。経済的には一度に大量生産をすれば効率が上がりコストも下が
る。そしてそれを消費する生活者は安価な食料や製品の恩恵を受けることが出来る。生活
者はそれらの食品や製品が安価であるがゆえに大量に消費していく。そしてそれを安易に
廃棄することに慣れてしまった。市場には安価な食料や製品が満ち溢れており、不要だと
感じる食料や製品はたとえまだ食べられたり、使用可能であったりしても捨ててしまえば
よいと思ってしまうのだ。企業はそれをどんどん消費させることで、さらにその食料や製
品を製造販売し、利益を拡大してきた。例えば、我が国の自動車産業においては自動車の
モデルチェンジを頻繁に行い、買い替えを促進してきた。食品や日用品は早ければ半年毎
に新たな製品を市場に投入させ購買促進を図ってきた。製品の陳腐化を生活者に感じさせ、
所有しているものを廃棄して、新しい製品を購買させる手法である。生活者は経済的に可
能であればこれを繰り返し、常に新しい製品を所有することでその製品の機能の利便性に
加え満足感も得てきたのだ。これには当然現在所有しているものを廃棄するという行動が
3
ともなう。この大量生産、大量消費、大量廃棄のサイクルは地球資源が無限にあり、また
廃棄物は最終的に地球環境が全て吸収してくれるという前提の元でしか成り立たない。今
日すでにこの前提は成り立たず、各地で環境問題が顕在化している。したがって、今我々
が豊かさの象徴であると思っている大量生産、大量消費、大量廃棄から脱却しなければ、
将来豊かさどころか生活基盤自体が脅かされる。
2.社会の環境意識の高まり
一方、環境意識の高まりは、学術面、また消費者の意識、政策面から意識が高まってい
る。大量生産・大量消費の社会構造は、生活・文化に豊かさをもたらした反面、地球環境
に負の遺産を残し、地球環境問題となった。それまでの公害は、特定の産業や企業が、ば
い煙や排水を垂れ流し、地域住民に被害を及ぼすというものであり、個別ケースごとに対
策が可能であった。ところが地球環境問題は、国境を越え、世代を越えて広く影響を及ぼ
すものであるため、被害者と加害者の特定が容易ではない。つまり、地球規模の問題とし
て、いまや、全世界で取り組まなければならない課題となっている。従来、企業は経済効
率性の追求を第一義的行動規範としてきた。しかし、現在の企業活動においては、どのよ
うにして環境負荷をかけないようにするかという「環境効率化」が課題となってきている。
(1)企業が環境配慮型市場に参入する理由(野田 2000 p.70 を参考に作成)
1992 年のリオデジャネイロでの国連環境開発会議(地球サミット)で合意された「環境
と開発に関するリオ宣言」の第8原則で、全世界規模での地球温暖化対策が議題に上り始
めた。これが企業の環境取り組みを本格化させるきっかけとなり、環境基本法の第 24 条
「環境への負荷の低減に資する製品等の利用の促進」などもあり、環境整備が図られつつ
ある。製品に関して何らかの環境対策を行っている企業が年々増加しているが、なぜ企業
が環境配慮型製品市場に参入するのかについて Ken Peattie の指摘した 8 つの理由から整
理すると、以下の点があげられる。①消費者ニーズがある②新しい市場の開拓③競争優位
を生み出す④コスト削減効果⑤リスク・マネージメント⑥社内の勤労意欲の向上⑦世論の
企業責任の追求であるとしている。特に環境配慮型製品をつくる原動力は、<1>消費者
の環境意識の高まり、<2>特定家庭用機器再商品化法、再生資源利用促進法、改正省エ
ネルギー法、容器包装リサイクル法などの法律による規制、<3>世界的な環境基準を技
術ブレークスルーによっていち早くクリアする国際競争力を獲得することの3つが主な要
因と考えられる。
( 2 ) 環 境 配 慮 型 製 品 の マ ー ケ テ ィ ン グ の あ り 方 ( 野 田 2000 p.74 、 GROBIS
MANAGEMENT
SCHOOL を参考に作成)
野田(2008 p.74)によれば、
「グリーン・マーケティングという言葉は、1980 年代後半
からビジネスの専門用語になったといわれる。三上(1982)によれば、グリーン・マーケ
4
ティングは、70 年代のマーケティングの概念の拡張の中でソーシャル・マーケティングの
概念から派生した。三上は、Lazer(1973)のソーシャル・マーケティングの考え方から、
「ソーシャル・マーケティングとは、利益を得て消費者の満足を提供するといった従来の
マーケティングから、非消費者を含む生活者(消費者・市民)の利益、さらには社会全体
との利益と調和し、また資源・エネルギー・生態系といった環境との間の調和まで達成し
ながら、企業としての適正な利潤を確保すべきマーケティングである」と定義している。
このように、生活者主義の形で社会的責任論が登場し、マーケティングでも環境に配慮し
ていこうという考え方は、70 年代半ばから欧米だけでなく日本でも既に登場している。し
かし、具体的なマーケティング論として登場したのは 90 年代に入ってからであろう。グ
リーン・マーケティングにおいてよく紹介される K.Peattie(1992)は、 Green Marketing
という本の中で、グリーン・マーケティングを「利益を得てかつ持続可能な方法で、顧客
と社会の要求を確認し、予期し、満足させることに責任を持つマネジメントのプロセス」
と定義している。企業と環境との関わり、グリーン・マーケティングに対するコンセプト、
グリーン・コンシューマー、グリーン・マーケティング・ミックスについて、簡潔にまと
められている。K.Peattie は、グリーン・マーケティングであっても基本的に伝統的なマ
ーケティングのプロセスと大きな違いはないとしながら、どのようなグリーンの要素を考
慮しなければならないか問題提起している。しかし、これは欧州でのグリーン・コンシュ
ーマーの圧力に応えた形でのマーケティング戦略であり、グリーンコンシューマリズムが
前提となっている。」とし、環境マーケティング論の全体的な流れが詳細に記述されている。
日本の状況においては、
GROBIS
MANAGEMENT
SCHOOL が詳しい。
「日本でも、
2001 年にグリーン購入法が施行され、国等の機関にはグリーン購入を義務づけ、地方公共
団体、企業、国民にもグリーン購入する努力を求めている。さらに、企業にとってはCS
R強化の時流もあり、多くの企業がグリーン購入、環境会計(グリーン会計)導入などを
進めている。個人消費者でグリーン・マーケティングの対象となる層は、グリーン・コン
シュマーと呼ばれる。一般にグリーン・コンシュマーの顧客は、30 代から 40 代の高学歴、
高収入が多い。一方で、いわゆるエコ商品は通常商品より割高になりやすい。コスト競争
や消費者の価格志向といった観点から、エコ商品の需要に対する不安や疑問も多く、エコ
商 品 の 開 発 や 扱 い に 消 極 的 な 企 業 も ま だ 多 い 。」( GROBIS
MANAGEMENT
SCHOOL)
(3)政策の中での環境
日本の環境政策は、1950 年代の公害の発生とその対策であり、公害対策基本法(1967)
の制定など初期の環境法は、自主的取り組みや、規制的手法が多用されてきた。その後、
環境庁が発足し、自然環境保全法などにより、自然環境や文化的遺産等の保全といった環
境対策へと拡大していった。そして、現在の環境政策の基本的方向を示す環境基本法
(1993)が制定される。この法律により公害対策基本法は廃止された。1997 年には、京
5
都議定書が採択され、これを契機に地球温暖化対策やリサイクル関連の法令が制定された。
1998 年の「地球温暖化対策の推進に関する法律」(地球温暖化対策推進法)や 2000 年の
循環型社会形成推進基本法がそれである。循環型社会形成推進基本法は、
「大量生産・大量
消費・大量廃棄」型の経済社会から脱却し、環境への負荷が少ない「循環型社会大量生産・
大量消費・大量廃棄」型の経済社会から脱却し、環境への負荷が少ない「循環型社会」を
形成することに解決策を求めることとし、循環型社会の形成を推進する基本的な枠組みと
なった。
(4)消費者の環境意識高まり
(出所
電通リサーチ
2009)
消費者側の環境意識も高まってきている。近年、消費者の中には、
「グリーンコンシューマ
ー」と呼ばれる環境意識の高い人たちも登場している。上の資料は、2009 年度に電通リサ
ーチが行ったインターネット調査この資料である。これによれば現在の「環境問題」への
関心度は合計で76%で、4人に3人が関心をもっていることになる。この調査結果では、
6
1 年前と比較した関心度の変化を見てみると、
「同程度」が63%、「1年前よりも強くな
った」人も34%いる。関心のある環境問題領域では、「省エネ」75%、「地球温暖化」
65%が、上位となっている。この結果から、年々環境意識が高まっていることが分かる
だろう。
3.自動車業界における環境問題
(1)自動車業界の規模と概要
まず、自動車業界の規模について整理しておく。自動車業界は、日本の基幹産業自動車
産業は日本の基幹産業として、長年その地位を不動のものとしてきた。全就業人口が、6412
万人の中、自動車関連就業人口は約 515 万人であり、これは、8.03%にあたる(2006 年)。
その 515 万人の内訳は、製造、部品関連にあたる「自動車製造部門」が 90 万人、道路貨
物運送業などにあたる「利用部門」が 273 万人、ガソリンスタンドなど「関連部門」が 32
万人、塗装などの「資材部門」が 20 万人、自動車小売などの「販売・整備部門」101 万
人。その多さがわかる。日本の重要な基幹産業であることは製造品出荷額からも明らかで
ある。全製造業の出荷額は 336 兆 7566 億円で、そのうち自動車産業を含む輸送用機器は
63 兆 9100 億円で全体の 19%を占めている。(2007 年)
自動車業界が「総合業界」といわれるゆえんは、就業人口の多さだけではない。完成車
は 2 万∼3 万点の部品メーカーが生産、完成車メーカーに納入している。完成車メーカー
を頂点に、1次部品メーカー、2 次部品メーカー、3 次部品メーカーなどピラッミッド型
に幅広く存在している。
本稿では、以下の章で、トヨタ自動車株式会社(以下トヨタ)、本田技研工業株式会社(以
下ホンダ)、日産自動車株式会社(以下日産)について取り上げていくので、各会社の概要
について簡単に整理しておく。
トヨタ
社名
基本理念
ホンダ
本田技研工業株式会
トヨタ自動車株式会社
社
モノづくり、車づくりを通して、
皆さまとともに豊かな社会創りを
創立
1937 年 8 月 28 日
愛知県豊田市トヨタ町 1 番地
日産
日産自動車株式会社
人間尊重 三つの喜
び(買う喜び、売る喜
人々の生活を豊かに
び、作る喜び)
1948 年 9 月 24 日
1933 年 12 月 26 日
東京都港区南青山
神奈川県横浜市西区
2-1-1
高島 1 丁目 1 番 1 号
創業者
豊田佐吉、豊田喜一郎
本田宗一郎
鮎川義介
代表者
取締役社長
取締役社長
取締役会長兼社長
豊田章男
伊東孝紳
カルロス・ゴーン
7
資本金
3.970 億円 5 千万円
860 億円
6058 億円 13 百万円
(2009 年 3 月末)
(2009 年3月末)
(2009 年3月末)
従業員数 320808 人(連結)
181876 人
175766 人(連結)
売上高
10 兆 112 億円
8 兆 4370 億円
20 兆 5295 億円
(各社ホームページを参考に作成)
(2)自動車産業の CO2 排出量
温室効果ガスの基準年を 1990 年とすると、2008 年度の排出量は、12 億 8600 万トンで、
基準年比+1.9%、前年比−6.2%となった。
(出所
環境省ホームページ)
表1から分かるように二酸化炭素(CO2)は、基準年に温室効果ガスの排出量の中で、
約 90%、2008 年には、温室効果ガスの排出量 12 億 8600 万トン中二酸化炭素は、12 億
1600 万トンを占めている。
8
(出所
環境省ホームページ)
そして、表 2 から分かるように、自動車を含む運輸部門では、基準年の二酸化炭素排出
量が 2 億 1700 億トンに対し、2008 年は、2 億 3600 万トンに増加した。
(出所
環境省ホームページ)
11 億 3800 万トンに占める 2 億 3600 万トン(20.1%)のこの二酸化炭素をなんとか減
らしていかなければならないという状況にある。
4.メーカー各社の戦略
ここでは、日本を代表する自動車大手 3 大メーカー「トヨタ」、
「ホンダ」、
「日産」の戦
略をまとめながら、トヨタは環境戦略のままでよいのかについて考えていく。
(1)ホンダの戦略
9
まずは、2009 年 7 月 25 日号の週刊東洋経済を参考にホンダの LOL(ライフタイム・
オーナーシップ・ロイヤリティ)戦略を中心に取り上げる。
2009 年 3 月期に、ホンダは日系大手 3 社の中で唯一黒字決算を出した。その理由を週刊
東洋経済は次のように解説する。2008 年であれば、ガソリン価格が急騰し、経済性の良い
小型車人気が爆発していたので、理由は明解だった。
「円の急騰にも円高であろうが、円安
であろうが、需要地で生産する、それがホンダのやり方」
(週刊東洋経済 p.72)で、
「米国
の現地生産比率は、7割超に達する。部品の現地調達率も業界トップの 8 割を誇る。」
(同
p.72)世界的経済危機のときも、新興国の2輪車需要が強かったことが、ホンダを助けた。
2009 年 2 月 5 日に新型ハイブリッド車「インサイト」を発表。この商品は、ヒットする
かに見られたが、後発のプリウスに一ヶ月で追い抜かれた。
しかし、「2008 年後半からホンダの逆風は強まった。一つ目は過剰在庫。小型車の好調
持続が災いし、生産調整のタイミングが遅れた。」(同 p.72)
35000
30000
25000
20000
プリウス
インサイト
15000
10000
5000
20
09
20 年2
09 月
年
20 3
09 月
20 年4
09 月
20 年5
09 月
20 年6
09 月
20 年7
09 月
年
20 8
0 月
20 9年
09 9月
20 年1
09 0月
年
11
月
0
国内でのプリウス・インサイトの販売台数
(社団法人日本自動車販売協会連合会ホームページを参考に作成、縦軸販売台数)
「ハイブリッド車の本命と目する米国の出足ももたつく。
「米国の消費者は極めて合理的に
動く。今回のインサイトはガソリン価格1ガロン3ドル以上で4年乗れば元がとれるとい
うことで仕込んだが、今のように2ドルではメリットを感じてもらえない」
(近藤広一・ホ
ンダ副社長)
」(同 p.72)。そんな状況下でもホンダは赤字を出していない。
10
30000000
25000000
20000000
トヨタ
ホンダ
日産
15000000
10000000
5000000
0
2002 2003 2004
2005
2006
2007 2008
大手3メーカーの売上高(各社有価証券報告書を基に作成、単位縦軸:百万円、横軸:年)
3000000
2500000
2000000
1500000
トヨタ
ホンダ
日産
1000000
500000
20
07
20
08
20
05
20
06
-500000
20
04
20
02
20
03
0
-1000000
大手3メーカーの経常利益(各社有価証券報告書を基に作成単位縦軸:百万円、横軸:年)
そんなホンダが採っているのが LOL 戦略だ。
「LOLは00年ごろにホンダ社内で生ま
れた。
「ホンダを買ったお客様に次もまたホンダを買ってもらう、つまりは代替率を上げよ
うという取り組み、それがLOL」(同 p.73)である。1990年代後半の商品ラインナ
ップを強化し、やっとできるようになった戦略だ。
LOL 実現のために真っ先に重要なことは、中古車価格の維持である。
「クルマは住宅の
次に資産価値が大きい耐久消費財なので、中古で売る時に再販価格が著しく下がっていれ
ば、企業への信頼が損なわれる。反対に、下取りが高ければ、買い替え時に組む追いガネ
も少なく、気持ちよく次のホンダに乗り換えてもらえる」
(同 p.73)というわけだ。
「残価
維持の方法は単純で、製品自体の品質を高めること。値引きをしないことだ。」
(同 p.74)
この戦略を実行するのが難しいので他社と差別化ができていると見てよいだろう。
しかし、LOL という存在があるので、量的拡大やシェアに一喜一憂することなく、質を
追うことに専念できる。また、設備投資に関しても、保守的な会社である。
「ホンダは、過去2輪車を武器に、数々の新興国を攻めてきた。急激な経済変動や資金
ショートも経験してきた。そこから得た教訓が、「新興国では絶対に借金をしない」。金利
が年10%、20%の世界では、金利のために商売をするようになるからだ。」
(同 p.74)
環境戦略ついて
11
伊藤孝紳社長は、インタビュー(東洋経済オンライン 2009.10.14)の中で、
「20世
紀は自動車産業あるいは石油産業の時代でした。自動車産業は今後、環境問題や少子高齢
化といった課題を克服し、21世紀にも中心的存在でいられるのでしょうか。」という問い
に対し、
「自動車は個人の自由を尊重した移動手段であり、20世紀だろうが、21世紀だ
ろうが、22世紀だろうが、必ず残したいし、残すべきだ。個人の移動の欲求と、それを
可能にする自由のある社会ならば、自動車は永続性がある。
」と答えている。環境対応車の
技術に関しても、一つの方向には固まらず、20∼30年はハイブリッドが主になるだろ
うという考えを示している。
(2)トヨタの戦略
上述したように、2008 年度において、ホンダは、黒字であったが、トヨタは赤字を出し
た。トヨタは 2007 年度に過去最高益(売上高約 26 兆 2892 億円、経常利益約 2 兆 4372
億円)を出しており、2008 年度もこの勢いでいきたいところであった。そこに米国発のサ
ブプライムローンの影響による景気悪化や円高もあって、2008 年度の決算は一気に赤字に
転落した。トヨタがとってきたのは、プリウスを初めとする環境を意識したエコカーを市
場に投入するという戦略であった。これを環境重視型戦略と呼ぶことにする。トヨタが先
陣をきって取ってきて、過去最高益まで出した戦略が、景気悪化により一気に赤字にまで
転落してしまったという事実は、あまりにも恐ろしい事実だ。ただし、2009 年度 11 月期
の新車乗用車販売台数ランキングでは、トヨタが 30 位までに 18 車種入った。トヨタが環
境戦略に移る過程を振り返っていく。
11月
通称名
メーカー名
台数
1位
プリウス
トヨタ
26,815 16 位 キューブ
〃
5,380
2位
フィット
ホンダ
17,178 17 位 エスティマ
トヨタ
5,205
3位
ヴィッツ
トヨタ
13,429 18 位 ティーダ
日産
4,836
4位
カローラ
〃
11,193 19 位 デミオ
マツダ
4,157
5位
インサイト
ホンダ
9,413 20 位 マークX
トヨタ
4,038
6位
セレナ
日産
9,331 21 位 プレミオ
〃
3,825
7位
フリード
ホンダ
9,239 22 位 アルファード
〃
3,803
8位
パッソ
トヨタ
8,684 23 位 シエンタ
〃
3,474
9位
ヴォクシー
〃
8,198 24 位 アイシス
〃
3,362
10 位
ステップワゴン
ホンダ
7,501 25 位 クラウン
〃
3,283
11 位
ラクティス
トヨタ
6,739 26 位 スイフト
スズキ
3,224
12 位
ヴェルファイア
〃
6,358 27 位 ストリーム
ホンダ
2,757
13 位
ノア
〃
5,845 28 位 HS250H
トヨタ
2,472
12
通称名
メーカー名
台数
14 位
ウィッシュ
〃
5,750 29 位 アクセラ
マツダ
2,421
15 位
ノート
日産
5,438 30 位 ポルテ
トヨタ
2,313
(社団法人日本自動車販売協会連合会ホームページより作成)
①トヨタ自動車の環境戦略への推移
1990 年ごろ、トヨタ自動車会長の豊田英二氏は、しきりに、「今のままのクルマ作りで
いいのか。二十一世紀に成り立つクルマをやるべきじゃないのか」(木野 p.24)とトヨタ
の現状に疑問を投げかけていた。1980 年から 1990 年にかけて乗用車の新車登録台数は、
バブル景気の影響もあり、二百八十五万台から五百十万台に膨れ上がった。トヨタにとっ
ては、成長真っ只中の状況だったにもかかわらずだ。しかし、開発車種が非常に多くなっ
てしまっていて、開発現場は、人手が足りなくなっていたし、バブル崩壊後の販売台数減
と、円高による利益圧迫で、新しいことがしづらい状況だったからである。何か新しいこ
とをやろうとしても「既にあるものを工夫して使え。金のかかる新しいことをやってはい
けない。とにかく原価を安くしなさい」(木野 p.26)という状況だった。しかし金原副社
長は、同時に、
「こんなことばっかりやっていてはいけない。技術者としての夢が持てなく
なって情けない」という思いを持っていた。金原氏は、高性能かつ高価格のスペシャリテ
ィーカー「ソアラ」のエンジン開発を陣頭指揮した技術者で、赤字覚悟で、量産が不可能
と言われていた 4 バルブエンジンを搭載することを強く主張し、開発した車が予定台数を
大幅に越え、最終的に黒字を生むまでになった。そういう経験をしている男であった。そ
んな金原氏に、商品企画部長の井上輝一が、
「金原さん、VE ばかりのこんな状態では商品
企画も何もできない。技術者も VE ばかりでは大変でしょう。ひとつ新しいプロジェクト
を起こしますか」(木野 p.28)と提案した。英二氏からの提案が繰り返されていたこと、
金原氏自身の思いも加わって、「やろう」ということになった。「このプロジェクトは、全
部新しい設計にして全く新しい車にしよう。今まで培ってきた技術を全部出して、ソアラ
の時と同じように最新のことをしっかりやろう。」これが「プリウス」を生み出す「G21
プロジェクト」の始まりである。
G21 プロジェクト
1993 年 9 月、ある会議で、金原氏は「同じことばっかりやっていてもしょうがない。
トヨタが二十一世紀に向かって提案できるような、シンプルで高性能なクルマをやるべき
じゃないか。誰かやってくれんだろうか」
(木野 p.29)と切り出した。
「わたしがやりまし
ょうか」と答えたのは、技術統括部長の久保地理介だった。こうしてスタートしたのが「G21
プロジェクト」である。金原は、はっきりした課題は設定せず、
「カローラぐらいのクルマ
で、まったく新しい設計にして、部品は何ひとつ共有しなくてもいい。君たちがやりたい
と思うことを提案しなさい」(木野 p.31)それだけを久保地に伝えた。久保地理介氏は、
トヨタ自動車のミニバン、SUV、商用車を手がける車両メーカー、トヨタ車体現会長で
13
ある。1940 年生まれの彼の学生生活は高度成長期の入り口にあたり、公害が社会問題化し
た時期だった。五十四年には、水俣病の兆候が初めて報道され、五十五年には富山県神通
川流域の病気に「イタイイタイ病」という病名がつけられた。五十九年に稼動した四日市
コンビナートでは周辺住民に喘息症状や、伊勢湾で捕れた魚の異臭問題が発生している。
社会問題に関心だった彼だからこそ、シンプルで小さいクルマを開発するというテーマに
久保地が手を挙げたのは、ごく自然なことだった。
マーケティング的な議論を行った結果、選ばれたのが「安全」と「環境」だった。交通
事故で死なないクルマ、環境問題をクリアできるクルマだ。このうち、
「安全」は 1980 年
代から重要性の認識が高まり、各社とも力を入れて取り組んでいた。安価なエアバッグも
開発され、搭載車種が、徐々にではあったが増えていた。そのため、
「これは G21 でやら
なくてもすむだろう」とメインのコンセプトからはずした。
しかし、「環境」は、社会的にもトヨタの社内的にも、認識が高いとは言えなかった。
1970 年代の石油ショック以降、各社とも燃費向上に取り組んでいた。燃費を優先すると、
どうしても走行性能が落ちてしまう。環境か、楽しさかの、二者択一になっていたのだ。
「環境」を商品の目玉として売っていく発想はなかった。G21 のリーダーとして、選ばれ
ていた内山田竹志もそれまでは環境問題や資源エネルギー問題について深く考えたことは
なかったが、G21 で勉強していくうちに、
「2040 年ごろに、石油がピークアウトして、ガ
ソリンがなくなりそうだ。燃料問題に対応できるような燃費の良いクルマをつくらないと
いかんのじゃないか。クルマの数もまだ増えるだろうし、排ガスもやらないといけない」
(木野 p.45)と問題意識を強くしていった。
トヨタのハイブリッド開発
ハイブリッドの考え方は、ポルシェの創業者、フェルナンド・ポルシェが始めて商業化
したものである。ポルシェがハイブリッド車を作ったのは、十九世紀最後の 1900 年のこ
とだった。ポルシェが最初に作ったのは電気自動車だった。しかし、ガソリン燃料の普及、
ガソリンエンジンの性能向上などにより、次第に電気自動車市場は小さくなっていった。
電池を使うハイブリッド車の必要性も薄れ、しばらくは表舞台から退いていた。
トヨタ自動車の中村健也(初代クラウンの開発をリードし、トヨタにおける主査(チー
フエンジニア)制度の礎をつくった)は、どうしたらエネルギーを有効に使えるかに関心
を持っていた。中村が当面の結論として導き出したシステムが、ガスタービン・ハイブリ
ッドだった。トヨタのハイブリッド開発は、ここから始まる。中村のガスタービン・ハイ
ブリッドのプロジェクトは、久しぶりのハイブリッド復権だった。また、このプロジェク
トに参加したメンバーのひとりが、後にプリウスの基になる電気ハイブリッドを生み育て
た塩見正直だった。ハイブリッドプロジェクトは、中村が一九七五年に顧問に就任したこ
ともあって終了したが、参加メンバーに、主査とは何か、技術開発にはどういう姿勢で取
り組むのかという指標を残した。塩見は、十数年後に、今度は自分で次世代車の研究開発
14
を立ち上げることになる。
ここまでの議論を踏まえ、プリウスは、21世紀のクルマとして、新しい車を開発しな
ければならない、という想いの中で、開発された車であることが分かる。しかも、「環境」
を追求すれば売れると決まっていたわけではなく、石油危機を経験して、また化石燃料の
枯渇が指摘されてきた中で、燃費を何とかしたいという思いで市場に投入された。
ここで、私が注目したいのは、いずれ何とかしなければならない問題に真っ先に、製品
を出して、ハイブリッドという一つの答えを出したことである。まだ前人未到のところに
投石を投じたからだと思う。
また、これは、早い時期から環境に対して取り組んできたからだと考える。1963 年に環
境委員会を設立し、以後 1990 年にリサイクル委員会 1992 年に「トヨタ基本理念」制定、
「地球環境に関するトヨタの取り組み方針」
(通称:トヨタ地球環境憲章)制定、トヨタ環
境委員会設置、1997 年「トヨタ基本理念」改定、ISO14001 外部取得、2000 年「トヨ
タ地球環境憲章」改定、第 3 次トヨタ環境取組プラン(01∼05 年度)を策定し、国内外の連
結子会社を対象とした「連結環境マネジメント」を導入開始、環境教科書を作成し、各部
に環境リーダーを選任、リーダー教育を開始、2001 年に基幹職への環境教育を開始、2002
年 1 月∼環境コストに関連して、
「顧客効果」
「エコ・エフィシェンシー」を試算と、環境
に対して真摯に取り組んできたことが、プリウスという製品を単に利益目的だけではなく
市場に投入したからこそ、全体として環境にいち早く対応できた。これが他のメーカーが
追随できないスピードで、トヨタが今日まで来ていて、だからこそ「環境」ブランドを手
に入れることができたのだと思う。大事なのは、製品ラインナップをみてもそうで、環境
を大事にするなら、どの製品からもその想いが伝わってくることだと思う。全ての方向が
環境という一つの方向に進んでいる、つまり、会社全体がこれで進んでいくぞという力が
あるからこそ、他のメーカーも環境に対して色々と行っている中で、先行できたのはそこ
に理由があるんだと思う。
さらに、マイケル・ポーター(M.E.Porter)、マーク R.クラマー(M.R.Kramer)は、
「企
業が CSR を推進し、企業の社会的影響力を分散させないためには、企業と社会の対立関
係ではなく、相互依存関係に注目しつつ、企業の戦略や事業と CSR を関連づける必要が
ある」と指摘している(潜道 2009)。プリウスが市場に投入される以前は、環境に配慮し
た製品を開発するとコストが高くなり、トレードオフの関係になると考えられていた。し
かし、独立行政法人経済産業研究所によれば、この「ポーター仮説」は、適切に設計され
た環境規制は、費用低減・品質向上につながる技術革新を刺激し、その結果国内企業は国
際市場において競争上の優位を獲得し、他方で産業の生産性も向上する可能性がある」と
の主張であり、それまでの「環境規制は企業にとっての費用増加要因となり、生産性や競
争力にネガティブな影響を及ぼす」という通説的見解に異議を唱えるものであり、正にプ
リウスで成功したトヨタの事例に当てはまる論理である。
しかし、トヨタにとって、プラスの意見ばかりではない。実は、エコカーについて、正
15
しく報道できていないという状況がある。
「技術の実情、周辺情報の実態をざっと見渡した
だけで、無邪気に、安直に「エコカー」と呼び、それらが全てを解決してくれるかのよう
な空論でことを済ませるわけにはいかない」(両角 p.175)という記述からも分かるよう
に、ハイブリッド動力を積むクルマを買えば「環境に優しく」
「出費を減らせる」という実
態の伴わないイメージだけが一人歩きし、消費が迷走してしまう。
また、たとえば、ハイブリッドカーには、得意・不得意な走り方があり、試験的に出た
数字が実際に自分で使ってみると、公表されている試験結果の数値より燃費が悪くなる、
なんてことはよくある話である。また、「リサイクル」面でもまだまだ問題が残っている。
「自動車のハイブリッド動力化」の、環境影響に対してのプラスの面は、
「使用過程」にお
ける「燃料消費の削減」すなわち「CO2 排出量の減少」だけであって、素材という面から
見れば、当然ながらハイブリッドの動力化は、電池モーター方式の純電気自動車を含めて、
既存の「通常動力」のクルマに比べて、稀少だったり、取り扱いが難しかったり、回収・
再生がまだ難しいものを多量に使うことになる。メディアは、ハイブリッドの抱えている
問題点までもきちんと伝えていかなければならないだろう。
②環境重視型戦略について
さて、ここで、考えなければならないことが、
「トヨタは環境重視型戦略だったから赤字
になったのか?」ということである。前述したように、2008 年度においてトヨタは、経常
利益において赤字を出した。しかし、下の表から分かるように、1 位の座をホンダのフィ
ットに明け渡しているものの全体的に販売は順調という印象を受ける。だからこそトヨタ
自動車の 2008 年度の有価証券報告書を分析しながら考えていきたい。
4∼3月
月
順位
通称名
メーカー名
台数
1
フィット
ホンダ
148,253
2
カローラ
トヨタ
3
ヴィッツ
4
対比
順位
通称名
メーカー名
153.5
16
スイフト
スズキ
55,287
105.5
147,374
99.7
17
ラクティス
トヨタ
53,969
84.8
〃
125,807
102.5
18
ウィッシュ
〃
52,163
72.9
ヴォクシー
〃
78,770
129.6
19
マークX
〃
49,867
112.3
5
セレナ
日産
78,306
99.1
20
キューブ
日産
48,436
87.2
6
パッソ
トヨタ
75,341
100.2
21
アルファード
トヨタ
48,353
79.8
7
デミオ
マツダ
68,921
120.1
22
マーチ
日産
47,759
101
8
エスティマ
トヨタ
68,220
76.4
23
プレミオ
トヨタ
41,626
141.3
9
ノア
〃
67,086
136.3
24
ポルテ
〃
35,907
95.2
10
ティーダ
日産
63,987
96.1
25
アリオン
〃
35,693
140.7
11
プリウス
トヨタ
61,101
108.6
26
レガシィ
富士重工
35,277
72.8
12
クラウン
〃
59,738
88.7
27
シエンタ
トヨタ
35,223
94.1
16
台数
対比
13
ノート
日産
58,410
89.6
28
bB
〃
34,838
72.5
14
ストリーム
ホンダ
55,619
102.8
29
エクストレイル
日産
34,651
183.3
15
ステップワゴン
〃
55,415
78.6
30
ハリアー
トヨタ
34,283
103.7
2008 年度国内新車販売台数(出所
社団法人日本自動車販売協会連合会)
2008 年度有価証券報告書
(出所
トヨタ自動車
(出所
トヨタ自動車株式会社
p.23)
2008 年度有価証券報告書
p.28)
この表から分かることは、日本での販売台数は、218 万台から 194 万台に減少、北米で
は、295 万台から 221 万台に減少、欧州では 128 万台から 106 万台に減少、アジアでは
95 万台から 90 万台に減少、合計で 891 万台から 756 万台とどの地域においても販売台数
を落としており、特に北米での販売が著しく落ちている。結果として、海外での販売台数
は、672 万台から 562 万台の減少となってしまった。
同様にホンダの有価証券報告書を分析してみる。
17
(出所
本田技研工業株式会社
2008 年度有価証券報告書
p.19)
日本国内では、61 万台から 55 万台に減少、北米では、185 万台から 149 万台に減少、欧
州では 39 万台から 35 万台に減少、アジアでは 75 万台から 79 万台に増加、その他地域で
は、31 万台から 32 万台に増加、海外部門で見ると、331 万台から 296 万台の減少で収ま
っている。ホンダは、国内での販売台数も 6 万台の減少に留め、さらに、増加している地
域もあり、海外では、前年比 10%減に留めた。
なぜ、トヨタは、海外でここまで販売台数を落としてしまったのだろうか?
18
(出所
トヨタ自動車(2008)「有価証券報告書」p.15)
まず、上の表からも分かるように、トヨタは、現地生産比率がそれほど高くはない。そ
れに比べ、北米におけるホンダの現地生産比率は、今や、90%を越えている。それは、古
くから二輪車で海外進出してきたホンダだからこその数字であろう。たとえば、「Honda
は、
「需要のあるところで生産する」という基本理念のもと、1979 年 9 月に HAM メアリ
ズビル二輪工場で生産を開始。3 年後の 1982 年 11 月には、日本の自動車メーカーとして
初めて乗用車(アコード)のアメリカ現地生産を、メアリズビル四輪工場にて始めた。そ
の後、イーストリバティ(オハイオ)、カナダ、メキシコ、アラバマと、四輪完成車生産工
場を追加。また、1985 年よりアンナ エンジン工場で二輪用エンジンを、翌年 9 月からは
四輪用のエンジンの生産も行い、オートマチックトランスミッションについても 89 年よ
り現地生産を行っている。現在、北米における生産拠点は、二輪(年産能力 45 万台、ATV、
パーソナルウォータークラフト含む)、四輪(同 140 万台)、汎用(同 138 万台)、部品、
合わせて 12 を数える。」
(ホンダ
Press Information)、
「Honda は、部品メーカーと協力
して部品の現地調達にも積極的に取り組んでおり、現在では米国で生産されている四輪車
の北米内現地調達率は 90%※を超え、620 社以上の北米内取引先から年間 126 億ドル
(2003 年度実績)の部品を購入している。また、北米市場外の世界各国に向けた完成車、
部品の輸出も行っており、1988 年には日本メーカーとして初めて米国から日本向けに四輪
車(アコード・クーペ)を輸出、これまでの北米からの完成車輸出台数は累計で 75 万台
を超えている。※旧 EPA 方式、04 年モデル」
(ホンダ
Press Information)、
「Honda は、
1959 年に海外初の販売現地法人であるアメリカン・ホンダ・モーターを設立し、自ら販売
網の構築に着手した。1975 年にはロサンゼルスに研究所を設立、市場調査を始めとして、
現地部品調達のサポートや、地域専用機種の開発を手掛けている。Honda の北米事業は、
販売、生産、研究開発という機能をあわせ持った自立したオペレーションを確立しており、
Honda の海外地域事業の手本ともなっている。北米事業への累計投資額は約 80 億ドルを
超え、北米での直接雇用は 30,000 人以上となっている。」
(ホンダ
Press Information)
という記述からもそれが分かる。だからこそ円高の影響も最小限の影響で済んだのだろう。
それに対し、トヨタは、現地生産に手こずっていた。
「ところが日本車メーカーは 1990 年代後半から 2000 年代前半にかけて利益率が高いライ
トトラック系の現地生産に相次いで乗り出しており、収穫に励もうという矢先。せっかく
新設した工場がフル活用できないジレンマに陥っているのだ。トヨタのインディアナとテ
キサス、ホンダのアラバマ、日産のキャントンといった新しい工場は投資を回収するため
にどんどんライトトラックを生産したいところだが能力を発揮する場面にない。乗用車の
需要増には日本の工場から輸出すれば事足りる。しかし 1 ドル 100 円を切る円高ドル安で
は喜んで輸出するほど採算は甘くない。」(Livedoor ニュース)
トヨタの環境重視型戦略は、自動車需要が高い時、為替が円安の時など追い風に乗って
いる時には好調だが、逆境の状況になると、一気に弱いところが見えてしまうことが分か
19
る。環境に配慮することはとても大事だが、他の部分にも目を向けなければならない。
(3)日産の戦略
日産はカルロス・ゴーン最高経営責任者(CEO)が「エコカーの本命」と期待をかけ
る5人乗りEV「リーフ」を秋にも発売。
「ガソリン車にできるだけ近づける」
(ゴーン氏)
意欲的な価格設定にする予定。さらに、秋に高級車「フーガ」のHVモデルも発売し、1
1年以降は小型車にも車種を広げる考えだ。(毎日 jp)日産自動車は、グローバル市場向
けに開発した新型車を 2006 年末に中国で発売するのを皮切りに、その後 2 年間で世界中
の市場に投入することを、2006 年 7 月に発表。生産は、広州の合弁会社で行われ、また
世界の市場に投入されるモデルは各地の現地工場で生産されることになる。まさに、日産
自動車のグローバル戦略が本格的に進んでいることを端的に示す話題といえる。このよう
に着々とグローバル戦略を展開しつつある同社だが、1990 年代には、経営危機に陥った経
験を持っている。
厳しい状況から脱出するきっかけとなったのが、1999 年のフランス・ルノーとの提携発
表で、その後、継続的に実施されている経営改革だ。
まず、1999 年 10 月からスタートした「日産リバイバルプラン」により経営を立て直し、
復活に成功する。それに続く 3 カ年計画の「日産 180」では、グローバルでの売り上げ台
数を「100」万台増やし、
「8」%の売上高営業利益率を達成し、自動車関連の実質有利
子負債を「0」にするという目標を掲げ、2002 年 4 月からスタートし、大きな成果を上
げた。さらに 2005 年 4 月からは、新 3 ヵ年計画である「日産バリューアップ」により、
新たな価値の創造を目指している。
日産リバイバルプラン
会社の再生
日産 180
日産バリューアップ
再建を完了し、利益ある成長へ軸
足を移動
更なる発展と価値創造
コミットメント
・2000 年度の黒字化
・2002 年までに
売上高営業利益率 4.5%以上
・2005 年 9 月末までグローバルで
100 万台増販
・売上高営業利益率 8%達成
・2008 年度に 420 万台
・業界トップレベルの売上高
営業利益率を維持
・2002 年度までに自動車事業 ・自動車事業実質有利子負債ゼ
・投下資本利益率(ROIC)期
実質有利子負債 50%削減
間平均 20%
ロ
日産リバイバルプランとその結果
<内容>
村山工場など車両組立工場 3 箇所、部品工場 2 箇所を閉鎖し、国内の年間生産能力を 240
20
万台から 165 万台へと削減。 全世界でのグループ人員を 2 万 1,000 人削減し、購買コス
トを 20%圧縮するために、下請企業を約半分に減らした。 子会社・関連会社 1400 社のう
ち、基幹部分として残す 4 社を除く全ての会社の保有株式を売却。これによって下請企業
の合併再編が急速に進んだ。
<成果>
日本企業の商慣習の中で実現を危ぶむ声もあったが社長兼 CEO となったゴーン氏のもと、
当初の予定より 1 年前倒しで、売上高などの業績を著しく向上させ、2003 年までの 4 年
間で 2 兆 1,000 億円もの巨額の借金を完済した。予定より早く達成されたため、日産 180
をスタートさせた。
日産180とその結果
<内容>
2004 年度末までにグローバルでの販売台数を 100 万台増加
連結売上高営業利益率(連結ベース)8%を達成
購買コストの 15%削減
2004 年度末までに自動車事業実質有利子負債 0 を実現
<成果>
2002 年度に連結売上高営業利益率 10.8%達成し、自動車事業実質有利子負債 0 も実現し
た。
日産バリューアップとその結果
<内容>
三つのコミットメントと四つのブレークスルー
・同計画の期間中 3 ヵ年の各年度においてグローバルな自動車業界の中でトップレベルの
営業利益率の維持
・ 2008 年度において、グローバル販売台数 420 万台の実現
・ 同計画期間中平均で投下資本利益率(ROIC)20%(手許資金を除く)
・ 高級車ブランド「インフィニティ」のグローバル展開
・ 小型商用車の売り上げ増大
・ 競争力のある国々からの部品・サービスの調達
・ 大幅な地理的拡大
バリュー(価値)を生み出そうという取り組みが進んでいる。
<成果>
ゴーン社長は減益に終わった 07 年 3 月期は「この 8 年間で初めて当初の目標を割る結果
になった」とし、
「設定した課題に対し取り組みが不十分で、多くのことを学んだ」と釈明
し、中期計画「日産バリューアップ」での「全てのコミットメント達成時期を 1 年延長す
る」と表明した。
21
(3)SOA 戦略
「日産バリューアップ」の下で積極的にグローバル戦略を進める日産自動車株式会社では、
IS 部門、グローバル情報システム本部が、新情報化戦略「BEST プログラム」を策定し、
2010 年度に世界でトップクラスの IS 部門になることを目指している。「BEST」とは、
「B」:Business Alignment(ユーザー部門の関係強化)、「E」:Enterprise Architecture
(情報システムをグローバルに最適化)、「S」:Selective Sourcing(IT ベンダーとの関係
の見直し)、
「T」
:Technology Simplification(採用する技術、ハードウェア/ソフトウェ
ア製品の標準化・簡素化)である。日産のシステム部門が打ち出した対策は SOA の考え
方を採用し、システムの「部品化」進めるもの。業務アプリケーションをコンポーネント
化して再利用を可能にすることで、主に新興市場におけるスピーディーなシステム構築や、
コスト削減を図ろうとしている。SOA への取り組みによって、グローバル戦略を支えよう
としている。
(4)消費者の各メーカーに対するイメージ
この三社に消費者は、どんなイメージを抱いているのだろうか?株式会社ネットマイル
が 2007 年に行った「自動車についてのアンケート」によれば、トヨタ自動車に対しては、
「親しみやすい」、「信頼性がある」、「営業販売力が強い」、
「安定性がある」、「環境に配慮
している」といった項目が上がり、しかも驚くべきことにそのほとんどが50%を超えて
いることである。また、環境に配慮しているというイメージが5項目以内に入っているの
はトヨタだけである。また、日産については、
「親しみやすい」、
「伝統がある」、
「信頼性が
ある」、「好きなブランドである」、
「顧客ニーズへの対応に熱心である」という項目が上が
り、ホンダについては、
「研究・商品開発力が旺盛である」、
「親しみやすい」、
「技術力があ
る」、「文化・スポーツ・イベントに熱心」、「好きなブランドである」という項目があがっ
た。この結果だけをみれば、トヨタはイメージ戦略において成功しているといえるだろう。
22
(出所
株式会社ネットマイル
2007)
まとめ
この論文を書くに当たり、自動車が好きな私にとってショックだった出来事が、トヨタ
自動車の 2008 年度における前年の過去最高益からの赤字転落であった。あれほどの大企
業が、またトヨタ生産方式に代表されるように、他の企業の模範となっていたような企業
でも、赤字を出すことがあるのかと思ったからである。それが、トヨタを含む自動車業界
について一から調べてみようと思ったきっかけである。調べていくうちに、2008 年度にお
いて、トヨタは赤字を出したが、ホンダは黒字決算だったことがわかった。サブプライム
ローンによる経営環境悪化の影響はもちろんあると思うが、状況は、同じなので、両者の
戦略の違いに注目した。トヨタは、プリウス発売以来「環境」を武器に戦ってきた。ホン
23
ダは、環境対策を行いながら LOL 戦略により、消費の代替率を高める取り組みを行って
いた。環境に目を向けることは、とても大切な取り組みで、持続可能な社会を創るために、
必ずやらなければならないことだ。しかし、それが、万全で、何が起こっても大丈夫だと
いう戦略でないことは証明された。今後持続可能な社会に移行したときに、環境戦略の差
別化はどんどん縮まっていくだろうし、その時に勝ち残れる保障など、どの企業にもない
だろう。若者のクルマ離れの問題もある。ただし、循環型社会に向けてとっていく戦略は、
「環境」を意識しているだけのものであってはならない。
謝辞
卒業論文を作成するに当たり、ゼミ担当の水越康介先生には、大変お世話になりました。
どうもありがとうございました。
〔参考文献〕
木野龍逸(2009)『ハイブリッド』 株式会社文芸春秋、p.24~p.58
両角岳彦(2009)
『ハイブリッドカーは本当にエコなのか?』株式会社宝島社、p.175~p.181
高橋由里、大野和幸、梅沢正邦、西澤佑介他「トヨタ土壇場」
『週刊東洋経済』、2009 年 7
月 25 日号、p.72~p.75
〔参考 URL〕
上野(2008)「循環型社会に向けた小売業態のイノベーション」
東北大学大学院環境化学研究科高度環境政策・技術マネジメント人材養成ユニット
p.1~p.7
http://www.semsat.jp/VPP2008003.pdf
国土交通省
http://www.mlit.go.jp/
トヨタ自動車株式会社
http://www.toyota.co.jp/
本田技研工業株式会社
http://www.honda.co.jp/
日産自動車株式会社
24
http://www.nissan.co.jp/
野田朗子(2000)「環境配慮型製品のマーケティング戦略」
Graduate School of Policy and Management, Doshisha University p.74~p.75
http://elib.doshisha.ac.jp/cgi-bin/retrieve/sr_bookview.cgi/U_CHARSET.utf-8/BD00004
899/Body/2noda.pdf
株式会社ネットマイル「自動車についてのアンケート」p.1~p.3
http://research.netmile.co.jp/voluntary/2007/pdf/200707_1.pdf
社団法人
日本自動車工業会
http://www.jama.or.jp/
社団法人
自動車販売協会連合会
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評価
環境問題はビジネス上の重要なトピックとなりました。自動車業界は、特に環境との結
びつきがよくもわるくも強い業界なのだと思います。その一方で、環境問題に考慮するこ
とが企業業績につながるのかどうかは、おそらく直接的な関係ではなく、市場の評価など
の媒介を得て実現されるものだと思います。その意味では、長期的な分析が必要になりそ
うです。
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