修士学位論文 による シンチレーターストリップ読み出しの研究 平成 年度 信州大学大学院工学系研究科 物質基礎科学専攻 素粒子・宇宙物理学講座 高エネルギー分野 西山実穂 概要 のカロリメータで用いられる予定であ るシンチレータストリップと読み出し方法についての研究を行った。 実験は次世代の電子陽電子線形型加速器実験で 現在計画中である 実験ではヒッグス粒子の精密測定、トップクォークの対生成、 ある。 標準理論を超える物理の探索を目的としている。よって、従来の加速器や 測定器よりも高性能であることが望まれている。 は の検出器案の1つである。私たち は、検出体がプラスチックシンチレータ、吸収体がタングステンの積層型 の電磁カロリメータとして提案してい サンプリングカロリメータを る。このカロリメータでは細分割されたシンチレータストリップ( × × )が用いられる。シンチレータを用いるカロリメータで は入射粒子のエネルギーの一部を光に変換し、その光量を測定することに より、入射粒子のエネルギーを測定する。 本研究はシンチレータストリップの光量の一様性を確かめることを目 的とし、シンチレータストリップの評価を行った。使用するシンチレー タストリップは製造方法に違いがある、クラレ社のシンチレータストリッ のシンチレータストリップの2種類である。また、信号の プと 読み出し方法として、波長変換ファイバー読み出し、直接読み出しの2 を使用した。実 種類がある。波長変換ファイバーは 験室で行った光量比較測定の結果により、光量はクラレの波長変換ファイ バー読み出しが一番高く、この光量を基準とし、クラレの直接読み出しが 、 が の光量となっていることを解った。またシンチ レータストリップの光量を測定するにあたり、光漏れ防止のため、シンチ レータストリップを覆う反射材の光量比較測定も行った。使用した反射材 の ときもと株式会社のレフホワイトの2種 は、 の光量の になって 類で、レフホワイトの光量が いることが分かった。 のシンチレータストリップの改良は必 低コスト製造のために 法の研究を進めている。そして、 要不可欠なので、韓国と共同で 高エネルギー加速器研究機構で、電子ビームを使ったビームテストを行っ のシンチレータスト た。ビームテストではいろいろなタイ プの リップを用いて、クラレのシンチレータストリップとの性能を比較するこ のシンチレータストリップの性能を評価した。この とにより、 の光量の一様性は波長変換ファイバー ビームテストの結果より、 を通す穴の大きさ、位置、反射材に関係することが分かった。 目次 第 章 ( の加速器 線形加速器実験 の加速器 の物理 測定器 カロリメータ カロリメータの構造 カロリメータの種類 エネルギー分解能 カロリメータの細分割 カロリメータ 第 章 新型光検出器 の構造と原理 の基礎特性 シンチレータ シンチレータの原理 シンチレータストリップの種類 第 章 シンチレータストリップの光量比較測定 研究目的 の の決定 測定方法 測定結果 シンチレータストリップの光量比較測定 測定方法 測定結果と考察 反射材の光量比較測定 測定方法 )実験 測定結果と考察 ビームテスト 富士テストビームライン 測定目的 ビームラインの構成 シンチレータストリップの構成 ビームテストの解析 に対する応答 光量の一様性 第 章 結論 測定結果のまとめ 今後の課題 図目次 の概念図 のデザイン の概観(完成予想図) 検出器の概念図 の電磁カロリメータの検出層の概略図(サンプリン グ型カロリメータ) 測定のセットアップ ダークノイズを用いて測定した結果 シンチレータストリップの光量比較測定のセットアップ ストリップの光量比較の結果 において がはげている様子 セットアップ 反射材の光量比較の結果 ビームラインの構成 ビームラインの構成(横から見た写真) 波長変換ファイバーを通す穴の比較 穴の位置の比較 のシンチレータストリップ と のシンチレータストリップ( ) と のシンチレータストリップ( ) ストリップ1∼ストリップ4 全イベントと イベント ストリップ1 全イベントと イベント ストリップ2 全イベントと イベント:ストリップ3 全イベントと イベント:ストリップ4 光量一様性:ストリップ1 光量の一様性:ストリップ2 光量の一様性:ストリップ3 光量の一様性:ストリップ4 第 章 ( )実験 の加速器 線形加速器実験 現在最高エネルギーを得ることができる加速器は、陽子・ (反)陽子衝突 型線形加速器である。陽子は質量が大きいためにシンクロトロン放射によ るエネルギー損失が、同一のエネルギーに電子を加速する場合と比べて、 少ない。また、エネルギーを上げるためには、加速器を大きくし、磁場を 強くすればいいので、重心系エネルギーを上げやすい。現在最も高いエ ネルギーを実現しているのは、アメリカにあるフェルミ国立加速器研究所 )の であり、これは重心系エネルギーが で ( )で 年稼動予 ある。スイスにある欧州合同原子核研究機構( ( ) 定である陽子・陽子衝突型円形加速器の にも及ぶ。しかし、陽子・陽子衝突型加速 は重心系エネルギーが 器では強い相互作用により、ハドロン中のクォークやグルーオンがジェッ トを作り出すのでバックグランドが多い。 一方、電子・陽電子衝突型加速器では、電子・陽電子は内部構造を持 たないので、始状態がはっきりしていてエネルギーの無駄がない。また、 バックグランドが非常に少ないので、精密測定に向いている。 しかし、円形加速器ではシンクロトロン放射により粒子のエネルギー損 は 失が生じる。この1周あたりのエネルギー損失 ∝ と表すことができる。ここで、 は粒子のエネルギー、 は粒子の質量、 は光速、 は加速器の半径である。粒子のエネルギー が大きくなる が4乗で増加し、それ以上の加速が難しく につれてエネルギー損失 が大 なる。同エネルギーでは、質量の軽い電子ではエネルギー損失 を小さくできるが、 きくなる。半径 を大きくすればエネルギー損失 の大きさにはスペース上の限界がある。これまでに電子・陽電子衝突型 の 円形加速器で最も高い重心系エネルギーを実現したのが Ⅱ( Ⅱ)の約 であり、これ以上の重心系 第 章 ( )実験 エネルギーを実現するのは非常に困難である。したがって、これ以上のエ ネルギーを可能にするためには、円形加速器ではなく線形加速器が必要と なる。 の加速器 は次世代の電子・陽電子衝突型線形加速器である。図 に の に のデザインを示す。全長が約 で、前段加速部 概念図、図 分と最終収束部分以外では曲線部分を持たないので、シンクロトロン放射 によるエネルギー損失はほとんどない。したがって、円形加速器では到達 できない高エネルギーが実現可能となる。 しかし、線形加速器であるため、電子・陽電子は加速部分を一度しか通 らないので、円形加速器のように衝突しなかった粒子を別の衝突点で再利 用するということは不可能である。そのため、加速勾配の向上や、ビーム をしぼることによるルミノシティの向上など多くの技術革新が必要とされ ている。 の物理 ではヒッグス粒子の精密測定、トップクォークの対生成、標準理論 の初期の目標は、将来重心 を超える物理の探索を目的としている。 領域まで上げることを想定しつつ、まず ま 系エネルギーを でで実験を行うことである。トップクォークの対生成の閾値の重心系エネ 付近に存在すること、ヒッグス粒子が までに ルギーが 存在する可能性が非常に高いことがこれまでの研究によりわかっている。 よって、これらに対して十分なエネルギーがなければいけないので、重心 が必要となるのである。その後、 領域まで 系のエネルギー 重心系エネルギーを上げる。 は高エネルギーにより、ヒッグス粒子が探索可能である。 は に比べて、ヒッグス粒子を精密に測定することが可能である。した と を並行して稼動することは、新しい物理を発見し、 がって、 理解するために重要である。 測定器 検出器は衝突点に近い側から、バーテックス検出器、中央飛跡検出器、カ に の概観を示す。 ロリメータ、μ粒子検出器の順で置かれる。図 第 章 ( )実験 図 の概念図 この線形加速部分の先に測定器が置かれる。 バーテックス検出器 バーテックス検出器は電子・陽電子衝突点に極めて近いところに置 かれる検出器である。ビーム衝突によって生成された粒子のうち、 荷電粒子の飛跡を精密に測定するためのものである。 中間子や 中間子の崩壊点を測定することによって、 クォークや クォーク の同定を行う。特に クォークの同定は、ヒッグス粒子探索におい あた て非常に重要である。しかし、バーテックス検出器では1 り数十個の低エネルギーの電子と陽電子がバックグラウンドとして 入射してくる。このような状況において、必要な粒子の飛跡を正確 に測定するためには、数μ という高い位置分解能が要求される。 この高い位置分解能を実現させるために高精細画素電荷素子を用い 第 章 ( 図 )実験 のデザイン ることが考えられている。 中央飛跡検出器 中央飛跡検出器は、ジェット中の荷電粒子の飛跡を調べ、その運動量 を測定する装置である。これらの荷電粒子は超伝導ソレノイドの作 る磁場で曲げられる。この曲げられた曲率半径から運動量が測定で きる。ヒッグス粒子探索において、高い運動量分解能が要求される。 カロリメータ カロリメータは発生したエネルギーを測定する装置である。 カ ロリメータではサンプリング型カロリメータが用いられ、反応の違 いから電磁カロリメータとハドロンカロリメータに分けて構成され ている。カロリメータについては次の節で詳しく述べる。 μ粒子検出器 μ粒子の同定を行う検出器である。μ粒子は寿命が長く、重い粒子 なので、電磁シャワーを起こさずカロリメータを突き抜ける。した がって、飛跡検出器で精度よく検出されたμ粒子の飛跡と、μ粒子 検出器で検出された飛跡が一致するかを調べるので、それほど高い 程度である。 位置分解能は要求されておらず、 図 に検出器のデザインを示す。 第 章 ( 図 )実験 の概観(完成予想図) カロリメータ カロリメータの構造 カロリメータはシャワーという現象により、粒子の全エネルギーを測定 する。シャワーとは高エネルギーの粒子が物質に入射したときに、原子 核との相互作用により指数関数的に粒子数を増加させる現象で、これは 新たな粒子を生成できるエネルギーを下回るまで続く。このシャワーには 電子、陽電子、光子などによる電磁シャワーと、ハドロンによるハドロン シャワーがある。電磁シャワーを測定するのが電磁カロリメータ、ハドロ ンシャワーを測定するのがハドロンカロリメータとなっている。カロリ メータでは、このシャワーのエネルギーを精度よく測定することにより、 入射粒子のエネルギーを測定する。 カロリメータの種類 カロリメータには全吸収型カロリメータとサンプリング型カロリメータ がある。 全吸収型カロリメータはカロリメータ内で失う全エネルギーを測定でき るので、エネルギー分解能が優れている。しかし、コストが高く、大量生 産が困難である。 サンプリング型カロリメータは吸収体と検出体を交互に並べた積層構 第 章 ( )実験 図 検出器の概念図 左側がビーム軸上から見た断面図。 右側が検出器を横から見た図。 数値の単位は 。 造になっている。吸収体には効率よくシャワーをおこさるために密度の大 きい物質である、鉛、鉄、タングステンなどが用いられる。検出体にはプ ラスチックシンチレータ、ガス、半導体などが用いられれる。サンプリン グ型カロリメータのエネルギー分解能は全吸収型カロリメータに劣るが、 カロリメータではサンプリン サイズも小さくでき、コストも低い。 グ型カロリメータが用いられる。 エネルギー分解能 粒子がカロリメータに入射したときのエネルギー分解能は次式で表さ れる。 ここで、 である。 は 単位で表される入射粒子 は統計項で、入射粒子により形成される のエネルギーである。 シャワー自体の揺らぎ、カロリメータ自体の検出層と吸収層の積層構造に は定数項で、シャワーの漏れ、エネルギー 起因するものである。 の較正などに起因するものである。 第 章 ( )実験 電磁カロリメータの目標値は となっている。 ジェットを精度よく測定できないとジェットの再構成において精密にもと の粒子を特定できない。そこで、ジェット中の粒子のエネルギーを精度よ ( )を用いる。 く測定する方法として、 実験において重要なイベントの多くは複数の粒子が生成されるジェットを が荷電粒子、 が光子、 多く含む。ジェットを構成する粒子は、約 が中性ハドロンである。このジェットを構成する粒子のうち、カロリ である。 メータでは中性粒子のみエネルギー測定を行う。この手法が カロリメータの細分割 粒子が単独でカロリメータに入射してくるということはかなりまれで、 では ジェットとして多数の粒子が近接して入射してくることが多い。 ジェットのエネルギー分解能が高いことが要求されているので、ジェット によるジェッ のエネルギーを精度よく測定する必要がある。よって、 トの再構成により、近接して入射してきた粒子を正確に区別して検出しな カロリメータではシンチレータストリッ くてはいけない。そこで、 プを用いて、カロリメータの細分割を行っている。 カロリメータ カロリメータではサンプリング型カロリメータを提案している。 )+検出体に 電磁カロリメータでは吸収体にタングステン(厚さ: )+空気(厚さ: )を 層、ハドロンカ シンチレータ(厚さ: )+検出体にシンチレータ(厚 ロリメータでは吸収体に鉄(厚さ: )+空気(厚さ: )を 層となっている。 さ: に の電磁カロリメータで考えられているサンプリング型カ 図 ロリメータを示す。奥行き方向をx軸、横方向をy軸とする。電磁カロリ × × のストリップシンチレータを 軸方 メータでは 向に並べた 層と 層から構成されるサンプリング型カロリメータが考 のピ えられている。 層と 層の2層の組み合わせによって、 第 章 ( )実験 クセル検出器と同等の位置測定が可能になっている。2章で述べる という新型光検出器を読み出しに使う。 第 章 ( )実験 図 の電磁カロリメータの検出層の概略図(サンプリング型カロ リメータ) 第 章 新型光検出器 は数光子から数千光子程度の微弱光測定のために近年開発され た半導体光検出器である。 今まで、微弱光の測定には主に光電子増倍管が使われてきた。しかし、 光電子増倍管は磁場中では使用できないこと、小型化が非常に難しく、コ ストが高いこと、動作させるのに高電圧を必要とすることなど、高エネル ギー実験には不向きな性質があった。よって、小型で安く、光電子増倍管 に匹敵するほどの性能を持つ光検出器が望まれてきた。そこで、浜松ホト カロリメータグループなどが研究・開発したのが、 ニクスと である。 は、小型、光電子増倍管に並ぶ増幅率( )と光子検 程度の低電圧で動作することといった優 出効率、磁場に対する耐性、 れた性質を持っている。 × に が ピクセル× 測定で用いたのは、受光面 ピクセル ピクセルで、型番が の である。 の構造と原理 は多数の微小 (アバランシェフォトダイオード)のピクセ を ルを2次元に並列接続した構造になっている。ピクセル化された ガイガーモードで動作させ、各ピクセル信号の和を並列に読み出す。各 ピクセルでは、入射光電子数によらず一定の大きさの信号を出力す ピクセルは、それぞれクエンチング抵抗が接続されていて、 る。また ピクセルは1つの読 出力電流が流れるようになっている。すべての ピクセルから み出しチャンネルにつながっているので、それぞれの 出てきた信号は重なり合い、1つの大きな信号となる。この信号の高さや が検出した光電子の数を見積もる 電荷量を測定することにより、 ことができる。 ( ) 1つの光電子が入射したときに検出される信号が1 である。 第 章 新型光検出器 の基礎特性 増幅率( ) 1つのピクセルのガイガー放電による電子の増倍率として定義でき る。増倍率は 1ピクセルが出力する電荷量 素電荷 で表すことができる。 の増倍率は となっている。 ダークノイズ は固体素子なので、主に熱励起による電子が電子雪崩を起こ すことにより発生すると考えられている。このため、ダークノイズ 相当であり、光子が1個入射したときと見分けが の大きさは1 つかない。 ピクセル間クロストーク ピクセル間クロストークとはあるピクセルで電子雪崩が発生したと き、その雪崩中で光が発生し、周囲のピクセルに伝播して、別の電子 雪崩を引き起こすことである。この現象が頻繁に起きると、 の出力が実際に検出されるべき信号より大きくなってしまう。この 問題については現在ピクセル同士を光学的に分離させるなどの改良 が進められている。 光子検出効率 光子検出効率とは1つの光子の入射による信号を検出する確率のこ とである。 の光子検出効率は で表すことができる。ここで、 は1つの光子に対して電子・正 はアバランシェ増幅を起 孔の対生成の確率を表す量子効率、 は の受光面において光子に対し感度の こす確率、 ある有効面積の割合である。 シンチレータ シンチレータの原理 シンチレータとは粒子が通過したときに光を出す物質である。この光を シンチレーション光という。 第 章 新型光検出器 粒子が通過するとき、物質中の電子が励起状態になる。励起された電子 が元の状態に戻るときにシンチレーション光がでる。 広く使用されているシンチレータはヨウ化ナトリウムなどの無機のアル カリハイライド結晶、有機の液体、プラスチックである。 シンチレータストリップの種類 シンチレータストリップは、クラレのシンチレータストリップと のシンチレータストリップの2種類を用いて測定を行った。この2つは製 × × 造方法が異なる。クラレのシンチレータストリップは の大きさに切り出してから波長変換ファイバーを通す穴を開け、表 面を研磨するといった機械加工により製造されている。機械加工による 製造のため、精度のよいシンチレータストリップの製造が可能だが、コス のシンチレータストリップはチューブ トが非常に高い。一方、 で厚さ のシンチレータを押し出すよう のようなもので、幅 の長さに切る。この製造では自動的に反射材のた にして製造され、 ペイント、波長変換ファイバー(断面積: )を通す穴が作 めの られる。よって、コストが低く抑えられ、量産に向いている。電磁カロリ メータではカロリメータの細分化により、シンチレータストリップが1千 のシンチレー 万個程度必要となるので、低コストで製造できる タを用いる方向で考えられている。読み出し方法としては、波長変換ファ イバー読み出し、直接読み出しの2種類を用いた。 第 章 シンチレータストリップの光 量比較測定 研究目的 シンチレータを用いるカロリメータでは入射したエネルギーを光に変 換し、その光量を測定することにより、入射エネルギーを測定する。した がって、ストリップシンチレータの種類、読み出し方法、反射材の種類に 対する依存性を調べることを本研究の目的とする。 の の の決定 を求めるには以下の式を用いる。 ここで、 は ( )の信号に相当する カウント、 は の分解能: 、 は素電荷( × )、 は測 定に用いたアンプの増幅率( 倍)である。この式において、ペデスタ のピークをガウス関数でフィットし、それぞれのピークの中心値 ルと を求め、その差を とした。 測定方法 に光を当てなくてもダークノイズにより 相当の信号が観 に光を当てない状態で測定を行った。測定の 測可能であるので、 である。測定は恒温槽による温度管理(設定温度: セットアップは図 ℃)の下で行った。 に印加するバイアス電圧は に設定し、 からの信号は で 倍に増幅し、 に入力し、電荷量を 測定する。また、完全に遮光するために装置全体を遮光シートで覆って恒 温槽の中に入れ、恒温層全体も遮光シートで覆った。 第 章 シンチレータストリップの光量比較測定 図 測定のセットアップ 測定結果 の測定結果の 分布は図 である。右側の 分布は左側 分布をログスケールにしたものである。 の 分布から、ペデスタルと の中心値を求めた。その結果 この より、 ( の中心値)(ペデスタルの中心値) という値が得られた。この の値を、 を求める式 に代入すると という値が得られた。 シンチレータストリップの光量比較測定 シンチレータストリップの光量 を求めるには以下の式を用いる。 ここで、 とは 線源 を用いて測定したときの カウントをガ カウントにおける1 ウス関数でフィットしたときの中心値、 は に相当する信号である。 は を求めるときに測定した値 を用いる。 第 章 シンチレータストリップの光量比較測定 図 ダークノイズを用いて測定した結果 測定方法 この測定で比較したのは シンチレータ① シンチレータストリップ(クラレ)+波長変換ファイ ( ) バー読み出し+ シンチレータ② シンチレータストリップ(クラレ)+直接読み出し+ ( ) )+波長変換ファ シンチレータ③ シンチレータストリップ( イバー読み出し+ の3種類である。 である。恒温槽の設定温度は ℃、 測定のセットアップは図 に印加するバイアス電圧は である。また、完全に遮光するために装 置全体を遮光シートで覆い恒温槽の中に入れて、恒温槽全体も遮光シート で覆った。 測定結果と考察 測定結果として得られた 分布において、 ピンク 分布は図 である。 第 章 図 シンチレータストリップの光量比較測定 シンチレータストリップの光量比較測定のセットアップ シンチレータ① 青 シンチレータ② 黒 シンチレータ③ 赤 それぞれをガウス関数でフィットしたライン である。 分布より、光量が多い順から、シンチレータ①、シンチ レータ②、シンチレータ③となっていることがわかる。 それぞれの結果より、ガウス関数でフィットして求めた中心値の値 を用いて、光量を求める式 に代入すると、光量は シンチレータ① 第 章 シンチレータストリップの光量比較測定 図 ストリップの光量比較の結果 シンチレータ② シンチレータ③ となった。この結果により、シンチレータ①の光量を基準にすると、シ 、シンチレータ③の光量が となってい ンチレータ②の光量が る。よって、シンチレータ③の光量は、シンチレータ①の光量の約半分と ないっていることがわかった。 シンチレータ③での光量が少なかった原因として考えられるのは と の受光面にずれがあった と の受光面とのずれについて 光漏れ である。 第 章 シンチレータストリップの光量比較測定 顕微鏡で確認したところ、波長変換ファイバーと の受光面 の受光面との のずれは少なかった。波長変換ファイバーと ずれに関しては、シンチレータ①での測定についても言えることな ので、そこまで大きな影響があるとは考えにくい。 光漏れについて のシンチレータストリップを調べてみると、側面の のペイントがはげていることが確認できた。光漏れしていた可能性 のペイントがはげてる様子は図 のとおりである。 がある。 しかし、装置全体と恒温槽全体も遮光シートで覆っていたことより、 この光漏れの影響が大きいとは考えにくい。 図 において がはげている様子 反射材の光量比較測定 光量はシンチレータストリップの光量比較測定と同じように の式を用いる。ここで、 とは 線源を用いて測定したときの カ カウントにおける1 に相当する信号で ウントでの中心値、 は を求めるときに測定した値 を用いる。 ある。 は 測定方法 測定にはクラレのシンチレータストリップを用いた。使用した反射材は 第 章 シンチレータストリップの光量比較測定 ( 厚さ: μ 高機能レフホワイト 厚さ: ) (きもと株式会社) μ の2種類である。 である。恒温槽の設定温度は ℃、 に印 セットアップは図 である。また、完全に遮光するために装置全 加するバイアス電圧は 体を遮光シートで覆い恒温槽の中に入れて、恒温槽全体も遮光シートで 覆った。 図 セットアップ 測定結果と考察 測定結果として得られた 分布において、 青 分布は図 である。 第 章 シンチレータストリップの光量比較測定 図 反射材の光量比較の結果 黒 レフホワイト 赤 ガウス関数でフィットしたライン である。 分布より、 の光量が少しレフホワイ トより高いことが分かる。 この2つの結果より、ガウス関数でフィットして求めた中心値の値 を用いて、光量を求める式 に代入すると、光量は レフホワイト 第 章 シンチレータストリップの光量比較測定 となった。 での光量を基準とすると、レフホワイト となっている。 での光量は での光量はレフホワイトでの光量より高 測定より、 のほうが高いといえる。し いことより、光の反射率も は現在製造中止になっていることから、大量に かし、 反射材を使う測定やビームテストでは用いることができない。レフホワ よりは若干劣るが、 の光量があ イトの反射率は に近い反射率を持つといえる。したがっ ることより、 の代わりにレフホワイトを使用することが可能で て、 あると判断できる。 ビームテスト LCカロリメータグループは高エネルギー加速研究機構( )で富 年 月にビームテストを行った。 士テストビームラインを使い、 富士テストビームライン 富士テストビームラインのビームは電子ビームである。 加速器 検出器の反対 は電子リングと陽電子リングの2リング構造を持ち、 側に電子リングの長い直線部がある。この部分は高い真空度ではあるが、 高電流の電子ビームため、わずかな残留ガスなどによる制動放射によって できた光子が大量に発生する。これまでは捨てられてきたこの光子を効率 よく取り出し、コンバータで電子に変換する。この電子を実験エリアまで 取り出すことによりテストビームを作っている。 測定目的 実験室で行ったストリップシンチレータの光量比較測定ではシンチレー )+波長変換ファイバー+ ペイントの光量が一番低く、 タ( 一番高い光量を持つシンチレータストリップ(クラレ)+波長変換ファ ( )の約半分であった。また、 イバー読み出し+ で行われた前回のビームテストでも同様の結果が出ている。そこ のシンチレータストリップの光量が で、このビームテストでは 低い原因を探るため、クラレのシンチレータストリップとの性能比較をす のシンチレータストリップの性能評価を行うこ ることにより、 とが目的である。 第 章 シンチレータストリップの光量比較測定 ビームラインの構成 ビームラインの構成は図 図 と図 である。 ビームラインの構成 今回のビームテストで使用した電子ビームは スポットの大きさ: × エネルギー: レート: (エネルギーが において) である。 シンチレータストリップの構成 今回ビームテストに用いたシンチレータストリップは シンチレータストリップ(クラレ) シンチレータストリップ(厚さ し+レフホワイト )+波長変換ファイバー読み出 シンチレータストリップ(厚さ イト )+直接読み出し+レフホワ シンチレータストリップ(厚さ イト )+直接読み出し+レフホワ 第 章 シンチレータストリップの光量比較測定 図 ビームラインの構成(横から見た写真) シンチレータストリップ( ) シンチレータストリップ(厚さ: 出し+ )+波長変換ファイバー読み シンチレータストリップ(厚さ: 出し+レフホワイト )+波長変換ファイバー読み シンチレータストリップ(厚さ: )+ となっている。今回のビームテストでは のシンチレータスト がペイントされていないものが新たに加わった。 リップに のシンチレータストリップには製造方法によりいくつか問題 があることがわかっている。 断面積が の波長変換ファイバーを通す穴が、ファイバーに比 べて大きすぎる 波長変換ファイバーを通す穴がシンチレータストリップに対して中 央に開いていない 今回ビームテストに用いたシンチレータストリップにも同様の問題が と図 に示す。 あった。その様子を図 より、クラレのシンチレータストリップでは、波長変換ファイ 図 )になっている。しかし、 バーを通す穴ファイバーと同じ大きさ(1 のシンチレータストリップでは、波長変換ファイバーに対して 第 章 シンチレータストリップの光量比較測定 図 波長変換ファイバーを通す穴の比較 穴が大きすぎる。これでは波長変換ファイバーの位置が正確に定まらず、 の受光面とのずれを生じる原因となる。 より、波長変換ファイバーを通す穴の位置がシンチレータスト 図 リップ(クラレ)では中央にあるのに対して、シンチレータストリップ )では中央からずれているものもある。これでは波長変換ファ ( の受光面とのず イバーの位置が正確に定まらず、このこともまら れを生じる原因となる。 のように構成した。 したがって、シンチレータストリップを表 より、 までは のシンチレータストリップ、 ま 表 、 ではクラレのシンチレータストリップになっている。 は厚さが である。図 はそれぞれのシンチレータ それ以外はすべて厚さが ストリップである。 より、 と の のシンチレータストリップに関しては、 表 、 、 、 と2種類に分ける。 は波長変換ファイバー それぞれ は中 を通す穴がシンチレータストリップの中央からずれているもの、 央にあるものである。 は波長変換ファイバーに対して穴が大きすぎる もの、 は穴の大きさが波長変換ファイバーの断面の大きさとほぼ同じ ものである。ただし、これらの見分けは人間の目で見て判断したものであ の違いは図 、 と の違いは図 のとおりである。 る。 と 第 章 シンチレータストリップの光量比較測定 図 穴の位置の比較 ビームテストの解析 に対する応答 図 図 は に対する応答を表している 分布である。 分布、青い線は イベントの 分布 黒い線は全イベントの カウントでの で、縦軸はログスケールにしたイベント数、横軸は の信号である。図 図 は、 1段目 )厚さ3 + ペイン 左:シンチレータストリップ( の受光 ト+波長変換ファイバー読み出し 波長変換ファイバーと 面が悪い ただし、今回のビームテストでは波長変換ファイバーなし )厚さ3 + ペイン 右:シンチレータストリップ( の受光 ト+波長変換ファイバー読み出し 波長変換ファイバーと 面がよい 2段目 )厚さ3 +反射材+波長変 左:シンチレータストリップ( 換ファイバー読み出し 波長変換ファイバーを通す穴が大きい )厚さ3 +波長変換ファイ 右:シンチレータストリップ( バー読み出し+反射材 波長変換ファイバーを通す穴の大きさがよい 3段目 第 章 シンチレータストリップの光量比較測定 表 シンチレータストリップ 左:シンチレータストリップ( )厚さ3 + ペイン ト+直接読み出し +反射材+直接読み 右:シンチレータストリップ(クラレ)厚さ2 出し 4段目 +反射材+直接読み 左:シンチレータストリップ(クラレ)厚さ3 出し +反射材+波長変換 右:シンチレータストリップ(クラレ)厚さ3 ファイバー読み出し となっている。また1層につき4つのストリップの信号を読み出し、4 のように左からストリップ1 ス つのシンチレータストリップに図 トリップ4と番号をふった。 基準となるのはクラレのシンチレータストリップの波長変換ファイバー イベントとペデスタルがきちんと分かれ 読み出しである。なぜなら、 イベントの信号だけをきちんと取り出すことがで ていることより、 第 章 シンチレータストリップの光量比較測定 図 のシンチレータストリップ 分布より、 のシンチレータストリップに きるからである。 反射フィルムを使った波長変換ファイバー読み出しで波長変換ファイバー 分布のように イベ を通す穴の大きさが適当なものが、基準の ントとペデスタルがきちんと分かれているのがわかる。逆に、波長変換 イベントとペデスタルがはっき ファイバーを通す穴が大きいものは りとわかれていない。このことから、波長変換ファイバーを通す穴の大き さは重要であるということがわかった。 光量の一様性 図 図 は光量の一様性を表しているグラフである。縦軸は の信号( カウント)、横軸はビームの位置( )で、シン 側がグラフの右側、逆側がグラフの左側と チレータストリップの なっている。 に対する応答の 分布と同様に、図 図 は、 に 対する応答と同じように並んでいる。また、ストリップ1 ストリップ 4に関しても同様である。 に対する応答の結果と同様にクラレのシ 光量の一様性の結果でも ンチレータストリップの波長変換ファイバー読み出しを基準とする。なぜ 側と逆側で光量にあまり差が小さいからである。 なら、 第 章 シンチレータストリップの光量比較測定 図 と のシンチレータストリップ( ) のシンチレータストリップに反射フィルムを使った波長変換 ファイバー読み出しで波長変換ファイバーを通す穴の大きさが適当なも 側と逆側で光量の差が小さいことがわかる。逆に、波長変 のが、 換ファイバーを通す穴が大きいものは少し差がある。このことから、波長 変換ファイバーを通す穴の大きさは重要であるということがわかった。ま のシンチレータストリップに ペイントをしてあるのは た、 側の光量の半分しか逆側での光量 波長変換ファイバー読み出しで 側での光量と逆側での光量 がないことがわかる。直接読み出しは ペイントよりも反 の差が大きい。このことから、反射材については 射フィルムのほうが良いことがわかった。 第 章 シンチレータストリップの光量比較測定 図 と 図 のシンチレータストリップ( ストリップ1∼ストリップ4 ) 第 章 シンチレータストリップの光量比較測定 図 全イベントと イベント ストリップ1 第 章 シンチレータストリップの光量比較測定 図 全イベントと イベント ストリップ2 第 章 シンチレータストリップの光量比較測定 図 全イベントと イベント:ストリップ3 第 章 シンチレータストリップの光量比較測定 図 全イベントと イベント:ストリップ4 第 章 シンチレータストリップの光量比較測定 図 光量一様性:ストリップ1 第 章 シンチレータストリップの光量比較測定 図 光量の一様性:ストリップ2 第 章 シンチレータストリップの光量比較測定 図 光量の一様性:ストリップ3 第 章 シンチレータストリップの光量比較測定 図 光量の一様性:ストリップ4 第 章 結論 測定結果のまとめ ベンチテスト のシンチレータストリップの光量はクラレのシンチ レータストリップの約半分になっている。 ビームテスト と のシンチレータストリップでは、波長変換ファイバー の受光面の位置は重要である。 のシンチレータストリップの反射素材として、 ペイントよりも反射フィルムのほうがよい。 ビームテストでの光量の一様性の結果において、クラレのシンチレー タストリップ+ファイバー読み出し+反射フィルムと、 のシン ペイント+ファイバー読み出しでファイバー チレータストリップ+ の受光面の位置が良いものの比較をする。 のシンチ と の近くでの光量はクラレのシンチレータス レータストリップでの のシンチレータ トリップの約半分程度になっている。しかし、 ストリップの中央での光量は同位置でのクラレのシンチレータストリップ の光量の半分以下となっている。これらはベンチテストで得られた測定結 果に近い。 今後の課題 ベンチテストとビームテストの結果より、 のシンチレータス の受光面がきちんと合っている トリップは波長変換ファイバーと カロリメータでの使用が ものを選び、反射フィルムを使用すれば、 カロリメータで使用するシンチレータ 可能であることがわかった。 万個以上なので、使えるシンチレータストリップ ストリップの数は を選ぶという作業は非常に大変である。したがって、これらの問題を解決 第 章 結論 するためには ある。 のシンチレータストリップの改良が必要不可欠で 参考文献 横山将志 魚住聖, 高エネルギーニュース第 の研究開発 巻 号 高エネルギー加速器研究機構,ウェブページ 浜松ホトニクス株式会社,ウェブページ 坪川貴俊, の性能評価方法の研究 信州大学大学院工学系研究科 修士学位論文 年 前田高志,リニアコライダー実験用カロリメータのための光検出器 の開発研究 年 筑波大学大学院 数理物質科学研究科 修士学位論文 原康夫著,素粒子物理学,裳華房 著,木村逸郎 阪井英次訳,放射線計測ハンドブッ ク,日刊工業新聞社 製造会社 株式会社クラレ 東京本社 〒 東京都千代田区大手町 大手センタービル 大阪本社 〒 大阪府大阪市北区梅田 株式会社きもと 〒 東京都新宿区 〒 東京都世田谷区玉川台 新阪急ビル 謝辞 本研究を進めるにあたり、竹下徹教授、長谷川准教授には適切なご指導や 助言を頂き、深く感謝致します。 魚住聖さんには技術的、基本的な指導、また神戸へ移ってからも以前と 変わらない指導をして頂きました。心より感謝致します。研究室のみなさ まにはいろいろと支えになってもらい、本当にありがとうございました。 カロリメータグループのみなさまにはミーティングやビームテスト でお世話になりました。ありがとうございました。
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