日本自動車メーカーのマザー工場制による技術支援

名城論叢
2003年3月
35
日本自動車メーカーのマザー工場制による技術支援
グローバル技術支援展開の多様性の 察
中
<目
山
一郎
次>
1.はじめに
2.マザー工場制のフレームワーク(機能と特徴)
3.各社のグローバル戦略
4.各社のマザー工場制の採用状況
5.マザー工場制の類型化とその意義
6.おわりに
1.はじめに
係を本社とマザー工場との2社関係でとらえる
ことにも問題がある。本稿ではあえて扱わない
本稿の目的は,日本企業が海外現地生産子会
が,
基本的には技術支援体制は日本本社・マザー
社を設立した際に主たる技術支援策として用い
工場・海外生産子会社の3社間,場合によって
られたマザー工場制に焦点をあてて,日本自動
はこれに地域統括本社,現地の技術支援セン
車メーカーにあってはそれがどのような形態を
ターを加えた4ないし5社間で構成されるもの
とっているのか,また,マザー工場制によるト
である。その意味では,企業グループ間のシス
ランスプラントへの技術支援にどのような意義
テマチックな連携によってグローバル技術支援
があるのかを明らかにすることである。
を展開してきたのである。本稿では主として日
ここで主として扱うマザー工場制(mother
plant system)とは,主して本国のメーカーが
本本社,マザー工場,海外生産子会社の3社間
関係に注目する。
海外生産子会社に対して技術支援を展開する
そこでは,日本企業の海外生産子会社への技
際,そのモデル工場となる本国工場が窓口ない
術移転は成功裏に行われ,調査される対象企業
しは担当工場となり,現地に適した技術者や管
では一様に日本と同等あるいは,それに近い形
理者を派遣し,現場指導を展開する人材派遣を
で高い品質や生産性を実現しているか否かに関
中心とした技術支援方法をいう。
心が払われすぎたように思われる。しかし,海
元来,日本自動車メーカーのグローバル戦略
外生産子会社はみな一律に高いパフォーマンス
については日本本社を介した戦略的意思決定に
を示しているわけではなく,むしろ戦略的意図
特徴があり,現地化戦略についても本社主導の
をもって資源の集中投下された海外生産子会社
技術支援展開に特徴があるとされ,とりわけ本
が存在したことに注視すべきではないかと思わ
国本社と海外現地生産子会社との関係が日本的
れる。
生産システムの技術移転の際,主たる対象とし
て注目されてきた。
しかし,海外生産子会社に対する技術支援関
また,従来研究では特に時間軸を踏まえた動
態的研究はほとんど触れられずに扱われてき
た。つまり,技術移転の対象として,それが新
36 第3巻
第4号
規に設立する海外工場に対するものなのか,ま
その場合,マザー工場制は工場間での日常的
た現有工場に対する能力の引き上げのための技
情報 換を基礎に,技術的ニーズを逐次的に把
術移転なのかも含めて,対象工場の位置付けや
握できる環境を生み出しており,その意味では
技術移転の段階については,ほとんど問題にさ
この制度は海外市場の動向を前提に市場機会の
れてこなかったのである。
損失を最小化しつつ,段階的な技術移転を円滑
このことは長らく,日本の自動車メーカーが
におこなう上で機能する制度であると えられ
国内だけにとどまらず,海外においても競争力
る。また,それに対応できる国内工場は人材資
をもった生産拠点を保持しえたのか,日本的生
源や技術的な問題から限定されていると えら
産システムがなぜ海外でも有効に機能したのか
れる。以上のことから,ここでは「マザー工場
という根本的な問題について説明できないまま
制」にもとづくグローバル技術支援は,トラン
でいたといえよう。
スプラントへの技術移転,しいては日本的生産
1960年代以降に本格化した日本自動車メー
カーのグローバル戦略は,完成車の輸出戦略か
システムへの適用,移転,定着に大きく関与し
ていたという仮説を提示することにしたい。
らはじまり,1970年代,80年代には KD 生産や
現地での本格的な組立生
CKD 生産などを経て,
産を開始した。そして 1990年代にはこうした既
存の海外生産子会社の中から戦略的に重要な拠
2.マザー工場制のフレームワーク
(その機能と特徴)
点として位置付けされた拠点について段階的な
マザー工場制にかんする研究は比較的浅く,
生産能力の引き上げが行われるようになった。
その機能や特徴についても十 な 析がおこな
また,1980年代以降は自動車産業のグローバル
われてきたとはいえない。しかもこれまで自動
化の進展にともない,当初より戦略的に重要な
車産業を対象にしたマザー工場制を本格的に検
拠点として位置付けされる海外生産子会社も少
証した研究は存在しないため,論者によってそ
なくなく,そうした工場にあっては早期の現地
の定義にバラツキがみられる。
量産化が志向されるようになり,本社の戦略的
ここでは特にマザー工場制が技術支援システ
意思決定のもと本国からの技術移転については
ムとして制度化されているか,否かといった観
ますますその移転スピードが重要性を持つよう
点を重視し,支援をおこなう主体(工場)の明
になった。
確化とその特定化,支援そのものの継続性と
本稿では自動車メーカーの戦略的意図のも
いった点に着目するため,過去の定義にとらわ
と,意図的に生産システムの高度化を図ってき
れず,予め独自のフレームワークを設定してお
た海外生産子会社に焦点をあてることにし,そ
くことにする。
れ以外の他の生産子会社と区別する。
後段で詳述するように自動車産業の場合,技
したがって,ここでは前者の海外生産子会社
術支援は多様な方法によって実施されており,
を「トランスプラント(transplant)
」とよぶこ
実際のところ各社によりマザー工場制に対する
とにし,従来研究では見過ごされてきた,その
認識や え方,さらには社内用語も異なってお
生産システムの高度化にかかわる自動車メー
り,
フレームワークの設定は避けてとおれない。
カーのトランスプラントに対する組織的対応,
マザー工場制を技術支援システムとして把握
いわゆるグローバル技術支援に着目することに
する場合,その実行段階において支援工場を特
したい。
定化して実施するのか,あるいは非特定化して
日本自動車メーカーのマザー工場制による技術支援(中山) 37
工場単位での技術者は派遣しないとするかに
関係があるためである。
よっては,システムとしての意味合いは大きく
これについては,マザー工場制についての代
異なってくるものと思われる。
表的な先駆的研究である山口隆英論文や安室憲
ここでは暫定的にマザー工場制の概念を広く
一グループの研究が参 になる。山口隆英氏は
とり,狭義のマザー工場制と広義のマザー工場
マザー工場制を,
「親会社における技術移転セン
制,非マザー工場制の3つのカテゴリーに 類
ターとして海外からの人材を受入れ,訓練を行
し,技術支援システムとしての制度化しうる範
い,海外で運営しやすい製造技術を開発するな
囲を設定しておく。
ど,技術移転戦略の中心を担う大規模な組織単
厳密にいえば,支援工場が予め特定化されて
位」 として定義し,その機能的役割を次のよ
おり,現地からの支援要請のほか,本社の意思
うに整理している。①本社からの生産技術の移
決定により支援の必要が生じた場合には,対象
転,②海外工場にトラブルが発生した場合の対
となるトランスプラントへ専属支援する形でお
処,③海外工場を運営する上での核となる人材
こなわれる方法を狭義のマザー工場制とする。
の育成,④海外従業員の教育訓練,⑤海外工場
また,ふだんは支援工場としての位置付けを持
への新製品導入の円滑化である。
たず,支援発生段階においては支援工場が定
このように山口氏はマザー工場制を特に自動
まっていなくても,それを実施する段階にあっ
車産業を意識して概念化しているわけではな
ては,本社の意向を受け,支援工場として窓口
く,あくまでも一般的な概念としてとらえよう
機能を果たすような場合には広義のマザー工場
としている。マザー工場制による技術支援のあ
制を採用しているとして扱うことにする。した
り方とは,進出時のみに限定しないで,進出後
がって,ここではマザー工場制を採用しない
も継続的に技術支援していくシステムとしてと
ケースとは工場を単位として支援体制がとられ
らえていることは明白である。
ていない場合がこれにあてはまることになる。
また,非マザー工場制をとる企業に多くみら
工場を単位として支援展開がおこなわれない
れる組織横断的に組織されるプロジェクト型組
ケースとは,
組織横断的に広く派遣人材を求め,
織は,短期的な計画の遂行にはうまく適応でき
必要とされるだけの人材をトランスプラントに
るものの,そのプロジェクトが終了すれば,組
派遣をする場合である。この場合,支援先とな
織は解散してしまう可能性が高く,継続的,長
るトランスプラントと本国との窓口は本社に委
期的な課題については個々のプロジェクト型組
ねられる。
織では対処しきれないという問題が生じる可能
このケースをマザー工場制として扱わない理
性がある。その点,工場を単位とする支援組織
由は,技術支援が工場単位ではないという理由
を形成する場合には,工場間での情報共有がし
の他に,マザー工場制がもつ一般的機能と深い
やすく,継続性のある課題に対してもその情報
表2―1
支援発生の段階
技術支援システムとしてのマザー工場制の概念的範囲
支援工場は特定化
支援工場は定まっていない
窓口選定の段階
支援工場は自動的に決定 候補先工場の中から選定
支援実行の段階
支援工場が専属的に対応
窓口工場を中心に対応
窓口工場を設けない
狭義のマザー工場制
広義のマザー工場制
非マザー工場制
技術支援の
類
出所)筆者作成。
38 第3巻
第4号
が蓄積され,たとえ,他部門を含めた組織横断
移転,③生産物・生産過程型技術移転,④人材・
による組織編成によってプロジェクト型組織が
労働体現技術移転,⑤組織体現型技術移転の5
形成されようとも,基本が工場単位となってい
つのタイプに 類できることを指摘しており,
れば,その問題は克服されることになる。この
単純な技術移転から独自の改善を加えて差別化
ように工場単位での組織,あるいは工場を基礎
をはかるなどの技術移転が存在することを指摘
とした組織編成がおこなわれるかどうかは,連
している 。
続的な技術支援を前提とした組織編成となって
マザー工場制による技術支援は技術移転をお
いるのか,あるいは一時的な組織編成にすぎな
こなう際の唯一の方法ではなく,人道的な技術
いのかを判断する1つの目安になるものと え
支援は工場単位でなくてもできる。
られる。
また,
一般的概念としてのマザー工場制には,
次のような認識の違いがみられる。
この点については安室憲一グループがおこ
なった日本の主産業におけるマザー工場制の普
及実態調査からも指摘することができる。
それはトランスプラントに対して当初から本
安室氏らはマザー工場制を,暗黙知を暗黙知
国工場と同等ないしそれに匹敵・類似する工場
(共同化)
として,あるいは暗黙知を形式知
(表
を 設するがごとく,完全なまでのコピー工場
出化)として知識移転するシステムとしてとら
を設立するための手段として認識されている場
えており,
「 式組織(本社―海外子会社)に基
合に生じる。
すなわち,
本国工場の完全なコピー
づく組織には示されない非 式組織による知識
工場を最初からおこなうための技術支援なの
移転システム」
として定義し,
現場イズムをもっ
か,方向的には同じであっても段階性をもち,
た経営がどの程度,トランスプラントでおこな
地域性や市場に適応した技術支援を展開するの
われ,その手段としてどのような方法が用いら
かといった選択の違いである。
れているかについて 1994年に調査をおこなっ
この点,山口氏のマザー工場概念においても,
ている 。その結果,本国支援工場は,トランス
新製品の量産技術,コストダウン,ラインの合
プラントに対して必ずしもマザー工場制を採用
理化などの試験運用をつうじて確立し,その新
していないという否定的結果を示している。
技術を世界の生産拠点に導入する上での一方法
また,山口論文ではマザー工場制を採用して
として実験プラントとしての役割と成果普及を
いない企業であっても本質的にはマザー工場制
おこなう役割が期待されており,機能面におい
と類似する支援,いわゆる同質的な技術支援が
てトランスプラントに対して画一的で,同質的
おこなわれており,それはプロセス産業よりも
な技術支援を期待する趣があるが,それはあく
アセンブリ産業においてよくおこなわれている
までも一部 を示すものであることには留意す
ことを指摘している 。このことから,トラン
る必要がある。トランスプラントに対して本国
スプラントへの技術移転のあり方は,本国工場
での手順や品質などにかんするノウハウを含め
と技術的に同質となる完全なコピー工場を最初
たトータルな生産システムを完全移植すること
から想定して意図されるものではなく,現地の
までを前提としているのではない 。
市場規模や市場環境を踏まえて,適性技術の移
そもそも技術移転には様々なタイプがあり,
移転しやすいものから移転しにくい技術が存在
転を志向した技術支援が展開されるものと え
られる。
する。岡本義行氏によれば,技術移転を次のよ
これらの点を念頭におきつつ,マザー工場制
うな①設備体現型技術移転,②投入体現型技術
による技術支援展開を描写するにあたっては,
日本自動車メーカーのマザー工場制による技術支援(中山) 39
表2―2
技術支援展開のタイプ
支援のタイプ
Ⅰ.一時的な技術支援
Ⅱ.断続的な技術支援
Ⅲ.継続的な技術支援
海外生産子会社のおかれ
ている状況
技術支援の内容や規模に
かかわらず,過去におい
ておこなわれたものの,
その後,同様な支援がし
ばらくおこなわれず,本
国からの支援活動そのも
のが休止状態にある海外
生産子会社
技術支援の内容や規模に
かかわらず,技術支援が
ある程度の間隔をもって
おこなわれている海外生
産子会社
技術支援の内容や規模に
かかわらず,常に技術支
援がおこなわれ,本社は
じめ技術支援工場との情
報 換や人材派遣ならび
に受け入れ等が頻繁にお
こなわれ,本国と緊密な
関係にある海外生産子会
社(本稿ではトランスプ
ラントして扱う)
出所)筆者作成。
技術支援のあり方として,トランスプラントが
民族系自動車メーカーは,最終的にはトヨタと
どのような戦略的位置付けにあるのか,その支
ホンダを残すだけとなっている。
援の継続性はどのようになっているのかに着目
こうした国際的な自動車産業の再編の加速
する必要があると えられる。この点は自動車
は,技術支援のあり方に少なからず影響をもた
産業のマザー工場制をとらえる場合,各社がど
らしている。とりわけ,提携先相互のトランス
のようなグローバル展開を推進しているのかを
プラントの活用をつうじた生産車種のプラット
把握する必要があることも示唆している。
フォームの共通化,モジュール生産方式の導入,
少なくとも表2―2に示されるような,本国
世界同時生産方式等,1990年代以降に本格化し
から対象国の生産子会社に対する資本,人材,
た新しい生産システムの動向は,こうした世界
技術や情報 換等のフローやその頻繁度に応じ
的な産業再編とも深くかかわっており,本国主
て,おおまかに3段階に 類することは可能で
導の新工場 設,既存工場の技術的向上の方向
あろう。
性はこの潮流と無縁ではなくなっている。
表3―1では,日本自動車メーカー各社の主
3.各社のグローバル戦略
な国際的戦略的提携を掲載したものであるが,
こうした業界動向に対して,独自性を貫いてい
日本の自動車メーカーは,表3―1に示され
る自動車メーカーはホンダだけとなっている。
るように 1980年代以降,
グローバル競争が本格
このような近年の業界再編の動きによって,
化し,1990年代には世界規模での再編がはじま
グローバル戦略は転換する可能性があり,それ
り,その余波を受けて日本でも 1990年代後半,
によって従来の技術支援も変化することが予想
企業グループの強化や外資系自動車メーカーを
される。
巻き込んだ戦略的提携が表面化した。いわゆる
また,表3―2にあるように,各社の保有生
「国内 11社体制の崩壊」のはじまりであるが,
産拠点にはバラツキがあることが示される。ト
1998年にはトヨタによるダイハツ,日野自工の
ヨタ,スズキ,ホンダはそれ以外のメーカーよ
子会社化をはじめ,米 GM のスズキへの増資,
りも多くの生産拠点を抱えている。
ルノーの日産自動車への資本参加など,日本
生産拠点数はグローバル技術支援を 察する
メーカーが相次いで外資の傘下に入ったことで
上では無視し得ないものである。すなわち,拠
40 第3巻
第4号
表3―1
各
1990年代後半の各社の主な戦略的提携
社
富士重工
アライアンス内容
99年 12月,GM と資本提携合意(20%出資)
99年 12月,スズキと資本提携合意(相互1%ずつ)
日産自動車
99年 3月,ルノーと資本提携合意(36.8%出資)
日産ディーゼル工業
99年 3月,ルノーと資本提携合意(22.3%出資)
いすゞ自動車
日野自動車
GM グループに完成車,コンポーネントを供給
00年 3月,トヨタ出資(33.4%)
トヨタ自動車
グループ間で乗用車・商用車の相互 OEM 供給
ダイハツ工業
98年 9月,トヨタのダイハツ出資(51.2%)
94年∼
商用車の相互 OEM 供給
三菱自動車
99年 10月,ボルボと資本提携合意(相互5%ずつ)
00年 3月,ダイムラー・クライスラー資本提携合意(34%出資)
スズキ
マツダに軽乗用車,商用車の OEM 供給
98年 11月,GM からの出資 3.3%から約 10%に増資
マツダ
96年 4月,フォード出資 33.4%
79年 11月米フォードと資本提携
98年 8月,タイでフォードと共同生産事業開始
ホンダ
94年 5月,英ローバーと資本提携解消
97年 11月,中国・広州汽車と現地生産合意
00年 3月,世界5極体制構築(日本・米州・欧州・アジア・南米)
出所)日刊自動車新聞社[16]より筆者作成。
注)すべての提携関係を網羅するものではない。
点数が多ければ多いほど支援すべき対象が増え
る 。また,海外で現地生産を行う場合には,他
ることになり,特にハイテク技術の移転が目的
国で設計開発された自動車モデルをそのまま複
となる場合には,それらを効率的に市場機会と
製コピーするような形での生産は行われず,販
してとらえて支援していくことは困難になると
売地域での環境(例えば,現地で調達される素
えられる。
材成 や塩害対策や道路舗装状況,
気温や湿度,
特に 1990年代以降において進化したグロー
自動車の
われ方等を 慮)を踏まえた設計モ
バル競争によって,各社はそれぞれ独自展開し
デルの修正が施される。海外生産拠点の中には
てきたトランスプラントを一層,戦略的に有効
こうした設計図面に対する修正能力や設計開発
活用すべき段階に入っているといえる。
能力を有するトランスプラントが存在する。こ
ホンダでは 1994年に米州,欧州,アジア大洋
うした設計開発能力を有することは独自の技術
州,日本の四極体制を構築しはじめ,世界同時
革新をおこなうための条件でもあり,グローバ
生産に向けての地歩を固めており,主力トラン
ル競争の進展はトランスプラントの技術開発力
スプラントに対しては日本の主力工場と肩を並
を競う段階に突入しているといえよう。
べる程度に生産技術の水準を引き上げ,
「早期採
表3―3は,四輪車の完成車組立拠点に限定
算化」に「早期自立化」を加えたスピードある
して各社のグローバル戦略をとらえなおしたも
現地化を意識した取り組みに変化してきてい
のである。四輪車でみた場合には,表3-2でみ
日本自動車メーカーのマザー工場制による技術支援(中山) 41
表3−2
各社の海外生産拠点(1999年現在)
トヨタ
スズキ
ホンダ
日産
三菱
マツダ
いすゞ
自社出資生産会社
36
19
31
14
14
13
17
現地資本 100%生産会社
5
15
0
5
5
5
0
41
34
31
19
19
18
17
数
出所)日刊工業新聞社・日本自動車会議所[17]pp.49-71より作成。
表3−3
主要自動車メーカーのグローバル戦略
トヨタ
日産
ホンダ
マツダ
完成車(四輪)製造組立拠点数
28拠点
20拠点
16拠点
20拠点
現地生産車種累計
75車種
57車種
40車種
52車種
9モデル
12モデル
グローバル戦略車・モデル数
24モデル 28モデル
出所)各社の広報資料をもとに作成。但し 2001年現在のもの。
られるほどに拠点数に大きなバラツキはみられ
ない。むしろトランスプラントで生産されるモ
デル数に各社の特徴があらわれている。
4.各社のマザー工場制の採用状況
ここでは先のマザー工場制のフレームワーク
具体的にはもっとも海外市場に現地生産車種
にもとづき,日本の主要自動車メーカー,トヨ
を投入しているのは 24モデルのトヨタであり,
タ,マツダ,日産,ホンダを例にとり,各社の
それらの派生車種をあわせると 75車種にのぼ
トランスプラントに対してどのような技術支援
る。また,それとは対照をなしているのがホン
を展開しているのか,筆者が 1999年∼2001年
ダやマツダであり,主要自動車メーカーにあっ
にかけておこなったヒヤリング調査をもとに各
ては際立って少ないモデル数で多くの車種を形
社の技術支援体制を 析することにしたい。基
成している。
本的に日本自動車メーカーにあっては海外戦略
以上のような
析から,自動車産業の場合,
のおき方,海外生産拠点の配置や拠点数そのも
マザー工場がとるべき技術支援の方法としては
のが大きく異なっており,技術支援方法もそれ
大きく2つの方向性があることが見出される。
ぞれ異なることが予想される。
1つは地域エリアごとに支援管理していく方法
であり,もう1つは製品系列を前提とした支援
管理である。
4.1 トヨタのマザー工場制
トヨタの場合,2000年現在,海外完成車工場
次節では各社のマザー工場制を検証し,技術
拠点は 29あり,そのうちの 20がマザー工場制
支援活動においてマザー工場がどのように位置
のもと生産活動を展開している。同社の場合,
付けされているのか,さらにはそれが導入され
国内の完成車工場すべてがマザー工場となって
ている場合においてどのような支援管理を形成
いるわけではなく,また後述するように同社の
しているのかを明らかにする。
場合,マザー工場といっても厳密にいえば,広
義のマザー工場制に 類される。しかし,その
大部 をマザー工場制によって技術支援してい
42 第3巻
第4号
る点は注目されよう。
た,
技術支援を担当していない工場と比べると,
トヨタの場合,表4−1にみられるように国
そのほぼ2倍∼3倍以上の生産能力を有してお
内の完成車工場として M O 工場,TA 工場,TU
り,その意味では量産技術を駆 し,多量生産
工場,TAW 工場,
T 自動車㈱九州の5工場を有
をおこなっているとみることもできる。
しているが,2001年時点においてトランスプラ
表4−2はマザー工場となっている MO 工
ントに対して技術支援を展開している主力国内
場,TA 工場,TU 工場の3工場に焦点をあて,
工場は,このうちの②∼④に相当する MO 工
それぞれの国内工場が技術支援を担当するチル
場,TA 工場,TU 工場の 3工場となっている。
ドレン工場との対応関係についてみたものであ
同社ではこの 3工場によって 20のトランスプ
る。それによれば,MO 工場が 支援対象トラ
ラントが技術支援を受けている。
ンスプラントの半数以上となる 11カ国 11トラ
ここで少し国内のマザー工場とチルドレン工
ンスプラントを支援しており,同社のマザー工
場となっているトランスプラントとの関係につ
場制は M O 工場を中心に展開しているとみら
いて詳しくみると,先ず,国内主力 3工場は,
れる。そのほか TA 工場の4カ国5工場,TU 工
その他の工場と比較すれば主として多車種を混
場の3カ国4工場となっている。
流生産している工場として位置付けされる。ま
トヨタのマザー工場によるトランスプラント
表4−1 トヨタの完成車工場(2000年 3月現在)
工
場
① HO 工場
操業開始
年
主要生産品目
海外
生産
従業
支援
台数
員数
拠点
備
1938
トラック・バスのシャシー
166
×
2500
② MO 工場
1959
クラウン,プログレ,マークⅡ,プリウス,
RAV 4 EV
148
11
6400
③ TA 工場
1966
カローラ,アレックス,b B,プラッツ,ファ
ンカーゴ,ヴィッツ
693
5
完成車の他,鋳物・
5100 エンジン部品工場も
担当
④ TU 工場
1970
ウィンダム,クオリス,カムリ,ビスタ,オー
パ,コロナ,カルディナ
318
4
完成車工場ほか,鋳
5500 造・アルミホイール
部品工場も担当
⑤ TAW 工場
1979
セルシオ,クラウン,アリスト,カリーナ,
RAV 4,ハイラックス,ランドクルーザー
445
×
6600
⑥ KA 工場
1965
エンジン
―
―
3200
⑦ SI 工場
1975
エンジン,排ガス対策部品
―
―
1500
⑧ MI 工場
1968
足廻り,小物部品
―
―
1700
⑨ A 工場
1973
エンジン,足廻り鋳物部品,足廻り機械部品
―
―
2000
⑩ KI 工場
1978
駆動関係部品
―
―
2600
TE 工場
1986
機械設備,鋳鍛造型および樹脂成形型
―
―
1800
HI 工場
1989
電子制御装置,IC 等の研究開発および生産
―
―
1300
T 自動車 九州㈱
1992
ウィンダム,チェイサー,ハリアー,クルー
ガーV
190
×
2000
T 自動車
北海道㈱
1992
オートマチックトランスミッション,トラン
スファー,アルミホイールなどの自動車部品
―
―
1300
T 自動車 東北㈱
1998
メカトロ部品の生産
―
―
150
注)国内部品工場がマザー工場となっているケースについては不祥。
出所)IRC[1]より筆者作成。
すべて完成車工場対
象
日本自動車メーカーのマザー工場制による技術支援(中山) 43
表4−2 トヨタのマザー工場制(2001年 6月現在)
操業開始年
MO 工場
(1959年)
TA 工場
(1966年)
TU 工場
(1970年)
生産車種
及び車名
工場ないし会社
生 産
開始年
Toyota Motor Corporation Australia Ltd.
1963
オーストラリア
Toyota Motor Thailand Co.,Ltd
1964
タイ
Assembly Services Sdn.Bhd.
1968
マレーシア
P.T.Toyota-Astra Motor
1970
インドネシア
Aftab Automobiles Ltd.
1982
バングラデッシュ
国端汽車股份有限 司
1986
台湾
Toyota Motor Philippines Corporation
1989
フィリピン
Indus Motor Company Ltd.
1993
パキスタン
Toyota Motor Vietnam Co.,Ltd
1996
ベトナム
Toyota Kirloskar Motor Ltd
1999
インド
天津豊田汽車有限 司
2002
中国
TABC,Inc.
1971
アメリカ
New United Motor Manufacturing,Inc
1984
アメリカ
Toyota M otor Manufacturing Canada Inc.
1988
カナダ
Toyotasa Toyota-sabanci Automotive Industry
& Trade Inc
1994
トルコ
Toyota Motor M anufacturing France S.A.S.
2001
フランス
Canadian Autoparts Toyota Inc
1985
カナダ
Toyota Motor Manufacturing Kentucky, Inc
1988
アメリカ
Toyota Motor Manufacturing (UK)Ltd.
1992
イギリス
Bodine Aluminum,Inc
1993
アメリカ
5車種
クラウン
プログレ
マークⅡ
プリウス
RAV 4EV
6車種
カローラ,bB,ア
レックス,プラッ
ツ,
ファンカーゴ,
ヴィッツ
7車種
ウィンダム,クオ
リス,カムリ,オー
パ,コロナ,カル
ディナ
国・地域
出所)IRC[1]より筆者作成。
表4−3 国内主要支援工場の担当トランスプラント
工場ないし会社
M
O
系
4,103
92,422
Toyota Motor Thailand Co.,Ltd(タイ)
3,738
69,401
Assembly Services Sdn.Bhd.(マレーシア)
1,146
19,611
P.T.Toyota-Astra Motor(インドネシア)
4,704
89,932
Aftab Automobiles Ltd.(バングラデッシュ)
国端汽車股 有限
司(台湾)
Toyota Motor Philippines Corporation(フィリピン)
271
2,361
81,511
1,446
18,658
693
10,254
Toyota Motor Vietnam Co.,Ltd(ベトナム)
358
4,688
1,439
21,422
―――
―――
天津豊田汽車有限
司(中国)
TABC,Inc.(アメリカ)
575
―――
New United Motor Manufacturing,Inc(アメリカ)
4,844
294,361
Toyota Motor Manufacturing Canada Inc.(カナダ)
2,440
184,410
670
14,640
1,038
―――
Toyotasa Toyota-sabanci Automotive Industry &Trade Inc (トルコ)
Toyota Motor Manufacturing France S.A.S.(フランス)
Canadian Autoparts Toyota Inc(カナダ)
T
U
系
110
Indus M otor Company Ltd.(パキスタン)
Toyota Kirloskar Motor Ltd(インド)
T
A
系
従業員数 年産台数
Toyota Motor Corporation Australia Ltd.(オーストラリア)
237
―――
Toyota Motor Manufacturing Kentucky, Inc(アメリカ)
7,759
495,490
Toyota Motor Manufacturing (UK)Ltd.(イギリス)
3,104
171,368
894
―――
Bodine Aluminum,Inc(アメリカ)
注)中国の天津豊田汽車有限 司は 2002年稼動予定のため,現時点では不詳。
フランスの Toyota M otor M anufacturing France S.A.S.は 2001年 1月より稼動。
NUM M I の生産台数は GM の Chevrolet Prizm(49,999台 )を含まない。
出所)IRC[1]をもとに筆者作成。
44 第3巻
第4号
への支援は,M O 工場がどのような役割を担っ
とマザー工場との生産車種においてその対応関
てきたのかが注目されるものの,ここまでの
係をみたものである。生産方式の面では,両工
析において,以下,2点が推察される。
場の関係にはあまり関連性がみられなかったも
1つは,各マザー工場が支援対象としている
トランスプラントをどの時点でチルドレン工場
のの,同系車種生産という製品系列での整合性
をみたものである。
化したのかは明確ではないが,これをチルドレ
これらの表からはマザー工場の生産車種とチ
ン工場の設立・操業開始年=マザー工場による
ルドレン工場の生産車種が必ずしも一致しない
技術支援開始年として仮定すれば,1970年代以
ことが,MO 工場系,TA 工場系,TU 工場系の
降は M O 工場と TA 工場による支援体制,1980
それぞれにあらわれている点が注目される。例
年代後半以降は,これらに TU 工場を加えた 3
えば,M O 工場がマザー工場として管轄するチ
社体制による支援体制が構築されたということ
ルドレン工場においてはインドネシアの
になる点である。
PTTAM が生産している5車種のうち,クラウ
トヨタの場合,1970年代以降に,支援対象工
ンだけが M O 工場の生産車種と整合するほか,
場は急増しており,従来の MO 工場の単独支援
他のチルドレン工場にあっては M O 工場と整
体制では,広範囲にわたる技術支援に限界が生
合する車種の生産はおこなわれていない。また,
じ,この頃より TA 工場,TU 工場を加えた複数
表4−5にみるように TA 工場では,主として
支援体制に切り替えたものとみることができ
カローラ系の車種を生産しているが,カローラ
る。その根拠の1つとしてマザー工場が地域別
を生産するチルドレン工場は散見するものの,
に編成されている点が注目される。MO 工場は
その生産車種は必ずしもカローラ系の範囲には
主としてアジア,オセアニア地域のチルドレン
とどまっていないのが現状である。同様に,TU
工場を支援対象にしているのに対して,TA 工
工場にあっても,アメリカ TMMK が生産する
場や TU 工場は北米州や欧州地域のチルドレ
カムリが同工場と整合する唯一の車種であり,
ン工場がその対象となっていることがあげられ
その他のチルドレン工場の生産車種とは整合性
る。
をもっていないことがわかる。
もう1つは,上記と関連してトヨタではマ
また,マザー工場では多車種大量生産をおこ
ザー工場制を採用する目的として生産能力や多
なっているのに対して,チルドレン工場では一
車種多量生産といった要素に対応してマザー工
部の北米トランスプラントを除き,そのほとん
場制を導入しているわけではないということで
どは他車種少量生産を展開しているといえよ
ある。
う。
同社の本格的な現地化戦略は,自工・自販
トヨタのマザー工場制は,以上のように地域
離・独立期にはじまったものであり,その初期
エリアを重視した支援体制を構築しているとこ
において輸出戦略の一環として,トヨタ自販が
ろに特徴があり,マザー工場とチルドレン工場
現地法人への技術支援に大きくかかわってい
との関係でいえば,生産方式や生産車種との整
た。しかし,トヨタ自工側の MO 工場が技術支
合性は特に意識されていないといえる。
援において当時果たした役割は決して小さいも
また,筆者のヒヤリング調査にもとづけば,
のではなかったと推察される。ここではこれ以
トヨタの場合,マザー工場は指定工場として機
上深く立ち入らない。
能を果たしているのではなく,あくまでも技術
表4−4,4−5,4−6はチルドレン工場
支援のための窓口として対応しており,必ずし
日本自動車メーカーのマザー工場制による技術支援(中山) 45
表4−4
車
名
TMCA
AA
TMT ASSB PTTAM
オースト
バングラ
タイ マレーシア インドネシア
ラリア
ディッシュ
クラウン
M プログレ
O マークⅡ
工
場 プリウス
RAV 4EV
カローラ
T
A
工
場
T
U
工
場
dB
アレックス
プラッツ
ファンカーゴ
ヴィッツ
ウィンダム
クオリス
カムリ
オーパ
コロナ
カルデイナ
その他車種
及び部品
MO 工場のチルドレン工場の生産車種
国端
台湾
TMP
IM C
TMV TKM
フィリピン パキスタン ベトナム インド
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
出所)IRC[1]より筆者作成。
表4−5
車
M
O
工
場
T
A
工
場
T
U
工
場
天津
中国
名
TA 工場のチルドレン工場生産車種
TABC
アメリカ
クラウン
プログレ
マークⅡ
プリウス
RAV 4EV
カローラ
NUMMI
アメリカ
TM MC
カナダ
TSMMT
トルコ
○
○
○
dB
アレックス
プラッツ
ファンカーゴ
ヴィッツ
ウィンダム
クオリス
カムリ
オーパ
コロナ
カルデイナ
その他車種
及び部品
TMMF
フランス
○
○
○
出所)IRC[1]より筆者作成。
○
○
○
○
46 第3巻
第4号
表4−6
車
名
TU 工場のチルドレン工場生産車種
CAPTIN
カナダ
TMMK
アメリカ
クラウン
M プログレ
O マークⅡ
工
場 プリウス
RAV 4EV
カローラ
T
A
工
場
T
U
工
場
Bodine
アメリカ
○
dB
アレックス
プラッツ
ファンカーゴ
ヴィッツ
ウィンダム
クオリス
カムリ
オーパ
コロナ
カルデイナ
その他車種
及び部品
TMM (UK)
イギリス
○
○
○
○
○
出所)IRC[1]より筆者作成。
も工場間での技術支援のみで対応しているわけ
間,約 200人規模での実地研修をおこなった。
ではないとしている 。技術支援に必要とされ
仏 TM MF は基本的には,TA 工場をマザー工
る人材(派遣人員)は工場内の人材を超えて,
場としているにもかかわらず,従業員の実地指
本社も含めて他の工場や他の部門からも編成さ
導ではあえてマザー工場に依拠しない方法(ま
れるのである。さらに,トヨタの近年のトラン
た,TMUK は TU 工場をマザー工場としてい
スプラント 設にあっては,既存トランスプラ
る)で研修が実施された。トヨタでのモノ作り
ントが新規トランスプラントを支援する様相も
の思想は,世界中のトランスプラントでも共有
みられる。
化されているため,特定の支援工場に依拠しな
トヨタが広義のマザー工場制となっている点
については近年の事例から確認しておこう。
い形でも支援が可能だったのである。
また,仏 TMMF の立ち上げに際して日本か
2001年 1月に操業開始したトヨタ・モーター
らの技術支援としては,
「海外工場の立ち上げの
マニュファクチャリング・フランス(以下,仏
プロ」としてこれまでカナダと英国工場の立ち
TMM F と称する)では,進出構想は 1997年か
上げにかかわった渡辺弘明 TMM F 社長を筆頭
らはじまり,自らの徹底した現地調査と市政府
に 20人の日本人スタッフが駐在し,
それと同時
へのインフラ整備の働きかけをおこなって進出
に仏 TM MF で生産予定のヤリスと同系車種
が決定された。このトランスプラントの立ち上
「ヴィッツ」を生産する TA 工場からは熟練技
げ時には採用した従業員を,1992年に操業開始
能工を中心に,ピーク時には約 200人が長期出
し,TU 工 場 の 支 援 傘 下 に あ る 英 国 工 場
張する体制でおこなわれた。また,このトラン
(TM UK:車両,エンジンを生産)で約2ヶ月
スプラントの操業にあたっては従来にはない,
日本自動車メーカーのマザー工場制による技術支援(中山) 47
最新の設計支援システム(ネットを駆 した作
支援していることは注目される。
業支援システム)の導入もあり,工場造成から
マツダは一部マザー工場制を導入しつつも,
生産開始までの生産準備期間(2年4ヶ月)は
基本的にマザー工場を設けないあるいは,支援
従来期間を5ヶ月も短縮できたとしている 。
工場をあらかじめ特定化しないケースとして注
この TMM F では TA 工場が製品系列上,同
目されるが,本稿の枠組みにしたがえば,支援
系車種を生産している点が重視され,マザー工
発生段階では支援工場は定まっていないもの
場として一定の役割を果たしたものの,適材適
の,支援を実行する段階にあっては支援工場が
所においてはマザー工場制の枠を越えた形での
特定化される広義のマザー工場制に該当する。
支援体制がおこなわれていたといえよう。トヨ
このような場合には技術支援の継続性はどの
タでは広義のマザー工場制を採用しているとい
ような形でおこなわれるのかが注目される。
える。
同社のようにチルドレン工場に対して特定の
支援工場を指定しないケースにおいては,技術
4.2 マツダのマザー工場制
支援のあり方は必要に応じて,また支援内容に
トヨタのケースと同様にマツダにおけるマ
よっておこなわれる傾向にあり,基本的には断
ザー工場制の現状を確認することにしたい。
続性をもった支援展開になるという特徴をもっ
マツダでは 2001年現在,出資会社を含めて,
ている
(表4−8)
。同社があえてマザー工場制
現在 KD 組立生産をおこなっている会社は世
を主たる技術支援方法として用いない理由は,
界中に 22工場存在する。
技術支援業務の中枢は
支援内容をモデル領域によって支援工場を決定
海外技術部がおこなっており,マザー工場制に
するためだとしている。
マツダのケースからは,
相当する支援業務は基本的にこの部署で管理さ
マザー工場制の採用は継続的な技術支援を必要
れている。
とする大きなプロジェクトに限定されるといっ
表4−7にあるように同社では,2001年現
てよい。米国 AAI のマザー工場となっている
在,明確にマザー工場として技術支援を展開し
H 工場では継続的な技術支援がおこなわれて
ているのは,H 工場に限られ,基本的にマザー
いる。
工場制を採用しているわけではない。しかし,
トヨタのケースとは異なり,特定の工場が支援
4.3 日産のケース
工場となっているのではなく,ほぼすべての工
日産は,トヨタやマツダのケースと異なり,
場が何らかの形でトランスプラントを最終的に
マザー工場制を原則として用いないケースとし
表4−7 マツダのマザー工場制(2000年 10月時点)
マザー工場化
(支援している)
非特定支援工場
(支援している)
支援開始年
H 工場 H 地区
○
年
H 工場 U 地区
○
年
S 事業所
H 工場 NI 地区
年
○
H 工場 NA 地区
出所)筆者のヒヤリング調査に基づく。
1986年
○
年
非支援工場
(支援していない)
○
48 第3巻
第4号
表4−8 チルドレン工場への技術支援展開
工場名
過去に
実施
断続的
に実施
継続的
に実施
○
AA
LS
○
場から派遣する体制をとっている。日産では特
に支援のための指定工場化をおこなっていない
ため,マザー工場制といえない
。
同社では本社が必要な人員を各工場から選出
する方法がとられている。これは海外に限定し
KA
○
KAN
○
た方法ではなく,国内においても新車展開をす
AAI
○
る際には同様の方法が用いられている。
また,既存トランスプラントへの技術力向上
FM SA
○
AAT
○
SME
PTM
○
SM
○
VM
○
CCA
○
注)表4−7に同じ。(2000年 10月現在)
工場名の略記号は社内用語で 用され
ているものとは若干異なる。
をはかる場合には,基本的には現地からの要望
に基づいておこなわれる。現地が派遣規模に対
する要望を提出し,国内技術部において細目検
討され,派遣人員は技術部が選定し,決定する
という段取りで支援がおこなわれている。
先のマツダのケースからは,支援の継続性を
必要とするトランスプラントに対してはマザー
工場制が採用され,必要性に応じて支援を展開
する場合には,必ずしも支援工場を特定化しな
て扱われる。同社ではトランスプラントで展開
い方法が用いられていたが,日産の場合には支
する車種を生産している日本の工場を「マザー
援の継続性や必要性にかかわらず,指定工場を
プラント」と呼んでいるものの,支援展開にお
介しない技術支援が広範囲におこなわれている
いてこのマザープラントは特に大きな意味は
(表 4−9)。つまり,本稿のフレームワークに
持っておらず,マザープラントから支援のため
よる支援発生時,支援実行時ともに支援工場は
の技能員を派遣するという単純な構造にはなっ
特定化されないということになる。
ていない。
日産のように特定の支援工場をもたないケー
技術支援の内容は,基本的に送り出しと受入
スにあっては,トランスプラントからの日本派
れの2業務に 類されるが,送り出し,受入れ
遣は,他のメーカーに比して消極的な一面もあ
の2業務に本社技術部がかかわっている。日産
る。同社ではコスト面から指導者が現地に赴い
では技術支援については原則として,本社の技
て指導を展開する方法を一般的に用いている。
術部が技術支援の中枢を担っている。
しかし,まったく日本での研修を軽視している
先ず,先に送り出しにかかわる技術支援をみ
わけではなく,トランスプラントにおいて選抜
ると,新規プロジェクトとして新たにトランス
で日本への研修生を受け入れている。その場合
プラントを設立するケースと,既存トランスプ
も日産全体で研修生を受け入れる形を用いてお
ラントへの技術レベル向上のケースに 類され
り,特定の工場で一括して研修生を受け入れて
る。新規プロジェクトとして新車開発を手がけ
はいない。
る場合には,国内技術部が一括しておこなって
いる。技術部が支援規模の決定をおこない,プ
4.4 ホンダのケース
ラント設計やライン設計等にかかわる技術員を
ホンダのマザー工場制は他のメーカーに比し
技術部から,製造や検査にかかわる技能員は工
て精緻である。同社にとってマザー工場制はグ
日本自動車メーカーのマザー工場制による技術支援(中山) 49
表4−9 日本からの技術者派遣実施状況
技術支援の性格
トランス
プラント名
NMM
NMI
NVI
NES
NSA
TI
SNAC
SMNC
TCM AS
PTIS
YUM
UM C
NMP
NMM
NMS
ZNM
JYM
派遣実
績なし
過去に
実施/
現在
なし
必要時
に実施
断続的
継続中
区別されるマザー工場制がある。1つは,新規
工場設立やラインの改変・新設時に結成される,
継続的
に実施
プロジェクト対応の支援組織であるマザー工場
であり,「工場マザー(プラント・マザー)
」と
○
○
○
○
よばれている。これはライン設計や工場設計に
かかわる専門技術スタッフが全工場,全部門か
ら選抜され結成される組織であり,主として生
○
○
○
○
○
○
産技術を担当するホンダエンジニアリングや開
発を担当する本田技術研究所もこれに加わって
組織される。
もう1つは新機種の立ち上げやマイナーチェ
○
○
○
○
○
○
○
出所)筆者のヒヤリング調査にもとづく(2001年 12月)
注)工場名の略記号は社内用語とは若干異なる。
ンジ,モデルチェンジの際に同系モデルを先行
生産する工場がトランスプラントを支援する,
機種立ち上げイベントに対応する支援組織であ
り,
「機種マザー(プロダクト・マザー)
」とよ
ばれている。
(機種別マザー工場制に対応)
このような2系統のマザー工場制を採用して
いるホンダでは,1つのトランスプラントにお
いて,工場マザーと機種マザーの2つのマザー
ローバル戦略を展開する上で,不可欠な技術支
工場が並存する形となる。しかし,工場マザー
援システムとして存在し,他社以上にマザー工
はトランスプラントの設立やライン改変や新設
場制はトランスプラントへの技術移転方法とし
に主にかかわるため,プロジェクトの完了後は
て深く組み込まれている。基本的には生産車種
メンテナンス等の日常的管理は少人数でもおこ
ごと,共通するプラットフォームをベースにし
なえるため,支援組織は一時的に解散となる。
たマザー工場制を採用している。同社の場合,
とりわけ,既存工場のライン改変よりも新規工
基本的なプラットフォームは2種類あり,シ
場を設立する際には多くの人数を必要とするも
ビック系とアコード系に大別される。工場単位
のの技術支援としては(基本的に)一時的なも
でいえば,シビックならびにシビックの派生車
である。一方,機種マザーは生産車種にかかわ
種を主に生産している国内生産工場,鈴鹿製作
る製造や組立技術の指導にかかわるため,支援
所とアコードならびにアコードの派生車種を主
は長期におよぶ傾向にあり,断続的ないし継続
として生産している埼玉製作所狭山工場であ
的におこなわれる。1つのトランスプラントに
る。
2系統のマザー工場が張り付くといっても,支
このようにホンダは製品別によって技術支援
援の継続性に着目する限りにおいてマザー工場
のあり方を明確化しており,機種別2系統によ
とは,機種マザーのことを指すものとみてよ
る製品別事業部制を重視したマザー工場制を採
い
用している。
同社のマザー工場制は,社内用語として用い
られる場合には,先の機種別マザー工場制とは
。
1つのトランスプラントで異なる系列の複数
の車種を生産する場合(例えばシビック系とア
コード系を同 屋において生産するなど)には,
50 第3巻
第4号
表4−10 主軸モデルの生産国
主軸モデル
生産国数
布
生 産
国
CR-V
3
台湾,
タイ,
フィリピン
シビック,アコード,
シティ
5
台湾,
タイ,
フィリピン,
マレーシア,
インドネシア
シビック,アコード
3
アメリカ,イギリス,ベネズエラ
シビック,シティ
1
パキスタン
シビック
4
カナダ,トルコ,ブラジル,南アフリカ
アコード
2
中国,
メキシコ
シティ
1
インド
出所)IRC[5]p.181. より筆者作成。
表4−11 ホンダのマザー工場制(一例)
日
本
1)鈴鹿製作所
2)埼玉製作所
狭山工場
米国 HAM
マザー工場
のタイプ
HAM -M HAM -E
工場マザー
○
機種マザー
○
工場マザー
機種マザー
トランスプラントのマザー工
場化
カナダ
タイ
中国
HC
HATC
GHAC
○
○
○
○
○
○
カナダ,
ベネズエラ, 2002年,米
メキシコなどの南米 国アラバマ
圏を対象
工場を対象
○
○
○
○
アジア地域
でのマザー
工場として
期待
出所)ホンダの広報資料より筆者作成。(2000年時点)
注)○印は支援担当工場であることを示す。
そのトランスプラントは2つの機種マザーを有
あったといっても過言ではない。また,ホンダ
することもある。タイの HCM T(2002年現在,
では他社よりもマザー工場制が進展している特
)などはその例であり,当初シビック
徴の1つとして,トランスプラント(チルドレ
系の専用工場であったところにアコード系の車
ン工場)のマザー工場化があげられる。この傾
種を追加しており,その際に狭山製作所が新た
向は同社が 1990年代にかかげたグローバル戦
に機種マザーとして技術支援をおこなった経緯
略,世界4極体制にかかわるもので,世界戦略
がある
車の世界同時開発・生産・販売に向けた取り組
HATC
(表4−11)
。
ホンダの場合,トランスプラントで生産され
みの一環であると えられる
。
るグローバル戦略車は 2001年現在,
9モデルと
2001年現在,マザー工場としての機能を果た
他メーカーよりもかなり少ないモデルを現地生
しえる生産拠点は,日本以外に米国,カナダ,
産車種として振り けているが,これはアジア
タイに存在している(表4−11)
。
市場でみた場合にはさらに少ないモデルでの車
現地への技術スタッフの派遣は,新規トラン
種構成となっている
(表4−10)
。1999年時点に
スプラントの立ち上げは本社主導によりプロ
おいては,アジアにおけるホンダの主軸世界戦
ジェクトが遂行されるが,既存トランスプラン
略車はシビック,アコード,シティの 3車種で
トに対する技術支援は,基本的には現地からの
日本自動車メーカーのマザー工場制による技術支援(中山) 51
要請をもとに本社の生産事業部が支援規模を決
グローバル展開を図っているメーカーは,ホン
定し,マザー工場から派遣人員が選出される形
ダにその典型例をみることとなったが,ホンダ
になっている。また,現地日本人スタッフとマ
のケースをみる限りにおいては,かつて日本の
ザー工場との間で日頃から情報 換が成立して
ベビーやチルドレン工場だったトランスプラン
おり,工場間で技術的課題が共有化されている
トが他のトランスプラントのマザー工場になっ
ため,人材の選定にあたっては現地から直接指
ているなど,トランスプラント間での自立化促
名をおこなうこともあるとしている。
進という局面が形成されており,マザー工場制
一方,トランスプラントからの受入れも同社
ではおこなっており,通常はトランスプラント
による技術支援も1極展開から多極的展開をみ
せていることが確認された。
の幹部候補生を対象にして実施されており,機
狭義としてのマザー工場制を導入している自
種マザーとなっているマザー工場がその受入れ
動車メーカーは,ホンダだけであり,他のメー
先となっている。さらに現地への権限委譲の範
カーでは日産のケースを除いて,マザー工場制
囲は広く,戦略的な指針(例えば,固定費はギ
は部
リギリに抑え,増産対応には慎重であること等)
り,いわゆる広義の意味でのマザー工場制を採
は本社から指示があるものの,特に製品のつく
用していることが明らかになった。
り方についての裁量は大きくなっている。
的ないし限定的な範囲にとどまってお
第2節でふれたマザー工場制のフレームワー
以上,主要各社の技術支援体制について概観
クに基づけば,各メーカーのマザー工場制は表
してきたが,現時点においてはマザー工場制を
5−1のようにまとめられる。また,各社の技
積極的,ないし消極的に活用するにしても,本
術支援のあり方は,製品特性を重視するのか,
国からの人材派遣を主内容とするマザー工場制
あるいは地域市場の特殊性を重視するかによっ
は技術支援としての唯一の方法的手段ではな
て規定され,マザー工場制のあり方もそれに
く,人材派遣にあっては状況に応じた最適な人
よって異なっていたといえる。基本的には表
選を全社的な人的資源の中からおこなっている
5−2にあるようにマザー工場制のタイプは3
といえる。その意味ではマザー工場制は技術支
つに大きく けることができる。1つは,国内
援方法としての1つの選択的手段として利用さ
工場での生産車種を中心に車種別の技術支援体
れているといえよう。これは現時点における技
制を展開する「車種別マザー工場制」であり,
術支援体制の到達点を示したに過ぎず,プロセ
その典型例としてホンダがあげられる。
スにあってはいくつかの局面において試行錯誤
があったと思われる。
次節ではここでの 析を踏まえマザー工場制
のフレームワークに基づき,各社の態様の類型
化を試み,マザー工場制の意義について 察す
る。
2つは,生産車種とは無関係に地域ごとに主
要生産工場を窓口として技術支援体制を展開す
る「地域別マザー工場制」であり,その典型例
としてトヨタがあげられる。
3つは,1と2の併用によりグローバル戦略
上, い
けているケース,
「車種・地域別併用
型マザー工場制」であり,その典型例はマツダ
5.マザー工場制の類型化とその意義
ここまでの
析で明らかなように 2001年時
点において,マザー工場制を積極的に活用し,
にもとめられる。
こうした異なる3つのタイプの本国工場によ
るグローバル技術支援体制は,支援機会が生じ
るたびに変 されるものではなく,むしろ歴
52 第3巻
第4号
表5−1
支援発生の段階
マザー工場制の類型化(1)
支援工場は特定化
支援工場は定まっていない
窓口選定の段階
支援工場は自動的に決定 候補先工場の中から選定
支援実行の段階
支援工場が専属的に対応
窓口工場を中心に対応
狭義のマザー工場制
広義のマザー工場制
技術支援の
典型例
類
ホンダ
マツダ
窓口工場を設けない
非マザー工場制
トヨタ
日
産
出所)第 2節の表にもとづく。
表5−2
タイプ
特
マザー工場制の類型化(2)
徴
名
称
典型例
Ⅰ
車種(製品)別に技術支援工場を指定
プラットフォームをベースに車種別に支援工場を特定化
製品性重視型マザー工場制
ホンダ
Ⅱ
地域別に技術支援工場を指定
製品特性よりも地域ごとに支援工場を特定化
地域性重視型マザー工場制
トヨタ
Ⅲ
車種ないし地域別に技術支援工場を指定
ⅠとⅡのタイプをケースに応じて併用する
Ⅰ・Ⅱ併用型マザー工場制
マツダ
出所)筆者作成。
的な戦略的意思決定の積み上げによって形成さ
れてきたものと
えられる。山口隆英氏によれ
この点は,マザー工場を介してどういった技
術を移転し,支援していくのか,また,マザー
ば,「知識は,多くの組織メンバーが,長期間,
工場制を採用することでどの程度,技術支援に
事業活動に従事してきた結果として形成され」
かかわる負荷が軽減されるのかという問題にか
るものであり,「その活動の経緯に依存する」と
かわる。それが,マザー工場制を採用しない場
いう「経路依存症」
(path dependency)という
合においても同様である。
性質を有すると指摘している
。また,マザー
技術支援にかかる負荷についての詳細の研究
工場制が成立する要件として,
「企業内部(企業
は特にこれまでのところ存在していないが,筆
グループにも当てはまると思われるが)での知
者のこれまでヒヤリング調査に基づけば,およ
識の複製は,「外部企業による知識の模倣より
そ表5−3に示されるような人的な負荷がかか
も,時間的にもコスト的にも有利でなければな
る。
らない」ことが重要であると指摘している
。
これはトランスプラントの発展を各生産段階
山口氏が説明する「経路依存症」は,企業は
にわけて,どれぐらいの規模での人材を派遣す
なぜマザー工場制を採用するのかという根本的
る必要があるのかをみたものである。実数を示
な問いに応えるものであり,そこにこそ企業が
したものではないにしても,およその技術支援
戦略的意思決定する背景としてのマザー工場制
にかかる人的負担をイメージすることができ
の存立意義が示されていると えられる。しか
る。特に工場立ち上げ時や操業開始から量産化
し,本稿でみてきたようになぜ多様なマザー工
の段階においては大規模な人的派遣を必要とし
場制が並存するのか,という疑問に対しては十
ており,長短期の派遣者を合算すれば,200名か
な説明にはならないであろう。
ら 250名規模に膨らんでいる。フルモデルチェ
日本自動車メーカーのマザー工場制による技術支援(中山) 53
表5−3
事業化
調査段階
日本技術スタッフの段階別派遣規模
工場設立∼
立ち上げ時
操業開始∼
量産化
量産化軌道
長期派遣者
100
150
40
短期派遣者
100
100
10
一時的派遣者
マイナー
チェンジ期
フルモデル
チェンジ期
30
90
10
出所)筆者のM社へのヒヤリング調査に基づく。(2000年 10月)
注)数字は べ人数を示し,実数ではない。
ンジ期もそれに続いて派遣規模が大きくなって
別事業部組織,
③職能別事業部組織,
④マトリッ
いるものの,それが短期派遣者で占められてい
クス組織の4つに 類され,
説明されてきたが,
ることには注意が必要である。このようにトラ
マザー工場制にみる多様性はこうしたグローバ
ンスプラントの技術的な発展段階を生産能力の
ルな組織構造の枠組みでとらえることができ
増強や生産車種の現地的適合化,充実化をはか
る。これらの組織はそれぞれにメリット,デメ
る局面にそくしてみれば,長期的な派遣者を要
リットが存在するため,その欠点を補う形での
する段階は限定されているとみることができ
仕組みが必要になる。例えば,
「製品別事業部組
る。むしろ,技術支援においては短期的な派遣
織においては情報,コミュニケーションが一元
者に対するニーズの方が高いということができ
的に流れるため,トランスプラントへの技術支
る。また,プロジェクトそのものが大きければ
援,技術移転がスムーズにいく反面,国,地域
大きいほど,派遣者の規模もこれに比例して大
内での製品事業部間での調整やコミュニケー
きくなることが予想される。人材派遣の効率性
ションが難しい点である
を えた場合,これこそが先ずマザー工場制を
営ノウハウや経験が蓄積される傾向にあり,有
採用するか否か,またマザー工場制そのものが
効蓄積・活用されない点も問題となる。このタ
多様性をもつ大きな理由であると えられる。
イプに該当すると思われるホンダの場合には,
岡野浩氏は日米欧のマザー工場制の特徴とし
四輪事業部の中でも製品系列ごとに組織体系が
て,米国型は「権限 散型組織」であるとし,
あり,より複雑さがあるものの,1998年 6月に
本社で開発した知識や経営手法などを世界各地
は本社機構の改正によって,国内外の生産拠点
に拡散させる「調整型組織」を構築してきたの
の生産設備や生産技術にかんする全データやノ
に対して,日本は「集権型組織」と「機能レベ
ウハウが本田技術研究所に集約され,その情報
ルでの 散化」という「日本的な機能別管理」
を媒介とした全社的な情報の共有化がはかられ
に特徴があるとして,生産面でのマザー工場制
ている。
。
」事業部ごとに経
に加えて,品質・原価・納期・信頼性などの要
また,地域別事業部制には製品が多種におよ
素に応じて部門横断的に知識の双方向性を構築
ぶ場合にその欠点が指摘されており,
「地域間で
している点を強調するが,本稿でみたように個
の生産品目の調整,技術・生産移転および世界
別メーカーの対応は多様であり,一概にはひと
市場の視点から最適なロジスティック戦略とい
くくりに日本型とはいえないであろう
う点で非効率が発生」
。
するといわれている。
また,一般的に多国籍企業におけるグローバ
トヨタのマザー工場制にはややこの地域別事業
ルな組織構造は,①製品別事業部組織,②地域
部制に似た特徴がみられたものの,厳密には地
54 第3巻
第4号
域事業部制とは異なり,本社を主導とする全社
それぞれ独自の特徴がある。ここでは特にそれ
的な支援に特徴があり,マザー工場は窓口的な
については言及しないが,戦略的意思決定のレ
機能を果たすにとどまっていることから,地域
ベルでは,各社とも独特の事業展開パターンが
性を加味しつつも,岡野氏のいう典型的な支援
存在している
システムを構築しているものと思われる。
の生産体制に依拠しており,各工場で採用され
。ほとんどの場合,それは国内
基本的に日本の自動車メーカーの技術支援シ
ている生産システムや個別工場ラインにおける
ステムは,製品別地域別の2軸上で構成される
車種構成,混流生産の程度,工場間における車
マトリックス組織に偏向しているといえる。
種移管の状況等にかかわっている。
そのほかに各メーカー個別の生産体制の違い
したがって,国内の生産体制が特定車種や車
によるところも大きいと えられる。しかしそ
種系列をまとめる形で生産をおこない,それぞ
れは技術移転の内容によって事情は異なる。
れが専門工場化志向によって生産体制を構築し
基本的に思想や管理技術にかかわる生産技術
ている場合と,
工場間の車種移管も可能であり,
については,特に個別に指定工場を設定しなく
複数の工場で同系の車種を混流生産できるよう
ても技術移転は可能である。例えば,トヨタ生
な汎用性をもったラインで生産体制を構築して
産方式のように表出化され,現地スタッフにも
いる場合とでは,工場に蓄積される技術の共有
明示的に理解されうる内容をもつ,管理技術に
化のあり方は異なってくるのである。
ついては特定工場でなければ,トランスプラン
また,生産体制の違いを 慮した場合でも,
トへの技術移転が成り立たないということはな
各メーカーでは効率的な車種管理をおこなって
い。企業グループ間で共有される技術であれば
きたといえる
あるほど,工場の特定化は回避される。しかし,
。
各メーカーとも海外市場向けに対しては輸
製品の流し方や作業手順,ライン設計等の製造
出,現地生産とも基本的には,グローバル戦略
技術が車種ごとに異なっている場合,また,ト
車(基軸となるモデル)を保有しており,その
ランスプラントに対してそれらを出来るだけ再
派生車種を生産展開することで,バリエーショ
現していこうとする場合には,技術にかかわる
ン豊かな車種構成を築き上げてきた。
ノウハウが特定の工場に蓄積される傾向にある
渋井康弘氏は日本自動車産業の発展が歴 的
ことから,その工場に従事するスタッフを有効
には輸出戦略に大きく依存していたことを指摘
活用するという側面から支援工場を特定化する
しているが,豊富な車種構成は国内市場のみな
方が効率的であると えられる。したがって生
らず海外市場も視野に入れた製品戦略の結果で
産技術や製造技術にかかわる技術情報や内容
あり,輸出車種は現地生産する際の候補車種に
が,全社的に共有化される場合には,指定工場
なる可能性が高いともいえる
を設定する意味合いは薄くなるともいえる。
地生産戦略とは相互に関連性をもっており,現
。輸出戦略と現
また,生産体制に着目した場合,一般的には
地生産をおこなう場合には輸出車種と現地生産
どのメーカーも海外戦略は,完成車の輸出販売
車種との構成バランスが重要になるのである。
からはじまり,その後,市場の発展性を睨みな
各メーカーはグローバル戦略車を基軸モデル
がら徐々に現地生産体制を整備していくパター
におくことで,特に生産・製造技術にかかわる
ンをもっている。しかし,どのタイミングで進
技術支援を効果的におこなう体制を整備してき
出し,どの車種を輸出戦略車とし,また現地生
たといえる。
産車種にはどの車種をもってくるかについては
しかし,
近年の世界市場の発展による変容は,
日本自動車メーカーのマザー工場制による技術支援(中山) 55
これまでマザー工場制によるトランスプラント
への技術支援に依拠してきたメーカーにあって
った形での新たな技術支援のあり方を模索し
ている。
も,多くのトランスプラントを1マザー工場が
トヨタではデジタル技術活用によるトランス
一括して技術支援していける状況ではなくなっ
プラントへの技術支援に着手しており,2001年
てきている。また,その方法をあえて採用して
11月に大画面で新システムが
こなかったメーカーにあっても従来の方法がど
エンジニアリングセンターが開設された。
こまで有効に機能しうるのかを問われる状況に
ある。
特に以下5つの環境変化は無視することはで
えるデジタル
基本的には高岡工場,田原工場など国内主力
生産拠点と連携しながら展開する予定であり,
汎用ソフトを自社の生産方式に合わせて改良
きない。
し,画面上で本物の生産ラインと同じ配置で工
①…各社とも欧米州よりもむしろアジア州(日
作機械を並べ,設計担当者の想定どおりにモノ
本を除く)に多くの生産拠点を設立しており,
が流せるかどうかを試せるような工夫が凝らさ
その数は約 1.5∼3倍にもなる。
れており,生産ラインに従事する現場従業員向
②…生産車種についてもアジア州では,欧米州
けの保全や作業のマニュアルも,豊富な画像に
よりも約 2倍の生産車種が投入されている。
よって説明が可能になるといわれている。
2001年現在,日産,ホンダ,トヨタは米州にお
これまで海外工場では故障などのトラブルが
いて9∼10のモデル(重複含む)を生産してい
発生すると,その国の言語で書かれた複雑なマ
るのに対して,日本を除く東南アジア(中国,
ニュアルを技術者が参照したりして,国内工場
台湾含む)では 22∼33のモデルを生産してい
などに電話などで指示を仰ぎつつ現場に指示し
る。
なければならず,その意思決定は,海外子会社
③…アジア州の生産拠点よりも欧米州の方が量
⇨本社⇨国内工場⇨本社⇨海外子会社という多
産体制を確立している。特に米州を日本同様,
段階の経路を っていた。新マニュアルは理解
戦略的に重要な拠点と えているホンダのケー
しやすい画像で提供される形になり,問題解決
スを例にあげれば,米州とアジア州との生産能
までの時間を短縮できるほか,海外生産での品
力格差は約 4.8倍以上の開きがある。
質向上にもつながると期待されている。
④…特に 1990年代以降,
アジア州の生産拠点を
また,国内のデジタルエンジニアリングセン
中心にしてトランスプラントの早期自立化を志
ターと海外工場を高速通信回線で結び,稼動状
向する傾向にあり,技術移転もスピード化して
況をリアルタイムで把握できる仕組みを導入
いる。
し,トラブルの解決策を随時発信できる支援体
⑤…日本メーカーのいくつかが外資の傘下に入
制も整えたとしている。この新システムを 2002
り,自社独自の技術支援体制の枠組みをどこま
年秋に生産開始予定の中国天津乗用車工場など
で維持しえるのかという新たな問題が生起して
はじめ,内外の新しいラインの立ち上げに採用
いる。
していく予定であるという
。
などである。
こうした環境変化を受け,各メーカーでは技
術支援のあり方に対する変化が今後,生じる可
6.おわりに
能性があると思われる。例えば,広義のマザー
日本的生産システムの適用,移転,定着のプ
工場制を採用していたトヨタでは,この路線に
ロセスの再 を念頭に,本稿ではその前提作業
56 第3巻
第4号
として日本の自動車メーカーのグローバル生産
られる。この点については別稿において明らか
戦略に着目し,トランスプラントへの技術支援
にしたい。
のあり方の1つとして,マザー工場制がどうよ
うな機能と役割を果たしているのか特に自動車
付 記
産業の現状にそくして検証を試みた。日本の自
本稿は,
平成 11年度札幌大学研究助成の研究
動車産業にあっては,すべてのメーカーがマ
成果の一部である。また,本研究に際しては,
ザー工場制を採用しているわけでもなく,また
本田技研工業㈱生産事業部,経営企画室,トヨ
マザー工場制そのものにも多様性があり,積極
タ自動車㈱企業 PR 部,マツダ㈱海外技術部,日
的に活用されるケースとそうでないケースを含
産自動車㈱栃木工場の多数の関係諸氏から貴重
めて基本的に3類型に かれる。このことはこ
な助言とご指導を賜った。厚く御礼申しあげた
れまで一律にとらえられてきた本社とトランス
い。最後に長年にわたり,辛抱強く温かい目で
プラントとの関係に新たな一石を投じるものと
未熟な小生をご指導して下さった小林康助先生
えられる。
には心より御礼と感謝を申し上げたい。なお,
しかし,マザー工場制に対する研究はまだ尾
本稿における誤りはすべて筆者に帰するもので
についたばかりであり,残された課題も多い。
ある。
マザー工場制は現地生産の本格化にともない,
トランスプラントの生産技術力や管理技術の引
注
き上げを目的とする技術支援の必要性から生起
⑴
山口隆英[21]
した,工場間の支援システムであるが,本稿で
⑵
日経 BP 社[20]pp.166-167. 米インテル社では
「Copy Exactly戦略」と呼ばれる,工場の中身を丸
は特に地域統括本社を含めない3社間関係を製
ごと複製移植することを目的にした技術移転戦略が
品戦略の観点から 析を試みた。
しかし,グロー
ある。個々の工場レベルでの実験は認められず,エ
バル化の進展しているメーカーにあっては,地
ンジニアや技術者たちは,既に実績のあるインテル
域統括本社や現地の技術センターの役割も見逃
の製造手法を,1つの工場から別の工場に丹念に複
せないほどに重要な機能を果たしている
。ま
製することをしている。同社の戦略は工場技術の完
た,戦略的な意思決定にかかわる部 として本
全複製を図るものであり,本稿で扱う技術の段階的
社海外事業部,地域統括会社,トランスプラン
移転とは異なる特異なケースである。また,同社の
場合,マザー工場が支援するというよりも
「シード」
トにマザー工場を加えた4社間での権限委譲の
と呼ばれる専門の技術者チームがこれにあたるな
範囲も再検討する余地がある。これらもマザー
工場制を 3類型に 類することでみえてきた課
ど,技術支援のあり方も異なっている。
⑶
岡本[8]p.7.技術移転の主たる内容は,技術実施
題といえる。こうした技術支援システムのあり
権,生産設備,マニュアル,ノウハウ,教育訓練な
方は歴 的にみれば,変容のプロセスが存在し
どによる知識と情報の移転であるとしている。
たことである。日本自動車産業の場合,基本的
⑷
安室[6]pp.33-39.1993年版『海外進出企業
には本社主導による技術支援の展開からスター
回答を得たものであり,製造業は 147社,非製造業
トする場合と,当初からマザー工場制を採用し
は 52社という構成になった。
マザー工場制の採用状
たケースとに大別される。初期の技術支援シス
況については,このうち製造業 147社を対象にみた
テムがその後大きく変容し,今日に至っている
のである。マザー工場制に対する歴
的意義は,
むしろこの変容した局面にこそあるものと え
覧』
をもとにアンケート調査企業を選出し,199社から
ものである。
⑸
山口[21]
⑹
中山[15]p.7.
日本自動車メーカーのマザー工場制による技術支援(中山) 57
⑺
筆者のトヨタ自動車㈱田原工場(2001年 5月 10
日)でのヒヤリング調査にもとづく。
生産システムにもとめている。また,塩見[10]pp.
77-113. によればトヨタでは複数の工場で同系車種
⑻
日経産業新聞[19]
の生産や生産移管がおこなわれ,ロジステッィク上
⑼
筆者のマツダ防府工場(2000年 11月 22日)調査
も同期化していることを確認している。
による。
⑽
断りがない限り,筆者の日産自動車㈱栃木工場
(2001年 12月)でのヒヤリング調査にもとづく。
日産では全くマザー工場制が採用されてこなかっ
渋井[11]pp. 285-290.渋井氏によれば,1990年
代までの日本自動車産業の発展は,
「輸出依存の大量
生産体制」にあったとしている。
日経産業新聞[18]
たわけではない。少なくとも 1994年7月時点では製
田中武憲[14]ではトヨタ NUM M I の事例をもと
品系列を重視したマザー工場制が採用されていた。
に現地のサプライヤーへの技術支援も念頭に入れた
例えば,NM UK では「マーチ」を生産する村山工場
支援システムの研究をおこなっている。
と「プリメーラ」を生産する追浜工場がマザー工場
となっていた。しかし,日産ではすでに 1994年頃か
らマザー工場制に対する問題点も指摘されていた。
特に各工場の自主性を尊重してきた結果,工場に
よって活動の重心や方向性に相違が生じ,海外の工
場支援においてはマザープラントによって指導のや
り方が異なるという問題が顕在化していた。
本田技研工業㈱鈴鹿製作所生産事業部での筆者の
ヒヤリング調査(1999年6月 4日)にもとづく。
2000年 11月に四輪の生産・販売会社が合併し設
立。
本田技研工業㈱鈴鹿製作所生産事業部での筆者の
ヒヤリング調査(1999年 7月 16日)にもとづく。
ホンダの世界4極体制とは,1994年に提唱された
戦略であり,日本のほか米州,欧州,アジア大洋州
をそれぞれ極として生産,販売についてグローバル
な調整管理をめざすものである。
山口[22]p.107.
同上[22]p.107.
岡野浩[7]p.74,p.220.
高柳暁[12]p.131.
同上[12]p.132.
中山[15]p.5,ホンダのケースでいえば,海外進
出における二輪車事業と四輪車事業との関係性は深
い。基本的に二輪車事業で先行し,四輪車事業を後
続させる方法が一般的であり,販売の後に生産を展
開するケースとなっている。しかし,
地域市場によっ
てパターンは異なっており,幾通りものパターンを
形成している。
竹田[13]pp.222-226.では日本自動車産業におけ
る国際競争上の優位性の原点を,機械体系の柔軟化
と職務編成の柔軟性によって構築される多車種混流
参 文献
[1]IRC
『トヨタ自動車グループの実態 98年版』ア
イアールシー,1998年。
[2]IRC『日産自動車グループの実態 2001年版』ア
イアールシー,1999年。
[3]IRC『本田技研・本田技術研究所グループの実態
99年版』アイアールシー,1999年。
[4]IRC『ホンダグループの実態 2001年版』アイ
アールシー,2001年。
[5]IRC『マツダグループの実態 2001年版』アイ
アールシー,2001年。
[6]安室憲一,(財)関西生産性本部編『現場イズム
の海外経営』白桃書房,1997年。
[7]岡野浩,大阪市立大学商学部『ビジネスエッセ
ンシャルズ3
国際ビジネス』有
閣,2001年。
[8]岡本義行「日本企業の技術移転をめぐって」,岡
本義行編『日本企業の技術移転』日本経済評論社,
1998年。
[9]
文博「アメリカへの技術移転―本田技研の
ケース」法政大学産業情報センター,岡本義行編
『日本企業の技術移転』
日本経済評論社,1998年。
[10]塩見治人「生産ロジスティックスの構造」坂本
和一編著『技術革新と企業構造』ミネルヴァ書房,
1985年。
[11]渋井康弘「90年代の日本自動車産業」産業構造
研究会『現代日本産業の構造と動態』新日本出版
社,2000年。
[12]高柳暁『現代経営組織論』中央経済社,1997年。
[13]竹田志郎『国際経営論』中央経済社,1994年。
[14]田中武憲「多国籍企業トヨタの北米戦略とトヨ
タ生産方式の「現地化」について」『名城論叢』第
58 第3巻
第4号
2巻第 1号,名城大学経済経営学会所収,2001年
[18]日経産業新聞記事(2001年 11月 26日)。
6月。
[19]日経産業新聞記事(2001年 2月 2日)
。
[15]中山
一郎「市場経済化における技術支援体制
―ホンダのマザー工場制」『産研論集』No.23,札
幌大学経営学部産業経営研究所所収,2000年 3
月。
[16]日刊自動車新聞社編『自動車産業ハンドブック
1999年版』日刊自動車新聞社 1999年。
[17]日刊工業新聞社・日本自動車会議所『2000年
自動車年鑑』日刊自動車新聞社,2000年。
[20]日経 BP 社『日経ビジネス』2002年 11月 18日
号。
[21]山口隆英「日本的生産システムの国際移転とマ
ザー工場制」『商学論叢』第 64巻第 3号,福島大
学経済学会所収,1996年。
[22]山口隆英「海外工場の進化と知識移転:経路依
存症の視点から」
『国際ビジネス研究学会 第 9回
全国大会報告要旨』2002年 10月。