機関内倫理審査委員会の在り方について

機関内倫理審査委員会の在り方について(メモ)
1. はじめに
・ 生命科学に関する研究や医学研究の進展にともない、倫理的、法的、社
会的問題(Ethical, Legal, Social Issues)が発生し、これらへの対処が
求められ、一部については、法律の策定や指針の策定が行われてきた。
・ 医学研究機関、ヒトの生体試料を使用する研究機関等においては、従来
から自主的な機関内倫理審査委員会(以下、倫理審査委員会)が設置さ
れ、研究の科学的正当性及び倫理的妥当性について検討を行ってきた。
・ 倫理審査委員会は自主的に運営されてきたものであるが、各種の指針に
おいて重要な役割を担わされられるようになった。
・ その果たす役割の重要性に鑑み、大学や研究機関の倫理審査委員会の在
り方について検討。
2. 背景
・ 近年、ヒトゲノム・遺伝子解析研究指針、ヒトES細胞の樹立及び使用
に関する指針、特定胚の取扱いに関する指針、疫学研究に関する指針等
において、倫理審査委員会の役割、構成等が定められるようになった。
・ 倫理審査委員会の役割が大きくなっているが、他方で、問題点が指摘さ
れている。(例えば、文部科学省科学技術学術審議会計画評価分科会が決
定した「ライフサイエンスに関する研究開発の推進方策について」にお
いても指摘。)
3. 機関内倫理審査委員会の位置づけ
・ 倫理審査委員会とはどのようなものか。
4. 問題点
(1)責任の範囲
倫理審査委員会は、機関内の研究について、科学的正当性、倫理的妥当性
等を審査するが、その責任はどこまであるのか。機関の長の諮問委員会なの
で、最終責任は機関の長であるが、機関内倫理審査委員会はどこまで責任が
あるのかが不明確。
(2)審査の方法
・ 委員の構成の問題とも関連するが、研究の専門家でない委員が参加する中
で、内容をどの程度まで審査するかが問題。例えば、研究内容の詳細につ
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いては、専門家による委員会が審査し、その後、倫理審査委員会が審査す
るという方法を採っている機関もある。同じ問題を議論しても、機関によ
って、結論が異なる場合がある。
・ 委員が何に基づいて審査をするべきかについて、その基準を示す指針、規
則、法律などの内容を十分に認識し、理解していない場合が見られる。
(3)委員の構成
・ 指針によって構成が異なり、指針の数だけ倫理委員会を設置するのは煩雑
であるとの指摘がある。(現在の指針類では、専門家、他分野の専門家、
一般の立場の方などが要件として挙げられ、さらに、その数や割合が規定
されている場合がある。)
・ 一般の立場の委員が、大学や研究機関に属する委員の中で対等に発言し、
議論することは容易ではない。
(4)委員の育成
充実した審査を行うためには、倫理審査委員会にふさわしい委員を委嘱す
る必要がある。
いわゆる文系の委員は、生命科学や医学の研究内容をある程度理解する必
要があり、また、生命科学や医学の研究の専門家は、法律や生命倫理等につ
いてある程度理解する必要がある。このように、専門を持ちつつ、他の分野
についても理解をしている委員が望ましいが、そのような人材が不足してい
るのが現実である。
指針類では、外部委員を入れるようにと規定しているが、適当な委員が見
つからないなどの問題がある。
(5)情報の公開
周辺住民や社会から信頼されるようにするためには、研究機関でどのよう
な研究が行われているのか、研究を行うのに際し、機関内倫理委員会におい
てどのような検討が行われているのか、などを公開することが必要であると
考えられる。他方で、知的財産権、研究の方向性、個人情報など情報公開が
不適切な情報は保護する必要がある。
(6)経費
倫理委員会の委員に外部の者や法律の専門家が求められるが、これらの者
を委員に委嘱するのは、謝金等が必要となる。また、国の審査においては、
詳細な議事録の提出を求められる場合があり、速記や議事録作成のための費
用が必要となる。このような経費をどのように措置するのかが問題となって
いる。
5.
考え方
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(1)位置づけ
(2)責任の範囲
① 研究の実施に関する責任は、研究者と機関の長が負うべき。機関内倫理委
員会の検討の結果は、機関の長が判断をする際の根拠となる。したがって、
倫理委員会の検討とその判断は重要であるが、慎重かつ誠実に審議を行って
いる限りにおいては、判断の責任は機関の長が負うべき。
② 倫理委員会は、様々なバックグラウンドを有する委員から構成されている
ことから、研究内容に関する委員の理解については、専門家と同様の理解を
求めることは不可能であり、倫理的妥当性を判断できる程度の理解を求める
ことが適当。
(3)審査の方法
① 倫理委員会は、科学的正当性と倫理的妥当性の検討を行うことを求められ
る。科学的正当性についても、倫理的に許されるかどうかの観点からの判断
であり、専門家と同レベルの理解が求められるわけではない。したがって、
倫理委員会は、このような認識の下に、科学的正当性と倫理的妥当性の検討
を行えば良いと考えられる。
② 科学的正当性の判断は、生命科学や医学の研究者以外の委員にとっては負
担が大きいことから、生命科学や医学の専門家による科学的正当性の検討を
先に行うことも可能。その場合にも、生命科学や医学の研究者以外の委員は、
研究内容の理解に努める必要あり。また、倫理審査委員会は、先行した専門
家の検討を勘案し、科学的正当性と倫理的妥当性について判断を行うべきで
ある。
③ 結論が重要であることは当然であるが、結論に至るまでにどのような議論
がなされたかという経過も同様に重要であることが認識されるべきであり、
議論のやりとりがわかる議事録を残すことが望ましい。
④ 機関によって結論が異なる場合が生じうるが、重要なのは結論に至る過程
や理由であり、それらを社会に説明できることが必要。結論が異なることに
より問題が生じた場合には、機関間で調整するなどの工夫をすることができ
る。
(4)委員の構成
① 倫理審査委員会は、多様な側面から検討を行うこと、機関内部の基準だけ
ではなく、外部の考え方も取り入れること、などから、当該研究の専門家、
法律や生命倫理の専門家、一般の立場の者、外部の者、両性が含まれるべき
(例えば、外部の法律の専門家など一人で複数の要素が重なることもある)。
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②
研究の対象に応じて、要件が異なるのはやむを得ない側面があるので、そ
の場合には、必ずしも複数の委員会を設置する必要はなく、委員を追加する
など柔軟に対応をすることが可能。
③ 倫理委員長は、組織の長や研究を推進する立場の者であることは適切では
なく、できるだけ中立な者が務めることが望ましい。
(5)委員の育成
委員は、多くの場合、ある分野における専門家であり、そういう方に教育を
受けることを求めるのは難しいことも確か。また、問題に直面し、検討を重ね
るという経験を経ることにより、委員として適切な知見を身につけることもあ
る。したがって、各大学・研究所において、委員は経験を積むことが必要。
しかし、全ての委員に対して、このような自己研鑽のみを求めることも困難
であり、委員の研修の機会が必要。例えば、大学等において、倫理委員に対す
るサマーセミナー等を開催することも望ましい。
(6)情報の公開
研究内容、審議経過等については、知的財産権やプライバシー保護等の観
点から公開が不適切な部分を除き、ホームページ等で公開を行うことが求め
られる。
(7)連携
ある倫理委員会の経験は、他の機関の倫理委員会にも有用である。既に、
医学系については、医学系大学倫理委員会連絡会議が開催されている。他の
分野においても、連携を図ることが望ましい。
倫理審査委員会は、未経験の事態に直面し、行政が関与することが必要な
場合もあるので、そのような場合には行政に連絡できるようにしておくこと
が適当。ただし、行政が必要以上の介入をすることは不適切。
(8)経費
① 委員会に係る経費はその機関の事務経費に盛り込まれることが原則と考
えられるが、近年、競争的資金においては、間接経費が認められているの
で、各機関においてその活用も検討されるべきである。
② 倫理委員会の審議が必要な研究は、あらかじめ予想されるので、その研究
予算の中に倫理委員会に要する経費を盛り込んでおくなどの方法が考え
られる。
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6. おわりに
・ 機関内倫理委員会については、指針等で制約がかかる場合があるが、原
則として当該機関の自主的な運営が行われるべきである。
・ 述べられた内容については、各機関において参考にされることを期待す
る。
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