Title メディア接触における教員養成大学生の第三者効果

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メディア接触における教員養成大学生の第三者効果:中
学生へのTV暴力番組と暴力テレビゲームの規制
和田, 正人
東京学芸大学紀要. 総合教育科学系, 57: 455-462
2006-02-00
URL
http://hdl.handle.net/2309/1476
Publisher
東京学芸大学紀要出版委員会
Rights
東京学芸大学紀要 総合教育科学系 57 pp.455∼ 462,2006
メディア接触における教員養成大学生の第三者効果
:中学生への TV 暴力番組と暴力テレビゲームの規制
和 田 正 人
教育実践研究支援センター *
(2005 年 9 月 30 日受理)
キーワード:第三者効果,TV 番組暴力,暴力テレビゲーム,規制
2 .テレビ暴力への規制研究
1 .研究の目的
TPE 研究においてテレビ暴力が対象とされた研究は,
第三者効果(Third-Person Effect: TPE)は,自分より
他者がより大きく影響を受けると考え,それに対応し
親の子どもへの暴力番組への規制態度(censorship)が
た行動を行うこと(Davidson, 1983)である。TPE は,
中心になっている(Rogers, 1996; Hoffer, 2002 ;和田,
第二次世界大戦の硫黄島の戦闘で,日本軍がばら撒い
2002)。日本では,バラエティー番組で笑いと暴力が結
た有色人種への兵隊向けの反戦ビラの影響を恐れた白
びついた影響が明らかにされている(佐々木,1996)。
人将校が,部隊を退却させて,部隊の人種編成を変え
そこで,暴力映像の長期的影響の研究(大渕,2000)
たことを根拠としている。
から想定すると,バラエティー番組での笑いと暴力行
Perloff(2002)は,TPE 関連要因をまとめ,①メッセ
動が結びついたシーンの継続的接触が,笑いと暴力の
ージの望ましさの程度②社会的距離③個人的集団的差
スキーマを作り,笑いが必要とされる場面では暴力行
異(自己知覚,自我関与,自尊感情)としてまとめて
動が選択されることになる。欧米と異なり,日本では
いる。②のメッセージの望ましさの程度が低いものと
暴力行動が集団,特に学校という教育集団の中での
して,テレビ暴力やポルノビデオ,パンク音楽などが
「いじめ」として行なわれる可能性があり,そこで「笑
研究され,特に子どもを対象として,親の子どもへの
い」と「暴力」を結びつけた行動が取られる可能性が
規制態度(censorship)が研究されてきている。
ある。教師は「笑い」と「暴力」の結びつきが「いじ
したがって,テレビ暴力について日本ではどのよう
に規制の態度が形成されるのかについて調べる必要が
め」になるかどうかの判断を常に求められており,そ
の抑止が要求されている。
ある。さらに,海外では研究がほとんどないが,暴力
また,模倣行動の体験者,行動予測者は TPE 関連要
行動のシュミレーションの機能を持つために,より暴
因eの自己知覚が大きく,規制態度も大きいと考えら
力の影響が大きいとされているテレビゲームについて
れる。教師は,模倣した暴力行動がいじめにならない
の研究も行なわれる必要がある。
ように,模倣を限界質量(山岸,2000)内で抑制する
本研究では,先行研究との比較として日本でのテレ
ことを求められているために,青少年への規制に対し
ビ暴力規制についての研究を行い,さらに,日本独自
て自我関与も大きくなり,規制態度,規制行動とも大
の問題であるテレビゲーム暴力への規制についての研
きくなると考えられる。
しかしテレビ暴力については,青少年への影響の観
究を行なう。
点から親や教育者による規制賛成の意見がある一方,
表現の自由や視聴率を重視するテレビ番組制作者の規
* 東京学芸大学(184-8501
小金井市貫井北町 4–1–1)
− 455 −
東 京 学 芸 大 学 紀 要 総合教育科学系 第 57 集(2006)
制に反対する意見がある。教員養成学生は将来教師に
ラブでの模倣行動の観察人数を挙げさせた。番組継続
なり親になるという観点から規制賛成の態度をもちつ
の場合に中学のクラスで模倣行動をする人数を推定さ
つも,学問・表現の自由に基づいた大学での授業を受
せた。規制行動はクラス担任になった時の模倣行動の
けている。したがって,こうした二つの態度を反映し
制止可能性を測定した。
て,番組規制態度には,表現の自由からは番組規制に
反対し,青少年の影響からは番組規制に賛成するとい
2 .2
う二重基準が想定される。
2 .2 .1
結果
規制反対意見と規制行動
シーンの規制反対態度は,表現の自由からに比べて青
以上のことより次の仮説が設定された。
少年への影響の場合には減少したが,弱い相関(r=.41)
仮説 1 .テレビ暴力の規制態度は表現の自由と青少年
が存在した。大学による平均値の差は,規制反対意見,
規制行動とも有意ではなかった(表 2 .2 .1 )。
への影響では異なる
仮説 2 .テレビ暴力の規制態度は教育に関与するほど
表 2 .2 .1
規制反対意見と規制行動
大きくなる
仮説 3 .テレビ暴力の規制行動は教育に関連するほど
大きくなる
仮説 4 .テレビ暴力の規制態度は影響を体験している
ほど高まる
2 .2 .2
仮説 5 .テレビ暴力の規制態度は,影響を予測するほ
影響の体験と予測
模倣行動を観察した回答者は 106 名中 13 名だが,体
ど高まる
験・非体験者の規制態度の差は有意ではなかった(表
2 .1
方法
2 .1 .1
2 .2 .2 )。番組の継続により中学生が模倣行動をする
回答者
との回答は 93 名であった。
教師は,テレビ暴力の青少年への影響を規制する規
表 2 .2 .2
模倣行動の体験・非体験者の規制態度
範を示すことができるが,教師自身が青少年と同じよ
うにテレビ暴力番組に接触しているとは考えにくい。
一方,規制態度は番組接触を行うほど小さくなること
が明らかになっている(和田,2002)。そこで教員養成
大学生 45 名を回答者に選んだ。暴力番組接触が明らか
2 .2 .3
(和田,2002)であること,中学高校時代に番組の影響
を受けた可能性があること,卒業後に教師になるため
規制態度の要因と規制行動
接触,体験,将来,規制態度(青少年と表現の自由),
に教師としての自我関与があることにより,規制態
規制行動の因果関係を構造分析で求めた。規制態度と
度・行動が存在すると想定されたためである。さらに
番組接触との因果係数は -.37 で,番組接触が規制態度
比較のために一般大学の教職履修学生 37 名,非教職科
を低くすることが明らかになった(図 2 .2 .1 )。将来
目履修生 26 名の回答者を加えた。
の行動推測から規制態度への因果係数が .32 であった。
規制態度から規制行動への因果係数は .12 で,規制へ
2 .1 .2
テレビ暴力と質問項目
の態度と行動は関係が明らかではなかった。
テレビ暴力番組には,放送中止になった番組のシー
2 .3
ン「めちゃめちゃいけてる」の「しりとり侍」を選定
考察
した。シーンへの接触度は「毎週見た」
「 1 ヶ月に 3 回」
「
シーンの規制反対態度は,表現の自由よりも青少年
1 ヶ月に 2 回」「 1 ヶ月に 1 回」「半年に 1 回」「見たこ
への影響の場合には低く(表 2 .2 .1 ),「仮説 1 .テ
とがある」「見たことがない」の 7 点尺度で測定した。
レビ暴力の規制態度は表現の自由と青少年への影響で
規制態度は,表現の自由からと青少年への影響からの
は異なる」は検証された。しかし大学による差は有意
双方の理由によるシーンの中止への賛否として「中止
ではなく(表 2 .2 .1 ),「仮説 2 .テレビ暴力の規制
大反対」から「中止に全面的に賛成」までの 7 点尺度
態度は教育に関与するほど大きくなる」は検証されな
で測定した。影響の体験は中学(高校)での自分のク
かった。さらに,行動規制の学校差は有意でなく(表
ラス,クラス以外の同じ学年,クラスと学年以外のク
2 .2 .1 ),「仮説 3 .テレビ暴力の規制行動は教育に関
− 456 −
和田:メディア接触における教員養成大学生の第三者効果
図 2 .2 .1
規制態度要因と規制行動
連するほど大きくなる」は検証されなかった。模倣行
りコンピュータエンターテインメントレーティング機
動の体験・非体験者の規制態度の差は有意ではなく
構(略称 CERO)がゲームソフト審査を行い,暴力表現
(表 2 .2 .2 ),「仮説 4 .テレビ暴力の規制態度は影響
や性表現などを基にしてレーティングを行い,保護者
を体験しているほど高まる」は検証されなかった。ま
向けの販売の目安としてパッケージに表示させてきた。
た規制態度の要因と規制行動の分析より,将来の行動
しかしそのゲームの影響についての実証的な研究は
推測から規制態度への因果係数が .32 であり(図 2 .2 .
それほど多くない。女子学生を対象にした実験(坂元
1 ),「仮説 5 .テレビ暴力の規制態度は,影響を予測
ら,2004)では,暴力的ゲームで遊んだグループが見
するほど高まる」は検証された。
ていたグループよりも多くの攻撃性を示したのに対し,
仮説 2 ,3 が検証されないことより,青少年への影響
男子学生を対象にした実験(湯川ら,2002)では差が
への態度と教育の関連は低いと考えられる。表現の自
なかったなど,実験結果が異なることも明らかにされ
由と青少年への影響での弱い相関は,番組の規制信念
ている。児童・生徒を対象にしたパネル研究(坂元ら,
が二重基準ではないことを意味する。また規制行動が
2004)では,「テレビゲーム使用は身体的暴力を促す傾
教員養成大学生で高くないこと(表 2 .2 .1 )は,中
向がある。言語的行動や敵意のようなほかの攻撃性の
学生の模倣行動抑制について困難さを想定していると
側面については,テレビゲーム使用は影響しない。男
も考えられる。本研究は,すでに規制された番組シー
子でアクションゲームをしている場合に言語的攻撃が
ンへの回答のため,規制への同調も想定された。Jakob
高まる傾向がある。テレビゲームで遊んでいる時間が
(2005)は,社会的に望ましくない影響に対しては他人
長いと暴力を好むようになり,共感性が低くなる。テ
への影響がより大きいと考えるが,望ましい行動に対
レビゲームで暴力シーンに接するほど攻撃的な反応を
しては自分への影響が大きいと考えることを明らかに
示すようになる。一緒にテレビゲームで遊ぶ他者(親,
している。したがって,規制されていないメディア暴
祖父母,兄弟,姉妹,友達など)が暴力シーンに対し
力番組で笑いが強調される番組であれば,望ましい行
て否定的な態度を示すと,身体的攻撃の傾向が弱まり,
動をもつ番組と考えられて,他人への影響は小さいと
攻撃的な反応をしなくなり,共感性が高まる。」などの
され,規制が弱くなることも想定される。
結果が明らかにされている。
しかし,このパネル研究においても,子どもがクラ
3 .テレビゲームへの規制研究
スでどのような行動をするか,等の集団における影響
3 .1
は考えられていない。教師は,ゲームの影響と類似の
テレビゲーム暴力
テレビゲーム暴力への規制は行政で推進している。
行動が学校で発生することを食い止める。発生時には
2005 年 6 月 7 日には神奈川県で米国製家庭用ゲームソ
クラス全員に広がらないようにすることを求められる。
フト「グランド・セフト・オート 3 」が有害図書類に
しかし年配の教師はテレビゲームの体験者は多くなく,
指定され,18 歳未満への販売やレンタルが禁止された。
児童生徒の行動がテレビゲームに類似した行動である
神奈川県知事は 8 月 3 日の朝日新聞紙上にこの措置に
かはわかりにくいと想定される。一方教育実習に行っ
ついてのコメントを発表し,内容が暴力的であり,自
た学生は,テレビゲームに類似した行動をおこなう生
分がゲームの主人公となることで影響が大きいので禁
徒への対処を求められる。これは,TPE における規制
止をすると主張している。すでに 3 月 2 日には共同通
行動として明らかにされることが必要である。
信のニュースで方針が発表されていた。2002 年 10 月よ
− 457 −
したがって,ここでは,教員養成大学生が,児童・
東 京 学 芸 大 学 紀 要 総合教育科学系 第 57 集(2006)
次に,中学校の教師になったときを想定させ,テレ
生徒へのテレビ暴力への影響をどのように考えてどの
ビゲーム暴力の影響の予見を類似行動とし,「殺人や暴
ように抑制すると考えているかを明らかにする。
テレビゲームにおいても,テレビ暴力と同様に,販
力など残虐シーンを多く含む家庭用テレビゲームソフ
売の自由・表現の自由という考えがあるが,公共放送
トのまねをする生徒がいるかどうか」の質問に,「非常
として確立されているテレビに比較してそれは弱いと
に多くいる」から「全くいない」までの 7 点尺度で測
思われる。
定した。規制行動は,規範と抑止に分け,規範は「中
さらに,テレビ暴力の規制は,番組に高接触ほど小
学生がまねをしたときにどう思うか」という質問に
さくなることを示した研究結果(和田,2002)と同様
「非常に良くない」から「全然悪くない」まで,抑止は
に,テレビゲームにおいても接触するほど規制が弱く
「まねをした中学生にどのように対処しますか」という
なることがあると考えられる。これは,認知不協和理
質問に「即座にやめさせる」から「全くやめさせない」
論からも説明がつく。自分が接触しているものを規制
までの 7 点尺度で測定した。
することは自分自身で不協和を起こすので規制をしな
いということである。また,表現の自由も少年の影響
3 .3
結果
が大きいので制限すべきと考えていれば,児童・生徒
3 .3 .1
暴力的ゲームソフト接触
への規制する態度も大きくなるであろう。また,児
99 名の回答者のうち 63%(62 名)が「バイオハザー
童・生徒がテレビゲームのマネをすると考えていれば,
ド」を暴力ゲームソフトとして列挙した(表 3 .3 .1 )。
より規制に関連した行動をとると予想される。
接触については「やったことがある」が 48 人(48%),
したがって次の仮説が設定された。
CM のみ 41 人(41%),見たことがあるが 31 人(31%)
仮説 1 .テレビゲーム暴力の規制態度は表現の自由と
であった(図 3 .3 .1 )。
青少年への影響では異なる
仮説 2 .テレビゲーム暴力に接しているほど規制態度
表 3 .3 .1
暴力ゲームソフトの種類
図 3 .3 .1
ゲーム使用頻度(数値人数)
は小さくなる
仮説 3 .テレビゲーム暴力の表現の自由に反対するほ
ど規制行動は大きくなる
仮説 4 .テレビゲーム暴力の影響を予見するほど規制
行動は大きくなる。
3 .2
方法
3 .2 .1
回答者
教員養成大学生 3 年生 20 名,及び教職科目履修学生
4 年生 79 名の合計 99 名を回答者とし,2005 年 5 月に授
業中に教授者が記名式で回答させた。
3 .2 .2
テレビゲーム暴力と質問項目
テレビゲーム暴力は,「殺人や暴力など残虐シーンを
多く含む家庭用テレビゲームソフト」について 3 つま
で列挙させ,各ソフトの接触頻度を「毎日数時間」「毎
日 1 時間以内」
「毎日数分」
「週に 3 ,4 回」
「週に 1 回」
「月に 2 回ぐらい」「月に 1 回」「やったことがある」
「人がやっているのを見たことがある」「コマーシャル
のみ」までの 10 点尺度で測定した。
規制態度は,神奈川県の販売禁止についての共同通
3 .3 .2
信ニュースを記載し,18 歳未満の青少年の神奈川県の
表現の自由と規制態度
販売禁止方針に対して,「言論の自由・表現の自由」と
暴力的テレビゲームの販売規制態度は,表現の自由か
いう観点からと,「青少年への暴力の影響」という観点
らよりも青少年への影響の場合に高く,平均値の差は有
から,販売禁止方針に「全面的に賛成」から「大反対」
意(t(98)=8.97, p<.01)であった(表 3 .3 .2 )。また,
までの 7 点尺度で作成した。
表現の自由と青少年への影響には r=.53 が存在した。
− 458 −
和田:メディア接触における教員養成大学生の第三者効果
表 3 .3 .2
3 .3 .3
規制賛成意見
中学生への影響の予測と規制行動
中学生は,暴力的テレビゲームのシーンを真似する
(多い+少し)とした回答者が 56 人であり,わからな
図 3 .3 .3 - 2
マネする中学生への態度(数値人数)
図 3 .3 .3 - 3
マネする中学生への制止(数値人数)
いは 12 人であり,真似ない(たぶんいない+ほとんど
いない+全くいない)と回答した者は 23 人であった
(図 3 .3 .3 - 1 )。真似ることについてよくない(非常
に+あまり+少しは)との回答者が 83 人であり,どち
らでもないが 7 人,別に悪くないと回答したものが 8
人であった(図 3 .3 .3 - 2 )。さらに真似た中学生へ
の対処でやめさせる(即座+なるべく早く+しばらく
たって)との回答者が 76 人であり,どちらでもないが
16 人で,止めさせない(あまり+ほとんど)が 7 人で
あった(図 3 .3 .3 - 3 )。
3 .3 .4
要因の関連
暴力的テレビゲームへの接触を,認知と接触値に分
け,認知は列挙した暴力的テレビゲーム数( 0 から 3 )
とし,接触値は 3 つまで列挙した暴力的テレビゲーム
への接触の最高値( 0 から 10)とした。この認知・接
触と,規制態度(表現の自由と青少年への影響),予測
としての類似行動,教師としての規制行動(規範と抑
止)を要因として,共分散構造分析を用いて分析した
図 3 .3 .3 - 1
マネする中学生(数値人数)
図 3 .3 .4
(図 3 .3 .4 )。
テレビゲーム暴力規制の関連
− 459 −
東 京 学 芸 大 学 紀 要 総合教育科学系 第 57 集(2006)
最も関連係数が高いのが影響と規制態度であり(.59)
,
触と規制態度には負の関連があることも示された。し
接触・認知と規制態度の関連係数は-.27,規制態度と規
たがって,TV 暴力も TV ゲーム暴力も,生徒の影響を
制行動との関連係数は.30,影響の予見と規制行動の関
予測するほど規制態度が大きくなるが,自分が接触し
連係数は .33 であった。また,認知・接触と規制行動の
ている場合には規制態度が小さくなることが示された。
関連係数は -.12,認知・接触と影響との関連係数は .16
第三者効果のメディアに関する研究は,テレビ番組
で低い値であった。モデルは AGFI=.840 であり適合し
といったマスメディアに関するものから,個人メディ
ていると判断された。
アとしてのテレビゲームに関するものまでさまざまな
ものがある。最近では,インターネットへの影響に関
3 .4
考察
する研究があり,メディア接触もインターネットによ
暴力的テレビゲームの販売規制態度は,表現の自由
る接触にかわりつつある。例えば,インターネットポ
からよりも青少年への影響の場合に高いことが明らか
ルノの問題では第三者効果はあるが,その影響には文
になった(表 3 .3 .2 )。したがって「仮説 1 .テレビ
化の違いもあることが明らかにされている(Lee &
ゲーム暴力の規制態度は表現の自由と青少年への影響
Tamborini, 1995)。TV 暴力番組,暴力的 TV ゲーム等,
では異なる」は検証されたと考えられる。また,共分
全てのものがデジタル化されて,インターネットを通
散分散構造分析結果より,接触・認知と規制態度の関
して接触可能な現在,第三者効果の研究もメディア間
連係数は -.27 であった(図 3 .3 .3 )。したがって,
の研究よりも,メディアで表現される内容で研究され
「仮説 2 .テレビゲーム暴力に接しているほど規制態度
ていく必要性があろう。
は小さくなる」は検証されたと考えられる。同じ分析
結果より,規制態度と規制行動との関連係数は .30 で
参考文献
あり,「仮説 3 .テレビゲーム暴力の表現の自由に反対
するほど規制行動は大きくなる」は検証された。同様の
CERO (2005. 8 . 21) http://www.cero.gr.jp/rating.html
分析結果より影響の予見と規制行動の関連係数は .33 で
Davidson, P. (1983). The Third-Person Effect in Communication.
Public Opinion Quarterly, 47, 1 _15.
あり,「仮説 4 .テレビゲーム暴力の影響を予見するほ
ど規制行動は大きくなる」は検証されたと考えられる。
Hoffer, C., & Buchanan, M. (2002). Parents’ Responses to
仮説で設定されなかった,影響と規制態度の関連は
Television Violence: The Third-Person Perception, Parental
.59 と最も高かった。これは,教員となる大学生が,暴
Mediation, and Support for Censorship. Mediapsychology, 4,
力的テレビゲームへの販売規制に賛成する根拠として,
231_252.
中学生は暴力的テレビゲームの真似をすると考えるこ
Jakob, D., & Hurley, R. (2005). Third-Person Effects and the
ともできる。
Environment: Social Distance, Social Desirability, and
暴力的テレビゲームの認知・接触と中学生への規制
行動の関連が -.12 とそれほど大きくなかった。これは,
Presumed Behavior. Journal of Communication, 55, 242_256.
共同通信(2005. 3 . 2 . 11’ 23”)残虐ゲームを有害指定 神奈
自分は暴力的テレビゲームの影響を受けないが,中学
川県が全国初 共同ニュース http://headlines.yahoo.co.jp/
生は暴力的テレビゲームの影響を受けるので良くない
hl?a=20050302-00000059-kyodo-soci(2005. 4 . 29 取得)
ことであり,やめさせるべきであるという,自分の影
松沢成文(2005. 8 . 3 ).ゲームソフト 有害図書指定の輪を
響と中学生への影響を別に考えるという第三者効果の
態度成分の存在を示唆するものと考えられる。
全国に 私の視点 朝日新聞朝刊
Lee, B, & Tamborini, T. (2005). Third-Person Effect and Internet
Pornography: The Influence of Collectivism and Internet Self-
4 .TV 暴力と TV ゲーム暴力について
Efficacy, Journal of Communication, 55, 292_310.
大渕憲一(2000).攻撃と暴力.丸善.
規制賛成の態度は,TV 暴力と TV ゲーム暴力はとも
Perloff, R.M. (2002). The Third-Person Effect. In J. Bryant, & D.
に,表現の自由から考えると小さく,青少年への影響
Jillmann. (Eds.) Media Effects. 2nd. (pp.489_506), Mahwah, NJ:
を考えると大きかった。しかし,表現の自由と青少年
Lawrence Erlbaum Associates, Pub.
への影響についての規制は正の相関があったことから,
Rogers, H., Shah, D. V., & Faber, R.F. (1996). For the Good of
暴力への規範が規制態度となる可能性も考えられる。
Others: Censorship and the Third-Person Effect. International
また,影響を予測するほど規制態度が高まることが TV
Journal of Public Opinion Research, 8, 2, 163_185.
暴力と TV ゲーム暴力の双方で確認された。さらに接
坂元章(2004).テレビゲームと子どもの心.メタモル出版.
− 460 −
和田:メディア接触における教員養成大学生の第三者効果
佐々木輝美(1996).メディアと暴力.勁草書房.
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山岸俊男(2000).社会的ジレンマ.PHP 研究所.
的研究.東京学芸大学紀要第 1 部門,53,305_315.
湯川進太郎・吉田富二雄(1999).暴力映像が攻撃行動に及ぼ
和田正人(2004).教員養成大学生のテレビ暴力の反応:中学
す影響−攻撃行動は攻撃的な認知および情動によって媒
生への第三者効果,影響力,規制.第 11 回日本教育メデ
介されるのか?−.心理学研究,70,2 ,94_103.
ィア学会年次大会発表論文集,101_102.
湯川進太郎(2002).メディア暴力と攻撃性(山崎勝之・島井
哲志編『攻撃性の行動科学―発達・教育編―』)ナカニシ
付記:本研究の一部は第 11 回日本教育メディア学会年
ヤ出版,101_121.
次大会(2004)にて発表したものである。
− 461 −
Bulletin of Tokyo Gakugei University, Educational Sciences, Vol. 57 (2006)
A Third-Person Effects on Media Exposure of
Pre-Service Teacher Training Students:
Support for Censorship of Television Violence and
Video Game on Junior-High School Students
Masato WADA
Center for the Research and Support of Educational Practice*
Key words : Third Person Effect, Violence TV Program, Violence Video Game, Censorship
This study was to clarify the third-person effects (TPE) and censorship of violence TV program and violence video game (media
violence). 217 pre-service teacher training student’s censorships of Violence Media were investigated. They had higher
censorships of media violence on the effect of junior-high school students than on freedom of expression of media. Their
estimation of future effect on pupils increased the censorship. The exposure to media violence decreased the censorship. The
limitation of freedom of expression in media violence increased the censorship
*
Tokyo Gakugei University (4-1-1 Nukui-kita-machi, Koganei-shi, Tokyo, 184-8501, Japan)
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