サッカー日本代表の決定力不足解決への扉絵

サッカー日本代表
サッカー日本代表の
日本代表の決定力不足解決への
決定力不足解決への扉絵
への扉絵
~2010 年ワールドカップのゴールイン分析を通して~
09E330
1
加藤大希
サッカー日本代表
サッカー日本代表の
日本代表の決定力不足解決への
決定力不足解決への扉絵
への扉絵
~2010 年ワールドカップの
ワールドカップのゴールイン分析
ゴールイン分析を
分析を通して~
して~
Ⅰ.はじめに
Ⅱ.日本サッカー
日本サッカー界
サッカー界が抱える永遠
える永遠の
永遠のテーマとは
テーマとは
~サッカー日本代表
サッカー日本代表の
日本代表の現状と
現状と課題~
課題~
1.AFC アジアカップに関する日本代表の成績と戦術
(1)AFC アジアカップの大会成績
(2)第1回大会から第 15 回大会までの戦術の大きな移り変わり
(3)ボールを支配する攻撃的なサッカー
2.FIFA ワールドカップに関する日本代表の成績と戦術
(1)FIFA ワールドカップの大会成績
(2)第1回大会から第 19 回大会までの戦術の移り変わり
(3)ボールを支配される守備的なサッカー
3.戦術の“衣替え”による得点力の低下
Ⅲ.2010 年 FIFA ワールドカップの
ワールドカップのデータ比較
データ比較
1.スペイン代表と日本代表の共通点
(1)小さな世界王者
(2)王者の戦術
2.日本代表とスペイン代表の比較分析
(1)分析方法
(2)スペイン代表の分析
(3)日本代表の分析
3.得点力不足解決への扉
(1)ゴールイン分析から抽出された特徴の整理
(2)得点力向上のための考察
Ⅳ.おわりに
1.各章の要約
(1)第Ⅱ章
(2)第Ⅲ章
2.結論
3.今後の展望と課題
2
Ⅰ.はじめに
2010 年6月 29 日に、筆者の願いは、儚く消え去ってしまった。そして、
「もし、1点が
入っていれば…。
」という思いが頭から離れない。
サッカーの大会の最高峰と位置付けられる FIFA ワールドカップの南アフリカ大会で、カ
メルーン代表を強固な守備からカウンターで1点をもぎ取り、デンマーク代表を日本のお
家芸とも称されるフリーキックで蹴散らしたサッカー日本代表は、決勝トーナメント1回
戦で南米の古豪であるパラグアイ代表と1点を争う接戦を繰り広げた。しかし、延長戦で
も決着がつかなかったその戦いは、サッカー日本代表が PK 戦によって敗れる結果となって
しまった。もし、サッカー日本代表が、この試合で1点を取って勝利をしていれば、決勝
トーナメント2回戦で戦うことになっていたのは、2010 年ワールドカップ南アフリカ大会
を制したスペイン代表であった。さらに、もし、スペイン代表から大金星を挙げていれば、
その勢いで世界の頂上まで駆け上れたかもしれないのである。このように、サッカーにと
って得点とは、観客を魅了する熱狂的なシーンであると同時に、試合の勝敗を左右するも
のであり、たった1点の差で未来が大きく変わってしまうのである。
本稿では、サッカー日本代表の現状を、2つの国際大会の成績、戦術の変遷、1試合平
均得点、ボール支配率およびシュート数の視点からの分析によって、サッカー日本代表の
「戦術の“衣替え”による得点力の低下」という問題点を明示し、その後、2010 年 FIFA
ワールドカップ南アフリカ大会でのゴールイン分析を用いてスペイン代表と日本代表を比
較することを通して、サッカー日本代表の得点力不足の解決策を導き出すことを最終目的
としている。
以下では、第Ⅱ章「日本サッカー界が抱える永遠のテーマとは~サッカー日本代表の現
状と課題~」
、および第Ⅲ章「2010 年 FIFA ワールドカップのデータ比較」の2つの項目に
分けて、サッカー日本代表の得点力不足の解決案を提案していく。
まず、第Ⅱ章の「日本サッカー界が抱える永遠のテーマとは~サッカー日本代表の現状
と課題~」では、2つの国際大会でのサッカー日本代表の大会成績、戦術の変遷、1試合
平均得点、ボール支配率およびシュート数を各大会での優勝経験国と比較しながら、サッ
カー日本代表の現状と課題を明らかにしていく。
次に、第Ⅲ章「2010 年 FIFA ワールドカップのデータ比較」では、ワールドカップで優
勝したスペイン代表と日本代表を、体格および戦術の視点から共通点を導き出し、スペイ
ン代表を日本代表の目指すべき対象とした後、2010 年ワールドカップでのスペイン代表お
よび日本代表の全得点に関して、4つの分析項目を用いたゴールイン分析を行い、日本代
表の得点力を向上させることができる解決策を導き出す。
以上の考察を踏まえて、第Ⅳ章「おわりに」では、本論の要約や結論、今後の展望と課
題を述べることで、本論を結びとする。
3
Ⅱ.日本サッカー
日本サッカー界
サッカー界が抱える永遠
える永遠の
永遠のテーマとは
テーマとは
~サッカー日本代表
サッカー日本代表の
日本代表の現状と
現状と課題~
課題~
第Ⅱ章では、サッカー日本代表の過去から現在までの国際大会成績と戦術(1)の変遷を照ら
し合わせることを通して、現在のサッカー日本代表が抱える得点力に関する問題点を明ら
かにしていく。
まず、第1節では、サッカー日本代表の AFC アジアカップ(2)の第1回大会から現在まで
の成績と戦術という2つの視点からサッカー日本代表のアジアでの現状を明らかにし、サ
ッカー日本代表は「アジアでは得点力があり、ボールを支配する攻撃的サッカー」である
ことを示す。次に、第2節では、FIFA ワールドカップの第1回大会から現在までの大会成
績と戦術という2つの視点からサッカー日本代表の世界での現状を明らかにし、サッカー
日本代表は「世界では得点力がなく、ボールを支配される守備的なサッカー」であること
を明確にする。そして、第3節では、第1節と第2節で明らかになった現状を、大会規模
の違いから比較し、サッカー日本代表の問題点を論じていく。
以上を通して、サッカー日本代表の過去から現在までの大会成績と戦術を踏まえた上で、
得点および戦術面の視点から、サッカー日本代表が直面している問題点を明らかにする。
1.AFC アジアカップに
アジアカップに関する日本代表
する日本代表の
成績と戦術
日本代表の成績と
本節では、アジアでのサッカー日本代表は、
「得点力があり、ボールを支配する攻撃的な
サッカー」であることを明らかにする。そのために、
「
(1)AFC アジアカップの大会成績」
、
「
(2)第1回大会から第 15 回大会までの戦術の大きな移り変わり」および「
(3)ボール
を支配する攻撃的なサッカー」の3つに分けて、1936 年開催である第1回大会から 2011
年開催である第 15 回大会までの AFC アジアカップに関する日本代表の成績と戦術の変遷
を、さらにはアジア内の強豪国の得点力などとの比較を通して、アジアではサッカー日本
代表は「得点力があり、ボールを支配する攻撃的サッカー」であることを示していく。
(1)AFC アジアカップの
アジアカップの大会成績
1993 年のJリーグ設立から約 20 年の月日が流れ、日本のサッカーは、4大会連続の
FIFA ワールドカップへの出場や AFC アジアカップでの優勝など、アジアのサッカーをリ
戦術とは、戦略の下位概念で、一般には師団より小さい戦闘単位の軍事行動を計画・組織・遂行する
ための通則を指す。攻撃・防御、陣地戦・遭遇戦といったいくつもの形式に分けられるのが普通である。
サッカーでの戦術とは、フォーメーションとサッカースタイルの組み合わせのことである(ジョナサン
2010,10 ページ)。
(2)
AFC アジアカップとは、アジアサッカー連盟(Asian Football Confederation)が主催する、各国代
表チーム(ナショナルチーム)によるサッカーの大陸選手権である。1956 年に香港で第 1 回大会が開催
され、以降 4 年ごとに開催されている。日本は、1992 年、2000 年、2004 年、および 2011 年大会とア
ジア最多の 4 回の優勝経験がある(日本サッカー協会公式 HP 2012,11 月5日閲覧)。
(1)
4
ードする存在であり、世界の舞台で活躍を続けている。まず、このような大躍進を続ける
サッカー日本代表の AFC アジアカップでの歩みを振り返るため、日本が所属するアジア
地域での日本代表の大会成績を見ていきたい。最近のメディア報道では、アジアの中では、
日本代表には敵がいないとまで言われているようだが、昔から日本代表が強かった訳では
ない。
ここでは、アジアチャンピオンを決める AFC アジアカップの成績表およびアジアカッ
プ優勝経験国の1試合当たりの平均得点のグラフから、アジアでの得点数に焦点を当てて、
「アジアでは得点力がある、強い日本代表」を示していきたい。
以下では、①日本のアジアカップの成績から分かる特徴および②アジアカップ優勝経験
国の1試合当たりの平均得点のグラフから分かる特徴という2つの項目に分け、日本サッ
カーがアジアでは得点力が高いことを、日本代表のアジアカップでの成績表と、アジアで
強豪国と言われている国々の1試合平均得点を日本のそれと比較することで示していく。
①日本の
日本のアジアカップの
アジアカップの成績から
成績から分
から分かる特徴
かる特徴
表1は、日本サッカー協会が公表している「試合別出場記録(3)」のデータを参考に、
AFC アジアカップでの日本代表の大会成績を表にしたものである。表の見方としては、
横軸が表1の左の列から AFC アジアカップが開催された回、年、開催国、日本代表の大
会最終成績、試合数、勝利した数、引き分けた数(4)、負けた数、得点数、失点数を示して
おり、縦軸が上から開催年が古い順に各大会での日本代表の成績を記載している。また、
表の下から2番目の行には、全大会を通しての各項目に対する合計が記載されており、
最後の行には、全大会を通して得点したゴール数を合計試合数で割ることで算出した得
点数の平均と、同様に全大会集計の失点数を合計試合数で割ることにより求めた失点数
の平均を記載している。なぜ、今回、日本サッカー協会が公表しているこのデータを使
用したかというと、日本サッカーを統括し、代表する組織である日本サッカー協会であ
れば、日本代表の毎公式試合データを正確に記したものであると考えたからだ。
試合別出場記録は、1917 年から 2012 年までの日本代表の試合に関する監督名、開催日、スコア、対
戦チーム、会場、大会名、出場選手、および得点者が記載されている(日本サッカー協会公式 HP 2012,
1月 23 日閲覧)。
(4) 引き分けた数には、決められた時間内に決着がつかなかった場合に行われる PK(Penalty Kick)戦で
の勝敗が含まれている。
(3)
5
(表1)AFC アジアカップでの日本代表の成績
回
開催年
開催国
成績
試合数
勝
分
負
得点
失点
1
1956
香港
不参加
―
―
―
―
―
―
2
1960
韓国
不参加
―
―
―
―
―
―
3
1964
イスラエル
不参加
―
―
―
―
―
―
4
1968
イラン
予選敗退
―
―
―
―
―
―
5
1972
タイ
不参加
―
―
―
―
―
―
6
1976
イラン
予選敗退
―
―
―
―
―
―
7
1980
クウェート
不参加
―
―
―
―
―
―
8
1984
シンガポール
不参加
―
―
―
―
―
―
9
1988
カタール
グループリーグ敗退
4
0
1
3
0
6
10
1992
日本
優勝
5
3
2
0
6
3
11
1996
アラブ首長国連邦
ベスト8
4
3
0
1
7
3
12
2000
レバノン
優勝
6
5
1
0
21
6
13
2004
中国
優勝
6
4
2
0
13
6
14
2007
タイ・ベトナム・マレーシア・インドネシア
4位
6
2
3
1
11
7
15
2011
カタール
優勝
6
4
2
0
14
6
―
合計
―
―
37
21
11
5
72
37
―
平均
―
―
―
―
―
―
1.94
1
(出所)日本サッカー協会 HP の「試合別出場記録」を参考に筆者が作成(日本サッカー
協会公式 HP,
『http://www.jfa.or.jp/archive/daihyo/daihyo/data/AGame.pdf』 (2012,12
月 17 日閲覧))
。
表1を時系列に見ていくと、日本代表は 1956 年の第1回大会から 1984 年の第8回大
会までで AFC アジアカップに不参加、あるいは本大会に繋がる予選で敗退していること
が分かる。これは、当時オリンピック至上主義の日本が、オリンピックと同じ年に開か
れる AFC アジアカップ本大会に対して積極的ではなく、また、予選敗退した 1968 年イ
ラン大会と 1976 年の同じくイラン大会では、日本代表は控えメンバーを中心としたチー
ムで試合を戦っていたからである。
1988 年にもバルセロナ・オリンピック予選のためのチーム作りの一環として、日本は
アジアカップの予選大会に大学選抜で臨んだ。ところが、その大学選抜チームが予選を
突破し、日本にとって初めてのアジアカップ本大会出場権をもたらしたのである。しか
し、1988 年にカタールで開かれたアジアカップ本大会での日本は、1次リーグの4試合
で無得点となり、最下位で予選敗退してしまったのである。
そこで日本は、日本代表の強化を図るべく、初めてとなる外国人監督であるハンス・
6
オフト氏と契約を結び、世界基準のサッカーを日本代表に取り込もうとした(5)。その結果、
1992 年の日本で開催されたアジアカップでは、初優勝を飾り、1992 年大会以降、日本代
表は、2000 年、2004 年、および 2011 年大会とアジア最多の 4 回の優勝を経験するので
ある。
ここで、表1の 1988 年大会から 2011 年大会までの日本代表に関する試合数の欄より
右の各項目を見ていく。なぜ、この期間に絞ったかというと、日本代表が AFC アジアカ
ップの本大会に出場したのが 1988 年大会以降からであり、かつ優勝を争う真剣勝負が繰
り広げられる本選での成績に焦点を当てたいと考えたからである。
まず各大会での成績を述べると、日本代表が初めて本大会に出場を決めた 1988 年開催
の第9回カタール大会は、成績がグループリーグ敗退、試合数は4試合、勝利した数は
0回、引き分けた数は1回、負けた数は3回、得点数は0点、および失点数は6点であ
る。1992 年開催の第 10 回日本大会では、成績が優勝、試合数は5試合、勝利した数は
3回、引き分けた数は2回、負けた数は0回、得点数は6点、および失点数は3点であ
る。1996 年開催の第 11 回アラブ首長国連邦大会では、成績がベスト8、試合数は4試
合、勝利した数は3回、引き分けた数は0回、負けた数は1回、得点数は7点、および
失点数は3点である。2000 年開催の第 12 回レバノン大会では、成績が優勝、試合数は
6試合、勝利した数は5回、引き分けた数は1回、負けた数は0回、得点数は 21 点、お
よび失点数は6点である。2004 年開催の第 13 回中国大会では、成績は優勝、試合数は
6試合、勝利した数は4回、引き分けた数は2回、負けた数は0回、得点数は 13 点およ
び失点数は6点である。2007 年開催の第 14 回タイ・ベトナム・マレーシア・インドネ
シア大会では、成績は4位、試合数は6試合、勝利した数は2回、引き分けた数は3回、
負けた数は1回、得点数は 11 点、および失点数は7点である。2011 年開催の第 15 回カ
タール大会では、成績は優勝、試合数は6試合、勝利した数は4回、引き分けた数は2
回、負けた数は0回、得点数は 14 点、および失点数は6点である。
次に、累計記録を述べると、1988 年大会から 2011 年大会までの各項目の合計は、試
合数は 37 試合、勝利した数は 21 回、引き分けた数は 11 回、負けた数は5回、得点数は
72 点、および失点数は 37 点である。
最後に、1988 年大会から 2011 年大会までの得点数の合計を全大会通算試合数で割っ
た日本代表の1試合平均得点は 1.94 点、および同期間の失点数の合計を全大会通算試合
数で割ることで算出した1試合平均失点数は1点である。
表1から分かることは2つある。まず1つ目は、2000 年開催の第9回レバノン大会で
21 得点をあげて優勝して以降、2004 年大会で 13 得点、2007 年大会で 11 得点、および
2011 年大会で 14 得点と2桁得点を記録しているものの、得点数は減少傾向にあること
だ。ただし、2000 年大会、2004 年大会および 2011 年大会で優勝していることから、筆
者は、アジアでの日本代表のレベルが落ちてきているのではなく、対戦チームの守備力
(5)
北・西部(2012,132 ページ)を参照せよ。
7
が向上していると考えた。次に2つ目は、1試合当たりの平均得点である 1.94 点が、同
じく1試合当たりの平均失点数である1点と比べると、0.94 得点上回っていることだ。
これは、日本代表がアジアカップでは1試合平均当たり約1点差をつけて勝利している
ことを表している。この2つの特徴から分かった主なこととして、日本代表は、アジア
地域内では平均として1試合当たり約1点差をつけて勝利することができる能力を持っ
ているが、他の国の代表もレベルが高くなってきているため日本代表のさらなる得点力
の向上が急務であるという点である。
このように、アジア地域ではサッカー日本代表は強豪国であると考えることができる。
しかし、この表1だけでは、他国と比べてどれくらい得点力が高いかが分からないため、
以下では、AFC アジアカップ公式ホームページの資料を用いて、アジアカップ優勝経験
国の1試合当たりの平均得点と日本代表のそれを比較していく。
②アジアカップ優勝経験国
アジアカップ優勝経験国の
優勝経験国の1試合当たりの
試合当たりの平均得点
たりの平均得点の
平均得点のグラフから
グラフから分
から分かる特徴
かる特徴
図1は、AFC が公表している「TECHNICAL REPORT&STATISTICS」のデータを
参考に作成したものである。この図は、縦軸にアジアカップでの1試合当たりの平均得
点、横軸に左から日本代表、イラン代表、韓国代表、サウジアラビア代表、クウェート
代表、およびイラク代表の1試合当たりの平均得点を国別に表している。なぜ、アジア
カップ優勝経験国に限定したかというと、アジア地域には強豪国と呼ばれる国が日本代
表以外にもあるため、それらの中で日本代表の1試合当たりの平均得点が高いか否かを
調べることにより、アジアでの日本代表の得点力は高いと評価することができると考え
たからである。
(図1)アジアカップ優勝経験国の1試合当たりの平均得点
(出所)AFC 公式 HP,『http://www.the-afc.com/en/resources/resources-technical-reports』
(2012,12 月 17 日閲覧)。
8
ここで、図1のアジアカップ優勝経験国の1試合当たりの平均得点を見ていくと、日
本代表が 1.94 点、イラン代表が 1.93 点、韓国代表が 1.64 点、サウジアラビア代表 1.41
点、クウェート代表が 1.17 点およびイラク代表が 1.03 点となっている。
このように、日本代表の1試合当たりの平均得点数である 1.94 点は、2位であるイラ
ン代表の平均得点数である 1.93 点と比較すると 0.01 点という僅差ではあるものの、日本
以外の国で直近の大会に優勝したイラクと比べる約2倍となっており、アジアの中では
1番得点能力が高いと考えることができる。つまり、日本代表はアジアでは、得点力が
あると言える。
したがって、表1および図1の考察の結果から、日本代表は、
「アジアでは得点力があ
り強い日本代表」であると考えられる。次の(2)では、サッカー日本代表が、どのよ
うにしてアジアチャンピオンへの道を歩んで行ったかを、戦術面から述べていく。
(2)第1回大会から
回大会から第
から第 15 回大会までの
回大会までの戦術
までの戦術の
戦術の大きな移
きな移り変わり
ここでは、1956 年開催の第1回 AFC アジアカップ香港大会から 2011 年開催の第 15 回
AFC アジアカップカタール大会までの日本代表が、どのようにしてアジアの中でサッカー
強豪国に進化を遂げたかを明らかにするため、歴代日本代表監督が志向した戦術に焦点を
当てて、時系列に述べていく。
日本代表は、アジア最高の選手権であるアジアカップに初めて参加したのが 1968 年開
催の第4回大会からであり、その大会には日本代表の控えを中心にメンバーを構成したチ
ームで大会に臨んでいる(6)。また、その当時の日本代表の戦い方は、テクニックの面では
アジアも含めて外国には勝てないという考え方が前提にあったため、韓国や中東諸国との
試合では相手にボールを支配され、ゴールを必死に守りながら逆襲のカウンターを狙う戦
い方が中心であった。この戦術は、1980 年代前半まで続いていた。
しかし、その後、1970 年のワールドカップでのテクニック主体で華麗に戦っているブラ
ジル代表のテレビ放映に影響を受けて育った若手選手達が、日本代表に招集されるように
なったため、テクニックのレベルが高い画期的なチームが作られるようになってきた(7)。
そして、
(1)で述べたように、1992 年には、日本代表にとって初めてとなる外国人監督
のハンス・オフト氏が就任し、個性と能力はあるが、チームとして戦う力が欠如していた
日本代表に、分かりやすい用語(8)を使うことで戦術を浸透させ、戦術上の約束事を徹底さ
せることで組織力を向上させた。例えば、FW(9)から DF(10)までの距離を 40m 以内にして、
後藤(2007,255 ページ)を参照せよ。
後藤(2007,218 ページ)を参照せよ。
(8) 分かりやすい用語とは、代表的なものでは、パスをするときに目を合わせる「アイコンタクト」やパ
スコースを2つ作る「トライアングル」などがある(北・西部 2012,132 ページ)。
(9)
FW(Forward)とは、サッカーでのポジションの名称である。役割としては、主にフォーメーション
の最前列に位置し、得点を取ることである。
(10) DF(defense)とは、サッカーでのポジションの名称である。役割としては、主にフォーメーション
の最後尾に位置し、相手の攻撃を防ぐことである。
(6)
(7)
9
攻撃と守備との距離を縮めることを絶対的な決めごととすることで連係を容易にしたり、
常にボールを持った選手の前に2つのパスコースを作ることを徹底させたりした。この戦
術は、後に述べるが、パスを繋ぐサッカーを主体とする現在の日本代表の戦術の基礎とな
っていく。こうして、オフト監督は、コンパクトな陣形を作り、今まで統一されていなか
ったサッカー用語を分かりやすい言葉に置き換えて戦術を浸透させることで、受け身のリ
アクションサッカーから能動的で攻撃的なアクションサッカーへと変化を遂げた。そして、
試合の主導権を握った戦い方に進化した日本代表は、1992 年の 10 月 30 日に、オフト監
督が就任してわずか7か月でアジアカップ初優勝という快挙を成し遂げた。
それからの日本代表は、1966 年のアラブ首長国連邦大会ではベスト8止まりに終わった
ものの、2000 年に開催されたレバノン大会では、フランス人の監督であるフィリップ・ト
ルシエ監督が、パスサッカーを主体とする戦術に磨きをかけた攻撃的なサッカーで2度目
の優勝を決め(11)、2004 年の中国大会でも、ジーコ監督が組織立ったプレーの中に突出し
た個の力を組み合わせる戦術を取ることにより、アジアカップ連覇を達成した(12)。2007
年大会では、旧ユーゴスラビア(現ボスニア・ヘルツェゴビナ)出身のイビチャ・オシム
監督が、選手自身のアイデアを重視するとともに、運動量を求めることで、人もボールも
動く攻撃的な戦術を披露したが、相手に引かれて攻め崩せない場面も多く、4位に終わっ
た。しかし、直近の大会である 2011 年大会では、イタリア人のアルベルト・ザッケロー
ニ監督が指揮した日本代表は、カタールの監督に、
「日本はアジアのバルセロナ(13)だ。
」と
言わせるほどの技術とパスワークにより、アジアで最多の 4 度目の栄冠に輝いた。
このように、1980 年代前半までは、アジアでは相手チームにボールを支配され、カウン
ターを狙う守備的なサッカーであったサッカー日本代表は、1992 年以降、外国人監督を招
聘することで、世界基準の技術および戦術を取り入れ、さらにそれらを日本人に調和する
よう発展させた。そして、パスを回すことによりボール支配率(14)を高めて戦う攻撃的なサ
ッカースタイルへと変貌していったのである。次の(3)では、サッカー日本代表の現状
を調べるために直近の大会である 2011 年開催の第 15 回 AFC アジアカップカタール大会
に絞り、ボール支配率およびシュート数に焦点を当てて、アジアでのサッカー日本代表は、
ボールを支配して、積極的にゴールを狙う攻撃的なサッカーであることを明らかにしてい
く。
後藤(2007,338 ページ)を参照せよ。
後藤(2007,366 ページ)を参照せよ。
(13) バルセロナとは、1899 年に創設され、スペインカタルーニャ州・バルセロナに本拠地を置き、リー
ガ・エスパニョーラのプリメーラ・ディビジョン(1部)に所属するサッカークラブである。リーグ優
勝回数は 19 回および UEFA チャンピオンズリーグの優勝回数は3回を誇る(小澤 2010,11 ページ)
。
華麗なパスワークで展開されるスペクタルなサッカーは、スペイン国内に留まらず世界中のサッカーフ
ァンを魅了している。
(14) ボール支配率とは、チームがボールを支配している割合のことである。経過試合時間に対するボール
保有時間の割合を百分率で表している。ボール支配率が高いということは、チームのボールキープの時
間が長いということであり、すなわちパス回しやキープ力に優れたチームであると考えることができ
る。
(11)
(12)
10
(3)ボールを
ボールを支配する
支配する攻撃的
する攻撃的な
攻撃的なサッカー
ここでは、2011 年に開催された第 15 回 AFC アジアカップカタール大会での日本代表
に関する全試合のボール支配率およびシュート数を示した表から、日本代表は「アジアで
は、ボールを支配する攻撃的なサッカー」であることを明らかにしていきたい。なぜ第 15
回 AFC アジアカップカタール大会に限定するかというと、今大会はアジアで最大かつ最
新の大会であり、最近の日本代表のサッカーの傾向を顕著に表しているデータから現状を
明らかにできると考えたからである。
(図2)日本の 2011 年アジアカップでのシュート数とボール支配率
(出所)森本(2011)
,173 ページ(延長戦の集計は除いている)
。
上記の図2は、2011 年に開催された第 15 回 AFC アジアカップカタール大会のサッカ
ー日本代表が戦った全試合に関するボール支配率、シュート数およびそれらの平均値を表
したものである。図の見方としては、左側の縦軸では各試合で放ったシュートの本数を、
右側の縦軸ではボール支配率を、横軸では左から6つの項目が 2011 年のアジアカップで
戦った日本代表の相手の国名を、右から1つ目の項目が今大会での日本代表のボール支配
率およびシュート数の平均を表している。赤い折れ線グラフはボール支配率を、青い棒グ
ラフはシュート数を表している。
ここで、図2の左の項目から日本代表に関する 2011 年アジアカップでの各試合のシュ
ート数およびボール支配率を見ていく。グループリーグ第1戦のヨルダン戦は、ボール支
配率が 64.8%、およびシュート数が 18 本である。グループリーグ第2戦のシリア戦は、
11
ボール支配率が 60.5%、およびシュート数が 15 本である。グループリーグ第3戦のサウ
ジアラビア戦は、ボール支配率が 49.1%、およびシュート数が 13 本である。準々決勝の
カタール戦は、ボール支配率が 57.5%、およびシュート数が 11 本である。準決勝の韓国
戦は、ボール支配率が 55.4%、およびシュート数が 16 本である。決勝のオーストラリア
戦は、ボール支配率が 55.8%、およびシュート数が 13 本である。今大会での全試合の平
均は、ボール支配率が 57.2%、およびシュート数が 14.3 本である。
この図2から分かることは主に2つある。まず1つ目は、2011 年大会での日本代表のボ
ール支配率の平均が 57.2%と 50%を 7.2%超えていることである。ボール支配率が 50%
より高いということは、相手チームよりボールを支配している時間が長いと言える。つま
り、日本代表は、ボールキープ力およびパス回しが優れているチームであり、アジアでの
試合は主導権を握った試合をしていると言える。今大会では、日本のボール支配率が 50%
を超えた試合は、全6試合中5試合あり、唯一ボール支配率が 50%を下回った試合は、グ
ループリーグ第3戦のサウジアラビア戦だけである。なぜ、この試合だけボール支配率で
負けたのかというと、サウジアラビアの戦術は、日本と同様に、自ら主導権を掌握し、ボ
ール支配率を高めて得点を狙うチームであるため、日本はあえてボールを相手に持たせカ
ウンターを狙っていたからである。その作戦が見事に当たり、この試合は日本が5点を取
って大勝している。
次に2つ目は、シュート数の平均が 14.3 本と、各試合 10 本以上のシュートを打ち相手
ゴールを脅かしていることである。ここで、今大会での日本代表の1試合平均の 14.3 本と
いう数値が他国と比較して高いか否かを調べてみると、2011 年大会に出場した全 16 チー
ムの1試合平均のシュート数は 12.7 本であった(15)。今大会の平均と比較しても平均で 1.6
本とアジアでの他のチームより多くシュートを放っていることが分かる。すなわち、日本
代表が、積極的に得点を狙う攻撃的なサッカーであることを示している。
これらのことから、最近のサッカー日本代表はアジアでは、相手チームよりボールを支
配することで、シュートを打つ機会を増やし、積極的に得点を狙う攻撃的なサッカーを展
開していることが分かった。
上記の(1)
、
(2)および(3)を通して、サッカー日本代表は「アジアでは得点力が
あり、ボールを支配する攻撃的なサッカー」であることが示された。しかし、現在のサッ
カー日本代表の目標は、世界でトップ 10 のチームになることである(16)。アジアの頂点を
極めることは非常に意義のあることだが、それだけで満足してはならない。日本代表は、
世界チャンピオンを決める FIFA ワールドカップの舞台でこのような得点力があり、ボー
ル支配率の高い攻撃的なサッカーができているのだろうか。
次節では、サッカー日本代表の世界での現状を明らかにするために、FIFA ワールドカ
(15)
(16)
AFC 公式 HP(2013,1月 25 日閲覧)を参照せよ。
日本サッカー協会公式 HP(2013,1月 25 日閲覧)を参照せよ。
12
ップの第1回大会から現在までの大会成績と戦術という2つの視点から、サッカー日本代
表は「世界では得点力がなく、ボールを支配される守備的なサッカー」であることを示し
ていきたい。
2.FIFA ワールドカップに
ワールドカップに関する日本代表
する日本代表の
日本代表の成績と
成績と戦術
本節では、世界でのサッカー日本代表が、
「得点力がなく、ボールを支配される守備的な
サッカー」であることを明らかにする。そのために、
「
(1)FIFA ワールドカップの大会成
績」
、
「
(2)第1回大会から第 19 回大会までの戦術の移り変わり」および「
(3)ボールを
支配される守備的なサッカー」の3つに分けて、1936 年第1回大会から 2010 年第 19 回大
会までの FIFA ワールドカップでの日本代表に関する成績と戦術の変遷を、さらには世界の
強豪国の得点力などとの比較を通して、世界ではサッカー日本代表は「得点力がなく、ボ
ールを支配される守備的なサッカー」であることを示していく。
(1)FIFA ワールドカップの
ワールドカップの大会成績
ここでは、世界チャンピオンを決める FIFA ワールドカップの成績表およびワールドカ
ップ優勝経験国の1試合当たりの平均得点のグラフから、世界での日本代表の得点数に焦
点を当てて、
「世界では得点力がなく、弱い日本代表」であることを示していく。
以下では、①日本のワールドカップの成績から分かる特徴および②ワールドカップ優勝
経験国の1試合当たりの平均得点のグラフから分かる特徴という2つの項目に分け、日本
サッカーが世界では得点力が低いことを、日本代表のワールドカップでの成績表と、世界
のトップレベルである国々に関する1試合平均得点を日本のそれと比較して示していく。
①日本の
日本のワールドカップの
ワールドカップの成績から
成績から分
から分かる特徴
かる特徴
表2は、日本サッカー協会が公表している「試合別出場記録」のデータを参考に、FIFA
ワールドカップでの日本代表の大会成績を表にしたものである。なお、表の見方および
日本サッカー協会が公表している「試合別出場記録」のデータを使用した理由は、第1
節の(1)の①の「
(表1)AFC アジアカップでの日本代表の成績」と同じであるため省
略する。
13
(表2)FIFA ワールドカップでの日本代表の成績
回
開催年
開催国
成績
試合数
勝
分
負
得点
失点
1
1930
ウルグアイ
不参加
―
―
―
―
―
―
2
1934
イタリア王国
不参加
―
―
―
―
―
―
3
1938
フランス
不参加
―
―
―
―
―
―
4
1950
ブラジル
不参加
―
―
―
―
―
―
5
1954
スイス
予選敗退
―
―
―
―
―
―
6
1958
スウェーデン
不参加
―
―
―
―
―
―
7
1962
チリ
予選敗退
―
―
―
―
―
―
8
1966
イングランド
不参加
―
―
―
―
―
―
9
1970
メキシコ
予選敗退
―
―
―
―
―
―
10
1974
西ドイツ
予選敗退
―
―
―
―
―
―
11
1978
アルゼンチン
予選敗退
―
―
―
―
―
―
12
1982
スペイン
予選敗退
―
―
―
―
―
―
13
1986
メキシコ
予選敗退
―
―
―
―
―
―
14
1990
イタリア
予選敗退
―
―
―
―
―
―
15
1994
アメリカ
予選敗退
―
―
―
―
―
―
16
1998
フランス
グループリーグ敗退
3
0
0
3
1
4
17
2002
日本・韓国
ベスト 16
4
2
1
1
5
3
18
2006
ドイツ
グループリーグ敗退
3
0
1
2
2
7
19
2010
南アフリカ共和国
ベスト 16
4
2
1
1
4
2
―
合計
―
―
14
4
3
7
12
16
―
平均
―
―
―
―
―
―
0.85
1.14
(出所)日本サッカー協会 HP の「試合別出場記録」を参考に筆者が作成(日本サッカー
協会公式 HP,
『http://www.jfa.or.jp/archive/daihyo/daihyo/data/AGame.pdf』 (2013,1
月 19 日閲覧))
。
表2を時系列に見ていくと、日本代表は 1930 年に初めて開催された第1回大会から
1994 年の第 15 回大会までで FIFA ワールドカップに不参加、あるいは本大会に繋がる予
選で敗退していることが分かる。これは、第2次世界大戦などの戦争の影響により、サ
ッカーを行える環境ではなかったため、やむなく大会を棄権しなければならず、また、
累計9回もの予選敗退では、同じアジアのチームにあと一歩と迫るも惜敗し、本大会へ
の出場権を勝ち取れなかったからである。
本大会に初出場を決めたのは、1998 年に開催された第 16 回のフランス大会からであ
る。日本代表が初めてワールドカップの予選に出場をしてから、44 年目の年月が流れて
14
いた。フランス大会のグループリーグでは、アルゼンチン、クロアチアおよびジャマイ
カと対戦し、試合内容としては善戦であったものの、結果は3戦全敗となり、世界のト
ップクラスとの差を実感するほろ苦い経験となってしまった。しかし、日本は初めてこ
の大会で、世界トップレベルのサッカーを肌で感じることとなり、今後の目標が明確と
なる貴重な大会になったのである。その後、日本代表は 2002 年の日本と韓国の共同開催
大会、2006 年のドイツ大会および 2010 年の南アフリカ大会と4大会連続で本大会に出
場している(17)。
ここで、表2の 1930 年大会から 2010 年大会までの日本代表に関する試合数の欄より
右の各項目を見ていく。なぜ、この期間に絞ったかというと、日本代表が FIFA ワールド
カップに初出場したのが 1998 年大会以降からであり、かつ真剣勝負が繰り広げられる本
大会での成績に焦点を当てたいと考えたからである。
まず、各大会での成績を述べると、日本代表が本大会に初出場を決めた 1998 年開催の
第 16 回フランス大会では、成績がグループリーグ敗退、試合数は3試合、勝利した数は
0回、引き分けた数は0回、負けた数は3回、得点数は1点、および失点数は4点であ
る。2002 年大会開催の第 17 回日本・韓国大会では、成績はベスト 16、試合数は4試合、
勝利した数は2回、引き分けた数は1回、負けた数は1回、得点数は5点、および失点
数は3点である。2006 年開催の第 18 回ドイツ大会では、成績がグループリーグ敗退、
試合数は3試合、勝利した数は0回、引き分けた数は1回、負けた数は2回、得点数は
2点、および失点数は7点である。2010 年開催の第 19 回南アフリカ大会では、成績が
ベスト 16、試合数は4試合、勝利した数は2回、引き分けた数は1回、負けた数は1回、
得点数は4点、および失点数は2点である。
次に、累計記録を述べると、1998 年大会から 2010 年大会までの各項目の合計は、試
合数は 14 試合、勝利した数は4回、引き分けた数は3回、負けた数は7回、得点数は 12
点、および失点数は 16 点である。
最後に、1998 年大会から 2010 年大会までの得点数の合計を全大会通算試合数で割っ
た日本代表の1試合平均得点は 0.85 点、および同期間の失点数の合計を全大会通算試合
数で割ることで算出した1試合平均失点数は 1.14 点である。
表2から分かることは3つある。まず、1つ目は、ワールドカップでの日本代表の最
高成績が、2002 年日本・韓国大会および 2010 年南アフリカ大会に記録したベスト 16 で
あることだ。アジアチャンピオンを決める AFC アジアカップで優勝を4度も経験してい
る日本代表でさえ、ワールドカップではベスト 16 止まりということから、この大会のレ
ベルの高さが分かる。次に、2つ目は、日本がワールドカップの本大会に4回しか出場
していないことである。第1節の(1)の①の「
(表1)AFC アジアカップでの日本代表
の成績」では、日本代表はアジアカップに 1988 年大会から 2011 年大会までの合計 11
ただし、2002 年大会は、日本と韓国の共同開催で行われたため、開催国である日本代表は、アジア
地区予選が免除されている。
(17)
15
回連続で出場しており、それと比較すると7回分の差があり、ワールドカップでの日本
代表の歴史は浅い。しかし、ここまでの 15 年間は 1998 年の第 16 回フランス大会から
2010 年の第 19 回南アフリカ大会と連続で出場していることから、着実に日本のサッカ
ーは発展していると考えられる。最後に、3つ目は、1試合当たりの平均得点である 0.85
点が、1試合当たりの平均失点数である 1.14 点を 0.29 点下回っていることである。これ
は、ワールドカップでの日本代表は、平均としては1点も得点することができずに負け
ていることを表している。これらの3つの特徴から分かった主なこととして、日本代表
は、アジアカップよりレベルが高いワールドカップでは、新参者であり、相手チームが
世界クラスになると、1点を取ることが容易ではないという点である。
このように、世界ではサッカー日本代表の歴史は浅く、成長はしているものの、アジ
アカップのように約2点以上の得点を取ることは難しいことから、まだまだ世界ではサ
ッカーの点で見ると発展途上国であると言える。しかし、この表2だけでは、他国と比
べてどれくらい得点力が高いか否かが分からないため、以下では、FIFA の公式ホームペ
ージのデータを用いて、ワールドカップ優勝経験国の1試合当たりの平均得点と日本代
表のそれを比較していく。
②ワールドカップ優勝経験国
ワールドカップ優勝経験国の
優勝経験国の1試合当たりの
試合当たりの平均得点
たりの平均得点の
平均得点のグラフから
グラフから分
から分かる特徴
かる特徴
図3は、FIFA が公表している「Country statistics and records(18)」のデータを参考に
作成したものである。この図は、縦軸にワールドカップでの1試合当たりの平均得点、
横軸に左から優勝回数が多い順に、ブラジル代表、ドイツ代表、イタリア代表、アルゼ
ンチン代表、イングランド代表、スペイン代表、フランス代表、およびウルグアイ代表
と日本代表の1試合当たりの平均得点を国別に表している。なぜ、ワールドカップ優勝
経験国に絞ったかというと、日本代表もワールドカップに出場をしているからには優勝
を目指しているので、優勝経験国と比較することにより、世界のトップクラスの国々と
日本代表との1試合当たりの平均得点の差を把握できると考えたからである。
「Country statistics and records」とは、FIFA(Fédération Internationale de Football Association:
国際サッカー連盟)が第1回大会から第 19 回までの FIFA ワールドカップに関するデータを集計したデ
ータをいう(2013,1月 26 日閲覧)。
(18)
16
(図3)ワールドカップ優勝経験国および日本代表の1試合当たりの平均得点
(出所)FIFA 公式 HP の「Country statistics and records」を参考に筆者が作成(FIFA
公式
HP,
『http://www.fifa.com/worldfootball/statisticsandrecords/index.html』
(2013,
1月 25 日閲覧)
)
。
ここで、図3のワールドカップ優勝経験国と日本代表の1試合当たりの平均得点を表
の左から見ていくと、ブラジル代表が 2.16 点、ドイツ代表が 2.08 点、イタリア代表が
1.57 点、アルゼンチン代表が 1.75 点、イングランド代表が 1.3 点、スペイン代表が 1.57
点、フランス代表が 1.77 点、ウルグアイ代表が 1.61 点、および日本代表が 0.85 点であ
る。
このように、日本代表の1試合平均得点である 0.85 点は、ワールドカップでの優勝が
史上最多の5回を誇るブラジル代表の1試合平均得点である 2.16 点と比較すると、1.31
点と約 2.5 倍もの差がある。優勝経験国の中では最下位であるイングランド代表の 1.3 点
と日本代表の 0.85 点とを比較すると、0.45 点の差がある。一見大した差はないように考
えられるが、1試合に1点を取れるか取れないかの差は非常に大きい。つまり、日本代
表はワールドカップという世界の舞台では、得点力が著しく低いことが分かる。
したがって、
(表2)および(図3)を考察した結果から、日本代表は、「世界では得
点力が低く、発展途上である」と考えられる。次の(2)では、ワールドカップ初出場
となる 1998 年フランス大会から直近の大会である 2010 年南アフリカ大会までのサッカ
ー日本代表の軌跡を、戦術面から述べていく。
17
(2)第1回大会から
回大会から第
から第 19 回大会までの
回大会までの戦術
までの戦術の
戦術の大きな移
きな移り変わり
ここでは、1930 年開催の第1回ウルグアイ大会から 2010 年開催の第 19 回南アフリカ
大会までの日本代表が、どのような戦いを繰り広げてきたかを明らかにするために、歴代
日本代表監督が指揮した戦術に焦点を当てて、世界での日本代表の戦術の変遷を時系列に
述べていく。
日本代表は、世界最高峰のサッカーの大会である FIFA ワールドカップに初出場をした
のが、1998 年開催の第 16 回フランス大会からであり、日本代表のワールドカップでの歴
史は、たったの 15 年と浅い。日本代表の世界との戦いの始まりは、グループリーグ3戦
全敗という世界との差をまざまざと思い知らされる結果となった。フランス大会で指揮を
執っていた岡田武史監督は、守備面では海外選手の力強さや技術の高さを考慮して、守備
の人数を増やすことで相手の攻撃を止めようとし、攻撃面では海外の選手と比べてまだま
だ個人の力で劣るため、アジア予選で機能していたパス回しを用いて、組織としてのまと
まりによって得点を取ろうと考えていた。しかし、日本代表は守備面では健闘するも、攻
撃陣がグループリーグのジャマイカ戦での1点だけと不発に終わり、初めてのワールドカ
ップは幕を閉じた(19)。
2002 年の日本と韓国との共同開催で行われた第 17 回大会では、日本で初めて FIFA ワ
ールドカップが開催されるとあって、日本国民の注目度は非常に高く、スタジアムにはい
つも多くのサポーター(20)や観戦者が足を運んでいた。この大会では、2000 年のアジアカ
ップで日本代表を優勝に導いたフィリップ・トルシエ監督が、「フラット・スリー」と呼
ばれる独特の組織的な守備戦術を用いて注目を浴びた。攻撃面では、相手チームの選手に
対して、積極的にボールを奪いに行くことで、相手陣地の近い所でボールを奪い、そこか
らすぐに相手ゴールを狙う方法を使った。その方法で日本代表は、ワールドカップでは最
多となる7得点を記録して、初めてグループリーグを突破し、ベスト 16 という日本のサ
ッカー史に残る成績を収めたのである。
2006 年の第 18 回ドイツ大会で采配を振るったジーコ監督の戦術は、前監督であるフィ
リップ・トルシエ監督の組織的な戦術とは正反対であった。ジーコ監督の戦術は、細かい
決まりごとは作らず、戦術の細部は選手同士の話し合いに任せる自由放任主義的な形を取
っていた。具体的には、当時海外のサッカーチームで活躍をしていた選手を攻撃陣に選び、
一方の守備陣は日本国内でプレーする選手で構成していた。特に攻撃面では、海外で経験
を積んだ選手達の考えが重要視され、ジーコ監督からの直接の戦術的指示は少なかった。
結局、最後まで戦術は細部まで詰め切れず、曖昧な部分を残したまま本大会に臨んだため、
1998 年第 16 回フランス大会での日本代表のスコアは、グループリーグ第1戦のフランス戦が1対0、
グループリーグ第2戦のクロアチア戦が1対0、およびグループリーグ第3戦のジャマイカ戦が2対1
である。なお、スコアの数字は、前者が相手チームの得点、および後者が日本代表の得点を表してい
る。
(20)
サポーターとは、サッカーチームを応援する人達のことを指す。
(19)
18
グループリーグでは1勝もできずに敗退してしまった。
直近の大会である 2010 年南アフリカ大会では、1998 年大会でも日本代表の監督を務め
ていた岡田武史監督が日本代表を率いていた。岡田監督は、本来ボール支配率を高めるこ
とと積極的に相手ボールを奪いに行くことを軸にした攻撃的なサッカーを志向していた
が、本大会前の調整試合でその戦術が上手く機能せず、本大会では急きょ守備的なカウン
ターサッカーに変更した。元々日本人選手は、ボールを相手に取られてから自陣に戻る速
さ、および献身的な守備を得意としており、ごく短期間の戦術変更でも大きな混乱はなか
った(21)。本大会では、岡田監督の戦術転換が功を奏し、相手の攻撃を必死に止め、少ない
チャンスを得点に繋げる守備的なサッカーでグループリーグを見事突破し、海外で開催さ
れたワールドカップでは初めてとなるベスト 16 に輝いた。
このように、日本代表は、格上のチームが多いワールドカップでは、アジアでの攻撃的
なサッカーのままでは上位進出が難しいことを 1998 年大会、2002 年大会、および 2006
年大会から学んだため、最新のワールドカップでは、相手チームの攻撃に耐え、少ないチ
ャンスを得点に結びつける守備的なサッカーに活路を見出した。次の、(3)では、サッ
カー日本代表の現状を調べるために直近の大会である 2010 年開催の第 19 回 FIFA ワール
ドカップ南アフリカ大会に絞り、ボール支配率およびシュート数に焦点を当てて、世界で
のサッカー日本代表が、守備的なサッカーであることを明らかにしていく。
(3)ボールを
ボールを支配される
支配される守備的
される守備的な
守備的なサッカー
ここでは、2010 年に開催された第 19 回 FIFA ワールドカップ南アフリカ大会での日本
代表に関する全試合のボール支配率およびシュート数を示した表から、日本代表は、「世
界では、ボールを支配されている守備的なサッカー」であることを明らかにしていきたい。
なぜ、日本代表の戦術を述べる上で、第 19 回大会に限定するかというと、ワールドカ
ップでは第 19 回大会が最新の大会であるため、日本代表の現状をより明らかにできると
考えたからである。
(21)
北・西部(2012,156 ページ)を参照せよ。
19
(図4)日本の 2010 年ワールドカップでのシュート数とボール支配率
(出所)森本(2011)
,173 ページ(延長戦の集計は除いている)
。
上記の図4は、2010 年に開催された第 19 回 FIFA ワールドカップ南アフリカ大会のサ
ッカー日本代表が戦った全試合に関するボール支配率、シュート数およびそれらの平均値
を表したものである。図の見方としては、左側の縦軸では各試合で放ったシュートの本数
を、右側の縦軸ではボール支配率を、横軸では左から4つの項目が 2010 年のワールドカ
ップで戦った日本代表の相手の国名を、右から1つ目の項目が今大会での日本代表のボー
ル支配率およびシュート数の平均を表している。赤い折れ線グラフはボール支配率を、青
い棒グラフはシュート数を表している。
ここで、図4の左の項目から日本代表に関する 2010 年ワールドカップでの各試合のシ
ュート数およびボール支配率を見ていく。グループリーグ第1戦のカメルーン戦は、ボー
ル支配率が 44.1%、およびシュート数が 18 本である。グループリーグ第2戦のオランダ
戦は、ボール支配率が 38.7%、およびシュート数が 15 本である。グループリーグ第3戦
のデンマーク戦は、ボール支配率が 39.4%、およびシュート数が 13 本である。決勝トー
ナメント1回戦のパラグアイ戦は、ボール支配率が 37.6%、およびシュート数が 11 本で
ある。今大会での全試合の平均は、ボール支配率が 40.0%、およびシュート数が 10.5 本
である。
この図4から分かることは、主に2つある。まず、1つ目は、2010 年大会での全試合に
関する日本代表のボール支配率が、カメルーン戦(44.1%)
、オランダ戦(38.7%)
、デン
20
マーク戦(39.4%)
、およびパラグアイ戦(37.6%)のように、1度も 50%を超えていな
いことである。次に、2つ目は、シュート数の平均が 10.5 本と、各試合 10 本以上のシュ
ートを放っていることである。ここで、今大会での日本代表の1試合平均の 10.5 本という
数値が他国と比較して高いか否かを調べてみると、2010 年大会に出場した全チームの1試
合平均のシュート数は 14.1 本であった(22)。今大会の平均と比較しても 3.6 本と少なく、
世界では他のチームよりシュートを放っている数が少ないことが分かる。
これらのことから、サッカー日本代表は世界では、相手チームにボールを支配されるた
め、シュートを打つ機会が少なく、守備的なサッカーを強いられていることが分かった。
上記の(1)
、
(2)および(3)を通して、サッカー日本代表は「世界では得点力がな
く、ボールを支配される守備的なサッカー」であることが示された。次節では、第1節と
第2節で明らかになったサッカー日本代表の現状を、大会規模の違いから比較し、サッカ
ー日本代表の問題点を論じていく
3.戦術の
戦術の“衣替え
衣替え”による得点力
による得点力の
得点力の低下
本節では、サッカー日本代表が大会規模の違いから、得点力と戦術に関して相違点があ
ることを明らかにするため、第1節および第2節で得点力と戦術という2つの視点から抽
出した特徴を、アジアと世界という大会規模の違いから比較することで、
「アジアでは強い
が、世界では弱い日本代表」であることを示したい。
まず、第1節の(1)および第2節の(1)の2つを比較していく。なぜ、この2つを
比較するかというと、どちらも大会成績と1試合当たりの平均得点およびそれらの調査対
象がサッカー日本代表の数値であるが、アジアのチャンピオンを決める AFC アジアカップ
と世界のチャンピオンを決める FIFA アジアカップというそれぞれの大会規模が違うため、
2つの大会でのサッカー日本代表の相違点を明確にしたいと考えたからである。
AFC アジアカップでのサッカー日本代表の大会成績および1試合当たりの平均得点を述
べた第1節の(1)の①および②では、AFC アジアカップでのサッカー日本代表が、
「得点
力があり、優勝経験もある強いサッカー先進国」であると示され、一方、FIFA ワールドカ
ップのサッカー日本代表の大会成績および1試合当たりの平均得点を述べた第2節の(1)
の①および②では、FIFA ワールドカップのサッカー日本代表が、
「得点力がなく、最高成
績はベスト 16 であるサッカー発展途上国」であると示された。つまり、サッカー日本代表
は、
「アジア」という限定された地域では得点力があり、優勝するほどの強さを持っている
が、舞台を「世界」という広範囲から見ると、得点力は低い部類に入り、まだまだ成長す
る可能性があるサッカーチームと言える。すなわち、サッカー日本代表は世界から見ると
得点力が少ないため、世界でも通用する得点力が必要であると考えられる。
(22)
FIFA 公式
HP(2013,1月 28 日閲覧)を参照せよ。
21
次に、第1節の(2)と(3)、および第2節の(2)と(3)の4つを比較していく。
この4つを比較する理由は、前ページで第1節の(1)および第2節の(1)を比較した
理由と同じであるため省略する。
AFC アジアカップでのサッカー日本代表の戦術の変遷、ボール支配率およびシュート数
を述べた第1節の(2)および(3)では、AFC アジアカップでのサッカー日本代表が、
「守備的なカウンターサッカーから、ボール支配率を高め積極的にゴールを狙う攻撃的な
ポゼッションサッカーに変わった」ことが示され、一方、FIFA ワールドカップのサッカー
日本代表の戦術の変遷、ボール支配率およびシュート数を述べた第2節の(2)および(3)
では、FIFA ワールドカップのサッカー日本代表が、
「ボール支配率を高め積極的にゴール
を狙う攻撃的なポゼッションサッカーが通じず、守備的なカウンターサッカーを強いられ
ている」ことが示された。つまり、サッカー日本代表が得意としており、かつアジアで通
用している攻撃的な戦術が、世界では通用しないのである。
このように、大会規模によって得点力の高さおよび志向する戦術に相違点があることが
分かった。サッカー日本代表は、相手との力関係からアジアの戦いでは「攻撃的なポゼッ
ションサッカー」を装い、本大会になると「守備的なカウンターサッカー」に“衣替え”
せざるを得ない事態になることで、勝敗の行方を握る得点力が低下するという問題点を持
っているのである。
以上のように、本章では、サッカー日本代表の過去から現在までの AFC アジアカップお
よび FIFA ワールドカップの大会成績と戦術の変遷を踏まえた上で、得点および戦術面を大
会規模の違いから比較することで、
「戦術の“衣替え”による得点力の低下」という問題点
を明らかにしてきた。
筆者は、日本代表が 2010 年ワールドカップ南アフリカ大会での守備的なカウンターサッ
カーを用いて、2002 年の自国開催の大会以外では初めてとなるベスト 16 に勝ち進んだこ
とは快事であると思うが、これからもその戦術を志向し続ければ良いとするのは早計だと
考える。その理由は2つある。まず、1つ目は、自陣に引き、相手の攻撃を受けてからの
守備的なカウンターサッカーでは、体格で劣る日本代表(23)は、体格が良くてパワープレイ
を得意とする対戦相手に対して、カウンターを仕掛ける前に力だけでゴールを決められて
しまう可能性が高いからである。次に、2つ目は、図1および図3から分かるように、攻
撃的なポゼッションサッカーで戦った AFC アジアカップでの1試合当たりの平均得点と守
備的なカウンターサッカーで戦った FIFA ワールドカップでの1試合当たりの平均得点を
比較すると、後者の方が 1.09 点少ないからである。サッカーの本質であり、かつ魅力でも
あるゴールが取れないことには、ワールドカップでの上位進出、さらに優勝という目標は
夢幻に終わってしまう。つまり、筆者は、アジアで戦っている得点力が高い攻撃的なサッ
カーを世界の舞台でも披露すべきだと考える。そこで、次章では、現在、サッカーの頂点
(23)
村松(2010,5ページ)を参照せよ。
22
に君臨しているスペイン代表と日本代表とを、ゴールイン分析を通して比較することで共
通点と相違点を探し出し、サッカー日本代表の問題点を解決するための方法を探る。
Ⅲ.2010 年 FIFA ワールドカップの
ワールドカップのデータ比較
データ比較
第Ⅲ章では、2010 年ワールドカップ南アフリカ大会のゴールイン分析を通して、日本代
表およびスペイン代表の2チームを、
「(ⅰ)得点に至ったシュート地点別のシュート数」、
「(ⅱ)ファーストタッチ部位」、
「(ⅲ)シュートまでのタッチ数」、および「
(ⅳ)得点に
至ったシュート部位」の4つの項目で比較することによって、どのような方法を取れば日
本代表の得点力を向上させることができるかを検討する。
まず、第1節では、2010 年第 19 回南アフリカ大会で優勝したスペイン代表と日本代表
とを、平均身長から見る体格および戦術の視点を通して共通点を示していく。次に、第2
節では、2010 年のワールドカップ南アフリカ大会のスペイン代表および日本代表の全ゴー
ルを、上記で挙げた4つの分析項目を用いて、スペイン代表の得点シーンと日本代表の得
点シーンのゴールイン分析を行う。最後に、第3節では、ゴールイン分析によって明らか
になったスペイン代表および日本代表の得点シーンの特徴を整理し、比較して共通点およ
び相違点を明確にする。
以上の考察を通して、日本代表の課題である得点力不足解決への道を探していく。
1.スペイン代表
スペイン代表と
代表と日本代表の
日本代表の共通点
本節では、
「(1)小さな世界王者」
、および「(2)王者の戦術」の2つに分けて、体格
および戦術の視点から、世界王者であるスペイン代表と日本代表の類似点を平均身長、平
均体重、および両国の現在の戦術を比較することで明らかにする。なぜ、この2つの視点
に焦点を当てたかというと、まず、前者では体と体が直接ぶつかり合うサッカーでは、一
般的に体格が良い方が有利と言われる中で、平均身長および平均体重から、世界王者と日
本代表を比較したいと考えたからである。次に、後者を挙げた理由は、ワールドカップを
制したスペイン代表の戦術と日本代表の戦術を比較することで、共通点を明らかにしたい
と考えたからである。
まず、
「
(1)小さな世界王者」では、2010 年ワールドカップ南アフリカ大会のスペイン
代表および日本代表の平均身長を示し、世界王者と日本代表の体格面から見た共通点を示
す。次に、
「
(2)王者の戦術」では、スペイン代表が現在の戦術に至るまでの経緯を述べ、
その戦術が、日本代表がアジアで志向しているサッカーと共通していることを示す。
これらを通して、スペイン代表を日本代表と比較する対象とした理由を述べていく。
23
(1)小さな世界王者
さな世界王者
ここでは、2010 年ワールドカップ南アフリカ大会で優勝したスペイン代表と日本代表の
身体的な特徴を分析することで、世界のトップレベルに位置するスペインと、まだ世界の
サッカーでは特筆すべき実績を残していない日本との共通点を探す。
(表3)2010 年ワールドカップ南アフリカ大会でのスペイン代表と日本代表の体格比較
国名
平均身長(cm)
平均体重(kg)
スペイン
177
73
日本
179
74
(出所)FIFA 公式 HP の「Country statistics and records」を参考に筆者が作成(FIFA
公式 HP,
『http://www.fifa.com/worldfootball/statisticsandrecords/index.html』
(2013,
1月 29 日閲覧)
)
。
上記の表3は、2010 年に開催されたワールドカップ南アフリカ大会でのスペイン代表と
日本代表の平均身長と平均体重を表したものである。この表の見方としては、横軸が表3
の左の列から、国名、平均身長、および平均体重を示しており、縦軸の国名が上からスペ
インおよび日本という順番になっている。
表3を見ると、まず、スペインの平均身長は 177cm、および平均体重は 73kg である。
次に、日本の平均身長は 179cm、および平均体重は 74kg である。
この表3から分かることは主に2つある。まず、1つ目は、スペイン代表と日本代表の
平均身長を比較すると、日本代表の方が2cm 高いことが分かる。次に、2つ目は、スペ
イン代表と日本代表の平均体重を比較すると、日本代表の方が1kg 重いことが分かる。こ
のように、2010 年のワールドカップ南アフリカ大会を制した王者スペイン代表と日本代表
を比べると、体格面に関しては、ほとんど差がないと考えることもできるが、むしろ、サ
ッカーに関して一般的には日本代表の方が体格面では有利であるとさえ考えられる。つま
り、ワールドカップ王者であるスペイン代表と日本代表は体格という点では、ほとんど変
わらないのである。
以上のことから、日本代表は、世界王者であるスペインと体格面を比較すると、平均身
長および平均体重が似ているという共通点が明らかになった。
(2)王者の
王者の戦術
ここでは、スペイン代表が現在の戦術に至るまでの経緯を示し、それから 2010 年ワー
ルドカップ南アフリカ大会でスペイン代表が取った戦術を説明することで、スペイン代表
の戦術が、日本代表がアジアで志向している攻撃的なポゼッションサッカーと共通点が多
いことを示していく。
24
以下では、
「①新たな戦術の確立期」
、および「②戦術の成熟期」の2つに分けてスペイ
ン代表の戦術の変遷と特徴を述べていく。
①新たな戦術
たな戦術の
戦術の確立期
スペインは古くから、華麗なパスワークを用いたボールポゼッションに加え、スピー
ドと突破力を駆使したサイド攻撃を特徴としている。特に、両サイドに配置されたドリ
ブル突破を得意とするサイドアタッカーは、そうした戦術を体現するための不可欠な選
手と考えられている。しかし、2006 年のワールドカップドイツ大会でスペイン代表を率
いたルイス・アラゴネス監督は、それまでのスタイルに変革をもたらそうとした。具体
的には、両サイドにウィンガー(24)を配置していた従来のスタイルからの脱却を図った。
なぜ、ルイス・アラゴネス監督が従来のスタイルから脱却を図ったかというと、スペイ
ンの国内リーグであるリーガ・エスパニョーラで、FC バルセロナが右利きの選手を左サ
イドに、また、左利きの選手を右サイドに配置させ、その選手がドリブルで中央へ切れ
込み、それぞれの利き足でシュートを放つ「外から中へ」という戦術を確立させていた
こともあり、その影響を受けたからである。スペイン代表は古くからある華麗なパスワ
ークを基本とするポゼッションサッカーを貫いてボール支配率を高め、
「外から中へ」と
いう流動的な動きの中で生まれたサイドのスペースを両サイドバックが有効に使うこと
で、グラウンド全体のスペースを有効に活用するようになった。ことにつながり、そし
て、この戦術が接触プレーを回避することにつながり、体格差を埋める非常に効果的な
方法となった。しかし、この新しいスタイルが定着しないまま 2006 年のワールドカップ
を迎えてしまったため、結果的にこの試みは失敗に終わってしまったのである。
②戦術の
戦術の成熟期
2006 年のワールドカップドイツ大会終了後も続投したルイス・アラゴネス監督は、
2006 年9月からスタートしたヨーロッパのチャンピオンを決める EURO2008 予選の 12
試合を 2006 年のワールドカップドイツ大会と同じメンバーで戦い抜いた。スペイン代表
は、大きな故障離脱者を出すこともなく、約2年間の予選を通じてじっくりとチームを
作り上げた。そして、2006 年のワールドカップドイツ大会で未完成であった戦術を完成
させていった。こうして、新たなスタイルを確立し、さらに成熟させたスペイン代表は、
EURO2008 の決勝戦でドイツを破り、44 年ぶり2度目の欧州王座に輝いたのである。
また、スペイン代表は、常に攻撃的に戦いながら、相手のカウンター攻撃を受けるリ
スクを排除する手段を持っていた。その手段とは、あくまで相手の陣地に近い位置での
ボールポゼッションを目指しながら、相手にボールを奪われても即座に奪い返す切り替
えの速さを追求する手段のことである。攻撃から守備への切り替えを速くすることで、
ウィンガーとは、サッカーのポジションの名称である。主な役割としては、サイドを突破しクロスを
あげるか、ドリブルでサイドから中へ切れ込みシュートを放つなど、攻撃的な役割を担っている。
(24)
25
相手陣地に近いところでプレーするが故に生まれる自陣のスペースを相手に使わせない
ようにした。
EURO2008 を優勝したルイス・アラゴネス監督を引き継いだビセンテ・デル・ボスケ
監督も同様に、スペイン伝統の攻撃的なポゼッションサッカーのスピードおよび精度を
高めることでスペイン代表を成長させていった。その結果、2010 年ワールドカップ南ア
フリカ大会では、スペイン史上初めてとなる優勝に輝いたのである。
以上のことから、スペイン代表は、古くから華麗なパスワークを用いた攻撃的なボール
ポゼッションを志向しており、本論の第Ⅱ章の第1節の(2)で述べた日本代表がアジア
での試合で用いるボール支配率を高めて、主導権を握って戦う点と共通していることが分
かる。
2.日本代表と
日本代表とスペイン代表
スペイン代表の
代表のゴールイン分析
ゴールイン分析
本節では、ゴールイン分析という分析方法を説明し、その後、実際にスペイン代表と日
本代表のゴールイン分析を行った結果を示していく。まず、「(1)分析方法」では、本論
で行うゴールイン分析の方法を説明する。次に、
「
(2)スペイン代表の分析」では、
(1)
で示した分析方法に沿って分析したスペイン代表の結果を示していく。最後に、「
(3)日
本代表のゴールイン分析」では、
(2)と同様に、
(1)の分析方法を用いて分析した日本
代表の結果を述べる。
以上を通して、本論で行うゴールイン分析の方法を述べ、実際に分析を行った結果を論
じていく。
(1)分析方法
ここでは、得点シーンに焦点を当てて、スペイン代表と日本代表を比較するためのゴー
ルイン分析に関する分析方法を示していく。なぜ、得点シーンに焦点を当てたかというと、
サッカーにとってゴールとは、勝敗を決るための重要な要素であり、かつサッカーの魅力
そのものであり、第Ⅱ章の第3節で述べたように、日本代表の「戦術の“衣替え”による
得点力の低下」という問題点を解決する糸口となるからである。
①対象とした
対象とした得点
とした得点
2010 年第 19 回ワールドカップ南アフリカ大会でのスペイン代表が記録した8点およ
び日本代表が記録した4点を対象とした。なお、この中には直接的および間接的なセッ
トプレーを含んでいる。
26
②調査方法
本論のゴールイン分析には、2010 年第 19 回ワールドカップ南アフリカ大会での得点
に至ったスペイン代表の全ゴール場面を集めた DVD である「2010 FIFA ワールドカッ
プ南アフリカオフィシャル DVD―スペイン代表 栄光への軌跡―」日本代表の全ゴール
場面を集めた DVD である「2010 FIFA ワールドカップ南アフリカオフィシャル DVD
―日本代表
熱き戦いの記録―」を用いた。調査の際は、後述する4つの項目ごとに、
DVD の再生画像を筆者自身が単独で何度も見返しながら分析した。
③分析項目
本論で収集するデータの分析項目は、
「(ⅰ)得点に至ったシュート地点別のシュート
数」、「
(ⅱ)ファーストタッチ部位」、
「(ⅲ)シュートまでのタッチ数」、および「(ⅳ)
得点に至ったシュート部位」の4項目である。今回、この4つの項目を採用した理由は、
多角的な視点から得点を分析できると考えたからである。
以下では、上記4つの項目が、それぞれ何を意味するかを示すことにする。
(ⅰ)得点に
得点に至ったシュート
ったシュート地点
シュート数
シュート地点別
地点別のシュート数
得点に至ったシュート地点別のシュート数とは、得点に至ったシュートをグランドの
グリッド別に本数を表したものである。
(ⅱ)ファーストタッチ部位
ファーストタッチ部位
ファーストタッチ部位とは、1タッチシュートを除き、得点に至ったシュートのファ
ーストタッチの部位を表したものである。
(ⅲ)シュートまでの
シュートまでのタッチ
までのタッチ数
タッチ数
シュートまでのタッチ数とは、得点に至ったシュートまでにボールをタッチした回数
を表したものである。直接得点に至ったフリーキック、コーナーキック、PK、および画
像からの判別が難しいものは不明とする。
(ⅳ)得点に
得点に至ったシュート
ったシュート部位
シュート部位
得点に至ったシュート部位とは、得点に至った際に使用した部位を表したものである。
本論で定めるシュート部位は主に5つあり、ヘディング、インステップ、インサイド、
アウトサイド、およびその他である。
以上が、ゴールイン分析を行うための方法である。これら4つの項目によって、本論で
は、スペイン代表および日本代表のゴールイン分析を行っていく。
27
(2)スペイン代表
スペイン代表の
代表の分析
ここでは、上記(1)で挙げた4つの項目を通して、2010 年のワールドカップ南アフリ
カ大会でのスペイン代表の合計8点の得点シーンを分析していく。
(ⅰ)得点に
得点に至ったシュート
ったシュート地点別
シュート地点別の
地点別のシュート数
シュート数
(図5)2010 年ワールドカップでのスペイン代表の全得点のシュート位置と本数
2
1本
1
6本
1本
ゴール
a
b
c
d
e
図5は、2010 年ワールドカップでのスペイン代表の全得点のシュート位置と本数を表
したものである。また、この図は得点に至ったシュート位置を簡単かつ視覚的に把握す
るために、ペナルティーエリアおよびゴールエリアを作成し、さらにシュート位置を計
測しやすいように、破線で9つのグリッドに分け、筆者が作成したものである。縦軸は
ピッチを縦に1および2の2つに分け、横軸は a,b,c,d,および e の5つに5分割し
た。図の見方としては、例えば、上記の図5の青く丸い枠線で囲まれて6本と示されて
いる場所は、1-c と表される。つまり、1-c では、得点に至ったシュートが6本と言
える。
ここで、2010 年ワールドカップでのスペイン代表の全8得点のシュート位置と本数を
見ていくと、1-a では0本、1-b では0本、1-c では6本、1-d では0本、1‐e
では0本、2-a では0本、2-b では0本、2-c では1本、2-d では0本、および
2-e では1本である。
以上のことから、1-c の6本が、スペイン代表の合計8点のうちの 75%と、大部分
を占めていることが分かる。つまり、ゴールの正面であり、また2-c よりゴールに近い
1-c は得点しやすいと考えることができる。
28
(ⅱ)ファーストタッチ部位
ファーストタッチ部位
(表4)2010 年ワールドカップでのスペイン代表の得点に至ったシュートのファーストタッチ部位
部位
回
割合(%)
ヘディング
0
0
インステップ
0
0
インサイド
4
100
アウトサイド
0
0
不明
0
0
表4は、2010 年ワールドカップでのスペイン代表の得点に至ったシュートのファース
トタッチ部位を表したものである。ただし、1タッチシュートは除いている。縦軸には
ヘディング、インステップ、インサイド、アウトサイド、および不明のファーストタッ
チの部位の名前を示しており、横軸は左から部位、回数、および割合が並んでいる。
ここで、2010 年ワールドカップでのスペイン代表の得点に至ったシュートのファース
トタッチ部位を見ていくと、ヘディングでのファーストタッチ回数は0回で0%、イン
ステップでのファーストタッチ回数は0回で0%、インサイドでのファーストタッチ回
数は4回で 100%、アウトサイドでのファーストタッチ回数は0回で0%、および不明は
0回で0%である。
以上のことから、今回の分析に関しては、2010 年ワールドカップでのスペイン代表の
得点に至ったシュートのファーストタッチ部位は全てインサイドであることが分かった。
ここからは、守備側の選手にボールを奪われないために、正確なボールコントロールに
対する意識および次のプレーに対して素早く移行しようとする意図が読み取れる。
(ⅲ)シュートまでの
シュートまでのタッチ
までのタッチ数
タッチ数
(表5)2010 年ワールドカップでのスペイン代表の得点に至るまでのタッチ数
タッチ数
得点
1
点
%
2
点
3
%
点
%
4
点
5
%
点
ドリブル
%
点
%
備考
不明
点
%
PK:0
8
3
37.5
2
25
1
12.5
0
0
0
0
1
12.5
0
0
FK:0
CK:1
表5は、2010 年ワールドカップでのスペイン代表の得点に至るまでのタッチ数を表し
たものである。この項目では、6回以上のタッチ回数をドリブルとし、また PK、FK(フ
29
リーキック)
、および CK(コーナーキック)などのセットプレーで直接ゴールが決まっ
たものは除くことにしている。縦軸には全得点が示されており、横軸には得点、タッチ
数、および備考を記載し、さらにタッチ数に関しては横軸にタッチ数が1回、2回、3
回、4回、5回、ドリブル、および不明が並んでおり、その下の行には、タッチ数ごと
に得点数および全得点数に対する割合が示されている。また、表の1番右の備考では、
この項目では省かれる PK、FK、および CK の回数が表記されている。
ここで、2010 年ワールドカップでのスペイン代表の得点に至るまでのタッチ数を見て
みると、タッチ数が1回の時では3点で 37.5%、タッチ数が2回の時では2点で 25%、
タッチ数が3回の時は1点で 12.5%、タッチ数が4回の時は0点で0%、タッチ数が5
回の時は0点で0%、ドリブルの時では1点で 12.5%、および不明は0点で0%である。
以上のことから、2010 年ワールドカップでのスペイン代表の得点に至るまでのタッチ
数では、1タッチで放ったシュートが全得点の8点中3点と、全得点の 37.5%を占めて
おり、1番多いことが分かる。また、その後に2タッチシュートが2点で 25 パーセント
および3タッチシュートが1点で 12.5%と、タッチの回数が増えるごとに得点数が下が
ってきていることが分かった。つまり、手数を掛けずに少ないタッチ回数でシュートを
放つことが、得点する機会を増やすことにつながると考えられる。
(ⅳ)得点に
得点に至ったシュート
ったシュート部位
シュート部位
(表6)2010 年ワールドカップでのスペイン代表の得点に至ったシュート部位
シュート部位
点
割合(%)
ヘディング
1
12.5
インステップ
3
37.5
インサイド
4
50
アウトサイド
0
0
その他
0
0
表6は、2010 年ワールドカップでのスペイン代表の得点に至ったシュート部位を表し
たものである。縦軸に、シュート部位であるヘディング、インステップ、インサイド、
アウトサイド、およびその他が並び、横軸にシュート部位、点、割合が示されている。
ここで、2010 年ワールドカップでのスペイン代表の得点に至ったシュート部位を見て
いくと、ヘディングが1点で 12.5%、インステップが3点で 37.5%、インサイドが4点
で 50%、アウトサイドが0点で0%、およびその他が 0 点で0%である。
以上のことから、スペイン代表の得点はインサイドが全得点の 50%を占め、インステ
ップの割合も 37.5%と高く、主にこの2つの部位でシュートを放っていることが分かる。
つまり、得点を取るには、
(ⅰ)のシュート地点からも分かるように、ゴール正面の位置
30
からのシュートが最も多いことと、相手のゴールキーパーのポジショニングにもよるが、
スピードおよびコースへの精度を伴った部位が良いと考えられる。
以上が、
(1)で挙げた4つの項目を通して、2010 年のワールドカップ南アフリカ大会
でのスペイン代表の合計8点の得点シーンを分析した結果である。次に、同じ測定項目
および同時期の日本代表のデータを用いて、日本代表のゴールイン分析を行っていく。
(3)日本代表の
日本代表の分析
ここでは、上記(1)で挙げた4つの項目を通して、2010 年のワールドカップ南アフリ
カ大会での日本代表の合計4点の得点シーンを分析していく。
(ⅰ)得点に
得点に至ったシュート
ったシュート地点別
シュート数
シュート地点別の
地点別のシュート数
(図6)2010 年ワールドカップでの日本代表の全得点のシュート位置と本数
2
1本
1本
1
2本
ゴール
a
b
c
d
e
図6は、2010 年ワールドカップでの日本代表の全得点のシュート位置を表したもので
ある。また、図の説明および図の見方は(2)の(ⅰ)と同じであるため省略する。
ここで、2010 年ワールドカップでの日本代表の全4得点のシュート位置と本数を見て
いくと、1-a では0本、1-b では0本、1-c では2本、1-d では0本、1-e では
0本、2-a では1本、2-b では0本、2-c では1本、2-d では0本、および2-e
では0本である。ちなみに、2-a および2-c の得点は、ともにフリーキックの得点で
ある。
以上のことから、日本代表の得点に至ったシュート位置で最も多い場所が、1-c であ
ることが分かる。つまり、ゴールの正面からシュートを放つことが得点しやすいと考え
られる。
31
(ⅱ)ファーストタッチ部位
ファーストタッチ部位
(表7)2010 年ワールドカップでの日本代表の得点に至ったシュートのファーストタッチ部位
部位
回
割合(%)
ヘディング
0
0
インステップ
0
0
インサイド
2
100
アウトサイド
0
0
不明
0
0
表7は、2010 年ワールドカップでの日本代表の得点に至ったシュートのファーストタ
ッチ部位を表したものである。ただし、1タッチシュートは除いている。表の見方は、
(2)
の(ⅱ)と同じであるため省略する。
ここで、2010 年ワールドカップでの日本代表の得点に至ったシュートのファーストタ
ッチ部位を見ていくと、ヘディングでのファーストタッチ回数は0回で0%、インステ
ップでのファーストタッチ回数は0回で0%、インサイドでのファーストタッチ回数は
2回で 100%、アウトサイドでのファーストタッチ回数は0回で0%、および不明は0回
で0%である。
以上のことから、今回の分析に関しては、2010 年ワールドカップでの日本代表の得点
に至ったシュートのファーストタッチ部位は全てインサイドであることが分かった。
(ⅲ
ⅲ)シュートまでの
シュートまでのタッチ
までのタッチ数
タッチ数
(表8)2010 年ワールドカップでの日本代表の得点に至るまでのタッチ数
タッチ数
得点
1
点
2
%
点
3
%
点
4
%
点
5
%
点
ドリブル
%
点
%
備考
不明
点
%
PK:0
4
0
0
1
25
1
25
0
0
0
0
0
0
0
0
FK:2
CK:0
表8は、2010 年ワールドカップでの日本代表の得点に至るまでのタッチ数を表したも
のである。この項目では、6回以上のタッチ回数をドリブルとし、また PK、FK(フリ
ーキック)
、および CK(コーナーキック)などのセットプレーで直接ゴールが決まった
ものは除くことにしている。また、この表の見方は、
(2)の(ⅲ)と同じであるため省
略する。
32
ここで、2010 年ワールドカップでの日本代表の得点に至るまでのタッチ数を見ていく
と、タッチ数が1回の時では0点で0%、タッチ数が2回の時では1点で 25%、タッチ
数が3回の時は1点で 25%、タッチ数が4回の時は0点で0%、タッチ数が5回の時は
0点で0%、ドリブルの時では0点で0%、および不明は0点で0%である。
以上のことから、日本代表は2タッチおよび3タッチとしっかりとボールをコントロ
ールしてから、確実にゴールを決めようとしていると考えることができる。また、日本
代表の全得点の半分をフリーキックが占めていることも特徴的である。
(ⅳ)得点に
得点に至ったシュート
ったシュート部位
シュート部位
(表9)2010 年ワールドカップでの日本代表の得点に至ったシュート部位
シュート部位
点
割合(%)
ヘディング
0
0
インステップ
1
25
インサイド
3
75
アウトサイド
0
0
その他
0
0
表9は、2010 年ワールドカップでの日本代表の得点に至ったシュート部位を表したも
のである。表の見方は、
(2)の(ⅳ)と同じであるため省略する。
ここで、2010 年ワールドカップでの日本代表の得点に至ったシュート部位を見ていく
と、ヘディングが0点で0%、インステップが1点で 25%、インサイドが3点で 75%、
アウトサイドが0点で0%、およびその他が0点で0%である。
以上のことから、2010 年ワールドカップでの日本代表の得点の 75%が、インサイドキ
ックであることから、精度を高めてシュートを放っていることが分かる。
以上が(1)で挙げた4つの項目を通して、2010 年のワールドカップ南アフリカ大会で
の日本代表の合計4点の得点シーンを分析した結果である。次節では、2010 年ワールドカ
ップでのスペイン代表および日本代表のゴールイン分析を行うことで明らかになった得点
に関する特徴を整理し、世界王者スペイン代表と日本代表の差を明確にすることで、その
差を埋めるにはどうすればよいかを考えていく。
3.得点力不足解決への
得点力不足解決への扉
への扉
本節では、世界王者スペイン代表と日本代表のゴールイン分析を行って明確になった差
を整理し、比較することを通して、その差を埋めるにはどうすればよいかを考えていく。
まず、「
(1)ゴールイン分析から抽出された特徴の整理」では、第2節で明らかになった
33
スペイン代表と日本代表のゴールイン分析のそれぞれの特徴を整理し、比較する。次に、
「(2)得点力向上のための提案」では、ゴールイン分析によって明確になった特徴から、
今後日本代表が得点力不足解決のために、意識しなければならない重要な点を示していく。
以上を通して、ゴールイン分析から導き出された得点力不足解決への方法を検討してい
く。
(1)ゴールイン分析
ゴールイン分析から
分析から抽出
から抽出された
抽出された特徴
された特徴の
特徴の整理
ここでは、第2節で明らかになったスペイン代表と日本代表のゴールイン分析の特徴を
整理し、得点という視点から、
「
(ⅰ)得点に至ったシュート地点別のシュート数」
、
「
(ⅱ)
ファーストタッチ部位」、
「(ⅲ)シュートまでのタッチ数」、および「(ⅳ)得点に至った
シュート部位」の4項目ごとに比較することで、共通点および相違点を示していく。
まず、スペイン代表の 2010 年ワールドカップで生まれた合計8点の得点シーンの分析
では、以下のような特徴が目についた。
(ⅰ)得点に
得点に至ったシュート
ったシュート地点別
シュート数
シュート地点別の
地点別のシュート数
得点に至ったシュート地点別のシュート数では、図5のゴール正面の場所である1-c
の6本が、スペイン代表の合計8点のうちの大部分である 75%を占めている。つまり、
ゴールの正面でシュートを放つことによって得点しやすい要素であると考えることがで
きる。
(ⅱ)ファーストタッチ部位
ファーストタッチ部位
得点に至ったファーストタッチ部位では、スペイン代表の得点に至ったシュートのフ
ァーストタッチ部位は全てインサイドであった。これは守備側の選手にボールを奪われ
ず、より正確なボールコントロールと、次のプレーに対して素早く移行しようとする意
図が読み取れる。
(ⅲ)シュートまでの
シュートまでのタッチ
までのタッチ数
タッチ数
得点に至るまでのタッチ数では、スペイン代表の全8点のうちの 37.5%を占める3点
が、1タッチで放ったシュートが1番多い。また、その後に2タッチシュートが2点で
25 パーセントおよび3タッチシュートが1点で 12.5%とタッチの回数が増えるごとに得
点数が下がってきていることが分かった。つまり、手数を掛けずに少ないタッチ回数で
シュートを放つことが、得点する機会を増やすことができると考えられる。
34
(ⅳ)得点に
得点に至ったシュート
ったシュート部位
シュート部位
得点に至ったシュート部位では、スペイン代表の得点はスピードおよびコースへの精
度を伴ったインサイドが全得点の 50%を占めるとともに、インステップの割合も 37.5%
と高く、主にこの2つの部位で得点をしている。
次に、
日本代表の 2010 年ワールドカップで生まれた合計4点の得点シーンの分析では、
以下のような特徴が目についた。
(ⅰ)得点に
得点に至ったシュート
ったシュート地点別
シュート地点別の
地点別のシュート数
シュート数
得点に至ったシュート地点別のシュート数では、日本代表は、全4点のうちの 50%を
占める2点をゴール正面である図5の1-c で決めている。
(ⅱ)ファーストタッチ部位
ファーストタッチ部位
得点に至ったファーストタッチ部位では、日本代表の得点に至ったシュートのファー
ストタッチ部位は全てインサイドであった。
(ⅲ)シュートまでの
シュートまでのタッチ
までのタッチ数
タッチ数
得点に至るまでのタッチ数では、日本代表の全4点を占める2点は、2タッチおよび
3タッチとボールをコントロールしてから確実にゴールを決めようとしていると考えら
れるものである。残りの2点は、フリーキックで得点している。
(ⅳ)得点に
得点に至ったシュート
ったシュート部位
シュート部位
得点に至ったシュート部位では、日本代表の得点は、精度を高めてシュートを放つこ
とができるインサイドキックでの得点が、全得点の 75%と大部分を占めている。
以上が、スペイン代表と日本代表のゴールイン分析によって明らかになった4つの項目
に対するそれぞれの特徴である。ここからは、ゴールイン分析で示されたスペイン代表お
よび日本代表の特徴を、4つの項目ごとに比較しながら、共通点と相違点を述べていく。
まず、
(ⅰ)に関しては、スペイン代表はゴール正面での得点が最も多く、日本代表も
ゴール正面での得点が最も多いので、共通点としてあげることができる。次に、(ⅱ)に
関しては、スペイン代表は全てインサイドでのファーストタッチをしてから得点しており、
日本代表も全てインサイドでのファーストタッチをしてから得点しているので、これも共
通点としてあげることができる。そして、(ⅲ)に関しては、スペイン代表はインサイド
で得点する割合が高く、日本代表もインサイドで得点する割合が高いので、
(ⅰ)と(ⅱ)
に同じく、共通点としてあげることができる。最後に、(ⅳ)に関しては、スペイン代表
35
は1タッチで得点している割合が最も多いが、日本代表は2タッチおよび3タッチで得点
しているので、この点が相違点としてあげることができる。
以上のことから、4つの分析項目を用いて、2010 年のワールドカップでのスペイン代表
と日本代表のゴールイン分析から得た結果を比較すると、3つの共通点と1つの相違点が
明らかになった。次の「
(2)得点力向上のための考察」では、ゴールイン分析から明らか
になったスペイン代表と日本代表の相違点に焦点を当てて、筆者の経験も踏まえて得点力
向上のための考察としたい。
(2)得点力向上のための
得点力向上のための考察
のための考察
ここでは、これまでの話を踏まえて、日本代表の得点力不足解決の方法を考えた時に、
どのような方法があるかを述べていく。
前述したように、2010 年のワールドカップでのスペイン代表と日本代表のゴールイン分
析から、3つの共通点と1つの相違点が明らかになった。3つの共通点のうちのまず、1
つ目が、得点に至ったシュート地点別のシュート数では、スペイン代表および日本代表と
もに、ゴール正面での得点が最も多い点である。次に、2つ目が、得点に至ったファース
トタッチ部位では、スペイン代表および日本代表ともに、全てインサイドでのファースト
タッチをしてから得点している点である。そして、3つ目が、得点に至ったシュート部位
では、スペイン代表および日本代表ともに、インサイドで得点する割合が高い点である。
つまり、これらの共通点から、筆者は、得点が生まれやすい要素として、ゴールの正面付
近からインサイドでボールをコントロールし、インサイドで精度の高いシュートを放つこ
とが挙げられると考える。しかし、ここで無視できないのは先のゴールイン分析で明確に
なった1タッチでシュートを放つことが良いのか、あるいは2タッチ以上をしてからシュ
ートを放つことが良いのかという点である。筆者の考えとしては、前者を選びたい。なぜ
なら、得点が生まれやすいゴール正面に侵入できたとしても、相手チームも人数をかけて
必死に守りを固め密集地帯になることが多いため、時間を掛けずに済む1タッチシュート
が適していると考えられるからである。そこで筆者は、先ほど述べた得点が生まれやすい
要素に修正を加え、新たに得点が生まれやすい要素として、ゴールの正面から1タッチの
インサイドでシュートを放つことを提案する。
ところが、現在の日本代表は、この新たに提案した得点が生まれやすい要素を十分に活
かすことができるだろうか。筆者がそのように不安視するのは、日本のサッカー部などで
良く目にするシュートの精度を高める目的で行われているシュート練習に問題があるの
ではないかと考えているからだ。筆者もサッカーを 10 年以上続けてきており、強豪校で
はないが中学校、高校、および大学とサッカー部に所属してきたため、シュート練習を経
験している。しかし、試合で得点を決めるために時間を割いているシュート練習が、プレ
ッシャーもないままに、ただボールを蹴るだけのキック練習になっているのである。この
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ことは、日本代表の練習でも見られる光景である(25)。日本代表の練習改善はもちろん必要
なのだが、その日本代表にも数多くの部活動出身の選手が在籍していることを考えると、
その根幹を成す、部活動などで行われているシュート練習の質の向上も急務であると考え
る。それが、いずれ日本代表のシュート精度の向上につながり、さらには得点力不足解決
の糸口の 1 つと考えられるのである。
この第Ⅲ章では、まず、2010 年ワールドカップを優勝したスペイン代表とサッカー日本
代表の体格面や戦術面を比較することで、共通点を明らかにしてきた。次に、そのような
共通点を持つスペイン代表と日本代表を4つの分析項目を用いて、2010 年ワールドカップ
でのゴールシーンを使用し、ゴールイン分析を行った。その結果、スペイン代表と日本代
表を比較することで分かった特徴として、3つの共通点と1つの相違点が明らかになった。
さらに、スペイン代表と日本代表の相違点から、よりプレッシャーのあるワールドカップ
で優勝するためには、
「ゴールの正面付近からインサイドでボールをコントロールし、イン
サイドで精度の高いシュートを放つこと」を導き出しただけではなく、
「ゴールの正面から
1タッチのインサイドでシュートを放つこと」が、日本代表の得点力不足の解決につなが
ることを抽出した。その実現のために筆者が提案するのは、日本でのシュート練習の環境
をプレッシャーのある中でのシュート練習へと改善することである。
Ⅴ.おわりに
この第Ⅴ章では、本論の内容を、
「各章の要約」
、
「結論」および「今後の展望と課題」の
3つに分けて述べていく。まず、第1節では、本論の考察を各章ごとに要約していく。次
に、第2節では、本論の『サッカー日本代表の決定力不足解決への扉絵~2010 年ワールド
カップのゴールイン分析を通して~』というテーマの結論を明らかにする。最後に、第3
節では、第1節の要約と第2節の結論を踏まえて、今後の展望と課題を述べる。
1.各章の
各章の要約
本節では、章ごとに本論の要約を述べ、本論を総括する。
(1)第Ⅱ章
第Ⅱ章では、まず、AFC アジアカップでのサッカー日本代表の大会成績、戦術の変遷、
1試合平均得点、ボール支配率およびシュート数を AFC アジアカップ優勝経験国と比較
しながら、AFC アジアカップでのサッカー日本代表は「アジアでは得点力があり、ボール
(25)
戸塚(2010,101 ページ)を参照せよ。
37
を支配する攻撃的なサッカー」であることを導き出した。次に、FIFA ワールドカップで
のサッカー日本代表の大会成績、戦術の変遷、1試合平均得点、ボール支配率およびシュ
ート数を FIFA ワールドカップの優勝経験国と比較しながら、FIFA ワールドカップでの
サッカー日本代表は「世界では得点力がなく、ボールを支配される守備的なサッカー」で
あることを導き出した。そして、これら2つの特徴を比較することで、サッカー日本代表
の「戦術の“衣替え”による得点力の低下」という問題点が明らかになった。
(2)第Ⅲ章
第Ⅲ章では、まず、ワールドカップで優勝したスペイン代表と日本代表の体格および戦
術の視点から、平均身長、平均体重、および両国の現在の戦術を比較することで、平均身
長と平均体重が類似しているだけでなく、ボール支配率を高めることで主導権を握り攻撃
的に戦う点を共通点として導き出し、スペイン代表を日本代表の目指すべき対象とした。
次に、第Ⅱ章で明らかになった「戦術の“衣替え”による得点力の低下」という問題点を
解決するために、2010 年ワールドカップでのスペイン代表および日本代表の全得点を、
「
(ⅰ)得点に至ったシュート地点別のシュート数」
、
「
(ⅱ)ファーストタッチ部位」
、
「
(ⅲ)
シュートまでのタッチ数」
、および「
(ⅳ)得点に至ったシュート部位」という4つの分析
項目を用いたゴールイン分析を行い、どのような方法を取れば日本代表の得点力を向上さ
せることができるかを検討した。その結果、スペイン代表と日本代表のゴールイン分析の
データを比較することで分かった特徴として、両国ともゴール正面での得点が多い点、イ
ンサイドでファーストタッチをしてからの得点が多い点、およびインサイドでの得点が多
い点という3つの共通点と、スペイン代表は1タッチで得点している割合が最も多いが、
日本代表は2タッチおよび3タッチで得点しているという1つの相違点が明らかになっ
た。
以上が本論の要約である。続いて、第2節で本論の結論を述べていく。
2.結論
本節では、本論の結論を述べていく。
本論のテーマである「サッカー日本代表の決定力不足解決への扉絵~2010 年ワールドカ
ップのゴールイン分析を通して~」を考察するために、本論では、サッカー日本代表の現
状を、2つの国際大会の成績および戦術の視点などから把握することで「戦術の“衣替え”
による得点力の低下」という問題点を明らかにし、その後、ゴールイン分析を用いてスペ
イン代表と日本代表を比較することを通して、得点力不足の解決策を導き出してきた。
その結果、本論の結論として、サッカー日本代表の得点力不足の解決には「ゴールの正
面付近からインサイドでボールをコントロールし、インサイドで精度の高いシュートを放
38
つこと」だけではなく、
「ゴールの正面から1タッチのインサイドでシュートを放つこと」
が必要であることを明らかにした。また、その実現のために、筆者が提案することは、日
本でのシュート練習の環境を、質の高いプレッシャーを持ちながらのシュート練習に改善
することである。
以上が、本論の結論となる。最後に、第3節で今後の展望と課題を述べて、本論を締め
括る。
3.今後の
今後の展望と
展望と課題
本節では、第1節の各章の要約と第2節の結論を踏まえて、今後の展望と課題を述べて
いく。
まず、今後の課題としては、日本でのシュート練習の環境をプレッシャーのある中での
シュート練習へと改善するための具体的な方法を考えることである。本論では、2010 年ワ
ールドカップで優勝したスペイン代表とサッカー日本代表の分析により、
「ゴールの正面付
近からインサイドでボールをコントロールし、インサイドで精度の高いシュートを放つこ
と」だけではなく、
「ゴールの正面から1タッチのインサイドでシュートを放つこと」が得
点力向上につながると述べたが、方法を頭で理解していても、体がついていかなければ、
意味がない。
筆者の提案する練習環境の改善は、日本の何千とあるサッカーチームに呼びかけなけれ
ばならず、改善させるには、地道な努力と長い年月を要する。しかし、日本のサッカーの
基盤である全国のサッカーチームの練習環境を良い環境に改善できたならば、いつの日か
日本代表がワールドカップを手にする日も現実となり得るはずである。そのための具体的
な働きかけや改善方法などを考察することが今後の課題である。
次に、今後の展望としては、本論で明らかにした得点力不足の解決策を、実際に検証す
ることが挙げられる。本論では、文献や DVD などの情報を用いて、限定された1回のワー
ルドカップという大会のデータから得点が生まれやすい法則を導き出したので、それが一
般的な妥当性を持つとは言い難い部分がある。そのため、様々なレベルの、色々な大会の
データを分析することはもちろん、一般化した得点力不足の解決案を、通常のサッカーの
練習などで実践することにより、実際に有効か否かを検証することも必要になってくると
考えられる。
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〈参考文献〉
参考文献〉
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