テレビ・アニメ番組にあらわれた女性像・男性像の分析

研究論文子ども社会研究2号Jo"r"α/QfCh"dS"ldy,Vol.2,June,1996:33-46
テレビ・アニメ番組にあらわれた女性像・男性像の分析
−ステレオタイプ的な描写の検討を中心に
藤田由美子
|はじめに
近年、子どもの社会化において、ジェンダーの問題は重要な問題であるととらえられ、さ
まざまな議論が行われてきた(1)。たとえば、子どもは性役割を、誰からどのようにして受容
するか。また、それは子どもにどのような結果をもたらすか、などについてである。
子どもの性役割の形成に影響を与える要因として、親、仲間集団など様々なものがあげら
れる。たとえば、親が新生児の性別によって異なった扱いをすることや、父母とよい関係を
持っている場合に性役割の受容が高い傾向にあることが報告されている(戸田・堅田1987な
ど)。また、仲間集団が形成するサブ・カルチャーには、女らしさ・男らしさの規範がみら
れる(EderandParkerl987,KeSSleretal.1985,宮崎1993)。
その中でも近年注目されてきたのは、メディアの影響である。子どもは毎日、絵本やテレ
ビ、テレビケームなどさまざまなメディアに接する。したがって、そこから得る情報は子ど
もに重要な影響を及ぼすと考えられている。とりわけテレビ・アニメ番組は、子どもが最も
よく接触するメディアの一つであり(2)、その内容が「ごっこ遊び」にも登場するなど、子ど
もの日常生活に影響を及ぼしていると考える。
メディア研究においては、送り手(出版社、番組制作者など)、メデイア(テレビ、本な
ど)、受け手(子ども)の三者に焦点が当てられている(小玉1989ほか)。このうち、メディ
アの内容は、社会変動と関連があると考えられている(McQuaill983,訳書1985)。したがっ
て、メディアにあらわれた性役割を分析することにより、社会における性役割観を垣間みる
ことができはしないだろうk・
本稿の目的は、テレビ・アニメ番組にあらわれた女性像・男性像の分析を通して、子ども
向けメディアにあらわれたジェンダーの問題について考察を行うことにある。
本稿では、女性像・男性像を明らかにするため、量的な分析とあわせて質的な分析を行う。
これまでの性役割内容の分析で最も多く用いられてきた方法は、登場人物の男女比や職業、
行動のパターンを計量的に分析することであった。しかし、登場人物数や職業の比較だけで
は、性別役割分業以外の側面、たとえば恋愛などといった男性と女性の「関係性」の問題が
明らかにされないと考えられる(3)。そこで、「関係性」の問題を明らかにするため、質的な
分析も試みることにする。
(ふじた・ゆみこ広島大学大学院)
33
子ども社会研究2号
│|先行研究の検討および仮説
ここでは、まずメディアにあらわれた女性像・男性像に関する先行研究を概観し、つづい
てテレビ.アニメ番組を分析するための若干の仮説を提示する。
1先行研究の検討
テレビをはじめ、メディアにあらわれた性役割に関する研究は、ここ20年ほどの間に盛ん
に行われてきた。これらの研究は、女性や男性に関して、ステレオタイプ的描写がみられる
ことを明らかにしてきた。以下、登場人物数、職業、行動パターン、男性と女性の関係性、
ステレオタイプ的な性役割描写の変容の五点に注目して、概観してみよう。
第一に、男性や女性の登場人物数は、多くの研究において、男性に比べて女性が少ないこ
とが報告されている。たとえば、子どもの本や教科書には女性の登場が少ない(倉田1987、
日本弁護士連合会1989、伊東ほか1991)。また、アメリカにおけるテレビ番組に関する調査
でも、テレビ番組の登場人物のうち72%が男性であり、女性はわずか28%にすぎない
(Durkinl985)。また、1987年の夏にアメリカで放送された40番組の分析より、女性の描写は、
常に男性より少ない傾向にあることが明らかにされた(Vestl992)。
第二に、職業の描写については、いわゆる「伝統的性別役割分業」が描かれているパター
ンが多くみられる。たとえば、教科書の分析より、いわゆる「男は仕事、女は家庭」という
ステレオタイプ的描写が描かれており、職業を持つ女性の登場が少ないことが明らかにされ
ている。また、テレビ番組についても、たとえば、VandeBergとStreCkfUssは、1986年と1987
年の夏にアメリカで放送されたテレビ番組117話を分析した結果、女性は男性に比べて、対
人的な活動を行うことが多く、意思決定的・政治的・操作的活動を行うことが少ないことを
明らかにした(VandeBergandStreckfUssl992、小玉1989)。
第三に、登場人物の性格や行動の描写について、一定のステレオタイプ的な描写がみられ
る。たとえば、子どもの絵本の登場人物の分析によると、男性は女性に比べて中心的役割を
担う傾向にある(A]leneta1.1993)。また、テレビ番組にあらわれた男女の行動パターンの分
析より、男の子が能動的に行動し女の子は受け身的な行動を行う役割分化がみられること
(森・湯地1995)、また、会話においても、男の子は「能動的」女の子は「受動的」な発話を
行うというパターンの分化がみられることが明らかにされている(藤田1992)c
第四に、登場人物の関係性についてである。テレビ番組における男性人物と女性人物の関
係性をとらえる際、恋愛に注目した分析は有用であると考えられる。ロマンス小説には、恋
愛をモチーフとした女性像の提示がみられることが明らかにされてきた。たとえば、
Hubbardによる1950年から1983年にアメリカで発表された少女小説の分析によると、1950年
代には男性が支配し女性が従うスタイルであったのが、1980年代に入ると対称的な関係性の
スタイルに代わっていく(Hubbardl985)。また、Christian-Smithは、少女小説のテクスト分
析を行った結果、「ロマンスのコード」「セクシユアリテイのコード」「ビューティフィケー
ションのコード」の三つを抽出し、そこに描かれた女性像や男女の関係を明らかにした
(
C
h
r
i
s
t
i
a
n
S
m
i
t
h
l
9
8
8
(
4
)
)
。
34
テレビ・アニメ番組にあらわれた女性像・男性像の分析:藤田
最後に、メディアにおける女性像・男性像の描写の時系列的変化についてである。先行研
究の結果は、変化があったとするものと変化がなかったとするものの双方がみられる。前者
については、最近では男性が家事を担当したり職業を持つ女性が登場する場面がみられる、
との指摘がある(BretlandCantorl988)。また後者については、行動のパターンに関しては
時代を通じてそれほど大きな変化はない、という指摘があげられる(Allenetal.1993)。本稿
では、わずかなサンプルではあるが、若干の時系列的比較を試みることにする。
2仮説
内容分析を行うにあたり、先行研究の成果に基づき、五つの仮説を立てた。
①テレビ・アニメ番組には、女性より男性が多くあらわれる。
②テレビ・アニメ番組においては、伝統的性別役割分業がみられる。すなわち、男性は職業
を持つ者が多く、女性は家庭にいる者が多い。また、女性が就く職業の種類は、男性のそ
れより少ない。
③テレビ・アニメ番組においては、女性は「かわいい」「やさしい」、男性は「強い」「たく
ましい」など、登場人物の特徴描写に一定の傾向がみられる。
④テレビ・アニメ番組に描かれた男女の力関係については、男性が強く能動的であり、女性
が弱く受動的である、というパターンが多い。
⑤テレビ・アニメ番組に登場する女性は、男性に対する恋愛関係を望んでいる。恋愛におい
ては、女性は男性に尽くす存在として描かれる。
││|対象および方法
1対象
分析の対象として、幼児や小学校低学年向けと考えられるものでできるだけ異なるタイプ
の番組を選んだ(5)。分析の都合上、1話ごとに完結する番組に対象を限定した(6)。また、
1990年代だけではなく、1960年代および1980年代に放送された番組のデータも入手した。
番組データは、下記の手順で入手した。
(1)1995年5月∼6月に放送された4番組および1992年3月∼5月に放送された3番組について
は、ビデオで録画を行った。各番組とも、30分枠で4回分、すなわちのべ2時間分を分析の
対象とした。
(2)すでに放送が終了している番組でビデオ化されているものは、すぐ’に入手可能な範囲でビ
デオを参照した。すなわち、1990年代に放送された2番組、1980年代に放送された2番組、
1960年代に放送された2番組である(7)。これらも、現在放送中の番組と同程度の放送時間
(30分枠で約4回分)を分析の対象とした。
分析対象とした番組の一覧は、表lに示したとおりである。
。貝
一一〃
子ども社会研究2号
表1対象とした番組一覧
番組名
美少女戦士
セーラームーンSS
忍玉乱太郎
90
ダ・ガーン*
∼93年
3月∼5月
とんでぶ一りん
1994年∼
1995年
1991年
少年アシベ2
1995年
6月∼7月
1992年
(第1巻)
(第1巻)
分析話数
│
(
熱
粥
)
(
5話
150分
8話
(2話/回)
120分
4話
120分
話3 話吟 話分
4く 4児 3帥
1995年6月
伝説の勇者
1994年
∼放送中
1992年
∼放送中
1992年
ちびまる子ちゃん
クレヨンしんちゃん
年
対象"l間
(又は巻NO.)
1995年
1995年
∼ 放 送 中 ’ 5月∼6月
5
1995年
1993年
∼放送中
5月∼6月
放送期間
話/回)
6話
(3話/回)
90分
代
ドラえもん*
キテレッ大百科*
0f
8
ft
l
アンパンマン
1979年
∼放送中
1988年
1992年
1992年
8話
(2話/回)
4話
∼放送中
3月∼5月
120分
1989年∼
(第5巻)
3月∼5月
01
f1
t
6
(第1巻)
3話
90分
8話
(2話/回)
120分
(第1巻)
4話
現在蚊送中
うる星やつら
1981年
1983年
ひ み つ の ア ッ コ ち ゃ ん 1968年
魔法使いサリー
1970年
1966年
1968年
120分
(第7巻)
3話
’
90分
注*印の希組は、主要な登場人物としてロボットが登場するが、
今回は分析の対象から除外した。
2方法
本分析の対象とした番組は、1話あたりの時間が10分∼30分で、いずれも1話完結のもの
である。そこで、各話ごとに物語展開やせりふなどの特徴を具体的に記録した。記録の際に
は、場面の区切りをできるだけ明確に示し、番組中の登場人物の会話や行動をできるだけ具
体的に示した。
記録を行った後、次の3つの分析を行った。
第一に、番組の登場人物の男女別人数、大人の職業の分析を行った。ここでは、せりふの
ある登場人物を大人、子ども全てカウントした。また、大人については、どのような職業に
ついているかもみた。
第二に、登場人物の外見的特徴、性格特性、行動の分析を行った。登場人物の外見的特徴
をみるため、登場人物の服装および髪型の特徴を書き出した。性格特性は、他の登場人物ま
たは本人のせりふの中に含まれている登場人物の性格をあらわすことばを抜き出した。行動
については、その登場人物に典型的にあらわれる行動を挙げた。
第三に、物語展開にあらわれた「関係性」としてのジェンダーの分析を行った。各話の物語
36
テレビ・アニメ番組にあらわれた女性像・男性像の分析:藤田
展開においてみられる女性と男性の関係性を、攻撃行動および恋愛関係に注目して検討した。
なお参考のために、1960年代の番組、1980年代の番組、および1990年代の番組の三群の間
で項目毎に比較を行い、時系列的変化を検討した。
│V分析結果
1登場人物の男女比、性別役割分業
(1)登場人物の男女比
まず、テレビ・アニメ番組に女性と男性はどの程度あらわれているかを検討した。そこで、
各番組のせりふのある登場人物数を表2に示した。その結果、登場人物の男女比はおおよそ
6対4であり、男性の方がやや多く登場する傾向にあった。
表2各番組の登場人物数
計一
36
62
0
4
51
0
1
73
4
4
1
5
1
大人
51
2
1
68
23
32
0
3
53
4
2
1
82
9
2
1
75
17
79
59
2
71
月q
12
2
3
36
79
44
61
2
1
子ども
大人
全体│3419
子ども
大人
望旦一
31
6
2
87
注12
全体│2415139
子ども
大人
5
9
1
魔法使いサリー
81
6
1
アッコちゃん
大人
全体’6828196
17
3
3
ひみつの
子ども
大人
全体’208128
子ども
1
うる星やつら
64
帥年代 帥年代
アンパンマン
全体│2214136
21
0
1
キテレツ大百科
53
全体
子ども
大人
全体│4019159
子ども
大人
全体’3522157
子ども
大人
11
4
2
ドラえもん
36
少年アシベ2
5
M8−Ⅳ 2
1
代
21
8
2
大人
とんでぶ一りん
11
5
2
岨卯一洲
伝説の勇者
ダ・ガーン
67
しんちゃん
1413127
全体
子ども
大人
全体’4222164
子ども
95
クレヨン
年
2
90
11
0
3
ちびまる子ちゃん
大人
全体│7416190
子ども
大人
全体│4125166
子ども
63
8
3
忍王乱太郎
2930
19
セ ー ラ ー ム ー ン S S 子ども
’9
23
.5
男性女性
全f進
27
2
番組名
美少女戦士
表中の実数は、各番組の登場人物の延べ人数を示す。
せりふのある者はすべてカウントした。
コワ
ゴ 〃
子ども社会研究2号
4.50.03.34.5
27.350.033.39.1
22.70.016.70.0
311
3
0.00.00,04.5
0
0
0,
33
0
01
3 0
1
0
0
1
0,
22
1
13.60.010.040.9
13.60.010.018.2
0.00.00.04.5
0.025.06.70.0
%
計一皿汕汕叫MMM剛汕剛
0.025.06.713.6
18.20.013.34,5
1
g向くU
︽mU
ハⅡUnxUl
nU
7333700007 0G
03
61
33
61
00
331
1006 00
1
0000000000 08
5
000
0000052 0
0
2
5
2
0253706600 0.22
01
84
21
03
300 0
0
272
1
80年代60堆也
男性女性計男性
7998995896 0.
2
0
6
450152327281 0
1
1
0
l
0
08
0.
10
'
0
1
6
:
│
'
0
0
6
1
50326 0 5 3 6 0
0
05312005205
1
14.812.3
9.30.0
公獅員
5.63.5
会社員
13.019.3
自営業
9.31.8
雑道
3.70.0
管理職*
29.614.0
その他
12.03.5
不Iリl
2.81.8
猟職
主婦・"叶親 0.0イ3.9
10
〕0
0.0
合計%
57
合計実数
90年代
りlヤ!:女性|計
男
性女性
38348 7 3 4 1 0
0
7697413930
2
男ャlさ女性
ll
職業
教
'
'
1
j
.|9182 7 4 2 1 4 2
計一a64a624325
余体
些一雄一艸叩叩皿
MMMMMM
1
表3各番組の登場人物の職業
注l同一人物は、何度登場しても1人として数えた。
注2「管理職」とは、学校艮、会社社長などをさす。
表4セリフがある大人の職業の種類数
(放送年代別比較)
80年代
’
60年代
全体
</男
395
424
000
男性女性
90年代
イ017
144
115
6 5 2 6 0.40
注各番組の登場数の延べ数。
(表3の| 不Iリl」「無職l
「主婦・母親」を除く)
ここで、主人公を含む子どもの登場人物だけをみると、ほとんどの番組において男の子の
方が多く登場していた。この傾向は、女の子が主人公である「ひみつのアッコちゃん」「魔
法使いサリー」「ちびまる子ちゃん」「とんでぶ−りん」の各番組においても同様であった。
(2)大人の登場人物の職業および家庭での性別役割分業
大人の登場人物について、職業の比較を行った結果は、表3に示した。この表より、職業
を持つ者の割合は男女で異なることがわかる。男性は、ほとんどの登場人物が何らかの職業
を持っていた。すなわち、教師など教育関係者をはじめ、さまざまな職業に就いている。一
方、女性では、主婦または母親として登場する者がもっとも多くみられた。この傾向は、放
送年代を通じてそれほど変化していなかった。
表4には、大人の職業の種類数を示した。表右端には、男性の職種数に対する女性の職種
数の割合を示した。この表より、全体として男性は女性よりも多様な職業に就いていること
がわかる。女性が就いている職業の数は、男性の約半分にも満たない。
家庭場面においても、大人の登場人物に性別役割分業がみられるであろうか。表5には、
家庭場面における大人の登場人物の行動の種類と頻度を示した。この表より、家庭において
も性別役割分業がかなり明確にみられることがわかる。すなわち、女性の方が家庭場面に多
く登場し、家事をする場面が多くみられた。男性は、家事以外の行動、たとえば新聞を読ん
だりテレビをみるといった行動が多く描かれていた。
2主要な登場人物の特徴
テレビ・アニメ番組に登場する男の子と女の子は、そ
38
れぞれどのような特徴を持っている
テレビ・アニメ番組にあらわれた女性像・男性像の分析:藤田
表5家庭場面での大人の登場人物の行動
111位__%
0.00.0
3”2Ⅲ5
1
70
’1
’1
1 そ の 他 ‘ 60.6 54.6 56.8 56.5 50.052.3 55.6 57.156.4
100.0100.0 100.0 100.0 100.0100.0 100.0100.0100.0
2139
1
8
46
84130
190
119
71
11
15︸0
4.82.6
0.05.1
4.815.4
2’ 2
4.82.6
9.57,7
恥馴剛剛而洲
騨繁:
19.010.3
MMMM両MMMMM4
19
9
.
.
3313.2
0.80.5
0.8
4.23.2
4.2
10.97.9
10.9
1868’0洲
3
’2 4 詑 一 ㈹ ’
鋼︾崎岬地辨坐
一食新テそ総総
そ他一
11洲﹃’’’
その他
|家事計’
│鐸1Wをする,
0.0
4.3 22.616.2
0.0
0.0
0,00.0
0.0
5.6
3.62.3
0.0
1.4
4.3 11.99.2 0.0
2.8
5.6
8.7 38.127.7
35.324.7
5.3
7.0 3
0.0
8.313.1
9.5 21.7
6.7
14.1
0.02.3 11.1
2.6
6.5
0.0
7.0
3.64.6 27.8
6.3
6.5
11.3
3.4
2,8
00000000007
守0
●0
cc
叩0
二0
■
0a
0凸0
0■
0P0
00
塞聖
食邪の文股
洗湘
掃除
2032
6
029
1
60年代
80年代
90年代
全体
女性
性 全 体 男性 女 性 全 体 男性 女 性 全 体 男 性 女 性
男性
_
ZfL 女
全体
0.0
0.0
0.0
14.3
14.3
0.0
0.0
0.0
85.7
I
00.0
21
か、外見的特徴、性格特性、行動特性に注目し、その傾向を比較した。その結果、主要な子
どもの登場人物が男女両方登場する番組で、男女の描かれ方に、一定のパターンがみられた。
以下、女の子・男の子それぞれのパターンについて述べる。
(1)女の子の場合
彼女たちは、ほとんど全員がスカートを身につけており、長い髪であった。なお、パンツ
を身につけた女の子は、「忍玉乱太郎」の<の一(3人)、「ひかる」(伝説の勇者ダ・ガーン)
「うさぎ」(セーラームーンSS)のみであった。
性格については、1960年代の番組では、「優しい」「まじめ」「しっかりしている」女の子
が出てくることが多いようである。一方、1990年代の番組では、「気が強い」「明るい」「元
気」な性格の女の子が登場してくる(例「伝説の勇者ダ・ガーン」の「ひかる」、「とんで
ぶ−りん」の「果林」など)。
行動に関しては、多くの番組で、主人公の男の子を陰で助けたりかばったりする者がしば
しばみられた(例「キテレツ大百科」の「みよ子」)。魔法を使うことのできる主人公の女
の子も、男の子を陰で助けたりかばっていた(例「魔法使いサリー」の「サリー」)。一方、
1980年代および1990年代の番組では、自らが闘ったり(例「セーラームーンSS」の「う
きぎ」)、または男の子より強い女の子(例「うる星やつら」の「ラム」)が登場する。彼
女たちは、力は男の子よりも強い一方、好きな男の子のために何かをしてあげるなど、彼の
前では「かわいい」女の子であったり、そうありたいと考えている。
(2)男の子の場合
男の子については、大きく分けて三つのタイプに分かれるようである。第一のタイプはい
わゆる「二枚目」タイプで、女の子が主人公の作品に登場する。彼らは、背が高い、ハンサ
ム、といった特徴を示す。彼らは、優しい性格であり、スポーツができるなど、女の子にと
ってのあこがれの対象として描かれている。このタイプには、「セーラームーンSS」の
「衛」、「とんでぶ−りん」の「光一」が含まれる。
第二のタイプは、外見はそれほど目立たず、性格や行動が個性的なタイプで、彼らが主人
公として登場することが多い。このタイプには、「ドラえもん」の「のび太」、「忍玉乱太郎」
の「乱太郎」、「うる星やつら」の「あたる」などが属する。彼らの性格は「ドジ」「まぬけ」
「ダメ」「アホ」などと形容されている。また彼らは、毎回さまざまな事件を巻き起こしたり、
39
子ども社会研究2号
事件に巻き込まれたりする。
第三のタイプは、いわゆる「ガキ大将」タイプである。彼らは主人公として登場せず、腕
力やいたずらなどで主人公の男の子や女の子を困らせる存在として登場する。このタイプに
は「ドラえもん」の「ジャイアン」、「ひみつのアッコちゃん」の「大将」が含まれる。
(3)男女の組み合わせのパターン
今回分析した番組の主要登場人物の男女の組み合わせのパターンは、大きく分けて3通り
あると考えられる。
第一のパターンは、優しくてしっかり者で、しばしば男の子を助ける女の子と、ドジ、ま
たはお調子者の男の子の組み合わせである。「忍玉乱太郎」の「乱太郎」と「〈の一」、「ド
ラえもん」の「のび太」と「しずか」、「伝説の勇者ダ・ガーン」の「星史」と「ひかる」は
この組み合わせである。
第二のパターンは、優しくてしっかり者の女の子と、ガキ大将タイプの男の子の組み合わ
せである。このタイプには、「ひみつのアッコちゃん」の「アッコ」と「大将」、「魔法使い
サリー」の「サリー」と「カブ」などが含まれる。
第三のパターンは、元気で明るい女の子と、優しくて女性のあこがれの男の子の組み合わ
せである。「セーラームーンSS」の「うさぎ」と「衛」、「とんでぶ−りん」の「果林」と
「光一」は、このタイプに属する。
3「関係性」としてのジェンダー
つづいて、物語展開において女の子と男の子の「関係性」に関する描写に一定のパターン
が見いだされるかどうか、力関係および恋愛・結婚に関する話題に注目して検討する。ここ
では、作品中の各場面における女性と男性の会話や行動をてがかりに、具体例から導き出さ
れるパターンを示した。したがって、以下の説明では必要に応じて具体例を示す。なお、こ
こでは、物語の展開に重要であるかどうかにかかわらず、ひとまとまりの「話」を場面とし
てとらえた。また、対象とする登場人物は、主要登場人物ばかりではなく脇役も含めた。
(1)男の子と女の子の力関係一攻撃のパターン
分析対象としたアニメ番組では、「敵」または「悪者」が他の登場人物を腕力やことばでし
たがえたり征服しようとする場面や、主人公が敵や悪者を懲らしめる場面がしばしばみられ
る。このような場面において、性別によるパターンの違いは見いだされるか、男の子が女の
子を攻撃するパターンと女の子が男の子を攻撃するパターンのそれぞれについて述べる。
①男の子が女の子を攻撃するパターン
このパターンにおいては、男の子がしばしばいじめっこであり、女の子が弱い存在として
描かれている。そして、第三者が男の子を撃退して女の子を助ける。たとえば、「魔法使い
サリー」7巻第1話では、「サリー」が友人「よし子」とすみれと一緒に海水浴に行ったと
き、不良少年に休息の場を奪われる。「サリー」が魔法で少年を撃退しようとしたとき、彼
女の同級生でアルバイトに来ていた「ケンー」が「サリー」たちを助けにやって来る(例l)
また、「セーラームーンSS」では、「智子」が、男の子にからかわれる場面がみられる。こ
の時助けにあらわれるのは、女の子(「まこと」)である。
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テレビ・アニメ番組にあらわれた女性像・男性像の分析:藤田
例l「魔法使い・サリー」節7巻第1話
(突然、兇の王の閲に雌がかけ臭れる.。サリー、驚く。
(・リリー、よし子、すみれ、海岸でパラソルの下でロ光硲をする。
後ろを振り返ると友人のケンーが立っていた)
突然、3人の幽トー雌が血Iゴムね灸。体の大きな男の子があらわれる)
サリー「レディーに向かって失礼だわ」
サ。よ・す「あ、ケンちゃん」
ケ ン ー 「 おい、女の子をいじめるなんて品 低だよ_!」
男の子「三こはオレさまの場所だ量。」
男 の 子 「「なんだと、やる気か!」(ケンーにけんかを挑む)
(労の子、fQ場に心至‘ェ、、_軌こう_とルメfい)
(以下略)
サリー「ようし」(臓法を侠おう_と丈奄)
②女の子が男の子を攻撃するパターン
このパターンは、1980年代以降の番組にしばしばみられた。男の子がしばしば「お調子者」
であり、世話好きの女の子が叱ったりする場合と、主人公の女の子が変身して敵を倒す場合の
二通りがある。前者の例として、「伝説の勇者ダ・ガーン」の一場面を示した(例2参照)。こ
こでは、しっかり者の女の子「ひかる」が、お調子者で美人に弱い少年「星史」を叱っている。
また後者の例として、「とんでぶ一りん」の一場面を示した(例3参照)。この場面では、
ヒロインの「果林」が、サッカーの試合前に対戦校の生徒にからまれてしばしば危機に陥る
同級生の「光一」を救うために、「ぶ−りん」に変身して敵を撃退する。
例2「伝説の勇者ダ・ガーン」1992年4月25日放送
(ひかるの両親が経営する自然食レストランで。屋史、走って店に入ると、サーカスの団長とブランコ嬢マジカル・ピンキーがいる。)
星史「ひや一、あの団長とマジカルピンキー?」
団長「わてら、自然食の大ファンでしてな・これからもちょくちょく奇らしてもらいまっせ。」
ピンキー「よろしく。仲良くしましょうね。」
星史「いつひひひ、いや一、感激だなあ。おれ、星史って言います。それじゃお言葉に甘えてご一緒に・・・」(隣に座ろうと)
ひかる「すぐ遡子に乗る!あなたの席はここでし‘kう!?」(星史QHR壷つ力盤魁_引.兎コエLLく)
星史「あ、あいて、だ一、放せ、こんちくしょ一!」
例3「とんでぶ一りん」節1巻第2話
(ワルリノ中学サッカー部のキャプテン竜巻五郎、手下二人とともに光一を襲撃する。現場を目撃した果林、光一に「ぶ一りん」の姿
を見せたくないが、光一がやられているのをみて、変塁_登災。)
ぶ一りん「愛と勇気のピッグガール、プヒッとぶ一りんに、おまかせよ一(ウインクする)。
よ 辺 て た か っr1人をいじめるなんて、そんな卑払なやり口はこの』 《 一 ケ ) ん が 許 さ な い わ よ − ! ’
竜巻「おもしろい1柔迩8段、空手9段、そろばん3級の竜巻五郎さまにさからおうってのか一?」
ぶ一りん「え..?(気をlⅨり直して)ようし、いくわよー1ぶ一りんキーックLぶ一りんパーンチ!」
竜巻(倒れる)
ぶ一りん「ふん、口ほどにもない奴ね。まだやる気?」
子分2名「ひとまず退散だ!」(逓巻を引きずって去る)
(2)「強い」女の子の中の「女らしさ」の提示
男の子を攻撃する強い女の子が登場する番組がみいだされたことは上で述べたとおりであ
る。しかし、このような番組においても、女の子が「女らしさ」を示す場面がみいだされた。
①強い女の子の危機を男の子が救う場面
「セーラームーンSS」で、主人公の「うさぎ」たちは、敵の前に登場するやいなや敵の
攻撃を受ける。危機に陥った主人公を救うのは、と÷こからともなく現れる「タキシード仮面」
(正体は「うさぎ」の恋人「衛」)である。「タキシード仮面」があらわれるのは、分析対象
とした5回分の放送中、3回みられた(例4を参照)。「タキシード仮面」の助けが得られな
かったとき、後で「うさぎ」が「どうして助けにきてくれなかったのよ!」と「衛」に詰め
41
子ども社会研究2号
寄る場面がみられた(8)。
例4「セーラームーンSS」1995年5月201]放送
(セーラームーンとちびムーン、登場。敵・タイカ'-ス'・7イに立ち向かう。タイガーズ・アイ、手裏剣を投げて反撃。セーラームーンたち
避けるのが梢いっぱい。とつせ'んタキシード仮面あらわれる。)
タキシード仮面(タイガーを壁に押さえつけて)「性慾且_f』なく女性をL_l_"堕至王』弛匹やつめ。覚慨_しZi」
タイガー「くつ」
セーラームーンたち「ターキ之一ド仮面さま−11」
タキシード仮面「ちびムーン、今だ。」
②美へのあこがれ
強い女の子が美しくなりたいと考える例として、「とんでぶ−りん」の主人公「果林」が
あげられる。彼女は、空から落ちてきた子ブタを拾ったことがきっかけで、ブタの姿をした
「ぶ−りん」に変身する道具を得る。しかし彼女は、「ぶ−りん」の「ぶさいくな」容姿が気
に入らない。彼女の心の支えは、「ぶ−りん」としての働きに応じて与えられる真珠が108個
になれば、美しい「スーパーヒロイン」にしてもらえるという約束である。
③男の子の自信回復のためにわざと「弱い」ふりをする女の子
「忍玉乱太郎」に登場する〈の一教室の三人娘は、いつも「ドジでまぬけな」「乱太郎」
たち三人をバカにしている。しかし、ある時「乱太郎」たちに自信がないのを見かねた教師
たちの指示で、三人娘はわざと「乱太郎」たちにけんかを仕掛け、負ける。そのとき彼女た
ちは、「やっぱり男の子ね、いつかは負けると思っていたけど」と言い、「乱太郎」たちの自
信を高める(例5参照)。
(3)恋愛・結婚に関する事柄
男性と女性の「関係性」を検討する際に、番組中に恋愛がどの程度登場するか、恋愛を通
して表現される女性性あるいは男性性はどのようなものであるかを検討する必要があると考
えられる。本分析で、恋愛に関
する場面を分類すると、恋愛願例5「忍玉乱太郎」1995年5月13日放送節2話
望、男の子に「尽くす」女の子、(サッカーをしている乱太郎、キリ丸、しんベヱ・乱太郎の蹴ったポールが
くの一教室3人組に当たる。くの一、逃げる乱太郎たちを鮒まえ、ケンカを仕掛│ナる°)
恋愛対象になるための「女らしユキ、トモミ、おしげ「あ−1」(とばされる)
さ」へのあこがれ、結婚に関す乱太郎、キリ丸、しんベヱ「は一?」
る発言、の4つがみいだされた。(〈の 、起きあがる)
ユ キ 「 あんたたち、いつの閲に強くなっちゃったの? 」
①恋愛願望キリ丸「へ一?」
第 一 に 、 女 の 子 が 主 人 公 の 番 ト モ ミ 「 やっぱり男の子処いつかは負 けるとはお#〕っていたけど」
組において、しばしば登場人物キリ丸「俺
たち、くの一教室に勝つち・ったの?」
乱太郎「そうみたい」
が恋愛にあこがれる場面がみらおしげ「しんベヱさま、すてき一」
れた・たとえば、「セーラームしんベヱ「うわ一、おしげちゃんに勝った、勝った」(とびあがる)
−ンSS」では、恋愛小説を読(信じられな
いという表情の乱太郎、キリ丸)
ユキ「あなたたち#》素直に喜んだらどうなの? 」
んだ女の子の登場人物が、「私乱太郎「そうか、私たちもいつのまにか実力がついてたんだ。」
もあんな激しい恋がしてみたいトモミ「量-クー主ユー且這垂泣望L=_L』」
キリ丸「ようし、今日から自信を持つぞ−」
わ」と言う場面がある。この場乱、キ、し「お一つ」(拳を砿り上げる)
面では、登場人物たちのほとんくの一「うふふふふ」
42
テレビ・アニメ番組にあらわれた女性像・男性像の分析:藤田
どが恋愛小説を読んでおり、感
動に涙する。その小説を読んで
例6「とんでぶ・一りん」策1巻節l話
(脚
ドで。光一、薫と歓談している。果林あわてて卿れる。)
光一一「へ一、そうなんだ一。」
いなかった「レイ」は、茶化す
薫「 あの一、これ、あたしが焼いたクッキーなの。・リーッカー部の みんなで食べて。」
一方で、自分は流行に「遅れ
光一「サンキュー、日高。練習が終わるとハラペコなんだ−。みんな喜ぶよ。じゃ。」
ているんじゃないかしら」と
(二人、手を振って別れる)
果林、光一が自分の方へ向か-』てくるのであせる
思う(9)。
②男の子に「尽くす」女の子
第二に、女の子があこがれの
光一「あれ一。何やってんだよ、こんなところで」
果林「え、ああ、あ、ほら、職員室呼ばれちゃって−、アハハ」
(以.下略)
異性あるいは恋人のためにさま
ざまなことをしてあげる場面が
みられた。たとえば、「うる星
例7「とんでぶ-−りん」節1巻第1話
(放課後)
・リーソカー部の練習
やつら」では、インベーダーの
娘「ラム」が、「あたる」のた
めに学校へ彼を迎えに行くな
光一、シュートを1J、ち、ゴールを決める
采林、真美、下校‘│』。足を止めてサッカー部の練習を見ている。
果 林 「 あ た しもお菓子の作り方でも習おうかな= 」
真美「なにそれ、急に」
ど、「ダーリン」(=「あたる」)
果林「な、なんでもない、 ただね、もうサニーしあたしも女の子
に献身する場面が描かれてい
た
。
堕し血空たらな−って」
真美「変に女の子らしい果林なんてなんか似合わないよ。
果林には果林の良さがあるんだから。」
また、「とんでぶ−りん」で
は、主人公「果林」の同級生
「菫」が、「光一」にクッキーを
果林「あたしの良さ?」
(光一の「こぶたってところが国分らしいよな一」という言葉を思いだし)
果林「ちが一う!」
真美「ど、どうしたの?」
焼いて持っていく(例6参照)。
「果林」は、二人の様子を偶然
果躰「え、あ、なんでもないな‐-い!」(走り去る)
(以下雌)
目撃し、彼女をうらやましく思
う
。
③恋愛対象になるための「女らしさ」
登場人物の中には、恋愛対象となるためには一定の「女らしさ」が必要ではないだろうか、
と悩む者もいた。たとえば、「とんでぶ−りん」の「果林」は、明るく元気で、仲間の人気
者である。しかし彼女は、そんな自分の性格が「女の子らしくない」ためにあこがれの同級
生「光一」に恋愛対象としてみてもらえないのではないかと考えている。彼女は、「光一」
に振り向いてもらうために、「お菓子の作り方でもなら」い、「女の子らし」い自分になりた
いと考える。親友が「果林には果林の良さがあるんだから」と彼女を励ましても、「光一」
との恋愛関係を基準に考える彼女はそれを聞き入れない(例7参照)。
④結婚に関する話題
女の子の登場人物に関して、その登場人物がいずれ結婚することを想定した発言がみられ
た。たとえば、「うる星やつら」の「ラム」は、主人公「あたる」の「結婚・・・結婚」と
いう独り言を自分へのプロポーズと勘違いし、彼の言葉を受け入れ、「一生ダーリンと添い
遂げるつちや」と言う。
また、「魔法使いサリー」では、「サリー」の父が、まだ子どもである娘の結婚を心配する
43
子ども社会研究2号
場面がみられた。彼は、サリーの同級生「ケンー」が娘と仲良くしているのをみて、娘が
「ケンー」と結婚するのではないかと心配し、「ケンー」と「サリー」を引き離そうとする。
しかし、「ケンー」が親孝行で真面目な少年であることを知り、「わしの跡継ぎにしたいくら
いだ」、すなわちサリーの結婚相手にしたいく.らいだ、と言う(10)。
V要約および考察
分析結果の要約は、次の通りである。
(1)ほとんどの作品において、男性の登場人物が多く見られた。この傾向は、子どもの登場人
物についても同様であった。(仮説①)
(2)大人の登場人物の職業については、男性は何らかの職業を持つ者が多く、職種も多様であ
った。女性は主婦・母親として登場する者が多い。1990年代の番組では、他の番組に比べ
て女性の職種は多様になっていた。(仮説②)
(3)主要な登場人物の特徴をみると、女の子は、最近では腕力などが強い者も登場するが、全
体としては「かわいい」者が多い。男の子の主人公は、ヒロインがあこがれるハンサムで
優しい男の子と、外見が普通で失敗をよくする男の子に二分された。(仮説③)
(4)男の子が強く女の子が優しい、または弱い、という組合せは、放送年代を問わずみられた。
1990年代の番組においては、男の子より強い女の子も登場していた。しかし、この女の子
は、好きな男の子の前では「かわいい」存在であった。(仮説④、⑤)
上記の結果を踏まえ、若干の考察をしよう。
第一に、登場人物数および職業における、性別によるステレオタイプについてである。本
分析で対象とした番組においては、おおむね女性の登場が少なかった。また、大人の男性は
職業を持ち、女性は主婦または母親として登場することが多かった。これらは、マス・コミ
ュニケーション研究でみいだされた成果と対応するものであった(11)。
第二に、女性像・男性像は変化していたかどうかについてである。本分析対象の範囲で比
較した結果、女性像については、変化したと考えられる特徴がみいだされた。すなわち、
1990年代の番組では、「かわいい」外見的特徴を持つ女の子が力で男性を打ち負かす場面が
みられたこと、わずかではあるが職業を持つ女性の増加がみられたことである。一方、男性
像については、女性像ほど顕著な変化がみられなかった。このことより、テレビ・アニメ番
組においては多様な女性性が提示されつつあるのに対し、男性像に関しては相変わらず一定
のパターンしか提示されていないことが考えられる。今回みいだされた女性像の変化は、女
性の就労の増加、男性の家事役割を支持する傾向が増大する('2)など、社会において期待さ
れる性役割が変化しつつあることと関連があるのではないだろうか。
第三に、「関係性」、特に恋愛関係からみた女性像・男性像についてである。恋愛の対象と
なる男の子はかっこよくて優しいといった特徴がみいだされた。また、具体的場面の検討に
おいても、女の子が男の子に「ふりむいて」もらうために「かわいい」特徴を持つ必要があ
ると感じる場面がみいだされた。この結果より、少女小説と同様に子どもを対象としたテレ
44
テレビ・アニメ番組にあらわれた女性像・男性像の分析:藤田
ビ・アニメ番組においても、恋愛をモチーフとしたかたちで、女性性・男性性に関するステ
レオタイプ的な観念が提示されていることが推測される。
最後に、本稿を締めくくるにあたって、本分析から得られた課題を若干示す。まず、本分
析より得られた仮説について、対象番組を拡大して詳細に検討する必要があると考えられる。
すなわち、子どもを対象としたテレビ・アニメ番組において、男の子が女の子に比べて画一
的な人物描写がされているかどうか、恋愛をモチーフとした女性性・男性性に関するメッセ
ージはみいだされるかどうか。さらに、番組にあらわれた女性像・男性像に関する描写は、
実際に子どもに影響を与えているかどうかを考察する必要があると考えられる。そのために、
受け手である子どもたちを対象に、テレビ・アニメ番組の選好、内容に対する反応と彼(彼
女)らの性役割観の発達との関連について分析を行う必要があろう。
注
(1)教育社会学研究におけるジェンダーと教育の問題に関するレビューは、天野1988、森1992でレビュ
ーされている。
(2)1986年における種目別テレビ視聴量(関東、夜間)のうち、アニメの割合は昭和60年で34%であ
り、他の種目(ドラマ、スポーツなど)の倍以上である(無藤編1987,18頁で紹介)。
(3)「関係性」としてのジェンダーに注目した分析としては、宮崎1993、Kesslereta1.1995、などを参照。
(4)木村(1993)は、Chnstian-Smithの分析枠組みを用いて、日本における少女小説の分析を試みた。彼
女は、日本の少女小説においては、上記の三つのコードの他に「精神的成長のコード」といえるべき
ものが抽出される、と述べている。
(5)この結果、「男の子向け」とされる2番組、「女の子向け」と考えられる4番組、男の子にも女の子
にも好まれると考えられる7番組が選ばれた。「女の子向け」番組がやや多いとも考えられるが、少な
くとも1990年代のものに関しては、幼稚園児や小学生に支持される典型的な番組が抽出されたと考え
られる。
(6)したがって、今回は「名作もの」「スポーツもの」は分析の対象から除外した。
(7)1960年代から]980年代にかけての番組は、ビデオの入手の困難さから、わずか4番組にとどまった。
また、1970年代の番組は分析対象に含めることができなかった。このため、厳密な意味での時系列的
比較はできないが、本稿ではあくまでも参考として、1990年代と他の年代の番組の比較を行う。
(8)「美少女戦士セーラームーンSS」1995年5月27日放送。
(9)同上、1995年5月13日放送。
(10)「魔法使いサリー」第7巻第1話。
(11)マクウェールによると、マス・コミュニケーション研究においては、メディアの内容が社会的「上
層部」の人を強調しすぎる傾向、少数集団や外集団に関するステレオタイプを用いる傾向にあること
などが明らかにされている(McQuaill983,訳書1985、pp.155-156.)。
(12)3世代の女性の性役割観を検討した結果によると、若年女性は、男性の家庭役割分担にはもっとも
平等的な考えを持つ傾向にある(高橋1983)。
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