日 本 に お け る 持 続 可 能 な 開 発 目 標 に 対 す る 市 民 の 関 心 の 計 測 と 分 析 ア ン ケ ー ト 調 査 結 果 に 基 づ く 関 心 の 規 定 要 因 の 考 察 Analysis of Citizen s Priorities over Sustainable Development Goals in Japan ○ 池 田 和 弘 * ・ 鈴 木 政 史 * * ・ 草 郷 孝 好 * * * ・ 原 圭 史 郎 * * * * ・ 上 須 道 徳 * * * * Kazuhiro I keda, M asachika S uzuki, T akayoshi K usago, K eishiro H ara a nd M ichinori U wasu 1 . は じ め に ポ ス ト 2015 年 開 発 目 標( ポ ス ト MDGs)の 設 定 に 向 け た 国 際 的 な 交 渉 が 進 ん で い る 。リ オ + 20 の 結 果 を 受 け て 持 続 可 能 な 開 発 目 標 ( SDGs) の 設 定 の 議 論 も 進 ん で い る 。 一 方 、 MDGs や SDGs の 恩 恵 を 受 け る は ず の 一 般 市 民 が ど の よ う な 社 会 的 目 標 や タ ー ゲ ッ ト に 関 心があるかという調査は十分に進められてきたとは言いがたい。このような調査は国連の 「 My World 2015」 サ ー ベ イ な ど に 限 ら れ て い る 。 ま た 従 来 の MDGs の 目 標 設 定 の 対 象 は 主 に 途 上 国 に 限 ら れ て い た が 、ポ ス ト MDGs に お い て は そ の 対 象 と し て 先 進 国 も 含 め る と いう議論が強く、日本を含めた先進国の市民が生活の中でどのような課題に関心があるか という調査が必要である。 2 . 調 査 方 法 本 研 究 は 日 本 に お い て 持 続 可 能 な 開 発 目 標 に 関 す る ア ン ケ ー ト 調 査 (n=1,855)を 実 施 し 、 25 の 社 会 的 課 題 に 対 す る 一 般 の 市 民 関 心 を 測 定 す る と 共 に 、 課 題 へ の 関 心 と 属 性 ( 性 別 、 学歴、収入既婚、子供、都市移住)及び幸福度との関係を調査する。 3 . 分 析 結 果 は じ め に 、 「 あ な た の 今 の 生 活 に 足 り て い な い 問 題 は ど れ で す か 」と い う 質 問 へ の 回 答 傾 向 を み る 。こ の 設 問 は 調 査 者 側 で 予 め 設 定 し た 25 の 項 目 に つ い て 、充 足 さ れ て い な い と 思 う問題から順に5つ挙げてもらったものである。これを複数回答処理した上で単純集計し た結果が表1である。雇用促進や経済成長など経済や家計に関する項目に回答が集まる中 で、再エネ導入が上位につけ、資源の有効活用、大気汚染や温暖化への対策など、環境へ の関心も根強く存在することが分かる。また、災害対策、犯罪抑制のように安心・安全に 関わる項目への関心も高く、レジリアンスの問題も反映されているものと推察できる。 一 方 、表 1 に は 表 示 し て い な い が 、 「 極 度 な 貧 困 状 態 に あ る 人 を な く す 」や「 安 全 な 飲 み * 上 智 大 学 大 学 院 地 球 環 境 学 研 究 科 Graduate School of Global Environmental Studies, Sophia University 〒 102-8554 東 京 都 千 代 田 区 紀 尾 井 町 7-1 TEL:03-3238-4176 E-mail: [email protected] ** 上智大学大学院地球環境学研究科 *** 関西大学社会学部 **** 大 阪 大 学 環 境 イノベーションデザインセンター ***** 大 阪 大 学 環 境 イノベーションデザインセンター 注 :本 論 文 の著 者 の本 研 究 への貢 献 度 は並 び順 とは関 係 がなく平 等 である。 水 へ の ア ク セ ス を 確 保 す る 」 と い っ た 従 来 の MDGs の 課 題 に 対 す る 関 心 は 高 く な か っ た 。 こ の 結 果 は 従 来 の MDGs の 目 標 設 定 で は 先 進 国 の 課 題 を カ バ ー で き な い こ と を 示 唆 し て い ると考えられる。 表 1 今 の 生 活 に 足 り て い な い 問 題 ( 単 純 集 計 、 複 数 回 答 ) ᅇ⟅ᩘ 㻢㻝㻤 䠂 㻟㻟㻚㻟㻑 ᣢ⥆ྍ⬟䛺䜶䝛䝹䜼䞊䠄䜶䝛䛺䛹䠅䛾ᑟධ䜢㐍䜑䜛 ⅏ᐖ䛛䜙㌟䜢Ᏺ䜛♫䜢ᵓ⠏䛩䜛 㻡㻠㻣 㻡㻝㻥 㻞㻥㻚㻡㻑 㻞㻤㻚㻜㻑 㻠 㻡 ⤒῭ᡂ㛗䜢ᣢ⥆䛩䜛 ≢⨥䜔ᭀຊ䛾ᑡ䛺䛔Ᏻ䛻ᬽ䜙䛫䜛♫䜢ᵓ⠏䛩䜛 㻡㻜㻞 㻡㻜㻝 㻞㻣㻚㻝㻑 㻞㻣㻚㻜㻑 㻢 㻣 㝈䜚䛒䜛㈨※䜢᭷ຠά⏝䛩䜛 Ẽởᰁ䜢๐ῶ䛩䜛 㻠㻥㻥 㻠㻢㻢 㻞㻢㻚㻥㻑 㻞㻡㻚㻝㻑 㻤 ᬮ䛜㐍䜎䛺䛔䜘䛖䛻 ᐊຠᯝ䜺䝇䜢๐ῶ䛩䜛 㻠㻠㻤 㻞㻠㻚㻞㻑 㻝 ඃⰋ䛺㞠⏝䜢ಁ㐍䛩䜛 㻞 㻟 㻖㻌㻺㻩㻝㻤㻡㻡 次 に 、 各 項 目 へ の 回 答 を 被 説 明 変 数 と し た ロ ジ ス テ ィ ッ ク 回 帰 分 析 を 行 っ た 。 表 2 の 結 果が示すように、モデル・χ2 値は災害対策、経済成長、犯罪抑制の3項目において統計 的に有意を示さなかった。その他の項目においては、雇用促進では収入と幸福度、再エネ 導 入 で は 年 齢 、学 歴 、収 入 、資 源 活 用 で は 幸 福 度 、大 気 汚 染 で は 性 別 、幸 福 度 、都 市 居 住 、 温暖化では年齢、性別、収入、幸福度の影響が、それぞれ統計的に有意であった。 表 2 今 の 生 活 に 足 り て い な い 問 題 へ の 回 答 を 規 定 す る 要 因 ( ロ ジ ス テ ィ ッ ク 回 帰 分 析 ) ᖺ㱋 ⏨ᛶ䝎䝭䞊 ༞䝎䝭䞊 ධ ᪤፧䝎䝭䞊 Ꮚ౪䝎䝭䞊 ᖾ⚟ᗘ 㒔ᕷ䝎䝭䞊 ᐃᩘ 㻾㻞 䃦㻞㻔㼐㼒㻩㻤㻕 㻺 㞠⏝ಁ㐍 㻮㻌 䌦㻌㻚㻜㻜㻞 㻚㻜㻡㻤 㻚㻝㻠㻠 䌦㻌㻚㻜㻣㻣 䌦㻌㻚㻝㻤㻢 㻚㻜㻢㻥 䌦㻌㻚㻝㻜㻣 䌦㻌㻚㻜㻡㻞 㻚㻡㻝㻞 㻚㻜㻠㻠 㻡㻝㻚㻠㻟㻞 㻝㻢㻝㻣 䜶䝛ᑟධ 㻮㻌 㻚㻜㻝㻣 㻖㻖 㻖㻖㻖 㻖㻖㻖 㻖 㻖㻖㻖 䌦㻌㻚㻜㻤㻣 㻚㻟㻣㻡 㻚㻜㻟㻟 㻚㻞㻟㻝 㻚㻜㻝㻢 䌦㻌㻚㻜㻜㻟 䌦㻌㻚㻜㻟㻥 䌦㻞㻚㻜㻣㻟 㻚㻜㻟㻥 㻠㻠㻚㻣㻜㻠 㻝㻢㻝㻣 㻖㻖 㻗 㻖㻖㻖 㻖㻖㻖 ⅏ᐖᑐ⟇ 㻮㻌 㻚㻜㻝㻜 㻖 䌦㻌㻚㻟㻡㻜 㻖㻖 㻚㻝㻣㻡 㻚㻜㻜㻢 䌦㻌㻚㻝㻝㻥 㻚㻝㻠㻣 䌦㻌㻚㻜㻞㻜 㻚㻜㻥㻡 䌦㻝㻚㻞㻠㻝 㻖㻖㻖 㻚㻜㻝㻜 㻝㻝㻚㻡㻞㻤 㻝㻢㻝㻣 ⤒῭ᡂ㛗 㻮㻌 㻚㻜㻜㻜 㻚㻜㻟㻤 㻚㻟㻞㻤 㻖㻖 䌦㻌㻚㻜㻞㻝 䌦㻌㻚㻜㻜㻥 㻚㻝㻝㻥 䌦㻌㻚㻜㻞㻠 㻚㻜㻡㻜 䌦㻌㻚㻥㻡㻞 㻖㻖㻖 㻚㻜㻜㻥 㻥㻚㻤㻣㻥 㻝㻢㻝㻣 ≢⨥ᢚไ 㻮㻌 㻚㻜㻜㻠 㻚㻜㻡㻠 㻚㻝㻠㻞 䌦㻌㻚㻜㻟㻜 㻚㻟㻝㻟 㻗 䌦㻌㻚㻜㻡㻝 䌦㻌㻚㻜㻞㻟 㻚㻝㻣㻥 䌦㻝㻚㻞㻥㻟 㻖㻖㻖 㻚㻜㻝㻜 㻝㻜㻚㻥㻤㻝 㻝㻢㻝㻣 ㈨※ά⏝ 㻮㻌 㻚㻜㻜㻡 䌦㻌㻚㻝㻞㻣 㻚㻝㻞㻡 㻚㻜㻜㻡 㻚㻝㻞㻟 㻚㻝㻜㻡 㻚㻜㻢㻤 㻖㻖 䌦㻌㻚㻜㻥㻝 䌦㻝㻚㻣㻤㻞 㻖㻖㻖 㻚㻜㻝㻡 㻝㻢㻚㻟㻣㻜 㻖 㻝㻢㻝㻣 Ẽởᰁ 㻮㻌 㻚㻜㻜㻞 䌦㻌㻚㻞㻠㻞 䌦㻌㻚㻜㻤㻠 㻚㻜㻜㻟 㻚㻝㻝㻜 㻚㻝㻞㻜 㻚㻜㻡㻟 㻚㻞㻤㻠 䌦㻝㻚㻣㻟㻢 㻚㻜㻝㻣 㻝㻥㻚㻜㻞㻤 㻝㻢㻝㻣 ᬮ 㻮㻌 㻚㻜㻝㻝 㻖 㻗 㻗 㻖 㻖㻖㻖 㻖 䌦㻌㻚㻞㻟㻥 㻚㻜㻝㻜 㻚㻜㻠㻜 㻚㻜㻢㻜 䌦㻌㻚㻜㻜㻥 㻚㻜㻢㻝 㻚㻝㻢㻟 䌦㻞㻚㻞㻡㻠 㻚㻜㻞㻝 㻞㻟㻚㻞㻢㻞 㻝㻢㻝㻣 㻗 㻖 㻖 㻖㻖㻖 㻖㻖 㻖㻖㻖㻌㼜㻨㻚㻜㻜㻜㻝㻘㻌㻌㻖㻖㻌㼜㻨㻚㻜㻜㻝㻘㻌㻌㻖㻌㼜㻨㻚㻜㻜㻡㻘㻌㻌㻗㻌㼜㻨㻚㻜㻝㻜 4 . 考 察 以 上 の 結 果 か ら 、 二 つ の こ と が 言 え る 。 第 一 に 、 今 の 生 活 に お い て 充 足 さ れ て い な い と 評価された項目の中には、どのような基本属性をもつ人からも支持されたものと、ある特 定の属性をもつ人から特に支持されたものの2つのタイプがある。前者は災害対策、犯罪 抑制、経済成長など、広く社会的な営みのベースとなるような項目、すなわち社会資本だ と 考 え る こ と が で き る 。こ の よ う な 項 目 は ポ ス ト MDGs に 向 け て 広 く 市 民 の 間 で 共 通 し た 社会的課題だということができる。第二に、後者に関しては、統計的に有意な影響をもつ 属 性 が そ れ ぞ れ 異 な る こ と が 確 認 で き る 。雇 用 促 進 は 収 入 と 幸 福 度 が 低 い 人 か ら 支 持 さ れ 、 広く貧しさと関係することを示唆している。また、再エネ導入は大卒以上で比較的年齢の 高 い 人 か ら 特 に 支 持 さ れ 、こ ち ら は 知 識 や 責 任 と 関 係 し て い る の で は な い か と 解 釈 で き る 。
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