今も発展途上の暖房空間 - Japan Communications Metalingua

1 日本の暖房のはじまり
日本における暖房には、古くから囲炉裏や火鉢、あんかやこたつなどが使われていた。明治以降には石炭ストーブや薪ス
トーブが、大正から昭和にかけては石油やガスを燃料とするストーブが、国内で生産されるようになったが、依然として火
鉢やこたつなどの個別暖房を使用する家庭が多い時代だった。それは気密性が低く隙間風の多い家の構造に起因していたと
いえる。
第2次大戦後になり、生活様式の変化で火鉢などから部屋全体を暖めるストーブなどの暖房に変化した。石油ストーブ、
ガスストーブ、電気ストーブ、暖炉などがようやく庶民に普及しだした時代である。更にその後、建物の気密化や断熱化が
すすみ、室内空気を使用しない形態の強制給排気型(FF型)温風暖房機なども世に出た。
次に、この時代の暖房機の変遷について振り返る。
2 代表的な暖房機の変遷
(1) スケルトン式ストーブ
大正の中ごろから第2次大戦後しばらくの間、ガスストーブの主流はスケルトン式ストーブ(写
真2-1)だった。土器製のスケルトンにバーナの火炎を当て赤熱させる輻射式の暖房機である。当時
は英国製の輸入品が多くあったが、国内のメーカーも大正の終わりには生産を開始していた。スケ
ルトン式ストーブは1970(昭和45) 年ごろまで販売されていた。なお輻射式ストーブとしては金網
式ストーブもあった。
写真2-1 スケルトン
(2) セラミックプレート式赤外線ストーブの登場
式ストーブの誕生
セラミックプレート式赤外線ストーブの第1号は1957(昭和32)年に誕生(写真2-2)した。
天井吊り下げ型など多彩な使用方法があり、従来の常識を覆す商品だった。
はじめは駅や工場などでの暖房用であったが、スケルトン式ストーブや金網式ストーブが主
流であった家庭用のストーブの分野でもセラミックプレート式赤外線ストーブ(写真2-3)は
1960(写真2-4) (昭和35) 年から商品化された。当時セラミックプレートは海外のメーカー
から輸入して生産していたが、国産化を進めたことで普及が促進された。
燃焼プレートの前面に放射効率を上げるため古くは金網やガラス棒を用いていたが、セラミッ
クプレートの表面に特殊な凹凸を施すことで燃焼面の温度維持が可能となり、ガラス棒が
無くとも放射効率を向上させることができた。現在でも根強い人気がある。
写真2-2 名古屋駅新幹線ホームでの
セラミックプレート式赤外線ストー
ブ(1963(昭和38)年)
写真2-3 国内で初めて商品化された
セラミックプレート式赤外線ストーブ
(1960 (昭和35)年)
写真2-4 当時の記事
(3) 強制給排気型(FF型)温風暖房機の登場
1968(昭和43)年ごろまで学校教室暖房は石炭ストーブが主流だったが、取り扱いが容易で安全
性が高く省エネ性もよい機器が要望された。また建築構造上気密度の高い集合住宅向けの安全なガ
ス暖房機も要望され、1969(昭和44)年にFF型温風暖房機が誕生(写真2-5)した。
その後家庭用の小型タイプの登場で市場に普及し始めたが、公共の建物や集合住宅、寒冷地での需
要が主となった。
写真2-5 FF型温風暖房機
の誕生(1969(昭和44)年)
(4) ガスファンヒーターの登場
1978(昭和53)年より石油ファンヒーターが市場に出回り始め、1980年ごろには約100万台程度流通
していたが、石油より取扱性の良いガスを燃料としたガスファンヒーターが1980(昭和55)年に商品
化(写真2-6)された。石油ファンヒーターに比べ燃料補給の手間が無く、直ぐに温風が出て、点火消
火時のにおいが少ないことやガスファンヒーターにクロスフローファン方式が採用され静音設計であ
ったことが快適な室内空間を提供する商品ということで好評だった。
1988(昭和63)年にはマイコンを搭載し、ガスの比例制御によるきめ細かな温調を実現したガス
ファンヒーターが登場した。
写真2-6 ガスファンヒータ
ーの誕生(1980(昭和55)年)
その後、室内空気環境にユーザーの関心が高まる中、1990(平成2)年には
簡易な電気集じん式空気清浄機能を搭載した商品(写真2-7)が登場し、また1998
(平成10)年には日本電機工業会の家庭用空気清浄機基準に適合した能力を持
つガスファンヒーターも登場した。
安全安心で使いやすく更に人に優しい商品を目指し、いろいろな機能を搭載
した商品が発売されている。お部屋に浮遊するカビ菌などを除去する「除菌イ
オン機能」の搭載商品(写真2-8)や「音声機能」搭載商品、またインテリア感
覚の「スタイリッシュデザイン」商品など、居室の快適空間を考え常にフ
写真2-7 空気清浄機付フ
写真2-8 最新型ファンヒ
ァン
ァンヒーター(1998年)
ーター(除菌イオン機能付)
ヒーターは進化している。
3 暖房の進化(セントラルヒーティングシステムの誕生)
暖房の進化は、これまで述べたように住宅の気密化・断熱化の進展に密接に関わっている。一方で、風呂の追いだきと給
湯が一体となった全自動給湯付きふろがまが家庭に普及したのに伴い、この機能を有し、更に暖房機能を付加した給湯暖房
機が誕生した。これが住宅の気密化・断熱化の進展と相まって、家庭における床暖房を始めとするセントラルヒーティング
システムの普及に大きく寄与した。次に、床暖房を始めとする放熱器の歴史について振り返る。
4 床暖房の誕生と普及
(1) はじまり
現在、床暖房は「柔らかい暖かさ」「運転音「頭寒足熱」のない静かさ」ということで好感を持た「家族が集まる」れ、
新築の一戸建てやマンションで広く普及し、実際に自宅に設置していなくても、知人の家などを含めて少なからずどこかで
身近なものとして体感している人がほとんどである。
床暖房そのものは朝鮮半島で高麗(10世紀~13世紀)の時代に「オンドル」として歴史が始まったと言われている。日本
においても8世紀ごろの住宅に朝鮮式の床暖房に似た方式の住居跡が確認されているが、日本の住宅は日本独特の気候の関
係上、非常に通気性の良い(隙間だらけの)家であったために囲炉裏、火鉢や掘りごたつといった「採暖」が暖房方式の主
流だった。
今我々に馴染みのある床暖房はどのように生まれて、どのように発展してきたであろうか?
(2) 創成期
現在、日本で使われている方式の床暖房は1960年代に住宅用としてではなく、路面の凍結を防止する為に道路の中に電熱
線を埋設するということから始まった。建築物の床暖房として登場するのは1965(昭和40)年に神奈川県庁会議場が最初と
言われている。その後、企業のオフィスや工場、施設に導入されるものの、コストが高いため、一般の住宅に採用されたの
は1970(昭和45)年になってからである。1975(昭和50)年にはガスセントラルヒーティングの暖房端末として温水式の床
暖房(床パネル)が登場し、その後の床暖房は電気式、温水式ともに幼稚園や学校、また企業には採用されるものの住宅分
野では長い間、伸び悩んでいた。
(3) ターニングポイント
ガス会社ではガス温水式床暖房を戦略商品と位置付け、その標準化を目指していた。即ち、米国の「ダクト空調」、欧州
の「ラジエータ」、韓国の「オンドル」のように日本の「床暖房」という文化を形成しようとした。北海道で見つけた温水
マットにヒントを得て、まずカーペット方式の床暖房を作りあげた。当時住宅の粗床の上に8mmぐらいのフェルトを敷き、
その上にカーペットを貼りつける方式が流行していたが、このフェルトの代わりに温水マットを入れ、パイプを床下に配し
て熱源機とつなぐという施工性のよい安価な方式を開発した。温水のパイプもコストの安い樹脂にして1987(昭和62)年に
発売した。しかしながら、ちょうどこの頃、住宅構造がカーペット仕上げからフローリング仕上げに移行した時期であり、
当時テレビで「カーペットはダニの巣窟」と放送されたことも影響し、市場ではフローリング対応の床暖房が求められた。
床材に使う木と熱はもともと相性が悪く、床材に熱を加えると、曲がったり、割れたり、隙間が空いたりする。ガス会社
では床材の評価手法を確立し、基準を作成し、ようやく1988(昭和63)年にフローリング用の床暖房を投入した。
(4) 成長期
床暖房のマーケットができはじめたのを見て、それまで消極的だった床材メーカーがこの時期以降積極的に参入し始め、
その結果、床暖房仕上げ材として使用できる床材が増えた。それ以降、住宅の床材はフローリングが一般化し、さらに品質
改善や床暖房に適したタイル・コルク、合成樹脂系のたたみなど商品品揃え・多様化により ― 需要増 ― 生産増― とい
う好循環の形で、床暖市場は大きく膨れ上がっていった。 このような背景の中、電気式の床暖房も一気に売れるようにな
ってきたが、ランニングコスト面で温水式の床暖房を上回れないでいた。そこで深夜電力を利用した蓄熱式床暖房等が市場
に投入された。最近ではPTC式(温度が上昇すると発熱量が減少する発熱体)の床暖房も登場した。このPTC式も最初は屋根
の雪を溶かす為に外部に設置されていたが2000年頃から室内用として登場し、リフォームにも対応しやすいと言うことで採
用率が次第に高まってきた。
(5) 成熟期
1999(平成11)年にガス会社よりリフォーム用温水床暖房が販売開始され、既築分野への床暖普及が本格的にスタートし
た。またガス会社はこの時期に新築向けに施工性を格段に改善させた「小根太付きハード温水マット」を販売開始し、さら
に販売を伸ばした。最近では首都圏の 新築マンションのほぼ8割で採用されるなど、都心部のマンションでは床暖房がデ
ファクトスタンダード(事実上の標準)の設備になりつつあると言える。
また、オール電化住宅の普及に伴い、電気式においてもヒートポンプ式温水床暖房方式が採用されるケースが多くなった。
ヒートポンプ式床暖房は1983(昭和58) 年に冷媒を直接床に流すタイプが発売されたが、現在は温水式が主流となってい
る。ヒートポンプ式温水床暖房は大気熱を利用して温水を得るために、COP(エネルギー消費効率)が高く、ランニングコ
スト面で優れ、エアコンと組み合わせる「エアコン併用タイプ」と給湯機を多機能化し給湯暖房、風呂機能を有する「多機
能タイプ」の2種類がある。
(6) 安定期
現在、床暖房(写真4-1)は新築住宅においては主暖房の一つとして当たり前に選択されるようになり、使用実態調査に
おいても満足度の高い商品にまで成長した。多様化する床材、床工法に対応するために基準を作成し、床材評価試験により
相性確認を行って、随時、床材、床工法のバリエーションを拡大している。床暖房は今後、リフォーム向けへの展開、高効
率化、リモコンの付加価値向上(デザイン性、機能性)、床材の更新性向上と更に進化していくものと思われる。
写真4-1 床暖房
5 浴室暖房の普及
浴室暖房乾燥機は浴室に設置し「衣類乾燥」「浴室乾燥」「涼風」「24時間換気」と「暖房」「換気」「ミストサウナ」
多機能を盛り込んだ設備機器として位置づけられている。このように1台で各種機能を提供する設備機器は極めて日本的な
設備機器といえ、海外ではこのような商品はない。
浴室暖房乾燥機は1980年代中頃にガス温水式、電気式が浴室への付加価値商品として発売された。日本の住宅はスペース
が少ないため、当時は入浴時以外にデッドスペースとなる浴室を乾燥スペースとして有効に利用することを目的に、乾燥メ
インの商材として扱われていた。
1990年代後半より入浴死が問題になり、浴室における温度バリアフリーの考え方が広がり、一般的な設備として認知され
るようになった。
住宅の高気密化、室内空気汚染に対する関心の高まり、また品確法の導入に伴い、常時小風量を排気することにより計画
換気を行う24時間換気のニーズが高まり、1998(平成10)年に24時間換気機能が追加された。また2003(平成15)年、建築
基準法の改定でシックハウス対策として24時間換気が義務化されることにより、
24時間換気機
能を有した浴室暖房乾燥機は、集合住宅を中心にさらに定着が進んだ。
2004年にガス会社において浴室暖房乾燥機の付加価値機能としてミストサウナが投入され
た。
浴室暖房乾燥機が持つ温風暖房とミスト噴霧による浴室加湿より一般家庭でも気軽にサウ
ナを楽しむことが可能になり、
またミストサウナ後の浴室乾燥については浴室暖房乾燥機の乾
燥機能を使うことにより1台でミストサウナを完結させることが可能になった。
現在、浴室暖房乾燥機(写真5-1)メーカーはガス温水式、電気式ともに新築/リフォーム、
ユニットバス/在来浴室と各種ターゲット向けに細かい商品ラインアップを揃えて、
さらなる
普及拡大に努めている。
写真5-1 浴室暖房乾燥機
6 省エネルギーへの取り組み
近年は、これまで見てきたような、床暖房、浴室暖房を始めとする快適な住環境の実現の一方で家庭内のエネルギー需要
の半分以上を給湯と暖房が占めるようになり、省エネルギー化が地球温暖化対策においても重要と認識されつつある。この
ため、床暖房や浴室暖房を行う際のお湯を作り出す部分にも一層の効率改善が求められるようになり、これらの手段として
①潜熱回収型給湯暖房機(ガス)(写真6-1) ②家庭(図6-1)用ガスエンジンコージェネレーションシステム(ガスエン
ジンによる発電と排熱によるお湯利用)(写真6-2) ③CO2 冷媒ヒートポンプシステム(大気中の熱と冷媒の熱によるお湯
利用)(写真6-3)④燃料電池システム(都市ガス、プロパンガス利用による発電と排熱によるお湯利用)等がある。(写
真6-4)
快適な生活空間の提供とともに、厳しい環境問題から再び、熱源機を意識して取組まざるを得なくなり、家庭用エネルギ
ー利用をより総括的に判断していく方向に新しい展望が開けつつあるように思われる。
図6-1 潜熱回収型給湯機の高効率維持の概要
写真6-1 潜熱回収型給湯機器
写真6-2 家庭用ガスエンジンコージェネレーションシステム
写真6-3 CO2 冷媒ヒートポンプシステム
写真6-4 燃料電池システム
1975(昭和50) 年度の建設省(現 国土交通省)「住宅生産工業化促進費補助制度」による開発課題に、暖房システムが取り上げられた。
当時施工が大掛かりで、コストが高いことから一般住宅への普及が遅れていたセントラルヒーティングシステムに、低コストで快適な環境
の実現を目標に試作、検証が行われた。この成果を踏まえ、1977 (昭和52) 年各室暖房、各戸セントラル暖房、住棟セントラル暖房の3
区分からなる暖房システムのBL 部品化が行われた。
セントラルヒーティングシステムは、この開発試作とBL 部品化の中で、コスト低減化はもとより、省スペース化、施工の確実性や容易
性の面で画期的な改善がなされ、一般住宅への普及が大きく期待される設備部品となり、住宅金融公庫(現 住宅金融支援機構)の割増融
資対象部品(1980 (昭和55) 年) となったことや、住宅・都市整備公団(現 都市再生機構)が標準設備として導入(1984 (昭和59) 年)
したことなどを受け、年々着実に実績を伸ばし、認定の対象を冷房にまで拡げつつ現在に至っている。
セントラルヒーティング(温水式)を中心にスタートした暖房システムも、第1回の認定より30 年近くが経過し、この間、1982 (昭和
57) 年には温水床暖房システムの開発、試作(1980 (昭和55) 年、1981 (昭和56)年度実施)の成果を受け、温水床暖房の基準が整備
されるなど、製品技術の向上やサポート技術の開発等が行われた。その結果、熱源機器、端末機器等の改良や新機種、新機能の追加等バリ
エーションも豊富になるなど、当時に比べ選択の幅も大きく拡大されている。
また、近年の地球温暖化防止に対応し、熱源機には排熱を再利用して暖房給湯を行う高効率な潜熱回収型熱源機やガスエンジンによる発
電と排熱による暖房給湯を可能としたガスエンジンコージェネレーションシステムが登場し注目を集める中、(財)ベターリビングでもこ
れらの機器及びシステムについて、環境の保全に寄与する特長を持つBL-bs 部品として認定を実施している。なお、(財)ベターリビング
では、これらの機器及びシステムのいっそうの普及を目指し、2006 (平成18) 年よりブルー&グリーンプロジェクトを展開し、出荷量に
応じ、財団法人国際緑化推進センターが運営する熱帯林造成基金の森林造成事業に資金を提供し、同推進センターの管理の下、ベトナムで
植樹活動を進めている。