図説薬理学 Pictured Pharmacology - Hi-HO

図説薬理学
Pictured Pharmacology
薬の作用点
レセプター
宮崎大学農学部家畜薬理学講座
伊藤勝昭
禁:無断転載
Copyright: Katsuaki Ito
Veterinary Pharmacology
University of Miyazaki
このファイルは学生が講義で聞いた内容を正確に、より深く理解するために作られたもので、教
科書の補助資料です。ファイルの内容の無断転載を防ぐため、プロテクトがかかっています。し
たがってコピー、印刷はできません。
伊藤勝昭(宮崎大学農学部家畜薬理学講座)
[email protected]
1
薬の作用点
細胞の働きに関係する蛋白質
細胞膜
受容体
酵素
イオンチャネル
細胞質
細胞内受容体
細胞内小器官
細胞内イオン
Na+, K+, Ca2+, Cl-
薬の作用に選択性があるというときは、薬が特定の受容体、酵素、イオンチャネ
ルに作用する場合である。受容体、酵素、チャネルは細胞膜と細胞内小器官にあ
る。
以下、それぞれについて詳しく説明する。
2
薬の作用点
カプトプリル
AII
AI
阻害
X
酵素に作用する薬
血管収縮
アルドステロン分泌
高血圧
細胞膜
細胞質
アンジオテンシン変換酵素
酵素を阻害する薬の例としてアンジオテンシン変換酵素阻害薬カプトプリルをあげる。
アンジオテンシン変換酵素は不活性なアンジオテンシンIをアンジオテンシンIIに変換し、
アンジオテンシンIIは血管収縮やアルドステロン分泌を起こし、それが原因で高血圧に
なったり、心不全が悪化することがある。したがってアンジオテンシンII生成を抑制する
カプトプリルは高血圧や慢性心不全の治療薬として用いられる。
3
薬の作用点
イオンチャネルに作用する薬
Na+イオン
テトロドトキシン →活動電位
発生を抑制
細胞膜
Na+チャネル
細胞質
イオンチャネルに作用する物質の例としてフグ毒テトロドトキシンをあげる。テ
トロドトキシンは神経や筋肉にある電位依存性Naチャネルに細胞外から蓋をする
ように入り込み、Na+の流入をブロックし、神経や筋肉の興奮を抑える。テトロド
トキシンは薬としては使われないが、Naチャネルの機能を解明するのに多大の貢
献を果たした。薬としてチャネルをブロックする物質には電位依存性カルシウム
チャネル遮断薬であるベラパミルやニフェジピンがある。
4
イオンチャネル
• 電位依存性チャネル
細胞内電位の変化で開閉
例:電位依存性Na+チャネル、電位依存性Ca2+チャネル、
電位依存性K+チャネル
• リガンド作動性チャネル
リガンド(ホルモン、神経伝達物質など)が結合すると開く
例:ニコチン受容体チャネル、GABAA受容体チャネル
グリシン受容体チャネル、小胞体Ca2+遊離チャネル
イオンチャネルには様々な種類がある。大きく分けると細胞膜電位の変化で
チャネルのゲートが開閉する電位依存性チャネルと特定の物質が結合すること
で開閉が制御されるリガンド作動性チャネルになる。
5
受容体(レセプター)
イオンチャネル内蔵
イオン移動
シグナル伝達系(細胞内情報伝達系)
G蛋白
セカンド
メッセンジャー
チロシンリン酸化
イオン動員
蛋白リン酸化
イオン動員
蛋白リン酸化
薬の作用点として最も重要なのは受容体(レセプター)である。レセプターは
細胞が外からの情報を受け取る郵便箱のようなもので、その情報を細胞内に伝
達すると、細胞は外界の変化に対応するよう独自の反応を起こす。その反応に
は細胞内イオン濃度変化、特定の機能タンパク質のリン酸化などがあり、その
ためそれぞれのレセプターは異なる種類のシグナル発生機構を持っているか、
シグナル発生機構に連結している。
※外からの情報を伝える物質(ファーストメッセンジャー)としてはホルモン、
神経伝達物質、オータコイド、サイトカイン、細胞増殖因子、抗体などがある。
6
受容体の種類
¾ 細胞膜受容体
イオンチャネル内蔵型受容体
ニコチン、GABA、グリシン
GTP結合蛋白質共役型受容体(7回膜貫通型)
α1、β、ムスカリン、H1、H2、AT1
チロシンキナーゼ型受容体
細胞外から来た
インスリン、増殖因子
ホルモンが
¾ 細胞内受容体(核受容体)
ステロイドホルモン受容体
甲状腺ホルモン受容体
¾ 細胞内小器官受容体
イノシトール3リン酸(IP3)受容体
(筋小胞体)
アゴニスト
この2つの
違いは?
細胞内で作られる
セカンドメッセンジャーが
アゴニスト
受容体の多くは細胞膜にあるが、ステロイドホルモンや甲状腺ホルモンは細胞内
に入りやすいため細胞内に受容体がある。また細胞内で産生されるセカンドメッ
センジャーの受容体が筋小胞体など細胞内小器官にある。細胞膜受容体はイオン
チャネル内蔵型受容体(イオノフォア型受容体)、GTP結合タンパク質共役型受
容体、チロシンキナーゼ型受容体がよく知られているが、ほかにグアニル酸シク
ラーゼ内蔵型受容体、機械応答受容体(ズリ応力など物理的な変化を受容)、光
受容体(ロドプシン)、プロテアーゼ活性化受容体(トロンビン受容体)、イン
テグリン受容体(コラーゲン受容体)など受容体は実に多様であることが分かっ
てきている。
7
薬の作用点
受容体(ニコチンレセプター)
Na+
ACh
ACh
細胞質
細胞内電位
-80mV
K+
イオンチャネル内蔵型レセプターの例である。アセチルコリンやニコチンが結合
するニコチン受容体はNaやKを透過するチャネルを内蔵し、アセチルコリンやニ
コチンが結合するとこのチャネルが開口し、細胞内電位が変化する。
8
薬の作用点
受容体(ニコチンレセプター)
K+
ACh
ACh
細胞質
細胞内電位
-65mV
Na+
EPSP
アセチルコリンがニコチンレセプターの二つのαサブユニットに結合すると中
のチャネルが開き、Naが流入して興奮性シナプス後電位(EPSP、筋肉のニコチ
ン受容体の場合は終板電位と呼ぶ)が発生する。EPSPは活動電位を発生させる引
き金となる。このような活動電位を発生させるレセプターには他に脳のグルタ
ミン酸レセプターの一つNMDAレセプターなどがある。
逆に陰イオン(Cl-)を通過させるチャネルを内蔵するレセプターにGABAAレセプ
ター、グリシンレセプターなどがある。これらのレセプターはIPSP(抑制性シ
ナプス後電位)を発生させて細胞内を過分極させる。
9
受容体:GTP結合蛋白質共役型
• G蛋白質の役割は?
β γ
情報の受け渡し
α
• GTPアーゼとは
GTPを分解
• アゴニストのレセプターへの親和性はどう調節される
か?
G蛋白質のスイッチ機構
• エフェクターとは?
セカンドメッセンジャーを産生する酵素
• セカンドメッセンジャーの役割
細胞内の活性物質
• プロテインキナーゼの役割
蛋白リン酸化
エフェクター
7回膜貫通型受容体
G蛋白質
GTP結合タンパク質共役型レセプターは3量体GTP結合タンパク質(Gタンパク)
と連結し、受容体にアゴニストが結合するとGタンパクがエフェクター(酵素)
にその情報を伝達し、エフェクターがセカンドメッセンジャーを産生する。
3量体Gタンパクはα、β、γの3つのサブユニットからなり、αサブユニット
にGTPが結合する。エフェクターについては次のページを参照。
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細胞内情報伝達系における
エフェクター(effector)とは?
• GTP結合蛋白質(Gα-GTP)によって活性を発揮する酵素
• その結果、セカンドメッセンジャーを産生する
エフェクター
ホスホリパーゼ
C
アデニル酸
シクラーゼ
基質
セカンドメッセンジャー
レセプター例
イノシトール
リン脂質
イノシトールリン3リン酸
(IP3)
ジアシルグリセロール
(DG)
α1,H1、M1、
AT1
ATP
サイクリックAMP
(cAMP)
促進:β1,β2,
H2、グルカゴン
阻害:α2、M2、
オピオイド
GTP結合タンパク質共役型レセプターのエフェクターにはホスホリパーゼCとアデ
ニル酸シクラーゼがある。
α1レセプター、アンジオテンシンAT1レセプター、ヒスタミンH1レセプターな
どにアゴニストが結合すると、GTP結合タンパク質のαサブユニット(Gqα)に
GTPが結合し、Gqα-GTPがホスホリパーゼCを活性化する。ホスホリパーゼCは細
胞膜にあるイノシトールリン脂質(ホスファチジルイノシトール(4,5)2リン酸)
を分解して、セカンドメッセンジャーであるイノシトール3リン酸(IP3)とジアシ
ルグリセロールを産生する。 (詳細は後のスライドで)
一方、アドレナリンβレセプター、ヒスタミンH2レセプターなどにアゴニスト
が結合するとGTP結合タンパク質GsαにGTPが結合して、アデニル酸シクラーゼを
活性化する。アデニル酸シクラーゼはATPからセカンドメッセンジャーであるサ
イクリックAMPを産生する。アデニル酸シクラーゼを阻害するレセプターもある。
(詳細は後のスライドで)
11
1
β
2
γ
β
γ
エフェクター
エフェクター
α
α
GDP
GTP
レセプターはアゴニストに親和性がある
レセプターにアゴニストが結合すると
GDPがGTPに置き換わる
3
β
4
β
γ
γ
エフェクター
エフェクター
α
α
GTP
GTPが結合したαは
エフェクターを活性化する 活性化
レセプターはアゴニスト親和性を失う
GDP
αはGTPを分解してGDPに変える
レセプターはアゴニストへの親和性を
回復する
GTP結合タンパク質の役割
GTP結合タンパク質はセカンドメッセンジャーを産生するエフェクターを活性化
するだけでなく、アゴニストとレセプターの親和性も調節している。αサブユ
ニットにGDPが結合している状態では、レセプターはアゴニストへの親和性が高
く、アゴニストは結合しやすい(1)。アゴニストが結合するとαサブユニット
に結合していたGDPが解離し、代わりにGTPが結合する(GDP-GTP交換反応、2)。
Gα-GTPはエフェクターを活性化するが、同時にレセプターとアゴニストの親和性
が低下し、アゴニストはレセプターから解離する(3)。GαにはGTPを分解する
GTPaseとしての機能があり、Gαがエフェクターを活性化している間にGTPを分解
して、GDPに変化させる。そうするとGαはもはやエフェクターを活性化すること
ができなくなる(4)。しかし、GαにGDPが結合するのでアゴニストはレセプ
ターに結合しやすくなり、再びレセプターへの結合→GDP-GTP交換反応→エフェ
クター活性化→セコンドメッセンジャー産生のサイクルが始まる。
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薬の作用点
受容体(α1レセプター)-1
ホスホリパーゼC
α1レセプター
細胞膜
β γ
α
細胞質
GDP
GTP
プロテインキナーゼC
IP3レセプター
小胞体
Ca2+放出チャネル
α1レセプターの例
エピネフリン、ノルエピネフリンを結合するα1レセプターはGTP結合タンパク質
共役型レセプターである。GTP結合タンパク質はα、β、γの3サブユニットか
らなり、 αサブユニットはアゴニストがないときはGDPを結合している。α1レ
セプターのエフェクターは細胞膜のイノシトールリン脂質を分解するホスホリ
パーゼCである。GDPが結合した状態ではホスホリパーゼCを活性化することが出
来ない。同じような細胞内情報伝達系を持つレセプターにはヒスタミン1(H1)レ
セプター、ブラジキニン(B2)レセプター、ムスカリン1(M1)レセプター、アン
ジオテンシンII(AT1)レセプターなどがある。
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薬の作用点
受容体(α1レセプター)-2
ホスホリパーゼC
α1レセプター
細胞膜
β γ
α
細胞質
GTP
セカンド
メッセンジャー
DG
プロテインキナーゼC
IP3
IP3レセプター
小胞体
Ca2+放出チャネル
α1受容体にアゴニストが結合すると、GTP結合タンパク質のαサブユニットに結
合していたGDPがGTPに置き換わる。そうするとα1サブユニットはホスホリパー
ゼCを活性化し、イノシトールリン脂質が分解されてセカンドメッセンジャーで
あるイノシトール3リン酸(IP3)とジアシルグリセロール(DG)が生成する。
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薬の作用点
受容体(α1レセプター)-3
ホスホリパーゼC
α1レセプター
細胞膜
β γ
α
リン酸化
GTP
GDP
セカンド
メッセンジャー
P
細胞質
プロテインキナーゼC
IP3レセプター
小胞体
Ca2+放出チャネル
IP3は筋小胞体にあるカルシウム放出チャネルを開口し、筋小胞体内のCa2+が細
胞質に遊離する。Ca2+増加は筋収縮、ホルモン分泌、外分泌などの反応を引き起
こす。ジアシルグリセロール(DG)はプロテインキナーゼCを活性化し、プロテイ
ンキナーゼCは各種タンパク質をリン酸化する(どういうタンパク質がリン酸化
されるかは細胞によって異なる)。
αサブユニット-GTP複合体が形成されると、受容体はアゴニストを結合する能
力を失い、アゴニストは受容体から解離する。またαサブユニットはGTPを分解
してGDPに変える酵素活性(GTPアーゼ)を持っているため、GTPはGDPとなり、ホ
スホリパーゼを活性化する能力が消失する。その代わりアゴニストとの親和性は
回復する。
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薬の作用点
受容体(βレセプター)-1
Ca2+
アデニル酸
シクラーゼ
β受容体
Ca2+チャネル
細胞膜
β γ
α
細胞質
GDP
ATP
cAMP
GTP
プロテインキナーゼA
Ca2+ポンプ
小胞体
βレセプターの例
β受容体にアゴニストが結合するとGTP結合タンパク質のαサブユニットに結合
していたGDPがGTPに置き換わり、αサブユニット-GTPがアデニル酸シクラーゼを
活性化する。アデニル酸シクラーゼはATPからサイクリックAMPを合成する。
αサブユニット-GTP複合体形成によるアゴニスト親和性の喪失、αサブユニッ
トによるGTPの分解は前のα1受容体の場合と同じである。
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薬の作用点
受容体(βレセプター)-2
Ca2+
アデニル酸
シクラーゼ
β受容体
Ca2+チャネル
細胞膜
P
GDP
GTP
ATP
細胞質
cAMP
プロテインキナーゼA
P
Ca2+ポンプ
小胞体
サイクリックAMPはサイクリックAMP依存性プロテインキナーゼ(プロテインキ
ナーゼA)を活性化*する。図に示したのは心筋細胞の例であるがプロテインキ
ナーゼAは細胞膜のカルシウムチャネルをリン酸化し、チャネルが開口しやすく
する。また筋小胞体のカルシウムポンプ(Ca-ATPase)に結合して、ポンプ活性を
抑制しているホスホランバンをリン酸化し、それによって筋小胞体へのカルシウ
ム取り込みが増大する。この二つのタンパク質のリン酸化は心筋が収縮するとき、
より多くのカルシウムを供給することになり、強心作用として貢献する。
注)細胞によってリン酸化されるタンパク質は異なり、他の細胞では他のタンパ
ク質がリン酸化される。
* プロテインキナーゼAは触媒部位と調節部位からなり、調節部位は触媒活性を
抑制している。サイクリックAMPは触媒部位から調節部位を解離させるため、プ
ロテインキナーゼAの活性が発現する。
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薬の作用点
その他の受容体
増殖因子(EGF, FGF, PDGF)
ステロイドホルモン
チロシンキナーゼ型受容体
細胞膜
P
Tyr
Tyr
P
細胞質
シグナル
細胞内小器官
細胞内受容体
核へ
(転写)
増殖因子のレセプターと細胞内レセプター
1.様々な細胞増殖因子の受容体は受容体内にチロシンキナーゼを内蔵する。
この受容体に増殖因子が結合すると、受容体の細胞内ドメインにあるチロシン
残基がリン酸化され、それが細胞内の各種アダプター分子、他のチロシンキ
ナーゼに情報が伝達される。
注)EGF:上皮細胞増殖因子、FGF:線維芽細胞増殖因子、PDGF:血小板由来増殖因
子
2.ステロイドホルモンは細胞質に受容体があり、ホルモンが結合するとホル
モンと共に核へ移動し、転写を調節することでタンパク合成に影響する。
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