活動報告要旨 - アサヒビール

アサヒビール株式会社「未成年者飲酒予防基金」
2012年度「未成年者飲酒予防基金」活動報告
千葉大学大学院医学薬学府 大宮宗一郎
『未成年の飲酒リスクとなるパーソナリティの検証と予防教育』
1.活動・目的
未成年者の飲酒は、将来の薬物乱用のリスクを高めるだけでなく、心身の発達に影
響を及ぼす。したがって、その予防は重要な課題である。わが国では、これまでにア
ルコールの知識教育やパッチテストを用いて体質を理解させるなどの予防教育が行
われてきた。しかし、既存の予防教育だけでは、未成年者の飲酒行動を修正すること
は難しいことが指摘されている。
未成年者の問題飲酒や飲酒予防の対策としてパーソナリティの側面からアプロー
チする方法が有力視されている。そこで、本研究では、先行研究に従い、アルコール
を含む物質使用のリスクとなるパーソナリティを測定する心理尺度 The Japanese
version of Substance Use Risk Profile Scale(SURPS-J)や修正版飲酒動機尺度
Drinking motives Questionnaire-Revised (DMQ-R) 等を用いた調査を行い、物質使
用のリスクとなるパーソナリティと飲酒動機、対人関係、問題解決力等の影響につい
て多面的に検討する。さらに、これらの知見をもとに、大学生を対象に予防教育のた
めの講義を試みる。
□基礎調査
【方法】
対象:健常者 182 名(男子 52 名,女子 130 名)
年齢:18∼27 歳 (平均=20.00±1.30 歳)
尺度:
・The Japanese version of Substance Use Risk Profile Scale (SURPS-J)
・喫煙,飲酒等の生涯使用頻度 (単独・集団)
・改訂版飲酒動機尺度:Drinking Motives Questionnaire‒revised (DMQ-R)
・同調尺度:Need for harmony (NH)
・問題解決尺度:Problem Solving Inventory (PSI)
2.結果・考察
<物質使用のリスクとなるパーソナリティと飲酒動機>
物質使用のリスクとなるパーソナリティと喫煙・飲酒の生涯使用頻度については、
刺激志向性と集団での喫煙および飲酒が相関し、刺激志向性が高いと集団で喫
煙・飲酒する傾向が窺われ、周囲の影響によって飲酒に至りやすい傾向が示唆さ
れた。
物質使用のリスクとなるパーソナリティと飲酒動機については、不安感受性と対
アサヒビール株式会社「未成年者飲酒予防基金」
処動機および消極的同調動機、刺激志向性と 4 つの飲酒動機 (社会的動機、対処
動機、消極的同調動機、高揚動機) が相関した。したがって、不安感受性が高い
と不安に対処するための飲酒動機や,周囲に合わせるための飲酒動機が高まり、
刺激志向性が高いとあらゆる飲酒動機が高まることが窺われた。一方で,絶望感
や衝動性は 4 つの飲酒動機と相関を示さず、これらのパーソナリティが高くとも
DMQ-R で測定される飲酒動機が高まらない傾向が示唆された。
<物質使用のリスクとなるパーソナリティと対人関係の影響について>
アルコールとたばこの集団使用頻度については、同調傾向高群で、SURPS の低
群よりも高群の使用頻度が高い傾向が窺われた。
<物質使用のリスクとなるパーソナリティと問題解決スキル>
アルコールの単独使用は、SURPS 高群において問題解決尺度の得点が高い群の
アルコール使用頻度が、問題解決尺度の得点の低い群よりも高かった。つまり、
効果的に問題解決できないと考えている群で、SURPS の得点が高い群が、アル
コールの単独使用の傾向が高いと考えられた。一方、効果的に問題解決ができる
と考えている群については、アルコール・たばこの単独、集団使用頻度は高く、
SURPS 低群に比べて、SURPS 高群での使用頻度がおおむね高くなる傾向がみら
れた。
3.本研究の課題と限界
なお、本研究は、調査対象が首都圏の大学生に限られているため、結果の一般化は
慎重にすべきであるという限界がある。SURPS と問題解決スキルそのものとの関
連や、集団での飲酒、喫煙に至るダイナミクスを検証することが今後の課題である
と考えられた。
<予防教育のための講義>
未成年者が多数を占める大学の講義で、
「未成年の飲酒に伴う身体的・精神的影響」、
「物質使用のリスクとなるパーソナリティ傾向と物質使用」「酩酊者への具体的な
対処法」などの講義を行った。また、講義参加者個人のパーソナリティ傾向の結果
のフィードバックを行った。
今後の課題としては、欧米で実施されている SURPS を用いた予防教育介入プログ
ラムを実施するために、プログラム開発者のもとでトレーニングを受け、介入マニ
ュアルを作成する必要がある (現在、開発者チームと連絡をとり、スケジュールの
調整等を行っている)。そして、日本人を対象に集団の力に流されない適切な問題解
決スキルの向上を促す介入を実施することが求められる。