社会保障論1 1社会保障の概念 1-1概念 社会保障とは

社会保障論1
1社会保障の概念
1-1概念
社会保障とは,国民の生活の安定が損なわれた場合に,国民にすこやかで安心できる生活
を保障することを目的として,公的責任で生活を支える給付を行うこと
その目的は,貧困という危険因子の暴発を防いで,社会の安定を確保すること
歴史的には,貧困者を救済する公的扶助と,貧困に陥るのを防止するための社会保険との
二つの制度を起源として形成
公的扶助の起源は,イギリスの救貧法,社会保険の起源はドイツの社会立法.
1-2範囲(日本の場合)
現在では,公的扶助と社会保険を越える部分も社会保障の範囲に含まれる.
社会扶助
公的扶助(資産調査あり) 生活扶助,医療扶助,介護扶助
社会手当(資産調査がないか寛大) 児童手当,児童扶養手当,恩給,公費負担医療
社会保険
年金保険,労働保険(雇用・労災),医療保険,介護保険
老人保健(医療給付以外を含む) 社会サービス 児童福祉,老人福祉,障害児・障害者福祉
これ以外に,以下のように範囲を捉える見方もある.
狭義の社会保障 公的扶助,社会保険,社会福祉,公衆衛生,医療,老人保健
広義の社会保障 狭義の社会保障+恩給,戦争犠牲者援護
社会保障関連制度 住宅政策,雇用政策
2社会保障の理念と歴史(救貧法)
16 世紀のイングランドで誕生,それまでは貧民救済は教会や修道院,篤志家が行ってい
たが,それでは対応できない事態が発生
↑
15 世紀末からイギリスは毛織物の輸出国として発展.その中で,農地を牧場に転換し,
耕作民を土地から追放する事態が大量に発生.土地を失った農民は都市に流れ込んで,浮
浪化した.さらに 16 世紀後半には,エンクロージャーが牧場建設から穀物栽培目的に変
化し,いっそう大量の農民が離村.
↓
エリザベス1世の治世のもとで教区救貧が始まる
教区(行政単位)を単位として救貧税を徴収し,それを財源に救貧政策を実施
1601 年に,各種の教区救貧を統合して,エリザベス救貧法成立
病気や高齢の貧民:救貧税で救済
浮浪の禁止=犯罪として処罰
労働能力のある貧民:労役所への収容と強制労働,帰農強制
劣等処遇の原則
1834 年の改正救貧法まで存続
1795 年 スピーナムランド制:地主が支払う税による労働者に対する賃金補助制度
前提:第2次エンクロージャー(議会囲い込み)
→議会の立法によって地主=貴族が自営農民から合法的に農地を奪う制度
自営農民を追放し,大農場を形成して,ノーフォーク農法*を実施
*大麦→クローバー→小麦→かぶの順に4年周期で行う四輪作法
クローバーとかぶによって家畜を育て,その家畜を利用して大規模耕作を行
う
この結果,イギリスでは自営農民がほとんど姿を消す
:工業化の開始(産業革命)
→産業革命の結果,工場制度が普及し,手工業の時代に比べて,大規模生産が可
能となる.
→そこで必要とされる労働力を,囲い込みによって追放された農民が提供(他に,
かつての職人など)
→農村からの流入人口が多いために,都市労働者の賃金はきわめて低かった.
成人男性の賃金では家族を扶養することができず,女性労働と児童労働が拡大.
とりわけ,産業革命の基幹産業であった繊維産業では,かつての職人的男性労
働者が機械化の進展とともに解雇され,その代わりに女性と児童が就労する形
態が一般化する.とりわけ児童労働は,大人の労働者が就労する前の準備,就
労した後の後かたづけに使役されたため,労働時間はきわめて長かった.(労
働時間の法的な制限はなし)
都市の生活環境は劣悪で,上下水道は整備されず,汚物を含む排水は垂れ流し,
石炭暖房によるスモッグで冬季には死者がでたほど
労働者住宅は,独身であれば労働者下宿あるいは,ベッドのみを借りたり,ベッ
ドを借りる金がない場合にはひもを借りて寝るような生活.家族持ちの場合に
は,集合住宅の一室を借りる.
乳幼児死亡率は高く,結婚できるだけの資金がないために私生児の比率が非常
に高かった.
→こうした都市下層民の貧困に対して,人口流出先の地主の経済負担で対応しよ
うとしたのが,スピーナムランド制
→農村流出民を近代的な労働者に変える政策の一部でもあった.
帰結
1)救貧費用の大幅増加
←フランス革命後のナポレオンによる大陸封鎖
すでに穀物輸入国となっていたイギリスにおける穀物価格の急騰
ヨーロッパ大陸への工業製品輸出不可能→工業不振
←ナポレオン敗北後は,逆に穀物輸入が急増して穀物価格大暴落=地主階級の圧力
で,穀物の高価格を維持する穀物法の制定(1815 年)
2)労働者の貧困は深刻化し,機械打ち壊し運動(ラダイト運動)や政治的権利を求め
るチャーチスト運動が 19 世紀初期に発生し,社会的混乱を増大させる.
3)賃金補助制度を維持することが不可能となり,1834 年の改正救貧法(マルサス救
貧法)が登場
2社会保障の理念と歴史(マルサスと救貧法)
この頃から,救貧政策の中心が貧民一般から労働者に変わってくる.
マルサスの救貧法批判
前提:『人口論』(1798 年)における人口法則
人口増加率は自然のままでは,食料増加率を上回る.なんらかの対策をとらなければ,
食糧不足による飢餓や貧困は必然的.
対策1)食糧増産:農業の生産性は逓減するので限界がある.
対策2)貧民救済:人口増加率を押し上げるので,貧困をいっそう激化させる
対策3)人口の積極的制限:死亡率を高めること
不衛生,不摂生,過労,栄養不良,戦争,病気,飢饉,貧困
→これは,貧困によっていっそうの貧困を抑止するだけ
対策4)人口の消極的制限:出生率を低めること
不道徳的制限:避妊,堕胎
道徳的制限:結婚延期,あるいは未婚.
もっとも望ましいのは人口の道徳的制限である.性欲を抑制して,子供を作らないこと
が,貧困層の貧困を緩和する のちの『経済学原理』によれば,貧困層の中核をなす労働者階級の所得=賃金の総額は,
技術水準が不変なら社会全体で一定.(賃金基金説)したがって,労働者とその家族の
数が減少すれば,一人あたりの所得は増加して,労働者家族の貧困は緩和される.場合
によっては,豊かになるかもしれない.
そのためには,労働者家庭みずからが積極的な産児制限を行う必要がある.逆に言えば,
産児制限を行わず,貧困に陥ってもそれは自己責任.→子作りよりも夫婦の生活を大事
にする労働者家庭が理想化される.(実現したのは,第二次大戦後の先進国→少子化の
問題を社会に課すことになる)
この貧困=自己責任→社会による救済は有害無益というのが改正救貧法の基本理念とな
る.←当時のイギリス社会を支配していた自由主義の思想と合致したので,広く受け入
れられる.
当時の自由主義:各人が自己の利益が最大限になるように自由に行動すれば,結果と
して社会の秩序はもっとも安定する.
→政府の介入は必要最小限
→各人が自由に行動できる社会領域の確保=とりわけ経済領域にお
ける政府介入の否定
こうした自由主義に基づく統治の原理が功利主義
最大多数の最大幸福をもっとも高度に実現するような行為のルールを立法によって
定める.
→従来の所得保障的な救貧制度は,一部の貧民の利益のために最大多数の最大幸福を
阻害する
*マルサスは,ナポレオン戦争後の穀物法制定を主導した理論家の中心人物.
穀物法の制定→穀物輸入の制限→穀物価格の高値安定→低所得者層の貧困を導いた元
兇のひとり
いいわけ:国内農業保護→地主の高所得→地主による国内需要拡大→工業生産物に対
する需要拡大→工業の発達→農工の均衡的発展→豊かさの全般的な増大.
改正救貧法(1834 年)のポイント
ワークハウス内にのみ救貧政策を限定(院内救貧)
ワークハウス内では,一般労働者以下の待遇を与える(劣等処遇)
→一般労働者が貧困なのだから,劣等処遇の内容は最悪.
ただし,慈善団体などが救貧活動を行うことまでは禁止しない.
教区救貧から救貧政策の中央集権化
*こうした体制へのもっとも有力な批判は,救貧行政そのものではなくて,自由貿易主
義の主張として現れた.穀物法廃止→安価な外国産穀物の輸入
→生活費の低下→賃金一定でも生活状態緩和
代表的人物はデビッド・リカードウ(『経済学と課税の原理』)
*改正救貧法とセットになっているのは 1833 年の工場法
労働者の労働環境はある程度は改善するが,働かない者は労役所
繊維工業の工場で9歳以下の少年労働を禁止,13 歳未満のものの労働時間を一週
間 48 時間,18 歳未満のものは一週間 69 時間とした
立ち入り検査権をもつ工場監督官制度を導入し,法律の遵守を監視
1842 年の調査によればリバプールの工場労働者の平均寿命は 15 歳
最初の工場法 1802 年:幼年徒弟の労働時間を一日 12 時間に制限
ロバート・オウエンと工場法
『ラナーク州への報告』により,労働環境の改善が労働生産性を上昇させると主張
→1819 年の工場法:9歳以下の雇用禁止,9~16 歳の一日 12 時間労働
1847 年の工場法改正:女性の一日 10 時間労働
3社会保障の理念と歴史(マルサス救貧法に対する批判)
3-1スクロウプ
1833 年 『経済学原理』
マルサス人口原理)=国民の幸福を増進するために政府と富者が果たすべき義務を彼らか
ら免除させる有害な理論
農業生産は,農業技術と科学の進歩によって,たとえ劣等地耕作がおこなわれても増加す
る.しかも世界にはまだ膨大な未耕地がある.
→人口増加率が必然的に食料増加率を上回る理由はない.
→人口増加に見合う食糧増産の問題は自然ではなくて人間の問題
貧困の原因は誤った統治にある.
→国民の資源の適切な管理と生産物の公正な分配を保証する制度によって,貧困を防止す
ることができる.
*誤った統治
囲い込みによる小農の追放,生活必需品への課税,消費税,外国製品の輸入制限,穀
物法,労働の移動を制限する定住権法(浮浪者を排除するための法律)
児童労働を禁じる工場法(禁止されると労働者家庭は一層貧困になる.それよりも,
児童労働を不要とするだけの収入が成人労働者に提供されることが重要)
こうした誤った統治のもとでもっとも被害を受けるのは自由労働制のもとでの労働者
自由労働制:自分の所有する労働力を自由に販売し,その対価として賃金を受け取ること
ができる.(高く売れなければ生活ができない不安定さを伴う)
→貧民の被救済権という旧来の考えを法的に承認すべき
→雇い主が拠出する基金に基づく保険制度:労働者を雇用するうえでの費用には,年齢や
障害や事故によって自分では生活してゆけない労働人口を支えるのに必要なものも含むべ
き.彼らを養うための費用は,彼らの労働から利益を得た階層が負担すべき.
→失業者に対しては,彼らの勤労によって生活できる手段を提供することが政府の義務
公共事業:道路や運河の建設,灌漑や築堤などの土地改良事業,移民
→こうした制度を導入することによって,教区の救貧税に依存する貧民は大幅に減少する
だろう.
3-2サミュエル・リード
よい統治が行われていれば,奢侈と洗練が投資の拡大,技術改良の進歩によって生産活動
が活発化し,豊かさが行き渡る
→豊かになれば,繁殖力は弱まり,人口増加は抑制される.
→豊かさを増進させ,奢侈と洗練を追求するために,深慮を行う環境を形成することが重
要
奢侈と洗練を追求するのは人間の本性だが,それを育む環境は必然的に与えられる訳では
ない.
→必要条件は人格と財産が保証される統治
→貧民に対する法的,義務的扶助
社会に対する物乞いの一掃,貧民救済の負担の平等化,貧民の生活に安心感
→貧民の人口を増やすことなく救貧
貧民の移動の自由を認め,職のある地域への移動を促す
老人,病弱者により厚く,労働能力のある貧民により薄い手当支給 3-3ロイド
人口法則に基づく貧困=救貧法は役に立たない,この限りでマルサス支持
食料分配の不規則性あるいは不等性に由来する貧困:病気,親の喪失,夫の喪失,加齢,
雇用の中断,雇用を求めて移動する困難など,とりわけ大きいのは産業上の突然の変動
(産業革命による職人の失業など)
→救貧法は有効で必要
力織機の発明による織布工失業の場合
発明以前の生産力水準が低い状態で,織布工が生活できたのだから,より生産力があがっ
た段階では,社会は失業した織布工を扶養できるはず.
もし救済しなければ,彼らの食糧需要は低下して,食料価格の低下をもたらす.逆に救貧
は需要の増加をもたらす.
差別的救貧制度
救貧の対象を家長に制限:手当の支給,若年者は雇用先の変更(雇用確保)
3-4ロングフィールド
救貧法の目的区分
1)援助なしでは死んでしまう者たちへの国家的慈善
2)労働者の境遇改善
1)はわずかの費用で大きな効果を生むが,2)は救貧法では効果がない.
1)の対象となるのは,生活手段を確保できない者:精神・身体障害者,高齢者
障害者 救済しても,その結果受給者が増加するという財政的な弊害がない
病院・保護施設の設置,家族に負担を軽減する年金の支給
高齢者 60 歳以上の全員に退職年金:全員に与えるのは,労働生活時代に勤勉だった者
にも支給することで,労働者が怠惰になるのを防ぐ.
2)の対象は労働可能貧民
手当制度などでは救済できない→勤勉を損ない怠惰をます.救貧費用が賃金基金を減少
させる→勤勉な労働者の負担で怠惰な者を扶養することになる.
せいぜい可能なのは,ワークハウスにおける職業訓練と勤勉精神の教育
それ以外は経済成長
以上の参考文献 森下宏美 『マルサス人口論争と改革の時代』(日本経済評論社,2001
年)
4社会保障の理念と歴史(慈善事業と社会調査)
ヨーロッパでは中世から,貧民の被救済権が認められる(それを否定したのがマルサス)
と同時に,富者や王者には救済の義務があった.こうした発想が,19 世紀にイギリスで
貧困が社会問題化したときに,慈善事業を生み出す力となった.(慈善事業自体はマルサ
スも否定しない→趣味の問題で,人口をさほど増加させない)
先駆者 チャーマーズ(チャルマーズ) 1819 年隣友運動:友愛訪問→在宅ケア
*その他 19 世紀にはメソジストなど,労働宗派と呼ばれるプロテスタント・グ
ループが救貧活動を行う.
YMCA(1844 年) 実業家のジョージ・ウィリアムズらが結成 勤労青少年に対するキリ
スト教に基づく社会教育=勤勉精神の注入
COS(1869 年,慈善組織協会)慈善組織間の連絡調整,友愛訪問
地区に担当者をおくエルバーフェルト・システム(ドイツ,エルバーフェルト市,1852
年)を採用
貧民=怠惰という考え
セツルメント運動
福祉に欠ける地区に教養のある人が意識的に住み込んで交流しともに地区の福祉の向上
をすすめていく→惰民論の克服
先駆者 ジョン・ラスキン 功利主義に反対し,工場労働を他人に命令される苦役と捉え,それの生きる喜びとして
の仕事を対置
→資本主義のの貨幣経済によって売り買いの対象となり、生きるための苦痛となった「労
働」に代えて、「生命と自由の象徴」である「仕事」を復活させる
→こうした方向での地域再生や産業組合運動に努力
この流れは一方では自由党左派的なセツルメント運動につながり,他方では芸術運動
につながる.芸術運動の中から社会主義が生まれる(代表的ななのがウィリアム・モ
リス)
オクタビア・ヒル ラスキンとともに住宅改良運動
エドワード・デニスン 貧困救済協会に加入するが友愛訪問の限界を感じ,貧民街に住
み込んで生活改善運動に取り組む
サミュエル・バーネット イギリスで最初のセツルメント(トインビー・ホール,1884
年)を開設(実際は妻が)
アーノルド・トインビー バーネットの影響を受けて貧民街に入る.『英国産業革命史』
の著者としても有名(産業革命と貧困の関係も明らかにする)
社会調査
1880 年代以降のイギリスにおける社会主義の復活を
チャールズ・ブース
1886-1902 年 ロンドンの生活調査
人口の 30%以上が貧困 原因は長時間労働,不安定就労,低賃金
住宅環境と貧困の相関
病気や加齢がきっかけで貧困化
怠惰等の生活習慣(当時は宗教心の問題とされた)と貧困とは無関係
年金制度,公営住宅,労働制限,最低賃金制の必要性を訴える→1908 年:無拠出老齢
年金スタート
シーボム・ラウントリー
ブースの影響を受けて,ヨーク調査:ライフサイクル(生活周期)の発見
→社会的自由主義の流れを強め,20 世紀初頭の自由党政権による社会改革に道を開く
自由党に影響を与えたもう一つの背景はマーシャル以来のイギリス新古典派経済学
マーシャル:労働者の厚生を高めることが社会安定の基礎(資本と労働の平和共存)
ピグー:厚生経済学:所得が高いほど満足度は高いという前提から,社会的厚生を
最大限にたかめるあり方を追求
→この流れから,社会福祉国家の経済システムを構築することになるケインズが登
場
社会保障の理念と歴史(ドイツの社会政策)
社会保険制度の先駆
背景
1871 年ドイツはプロイセンの主導下にドイツ帝国を建国
当時の宰相ビスマルクによって帝国の敵と見なされていたのが,カトリック(中央党)
と社会主義者
*カトリック:帝国よりもローマ教皇を重視.周辺大国のオーストリアとフランスがカ
トリック国家.オーストリアと縁の深い南ドイツがカトリック
→カトリックに対する文化闘争
*社会主義
1863 年 ラサール 全ドイツ労働者協会結成
労働者が生産協同組合を形成し,自助努力によって境遇を改善することを
主張.その手段として,国家による協同組合助成を要求
1864 年 第1インターナショナル結成:マルクス派,バクーニン派などが結集
マルクス派:国家権力の獲得→プロレタリア独裁→社会主義→共産主義
バクーニン派:国家権力の廃絶→共産主義
1869 年 ベーベル 社会民主労働者党(マルクス派)
1871 年 パリ・コミューン:労働者の武装蜂起による王政崩壊→パリに労働者の
自治政府設立
1875 年 全ドイツ労働者協会と社会民主労働者党が合体して,社会主義労働者党
結成(現在のドイツ社会民主党の前身)
資本家階級による労働手段の独占の結果生じた労働者階級の従属が,労働
者階級の貧困 の根本原因.
労働者階級以外のすべての階級は反動的階級であり,労働者階級の解放は
労働者階級自身の事業である.
議会制民主共和制の実現,そのもとでの賃金労働制度の廃止,廃止手段と
しての協同組合制度の導入.
→第一回帝国議会選挙で2議席,74 年9議席,77 年 12 議席
→社会主義者の進出に危機感をもったビスマルクは,2度の皇帝暗殺未遂事件を利
用して,78 年社会主義者鎮圧法を制定
1)社会民主主義的,社会主義的,共産主義的活動を支持する結社,集会,印刷
物の禁止
2)社会主義者の活動で公安を脅かされた地域で1年以内の戒厳令をしくことが
できる
3)公的活動を許された社会主義者は国会議員のみ
こうした社会主義の進出の背景にあったのが,ドイツにおける社会問題の登場(社会問
題=社会に起因する貧困問題)
ドイツでは,すでに 1840 年代から貧困問題が登場していたが,50 年代から 70 年代
にかけて工業化が急速に進むと,労働人口が増加し,労働者の生活改善要求が切実
なものとなる
労働者人口は 1870 年頃で総人口の 20%,82 年以降約 25%,1907 年には三分の一
→1864 年 カトリックのマインツ司教ケテラーが『労働者問題とキリスト教』を著
し,国家による労働者保護政策を要求.
→1872 年 ドイツの保守派から自由主義左派に属する経済学者がドイツ社会政策
学会結成:社会政策の必要を訴える(労働者保護,児童労働の禁止,小営業の保
護など)
→1878 年:反ユダヤ主義者でプロテスタントの宮廷司祭シュテッカー キリスト
教社会労働者党を結成し,政府に労働者保護を要求
社会立法
社会主義者を含む左右からの社会問題解決の声におされて,1880 年代に一連の社会立法
ビスマルク自身は,1860 年代から,労働者に対する社会保険を国家の援助で実施する方
針
その狙いは,増加しつつある労働者階級を国家の受益者とすることで,社会主義から引き
離し,帝国秩序への支持者に変えること
→社会主義者鎮圧法という鞭と組み合わされた飴
この目的を達成するためには,賃金削減につながるような労働者自身の保険料負担を避け
る→国家と企業が保険料を分担
当時の議会多数派はそれに反対,国の財源を確保する見通しも立たない
*自由主義者:労働者の自助努力を強調 ただし救貧法的な劣等処遇ではなくて,労働者
生産協同組合の機能に期待(→労働者が経営者に転化できる道と考えた.)
→1881 年 疾病保険 企業と労働者が折半
1884 年 災害保険 企業と労働者が折半
1889 年 老年=廃疾保険 帝国の全額負担
→結果的には,労働者の負担を強いるものとして評判が悪かった.
→労働者と社会主義を切り離すという目的も十分には達成されなかった.
*1890 年代以降のドイツ経済の成長=重化学工業化の成功に伴い労働者層の所得水準が
上昇するにつれて,所得増加の恩恵を受ける労働者層は革命的社会主義から離れ,改良的
社会主義に引きつけられる.(ただし,その労働者も第一次大戦後のはドイツ革命の担い
手となる)
*ワイマール共和国
労働権の承認,それに基づいて失業保険制度を導入(ただし,世界恐慌の重圧で機能せず)
*第二次大戦後
旧西ドイツ
社会国家=社会市場システムの導入
与党キリスト教民主=社会同盟,野党ドイツ社会民主党の妥協の産物
原理
市場に対する国家介入を市場適合的なものと不適合的なものに区分
→適合的な国家介入の承認
適合的な国家介入の中身の一つとして,社会保険を基軸とする社会保障制度を導入
*救貧法が公的扶助の原型だったとすれば,ドイツの社会立法は社会保険制度の原型.
社会保障の理念と歴史(明治~戦前の日本)
貧困問題への対処としては,明治7年(1874 年)の恤救規則
貧民救済の原理は近隣の者の相互扶助←伝統的な家族共同体や郷共同体の存立を前提
こうした相互扶助の網から漏れた者に対する暫定的な救済措置を定める.
*恤救規則の救貧観について,貧困を個人責任と捉えているとする見解もあるが,誤って
いる.当時の日本には個人概念はない.救貧観は,むしろ伝統的共同体主義に基づくもの
で,きわめて古い.古代の養老戸令と大差ない.個人対国家という見方がないので,個人
責任の論理もなければそれと対抗する国家責任の論理もない.
背景は,1)1871 年の廃藩置県により,士族層が失業,士族の不満高まる(1874 年江藤
新平ら佐賀の乱)
2)1872 年に田畑永大売買の禁を失効させ,農地の売買を自由化→土地を集積
する地主が発生する一方で,土地を失った農民の小作化・貧困化
3)1873 年に地租改正を行い,年貢を廃止して土地評価額に課税する地租を導
入→事実上の増税となり農民一揆頻発
内容は,
1)近代国家となった日本の初の公的扶助.
2)障害,傷病,加齢などによって自活能力を失った者(児童も含む)で扶助者のいない
者に対して,米代金を支給.
*自活能力のある貧民は救貧対象外とされ,むしろ取り締まりの対象となる(例えば,賤
民に対する取り締まり)
*治安・公安的な取り締まり対策の側面が強く,管轄も内務省警察部
*したがって実際に救済を受けた者はわずか
1900 年(明治 33 年) 精神病者監護法 座敷牢を合法化
1916 年(大正5年) 工場法施行(成立は 1911 年) 12歳未満の就業禁止、15歳未満及び女子に対する1日12時間以上の就業と深夜業禁
止
労災に対する一時金制度
15 年間の猶予を認める
(1929 年の改正で,15歳未満と女子の深夜業が完全に禁止 )
1922 年(大正11年) 工業化の進展による労働者の増加を背景に貧困問題が社会問題
化
→低賃金労働者を対象とする健康保険法(27 年実施)
1)工場法または鉱業法適用の従業員常時10人以上の工場または事業場を強制適
用事業所とする
2)業務上の傷病も給付対象とする
3)被保険者本人についてのみ給付を行う
4)給付期間は180日とする
1929 年には世界恐慌の影響を受けて,不況が深刻化.その中で,労働運動も激化.同年
に救護法が制定される.
対象 65 歳以上の高齢者,13 歳以下の児童,妊産婦,疾病・障害などによって労働能力
を失った者で扶養義務者が扶養能力を欠く場合.←共同体的相互扶助が残存
内容 市町村を単位とする院内救貧(養老院,孤児院)と生活扶助,医療扶助,生業扶助
費用 市町村負担
*公的扶助責任の原理が明確化されるが,保護請求権はなく.貧民は,国家による慈善の
対象とされている.
1931 年(昭和6年) 労働者災害扶助法 労災に遭遇した労働者と家族に対する事業主
の扶助義務を定める(健康保険法適用外の事業所に対して)
*救貧対策が弱かったのと対照的に,傷痍軍人に対する対策は進む(日清戦争,日露戦争,
第一次大戦)増加恩給,再就職の援助,医療,訓練,名誉を表彰するための傷痍記章,国
鉄・私鉄の無賃乗車,タバコ小売り人の優先指定,租税等の減免,子女の育英のための学
費補給.国立のリハビリテーション施設(結核療養所約,温泉療養所,精神・脊髄・頭部戦
傷療養所,傷痍軍人職業補導所,失明軍人寮・失明軍人教育所)
社会国家前史(社会的自由主義とフェビアン主義)
20 世紀初頭のイギリスでは,自由党の左派が伝統的な自由主義を捨てて,社会的自由主
義にシフト
貧困=自己責任ではなくて,貧困=社会問題と捉える立場.経済的自由主義=自由競争市
場の根本は維持するが,貧困を緩和するセイフティーネットの役割を認める.
そうした緩和策として,ロイド・ジョージ政権(1906 年から)のもとで様々な社会立法
を推進
1906 学校給食法,1907 学校保健法,1908 老齢年金法,1909 職業紹介法
1911 国民保険法(疾病,失業)
こうした自由党政権に圧力を加え,政策推進を促したのがフェビアン主義
*イギリスの漸進的な社会主義者集団フェビアン協会の立場,マルクス主義的な革命によ
る社会主義の実現を批判するとともに,自由放任主義を批判.議会を通した改革の積み重
ねによる社会主義をめざした.国家干渉(生産・流通・交通手段の国家管理と国有を含む)
による社会福祉の達成を説いた.また労働組合の経営者に対する対抗力の保持と,労働者
による産業上・企業上の意思決定への参加を主張する産業民主主義(経済民主主義)-政
治上の民主主義に対応するものを経済上にも実現しようとするもの-を提起し,これを社
会主義化のもうひとつの柱と考えた.
*1900 年にイギリス労働党の前身労働委員会が結成されたとき,これに参加.1918 年の
労働党綱領は有力なフェビアン主義者ウェッブ夫妻が起草.
*おもな協会員として,ベアトリス・ウェッブとシドニー・ウェッブ,バーナード・ショ
ウ,バートランド・ラッセル.
1905 年に開かれた救貧委員会にはフェビアン主義者も参加.シドニー・ウェッブは,貧
困の原因は個人にあるのではない,いかなる人も市民としての人格が認められ最低限の生
活が出来るだけの保障を与えるべきである,とするナショナル・ミニマム論を提起.これ
はのちにベバリッジ報告(1942)で採用され,第二次大戦後のイギリス社会国家=防貧的
社会保障の理念となる.
社会国家前史(第二次大戦と恐慌)
第一次大戦後 アメリカを除く先進国は,戦争による荒廃あるいは革命,復員軍人の失業
などで経済的に苦境(イギリスでは,1921 年に失業保険法成立).20 年代に若干の回復
が見られたものの,1929 年の世界恐慌をきっかけに 30 年代には深刻な不況に入る.
失業保険給付では問題は解決されず,むしろ失業保険制度が危機に陥る(例えばアメリカ
ではピーク時の失業率 25%).より根本的な雇用対策が求められるようになる.
この問題を理論的に解こうとしたのがケインズ経済学,実践的に解こうとしたのがアメリ
カのニューディール政策
アメリカのニューディール政策は第二次大戦後には放棄されるが,ケインズ経済学は戦後
社会国家の基礎理論となる(とりわけイギリス).(ドイツでは,ケインズ経済学よりも
オルド自由主義の社会的市場経済論と社会民主主義の社会国家論の組み合わせが基礎理論
となる.スウェーデンでは,ケインズ派とともにスウェーデン学派の経済学が基礎的な役
割を果たす.)
また第二次大戦は,いくつかの点で戦後社会国家を準備した.
1)戦死者の遺族や帰還傷病兵の生活対策を国家の正統性を確保するために実施
2)総力戦体制を組織するために労働者に妥協する必要があった.(イギリスなど)
3)戦争体験を通した運命共同体意識が弱者救済を求めた.
4)軍備拡張=公共投資政策が景気拡大効果をもつことが認められた(とくにアメリカ,
戦争当初のドイツ)
5)戦時に膨張した財政支出が,戦後には新たな支出先を求めた.
ニューディール政策
ルーズベルト大統領の政策
背景 29 年から 32 年にかけて名目 GNP が 44%縮小.卸売物価は40%下落.失業率 25%
という激しいデフレに襲われる.銀行も2万5千から1万5千に減少.
こうした状態に対する緊急避難的な対策のスローガンがニューディール(新規巻きなおし)
目標は3つの R(relief 救済,recovery 復興,reform 改革)
主要な狙いは,自由主義的なビッグビジネスに国家の枠をはめ,産業統制的な政策を実施
する.それを可能にするために,農業におけるビッグアグリカルチャー,労働における
ビッグレイバーの組織化を追求する.
1933 農業調整法(綿・小麦・トウモロコシ・たばこ・米の作付面積制限その他基本農・
畜産物について生産調整.農民に対しては生産制限の補償を政府が行う.その財源として
農産物第 1 次加工業者に加工税を課す→農産物価格と農民の購買力回復をねらった ),
1933 全国産業復興法(企業間の不正競争を排除.労働者の団結権・団体交渉権を承認.
労働時間の短縮,最低賃金制,連邦緊急公共事業局を設置して,大規模な公共事業計画),
1933 テネシー峡谷開発公社
1935 社会保障法(連邦直営の老齢年金,州営の失業保険への連邦助成,州営の公的扶
助すなわち老人扶助,盲人扶助,母子扶助,社会福祉サービス等への連邦助成 )
1935 ワーグナー法(全国労働関係法:団結権,団体交渉権,御用組合・不当解雇・差
別待遇などの不当労働行為の禁止)
1935 持株会社法(持株会社禁止)
1935 税制改革(累進課税の強化)
*こうした政策は総じて,公共投資,農産物価格の維持と賃金水準の維持による購買力の
強化=需要回復を狙ったもので,1938 年頃まではアメリカの景気は回復.ルーズベルト
は回復を見て,財政膨張政策を止めて均衡財政に復帰→再び不況
→結局はアメリカが第二次大戦に参戦してから景気回復(1944 年失業率 1.2%)
*社会保障制度の景気維持的な機能を先取りした政策であったが,緊急避難的であったた
めに,のちの政権のもとで多くが覆される.
ケインズ経済学
問題意識 生産設備が余っていて,労働者も余っているのに,なぜ両者が結合して生産が
回復しないのか(=豊富の中の貧困)→有効需要が不足しているから.有効需要を創出す
る政策を国家が積極的に行えば,景気は回復する.
→国家の積極的な経済介入による安定的な経済成長の維持.逆に自由競争経済は不況,失
業,貧困を避けることができない.
→ケインズ左派(イギリス労働党と結びつく):こうした有効需要創出の制度的な要因と
して社会福祉.
社会保障にとってのケインズ主義の意義
*大量生産体制に対応した大量消費を支える高賃金制度を生み出す枠組みを提出したこと
によって,防貧的な社会保険制度の物質的な基盤を提供した.とりわけ完全雇用政策
*所得再分配による消費性向の上昇という議論によって,社会福祉を経済政策のなかに組
み込む.
*ケインズ主義の失効とともに,先進諸国の高度成長(1950 年代後半から 70 年代前半)
は終わり,社会保障制度は危機の時代に入った.
社会福祉国家の成立
1942 年 イギリス ベヴァリッジ報告
個人の自発性,自己責任を重視する自由主義が前提
自助努力=経済的自立を支える手段としての社会保険
社会保険に関しては普遍主義,ある意味でナショナルミニマムの保証
均一額の社会保険料,均一額の社会保険給付
あらゆる部門の保障を取り扱う社会保険事務所の設置による行政責任の統一
公的扶助には懲罰的性格→選別主義
戦後の労働党政権のもとで,ケインズ左派の経済思想と結びついて,社会福祉国家を
実現.その他,北欧の労働党(社会民主党)政権のもとで,社会福祉国家が実現
*スウェーデン
1930 年代から,不況と出生率の低下を背景に,社会民主労働党政権のもとで構築され
る.第二次大戦後は,普遍主義的な社会保障を徹底.(最低生活保障ではなくて平均的生
活水準保障).高負担を支える高賃金体制の構築(徹底した同一労働同一賃金をめざす連
帯賃金制度)
3日本の社会保障制度の展開
戦後は,どちらかといえば,イギリスに近い社会福祉国家をモデルとしてきた.
1961 年 国民皆保険・皆年金が制度的にスタート.しかし,社会保障を重視するように
なったのは,1970 年代.その頃には,国際的には高度成長は終わり,社会保険を基盤と
する防貧的社会保障の前提は失われていたが,日本は,高度成長終了後も比較的に高い経
済成長率を維持したために,こうした前提の喪失が十分には意識されていなかった.
むしろ,不況に陥った他の先進国が,アメリカに代わって日本に国際経済の牽引車の役割
を期待した.そのポイントは,日本が輸出中心の経済成長路線をあらため,内需中心の経
済成長に転換すること,それによって,諸外国の産業を破壊する輸出を抑制し,諸外国か
らの輸入を拡大すること.
こうした流れの中で,70 年代の末から 80 年代にかけて,経済大国から生活大国へという
<ハズカシイ>スローガンが提出され,その路線のなかで福祉の充実が政策的に追求され
た.
1973 年 福祉元年 老人医療費無料化,高額医療費の償還制度,家族への給付割合が5
割から7割へ,年金の物価スライド制(この年,オイルショックが起き,高度成長終焉)
1982 年 老人保健法
1985 年 年金改正 基礎年金(=国民年金)+報酬比例部分の年金(=厚生年金等)の
2階建て(この頃からバブル経済,少子高齢化の傾向が顕著になる)
1989 年 ゴールドプラン 高齢者保健福祉推進 10 ヵ年戦略
市町村における在宅福祉対策の緊急実施,施設の緊急整備
特別養護老人ホーム・デイサービス・ショートステイ ホームヘルパー
1990 年 福祉八法の改正(社会福祉法,生活保護法,児童福祉法,母子及び寡婦福祉法,
身体障害者福祉法,知的障害者福祉法,精神障害者福祉法,老人福祉法)(バブルの絶頂)
高齢化への対応
在宅福祉サービスの積極的推進
在宅福祉サービス及び施設福祉サービスの市町村への一元化
特別養護老人ホーム等及び身体障害者更生援護施設への入所決定等の事務を地方自治
体に委譲
市町村及び都道府県老人保健福祉計画の策定
障害者関係施設の範囲の拡大
視聴覚障害者情報提供施設を身体障害者更生援護施設として,精神薄弱者通勤寮及び
精神薄弱者福祉ホームを精神薄弱者援護施設として位置付け
精神薄弱者に対するグループホーム(共同生活を営むべき住居における日常生活上の
援助)の法定化と精神薄弱者等への相談、援助を行う精神薄弱者相談貝について規定
身体障害者更生援護の入所決定権等の地方自治体への委譲
身体障害者に対する在宅福祉サービスの位置づけの明確化
身体障害者における在宅福祉サービス(ホームヘルプ,デイ・サービス,ショートス
テイ)を市町村段階で行うものとし,老人福祉施設との相互利用などの連携方策につ
いても実施
身体障害者更生相談所の機能の充実
視覚障害者情報提供施設の創設 (点字図書館など)
1994 年 新ゴールドプラン 予想外の高齢化に対応(バブル崩壊)
介護保険制度導入を念頭に,在宅介護の充実に重点
ヘルパーの数 17 万人の確保,訪問看護ステーションを 5,000 箇所設置
1997 年 被用者の医療保険給付割合を引き下げ(本人1割から2割)
2000 年 介護保険制度施行(この頃から高齢化と少子化が絶望的に進行する反面で,景
気回復の目途は立たず,財政赤字も巨大化)
2000 年 年金改革 2階建て部分の給付削減,年金給付の賃金スライド制廃止,年金支
給年齢の段階的繰り延べ
2001 年 老人医療費の患者自己負担月額上限つきの定率1割
2002 年 老人医療費の患者自己負担2割
2002 年 医療保険給付割合を引き下げ(2割から3割)
2004 年 基礎年金部分の公費負担引き上げ
4 日本の社会保障制度
社会扶助 公的扶助と社会手当
社会保険 年金,労働,医療,介護
老人保健
公衆衛生・保健医療
社会サービス 児童福祉,老人福祉,障害児・障害者福祉
*社会サービスは他の講義で終了.
*公衆衛生・保健医療
保健所・保健センター,環境衛生,公害対策,医療機関の配置と医療スタッフの育成
*社会扶助の公的扶助は他の講義で終了
*社会手当の中心は児童手当で児童福祉論で終了.
→社会保険と老人保健のみを解説
*公的扶助の要点
1)憲法 25 条(健康で文化的な最低限度の生活保障)を踏まえて,1950 年の生活保護法
で権利として位置づけられる.
2)制度の目的は自律援助.ただし,現状では高齢者世帯や障害者世帯が多く,公的扶助
のみでは自律援助として弱い.
3)公的扶助の原理は,国家責任,無差別平等(性別や社会的身分,困窮に陥った原因に
よって差別されない),最低生活保障,保護の補足性
保護の補足性:受給者は状況改善への最善の努力を行う義務
労働能力の活用,本人の資産,扶養義務者による扶養,他の社会保障制度による補
償
4)補足性の原理に基づきミーンズ調査を実施
問題点:民法上の扶養義務者と生活習慣のずれ,生活標準をどう把握するか(耐久消
費財,進学)
5)給付内容:生活扶助(生計費),教育扶助(義務教育における教科書代や給食費),
住宅扶助,医療扶助(困窮による国民健康保険未加入者,被用者健康保険の負担金を支払
えない困窮者),出産扶助,生業扶助(自立のための技能を身につけるため,高校就学費
を含む),介護扶助(2000 年から),期末一時扶助(年末の一時金支給)
6)実施にあたっては以下の原則を適用
申請保護(職権による緊急保護あり)
基準および程度
必要即応
世帯単位
福祉事務所が担当
*社会手当の要点
1)児童手当,児童扶養手当,特別児童扶養手当,恩給,戦争犠牲者援護
2)児童手当は多子貧困の回避,少子化対策
3)児童扶養手当は,当初は父親と生計を同じくしていない児童への手当て支給.(1962
年)
1973 年からは老齢福祉年金を受給していても支給される.
1975 年に対象支給児童の国籍要件を廃止
1978 年には支給対象年齢を完全に 18 歳未満に引き上げ(以前は義務教育終了)
1980 年代から手当の所得階層別区分
4)特別児童扶養手当
1964 年に重度知的障害児手当として発足
1966 年から重度身体障害児に拡大
1975 年から対象児童の国籍要件廃止,中度障害児にも適用
物価スライド制,対象 20 歳未満
5)恩給は公務員共済制度の長期共済の前身で,国家に対する貢献への保障という性格が
名称に表れている
6)戦争犠牲者援護は戦後に旧軍人恩給が廃止されたのを契機に導入される
対象は旧軍人・軍属とその家族
1952 年から遺族年金,障害者年金
1953 年から恩給復活 軍人→軍人恩給,軍属→戦傷病者戦没者遺族等援護法による
年金
4-1社会保険
4-1-1民間保険と社会保険
保険:経済活動や生活活動に伴うリスクをカバーする制度の一つ.リスク(=保険事故)
の発生確率,事故の程度の予測,保険加入者数,保険料の運用予測になど基づいて,保険
料と保険金の額,支払い条件等を決定(=保険原理).
最初は冒険商人とそれへの投資家のリスク回避の手段として発生.(損害保険)
最初の生命保険は,子供の葬式代の掛け金として発生.
民間保険:企業や家計(被保険者)が,特定のリスクを回避するために自由意志で民間保
険業者(保険者)と契約する保険.生命保険,損害保険,自動車保険,貿易保険など(任
意保険が圧倒的,自動車保険の一部のように加入が義務づけられているものもある)
社会保険:社会保障上の目的を達成するための保険.ほとんどは強制加入の強制保険.
保険原理と扶養原理とが混在
保険原理:リスク,保険料,保険給付の比例性を確保
扶養原理:所得の少ない被保険者を救済するために保険料にかかわらず必要な給付を行
う.
→顕在的扶養原理:被保険者の保険負担を公費負担で軽減
→潜在的扶養原理:高額所得者により多くの費用負担を課して低所得者の負担を軽くす
る.
被保険者の範囲,保険料,給付水準が原則として法律で定められる法定保険
社会保険はすべて人保険であり,物保険はない.
扶養原理が働くので,給付(保険料)と反対給付(保険給付)が比例しない.
経済政策保険:経済政策上の必要(経済や企業活動のリスク回避)
預金保険(金融機関の倒産の際に預金者の預金を一定限度で保障),漁業災害補償,漁
船損害補償など
現代社会では,各人の生活保障は,個人レベル,労働者であれば企業レベル(労働者でな
い場合は業界レベル),社会保障のレベルで行われている.保険から見れば,個人・企業
(業界)レベルが民間保険,社会保障レベルが社会保険.
個人レベルの生活保障で重要なのは私的年金保険と私的医療保険,私的介護保険.少子化・
高齢化,社会保障の後退あるいは先行き不安のなかで余裕のある層を中心に拡大
*社会保険と民間保険の補完関係の変化については後期に説明.
4-2医療保険
分類1
地域保険 国民健康保険
職域保険 被用者保険 一般被用者保険 政府管掌健康保険 組合管掌健康保険
特定被用者保険 船員保険,共済組合
自営業者保険 国民健康保険組合
分類2
国民健康保険(国保) 市町村,国民健康保険組合
健康保険(健保) 政府管掌健康保険 組合管掌健康保険
共済 国家公務員共済,地方公務員等共済,私立学校教職員共済
*共済は,年金保険,医療保険,雇用保険,介護保険を含む.
国民健康保険
保険者 市町村(特別区)
国民健康保険組合:一定地域に住む同種の事業あるいは業務に従事する者 300 人
以上で形成される(都道府県が多い)
被保険者 市町村の場合 企業等の組合管掌健康保険、政府管掌健康保険、船員保険や各種共済組
合に加入していない者(自営業者,農林漁業従事者,パート,アルバイ
ト,無業者,退職者など),外国人登録を行って1年以上日本に滞在し
ている外国人)(ただし生活保護を受けている者を除く)
*被保険者には子供などの扶養親族を含むが,被保険者の区分は世帯単位なので,無
業者である子供は,親が例えば組合管掌保険に加入していれば,その被保険者とな
る.(主たる家計維持者と同一世帯に属すると見なされる者は主たる家計維持者の
加入する保険の被保険者となる.また,居住をともにしていても主たる家計維持者
の収入に依存せずに生計を維持している場合には,その生計維持手段によって加入
する保険の種類が違う.)
国民健康保険組合
同業者あるいは同職者(ただし常時5人以上の従業員を使用する事業所に雇用され
ている人及び法人の事業所に属する人は,職域保険の被保険者となるので加入でき
ない.しかし同じ従業員規模の会社でも健康保険の適用除外になっているものは加
入できる)
*健康保険の適用除外
(1)船員保険の被保険者
(2)所在地が一定しない事業所に使用される人
(3)国民健康保険組合の事業所に使用される人
(4)健康保険の保険者、共済組合の承認を受けて国民健康保険へ
加入した人
一言で言えば,地域の個人事業主や零細企業従業員で,市町村の保険と
は別の保険組織を作りたいか作らざるをえない場合に結成される.(例
えば,国民健康保険制度が皆保険として実施される前から,存在してい
たとかの理由もある.京都芸術家健康保険組合.建設業の現場作業員の
ように仕事のたびに住所が変わるような職種の場合,そのたびに市町村
の国民健康保険に加入・脱退を繰り返すのは面倒とか.そのほか東京芸
能人健康保険組合とか)
財源 保険料,公的補助金(国,都道府県,市町村)による格差是正措置(わずか)
保険料:市町村の場合:加入世帯ごとに一世帯あたりの額を決め(世帯別平均割)そ
れに各世帯の所得(所得割),資産(資産割),被保険者数(被保険者均等割)を勘案し
た金額を加算して定める.(一世帯あたりの賦課限度額が定められている)保険料:国民
健康保険組合の場合:独自の算定基準を設けて定める.
*介護保険制度が導入されてから,国民健康保険の被保険者で 40 歳以上の者は,介護保
険料を国民健康保険の保険料の一部として納入するので,保険料は医療保険分と介護保険
分の二本立てになる.介護保険料の算定方式は医療保険とは違う.
*退職者医療制度
国民健康保険のなかに設けられている.会社や役所を退職して(すなわち健保や共済の
加入者ではなくなったとき),国保に加入した者のうち,以下の条件をすべて満たす者
とその被扶養者に適用される.
1)老人保険制度の適用を受けない(老人保険制度の適用:75 歳以上または 65 歳以上
で寝たきり)
2)厚生年金や各種共済組合などの年金を受けられる人で、その加入期間が20年
以上、もしくは40歳以降10年以上ある.
3)任意継続被保険者制度,特例退職被保険者制度 (特定健康保険組合)のいずれに
も加入していない者
*任意継続被保険者制度:退職などによって被保険者の資格を失った場合にも、一定の条
件のもとに、希望すれば2年間継続して、被保険者となれる制度(健保,共済)保険料は,
会社負担分と本人負担分をあわせて全額自己負担となる.
*特例退職被保険者制度
退職者向けに健保組合が特定健康保険組合を設立した場合
老人保険制度適用までの時間を埋める制度,原則として現役と同じ給付.(保
険料は別途算出.見なしの標準報酬月額を定めて算出)
健康保険
政府管掌健康保険
保険者 政府
被保険者 強制適用事業所と任意適用事業所で働く者で健康保険組合に加入していない者
(外国人従業員とも含まれる),任意継続被保険者
強制適用事業所
1原則として常時 5 人以上の従業員を使用する事業所
2法人の事業所 任意適用事業所
強制適用事業所とならない事業所で社会保険事務所長等の認可を受け健康
保険・厚生年金保険の適用となった事業所.事業所で働く半数以上の人が
適用事業所となることに同意し、事業主が申請して社会保険事務所長等の
認可を受けると適用事業所になる.保険給付や保険料などは、強制適用事
業所と同じ.
被保険者の 4 分の 3 以上の人が適用事業所の脱退に同意した場合には、事
業主が申請して社会保険事務所長等の認可を受け適用事業所を脱退するこ
とができる.
その他以下のいずれかの条件を満たす不定期雇用者で強制適用か任意適用の
事業所に雇用されている人
(1) 臨時に 2 か月以内の期間を定めて使用され、その期間を超えない人
(2) 臨時に日々雇用される人で 1 か月を超えない人
(3) 季節的業務に 4 か月を超えない期間使用される予定の人
(4) 臨時的事業の事業所に 6 か月を越えない期間使用される予定の人
*ただし以下の場合は健康保険の適用除外となる
(1) 船員保険の被保険者
(2) 所在地が一定しない事業所に使用される人
(3) 国民健康保険組合の事業所に使用される人
(4) 健康保険の保険者、共済組合の承認を受けて国民健康保険へ加入した人
*事業所とは
物の生産又はサービスの提供が事業として行われる一定の場所(事業:社会に
おいて意味のある活動を継続反復して行うこと:営利事業,非営利事業,公益
事業など)
事業所は公営と民営に分けられ,民営は個人事業所と法人事業所に区分される.
個人事業所:個人の場合,無給家族従業員を含む場合,法人形態をとらない共
同経営の場合
法人事業所:法律で法人格を認められている事業所.会社とそれ以外に区分さ
れる.会社:株式会社(有限責任),有限会社(有限責任),合名会社(無限責
任),合資会社(無限責任+有限責任)会社以外:××法人と名乗る組織(宗教
法人,学校法人,社会福祉法人など),土地改良区,NHK,日本銀行,農協,
漁協,一部の労働組合など
法人でない団体:同窓会,後援会,防犯協会,学会など
組合管掌健康保険
保険者 健康保険組合:単位は単一企業の場合や,複数企業が合同して作る場合がある
(同業の企業,資本系列が同じ企業)
被保険者 組合を設立した企業や企業連合の従業員とその被扶養者,任意継続被保険者
(外国人従業員とその被扶養者も含まれる)
財源 保険料(標準報酬月額と標準賞与額から算出,ともに上限あり.その上に介護保険
料が健保保険料の一部として加わる),企業負担分(被保険者と企業は折半),国庫補助
老人保険制度
保険者 各医療保険制度の保険者であるが実施主体は市町村.各保険の加入者のうち 75
歳以上の老人あるいは 65 歳以上で一定の障害をもつ者を,各保険制度の給付から外して,
老人保険制度に一括して医療給付を行う.高齢化対策(老人の割合の少ない保険制度=健
保などからの拠出金で,老人の多い保険制度=国保などの負担を軽減する)
被保険者 各保険の加入者のうち 75 歳以上の老人あるいは 65 歳以上で一定の障害をもつ
者
財源 保険事業 国,都道府県,市町村が各三分の一を拠出.
医療 保険者,国,都道府県,市町村の拠出
保険料の減免措置
災害や低所得以外では育児休業中
育児・介護休業法により、1 歳未満の子を養育する労働者を使用する事業主が保険者に
申し出をすることにより、育児休業を取得している被保険者負担分及びその事業主負担分
が免除される(健保,厚生年金,共済.国民健康保険組合についてはその性格により異な
る)
<給付と負担>
法令給付:医療給付と現金給付 医療給付:現物給付,償還払い給付
現金給付:手当金,一時金など
付加給付:法令で定められていない追加分(組合健保,国保組合,共済,自治体によって
は国保でも)
<健保>
医療給付 被保険者本人に対する療養の給付,被保険者の被扶養者に対する家族療養費
現物給付
本人負担 70-75 歳未満 1割(高額所得者2割*)
3-70 歳未満 3割
3歳未満 2割
*健保で被保険者である場合には標準報酬月額で算定.被扶養者である場合は,
対象高齢者の住民税の課税所得ならびに高齢者の年収を基準に算定.
*自己負担限度額
年齢(70 歳以上か 70 歳未満か)と所得,世帯合算によって定まる.
所得:総収入のなかから控除分(扶養控除,社会保険料支払額,各種保険掛
け金,寄付,医療費控除など)を差し引いた金額で,所得税や住民税の課税
基準となるもの.
ただし長期高額疾病に関しては,自己負担限度額は別に定める(人工透析
を行っている慢性腎不全の患者,血友病とHIVの患者の一部)
*償還払い給付
上記の自己負担限度額を超えた部分が対象(高額療養費,老人保健では同 じものを高額医療費と呼ぶ)
診療機関の窓口で支払った金額のうち自己負担限度額を超えた部分につい て,申請に基づいて後払いされる.(貸付制度を伴う場合あり)
入院時食事療養費
所得を考慮して算定(保険給付との差額は自己負担)
訪問看護療養費
療養の給付,家族療養費と同じ自己負担.自己負担限度額あり.
特定療養費
都道府県知事が認めた特定の医療機関で,高度先進医療や高価な歯科の材料
を使って治療を受けた場合,その基礎的な部分は健保が負担.差額部分は自
己負担.
療養費
やむを得ず非保険医の治療を受けた場合,海外で治療を受けた場合(海外治
療を目的としない場合),保険者が承認すれば,保険給付.
柔道整復師の施術、あんま・はり等の施術は医師が治療上必要と認めて受け
たとき
現金給付
移送費,家族移送費
病気やけがで入院や転医を医師が必要と認めた場合は,寝台車や運賃などの移送に要
した費用を健保組合で認めた範囲内で給付.
移送費が支給される要件は(1)適切な保険診療を受けるためであるもの (2)移
動を行うことが著しく困難であること (3)緊急その他やむを得ないもの,以上3
つの要件を満たしていることが必要.
傷病手当金
被保険者が仕事中以外(仕事中は雇用保険の対象)に,病気やけがで療養のため,連
続して4日以上仕事を休みその間の報酬が支払われない場合は,標準報酬日額の6割
を給付.
給付期間は給付開始の日から最長1年6ヵ月間.
会社から報酬の一部がもらえるときや,障害年金を受給している場合は,その差額が
給付される.
出産育児一時金(被保険者の場合),配偶者出産育児一時金(被扶養配偶者の場合,配
偶者以外の被扶養者の場合も含む=家族出産育児一時金という呼称が正確)
妊娠4ヶ月以上で出産したとき一児につき 30 万円
出産手当金
女子被保険者が出産のため会社を休み報酬が受けられないとき,出産前後 98 日間
(出 産予定日以前 42 日,出産の後 56 日)に対して,標準報酬日額の6割を給付.
対象は妊娠4ヵ月以上の生産・死産・流産・早産.
会社から報酬が一部もらえるときは,その差額を給付. 埋葬料,埋葬費
被保険者または被扶養者が死亡したとき,埋葬料(費)を給付
被保険者が死亡したときは,生計を維持されていた者で埋葬を行った者に給付.
被扶養者が死亡したときは,被保険者に給付.
ただし,埋葬料を受ける方者いない場合は,実際に埋葬を行った者に埋葬料の範囲内
での費用を埋葬費として給付.
埋葬料 被保険者は標準報酬月額の1ヵ月分,被扶養者は 100,000 円
埋葬費 埋葬料の範囲内の実費
医療給付以外の保険事業
健康管理サービス(健康診断,健康指導,人間ドックなど),保養施設の提供(施設の
運営,保養施設との提携)など
<国保>
医療給付は健保と同様.違いは,自己負担割合の算定基準が標準報酬月額ではなくて,所
得であること.
現金給付は,任意給付で保険者によって異なる.
退職者医療制度 退職者とその被扶養者の自己負担割合は健保,一般国保と同様
*特例療養費(平成 15 年3月 31 日以前にさかのぼって退職者医療の対象となった者で
平成 15 年3月 31 日までに医療機関で3割払っていた場合)
退職者医療制度の資格は,被用者年金の受給権を取得した日に生じるが.年金の裁定
申請から年金証書を受け取るまでに約3ヵ月ほどの期間がかかる.このため,年金証
書を受け取るまでの期間にやむをえず一般の加入者として3割の一部負担金を支払っ
たときは,申請すると差額の払戻しが受けられる場合がある.
<老人保険制度>
自己負担 1割(高所得者は2割)
高額医療費 本人あるいは世帯の自己負担限度額を超えた場合
自己負担限度額(月当たり)(この基準は,健保,一般国保でも同様)
高所得 外来 4万 200 円
外来+入院 7万 2300 円+医療費が 36 万 1500 円を超えた場合の1% (ただし過
去 12 ヶ月以内に限度額を超えた月が4回以上あった場合には,4回目以降は4万 200 円)
一般 外来 1万 2000 円
外来+入院 4万 200 円
低所得者Ⅰ* 外来 8000 円
外来+入院 1万 5000 円
低所得者Ⅱ* 外来 8000 円
外来+入院 2万 4600 円
*低所得者Ⅱ その属する世帯の世帯主および世帯員全員が住民税非課税
低所得者Ⅰ その属する世帯の世帯主および世帯員全員が市民税非課税であって,
その世帯の所得が一定基準以下の世帯
介護保険制度
保険者 市町村(特別区)
被保険者 40 歳以上
第1号被保険者 65 歳以上 要介護状態か要支援状態で保険給付
第2号被保険者 40 歳以上 65 歳未満 老化が原因とされる特定疾患により要介護状態か要支援状態で保険給付
*特定疾患
初老期の痴呆(アルツハイマー病、脳血管性痴呆など),脳血管性疾患(脳出血、
脳梗塞など),筋萎縮性側索硬化症,パーキンソン病,脊髄小脳変性症,シャイ・
ドレガー症候群,糖尿病性腎症,糖尿病性網膜症,糖尿病性神経障害,閉塞性動脈
硬化症,慢性閉塞性肺疾患(肺気腫,慢性気管支炎,気管支喘息など),両側の膝
疾患または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症,慢性関節リウマチ,後縦靭帯
骨化症,脊柱管狭窄症,骨粗しょう症による骨折,早老症(ウエルナー症候群)
*特定疾患以外は障害者福祉で対応.
財源 国庫負担(25%),都道府県負担(12.5%),市町村負担(12.5%),保険料
保険料の徴収と負担
65 歳以上
介護サービスの費用の約1/6(平均17%)を,基本的に市町村に住む65歳以上
人口で割った額が基準+所得による軽減あるいは割増
生活保護受給者 基準額の5割
老齢福祉年金受給者で住民税非課税 基準額の5割
世帯全員が住民税非課税 基準額の7割5分
本人住民税非課税 基準額
本人住民税課税で合計所得金額が 250 万円以下 基準額の2割5分増し
本人住民税課税で合計所得金額が 250 万円以上 基準額の5割増
65 歳以上 老齢・退職年金が年額 18 万円以上あれば,年金支給額から天
引き(特別徴収)
老齢・退職年金が年額 18 万円以下であれば,口座振替または納付書による納
付(普通徴収)
65 歳未満 医療保険の保険料として一括徴収
健康保険に加入している場合
保険料は給料に応じて異なる
保険料の半分は事業主が負担
サラリーマンの妻などの被扶養者の分は,各健康保険の被保険者が分担(新たに
保険料を納める必要はない)
国民健康保険に加入している場合
保険料は所得や資産等に応じて異なる
保険料と同額の国庫負担
世帯主が,世帯員の分も負担
保険給付
在宅サービス
家庭を訪問するサービス
ホームヘルパーの訪問 [訪問介護]
看護婦などの訪問 [訪問看護]
リハビリの専門職の訪問 [訪問リハビリテーション]
入浴チームの訪問 [訪問入浴介護]
医師、歯科医師、薬剤師、栄養士、歯科衛生士による指導 [居宅療養管理指導]
日帰りで通うサービス
日帰り看護施設(デイケアセンター)などへの通所 [通所介護(機能訓練、食
事や入浴など)]
介護老人保健施設などへの通所 [通所リハビリテーション(デイケア)]
施設への短期入所サービス
特別養護老人ホームや介護老人保健施設などへの短期入所 [短期入所生活介護
短期入所療養介護(ショートステイ)]
福祉用具の貸与・購入や住宅の改修
福祉用具(車いす,特殊寝台など)の貸与
福祉用具(腰かけ便座,入浴用いすなど)の購入費の支給
住宅改修費(手すりの取り付けや段差の解消など)の支給
その他
痴呆性老人のグループホーム [痴呆対応型共同生活介護]
有料老人ホームなどでの介護 [特定施設入所者生活介護]
介護サービス計画の作成
施設サービス
介護老人福祉施設 [特別養護老人ホーム]
介護老人保健施設 [老人保健施設]
介護療養型医療施設 [介護職員が手厚く配置された病院など]
療養型病床群,老人性痴呆疾患療養病棟
費用負担
原則としてかかった費用の 1 割を負担.施設に入った場合や日帰りで通うサービスを利
用する場合は,費用の 1 割のほかに,食費などを負担
*在宅サービスについて、要介護度に応じて利用できるサービスの限度額が設定されて
いる.
限度額は,訪問 通所サービス(家庭を訪問するサービス、日帰りで通うサービスと福
祉用具の貸与)については1か月ごとの金額で,施設への短期入所サービスについては
6か月ごとの日数で設定されている
訪問・通所サービス 短期入所サービス
要支援
61,500 円
7日
要介護 1 165,800 円 14 日
要介護 2 194,800 円 14 日
要介護 3 267,500 円 21 日
要介護 4 306,000 円 21 日
要介護 5 358,300 円 42 日
*高額介護サービス費と食費の負担
1割の負担が高くなる場合は,月額3万 7200 円で頭打ち(高額介護サービス費の支
給).特に所得の低い場合は,頭打ちの額を低く設定.
月々の1割負担の上限額 食費
(ア)
老齢福祉年金受給者で世帯全員が住民税非課税または生活保護受給者の場合
(月額)15,000円 (1日)300円
(イ)
世帯全員が住民税非課税の場合
(月額)24,600円 (1日)500円
(ウ)
低所得者(ア、イ)以外の場合
(月額)37,200円 (1日)780円
世帯に複数の利用者がいる場合には,すべての利用者の月々の1割負担を合算した額の
上限が,上記の額になる.
4-3 医療保険の現状と課題
別紙 厚生労働白書平成 16 年版 第 7 章参照
4-4 労働保険(労災保険)
労働者災害補償保険(労災)と雇用保険(失業保険)総称して労働保険
保険給付は別個だが、保険料納付は一括
原則として労働者を一人でも雇用している事業所は適用事業所(事業主が保険加入手続き
を自主的に行うことになっているので、小規模零細の商業やサービス業で漏れが多い)
*労災 労働者を雇用すれば強制適用事業所(当然適用事業所ともいう)、農林水産業の
うち個人経営の場合には、一定の場合に、暫定任意適用事業所。(事業主あるいは労働者の
意思で加入)
*雇用 農林水産業のうち個人経営であって、常時 5 人未満のものは暫定任意任意適用事
業所
一元適用事業所と二元適用事業所
通常は労災と雇用に一括加入(一元)
農林水産業などの一部について、両方を分けたほうがよい場合には、それぞれ別個に加入し
たりしなかったりする二元適用事業所(雇用と労災で暫定任意適用事業所の範囲がことな
るため)
通常は労働基準監督署で労働保険の一括加入手続きを行い、その後、公共職業安定所で雇用
保険の加入手続きを行う。
労災保険
事業所で働く労働者が業務上の事由(または通勤途上)により受けた疾病、負傷やそれに
よる障害、死亡等に対し、補償を行うことにより労働者やその家族を保護する
*現在ではこれに労働者福祉事業が加わる(被災労働者の社会復帰の促進、その家族への
支援)
日本での労災保障の最初は 1875 年、官役人夫死傷手当規則、民間労働者は鉱業条例(1890
年)。公的保険としては、屋内労働者:健康保険法(1927)で、屋外労働者については労働
者災害扶助責任法(1932)でカバー。
戦後は 1947 年の労働基準法の制定に伴い、同年に労働者災害保険法が成立。
労働法は、財閥解体、農地解放と並ぶアメリカ占領軍当局のニューディール理念の実現
1960 年には長期保障制度を導入、障害補償の一部を年金化(打ち切り保障の廃止)。65 年
には年金化の範囲を大幅に拡大(遺族補償の年金化など)、リハビリの導入。
1975 年からは労働者を雇用していれば原則加入。
1995 年の改正
*重度被災労働者の増加に配慮して介護保障給付と介護給付を新設
*遺族年金について従来は遺族数 5 人以上の受給権者が最高額を得ていたが、実情に合わ
ない(少子化、核家族化、2-4人世帯遺族の困窮)ので、基準額から遺族の人数に応じて
引き上げる制度に変更。
*遺族年金の受給権者である子の年齢制限を緩和(高校進学を考慮して満 18 歳になる日
の属する年度の 3 月 31 日まで)
1999 年 心理的ストレスによる精神障害に関して、業務上か業務外かの判断指針を策定し、
従来判断が難しかった業務に起因する精神障害の労災認定に道を開いた(自殺者と通院者
の増加、心身症は対象外)
1)精神障害の発病の有無を明らかにする
2)業務による心理的負荷、業務以外の心理的負荷及び個体側要因(心理面の反応性、脆
弱性)を検討し、発病した精神障害との関連性について判断。
運用に当たっては、発病の有無が明らかにしたうえで以下の基準に従って心理負荷の強
度評価を行う
1)発病に関与したとされる出来事が一般的にどの程度の強さの心理的負荷と受け止め
られるかを判断する。
2)出来事の個別の状況を考えて、心理的負荷の強度を修正する。
3)出来事に伴う変化や問題がどのくらい続いたのか、また悪化したのか改善されたの
かを判定する。
2000 年の改正
過労死の増加に対応して、危険因子の事前把握を可能にするために、労働安全衛生法で定め
られた職場の健康診断で脳や心臓に異常な所見がある場合には、医師による二次健康診断
と保健指導を労災保険給付の対象とした。
2003 年 精神・神経の障害に関する認定基準の見直し
非器質性精神障害
外傷性神経症だけでなく、鬱病や PTSD などの労災認定が増加したことを受けて、
1)非器質性精神障害は業務による心理的負荷を取り除き適切な治療を行えば完治あ
るいは症状の軽快するのが一般的であるから、療養給付を継続
2)抑鬱状態が認められるものについては、障害の程度に応じて三段階で障害認定
脳の器質的損傷・脊髄損傷による障害、外傷性てんかんに関する判定基準の見直し
現状
保険者 政府(厚生労働省) 実務 都道府県労働局、労働基準監督署
加入者 適用事業所の事業主 強制適用事業所の場合、何らかの事情で労災保険に加入し
ていなくても加入しているものと見なされて、保険給付が行われる
暫定任意適用事業所で適用申請した事業所の事業主
適用除外は暫定任意適用事業所を除けば、他の保険でカバーされている自治体(国
家公務員災害補償法、地方公務員災害補償法)と船員(船員保険法)
被保険者 適用事業所に雇用されている労働者と特別加入者
労働者 正規労働者であるか不正期労働者であるかを問わない(日雇い労働者、パート、
アルバイト、派遣労働者、臨時職員、任期制等)
業務執行権をもつ者は労働者とはみなされず被保険者となれない(社長、取
締役、ただしその地位が名目的なものであれば、被保険者と認定される場合も
ある)
家族従業員は事業主と一体とみなされ、原則として被保険者とならない
特別加入者 第一種特別加入者
労働保険事務組合に加入した場合、事業主、役員、家族労働者も労災保険に特別加
入できる(経営規模からみて、事業主も労働者と見なされる場合)
労働保険事務組合:国(厚生労働大臣)の認可を受けて、中小零細企業のために労
働保険事務を代行する組織(商工会議所などが設置している)
第二種特別加入者
一人親方等他に労働者を雇用しない自営業者で下記の事業を行うもの
個人タクシー、個人トラック輸送、大工、左官、とび
大工、左官、とびなどの建設業関係の一人親方
漁船による漁業(一本釣り、うに採取など)、
林業、
医薬品配置販売業(富山の薬売り)
再生利用を目的とする廃棄物の収集、運搬、選別、解体など
第三種特別加入者
保険が国内でしか適用されない問題への救済
国際協力事業団など技術協力を行う団体から海外に派遣される者
日本国内の会社から海外で行う事業に派遣された者
*海外出張は期間にかかわらず、国内出張に準じた保障対象となるので、出張者は
特別加入者になることはできない
保険料 賃金総額×労災保険率 加入者である事業主が一括負担、一部国庫補助あり
労災保険率は業務内容による危険率を考慮して千分の百二十九から千分の五(最
も高いのは水力発電所やトンネルの新設作業)
保険給付対象となる災害
業務災害、通勤災害
業務災害に関する給付
業務災害かいなかの認定は労働基準監督局がおこなうのでばらつきあり
判断基準
その災害に関して業務遂行性が証明され、業務起因性に対する反証がない場合には、
業務起因性を認めることが経験則に反しない限り、業務上の災害と認められる。
発症が業務遂行中である必要はない。発症が退職後であってもよい。
1)業務遂行性
傷病の原因となった労働者の行為が業務の範囲内にあること
事業主の支配下・管理下にあれば業務の範囲内と見なす
支配下:指揮命令を受ける状態にある
管理下:事業主の施設や車両などのもとにある
支配下にありかつ管理下に業務している場合
業務に付随する生理的行為、準備・始末行為、必要行為、緊急行為を含む
支配下にあり管理下にあるが業務していない場合
休憩時間など事業所施設内での自由行動(職務規定に反する場合は問題り)
*休憩時間に施設外でけがをした場合は業務遂行性は原則として認められな
支配下にあるが管理下を離れて業務している場合
出張、外出用務、旅客運送業務やその付随業務
2)業務起因性
傷病と業務との因果関係
× この業務に従事していたからこの傷病が生じた
○ この業務に従事していなかったらこの傷病は生じなかった
疾病の場合は業務の性質から有害因子との因果関係を推定(医学的な因果関係
の証明が必要)
ただし脳・心臓疾患の場合には業務の性質ではなくて、過重労働(労働時間)
を問題にする
3)反証
業務逸脱行為、業務離脱行為、恣意的行為
私的行為、自己または他人の故意
天変地異などの自然現象(ただし業務の性質上天変地異の影響をうけやすい場
合にはこの限りではない)
通勤災害
通勤 労働者が就業に関し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路及び方法で往
復すること。業務の性質を有するものを除く
1)経路を逸脱・中断した場合には、逸脱・中断のあいだ及びその後の往復は
通勤とは認めない
*日常生活上やむをえないもので厚生労働省令で定めるものについては、
逸脱・中断してもその後合理的な経路に復帰すれば以後は通勤と見なす
例 日用品の購入、職業訓練校や学校教育法で定める学校で教育を受け
る、選挙で投票に行く、病院などで治療を受ける
2)就業に関し
休み時間における住居と会社の往復、早退も含まれる
3)住居
単身赴任の場合の居所も含まれる(条件あり)
4)就業の場所
業務を開始して終了する場所であれば事業所内である必要はない。
就業場所が移動する場合には、移動期間は通勤ではなくて業務と見なされ
る
5)合理的な経路
必ずしも会社に届けた通勤経路である必要はなく、通常考えられる経路も
含まれる
駅構内の売店、トイレに立ち寄ること、定期券を購入することも合理的経
路の一部
子どもを預けに託児所による場合も合理的経路
6)逸脱
通勤途上で通勤または就業と関係のない目的で合理的な経路を離れること
7)中断
通勤途上で通勤とは関係のない行為を行うこと
以上の用件を満たす通勤途上で、通勤に起因する危険が現実化して生じた災害が通勤
災害
*通勤途上で持病の発作があらわれても通勤災害ではない。その持病が業務に起因す
るものであれば業務災害
第三者行為災害
労災保険の給付の原因である事故が第三者の行為などによって生じたもので、労災保険の
受給権者である被災労働者又は遺族に対して、第三者が損害賠償の義務を有しているもの
被災者及び遺族が第三者に対し損害賠償請求権を取得すると同時に、労災保険に対しても
給付請求権を取得することとなり、同一の事由について両者から重複して損害のてん補を
受けることを避ける為に支給調整が行われる
先に政府が労災保険の給付をした場合
政府は、被災者等が当該第三者に対して有する損害賠償請求権を労災保険の給付の価額の
限度で取得するものとします。(政府が取得した損害賠償請求権を行使することを「求償」
という)
被災者が第三者から先に損害賠償を受けた場合
政府は、その価額の限度で労災保険の給付をしないことができる(保険給付の控除という)
第三者行為災害の多くは、自動車賠償責任保険の対象となるもの
4-4-1労災給付
業務災害に対する給付 労災補償給付
通勤災害に対する給付 労災給付 給付の種類
医療給付 療養(保障)給付
本人の生活保障の給付
療養によって休業した場合
休業(保障)給付、休業特別支給金(労働福祉事業)
1 年半たっても直らず休業の場合は
傷病(保障)年金、傷病特別支給金・傷病特別年金(労働福祉事業)
障害が残った場合
障害(保障)年金、障害特別支給金・障害特別年金(労働福祉事業)
障害(保障)一時金、障害特別一時金(労働福祉事業)
介護を受けた場合
介護(保障)給付
遺族の生活保障の給付
障害(保障)年金差額一時金、遺族(保障)年金、遺族(保障)一時金
遺族特別支給金・遺族特別年金・遺族特別一時金
その他の給付
二次健康診断等給付、葬祭料
4-4-2 療養(保障)給付
業務・通勤災害での傷病は健康保険で診療を受けることができず、必ず労災保険で診療
療養の範囲は、
・ 診察、薬剤又は治療材料
・ 処置又は手術などの治療
・ 入院に関する費用
・ 傷病を治すために必要なあらゆる医療上の措置
・ 訪問看護事業者が行う訪問看護
・ 移送費(被災場所や自宅などから病院や診療所へ、あるいは病院や診療所から他の病院
や診療所へ移送する費用)
傷病が治ゆするまで給付(症状が安定し、医学上の一般的な治療を行っても治療効果が認
められなくなる状態が治癒、障害が残ってもそれを改善することができないのならば治癒)
給付の種類
労災病院、労災指定病院の場合 現物給付
それ以外 現金給付 本人が現金払いした後、請求により費用を還付
通勤災害の場合には低額の自己負担金あり(ただし、特別加入者、三日以内に死亡した者、
休業給付を受けない者、第三者行為災害による者からは徴収しない)
4-4-3 本人の生活保障のための給付
<休業したとき>
休業(保障)給付
労災により労働できず、そのために賃金を得ていない場合、休業 4 日目から休業(保障)給
付
*待機期間 休業初日から 3 日目まで
業務災害の場合、事業主は労働基準法の規定に基づき、1 日につき平均賃金の 60%を支給
1)休業(補償)給付 =(給付基礎日額の 60%)×休業日数
一部労働により一部賃金を受け取った場合は、その分を差し引いて支給
傷病補償年金の受給権が発生したときは支給停止
2)休業特別支給金 =(給付基礎日額の 20%)×休業日数
*労災保険給付ではなくて、労災保険のうちに労働福祉事業による給付(管轄は労働福祉
事業団)
一部労働により一部賃金を受け取った場合は、その分を差し引いて支給
傷病補償年金の受給権が発生したときは支給停止
*給付基礎日額
直前の 3 ヶ月間に支払われた賃金の総額をその期間の暦日数で割った1日当たりの賃金額
1 年 6 ヶ月経っても治癒しない場合
3)傷病(保障)年金
休業(補償)給付を受けている労働者が、療養開始後1年6ヶ月経過しても治癒せず 一定の
障害状態にある場合には、労働基準監督署長の職権で休業(補償)給付に換えて 「傷病(補
償)年金」を支給
*法律上は、休業(保障)給付を受けていることが、傷病(保障)年金の受給要件とはされ
ていない
傷病等級から外れたが治癒していない場合は、再び休業(保障)給付へ。
治癒したが障害が残った場合は、障害(保障)年金へ移行
給付内容
傷病等級 1 級 給付基礎日額の 313 日分、2 級 277 日分 3 級 245 日分
*そのほかに労働福祉事業から傷病特別年金と傷病特別支給金
4)傷病特別年金 ボーナスに相当する給付
算定基礎日額×313~245 日分(傷病等級による)
*算定基礎日額
災害の発生した日までの 1 年間に得たボーナスを365日で割ったもの
5)傷病特別支給金
一時金で、傷病等級に応じて 114~100 万円
4)5)についても、傷病等級から外れたが治癒していない場合は、再び休業特別支給付へ、
治癒したが障害が残った場合は、障害特別年金等で障害等級に応じて移行
*傷病等級
第1級
神経系統の機能又は精神に著しい障害を有し常に介護を要するもの
胸腹部臓器の機能に著しい障害を有し常に介護を要するもの
両眼が失明しているもの
そしゃく及び言語の機能を廃しているもの
両上肢をひじ関節以上で失ったもの
両上肢の用を全廃しているもの
両下肢をひざ関節以上で失ったもの
両下肢の用を全廃しているもの両下肢の用を全廃しているもの
前各号に定めるものと同程度以上の障害の状態にあるもの
第2級
神経系統の機能又は精神に著しい障害を有し随時介護を要するもの
胸腹部臓器の機能に著しい障害を有し随時介護を要するもの
両眼の視力が 0.02 以下になっているもの
両上肢を腕関節以上で失ったもの
両下肢を足関節以上で失ったもの
前各号に定めるものと同程度以上の障害の状態にあるもの
第3級
神経系統の機能又は精神に著しい障害を有し常に労務に服することができないもの
胸腹部臓器の機能に著しい障害を有し常に労務に服することができないもの
一眼が失明し他眼の視力が 0.06 以下になっているもの
そしゃく又は言語の機能を廃しているもの
両手の手指の全部を失ったもの
第 1 号及び第 2 号に定めるもののほか常に労務に服することができないもの
その他前各号に定めるものと同程度以上の障害の状態にあるもの
<障害が残ったとき>
障害等級1~7級該当者に対して
障害(補償)給付として障害(保障)年金(等級に応じて給付基礎日額の 313~131 日分)
*障害厚生年金、障害基礎年金の該当者である場合には、年金は併給される。
労働福祉事業から一時金の障害特別支給金(等級に応じて給付基礎日額の 342~159 万円
からすでに支給した傷病特別支給金を差し引いた金額)と障害特別年金(算定基礎日額×
等級に応じて 313~131 日分)
障害等級8~14 級該当者に対して
障害(保障)給付として障害(保障)一時金(等級に応じて給付基礎日額の 503~56 日分)
労働福祉事業から一時金の障害者特別支給金(障害等級に応じて 65~8 万円からすでに支
給した傷病特別支給金を差し引いた金額)と障害特別一時金(等級に応じて算定基礎日額
の 503~56 日分)(ボーナスのかわりだが年金ではなくて一時金)
*障害の等級が変化した場合には、その等級に応じた処遇へ移行
<介護が必要な場合>
介護(保障)給付
要件
障害年金あるいは傷病年金受給者で
一定の障害に該当し(1 級、2 級の精神神経・胸腹部臓器障害)
介護を受けたとき
常時介護・随時介護か、親族の介護を受けているかいないかで、給付内容に差がある。
*以下の施設介護には支給しない
身体障害者療養施設、特別養護老人ホーム、老人保健施設、原子爆弾被爆者特別養護老人ホー
ム、労災特別介護施設
4-4-3 遺族の生活保障
遺族(保障)年金
受給資格者 労働者の死亡当時、その労働者の収入で生計を維持していた者で、
配偶者、子ども、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹にあたる者
*生計の一部でも維持されていればよいので、共働きの場合でも受給権が
生じる
受給権の順位
(1) 妻又は、60 歳以上か一定の障害を有する夫
(2) 18 才に達する日以後の最初の 3 月 31 日までの間にあるか、一定の障害を有する子
(3) 60 才以上か一定の障害を有する父母
(4) 18 才に達する日以後の最初の 3 月 31 日までの間にあるか、一定の障害を有する孫
(5) 60 才以上か一定の障害を有する祖父母
(6) 18 才に達する日以後の最初の 3 月 31 日までの間にあるか 60 歳以上又は一定の障
害を有する兄弟姉妹
(7) 55 歳以上 60 才未満の夫(60 才より支給)
(8) 55 歳以上 60 才未満の父母(60 才より支給)
(9) 55 歳以上 60 才未満の祖父母(60 才より支給)
(10) 55 歳以上 60 才未満の兄弟姉妹(60 才より支給)
*一定の障害は、等級 5 級以上の身体障害
*配偶者は法的に結婚していなくても事実上の婚姻関係があれば、受給資格が生じる
*労働者の死亡当時胎児であった者は、生まれてから受給資格が発生
*最優先順位者が受給する。
*最優先順位者が死亡や再婚で失権した場合には、次の順位の者に受給権が移る
*18 歳未満が条件となっている者は、18 歳になると失権
*障害を受給要件とする者は、障害がなくなるか等級が 5 級以下になれば失権
*7~10 は 60 歳になってから受給
受給資格のある生計同一の遺族の数によって、給付基礎日額×153~245 日分
*障害(保障)年金遺族一時金
障害(保障)給付を受け取っていた労働者が死亡した場合
等級に応じて給付基礎日額×1340~560 日分-障害年金の既支給分
受給権者とその順位は年金と同じ
*労働福祉事業から遺族特別支給金 300 万円(一時金)と遺族特別年金(生計同一の遺族
の数に応じて算定基礎日額×153~245 日分)日分
*遺族(保障)年金の受給資格者がいない場合
遺族(保障)一時金、労働福祉事業から遺族特別支給金と遺族特別一時金
受給資格者
労働者死亡当時の遺族のなかで、以下の者の最上位者
1)配偶者
2)生計維持されていた子ども、父母、祖父母、孫
3)生計維持されていない子ども、父母、祖父母、孫 4)兄弟姉妹
遺族(保障)一時金 給付基礎日額×1000 日分
遺族特別支給金 300 万円
遺族特別一時金 算定基礎日額×1000 日分
4-4-4 その他の給付
葬祭料 受給資格者 葬儀を行った遺族、遺族以外が行った場合には、その者(例えば社葬を行った
場合には会社
葬祭給付額 基礎給付日額×30 日分+31 万 5000 円、それが給付基礎日額 60 日分を下回る
場合は、60 日分
4-4-5 他の公的保険との関係
4-4-5-1 公的医療保険との関係
健康保険は労災には使えない。労災による傷病は、労災保険による。
国民健康保険では、労災で療養の給付がある場合には使えないが、療養の給付以外では使え
る。(健康管理サービス、保養施設の利用など)
4-4-5-2 公的年金保険との関係
障害(保障)年金
障害厚生年金と障害基礎年金を受給できるとき、障害(保障)年金を 27%減額して併給
障害厚生年金だけを受給できるとき、障害(保障)年金を 17%減額して併給
障害基礎年金だけを受給できるとき、障害(保障)年金を 12%減額して併給
遺族(保障)年金
遺族厚生年金と遺族基礎年金(あるいは寡婦年金)を受給できるとき、遺族(保障)年
金を 20%減額して併給
遺族厚生年金だけを受給できるとき、遺族(保障)年金を 16%減額して併給
遺族基礎年金だけを受給できるとき、遺族(保障)年金を 12%減額して併給
傷病(保障)年金
障害厚生年金と障害基礎年金を受給できるとき、障害(保障)年金を 27%減額して併給
障害厚生年金だけを受給できるとき、障害(保障)年金を 14%減額して併給
障害基礎年金だけを受給できるとき、障害(保障)年金を 12%減額して併給
休業(保障)給付
障害厚生年金や障害基礎年金を併給される場合には、傷病(保障)年金の場合と同様の
減額
4-4-6 労働福祉事業
厚生労働省、労働者健康福祉機構(旧労働福祉事業団)、労災ケアセンター、労災年金福祉
協会が実施母体
事業の概要 社会復帰促進、被災労働者等掩護、安全衛生確保、労働条件確保
4-4-6-1 社会復帰促進
労働者健康福祉機構管轄
1)労災病院(37 カ所)、医療リハビリテーションセンター(岡山県)及び総合せき損セ
ンター(福岡県)の設置、運営
2)労災委託病棟の設置(労災病院のない地域 7 カ所)
3)労災リハビリテーション作業所(8 カ所)の設置、運営
重度脊椎損傷者、両下肢に重度の障害を受けた者が対象
医学的なリハビリを行いながら職場復帰をめざす
厚生労働省管轄
1)温泉保養
障害等級 8 級以上で障害(保障)年金を受ける者
障害等級 3 級以上で障害(保障)年金を受ける者とその介添人
*9 級以下でも場合によっては認められる
1 障害につき 1 回、7 日間
保養所:委託を受けた温泉宿泊施設(約 200 カ所)と機構が運営する休養所(3 カ所)
支給されるのは宿泊料、食事料、定額サービス料、往復所定交通費、入湯料
2)外科後措置
義肢を装着するための再手術やケロイドの整形など
労災病院や国公立病院など
3)義肢等の支給
義肢、上肢装具、下肢装具、義眼、電動車いす、かつら等 22 品目(修理も含む)
対象者は、障害(保障)年金受給者あるいは傷病(保障)年金受給者(支給される品目に
違いがある)
4)アフターケア
後遺症やそれに付随する症状に対する診察、保健指導、投薬など
対象者 せき髄損傷、頭頸部外傷症候群、慢性肝炎、虚血性心疾患、脳血管疾患、振動障害、精
神障害、サリン中毒
*振動障害者にはその他にも支援措置がある
場所 労災病院、その他労働局長が指定した病院
5)はり、灸
頸肩腕症候群、腰痛、振動障害が治癒し、障害(保障)給付を受けている者
4-4-6-2 被災労働者等掩護
厚労省管轄
1)特別支給金
休業特別支給金、障害特別支給金、遺族特別支給金、傷病特別支給金、障害特別年金(一時
金)、遺族特別年金(一時金)、傷病特別年金
2)労災就学等援護費
対象者 障害等級1級~3級の障害(補償)年金、遺族(補償)年金、傷病(補償)年金を
受ける者又はその家族
小学生1人月額12,000円、中学生1人月額16,000円
高校生1人月額18,000円、大学生1人月額36,000円
3)労災就労保育援護費
保育だが幼稚園も含む
対象者 障害等級1級~3級の障害(補償)年金、遺族(補償)年金、傷病(補償)年金を
受ける者又はその家族
労災就学等援護費の額
児童1人月額12,000円
*炭鉱事故被災者には特別の支援措置あり
機構管轄
1)年金担保貸し付け
労災の年金受給者に対して、年金受給権を担保として少額の貸し付け
労災ケアセンター管轄
1)労災特別介護施設(ケアプラザ)
家庭での介護が困難な高齢・重度の労災年金受給者のための入居施設(8 カ所)
2)労災ホームヘルプサービス
在宅の重度被災労働者に対して。自己負担あり
3)介護機器レンタル
労災年金福祉協会管轄
1)労災年金相談所
労災年金受給者の生活・健康・法律問題等の相談業務、過労死相談、精神障害相談など
(各都道府県)
4-4-6-3 安全衛生確保
厚労省管轄
1)労災防止対策
2)災害防止団体への補助
機構管轄
1)産業保健推進センター
各都道府県に設置され、産業医、産業看護職、衛生管理士などの産業保健関係者を支援(研
修など)
都道府県にはさらに地域産業保健推進センターを設置し、その活動を支援。
2)勤労者予防医療センター
労災病院に設置
高血圧、高脂血症、高血糖、肥満のいずれかの有所見者、その心配のある者、その家族、当該勤
労者を雇用する企業の管理者、担当者、産業医等を対象
生活指導、栄養指導、運動指導、研修・講習
有料
4-4-6-4 労働条件確保
厚労省管轄
1)勤労者財産形成促進制度への助成
機構管轄
1)未払い賃金の立て替え払い
企業が倒産したために、賃金を支払われないまま退職した労働者に対して、未払い賃金の一
部を機構が立て替え払い。
*倒産 破産法による破産、特別清算、整理、会社更生手続きの開始、民事再生手続きの開始など、法
的に広く倒産とみなされる場合の他、労働基準監督署が認定する事実上の倒産(事業が停
止していて、)も含まれる
対象者 以下の1)、2)の条件を満たす 1)適用事業所として 1 年以上、事業を継続していた事業所の労働者(外国人、パート、ア
ルバイトなども含む)で、倒産認定された事業所からの未払い賃金が 2 万円以上ある
2)破産申し立て、倒産認定の申請日の 6 ヶ月前から 2 年後のあいだに退職した者
対象となる未払い賃金
毎月決まって支払われる給与、退職手当
立て替え払いの金額
未払い賃金総額の 80%(ただし未払い賃金総額と立て替え払い額の両方に、年齢に応じた
限度額あり)
4-4-7 労災と労災保険の現状
4-4-7-1 労災と労働者の健康の現状
労災は、長期的には減少している→年間約 53 万人
このうち、休業4日以上の死傷者数は、2003 年には、12 万 5,750 人
業種別:製造業が 3 万 2,518 人で最も多く、次いで建設業の 2 万 9,263 人
この二つの業種で全体の5割以上
死亡災害:2003 年は、1,628 人(過去最少)
業種別:建設業が 548 人(全体の 33.7%)で最も多く、次いで製造業が 293 人(同
18.0%)、陸上貨物運送事業が 241 人(同 14.8%)
じん肺、有機溶剤中毒等の職業性疾病は後を絶たず、今なお、年間 8,000 人近くの労働者が
罹患
一般定期健康診断の結果、何らかの所見を有する労働者が年々増加する傾向
有所見率は4割超
仕事や職場生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じる労働者も6割超
4-4-7-2 労災保険の現状
2002 年度に新たに保険給付の支払を受けた被災労働者数は、業務災害による者が 52 万
9,139 人、通勤災害による者が4万 9,090 人、全体で 57 万 8,229 人となっており、前年度に
比べ 21,981 人減となっている。