「敬老の日」ニュース報道分析 ~テレビは高齢者をどのように提示しているか?~ ●はじめに 日 本 の 65 歳 以 上 の 高 齢 者 人 口 は 、「 人 口 推 計 」( 総 務 庁 )に よ る と 1999 年 10 月 1 日 現 在 2119 万 人 で 、総 人 口( 1 億 2669 万 人 )に 占 め る 割 合( = 高 齢 化 率 ) は 16.7% と な っ て い る 。さ ら に 、「 日 本 の 将 来 推 計 人 口 」( 1998 年 1 月 推 計 、厚 生 省 ) に よ る と 、 2015 年 に は 、 高 齢 者 人 口 は 3188 万 人 、 高 齢 化 率 は 25% を 超 え、国民の約 4 人に 1 人が高齢者という諸外国も経験したことのない本格的な 高齢社会が到来するものと予測されている。 これから迎える高齢社会において、高齢者の姿は現実社会を見るうえで必要 不可欠な要素となることは間違いない。そこで、メディアが提示する高齢者イ メージを調査・分析することで、メディアが高齢者をどのように捉えているか を 考 え て み た い と 思 う 。( 参 考 資 料:総 務 庁 編 平 成 12 年 度( 2000 年 度 )版 『 高 齢 社 会 白 書 』) ●分析対象番組と分析方法 分 析 対 象 は 2000 年 9 月 15 日 の 「 敬 老 の 日 」 に お け る N H K と 民 放 4 局 ( テ レ ビ 東 京 を 除 く )の 夕 方 と 夜 の ニ ュ ー ス で 、番 組 名 は 以 下 の 通 り で あ る 。「 敬 老 の日」は高齢者がニュース報道に普段以上に登場し、制作者の高齢者に対する イメージがより顕著に表れていると考えたため、この日を分析対象とした。ち なみに、この日はシドニーオリンピックの開会式とも重なり、開始時間が変則 的であった。 ・NHK 夕 : 「NHK ニュース」 (21:25~ 21:45) 夜 : 「ニュース 10」( 22:00~ 22:55) ・日本テレビ 夕 : 「ニュースプラス 1」( 17:30~ 18:57) 夜 : 「き ょ う の 出 来 事 」( 0:00~ 0:22) ・TBS 夕 : 「ニュースの 森 」( 17:54~ 18:57) 夜 : 「ニュース 23」( 23:30~ 0:33) ・フジテレビ 夕 : 「スーパーニュース」( 17:00~ 18:56) 夜 : 「ニュース JAPAN」( 23:50~ 0:56) ・テレビ朝日 夕 : 「スーパー J チャンネル」( 17:00~ 18:57) 夜 : 「ニュースステーション」( 22:30~ 23:41) 1 分析は、FCTスタッフ 4 人が各局ごとに担当を決め、夕方と夜のニュース に お い て 、番 組 の 構 成 表 の 作 成 、「 敬 老 の 日 」特 集 ト ピ ッ ク の 分 析 、高 齢 の 登 場 人物の分析を行い、定期的に集まり話し合いを積み重ねるという形で進められ た 。 そ の 際 、「 登 場 人 物 が 高 齢 ( 65 歳 以 上 ) で あ る 」 と の 判 断 は 、 次 の 3 つ の 条 件 の い ず れ か に あ て は ま る 場 合 と し た 。(1)テ ロ ッ プ や 音 声 な ど で 年 齢 が 紹 介 されている場合 (2)著 名 人 な ど 年 齢 が わ か っ て い る 場 合 (3)分 析 者 4 人 全 員 が「高齢者である」と判断した場合。 ●各局の数量的特色 各局(各番組)が「敬老の日」を意識したトピックを時間量でどの程度扱っ たかをまとめたものが表―1 である。この表から次のことがわかる。 日 本 テ レ ビ 、T B S 、フ ジ テ レ ビ の 3 局 は 、「 敬 老 の 日 」で あ る が「 敬 老 の 日 」 特集トピックの総時間量が少なく、表の一番下の欄を見ると、番組全体に占め る「 敬 老 の 日 」特 集 の 割 合 は 時 間 量 で 2% に も 満 た ず 、特 に 、フ ジ テ レ ビ 夜(「 ニ ュ ー ス J A P A N 」)に は「 敬 老 の 日 」特 集 ト ピ ッ ク が ひ と つ も 見 ら れ な い 。ま た、誌面の都合で各番組の構成表は掲載できなかったが、構成表を見ると多く のトピックが、番組の終了近くで取り上げられていることもこの 3 局に共通す る 。 こ れ ら 2 点 か ら 、 日 本 テ レ ビ 、 T B S 、 フ ジ テ レ ビ の 3 局 は 、「 敬 老 の 日 」 をそれほど重視していない番組構成であることがわかる。 それに対して、NHKとテレビ朝日は、番組全体に占める「敬老の日」特集 の 割 合 が 時 間 量 で N H K 夕 方 5.0% 、夜 13.8% 、テ レ ビ 朝 日 夕 方 15.7% 、夜 5.6% と 、 他 局 に 比 べ て 高 い 数 値 を 示 し て い る 。 ま た 、 N H K 夜 「 介 護 保 険 」( 約 7 分 30 秒 )、テ レ ビ 朝 日 夕 方「 有 料 施 設 」( 16 分 )、テ レ ビ 朝 日 夜「 老 人 ホ ー ム の 水 害 」( 4 分 ) は 、 日 本 テ レ ビ 、 T B S 、 フ ジ テ レ ビ の 「 敬 老 の 日 」 特 集 ト ピ ッ ク と は 対 照 的 に 、時 間 を 割 き 独 立 し た 枠 組 み で 取 り 上 げ て い る 。特 に N H K は 、 社会的関心事としての介護保険についてのトピックを扱っている。こうした点 で、この 2 局は「敬老の日」を重視した番組構成であると言える。 2 表1 夕 方 の ニ ュ ー ス お よ び 夜 の ニ ュ ー ス シ ョ ー「 敬 老 の 日 」特 集 ト ピ ッ ク 別 時 間 量 (2000. 9. 15) トピック名 ディズニーランドで 60 歳 以 上 の ダ ン ス パ ーティー とげ抜き地蔵で痴呆防 止のダンベル体操 高齢者人口の説明 テニスをする高齢者の 映像 介護保険制度によるサ ービス低下の現状 高齢者のための有料施 設 特別養護老人ホームの 水害 森総理の「敬老の日」 蟹 江 ぎ ん さ ん 108 歳 高齢者のサッカー大会 寿 司 屋 が 70 歳 以 上 の 高齢者に無料サービス 戦争で着られなかった 結婚衣裳試着 自分の遺影を撮影する 高齢女性グループ 動物園の長寿カバ 全番組に占める「敬老 の日」特集の割合 局 名 番 組 総 時 間 量 千 葉 県 東 京 都 N H K 日 本 テ レ ビ TBS フ ジ テ レ ビ テ レ ビ 朝 日 夕 夜 夕 夜 夕 夜 夕 夜 夕 夜 20 分 55 分 87 分 22 分 63 分 63 分 116 分 68 分 117 分 71 分 15 秒 24 秒 55 秒 20 秒 25 秒 20 秒 60 秒 20 秒 - 東 京 都 首 都 圏 愛 知 県 東 京 都 愛 知 県 鹿 児 島 県 東 京 都 福 井 県 福 岡 県 石 川 東 京 計 % 455 秒 960 秒 240 秒 40 秒 40 秒 24 秒 10 秒 30 秒 30 秒 27 秒 60 秒 5.0 % 455 秒 13. 8% ・夕方のニュース:①NHKニュース ④スーパーニュース ・夜のニュースショー:Aニュース10 18 秒 66 秒 1.3 % 24 秒 1.8 % 55 秒 1.5 % ②ニュースプラス1 38 秒 1.0 % 70 秒 1.0 % 0 秒 0 % ③ニュースの森 ⑤スーパーJチャンネル Bきょうの出来事 DニュースJAPAN Cニュース23 Eニュースステーション 3 11 0 5秒 15. 7% 240 秒 5.6 % ●トピックの内容的特色 次に、表―1 のトピックの内容を具体的に報告する。 ・2 局以上に共通しているトピック 2 局 以 上 で 取 り 上 げ ら れ て い る ト ピ ッ ク と し て 、「 デ ィ ズ ニ ー ラ ン ド で ダ ン ス パ ー テ ィ ー 」「 と げ ぬ き 地 蔵 で ダ ン ベ ル 体 操 」「 動 物 園 の 長 寿 カ バ 」 が あ る 。 「ダンスパーティー」は、日本テレビ夕方と夜、TBS夕方と夜、テレビ朝 日 夕 方 、 の 3 局 5 番 組 で 取 り 上 げ ら れ 、 15 秒 か ら 55 秒 と 短 い 。 内 容 は 、 東 京 デ ィ ズ ニ ー ラ ン ド で 60 歳 以 上 の ダ ン ス パ ー テ ィ ー が 開 催 さ れ 、招 待 さ れ た 150 組の高齢者がソーシャルダンスを踊るというものである。TBS夕方には車椅 子の高齢女性が登場し、日本テレビの両番組では高齢者よりもディズニーラン ド の キ ャ ラ ク タ ー に 重 点 が 置 か れ て い る 等 、各 番 組 で 多 少 の 違 い は 見 ら れ る が 、 テ ロ ッ プ や ナ レ ー シ ョ ン で「 元 気 」が 強 調 さ れ 、ダ ン ス を す る 高 齢 者 を「 元 気 」 の象徴として捉らえている点で共通している。 「 ダ ン ベ ル 体 操 」は 、N H K 夕 方 と テ レ ビ 朝 日 夕 方 の 2 番 組 で 取 り 上 げ ら れ 、 60 秒 と 20 秒 で こ れ も 短 い 。 内 容 は 、 東 京 巣 鴨 の と げ ぬ き 地 蔵 境 内 で 、 整 列 し た高齢者が痴呆防止と体力維持のために指導者の声に合わせダンベル体操を行 うというものである。 「動物園のカバ」は、日本テレビ夕方とTBS夜の 2 番組で取り上げられ、 27 秒 と 18 秒 で こ れ も 短 い 。 石 川 と 東 京 で 場 所 は 異 な る が 、 長 寿 の カ バ が 子 供 た ち に お 祝 い さ れ な が ら 、お か ら の ケ ー キ を 食 べ る と い う 設 定 は 共 通 し て い る 。 ・「 明 る い 」 高 齢 者 「明るい」印象のトピックとして、日本テレビ夕方の「高齢者のサッカー大 会 」、フ ジ テ レ ビ 夕 方 の「 寿 司 の 無 料 サ ー ビ ス 」「 結 婚 衣 装 の 試 着 」「 遺 影 の 撮 影 」、 テ レ ビ 朝 日 夕 方 の 「 ぎ ん さ ん 」「 有 料 施 設 の 紹 介 」 が あ り 、「 有 料 施 設 の 紹 介 」 ( 16 分 ) 以 外 は 10 秒 か ら 40 秒 と 短 い 。 「 サ ッ カ ー 大 会 」 は 、 鹿 児 島 市 で 開 催 さ れ た 42 歳 か ら 78 歳 ま で の 男 性 の サ ッ カ ー 大 会 の 様 子 を 伝 え る も の で あ る 。「 ダ ン ス パ ー テ ィ ー 」「 ダ ン ベ ル 体 操 」 のトピックとも共通するが、体を動かす(運動をする)高齢者を元気な高齢者 として伝えている。 「 寿 司 の 無 料 サ ー ビ ス 」「 結 婚 衣 装 の 試 着 」「 遺 影 の 撮 影 」 は 、 ニ ュ ー ス フ ラ ッシュ風に高齢者の映像を日本各地(八王子、福井、福岡)から紹介する 1 分 間 の ト ピ ッ ク で あ る 。タ イ ト ル が「 ま だ ま だ 元 気 で す ! 」と あ る よ う に 、「 元 気 」 な 高 齢 者 を 強 調 し て い る 。 加 え て 、「 結 婚 衣 装 の 試 着 」「 遺 影 の 撮 影 」 に 登 場 す る 高 齢 者 は 女 性 の み で 、「 女 性 は 外 観 を 気 に す る 」と い っ た ジ ェ ン ダ ー・ス テ レ オタイプがうかがえる。 「 ぎ ん さ ん 」 は 、「 ダ ン ス パ ー テ ィ ー 」「 ダ ン ベ ル 体 操 」「 高 齢 者 人 口 の 説 明 」 「 森 総 理 」と と も に 、「 元 気 な お 年 寄 り ! 」と い う タ イ ト ル で ニ ュ ー ス フ ラ ッ シ ュ風のトピックのひとつとして取り上げられている。内容は、高齢者の代名詞 とも言えるぎんさんの「敬老の日」の様子を追うものである。ナレーションで 「こちらはぎんさん、大雨で自宅が水に浸かりましたが、元気に敬老の日を迎 4 えました」と言っているように、これも「元気」を強調している。 「高齢者のための有料施設」は、リタイア後に安く入れる老人ホームや賃貸 住宅等を紹介する内容で、老後をいかに楽しく過ごすかがテーマとされ、登場 する高齢者は明るく、楽しいイメージで提示されている。 ・「 介 護 さ れ る 」 高 齢 者 介護の対象としての高齢者を扱うトピックとしては、NHK夜の「介護保険 制度によるサービス低下」とテレビ朝日夜の「特別養護老人ホームの水害」が あ り 、 7 分 30 秒 と 4 分 で 比 較 的 長 い 。 「 介 護 保 険 」 は 、 痴 呆 症 状 の あ る 98 歳 の 母 親 を 、 肝 臓 病 を 患 っ て い る 71 歳 の 息 子 が 面 倒 を 見 る と い う 老 々 介 護 の 内 容 で あ り 、 ま た 、「 老 人 ホ ー ム の 水 害 」 は、9 月の東海豪雨で被害に遭った老人ホームの被害状況とそれによる生活へ の支障についてのレポートである。どちらも介護される対象、被害者、弱い存 在といった高齢者像が提示されている。 ●登場人物の特色 イ ン タ ビ ュ ー あ る い は ク ロ ー ズ・ア ッ プ さ れ た 高 齢 者(「 高 齢 者 」の 判 断 は 前 述 の 通 り )の 人 数 を 、番 組 ご と 男 女 別 に ま と め た も の が 表 ― 2 で あ る 。A は「 敬 老の日」特集トピック(表―1 のトピック)に登場する高齢者の人数であり、 BはA以外のトピックに登場する高齢者の人数である。この表から次のことが わかる。 一 番 下 の 合 計 の 欄 を 見 る と 、 A は 女 性 59 人 に 対 し 男 性 30 人 で 女 性 が 男 性 の お よ そ 2 倍 の 数 で あ り 、 逆 に 、 B は 女 性 11 人 に 対 し 男 性 33 人 で 男 性 が 女 性 の 3 倍 の 数 で あ る 。 つ ま り 、A (「 敬 老 の 日 」 特 集 ト ピ ッ ク )に は 女 性 が 多 く 登 場 し 、B(「 敬 老 の 日 」特 集 以 外 の ト ピ ッ ク )に は 男 性 が 多 く 登 場 す る 。B の ト ピ ックは「敬老の日」特集以外のトピックで、政治的・経済的・社会的トピック が多く、より普段のニュース報道に近いと言える。こうしたトピックに登場す る高齢者というと男性が多くなるのは、男性は高齢になっても社会的に活躍で きる、つまり日本が男性中心社会であることを意味している。 ま た 、表 右 端 の B の ト ピ ッ ク 合 計 を 見 る と 、テ レ ビ 朝 日 夜(「 ニ ュ ー ス ス テ ー シ ョ ン 」)の 9 人 を 除 い て 、そ の 他 の 番 組 の 高 齢 の 登 場 人 物 の 数 は 5 人 未 満 で あ る。全登場人物数に対する高齢の登場人物数の割合を出していないため推定で はあるが、高齢者の登場回数が決して多いとは言えないのではないだろうか。 5 表 -2 高 齢 者 の 登 場 集 計 表 ( 2000. 9. 15) 局名 NHK 日 本 テレ ビ TBS フジテレビ テレビ朝 日 計 (単位:人) 男性 計 番組名 女性 A 3 1 4 B 0 1 1 A 1 1 2 B 2 3 5 A 1 4 5 B 0 5 5 A 2 1 3 B 1 2 3 A 2 1 3 B 0 3 3 A 4 3 7 B 0 3 3 A 7 2 9 B 2 3 5 A - - - B 1 2 3 A 35 17 52 B 3 2 5 A 4 0 4 B 2 7 9 A 35 30 89 B 3 33 44 ●まとめ 以 上 分 析 し て き た こ と を 踏 ま え て 、「 敬 老 の 日 」の ニ ュ ー ス 報 道 に お い て 高 齢 者像がどのように提示されているかをまとめてみる。 ま ず 、「 デ ィ ズ ニ ー ラ ン ド の ダ ン ス パ ー テ ィ ー 」等 、一 つ の ト ピ ッ ク が 複 数 の 局で取り上げられ、同じように構成されていることから、制作者がもつ高齢者 6 像が乏しく、そのイメージも画一的なものでしかないことがわかる。 次 に 、「 明 る い 高 齢 者 像 」と「 介 護 さ れ る 高 齢 者 像 」と の 単 純 な 二 極 化 が 見 ら れ る こ と が 挙 げ ら れ る 。「 明 る い 」高 齢 者 の ト ピ ッ ク で は 、テ ロ ッ プ や ナ レ ー シ ョンで「元気」が強調され、登場人物は、明るく、楽しく生きている存在とし て 提 示 さ れ 、対 照 的 に「 介 護 さ れ る 」高 齢 者 の ト ピ ッ ク で は 、登 場 人 物 は 弱 く 、 元気がなく、世話をされる存在として提示されている。この 2 つの高齢者の提 示 を 時 間 量 で 比 較 す る と 、「 明 る い 」高 齢 者 の ト ピ ッ ク の 方 が 多 く 、「 敬 老 の 日 」 を明るく、楽しく伝えようとする制作者の意図が伝わってくる。 ま た 、「 ぎ ん さ ん 」の ト ピ ッ ク で 顕 著 な よ う に 、高 齢 者 を「 か わ い い 」存 在 と して扱っているトピックは見られるが、逆に、経験豊富で賢い高齢者や、威厳 あ る 頑 固 な 職 人 肌 の 高 齢 者 な ど 、「 尊 敬 」あ る い は「 畏 敬 」の 対 象 と し て の 高 齢 者 は 見 ら れ な い 。「 敬 老 の 日 」で あ る に も か か わ ら ず「 敬 わ れ る 老 人 」が 登 場 し ない点に、制作者が「敬老の日」を単なる「老人を励ます日」として捉えてい ることがわかる。 さらに、社会において現役で活動をしている高齢者を紹介するトピックがな い こ と も 挙 げ ら れ る 。「 敬 老 の 日 」 特 集 ト ピ ッ ク で 取 り 上 げ ら れ て い る 話 題 は 、 趣味的、娯楽的な話題、または介護生活の話題であり、例えば、緒方貞子さん (前国連難民高等弁務官)のような社会的な仕事に現役で携わっている高齢者 を紹介するトピックが欠落している。 登 場 人 物 に 関 し て 言 え ば 、「 敬 老 の 日 」特 集 ト ピ ッ ク に 女 性 が 多 く 登 場 す る 点 か ら 、励 ま す べ き「 高 齢 者 は 女 性 」「 社 会 的 に 活 躍 す る 高 齢 者 は 男 性 」と い う 偏 った男女観がうかがえる。 最 後 に 、「 敬 老 の 日 」特 集 ト ピ ッ ク に 家 族 や 近 隣 、若 者 や 子 ど も が ほ と ん ど 登 場 し な い こ と が 挙 げ ら れ る 。画 面 に 登 場 す る の は 高 齢 者 ば か り で 、家 族 の 一 員 、 地域の一員としての高齢者、異なる世代の人びと交流する高齢者は登場せず、 「 高 齢 者 は 高 齢 者 だ け 」と い っ た 制 作 者 の 高 齢 者 に 対 す る 姿 勢 が 伝 わ っ て く る 。 全体的に見て、個としての高齢者、多様な高齢者像は提示されず、高齢者を ひとつの集団としてひとくくりに捉らえている制作者のステレオタイプがうか がえる。 ●おわりに 日本がこれから高齢社会に突入するにつれ、メディアに高齢者が登場する機 会も増えてくるだろう。しかし、これまで見てきたように、ニュース報道に登 場 す る 高 齢 者 は 、「 明 る い 」高 齢 者 、「 介 護 さ れ る 」高 齢 者 、「 か わ い い 」高 齢 者 など、多様な高齢者像の一部分が提示されているにすぎず、また、高齢者を高 齢者だけの集団で取り上げたり、女性を多く取り上げたりなど、制作者の一定 の価値観に基づいた高齢者イメージが提示されている。 こうしたステレオタイプに基づく高齢者像は、私たちが描く高齢者に対するイ メージに少なからず影響を及ぼしていくのではないだろうか。こうしたステレ オタイプを提示するメディアに対して、私たちにできることはやはり、 7 メディア・リテラシーの基本である「メディアをクリティカルに読む」ことで あろう。そうすることで、メディアが提示するステレオタイプ、メディアが伝 えていない情報に気づくことができる。実際、自分の周囲にいる高齢者を見て みるだけで、実に多種多様な高齢者がいることに気づく。そして、それらの高 齢者とメディアによって提示される高齢者と比べてみるなら、メディアにない イメージ、どのような情報が欠落しているかを具体的に語ることができるよう になるのではないか。 また、メディアのステレオタイプから脱し、欠落している情報を補う手段の ひとつとして、高齢者ひとりひとりが発言できる場が必要でもある。そのよう なオルタナティブなメディアで自らを表現することによって、高齢社会の主要 な構成員である高齢者が主体的に生きることができるのではないだろうか。 ( ま と め 、畠 山 亮 太 ) ― 『 fctGAZETTE』 No.73( 2001 年 3 月 ) 掲 載 ― 8
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