第305号(2009年07月31日発行)

北里大学医学部ニューズ
北里写真クラブ 前田 仁 氏 撮影
CONTENTS
■スキルスラボ内覧会報告………………………………………2
■平成21年度 北里大学医学部同窓会定期総会報告 …………3
■海外選択実習報告………………………………………………4
ミシガン大学…………………………………………………5
マーブルク大学………………………………………………6
カルガリー大学………………………………………………7
■科学研究費助成を受けて………………………………………8,9
■米国への臨床留学………………………………………………10
■平成21年度各賞募集について ………………………………11
■研究単位紹介 外科学…………………………………………12
2009.7
No.305
スキルスラボ内覧会報告
黒 川 信 悟
(教授・医療技術教育研究部門)
スキルスラボの設置計画から約1年が経過し、設置場所
もなく教育機器もない状態からようやく内覧会を開催する
ことができるまでに整備されました。相澤好治医学部長、
岡安勲大学院医療系研究科長、藤井清孝大学病院長、赤星
透キャリア形成センター長をはじめ多くの方々のご支援と
ご協力によりこの日を迎えることができ感謝申し上げます。
また、医学部の予算、大学病院の予算、癌プロフェッショ
ナル養成の補助金、大学病院連携型高度医療人養成推進事
業プログラムの補助金など多方面の資金的支援を受けまし
たことをご報告いたします。
スキルスラボの設置運営に関してはセクショナリズムを
排除し、医学部と大学病院が連携協力して設立運営に当た
ること、卒前教育、卒後研修、専門医研修ばかりでなく生
涯研修の場として機能すること、医師だけでなく医療に携
ターネット環境が構築され、診察室には遠隔操作可能なビ
わる多職種の研修の場であること、将来の学部横断的研修
デオカメラが無線LANで接続されており、画像を記録し
の運営の基礎となることを基本的姿勢として掲げておりま
振り返り再生をするあるいは実況映像を視聴することが可
す。
能です。教育機器としては静脈穿刺トレーナー(腕)10台、
スキルスラボは大学病院9C病棟に設置され、もともと
中心静脈穿刺トレーナー2台、AEDトレーナー(上半身)
病棟として使用していた施設ですので使い勝手は非常によ
5台、AEDトレーナー(全身)1台、脊椎穿刺シミュレー
く、約700㎡の面積を有効に使用することができます。施
タ1台、腰椎・硬膜外穿刺シミュレータ1台、膝穿刺シミュ
設面積は他の施設に比べかなり恵まれており、またアクセ
レータ1台、肩穿刺シミュレータ1台、乳癌検査シミュレー
スもよいことは将来の発展性を約束するものです。管理人
タ1台、手洗い評価キット2台、外科縫合練習キット10台、
として医学部技術員三村剣司さんが常駐し、医学部および
直腸診トレーナー1台、内視鏡下手術トレーナー3台、大
大学病院担当者として私が運営整備にあたっています。ト
腸内視鏡トレーナー1台、上部消化管・ERCP研修モデル
レーニングルーム3室、講義室、図書室、超音波室、内視
1台、気道管理トレーナー1台を新規購入し、中古機器と
鏡室、診察室3室、スキルスラボ事務室、臨床研修センター
して超音波断層装置2台、心拍モニター5台、除細動器4
事務室、模擬患者コーディネーター室から構成されており
台、レスピレーター3台、心電計1台が常備されています。
ます。4台の大型液晶テレビ、PC端末10台によりイン
当面の運営は予約制として教育機器による研修と講義室
としての利用から開始したいと考えております。将来的
には目的に応じたプログラムを作成し定期的な研修を行
えるような体制を組みたいと考えております。予約は電
話(内線8319)、事務室窓口(9C)、メール(kmimura@
kitasato-u.ac.jp)の3方法にて受け付けますのでご利用く
ださい。
技術の向上、医療安全の確保など今後スキルスラボの
ニーズは大きくなると思われます。スキルスラボをうまく
利用し、自信を持って臨床の現場で活躍してください。技
術を身につけた先輩医師の方々の協力なくしてはスキルス
ラボの機能は十分に発揮されません。重ねて皆様のご支援
ご協力をお願いします。
− 2 −
平成21年度
北里大学医学部同窓会定期総会報告
北里大学医学部同窓会長 恒例の同窓会定期総会・懇親会が平成21年6月13日(土)
大 内 孝 文
への参加
新宿・京王プラザホテルで開催されました。相澤好治医学
12.第41回私立医科大学同窓会連絡会東部会の開催
部長、田中克明けやき会会長をはじめ、正会員、名誉会員、
13.代議員制度検討委員会の設立
特別会員、準会員など多数出席のもと行われました。今期
14.ホームページの管理・運営
は役員の改選期であり、新役員の紹介がされました。また
15.黒川正治学術奨励賞の選考・運営・基金の募金運動
私が会長として再任され今後3年間同窓会を担う事となり
16.医学部医師国家試験対策・CBT共用試験への援助
ました。よろしくお願い申し上げます。平成20年度事業報
17.医学部困窮学生救済基金の運営・拠出
告、会計報告、平成21年度事業計画〔下記〕、予算の審議
18.会員および医学部関係者主催の学会への援助
が行われ承認されました。報告事項1)名誉会員:阿部直
19.医学図書館への学生用図書の寄贈
前教授、齋藤豊和前医療衛生学部長、坂井文彦前教授、亀
20.各種記念品の贈呈
田芙子前教授、
西元寺克禮前東病院長、
藤田芳邦前教授。2)
21.大学病院研修医オリエンテーションでの説明
特別奨励賞:川島孝一郎(4期生)
、橋本信子(21期生)。3)
22.医学部長・大学病院長・大学東病院長・医学部教授と
教授・准教授昇任者:東京女子医科大学医学部医学教育講
の意見交換
座主任教授 吉岡俊正(4期生)、北里大学医療衛生学部
23.医学部新入生歓迎会の開催
リハビリテーション学科作業療法学専攻教授 福田倫也
24.医学部ガイダンス・オリエンテーションでの説明
(14期生)
、広島大学医学部産婦人科学臨床教授 内藤博之
25.準会員の海外実習に係る援助
(2期生)
、東北大学医学部総合診療部臨床教授 川島孝一
26.準会員課外活動奨励賞の選考・授与
郎(4期生)、東京女子医科大学病院第2外科准教授 板
27.準会員(新5年生)への「Sophia kai ergon」白衣授
橋道朗(9期生)
、北里大学医学部医学教育研究部門准教
与式の開催、卒業生への「MD」白衣の授与
授 守屋利佳(12期生)、鹿児島大学大学院医歯学総合研
28.東京海上日動火災保険代理店業務の継続
究科精神機能病学分野准教授 赤崎安昭(12期生)、杏林
29.全学同窓会との活動
大学医学部薬理学准教授 安西尚彦(特別会員)
、北里大
学医学部呼吸器外科学准教授 伊豫田明(特別会員)。4)
総会・懇親会で会員から、新病院建設に際しても、相模
物故会員:吉田公雄(1期生)、二見俊郎(名誉会員)、田
原市の象徴であるあの大きなけやき並木を何としてでも残
淵紳一郎(9期生)、榊原譲(名誉会員)
、北原東一(11期生)、
して欲しいとの意見がありました。また、名誉会員(殆ど
一杉正治(名誉会員)、中山智彦(10期生)
、ご冥福をお祈
の先生方が北里大学名誉教授ですが)の先生方が医学部や
り致します。5)準会員課外活動奨励賞:スキー部、ボー
大学病院に連絡を取っても、若い事務員の方や、若い先生
ト部、水泳部。6)歴代同窓会役員(在任25年以上)の表
方に忘れられているようです。
「どちらさまですか?」と
彰:8名
聞かれるのは非常に寂しい限りで、医学部や大学病院内に
〔平成21年度事業計画〕
何らかの形で写真、氏名等を残すことが出来たらうれしい
1.定期総会の開催
との事でした。日本の伝統ある大学や外国の多くの病院で
2.全国支部長会の開催
は名誉ある称号と、歴史が刻まれています。我々の恩師の
3.理事会、常任理事会の開催
先生方に敬意を表し、医学部同窓会でお手伝いできる事が
4.医学部同窓会報、会員名簿の発行
あれば援助致しますのでご検討下さい。
5.会員への文献複写サービス業務
6.第8回市民公開講座&全学同窓会公開講座の合
同開催
7.メールマガジンの配信
8.支部活動・新規支部設立、女医部会、卒後同期
会の支援援助、新規特別会員・賛助会員の勧誘
9.医学部同窓会創立40周年記念事業への積み立て
10.医学部同窓会将来事業計画検討委員会の設置
11.全国私立医科大学同窓会連絡会、神奈川医意会
− 3 −
海外選択実習報告
国際交流委員会委員長 篠 原 信 賢
(教授・免疫学) 平成21年度の海外臨床研修の報告会が7月3日(金)に
国を余儀なくされたが、同大学のDr. Easton の元で3週
行なわれた。今年の研修はインフルエンザA型(豚インフ
間ほどは研修することが出来た。主に研究室にて睡眠時無
ルエンザ)騒ぎの直撃を受け、研修プログラムが切り上げ
呼吸症候群の研究への参加と、呼吸器外来、スリープクリ
られ学生達が中途で帰国するという事態にいたった。とく
ニックの見学実習を行ったという事であった。マーブルグ
にマギル大学へ行く予定だった阿部計大君は出国すら出来
大学 Prof. Maisch のもとに研修に行った寺中寛、林健太
ずに終わった。このため今回の報告会にはバイオセーフ
郎、増田真喜の3君は2週間あまりの期間だけ循環器内科
ティー委員長の松下治教授にわざわざおこし頂いて経緯の
での実習を行なった。ドイツ医学生の問診や心雑音の聞き
説明をして頂いた。プログラムの実施が大幅に削られてし
取りなど臨床現場に即した能力の高さに印象を受けたとの
まった事は残念であったが、このような事態に直面するこ
事であった。唯一人日本にとどまった阿部計大君は、どの
とにより医療従事者の社会的責任と個人生活の葛藤を実体
ように気持ちを切り替え日本での実習に適応したかについ
験できた事は医師となってゆく学生にとっては貴重な経験
て報告した。阿部君については今年度中にうまく調整して
となったのではないかとも考えられる。
研修を実現させることが出来るならば積極的に支援するこ
ミシガン大学のDr. Fettersの家庭医学科に行った牧野内
とを考えている。
龍一郎君は予定のプログラムを全て終える事が出来た唯一
今回の報告会は5年生以下の参加が極めて少ないことが
の幸運者であった。実習の内容は外来実習を中心に、往診、
気になった。研修が大幅に削られてしまったのを伝え聞い
病院実習、当直実習と家庭医が行う医療活動を一通り経験
て期待する気持ちがなくなったのかも知れない。来年度の
し、特に外来実習では患者との会話が重視され、時間をか
海外実習についての情報を伝える予定であったがもう一度
けて丁寧に行なわれる問診に強い印象を受けたことを報告
広く知らせる作業が必要である。
した。カルガリー大学に行った福島泰斗君は研修半ばで帰
− 4 −
海外選択実習報告(ミシガン大学)
ミシガン大学 家庭医科の実習を終えて…
牧野内
龍一郎
去る4月初旬∼5月初旬、海外実習の制度を利用し、ア
した。その中で、通訳サービスで働く老婦人は本当に尊敬
メリカのミシガン大学家庭医科での実習をさせていただき
できる素晴らしい人でした。どこか凛とした彼女は以前、
ました。当初は海外での実習に戸惑いを覚えながらも、篠
日本で宣教師をやられていたクリスチャンだそうで、彼女
原先生、守屋先生、青木さん、濱さんの強力なサポートに
には宗教や哲学、いまのアメリカ社会について様々な分野
より無事実習を行うことができました。この場をお借りし
にわたって話をしていただきました。その中で彼女の述べ
お礼を述べたいと思います。
た「アメリカは信仰の国であり、アメリカには聖書の隣人
実習の内容は外来実習、往診、病院実習、当直実習と家
を愛するという信仰が根底にあるのです。
」とのお話は大
庭医が行う医療活動を一通り経験するものでした。その中
変印象的でした。 でも、実習の中心になるのが外来実習で、ほぼ毎日朝から
確かに、身近なところでは、ミシガン大学には寄付者の
夕方まで患者さんを診察することに時間を費やしました。
名前の付いた大きな施設が数多く見受けられ、この国には
特に外来実習で感じたことは、患者さんの病状や悩みを理
ありふれた 寄付 という行為も、おそらくは彼女の言っ
解するために、会話を重ね、問診を本当によく行なってい
た隣人愛の1つの現れなのかもしれませんし、外来実習で
たという点です。カルテも診察終了後までは一切書きませ
見た医師の患者を理解し悩みを聞いている真摯な姿勢もま
ん。このせいもあって、本当に患者さんと医師との距離が
さにこのことなのかもしれません。
近い印象をうけました。
多くの移民を受け入れ、アメリカの今の多様性を受け入
そしてもう1つが実習の在り方です。実習当初、まだ診
れる土壌を育んできたのも、隣人愛という精神によって異
察の見学していた不慣れな私をも巻き込んで、患者さん先
なる人種を受け入れ相手を理解しようとしてきた結果なの
生そして自分と3人でワイワイと賑やかに会話をしながら
かもしれません。そして今回、言葉も通じず習慣も文化も
診察を進めるのには驚きました。見学といえども積極的に
異なる日本人の自分をごく自然に受け入れ、機を見て助け
参加することで実習も充実したものになりましたし、患者
ていただいたのは、これも大袈裟にいえば、この多様性を
さんも話の輪にくわわった私に少しばかりの親近感を感じ
受け入れる土壌とその根底にある隣人愛のおかげなのかも
ますので、その後のちょっとした身体診察も精神的な抵抗
しれないと思っています。
を感じずに快く了解していただけ、とても協力的でした。
世界では何かと批難をされているアメリカですが、根本
そして、何といっても今回の実習の良かった点のもう1
ではそうした精神が今でもどこか根強く残り、今のアメリ
つは、数多くの素晴らしい方々と出会えたことでしょう。
カを根底で支えているものの1つなのかもしれません。医
クリニックの先生方はもちろん、陽気で元気なコメディカ
療・医学だけでなく、いろいろな面でまだまだ学ばせても
ルの方、クリニックを陰で支えている事務の方々、そして
らうことの多いところである事を実感した実習でもありま
ミシガン大学の医学生や、寮の学生、色んな人と出会いま
した。
− 5 −
海外選択実習報告(マーブルク大学)
Europhile ∼ヨーロッパ愛者∼
寺
中 寛
林 健太郎
増 田 真 喜
かなりヨーロッパにはまっている私が2009年4月7日∼
回診でも、彼女たちは私が聞き取れないような心雑音を指
4月31日まで、ドイツのMarburg大学において、循環器
摘し、上級医とディスカッションしていた。知識の量はそ
内科の和泉徹教授と親交の深いProf. Maischの元でクリニ
んなにかわらないと思うが、彼女らは臨床と密接にリンク
カルクラークシップ(CC)をさせていただいた。ヨーロッ
した「生きた」知識を持っているようであった。ドイツ人
パの様々な民族・国民・文化的背景を持つ同年代の若者た
医師や学生と患者さんの状態や今後について、英語で話し
ちと杯を交わしながら世界や将来について語り合え、自分
合うことができ医学英語と英会話の力を伸ばすことができ
の視野を広げることができ最高に幸せな経験ができた。
た。
大学病院は小高い丘の上にあり、そこから町を一望でき
帰国後はCCで総合診療を選択し、外来での問診・診察
る。循環器内科で一緒にまわったドイツの医学部6年生は
をトレーニングし、卒業時OSCEでは指導医からお褒め
女性だけであったが日本の研修医並みに働き、朝から採
の言葉をいただくまでになれた。また帰国後、市中病院の
血、ルートの確保、投薬などを慣れた手つきで行ってい
小児救急当直では、外国人の親に対し通訳することができ、
た。新しい入院患者さんがいらっしゃると、患者さんの頭
今回の留学が実りあるものだったと再認識した。今回この
の先からつま先まで漏れなく所見をとり、同時にReview
ような素晴らしい経験ができたのは、留学プログラムに関
of systemを聞いていく。私は彼女らの正確さと速さに圧
わってくださった先生、職員の方々のおかげである。最後
倒されたのと同時に、自分ももっと頑張らねばと決意した。
に感謝の意を表したい。本当にありがとうございました。
− 6 −
海外選択実習報告(カルガリー大学)
カルガリー大学留学報告
福
島 泰 斗
平成21年4月6日から5月8日までカナダのカルガリー
中途半端な英語力では海外の医療現場では通用しないこと
大学にて実習を行いました。新型インフルエンザの影響で
を痛感しました。また、英語をもっと勉強していればさら
当初の予定より早く帰国することとなり、実習内容を全て
に多くのことを学べたのに、と後悔の念に駆られることも
消化することはできませんでしたが、大変貴重な経験をさ
度々ありました。今後海外で働く機会があるかどうかわか
せて頂くことができました。
りませんが、最新の情報を得て、最新の医療を提供するた
主な実習内容は、カルガリー大学医学部呼吸器内科学教
めにも英語の学習は必要不可欠であるとしみじみと感じま
授であるPaul Easton先生の研究室にて睡眠時無呼吸症候
した。
群の研究への参加と、呼吸器外来、スリープクリニックの
今回、私が海外選択実習の参加を希望したのは、海外の
見学実習でした。私にとっては全てが初めての経験であり、
医療現場を見て視野を広げたい、新しい環境に飛び込んで
実習以外の事でも研究室の方々には大変迷惑をかけました
苦労をしたい、という思いからでした。たった1ヵ月間で
が、1つ1つ大変丁寧に教えていただき、充実した1ヵ月
何を得られたのかは正直わかりませんが、今回挑戦し、経
間を過ごすことができました。
験し、感じたこと全てが貴重な財産になったと信じていま
実習は全て英語を使用して行われ、英会話が得意でない
す。
私にとっては毎日が苦労の連続でした。当然のことです
最後になりましたが、今回このような貴重な機会を与え
が、研究室内や病院内では医学英語がすごいスピードで飛
て下さった医学部の先生方、事務の皆様、同窓会の皆様に
び交っており、会話の内容を理解できないことが度々あり、
心より御礼申し上げます。本当にありがとうございました。
− 7 −
科学研究費助成を受けて
一酸化炭素中毒による遅発性脳症の
病態解明と早期予測にむけて
井
出 俊 光
(助教・神経内科学)
このたび私は、平成21年度の科学研究費補助金・若手研
を立てました。臨床研究ですので症例がないことには研究が
究
(B)
の交付を受けることができました。「助成を受けて」
進まないのですが、折しも練炭自殺が社会問題になり症例を
とのことで、私の研究と科研費について思うところを述べ
得ることができました。結果は、少数例ですが、予想どおりミ
たいと思います。
エリン塩基性蛋白は遅発性脳症に先行して増加を認めること
私が今回申請した研究は、一酸化炭素中毒による遅発性
を発見し国内外関連学会や英文誌などに報告しました。また、
脳症の病態解明に関する研究です。一酸化炭素中毒は、
時々
一部では症状出現を認めないながらも潜在的な遅発性脱髄が
事故などでテレビ報道されますが、ガス中毒では最もあり
生じていることも明らかとなりました。ガス中毒でこのようなこ
ふれたものです。一方、遅発性脳症についてはご存じない
とが生じるのは大変興味深い現象です。今後も検討を加える
方が多いと思います。遅発性脳症(別名;間歇型一酸化炭
必要があり、さらに一酸化炭素曝露による受傷早期での予測
素中毒)は、初期の一酸化炭素中毒から回復した後に、数
が可能か研究を進めてゆくために、科研費を申請した経緯です。
日から数週間の潜伏期をおいて発症する脳障害をいいます。
同じ思いをしている方も多いと思いますが、基礎研究を
その代表的症状は、初期症状として自発性低下、記憶障害
していない忙しい臨床医にとっては、科研費の研究テーマ
などから始まり、急激に運動障害、歩行障害、パーキンソ
を練り、申請書を作成するのはなかなかの苦労です。まし
ン症候群となり、極期には植物状態に至ってしまう恐ろし
てや受かる見込みが低いのでモチベーションを維持するの
いものです。広範な脱髄による大脳白質病変が出現するこ
も大変です。私の場合、アイデアから4年もかかってしま
とが知られています。一酸化炭素中毒の約3割に遅発性脳
いましたが、ようやく科研費を受けることができました。
症が起こるとも言われていますが、早期に発症予測するの
今年の審査が甘かったのでは?という幸運の他にも理由は
は困難で、確立した治療法もありません。
あると思いますが、個人的には神経内科と救急医学・中毒
さて、私の本来の専門は神経内科です。前神経内科坂井
学の境界分野に着目し、他人のやっていない研究をしてい
文彦教授のご指示により2005年から再び救命救急センター内
ることや、実際のところ一酸化炭素中毒は練炭自殺者も多
で相馬一亥教授の御指導のもと神経内科医としての仕事をし
く、百年に一度といわれる大不況のさなか国の施策である
ております。救急病棟で診る症例は一般病棟の神経内科症例
緊急自殺対策と関連づけてアピールしたことがよかったの
と患者背景や原因疾患が大きく異なり、恥ずかしい話ですが、
かもしれません。救急搬送される患者さんの多くは精神的
今でも日々驚きと発見の毎日です。初めて実際の遅発性脳症
問題を抱えており、患者さんの経過観察まで含めると本研
を診た時にはその臨床経過に驚き、ここから研究のアイデアが
究は一神経内科医では限界があります。最後になりますが、
浮かびました。今でも研修医からなぜ一酸化炭素中毒に髄液
共同研究者である救急精神科医の妻の文子と上條吉人先生
検査をするのかと不思議に思われていますが、髄鞘を構成す
ほか救急の先生方、研究室の吉村久仁子さん、自由な研究
るミエリン塩基性蛋白を測定し、発症予測できないものか仮説
の機会を与えていただいた相馬一亥教授に深謝いたします。
Autoimmunityの制御を目指して
∼考える猫とマウスたち∼
この度、平成21年度の科学研究費補助金・若手研究(B)
竹 内 恵美子
(助教・臨床検査部)
動物が治癒したという報告が発表されてきています。また
の交付を受けることができました。大変光栄に思うと共に、 臨床現場でも骨髄移植により、自己免疫性疾患を治療する
公費をうけることの責任の重さを日々感じています。
という試みが世界中の多くの研究機関で行われ、ある程度
私は、SLEでみられる自己反応性B細胞を、骨髄移植に
の成果をあげています。しかし残念なことに、この治療に
よって導入した正常T細胞により制御する、という治療の
は、なぜ正常骨髄を移入すると自己反応性細胞の活動を抑
確立を目標に研究を進めています。今までにも、様々な研
制できるのかという免疫学的な解析が伴ってきませんでし
究グループから骨髄移植を行うことで自己免疫疾患モデル
た。そのため、
どういう場合に骨髄移植による治療が奏功し、
− 8 −
どのケースではうまくいかないのかを治療前に予測するた
する中枢性トレランスが獲得されていることの証左ですの
めの理論的な根拠がなく、応用範囲の広い治療であるにも
で、骨髄移植後の同じドナーからの臓器移植は、免疫抑制
関わらず、臨床にはあまり受け入れられていません。そこ
剤をつかわなくても拒絶反応が起こらなくなります。これ
で私は、
“自己反応性Bリンパ球は一旦発生してしまって
は、例えばSLEの患者が腎不全も起こしていた場合、骨髄
も、あとからそれを刈り込むシステムを免疫系はもってお
移植によりSLEそのものを治療し、しかる後に同じドナー
り、それが破綻するためにおきる自己免疫疾患がある”こ
から腎移植を行えば、以降は治療の必要がなく、自己免疫
と、そのシステムを働かすためには“正常T細胞を移入し
という疾患の本態とそれに伴う臓器障害を同時に治療でき
て免疫系を再制御すればいいのだ”ということを証明しよ
たことになります。他の自己免疫性疾患の治療にも応用で
うとしています。この仮説が正しければ、移入したT細胞
きる可能性があり、昨今の再生医療の成果を取り入れれば
がTCR/MHC 相互作用を介してすべてのB細胞を認識でき
さらに応用範囲は広がると思われます。
るように最低限のMHC(HLA)をマッチさせればいいので、
夢は大きく広がりますが、現実はin vivoの思わぬ反応に
ドナー HLAの制限が非常に小さくでき、ドナー探しに困
一喜一憂しつつ、
マウスのご機嫌伺いに猫の手も(知恵も?)
ることがほとんどなくなります。さらに、ドナーとレシピ
借りたい日々です。家では夫から“ちょっと手のかかる猫”
エントの骨髄細胞が共存している混合キメラの状態で治療
程度の扱いをうけ、大学ではネズミたちに翻弄され、さ
効果があがるので、白血病の治療のように骨髄を全置換す
ながら研究室版トムとジェリーといったところでしょうか。
る必要がなく、レシピエントに対する侵襲が小さくGVHD
末筆ではありますが、この哀れなトムをいつも力強くサポー
(graft versus host disease)もおこりません。また、骨髄
トしてくださる遺伝子高次機能解析センターの皆さんにこ
混合キメラの状態が保たれているということはドナーに対
の場をお借りして心からの謝意を表します。
幹細胞のチカラ
−臍帯由来間葉系幹細胞の
分離培養・骨形成の確立を目指して−
馬 場 香 子
(助教 形成外科・美容外科学)
恥ずかしさを忍んで筆をとり勢いで副題を書かせていた
いただきました研究では、このような有用な材料を利用で
だきました。私は間葉系幹細胞を扱う研究をしております。
きないかと考え取り組んでおります。諸先輩方が築かれた
幹細胞といえばいま流行りの夢多き再生医療。同時に少し
骨髄由来の間葉系幹細胞の研究を発展させ、臍帯から間葉
足を踏み外せば胡散臭さが拭えないような分野である気も
系幹細胞を得て骨形成を目指しています。
いたします。研究の日が浅い私が再生医療などと申せばそ
この課題がなぜ採用していただけたのか、初めての応募
れこそ、あやしく、なってしまいそうです。
でもあり正直なところわかりません。再生医療に期待が高
この度、幸いにも平成21年度の科学研究費補助金を頂戴
まるなか幹細胞のチカラが少しは働いたのではないかとも
することが出来ました。研究目標は臍帯由来間葉系幹細胞
思っております。若手研究(B)で応募いたしましたので、
からの骨形成です。
研究開始間もない私には書くべき研究業績が全くありませ
形成外科は多くの先天異常疾患の手術を行います。その
んでした。仕方がなく業績には臨床の論文を記入いたしま
なかでも唇裂・唇顎口蓋裂・口蓋裂患児は日本人の新生児
した。私はチーフ終了後6年間、この3月まで出向し臨床
520人に対し1人といわれます。唇顎口蓋裂で骨に顎裂が
一辺倒でまいりました。昨年の4月から出向先の研究日を
存在すると歯牙の萌出がうまくいかず良好な咬合が得られ
利用し週1日大学に通い研究をはじめました。研究は敷居
ません。そこで生後3ヵ月頃の手術時に口唇の形成手術だ
が高いと思っておりましたが、そのようなことはありませ
けではなく、骨形成が少しでも良くなるよう顎裂部の環境
んでした。色々な研究で研鑽をつまれた教室の先生方は研
を整えています。しかし十分な骨形成が得られず、腸骨か
究テーマが異なっていても有益な助言をくださいます。そ
らの海綿骨移植が必要になります。再生医療を用いて良好
して、多くの方々とお知り合いにもなれました。皆様優れ
な骨形成を促せれば患児の外科的侵襲を減らせるのではと
た能力で幹細胞に翻弄される初心者を快く助けてください
考え、形成外科で研究を行ってきました。
ます。人の輪を広げてくれるのも幹細胞のチカラではない
最近、胎児エコー検査が進歩し、出生前に口唇口蓋裂と
かと近頃思っております。この場をお借りし、産科の先生、
診断されて形成外科を受診なさるケースが増えています。 ご協力いただいている皆様に心より感謝を申し上げます。
出産前に診断がつき治療にむけた準備ができれば、現在は
そして、ご指導いただいている内沼栄樹教授と山崎安晴先
破棄されている臍帯・臍帯血を出産時に採取することは難
生、教室の全ての先生に心より感謝を申し上げます。
しくありません。自家組織なので倫理面や安全面でも優れ
微力ながら将来、臨床応用へ繋がる研究となり、治療の
ていることでしょう。また、ちいさな赤ちゃんに負担をか
負担軽減へ僅かでも寄与できれば嬉しく存じます。皆様、
けることなく、比較的多くの組織を採取できます。補助を
ご指導よろしくお願いいたします。
− 9 −
米国への臨床留学
遠藤麻由美
(30回生)
本年度6月より米国オレゴン州の大学病院、Oregon
ベーションとなりました。アメリカで臨床研修を行うには
Health & ScienceUniversity(OHSU)内科に於いて、日
ECFMGと言うアメリカの医師国家資格の取得が必須とな
本人初の臨床研修医として採用される貴重な機会を頂きま
ります。基礎医学を中心としたStep1, 臨床医学を中心と
した。平凡な学生、研修医だった自分がここに至るまでの
したStep2 CK(Clinical Knowledge)(注:近年中にStep1
過程を簡単に記したいと思います。幼少時の2年半を米国
とStep2 CKが統合されるようです)
、日本でのOSCEにあ
で過ごし、日米両方に親近感を抱いていた私は、医学部進
たるStep2 CS(Clinical Skill)の3つの試験に合格する必
学後、医療の現場で日米の「架け橋」となるような仕事を
要があります。臨床研修を行いながらの準備は楽ではあり
したい、と漠然と考えていました。しかしその頃は具体的
ませんでしたが、これらの試験の知識が臨床医学に対する
な案も持たず、更には自ら積極的に行動することもありま
理解を深めたことは確かです。その後医学英語を研鑽すべ
せんでした。そんな折、医学部5年生の時に転機が訪れま
く、臨床留学の登竜門となっている沖縄米国海軍病院に移
した。北里大学のクリニカルクラークシップを通じてカナ
籍し、その年インタビューを通じて無事OHSUに採用され
ダ、カルガリー大学医学部へ1ヵ月間留学する機会を頂い
ることが決まりました。医学教育のシステム構築について
たのです。そこでは医学生を「能動的に考えさせて、そこ
は全米有数の施設なので非常に幸運でした。既にオリエン
から学ばせる。
」という教育姿勢が徹底的に貫かれていま
テーションを開始していますが、医療現場で求められる
した。これらの経験に感銘を受けた私はそれ以後、北米で
informed consent(予期せぬ死の死亡宣告など)を如何に
の臨床研修、医学教育について興味を抱くこととなりま
患者様の気持ちに沿って進めるか、ロールプレイングで議
す。北里大学卒業後、米国ピッツバーグ大学と提携のある
論するワークショップなど興味深い内容が続いています。
北海道、手稲渓仁会病院で初期研修を行いました。常に米
良き教育者は同時に良き臨床家である、と私は自分の敬
国人医師が在籍すると言うある意味特殊な環境の中、日本
愛する先生方を心に描きつつ思うのです。これからは、そ
と米国の医療を比較する機会を得ました。女性医師が夢
のような心温かな臨床家を目指しつつ、何らかの形で日米
を、特に海外を視野に入れた夢を追い求めることの難しさ
医学双方の発展に寄与したいと考えています。
を、臨床をやりながら実感したこと、米国の医療の負の側
最後にこの原稿を書く機会を与えてくださった医学部国
面、特に保険制度について疑問を持ったことにより、一時
際交流委員会委員長の篠原信賢先生、医学教育研究部門の
は日本で臨床を続けていくことを考えました。その私を再
守屋利佳先生、私をここまで育ててくれた全ての先生方、
び渡米という目標に向かわせたのは、医学教育への関心で
励まし続けてくれた友人一同、そして何よりも、私の進む
した。私自身が大学、研修病院を通じて質の高い教育を受
方向を力の限り応援し続けてくれた私の両親に、心から感
けさせて頂くことができた、それに対する感謝の思いが自
謝の意を捧げたいと思います。
然と教育に対する関心を高めたのだと思います。様々な病
院の見聞を広める内に日本全国の病院間での医療行為及び
臨床医学教育の内容、質が異なることを実感するようにな
りました。標準化された医療を、医学教育を提供すること
は不可能なのか、そう考えたときに浮かんだのが米国の医
学教育システムでした。米国では国家組織であるACGME
(Accreditation Council for Graduate Medical Education)
により全ての研修プログラムにおいて内容が標準化され、
ある一定の質が保たれるよう厳密に管理されています。年
に数回の審査が入り、それらに通らなかった施設は例え名
が知れている有名病院でも研修病院施設としての資格を剥
奪されるのです。このような制度がどのように保たれてい
るのか勉強したい、高い質を保つ米国の医学教育を自ら
も受けたい、その思いが米国での臨床留学を目指すモチ
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沖縄米国海軍病院にて 最優秀研修医賞を頂き
平成21年度 学校法人北里研究所
第22回北里柴三郎記念賞、第25回二宮善基記念賞、
第7回森村豊明会奨励賞公募について(お知らせ)
上記3賞は、オール北里の研究奨励及び活性化を目的と
(2)二宮善基記念賞:生命科学領域における学術雑誌へ
して社団法人北里研究所において設けられた学術賞であり、
旧社団法人・学校法人の研究者及び医療従事者等を対象と
優秀な研究論文を発表した掲載時40歳未満の個人
(3)森村豊明会奨励賞:感染症を始めとする各種重要
して、毎年表彰が行われてきたものです。
疾患の原因・予防・治療法に関する優れた研究で
平成21年度における各賞を、下記のとおり募集いたしま
あり発展性の期待される研究業績を有する45歳ま
すので、要領に従いご応募ください。
での個人
4.表彰事項等
記
(1)北里柴三郎記念賞:賞状及び副賞金50万円(毎年
度1名)
1.3賞の概要
(2)二宮善基記念賞:賞状及び副賞金20万円(毎年度
北里柴三郎記念賞(業績賞)
1名)
学校法人北里研究所が、最も権威ある学術賞として、
(3)森村豊明会奨励賞:賞状及び副賞金50万円(毎年
生命科学領域において優秀な研究業績を有する個人に
度2名以内)
5.公募期間
対して表彰を行うもの
二宮善基記念賞(論文賞)
平成21年7月1日(水)∼平成21年10月30日(金)
学校法人北里研究所が、生命科学領域における優秀
6.審査/受賞者決定
な研究論文に対する学術賞として、学術雑誌に優秀な
学事担当常任理事及び研究科から選出された者並びに
研究論文を発表した個人に対して表彰を行うもの
学長が必要と認めた者からなる5∼7名の委員により構
森村豊明会奨励賞(業績賞)
成する選考委員会にて審査し、平成22年3月末日までに
学校法人北里研究所が、感染症を始めとする各種重
推薦者及び応募者に通知します。
要疾患の原因・予防・治療法に関する優れた研究であ
7.応募方法・申請書式請求
り発展性の期待される研究業績を有する個人に対して
(1)応募方法詳細はホームページにてご確認下さい。
表彰を行うもの
学校法人北里研究所HP
2.応募資格者
http://www.kitasato.ac.jp/
(1)学校法人北里研究所に所属する者
北里大学HP
(2)学校法人北里研究所の設置する大学、大学院、併
http://www.kitasato-u.ac.jp/
設校を卒業、修了した者
(2)申請書式はホームページよりダウンロード可能です。
(改組により現存しない学部、閉校となった諸学校
等を含む)
8.応募書類提出先
学校法人北里研究所 総務部 担当:佐藤・花田
3.表彰対象
〒108-8641 東京都港区白金五丁目9番1号
(1)北里柴三郎記念賞:生命科学領域において優秀な
〔TEL〕03-5791-6109 〔FAX〕03-3444-2530
研究業績を有する個人
〔E-mail〕[email protected]
6月号掲載の「平成21年度文部科学省科学研究費補助金採択状況報告」において、下記の表が脱落しておりました。
大変失礼致しました。
平成21年度科学研究費補助金取得増加対策
1.締め切り直前に慌ただしく、申請準備することは避けるよ
う徹底する。
2.特にこれまでに申請実績の少ない単位では、単位内あるい
は基礎単位を含めた複数単位と協力することで、戦略的に
科研費の申請テーマを夏休み前までに策案、申請内容を練
ることを推進する。
3.各単位で、「科研費取りまとめ担当者」を選任する。必要に
応じ、研究委員会と担当者との連絡会を開催する。
4.テーマの設定、アピールする申請書の書き方をアドバイス
をするチューターを紹介、斡旋する。
5.研究計画書の書き方の実例の提示
◇実際の研究計画書を例にとり、書き方のポイントを逐次
解説した手引書を作成、各研究者に配布する。
◇採択された研究者の研究計画書(pdfファイル)を医学部
ホームページに掲載する(学内専用)。
6.これまで通り、研究委員会予算より、補助金申請奨励金を
配分する。
− 11 −
皆既日食
2009年7月22日、日本で皆既日食が観測された。日食とは、月が太陽の前を横切るた
めに、月によって太陽の一部または全部が隠される現象である。太陽が月によって全部隠
されるときは「皆既日食」
、太陽のほうが月より大きく見えるために月から太陽がはみ出し
て見えるときは「金環日食」と呼ばれる。皆既日食では、太陽の周りにコロナが広がって
みられると同時に太陽表面から吹き出ている赤いプロミネンスも観測できるという。空は夕
方・明け方のように暗くなり、明るい星ならみることができるそうである。悪天候ではあっ
たが皆既日食は屋久島から奄美大島にかけての一帯で観測された。日本で観測できる次回
の皆既日食は、
26年後の2035年9月2日まで待たなければならない。非常に珍しい天体ショ
ウである。
(R・O)
研究単位紹介
は手術が追いつかないのが現状である。したがって、腹部
外 科 学
大動脈瘤など大学病院でしか対応できない症例のみを治療
している。しかし、小児外科疾患は他施設に依頼すること
外科は、渡邊昌彦教授のもと総勢48名(スタッフ29名、
が難しいため、緊急手術を含め全ての疾患の治療にあたっ
病棟医14名、大学院生5名)で構成されている。われわれ
ている。
北里大学病院では、消化器・乳腺甲状腺・末梢血管・小児
また、各領域で先進的な臨床研究を行っており、国内外
の良悪性疾患、東病院では消化器疾患の診療、研究・教育
の学会や医学雑誌に多くの研究成果を発表してきた。近年、
に従事している。病床数は合計126床を有して、年間2,000
内科、放射線科とともに大腸癌や乳癌などの放射線化学療
件以上の手術を施行し、全国の大学病院のなかでも最大規
法を積極的に施行している。2011年9月には万国外科学会
模の症例数を誇る。
を主催するため、鋭意準備中である。 (文責:井原 厚)
消化器外科領域は大腸癌をはじめ
上部消化管、肝・胆・膵のすべての
領域での内視鏡外科手術を積極的に
行い、その数は世界有数である。な
かでも大腸癌、胃癌、乳癌の手術は
大学病院として最も多いうちの1つ
であり、残念ながら入院予約から手
術までに1∼2ヵ月待ちである。血
管疾患は高齢化が進むなか10年間で、
症例数が2倍となり大学病院だけで
編 集 後 記
今年も七夕が過ぎた。今年は梅雨空のため星空が見られない地 ると、あたりは360度漆黒の闇となった、暗闇の中、崖下に流れ
方が多かったようだ。医学生は前期の期末試験中で、それどころ る天竜川の流れを想像すると、これ以上進めなくなった。私は久
しぶりに経験する、また息子は産まれて初めて経験する漆黒の闇
ではなかったかも知れない。
ところで最近の若者は天の川を見ることなく育った人が多いの に驚嘆の声を上げた。
ではなかろうか。首都圏では例え晴れても町の灯りのため、空に 2人の若い男女がスポーツバイクに乗って自転車ライトだけを
見える星は数えられるほど少ない。我々の周りでは夜でも光が溢 頼りに、次の集落まで数キロは続くであろう闇の中に消えていく
れ、戸外の真っ暗闇は探してもなかなか見つけることはできない のを見て、その勇気に心の中で拍手した。(T・M)
し、安全上の理由から許されない世の中だ。私は小学校の頃、理
髪店の帰りにあたりがすっかり暗くなって、途中数百メートルで
あったろうが、道の脇にある用水路に落ちないよう、一歩一歩足
医学部ニューズ〔第305号〕
元を探りながら帰宅したことをはっきりと覚えている。夜の外出
http://www.med.kitasato-u.ac.jp/
には懐中電灯を携帯するのが普通であった頃の話だ。それ以来、
●発行責任者 相 澤 好 治
山に登った時は別として、これほどの闇は経験したことがなかっ
●編集責任者 廣 畑 俊 成
た。
〒228-8555 神奈川県相模原市北里1-15-1
昨年家族で信州のある田舎の一軒宿に泊まったときのこと。そ
北里大学医学部内 医学部ニューズ編集委員会
こは天竜川の侵食で形成された深い渓谷の中ほどに建つ質素な宿
TEL.042-778-8704(直通)
FAX.042-778-9262
だった。夜、することもないので皆で外に出てみた。新月の夜だっ
E-mail [email protected]
●発 行 日 平成21年7月31日発行
た。崖に沿って走る車道は間もなく大きく曲がり、宿が山に隠れ