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エシカル・プロジェクト レポート 連載 新・CSR 概論
連載
新・CSR概論∼CSR3.0に向けて
(第2回)
竹井 善昭氏
Yoshiaki Takei
株式会社ソーシャルプランニング代表取締役
Room to Read東京チャプター企業パートナー開発委員会共同リーダー
◆1957年生まれ。大学時代から広告、メディアの世界で活動。マーケティング・プランナーとして、
生活者向けのほとんどすべての領域で商品開発、業態開発に関わる。メディア・プロデューサー
としてテレビ番組、雑誌、ウェブサイトなどをプロデュース。女子大生、スキー、カフェバー、カ
ラオケ、インターネット、韓流などさまざまなブームの渦中に身を置いた経験から、次なるメガ・
トレンドは「社会貢献」であると確信。企業とNGOのコラボを中心としたソーシャル・ビジネス
のコンサルティングとプロジェクト・プロデュースに特化。
◆ダイヤモンド・オンラインにて社会貢献の最新事情を伝える「『社会貢献』を買う人たち」を連載中。
「ダイヤモンド」「社会貢献」で検索 http://diamond.jp/series/social_consumer/
社会貢献三種の神器
タイミングがいいのか悪いのか、前回、CSR3.0
(本業とCSR
題の解決に大きな可能性を見いだしているからで、BOPビジ
の統合)
の話を書いたのだが、その記事が載った
「買う研レポー
ネスはCSRの範疇で考えてもよいと思う。というか、CSR3.0
ト」がリリースされたちょうどその頃に、CSR3.0を語るに最
の時代にはBOPビジネスを視野に入れたCSRを考えるべきだ
適なニュースが大きく報道された。ユニクロ事業を展開する
と思う。
ファーストリテイリングとバングラデシュのグラミン銀行の
事実、ファーストリテイリングの柳井会長兼社長は、この合
提携話である。
弁事業発表の記者会見でこう述べている。
ご存じの向きも多いと思うが念のため、簡単に概要をお伝え
「これまで主に先進国を対象にビジネスを広げてきたが、世界
しておこう。グラミン銀行は、世界を代表する社会起業家のム
にはそれ以外の国に住む人々が約40億人いる。バングラデ
ハマド・ユヌス氏がバングラデシュで開設した銀行で、1日1
シュは将来性のある国。人々の生活をサポートし、世の中の役
ドル程度で暮らしている最貧困層、特に女性に対して事業資金
に立つソーシャル・ビジネスを開発することで、将来的に大き
を融資するというマイクロ・クレジット・モデルを展開し、ノー
なビジネスになる」
(2010年07月13日 Fashionsnap.com)
ベル平和賞まで受賞した企業である。現在では携帯電話や食
柳井氏のこの発想は、
CSR3.0の考え方そのものである。
品事業なども手がけるバングラデシュ有数の企業グループを
経産省もBOPビジネスには大いに注目しており、その市場規
形成している。
模を5兆ドルと見積もっている。この市場への取り組みは、ま
そのグラミン銀行とファーストリテイリングが提携して、バ
さに日本経済の浮沈がかかっていると言っても過言ではない。
ングラデシュの貧困層でも買える1ドル程度の安価で品質の
このように、BOPビジネスひとつとっても、CSR3.0には大
よい衣料を提供する合弁事業を起こすという。ユヌス氏によ
きな可能性が秘められている。しかし、CSR3.0だけで企業が
れば、バングラデシュでは「服がないから学校に行けない子ど
大きく成長できるわけではない。
もや、衛生用品が手に入らず苦しんでいる女性がいる」
という。
CSR3.0に加えて、モチベーション3.0とマーケティング3.0
このような人たちに対して安価な衣料を提供するだけでも社
が必要だ。これらは、言ってみれば企業が社会貢献で成長する
会問題の解決に貢献するが、さらにこの事業では、原材料の調
ための三種の神器である。今後、
企業はこれら三種の神器を事
達から製造、販売までをバングラデシュ国内で行い雇用を創出
業活動の基盤として整備し、実行していくことが求められるよ
するという。
うになるだろう。つまり、早めに実行した企業が勝つというこ
このような、最貧困層を相手にしたビジネスをBOPビジネス
とだ。
と呼ぶ(BOPとはBottom Of Pyramid、つまり最底辺の人たち
モチベーション3.0というのは、アメリカのジャーナリスト
のことを指す)
。BOPビジネスは単なるビジネスでCSRでは
のダニエル・ピンク氏が提唱している概念で、昨年の暮れに発
ないという説もあるが、BOPビジネスには雇用を生み出すなど
表され大きな話題を呼んだ。日本では7月に日本語版がリリー
貧困の解消に役立つし、現実にソーシャル・ビジネスに関心の
スされている。
(
「モチベーション3.0 持続する「やる気!」を
ある人たちがBOPビジネスに注目しているのは、
それが社会問
いかに引き出すか」
ダニエル・ピンク著、
大前研一訳)
Delphys Ethical Project
エシカル・プロジェクト レポート 連載 新・CSR 概論
モチベーション1.0はいわゆる生存欲求で、食っていくため
彼らのコア・ビジネスはテレビの放送局ではなく、自然や歴史
には仕事が必要という段階。この段階では雇用そのものがモ
を中心としたドキュメンタリーに関心がある人たちのコミュ
チベーションになる。2.0はいわゆる成果主義。高額な報酬が
ニティ・ビジネスである。だから、テレビ番組の放送だけでな
モチベーションとなる考え方だが、ピンク氏によれば、成果主
く、自分たちの映像資産を活かした教育事業を全米で展開して
義は短期的には業績を上げるが、長期的にはパフォーマンスを
いる。このような発想が、どのような業種の企業でも求められ
下げ、組織をダメにする。特に、クリエイティブな仕事におい
るようになるだろう。その時、有効になるのが社会貢献を基軸
ては役に立たないという。ここでいうクリエイティブという
としたマーケティング3.0である。
のはもちろん、デザイナーや作曲家や映画監督だけのことを指
CSR3.0は前回も述べたとおり、本業とCSRを統合すること
すのではない。知識社会ではあらゆる職種がクリエイティブ
であり、自分たちの事業ドメインを社会貢献に置くということ
でなければならない。営業は企画営業の時代だし、ショップ・
である。CSR3.0を実践し、社会貢献をコア・ビジネスにするこ
スタッフも売上げを上げるためにはクリエイティブな接客が
とで、従業員のモチベーションは上がり、顧客との強固な信頼
必要だし、コール・センターのスタッフにも独創性が重要視さ
関係を築くことができる。これが三種の神器の効用である。
れる。つまり、どのような部門の従業員でも、今の時代にはク
最近感じることは、この時代に業績を伸ばしている中小企業
リエイティブな発想、
独創的な仕事が欲求されている。
の多くが、すでにCSR3.0を実践しているということだ。従業
従業員に独創性ある仕事をさせたければ、
内発的な動機付け
員が200 ∼ 300人程度の中小企業は小回りもきくし、社長の
が必要だというのはピンク氏の主張だ。簡単にいえば、仕事そ
考えも浸透しやすいので、社長が社会貢献に向かえば会社もそ
のものを楽しませなければモチベーションもパフォーマンス
の方向に向かう。それで既存顧客からの売上げを伸ばすだけ
も上がらないという。これがモチベーション3.0である。
でなく、新規顧客を開拓でき、価格競争にも巻き込まれず、
しか
実は日本企業の多くは昔からモチベーション3.0を実践して
も従業員が楽しそうに仕事をしている。CSR3.0を実践すると
いた。
「カイゼン」活動などその端的な例だろう。日本企業に
モチベーション3.0もマーケティング3.0ももれなく付いてき
とってはモチベーション3.0は親和性が高く、実践するのも容
て、企業も従業員もハッピーになるのだ。次回以降、実例を紹
易だろう。
介していく予定なのでお楽しみに。 そして、今後のモチベーション3.0には社会貢献の視点が必
要となる。自分たちの仕事がどのように社会の役に立ってい
るか、そのことが理解できるかどうかで従業員のモチベーショ
お知らせ
社会貢献をテーマにした本を出しました。
ンが変わる。これは、数多くの企業がコーズ・マーケティング
「社会貢献でメシを食う」
という、なんとも身も蓋もないタイ
トルですが、社会
を実践する中で、従業員の意識が高まった、自分の仕事へのモ
貢献を仕事にしたい人に向けて書いています。社会貢献の仕事を、
社会
チベーションが上がったと報告していることからも証明され
起業家になる、NPO/NGOで働く、企業の中で社会貢献する、
プロボとし
ている。これからは、企業は社会貢献したほうが従業員のモチ
て活動する、の4つに分類。大学生向けに書いていますが、社会貢献の
ベーションも上がるのだ。
マーケティング3.0は、マーケティング界の巨匠・コトラー博
士が提唱している概念だ。マーケティング1.0はプロダクツ志
入門書ではなく基本書として書いたつもりです。ですから、社会貢献の最
先端を網羅的に知りたい方には最適かと自負しています。
「CSR3.0」
の考え方と事例、業種別・職種別の社会貢献の方法、
プロボ
ノの始め方から将来的なあり方まで、そしてソーシャル・
ビジネスの考え方、
向。
「良いもの安く」といったマーケティングである。2.0は消
有名社会起業家の事業モデルの何が画期的なのか?など、
ビジネス
・パー
費者志向、生活者志向。生活オリエンテッドなマーケティング
ソンにも読んでいただきたい内容も満載です。
がこれで、かつて日本でも流行ったライフスタイル分析などが
お近くの書店、
ネッ
ト書店でお求めいただけます。ぜひ、
ご一読ください。
2.0だと思われる。そしてマーケティング3.0は「人間志向」で、
人々の心や精神性に訴求するマーケティングである。いわゆ
るエコ・マーケティングもこの範疇に入るだろう。今後のマー
社会貢献でメシを食う
∼だから、
僕らはプロフェッショナルをめざす
ケティングに、社会貢献の視点がますます重要になるというこ
とだ。
ちなみに、今後はどのようなビジネスも、コミュニティ・ビジ
ネスになってくる。テレビのようなマス・メディアも同様だ。
たとえば、日本の地上波キー局はテレビ番組事業だけでは成り
立たなくなっている。これはネットの影響ではなく、コア・ビ
ジネスがコミュニティ・ビジネスに移行していることを理解で
米倉誠一郎監修 竹井善昭著
(ダイヤモンド社刊 ¥1,680)
きてないことが原因だ。いっぽう、
アメリカのディスカバリー・
チャンネルは世界中で9億人くらいの視聴者(契約者)がいる。
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