フランスにおける 青少年教育施設等の調査報告

フランスにおける
青少年教育施設等の調査報告
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フランスにおける青少年教育施設等の調査報告
1.青少年教育施設の全体像
フランスには主として 2 種類の青少年集合施設(Les Accueils collectifs de mineurs)
が存在している。1 つはとくに宿泊を目的とする通称「ヴァカンス滞在施設(séjours de
vacances)」、もう 1 つは宿泊施設をもたない「余暇施設(accueils de loisirs)」である1。
2010 年度(フランスの学校は 9 月に開始)の数字でいうと、年間 140 万人の青少年が計
44,100 日、ヴァカンス滞在施設を利用し、220 万人が 34,500 日、余暇施設を利用した。
ヴァカンスに出かけるという点では、とくにイル=ド=フランス(パリ市を中心とした地
方圏)のような都市部の住民が多く、行き先は山や海というのが大方の傾向となっている。
また、ヴァカンス滞在施設利用の 80%以上がフランスで行われ、外国に赴く場合は近隣諸
国に言語的関心に導かれることが多いという調査結果が出ている。
夏のヴァカンスに限定してみても、150 万人の青少年が 23,000 の余暇施設を利用してお
り、さらにはそのうち 35000 万人が 2 日から 5 日のミニ・キャンプを行っている。
こうした青少年のヴァカンスを管轄するのは「スポーツ、青少年、民衆教育、協同生活
省」(Ministère des sports, de la jeunesse, de l’éducation populaire et de la vie
associative2)である。同省の青少年のヴァカンスに関する見解は次のようなものである。
すなわち、こうしてヴァカンス時に野外施設を利用することは、生活のリズムに変化をつ
けたり、未知なる文化に精神を開く契機となり得る。家族や学校から離れて生活をする体
験は、人が生きるということを理解するのにきわめて重要である3。その思想を端的にいう
なら、青少年集合施設は「民主主義の様式を身につける経験の場として、自立の獲得を促
す参加の場4」となることを目的として存在していることになる。
こうした青少年集合施設の数はかならずしも定かではない。というのも、宿泊をするに
せよ、日帰りをするにせよ、組織する者たちの裁量次第でその様相が変化するからである。
この組織者の役割を担うのが「アニマトゥール(animateur)」であり、ここにフランスの
青少年教育施設の特徴があるといってよい。とはいえ上述のように、ヴァカンス滞在施設
も余暇施設の総滞在日数からしてかなり多く存在していることには違いなく(2006 年の時
1
青少年集合施設は厳密にいうと 7 つに分けることができるが、本報告書の趣意に照らし合わせれば 2 つ
の紹介にとどめるのが適切であると思われる。また、最新の情報については以下を参照。« Le mémento 2011
de la réglementation », Le journal de l’animation, Hors série, n° 20, 2012.
2
ただし、この省庁は政権や政府によって名称が頻繁に変更するので注意されたい。
3
具体的な数字も含めて、以下を参照。 « Les accueils collectifs de mineurs et les loisirs éducatifs
en France. Dossier de presse. Faits et chiffres 2012 », Ministère des sports, de la jeunesse, de
l’éducation populaire et de la vie associative, 2012.
4
« Projet éducatif et pédagogique en centres de vacances et en centres de loisirs sans hébergement »,
Direction de la jeunesse et de l’éducation populaire, 2002, p. 24.
169
点で 33,000)
、青少年教育施設が充実した状況にある5。
【ヴァカンス滞在施設(Séjour de vacances)】
参加人数:7 人以上
参加年齢:2 歳以上
日数:4 泊以上
責任者:1 人
100 人以上であれば、1 人の補助員を必要とする
150 人以上であれば、50 人当たり 1 人の補助員を必要とする
幹
部:6 歳未満、8 人の子どもに対して 1 人のアニマトゥール
6 歳以上、12 人の子どもに対して 1 人のアニマトゥール
参加者が 14 歳以上であるときにのみ、責任者を幹部の中に含めても良い
特記事項:1 年に 2 週間まで
【余暇施設(Accueil de loisirs)】
参加人数:7 人から 300 人
参加年齢:2 歳以上
日数:日帰り
責任者:1 人
幹部:6 歳未満、8 人の子どもに対して1人のアニマトゥール
6 歳以上、12 人の子どもに対して1人のアニマトゥール
責任者を幹部の中に含めても良い
特記事項:1 年に 2 週間まで
*この余暇施設を利用したうえでのミニ・キャンプを行うことが可能である。つまり、ミ
ニ・キャンプや野外での短期滞在は「余暇施設」の一環をなすものとして定められている。
また、こうした活動を「福次的活動」
(activité accessoire)」と呼ぶのが通例となってい
る。
全体像という点で次に重要なのはヴァカンスに出かける時期である。青少年にとっての
ヴァカンスとは、冬、春、夏、秋、クリスマス休暇にそれぞれあるもので、それらの期間
で実施されるものはすべて「ヴァカンス滞在施設」の利用が可能となる。以下の図からも
明らかなように、夏のヴァカンス滞在施設の利用が圧倒的に多いことを確認しておく。
5
その数は 1990 年代に頂点をむかえ、その後、減少傾向にあるという報告もある。こうした状況も含め、
青少年教育施設の歴史については以下を参照。Bernard Toulier, « Les colonies de vacances en France,
quelle architecture ? », In Situ, 2008, pp. 1-39.
170
図 1 シーズン別「ヴァカンス滞在施設」利用の変遷6
1000000
900000
800000
700000
冬
春
夏
秋
クリスマス
600000
500000
400000
300000
200000
100000
0
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
シーズン別「ヴァカンス滞在施設」利用の変遷と並んで重要なのは、年齢層の問題であ
る。基本的には「4 歳-6 歳」、「7 歳-12 歳」、「13 歳-17 歳」という 3 つの層に大別できる。
近年、とりわけ「13 歳-17 歳」の層が増加しているのが特徴的である。
図 2 年齢別「ヴァカンス滞在」青少年人口の変遷7
800000
700000
600000
500000
4−6歳
7-12歳
13−17歳
400000
300000
200000
100000
0
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
青少年教育施設の全体像に関して最後に重要なのは滞在先として選ばれる地域である。
6
フランス国立統計経済研究所(Institut national de la statistique et des études économiques、
通称 INSEE)のホームページに基づき作成(2013 年 3 月 1 日アクセス)
。
http://www.insee.fr/fr/themes/tableau.asp?reg_id=0&ref_id=NATSOS05405
7
同上。
171
県別分布図:ヴァカンス
ス滞在施設(
(2010 年度)8
図 3 滞在先の県
県別分布図:福次的活動
動(2010 年度
度)
図 4 滞在先の県
上の分布図を
をみたとき、ヴァカンス
ス滞在や福次
次的活動(ミ
ミニ・キャン
ンプ)の場所
所とし
以上
て選ば
ばれる地域に
に一定の傾向
向があること
とに気づく。前者に関し
していえば、アルプス山脈や
« Lees accueils coollectifs de mineurs avecc hébergement
t en 2011 », Bulletin
B
de s
statistiquees et
d’éttudes, Ministèère des sportss, de la jeuneesse, de l’édducation populaire et de laa vie associattive,
8
n° 12, novembre 2012.
172
ピレネー山脈、また大西洋沿岸に固まっており、その一方、後者では北部から大西洋沿岸
にかけての地域に固まっている。両者に共通するのは、山と海のある地域が滞在先として
選ばれるということである。自然が豊富な内陸部が選ばれない理由は何か。上述のように、
パリを中心としたイル=ド=フランス地域圏に人口は密集していることを想起すれば、内陸
部への手軽な移動手段(内陸部の一部は TGV のような特急列車が通っていない)のないこ
とが影響していると考えられる。
2.選定した組織の概要
青少年集合施設は通俗的には「ヴァカンス・コロニー」
(colonies de vacances)と呼ば
れることが多い。ヴァカンス・コロニーとは辞書的な意味では「林間学校」であるが、つ
まるところ、青少年の受け入れ施設のことを指す。そこでの活動を組織するのは、基本的
には「アソシアシオン」(association)(英語でいう「アソシエーション」)と称される民
間非営利セクターである。アニマトゥールもまた何らかのアソシアシオンで養成され、国
家によって免状が与えられる。そして国家が定めた法律をもとに、民間非営利セクターが
余暇活動を運営するというシステムが構築されている。その他、一般企業や地方自治体、
あるいは個人によってもヴァカンスや余暇の活動を組織することが認められている9。
つまり、フランスの場合、施設として国立組織というものがあるわけではない。また、
国立の組織団体があるわけでもない。
「スポーツ、青少年、民衆教育、協同生活省」の認可
を受けたアソシアシオンや地方自治体が組織に携わる。したがって、施設の概要を詳述す
ることは難しく、むしろ施設の利用方法に言及すべきであると考えられる。
ここでは、地方自治体とアソシアシオン、2 つのアクターに絞って青少年集合施設の利
用を紹介する。地方自治体からはフランス南西部に位置するトゥールーズ(オート=ガロン
ヌ県の県庁所在地)を、アソシアシオンからはノルマンディー地方を網羅する UNCMT をそ
れぞれ例とする10。
(1) トゥールーズ
トゥールーズの場合、夏のヴァカンス滞在を組織するにあたって、5 つの場所を提示し
ている。その概要は以下のとおりである。
1) オリュ=レ=バン(Aulus les Bains)
4 歳から 5 歳は 7 日間の滞在。6 歳から 12 歳は 16 あるいは 17 日の滞在。宿泊施設は「オ
テル・デュ・パルク」(Hôtel du Parc)と呼ばれていた場所で、最近になって完全に改装
された。すべてのトゥールーズ住民が利用可能。部屋には 4 台から 6 台のベッドがある。
9
UNOSEL というアソシアシオンのホームページを参照(2013 年 3 月 1 日アクセス)
。
http://www.unosel.org/sejours-de-vacances-des-donnees-et-des-chiffres/
10
トゥールーズのホームページを参照(2013 年 3 月 1 日アクセス)
。
http://www.toulouse.fr/education/loisirs/sejours/les-sejours-de-vacances
173
リクリエーションルームとバス・トイレが 3 つずつある。
2) アンティシャン=ド=フロンターニュ(Antichan de Frontignes)
8 歳から 12 歳限定で 18 日間の滞在。宿泊施設は 3 ヘクタールにも及ぶ公園の中心にあ
る。3 つの建物のなかに振り分けられる。各部屋には 4 台から 5 台のベッドがある。
3) ジュルヴィル(Jurvielle)
13 歳から 14 歳限定で 18 日間の滞在。宿泊施設のコンセプトは山の避難場所であり、最
近できたばかりである。リクリエーションルームや多目的ルームなどを設置。
4) サン=ローラン=ド=ネスト(Saint Laurent de Neste)
4 歳から 5 歳は 7 日間の滞在。6 歳から 12 歳は 16 あるいは 14 日の滞在。宿泊施設は壮
大な芝生のなかにあり、各部屋 3 台から 6 台のベッドが設置。
5) カン=カバル(Can Caballe)(スペイン)
6 歳から 12 歳限定で 13 日あるいは 14 日間の滞在。宿泊施設はカタルーニャ地方の古い
農場を新装したもので、各部屋 5 台から 7 台のベッドが設置。
地方自治体がこうしたヴァカンス滞在の組織に直接的に関与しながらも、アソシアシオ
ンとの連携も保ち、青少年教育施設を活かすかたちとなっている。そうしたら次はアソシ
アシオンはヴァカンス滞在をどのように組織しているのかが問題となる。
(2) UNCMT(アソシアシオン)
UNCMT は年間 450 万ユーロの予算で年間平均 29000 人の青少年を受け入れている(彼ら
のヴァカンス滞在を組織している)アソシアシオンである。1949 年に創設された UNMT は、
ノルマンディー地方全域を中心に活動する非宗教団体で、カルバドス県に 8 つの宿泊施設、
サヴォワとオート=サヴォワ県に 3 つの宿泊施設、フランス全土にいくらかの宿泊施設をも
っている。「スポーツ、青少年、民衆教育、協同生活省」、教育省、家族手当金庫(CAF)、
地方自治体、学校、福祉施設にくわえて、Jeunesse au Plein Air、CRAJEP、UNAT といっ
たやはり非宗教的アソシアシオンを連携している。公教育の場で政教分離の原則を徹底し
ようとするフランスにあって、課外活動が宗教を学ぶ契機となることは多い。各種アソシ
アシオンのなかにも何らかの宗教色を表明している団体もあり、換言すれば、「非宗教的」
であることもひとつの特色であり、利用者の選択基準となるということである。UNCMT が
連携を組んでいる他のアソシアシオンもすべて非宗教的団体となっている。
174
3.選定した組織の現地調査
UNCMT が所有するヴァカンス滞在施設のうち 2 つを紹介することにする。
(1)Grandcamp-Maisy « Les Quiéri-QUiérettes »11
・施設の状況:34 部屋。2 台から 4 台のベッド(計 120 のベッド)。2 階立ての建物で、各
階に台所、トイレ、シャワー。120 人まで収容可能の部屋。食堂、授業や活動を行うため
の部屋(2 部屋)。
・立地:カルヴァドス県。パリから 290 キロ。漁港の近くで、海での課外活動が可能。
・対象年齢:6 歳-12 歳
・費用(2013 年の夏期ヴァカンスの場合。なお括弧内はカルヴァドス県外の住民向け)
7 月 9 日-7 月 22 日 :14 日間:633 ユーロ(678 ユーロ)
7 月 9 日-7 月 29 日 :21 日間:893 ユーロ(961 ユーロ)
7 月 23 日-7 月 29 日:7 日間 :372 ユーロ(395 ユーロ)
8 月 8 日-8 月 21 日 :14 日間:633 ユーロ(678 ユーロ)
8 月 1 日-8 月 21 日 :21 日間:893 ユーロ(961 ユーロ)
8 月 1 日-8 月 7 日 :7 日間 :372 ユーロ(395 ユーロ)
・活動内容:ヨット体験(1 週間に 1 度)、手芸教室キャンプ、漁港訪問、魚の競売体験
釣りなど。
こうした活動はヴァカンス宿泊施設が海辺にあるという立地を活かして組織されている。
活動の狙いは各ヴァカンス地で設定されているわけではなく、UNCMT が全体として以下の
ように定めるものである。
11
http://www.uncmt.fr/groupes-grandcamp-qq.html#tabs-1(2013 年 3 月 1 日アクセス)
175
UNCMT は以下に留意しながら青少年の滞在の教育的かつ文化的次元を確保する。
・子どもの成熟と社会化に貢献する。
・子どもが自立し、責任感をもち、周囲(環境)を尊重できるようにする。
・子どもの能力、人格、市民としての振舞いを育成する。つまり「寛容な精神のなかで
共生する」ためのものである。
・子どもの生活のリズムが心地よいものになるようにする12。
・食事の時間:8 時朝食、12 時昼食、19 時夕食。
・組織:20 人ほどの人数で理事会を形成し、アソシアシオンの方針を定め、そのうち 8 人
から成る執行部や代表を選ぶ。また、アソシアシオンを運営するための人材を常時 25 人置
く。理事会で定められた方針を日常的にこなし、事務的な仕事を行う(予定の管理、対応、
登録、交通機関の手配、経理など)
。しかし、こうした UNCMT の運営とは異なり、ヴァカン
ス宿泊施設の組織にはアニマトゥールが関わる。そのため日頃から各種条件に適うアニマ
トゥールの募集を行っている。
・安全性の確保:UNCMT は子どもとヴァカンスを組織するチームとの関係性を基礎とし、
とりわけ後者が責任をもつように努める。滞在中は UNCMT 本部と連携をとりながら、安全
性の強化に努める。施設の安全性については、入り口の柵には鍵をかけない、パニック防
止バーを備えつける、部屋の鍵は閉めないということが明記されている。さらに、参加す
る子ども全員の様子を食後に確認するといったことも重要項目となっている。
(2)Bernex « Chalet du Mont Benand »
・施設の状況:17 部屋。4 台から 6 台のベッド(計 50 のベッド)。ほとんどの部屋に台所
設置。各階にトイレ。シャワーは 1 階に複数設置。食堂、授業や活動を行うための部屋(2
部屋)。
・立地:オート=サヴォワ県。パリから 600 キロ。レマン湖の近くであるため水辺と山、二
つの自然環境を生かした課外活動が可能。
・対象年齢:6 歳-12 歳
・費用(2013 年の夏期ヴァカンスの場合。なお括弧内はカルヴァドス県外の住民向け)
7 月 8 日-7 月 22 日:14 日間:823 ユーロ(851 ユーロ)
8 月 5 日-8 月 19 日:14 日間:823 ユーロ(851 ユーロ)
・活動内容:ラフティング、太陽光式船によるレマン湖周遊、レマン湖付近でのキャンプ、
川遊びなど。
12
http://www.uncmt.fr/uncmt.html(2013 年 3 月 1 日アクセス)
176
UNCMT(アソシアシオン)のパンフレットより
177
4.制度的背景
青少年集合施設にはそのガイドラインの法制化を中心に「スポーツ、青少年、民衆教育、
協同生活省」が関わっているが(とくに 1992 年 7 月 13 日法13)、地方自治体やアソシアシ
オンに大部分が委ねられているのが実状である。
現在、約 200 万人の青少年がヴァカンスに出かけることができていない。この主たる理
由は金銭によるものである。第一に家族手当金庫(CAF)による補助金がある。大多数家族
や母子(父子)家庭の子どもにヴァカンスの費用に補助金を提供している。第二は企業に
よ る 補 助 金 で あ る 。 ヴ ァ カ ン ス ・ チ ェ ッ ク 機 関 ( L’Agence nationale pour les
chèques-vacances ) が ヴ ァ カ ン ス ・ チ ェ ッ ク ( ヴ ァ カ ン ス 小 切 手 と い う 意 味 /
chèques-vacances)を作成し、青少年の課外活動を促進している。1 人手渡される平均総
額は 380 ユーロであり、これを受け取った青少年の 90%がヴァカンスに出かけている(い
うまでもなくこのヴァカンス・チェックは消費財には利用できない)。第三は慈善団体によ
るものである。第四はフランス国有鉄道(SNCF)による交通費の割引である。
5.文化的背景
おそらくフランスの青少年教育施設について他国と大きな違いがあるとすれば、大部分、
それは「ヴァカンス」に関する考え方に帰されるものであると考えられる。
まずもって理解すべきは、ヴァカンスが制度化されたのはけっして古いことではないと
いうことである。1936 年レオン・ブルム人民内閣戦線において週 40 時間労働が法定され、
それと同時に有給休暇の思想が制度として定着する。すべての労働者に 2 週間の有給休暇
が保障されたのである。しかしこうした有給休暇の保証がすぐにヴァカンスに結びつくわ
けではない。労働者のなかには、休暇中に一稼ぎしに行くものもいれば、家で過ごすもの
もいたし、「遊ぶ」としてもピクニックをする程度で済ますものもいた14。
現在のようなヴァカンスが形をとりはじめたのは、戦後復興を果たし、「栄光の 30 年」
がおとずれる 1950 年代以降、とりわけ消費社会が到来する 1960 年代のことである。つま
り経済基盤の安定がヴァカンスには不可欠の条件であった。それと同時に、法定の有給休
暇期間が 1969 年には 4 週間、今日では 5 週間にまで延長されることも忘れてはならない。
休暇期間が延長すれば、自ずとヴァカンスに出かける人数は増えていくことになる。
とはいえ、こうした二つの条件だけではヴァカンスは根付かない。そこには思想的根拠
が必要であった。余暇活動の推進者として知られるジョフル・デュマズディエ(1936 年当
時ユースホステル運動の活動家として名を馳せていた)が、1962 年に『余暇文明に向かっ
て』を出版する。大きな反響を得ることになったこの著作のなかで、彼は「余暇文明の到
13
条項は以下を参照。http://www.uncmt.fr/groupes-agrements-tourisme.html(2013 年 3 月 1 日アクセ
ス)
14
Alain Corbin, L’avènement des loisirs (1850-1960), Aubier, 1995 ; Pierre Py, Le tourisme. Un
phénomène économique, La documentation française, 1997.
178
来は、人びとが余暇活動を自らのものとすることを助ける新しい職業の創造を要求してい
る15」と述べている。
このデュマズディエの言葉には重要なことが二つ含まれている。一つには「余暇活動を
助ける」ということである。余暇というのは決して娯楽や暇つぶしではない。もしも余暇
が娯楽や暇つぶしであれば、なにも「助ける」必要はないのである。すなわち、余暇は、
自らの自由な表現でありながらも、「社会的諸関係でのより大きな自発性16」、すなわち本
来利害を超越した実践に向けられているわけである。もう一つは、そのために「余暇活動
を助ける人」が必要であるということである。重要なのは、ヴォランティアではなく職業
として、
「助ける人」を創造しなければならないという点である。以上のような観点からす
れば、余暇活動というのはすぐれて教育的な活動であるということになる。
経済基盤が安定し(消費社会が到来し)、理念(イデオロギー)が整理されれば、あとは
ヴァカンスの組織化をするアクターが必要となってくる。とくに青少年のヴァカンスに限
定すれば、上述のようなアソシアシオンの存在がそれに該当する。そしてそのアソシアシ
オンが組織するヴァカンス滞在に不可欠なのが「アニマトゥール(ヴァカンス滞在を活気
づける人)」である。この二つのアクターが地方自治体と連携をとることで青少年のヴァカ
ンス滞在や余暇活動は成り立っている。
文化的背景として繰り返しておくと、フランスでは青少年の課外活動が協調性や自立性
を育む手段として考えられていることが特徴的である。フランス語で課外活動を
「activités périscolaires」と表現する。この「périscolaire」という形容詞は「péri:
周辺の」と「scolaire:学校の」に分解される。つまり「学校にはない」や「学校では習
わない」という意味であり、そこにもまた教育的意義を含むという考えがあるということ
である。だとすれば、
「学校の外での活動」で培った協調性や自立性は何の役に立つのだろ
うか。これは端的にいって、民主主義の存立を保つことのできる成熟した市民となるため
に有用なのである。
6.指導者養成システム及び資格制度の概要
ここではフランスの青少年教育施設での活動に不可欠な役割を果たすアニマトゥールの
養成について概要を示す。アニマトゥールとは元来、人々の自由時間に働きかける社会的
労働者のことである。それが青少年集合施設の文脈で語られるときはかならずヴァカンス
滞在の組織を促す者の意となる。
アニマトゥールになるには政府による免状を取得しなければならない。この免状には
BAFA(アニマトゥール職適正証書)と BAFD(管理職適正証書)の 2 つがある。
15
16
Joffre Dumazedier, Vers une civilisation du loisir ?, Seuil, 1962.
Geneviève Poujol et Jean-Marie Mignon, Guide de l’animateur socio-culturel, DUNOD, 2005.
179
(1)BAFA(アニマトゥール職適正証書)
・BAFA の概要
BAFA は学校の長期休暇や余暇活動の際に臨時的な指導スタッフとなるための免状(資
格)である(毎年 5 万人以上が取得)
。BAFA は養成教育の修了時に「スポーツ、青少年、
民衆教育、協同生活省」によって付与されるが、養成そのものは青少年・スポーツ省が認
可したアソシアシオンによって行われる。同省によれば BAFA の役割は以下のようである。
・ 青少年の身体的および精神的な安全性を確保すること
・ チームのなかで、青少年の集団活動の枠組みを尊重しながら、教育計画と一貫した
指導計画を実践にうつすこと
・ その関係が個別であれ集団であれ、青少年と良質の関係を築くこと
・ 様々な人々との間での活動、コミュニケーション、関係性の発展に参加すること
・ 日常生活とアクティヴィティを組織し、活気づけること
・ 自らの立てた計画を実践するなかで、青少年と行動をともにすること
・BAFA の取得過程
BAFA を取得するためには、養成機関にて、養成コース、実習研修、完成コースを経な
ければならない。
養成コース:最低 8 日間、連続でも、2 日連続の 4 回でもよく、3 カ月以内に最低 64 時
間の授業を受けなければならない。ここでは、子どもの生理学的、心理学的、社会的側面
に関する知識、グループ生活、班別作業、民法上および刑事上の責任に関する考え方、未
成年者の保護、衛生と安全に関する規定と救命、青少年集合施設で展開される活動分野の
実践的・指導方法的な知識、年齢・出身・社会・文化環境の異なる子どもたちの多様性に
気を配ること、などを学ぶ。このコース終了後、機関の担当者が受講者の合否をつけ、評
価書を県の青少年・スポーツ局へ送る。
実習研修:養成コースに合格した受講者に対して、合格後 18 日以内に実際に青少年集
合施設で実施される研修のことである。ここで自らの専門分野を選択する。
完成コース:このコースは免状取得の最終段階であり、BAFA の理解と実践力を「深め
る期間」と「資格認定期間」の二つのコースに分かれている。
「深める期間」では、最低 6
日間を要するが、2 カ月以内で終えなければならない。そして「資格認定期間」は、最低 8
日間を要し、そこでは特殊領域「ヨット、カヌー、サイクリング、川や海での水泳監視(2008
年 10 月 28 日より)」での技能を取得することが求められる。それと同時に受講者が選択し
た専門活動分野で必要とされる技能を習得することが求められる。そこでの専門分野には、
水泳、スキー、自転車、球技、キャンプといったスポーツ全般から手芸、演劇、物語とい
った室内活動まで、あるいは障害を抱える子どもの世話といったものまである。どの専門
180
分野を選択するかは個人の意志によるが、どの機関に登録するかによって、その幅も変わ
ってくる。
・BAFA 取得にかかる費用
BAFA 取得に要する費用は各機関によって異なるが、約 700 ユーロから 1,000 ユーロにお
さまるのが通例である。例えば、代表的な養成機関の一つ AFOCAL においては、養成コ
ースで約 400 ユーロから 500 ユーロ、深める期間コースでは約 300 ユーロから 500 ユー
ロである。受講するコースの時期、専門分野、泊まり込みか否かでその費用は異なる。
(2)BAFD(管理職適正証書)
BAFD は BAFA よりも一段階格の高い免状であり、これを有しているとヴァカンス・余
暇センターの責任者になれるほか、地方公務員の一定の試験を受験することが可能となっ
てくる。また BAFD 取得条件は、満 21 歳に達している BAFA の取得者、あるいは 25 歳
に達していることである。BAFD の目的は青少年・スポーツ省によって以下のように定め
られている。また、最低 28 日のアニマトゥール経験を 2 度していると同時に、そのうち
の 1 つが登録の 2 年以内におこなわれていなければならない。
・ 社会的、文化的、教育的文脈において申請者の意図を位置づけること
・ 教育計画に準拠しながら、指導教育を実践にうつすこと
・ 人びとを責任者として指導すること
・ 施設の管理をおこなうこと
・ パートナーシップとコミュニケーション能力を発展させること
全国における BAFD 取得者数は、1994 年で 2333 名、1999 年で 2572 名、2003 年で
1958 名となっている17。
・BAFD の取得過程
養成コース:ここでは主に会計を含めた財政管理やアニマトゥールの管理など、青少年
集合施設の責任者としての知識や技術を習得しながら、実際に指導計画を作成する。この
指導計画に基づいて、次コース以降を進めていくことになる。またこのコースは連続して
受講すれば 9 日、何回かに分けてであれば 10 日受講する必要がある。
第一次実習研修:最低 14 日間、青少年集合施設で責任者あるいは責任者補佐員として
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« Les diplômes de l’animation dans le secteur “Jeunesse de 1998 à 2002”», Animation Stat-Info,
Bulletin de statistiques et d’études des ministères du Sport, et de la Jeunesse, de l’Éducation
nationale et de la Recherche, n° 03-06, sept. 2003.
181
組織しなければならない。基本的には BAFA での実習研修と同じであるが、BAFA が一ア
ニマトゥールとしての参加であるとすれば、BAFD ではそのアニマトゥールたちを指導す
る立場にある。また養成コースを終了してから、18 カ月以内で実践研修をおこなわなけれ
ばならない。
完成コース:これは BAFD 取得の最終段階であり、これまでの復習をすることに重点が
置かれるいわば補完研修のことである。計 6 日間を要するが、二つに分けて受講すること
もできる。
第二実習研修:ここでの要領は基本的に第一実習研修と同様である。異なるのは、ただ
一点、
「責任者あるいは責任者補佐員」という選択はなく、あるのは「責任者」としての立
場だけである点である。この研修を終えると最後に受講者が BAFD 取得過程をレポートと
して提出することが求められる。
・BAFD 取得にかかる費用
BAFD 取得にかかる費用は約 900 ユーロから 1,000 ユーロである。養成期間 AFOCAL
のプログラムによれば、BAFA とは異なり、ほとんど受講に選択肢はない。養成コースで
は 545 ユーロ、完成コースでは 369 ユーロというのが相場となっている。しかし、BAFD
で実習研修に参加している間は見習い職員として給与を受けることができるので、実際に
かかる費用というのは僅かである。また BAFA ほど充実はしていないが、各地方自治体な
どから補助金を得ることも可能である。
BAFA を取得すれば、青少年集合施設の「幹部」として参加することができる。他方、
青少年集合施設のとくにヴァカンス滞在施設に関する組織には BAFA を有するアニマト
ゥールを動員しなければならない。一方、BAFD を取得すれば青少年集合施設の一時的な
責任者になることができる。
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UNCMT(アソシアシオン)のパンフレットより
183
参考文献
1) « Le mémento 2011 de la réglementation », 2012, Le journal de l’animation, Hors
série, n° 20, 48pp.
2) « Les accueils collectifs de mineurs et les loisirs éducatifs en France. Dossier
de presse. Faits et chiffres 2012 », 2012, Ministère des sports, de la jeunesse,
de l’éducation populaire et de la vie associative, 12pp.
3) « Projet éducatif et pédagogique en centres de vacances et en centres de loisirs
sans hébergement », 2002, Direction de la jeunesse et de l’éducation populaire,
52pp.
4) Toulier, B, 2008, « Les colonies de vacances en France, quelle architecture ? »,
In Situ, pp. 1-39.
5) Les mineurs en centres de vacances par tranche d'âge, période et destination en
2009,NSEE,http://www.insee.fr/fr/themes/tableau.asp?reg_id=0&ref_id=NATSOS05
405(2013 年 3 月 1 日アクセス)
6) « Les accueils collectifs de mineurs avec hébergement en 2011 », 2012, Bulletin
de statistiques et d’études, Ministère des sports, de la jeunesse, de
l’éducation populaire et de la vie associative, n° 12, 8pp.
7) Séjours de vacances : des donnés et des chiffres, UNOSEL,
http://www.unosel.org/sejours-de-vacances-des-donnees-et-des-chiffres/(2013
年 3 月 1 日アクセス)
8) Séjours vacances, Toulouse,
http://www.toulouse.fr/education/loisirs/sejours/les-sejours-de-vacances
(2013
年 3 月 1 日アクセス)
9) Grandcamp-Maisy « Les Quiéri-QUiérettes », UNCMT
http://www.uncmt.fr/groupes-grandcamp-qq.html#tabs-1(3 月 1 日アクセス)
10) Origine et objectifs de l’association, UNCMT,
http://www.uncmt.fr/uncmt.html(3 月 1 日アクセス)
11) Agréments et garanties, UNCMT,
http://www.uncmt.fr/groupes-agrements-tourisme.html(2013 年 3 月 1 日アクセス)
12) Dumazedier, J, 1962, Vers une civilisation du loisir ?, Seuil, 1962, 318pp.
13) Poujol, G et Mignon, J.-M., 2005, Guide de l’animateur socio-culturel, DUNOD.
14) « Les diplômes de l’animation dans le secteur “Jeunesse de 1998 à 2002”», 2003,
Bulletin de statistiques et d’études des ministères du Sport, et de la Jeunesse,
de l’Éducation nationale et de la Recherche, n° 03-06, 4p.
(中村 督)
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