Technological Transition from RP to 3D Printer

シリーズ よくわかるRPの活用法( 最終回 )
RP から 3D プリンターへの変遷
〜 RP シリーズのまとめとして〜
芝浦工業大学
安
齋
正
博
「十数回の予定で Rapid Prototyping(RP)を連載
リンターという言葉がよく使われるようになってきて
します。これを機会に最新の RP 技術に触れて、素形
おり、それ以前には、3D プリンティングという言葉
材の造り方の手法として取り入れていただければ幸い
はありましたが、3D プリンターという専門用語はな
です。さて、はじめに Rapid Prototyping ですが、直
かったように記憶しています。3D プリンティングは
訳すると迅速試作品製作となります。どこにも積層な
インクジェットを使用して、スターチや石膏パウダー
どという意味はないのですが、RP の原理(層を積み
を固める方法で、文字通りプリンターに使用するイン
重ねて形を造る)から考えると日本語の積層造形のほ
クジェットを使用しています。これだとまさにプリン
うがピンときます。最近では Rapid Manufacturing や
ターです。しかし、現在 3D プリンターは Additive
Additive Manufacturing などが用いられて、RP はや
Manufacturing 全体を指す言葉になってしまいまし
がて使われなくなるのではないかと思います。しかし、
た。当初関係者は、目くじらをたててこの差異を説明
今回は RP 産業協会の理事が中心となってこの連載を
したのですが、最近では諦めて? 3D プリンターと言っ
執筆しますので、RP および積層造形で通します。最
ています(少なくともわたしは)。デジタルものづく
初は種々の RP の原理などについて詳解します。」
り教育および雇用促進が目的のようですが、ばら撒き
この書き出しで連載を開催して 20 回を超えるシ
リーズとなりました。そろそろ一通り執筆者の順番が
による人気取りにしか思えないのはわたしが政治を知
らないせいだからでしょうか。
回りましたので今回が最後のまとめとなります。
さて、この連載を開始したころと今では積層造形に
それとアメリカでのもう一つの出来事は、Chris
関して劇的な変化が訪れました。それは、3D プリン
Anderson という科学雑誌編集者が Makers というベ
ターという言葉が市民権を得つつあって、これを使用
ストセラーを発刊したことも 3D プリンターを幅広く
すればものづくりに革新が起こるというキャッチフ
認知させた要因の一つでしょう。The New Industrial
レーズが多くの雑誌で取り上げられて、テレビやラジ
Revolution:21 世紀の産業革命が始まる、というショッ
オでもよく見聞きするようになりました。この 1 年で
キングな本でした。簡単に言えば、3D プリンターを
造形機が画期的に変わったわけではありません。以下
使えば、だれでもメーカーになれて、第 2 の産業革命
に、なぜこのようになったのかを分析して、これから
がここから始まるというような内容です。要点を訳本
どのように 3D プリンターを活用したらよいかについ
よりまとめると以下のようです 1)。
て私見を述べてまとめとしたいと思います。
① デスクトップのデジタル工作機械を使って、モ
ノをデザインし、試作すること(デジタル DIY:
まず、オバマアメリカ合衆国大統領が、2012 年の
始めに、今後 4 年間で 1,000 箇所の学校に 3D プリン
ターやレーザーカッターなどのデジタル工作機械を
Do It Yourself)。
② それらのデザインをオンラインのコミュニティで
当たり前に共有し、仲間と協力すること。
完備した「工作室」を開くプログラムを起ち上げま
③ デザインファイルが標準化されたこと。おかげで
し た。 ま た、2012 年 8 月 に は、3D プ リ ン ト 技 術 を
だれでも自分のデザインを製造業者に送り、欲し
研究・発展させるためにオハイオ州に 3000 万ドルを
い数だけ作ってもらうことができる。また、自宅
投入して NAMII(National Additive Manufacturing
でも家庭用のツールで手軽に製造できる。これが
Innovation Institute:全米積層造形イノベーション
発案から起業への道のりを劇的に縮めた。まさに、
機構)の設立も発表しました。このあたりから 3D プ
ソフトウェア、情報、コンテンツの分野でウェブ
が果たしたのと同じことがここで起きている。
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シリーズ
少し日本語が変ですが、言いたいことを要約すると
以下のようになるでしょう。
よくわかるRPの活用法
ます。低価格の多くは、自分で組み立てるキット販売
のようです。しかし、それなりの形状が造形できるこ
製造業にかかわらない(かかわっていてもよいのだ
とが確認されており、You Tube などでも動画で紹介
が)一般の人(A さん)が、自分で何かをデザインし
されています。これは、基本特許が切れたことと無関
て、こんなのデザインしたのですが、だれかこれ作っ
係ではありません。積層造形の基本特許は 1980 年代
てくれませんか?・・・とネットを介して情報をばら
に多くが認証されており、20 年以上経過しています。
撒く。それをみた製造業者が、いつまでに 1 個いくら
しかし、その周辺特許や応用特許も多く、これから特
でこんな材料でこの精度でつくれますと情報を A さ
許関係の係争が予想されます。
んに返す。その情報を基に A さんは気に入った製造
これまで、3D プリンターの主に良いところに着目
業者へ発注する。A さんは出来上がった製品をネット
してきました。ここでは、改めて 3D プリンターの泣
上で通信販売する。これで A さんも立派なメーカーだ。
き所を確認しておきましょう。
なんとなく胡散臭い話ですね。趣味の世界で自分だけ
まず、3D プリンターは積層造形の一種ですから、
悦に入っていればこんな話もありですが、メーカーと
層を積み重ねます。したがって、この層の厚み分だけ
しての種々の責任はどうなるのでしょうか。
層間で段差が生じます。特に緩斜面では目立ちますの
で何らかの後仕上げ工程が必要になります。また、複
さて、このような二つの話だけで、日本が踊らされ
雑形状の造形では、サポートといういわば支え棒が必
ているわけではないと思っています。3D プリンター
要になります。この除去工程も手作業です。サポー
は、ものづくりのためのツールですから、これが使わ
ト除去・仕上げ工程の対策が必要です。当然ですが
れるためには種々の要素技術がある程度のレベルで
CAD データのモデリングが必要です。3D プリンター
整っていなければなりません。以下に RP 初期と現在
は、CAD データを具現化するだけのツールですから、
での主要要素技術を比較してみましょう。主な要素技
これらはセットで考えなければいけません。
術は、コンピュータ、CAD、供試材料(使える材料)、
機械の低価格化と特許などでしょうか。
3D スキャナーを使用するにしても、3D‑CAD を使
用するにしても、CAD データが必要です。前述した
20 年前のコンピュータと今のそれでは雲泥の差が
ように、3D プリンターとこれらはセットにして考慮
あります。これは誰でもが納得していただけると思い
すべきです。むしろ、3D‑CAD データより、何をつ
ます。当時 EWS が 1 台一千万円以上でした。それで
くるのかのアイデアが重要です。このアイデアの具現
も重いデータでは、数日計算にかかるのは普通でした。
化のために 3D プリンターが一番適当であれば必然的
今、同じ性能の PC は数十万円で買えるでしょう。
に 3D プリンターが使用されるべきです。
CAD はどうでしょうか?
CAD は明らかに高性能化、低価格化が進んでい
3D プリンターの将来はどうか?と聞かれると明
ます。また、大学の機械系の教育カリキュラムでも
言できません。しかし、これからは Digital Direct
CAD/CAM は一般的になっています。機械設計・製
Manufacturing(デジタルデータから直接製品をつく
図で使用していたドラフターにはほとんどお目にかか
る)が当たり前になることは間違いありません。もし
れません。また、ソフトウェア同士の互換性も有し、
かしたら、ちょっと高級なスマートホンからデータを
STL データに変換する機能も有しており、このデータ
コンビニに転送して、コンビニには 3D プリンターが
がほとんどの 3D プリンターを動かすソフトウェアの
何台も設置してあって、造形してくれるようになるか
スタンダードです。3D プリンターの基本は 3D‑CAD
もしれません。コンビニは無理でも、ホームセンター
によるモデリングです。したがって、CAD と 3D プ
に 3D 造形センターができるかもしれません。これま
リンターは切っても切れない関係です。さらに使い勝
で、大量生産というと一般的には金型がツールになっ
手が良く、安価な CAD の出現が待たれます。
ていました。そうでないものづくりの形態も 3D プリ
使用できる材料は、各手法によって限定されていま
ンターによって拍車がかかるような気がします。
した。現在でもそうですが、使用できる材料は大幅に
増えています。例えば、3D システムズ社では、メタ
二十数回に渡った連載を終了するに当たり、3D プ
ルを含めて 100 種類以上材料を供給しています。それ
リンターの現状をまとめました。ものづくりのため
だけも応用範囲が増加するということで、3D プリン
の形状加工、成形加工に完璧な手法は存在しません。
ターのユーザーにとっては喜ばしいことです。
種々の手法の中から、現状で最適なものを選択して
10 万円を切る低価格の 3D プリンターが登場してい
組み合わせてゆくのがものづくり工程です。3D プリ
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ンターもその一手法にすぎません。しかし、世界が
ことは間違いないところです。
DDM を目指している中で、我が国だけ置き去りにさ
是非とも国産メーカーの奮起を期待したい。
れてはいけません。種々の加工法との棲み分けをきち
んと考えて、それぞれの加工法の最適化を図らなけれ
ばなりません。その選択課程において 3D プリンター
参考文献
1 )クリス・アンダーソン,関美和(翻訳):MAKERS ―
が最適であれば、大いにものづくりの将来に寄与する
21 世紀の産業革命が始まる,NHK 出版(2013)
シリーズ「よくわかる RP の活用法」掲載内容一覧
回
掲載タイトル
第 1 回
積層造形の基礎
第 2 回
積層造形の基礎
第 3 回
粉末焼結積層造形法の基礎
第 4 回
ラピッドプロトタイピング(RP)から 3D プリントへ
−最新のトレンドと適用分野−
第 5 回
光造形技術の最新情報と現場での活用例
第 6 回
第 7 回
その 2
レーザ焼結型 AM システムのマニュファクチャリングへの活用に
ついて
ラピッド試作からラピッド生産へ − FDM(熱溶解樹脂押し出し
積層)方式によるオンデマンド生産の実用化−
第 8 回
光成形による RP から RM への活用について
第 9 回
3D CAD/CAM と 3D プリンタによる最新の医療現場
第 10 回
一般消費者向け AM(積層造形)の最新動向
第 11 回
アディティブ・マニュファクチャリング(AM)技術が世界を変える
第 12 回
インクジェットベースの 3D プリンタを活用した RP の新たな前進
第 13 回
光造形用樹脂とその造形物の現状と将来
第 14 回
インクジェット 3D プリントの展望とテクノロジー
第 15 回
第 16 回
第 17 回
光造形の特性を活かした新材料と 2 つの新ソリューション
−透明可視化と光造形精密鋳造
新たな製造法 アディティブマニュファクチャリング(AM)
その使い所と勘所
FDM 方式3D プリンタの新たなる活用法
− ABS 樹脂の物性を活かして−
執筆者(敬称略)
芝浦工業大学
安齋正博
芝浦工業大学
安齋正博
東京大学 生産技術研究所
新野俊樹
㈱スリーディー・システムズ・ジャパン
小林広美
シーメット㈱
荒井
誠
㈱ NTT データエンジニアリングシステムズ
前田寿彦
丸紅情報システムズ㈱
真弓
剛
㈱ディーメック
滝谷義隆
㈱豊通マシナリー
大竹範幸
㈱インクス
小澤純一
マテリアライズジャパン㈱
鈴木
浩
㈱オブジェット・ジャパン
東京工業大学
萩原恒夫
㈱スリーディー・システムズ・ジャパン
宇野 博
シーメット㈱
荒井
誠
㈱ NTT データエンジニアリングシステムズ
酒井仁史
丸紅情報システムズ㈱
吉田武史
㈱ディーメック
滝谷義隆
SOLIZE Products ㈱
朝倉慶子
第 18 回
高精度、高解像度を追及する光造形テクノロジー
第 19 回
後処理で広がる積層造形品の可能性
第 20 回
アディティブ・マニュファクチャリング(AM)で作る
コンシューマーグッズ
マテリアライズジャパン㈱
小林
第 21 回
3D プリンティングを製品開発過程へ統合すべき 5 つの理由
㈱ストラタシス・ジャパン
新妻和之
第 22 回
材料から見た 3D プリンターの現状と将来
東京工業大学
萩原恒夫
最終回
RP から 3D プリンターへの変遷 − RP シリーズのまとめとして−
芝浦工業大学
安齋正博
毅
* 執筆者所属は掲載時のものです。
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