【 「排出シナリオ」に関する IPCC 専門家会合報告 】

【 「排出シナリオ」に関する IPCC 専門家会合報告 】
IPCC Expert Meeting on Emission Scenarios
出張者:国立環境研究所 社会環境研究システム研究領域 統合評価モデル研究室
室長 甲斐沼美紀子
IPCC 第4次報告書(AR4)作成の一環として、2005 年 1 月 12-14 日「排出シナリオ」に関する
専門家会合が開催された。会合の目的は、AR4 でのシナリオ評価に関する事項について、WG1、
WG2、WG3 の AR4 執筆チームおよび研究者間での相互理解を深めることである。会合では今後の
研究を促進するため、1) 最新の成果のレビュー、2) 3つのワーキンググループにまたがる問題の
取り扱い、3) 現状の知識のギャップの明確化についての討議が行われた。
1.日程:2005 年 1 月 12∼14 日
2.場所:ワシントン D.C.(USEPA)
3.参加者:Bert Mets WG3 の副議長、WG3 第 3 章執筆者、WG3 の第 4-12 章の代表者、WG1、
WG2、TGCIA からの代表者、排出シナリオ及び社会経済に関する専門家など約 70 名
4.目的:AR4 でのシナリオ評価に関する事項について WG3 AR4 執筆者及びその他の専門家間で
意見を交換すること。WG3 では、特に、AR4 報告書第3章「長期的視野からの削減に
関連する問題」についての執筆チームが本課題に関係している。この検討における主要
な課題は以下の通りである。
9 SRES 以降の基準排出シナリオに関する新しい文献に関する洞察:確率および定量シナリ
オを含む。
9 SRES シナリオに関する批判に関する論争を AR4 報告書にどのように取り込むか。
9 発展パス、傾向、目標に関する文献を AR4 報告書にどのように取り込むか。
9 複数ガスと安定化シナリオに関する論文を AR4 報告書にどのように取り込むか。温室効
果ガス及びその他の放射強制力要因の気候変動に与える影響の尺度の考察。
9 長期削減と安定化についての技術の役割に関する洞察。削減シナリオに関する技術の研究、
開発、実用化、普及の検討。
9 安定化と削減シナリオが聞こうに与える影響評価分析のために簡易気候モデルを使う可
能性に関する議論。
(WG1 からのインプット)
9 削減と安定化シナリオの気候変動予測が気候影響に与える影響に関する予測と適応オプ
ションの分析(WG2 からのインプット)
9 現状での知識のギャップと今後の研究
※<参考>IPCC WG3「排出シナリオに関する専門家会合の趣意書」
(後出)参照のこと。
5.主要な議論
5.1 SRES 以降の排出シナリオ
SRES 以降の排出シナリオの傾向について報告があった。排出シナリオに関しては Morita デ
ータベースが SRES の準備にあたって構築されて以来更新され、現在に至っている。今回は
Morita データベースに追加された SRES 以降の排出シナリオと SRES シナリオとの比較があっ
た。2100 年の人口、経済成長に関しては中位推計に関してはほとんど変化ないが、上限が低く
なった。排出シナリオに関しては、SRES より高い排出シナリオが提出されている。SRES では
GDP に MER を使っているため、エネルギー排出強度の推計が必ずしも正しくなく、将来の排
出量が高めに推計されるとの批判があるが、GDP 一つを取り出して議論することより、全体的
に整合性がとれた予測が必要であることが述べられた。
5.2 社会・経済要因
SRES が GDP に関して MER を使っているので、発展途上国の現状を必ずしも反映していな
い、また、発展途上国の排出シナリオの予測値が高すぎるとの批判があった。PPP の分析の方
が経済状況を反映するとの意見があったが、長期的(100 年の単位)に整合性のとれた PPP に
よる GDP の推計は難しく、PPP による経済見通しに膨大な努力を費やすべきかどうかは疑問
であるとの意見があった。SRES 以降の人口予測についての報告があった。
5.3 気候・影響モデル
気候モデルグループでは詳細な気候モデルによる解析が進んでいるが、
膨大なデータと分析時
間が必要であるため、種々の対策オプションの分析には必ずしも適さない。簡易/中間気候モデ
ルによる、排出、気候変動、影響評価の統合評価についての討議があった。特に簡易モデルより
は詳しく、また、大規模な気候モデルより時間のかからない中間気候モデルの適用可能性につい
ての報告があった。複数ガスの温暖化への影響度の指標である GWP が複数ガスの比較に適して
いるかの質問があったが、Wigley 氏から現在検討中であり今後報告するとの指摘があった。
WGP については WG1 での検討課題であり、WG3 は新しい見解が提出されればそれを利用す
ることとなる。
5.4 確率的評価の役割
SRES では将来の発展パスに関する定性的シナリオを議論した後、定量的シナリオを開発した。
考慮した複数のシナリオについては、どのシナリオも同じように将来起こりうるとしており、将
来どのパスが実現するかについては、シナリオ構築の議論の外においた。しかし、複数のシナリ
オについて同じように起こるとすることについては議論があり、影響の推計を行ううえでは、
GHG 排出量の発生量の確率分布、気温上昇の確率分布などが求められている。最近の排出シナ
リオには、人口、社会・経済指標についての確率分布をあたえ、膨大な確率的排出シナリオを分
析するものがある。AR4 において排出シナリオの確率をどのように取り扱うかが議論された。
5.5 新しい排出シナリオの動き
TAR では主に CO2 を対象とした削減シナリオが議論された。その後、京都議定書で対象とし
ている6ガスについても削減シナリオが研究されてきた。複数ガスを対象として分析するには、
複数ガスの影響を図る尺度を考慮する必要がある。EMF21 では、放射強制力を制約条件として
CO2 のみを対象とした削減シナリオと複数ガスを対象とした削減シナリオを検討した。また、
気候上昇を制約条件とした削減シナリオも検討している。その他、技術発展を内生化したモデル
によるシナリオが検討されている。
5.6 技術の役割
削減シナリオ中で技術は重要な役割を果たす。トップダウンとボトムアップアプローチ、技術
のモデルでの内生化、途上国の視点からの議論がなされた。部門別の詳細な削減ポテンシャルに
ついては、AR4 では個別の章で 2025 年を対象として削減ポテンシャルの推計を行うことになっ
ている。長期シナリオについては、革新技術の導入が鍵を握っている。技術革新は予想以上に進
んできており、今後も進むであろうとの議論があった。
以 上
<参考> IPCC-WG3「排出シナリオ」に関する専門家会合の趣意書
1. 背景
IPCC-TAR はシナリオを活用し、多くの研究成果を示した。排出シナリオに関する特別報告書
(SRES)は慎重に準備され採用されたが、ワーキンググループ(WG)間でのシナリオの整合的
な取り扱いには一部問題があった。実際、SRES シナリオを用いた気候モデルによる多くの予測は
TAR 発表以降に示された。このため、WG2 の影響予測のほとんどは SRES 以前のシナリオに基づ
いたものであった。WG3 では SRES をベースにした削減シナリオの開発が集中的に実施され、多
くの研究成果が採用された。しかし、TAR ではすべての温室効果ガスおよび関連する要因を網羅的
に分析したものではなかった。
2001 年以降、これらのギャップを埋める努力が精力的に実施され、AR4 プロセスでは、WG 間
の整合性と削減分析について前進した成果が提供できる状況にある。削減分析については、複数の
部門(エネルギー、土地利用)
、複数ガスの放射強制力を考慮したシナリオ(基準および削減シナリ
オ)のモデリングおよびデータの整備、種々の関連要因の分析、気候変動以外の環境問題、特に大
気汚染、を含む統合的な分析やトレードオフの解析が行われた。これらの成果は、EMF-21(複数
ガスシナリオ)
、新しい EMF のシナリオに関する活動、IPCC TGCIA(2003 年 1 月)などの活動
が提供している。複数ガスに関する分析では CO2 のみの対策とは異なる結果が出されている。
2003 年には SRES シナリオに関する論争が注目された。SRES シナリオは経済活動に関する指
標の取り扱い(購買力平価(PPP)と為替レート(MER)
)
、及び発展途上国での経済成長率の仮定
について批判された。この論争は必ずしも終結していない。
2003 年 11 月に、第 21 回 IPCC 全体会合で AR4 でのシナリオの使用に関する問題について専門
家会合を開くことが決定された。
同時に、
SRES 開発に費やされた 4 年間の多大の努力を考慮して、
AR4 用には新しい基準シナリオを準備しないことが決定された。
IPCC の全体会合の決定を基づいて、IPCC-WG3 は 2005 年に 2 つの専門家会合を開催する。第
1回目の会合は AR4 執筆者チームの評価プロセスを支援するため、最新の科学的知見を明確にす
ることを目的としている。本会合は USEPA が主催し、2005 年 1 月 12-14 日にワシントンで開催
される。第 2 回専門家会合は AR4 以降の分析のために、IPCC が IPCC の新しいシナリオを準備す
るかどうかの決定について討議するためのものである。本会合はオーストリア IIASA が主催し、
2005 年 6 月 29 日-7 月 1 日にウィーンで開催される。
本文書は第1回会合のためのものである。第1回会合は、最近行われた関連する会合や活動に関
する情報や分析を提供するものである。
2. 目標と成果
第1回会合の主な目的は、AR4 でのシナリオ評価に関する事項について、WG1、WG2、WG3
の AR4 執筆チームおよび研究者間での相互理解を深めることである。会合では今後の研究を促進
するため、1) 最新の成果のレビュー、2) 3つのワーキンググループにまたがる問題の取り扱い、
3) 現状の知識のギャップの明確化について討議する。会合では、排出シナリオに関する最新情報を
提供し、AR4 執筆チームの文献評価を支援することを目的とする。WG3 では、特に、AR4 報告書
第3章「長期的視野からの削減に関連する問題」についての執筆チームが関係している。第3章の
概要は以下の通りである。
9 基準排出シナリオ:SRES 以降の文献の評価。気候フィードバックを含む文献レビュー。
9 削減と安定化シナリオとその戦略、費用、社会・経済的意味。不確実性の分析及び、複数の温
室効果ガスを含む。
9 発展パス、傾向と目標
9 長期の削減と安定化における技術の役割:研究、開発、実用化と普及
9 削減と適用との関連。気候影響と長期不確実性の下での意思決定。削減費用のみでなく回避さ
れる気候影響と適用費用を含む
9 短・中期の削減と長期の安定化とのリンク。意思決定における決定要因やリスク、不不確実性
を含む。
会合ではこれらの事項に加え、以下の事項も検討する。
9 SRES シナリオに関する批判とそれを AR4 にいかに活用するか。
(発展途上国のマクロ経済予
測と PPP および MER に準拠したマクロ経済シナリオの分析を含む)
9 削減と安定化シナリオの気候変動分析のための簡易気候モデルの活用の可能性。
9 削減と安定化シナリオをベースとした気候変動予測の気候影響分析への活用と、シナリオの適
応オプションの評価。
9 複数ガスシナリオの扱い。複数温室効果ガスやその他の放射強制力要因が気候変動に与える効
果の尺度。関連する排出プロファイル。削減費用推計。
9 その他の環境問題との統合評価とトレードオフ。大気汚染やその他の副次的効果、及び削減戦
略の費用。
9 確率的アプローチの活用
第 1 回会合では以下の成果が期待される。
9 SRES 以降の基準排出シナリオに関する新しい文献に関する洞察:AR4 報告書に入れるべき確
率および定量シナリオを含む。
9 SRES シナリオに関する批判に関する論争を AR4 報告書にどのように取り込むか。
9 発展パス、傾向、目標に関する文献を AR4 報告書にどのように取り込むか。
9 複数ガスと安定化シナリオに関する論文を AR4 報告書にどのように取り込むか。温室効果ガ
ス及びその他の放射強制力要因の気候変動に与える影響の尺度。
9 長期削減と安定化についての技術の役割に関する洞察。削減シナリオに関する研究、開発、実
用化、普及。
9 安定化と削減シナリオが聞こうに与える影響評価分析のために簡易気候モデルを使う可能性。
(WG1 からのインプット)
9 削減と安定化シナリオの気候変動予測が気候影響に与える影響に関する予測と適応オプショ
ン分析(WG2 からのインプット)
9 現状での知識のギャップと今後の研究
第2回会合では AR4 以降に使われるシナリオ開発(基準シナリオと削減シナリオ)の立ち上げ、
及び第1回会合で明らかにされるもっと基礎的なギャップや問題を明確にすることを議論する。第
2回会合の目的は、2004 年 11 月 8-11 日にニューデリーで開催された第 22 回 IPCC 全体会合での
議論に基づき、第1回会合で議論する。
3. 対象グループ
会合は以下のグループを対象とする。
9 WG3 第 3 章執筆者チーム
9 WG3 の第 4-12 章の代表者。長期・短期の削減問題の関連を明確にするため。
9 EMF、ヨーロッパを中心とした削減シナリオ分析グループ、及びその他の排出/安定化シナリ
オに関する研究者コミュニティ
9 WG1、WG2、TGCIA などの WG3 以外の IPCC ワーキンググループからの代表
9 経済成長に関する専門家
4.プログラム委員会
第1回及び第2回専門家会合準備のためにプログラム委員会を設置する。プログラム委員会は
地理および専門性を考慮して決定する。現在のメンバーは以下の通り。
Bert Mets (議長)
、WG3 の副議長
Francisco Delachesnaye、第1回会合の主催者。第3章の LA
Nebojsa Nakicenovic、第2回会合の主催者。第3章の CLA
Rajendra Pachauri、IPCC 議長
Sarah Raper、WG1 代表者
Ferenc Toth、WG2 代表者
Tom Kram、TGCIA
Anthony Adegbulugbe、第4章 CLA
Brian Fisher、第3章 CLA
Henri Jacoby、MIT
Mikiko Kainuma、第3章 LA
Joaquim Oliveira Martins、OECD
Jiang Kejung、第3章 LA
Emilio La Rovere、第3章 LA
プログラム委員会の秘書は WG3 の TSU から1名。
5.セッションと議題の概要
2.5−3 日のワークショップ。ワークショップでは専門家を招聘し最新の知識についての討議を
行う。1つの議題について複数の専門家の意見を聞いた後、質疑応答を行う。セッションは複数
の議題について討議する。
6.秘書/ロジ
会合の企画は IPCC WG3 の TSU が、地域主催者と協力して行い、責任を持つ。
秘 書 室 は RIVM 、 Bitthoven に 設 置 す る ( 連 絡 先 : Monique Hoogwijk :
[email protected] )。 第 1 回 会 合 の 地 域 主 催 者 は USEPA ( 連 絡 先 : Francisco
Delachesnaye)
。第2回会合の地域主催者は IIASA(連絡先:Nebojsa Nakicenovic)
。
以
上