平成 16 年度 認知症介護研究・研修センター 3 センター合同研究成果発表会 抄 録 集 認知症介護 研究・研修センターの 今とこれから 日 時 : 平成 17 年 6 月 24 日(金) 場 所 : こまばエミナース 主 午後 1 時〜午後 5 時 催 認知症介護研究・研修東京センター 認知症介護研究・研修大府センター 認知症介護研究・研修仙台センター ◆ 12:30 開場 13:00 開会 開会のあいさつ 13:10‑13:55 講 プログラム ◆ 社会福祉法人浴風会理事長 演1 板山 賢治 「認知症ケアの確立に向けて」 東京センター長 長谷川和夫 座長:東京センター副センター長 須貝佑一 14:00‑14:15 講 演2 「介護保険法改正後の認知症対策について」 厚生労働省老健局計画課認知症対策推進室室長 大島 一博 座長:東京センター副センター長 須貝佑一 14:30‑16:50 シンポジウム 「認知症介護研究・研修センターの今とこれから」 座長: 大正大学教授 橋本 泰子 東京センター研究企画主幹 小野寺敦志 14:30‑15:00 シンポジウム 1 「〜3 センターの平成 16 年度研究成果〜」 <シンポジスト> 15:00‑15:45 仙台センター研究・研修部長 加藤 伸司 大府センター研究部長 小長谷 陽子 東京センター主任研究主幹 永田 久美子 シンポジウム 2 「〜認知症ケアとこれからの人材育成〜」 <シンポジスト> 熊本県健康福祉部高齢者支援総室介護予防班 主任主事 犬塚 統 妙 小山田グループホーム 管理者 伊藤 社会福祉法人 総合施設長 大久保 幸積 15:50‑16:50 幸清会 討論 「3 センターの活動に期待されるもの求められるもの」 <研修事業コメンテイター> 仙台センター研究・研修部長 加藤 伸司 大府センター主任研修指導主幹 可知 昭江 東京センター主任研修主幹 諏訪 さゆり 16:50 閉会のあいさつ 17:00 終了 東京センター長 1 長谷川和夫 ◆ ○ 参加者の方々へ ◆ 携帯電話の電源を OFF にするか、もしくはマナーモードに設定し、周りの方々にご迷惑とな らないようにお願いします。 ○ なるべくとなりの座席には荷物をおかず、他の参加者の方も着席できるように、席は譲り合っ てご利用ください。 ○ トイレは、受付に向かって、右手の階段下に設けてあります。 ○ 喫煙は、受付に向かって、左手奥のコーナーに設けてあります。 ○ 討論の際には、活発なご質問、ご意見をお願いいたします。 ○ 貴重品は各自で管理し、盗難、紛失のないようお気をつけください。 2 講 演 抄 録 1 認知症ケアの確立に向けて 認知症介護研究・研修東京センター センター長 長谷川 和夫 最近、痴呆から認知症へと改称された事は認知症高齢者の尊厳を支える基盤を作った。認知 症ケアを確立し、そして普遍化してゆくうえで大きなステップであったことを認識したい。厚生労働 省は、今年を「認知症を知る1年」キャンペーンとして、今後 10 年間、引きつづき啓発活動を続け ていくことを提案している。最終目標は、地域にあって認知症高齢者が安心して暮らしてゆくこと ができる町に、そして社会にすることである。平成 16 年度 3 センターの報告会にあたって、認知 症の確立にむけて、いま一度想いを新たにして、次のような戦略を考えてみたい。 1.認知症について正しい理解をもつこと。 2.認知症ケアの理念を常にもつこと。 3.認知症高齢者の個別性を知ること。 4.認知症高齢者の心にそった接し方を学ぶこと。 5.ケアの理念をサービスの現場にいかすためのツールとして”認知症の人のためのケアマ ネジメントセンター方式”を活用すること。 認知症の人からのメッセージをどのようにして私たちは理解してゆくのか、どのようなケアを私 たちは期待されているのか。認知症の人を支えてゆくうえで何が一番大切なのか。人との絆や制 度の変更のなかでこれから何が求められているのか。 こうした課題が私たちの挑戦を待っている。本報告会の冒頭にあたって、このことを念頭にお いて、学びと情報交換の場にしたい。 2 介護保険法改正後の認知症対策について 厚生労働省老健局計画課認知症対策推進室 室長 大島 一博 注) 発表会当日は,大島室長は,公務のため欠席されました. そのため,厚生労働省老健局計画課認知症対策推進室 池田武敏 室長補佐が講演され ました. . 2015 年、団塊の世代が全員65 歳以上の年齢に到達する。このときまでに認知症への対応策が、 方法論においても財政論においても道筋がついていないと大変なことになる。独居高齢者の増 加も念頭に置かなければならない。10 年先、20 年先を見越し、今から、総合的な認知症対策を進 めていく必要がある。 認知症のステージの初期段階では、前駆段階を含め、早期発見が重要である。認知症の根治 療法は現在のところ開発されていないが、早期であれば、アクティビティや薬剤の利用によって 進行を遅らせることができる。地域ごとに、早期に発見し、早期の対応につなげられるシステムを 構築する必要がある。その際に、医療だけではなく、予防のアクティビティ活動など保健や福祉分 野との関わりも欠かせない。このステージでもう一つ重要な役割を果たすのが、「地域づくり」で ある。近隣の人々、銀行や郵便局の窓口、商店街やスーパーの店員、タクシーの運転手など、認 知症の高齢者が日常的に接する可能性のある人たちが、それぞれの立場に応じてちょっとした サポートしていけば、地域の中での生活を継続しやすくなる。地域の中での理解と支え合いをど のように広めていくかが今後の大きな課題である。 次のステージ、すなわち病気がある程度進むと、介護サービスの利用が重要な位置を占める。 本人の話をよく聞いてその人が言いたいことをくみ取るような姿勢で提供される良質な介護サー ビスが身近な生活圏域の中で提供されるようにならなければならない。今回の介護保険法改正 では、「小規模多機能型居宅介護」をはじめとする「地域密着型サービス」の創設が盛り込まれた。 こうしたサービスの指定・監督は、これまでの都道府県ではなく、市町村が担う。今後は、市町村 が、地域住民と連携して監視し、認知症ケアの意識が高いサービス事業所を育てていかねばな らない。また、サービスの質を確保する前提として、的確なアセスメントやケアマネジメントが必要 であり、全体的なレベルの底上げのためには、認知症の方に対応したアセスメント様式・ツール の普及が有効ではないかと考えている。 後期のステージでは認知症の高齢者のターミナルの問題を考えなくてはならない。どこでター 3 ミナルを迎えるかを本人や家族の意思で選択できるようにしなければならない。そのためには、 選択に役立つ情報提供の仕方や普段からの信頼関係の構築が重要となる。また、介護サービス と地域医療の連携強化や役割分担について検討する必要がある。 各ステージに共通するテーマとしては、一つに人材養成がある。介護やケアマネジメント、保健 に関わる人たちに研修や生涯学習などを通して、ケアの標準を認知症対応型にするための取り 組みが求められる。もう一つは、普及啓発、すなわち認知症についての正しい理解の周知である。 昨年 12 月から従来の痴呆という言い方を「認知症」に改めた。これを機に平成 17 年度を「認知症 を知る1年」と位置づけ、認知症という病気の知識や、本人の気持ちや状態、望ましい接し方、地 域として何ができるのかなどを自分の問題として捉える運動を進める予定としている。 また、最近、高齢者の権利擁護や虐待問題がクローズアップされている。今後、認知症の単身 世帯が増加すること等をふまえると、介護に加えて、欠落していく判断能力をどのようにして肩代 わりしていくかということが極めて重要なテーマとなる。ここがはっきりしないと、安心した老後が 保障されたことにならない。こうした権利擁護のための施策は簡単ではないが、今後すべての市 町村が取り組んでいく必要がある。介護保険法改正で創設される、「地域包括支援センター」にそ の役割が期待される。そこに配置される社会福祉士や主任ケアマネジャー、保健師がチームプレ ーで成年後見支援などの活動を行うようにしていくべきと考える。 認知症対策は大変であるが、先駆的な現場での取り組みのおかげで、可能性の光は見えてき ている。効率性に配慮しながら有効な取り組みを普遍化していくこと、住民皆の問題として位置づ け地域社会を巻き込んでいくことなどが、これから 10 年間の大きな目標であると考える。 4 シンポジウム1 −3 センターの平成 16 年度研究成果− 5 シンポジウム1 シンポジスト紹介 加藤 伸司(かとう しんじ) 氏 所 属: 社会福祉法人 東北福祉会 認知症介護研究・研修仙台センター 研究・研修部長 略 歴: 1979年 日本大学文理学部卒業 1982年 聖マリアンナ医科大学病院 神経精神科 1992年 札幌医療福祉専門学校 1993年 北海道医療大学 講師 そのご、助教授をへて教授 2001年より現職 東北福祉大学総合福祉学部 教授 臨床心理士 小長谷 陽子(こながや ようこ) 氏 所 属: 社会福祉法人 仁至会 認知症介護研究・研修大府センター 研究部長 略 歴: 1975 年 名古屋大学医学部卒業 1981年 奈良県立医科大学神経内科助手 1985年 米国メリーランド大学医学部神経内科留学 1987年 奈良県立医科大学神経内科助手 1992年 JR東海総合病院神経内科主任医長 JR東海総合病院副院長 2003年 大垣市民病院内科医長 2004年より現職 医学博士 日本神経学会専門医/日本内科学会認定医 6 永田 久美子(ながた くみこ) 氏 所 属: 社会福祉法人 浴風会 認知症介護研究・研修東京センター 主任研究主幹 略 歴: 看護学生時代に「ぼけ老人をかかえる家族の会」に出会い、以降、地域や病院、施 設で痴呆の人のケアの実践および調査研究活動を続けてきている。 1990年 東京都老人総合研究所 2000年8月より現職 上記3名の研究業績ならびに著書等につきましては、 3センターのホームページ「認知症介護情報ネットワーク(通称:DCnet)」 (URL:http://www.dcnet.gr.jp/)の各センター紹介にある「研究者情報」のページをご覧く ださい。 7 平成 16 年度 認知症介護研究・研修仙台センター研究事業 「認知症高齢者及び介護家族の生活の質の向上と維持に関する研究事業」 認知症介護研究・研修仙台センター 研究・研修部長 加藤 伸司 【はじめに】 「高齢者の尊厳ある暮し」を支えるためには、高齢者自身が健康で質の高い生活を送るこ とができるような要因を探ることが重要となる。そのためには介護予防や認知症予防の要因 を明らかにすることや、在宅や施設で生活する認知症高齢者や介護家族の生活の質の向 上を図ること、さらにそれを広く一般社会に普及していくことが重要である。仙台センターで は、研究成果を広く在宅や施設介護の現場に普及することを目的に、「認知症高齢者及び 介護家族の生活の質の向上と維持に関する研究」という大きなテーマを掲げ、「介護予防と 認知症予防に関する研究」、「在宅支援に関する研究」、「施設ケアに関する研究」の3つの 柱で研究を行った。 【研究成果の概要】 1.介護予防と認知症予防に関する研究 (1)加齢と健康に関する縦断研究の追跡調査 本研究は 2002 年に気仙沼大島の 55 歳以上の住民 1134 人を対象にした2年後の追跡 調査であり、847 人の協力が得られた。その結果地域住民の ADL の低下傾向や病気を有 している人の増加など加齢による経年変化がみられたが、趣味活動や地域活動への参加 者は増加しており、健康のための運動や昼寝の習慣など好ましい変化も認められた。 2.在宅支援に関する研究 (1)達成動機の視点による認知症者を介護している家族の介護態度 −認知症ケアにおける効果的な対象者理解の方略に関する研究(1)− 本研究は、在宅の介護家族の介護態度について、家族に対する聞き取り調査を行った研 究である。その結果介護者の精神健康状態との関連性は、社会的要因や身体的要因より も、対処行動結果に対する効力感や負担感など回答者の認知評価の方が、より明確に関 連していることが明らかとなった。 (2)認知症高齢者介護家族の相談ニーズに対する対応技術の開発 本研究は、訪問介護員の相談援助技術の向上をめざして行われた研究である。実際に は在宅介護者 187 人に対して相談ニーズを調査し、それをもとに訪問介護員の相談に対す 8 る対処法について検討した。その結果を「訪問介護員のここからはじめる認知症介護」とい う冊子にまとめ、関係機関に対して頒布した。 (3)介護家族と施設職員の相互参加による教育的支援プログラムの有効性に関する研究 本研究は、在宅介護者と介護職員の相互参加型の教育的支援プログラムを実施して評 価した研究事業であり、延べ人数で介護家族 139 人、施設職員 161 人、計 300 人が参加し た。実際には毎回短い講義の後に家族と職員によるディスカッションを行い、評価した。その 結果、介護家族、施設職員両者の対処スタイルがポジティブに変容することが示唆され、ス トレッサーの減少によるポジティブな対処行動への変容という参加効果が現れたことが示唆 された。 3.施設ケアに関する研究 (1)認知症高齢者の施設内での食生活の質の向上に関する研究 本研究では、認知症高齢者の望ましい食生活を探ることを目的に、グループホーム、介 護家族、施設職員、施設栄養士を対象に調査を行った。その結果認知症高齢者にとって食 事に集中できる環境作りが重要であることが明らかとなり、食事は明るく、落ち着いた雰囲 気が望まれていることが明らかとなった。 (2)認知症高齢者の口腔ケアに関する研究 本研究は、施設における口腔ケアに関する諸問題に対する認識と具体的対処を明らかに することを目的に 14 名に対して聞き取り調査を行ったものである。その結果、歯科衛生士の 常勤する施設では毎食後の口腔清掃が浸透し、習慣化されている特長がみられた。また認 知症の利用者に口腔ケアを拒否されることの指摘が多かったが、口腔ケアが食との関連で 介護者に認識されて取り組まれる必要があることが示唆された。 (3)介護経験年数の差による対応と視点の比較検討 −認知症ケアにおける効果的な対象者理解の方略に関する研究(2)− 本研究では、介護職員が考える適切な対応と視点を明らかにし、共通の認識を形成する ための手がかりを得ることを目的に、施設職員 113 人と介護実習の大学生 45 人に対して事 例を提示し、その対応と理由、根拠、使用情報、不足情報などに関する質問紙調査を行っ た。その結果、経験年数の長い人ほど多くの情報から長期的対応を導く傾向にあったが、介 護職員は利用者の生活上の課題に対する物理的な対処を、大学生は精神的安定と関係形 成の対応を挙げる傾向が認められた。 (4)小集団における認知症高齢者の関係形成に関する研究 本研究では、小規模・小集団の生活環境における認知症高齢者の関係形成過程を明ら かにすることを目的とし、VTRを用いてグループホームにおける認知症高齢者の相互作用 9 及びリビング内の滞在場所を観察し、入居後1ヶ月間の変化について検討を行った。その結 果1ヶ月間で入居者との相互作用時間と滞在時間に変化がみられ、小規模で、少人数な生 活環境は認知症高齢者の居場所確保や親密な関係の形成を短期間で促進する要因となる ことが示された。 (5)認知症介護におけるアクションケアプランの有効性に関する研究 本研究は、有効なアクションケアプランの指針を開発するためのものであり、8名の介護 職員の食事場面での介護行動を撮影し、その行動を他職員と研究者によって分析し、課題 となる行動を整理した。その結果 4 点の課題が個々の利用者の理解のもとに作成されるア クションケアプランによって変容可能な行動として整理された。その結果をもとにアクションケ アプランの様式のミニマム版を作成した。 【研究に対する倫理的配慮】 本研究のすべては、「認知症介護研究・研修仙台センター倫理審査委員会」において審査 され、倫理的な面について十分な検討と配慮が行われた。 10 平成 16 年度大府センター研究事業成果報告 「認知症高齢者の地域包括ケアシステム推進および尊厳維持に関する研究」 認知症介護研究・研修大府センター 研究部長 小長谷 陽子 【はじめに】 認知症高齢者およびそのケア、介護者に関する研究や調査はその成果が徐々に蓄積し つつある。大府センターでは、これまで認知症高齢者の個別ケアや尊厳維持、コミュニケー ション等について研究をしてきた。平成 16 年度は、新たに「大都市における地域システムつ くり」や「介入による変化の客観的指標」などを加え、認知症高齢者に対する総合的な視点 からの研究に着手した。 【研究成果】 「認知症高齢者の地域包括ケアシステム推進および尊厳維持に関する研究事業」では、 大都市の認知症高齢者を地域で支えるシステムづくりのモデル事業を行い、認知症の早期 発見、医療と福祉・介護の連携、家族や地域住民の認知症に対する理解を目的とした。医 療、看護、介護、社会福祉、行政の担当者や家族、住民等で世話人会を組織し、活動方針 や内容などを話し合い、合意を得て実行した。平成 16 年度は市民向けや介護の専門職向 け講演会、医師会向け講演会を行なった。「市民のための認知症ガイド」を作成し(資料)、 認知症を理解し、早期発見、早期治療、適切なケアについて市民の参考にしてもらうもので ある。また、本人用と家族用の「こころの健康度チェック表」をつけ、早期発見に利用できる ようにした。 「疾患別認知症ケアの評価に関する研究事業」ではアルツハイマー病(AD)以外に、レビ ー小体型認知症(DLB)や前方型認知症(前頭側頭型認知症ならびに意味性認知症)に対 するケア方法についての研究を行なった。DLB について疾患特有の看護、ケア方法や留意 点を整理し、その特徴を医療福祉従事者、介護者が熟知することは患者の QOL 向上に有 用である。疾患別の看護・ケアをするためには、正確な鑑別診断が重要となる。また、DLB の在宅介護破綻をきたす認知症の行動および心理症状(BPSD)の特徴を明らかにし、AD のケアとの違いを検討する。今年度は DLB と AD の鑑別を病理学的に検討した(資料)。 DLB の施設入所時の BPSD では、集中力の障害、速い動作の困難、感情鈍麻などが特徴 的であった。前方型認知症に対しては、そのケアに関する啓発用パンフレットを作成した。行 動異常、リハビリテーションの試み、疫学的データなどを元に、専門医、保健師、臨床心理 11 士、作業療法士、言語聴覚士、介護家族らで意見を集約した。前方型認知症のケアのポイ ントとして、(1)保たれている記憶機能を利用して介護者を固定し、なじみの関係をつくる、(2) 保たれている運動・知覚技能を用いて作業療法を導入、(3)行動異常を利用して作業や日 課を円滑にするなどが示された。 「認知症高齢者に対する介入による変化の客観的指標の検討、主に脳機能画像におけ る変化を中心に」では AD に対する、治療、介入の効果判定を客観的に行なうことを目的に、 脳機能画像を用いて、グループホーム入所者における変化を、認知機能や ADL との関係 を含めて検討した。グループホーム入所者と入所しないコントロールに FDG-PET を施行し 調査した。コントロールでは臨床症状、FDG-PET とも変化がなかった(資料)。入所者の介 入後の追跡は現在行なっている。 「簡易コミュニケーションスケール(軽症認知症)作成の試み」は、従来より、簡易コミュニ ケーションスケールを作成し、実施してきたが、介護施設から軽症認知症用のスケールの必 要性を指摘された。医師、臨床心理士、言語聴覚士により、対象者に負担を与えず、短時 間で施行でき、多くの検査道具を要しないことを条件に検討した。言語の理解能力、表出能 力、書字能力、読み能力、非言語的能力、心理的要素、知覚要素、文化的背景などを考慮 し作成した(資料)。 「認知症高齢者の Evidence Based Care―Basic ADL(摂食、排泄、コミュニケーション) の評価に基づくケアの変化―」は、認知症では病状に伴って、食事、排泄、コミュニケーショ ンなどの基本的 ADL が変化していくが、これに対して適切なケアが行なわれているかを検 討するのが目的である。施設入所の認知症 230 例で、小山田式痴呆(認知症)行動評価表、 食行動の異常とその対応:16 項目、排泄行動の異常とその対応:18 項目、言語コミュニケ ーション行動の異常とその対応:14 項目について研究協力者が直接調査した。排泄障害と 言語コミュニケーション障害では、比較的軽い時期から障害される行動と、重症にしかみら れない行動があった。食行動の障害は認知症の重症度に関係なく、<常に>あるいは<た まに>みられる障害がある。また、ケアの対応は障害の出現頻度によって決定していると考 えられた(資料)。 以上が大府センター独自の研究事業であるが、平成 16 年度は 3 センター共同研究事業 「認知症ケアにおけるリスクマネージメント」の 3 年目にあたり、認知症ケアの現場におけるリ スクとそのマネージメントに関して平成 14 年度からそれぞれ分担して行なってきた研究の成 果をまとめた。 大府センターの研究は、認知症高齢者の日常生活の中で発生する危険を回避して、安全 で快適な生活を送れるような介護をするため、病院や施設で行なうリスクマネージメントに関 12 するものや、誤嚥性肺炎の病態評価および予防のため、嚥下機能を客観的に評価して、そ の特徴から誤嚥性肺炎予防マニュアルを作成したことである。また、高齢者福祉施設におい て、ITソフト、すなわち介護記録コンピューターシステムを活用して、ケアスタッフの業務を省 力化し、これを用いてリスクを評価できるシステムを構築する試みをした。IT機器の有効的 かつ効率的な使用方法を検討するとともに、データからリスクを抽出する自動警告システム を開発した。また、徘徊についての調査を行い、その実態と対応が示された。 【まとめ】 以上、大府センターの平成 16 年度の研究成果の概要を記した。これらは 3 センターと協 力機関の研究者の努力でもたらされた。まだ十分とはいえない点もあり、これからも検証を 重ねていくべきである。しかし、認知症の自立支援、QOL や介護の質の向上に対し、少しず つ認識が深まってきた。これらの結果が介護の現場で有効に活用され、より良いケアに役 立つことを期待する。 13 平成16年度老人保健健康増進等事業 大府センター研究課題一覧表 ○事業名「痴呆性高齢者の地域包括ケアシステム推進および尊厳維持に関する研究事 業」 研 究 課 題 名 1 大都市における痴呆高齢者を地域で支えるシステムづくりモデル事業 2 疾患別痴呆ケアの評価に関する研究事業 所属名、役職名 主任研究者 認知症介護研究・研修大府センター センター長 (1) アルツハイマー病とレビー小体型痴呆のケアに関する研究 医療法人さわらび会福祉村病院 前院長 (2) 前頭側頭型痴呆のケア方法の確立と評価に関する研究 柴山 漠人 小阪 憲司 愛媛大学 医学部神経精神医学 助教授 池田 3 痴呆ケア研修の評価に関する研究事業 認知症介護研究・研修大府センター 可知 昭江 4 痴呆性高齢者に対する介入による変化の客観的指標の検討 ー主に脳機能画像における変化を中心にー 国立長寿医療センター アルツハイマー性痴呆科 医長 武田 章敬 5 簡易コミュニケーションスケール(軽度痴呆用)作成の試み 名古屋大学 医学部神経内科 川合 圭成 6 痴呆性高齢者のEvidence Based Care ーBasic ADL( 摂食、排泄、コミュニケーション)の評価に基づくケアの変化ー 名古屋大学 医学部保健学科 教授 杉村 公也 主任研修指導主幹 学 ○事業名「痴呆ケアにおけるリスクマネージメント(情報収集、評価、対応)に関する研究及び啓蒙普及事業」 研 究 課 題 名 7 所属名、役職名 主任研究者 痴呆ケアのリスクマネージメントと対応 −医療および介護においてー (1) 痴呆性高齢者における嚥下評価および対策指針作成に関する研究 国立長寿医療センター 骨・関節機能訓練科医長 長屋 政博 (2) 痴呆性高齢者のリスク因子に関する研究 国立長寿医療センター 看護部長 南 美知子 (3) IT機器を利用した情報管理に関する研究 名古屋大学 情報連携基盤センター 宮 尾 (4) 疾患別のリスク評価に関する研究 医療法人さわらび会福祉村病院 副院長 伊苅 弘之 小長谷 陽子 8 痴呆ケアのリスクマネージメントの啓発普及に関する事業 認知症介護研究・研修大府センター 9 徘徊への対応の現状と課題 ーAssessment of Motor and Process Skillsによる施設ケアー 名古屋大学 医学部保健学科 教授 研究部長 克 杉村 公也 ○事業名「日本における「パーソン・センタード・ケア(その人を中心とした介護)とDCM(痴呆介護マッピング)法」の研修・普及に関する研究事業 研 究 課 題 名 10 所属名、役職名 日本における「パーソン・センタード・ケア(その人を中心とした介護)とDCM (痴呆介護マッピング)法」の研修・普及に関する研究 14 一宮市立市民病院 今伊勢分院 老年精神科部長 主任研究者 水野 裕 東京センターの 16 年度研究成果 認知症介護研究・研修東京センター 主任研究主幹 永田 久美子 【はじめに:東京センターの 16 年度研究の特徴】 「その人中心のケア(person centered care)」の確立にむけて、現場とセンター内外の学 際的な研究者が一体となった研究を、東京センターでは開設以来めざしてきている。平成 16 年度は、センターが開設以来培ってきたケアの実践現場をフィールドに、認知症介護の 基本的研究から統合的な実証研究まで、図 1 に示すような大きく 4 つの柱で、計 17 の研究 が実施された。 平成 16 年度の研究の特徴としては、認知症の予防や本人と家族の早期支援からターミ ナルまで当事者本位の一貫したケアを確立していくために、医療や福祉の幅広い場や人材 を核にしながら、地域の多様な資源も対象とした研究が展開された点があげられる。 【研究の成果の全体像】 (○数字は研究番号:図 1 を参照) 1.認知症介護の基本的技術の開発と体系化に関する研究 「その人中心のケア」を実現するための核心、認知症の本人の自己選択・自己決定の支 援(研究①)や、本人本位のケアの継続的な展開(研究②)にむけた基本的介護技術が明ら かにされた。介護職自身が理念を築きながらケアを具体化していくための OJT のあり方に 関するモデルが開発された(研究③)。 2.家族から専門職まで人材育成に関する研修システムと教材開発に関する研究 各地域での人材育成の要になる認知症介護指導者を対象に、フォローアップ研修の教育 効果(研究④)や web 学習支援(研究⑤)が研究なされ、継続的な力量形成の方策が提案さ れた。軽度認知症段階の本人と家族を対象に心理教育プログラムの開発と検証が行われ た(研究⑥)。 3.地域での各種サービスのあり方とサービスの質の確保に関する研究 認知症の人の進行段階に応じて、早期発見・早期対応(研究⑦)、処遇困難例へのサービ ス(研究⑧)、転倒のリスクマネジメント(研究⑨)、医療依存度の高い認知症の人への介護 と医療の連携(研究⑩)に関して各個別研究が行われ、段階や課題に応じた適切なサービ スをケア関係者が行うための指針が得られた。 また、多様なサービスの場でのサービスのあり方やサービスの質の確保にむけて、在宅 15 介護支援センターの役割(研究⑪)、認知症の人が暮らす地域づくり(研究⑫)、認知症の人 と家族支援のボランティアの育成と活動(研究⑬、⑭)、グループホームのサービス評価の 活用と展開(⑮)、ユニットケア導入のための指針の開発と評価(⑯)に関して、現場での実 践的な研究が展開された。 4.認知症の人の統合的なケアの実証研究 認知症ケアの幅広い知識や技術を本人本位に統合しながら、関係者が力を合わせて継 続的なケアを展開していくためのケアマネジメントの方法として 3 センターが開発してきたセ ンター方式の有効性と適切性を検証する研究(研究⑰)が、仙台、大府センターの協力を得 ながら実施され以下のような結果を得た。 【研究成果の具体例:「痴呆性高齢者ケアマネジメントセンター方式推進事業」】 全国 16 のモデル地域で、介護予防からターミナルのケースまで 465 ケースが選定され、 そのケースを担当する 889 事業所(居宅系 693、居住系 196)が、ケアマネジャーを中心に チームを組んでセンター方式を 4 ヶ月間試行した。試行前後に、ケース担当者、介護家族を 対象に、有効性と適切性に関するアンケート調査を実施した。 その結果、どの地域でも、また認知症がどのステージでも、またどのようなサービス種別で あっても、それぞれ 8 割前後のケースでセンター方式を活用することによる効果が確認され、 センター方式を地域全体の共通方式としてできるだけ初期段階のケースから活用すること が効果的であることが示唆された。 対象の特性別では、激しい周辺症状やリロケーションダメージの危険があるケース、在宅 継続困難ケースなど認知症特有の課題を有するケースの場合に、プラスの変化が大きく、 他の利用者やスタッフへもプラスの波及効果が確認された。全対象者でなくとも、困難ケー ス一例から優先的にセンター方式を活用し、チームでケアの成果をだす成功体験を通して 主体的活用が広がることが確認された。家族に関しても、事業者との関係の向上、家族の 実情や要望の発信が高まる、本人本位の視点への転換などの多様なプラスの変化が確認 され、家族によるセンター方式活用の可能性が示唆された。 【今後の東京センターの研究のあり方】 認知症の名称変更を機に、認知症ケアに関する(研究)用語の見直しや、地域や現場の 優先順位を十分に考慮した段階的・発展的な研究計画、現場での実践や行政施策に反映 される研究成果を生むための研究デザイン等を現場の人々や学際的な研究者とともに検討 し、ケア現場や地域全体に「その人中心のケア」を確実に普及させていくことに貢献できる実 践的な研究成果を築いていく必要がある。 16 東京センター 平成16年度研究の全体図 1.痴呆介護の基本技術の開発と体系化に関する 研究 ①痴呆性高齢者の自己選択・自己決定を支援する介護技術の検 証研究(水野陽子:グループホームわかたけ) ②利用者本位の継続的痴呆ケアの実証的研究 (永田久美子:東京センター) ③介護専門職に対するOJTとしての事例検討による介護技術開発 事業(小野寺敦志:東京センター) 2.介護家族から専門職まで人材育成に関する 研修システムと教材開発に関する研究 ④痴呆介護指導者養成研修およびフォローアップ研修の教育効果に 関する研究事業(諏訪さゆり:東京センター) ⑤Web学習機能を使用した痴呆介護指導者学習支援事業 (阿部哲也:仙台センター) ⑥軽度痴呆性高齢者とその介護家族への心理教育的プログラムの 開発と検証(山口登:聖マリアンナ医科大学) 3.地域での各種サービスのあり方とサービスの 質の確保に関する研究 ⑦痴呆の早期発見と早期対応が及ぼす痴呆介護のあり方の変容に 関する研究(杉下和子:三重県立看護大学) ⑧痴呆性高齢者の処遇困難例に対する在宅介護サービスのあり方と 適切な介護、医療環境の設定に関する研究 (須貝佑一:東京センター) ⑨痴呆性高齢者のリスクマネジメント(須貝佑一:東京センター) ⑩医療依存度の高い痴呆性高齢者のケアにおける介護保険事業所 と医療機関との連携に関する研究事業(吉本照子:千葉大学) ⑪地域ケアにおける在宅介護支援センターの痴呆介護支援の役割に 関する研究(久松信夫:桜美林短期大学) ⑫痴呆性高齢者が暮らす地域づくりに関する研究 (木原孝久:住宅流福祉総合研究所) ⑬家族支援ボランティア養成研修講座プログラムの効果検証事業 (渡邉俊之:高崎健康福祉大学) ⑭痴呆性高齢者の外出支援のあり方とボランティアの育成・活用に関 する研究(是枝祥子:大妻女子大学) ⑮グループホームサービス評価の活用と展開 (杉山孝博:川崎幸クリニック) ⑯ユニットケア導入のための指針(施設の整備・運営とケアのあり方)の 開発・評価等に関する研究(秋葉都子:東京センター) ( )委員長 17 4.認知症の人の総合的 ケアの実証研究 ⑰痴呆性高齢者ケアマネジメント推進 モデル事業 (井形昭弘:名古屋学芸大学) シンポジウム 2 ―認知症ケアとこれからの人材育成― 18 シンポジウム 2 犬塚 所 統(いぬづか 属: おさむ) シンポジスト紹介 氏 熊本県健康福祉部高齢者支援総室 主任主事 略 歴: 1993 年:立命館大学産業社会学部卒業 1995 年:熊本県庁入庁 熊本県阿蘇事務所総務振興課/全国身体障害者スポーツ大会推進室/ 熊本県土木部新幹線八代事務所/熊本県土木部新幹線熊本事務所/高 齢者支援総室 伊藤 所 妙(いとう 属: たえ) 社会福祉法人 氏 青山里会 小山田グループホーム 管理者 略 歴: 1986 年 3 月 社会福祉法人青山里会入社 1990 年 2 月 介護福祉士修得 1994 年 4 月 寮母主任就任 1995 年 4 月 特養部門ケアワーカー次長就任 2005 年 6 月 特養・グループホーム統括副部長就任 19 大久保 所 属: 幸積(おおくぼ 社会福祉法人 ゆきつむ) 氏 幸清会 総合施設長 略 歴:(所属施設職員による紹介です) 最近、眼鏡を外さなければ、字が見えない、ワインから芋焼酎へ嗜好も変わった上、 おなかの肉もたるみ、ふと気がつけば、半世紀。 「アレ」 ・ 「コレ」と代名詞が多くなっ たような気も・・・?再びテニスでも始めようか、いやいや旅行に行こうか・・・こ んな多趣味でじっとしていられない私の想いが叶う施設づくりを目指し奔走した− 2004 年夏。 運動不足が気になり、冬の北海道を満喫しようとスタッフを誘い、いざスキーツア ーへ。10本は滑れるかと思いきや、寒さと疲れで3本で終了。でも華麗なスキー姿 にスタッフはうっとりしたに違いない。暖炉の前でスタッフの滑りを窓から眺め「若 いっていいなあ」とつぶやいた−2004 年冬。 まだ肌寒い北海道、テニスの時期にはまだ遠く、南半球はどうなっているんだろう? と思い、休暇をとりスタッフに連れられオーストラリアへ。郷に入れば郷に従えとワ イン三昧。スタッフにせがまれるままワイナリーをはしごする。ワインにステーキ・・・ etc おなかはたるみからでっぱりへ。若い若いと思っていたが、私の体は正直だ。 中年太りへまっしぐらの−2005 年春。 2005 年夏の私−相変わらず、私は「施設長、少しは施設にいたらどうですか?」 と言われているだろう。だが、スタッフを信用し任せることができるから、これから も認知症ケア向上のため微力だが協力したいと思っている。 2005 年秋の私−この頃私は旅行を考える時期だろう。気がつけば毎年この時期に 旅行のことを考えている(いや、常にかもしれないが・・・)。 〜つぶやき〜 ・・・大好きな旅行に行き、好きなことをして自分らしく毎日を送れている今だが、この リズムが乱された時、私はどうなるのだろう?やはり習慣は大切なことだ。将来私を ケアするスタッフのためにこのプロフィールは大切に保管しておこう!!・・・ (作成者:幸豊ハイツ 20 船津・吉田) 熊本県における認知症介護研修の取り組みについて 〜ユニバーサルデザインとパートナーシップの視点から〜 熊本県健康福祉部高齢者支援総室 主任主事 犬塚 統 熊本県では、「ユニバーサルデザイン」と「パートナーシップ」という考え方を県政の柱とし、 21 世紀の新しい熊本づくりに取り組んでいる。 熊本県における「ユニバーサルデザイン」(以下「UD」という。)とは、「すべての人が暮らし やすい社会を形成すること」と位置づけている。つまり、男性や女性、或いは子供や高齢者、 障害のある無し、そのようなことに一切関係せず、全ての人が暮らしたいと思う地域で、快適 にかつ安全に社会と関わりを持ちながら、自立して暮らせる社会の形成を目標とする理念を 表している。 もう一つ、「パートナーシップ」(以下「PS」という。)とは、行政だけでなく、県民、企業、学校、 ボランティア団体等々、様々な主体が互いの主体性や特性を尊重し合いながら、協働・連携 し、より良いものを創りあげていこうという「考え方」のことである。 熊本県では、PSを大切にしていくことにより、UDの精神に溢れた地域社会、すなわち一 人一人の個性が大切にされ、誰もが暮らしやすい社会の実現に向け、諸施策に取り組んで いる。 これら県政推進の基本的な視点に立ったとき、認知症高齢者の方が、尊厳を持って、最期 までその人らしく安心して生活を送ることができる環境を整備していくことは、熊本県が目指 すUD社会の実現に欠かすことのできない重要な取り組みと考えている。 そのためには、行政だけでなく、介護保険施設・事業者等に従事する専門職を始めとする 地域の人々とのPSが欠かせないと認識している。 その意味において、認知症介護研修は介護保険施設や事業者等とのPSを築くうえで大 変貴重な機会であり、またUD社会を実現していくうえで、極めて大きな役割を担うものと考 えている。 従って、この研修修了者には、現場における認知症介護のケアの質の向上は勿論、認知 症の正しい理解の普及など地域における幅広い役割も期待している。 これまでの実績は、平成 13 年度から平成 16 年度までの 4 年間で、認知症介護指導者 9 人、基礎課程修了者 1,023 人、専門課程修了者 211 人である。 21 この研修を行うにあたり、熊本県における特徴的な取り組みの一つは、カリキュラム編成 や講義内容の決定について、全ての認知症介護指導者が直接関わっていることである。中 でも、基礎課程や専門課程の最終日に毎回欠かさず実施している県担当者と認知症介護 指導者、さらに研修の受託施設を交えた意見交換は、次回に向けての修正点を話し合うほ か、相互のコミュニケーションを図る場としても大変有効なものとなっている。 特徴のもう一つは、基礎課程修了者を対象としたフォローアップ研修の実施である。きっ かけは、県の担当者が事業所の指導監査に出向いた際、研修の成果が必ずしも十分に生 かされていないのではないかと感じたことからである。 やはり研修は現場で生かされてこそはじめて成果があったといえる。 そこで、平成 15 年度から基礎課程修了者を対象に、認知症介護に関する最新情報の提 供などを通して、モチベーションの維持向上を図り、研修の成果をより多く現場に反映しても らえるよう、年 1 回ではあるがフォローアップ研修として講演会やシンポジウムの開催を始め たところである。 また、一方で研修の成果が具体的な姿として現れてきたものもある。 平成 13 年度と平成 14 年度の専門課程の修了者が中心となって、本年 3 月NPO法人を 設立し、県内各地で介護職員に対する勉強会の開催や認知症高齢者をかかえる家族の方 からの電話相談を受けるなど、活発に活動を始めたことである。このことは、PSという観点 から、大変有意義なことであり、熊本県としてもこのようなNPOとの連携を大切にしていくこ とが重要だと感じている。 最後に、この研修が認知症高齢者の方にとって、ひいては私たちの生活にとって実り多 いものとなるよう、今後とも認知症介護指導者をはじめ関係する多くの方々とのPSを大切に しながら、より質の高い効果的な施策の推進に尽力していきたいと考えている。 22 認知症高齢者から学ぶ介護研修について 〜On the Job Training(OJT)の中で〜 小山田グループホーム 管理者 伊藤 妙 【はじめに】 私どもの施設は、三重県四日市市の北西部にあり周囲には茶畑が広がり自然環境には 恵まれた場所であるが、一方では、繁華街もなく利用者が楽しめる場所としては寂しい場所 となる。 しかし、同一敷地内には介護老人福祉施設や介護老人保健施設など同法人が運営する事 業所があり、隣接し同理事長の経営する病院がありと、まさに医療と福祉の連携がとれる複 合施設であり、利用者をはじめご家族にとっても安心できる環境がある。 【認知症の介護について】 今日では、認知症介護として情緒安定を保つような介護が必要で、一般的には受容的な 介護であり、傾聴する・ペースに合わせるなどその人に寄り添うケアである。さらには、それ がチームケアによって科学的な分析をされて介護に当たることが重要であるといわれてい る。 当施設における認知症介護に関しては、昭和50年初頭より取り組みを始め、日々の介 護の中で検討を重ね、その結果認知症高齢者と認知症を有しない高齢者を一緒に介護す るのではなく、等質集団に対する専門的なケアが提供できる環境が必要と考え、認知症高 齢者専用の介護施設として昭和56年に第二小山田特別養護老人ホームの開設へと繋が った経緯がある。それから約20余年、試行錯誤の連続ながら認知症ケア専門に取り組んで きた。基本的に情緒的な安定を図ることが行動障害の減少に繋がる、また種々の行動障害 についてはその背景、原因を追求し、可能な限り科学的な分析に基づいた介護が如何に重 要であるか、さらには より質の高いケアの提供、専門的なケアの必要性を求めていくと、最終的には、認知症介護 に携わる人材育成が非常に大きな課題であるという所に到達する。 三重県においても昭和60年頃より「痴呆介護技術研修」という名称で基礎的な講義およ び2週間の指定施設での実習等、現任者を対象に県主催で研修事業が実施され、現在でも、 「認知症介護技術研修」ということで基礎課程および専門課程として継続している。認知症 23 対応型共同生活介護であるグループホームの管理者には「必修研修」として位置づけもさ れている。 しかし、これらの研修は基礎的な知識は習得できるものの実践において行動障害の科学 的な分析、またそれに基づくケアの提供といった面においては必ずしも効果があるとは言い 難い。ある一定期間の研修のため仕方のない部分もあるものの一度きりの研修ではなく、 実践に生かしていくためには、継続的に各々のレベルに対応したフォローアップ研修として の位置づけが今後必要であると考えられる。 シンポジウム当日には、受講者にとって、その研修が実際の介護現場ではどのような効果 をもたらしているのかを自己評価および同法人内で研修を受講したスタッフにアンケート形 式で調べたものも含めて意見を述べさせて頂きたいと考えている。 24 認知症ケアとこれからの人材育成 社会福祉法人幸清会・幸豊ハイツ 総合施設長 大久保 幸積 【はじめに】 「自ら考え、判断し、自発的に動く」介護スタッフを育成するためには、スーパーバイザーあ るいは介護リーダーの的確な助言・指導が欠かせない。しかしながら、介護の現場からは、 「どのように指導すればよいのかわからない」「さまざまな場面で上手く助言することができな い」といった声が多く聞かれる。 スーパーバイザーとは、本来「監督する」という意味を持ち、介護の現場では「後輩を先輩 が指導する」用語として使用されている。介護の現場では、人材育成の手段としてOJTが多 く用いられているが、あらゆる場面でスーパーバイズが必要である。 スーパービジョンによる人材育成の必要性は、①情報を集め、まとめ、分析しながら利用 者の状態が理解できるようになる。②客観的な洞察力を養い、利用者にとって適切なケアが できるようになる。③利用者とスタッフ、スタッフ同士の信頼関係を気づけるようになる。④認 知症ケアの知識・技術を具体的に実践できるようになる。⑤仕事の達成と継続に伴う困難を 乗り越えられるようになる(バーンアウトの防止)。これらによって組織が活性化すると考える からである。以下、幸豊ハイツでスーパービジョンの理解を図る時の流れと内容を報告す る。 1.スーパービジョンの定義を理解してもらう。 スーパービジョンとは「方法や技法、すなわちスキルに関する自己盲点に気づかせる」こと である。つまり、「あなたは利用者と会話を持つ時に、利用者に「閉じた質問」ばかりだったが、 何か理由があったの?」と投げかけることで、自分の面接の「傾向・癖」に気づくこともある。 自分のやり方を外から離れて見るという機会はなかなかない。面接でも指導でも、何年経験 を重ねても、自分の盲点に気づかないかぎりは、腕は上がらないことを理解してもらう。 2.スーパービジョンの 3 つの機能を理解してもらう。 スーパービジョンには、3 つの機能があり、管理的機能とは、スーパーバイジーの業務遂行 に必要な知識や技術を把握したり、業務分担を確認したり、書類の管理を行うなどの管理的 な機能で、スーパーバイジーに対する、よりよい援助と利用者に対する責任を果たし、スー 25 パーバイジーを専門家として成長させる目的を持っていること。 また、教育的機能には、業務遂行上に必要な知識や技術を「教える」機能があり、スーパ ービジョンの過程を通して、スーパーバイジーに必要な組織運営や会議の持ち方、記録の 仕方や援助計画の立て方などを具体的に教えることを目的にしている。そして、それらの能 力や技術の向上のための「訓練」する機能も含まれていること。 さらに、支持的機能には、援助者のストレスや燃え尽きに焦点を当て、援助者自身の悩み や不安などの障害を解消し、除去することにより精神面を支えることを目的としていることを 説明し、そして、スーパーバイザーには、これら 3 つの機能を効果的に用いることのできる技 術と能力が求められることの理解を図る。 3.スーパービジョンの具体的な方法を理解してもらう。 大別して個人スーパービジョンとグループ・スーパービジョンがあることを理解してもらう。 個人スーパービジョンは、スーパーバイザーとスーパーバイジーの1対 1 の個別的な関係に よって行われるスーパービジョンであり、一方のグループ・スーパービジョンは、数人でスー パーバイザー(指導者)につく形態であること。個人スーパービジョンは、スーパーバイザー の必要に応じて、定期的あるいは随時に行われ、きめ細かな教育や指導を受けることがで きること。特に、新任スタッフにとっては定期的に行われるスーパービジョンが効果的であり、 随時に行われるスーパービジョンは、中堅やベテランのスタッフにとって有効な方法と理解し てもらう。 グループ・スーパービジョンは、スーパーバイジーの問題をスーパーバイザーとその問題 を抱えるスーパーバイジーだけで検討するのではなく、そのグループのスーパーバイジー間 でも行い、お互いの相互作用を活用する方法で、スーパーバイジーの問題に対する示唆や 援助をスーパーバイザーからだけではなく、グループメンバーから多様に得られることができ、 メンバー相互に自己啓発できるといったメリットがあることを理解してもらう。 4.スーパーバイザーの役割を理解してもらう。 「組織は、人なり」と言うが、その「人」に、いかに「やる気」を与えるかがとても重要になる。 スーパーバイザーは、「人」には無限の可能性があることを前提に、スタッフの無限の可能 性を引き出し、気づかせることによって、やる気を発揮することができるように働きかけること を理解してもらう。 職場においては、尊敬する先輩の助言によって色々なことに気づかされ、適切な指示に よって目を開かせられたり、専門職として自分を育てられたりした経験は少なくない。職場の 26 先輩やリーダーは、スーパーバイザーとして意識しながら、スタッフの人格を十分に認め、ス ーパービジョンによってスタッフの心理的負担感や、極度の緊張、あるいは自己の価値観と の矛盾などを整理しながら、スタッフ自身が気づいていない「自己盲点」や「仕事のしかた」 の改善を促すという役割を担っていること。スタッフと職場が円滑な関係を保つことができる ように調整することは、スーパーバイザーの重要な役割であることを理解してもらう。 5.事例を通して演習で学ぶ さまざまな事例を基に、事例検討しながらスーパービジョンのあり方を学ぶ(事例内容につ いては、別紙参照) 【おわりに】 人が育つということは、社会人として人間として育つことが大切であり、単なる知識や技 術・経験が増えるだけではない。幸豊ハイツにおける人材育成のポイントは、相手をどう変 えるかではなく、すべて自分自身がどのような考え方で、どのような行動をとるかを重視して いる。つまり、「相手を変えたければ、自分を変えればよい」ということになる。人を育てたけ れば、自分が育つ姿を見せることが大切である。人は、育てたように育つもので、一人で育 つものではない。「相手が自分を信頼しないのは、自分が相手を信頼してこなかったからか もしれない。そして、相手がそうしているのは、自分がそうしてきたからかもしれない。周りに いる相手は、自分自身の鏡である」と捉えるようにする。 スーパーバイザーとして身につけなればならない能力とは、自分を変えることの大切さに 気づくかどうかである。だから、人が育たないすべての原因は、育てようとする人自身の側に あると考えることが必要である。つまり、尊敬している人の前ではやる気が出るだろうし、尊 敬に値しない人の前ではやる気もなくなる。信頼されること、尊敬されることが、スーパーバ イザーには不可欠である。相手の行動や成長は、自分のレベルなのである。スタッフの前で、 「自分自身が見本になること」を基本に研修を行っている。 27
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