マーケットウィークリー・898号 産業ニュース 2016.11.4 3D-NANDの需要増がけん引するSPE業界 作成者:兵藤三郎 決算で注目度の高 い半導体製造装置 業界 17.3期・第2四半期の決算発表が佳境に入る。対前年同期との比較では大きく円 高に振れており、輸出産業型の産業構造の製造業には厳しい経営環境にあり、期 初の業績予想を下方修正するメーカーも多い。その中で注目されているのが半導 体製造装置メーカーで、強い受注環境を背景に、好業績が期待されている。9月20 日に発表された、半導体製造装置のBBレシオ(3カ月移動平均の受注額を同販売 額で割った値)は9カ月連続で需要超過となった。9月のBBレシオは0.98だが、 中間決算末に装置の販売額が急増したためで、受注額は1,298億円(前年同期比約 1.5倍)と高水準をキープしている。台湾・韓国等での積極的な投資は継続してい る模様。また多くの企業が、期初の受注の強さが継続するとは考えず、保守的に 計画を立案しており、業績の上方修正期待の高い業界である。 1Qで過半が上方 修正、2Qでも更 なる上方修正へ 半導体製造装置メーカーでは、大手7社のうち東エレク(8035)、スクリン(7735)、 ディスコ(6146)、日立ハイテク(8036)の4社が既に、第1四半期決算発表時に 業績予想の上方修正を行った。4-6月期には投資一巡で減少を予想していた装置受 注は、一転高水準が継続している。半導体製造装置は受注から売上計上までに数 カ月程度を要するため、中間期における市況見通しや受注残等は業績を予想する 上で重要な指標となろう。10月28日現在、東エレク、日立ハイテク、日立国際 (6756)、アドバンテ(6857)の4社が中間決算の発表を済ませた。4社共に通期 業績を上方修正し、半導体製造装置メーカーへの期待は高まった。 旺盛な投資意欲が 背景に。テクノロ ジー変化も寄与 上方修正要因は受注の堅調推移で、背景にはメモリーの需要増に伴うメーカー 側の旺盛な投資意欲が挙げられよう。大手メーカーが、設備投資増強や計画の前 倒しの動きを見せている。従来の投資の多くは、半導体回路の微細化で、生産の 効率化を目指すものが中心だが、昨今では立体構造化へとテクノロジーが変化し ている。今回の産業ニュースはフラッシュメモリーを立体構造化させ容量の増強 を図る3D-NANDに焦点を当て、その影響等を考察してみた。 ◇半導体の分類・種類等 大分類 ディスクリート IC (集積回路) 小分類 個別半導体 ロジック メモリー 種類等 ダイオード、トランジスタ等 CPU,マイコン等 DRAM,NAND等 (出所)CAM作成 NANDの需要は データ通信量増大 がけん引 半導体は大きく上記のように分類される。中でも金額・数量等で注目度が高い のが記憶素子とも呼ばれるメモリーの領域。メモリーは、電源が切れるとデータ も消去されるDRAM(PC等の作業領域等で使われる)と、電源が切れてもデ ータが残るNAND(NAND型フラッシュメモリー、スマホ等のデータ記憶装 置として使われる)に分かれる。特にNANDは、スマホの普及拡大、さらに一 人当たりのデータ通信量増大が、需要増をけん引してきた。 中国メーカーの調 達強化で不足感拡 大 スマホは高機能化に伴い、メモリー容量が増加している。さらに足元では、サ ムスン「ギャラクシーノート7」の販売打ち切りで、競合する中国スマホメーカー がNANDの調達を強化している模様。NANDの不足感はさらに高まった。 マーケットウィークリー・898号 2016.11.4 HDD代替が可 能、データセンタ ー向け需要拡大 足元では、データセンター向けの需要も拡大している。従来はサーバーの記憶 装置はHDDが担ってきたが、NANDの容量の増強に伴い置き換えが可能とな った。NANDの活用でデータ処理等が高速化される。HDD用のモータに係る 電気代の削減、モータが発生させる熱を冷やす電力も不要と省電力化にも貢献す る。NANDの量産、高容量化により、HDD代替も価格面を含め可能となりつ つある。 微細化への難度上 昇、立体化でムー アの法則達成へ 半導体の世界にはムーアの法則なるものがある。インテルの創業者の一人、ゴ ードン・ムーアが提唱した、「1チップ上のトランジスタの数は、18カ月毎に倍増 される」というもので、回路線幅の微細化により現在まで概ね達成されてきた。 NANDはその構造上、微細化が最も進んでいたが、技術難易度が高まりさらな る微細化によるコストメリットの享受が難しくなった。この課題の解の一つが回 路の立体化・3D-NANDであろう。 64層でサムスン先 行、東芝が追随し 17年に量産移行 3D-NANDは半導体チップ上にセル(情報を記憶させる回路)を積層させ、 電極を貫通させることで一枚当たりの情報記憶量を増加させる方式。先行する韓 国サムスンが48層(第3世代)の量産に成功、年内に64層(第4世代)に積み上げ 量産化を目指し、現在歩留まりの改善に取り組んでいる状況。2番手メーカーの東 芝(6502)は64層のサンプル出荷を開始しており、17年に量産移行を目指す。 データセンターオ ールフラッシュ化 も可能 サムスンが16年に量産入りした第3世代の3D-NANDは、記憶容量が256ギガ ビット。第4世代に移行で、容量は1.5倍に、将来的には100以上の積層も可能とな る。データセンターサーバーのオールフラッシュ化も可能となろう。その需要を 補うため大手メモリーメーカーの新工場建設投資が続いている。 成膜、貫通電極作 成、洗浄工程の増 加が見込まれる 従来の製造方法との違いでは、成膜工程が増え膜種も多様化し、貫通電極の作 成なども加わる。積層するため、ウェーハの薄化・平坦化も求められる。工程の 複雑化に伴い洗浄工程も増加する。成膜装置、エッチング装置、洗浄装置などへ の需要が増加している。関連銘柄は成膜、エッチングで東エレク、日立ハイテク、 日立国際、洗浄装置でスクリン、ウェーハ薄化ではグラインダーのディスコが挙 げられよう。3D-NANDでは積層したセルに電極を貫通させる必要があり、高 度な位置合わせ技術が求められる。測長SEM(ウェーハ上のパターン等計測装 置)大手の日立ハイテクはこの面でもメリットがあろう。 従来型の投資も活 況、後半戦の決算 発表にも注目 半導体メーカーの投資需要は3D-NANDだけに限られていない。従来のNA ND投資も活発、中国での国家戦略としての半導体産業育成策、ソニー(6758) のCMOSセンサー投資等も見込めよう。半導体製造装置メーカーのこれからの 決算発表にも注目していきたい。ちなみにスクリンとディスコは11月7日、ニコン (7731)は11月8日、東京精密は11月11日を予定。 ◇関連銘柄の株価指標とコメント (単位:円、倍) 銘柄 コード 株価 PER コメント ディスコ 6146 12,540 21.0 研磨装置大手、半導体生産量増加で消耗品の販売増期待 東芝 6502 379.1 16.0 大手NANDメーカー、17年に64層量産でサムスンに肉薄 日立国際 6756 2,033 24.6 大手メーカーで成膜装置採用進む スクリン 7735 6,760 15.6 洗浄装置大手、メモリーで最大手への食い込みを図る 東エレク 8035 9,054 14.9 国内最大手半導体製造装置メーカー、成膜装置に注力 日立ハイテク 8036 4,330 16.8 測長SEMの大手、エッチャー需要増も業績貢献期待 (注)株価は10月28日の終値、PERは今期予想 (出所)各社資料等よりCAM作成
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