コンテンツ配信の効率化に向けた サービスプロバイダの接続トポロジーの

コンテンツ配信の効率化に向けた
サービスプロバイダの接続トポロジーの解析 Topology Analysis of Service Providers for Efficient Contents Delivery
石橋尚武
Hisatake Ishibashi
浅井大史
Hirochika Asai
江崎浩
Hiroshi Esaki
東京大学
The University of Tokyo
概要
インターネット上での大容量コンテンツの配布に最適
化されたコンテンツデリバリーネットワークや動画投
稿サイトなどのコンテンツプロバイダを起点とするトラ
フィック量が増加している.従来はトラフィックの起点が
様々なネットワークプロバイダに分散していたが,この
ような大容量トラフィックの起点が一部のインターネッ
トサービスプロバイダに集中したことで,近年では ISP
のトポロジー構造が変化していることが指摘されている.
しかし,一部の ISP へのトラフィックの集中は,少数の
障害点がインターネット全体に大きく影響する可能性が
あるなど,ネットワークの信頼性という点で問題である.
また,ネットワークプロバイダ間のビジネスモデルはト
ラフィック量に基づいているため,トラフィックの起点
の偏在は経済的な理由からも問題である.このようなト
ラフィックの集中・偏在という問題を解決したコンテン
ツ配信の実現を目的とし,本論文では実インターネット
上の経路情報および AS 間の推定接続関係情報を解析す
ることで現状のインターネットトポロジーの問題分析を
行う.この解析により,大規模な ISP がピアリングを切
断するデピアと呼ばれる減少を確認する.
はじめに
動画配信サービスなどの普及により, 少数のコンテン
ツプロバイダ (CP : Contents Provider) 及び,コンテ
ンツデリバリネットワーク (CDN : Contents Delivery
Network) を起点とするトラフィックには増加の傾向が
見られる [6].このトラフィックの増加を受け,インター
ネットのトポロジー及び,トラフィックの交換状況に変化
が見られる.変化には大きく分けて 2 つの傾向があると
言われている.1) CP, CDN が世界中に分散しサーバを
置くことによって,インターネットエクスチェンジ (IX :
Internet Exchange point) を通じて数多くのインタネッ
トサービスプロバイダ (ISP : Internet Service Provider)
とピア契約を結ぶ傾向が見られている.2) 大手 ISP への
CP の集中が原因で,少数の大手 ISP からのトラフィッ
ク量が増加し,大手 ISP と小規模 ISP 間でのトラフィッ
ク交換状況に変化が見られる.
2) で述べている ISP 間でのトラフィックの交換比率の
変化は,ISP 間での接続関係の変化を発生させる傾向が
強い.具体的には ISP 同士が結ぶリンクに対し流すトラ
フィック量の差に開きが出てくると,より多くリンクを
流している ISP は接続性の提供として,もう一方の ISP
1
に対し課金を始めるといった変化が起こる.
上述したネットワークプロバイダ間で交換されるトラ
フィック量およびインターネットトポロジーの変化を把
握し,分析・評価するためには,インターネット上を流
れるトラフィック量を網羅的に計測する必要がある.し
かし,以下の理由により実際にトラフィックを計測する
ことは困難である.
1) 各リンクに流れるトラフィック量はリンクを結ぶ
ISP 間でしか計測出来きない.
2) 契約上の制約により各 ISP はそれぞれが各リンク
に流すトラフィック量を公開することは出来ない.
3) トラフィック量の計測が可能であったとしても,通
信の秘密などの法律によりトラフィックの起点およ
び宛先毎に集計することが禁止されている.
そのために上記で述べた CP の大手 ISP への集中の状況
を知るためには,ISP 間の接続関係の変化に基づく解析
が必要である.
トポロジーの変化は実トラフィックの変化に起因して
いるため,シミュレーションによる評価は困難であるた
め,本研究では,実インターネット上で計測した経路情
報を解析する.実際の BGP ルーティングテーブルに記
録されている経路データをもとに,世界全体における
ISP 間の接続関係の変化の解析を行った,
2 背景技術及び関連技術
2.1 インタードメインでの経路制御技術
インターネットは自律システム(AS : Autonomous
System)と呼ばれる,単一の運営ポリシーを持つ大学や
企業(ISP)などが運営するネットワークが相互に接続
することによって構成されている.各 AS 同士が結ぶリ
ンクは経済的な経路交換のポリシーに基づきトランジッ
トリンク,ピアリングリンク,シブリングリンクの 3 つ
に分類される.
トランジットリンク リンクを結ぶ 2 つの AS 間で課金
が行われているリンクをトランジットリンクと呼ぶ.課
金を行う AS をプロバイダ AS と呼び,課金される AS を
カスタマ AS と呼ぶ.リンクに対しより多くのトラフィッ
クを流す AS がもう一方の AS に対して課金を行うといっ
た場合がほとんどである.
ピアリングリンク リンクを結ぶ AS 間で金銭のやりと
りが無いリンクをピアリングリンクと呼ぶ.ピアリング
を結ぶ 2 つの AS 間に流れるトラフィック量は双方向で
同程度である傾向が強い.
シブリングリンク 同一組織が複数 AS を持つ場合があ
り,その AS 同士が結ぶリンクの事をシブリングリンク
と呼ぶ.同一組織がリンクを結んでいるために,リンク
を結ぶ AS 間では金銭の支払が行われることは無い.
インターネット上で利用される IP アドレス,AS 番
号等の標準化や割り当てを行っている組織に Internet
Assigned Number Authority(IANA) がある.実際には
IANA は地域インターネットレジストリ (RIR : Regional
Internet Registry) に, インターネットサービスプロバイ
ダへの IP アドレス及び AS 番号の割り当ての委託をし
ている.RIR の中にはさらに国別インタネットレジスト
リ (NIR : National Internet Registry) に割り当てを委
託しているものもある.RIR は地域ごとに 5 つの組織が
あり,以下に記した.括弧内に記した地域の IP アドレ
ス及び AS 番号の割り当てを受け持っている.
・APNIC (アジア太平洋地域)
・ARIN (北米地域)
・RIPE NCC (欧州地域)
・LACNIC (中南米地域)
・AfriNIC (アフリカ地域)
各 AS に対しどの RIR より番号の割り当てが行われ
たかを調べることによって各 AS のおおよその地域性を
特定することが可能である.
インタードメインにおいて,AS 同士が経路交換を行う
際に用いられている Border Gateway Protocol(BGP)[4]
と呼ばれるルーティングプロトコルに基づき行われてい
る.BGP はポリシールーティングとも呼ばれ,単純に
最短経路を選択しない.また隣接する AS が結ぶ接続関
係により,広告する経路を変更している.
同一宛先に対し広告されてきた経路が複数ある際は,
広告元 AS がカスタマ,ピア,プロバイダの順で優先度
を高く設定し,優先度が高いものを選択する.優先度が
同等の経路が存在する場合は最短経路長をもつ経路を選
択する,最短経路も同等の場合は,広告元の AS 番号の
小さい経路を選択する.隣接する AS がプロバイダとピ
アの際は,自身の持つ経路のうち,カスタマとシブリン
グ経路のみを広告する.一方,隣接する AS がカスタマ
とシブリングの際は,自身の持つ経路全てを広告する.
上述した経路選択,経路広告の原理は,カスタマ AS が
プロバイダ AS からトラフィック量を少なくし,プロバ
イダ AS に対する課金額を少なくするといったポリシー
に基づいている.
最短経路の選択及び同一 AS に対し複数経路持つ際
の経路選択には属性 (attribute) が使用される.表 1 に
attribute のうち主要なものを示す.
ポリシールーティングによって,インタードメインは,
バレーフリー構造をとる.バレーフリー(Valley-Free)
構造 [10] とは,プロバイダからカスタマへ,もしくはピ
アリング同士のリンクへ一度でもトラフィックへ流れる
と,そのトラフィックはその後カスタマからプロバイダ
へのリンクとピアリング同士のリンクを通過することが
できない構造である.図 1 にバレーフリー構造に関する
具体例を示す.AS6 からの経路広告を考える.
1)AS6 は AS3 に対し自身の経路を広告する.
2)AS3 は AS1(プロバイダ AS),AS4(ピア AS) に対
し AS6(カスタマ AS) の経路を広告する.
3)AS1 は AS2(ピア AS) に対しては AS3(ピア AS) よ
り広告された経路は公告しない.AS4(カスタマ AS)
にのみ広告する.
4)AS4 は AS7(カスタマ AS) に対し AS3(ピア AS),
AS1(プロバイダ AS) からの経路の内,選択した経路
を広告する.AS5(ピア AS) に対しては経路は広告し
ない.
以上の経路広告より,AS5 → AS4 → AS1 → AS3 →
AS6,AS5 → AS4 → AS3 → AS6,といった経路は存在
しない.
ピアの関係にある AS は,その AS 同士が結ぶリンク
に対し流れるトラフィック量の差は大きくない傾向がみ
られる.しかし,トポロジーの変化等によりリンクに流
れるトラフィック量に変化が生じ,トラフィック量の差
に開きが出てきた時により多くそのリンクにトラフィッ
クを流すようになった AS は,もう一方の AS に対し現
在ピアとしている結んでいるリンクをトランジットへと
変更するもしくはリンク自体の切断を行う.本論文では,
トラフィック量に開きが出てきたことにより,ピアをト
ランジットに変更すること及びピアの切断を行う事をデ
ピアと定義する.
2.2 関連研究
AS 同士のリンクでの接続関係はトランジットリンク,
ピアリングリンク,シブリングリンクの 3 種類があるが,
この接続関係は課金関係と直結しており契約のために公
開されることは稀である.そのため,実インターネット
上の BGP ルーティングテーブル等をもとに接続関係を
推定する研究が行われている.
Gao による推定手法 Gao[9] による推定手法は,各 AS
の次数に基づいた手法である.BGP ルーティングテー
ブルから取得された経路情報をもとに各 AS の次数を計
算しその次数をもとに以下の手順を用いて推定を行う.
1) ひとつの経路上において次数が最大の AS をバレー
フリー構造の頂点とし,トランジットリンクのみのバ
レーフリー経路をとるようにトランジットの向きを仮定
する.すべての経路においてトランジットリンクの向き
を仮定した後,リンクに対し仮定したトランジットの向
きの一致が一定割合以下のリンクをシブリングリンクと
して再仮定する.
表 1 BGP の attribute
AS 内部に複数経路存在する際に出力トラフィックの優先度
を示す.値が高い方を優先する.
Multi Exit Discriminator(MED) 同一の AS に複数経路存在する際に入力トラフィックの優
先度を示す.値が低い方を優先する.
AS Path
経路広告の際に通過してきた AS の番号を載せる.通過し
た AS をすべて記録することによってルーティングループ
を防いでいる.
Next Hop
パケット転送時に次にパケットを転送する AS を記載する.
Local Preference
AS1
ピアリングリンク
AS2
[AS3→AS6]
トランジットリンク
矢印の先がカスタマを指す
[AS1→AS3→AS6]
経路広告
AS3
AS4
[AS3→AS6]
[AS3]
AS6
AS5
[AS4→AS3→AS6]
AS7
図 1 バレーフリー構造
2) 1 での仮定とは別にひとつの経路に対して次数が最
大の AS 以外とつながるリンクを非ピアリングのリンク
と仮定する.すべての経路で非ピアリングを仮定した後
に,非ピアリングと仮定されなかったリンクに対し,両
端の AS の次数の差が一定割合以下である場合そのリン
クをピアリングとして仮定する.
2 でピアリングとして仮定されたリンクを 1 でもピア
リングとして再仮定したものを最終的な推定接続関係と
する.
CAIDA デ ー タ セット に 用 い ら れ て い る 推 定 手 法
CAIDA データセットは Dimitropoulos[8][7] らによって
提案された推定手法に基づいている.Dimitropoulos ら
は接続関係の推定の際に,リンクの両端の AS の次数によ
る重み付けを行い,重みつき maximum-2-satisfiability
問題 (MAX-2SAT 問題) をとくことによって,ピアリン
グを推定した.
3 AS 間の接続トポロジー変化の解析と評価
3.1 解析に用いたデータセット
本稿において使用したデータセットを述べる.解析に
は CAIDA データセットと,IANA の AS 割り当てデー
タセットを用いた.
CAIDA データ [2] とは,第 2.2 節にて説明した推定方
法により,推定された接続種類のデータである.本研究
では,この CAIDA のデータを正しい接続関係のデータ
として評価に用いた.2004 年 1 月 5 日より 2010 年 1 月
20 日の期間のデータを使用した.2006 年 1 月から 2008
年 8 月までは 1 週間に 1 回,その他の期間は 1ヶ月に 1,2
回の間隔で計算されているデータを使用した.
AS 割り当てデータとは,IANA の提供する AS 番号の
割り当て元地域インタネットレジストリのデータ [1] で
ある.このデータをもとに,AS を番号割り当て地域に
あるものとして扱った.また,日本に関しては,JPNIC
の提供する Japan AS Number List[3] をもとに,JPNIC
より番号を割り当てられた AS を日本の AS として扱っ
た.IANA のデータは 2011 年 2 月 11 日のデータを使用
し,JPNIC のデータは 2010 年 12 月 8 日のデータを使
用した.
3.2
AS 間の接続関係による AS の分類
ある AS(AS1 とする) の接続先 AS のうち AS1 に対し
てプロバイダの関係にある AS の数を AS1 のプロバイ
ダ数と定義する.同様にカスタマの関係にある AS の数,
ピアの関係にある AS の数をそれぞれカスタマ数,ピア
数と定義する.各 AS のカスタマ数,ピア数,プロバイ
ダ数に対してそれぞれの時系列の変化の特徴による分類
を行った.分類方法を以下に示す.
1) ある AS に対し,CAIDA のデータセットの各デー
タ中にプロバイダ数,ピア数,カスタマ数がそれぞれい
くつかあるかを計算する.2004 年 1 月 1 日を起点とし
使用した CAIDA データセットの 2004 年 1 月 1 日から
の日数を t とする.そのデータセットにおけるプロバイ
ダ数を pt ,ピア数を et ,カスタマ数を ct とする.全て
の t = (t0 , t1 , ..., tn ) においてプロバイダ数,ピア数,カ
スタマ数のそれぞれの集合を,
AS2516's linktype shift
10000
p = (pt0 , pt1 , ..., ptn )
the number of customer
the number of peer
the number of provider
e = (et0 , et1 , ..., etn )
ASes link counts
1000
c = (ct0 , ct1 , ..., ctn )
とする.
2) 1 で求めた p, e, c に対し,t を横軸,p, e, c の t に対
応する値のそれぞれを縦軸として,縦軸が対数,横軸が
線形のグラフを描いた.さらに描いた対数グラフ上での
一次近似直線を描くために最小二乗法を用いた.求めた
一次近似直線その傾きを m とした.プロバイダ数,ピ
ア数,カスタマ数のそれぞれについて求めた傾き m が
+ であるものは増加の傾向を示し,− であるものは減少
の傾向を示し,0 であるものは変化がないという傾向を
示す.用いた最小二乗法についてプロバイダ数を用いた
場合を例にして記す.
p のうち 0 を除いた要素 (pti ) それぞれに対し常用対
数をとった log(pti ) とその要素の 2004 年 1 月 1 日から
の日数 ti の集合をそれぞれ
pl = (log(pt0 ), ..., log(ptn ))
100
10
1
2004/01/01
2005/01/01
図2
2006/01/01
2007/01/01 2008/01/01
date
2009/01/01
2010/01/01
2011/01/01
リンクタイプ遷移例
を示す.各表の値はそれぞれの傾向を持つ AS の個数を
意味している.また,傾きを求める際に一度もその接続
関係の AS がなかった AS は N/A として分類している.
例えば表 2 の一番左上に該当する物はピア数,プロバイ
ダ数共に増加の傾向が見られる AS の分類である.この
傾向を示す AS を「ピア + プロバイダ + 型」と定義す
る.また,他の傾向を示す AS にも同様の規則で分類名
を定義した.
tl = (t0 , ..., tn )
とする.pl と tl の集合の長さは等しく n とする.この集
合に対して二乗誤差が最小になる直線を求める.その直
線の傾き m,切片 (2004 年 1 月 1 日でのリンク数)x は,
n
m=
n
∑
i=1
ti log(pti ) −
n
∑
ti
n
∑
log(pti )
i=1
i=1
n
n
∑
∑
n
t2i − (
ti ) 2
i=1
i=1
x=
i=1
n
n
∑
i=1
i=1
n
∑
t2i − (
ti )2
i=1
i=1
の方程式を解くことによって求めることが可能である.
図 2 にプロバイダ数,ピア数,カスタマ数のそれぞれに
対して最小二乗法を適用し,ある AS に対しプロバイダ
数,ピア数,カスタマ数の数の変化及び増減の傾向をグ
ラフを描いた一例を示す.AS のプロバイダ数,ピア数,
カスタマ数の増減の傾向がわかる.
3) 1,2 の処理を全ての AS に対して行う.これにより
全ての AS に対しプロバイダ数,ピア数,カスタマ数の
増減の傾向を見ることができる.この傾向により AS の
分類を行う.分類を行う際はピア数とプロバイダ数,ピ
ア数とカスタマ数,プロバイダ数とカスタマ数といった
2 つの接続先 AS の種類の組み合わせによる傾向により
分類を行なった.表 2,表 3,表 4 に分類を行った結果
ピア数とプロバイダ数
XXX
XXXプロバイダ数の傾向
増加 減少 変化なし N/A
XX
ピア数の傾向
XX
X
増加
872
154
8
2
減少
588
230
8
2
変化なし
2198 1057
99
8
N/A
16424 10324
8274
85
表3
n
n
n
n
∑
∑
∑
∑
(ti )2
pti −
ti log(pti )
ti
i=1
表2
ピア数とカスタマ数
XXX
XXX カスタマ数の傾向
増加
XX
ピア数の傾向
XX
X
増加
612
減少
292
変化なし
575
N/A
2050
減少 変化なし N/A
144
200
245
1042
120
145
517
3257
160
191
2025
28758
AS の分類に基づいた AS トポロジ変化の解析と
評価
デピアはその定義より,デピアを行っている AS はカ
スタマ数が増加し,ピア数が減少している傾向が強いこ
とが予想される.カスタマ数が増加し,ピア数が減少し
ている AS すなわちカスタマ + ピア − 型について詳し
く見ていく.カスタマ + ピア − 型の AS は表 3 の一番
左の列の 2 行目に当たり,292 の AS が属する.この 292
の AS を AS の規模により分割する.
AS の規模はカスタマ数を指標とした.各 AS に関し
3.3
表 4 プロバイダ数とカスタマ数
XXX
XXXプロバイダ数の傾向
増加
XXX
カスタマ数の傾向
X
X
増加
2652
減少
887
変化なし
2434
N/A
14109
減少 変化なし N/A
765
671
1208
9121
105
70
394
7820
7
3
3
84
て c に対して平均値 d を求めた.
cas = (ct0 , ct1 , ..., ctn )
n
∑
das =
cti
i=1
n
また,k : k0 ≤ d ≤ k1 として n(k) をカスタマ数が k
を満たす AS の数として定義する.さらに a(k) をカス
タマ数が k を満たす AS のうち,カスタマ + ピア − 型
に属する AS の数として定義する.表 5 に a(k),n(k) を
示し,図 3 にカスタマ + ピア − 型のカスタマ数の全体
に占める割合のグラフを示した.
イダ+型,プロバイダ − 型での分布と全体に対する割合
も示した.
表 6 より,カスタマ数が 100 より大きい AS のうち約
70%がカスタマが増加の傾向にあることが分かる.さら
に,プロバイダ + ピア − 型とプロバイダ + ピア + 型
を比較すると,プロバイダ+ピア+型はカスタマの数が
100 から 500 の間に集中している.これはプロバイダ +
ピア − 型に属する AS は,デピアは行っておらず,逆に
新規のピアリンクを結ぶことにより,自身の AS の規模
を大きくし,カスタマを増やす傾向にあると予測される.
カスタマ数が 1626 の AS1239 と 575 の AS7132 との
カスタマ数,ピア数を時系列変化のグラフを図 4 に示す.
この 2 つの AS はどちらもプロバイダ − ピア+型の AS で
ある.カスタマ数は上位 10 に入るにも関わらず,デピア
の傾向は見られず,カスタマ数に減少が見られる.2008
年から 2009 年の間からカスタマ数が断続的に減少の傾
向を見せている.CDN の台頭による AS1239,AS7132 を
起点とするトラフィック量の減少,プロバイダ+ピア −
型に属する大規模 ISP のデピアの影響,AS1239,AS7132
自体の経営縮小等が起因として予測はされるが,具体的
な原因に関しては CAIDA データセットのデータのみで
は判断が出来ない.
10000
AS1239 provider
AS1239 peer
1
1000
0.8
ASes link counts
a(k)
n(k)
AS7132 provider
AS7132 peer
0.6
100
0.4
10
0.2
1
2004/01/01
0
0.1
1
10
100
1000
2005/01/01
2006/01/01
2007/01/01 2008/01/01
date
2009/01/01
2010/01/01
2011/01/01
10000
d
図 3 カスタマ + ピア − 型のカスタマ数の全体に占め
a(k)
る割合 ( n(k) )
表 5,図 3 より,カスタマ + ピア − 型に属する AS
はそのカスタマ数が大きい程,すべての型に対し占める
割合が大きくなっていることがわかる.特にカスタマが
500 より多い AS では,半分の AS がプロバイダ+ピア
− 型 AS であることがわかる.これより,プロバイダが
増加し,ピアが減少している AS は大きい規模の AS に
よく見られ,これらの AS はデピアを行っている傾向が
強いということが読み取れる.
表 6 より,カスタマ数が 500 以上の AS は半分がプロ
バイダ+ピア − 型に属することが示された.本節では,
プロバイダ+ピア − 型に属さない AS も含め,カスタマ
数が多い AS の特徴を明らかにしていく.表 6 に,プロ
バイダとピアの各型に対し,カスタマが 100 よりも大き
い AS の属している個数を示した.また,同時にプロバ
図 4 プロバイダ − ピア + 型 AS のカスタマ数,ピア
数の時系列変化例
AS 番号の割り当てデータを用いることによって,カ
スタマ + ピア − 型のそれぞれの AS の AS 番号がどの
RIR より割り振られているかによる分類を行った.表 7
に分類した結果を示す.
表 7 の分類のうち,カスタマ数が 100 以上の AS は
ARIN, RIPE NCC, APNIC に見ることができる.これ
によりデピアはひとつの地域でのみ行われているという
ことはなく,北米,欧州,アジアと広い範囲で行われて
いることが分かる.
4 結論
4.1 本論文のまとめ
実インターネットの経路情報をもとにインターネット
におけるサービスプロバイダの接続トポロジを解析する
事を目的とした.CAIDA データセットの AS 間の接続
関係性の推定データを用いる事により,大手 ISP による
デピアの傾向があることを示した.
表 5 カスタマ + ピア − 型カスタマ数とすべての型のカスタマ数
k
0 < d ≤ 1 1 < d ≤ 5 5 < d ≤ 10 10 < d ≤ 50 50 < d ≤ 100 100 < d ≤ 200 200 < d ≤ 500 500 < d ≤ 5000
a(k)
58
114
32
58
13
7
5
5
n(k)
37008
2343
383
471
67
33
18
10
表 6 カスタマ数が 100 より大きい AS の分布表
度数
101 - 200 201 - 500 501 - 1000 1001 - 2000 2001 - 5000
プロバイダ+ ピア − 型
7
5
2
2
1
プロバイダ+ ピア+型
16
8
1
1
プロバイダ − ピア − 型
7
1
プロバイダ − ピア+型
2
4
1
1
1
全ての型
33
18
4
4
2
プロバイダ+型
プロバイダ+型の割合
23
0.70
13
0.72
3
0.75
3
0.75
1
0.5
プロバイダ − 型
プロバイダ − 型の割合
9
0.30
5
0.28
1
0.25
1
0.25
1
0.5
明らかにされた大手 ISP によるデピアは,トラフィッ
ク流出元の大手 ISP への集中に起因しており.トラフィッ
ク流出元に偏りが生じることによってインターネットに
以下のような問題点が予測される.
独占 ISP による価格の操作 独占 ISP が存在するネッ
トワークにおいては競合 ISP が存在しないために,独占
ISP が独断的にネットワークの提供に対する金額を決定
することができる.独占 ISP が高い提供料を設定するの
を防ぐためにも独占を防ぐことが必要である.
新規 ISP の参入障壁の強化 独占 ISP が存在している
状況では新規 ISP が参入する際には,結局は独占 ISP か
らトラフィックを購入する必要が出てくることが予想さ
れる.新規 ISP 参入障壁が強化されることは,またより
一層独占傾向が強くなる.
障害耐性の低下 トラフィック量が一つの ISP から集中
して流出している状況の中において,その流出元の ISP
に障害が発生しトラフィックの流出が止まるとその影響
は甚大なものとなる.そこで障害によるトラフィックの
停止量を少なくするためにもトラフィックの流出元は分
散されることが求められる.
4.2 今後の課題
本稿ではサービスプロバイダの接続関係の変化の評価
当たって,2004 年から 2010 年の全期間での変化を評価
にの指標とした.しかし,すべての AS がその期間のあ
いだ同じ傾向でリンクを変化させていたとは言えない.
また,その変化の要因も HyperGiants の台頭によるト
ポロジの変化と,デピアによるトポロジの変化に分類す
ることが出来るであろう.そのため,時系列にそったよ
り詳細な解析を行うためには細かい期間で区切った解析
が必要となってくる.
AS にはその管理形態より経路の最適化の定義が異な
る.例えば,接続性の提供の利益は自身を経由して流れ
るトラフィックの量が多いほどそのリンクに対する接続
料金が高くなる.そのためリンクの接続性の提供によっ
て利益を得ているトランジットプロバイダにとっては,
リンクの接続料ができるだけ多くなるようにリンクを
結ぶことが目的となる.一方でコンテンツプロバイダや
HyperGiants は自身の提供するコンテンツを確実かつ低
遅延でコンテンツ消費者のもとに届けるようにリンクを
結ぶことが最適化の基準となるであろう.しかし本稿で
は AS の分類を行ったがその個別の特徴には焦点を当て
ていない.そのため,本稿での各分類にそれぞれどのよ
うな形態の AS が含まれるのかを調査し,AS の業種を考
慮した AS の分類を行うことが求められる.HyperGiant
及び CDN の規模はさらに拡大すると言われ脱階層化が
進むことが予想される [5] なかで,特定の形態の AS の衰
盛に基づいた接続トポロジの変化の予測が可能になる.
上記の 2 点を踏まえた上で,インターネットにおける
AS の接続関係がインターネット全体としての最適化を
定義し,コンテンツ配信の効率的を目的とした配信手法
の提案・評価行う予定である.
参考文献
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http://www.iana.org/assignments/as-numbers/asnumbers.xml.
[2] CAIDA:data:active:as-relationships.
http://www.caida.org/data/active/as-relationships/.
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http://www.nanog.org/meetings/nanog47/abstracts.php.
[6] A. Dhamdhere and C. Dovrolis. The Internet is flat:
modeling the transition from a transit hierarchy to a
表7
カスタマ数と地域性による分類
XXX
AS 番号割り当て元 RIR
XX
XXX
ARIN RIPE NCC APNIC LACNIC AfriNIC 計
カスタマ数
XX
X
0-9
67
113
16
3
2
201
10-99
33
29
11
2
0
75
100
10
5
2
0
0
17
計
110
147
29
5
2
293
peering mesh. In Proceedings of the 6th International
COnference, p. 21. ACM, 2010.
[7] X. Dimitropoulos, D. Krioukov, M. Fomenkov, B. Huffaker, Y. Hyun, et al. AS relationships: Inference and
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3rd ACM SIGCOMM conference on Internet measurement, pp. 15–26. ACM, 2003.
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東京大学, 2010.