緑茶ブランドにおける イメージと広告効果 筑波大学 第三学群 社会工学類 社会経済システム専攻 200411055 矢島慎也 指導教官 石井健一准教授 「緑茶ブランドにおけるイメージと広告効果」 目次 第一章 研究目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 1-1.背景 1-2.先行研究 1-3.仮説の設定 第二章 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 2-1.個人インタビュー法による質的調査 2-2.質問票による量的調査 第三章 結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 3-1.テレビ CM と、ブランドイメージ 3-1-1. 「サントリー・伊右衛門」編 3-1-2. 「キリンビバレッジ・生茶」編 3-1-3. 「伊藤園・おーいお茶」編 3-1-4.テレビ CM がブランドに与える効果の考察 3-2. 社会心理傾向とペットボトル緑茶飲料の好み 3-2-1. 「サントリー・伊右衛門」編 3-2-2. 「伊藤園・おーいお茶」編 3-2-3 社会心理傾向とペットボトル緑茶飲料の好みについての考察 第四章 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22 参考文献 付録 質問票 2 第一章 研究目的 1-1背景 インターネットの登場により、従来のメディア構造が壊れかけている。企業にとって、 自社のウェブサイトが重要な情報発信源となり、従来のテレビ CM や新聞広告のように一 方通行のマスメディアに依存しなくてすむようになった。また、消費者もウェブを手にし た事で、ブログや SNS を通じて、自由に情報を発信できるようになった。情報は与えられ るものではなく自ら取りに行く時代に突入した。日々変化している時代の中で、最も影響 を受けているメディアはテレビではないだろうか。なぜならば、テレビは送り手側から、 受け手側へ情報を発信するいわば、一方通行のメディアだからである。 最近のテレビCMを見ていると、商品や企業の全てを細かく説明するのではなく、「続き は web へ!」 「~と書いて検索」など、ウェブサイトを見るように促すフレーズが目に付く。 企業や広告会社の中では、テレビ CM を流すだけでは消費者にメッセージを送ることがで きないと考え、インターネットや新聞広告、街中の屋外広告など、様々なメディアを利用 する「クロスメディア」という手法が注目視されているのである。つまり、ただ単にテレ ビ CM を大量に流せば物が売れる時代ではなくなったといえるのではないか。そんな中で、 テレビ CM は今日、どのような役割を担っているのだろうか。しっかりと消費者に企業や 商品イメージを植えつけることができているのだろうか。 そこで、本研究では、テレビ CM の効果を調べるために、 「ペットボトル緑茶飲料」を取 り上げて研究を進めていく。その主な理由は下記の三点である。 一つ目の理由としては、その市場規模の大きさである。近年、ペットボトル緑茶飲料の 人気はすさまじく、2001 年にはウーロン茶を抜いて茶系飲料の中でトップとなった。現在 でも、毎年 50 種類前後の新製品が発売されている。(「ナリナリドットコム」より)また、 清涼飲料水の市場は約4兆円といわれ、その中でペットボトル緑茶飲料の市場は1兆円規 模に上るとも言われており、市場の大きさ故に、ブランド認知や話題性において、深く調 べることが可能である。二点目は、競争が激しい市場であるという点である。もともと清 涼飲料水は 1000 本の商品のうち、ヒットする商品は 3 本程度であるといわれ、競争が非常 に激しい市場となっている。(「伊右衛門は何故売れたか」より)その中で、現在市場に残 っている商品は、少なくとも他の商品とは何か違った広告戦略を行っているはずである。 三点目は、広告に左右される部分が大きい市場だと考えるからである。高級志向の商品や、 わざと濁りを残した商品の登場など、各社、差別化に工夫を凝らしていて、選ぶのに一苦 労なほど、商品のバリエーションは豊かになっている。その一方で、味や風味については 各々の商品間でそこまで差がないと感じる。そこで、広告やパッケージなどいわば「外的」 な要因で購買が決定される部分が大きいのではないかと判断した。 本研究では、緑茶ブランドの中でも特に販売量が多く、人気の高い3つのブランド(伊 右衛門・生茶・おーいお茶)を取り上げ、その広告効果、消費者イメージを考察していく ことにする。(表 1-1 参照)また、併せてペットボトル緑茶飲料の選考基準、社会心理傾 3 向とペットボトル緑茶飲料の好みとの関係についても考察していくことにする。 表 1-1 <最も好きなペットボトル入り茶系飲料の銘柄> 順位 1 2 3 4 銘柄 おーいお茶(伊藤園) 生茶(キリンビバレッジ) 爽健美茶(日本コカコーラ) 伊右衛門(サントリー) N=5721 1167 886 814 629 (日経テレコン記事 2007 年 4 月) 以下に、3つのブランドについての特徴、および、質問紙に利用したテレビ CM につい ての内容を記載しておく。 (爽健美茶は「ブレンド茶」に分類されると考え、本研究では用 いないことにする) <おーいお茶(伊藤園)> 茶系飲料の中で最も売れているロングセラー商品である。「緑茶」を始め、 「濃い味」 「ほ うじ茶」「玄米茶」など商品に様々なバリエーションを持つほか、季節限定品も存在する。 まさに「定番」の茶系飲料といえるだろう。 <出典 伊藤園ホームページ http://www.itoen.co.jp/oiocha/> ・広告表現 テレビ CM には女優の中谷美紀、歌舞伎役者の市川海老蔵が出演しており、独特の世界 観を演出している。中谷美紀が出演している「恵みの雨 篇」では、キャッチコピーであ る、「いいお茶はいい畑から」という表現からもわかるように、おいしさを畑から育てると いう真摯な姿勢と、お茶に対するこだわりを視聴者に訴えかけている。 4 <生茶(キリンビバレッジ)> 2000 年に「お茶にも生があったんだ。」で鮮烈なデビューを飾ったこの商品は、2007 年 3 月にリニューアルされ、現在では「醍醐味」「玉露 100%」といった関連商品も発売され ている。お茶本来の甘みにこだわった、高品質な緑茶へと進化している。<出典 キリン ビバレッジホームページ> <出典 キリンビバレッジホームページ http://www.beverage.co.jp/namacya/> ・広告表現 落ち着いた雰囲気と重厚感のある和室で、お茶本来の「深い味わい」を女優の松嶋菜々 子が堪能している。リニューアルされたキャッチコピーは、 「日本人は知っている。うまい は、甘い。 」「和」にこだわった表現や、 「風格のある大人の女性」というイメージがある松 嶋奈々子を起用したことで、日本的で高級感のあるイメージを視聴者に訴えかけている。 <伊右衛門(サントリー)> サントリーと福寿園が提携して、2004 年に発売し、清涼飲料市場最速で年間販売額 5000 万ケースを達成し、1000 億円超の販売額を実現した。竹筒をイメージしたペットボトルが 特徴的である。製法や茶葉、水に至るまで深くこだわりをもち、緑茶の本質を追求して上 質な味をつくりあげた。 ( 「伊右衛門は何故売れたか」より) <出典 サントリーホームページ http://www.suntory.co.jp/> 5 ・広告表現 俳優の本木雅弘と宮沢りえが出演しているこの CM シリーズは、京都を舞台とし、お茶 に対して深いこだわりをもつ伊右衛門(本木)とその良き理解者である妻(宮沢)が時代 劇風に描かれ、各篇に物語化さている。 「CM 総合研究所」が発表している、 「2007 年 11 月前期・商品にひかれた要因の高かった銘柄別 CM 好感度 TOP10」において 6 位になるな ど、好感度ランキングにおいて常に上位に入っており、まさに「勝ち組 CM」といえるので はないだろうか。 1-3 先行研究 広告効果の先行研究として、栗原信征の「ブランド選択における広告の影響」という論 文がある。乗用車とパソコンの購入予定者に対して、2000 年 3 月から 2 ヵ月おきに購入に 至るまでアンケート票による追跡調査を行ったものである。 この論文の中で、筆者は、 「広告は①購入の初期段階ではブランド選択の幅を広げている。 ただし、これは必ずしも購入につながってはいない」と結論付けている。下の表1-2 は論 文の中で述べられている「想起広告数の媒体別比率」を引用したものである。乗用車とパ ソコン購入予定者の購買意思決定過程を 6 段階の欲求レベルに分け、その各々の段階でど の広告媒体から影響を受けたのかという割合(%)を表すものである。この表を見ると、 テレビ CM の効果の大きさがわかる。乗用車ではテレビ CM が 42%を占め、パソコンでも 全体の 32%を占めており、全てにおいて高い数値となっている。今回の研究とは比較対象 は違ってはいるものの、テレビ CM の効果は強いということが判断できるだろう。 表 1-2 <想起広告数の媒体別比率(%)> 乗 用 車 パ ソ コ ン 欲求レベル 新聞 雑誌 テレビ ラジオ 折込み カタログ インターネット 車内づり なんとなく欲しい 買おうと決めた ブランド調査中 比較検討中 購入ブランド決定 購入 平均 なんとなく欲しい 買おうと決めた ブランド調査中 比較検討中 購入ブランド決定 購入 平均 18 9 12 16 8 15 14 13 19 17 13 31 18 17 3 4 12 11 8 9 9 13 15 14 14 35 14 15 48 70 36 34 38 42 42 63 26 34 35 23 30 32 3 9 0 3 0 0 2 0 0 1 0 0 1 0 24 4 27 19 8 16 18 0 13 12 11 8 9 11 3 4 6 15 38 14 12 13 18 13 15 0 13 14 0 0 6 3 0 4 3 0 5 7 12 4 9 8 0 5 1 0 0 5 2 <出典 「ブランド選択における広告の影響」栗原信征> また、 『テレビ CM 崩壊』の中で、メディア消費の変化を述べた調査がある。2005~2006 6 年の一年間の間で、メディアに関する消費者動向調査を行ったグラフが下の図1-3である。 左側の青色の棒線が「一年前より利用回数が増えた」を表し、右側の赤色の棒線が「一年 前より利用回数が減った」を表している。このグラフを見ると、インターネットの消費は、 約 42%伸びているのに対し、ネットワーク TV の伸び率は約 5%に止まっている。一方で、 その減少率は実に約 36%に上りインターネットとテレビが対極の方向に動いているのがわ かる。 図 1-3 <メディア消費の変化> 45% 42.4% 40% 35.7% 35% 30% 25% 22.1% 18.6% 20% 15.3% 15% 17.9% 14.8% 10% 5.9% 5.3% 5.1% 5% 0% インターネットを使う DVDを観る ケーブルTV・衛星放送を見る ネットワークTVを見る ゲームをする <出典 織田浩一監修 西脇千賀子・水野さより訳「テレビ CM 崩壊」> この 2 つの表と図からも分かるとおり、2000 年の時点では、テレビ CM は効果があると 結論付けているものの、2006 年の調査では、テレビ自体を視聴しなくなっているという結 果であった。では、現在のテレビ CM と消費者の関係はどうなっているのであろうか。 1-3 仮説の設定 仮説の設定にあたり、事前調査として、個人インタビュー法を用いた。なお、個人イン タビューの調査の結果については第二章で述べることにする。 本研究では、3つのブランド(伊右衛門・生茶・おーいお茶)の広告効果と消費者イメ ージ、ペットボトル緑茶飲料の選考基準、社会心理傾向とペットボトル緑茶飲料の好みと の関係について、それぞれ仮説を立てて検証していくことにする。 <広告効果と消費者イメージ> 仮説1<CM 認知度が、商品イメージに与える仮説> 7 仮説 1-1 「サントリー・伊右衛門」 ・伊右衛門の CM は「京都を舞台とし、日本の伝統である、お茶へのこだわりを訴求して いるため、信頼性が高く、上品なイメージ」与えている。 仮説 1-2 「キリンビバレッジ・生茶」 ・生茶の CM は、女優、松嶋菜々子の出演により、 「高級感があり、風格のある大人な女性 のイメージ」が与えられている。 仮説 1-3 「伊藤園・おーいお茶」 ・おーいお茶のテレビ CM は、印象が薄く、商品にそのテレビ CM のイメージを植えつけ られていない。商品自体に、「定番イメージ」が植えつけられており、その反面、時代遅れ のイメージがある。 仮説 2 ・それぞれのテレビ CM において、テレビ CM を見せないグループと見せるグループとで は、商品イメージが異なる。 以上 4 つの仮説を検証することで、 「テレビ CM はしっかりと消費者にイメージを与える ことができているのか」を明らかにするとともに、それぞれのペットボトル緑茶飲料につ いてのイメージを明らかにする。 <ペットボトル緑茶飲料の選考基準と社会心理傾向について> 仮説 3-1 ・伊右衛門を好む人は、 「流行指向」が高く、古風なイメージ(京都)を好む。 仮説 3-2 ・おーいお茶を好む人は、 「同調志向」が高い。 ただ単にテレビ CM からイメージを受けたからといって、それがそのまま購買基準にな るわけではない。少なからずテレビ CM のイメージに共感できて、初めて購買に至るケー スがほとんどであろう。よって、どういった心理傾向が、商品の好みに関係しているかを 明らかにすることで、その商品に植えつけるべきイメージを明確にする。 仮説 3-1 を設定した理由は、図 2-2 のプロダクトマップから、 「伊右衛門は流行的なイ メージが強い」と判断されたのと、個人インタビューの結果から、「伊右衛門に対する、古 風なイメージ(京都)から商品に好意を抱く」という結果が得られたという理由からであ る。また、仮説 3-2 であるが、個人インタビューの結果からおーいお茶に対しては、 「緑茶 の王道」といういわば「定番イメージ」があることがわかった。それを好む人は、「皆が購 入しているから」「一番売れているから」という理由で好み、いわば「同調志向が高い」と 判断できるのではないかと考えられる為である。 8 第二章 方法 2-1.個人インタビュー法による質的調査 被験者 4 名を対象に実施した個人インタビュー法による調査から、ペットボトル緑茶飲 料の消費に関する様々な傾向が見てとれた。所要時間は一人につき 20 分から 30 分で行っ た。被験者 4 名の内訳は、21 歳男性が 2 人、22 歳男女が 1 人ずつである。 まず、4 人に共通して見られ、印象的だったのは、テレビに接触する機会が少なく、 「テ レビを見ていても CM になると、インターネットをしたり、トイレに行ったりと休憩タイ ムになることが多い」と言った回答であった。そして、おーいお茶のテレビ CM は 4 人と も知らない、または覚えていないという回答も印象的であった。 次に、ペットボトル緑茶飲料の好みにおいてはそれぞれ異なっており、「生茶派」、 「伊右 衛門派」「こだわりを持ったブランドがない派」にわけることができた。まず、「生茶派」 の意見としては、「和風で大人っぽいイメージ」が購買基準となっているということであっ た。これは、テレビ CM から受けたイメージであるかは定かではないが、その広告に登場 する「松嶋菜々子」のイメージが、少なからず商品のイメージと重なっているのではない かと推測することができる。また、「伊右衛門派」の意見としては、「穏やかな老舗の雰囲 気というイメージ」が購買基準となっているということであった。これは、伊右衛門の広 告が表現している、 「京都」や「古風」なイメージが、商品のイメージと重なっているので はないかと推測できる。特徴的だったのが、他のペットボトル緑茶飲料のテレビ CM につ いての詳細はわからないが、伊右衛門のテレビ CM だけは、詳細まで覚えているというこ とであった。この結果は、他のブランドを好む被験者には見られなかった。 次に「こだわりを持ったブランドがない派」は、その時々の心理状態(値段やおまけな ど)によって購買を決めるということであった。ペットボトル緑茶飲料のテレビ CM は覚 えてはいるが、印象に残っていないということであり、この被験者には広告効果は薄いの ではないかということが推測できる。 また、個人インタビューと合わせて、プロダクトマップによる調査、分析も行った。プ ロダクトマップとは、 「人々が異なる対象をどのように認知しているのかを分析するために 用いるもの」であり、今回は、ペットボトル緑茶飲料のブランド 5 種(おーいお茶・若武 者・伊右衛門・生茶・茶織)の中の2種の組み合わせに対して「完全に同じ」、「完全に異 なる」の 0~10 点の間で評価をした。得点が高いほうが良く似ているという結果になる。 得られた結果は以下の表 2-1、図 2-2 の通りである。 9 表 2-1 <プロダクトマップについての集計結果> 1人目 2人目 3人目 4人目 計 伊右衛門/生茶 10 8 4 1 伊右衛門/若武者 6 10 9 2 伊右衛門/おーいお茶 1 4 8 3 伊右衛門/茶織 4 7 10 3 生茶/若武者 6 9 5 6 生茶/おーいお茶 7 3 1 8 生茶/茶織 6 6 3 8 若武者/おーいお茶 4 1 7 5 若武者/茶織 8 5 6 10 おーいお茶/茶織 4 2 8 5 23 27 16 24 26 19 23 22 29 19 図 2-2 <プロダクトマップ> ユークリッド距離モデル 1.5 おーいお茶 1.0 生茶 次 元 2 0.5 若武者 0.0 -0.5 伊右衛門 -1.0 茶織 -1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 次 元 1 この図2-2の結果を元に、多次元尺度法を用いて、多次元尺度分析(SPSSのALSCALプ ログラムを使用)を行った。多次元尺度法とは「関連データから各対象を空間上に位置づ けることによって、データに潜むパターンや構造を見出そうとする方法」である。ここで 重要なことは、得られた解の次元を解釈することである。次元がどのような意味を持つの か、ブランドの分布状況を見て解釈をすることにする。得られた結果は以下のようなもの である。 次元の解釈をすると、まず次元 1 は、 「広告インパクトの強弱」ではないかと考えられる。 これはテレビ CM 認知度が高い「伊右衛門」、 「生茶」の 2 種が高い為である。次元 2 の解 10 釈について考えられるのは、「ペットボトル緑茶飲料の定番イメージ」である。これは、前 出した、表 1-1 の「最も好きなペットボトル入り茶系飲料の銘柄」に大方当てはまる為で ある。また、伊右衛門・茶織といったブランドは、ここ 2、3 年の間に市場に登場したブラ ンドであるため、次元 2 の値が低いほど、 「流行イメージ」があると解釈することもできる。 以上の結果を踏まえ、第一章に述べたように、本研究の仮説を設定した。 なお、仮説を分析するにあたり、付録の質問紙に記載した項目の中で、「流行についての 記事や話に関心がある」「流行を取り入れることによって自分の個性を発揮できる」「服装 はほとんどの場合流行のものを買う」の3つの項目をあわせた尺度を、「流行尺度」と呼ぶ ことにする。これは、「社会調査ハンドブック(飽戸弘著)」の「調査項目の実例」におい ての「流行関心スケール」の部分を参考にしたものである。また、同様に「社会調査ハン ドブック(飽戸弘著)」を参考に、「自分のことより他人のことを考えるほうだ」「物事がう まくいくためには自分の気持を抑えるほうだ」「自分と比較するために人に注目すること がある」の項目をあわせた尺度を、「同調志向尺度」と呼ぶことにする。 2-2.質問票による量的調査 5 つの仮説とブランド選択に与えるテレビ CM の効果を検証するために、質問票による 量的調査を行った。本研究は、テレビ CM の効果を検証するためのものであるので、質問 票に各々のブランドにおけるテレビ CM の特徴的な場面を載せ、調査を実施した。 調査を実施した日時は、12 月 5 日(水) 、社会工学類開講の授業(現代都市環境論)にお いて実施した。実施した教室は、筑波大学医学専門学群、臨床講義室 A、であり、回収数は、 96 部となった。 調査方法としては、対象者 1 人に対し、3 つのブランド(伊右衛門・生茶・おーいお茶) すべてのイメージについて回答してもらった。また、3 つのブランドのテレビ CM を先に 見せてから商品のイメージを聞く質問票と、テレビ CM を先に見せず、商品のイメージを 先に聞く質問票を作り、2 パターンの質問票の中から対象者にランダムにいずれかを配布し、 回答してもらった。質問内容としては、ペットボトル緑茶飲料についての好き・嫌いの程 度・ペットボトル緑茶飲料を飲む頻度・ブランドのテレビ CM のイメージ・ブランドのイ メージ・テレビ CM の認知度・個人の心理尺度などである。 (詳しくは付録のアンケート用 紙参照) 11 第三章 結果と考察 3-1.テレビ CM と、ブランドイメージ 本節では、伊右衛門、生茶の2つのテレビCMそれぞれに対して、そのCM が商品に与え るであろうイメージを仮説として設定し、実際にCMイメージを商品に与えることができて いるのかを検証していく。 仮説の検証に入る前に、「テレビ視聴時間」と「ペットボトル緑茶飲料との接触頻度と その好感度」を確認しておく。まず、「あなたの平均的な一日当たりのテレビ接触頻度はど のくらいですか」という質問に対する回答として、 「4時間以上」 「3~4時間」 「2~3時間」 と答えた人を合わせると、39人になり、全体の約40%になることがわかった。 (表3-1参照) また、 「4 時間以上」を 4.5 時間、「3~4 時間」を 3.5 時間「2~3 時間」を 2.5 時間「1~2 時間」を 1.5 時間「1 時間未満」を 0.5 時間「ほとんど見ない」を 0 時間と数値化し、平均 値を算出すると、約 1.73 時間となり、平均的な一日当たりのテレビ視聴時間は、2 時間に 満たないことがわかった。 以上の結果から、テレビ視聴時間は、「NHK放送文化研究所」が実施している「全国個 人視聴率調査」 (2004 年 11 月)と比較すると、一日当たりのテレビ視聴時間(週平均)は 4 時間 01 分であるのに対し、今回の調査では約 1 時間 45 分となった。テレビ視聴時間は 減少傾向にあるという結果となった。 表 3-1 <平均的な一日当たりのテレビ接触頻度> 度数 4時間以上 3~4時間 2~3時間 1~2時間 1時間未満 ほとんど見ない 合計 割合 4 9 26 24 14 19 96 4.2% 9.4% 27.1% 25.0% 14.6% 19.8% 100.0% 次に、 「あなたはペットボトル緑茶飲料をどの程度お飲みになりますか」という質問に対 する答えとして、 「毎日 1 本以上」 「週 3~4 本」 「週 1~2 本」を合わせると、67 人に上り、 全体の約 7 割の人が、週に少なくとも 1 本はペットボトル緑茶飲料を飲んでいるというこ とがわかった。 (表 3-2 参照) なお、質問紙の回答欄である「毎日 2 本以上」「毎日 1 本」の回答は、 「毎日 2 本以上」 の母数が、1 と少数であったため、2 つの質問を合わせ、「毎日 1 本以上」として扱うこと にした。同様に「月に 3~4 本」という回答も、 「週 1~2 本」と合わせることとした。 また、ペットボトル緑茶飲料についての好き・嫌いを問う質問では、伊右衛門が「好き」 12 と答えた人は、78 人で全体の 8 割以上にも上ることがわかった。次に、生茶の 62 人、お ーいお茶は 58 人に止まった。しかし、最も低かったおーいお茶でも、全体の 6 割を超え、 3 種全てのペットボトル緑茶飲料に対して、好意的なイメージを持っていることがわかった。 また、 「嫌い」と答えた人は生茶の 11 人が一番多かった。おーいお茶に対しては、全体の 約 4 割が「どちらでもない」と答えており、商品に対してしっかりとしたイメージがない のではないかという推測ができる。 (表 3-3 参照) 表 3-2 <ペットボトル緑茶飲料を飲む頻度> 度数 毎日1本以上 週3~4本 週1~2本 月1~2本 ほとんど飲まない 合計 割合 4 17 46 16 13 96 4.2% 17.7% 47.9% 16.7% 13.5% 100.0% 表 3-3 <ペットボトル緑茶飲料の好き嫌いの頻度> 好き 伊右衛門 生茶 おーいお茶 どちらでもない嫌い 計 78 14 4 62 23 11 58 33 5 96 96 96 次に、ペットボトル緑茶飲料の購買基準について検証する。 「あなたがペットボトル緑茶 飲料を購入されるときに重視するものは何ですか。 」という質問に対して、味、CM イメー ジなど、8つの項目の中から複数選択で回答してもらった。アンケートの結果をまとめた ものが図 3-4である。ここでは、「味」と答えた人が 65%を超え、次に「値段」の 44%、 「CM イメージ」は 15%に止まった。「香りや風味」と答えた人も 30%を超えるなど、外 見イメージではなく、緑茶の中身に対しての好みから購買に至るのであり、テレビ CM の イメージは弱いという結果になった。果たして本当に、広告効果は薄いといえるのであろ うか。仮説を検証することで、その効果を明確にする。 13 図 3-4 <ペットボトル緑茶飲料の購買基準(複数選択可)> 70.0% 60.0% 50.0% 40.0% 30.0% 20.0% 10.0% 0.0% 味 り 香 や 風 味 ー ネ ミン グ イ CM メー ジ 広 告 ト 名 ン ー レ カ タ の メー 段 値 ま ・お 録 付 け 3-1-1.「サントリー・伊右衛門」編 3-1 節の「テレビ CM とブランドイメージ」の調査結果から、テレビ視聴時間は減少傾向 にあるものの、ある程度とられ、アンケート対象者である学生のペットボトル緑茶飲料に 対する見解もある程度はっきりしていることが見て取れた。 次に、本題である仮説 1-1、『伊右衛門の CM は「京都を舞台とし、日本の伝統である、 お茶へのこだわりを訴求しているため、信頼性が高く、上品なイメージ」与えている。』を 検証する(表 3-5 参照) 伊右衛門の商品に対して、「どのような印象を持っていますか」という質問をし、「非常 にそう思う」「ややそう思う」「どちらでもない」「あまりそう思わない」「全くそう思わな い」の 5 段階評価で回答してもらった。これらの回答を点数化(「非常にそう思う」を 1 点 とし、以下 2 点、3 点、4 点と続き、 「全くそう思わない」が 5 点)し、テレビ CM を見 たことがあるグループと見たことがないグループに対し、SPSS を用いて、t検定を行った。 なお、付録の質問紙では、 『あなたはサントリー「伊右衛門」の下の CM シリーズ を見 たことがありますか。』という質問に対する答えとして、 「1 見たことがあり内容も覚えてい る」 「2 見たことはあるが内容はあまり覚えていない」 「3見たことない」と設定したが、 「3 見たことない」の回答数が 5 であったため、「2 見たことはあるが内容はあまり覚えていな い」とあわせて分析することにした。 14 表 3-5 <伊右衛門のテレビ CM 認知度が商品に与えるイメージの影響> 男性的⇔女性的 信頼感のある⇔信頼感のない 高級そうな⇔高級でない 若い人向きの⇔中年向きの 親しみやすい⇔親しみにくい 流行的な⇔時代遅れな 現代的な⇔古風な 平均値 見たことがある 見たことがない 2.77 2.72 2.09 2.50 2.08 2.69 2.98 3.22 2.44 2.63 2.80 3.00 2.86 2.88 t値 有意確率 0.25 -2.44 -3.21 -1.65 -1.31 -1.07 -0.08 0.80 0.02 0.01 0.10 0.19 0.29 0.94 t検定の結果、表 3-5 の 7 項目のイメージのうち、 「高級そうな⇔高級でない」「信頼感 のある⇔信頼感のない」の 2 項目に対して有意であるという結果が得られた。つまり、伊 右衛門のテレビ CM が、 「信頼性が高く、上品なイメージ」を与えていることがわかり、仮 説 1-1 は支持されたと言うことができる。しかし、その他の項目では有意な差は見られず、 テレビ CM に絶大な効果があるとは言い切れない結果となった。 次に、アンケートにおいて、伊右衛門のテレビ CM を先に見せ、商品のイメージを聞く パターン(パターン 1 とする)と、伊右衛門のテレビ CM を見せずに、商品のイメージを 先に聞くパターン(パターン 2 とする)との間において、商品のイメージに差が生じるか を検証した。(表 3-6 参照) 表 3-6 <伊右衛門のテレビ CM が商品に与えるイメージの影響> 平均値 男性的⇔女性的 信頼感のある⇔信頼感のない 高級そうな⇔高級でない 若い人向きの⇔中年向きの 親しみやすい⇔親しみにくい 流行的な⇔時代遅れな 現代的な⇔古風な パターン1 2.88 2.31 2.27 3.10 2.54 3.15 2.92 パターン2 2.63 2.15 2.29 3.02 2.46 2.58 2.81 t値 有意確率 1.44 1.04 -0.11 0.62 0.61 3.30 0.60 0.16 0.30 0.91 0.54 0.54 0.01 0.57 この t 検定において、有意な差が見られたのは、 「流行的な⇔時代遅れな」の項目だけで あり、伊右衛門のテレビ CM は商品に「時代遅れな」イメージを与えているという表 3-5 とは異なる結果が得られた。この結果になった原因として、アンケートに使用した、伊右 衛門の広告写真(白黒)が暗いイメージのものになってしまったため、見ている人に対し て、古臭いイメージを与えてしまったということが考えられる。もう一つ考えられるのは、 やはり、テレビ CM は音楽や風景、出演タレントの感情などが表現されるものであるため、 記載した小さい写真では記憶が喚起されなかったということがあげられる。 15 3-1-2.「キリンビバレッジ・生茶」編 次に、仮説 1-2『生茶の CM は、女優、松嶋菜々子の出演により、「高級感があり、風格 のある大人な女性のイメージ」が与えられている。 』を分散分析により検証する(表 3-7 参 照)また、 『あなたはキリンビバレッジ「生茶」の下の CM シリーズ を見たことがありま すか。 』という質問に対する答えとして、 「1 見たことがあり内容も覚えている」「2 見たこ とはあるが内容はあまり覚えていない」「3見たことない」と設定したが、ここでは、「覚 えている」 「覚えていない」「見たことない」に分類して分析することにした。 表 3-7 <生茶のテレビ CM 認知度が商品に与えるイメージの影響> 男性的⇔女性的 信頼感のある⇔信頼感のない 高級そうな⇔高級でない 若い人向きの⇔中年向きの 親しみやすい⇔親しみにくい 流行的な⇔時代遅れな 現代的な⇔古風な 覚えている 3.77 2.23 2.63 2.67 2.53 2.63 2.93 平均値 覚えていない 見たことない 3.27 3.29 2.63 2.41 2.53 3.12 2.67 2.76 2.53 2.35 2.76 2.71 2.94 2.95 F値 有意確率 4.47 2.67 2.41 0.10 0.35 0.21 0.05 0.01 0.07 0.09 0.90 0.71 0.82 0.96 分散分析の結果、表 3-7 の 7 項目のイメージのうち、 「男性的⇔女性的」の 1 項目に対し て有意であるという結果が得られた。しかし、「信頼感のある⇔信頼感のない」と「高級そ うな⇔高級でない」の 2 項目について、10%では有意な結果が得られており、生茶のテレ ビ CM は、 「女性的でかつ、高級そうなイメージ」を少なからず与えていることがわかった。 つまり、仮説 1-2 の『生茶のテレビ CM は、女優、松嶋菜々子の出演により、 「高級感があ り、風格のある大人な女性のイメージ」が与えられている。 』はある程度支持されたことに なる。しかし、完全に有意であるといえるのは、 「男性的⇔女性的」の項目だけであり、生 茶テレビ CM の効果はあまり出ていないという結果になった。 次に、3-1-1「サントリー・伊右衛門」編の分析と同様に、生茶のテレビ CM を先に見せ、 商品のイメージを聞くパターン(パターン 1 とする)と、生茶のテレビ CM を見せずに、 商品のイメージを先に聞くパターン(パターン 2 とする)との間において、商品のイメー ジに差が生じるかを検証した。 (表 3-8 参照) 16 表 3-8 <生茶の CM が商品に与えるイメージの影響> 平均値 パターン1 3.29 2.54 2.63 2.63 2.48 2.85 2.96 男性的⇔女性的 信頼感のある⇔信頼感のない 高級そうな⇔高級でない 若い人向きの⇔中年向きの 親しみやすい⇔親しみにくい 流行的な⇔時代遅れな 現代的な⇔古風な パターン2 3.56 2.40 2.71 2.75 2.52 2.56 2.94 t値 有意確率 -1.73 0.93 -0.42 -0.79 -0.26 1.76 0.13 0.09 0.35 0.68 0.43 0.79 0.08 0.89 この t 検定においても伊右衛門の時と同様に、有意な差は生じなかった。つまり、「生茶 のテレビ CM の一部を見せても、商品に対するイメージは変化しない」という結果が得ら れたことになる。この結果が得られた原因としては、やはり、伊右衛門の時と同様に、ア ンケートに使用したテレビ CM の写真が、暗く、見えづらかったという点や、テレビ CM において記憶に残らない場面の写真であった点などが考えられる。しかし、テレビ CM の 効果が弱いとも考えることができ、今後のテレビ CM のあり方が問われる結果となったと いえるのではないだろうか。 3-1-3.「伊藤園・おーいお茶」編 次に、おーいお茶のテレビ CM が、商品に対して、イメージを与えているのかを検証す る。(3-9 参照) なお、3-1-2 の「生茶編」と同様に『あなたは伊藤園「おーいお茶」の下の CM シリーズ を見たことがありますか。 』という質問に対する答えとして、 「1 見たことがあり内容も覚え ている」 「2 見たことはあるが内容はあまり覚えていない」 「3見たことない」と設定したが、 ここでは、 「覚えている」 「覚えていない」 「見たことない」に分類して分析することにした。 表 3-9 <おーいお茶のテレビ CM が商品に与えるイメージの影響> 男性的⇔女性的 信頼感のある⇔信頼感のない 高級そうな⇔高級でない 若い人向きの⇔中年向きの 親しみやすい⇔親しみにくい 流行的な⇔時代遅れな 現代的な⇔古風な 覚えている 2.89 2.17 3.39 3.44 2.44 3.17 3.56 平均値 覚えていない 見たことない 2.63 2.85 2.18 2.00 3.35 3.00 3.17 3.00 2.35 2.15 3.18 3.31 3.42 3.23 F値 有意確率 1.08 0.31 1.03 1.25 0.39 0.12 0.51 0.34 0.74 0.36 0.29 0.68 0.89 0.60 分散分析の結果、有意な差は検出されなかった。これは、「見たことがあり内容も覚えて 17 いる」 「見たことはあるが内容はあまり覚えていない」をあわせた母数が、83 人(全体の約 87%)であったことを考えると、仮説 1-3 の前半部分である「おーいお茶のテレビ CM は、 印象が薄く、商品にその CM イメージを植えつけられていない。 」が支持されたということ ができるだろう。この結果は、伊藤園が、2007 年において、広告宣伝費を抑制したという 事実(日経テレコン・9 月記事より)が関係しているとも考えられる。 次に、仮説 1‐3の後半部分である「商品自体に、定番イメージが植えつけられており、 その反面、時代遅れのイメージがある。 」を検証する。そこで、おーいお茶の商品について のイメージのタイプを抽出するために、因子分析をおこなった。表 3-10 は因子分析の結 果を記載したものである。なお、分析方法としては、最尤法を用い、バリマックス回転後 の因子負荷量を示すことにする。 表 3-10 <おーいお茶の商品イメージに対する因子分析の因子負荷量> 流行的な⇔時代遅れな 現代的な⇔古風な 若い人向きの⇔中年向きの 高級そうな⇔高級でない 信頼感のある⇔信頼感のない 親しみやすい⇔親しみにくい 男性的な⇔女性的な 第1因子 0.899 0.794 0.688 0.497 -0.045 -0.065 -0.139 第2因子 -0.105 -0.024 -0.031 -0.011 0.998 0.391 0.14 第3因子 -0.137 0.122 0.288 -0.411 -0.014 0.627 -0.367 第 1 因子は「流行的な⇔時代遅れな」 「現代的な⇔古風な」 「若い人向きの⇔中年向きの」 「高級そうな⇔高級でない」の3項目であり、これは、 「流行」を表す因子であるといえる。 (因子の説明率は 31.3%) 第 2 因子は「信頼感のある⇔信頼感のない」の項目であり、これは「信頼感」を表す因 子であるといえる。 (因子の説明率は 17.0%) 第 3 因子は「親しみやすい⇔親しみにくい」 「男性的な⇔女性的な」の2項目であり、こ れは、 「性別」を表す因子であるといえる。(因子の説明率は 11.7%) 第 1 因子である、 「流行」を表す因子の平均値を算出すると、3.29 という値になった。 (1 に近いほうが流行志向が高い)また、第 2 因子の平均値は、2.16、第 3 因子の平均値は 2.51 となった。 (第 2 因子は、1 に近いほうが信頼感が強く、第 3 因子は、1 に近いほうが男性 的なイメージが強い)以上の結果を受けて、おーいお茶の商品には、 「流行的ではなく、信 頼性が高い定番的イメージ」が与えられていることがわかった。よって、仮説 1-3 の後半 部分である、「商品自体に、定番イメージが植えつけられており、その反面、時代遅れのイ メージがある。 」が支持されたことになる。この結果になった原因として、おーいお茶はメ ディアへの露出機会が少ないので、流行的なイメージを与えていないということが考えら れる。しかし、定番イメージが強いため、「おーいお茶を買っておけば間違いない」という ある種の「同調志向」を持った層には問題ないのではないか。(事実、伊藤園は、広告費を 18 削減したことで業績を伸ばした。)このことは、3-2 節で述べることとする。 3-1-4.テレビ CM がブランドに与える効果の考察 以上の分析の結果を受けて、仮説を検証していく。まず、仮説 1 については、表 3-5、 表 3-7 の t 検定の結果より、テレビ CM の認知度は、商品に対して、イメージを与えてお り、伊右衛門と生茶については、少なからずテレビ CM の効果があることがわかった。一 方で、仮説 2 の「それぞれの CM において、CM を見せないグループと CM を見せるグ ループでは、商品イメージが異なる。」は、表 3-6 と 3-8 の結果より、1 項目に対して有意 な差が見られたが、仮説は支持されなかった。要するに、テレビ CM を先に見せようが見 せまいが、商品に対するイメージは変わらないということであった。 今回の分析結果を受けて、 「テレビ CM の効果は依然として残っているが、以前のそれと 比べて、明らかに弱くなっているのではないか。 」という結論に至った。現在、情報は受け 取るものではなく、インターネット上の SNS や企業 WEB サイトを使い、消費者が自ら情 報を取りに行く時代となっている。テレビ CM はといえば、従来は、一方的に消費者に対 して、情報を流し、受け取ってもらう、いわば受動的なメディアであった。マスメディア の力が強かった時代ならその方法でよかった。しかし、時代は変化した。今後のテレビ CM の在り方としては、ただ単に商品の説明をするのではなく、面白い CM、印象に残る CM を 制作して、消費者の記憶に残り、ザッピングされないようにする必要があるのではないか。 インターネットの台頭を筆頭に、あらゆるものがメディアとなる時代に突入し、マスメデ ィアのいわば「王様」といえるであろうテレビにおいても、そのあり方を考えなければな らない結果となったといえるのではないだろうか。 3-2. 社会心理傾向とペットボトル緑茶飲料の好み 次に、伊右衛門とおーいお茶を好む人には、どういった社会心理傾向があるのかという ことを検証する。 3-2-1.「サントリー・伊右衛門」編 仮説 3-1 である、「伊右衛門を好む人は、流行指向が高く、京都を好む」を相関分析に より検証する(表 3-11,12 参照)ここでは、第二章でも述べたとおり、付録の質問紙におけ る、「流行についての記事や話に関心がある」「流行を取り入れることによって自分の個性 を発揮できる」「服装はほとんどの場合流行のものを買う」の項目をあわせた尺度を、「流 行尺度」と呼ぶことにする。 (信頼性分析の結果、α係数が 0.73 と高い数値が検出された。) また、表 3-12 は、「京都に親しみを感じる」という項目の結果と、ペットボトル緑茶飲 料の好みについて相関分析したものである。 19 表 3-11 <流行尺度とペットボトル緑茶飲料の好みとの関連性> 伊右衛門 生茶 おーいお茶 相関係数 有意水準 0.25 0.01 0.08 0.46 0.13 0.12 表 3-12 <京都とペットボトル緑茶飲料の好みの関連性> 伊右衛門 生茶 おーいお茶 相関係数 有意水準 0.21 0.03 0.11 0.34 0.53 0.61 表 3-11、3-12 の結果より、それぞれにおいて、有意な結果が得られた。このことより、 仮説 3-1 である、 「伊右衛門を好む人は、流行指向が高く、京都を好む」は支持された。こ の結果より、「京都」を舞台に、老舗のイメージを植えつけさせようとしている伊右衛門の テレビ CM の方向性は正しいということができるのではないだろうか。 3-2-2.「伊藤園・おーいお茶」編 仮説 3-2「おーいお茶を好む人は、同調志向が高い。」を相関分析により検証する。(表 3-13 参照) ここでは、第二章でも述べたとおり、付録の質問紙における、「自分のことより他人のこ とを考えるほうだ」 「物事がうまくいくためには自分の気持を抑えるほうだ」「自分と比較 するために人に注目することがある」の項目をあわせた尺度を、「同調志向尺度」と呼ぶ ことにする。(信頼性分析の結果、α係数が 0.62 という比較的高い数値が検出された。) 表 3-13 <同調志向尺度と緑茶の好みの関連性> 伊右衛門 生茶 おーいお茶 相関係数 有意水準 0.18 0.08 -0.02 0.83 0.10 0.32 相関分析の結果、有意な差は得られず、仮説 3-2「おーいお茶を好む人は、同調志向が高 い。 」は支持されなかった。おーいお茶には緑茶の定番イメージがあるが、それを好む人は、 20 「知名度が高いから」、「みんなが買っているから」といった理由ではなく、味や香りにつ いて、自分の好みとあっているという理由ではないだろうか。 3-2-3 社会心理傾向とペットボトル緑茶飲料の好みについての考察 以上、3-1-1,3-1-2 の結果より、 「伊右衛門を好む人は、流行指向が高く、京都を好む」と いう仮説は支持されたが、「おーいお茶を好む人は、同調志向が高い。」は支持されなかっ た。伊右衛門は、メディア露出が多い為、流行指向が高い層が好んでいるのではないだろ うか。いわば、 「広告費かけ、テレビ CM を多く流せば、少なからず流行的なイメージを植 えつけることができるといえる」のではないか。 この結果を受けて、ペットボトル緑茶飲料の好みと、テレビ視聴時間との相関関係につ いて相関分析を行ったところ、表3-14 のような結果となった。 表 3-14 <ペットボトル緑茶飲料の好みと、テレビ視聴時間との相関関係> 相関係数 有意水準 伊右衛門 -0.19 0.25 生茶 -0.03 0.77 おーいお茶 -0.22 0.03 この結果より、おーいお茶の好き・嫌いの程度と、テレビ視聴時間との間には、弱い 負の相関関係があることがわかった。 「テレビ視聴時間の少ない層が、おーいお茶を好む」 ということであり、やはり、おーいお茶の商品は、テレビ CM からイメージを受けてい ないということが伺える。その一方で、伊右衛門、生茶のそれからは相関関係は得られ なかった。 21 第四章 結論 今回の研究結果を受けて、 「テレビ CM は、ペットボトル緑茶飲料に対して、少なからず 影響を与えている。しかし、その効果は、以前のそれと比べて減少傾向にある。 」というこ とがわかった。伊右衛門、生茶については、ある程度テレビ CM の効果が検証されたが、 先行研究と比較すると、表 1-2 のように圧倒的にテレビ CM の効果が強いという結果には ならなかった。少々大げさな言い回しになるかもしれないが、 「テレビ CM の果たす役割は 変化してきている」ともいえるのではないだろうか。「テレビ CM 崩壊」の本の中で、「テ レビ CM は少なくとも現状の形では、すでに死んだ、あるいは死に行く運命にある、また は役割を既に終えてしまったフォーマットである」としている。今回の研究の結果も少な からずこれに当てはまるといっていいだろう。 3 種のブランドの中で比較すると、テレビ CM の効果が最も表れている商品は伊右衛門で あった。その一方で、おーいお茶のテレビ CM の効果は、今回の研究からは示すことがで きなかった。テレビ CM の効果の強弱は、表 3-3<ペットボトル緑茶飲料の好き嫌いの頻度 >の順位と同じであり、 「テレビ CM のイメージが強い商品ほど、消費者から好まれる確率 が高い」と判断することができるとも言えるだろう。 しかし、テレビ CM に対する広告費を増やせばそれに比例して、効果があがるとは考え づらい。ただ単に商品の説明をするのではなく、面白く、印象に残るような表現にしない とザッピングの的となってしまうからである。今回、テレビ CM の効果が最も出た伊右衛 門のテレビ CM は、表現に工夫が凝らしてあり、印象に残る内容であったと言えるのでは ないだろうか。 テレビ CM の魅力は、何といってもそのリーチの広さである。仮に視聴率が 10%の番組 があったとすると、国民の約 1000 万人がその番組を見ていることになる。もし、テレビ CM が、その番組と同等な面白さ、インパクトを持っていれば、瞬時に 1000 万人にメッセ ージを与えることができる。テレビ CM 以外には、そういったメディアはない。 テレビ CM は少なからず、商品、企業に対してイメージを与えている。今回の調査の被 験者は、96 人と少ないものの、図 3-4 でも示したとおり、約 15%の人が、テレビ CM から 受けたイメージを参考に、購買を決定している。しかし、IT media News の中で、「HDD レコーダーによるテレビ CM スキップで、約 540 億円の広告費損失が発生している―野村 総合研究所(NRI) 」という事実も発表されているなど、テレビ CM の未来は決して明るい とはいえない。今後は、テレビ CM の在り方を考え直していくことが必要となってくるの ではないだろうか。 22 参考文献 ・キリンビバレッジホームページ http://www.beverage.co.jp/namacya/ ・伊藤園ホームページ http://www.itoen.co.jp/oiocha/ ・サントリーホームページ http://www.suntory.co.jp/ ・CM 総合研究所 http://www.cmdb.jp/ ・日経テレコン 21 https://telecom21.nikkei.co.jp/nt21/service/CMN1000 ・IT media News http://www.itmedia.co.jp/news/ ・ナリナリドットコム http://www.narinari.com/ ・栗原信征(2002)論文「ブランド選択における広告の影響」 上武大学ビジネス情報学部紀要 第 1 巻第 1 部 ・峰如之介(2006)「なぜ、伊右衛門は売れたのか。」 すばる舎 ・仁科貞文(2001)「広告効果論」 電通 ・飽戸弘著(1987)「社会調査ハンドブック」 日本経済新聞社 ・堀洋道, 山本真理子, 松井豊編(1994)「心理尺度ファイル: 人間と社会を測る」 垣内出版, ・Joseph Jaffe 著 織田浩一監修 西脇千賀子・水野さより訳(2006)「テレビ CM 崩壊」翔泳社 23 筑波大学 社会工学類 矢島慎也 付録 卒論アンケート このアンケートは私の卒業研究のために行うものであり、それ以外の目的では一切使用 しません。お忙しいところ申し訳ございませんが、ご協力よろしくお願いします。 回答の上での注意点 特に指示のない限り、選択肢の中からどれかひとつを○で囲んでください。 その他、指示のあるものについては指示に従ってください。 Ⅰ(1) あなたのことについてお聞かせください。 性別 男 年齢 ( ・ 女 )歳 Ⅰ(2) 、あなたはペットボトル緑茶飲料をどの程度お飲みになりますか。 1.毎日 2 本以上 2.毎日 1 本 5.月に3〜4本 6.月に1〜2本 3.週に3〜4本 4.週に1〜2本 7.月に1本以下 8.まったく飲まない やや好き やや嫌い 嫌い 伊右衛門 1 2 3 4 5 生茶 1 2 3 4 5 おーいお茶 1 2 3 4 5 いえない 好き どちらとも Ⅰ(3) 、ペットボトル緑茶飲料についての好き・嫌いの程度をお知らせください。 Ⅰ(4) あなたがペットボトル緑茶飲料を購入されるときに重視するものは何ですか。 (複数回答可) 1.味 2.香りや風味 5.テレビ CM に出演しているタレント 8.付録(おまけ) 4.テレビ CM のイメージ 3.ネーミング 9.その他( 6.メーカー 7.値段 ) Ⅰ(5)あなたの平均的な一日当たりの TV 視聴頻度はどのくらいですか。 1.4時間以上 2.3〜4時間 5.30分〜1時間 3.2〜3時間 4.1〜2時間 6.30分以下 24 Ⅲ(1)あなたはキリン「生茶」の下の CM シリーズ を見たことがありますか。 1.見たことがあり内容も覚えている 2.見たことはあるが内容はあまり覚えていない 3.見たことがない Ⅲ(2)キリン「生茶」の CM についてどのような印象をお持ちですか。各項目について 全くそう思わ ない あまりそう思 わない どちらともい えない 非常にそう 思う ややそう思う 当てはまるものに○をして下さい。 親しみやすい 1 2 3 4 5 親しみにくい 古風な 1 2 3 4 5 現代的な 日本風な 1 2 3 4 5 外国風な 流行的な 1 2 3 4 5 時代遅れな おしゃれな 1 2 3 4 5 おしゃれでない 落ち着きのある 1 2 3 4 5 慌ただしい 高級そうな 1 2 3 4 5 高級でない Ⅲ(3)キリン「生茶」について、どのようなイメージをお持ちになりますか。各項目に 全くそう思 わない あまりそう 思わない どちらともい えない ややそう思う 思う 非常にそう ついて、あなたのお気持に最も当てはまるものひとつに○を付けて下さい。 男性的 1 2 3 4 5 女性的 信頼感のある 1 2 3 4 5 信頼感のない 高級そうな 1 2 3 4 5 高級でない 若い人向きの 1 2 3 4 5 中年向きの 親しみやすい 1 2 3 4 5 親しみにくい 流行的な 1 2 3 4 5 時代遅れな 現代的な 1 2 3 4 5 古風な 27 Ⅳ(1)あなたは、伊藤園「おーいお茶」の下の CM シリーズ を見たことがありますか。 1.見たことがあり内容も覚えている 2.見たことはあるが内容はあまり覚えていない 3.見たことない Ⅳ(2)伊藤園「おーいお茶」の CM についてどのような印象をお持ちですか。各項目に 全くそう思わ ない あまりそう思 わない どちらともい えない ややそう思う 思う 非常にそう ついて当てはまるものに○をして下さい。 親しみやすい 1 2 3 4 5 親しみにくい 古風な 1 2 3 4 5 現代的な 日本風な 1 2 3 4 5 外国風な 流行的な 1 2 3 4 5 時代遅れな おしゃれな 1 2 3 4 5 おしゃれでない 信頼感のある 1 2 3 4 5 信頼感のない 高級そうな 1 2 3 4 5 高級でない Ⅳ(3)伊藤園「おーいお茶」について、どのようなイメージをお持ちになりますか。各 全くそう思わ ない あまりそう思 わない どちらともい えない 非常にそう 思う ややそう思う 項目について、あなたのお気持に最も当てはまるものひとつに○を付けて下さい。 男性的 1 2 3 4 5 女性的 信頼感のある 1 2 3 4 5 信頼感のない 高級そうな 1 2 3 4 5 高級でない 若い人向きの 1 2 3 4 5 中年向きの 親しみやすい 1 2 3 4 5 親しみにくい 流行的な 1 2 3 4 5 時代遅れな 現代的な 1 2 3 4 5 古風な 28 Ⅴ、あなたは、自分自身についてどのように考えておられますか。次にあげる項目につい て、当てはまるものに○をつけてください そう思う まあそう思う あまりそう思わない 全然そう思わない 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 京都に親しみを感じる 1 2 3 4 洋風より和風を好む 1 2 3 4 自分の友人集団の意見を尊重する 友人集団の仲間と意見の不一致を生じ ないようする 風格のある大人に憧れる 流行についての記事や話に 関心がある 流行を取り入れることによって自分の 個性を発揮できる 自分のことより他人のことを 考えるほうだ 物事がうまくいくためには自分の気持 を抑えるほうだ 自分と比較するために人に注目 することがある 服装はほとんどの場合 流行のものを買う 以上でアンケートは終了です。ご協力ありがとうございました。 29
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