社会サービスの民営化(5) 小さなシュタットベルケの 大きな仕事 Principal Research Engineer 嶋野 崇文 ハイデルベルク ドイツ 「社会サービスの民営化」 シリーズ5回目は、 ドイツの小さな町の小さなシュタット ベルケ (地域サービス会社) が大きな仕事を担っている事情を、 ドイツ現地調査 を踏まえてお伝えします。 ドイツやオーストリア、 スイスに見られる地域サービス バーデン= ヴュルテンベルク州 シュツットガルト バイエルン州 シュベビッシュ・ハル 会社、 シュタットベルケ。 その役割や事業の概要については、Iʼs View「社会 サービスの民営化(1)ドイツ地域公社による地域サービス」 で紹介されています ので、 ここでは割愛します。 1 ドイツの小さな町のシュタットベルケ レーション・エネルギー高度利用センター(略称:コー ジェネ財団)の主催によるドイツ事例調査団(団長:柏木 孝夫 コージェネ財団理事長/東京工業大学特命教授、 副団長:秋澤 淳 東京農工大学大学院教授)に参加し、マ ンハイム市、ハイデルベルク市、シュベビッシュ・ハル市 のシュタットベルケ、関連するソフトウェア会社、そして 大規模な石炭火力発電会社の調査を行ってきました。 この中から、小さな市のシュタットベルケ「シュタット ベルケ・シュベビッシュ・ハル(Stadtwerke Schwäbisch Hall、以下、SWSH)」の特徴ある企業活動について紹介 します。 シュベビッシュ・ハルはハイデルベルク (Heidelberg) の東120kmほど、シュツットガルト (Stuttgart)の北東 80kmほどに位置する人口が約3.7万人の小さな市です。 この小さな市にある従業員数420名の、 ドイツでは 小規模に分類されるシュタットベルケが意欲的な事業 スイミング・プールなどの地域の公共サービスの提供を 担っています。 SWSHの収益構造は、上記①・③・⑥で利益を計上して いますが、④・⑤では€500万/年(約7億円/年)の損失 が発生しています。公共駐車場とスイミング・プールは市 有施設の管理・運営を行っているのですが、損失に対す る市からの補填は行われていません。SWSHに確認した ところ、 このような公共施設の運営をシュタットベルケが 行って損失が出た場合には、 ドイツの連邦法による税制 優 遇 制 度 があり、€ 5 0 0 万 の 損 失 に対して、税 優 遇 が €600万得られるため、 トータルで€100万の得となると の回答でした。 地域にとって必要であるけれども、純民間によるサー ビス提供が成り立たないサービスと、一定の利益が得ら れるエネルギー等の供給を一体的に運営・維持管理す るシュタットベルケの存立のために、国の税制度設計が なされているということに感銘を受けました。 展開を行っていました。 2 地域の公共サービスを担うSWSH SWSHのサービス供給エリアは、人口約3.7万人の シュベビッシュ・ハル市の他、市周辺地域を含む18.6万 人の地域に及びます。1970年に創設された市100% 出資のGmbH(有限責任会社)で、主な事業は①エネル ギー等の供給(電力・天然ガス・地域熱供給・上水道)、 ② ① の インフラ・ネットワークの 運 営 、③コージェネ (CHP:Combined Heat and Power)プラント操業、 ④公共駐車場の運営、⑤スイミング・プールの運営、そし て⑥他の自治体企業へのサービス・プロバイダー(請求、 コントロールセンター、契約、コンサルティング等)です。 これら合計の年間売上高が€262百万(約340億円@€1 ≒140円) です。 S W S Hは小 規 模なシュタットベルケですが、エネル SWSHが運営するSchiedgraben駐車場 社会サービスの民営化 2015年5月31日から6月5日まで、 ( 一財) コージェネ ギ ー 等 の 供 給 の ほ か に、公 共 駐 車 場 の 管 理・運 営 や (5) シュベビッシュ・ハルのまちなみ Energy Data Management Supervisory Control And Data Acquisition 図1:Stadtwerke Schwäbisch Hallの事業構成 i 社会サービスの民営化 (5) 3 シュタットベルケと自治体の関係 環境下で、SWSHは新しい事業領域を生み出しました。 市100%出資の有限責任会社であるSWSHが事業で 利益を上げると、どのような処理が行われているのか、 ヒアリングしてみました。 SWSHの2013年の税引前利益は約€734万(約10.3 億円)で、その内の約€400万(約5.6億円)を市に利益移 転(還元) しています。 このようにシュタットベルケは、地域内で職員を雇用し、 地域内でエネルギーを作り出して供給し、その事業に よる利益を市に還元するという地域内での経済循環の 要となっているのです。 このようなメリットがあるからドイ ツにお けるエ ネルギ ー 供 給 の自由 化を 経ても、市 が 100%出資し、シュタットベルケを保有し続けているのだ と考えられます。 市とSWSHの関係を把握するもうひとつの視点、経営 者や従業員は市からの出向者や転籍者(いわゆる天下 り)が居るのか聞いてみました。20年間社長を務めた方 が昨年退任され、新しい社長が就任したのですが、いず れの方も民間出身者で、職員についてもエネルギー供給 などの 専 門 能 力 が 必 要 なため、すべて自社 採 用です。 我々が訪問したときも、大学の修士課程に在籍中の学生 が、インターンシップ採用され、 ミーティングに同席して いました。 このようにシュタットベルケは運転資金の面でも、人員 の面でも市から独立していることが窺えました。 事業で得た内部留保からの再投資や金融機関からの 融資を得て、新しいシュタットベルケを設立し、運営を 支援する事業です。1998年の電力自由化に伴いスター トしました。 シュタットベルケを設立、運営するには様々な複雑な 処理、自由化による売電先の変更、手続きなどが必要で、 新しく設 立されるシュタットベ ル ケ の 作 業 の 代 替 を SWSHが担うのです。 現在では、SWSHは19地域の約50万人に対するシュ タットベルケのサービス・プロバイダーとなっています。 設立したシュタットベルケから利益を得る方法も二通 りの戦略を用意しています。ひとつは、新しいシュタット ベルケの設立時から立ち上げに関与していき、そのシュ タットベルケに出資を行い、配当を得るというものです。 SWSHが設立をサポートしたシュタットベルケ・ジンデル フィンゲン(Stadtwerke Sindelfingen)の出資構成は、市 が50.1%、SWSHが29.9%、そしてジンデルフィンゲンで の従前の電力供給者であったEnBW(EnBW Kommunale Beteiligungen GmbH)が20.0%となっています。 ふたつめは、新しく設立したシュタットベルケの運営・ 維持管理を代行することによるサービス・プロバイダーと しての事業収入を得ることです。 このように小さな街のシュタットベルケが50万人の顧 客 へのエネルギー供 給に関 わるという大きな仕 事を 担っているのです。 4 小さなシュタットベルケの大きな仕事 人口約3.7万人のシュベビッシュ・ハル市、エネルギー と熱の供給エリアの人口でも約18.6万人のSWSH。供 給エリアを拡大するなど事業の拡大投資を行ってはいる ものの、大都市のシュタットベルケのように街の中で顧客 を増やしたり、新領域のサービスを展開するには人口の 母数が少なくて、経営環境は楽観できません。 このような i) 図1 Stadtwerke Schwäbisch Hallの社屋外観 小さな市にあり、小規模だけれども意欲的な経営を 行っているシュタットベルケ・シュベビッシュ・ハル。 今後の日本の地方での分散型エネルギー・インフラの 社会実装や、地域での経済循環による地方の活性化など パシフィックコンサルタンツグループもこの事例のような 貢献ができればと模索しています。 Stadtwerke Schwäbisch Hall GmbHプレゼンテーション資料 Iʼs View : 2016(株) イノベーション推進センター All rights reserved. お問い合わせ先:info@ipc-pacific.com
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