航空雑学 - TechDOC

Chapter 11
フライトシミュレータが
もっと楽しくなる航空雑学
11.1 飛行機はなぜ飛ぶのか? …………………………………162
11.2 翼の役割と操縦系統………………………………………166
11.3 機長よりエライ航空管制官
機長よりエライ航空管制官 ………………………………173
11.4 空はぜんぜん自由じゃない!
?……………………………179
11.5 より着陸を安全にするILS ………………………………183
どうですか? フライトシミュレータで大空を自由に羽ばたいた感想は? 離陸するときのエンジンの
咆哮、時々刻々と変化する計器、そしてパッセンジャー(旅客)では決して見られないコクピットか
らの眺め。どれをとっても、リアルに再現されています。
一見、自分の思いのままに飛んでいる飛行機でも、実際のフライトは大勢の人々に支えられていま
す。Flight Simulator 2002 で登場した ATC(Air Traffic Control :航空交通管制)の管制官をはじめ、
安全かつ快適に飛行できるように機体を整備するメカニック、飛行機を開発したエンジニア。さらに
旅客機は、チケットの予約から搭乗案内まで行うグラウンドスタッフ(地上職員)に、機内の楽しみ
であるミール(機内食)を調理するコックさんまで。そして、自動車よりも安全に飛行できるのは、航
空力学と運行をささえるさまざまな技術があるからです。
さすがにフライトシミュレータでは、ここまで再現できません。しかし、これらを知ることで、より
リアリティのあるフライトが楽しめるでしょう。
11.1 飛行機はなぜ飛ぶのか?
とにもかくにも疑問に思うのは「鉄の固まりがなぜ飛ぶのか?」ということ。フライトシミュレータ
にも登場するボーイング747-400(国際線仕様)は、約170 トンの自重に加え旅客、荷物、燃料を合わ
せ約400 トンという巨体でも離陸できるのです。乗用車にして約270 台分の重さの機体が、なぜふわり
と浮くのでしょうか?
プラモデルの方が5倍も重い!?
400 トンの鉄は固まり
にしたら 3 . 7 m 四方。か
たや機体のサイズは、全
長約 70m、翼の両端まで
の全幅は64m です。そし
てご存知のとおり客室で
中身は空っぽ、翼の中も
燃料タンクになっている
のでカラッポなのです。
驚くことに外壁の厚さは
数 mm で、いちばん薄い
ところで1.5mm ほどなの
です。しかも、鉄の重さ
の 1 / 3 のアルミ合金でで
きているので、大きさの
割にはえらく軽いので
図 11-1
プラモデルは98gもあるのに、同スケールに縮小した実機は21gしかない
162
Chapter 11 フライトシミュレータがもっと楽しくなる航空雑学
す。実機を1/200 スケールのプラモデルまで縮小したとすると、全長は35cm。重さにいたっては、約
21g という計算になり4cm四方の発泡スチロールと同じぐらいになるのです。これは自重だけを考えた
場合ですが、満員だとしてもたったの50g です。ちなみに、747-400 の 1/200 のプラモデル(長谷川製
作所)の重さを計ったところ約98g。つまりプラモデルは、実機を1/200 に縮小したものより約5 倍も
重いのです。
そして飛行機の巡航速
度は、時速 9 1 0 k m。離
陸時でも約 3 0 0 k m と高
速です。ということは、
これだけの風をもろに受
けながら飛んでいるとい
うことです。大型台風の
暴風圏は、だいたい風速
30m/秒(=時速 108km)。
傘は折れ、並木が倒れる
ニュース映像を見たこと
がありませんか? 高速
道路で窓から手をだした
ら、風圧で腕を投げ出さ
れた経験があるでしょ
う。これの 3 倍、 9 倍の
図 11-2
747-400はテニスコート2面分の面積の翼を持つのだ
風を想像してみてくださ
い。たかが風といえども、非常に大きな力を持っているのです。
そして飛行機には、効率よく風を受ける翼があります。747-400 の翼面積は525m2 あります。これは
テニスコート2 面分の広さ。これだけ巨大な翼を持っていて、大きさの割りに軽く、時速300 ∼ 900km
で走っていれば飛びそうな気がしませんか?
163
気圧を自由に変化させれば浮遊できる!
ふだん気にすることもない空気。この地球上
には 5 千兆トンもの空気があり、私たちに重く
のしかかっているのです。その重さは、1cm2 あ
たり 1kg。つまり、この本を読んでいるあなた
は、全身を 1cm の角棒で 1kg の圧力でつつかれ
ているのです。図11-3 のように、水をいっぱい
まで入れたコップにハガキでふたをして、まっ
逆さまにしたらどうでしょう? ハガキはピタ
リとコップに貼り付いたまま、水は 1 滴もこぼ
れません。つまり、水の重さ以上に空気がハガ
キを押し付けているのです。
図11-3
水は一滴もこぼれない! こんな実験で驚くほ
どの大気圧の力がわかる
でも私たちが押しつぶされずにいるのは、四方
八方から均等に力がかかっているため、お互い
の気圧が打ち消し合ってそれを感じないのです。
さて、不思議なコップの実験ですがポイント
は、コップに空気が入らないようにフタをする
ことです。こうすると、コップの中は真空状態
で 0 気圧。これで気圧が打ち消し合うことがな
くなり、ハガキを空気がぴったり 1 気圧で押し
上げます。つまり、図11-4 のようにハガキの上
面の気圧を低く、下面の気圧を高くできれば、
コップと水がなくてもハガキを浮かせることが
できるはずです。
図11-4
水とコップなしで浮かせるには、上下の気圧差を作
ってやればいい
「意図的に上面と下面の気圧を自由に変化さ
せる」これが翼の役割なのです。飛行機の翼の
断面は、図11-5 のようになっています。
ここで空気という壁を翼の断面をした刀で切
り裂くことを想像してください。図11-5 のよう
に、翼の上部を流れる空気は、翼に邪魔されて
下部の空気より流れが速くなります。するとど
うでしょう。上部の空気の密度が薄くなります。
空気が薄くなるとどうなるのでしょうか? 空
気が薄い山に登ると気圧が低くなるのと同様、
164
図11-5
翼上部を流れる空気は速いため、密度が薄くな
り気圧が下がる
Chapter 11 フライトシミュレータがもっと楽しくなる航空雑学
翼上部の気圧が下ります。そして、空気の壁を切り続ければ、常に気圧の差が生じて翼が浮き続ける
のです。でも止まってしまうと上下の気圧は等しくなり、飛行機は墜落してしまいます。
わずかな気圧差がもたらす大きな力
747-400 の翼面積は 525m2。地上に静止して
いれば、翼の上下からそれぞれ5,250 トンの気圧
がかかっている計算です。ここでエンジンをフ
ルパワーにして時速300km まで加速。すると図
11-6 のように、翼上部の気圧は1 気圧を下回り、
翼下部の気圧は約 1 気圧のままになります。こ
れで翼を持ち上げる力、つまり揚力が発生しま
した。気圧差が8 %もあれば、翼の下部から420
トンで押し上げられるのです。
この気圧差を自由にコントロールできなけれ
ば、再び地上に戻れません。さらに小さな空港
図 11-6
たった8%の気圧差。1000m の山に登ると 0.1 気
圧下がるので、それより少なくていいのだ
で滑走路が短く、あまり加速できないまま離陸
するにはどうしたらよいでしょうか?
ひとつは、翼を大きくする方法。翼上部を流
れる空気の道のりをさらに長くしてやれば、さ
らに気圧が下がり揚力が増します。あなたもき
っとフライトシミュレータの教官に「フラップ
を下げて」と指導されたでしょう。フラップに
ついては『11.2 :翼の役割と操縦系統』で詳し
く説明しますが、こうすることで翼の面積を広
くして揚力を増加させます。巡航速度に比べ速
度の遅い離着陸時に「フラップを下げて!」と
図 11-7
揚力を大きくするには翼を大きくする方法と、
速度を上げる2通りがある
指導されるのは、このためなのです。
気圧差をコントロールするもうひとつの方法は、飛行速度です。止まっていれば、気圧差は生じな
いことからもわかるように、速度を上げるほど揚力が増します。じゅうぶんな飛行速度まで加速する
と、教官が「フラップを上げて」と言うのは、このためです。
飛行の基本は「気圧差をコントロールすること」と断言してもいいでしょう。飛行機はさらに、微
妙にコントロールするために、たくさんの翼と可動する小さな翼を持っています。
165
11.2 翼の役割と操縦系統
航空機には、大小さま
ざまな翼があります。そ
の翼のフチには、さらに
小さな可動する翼があり
ます。どんなにちっぽけな
ものでも、空を飛ぶため
に欠かせないこれらの翼
を見ていきましょう。コ
クピットで操縦している
と、見えないこれらの翼
の動き。ここでは、操縦
系統と翼の動きについて
も見ていくことにします。
図11-8
航空機にあるさまざまな翼。これらをコクピットから操作しているのだ
主翼
空を飛ぶのにもっとも
重要な翼です。それだけ
に、航空機の姿勢をコン
トロールするための、小
さな翼がたくさんついてい
ます。また、ジェット旅
客機では大きなエンジン
を吊り下げているので、
すぐに主翼とわかります。
主翼の役目は、ずばり
空に舞い上がるため。エ
図 11-9
同じ翼面積でもグライダー型の方が空気抵抗が少なく効率的。コンコルド
型は抵抗が多く効率が悪いのだが…
ンジンで前進することで
風を受け、揚力を発生させます。ここでポイントになるのが、翼の面積と形。面積は大きければ大き
いほど、大きな揚力が得られます。そしてグライダーのように細長く幅広の形状にすると、もっとも
風の抵抗が少なく効率的に揚力が得られます。ところが、大型旅客機では、客室のある胴体と翼の付
け根には数百トンもの力がかかるため、胴体に近い部分が太くなっています。
では、なぜグライダーのように横にまっすぐではなく、斜め後ろに後退させているのでしょうか?
グライダーやゼロ戦など旧式の飛行機は、真横に伸びる翼が一般的です。これは飛行速度が遅いから。
現在の航空機は、音速より少し遅い亜音速、時速800 ∼ 900km 程度で巡航します。これはマッハに換
166
Chapter 11 フライトシミュレータがもっと楽しくなる航空雑学
算すると、 0 . 6 5 ∼ 0 . 7。
機体にはさまざまな突起
物がありますから、部分
的にはそれ以上の風を切
っている箇所もありま
す。特に主翼上部は、限
りなく音速に近い空気が
流れます。こうなると問
題になるのが、音速の壁。
速度をマッハ 1 まで上げ
ると、胴体先頭や翼がど
んどん空気を圧縮し、マ
ッハ 1 を超えた瞬間、圧
図 11-10
5km先の建物のガラスを破壊する衝撃波。TNT火薬の爆発以上に破壊力を持つ
縮された空気が爆発する
衝撃波(ソニックウェーブ)が発生します。この衝撃波は、図11-10 で示される箇所で発生します。も
し、この発生箇所に翼がかかっていた場合は、その翼はポッキリと折れてしまうほどの力なのです。そ
こで、衝撃波の影響を受けないように翼を後退させているのです。
コンコルドやジェット戦闘機になると、マッハ2 をもオーバーする速度。さらに衝撃波の発生する部
分が、胴体近くになります。そこでデルタ翼という、細い三角形をした翼にして、風の抵抗で揚力が
小さくなるより、衝撃波から逃れることを優先しているのです。
フラップ
飛行機に乗っていて、離着陸するときに主翼
の後ろが大きく伸びているのに気づいた方も多
いでしょう。大型旅客機なら飛行場の見学コー
スからでもよく見えるほどです。いっぽうセス
ナや戦闘機などの小型機ではどうでしょう?
ほとんど見えませんが、ちゃんとフラップがあ
ります。日本語でいうと、高揚力装置。なにや
ら難しい装置に聞こえますが、要は翼を大きく
見せかける装置です。
離陸時は、巡航速度まで加速して滑走路から
テイクオフするのが理想です。しかしこれでは
図 11-11 小型機は主翼の後縁を下に曲げるだけ。大型機
ともなると、仕掛けも大掛かりになる
滑走路が何km あっても足りません。いっぽう巡
航速度で着陸したら、脚に大きな負担がかかるどころか大事故。そこで、航空機の速度が遅いときに
限って、一時的に主翼の面積を広げて揚力を確保しようというのがフラップです。
小型機は、主翼の後縁の一部を下に折り曲げ、上部を流れる風を通常よりもっと遠回りさせてやり
167
ます。すると、図11-11 のように上部を流れる風
がさらに速くなり、気圧がさらに下がることで
揚力が大きくなるのです。大型機の場合はもっ
と大胆で、主翼の後縁をグッと延ばし、さらに
それを小型機同様に曲げます。これだけでも足
りない場合は、前縁も前方に伸ばして揚力を確
保。これで、速度が遅くてもじゅうぶんな揚力
を確保しているのです。
速度がじゅうぶんにある場合は、フラップを
下ろしていると風の抵抗を受けてしまいます。
これでは燃費が悪くなるどころか、フラップに
大きな力がかかり破損してしまうのでこれを格
納します。
フラップの操作は、フラップレバーで行いま
図11-12 スロットルレバー右側にあるレバーでフラップ
を上げ下げする
す。格納状態ではフラップ 0。大きく下ろすに
は、フラップレバーの数値を大きくします。着陸する場合、速度をできるだけ落としてソフトランデ
ィングしたいので、フラップを最大(20 ∼ 30)まで下ろします。離陸する場合は、エンジン全開で速
度を上げていきますから、最大フラップより数段絞って10 ∼20 でテイクオフ。その後ギアと一緒にフ
ラップも格納します。
エルロン
フラップと同様に主翼の後縁にあり、上下に
動きます。和訳すると補助翼。左右の主翼を補
助して、揚力を調整します。
エルロンの役割は、航空機の向きを変えるこ
と。
「ラダー(方向舵)で向きを変えるんじゃな
いの?」と不思議に思うかもしれません。もちろ
んラダーでも、機首の向きを変えられますが、効
率が悪いのです。方向を決める主役はエルロン
で、ラダーはその補助をする翼として使います。
操縦桿を左右に回すと、エルロンが上下しま
す。そして、主翼右のエルロンが上がると、左
主翼のエルロンは下向きに。右エルロンが下が
図 11-13 フラップと似ているが、操縦桿を回すと上下に
動く。これで揚力を微調整して機体を傾ける
ると、左は上向きになるのです。
なぜエルロンを上下することで、方向が変わるのでしょうか? 図 11-13 のように操縦桿を右に回
し、右旋回した様子を見てみましょう。操縦桿の操作で左のエルロンは下を向き、右のエルロンが上
168
Chapter 11 フライトシミュレータがもっと楽しくなる航空雑学
向きに。すると、左主翼
の揚力は大きく右は小さ
くなり、胴体を中心にし
て機体が大きく右に傾き
ます。この傾きをロール
といいます。車でいうバ
ンクに相当します。
機体がロールすると、
機首の方向が加速度をつ
けて右に旋回しはじめま
す。このとき注意するポ
イント。ただ操縦桿を左
右に回すだけだと、旋回
している方向に機体が横
滑りします(図 1 1 - 1 4)。
そこで、旋回する場合は
操縦桿を手前に引いて、 図 11-14
操縦桿を手前に引き機首を上げ気味にしないと、地上に向かって横滑りする
少し上昇する気持ちで操
縦すること。これで、クイズ番組でよく見られる「○○航空で行くハワイ7 日間の旅」でおなじみの飛
行機の映像のように、ググッとかっこよく旋回できます。
スポイラ
図 1 1 - 1 5 のように主翼
の上部の後縁にあり、ほ
とんどエルロンと同じで
見分けがつきません。で
もエルロンは上下しまし
たが、スポイラは上にし
か動きません。そして、
左右まったく同じように
動きます。
スポイラの役割は、揚
力をスポイルする。つま
り、揚力を抑えることに
あります。たとえば、着
陸の時。後輪が滑走路に
図 11-15 主翼上部の一部が立ち上がり空気抵抗が増える。上部の空気の流れが乱れ
揚力が落ちる
169
着地したら、一刻も早く
揚力をなくし前輪を着地
させブレーキをかけなく
てはなりません(エンジ
ンの逆噴射と同時に、タ
イヤについているブレー
キも使います)。そこで、
後輪が着地した瞬間にス
ポイラを上げ、揚力を殺
してすばやく前輪を着地
させるのです。着地後も
スポイラを上げておくと、
風の抵抗を受けブレーキ
としても動作。スポイラ
が別名スピードブレーキ
とも呼ばれる由縁です。
滑走路へのアプローチで
図 11-16
スロットルレバーの左にあるレバーを引くとスポイラが立ち上がる
進入速度が速すぎる場合
は、空中でスポイラを上げ速度を落とすためにも機能します。
また、高高度で巡航中に機内の気圧が下がった場合。天井から酸素マスクが落ちてくるのと同時に、
人が呼吸できる気圧まで緊急に高度を下げる必要があります。機首を急激に下に向けると、どんどん
速度が上がってしまうため、このスポイラを上げ揚力を急速に下げ、エンジン出力も絞ることで、緊
急降下する場合にも使います。
スポイラは、スピードブレーキレバーを引くことで上がります。
尾翼
ほとんどの航空機には、機体後部にも翼がついています。この翼を尾翼と呼び、より安定して空が
飛べるように機能しています。それゆえ安定板とも呼ばれ、英語ではスタビライザと言います。パイ
ロットは、スタビライザと呼ぶ方が一般的です。
尾翼は、水平方向と垂直方向に伸びる翼があります。機体によってはV 字をした尾翼を持つ機体も
あります。垂直方向に伸びている翼は、垂直尾翼。水平方向に伸びている翼が水平尾翼です。
垂直尾翼
バーチカルスタビライザと呼ばれるこの翼。いちばんの役割は、航空機の胴体を進路に対してまっ
すぐに安定させること。機首を左右に振る動きをヨーといい、これを抑える働きをします。
170
Chapter 11 フライトシミュレータがもっと楽しくなる航空雑学
もし進路に対して胴体が傾いていると、垂直安
定板の左右を抜ける風のバランスがくずれ、主翼
と同様に気圧差が発生。すると、気圧差がなく
なるように胴体は自然に進路に対してまっすぐに
なります(図11-17)。
この翼は、機体に固定されているのでコクピッ
トから操作することはできません。
図11-17 機体が左右に振られるダッチロールを抑える。
あまり効きすぎると操縦性能の低下になる
ラダー
垂直尾翼の後縁にある小さな翼がラダー。方向
舵といった方が分かりやすいかも知れません。こ
の翼の役割は、機首の向きを変えてやること。た
だ大きく進路を変えるには、エルロンを使い、ラ
ダーは補助的に使います。
ラダーが活躍するシーンは、おもに横風を受け
たとき。横風を受けると、機体は左右に流されて
しまいます。そこでラダーを操作して、風の吹い
てくる方向に少し機体を傾けます。ちょうど図
11-18 のような姿勢で飛行。すると、機体を斜め
に向けながら進路に対してまっすぐ飛行できるの
図11-18 横風に流されないよう、少し機首を風上に向け
ることでカニ走りならぬカニ飛行に
です。また滑走路に横風が吹いているときも同じ
テクニックを使って、クラブ(蟹)ランディングという非常に高度な着陸方法があります。
ラダーは、コクピットの足元にあるラダーペダルで操作します。機首を右に向けるには右のペダル
を、左に向けるには左ペダルを踏み込みます。マイクロソフト社製のジョイスティックでは、スティッ
クを左右にねじります。飛行経路で常に横風が吹いている場合は、ペダルを踏みっぱなしでは疲れてし
まいます。このとき、ラダートリムを操作すると、ペダルを離してもラダーの位置が固定されます。
水平尾翼
ホリゾナルスタビライザと呼ぶこの翼。巡航高
度で機体を水平に保つためにあります。小型機で
は、水平尾翼の後縁にあるエレベータ(以降で説
明)のみが動作しますが、大型ジェット旅客機で
は、水平尾翼自体もわずかに上下するようになっ
ています(図11-19)。このときの働きは、エレベ
ータ同様に機首を上下に振るピッチをコントロー
171
図11-19 水平尾翼があるから、長い胴体を水平に保てる。
これがなかったら、機内を歩き回れないのだ。感謝
ルします。
胴体の水平は、主翼とこの水平尾翼で保持しています。機内食がサービスされる前後や、目的地到
着の直前など、多くの人が機体後部のラバトリー(トイレ)に集まります。それでも水平を保ってい
られるのは、水平尾翼のおかげなのです。
エレベータ
ビルやデパートのエレベータと同じですから、
昇降に使うことが直感的にもわかるでしょう。
図 11-20 のとおり、左右の水平尾翼の後縁にあ
るエレベータは、機首の上下運動であるピッチ
を調整します。操縦桿を前後させることで上下
に動作します。ただ、主翼のエルロンと違って、
左右のエレベータは同じ方向に動きます。
図11-20 操縦桿を前後に動かすとエレベータが動作する。
大型機は、水平尾翼そのものも少し動作する
操縦桿を手前に引くとエレベーターが上がり、
機首が上を向きます。逆に操縦桿を奥に押すと
エレベータが下がり、機首は下を向きます。ジ
ョイスティックの場合は、前後に倒すことで機
首を上下に向けられます。
曲芸飛行の場合を除き、エレベータは、高度
を昇降するときに補助的に使うという点に注意。
高度を上昇下降させるのは、あくまで主翼とエ
ンジン出力です。エンジンを絞った状態でこの
翼を操作し、機首を上向きにすると失速の原因
になります。
図11-21 機首を少し上げ主翼にあたる風を多くすると揚
力が増す。高高度巡航中も機首を約2度上げ、省エネ飛行
するのだ
エレベータの本当の目的は、機首を上下に振
ること。離陸時にエンジンフルパワーで離陸速度に達したら、ちょっと操縦桿を引いてエレベータを
引くだけでよいのです。こうすることで、機首が少し上を向き、主翼に多くの風を当てることができ
るので、その結果として上昇しはじめるのです。
逆に降下する場合は、エレベータで機首を下に向けるのではなく、エンジンを絞って除々に降下し
ます。緊急に高度を下げる場合は、スピードブレーキを使います。
また巡航高度で水平飛行する場合は、エレベータのトリムを操作して機体を水平に安定させます。
このトリムは機体のピッチを調整することから、ピッチトリムと呼ばれます。
172
Chapter 11 フライトシミュレータがもっと楽しくなる航空雑学
11.3 機長よりエライ航空管制官
Flight Simulator 2002
で初登場したATC。レー
ダーと無線を用いて航空
機の現在位置や高度を把
握し、空の交通整理をし
ています。裏方の役回り
ですが、強い権限を持っ
ていて、たとえ機長であ
ろうとも管制官の指示に
したがわなければなりま
せん。このATC の航空無
線を聞いて楽しむことを
趣味にしているマニアも
いるほどで、なかなか奥
が深いのです。
いちがいに航空管制と
図 11-22
出発地から目的地まで管制は次々バトンタッチされる
言っても、管制官ひとり
が出発空港の離陸から、目的地への着陸までは行いません。管制はある区域や空域によって行われ、
出発地から目的地まで管制がバトンタッチされるのです(図11-22)。航空機から見れば、飛行経路を
担当する区域の管制官を呼び出し、安全に誘導をしてもらいます。
出発5分前! デリバリー
管制は、エンジンをスタートさせる前からはじまります。あらかじめ提出してある飛行経路(フラ
イトプラン)に対する許可を、まず承諾してもらいます。このときに呼び出すのがデリバリー。たとえ
ば、出発機の便名が「MS736 便」で羽田から福岡までのフライトの場合。出発5 分前から管制がはじ
まります。
MS736「Tokyo Delivery. MS736 Over」
こちらMS736 便。東京(羽田)デリバリーどうぞ。
管制
「MS736 Tokyo Delivery. Go ahead」
こちら東京デリバリー、MS736 どうぞ。
このあと、MS736 は福岡までの飛行経路を管制官に告げます。管制官は、あらかじめ提出されてい
るフライトプランと相違がないかの確認を行い、正しければ出発許可を出します。この許可とともに
言い渡されるのが、次に管制を担当するグランドの周波数です。
173
スポットから滑走路までも管制!グランド
フライトプランの許可
が取れても、すぐには飛
べません。飛行機はま
だ駐機場(スポット)
に止まっていて、滑走
路(ランウェイ)まで誘
導路(タクシーウェイ)
を走行していかないと離
陸できないからです(図
1 1 - 2 3)。大きな空港で
は、出発機や到着機で
誘導路がごった返して
いるので、ここでも管制
の指示を受けます。
図 11-23 滑走路まで誘導路を走行する。大空港では、出発機や到着機でごったがえす
ため、誘導路の道順も指定される
MS736「Tokyo Ground.
MS736.Request push
back spot 11」
東京グランド、MS736 です。スポット11 のプッシュバックお願いします。
管制
「MS736. Tokyo Ground. Push back approved Runway 34」
MS736、こちら東京グランド。プッシュバック許可します。滑走路は34 です。
プッシュバックとは、トーイングカーで飛行機を駐機場から押し出してもらうことです。飛行機は
プッシュバック中にエンジンをスタートさせ、トーイングカーを外す前にパーキングブレーキをかけま
す。するとグランドから無線が入り、滑走路までに通る誘導路が指示されます。誘導路には国道と同
じように名前(番号)がついているのです。
しばらくすると、管制はタワーに引き渡されます。
いよいよテイクオフ! タワー
誘導路を走行中にタワーと交信すると、改めて滑走路の番号と、滑走路手前で待機しているように
伝えられます。小さな飛行場では、そのまま離陸許可が出る場合もありますが、羽田や成田といった
混雑した空港では、着陸機を下ろして、さらに直前に離陸した飛行機の乱気流に巻き込まれないよう
に、数分の時間をおいて出発機を滑走路に入れます。飛行機に乗っていて、滑走路が見えているのに
なかなか離陸しないのは、このタワーの離陸許可を待っているときなのです。そして、いよいよ離陸
です。タワーから
174
Chapter 11 フライトシミュレータがもっと楽しくなる航空雑学
管制 「MS736. Wind 340 at 3. Cleard for take off Runway34」
MS736 便。風は340 度の方向から3 ノットです。ランウェイ34 からの離陸を許可します。
340 度というのは、方角を示します。北を 0 として時計回りに 1 周して 360 までの番号で表します。
コクピットのコンパスと同じです。ですから、90 は東、180 は南、270 は西で、340 は北北西というわ
けです。
さて出発許可をもらったら、いよいよ離陸です。滑走路に入って、エンジンをフルスロットルに。大
空に舞い上がると、改めてタワーから無線が入り、ディパーチャにコンタクトするように指示されます。
空のインターチェンジを管制! ディパーチャ
無事に離陸を終えた
ら、ディパーチャと交
信。この管制は、図1124 のように空港周辺の
空域を担当し、出発機
をフライトプランの飛
行経路まで誘導します。
つまり、出発地から目
的地へのハイウェイに
乗るまで、出発機をレ
ーダー誘導します。い
わば航空路へのインタ
ーチェンジの交通整理
を行うのです。なお、
航空路については
「11.4 :空はぜんぜん自
由じゃない」を参照し
てください。
図11-24
滑走路から航空路まで、進路・高度の両方を誘導するのが役割
MS736「Departure. MS736. Passing 2000 climbing to 15000」
ディパーチャ、こちらMS736。現在、高度 2000 フィートを通過。15000 フィートに向け上
昇中。
管制
「MS736. Departure.Radarcontact. Turn right heading 100 for vector to TATEYAMA
VOR. Climb and maintain 15000」
MS736、こちらディパーチャ。レーダーで確認、右旋回して機首を100 度に向けてくださ
い。館山 VOR までレーダー誘導します。高度は15000 フィードまで上昇してください。
175
管制から指定されたとおりに、大きく右旋回して、千葉県の館山VORに向かって上昇します。VOR
は、空の灯台のようなもの。ただ、電灯ではなく電波の標識で飛行機に位置を知らせます。詳細は
「11.4 :空はぜんせん自由じゃない」を参照してください。
さて館山VOR も近くになると、今度は東京コントロールと交信するように指示されます。
空のハイウェイを常時監視 コントロール
さてディパーチャの手を離れると、い
よいよ目的地までの航空路に乗ります。
ここを管理するのは、コントロールと呼
ばれる管制。日本の空は、札幌、東京、
福岡、那覇の4 コントロールで24 時間管
制されています。国内の航空機だけでな
く、アメリカ−アジア便など日本上空を
通過する航空機もすべて管制するため、
24 時間体制なのです。
本州はすべて東京コントロールが管制
を担当しますが、担当区域を越えるとそ
れぞれのコントロールに引き渡されます。
フライトプランどおりに飛ぶ場合は、
ほとんど交信がありません。ただ、コク
ピットのレーダーで進路上に雲が確認で
きる場合などは、コントロールを呼び出
して高度の上昇許可もらいます。もちろ
ん、許可を得なければ高度を変えること
も進路を変更することもできません。
図11-25 各コントローラの担当空域。この空域はさらに細かいセ
クターという区分に分けられ管制される
巡航経路から離脱し空港へ! アプローチ
目的地に近くなると、コントロールからアプローチに管制が渡されます。図11-26 のようにアプロー
チは、着陸機を航空路から目的空港まで管制します。段階的に高度を下げる指示が出されると同時に、
機首方位や先行機との距離を取るための速度制限もありますから、とてもにぎやかです。管制官から
の呼び出しに注意していないと、聞き逃してしまいますから注意してください。
では、空港の滑走路までをレーダーで誘導してもらいましょう。
MS736「Fukuoka Approach. MS736. Descending to flight level 150. Passing 163. Information
Hotel.」
176
Chapter 11 フライトシミュレータがもっと楽しくなる航空雑学
福岡アプローチ、こちらMS736 便。現在の高度は約16300 フィートで15000 フィートまで
下降中。福岡空港のATIS 情報 H を確認しました。
「MS736, Fukuoka Approach. Depart KOKURA VOR heading 250 for vector to final
管制
approach course. Descend and maintain 8000」
MS736、こちら福岡アプローチ。小倉VOR を通過したら機首方位を250 にして、最終進入
経路までレーダー誘導します。高度を8000 フィードまで下げてください。
「A T I S」とは、空港
の風の情報や滑走路の状
況を案内している無線で
す。数十分ごとに情報が
更新され、そのたびにAZ までの情報番号が割り
振られます。Hotel とい
うのは、情報H というこ
とになります。
目的空港に先行する
着陸機がいる場合は、飛
行速度を落とす指定を受
けたり、空港上で旋回す
る旨の指示を受けるとき
があります。何度か高度
を下げる指示を受け、い
よいよ着陸になると、
図11-26 航空路から離れ目的地空港の滑走路直前まで誘導するのがアプローチ。高
度と進路、両方を誘導する。
「MS736. Cleared for ILS approach runway 24. Contact Tower 124.35」
管制
MS736。滑走路 24 への ILS アプローチ(電波誘導着陸)を許可します。124.35MHz でタワー
と交信してください。
との通信が入り、ILS(詳細は「11.5 :より着陸を安全にするILS」参照)を使った最終着陸態勢に入
ります。
最終着陸態勢を管制 タワー
出発のときにもお世話になったタワーですが、目的地空港のタワーにまたお世話になります。ここ
は、最終進入経路から着陸までを管制します。
最初にタワーと交信すると、アウターマーカーを通過したら再度交信する旨伝えられます。コクピ
177
ットでアウターマーカーを確認(詳しくは「11.5 :より着陸を安全にするILS」を参照)したら、
MS736「MS736. Outermaker Inbound」
MS736、アウターマーカーを通過しました。
管制
「MS736. Wind 300 at 10 continue approach.」
MS736 便。風は300 の方向から10 ノットで吹いています。そのまま着陸を続けてください。
滑走路も大きく見えはじめました。そこでタワーから着陸許可が出ます。
管制
「MS736. Wind 280 at 8. Cleared to land.」
MS376。風は280 度から8 ノット、着陸を許可します。
コクピットでは、操縦桿とスロットルを握る手に汗が浮かびあがります。着地寸前でフレア、脚が
接地したところで、スラストリバーサを全開にしてエンジンを逆噴射。非常にソフトにランディングで
きました。
タワーはそれを確認すると、管制はグランドに引き渡され、誘導路を通ってスポットに向かいます。
このように、航空機はスポットからスポットまで地上から管制されるのです。
178
Chapter 11 フライトシミュレータがもっと楽しくなる航空雑学
11.4 空はぜんぜん自由じゃない!?
航空管制でもふれましたが、
空には道があります。もちろ
ん目には見えません。しかし、
航空機の無線機を使うと、そ
の道筋が見えるのです。この
航空機専用の道を航空路とい
います。パイロットたちは、
この航空路の地図を持ち歩き、
それから外れないように飛行
しています。
高速道路にインターチェン
ジがあるように、航空路にも
インターチェンジがあります。
これば V O R / D M E などといわ
れる電波標識で、海でいう灯
台にあたります。世界のあち
こちにある V O R / D M E をはじ
めとした電波標識を結んだ直
線。それが航空路です。
図 11-27
日本上空の航空路。多くの無線標識で網の目のように整備されている
もっとも基本的なNDB
まさに灯台ともいえる原始的な電波標識が NDB(Non
Directional radio Beacon :無指向性無線標識)。これは
航空機に搭載されている
ADF( Automatic Direction
Finder:自動方向探知機)とセットで使われます。
NDB はほとんどの空港や航空路にあり、日本には約70
の NDB 局があります。混信しないように、それぞれ決め
られた周波数の電波を発信しています。この電波は、局
を中心に 360 度の全方位に発信されていて、到達距離は
50 ∼ 200 マイル(90 ∼ 370km)。この範囲内にある NDB
の周波数に ADF をセットすると、水平位置指示器に矢印
が表示されます。この矢印が向かう先がNDB の方向です。
ADF では、NDB の方位はわかりますが、距離がわかり
ません。ただNDB の上空を通過すると、矢印がクルッと
反転するので、通過したことは確認できます。
179
図 11-28 NDB 局を ADF で探知しながら飛行す
れば、横風に流されても目的地までたどり着ける
より正確な方位を知るVOR
NDB は低い周波数の電波
を使っているため、電波の
受信範囲も狭く、悪天候だ
と誤差が生じます。そこで
VHF 帯という高い周波数の
電波を用いているのが、
VOR
( VHF Omuni directional
Radio beacon :超短波全方
向式無線標識)。V O R では
基準になる電波と、方角に
よって周波数が異なるふた
つの電波を使い、方角の精
度を高めています。
VOR のほとんどが後述す
る D M E とセットで使われ、
日本には V O R / D M E 局が約
1 1 0 箇所あり、 N D B 同様に
図11-29
ND(ナビゲーションディスプレイ)で確認したVOR局。
それぞれに周波数が割り当
てられています。コクピットでは、目的の VOR 局に周波数を合わせることで、無線磁方位指示計に
VOR局の方向が表示されます。さらに、VOR 局に向かっている場合はTO が、遠ざかっている場合は
FROM が合わせて表示されます。
VOR局との距離を知るDME
たいてい VOR とセットに
なっている DME(Distance
Measuring Equipment :距
離測定装置)。電波を使っ
て航空機とDME 局の距離が
計算され、コクピットの水
平位置表示計に示されます。
VOR 単体では「ぶいおーあ
ーる」、D M E 単体では「で
ぃーえむいー」と呼びます
が、V O R / D M E が併設され
ている場合は「ぼるでめ」
図11-30
NDで確認すると対象のDME局までの距離が表示される
180
Chapter 11 フライトシミュレータがもっと楽しくなる航空雑学
と呼ばれます。
また VOR/DME 局と機能は同じものの距離の測定方法が異なる、VORTAC(ぼるたっく)という電
波標識もあります。
このように、VOR/DME や VORTAC の方角と距離、そして後述するこれらの位置が記された地図が
あれば、空を飛んでいて迷子になることはありません。
何階建てにもなっているハイウェイ
これらの無線標識局を
線で結んだものが航空路
です。 V O R 同士の航空
路は、幅8 マイル
(14km)
の道(図 11-31)。自動車
の道との違いは、高さを
持っていることです。航
空路は、幅 1 0 k m 高さ数
k m の四角いチューブ状
になっているのです。こ
の中を上り下りに分け飛
行します。
とくに太平洋を横断す
る航空機は非常に多く、
VOR/DME の電波も届き
図 11-31 チューブ状の航空路を何機もの航空機が通過。もちろん通行区分は、管制
から指定を受ける
ません。そこで空が渋滞
しないように、幅100 マイル(180km)の航空路を設けています。太平洋線に搭乗して夜空を窓から
のぞいていると、並行している航空機のストロボライトを見ることができます。
空のロードマップ
世界中の空には、無線電波標識と航空路が網の目のように張り巡らされています。ドライバー向け
のロードマップがあるように、パイロット向けのエアウェイマップがあります。これをエンルートチャ
ートといいます。
エンルートチャートには、各飛行場の出発・進入経路や滑走路の情報、そしてVOR/DME などの無
線標識の場所とその周波数などが記されています。本来であればパイロット専用のマップですが、航
空ファン向けに出版されているものなどもあります。本格的に楽しみたい場合は、これらを入手する
とよいでしょう。
Flight Simulator 2002 には、エンルートチャートの簡易版である、フライトプランナーが用意されて
います。最初のメニューの[フライト!]ボタンをクリックして[フライトプランナー]を選びます。
181
ここで出発・到着空港を
選んで、さらに低高度か
高高度の[エアウェイ]
を選び、[ルートの検索]
をクリックします。
すると VOR/DME、航
空路のマップが表示され
ます。
マップの右にある一覧
から、VOR をダブルクリ
ックするとその周波数な
どの詳細が 表示されま
す。さあ、あなたも本物
のパイロットさながらに、
航空路を守って安全に運
行してみましょう。
図 11-32
VOR局の周波数を調べる場合は、フライトプランナーを活用する
182
Chapter 11 フライトシミュレータがもっと楽しくなる航空雑学
11.5 より着陸を安全にするILS
飛行機たるもの、飛び立った以上地上に着陸せざるを得ません。みなさんも「離陸したはいいが、
着陸できない!」という経験を何度も重ねているでしょう。また「どこに空港があるかわからない」と
いう場合も多いでしょう。後者の方は、GPS や先に紹介したVOR/DME を上手に使えば、すぐにでも空
港が見つけられます。ところが、前者の「着陸がうまくできない」というのは、技能を磨くしかあり
ません。でも、滑走路までうまく航空機を誘導してくれるILS(Instrument Landing System :計器着
陸装置)を使えば、有視界飛行で着陸するより確実・安全に着陸可能です。日本には ILS を備えた空
港が54 ありますから、Flight Simulator 2002 でぜひ試してみてください。
ILSとオートパイロットを使えば、着陸もほぼ自動化できるのです。
まずはローカライザに乗る
I L S には、滑走路中心
への誘導と、高度の誘導
があります。滑走路の中
心まで電波で誘導してく
れるのがローカライザ。
これは滑走路の末端から
2 種類の電波が発射され、
その中心に航空機があれ
ば、滑走路に向かってま
っすぐ飛行しているとい
図 11-33
滑走路中心に誘導するローカライザ。左右に発射された異なる周波数の電
うことがわかる装置です。 波で、中心にいるかどうかがわかる
ILSローカライザの電波を受信するとPFD に、矢印が表示され
ます。矢印は途中で分断され、分断された線が右か左はじに表示
されます。これは、ILS ローカライザと実際の飛行経路のズレを
表しています。矢印より右にずれていた場合は滑走路は航空機の
左側にあり、左にズレている場合、滑走路は右にあります。矢印
がちょうど重なって、1 つの矢印に見えるとき、それが滑走路中
心に機体があっているときです。PFD に十字バーが表示されてい
る場合は、縦線がローカライザです(Boeing747-400 の場合。他
の機では無線磁方位指示機などに表示される)。
VOR/DME などを使い空港周辺まできたら、高度をゆっくり
2000 フィート程度まで落としながらILS ローカライザに乗りまし
ょう。
183
図11-34 P F D(プライマリフライト
ディスプレイ)で確認したローカライザ
続いてグライドスロープに乗る
グライドスロープは、
滑走路への侵入角を正し
く導いてくれます。滑走
路から約 3 度上の方向に
向かって、 2 種類の電波
が発射され、航空機がこ
の中央にあれば正しい進
入角度ということです。
グライドパスと呼ばれる
こともあります。
図 11-35 滑走路から約3度上空に向けて発射される電波がグライドスロープ。2つの
周波数の電波を使い、その中心を示す
さて、飛行機はローカライザで滑走路中心へ誘導されていますので、今度は高度を合わせてやりま
す。PFD に十字バーが表示されている場合は、横線がグライドスロープです。
あとは計器を見ながら十字を中心に合わせて降下します。コクピットにある[ILS APP]スイッチな
どをオンにすると、ILS ローカライザとグライドスロープを自動的にトレースすることも可能です。
滑走路との距離はマーカで確認
ILS に誘導されしばらく降下していると、滑走路手前約4 マイル(7km)の位置でアウターマーカを
通過します。計器には緑色で通過したことが表示されます。ここでタワーと交信して、最終的な着陸
許可をもらいます。
さらにアプローチを続けると、約0.5 マイル(1km)手前でミドルマーカを通過しオレンジ色で計器
に表示されます。いよいよ着陸です。最後にフレアをかけて、ソフトに着陸します。
184