アンドリュー・デュアー 編著 子ども司書推進プロジェクト

東海学院大学教授兼東海第一幼稚園園長
アンドリュー・デュアー
子ども司書推進プロジェクト
編著
目
次
1.
「子ども司書」の基本-------------------------------------------------2
2.
「子ども司書」は心理作戦-------------------------------------------4
3.子ども司書推進プロジェクトの組織と活動---------------------5
4.
「子ども司書」の制度化----------------------------------------------6
・講座の受講
・学校と図書館の連携
・活動の展開
5.養成講座を立ち上げる工程-----------------------------------------9
・発案・立案
・基本構想
・カリキュラム
・場所と講師の承諾
・実施要項
・チラシやホームページ
・学校へのお知らせと訪問
・教材
・保険および保護者の同意
・セレモニーとオリエンテーション
・講座の実施
・資格の授与式
・報告書
・評価と反省会
・追跡調査、子ども司書だよりの発行
・「子ども司書」の交流会
6.養成講座のカリキュラムの構成---------------------------------14
・図書館の仕組みを理解する
・本の紹介と読み語り方法を学習する
・本の製作過程を体験し学習する
・学校、地域で活動する方法を考える
参考資料:子ども司書養成講座要項(例)
参考資料:「子ども司書養成講座」実施団体一覧
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1.「子ども司書」の基本
図書館や小・中学校にとって,子どもの読書と図書館利用の促進は,使命でありながら,
永遠の課題でもある。学校の宿題としての読書を楽しく思う児童は少ないであろう。し
かし,子どものうちから本と図書館に親しまないと,読まない大人になる。大人になって
から,読む習慣はなかなか身につかない。しかも,大人が本を読む姿を見せない家庭では,
子どもも本を読まない,家族で図書館へ行くこともない,という無読の連鎖が生まれて
いる。まずは大人が本に親しむ環境づくりが,子どもが本に親しむ環境づくりにおいて
大事なことなのである。
しかし,親や学校の先生とは関係なく,子ども同士だけで読書を流行させることは十
分に可能なことであり,子どもたちは友だち同士で本の情報交換をして,読書の世界を
広げている。しかも,本の世界を広げるために図書館の役割や司書の仕事を少しずつ身
につけて,友だちや学校や地域で読書の推進役として活躍することができるのであれば,
真に新しい読書推進の担い手になれる。これまで,子どもの読書活動は大人たちの都合
で活動が推進されてきたが,子どもの読書活動の本質を考えるのであるならば,子ども
たちが子どもたちのために,子どもたちの心理を子どもたちが駆使してそして学校や家
庭や地域で読書の伝道師になってもらえれば,読書環境は全く新しい手法で地域に広が
ることになる。いわば,子どもを読書活動の主役に位置付けることが,「子ども司書制度」
のねらいでもある。
最初にこの作戦を試みたのは,福島県の矢祭町であった。この小さな自治体は図書館
と読書に親しむ内容の講座を1年近くにわたって開催した。受講した子どもは「子ども
司書」として認定され,学校や家庭や地域の図書館で本の魅力を伝える活動を展開する
ようになった。
この平成21年6月に矢祭町で実施された最初の子ども司書養成講座こそが,全国に
「子ども司書」を広げる引き金となり,「子ども司書」の養成講座は全国各地の図書館
や教育委員会で開かれるようになった。
講座の目的は大きく分けて3つになる。
1)受講生が図書館の仕事に触れながら司書のノウハウを習得し,図書館の仕組みを理
解する。
「子ども司書」の養成講座は,小・中学校の読書活動を推進する児童・生徒
を育成するとともに,子ども同士の読書活動を刺激し合い,促進できる人材を養成
するために開講される。
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2)読書のすばらしさを学校の友だちや家族に伝えるために,本を紹介する方法を学ぶ。
養成講座の修了者は自分の学校で,図書委員会の活動,推薦図書リストの作成,読み
語り,「朝の読書」や調べ学習,ふれあいタイム,学級活動などにおいて,リーダーを
務める。
3)本と人を結ぶリーダーを養成すること,すなわち地域に貢献できる人を育てる。
「子
ども司書」は地域では,公立図書館や学習センターなどの催しに積極的に参加し,協
力する。家庭では,「子ども司書」は自分の読書や家族といっしょの読書の時間を
いっそう楽しむ。さらに,「子ども司書」はボランティアとして学校図書館におい
て司書教諭を援助することができる。
これだけの目的を達成するためには,相当時間をかけて教育する必要がある。しかし,
講座では図書館業務を実際に幅広く体験し,読み語り会のための本選びと演出を行い,
ときには自分だけ,あるいは家族と一緒に絵本を作ったりすることもあるので,子ども
にとって楽しく,また家族や友だちとのコミュニケーション深めるきっかけにもなって
いる。子どもたちは「子ども司書」に認定されるために努力した分,その資格を大切に
してくれる。自分の学校の図書委員としても,地元の図書館のボランティアとしても,老
人ホームなどでの語り部としても,培った技術を発揮するなど,学校では育むことので
きない行動力と精神の向上にも成果を現している。
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2.「子ども司書」は心理作戦
「子ども司書」の養成にはいくつかの課題もある。まずは,読書好きな子どもを育て
るには,本と巡り合う機会をつくる必要がある。本は近年のめざましい変化を遂げる電
子機器に押され,子どもの生活環境から失われつつある。今の子どもはインターネット
とゲームのない世界を知らない。携帯電話や情報機器は現代の生活に欠かせないものと
なって,本は情報源としてだけではなく,エンターテイメントとしても競争に負けてい
る。
しかし,本が好きな子どもはまだ潜在的に存在しており,その潜在から顕在化させる
カギが「子ども司書」を養成する活動になるはずである。
子どもの心理がカギである。読書という行為は一人で,見えないところでやることが
多いが,見えるところで本を読めば,周囲の子どもたちは気になる。楽しそうに読んでい
れば,なおさら気になる。恥ずかしく思っていた読書は,格好良くなったりする。
読書習慣を身につけた子ども同士の交流を駆使することによって,読書の楽しさと図
書館利用の有用性への理解を自然に広めることが期待できる。読書の感動と知る喜びに
目覚めた子どもが友だちや下級生にその気持ちを伝えることにより,好奇心が刺激され,
協調願望が働き出し,読んでみようとする気持ちが自然に広がる。親に「読みなさい」
といわれるよりも,友だちに「読んだら面白かったよ」といわれれば読みたくなる。先
生に勧められた本よりも友だちが勧めた本の方が魅力的に見えるはず。ゲームとテレビ
は子ども同士の話し合いによって広がるのと同じメカニズムで,本の話題で読書する意
欲も広がる可能性が充分にある。家庭の協力によってゲームとテレビに触れる機会が制
限されれば,読書の流行する環境が充分に整備され得る。これが,「子ども司書」の考え
の基礎である。
講座への参加も課題である。一連の養成講座は平均して15~20時間ほどになって
いるので,子どもと保護者の時間的負担は大きい。他の活動や休み時間から時間を割け
ないといけないため,途中から休んだりやめたりする子どももいる。15時間は子ども
にとってかなりハードではないかという声もあるが,安易に取れる資格よりも,努力し
て学んだ方が深い理解と達成感につながる。しかも,本と図書館の伝道師となる受講生
の活躍を考えると,努力した分以上の報いは期待できる。
「子ども司書講座」を受けることが何より楽しみだ,という子どもたちの声も多いこ
とが,この活動の有効性を裏付けになっているようである。
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3.子ども司書推進プロジェクトの組織と活動
本が好きな子どもは読書のリーダーになり,図書館が好きな子どもは友達を呼び込む,
というコンセプトに基づいて「子ども司書制度」が誕生し,各地の図書館や自治体は養
成講座を企画している。この養成講座の企画を推進し,認定を受けた「子ども司書」を
活用する団体などを支援するために,「子ども司書推進プロジェクト」が発足した。
最初の子ども司書養成講座が平成21年に福島県矢祭町で開講されて以来,「子ども
司書制度」は全国の自治体まで広がっている。しかし,「子ども司書制度」の「制度」
にはかなり自由度が高いゆえに,講座のカリキュラムの開発および認定を受けた「子ど
も司書」の活動支援など,各自検討しないと実施できない事項が多く,自治体には相当な
負担がかかっている。開講への戸惑いをほぐして,アドバイスの要請に応え,そして各地
の取り組みを研究し共有するために,子ども司書推進プロジェクトが結成された。
子ども司書推進プロジェクトは元々「子ども司書推進全国協議会」として,平成23
年2月に発足した。当時は,制度の普及と強化が主な目的であったが,制度が全国的に広
がるにつれて,「子ども司書」を養成している団体のネットワーク化の需要を満たすた
めにも,姉妹組織である家読推進プロジェクトとの連携を強化するためにも,組織の性
格を「協議会」からより親しみやすく,目標が明確な「プロジェクト」へと移し,平成2
5年12月に現組織に改革した。
「子ども司書制度」を推進することがプロジェクトの主な活動である。具体的に,「子
ども司書制度」のガイドラインを決め,マニュアル策定委員会とともにマニュアルを作
成することや,メンバーの協議と交流を通して講座の質的向上を図ること,年一回の子
ども司書研究大会を開催すること,子どもの読書についての研究を促進すること,「子ど
も司書制度」の知名度を上げる活動を展開すること,インターネットサイト「うちど
く.com(http://uchidoku.com/)
」やラジオ「FMゆーとぴあ」を通してメンバーの活
動内容を集約し公開すること,養成講座の立ち上げを援助すること,家読推進プロジェ
クトおよびその他の読書推進団体と連携することなど,展開する活動は多岐にわたる。
これらの活動はプロジェクト全体として進める場合も,必要に応じて役員の要請で結成
されるワーキンググループによって営まれる場合もある。活動内容は随時,インターネ
ットサイト「うちどく.com(http://uchidoku.com/)」で公開している。
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4.「子ども司書」の制度化
子どもによる読書普及活動である「子ども司書」はまだ十分に知られていない。養成
講座未実施の地域はもちろん,実施しているところでも,「子ども司書」について話すと
きに,必ず説明しなければならないことが多い。これは制度化されていないからである。
「子ども司書」は各地域で実施されているが,「子ども司書」や「ジュニア司書」とい
う共通の呼び名で活動するうえでは,共通の基準で養成することが望ましい。
「子ども司書」は当初から,各々の自治体の独自の講座で養成されてきているが,これ
からは,どこで養成されても同じ知識とスキルが身につくように,統一した「子ども司書
制度」を確立する必要がある。
「子ども司書」の質を保証するためにも,官公庁に認めら
れるためにも,きちんとした基準が不可欠である。
全国のすでに開かれている子ども司書養成講座の実施要項などを調査した結果,共通
な骨格がすでにあることが分かる。
「子ども司書」の教育内容と質を保証するためには,
以下に共通の望ましい基準を提示する。
「子ども司書制度」の「制度」とは,講座の実施と受講,活動の場である学校と図書館の
連携,そして活動の展開,という3部構成である。どれも欠かせない。
● 講座の受講
講座の受講は,「子ども司書」になるための必須条件である。
「子ども司書」の養成講
座を小・中学校,公共図書館,教育委員会のいずれか,またはそれらの合同で実施しなけ
ればならない。講座の総時間は最低12時間,可能な限り16時間以上にしなければな
らない。
図書館の仕組みおよび司書の仕事,読み語りの演習,本の紹介の仕方についての内容
は必須であり,併せて10時間以上を要する。図書館の仕組みと司書の仕事に関する部
分は原則として図書館で学習する。受講生は時間の8割以上出席しなければならないが,
主催側の判断で欠席を不可にすることができる。主催側に合格の条件を委ねるが,点数
などによる評価はしない。講座の初回にはオリエンテーションを実施する。資格の授与
式を行わなければならないが,最終回に挙行する,それとも別途セレモニーで挙行する
かは主催側の判断に委ねる。講座の講師は内容を教えるのにふさわしい知識と経験を有
する者にしなければならない。
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● 学校と図書館の連携
学校と図書館の連携を築かなければならない。養成講座はどちらで実施してもよいが,
図書館の仕組みと司書の仕事に関する部分は原則として図書館で学習する。資格を取得
した「子ども司書」は学校を中心に図書委員会のリーダーとして活動を展開させる。
連携を実現するために,官公庁(特に教育委員会)の理解と協力は欠かせない。図書
館が単独で講座を開いても,学校における生徒募集や「子ども司書」の活動の展開はで
きなくなる可能性がある。教育委員会の支援がなければ,学校長は安心して子どもの参
加と活動を許可することが難しい。しかし文部科学省が「子ども司書」の制度を正式に
認めていない現在の状況の中,教育委員会は全体としての組織的な協力ではなく,教育
長あるいはその下の担当者の個人判断というレベルで動いている場合が多い。教育長の
個人的支持は大変強い原動力になる反面,人事異動で支持者が交代となった場合,支持
と支援が継続される保証はない。教育長だけではなく,自治体の行政計画に載せた上で
「子ども司書」に関する計画を策定し,市町村の議会の決議などを得ることが安定的継
続につながる。それが最初から難しいようであれば,とりあえず講座を実施して実績を
作ることが重要である。
組織的な支持を得るためには,低コストで高い効果を生めるという説明も効果的であ
る。PTAなどの支援もあれば説得力が高まる。また,子ども司書」は文部科学省の読
書推進政策に合致しているため,講座の実施は自治体の評価を高めるよい事業にもなる。
● 活動の展開
各地域の独自の工夫が必要である。
「子ども司書」の活動の中心は学校になるが,公立
図書館,児童館,学童クラブ,子ども会,塾などでの活動も考えられる。「子ども司書」は
それぞれの場面で許可を得て活動をすることが望ましいが,養成講座の担当者が事前に
打診することができる。
学校では,次のような活動をできるだけ実施しよう。
・図書委員会のリーダーとして,司書教諭ないし学校司書を援助し,委員のまとめ
役となり,新しい委員の研修に参加する。
・校内放送にて読書推進をしたり,「朝の読書」への本(特に新着本)の紹介をし
たり,ときには詩の朗読や読み語りなどをしたりして,全児童・生徒の本に対する
意識を高める。
・下級生への読み語りボランティアをしたり,小さい子どもの読書を助けるいわゆ
る「読書のとも」になったりする。各自のクラスで学級文庫の設置と管理を手が
ける。
(児童・生徒が自分の好きな本を家から持ってきて,一定期間,教室でほか
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の子どもに読ませてあげる学級文庫は特に魅力的である。)
・学校図書館で本のソムリエとなり,ポップを書いたり,友だちに本を勧める。
公共図書館では,同じような活動をボランティアとして展開できるが,その時は「子ど
も司書」のワッペンのようなものを身につけよう。学校でも公共図書館でも,「子ども
司書」の活動についての周知が必要である。「子ども司書」は学校図書館活性化にも大
きな役割と貢献が期待できる。
この基準の制定と管理は子ども司書推進プロジェクトが行う。基準の内容は教育環境
と政策の状況に応じて,検討の上,改正することがある。文部科学省など子どもの読書を
管轄する公共団体の動向(特に,求め続けている「子ども司書制度」の正式採用)によ
る改正が考えられる。現時点では,子ども司書養成講座の認可は不要であるが,上記の内
容は各自治体の講座の高い質を保証するために採択されたい望ましい基準である。講座
の主催者に賛同と協力を仰ぎながら,密な情報交換や報告も願っている。
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5.養成講座を立ち上げる工程
子ども司書を養成するためには,養成講座を立ち上げ,実施しなければならない。組織
や会場,運営方法などの各面において,全国ですでに実施されている講座は実に多様で
ある。各自治体は自分の独自性を盛り込みながら,既存の講座を参考にすることができ
る。しかし,初めて講座を企画するとき,以下の事項について検討する必要がある。
● 発案・立案
発案・立案は読書推進運動のニーズから始まる。
・子どもの読書を推進するためにリーダーを養成したい
・家族ふれあい読書「家読」の政策の一環として養成したい
・「読書のまち宣言」の主力事業として養成したい
・学校の図書委員をもっときちんとした組織にしたい
・夏休みの企画として開講したい
・生涯学習計画の一環として開講したい
養成講座を作るきっかけは実にたくさん考えられる。しかし,すべてにおいて,結果と
して「子ども司書」を養成することになるので,養成講座をきちんと立ち上げ,質を保証
する必要がある。どの目的で講座を始めようが,輩出する「子ども司書」は全国どこで
も通用する養成を受けていなければならない。構想の段階から教育委員会・地域の学校・
図書館の三者の連携と協力が整っていれば,理想的である。
発案者が学校である場合,単独で運営するケースと教育委員会の許可を得て運営する
ケースが考えられる。単独で講座を立ち上げようとする場合,講座は小規模になるが,ま
ず開講する許可は非常に取りやすく,校長の一存で始められる。児童・生徒募集も比較
的に楽である。その半面,認定証は他学校などで通用しないかもしれないし,他の学区の
子どもが受講を希望しても受け入れにくいかもしれない。また,独自に開講することで
あれば,学事日程や教職員の勤務体系に影響しないように時間を確保することは難しい
ので,講座の日取りは案外と難しい。教育委員会の許可と支援を仰いで運営する場合,上
述した問題(特に学事日程と勤務体系)は避けられる。その代わり,評価が一段と重く
問われる。
講座を作る要望が教育長や議員,首長などから降りれば,許可を得る手間が省かれる
が,トップダウンであるだけに実施を命じられるスタッフに不安と抵抗が生じる場合が
ある。準備と運営にあてられる先生や司書などが個人的に講座を開く意欲がなければ,
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中途半端な結果に終わる。したがって,立案者は講座の意義と魅力を十分理解を促す努
力をする必要がある。しかし逆に,教育組織の支持が熱い分,学校や図書館で「子ども司
書」の活動の開拓が非常に楽となる。
図書館は施設的にも人材的にも,もっとも講座の運営に適している組織である。図書
館なら,学校の夏と冬の休み期間に講座を開くことができる。単独で立案して実施する
ことには特別な許可がなくてもできる。しかし,まったく独自で開講する場合,学校だけ
で児童・生徒を募集することができず,認定証は必ずしも周囲に認められないので,輩出
した「子ども司書」の活動が制限される。教育委員会の許可と支持を得てから近隣の学
校を回り理解と協力を求めた方がスムーズに進む。
● 基本構想
基本構想は最低限,以下の事項を含めなければならない。
・対象(年齢,人数,参加資格など)
・講座時間
・開講の日時
・場所
・講師
・担当者
・児童・生徒募集
・「認定証」と「子ども司書関連グッズ」の効力
・「子ども司書」の活動構想
● カリキュラム
カリキュラムは講座の骨子であるため,しっかりと検討する必要がある。独自性を大
切にしながら,「子ども司書」の趣旨の具現化および活動に必要な知識の習得が中心と
なるように計画しなければならない。(詳細なガイドラインは以下の別項目で述べられ
ている。)
● 場所と講師の承諾
講座の内容と開講時期などは場所と講師の確保に依存するので,早い段階で場所を選
定し,講師の承諾を得なければならない。
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● 実施要項
基本構想が固まり,講師の承諾を得たら,養成講座の実施要項を書く。実施要項は募集
のチラシと違って,運営と評価に必要ないわゆる「青写真」である。実施要項は教育委
員会をはじめ,図書館,学校,講師など,関係者全員に配布し,詳細かつ正確な共通理解を
図る。一度公布された実施要項を安易に変更できないが,変えざるを得ない場合は関係
者全員にその変更内容を周知させる。
● チラシやホームページ
チラシやホームページ,市政だよりなどは児童・生徒募集に欠かせない。これらのP
Rは同時に,講座と「子ども司書」の存在を広くアピールする効果も期待できる。した
がって,「子ども司書」の意義や活動の簡単な説明も掲載することが望ましい。
● 学校への知らせと訪問
趣旨の説明,活用のお願いを怠ってはならない。上述したように,養成を受けた「子ど
も司書」の活動の中心は学校になるので,事前に「子ども司書制度」の理解を得て,活動
の受け皿を用意するために,主催側が予め地域の学校を訪問して,校長および司書教諭
の理解を求めるべきである。また,児童・生徒募集の協力も促す必要がある。
綿密な土台作りは継続的な活動につながる。
「子ども司書」の成長を考えれば,小学校
にとどまらず,中学校と高校にも活動の支援を促すことが望ましい。
● 教材
講座で使う教材を準備する必要がある。現時点では,標準的な教材はない。しかし,す
でに実施されている講座では,「子ども司書」の講習に特化した教材がいろいろと存在
して使われているので,問い合わせの上,参考にでき,場合によって使用させることもあ
る。
図書館の仕組みを紹介する本はたくさん出版されており,大いに参考になる。教材は
事前に用意することが望ましい。講座が始まる前に,理解しやすいか,教えたい内容にふ
さわしいかなど,確認しよう。また,子どもの反応を見て,教材を事後に調整することも
必要かもしれない。
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● 保険および保護者の同意
保険および保護者の同意が必要であれば,その用意をする。学校または図書館以外の
ところで見学などを実施する場合,特別な保険は必要である。また,講座の風景を写真に
撮るなど,いわゆる個人情報を公表することがあれば,保護者の同意が必要である。
● セレモニーとオリエンテーション
講座開始のセレモニーとオリエンテーションは講座の重要な一部である。子どもは場
合によって,これほど長時間の企画に参加することは初めてかもしれないので,十分な
説明と丁寧な支援が必要である。
子どもが複数の学校から集まっていれば,緊張をほぐす顔合わせの企画も必要である。
参加者に持参品や休憩と食事,送迎などについて事前に知らせなければならない。講座
の初回で学習する内容なども説明する。セレモニーの実施は講座に重みを持たせ,最後
まで勉強する決意を促すし,安易な欠席を防ぐ効果もある。
● 講座の実施
講座の実施期間中,子どもの様子を見ながら,説明を補ったり,助言を加えたり,休憩
時間をずらしたりして,時間を最大限に活かすように調整しながら進める。また,写真や
日誌などで講座の進行を記録しながら進めた方が反省会や次回の開講の参考となる。
● 資格の授与式
資格の授与式を必ず挙行する。受講生が「子ども司書」の養成講座に投資した時間を
考えれば,終了後にそれなりの重みのある授与式の実施が望ましい。校長,図書館長,教
育長,市・町・村長など,講師とは違う人が資格を授与すると,格が増す。
授与式で受講生の意識が高まるだけではなく,「子ども司書」の存在がより広く知ら
れるようになる。マスコミによる報道は地域社会の認識を特に高めるため,「子ども司
書」の活動がしやすくなる。セレモニーの報道は知名度と資格へのあこがれを高め,次
回の児童・生徒募集の追い風にもなる。
● 報告書
報告書を必ず講座の修了後に書く。教育委員会および学校,受講生の家族,ホームペー
ジなどに公表する報告書で簡単な記録は十分であるが,内部資料としてはもっと詳しい
内容(受講生の名簿,使った教材,終了後のアンケートなど)を残すことが望ましい。
公表用の報告書を子ども司書推進プロジェクトのサイト(うちどく.com の中にある)
に掲載すれば,他の実施団体との交流のきっかけとなりうる。
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● 評価と反省会
評価と反省会で次回の講座の基礎を作る。報告書とは別に,終了後の評価と反省を実
施する必要がある。
開講の日時と場所,カリキュラムと教材の効果,受講生の満足度,学校の理解と協力な
ど,様々な面で次回の実施に向けてよかったことと足りなかったことを評価して,改善
を図る。反省会を開く場合,自由な雰囲気の中で発言できるように開催する必要がある。
受講生のアンケートなどをとって,子ども自身の意見にも耳を傾ける。
● 追跡調査,子ども司書だよりの発行
追跡調査,子ども司書だよりの発行などで「子ども司書」のアフターケアーを怠らな
い。養成講座をやりっぱなしにせず,「子ども司書」の活動を把握することも重要であ
る。定期的な追跡調査をして,活動内容などを確認すれば,「子ども司書」の効果を確か
めながら,新たな「子ども司書」に的確な指導とアドバイスもできる。
調査をすること自体は「子ども司書」および学校などの意識を高める。期待されてい
る気持ちになることによって,活動を続ける意欲がわく。
● 「子ども司書」の交流会
「子ども司書」の交流会は子ども通しの絆を深める。読書は一人でやる活動だが,「子
ども司書」は多くの人と交わる。同じ活動をしている仲間がいると思うと心強い。さら
に,体験談や工夫を語り合う機会は活動の継続と拡充につながる。そのために,ときどき
交流会を開催する価値は大いにある。
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6.養成講座のカリキュラムの構成
「子ども司書制度」の狙いを達成するために,講座のカリキュラムを充実させる必要
がある。時間・人出・予算の制限の中で,最善の講座内容を工夫する必要がある。
「子ども司書」の目的と内容は,図書館法に基づいている司書の目的と極めて似てい
る。司書の養成課程のなかで図書館の制度と業務,必要な技能,読書活動の促進,コミュ
ニケーション能力などを充分に習得するために,最低24単位以上,時間にして420
時間以上の講習が必要となっている。もちろん,「子ども司書」は司書と同じレベルの
能力を要しないが,1~2回の講座だけでは「子ども司書」の役割を果たせないと思わ
れる。したがって,相当時間を充て,内容をじっくりと伝えることが望ましいと思われる。
カリキュラムの構成を検討する際,まず包括的な目的と目標を立てる。それを実現す
るために,それぞれの目標をより細かい狙いや,望まれる効果に区分けする方法が有用
である。毎回の教える内容を全部履修すれば,講座全体の目的が達成されるように,一回
一回の狙いを別々に考える必要がある。教える内容はこれらの狙いを満たす,しかも効
果を生み出す内容でなければならない。狙いを満たすための具体的な話をいずれかの回
に充てれば,最後に全体の目的達成に必要な内容が網羅される。
「子ども司書」の講習には,次のような狙いと望まれる効果があると考える。そこか
ら生まれるカリキュラムの概要を紹介する。
● 図書館の仕組みを理解する
「司書」のごとく,図書館の効果的利用法を覚えることが大きな狙いである。この中
で,自分の図書館利用の上達が重要である。しかし,「子ども司書」は自分だけではなく,
周囲の人へ図書館の利用を案内できるようにならなければならない。この狙いを満たす
ために,司書の仕事(選書,分類,貸出業務,レファレンスサービスなど)を教える内容だ
けではなく,図書館の施設をじっくり見学する内容と司書の仕事を体験する内容を多く
取り入れる必要がある。
図書館の仕組みと司書の仕事についての内容は割合として最も多い。しかし,子ども
の集中力と理解力を考えれば,すべての内容を一度に続けて紹介することは望ましくな
い。教える内容を分かりやすい順番に展開しながら,数回に分けて紹介すべきである。
また,教室にふさわしい内容と図書館で体験しながら習う内容を多少混ぜて,同じ時間
内でも動きのある講座にすることによって,集中力の維持ができ,座学で学んだ内容を
すぐに体験できるので,定着がよくなり,学習効果が上がると思われる。
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【図書館の仕組みと司書の仕事について教えるべき内容(例)】
・図書館と司書とは何か(司書教諭についても説明する)
・図書館を実際に見学・探索する
・資料の分類と配架
・資料の修理と保存
・間接的サービス(選書,分類,目録作成)
・直接的サービス(カウンター業務,レファレンス業務,読書案内)
・図書館間連携
この中でも,最初の2項目,すなわち図書館の基本と司書の全体像が後の内容の土台
となるため,なるべく早い段階で紹介したい。さらに,講座の狙いとしてカリキュラムに
反映させないが,図書館を将来の職場としてここで考えてもいいかもしれない。
● 本の紹介と読み語り方法を学習する
「子ども司書」となった子どもたちの主な活動は学校や家庭で周囲の人に本を紹介し
ながら読書習慣を促進することであるため,本を紹介する方法や読書の魅力を伝える技
術を身につける必要がある。
受講生はまず本の魅力を自分なりに見つけてから,ポップやブックトークなどで表現
できる練習が必要である。それから友だちへの紹介の仕方と家族への紹介の仕方をそれ
ぞれ考える。最後に,下の弟と妹および下級生に良い本を楽しく紹介するための「読み
語り」技術を取得する内容が必要である。
本を紹介する方法についての内容として,実践的な活動が中心的となる。講座によっ
ては読書感想文を書かせているが,これは学校の宿題のように感じるので,子どもの関
心を確認した上で実施の是非を決める。しかし,好きな本を他の受講生に紹介するため
の時間を設けることはお勧め。
【テーマ(例)
】
・読書はなんのため?
・お話会の見学と実践
・本の紹介の仕方
・学校の読書活動促進法
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● 本の制作過程を体験し学習する
読書と図書館が好きな子どもは,本の作り方に興味があるはず。いずれ自分でも本を
書きたい気持ちもあるかもしれない。教養としても,気分転換としても,本への理解をさ
らに深めるために,絵本や小説,「リアル系」の本などの作家の仕事を学ぶ。題材を考え
る段階から本ができるまでの過程を紹介する。まず,取材,執筆,編集,出版などを理解さ
せる。取材と絵本作りを実際に体験することも魅力的であろう。そして,スクラップブ
ックやノート作りを通して,製本なども体験するのもよい。
【実践的な内容(例)
】
・手作り絵本の制作
・インターネットサイトの利用
・取材の方法
・本づくりとスクラップブック
● 学校・地域で活動する方法を考える
地域貢献の内容はなるべく早い段階で学習する。図書館と司書の基礎を話す中で,貢
献の仕方やボランティア活動の意義,生涯学習の重要性などについて話すべきである。
地域への貢献は活動の結果として生まれるもので,カリキュラムに組みにくい。しか
し,貢献する精神を育む内容を工夫する必要がある。学校および図書館への貢献を視野
に入れ,それぞれの講座の内容の活かし方の助言をすることが可能である。また,近くで
活動している子ども司書の活躍や他の地域の事例を紹介することができる。
教えたい内容と子どもの集中力の兼ね合いを考えると,講座の時間を15~20時間
程度に抑え,内容を洗練させるべきである。教養的な内容は面白いが,講座の時間を節約
しなければならない場合,教養を省くことができる。
図書館の仕組みを理解するために,現場をできるだけ活かすことが望ましい。講習の
一部を図書館で実施すれば,子どもは話の内容をより早く吸収できると思われる。たと
えば,講座の講習時間は16時間であれば,時間の配分として,図書館の仕事と本の紹介
術を中心に位置づけ,地域貢献や本作りをより短時間で教えることが効果的であろう。
【カリキュラムの時間配分(例)
】
・図書館の仕組みを理解する
8時間
・本を紹介と読み語り方法を学習する
3時間
・本の制作過程を体験し学習する
3時間
・学校・地域で活動する方法を考える
2時間
計
16時間
16
カリキュラムの概要と目標は教育委員会・学校・図書館の三者の協議で決めるべきで
あるが,詳細は講師の工夫に任せてもよい。講師は内容によって,図書館の司書や学校の
教員,読み語りのボランティアなどを充てる。講座を一人だけの講師に任せると偏った
講習になりうるので,複数の声を聞かせた方がいい。しかし,講師が複数いる場合,内容
が食い違わないように綿密な打ち合わせも必要である。
あとがき
~第3回全国子ども司書研究大会とマニュアルの初版~
このマニュアルは第3回全国子ども司書研究大会に際して発行されている。当大会は
第3回となっているが,最初の2回は家読推進プロジェクトの「家読サミット」の抱き
合わせで開催された。今回ははじめて「子ども司書制度」の「制度」と基準を研究する
単独自主運営の大会として開催する運びとなった。
基準に関しては,本書は初めてのマニュアルである。大会で紹介される実践報告や情
報交換,「子ども司書」の体験談などを参考にして,マニュアルの内容をこれからも充実
させていきたいと思っている。
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子ども司書マニュアル
2015年8月1日 初版第1刷発行
編
著
編集協力
発
行
アンドリュー・デュアー
子ども司書推進プロジェクト 子ども司書マニュアル策定委員会
(編集メンバー)
高信 由美子、アンドリュー・デュアー、船見 康之、佐川 ニ亮
田崎 真、原田 真裕美、中島 進、羽柴 よしえ、下重 淳子
高橋 みち子、末次 健太郎、坂本 恭子、鳥谷部則子
子ども司書推進プロジェクト
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