2016/12/26 はじめに 工業化社会の成立と発展 ➔人口資本の増加➔人間の「暮らし」は豊かに しかしその一方で「工業化への疑問」もある 工業化➔環境に不可逆的ダメージを与えるかも IOW,文明の「持続可能性」への疑問 豊かさの向上(と維持)のためには=持続可能 自然を活用するが与えるダメージを少なくすべき 「環境」と「開発」は対立する概念にさせてはいけない 持続可能とは何であろうか 「持続可能性」は広義に定義される傾向 持続可能性の概念の指標化(見える化)する試み 持続可能性の可視化の歴史的背景 基礎から学ぶ環境学 持続可能性指数 名古屋大学大学院国際開発研究科 藤川清史 2016/12/26 記念碑的な著作&会議 1 The Review of Economic Studies主催(1974) 「枯渇性資源の経済学に関するシンポジウム」 ボールディング(1975)『経済学を超えて』所収(公文俊平訳)学習研究社 資源と環境容量の有限性を考慮しない「カウボーイ経済」 資源と環境容量の有限性に直面する「宇宙飛行士経済」 Solow,Stiglitz,Dasguptaなど著名な新古典派経済学者が参加 メドウズ「成長の限界」に対するアンチテーゼ =成長がストップするという議論は「成長論」を主張する経済学者にとっては 困ったこと.それを超えた議論を. 枯渇性の資源を人工資源で代替させることによって成長(消費水準)は維持でき るかも 事実上の「持続可能性」の議論のはじまり Medous(1972)『成長の限界』 メドウズ(1972)『成長の限界』(大来佐武郎監訳)ダイヤモンド社 資源の有限性や経済成長偏重社会の限界 ストックホルムでの国連人間環境会議と同じ年 “Only One Earth”「かけがえのない地球」 先進工業国の公害問題(「蓮の葉」の寓話) 名古屋大学国際開発研究科藤川 持続可能性指数 2 記念碑的な著作&会議 2 Boulding(1966)「来たるべき宇宙船地球号の経済学」 2016/12/26 持続可能性指数 3 2016/12/26 持続可能性指数 4 1 2016/12/26 記念碑的な著作&会議 3 持続可能性の議論の焦点 国連環境計画(UNEP)など 1980 国際自然保護連合(IUCN)・国連環境計画(UNEP)(1980) 「世界保全戦略」 自然環境の持続可能性に力点 「環境と開発に関する世界委員会」 1987 「持続可能な開発」の用語としての初出 開発と自然の対立➔自然保護が中心課題 世代間の消費の(所得の)衡平性に重点 フロー議論への疑問 1974年シンポ以降 環境と開発に関する世界委員会WCED(1987) “Our Common Future” 将来世代の効用を割り引いて,現在世代より低めに考えることに正 当性はあるのか? 世代間の衡平性とは何か? 別名「ブルントラント委員会」(議長の名前) 「持続可能な開発」という言葉が有名に 「将来世代が自らの欲求を充足する能力を損なうことなく、今日の世代の欲求 を満たすこと」 2016/12/26 持続可能性指数 5 2016/12/26 フローからストックの議論に 名古屋大学国際開発研究科藤川 持続可能性指数 6 持続可能性の捉え方 森田恒幸・川島康子(1993)「持続可能な発展論の現状と課題」 『三田学会雑誌』85(4) ハートウイックの議論 自然資本の所有者は利潤を人工資本の蓄積に向けることで持続可能 これは,新エネへの投資+自然資本と人工資本の代替性を認める= 弱持続性 デイリーの議論 自然資本と人工資本の完全代替性を認めない デイリーの三原則:再生性,許容性,代替性 強持続性 2016/12/26 持続可能性指数 環境:自然条件(生物多様性・天然資源の保全) 経済:世代間の公平性 社会:社会的正義や生活質 植田和弘(2006)「持続可能な発展」,環境経済・政策学会編『環境経済・政 策学の基礎知識』有斐閣 環境:天然資源,生物多様性,温暖化 経済:所得,資本 社会:所得配分格差の是正,性別格差の税制 7 2016/12/26 持続可能性指数 8 2 2016/12/26 統合指標化の意義 従来型指標 経済指標 1. 問題に対するわかりやすさ 環境・開発・社会問題に対する関心を一般に対して高めることが可能 (アドボカシーの役割) 2. 各国・各地域間の比較が可能 高い得点を示す国からの教訓を引き出せる 3. 政策的インプリケーションを提供 政策的な優先度を決定することの材料になりうる 4. 政策目標の達成基準の提供 何らかの政策目標が達成できたのかの判断 目標達成に近づいたのか遠のいたのかのチェック 2016/12/26 持続可能性指数 GDP:豊かさの指標としては問題あり 貧困の削減など社会問題が扱えない 社会的な要素を取り入れた指標 国民福祉(NNW) (恣意性,ウエイト) グリーンNNP (環境の貨幣評価に問題) 人間開発指標:HDI (単純すぎないか) ミレニアム開発目標 一種の揺り戻し 8のゴールとそれら対応する47の指標 9 2016/12/26 統合指標の問題点 10 持続可能性指数 各国の個別型指標の策定状況 1. 統合すると中身が見えない 発展には「量的拡大+質的な変化」の要素があるが,それが見えな くなる 2. そもそも相当恣意的 統合前の個別指標の選択 (なにが持続可能性に関連するか) 個別指標の統合方法 (どういうウエイトで統合するか) 策定国等 策定年 指標の数 策定国等 策定年 UNCSD 2001 58 チェコ 2004 指標の数 24 アイルランド 2002 30 デンマーク 2002 105 アルゼンチン 2006 67 ドイツ 2002 25 英国 2004 147 ニュージーランド 2002 40 オーストラリア 2002 117 ノルウェー 2006 18 オーストリア 2002 52 フィンランド 2006 33 カナダ 2003 8 米国 2001 39 スイス 2006 163 ベルギー 2005 44 スウェーデン 2001 87 香港 不明 27 台湾 不明 6 ルクセンブルク 2002 27 注:策定年は,最新の指標群を設定された年,出所:田崎智宏、亀山康子、橋本征二、森口祐一、原 沢英夫 (2007) 持続可能な発展の指標の策定状況と長期ビジョン・シナリオ研究における利用可能性, 第35回環境システム研究論文発表会講演集, pp. 269‐276 2016/12/26 名古屋大学国際開発研究科藤川 持続可能性指数 11 2016/12/26 持続可能性指数 12 3 2016/12/26 HDI(Human Development Indicator) 統合する際の意図 1. 豊かさ指標の再構築 GDPのチューニング←非市場財 GPI (Genuine Progress Indicator),Green NNP 2. 持続可能性の総合評価 環境・経済・社会の諸側面の指数をピックアップ ジャパン・フォー・サステネビリティー(JFS)指標 3. 弱持続可能性の指標化 真正貯蓄(Genuine Saving) 4. 強持続可能性の指標化 エコロジカル・フットプリント 2016/12/26 平均余命,成人識字率,総就学率,一人当たりGDPの4指標を側面指 数に変換し加重平均 (2:1:1:2) 側面指標とは0~1に基準化されたもの HDIの問題点 開発達成度を少ない指標で代表している点 異なる内容を平均している点 先進国ではほとんど同じ値をとる. 13 2016/12/26 名古屋大学国際開発研究科藤川 持続可能性指数 14 (Genuine Saving) 「環境」,「経済」,「社会」の軸に,「個人」が付加 「持続可能な個人があってこそ,持続可能な社会」の理念 個別指標についてJFSが設定した「2050年理想値」への到達度を得点化し,そ れらの単純平均 日本の持続可能性は環境分野でこそ向上したが,その他の分野で低下 (多田, 2005) 2016/12/26 持続可能性指数 ジェニュイン・セイビング ジャパン・フォー・サステネビリティー 1990 16.4 37.6 43.3 67.6 41.3 ௫ିெ ௫ ெ௫ ௫ ିெ ௫ HDIの利点:操作性に優れている点 持続可能性指数 環境 経済 社会 個人 総合 ݕൌ 世界銀行が提唱=経済面を重視 GDP統計の貯蓄を調整 環境損失や資源喪失はマイナス貯蓄として控除 教育支出はプラスの貯蓄値として加算 Adjusted Net Saving ともいわれる. 2005 24.0 18.2 35.4 56.4 33.8 市場財を対象=生物多様性、生態系、将来世代の自然資源 に対する価値は対象外 弱い持続可能性指標と考えられる 15 2016/12/26 持続可能性指数 16 4 2016/12/26 世界の真正貯蓄(GS/ANS) エコロジカル・フットプリント 25 High income Middle income 20 人間活動を支えるのに必要となる土地面積 計算対象の一例 Low income World 1. 2. 3. 4. 15 10 化石燃料の消費で排出される二酸化炭素を吸収するために必要な森林面積 道路・建築物等に使われる土地面積 食糧の生産に必要な土地面積 紙・木材等の生産に必要な土地面積 試算(人間1人が必要な土地面積,2003)の一例 5 世界平均2.2ha アメリカで9.6ha,日本4.4ha インド0.8ha,中国1.6ha 0 1970 1972 1974 1976 1978 1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 -5 強い持続可能性指標と考えられる Genuine Saving (GS), Adjusted net savings (ANS) 出所: Adjusted Net Saving Data Centerより作成 2016/12/26 持続可能性指数 17 2016/12/26 統合の方法 持続可能性指数 18 持続可能性指標の方向性 単位を揃える 持続可能性指標とある政策目標との関連性 持続可能性指標は政策目標の達成度を示す 長期的ビジョンに基づく持続可能性を議論する必要性 例1:人口減少と地域社会の持続可能性議論 (将来世代と現代世代のバランスを明示的に導入) 例2:低炭素社会構築に向けた持続可能性議論 都市部以外の地域の特殊性 都市部以外の地域のデータ入手可能性 ➔データはあまりとれないであろう ➔あまり複雑な指標はむつかしい 側面指数:HDI型 (x-Min(x))/(Max(x)-Min(x)) 標準化:(x-xの平均)/xの標準偏差 ウエイトをどうするか 単純平均:JFSはこれ 佐々木(2008):短期指数・長期指数を分けて作成,その後それらを 平均 主成分:一次結合の中で最大分散 佐々木(2008)「持続可能な発展に関する合成指数の構築」環境情報科学36(4) 2016/12/26 名古屋大学国際開発研究科藤川 持続可能性指数 19 2016/12/26 持続可能性指数 20 5
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