企業図書室の移転統合と地震対策 - 科学技術情報プラットフォーム

PRINT ISSN 0021-7298
ONLINE ISSN 1347-1597
第54巻第10号平成24年1月1日発行(毎月1回1日発行)
情報管理
JOHO
KANRI
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Journal of Information Processing and Management
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情 報 管 理
情 報 管 理
昭和 33 年 1 月 30 日創刊 平 成 2 4 年 1 月 1 日 発 行
第 5 4 巻 第 10 号 ( 毎 月 1 回 1 日 発 行 )
月号
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図書館情報専門職教育の課題
国際的な調和を目指して
企業図書室の移転統合と地震対策
J-GLOBAL foresightの構築について
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研究者識別子ORCIDの取り組み
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特許文献に記載の塩基配列およびアミノ酸配列に関する諸問題
統計情報活用への招待
第7回 就業・賃金の公的統計
1部定価:本体 ¥1,260 (税込)
p.611-698
年間購読定価:本体 ¥13,650 (税込)
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vol.54 no.10
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連載:
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http://johokanri.jp/
情報管理
JOHO KANRI
2012
vol.54 no.10
Journal of Information Processing and Management
図書館情報専門職教育の
課題
611
三輪眞木子
国際的な調和を目指して
■欧米諸国は,時代の要請に応じて図書館情報専門職教育のカリキュラム
教育目標
を変更し,その質保証と専門職資格の国際的流動性のためにカリキュラ
資格
方法論を効果的に利用できる
段階4
:博士
ツールを効果的に利用できる
段階3:修士
(専門科目)
実践知識と技法を習得
研究・教育(上級図書館員)
ディレクター・準研究職
情報専門職
段階2:学士
(LIS科目)
きから取り残されています。
「情報専門職養成を目指した図書館情報学教
育の再編成」
(LIPER2)の傘下で実施した「情報専門職養成カリキュラム
段階1:学士
(他の科目)
LIS領域の基本的な方法論
・認識論
・コンピューター科学
・言語学/哲学
・社会研究
・研究手法
・ビブリオメトリックス
ムの等価性や互換性を支える仕組みを構築してきました。日本はこの動
ボローニャ合意との対応
・学士レベル:最低3年(180-240ECTS*)
・修士レベル:最低2年(60-120ECTS*)
・博士レベル:最低3年(180ECTS*)
*ECTS:ヨーロッパ諸国の異なる単位数を年60
単位(1,500~1,800時間)と換算する制度
の国際相互認証と単位互換制度に関する研究」の成果を踏まえて,日本
の図書館情報専門職に求められるコンピテンシーとその育成条件を提案
します。
研究者識別子ORCIDの取り組み
622
蔵川 圭
武田英明
632
柳 一美
639
治部眞里
松邑勝治
斉藤隆行
■研究情報が膨大となり,研究者の学際化,グローバル化が進んで,名前による情
報の探索が困難になってきました。ORCID(Open Researcher and Contributor
ID)は,世界中の研究者に一意の識別子を与え,学術情報流通を円滑にすること
を目指す国際組織です。現在では出版社,大学,研究助成機関など300近い組織
がORCIDに参加しています。ORCID設立の背景,活動状況,計画を紹介するとと
もに,研究者(著者)識別子と名寄せの問題の現状,今後の展望を論じます。
企業図書室の移転統合と地震対策
■親組織再編のため,情報センターや図書室も突然の移転や再編成を余儀なくされ
窓
窓
検討室
貸出返却
利用者
事務室
ることがよくあり,担当者の頭を悩ませます。2010年,日立製作所システム開発
窓
閲覧
��利用
新聞
大型本
新着図書
窓
出入口
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����図
廊下階段室
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自習 窓
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出入口
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自習
窓
研究所は,3か所に分散していた研究拠点の集約に伴い,2か所の図書室を移転統
合しました。移転統合の準備からオープンまでの経過,移転統合を契機に行った
取り組み,
また地震対策について報告します。図書室が,移転統合を好機ととらえ,
快適利用環境の提供と使いやすさ向上を実現した事例です。
J-GLOBAL foresightの構築について
■科学技術振興機構(JST)は,
JST知識インフラを基盤として,新サービス「J-GLOBAL
foresight」の構築を進めています。政策決定者,研究者,企業の方々が経営戦略
立案の際に活用できるよう,客観性の高いデータの検索や計量書誌学的分析,特
許分析等の結果や指標の導出,可視化の提供を行います。このサービスの構築の
背景,概要,利用事例について紹介します。
目次
月号
January
特許文献に記載の塩基配列およびアミノ酸配列に関す
る諸問題
652
三原健治
663
浅田昭司
674
山田浩司
676
高木善幸
680
名和小太郎
683
大谷卓史
687
佐藤 良
691
岩澤 聡
■特許出願におけるDNA配列やアミノ酸配列に関する膨大なデータの蓄積方法や検
5,000
索への利用について,
(1)塩基数またはアミノ酸数の少ない配列の問題,(2)塩
4,500
4,000
3,500
基数またはアミノ酸数の多い配列,並びに配列数の多い出願の問題,(3)同じ配
3,000
文 2,500
献 2,000
数
列が重複して登録される問題,
(4)特許出願における配列表のフォーマットに関
1,500
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1994
1996
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2000
2002
2004
2006
2008
2010
して,配列表のXML化に伴う問題を考察します。
公開年
連載:
統計情報活用への招待
第7回 就業・賃金の公的統計
■賃金や就業に関する統計は,自社での労働条件を決める際に,同産業,同職種,
% 6.0
5.0
5.0
5.4
5.3
5.1
4.7
4.0
4.4
5.1
3.9
同地域,同規模等の企業の状況を参考にする上でよく利用されています。今回は,
この分野に関する主要な統計の概要やそれぞれの統計の特色,活用事例を概説し
4.1
失
業 3.0
率
4.0
2.0
ます。
1.0
0.0
13年
14年
15年
16年
17年 18年
19年
20年
21年
22年
総務省「労働力調査」より作成
リレーエッセー:
インフォプロってなんだ?
私がインフォプロに期待すること 第32回
視点:
グローバル戦略の中での特許情報利用
ランダム・ウォーク半世紀:
30-15年前:アイデア倒れのシステム
過去からのメディア論:
「ビクトリア朝のインターネット」の戦争と平和
集会報告:
2011年ダブリンコアとメタデータの応用に関する国際
会議(DC2011)に参加して
この本!~おすすめします~:
商品化したメディアの不調
694
情報界のトピックス
698
編集後記
vol.54 no.10
JOHO KANRI 2012
Journal of Information Processing and Management
Contents
January
Toward the global harmonization of
library and information professionals
in Japan
611
An introduction to ORCID (Open Researcher and
Contributor ID)
622
KURAKAWA Kei
TAKEDA Hideaki
Relocation and integration of corporate libraries, and
earthquake countermeasures taken
632
YANAGI Kazumi
Toward the development of “J-GLOBAL foresight”
639
JIBU Mari
MATSUMURA Katsuji
SAITO Takayuki
Issues on DNA & amino acid sequences disclosed in patent
applications
652
MIHARA Kenji
Series:
663
ASADA Shoji
Relay essay:
674
YAMADA Koji
Opinion:
676
TAKAGI Yoshiyuki
Random walk for a half century:
680
NAWA Kotaro
Seeing current media retrospectively:
683
OTANI Takushi
Meeting:
687
SATO Ryo
My bookshelf:
691
IWASAWA Satoshi
Guide to effective use of statistics
Part 7: Official statistics on employment and wages
What I do, study, and think as an information professional (32)
What I expect from information professionals
How to use patent information for enhancing your global
strategy
Original-but-impracticable systems invented 30 to 15
years ago
The war and peace in the “Victorian Internet”
A report on the International Conference on Dublin Core
and Metadata Applications (DC2011)
Disorder of the commodified media
694
Topics of the information community
698
Editor's note
MIWA Makiko
図書館情報専門職教育の課題
図書館情報専門職教育の課題
国際的な調和を目指して
Toward the global harmonization of library and information professionals in Japan
三輪 眞木子1
MIWA Makiko1
1 放送大学 ICT活用・遠隔教育センター(〒261-8586 千葉県千葉市美浜区若葉2-11)
1 Center of Distance Education, The Open University of Japan (2-11 Wakaba Mihama-ku Chiba-shi, Chiba 261-8586)
原稿受理(2011-11-17)
情報管理 54(10), 611-621, doi: 10.1241/johokanri.54.611 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.611)
著者抄録
情報通信技術の発展に伴う知識経済社会の到来により,図書館を取り巻く環境は急激な変化を遂げつつある。図書資
料の電子化とネットワークを通じた流通の進展は,図書館員に求められる知識やスキルを印刷資料を対象とするもの
から電子資料や情報通信ネットワークを対象とするものに拡大している。欧米では,図書館情報専門職教育の質保証
と専門職資格の国境を超えた流動性向上を目指して,専門職養成カリキュラムの等価性や互換性を支える仕組みが構
築されてきた。また,教育機関の名称を,library school から information school に変えるとともに,カリキュラムの
内容を大きく変化させている。日本の「司書」制度はこの動きから取り残されている。本論文は,日本の図書館が,
知識経済社会の基盤を支える組織として生き残るために必要な情報専門職教育の在り方と,それを実現するために必
要な取り組みを提案する。
キーワード
図書館情報専門職教育,情報専門職,図書館員,高等教育の質保証,学位・資格の国際的等価性,国際調和,専門職国際化,
カリキュラム,国際認証,教育プログラム
1. はじめに
英語の「ライブラリー(library)
」という語は,ネッ
トワーク上で提供される情報資源を包含するが,日
情報通信技術の発達によりネットワーク上で流通
本語の「図書館」という語は,紙媒体の図書を収蔵
する電子出版物が増加するに伴い,図書館から紙媒
する建物をイメージさせる。北米の図書館員養成プ
体の図書が徐々に消えつつある。ネットワーク経由
ログラムは,library school からinformation school へ
で電子ジャーナルや電子書籍を提供する図書館の増
と名称を変えるものが増えている。英語の「ライブ
加により,利用者は図書館に出向かなくても調べ物
ラリアン(librarian)
」は電子化された情報や知識の
をしたり電子文献を入手できるようになった。
組織化やバーチャル・レファレンスを担当する情報
611
情報管理
JOHO KANRI
2012
vol.54 no.10
Journal of Information Processing and Management
専門職を包含するが,その日本語訳である「図書館員」
仕組みにも変革をもたらしつつある。多くの高等教
は,印刷版の図書を扱う専門職のイメージを超えら
育機関が,機関リポジトリを設置して,所属する教
れるのだろうか?
員や研究者が執筆した学術文献(雑誌論文や図書)
本論文は,科学研究費による「情報専門職養成を
やテキストや教材を無料で公開している。高等教育
目指した図書館情報学教育の再編成」(LIPER2)の傘
機関にとって,大学に所属する教員や研究者が執筆
下で実施した「情報専門職養成カリキュラムの国際
した学術文献やテキストや教材を出版社経由で大学
1) を
図書館が購入するという従来の方式は,自らの持つ
踏まえて,日本の図書館情報専門職に求められるコ
知的資源の流通を外部化することで出版業界を成り
ンピテンシーとその育成条件を論じる。
立たせてきた。学術情報のオープンソース化は,流
相互認証と単位互換制度に関する研究」の成果
2. 知識基盤社会における図書館の変貌
2.1 情報通信ネットワークと資料の電子化
通を出版業界に委ねることにより喪失した権利を取
り戻そうというものである。
2.2 e-Learningの普及
図書館をめぐる情報環境は,過去50年間に大きな
図書館サービスの変化を論じる際には,高等教育
変貌を遂げた。カード目録が電子化されてOPACとな
における生涯学習の重視とe - L e a r n i n gの普及を考慮
り,抄録誌や索引誌がオンライン・データベースと
する必要がある。情報通信技術の発展は,人々の知
なり,印刷媒体の逐次刊行物が電子ジャーナルとなっ
識やスキルが経済を支配する知識経済社会を生み
た。インターネットの普及により,図書館利用者は
出した。しかも,そこでは高等教育終了後も学び
いつでもどこからでもこれらのサービスにアクセス
続けなければ取り残されるため,生涯学習が必須と
できるようになった。その結果,利用者の利便性は
なっている。人々が在職のまま上位の資格や学位を
大きく向上したが,OPACや電子ジャーナルを図書館
取得できるため,通学しなくても単位取得が可能な
が提供していることは,利用者から忘れられつつあ
e-Learningが好まれる。リーマンショック以来の危機
る。さらに,電子書籍が登場した。アメリカの大学
的な経済状況の中で,働きながら進学し学位や資格
では今後5年以内に電子書籍が主要な情報源となり,
を取得しようとする人々にとって,e-Learningは必要
電子書籍リーダーが教科書の主要なプラットフォー
不可欠である。
ムになることが予測されている
2)
。この動きは,遅か
れ早かれ日本の大学にも波及するであろう。
612
http://johokanri.jp/
January
e - L e a r n i n gの普及により,教師が学生に講義をす
るという伝統的な教育形態から,能動的に学習する
書籍の電子化により,情報流通の仕組みにも大き
学生を教師が支援するという学習形態への転換が生
な変化が生じている。英語圏の参考図書の多くは既
じている。具体的には,教育プログラムによって学
に電子書籍として流通しており,図書館のレファレ
生が習得すべき知識やスキルをコンピテンシーとし
ンス・ルームから印刷版の二次資料が消えた。発行
て各高等教育機関が定義し,それを満たすような
部数が少ない専門図書も電子書籍として流通するも
e-Learning教材を作成して学生に提供する。各授業で
のが増加している一方で,携帯小説も普及している。
習得すべきコンピテンシーは学習目標として学生に
資料の電子化は,著者の原稿を出版社が買い取っ
明示され,e-Learningに組み込まれたテストやポート
て販売するという従来の出版流通形態から,著者が
フォリオにより,学生がコンピテンシーを身につけ
執筆したコンテンツを出版社や取次を経由せずに読
たことを確認する。そのため,
学習管理システムには,
者に無料提供するオープンソース化へと出版流通の
各回の授業での学習目標達成を確認するミニテスト
図書館情報専門職教育の課題
やチェックリストが組み込まれ,個々の学生の成績,
学習内容,学習時間が記録される。専門職教育にお
3.2 ボローニャ・プロセスを反映した図書館情報
専門職教育の変化
けるコンピテンシーは専門職団体により定義される。
ボローニャ・プロセスの進展に伴い,図書館情報
e - L e a r n i n gの普及は,キャンパスに通学する学生
専門職養成機関も変貌しつつある。多言語と文化的
と同等のサービスを情報通信技術を使ってオンライ
多元主義を背景とするヨーロッパ各国の情報専門職
ンで学ぶ学生にも提供するという新たな責務を大学
教育システムや図書館実務および図書館情報学の伝
図書館に課している。アメリカの大学研究図書館協
統に大きな違いはある。ボローニャ・プロセスは,
ヨー
会(Association of College and Research Libraries:
ロッパの図書館情報専門職教育機関に,その違いの
ACRL)は2008年に「遠隔学習における大学図書館サー
克服を求めている。
ビス基準(Standards for Distance Learning Library
ヨーロッパの図書館情報専門職教育機関間の連携・
Services)」を公表した。カナダ図書館協会(Canadian
協力を推進するEUCLID(European Association for
L i b r a r y A s s o c i a t i o n : C L A)や,オーストラリア図
Library and Information Education and Research)は,
書館情報協会(Australian Library and Information
長年にわたり共同セミナー開催を通じてカリキュラ
Association: ALIA)も,ACRLと同様のガイドラインや
ム開発に取り組んできた4)。E U C L I Dが主催した会合
基準を公表している。ちなみに,日本ではe-Learning
では,各国の図書館情報専門職教育の枠組みをボロー
の普及が推進されているものの,大学設置基準には
ニャ・プロセスと調整することの是非が繰り返し論
それに対応する大学図書館サービスの要件に関する
じられた。その中で,
「各国・地域の図書館システム
記述はない。
とL I S(図書館情報学)の教育形態の伝統を維持しよ
3. グローバルな高等教育再編成の中の図
書館情報専門職教育の位置づけ
うとする立場」と,「国際協調を通じて各国の図書館
システムや教育システムを改善する潜在的な必要性
を支持する立場」が浮かび上がってきた。
EUCLIDとデンマークの王立図書館学校(RSLIS)は,
3.1 ヨーロッパのボローニャ・プロセス
ヨーロッパ図書館情報学カリキュラムプロジェクト
ヨーロッパ圏の高等教育制度改革であるボロー
(European LIS Curriculum Project)を実施した。その
ニャ・プロセス(Bologna Process)を契機に,ヨー
一環として,2005年8月に「ヨーロッパにおける図書
ロッパ域内では高等教育プログラムの質保証と相互
館・情報学教育:協同カリキュラム開発とボローニャ
認証に向けた議論が展開されている。これは,ヨー
の展望(Library & Information Science Education in
ロッパ域内の大学間を学生が自由に移動でき,どの
Europe: Issues in Joint Curriculum Development and
大学で単位を取得しても共通の学位・資格を取得で
Bologna Perspectives)」というテーマで2日間のセミ
きる「ヨーロッパ高等教育領域」の確立を目指すも
ナーがデンマークで開催された。セミナーに先立ち,
ので,2011年11月現在,47か国・機関が参加してい
ヨーロッパ圏内の図書館情報専門職養成機関のサー
る3)。この背景には,高等教育入学者数の増加,国境
ベイを行い,ヨーロッパ圏各国の図書館情報専門職
を超えた教育機会や雇用機会の拡大など,地球規模
教育プログラムのカリキュラムの動向を把握した。
での高等教育と職のグローバル化の進展がある。
表1は,ヨーロッパ地域内各国の図書館情報専門職養
成プログラムの主題領域とコア領域の分布を示して
いる。
この調査結果から,ヨーロッパ圏の図書館情報専
613
情報管理
JOHO KANRI
2012
vol.54 no.10
Journal of Information Processing and Management
表1 ヨーロッパ図書館情報専門職養成機関の教育プログラムに
表1 ヨーロッパ図書館情報専門職養成機関の教育プログラム
収録されている主題領域とコア領域の割合
に収録されている主題領域とコア領域の割合
主題領域
http://johokanri.jp/
January
収録*
教育目標
方法論を効果的に利用できる
段階4
:博士
ツールを効果的に利用できる
段階3:修士
(専門科目)
コア**
情報探索と情報検索(Information seeking and information retrieval)
100%
81%
図書館運営と広報(Library management and promotion)
96%
66%
知識管理(Knowledge management)
86%
100%
知識組織化(Knowledge organization)
82%
49%
情報リテラシーと学習(Information literacy and learning)
76%
45%
歴史的展望にみる図書館と社会(Library and society in historical
perspective)
66%
45%
情報社会:自由な情報アクセスへの障壁(The information society:
Barriers to the free access to information)
64%
38%
文化遺産とそのデジタル化(Cultural heritage and digitization of cultural
heritage)
62%
19%
多重文化情報社会における図書館:国際間・文化間コミュニケーション
(The library in the multi-cultural information society: international and
intercultural communication)
42%
13%
ヨーロッパの文脈における文化の仲介(Mediation of culture in a special
European context)
26%
6%
*該当主題領域がカリキュラムに含まれている割合
**カリキュラムに含まれる主題領域がコア領域と位置づけられている割合
資格
実践知識と技法を習得
段階2:学士
(LIS科目)
研究・教育(上級図書館員)
ディレクター・準研究職
情報専門職
段階1:学士
(他の科目)
LIS領域の基本的な方法論
・認識論
・コンピューター科学
・言語学/哲学
・社会研究
・研究手法
・ビブリオメトリックス
ボローニャ合意との対応
・学士レベル:最低3年(180-240ECTS*)
・修士レベル:最低2年(60-120ECTS*)
・博士レベル:最低3年(180ECTS*)
*ECTS:ヨーロッパ諸国の異なる単位数を年60
単位(1,500~1,800時間)と換算する制度
図1 ボローニャ合意に対応した図書館情報専門職教育
図1 ボローニャ合意に対応した図書館情報専門職教育プログラムの教育目標と資格
プログラムの教育目標と資格
門職教育プログラムに文化的多元主義が深く反映さ
情報専門職教育に波及している。すなわち,ボロー
れていること,そして情報探索と知識の組織化がヨー
ニャ・プロセスを契機に提示された,北米方式を基
ロッパにおける図書館情報専門職教育のコア領域で
準とする高等教育の3段階モデル(学士3年以上・修
あることが確認できる。なお,文化遺産とそのデジ
士2年 以 上・ 博 士3年 以 上 ) に 沿 っ て 図 書 館 情 報 専
タル化が62%のプログラムに含まれており,19%の
門職教育をどのように展開していくべきかという議
プログラムはこれをコア領域と位置づけている点は,
論が,ヨーロッパ圏内だけでなく,アジアを含む他
ヨーロッパ域内で進展する図書館学・博物館学・文
地域の図書館情報専門職の資格と学位の相互認証お
書学の統合を反映している。
よび単位互換制度確立を念頭において展開されてい
セミナーでは47名の図書館情報専門職教育専門家
る。この議論の背景には,北米を中心に欧米先進国
がサーベイ結果に基づくコア領域に対応したテーマ
の間で導入されてきた図書館情報専門職の国際的な
ごとの小グループに分かれて討議を行った。この討
学位・資格の相互認証制度がある。
議は,バーチャル環境で継続され,その結果は『図
書館情報学教育に関するヨーロッパ・カリキュラム
4.1 北米
方針(European Curriculum Reflections on Library
アメリカにおける図書館情報専門職教育プログ
and Information Science Education)』と題された電
ラムの質保証は,アメリカ図書館協会(A m e r i c a n
子図書として2006年1月に公表されている5)。この中
L i b r a r y A s s o c i a t i o n:A L A) の 認 証 評 価 委 員 会
には,図1に示すボローニャ合意に対応した学士・修
(Committee on Accreditation)によって行われてい
士・博士レベルの教育目標と専門職としての資格の
る。A L Aは1923年公表の「ウィリアムソン報告」を
位置づけが示されている。
契機に図書館学教育委員会(Board of Education for
4. 図書館情報専門職教育における国際的
な学位・資格の相互認証の仕組み
Librarianship)を組織し,教育プログラムに対する
査 定 を 行 い,1925年 に 認 証 評 価 を 開 始 し た。1956
年からは図書館学教育委員会に代わり,認証委員会
(Committee on Accreditation)が教育機関基準の作
ヨーロッパ教育圏の設置を目指すボローニャ・プ
ロセスは,ヨーロッパの枠を超えて全世界の図書館
614
成と,作成された基準をもとにアメリカ,カナダ,
プエルトリコの修士課程のプログラムの認証を実施
図書館情報専門職教育の課題
している。
たため,授与する学位がpostgraduate diplomaから
アメリカでは海外の学位や資格を評価するための
修士号へと変わった。C I L I Pは,ピア・レビューによ
制度設計も早くから検討されてきた。2000年には,
るコースを査定する認証機能をL Aから引き継ぎ,認
「A L Aの認定を受けたプログラム,もしくは他国の適
証チェックリストを盛り込んだ。CILIPのコース認証・
切な国家団体によって認定もしくは承認されたプロ
チェックリストの査定基準には,
「情報の生成・伝達・
グラムからの修士号は,図書館情報専門職にふさわ
活用」
,
「情報管理・組織的文脈」
,
「情報システム・
しい専門職学位である」ことが承認された。外国の
情報通信技術」,「情報環境・政策」,「マネジメント・
学位の等価性を条件付きで認めたことで,ALA認証以
譲渡可能なスキル」の5つの主題が含まれている。
外のプログラムを修了した学位取得者がアメリカの
CILIPはイングランド, ウェールズ,スコットランド
図書館で働く機会を得た。また,カナダ,イギリス,
の学部と大学院の図書館情報専門職プログラムを認
オーストラリア,ニュージーランドの間でも,図書館
証している。なお,CILIPでは,アメリカ,カナダ,オー
6)
。
ストラリア,E U諸国の大学院レベルの学位を承認し
情報専門職修士号学位の相互認定が行われている
ており,アメリカのA L Aとオーストラリアの図書館
4.2 イギリス
情報協会(ALIA)とは学位を相互認証しているので,
イギリスにおける図書館情報専門職の認定や教
アメリカ,カナダ,オーストラリアの図書館情報専
育の質保証は,図書館協会(L i b r a r y A s s o c i a t i o n :
門職領域の学士号および修士号保持者は,イギリス
L A) が 実 施 し て き た。L Aは2002年4月 に イ ギ リ ス
での専門職に応募できる。さらにE U諸国の学位取得
情報専門家協会(Institute of Information Sciences:
者もイギリスの学位レベルとの等価性に関する査定
I I S)と統合され,図書館員だけでなく,情報専門家
を経た後に応募することができる。
や知識管理者を含めた専門職団体であるC I L I Pとし
て 新 た に 発 足 し,2005年 に「 資 格 認 定 の 新 た な 枠
4.3 オーストラリア
組み」(New Framework of Qualification)を発表し
オーストラリアでは,図書館情報専門職教育プロ
た。新制度下の図書館情報専門職の資格は「公認
グラムの認定において,A L I Aが主要な役割を果たし
会員」
(Member: Chartered Institute of Library and
て お り,2007年 時 点 で オ ー ス ト ラ リ ア の11大 学 と
Information Professionals: MCILIP)である。図書館
13の職業訓練校が認定されている。また,大学院
情報学分野以外の学位取得者や学位がない図書館情
での1年間の科目履修で習得できる修士ディプロマ
報準専門職は,職業経験や訓練等により「認証」を
(graduate diploma)が,専門職として図書館に就労
得て「準会員」
(Associate of the Chartered Institute
する際の最低条件となっている。A L I Aは1960年に審
of Library and Information Professionals: ACILIP)と
査員派遣による大学院レベルの専門職課程認定を開
なり,訓練を経て「公認会員」となることが可能と
始し,2003年からは書類審査も導入した。現在の評
なった。また,最上位専門資格である「特別認定会
価制度は,教員および実務者で構成する認定のため
員」
(Fellowship of the Chartered Institute of Library
の審査委員会による書類審査を経た上で,教育機関
and Information Professionals: FCILIP)は,3年ごとに
に審査員を派遣して教職員,学生,卒業生を含む関
再認定(Revalidation)を受けて2回再認定をされると,
係者のインタビューを実施し,その結果に基づいて
資格を得ることができるようになった。
提言を行う。なお,認定対象機関には年次報告書の
1990年代からの高等教育政策転換の影響を受けて,
図書館情報専門職教育の主流は,大学院教育に移っ
提供が義務づけられ,教育プログラムの構成に大幅
な変化が生じたときには,ALIAが再審査を行う。
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オーストラリアは,1990年以降,イギリスのC I L I P
情報専門職教育エキスパートを対象にオンライン・
やアメリカのA L Aとの連携を開始し,国際的な学位・
サーベイを実施し,各国の教育プログラム質保証に
資格の相互認証と単位互換を行っている。
向けた取り組みの動向と,1987年勧告に対する意見
を求めた。調査結果は,ヨーロッパにおける図書館
4.4 東南アジア
情報専門職の入門レベルの資格がポーランドやトル
東南アジア図書館員会議(Congress of Southeast
コなどの一部の国を除いて学士レベルであること,
Asian Librarians: CONSAL)加盟国を対象とする図書
専門職団体が図書館情報専門職教育機関の認定に関
館情報専門職教育の質保証制度の構想が,2002年に
与しているのはイギリスのみであることを明らかに
発表されている7)。この構想では,認証の対象となる
した。また,国際的な図書館情報専門職資格の認証
学位として,第一段階では東南アジアのL I S教育機関
手続きとして,(1)L I S教育関連情報を収集した国際
で授与される修士号を,第二段階では学士号も対象
資源センターの設置,(2)国際的なL I S教育専門家と
に含め,CONSALと図書館情報専門職教育機関の代表
LIS専門職で構成する諮問委員会による助言,
(3)LIS
者からなる合同委員会が認証制度の推進と実行にあ
専門職が備えるべき各国共通の学習アウトカムの設
たること,そしてCONSALが域内の認証制度の基本構
定,の3つの選択肢を提示して回答を求めたところ,
想の開発・実行のための広範な委員会を立ち上げる
最初のアプローチを望んだ回答者が過半数を占め
ことを提案している。
た。調査結果から,図書館情報専門職教育プログラ
東南アジアでは,認証実施に対する具体的な計画
ムと専門職資格の等価性・互換性を査定するための
は提示されたものの,その実現には,域内での図書
プログラム認証と資格認定手続きについて,従来の
館情報専門職教育の多様性,中核的機関の不在,資
規範的な評価に基づく質保証システム(学位・資格
金の不足など多くの課題が残されている。
取得のために何を学んだかを問う)から,学習アウ
トカムに基づく方法(学位・資格を取得した結果何
4.5 グローバルな学位・資格の相互認証に向けた
動き
ができるのかを問う)への移行が望まれていること
も明らかとなった。図書館情報専門職は,生涯学習,
図書館情報専門職団体の国際組織である国際
非伝統的学習,その他の非公式学習経験を取り入れ
図書館連盟(International Federation of Library
た柔軟性の高い学習機会を求めているためである。
Associations and Institutions: IFLA)は,図書館情報
また,図書館協会がない国や教育における国際的取
専門職の国境を超えた教育と就職の機会へのニーズ
り組みが承認されていない国のために,主題基準に
増大を背景に,図書館情報専門職の国際的な移動を
関連する情報を備えた国際資源センターをI F L Aが率
促進する制度構築を検討してきた。I F L Aの教育訓練
先して設置することも期待されている。
分科会では,1977年から専門資格の比較可能性と等
価性についての研究に取り組み,1987年にGuidelines
to Equivalence and Reciprocity of Professional
5. 高等教育の質保証における評価対象の
変化
8)
Q u a l i f i c a t i o n s(1987年勧告)を発表した 。また,
616
同分科会は,ヨーロッパにおけるボローニャ・プロ
図書館情報専門職教育の質保証は,国際的なカリ
セスの動向を踏まえて,2004年に図書館情報専門職
キュラム相互認証と単位互換制度のための前提と位
教育プログラム質保証モデル調査を実施した。この
置づけられている。教育の質を論じる際の国際的な
調査では,ヨーロッパ,北米,アジア地域の図書館
動向は,教育プログラムで何を教えているかを問う
図書館情報専門職教育の課題
のではなく,その教育プログラムを修了した学生に
る。しかしながら,国際的な図書館情報専門職養成
何ができるかを問う「アウトカム評価」を重視して
制度の動向と日本の現状との格差に批判的な目を向
いる。こうした変化を踏まえて,欧米諸国の図書館
けて,格差を埋めていく努力も必要である。
情報専門職教育認証機関では,当該領域の専門職に
求められるコンピテンシーを定義し公表している。
情報および知識の流通が社会全般や産業発展にま
すます重要となる知識経済社会において,公共図書
A L Aが公表している図書館員のコア・コンピテン
館にはその一端を担う基盤組織としての役割が期待
シ―によると,北米の図書館情報専門職には,情報
される。しかし知識経済社会において高度な専門的
リソースおよび資料・知識組織化に関する知識とス
知識・技能が求められる図書館情報専門職を,現行
キルを堅持しながら,情報リテラシー教育を含む生
の司書養成システムが提供できるのかは疑問である。
涯学習を提供する上で必要な教育に関する理論的知
識と実践的スキルに加えて,最新の情報通信環境に
6.2 大学図書館
適応できるテクノロジーやマネジメントや調査手法
大学図書館は図書館法の枠外にあるため,大学図
に関する実践的な知識とスキルが求められている9)。
書館のみを対象とした法令は存在しない。大学図書
コンピテンシーによるアウトカム評価を導入してALA
館に専門職を要求する根拠は,大学設置基準である。
の認定を受ける図書館情報専門職養成プログラムは,
大学設置基準は私立大学だけでなく国公立大学にも
このリストに挙げられた内容をカリキュラムに組み
適用されるが,国立大学の場合は「国立学校設置
入れるだけでなく,修了者がこれらのスキルを身に
法」
(昭和24年5月31日法律第150号)第6条に図書館
つけていることを保証しなければならない。
の設置が規定されている。大学図書館で働く専門職
6. 日本の図書館情報専門職教育の課題
については,図書館が「その機能を十分に発揮」す
るためには図書館員が必要なことを認め,「専門的職
員その他の専任の職員を置く」(第38条第3項)と大
以上に概観した海外の図書館情報専門職教育の動
向を踏まえて,日本の現状に目を向けてみよう。
学設置基準で定めているが,専門的職員や専任職員
の資質や能力について明確な指針はない。しかしな
がら高等教育および学術研究機関における情報サー
6.1 公共図書館
ビスを担当するというその使命から,大学図書館に
日本国内の司書課程養成機関数と,年間の司書資
は専門・専任の職員が配置され,国立大学において
格取得者数の多さは,L I P E R第一期の成果報告におい
は,公務員試験制度の下に専門的職員の採用が行わ
て諸外国のL I S専門職・研究者を驚かせた。有資格者
れてきた。近年は公務員削減や,国立大学の法人化,
の多さに引き換え,公共図書館の「司書」が専門職
小泉政権下の官から民への移行推進による図書館業
として機能していない現状は,日本における司書養
務の外部委託の進行などで,大学図書館における図
成のアンバランスを提示している。現在の日本の司
書館情報専門職の存在も流動化している。大学図書
書・司書補制度とその養成制度に関するアウトカム
館には,専門・専任職員の採用や雇用が崩壊すると,
評価が必要な点は,LIPER 第一期研究における結論の
それに対抗するために専門職制度の重要性を論ずる
1つであり,継続研究であるL I P E R 第二期と第三期で
根拠が不在であるというもろさがある。
は,その帰結としての検定試験の試みが進められて
日本の図書館情報専門職制度の国際化,すなわち
いる。
「図書館情報学検定試験」の試みには,日本の
図書館情報専門職に必要な資質や能力の基準を設定
現実に即した教育アウトカム評価としての意義があ
する上では,専門的学術的知識を取り扱うという観
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点から,大学図書館の専門職の制度の確立と専門職
への取り組みにも着手していない。
に期待されるコンピテンシーの明確化は重要である。
6.5 研究者団体
6.3 学校図書館
日本の図書館情報学領域における研究動向につい
日本の学校図書館における図書館情報専門職制度
ては,歴史研究への偏重や,実証研究の不足など研
の議論は,1953年の学校図書館法制定以来,同法に
究手法の偏りが指摘されている10)。その中で,アメ
規定された司書教諭の設置を中心に行われてきた。
リカをはじめとする諸外国の図書館史や図書館事情
実際,学校図書館法は成立したものの,学校図書館
は数多く紹介されているものの,その成果が日本の
はカリキュラム(学習指導要領)の傍流に放置され
図書館制度や図書館情報専門職制度に影響を与える
てきた。1990年代後半の学習指導要領改訂の中で「総
要素として検討・提言されるところまでに至った例
合的な学習の時間」に代表される体験的な学習,プ
は少ない。これは,現行の司書養成の質を問わない
ロジェクト学習や問題解決学習といったアプローチ
安定的な状態が長く保たれたことに由来するのだろ
が導入され,特に小学校において学校図書館を活用
う。その結果,専門職としての司書制度は危機的な
した調べ学習や情報検索などが脚光を浴びた。前後
状況を迎えているにも関わらず,それに替わる新た
して学校図書館法が改正され,半世紀近く設置が曖
な職制への展望も存在しない。
昧であった司書教諭が全国の約半数の学校に配置さ
研 究 動 向 を 評 価 す る 指 標 の1つ は, 国 際 共 同 研
れることになった。しかし,専門職としての司書教
究 の 比 率 で あ る。A S I S T(A m e r i c a n S o c i e t y f o r
諭の業務については知識経済社会のニーズに即した
Information Science and Technology)論文誌の計量
見直しがなされたとは言えない。他方,学校図書館
書誌学的分析結果は,日本人研究者の関与した国際
法改正による司書教諭の設置を受けて,それまで自
研究が極めて少ないことを明らかにした11)。C h a n g
治体が独自に配置してきた専任学校司書の採用が打
は1981年から2005年までの25年間におけるアジア出
ち切られ,欠員補充が行われない事態も生じている。
身の研究者による国際共同研究の動向を分析してい
その結果,学校図書館における専門職配置は大きな
る。アジア全体的な傾向としては,1990年代以降か
危機を迎えている。
らアジア出身研究者が欧米研究者との共著を発表す
る件数が増えてきたことが挙げられる。しかしなが
6.4 専門職団体
ら日本は25年間を通じて0件であった。東アジアの
4章で概観したように,北米型モデル,イギリス・
隣国である中国や韓国や台湾の研究者が1990年代後
オーストラリア型モデルでは,それぞれ社会制度は
半以降,アメリカやヨーロッパ,オーストラリアな
異なるものの,各々がALA,CILIP,ALIAという強固
どとの共同研究の成果を発表している中で,日本の
な専門職団体によって,カリキュラム査定やアウト
沈黙は深刻な状況を提示している。学会活動の中で,
カム評価という形で図書館情報専門職養成制度に質
国際共同研究を推進する見地から,研究の方向性を
保証を提供している点は共通している。一方日本に
見直す必要がある。
おいては,日本図書館協会が唯一の全国的な専門職
団体であるが,欧米の専門職団体のように,専門知識・
618
6.6 情報化への対応
技能に基づく資格によって会員登録を行うシステム
冒頭で指摘したように,情報通信ネットワークの
に立脚するものではなく,4章で述べたグローバルな
発展と資料の電子化は,利用者が図書館に出向かな
規模で進展する専門職養成における国際的相互認証
くても必要な文献やサービスを受けることを可能に
図書館情報専門職教育の課題
している。加えて,図書館にはW e b2.0技術により実
日本の図書館では国際的な人事交流を通じた海外関
現したソーシャルネットワークをレファレンスサー
係機関との知識やスキルの共有や連携プロジェクト
ビスや電子コミュニティー構築に有効に活用して知
の実施から阻害されている。一方,日本の大学で図
識経済社会の基盤としての役割を果たすことが期待
書館情報専門職の学位や資格を取得した人材(留学
されている。これらの期待は,図書館で働く専門職に,
生を含む)は,その学位や資格を使って海外の図書
従来の印刷版の資料の組織化と提供を超えて,電子
館で就職する機会を奪われているだけでなく,海外
媒体資料の組織化と提供および情報ネットワークを
で上位の学位取得を目指す際に既に取得した学位や
活用する知識やスキルを要求している。
単位を有効なものとして認めてもらえない。このよ
情報通信技術は日々革新されており,図書館情報
うな現状を改善し,日本の図書館や図書館情報専門
専門職には最新の技術動向を踏まえてサービスを設
職教育を国際的に開かれたものとしていくためには,
計・運用していくことが求められる。さもないと,
日本の図書館情報専門職教育制度を,海外の図書館
伝統的な図書館情報学が培ってきた情報や知識を組
情報専門職の学位や資格と等価性のあるものに変え
織化し流通させる役割を,情報通信技術に長けた他
ていくことが必要不可欠である。
領域の専門職に奪われてしまいかねないからであ
る。それを免れるためには,日本の図書館情報専門
7. おわりに
職教育に,ネットワーク上で流通する高度で多様な
コンテンツの加工・処理を可能にする情報技術の導
入が不可欠である。
日本の図書館員は,今日の情報通信ネットワーク
に支えられた知識経済社会で活躍できる機会をみす
みす奪われている。その責任の一端は,図書館サー
6.7 国際化への対応
ビスやそれを担う専門職教育を,知識経済社会のニー
グローバルな規模で進展する高等教育再編成の動
ズに対応させることを怠ってきた行政や教育制度の
きの中で進展する図書館情報専門職の学位・資格の
怠慢にあると言わざるを得ない。現代そして近未来
等価性評価や相互認証システム構築の動向の中で,
において,図書館が知識経済社会の主要な担い手で
日本の図書館情報専門職教育は世界の動きから取り
あり続けるためには,次世代情報専門職に求められ
残されている。日本では,公共図書館の専門職を対
るコンピテンシーを明確化し,それを踏まえて教育
象とする司書資格取得のために大学において履修す
制度やカリキュラムを見直すことが急務である。そ
べき図書館に関するカリキュラムが全面的に見直さ
の実現には,国際的な視野に立った大学院レベルの
れ,科目が改訂された。また,大学および大学院に
日本の図書館情報専門教育の質保証制度の確立と,
おいて図書館情報専門教育が行われている。しかし
情報通信ネットワーク環境に対応したカリキュラム
ながら,いずれの教育システムにおいても,海外と
の見直しが急務である。
の学位・資格の相互認証に関する具体的な計画は存
在せず,それを議論する場も設けられていない。
なお,これらを具体化する前提条件として,日本
の図書館情報専門職教育を海外から見えるようにす
これは,日本の図書館や図書館情報専門職にとっ
るとともに,グローバルな学位や資格の等価性を踏
て不幸な現実である。インターネットをはじめとす
まえた図書館情報専門職のための教育内容の見直し
る情報通信技術が高度に発展した知識経済社会にお
が必要である。こうした取り組みの第一歩として,
いて,電子ジャーナルや電子書籍をはじめとする電
図書館情報専門職教育機関や教育担当者の連携が期
子資料は,国境を超えて流通している。しかしながら,
待されている。
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www.slis.tsukuba.ac.jp/~atsushi/a-liep/proceedings/Papers/a31.pdf, (accessed 2011-11-11).
Author Abstract
The society of knowledge economy, brought about by the rapid growth of information and communication
technology, has drastically changed the environments surrounding libraries. The digitization and networked
distribution of library materials have expanded the skills and knowledge required for librarians from those for
printed materials into digital materials and their networked dissemination. In response to such demands, a
system of assuring quality of education and the equivalency of professional qualifications has been developed
in Europe and North America. Correspondingly, many library schools have changed their names to information
schools and reformed curriculum contents. Notwithstanding such global trends, Japan’ s professional
education system for library and information professionals is left behind. This paper explores changes required
for the library and information professional education system in order for Japan’ s libraries to be able to
survive as the infrastructure to support our free-access to information in the knowledge-based economy, and
proposes necessary efforts for these changes to be materialized.
620
図書館情報専門職教育の課題
Key words
LIS professional education, information professional, librarian, quality assurance of higher education,
global equivalence of degree and qualification, global harmonization, globalization of professional system,
curriculum, international accreditation, educational program
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JOHO KANRI
2012
vol.54 no.10
Journal of Information Processing and Management
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January
研究者識別子ORCIDの取り組み
An introduction to ORCID (Open Researcher and Contributor ID)
蔵川 圭1 武田 英明1
KURAKAWA Kei1; TAKEDA Hideaki1
1 国立情報学研究所(〒101-8430 東京都千代田区一ツ橋2-1-2)E-mail : [email protected]; [email protected]
1 National Institute of Informatics (2-1-2 Hitotsubashi Chiyoda-ku, Tokyo 101-8430)
原稿受理(2011-11-21)
情報管理 54(10), 622-631, doi: 10.1241/johokanri.54.622 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.622)
著者抄録
本稿では 2009 年より始まった国際的な研究者識別子付与活動である ORCID(Open Researcher and Contributor ID)
について解説する。O R C I D は世界中の研究者に一意の識別子を与えることで,さまざまな学術コミュニケーションを
円滑にすることを目的としている。このために学術コミュニケーションに関与する出版社,大学,研究助成機関等が
集まって非営利法人 ORCID Inc. を設立して,活動の母体としている。現在 300 近い組織が参加している。ORCID の ID
は個別の研究者にとっては自己の研究業績の集約や他の研究者の業績の発見に役立つ。大学にとっては組織の業績を
まとめるのに貢献する。出版社には著者や査読者の同定に貢献する。研究助成機関にとっては,応募者の同定に役立つ。
O R C I D のサービスは 2012 年の初頭に最初の機能限定版が公開され,2012 年中にはより多くの機能を含んだサービス
が公開される予定である。
キーワード
研究者識別子,研究者ID,名寄せ,研究者プロフィル,書誌,ORCID,学術情報流通
1. はじめに
ORCID(Open Researcher and Contributor ID)は,
学術情報流通の世界を対象としてさまざまな利害関
2. 研究者識別子とは
まず研究者識別子とはどのようなものであるかに
ついて概観する。
係者が集まって研究者の名寄せの問題に取り組む国
際的な組織である。本稿ではO R C I Dができた背景で
ある研究者/著者の識別子と名寄せの問題の現状か
らORCIDの活動の紹介,今後の展望を述べる。
2.1 なぜ今研究者識別子なのか
W e b以前においては,主な研究情報入手手段は
ジャーナルであり,研究者はジャーナル論文の著者
名を頼りに関係論文を探したり,時には著者に直接
連絡をとって論文を手に入れたりしていた。
622
研究者識別子ORCIDの取り組み
ご存じのようにW e bはまずは研究情報の共有のた
めに開発されたものであり,研究者はW e bの最初の
ユーザーであった。研究者はさまざまな研究情報を
で,組織名だけでは調べることができない。
そこで世界中のすべての分野の研究者を一意に同
定する識別子が求められるようになった。
W e bを通じて公開したが,その中に自分自身の情報
も含まれていた。自分の名前と関連情報を “ホーム
ページ” として公開した。
2.2 研究活動の異なる立場
研 究 者 を 識 別 す る 識 別 子 は 個 別 の 人 にI Dを つ
W e bが普及するにつれ,研究情報は大量にW e b上
けていくという処理であり,D O I(D i g i t a l O b j e c t
にあがるようになった。個人のホームページから,
Identifier, デジタルオブジェクト識別子)や類似の方
ジャーナル論文情報,会議の情報,大学のページ,
法で簡単にできると思われるかもしれない。しかし,
プロジェクトのページ,等々と多様な情報が公開さ
研究活動というのは多様な関係の中で行われており,
れ,その中に研究者名が含まれている。研究者名が
その結果,研究者識別子付与はDOIなどと同様には行
Web上に溢れるようになった。
うことが難しい。
一方でインターネット/ W e bは研究のグローバル
さまざまな社会活動の中で,芸術活動,芸能活動,
化と学際化を加速した。異なる組織・地域の研究者
政治活動などと並んで,研究活動は個人の名前が重
が容易に共同研究をすることができ,また違う分野
要な分野の1つである。研究者は自分の名前で研究を
の研究情報が即座に探せるようになり従来の分野に
行い,研究成果を公開する。この点では研究は個人
限られない研究も可能になった。すなわち知りたい
的活動である。前述のようにW e bで先頭をきって個
研究者の範囲は格段に拡大した。
人の活動を公開してきたのもそれ故である。
このような研究者に関する情報の増大と研究者の
一方で研究活動は単に個人的活動ではない。列挙
ボーダレス化によって,名前に頼った情報の探索が
した他の活動は組織とは無関係あるいは一線を画し
困難になってきた。
た活動なのに比べ,研究活動は大学などの所属組織
典型的な問題は以下のようなものである。
(1)同姓同名問題:W e b検索や論文データベース
検索において同姓同名を区別したい。分野を限らず
検索できるようになったため,ますます同姓同名は
頭の痛い問題となっている。
の活動と密に関係している。多くの研究は組織の中
の活動であり,また研究者の大学への帰属意識は概
ね高い。
さらに研究活動は出版活動でもある。成果は研究
論文として発表され,多くは出版物として流通して
(2)異動する研究者の同定:組織を異動した研究
いる。個々の出版社は出版物の著者として研究者の
者の情報を把握したい。情報が複数組織の情報源に
情報を収集している。また各国の中央図書館はやは
分散したり,文献でも異なる所属機関となっている
り著者としての研究者の情報を収集している。
ため同一人物か把握しづらい。
さらに研究活動は公的活動でもある。研究そのも
(3)研究者I Dの統合:近年,多くのサービスが名
のが公共の知に貢献するという概念的な意味でも公
寄せのために著者や研究者のI Dを提供している。一
的であるし,政府等の資金を直接的・間接的に利用
人の研究者がそれぞれのサービスで別のI Dになって
している実際的な意味でも公的である。このため,
いる。このようなIDを研究者ごとにまとめたい。
資金助成機関も研究者の情報を保持している。
(4)所属研究者の情報の集約:大学などの組織が
これらの側面の関係は簡単ではない。個人的活動
自組織所属の研究者の活動を集約したい。すべての
と組織的活動は時には対立する見方であり,当事者
研究情報に所属組織が書かれているわけではないの
か否かという点においては個人・組織と出版・公的
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機関は異なる立場となる。
の参加組織があった。
2.3 研究者識別子の特徴
3.2 組織
研究活動はこのように異なる側面を持ち,この特
ORCID, Inc.(以下ORCID)は,14人の理事からなる
徴が研究者のアイデンティティも形作っている。重
理事会により運営される。定款に理事の過半数は非
要でかつ問題を複雑にしているのは,1つの側面か
営利の組織からなると規定されている。現在の理事
らだけではうまくいかないという点である。研究者
は表1の通りである。
の識別子は,個々人が取得する識別子であり,組織
大学,研究所,学会,非営利法人,基金の非営利
が与える識別子でもあり,出版社が与える識別子で
の組織から10名,出版社と企業から4名である。研究
もあり,公的機関が与える識別子でもあるような性
活動との関係で分類すれば,研究者の所属組織(大
質を持たないといけない。そして,研究者識別子は,
学),出版や出版情報に関わる組織(出版社,学会な
個人のプロファイル,組織内の活動,研究業績(発
ど),出版以外の研究者情報に関わる組織(基金,助
表文献),助成を受けたプロジェクトなど,それぞれ
成機関など)に分かれている。
の視点から多様な情報と紐づけられる。
3. ORCIDの経緯と組織
理事の中から互選で代表を含む執行委員会が選任
されている。ネイチャー出版グループのラトナーが
理事会代表,トムソン・ロイターのコチャルコが会計,
ハーバード大学のブランド(A m y B r a n d)が書記に
ORCIDは,上記のような多様な利害関係者が集まっ
て,研究者識別子に取り組む国際的な組織である。
選出された。この3人に加えてウェルカム財団のアレ
ン(Liz Allen)
,ACMのラウス(Bernard Rous)
,ワイ
リーのバン・ディック(Craig Van Dyck)の3名が執
3.1 経緯
2009年11月9日,米国ボストンで研究者の識別子に
行委員会を構成する。
理事会の下に現在3つの作業部会(Working Group)
関心のあるいくつかの主要な利害関係者が集まって,
が設けられている。O R C I Dの経営方法を検討するビ
名前識別子サミット(The Name Identifier Summit)
ジネス作業部会,システムの仕様を検討する技術作
が開かれた1)。チェアは,トムソン・ロイターのコチャ
業部会,広報などを行うアウトリーチ作業部会であ
ルコ(David Kochalko)とネイチャー出版グループの
る。
ラトナー(Howard Ratner)であった。これがORCID
表1 ORCIDの理事会構成
発足のための最初の会議となった。この会議を受け
て2009年12月1日,ORCIDと名づけられる統一的な研
所属組織
組織種別
役職
Wellcome Trust
基金
執行委員会
究者IDを作るという宣言がなされた。その後,ORCID
Amy Brand
Harvard University
大学
書記
Craig Van Dyck
John Wiley & Sons, Inc.
出版社
執行委員会
Initiativeとしてアメリカ東海岸とロンドンで数度会合
Martin Fenner
Hannover Medical School
大学
Diane Geraci
Massachusetts Institute of Technology
Libraries
大学
Thomas Hickey
OCLC
非営利法人
David Kochalko
Thomson Reuters
企業
Salvatore Mele
CERN
研究所
法人ORCID, Inc.として発足した。米国における内国歳
Ed Pentz
Publishers International Linking
Association, Inc. (CrossRef運営)
非営利法人
入法典第501条C項3号の規定に基づく非課税非営利法
Howard Ratner
Nature Publishing Group
出版社
代表
Bernard Rous
Association for Computing Machinery, Inc.
学会
執行委員会
人に申請予定である。発足については,2010年9月7
Chris Shillum
Elsevier
出版社
Hideaki Takeda
National Institute of Informatics (NII)
研究所
日にプレスリリースを出している2)。この時点で115
Simeon Warner
Cornell University Library (arXiv.org運営)
大学
を持った。
その上で,2010年8月に米国デラウェア州の非営利
624
理事名
Liz Allen
会計
研究者識別子ORCIDの取り組み
3.3 設立趣旨
2011年11月17日現在で約280の参加組織がある。
O R C I Dの設立趣旨は公式ホームページ上に掲げら
れている3)。
参加組織を種類別にわけると図1の通りである。大学
等のアカデミアが4割,出版社等の企業系が3割,学
「ORCID, Inc.の目的は,学術コミュニケーションに
会や非営利機関が2割という分布である。学術機関と
おける著者および寄与者の名前同定問題を,個々の
出版社が半分を占めている一方,それ以外の多様な
研究者に固有の識別子の与える中央レジストリと,
関係者がいることがわかる。また,国別の分布を図2
O R C I Dと他の著者I Dスキーマと関連づけるオープン
に示す。米国と英国が圧倒的多数であり,アジアか
で透過性のある機構を創設することで解決すること
らの参加は少数である。
である。科学的発見のプロセスを強化したり助成や
研究コミュニティにおける共同研究の効率性を上げ
るために,識別子と相互の関係は研究者の業績にリ
ンク可能である」
その他
4%
政府
4%
学会
10%
英語版に加え,スペイン語訳と日本語訳も掲載さ
アカデミア
41%
非営利機関
11%
れている。
3.4 参加組織
企業
15%
O R C I Dへの参加は組織単位となっている。現在の
出版社
15%
ところは参加は興味の表明の意味であり,参加メン
バーに特に権利もないし逆に参加費などの義務もな
い。アウトリーチ集会へ参加できることぐらいであ
ORCID Webサイトの “Participating Organizations”
(http://orcid.org/participants) より作図
る。
図1 参加機関の種類別分布
図2 参加機関の国別分布
米国
英国
ドイツ
カナダ
オーストラリア
ブラジル
インド
フランス
スペイン
スイス
アイルランド
スウェーデン
オーストリア
中国
イタリア
日本
オランダ
ベルギー
コロンビア
ギリシャ
大韓民国
ニュージーランド
ポルトガル
シンガポール
トルコ
109
48
20
11
9
7
7
5
5
5
4
4
3
3
3
3
3
2
2
2
2
2
2
2
2
ORCID Webサイトの“Participating Organizations”(http://orcid.org/participants)より作図
図2 参加機関の国別分布(2組織以上参加の国のみ表示)
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4. ORCIDのポリシーと原則
ORCIDの運営指針となる原則(Principles)がビジ
5. ORCIDの役割
前述したようにO R C I Dには研究者個人,研究機関,
ネス作業部会によって議論され,2010年10月に公開,
学会,出版社,資金提供機関とさまざまな人・組織
12月8日に公式ホームページに掲載された4)。原則は
が関与する。O R C I Dはこれらのそれぞれに対し異な
10項目からなっており,これに基づいてビジネスモ
る役割を持つ。
デルやシステムの機能が決定される。
(1)研究者
原則では,まず,O R C I Dが著者と貢献者を確実に
O R C I Dの情報を論文投稿の時や求職の時,研究資
特定できるようにすることによって,学術コミュニ
金応募の時に利用する。研究者はピアレビュー,デー
ケーションにおける,固定の,明確な,曖昧でない
タキュレーション,ソフトウェア開発を含むさまざ
レコードの作成を支援することを宣言し,学術分野,
まな学術的記録をO R C I Dに置くことができるように
地理,国籍,機関の境界を超えた,オープンで透明
なる。O R C I Dを通じてこういった情報を公開するこ
性のある組織であることを明示している。
とで研究者は新たな共同研究者を見つけるといった
そして,研究者はO R C I Dのサービスを介して自由
にI Dとプロファイルを登録することが可能であり,
研究のネットワーク構築ができるようになる。
(2)大学および研究機関
その際プライバシーには十分に配慮することとして
O R C I Dを自組織メンバーの行う研究の実績の評価
いる。研究者のプロファイルデータは,プライバシー
に使うことができる。また採用時の評価にも使うこ
設定後,クリエイティブコモンズがCC0と定義する権
とができる。これらの組織はO R C I Dを使うことで,
5)
利放棄
の形で公開される。研究者のデータに対す
る権利について議論を積み重ねた結果,O R C I Dから
公開するデータについて権利放棄を明示することに
なった経緯は強調しておきたい。
また,O R C I Dの開発したソフトウェアはオープン
ソースイニシアチブのオープンソース6) として公に
リリースすることとした。オープンソースとしての
組織の強みのある分野の同定や構成員の実績の追跡
をより容易にできるようになる。
(3)学会
O R C I Dを使って学会員のプロファイル情報を強化
したり,さらには学会員の研究成果の公開や学会員
間のコラボレーション支援に使うことができる。
(4)出版社
公開を決めたことは,ボランティアベースによる開
投稿システムにおいて著者や査読者の追跡を確実
発コミュニティーを構成することでソフトウェア開
にできるようになる。同一著者の論文や共著者を関
発コストを削減したい思いがある。
連づけて,関連学術成果の発見などに使うことがで
O R C I Dのビジネスモデルは,組織が非営利であり
ながらも持続可能であるための必要最低限の収入を
きる。
(5)資金助成機関
得ることを目的としている。そのためのシステムの
申請処理においてO R C I DのI Dを使うことで申請者
A P Iは有料と無料の双方によって構成されることを明
の情報を簡単に入手できるようになり,処理を簡略
示している。
化できる。また研究評価の段階においても個々のプ
最後に,組織内部の構成が非営利であり,活動内
容について最大限に透明性を確保することをうたっ
ている。
ロジェクトの評価に使うことができる。
さらにORCIDのIDを使うことで,学術コミュニケー
ション全体がよりスムーズになることが期待でき
る。例えばデータベースやソフトウェアの貢献者の
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研究者識別子ORCIDの取り組み
同定や学術的なブログやwikiなどにおける著者同定に
議論は,2010年2月から9月ごろまでの間,技術作業
も利用できる。
部会によって行われた。どのようなシステムである
6. ORCIDのサービス
べきか,システムの要件が議論され,アルファ版の
プロトタイプが構築された注1)。その後,続けてプロ
ダクションシステムとしてのベータシステムの構築
現在計画されているO R C I Dサービスは以下のよう
に向けて議論が進んでいる。
なものである。
ORCIDシステムでは各研究者にユニークなID(以下
ORCID ID)を付与する。ORCID IDは研究者個々人の
申請により作られるが,それに資金提供機関,学会,
7.1 基本的な考え方
I Dシステムにおいて,アイデンティティとして扱
う基本的な情報は,
出版社が一括してアップロードして研究者の基本情
・著者/貢献者自身の記述
報と結びつけられる。
・著者/貢献者とその出版物間の関係の記述
基本プロファイル情報は名前や所属といった最小
の2種類である。
「著者/貢献者自身の記述」は名前
限のものである(まだ議論中)。その上に,研究成果
や所属などを含み,研究者のプロファイルである。
や獲得資金といった情報が必要に応じて結びつけら
「著者/貢献者とその出版物間の関係の記述」とは,
れる。
ORCIDシステムは他の研究者ID・著者ID,研究者プ
研究の業績とする論文や記事,書籍,データなどを
含むリストであり,出版物申告(Publication Claims)
ロファイルシステムと連携して運用することを想定
と呼ぶ。これらがO R C I D I Dと紐づけられることにな
している。O R C I D I Dは基本情報を保持し提供するこ
る。
とで,出版社の原稿投稿システムや資金提供機関の
プロファイルと出版物申告の登録は,著者/貢献
申請システム,研究者プロファイルシステムなど多
者と組織の双方が行うハイブリッド型による方式が
様なシステムを使う研究者の労力を最小化する。
提案されている。著者/貢献者自身によるだけでは
ORCIDサービスは現在,2段階で計画されている。
フェーズ1は2012年初頭に開始し,フェーズ2は2012
年末を予定している。フェーズ1では現在活動中の
情報が集まりにくいので,組織がまとめて情報を登
録することによって呼び水とするわけである。
シ ス テ ム 要 件 の 議 論 は,C r o s s R e fが こ れ ま で
研究者を対象として,研究者個人と研究機関(大学)
Contributor IDとして議論してきた内容を拡張してい
からの情報入力を受け付ける。またトムソン・ロイ
る。ここでは,エンドユーザー,パートナーシステ
ターのResearcherIDシステムに基づき,プライバシー
ム,コアシステムの3つの主体が登場する(図3)
。
制御やCrossRefとの連携などを実装する予定である。
フェーズ2では研究活動を過去の研究者も対象とし
て,出版社や学会・資金提供機関なども利用できる
ようにする。このために複数の記録にある名前が関
連づけられるように名前同定の問題解決を行う。
7. ORCIDシステムの詳細
O R C I DのコアシステムとなるI Dシステムに関する
図3 システム要件における3つの主体
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エンドユーザーは,著者,貢献者,部門管理者,そ
の他のさまざまな人である。パートナーシステムは,
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7.3 IDシステムのデータモデル詳細化
フェーズ1に予定されているベータシステムは,現
出版者の原稿追跡システム(M a n u s c r i p t Tr a c k i n g
在活動中の研究者を対象とし,研究者と団体の双方
S y s t e m)や研究者ディレクトリ,論文検索システ
がアイデンティティを申告することを想定してい
ムなど関連するシステムである。コアシステムは,
る。データは個人と組織の双方から登録されるため,
ORCIDのIDシステムそのものである。エンドユーザー
ある研究者に対してレコードは重複し,識別子,レ
は,コアシステムに対して,プロファイルや出版物
コード,研究者にn - n -1の対応をつけなければならな
申告を登録して作成し,編集,更新する。大学や研
い。n - n -1の対応というのは,個人の登録も含めてさ
究機関,出版者などの組織は,パートナーシステム
まざまな組織からある研究者のレコードが登録され
からコアシステムに対し,プロファイルや出版物申
る状況では,同一研究者に対する識別子が複数付与
告をまとめて登録する。コアシステムでは,複数の
され,同様にレコードも複数登録されるため,最終
プロファイルを集めて,マッチングや重複解消をし
的にはそれらがある一人の研究者に紐づけられる必
て著者/貢献者の主プロファイルを自動で作成した
要があるということを意味している。O R C I Dが重複
り,著者/貢献者自らが手動で名寄せするのを支援
するレコードを受け入れることを容認したのは,登
したりする。そのほか,システムと人,システム間
録数がクリティカルマスに早期に到達すること,あ
のやり取りを示す個々のユースケースが技術作業部
まりアクティブでない研究者のデータの提供につい
会で議論され想定される技術が列挙された。
て第三者団体からの申告を見込んでいるからである。
技術作業部会のサブグループの1つでは,同一人
7.2 パートナーシステムとの連携
O R C I Dのシステムは,さまざまなパートナーシス
したが,十分な結果は得られなかったため,アルゴ
テムと連携する。連携の在り方はさまざまなシナリ
リズムと手動による名寄せのハイブリッドシステム
オとして考えられているが,最も重要なものはパー
が必要だということになった。その上で,レコード
トナーシステムとO R C I Dのシステムがプロファイル
のコントロールとオーソリティについて解決してい
交換を行うことである。研究者のI Dやプロファイル
く。つまり,信用すべきデータの決定方法,同一研
を独自に保持して,すでに利用されている,例えば
究者を指す複数のデータの処理方法,識別子やレコー
次のようなシステムと連携する。トムソン・ロイター
ドの管理修正の権限の方法についてである。
のResearcherID,エルゼビアのScopus,国立衛生研
フェーズ1におけるベータシステムの開発はビル
究所(N I H)の助成を受けて開発し全米で利用され
ダー(G e o f f r e y B i l d e r)が主導しており,研究者や
る予定の研究者ディレクトリV I V O7),高エネルギー
第三者団体がどのように申告するかというシナリオ
分野の論文を対象とした論文検索システムINSPIRE8),
を考慮しつつ,上述の問題に対処する方法が提案さ
経済学分野の論文を対象とした論文検索システム
れている12)。ここではさまざまな団体から申告され
RePEc9),ProQuest社の研究者ディレクトリAuthor
るレコードを重複解消して消去するのではなく,研
10)
Resolver
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物のレコードを判定するアルゴリズムについて議論
,NIHの運営する医学生物系論文検索シス
究者本人の申告レコードとそれぞれの団体の申告レ
テムP u b M e d11)である。このようにすでに権威があ
コードが “同じである” と宣言して関係を表明する。
り,利用頻度が高くユーザー数の多い既存のシステ
あるレコードとあるレコードが “同じである” と関係
ムと連携することは,より信頼性高くすべての研究
を表明した後,レコードに記述される所属や職名な
者を網羅することを可能とする。
どの個々の属性に関しては妥当かどうか検証すると
研究者識別子ORCIDの取り組み
いう形をとる。レコードそのものの編集権限はデー
究者リゾルバー16)を構築している。これは科学研究
タを投入した人または団体にあり,研究者の編集可
費補助金データベースKAKEN17)をベースにして研究
能なレコードへはデータがコピーされる。レコード
者のIDを付与している。
同士の “同じである” という表明やレコード内の属性
これらの研究者識別子に関するシステムもO R C I D
の検証を積み重ねて,研究者のレコードはオーソリ
のパートナーシステムとなることが可能であり,I D
ティが高められていく。しかし,この方法では,新
の登録とプロファイル交換の可能性がある。さらに,
しく登録したデータをどのように既存の識別子と関
W e b上での公開利用を前提としていることから,今
連づければよいのか,同一研究者に対して複数の識
後はこれらの識別子同士がLinked Dataの技術をベー
別子が存在してしまった時にどう対処すべきかにつ
スに互いに同一人物を関係づけることによって連携
いては未解決である。これは重複解消のアプローチ
することも予想される。
とは別のアプローチであり,実際のシステムでどち
らのアプローチをとるかはまだ決まっていない。
より対象を広げてクリエーター一般に識別子を付
与していこうという動きもある。ISNI(International
ビルダーの提案した方法は,技術作業部会におい
Standard Name Identifier)18)は,現在ドラフト段階
てアルファシステムで考えたこととは異なる方法で
のI S O規格27729であり,メディアコンテンツ産業
あるが,実装のタイミングとしては,アルファシス
に従事する団体に使われることを想定した規格であ
テムの発展系として位置づけることができる。漸次
る。ISNIのIDは16ケタの数字で,最後はチェックサム
的にシステムを構築していくことで,システム全体
となっている。ISNI自体はURIとしてWeb上に公開す
のオーソリティを高く保つようバランスをとること
ることを明示するには至っていない。ISNIのIDは,商
ができると展望している。
用のI Dシステムの上に展開されるオープンレイヤー
8. その他関連する研究者の識別子
として,I Dシステム同士が必要最低限の情報を交
換してI D間の対応を付けるブリッジ識別子(B r i d g e
Identifier)として機能する。交換する情報にはURIが
研究者の識別子という観点からすると,O R C I D以
必須となっているので,複数の商用IDが紐づいたISNI
外にも取り上げるべき活動は多く存在する。例えば,
のIDがURIとしてWeb上に展開される可能性は高い。
オランダのSURF財団の行ったDAI(Digital Au t h o r
13)
O R C I DとI S N Iは対象とする範囲で重複がある一方,
Identifier) はオランダの研究者に研究者番号を割
利用の組織や利用の方法が異なり,統合できるもの
り振っている。数物系のプレプリントサーバー ArXiv
ではない。将来的にはI D連携で両システムをつなげ
もA u t h o r I d e n t i f i e r s
14)
をオプトインの方式で導入
している。英国の情報システム合同委員会(J o i n t
Information Systems Committee: JISC)の助成を受け
ることが期待される。
9. ORCIDの将来性
たNames Project15)は,機関リポジトリの典拠を目指
して,研究者のI Dを,英国図書館のジャーナル論文
O R C I Dはまだ実際のサービスが開始されていない
と会議論文の書誌を収録するETOC(Electronic Table
未知数の試みであるが,筆者らの私見を含めてORCID
of Contents)のWebインターフェースであるZETOC
の今後について考察する。
のレコードをベースに研究者をクラスタリングして
単純化すればORCIDは人間版のDOIである。DOIが
自動で構築している。国立情報学研究所では,機関
あれば世界中のどこの出版社で出版された論文でも
リポジトリの典拠となることを目的の1つとした,研
確実に論文にたどり着けるのと同様に,O R C I D I Dが
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あれば世界中の研究者に確実にたどり着けるという
のパスポートのようなものになることであろう。こ
わけである。ただ,一度出版されれば変化しない論
のパスポート取得には特に制約はない。ただこのパ
文と異なり,研究者は活動中で変化するし,そもそ
スポートを持つことで研究コミュニティーの論文投
も意志ある存在であるので,単純ではない。常にアッ
稿を含むさまざまなサービスにアクセス可能にな
プデートが可能なような仕組みが必要であるし,多
る。今や研究は直接間接にIT化されたサービスなしに
様な活動を結びつけないといけない。より複雑な関
は成り立たない。その意味では研究者に必須のもの
係を解決する仕組みが必要である。
となるであろう。
O R C I D I Dは個人のI Dである。単に個人にI Dを付与
個人のI Dには通常プライバシーと有用性のトレー
するというのであれば簡単である。しかし,2章で述
ドオフがある。より有用なI Dを作ると万一悪用され
べたように研究活動を行う研究者というのは単純な
た時のプライバシー侵害の危険が高まる。しかし,
個人ではなく組織や社会の中に位置づけられる存在
研究者のI Dについては楽観的に考えている。そもそ
である。このためO R C I D I Dはこれらそれぞれの立場
も研究は個人的なものであると同時に公的なもので
の関係者の間で維持されないといけないという面倒
あるので,先のようなトレードオフによる障害は小
なIDである。
さい。むしろ近年のOpen Access運動にみるように研
このため関係者が集合して中立的にO R C I Dを設立
究の公共性は今後より高まるであろう。公共性を重
して,この複雑な問題を解決しようと決めたという
視することは中立性をうたうO R C I Dを積極的に受け
のは望ましいことであり,成功してもらいたいもの
入れる理由となる。この点ではO R C I Dは大きな可能
である。
性がある。
では本当に普及するのであろうか?
今後の焦点は適切なビジネスモデル構築とサービ
名寄せやプライバシー管理といった問題は技術的
ス構築をいかにスピーディにできるかという点であ
に解決されなければならないし,また解決可能だと
る。せっかくの機運がしぼまないうちに普及の軌道
考えている。むしろ,問題は社会的に受け入れられ
にのせることができるかというところにかかってい
るかという点である。
る。
O R C I D I Dの理想は全世界の研究者コミュニティー
本文の注
注1) 2010年11月11日にワーキンググループメンバーにメールで配布された報告資料による。ORCIDのメン
バーとなることで,Wiki上で閲覧できる。
参考文献
1) “Research Stakeholders Announce Collaboration among Broad Cross-Section of Community to Resolve
Name Ambiguity in Scholarly Research”. ORCID. 2009-12-01. http://www.orcid.org/sites/default/files/
ORCID_Announcement.pdf, (accessed 2011-10-31).
2) “Organization Launched to Solve the Name Ambiguity Problem in Scholarly Research”. ORCID. 2010-0907. http://www.orcid.org/sites/default/files/ORCIDInc-Press.pdf, (accessed 2011-10-31).
630
研究者識別子ORCIDの取り組み
3) “Mission Statement”. ORCID. http://www.orcid.org/content/mission-statement, (accessed 2011-10-31).
4) “ORCID Principles”. ORCID. http://www.orcid.org/principles, (accessed 2011-10-31).
5) “CC0 1.0 Universal (CC0 1.0) Public Domain Dedication”. Creative Commons. http://creativecommons.
org/publicdomain/zero/1.0/, (accessed 2011-01-14).
6) “Open Source Definition (Annotated), Version 1.9”. Open Source Initiative. http://www.opensource.org/
osd.html, (accessed 2011-01-14).
7) VIVO. http://www.vivoweb.org/, (accessed 2011-10-31).
8) INSPIRE, beta. http://inspirebeta.net/, (accessed 2011-10-31).
9) RePEc. http://repec.org/, (accessed 2011-10-31).
10) “Author Resolver”. RefWorks-COS. http://www.refworks-cos.com/authorresolver/, (accessed 2011-10-31).
11) “PubMed”. National Center for Biotechnology Information. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed,
(accessed 2011-10-31).
12) Geoffrey Bilder. “Disambiguation without de-duplication: Modeling authority and trust in the ORCID
system. Version 4”. ORCID. http://www.orcid.org/sites/default/files/disambiguation-deduplication_wp_
v4.pdf, (accessed 2011-10-31).
13) “Digital Author Identifier (DAI)”. SURF Foundation. http://www.surffoundation.nl/en/themas/
openonderzoek/infrastructuur/Pages/digitalauthoridentifierdai.aspx, (accessed 2011-10-31).
14) “Author Identifiers”. ArXiv.org. http://arxiv.org/help/author_identifiers, (accessed 2011-10-31).
15) “Names Project”. Mimas. http://names.mimas.ac.uk/, (accessed 2011-10-31).
16) “研究者リゾルバー”. 国立情報学研究所. http://rns.nii.ac.jp/, (accessed 2011-10-31).
17) “KAKEN―科学研究費補助金データベース”. 国立情報学研究所. http://kaken.nii.ac.jp/, (accessed 2011-1031).
18) ISNI - International Standard Name Identifier. http://www.isni.org/, (accessed 2011-10-31)..
Author Abstract
In this article, we introduce the activities of ORCID (Open Researcher and Contributor ID). ORCID aims
to give unique identifiers to all researchers in the world. The identifiers are expected to make scientific
communication more accurate and smoother. ORCID Inc, is created as Non-Profit Organization in USA by 14
organizations including major publishers, major universities and research institutions, and a funding agency.
ORCID now collects almost 300 participating organizations from all over the world. ORCID ID will contribute
to all stakeholders of scientific communication such as individual researchers, universities and research
institutions, publishers, and funding agencies. ORCID will release the initial version of its service early in 2012,
and then more functional version later in the year.
Key words
researcher identifier, researcher ID, name disambiguation, researcher profile, bibliography, ORCID, scholarly
communication
631
情報管理
JOHO KANRI
2012
vol.54 no.10
Journal of Information Processing and Management
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January
企業図書室の移転統合と地震対策
Relocation and integration of corporate libraries, and earthquake countermeasures taken
柳 一美1
YANAGI Kazumi1
1 株式会社日立製作所横浜研究所企画室(〒244-0817 神奈川県横浜市戸塚区吉田町292番地)
1 Hitachi, Ltd. Yokohama Research Laboratory (292 Yoshida-cho Totsuka-ku Yokohama-shi, Kanagawa 244-0817)
原稿受理(2011-11-04)
情報管理 54(10), 632-638, doi: 10.1241/johokanri.54.632 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.632)
著者抄録
株式会社日立製作所システム開発研究所は,3 か所に分散していた研究拠点を 2010 年 8 月に戸塚に集約した。研究拠
点の集約に伴い,2 か所にあった図書室も移転統合した。移転統合は蔵書構成見直しのよい機会ととらえ,整理作業を
地道に遂行した。大量の資料を効率的に移転させるため,作業時間の短縮と誤りの最小化を図りつつ,時期をずらし
て段階的に行った。利用者への影響を最小にするため,移転作業中もできるだけサービスを継続した。快適利用環境
の提供と使いやすさ向上のために,図書室の設計には各種工夫をこらし,案内表示を徹底し,コーナーの統一整備を行っ
た。地震対策は書架の固定に加え,書棚にシートを敷いたり,並べ方を工夫したりと資料落下防止を重点にした。
キーワード
図書室,移転統合,蔵書整理,快適利用環境,地震対策
1. はじめに
究所となっているが,本稿ではシステム開発研究所
について述べる。
株式会社日立製作所システム開発研究所は,神奈
川県川崎市麻生区王禅寺と幸区鹿島田,横浜市戸塚
2. 図書室の概要
区の3か所に分散していた研究拠点を2010年8月に戸
632
塚に集約した。研究拠点の集約に伴い,王禅寺と戸
システム開発研究所は,
「日立のサービス・システ
塚の2か所にあった図書室も移転統合した。移転統合
ム・ソフトウェア分野の中核研究所」として1973年
の準備からオープンまでと,移転統合を契機に行っ
2月に創立された。図書室は,システム開発研究所
た取り組み,そして,これまで行ってきた地震対策
の前身である情報システム研究所の資料を引き継ぎ,
について報告する。
研究所創立と同時に設立された。その後,1993年に
なお,日立製作所の研究所再編により,2011年4月
戸塚にあったマイクロエレクトロニクス機器研究所
からシステム開発研究所は,生産技術研究所とコン
と統合して,
戸塚(
「横浜ラボ」と呼ぶ)と王禅寺(
「川
シューマエレクトロニクス研究所と統合して横浜研
崎ラボ」と呼ぶ)の2か所に図書室を置くことになっ
企業図書室の移転統合と地震対策
た。
両方の現物を照合確認および欠号補充したのち除籍
横浜ラボの図書室は,同じ建物の中で2回移動して
するという作業を繰り返した。さらには,収納量を
いる。1回目の移動で生産技術研究所の図書室と近く
勘案しながら,利用頻度の低いものから入手代替手
なったため,2回目の移動の際には2つの研究所の図
段(借用や文献入手,公開電子ジャーナルなど)を
書室を物理的に統合した。このとき2005年4月に横浜
確認して廃棄。最終的に,雑誌はすべて川崎ラボへ
ラボは無人にしてスタッフは川崎ラボに集結した。
移動し,移転後の排架を考慮しながら統合整理を実
川崎ラボの図書室は,研究所創立当初から戸塚と
国分寺に分散していた研究所が1978年5月に王禅寺
施した。
以上の整理の結果,17,864冊を廃棄した。これは,
に移転統合した際に設置された場所から変わらずに
書棚に換算すると260段分となり,移転後の全体収納
あった。
量は100段ほど減ったものの,数年分の増加分を確保
書籍はコンピューター関連の専門書を中心に会議
できた。
録や規格なども含めて26,000冊,雑誌は学会誌,企
廃棄資料の一部は,企業図書館と連携している神
業誌,一般誌,新聞など580誌を所蔵している。所蔵
奈川県立川崎図書館に参考図書や雑誌別冊を,科学
図書のほとんどにバーコードを貼り,自作の図書シ
技術系外国語雑誌デポジット・ライブラリー 1)に洋
ステムで管理している。
雑誌を合計210冊寄贈した。寄贈先からは,神奈川県
3. 移転統合の準備からオープンまで
資料室研究会を通じて資料に応じて閲覧複写借用の
利用ができる。なお,廃棄数のわりに寄贈数が少な
いのは,科学技術分野専門であるためすでに所蔵さ
3.1 移転スケジュール
れている資料が多かったからである。
結果としての移転スケジュールは次のとおりで
あった。
移転にあたり研究室で整理した資料の寄贈を受け
付けて,所蔵があれば廃棄,なければ必要度を判断
2009年12月下旬
戸塚への拠点集約発表
して受入とした。研究室も含めて所蔵情報を共有し
2010年1月
蔵書整理作業を開始
て重複を排除した。
2010年8月2日(月)
図書室閉鎖
2010年8月初旬
横浜ラボ図書室の移動
2010年8月中旬
川崎ラボ図書室の移動開始
(2回に分けて移動)
3.3 大量資料の効率的移転
移転統合にあたっての課題は,(1)2か所にある約
87,000冊の資料を移動して統合すること,(2)引越し
2010年8月31日(火) 引越し作業完了
作業完了日の厳守,(3)移転後早期にオープンするこ
2010年9月6日(月) 図書室オープン
とであった。そのため,図書室員による確認作業を
徹底し,梱包,搬出,運搬,搬入,排架などの各作
3.2 蔵書整理
移転統合は蔵書構成見直しのよい機会ととらえ,
業時間をできるだけ短縮すること,誤りを最小化す
ることが求められた。
移転決定直後から整理作業を開始した。まずは,川
関係者との協議調整には時間を惜しまず回数を重
崎と横浜で重複している資料(雑誌,会議録,参考
ね,課題や手順内容を共有して解決を図った。実際
図書,専門書)を排除すべく,定期的に横浜ラボへ
の作業開始前には,図書室移転作業に関わる者を全
出張して,あらかじめ作成しておいたリストに従い,
員集めての打合せも実施した。
該当資料を取り出して川崎ラボへ運び,川崎ラボで
2か所の移動を(1)量が少なく移転地に近い横浜ラボ
633
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分,(2)川崎ラボから移設する書架の分,(3)川崎ラボ
出依頼や複写依頼は書棚に排架されている限り対応
の残り分として3つに分け,時期をずらして段階的に
した。資料購入申請依頼や文献入手依頼は最終日の
実施した。それぞれの梱包準備から,梱包,書架解体,
前日まで受け付けた。当初は,入荷先を横浜ラボへ
運搬,書架組立,排架準備,排架実施までの各作業
変更し,誰かが行き受入をするという案も浮上した
のスケジュールを作成して関係者に示して調整実施
が,図書システムのサーバーが川崎ラボにあったこ
した。
とと作業の効率を考え,最終日の前日まで川崎ラボ
書棚別に現状と移転後の対応表を作成した。その
際には,種別分類の区切りごとに空きの棚を数段ず
つ調整棚として設け,排架の誤りを吸収するととも
に,移転後の整理を簡易に行えるようにした。
で受け取り申請者へ送った。最終日まで社内の車が
走ってくれたため,早く届けることができた。
サーバーは,移動前後の停止時間を最小限にして,
電子ジャーナルなどオンラインで提供しているサー
梱包ラベルは図書室員があらかじめ作成して書棚
ビスをできるだけ切れ目なく利用できるようにし
に貼り,物流業者には梱包作業に集中してもらった。
た。引越し作業完了日の前日夕方まで稼動させ,翌
ラベルには,移動先のみならず現在地も記入して,
日のネットワーク工事終了後には立ち上げることが
ラベル作成と梱包作業の最終確認を行う手段とし
できた。立ち上げとともに,各種依頼や申請の受付
た。排架されている資料の量を目分量で確認して必
も開始したため,
受付を停止したのは1日半であった。
要箱数分のラベルを作成することにより,おおよそ
資料の排架も完了日にはひととおり終わらせて,
の物量を算出することもできた。梱包する箱は,書
オープン前でも,必要に応じて資料を利用できるよ
棚1段につき2箱とし,余った空間には詰めものを入
うにした。
れてもらい,別の棚の資料を入れないように徹底し
た。
現存の建屋を利用しての移転統合であった。移動
して空いたところから改修工事を行い,工事が終わっ
移転先の書架組立が終わったところから,書架の
たら移動するという工程を繰り返したため,全体ス
上に配置記号を掲示して,箱を開封したらすぐに排
ケジュールの進行に制限が生じ,種々の事情も加味
架ができるようにした。
されていくため,図書室の移動時期は何回か変更と
大量のものを移動するため一連の作業がスムーズ
なり,最終的には全体の最後となった。予定変更は
に行えるよう,書架の部品や梱包した箱などを仮置
余儀なくされたが,かなりの量の所蔵整理を川崎ラ
きする場所を段階に応じて確保した。特に,横浜ラ
ボで済ませることができ,結果的にはサービスの停
ボ分は梱包してから排架するまで時間を置くため,
止を最小限にすることができた。
他の作業の妨げにならないよう,ある程度積み上げ
て置いておいても安全上問題のない場所として移転
4. 使いやすさの向上
先の近くにある小部屋を借りた。
4.1 図書室の設計
3.4 移転作業中のサービス
移転作業の利用者への影響を最小にするために
サービスを工夫した。研究室の移転開始から図書室
634
図書室の設計にあたっては,地の利を生かした快
適環境の提供,わかりやすい配置,図書館用家具の
再利用を方針とした。
が移転先にオープンするまでは,貸出冊数と貸出期
川崎ラボの図書室は4棟のうちの1つで他から離れ
限の制限を除外して必要資料の貸出を促進した。移
ていてアクセスには不便であったが,新しい図書室
転作業中も基本サービスをできるだけ継続した。貸
は本館3階の階段脇と,利用者がアクセスしやすいと
企業図書室の移転統合と地震対策
ころになった。図書室は研究者のためのものである
することが求められた。移転経費と建物荷重のバラ
という想いが通じてこの場所となった。
ンスから集密書架を諦め,固定書架を一部新調する
部屋の形状も,川崎ラボでは8つに細かく分かれて
決断をしたが,全面開架の開放的空間の構成につな
おり段差や曲がり角もあったが,矩形のワンフロア
がった。大きな閲覧机と椅子は主要閲覧エリア,個
となり,格段に移動しやすくなった。
人机と長机は自習エリア,カラフルな変形机と椅子
以前は壁面が多く窓が少ないため書架の場所がと
は小閲覧エリアに配置。ホワイトボードと複合機は
りやすかったが,窓が多くて明るい半面壁面は少な
主要閲覧エリアに配し,打合せの場も兼ねられるよ
く,等間隔に大型の柱が16本もあり,レイアウトが
うにした。
限定される上に,以前と比べると天井が低い空間と
設計図を作成するにあたり,所有している各種什
なった。そのため,仕切りや床上げを取り去り高さ
器や移転先の部屋の寸法をこと細かに計測した。詳
を確保するとともに,通路や柱,書架などの間隔を
細化を進めるたびに平面だけではなく立体的に把握
すべて90センチ以上とり,自由な移動動線を確保し
する必要が生じ,壁や柱にある電源設備などの大き
た。さらに,3か所の出入口と大型柱を区切りに見立
さと位置を確認して,書架の位置などを決めていっ
てて10のブロックに分けて,閲覧,情報調査,自習,
た。しかし,新しい書架を建てる直前になって微妙
発想転換アイデア醸成など利用目的に応じた空間の
なでっぱりや寸足らずを発見して書架を一本諦める
提供を演出した(図1)。
一幕もあった。
書架はブロック中央と壁面に配置して,ブロック
ごとに排架する資料の種類を統一。主要閲覧エリア
4.2 案内表示の徹底
は2方向に窓がある最良の位置に配し,新聞や新着図
全体配置図を3か所の出入口付近と主要閲覧エリア
書を排架。柱と柱の間にも小さな閲覧エリアを設置
に掲示して,目的の場所がどこから入ってもわかる
して,ちょっと見や調査作業ができるように配慮。
ように案内した。書架の側面や書棚には,資料の種
明るい窓があるエリアは自習エリアとして気分転換
類や分類,並び順,キーワードなどを掲示して,排
に一役貢献。検索貸出返却P Cと個人利用P Cは1か所
架してある資料の内容を明確にした。P Cは立体的な
にまとめた。無線LANがあるため室内どこでも利用可
案内板を立てて離れたところからもその場所がわか
能であるが,持込P Cでまとまった作業ができるよう
るようにして,利用方法を記載した案内板を周囲に
に特に窓際には電源と有線LANを配備した。
置いた。
経費面から既存の書架や机椅子などは最大限活用
新着図書はN D Cの分類を参考にして作成した独自
の内容別見出しを書棚に掲示して,選書を助ける試
窓
検討室
窓
事務室
みをしている。お薦め図書は,掲示用ブックエンド
窓
��利用
閲覧
貸出返却
利用者
新聞
大型本
新着図書
なども活用して,表紙を見せるように立体的に置き,
窓
出入口
特集雑誌や別冊,新刊やセミナーの案内などを置い
������
����図
廊下階段室
出
入
口
����
閲覧
��新�
閲覧
�書
目につきやすくしている。また,
大型本書架の上には,
自習 窓
て利用を促進している。
�書
図書��
����
新聞��
���書
閲覧
���
�書
�書��
������ブック
出入口
図1 図書室ブロックレイアウト図
図1 図書室ブロックレイアウト図
自習
窓
4.3 コーナーの統一整備
各種コーナーを統一整備した。
「今週の新着雑誌」
は,1つだけ色と大きさが異なる雑誌架を活用して設
635
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2012
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けたものである。ここを見れば最新刊の雑誌の表紙
ルを適用し,従来から,書架は耐震固定(壁や床へ
をひと目で眺められるため,新着図書コーナーと併
の固定や書架同士の連結)を行い,窓や戸のガラス
せて,来室の際のチェック必須の場所となっている。
には飛散防止フィルムを貼るなどしてきた。さらに3
「最近返却された本」は,貸出返却P Cの近くに設置し
年前からは書棚に資料落下防止シートを敷いている。
たブックワゴンである。新刊に限らず古いものでも
大地震が発生している事故例から書架そのものの
このワゴンにあると目につくようで,思わぬ発見が
倒壊よりも,資料の飛び出し落下による危険性が重
あると意外と評判がよく,返却されるとすぐに借り
視されるようになってきていた。書架は耐震固定と
出されていくものもある。図書室員にとっても実物
多数資料による重量で容易には倒壊しない。むしろ,
で貸出の動向がわかり,選書のヒントにもなってい
地震初期における揺れで,落下してくる資料に当た
る。「日立コーナー」は,社史,社員OB執筆本,外部
り怪我をしたり,散乱した資料で逃げ道が塞がれた
執筆者による関連本,日立評論などの雑誌,各種パ
りすることのほうが重大である。予防策として,(1)6
ンフレットなど,これまでは種別に置かれていたも
段以上の高い書架は設置しない,(2)上段には資料を
のを一堂に集めて,ここで日立がわかるというコー
置かない,(3)「落下防止バー」を設置する,などが
ナーをめざしている。
提案されているが,収納量確保が現実問題となり(1)(2)
の実施は困難である。(3)は揺れると自動的にバーが
4.4 効果
降りるという仕組みであるが,初期の大揺れではバー
移転統合は,図書室利用を見直す絶好の機会となっ
が降りる前に資料が飛び出したという事例も報告さ
た。利用者から「来やすい,見通しがよい,通りや
れていて投資対効果が疑われた。安価には自前で棒
すい,開放的,探しやすい,見つけやすい,ちょっ
などを固定設置した例もあるが,取り出し難い上に
と中身を見る場所がある,PCが利用できる,新しい本・
資料が傷つくため,頻繁に出し入れする棚には不向
利用頻度の高い本がわかる,借りやすく返しやすい」
きである。
などの感想が寄せられて,以前よりも使いやすさが
向上したことがわかる。
書架の構造は変えずに比較的安価で容易に実施で
きる安全策はないかと調査していたところ,特殊発
新しい図書室への来室者は増えた。貸出数で見る
泡樹脂によって資料の落下を防止するシートが発売
と,オープン以降順調に貸出数を伸ばし,前年と比
された。早速試したところ,その効果を実感できた
較すると月平均で150%以上となっている。貸出の内
ので,優先して予算を確保した。シートを敷く作業
容を調べてみると,新着図書だけではなく雑誌のバッ
は,(1)人の安全を優先(人が多く出入りする閲覧室,
クナンバーや発行の古い図書も一緒に借りられてい
避難通路,メインの動線を優先),(2)壁面固定書架が
ることがわかった。図書室担当者からも「所蔵資料
先(建物の構造から直接地震波が入力される)
,(3)最
が把握しやすい,整理しやすい,依頼資料が探しや
上段から(床固定の場合は上段ほど地震波が増幅さ
すい,来室者への対応がすばやくできる」などの効
れる),(4)移動書架(人があまり入らないので書籍の
果があげられ,担当者にとってもよい図書室ができ
重要度を勘案)
,(5)5段書架は上から2段,6段書架は
た。
上から3段(人の腰から上に相当する部分)を考慮し
5. 地震対策
て順次実施。敷く作業と同時に書架の清掃作業と資
料整理も実施した。
シートは,軽くて取り扱いも楽なため,移転に際
地震対策について触れておく。社内におけるルー
636
しては,適当に折って移動しそのまま再利用して敷
企業図書室の移転統合と地震対策
いた。また,汚れても,薬剤を使わない制菌効果に
らった。書架の傾きを調べたところ,ほとんど落ち
より拭き掃除のみで汚れ落ちするため,掃除も楽で
なかった旧刊雑誌の書架がわずかに傾いていること
ある。
がわかり直してもらった。
移転後は全面開架となり,以前よりも安全面での
落下した資料を戻すときから,資料の並べ方を変
配慮が必要と考え,資料はできるだけ詰めて並べ各
えた。埃などによる汚れ防止のため,棚に空きがあ
種ブックエンドで押さえて動かないようにした。会
る場合は最下段を空けていたが,最上段を空けるよ
議録のように表紙が柔らかい資料の場合は,空いて
うに変更した。また,背表紙が見えやすいようにと
いるところにファイルボックスも入れて,棚全体に
書棚の前面に揃えて排架していたが,揺れと同時に
隙間ができないようにした。
せり出してくることを目の当たりにしたので,見え
3月11日の地震では,資料が落下する前に書架の間
にくくても奥のほうに排架するようにした。そして,
から避難する時間を確保できたようで,けが人は出
ブックエンドやファイルボックスを使い,できるだ
なかった。余震も多く資料落下はあったが,一番懸
け隙間がないようにすることも徹底して行った。
念していた旧刊雑誌は,下段の製本雑誌が数冊落下
したのみであった。隙間を埋めた会議録の棚もびく
6. おわりに
ともしていなかった。落下したのは,ゆるい並べ方
であった国際会議録と,貸出や整理途中のため隙間
移転統合を機会に図書室の配置と機能を見直して
が目立っていた上段にある図書であった。多数を連
使いやすさの向上を図った。これまでは電子化の波
結固定した書架では中央付近が特に多く落下し,1冊
に乗り遅れないようオンライン化に重点を置いてき
であるが書架と床の間に挟まれて取り出せなくなっ
たが,冊子版の利用にも目を向けて各種取り組みを
た。余震が続いたので振動が集中したのかもしれな
行った。ふっと心が休まりリラックスした瞬間にア
い。
イデアは生まれるという。今後も広い視野,情報検
地震後,専門業者による書架の耐震固定などの点
索のヒント,アイデア着想なども含めた広い意味で
検を実施し,ネジのゆるみなどを直してもらった。
の情報入手を提供支援する場として図書室を活用し
挟まれた本は,最下段の棚をはずして取り出しても
てもらえるようにしていきたい。
参考文献
1) 齋藤久実子. 神奈川県立川崎図書館における「科学技術系外国語雑誌デポジット・ライブラリー」の開設.
情報管理. 2004, vol. 47, no. 7, p. 476-480.
Author Abstract
Hitachi, Ltd. Systems Development Laboratory consolidated its three remote centers of excellence in new
premises at Totsuka in August 2010, with two libraries relocated and integrated at the same time. We took the
opportunity of re-examining library collections to make steady efforts in their reorganization. Large quantities
of books and magazines were moved to the new library efficiently and stepwise, ensuring both increased
speed and minimized errors. Libraries were open whenever possible to best serve users during the relocation.
To offer a comfortable environment and improved usability for users, we exercised our ingenuity in new
637
情報管理
JOHO KANRI
2012
vol.54 no.10
Journal of Information Processing and Management
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library design: provision of thorough signs and unified corners. Earthquake countermeasures taken in the new
library focuses on materials anti-falling, including anchoring book stacks, covering the shelves with sheets, and
lining up the collections in a special manner.
Key words
library, relocation and integration, collection reorganization, comfortable environment, earthquake
countermeasures
638
J-GLOBAL foresightの構築について
J-GLOBAL foresightの構築について
Toward the development of “J-GLOBAL foresight”
治部 眞里1 松邑 勝治1 斉藤 隆行1
JIBU Mari1; MATSUMURA Katsuji1; SAITO Takayuki1
1 独立行政法人科学技術振興機構 イノベーション推進本部 知識基盤情報部(〒102-8666 東京都千代田区四番町5-3)Tel :
03-5214-8431 Fax : 03-5214-8460 E-mail : [email protected]
1 Department of Databases for Information and Knowledge Infrastructure, Innovation Headquarters, Japan Science and
Technology Agency (5-3 Yonbancho Chiyoda-ku, Tokyo 102-8666)
原稿受理(2011-11-21)
情報管理 54(10), 639-651, doi: 10.1241/johokanri.54.639 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.639)
著者抄録
独立行政法人科学技術振興機構(以下,J S T)はこれまで蓄積した情報資産等を他のさまざまなデータベース等と連結
することによって,JST 知識インフラの構築を推進している。構築された JST 知識インフラのデータは,独自仕様では
なく,世界標準的なデータフォーマットを目指している。同時に J S T 知識インフラを基盤として,計量書誌学的分析,
特許分析等の結果や指標を導出し,企業,機関等に対して,今後の経営戦略立案に寄与可能なように,Google Maps サー
ビス等とデータをマッシュアップ,可視化するサイト「J-GLOBAL foresight」の構築を進めている。JST 知識インフラ
構築が米国で政府のデータを公開する DATA.GOV の科学技術情報版であるならば,J-GLOBAL foresight は政府のデー
タを Google Maps 等とマッシュアップしてデモンストレーションを行っている Data-gov Wiki をそれぞれ目指してい
る。
キーワード
計量書誌学的分析,特許分析,foresight,J-GLOBAL,DATA.GOV,Data-gov Wiki,科学技術,イノベーション
1. はじめに
スベースによる政策形成が謳われている。これまで
「国内外で科学的知見を利用した証拠に基づいた政策
独立行政法人科学技術振興機構(以下,J S T)は
が形成されていない」という反省からのものである
2008年4月に事業成果の可視化プロジェクトを開始し
が,その背景には「政策情報の体系的なデータベー
た。平成20年度予算内示の折,財政当局からファン
スがなく利用できない点が大きかった」と言われて
ディング効果の評価を早急に進めるよう求められた
「各国とも政策の企画立案に関連した調査や
いる1)。
ことに起因する。
研究を,自ら,あるいは委託して実施している」1)が,
第4期科学技術基本計画の中においても,「科学技
J S Tは第4期科学技術基本計画2) に先駆けて,自ら準
術イノベーション政策の科学」等により,エビデン
備をしていたとも言える。なぜならそれに必要とな
639
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2012
vol.54 no.10
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る客観性の高いデータ(ハードデータ)のうち,日
が,“DATA.GOV would operate as an index, not as an
本文献情報に関しては,J S T自ら蓄積していたという
actual warehouse for data(DATA.GOVは,データウェ
こと,また外国文献情報に関してはThomson Reuters
アハウスとしての役割は持たず,データのインデッ
社,Elsevier社から購入し,それらのデータを使用し,
クスとしての機能を保有する)
” である4)。つまり,
計量分析を実施していたからである。
DATA.GOVは,さまざまなデータをエコシステムのご
本稿は,J S Tの事業成果可視化プロジェクトをさら
とく,自律的に連結していけることを理想とし,そ
に発展させて構築したJ-GLOBAL foresightについてご
のためにデータのフォーマットやデータへのアクセ
紹介する。
スを標準化することに取り組んだ。さらに,Google,
2. J-GLOBAL foresight構築の背景
Microsoft等がアプリケーションをオープンソースと
して開発した。Google Mapsや,Google Chartがその
例である。DATA.GOVのデータと他のデータベースと
米国において,オバマ大統領が “Open government
のリンケージが進めば,イノベーティブなビジネス
memorandum ” を発表したのが,2009年1月21日の
モデルが近い将来に構築されることを多くの企業が
ことである。その120日後に,政府が保有している生
見込んでいるのである。
データを広く国民に公開,利用できるシステムとし
さらに,データのフォーマットとして,データの
てのDATA.GOVが立ち上がった(図1)3)。DATA.GOV
RDF化が進んでいる。これは,Rensselaer Polytechnic
の設立に関する哲学的な話は,“D a t a . g o v” を参照し
InstituteのData-gov Wikiプロジェクトにより行われ
ていただきたい4)。
ている(図2)5)。D a t a - g o v W i k iプロジェクトでは
このDATA.GOVは,次なるターゲットを政府のデー
R D F化されたデータを使用して,さまざまなデモン
タから大学等が保有するデータへと移行している。
ストレーションを公開し,使用したデータソースや
D ATA . G O Vの構築にあたり,大きな要となったの
技術,例えばRDF,SPARQL,SPARQLProxy,Google
図1 DATA.GOV(http://www.data.gov/
)
図1 DATA.GOV(http://www.data.gov/
)
640
J-GLOBAL foresightの構築について
図2 DATA-gov.Wiki
図2 Data-gov
Wiki
Visualizaion API等の紹介もある。
例えば,東日本大震災(2011年3月11日)後の最
新の日本の地震データと放射線レベルのデータを
い。このような中,現時点で利用可能な知識を結集
して未来への洞察を深める手段として,フォーサイ
ト(foresight)がある。フォーサイトとは,
「先見の明」
G o o g l e M a p s情報と重ね,可視化することも可能で
「将来に対する洞察力」「(将来の)展望」「(将来を見
ある。まさにLinked Dataのマッシュアップが行われ
越した)配慮」等を意味する。グローバル企業の多
ている6)。これは,オバマ大統領が,政府の透明化,
オー
くが,戦略的プランニング室やフォーサイトのため
プン化として掲げた “Government should be” に続
のグループを立ち上げ,イノベーション戦略立案に
く標語 “transparent(透明化)” , “participatory(参
取り組んでいる8)。
加型)” , “collaborative(協同化)” がますます進化し
ている事実を示している。
さらにGeorgia Institute of TechnologyのAlan Porter
は,さまざまなデータ(W e b o f S c i e n c eの論文情
米国に続いて,英国やオーストラリア等の国で政
報,Derwent Innovations Indexの特許情報,Factiva
府のデータのオープン化が進んでいる。わが国にお
の企業データ)を連結し,計量分析後,それらを基
いても経済産業省が「オープンガバメントラボ」の
盤として,さまざまな有識者を集め,テーマの中長
「データボックス」として,取り組みを始めている7)。
期戦略を練るフォーサイトの取り組みを行ってい
社会はますますグローバル化が進み,さまざまな
る。また米国科学技術政策局(Office of Science and
要素が複雑に絡み合いながら進化しており,未来社
Technology Policy: OSTP)のシンクタンク防衛分析
会は,さらに不確実性が増すことが予想される。複
研究所-科学技術政策研究部門(Institute for Defense
雑に多くの要素が絡み合う多元的な構造から,将来
Analyses-Science and Technology Policy Institute:
起こり得るであろうことを一意に決めることは難し
IDA-STPI)においても同様の取り組みを今まさに行お
641
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うとしている。
に連結するエコシステムの実現を目指している。現
このような背景の中,JSTは「J-GLOBAL foresight」
状J - G L O B A Lで使用しているデータ基盤の仕組みは,
のβ版を2011年12月に公開する。その目的は,事業
サービスの実用化を最優先しJ S T独自の仕様になって
成果可視化プロジェクトをこれまで蓄積したJ S Tの情
いるために,Linked Open Dataの実現には未だ至っ
報資産等と連結し,計量書誌学的分析,特許分析等
ていない。そこで,J S T知識インフラではR D F化等の
の結果や指標を導出し提供するためである。J S Tの情
世界標準的な仕様での構築を進めている。
報事業の基幹の1つである文献情報や日本の特許情報
等のさまざまなデータ,それらから導出される指標
をGoogle MapsサービスやamCharts9)とマッシュアッ
プして可視化することにより,大学・企業等の機関
の今後の経営戦略立案に少しでも寄与したいという
J S T知識インフラは科学技術情報のD AT A . G O Vを,
「J-GLOBAL foresight」はData-gov Wikiをそれぞれ目
指している。
3. J-GLOBAL foresight
意図から,サービス名に「f o r e s i g h t」という言葉を
J-GLOBAL foresightでは,データ&ランキング,分
付加している。
また,J S Tはイノベーションの創造を推進するファ
析ツール,リサーチレポート等を掲載している。J S T
ンディングエージェンシーとして,J S Tの科学技術へ
指標に関しては,2012年4月の科学技術週間に公開す
の投資がいかにイノベーションに貢献しているかそ
る予定である(図3)。
の効果を明らかにしていくことが求められている。
政策研究者には,データの背後にある因果関係を
「J-GLOBAL foresight」では,科学が技術へ及ぼす影
特定するために,政策決定者には,新たな政策を作
響としてイノベーションをとらえ,学術論文が特許
成するために,これらのデータが貢献できればと期
出願へ与えるインパクトを分析する「テクノロジー
待している。
リンケージ」,特許と学術論文間の共引用関係からイ
J-GLOBAL foresightのデータランキング,JST指標
ノベーション創出に近い研究グループを見出す「イ
において,使用しているデータベースおよびテクノ
ノベーションフロント」など,J S Tならではの新しい
ロジーは,表1の通りである。
指標や分析手法の開発を行い,可視化を行っている。
一方,現在構築を推進しているJST知識インフラは,
将来的に「J-GLOBAL foresight」のデータ基盤とな
また,分析ツールにおいて,使用しているデータ
ベースおよびテクノロジーは,表2の通りである。
以下にそれぞれの内容について説明する。
るものであるが,これは「つなぐ」というコンセプ
トで,J S Tがこれまで蓄積してきた情報資産を有機的
図3 J-GLOBAL foresightのメニュー
642
J-GLOBAL foresightの構築について
表2 分析ツールにおいて使用したデータベースおよびテクノロ
表1 データランキング,JST指標において使用した
表1 データランキング,JST指標において使用したデータベースおよびテクノロジー
データベースおよびテクノロジー
使用したデータベース
Thomson Reuters
表2 分析ツールにおいて使用したデータベースおよび
テクノロジー
使用したデータベース
Web of Science(WoS)
自然科学分野(SCIE)
社会科学分野(SSCI)
人文学分野(AHCI)
自然科学分野の会議録(CPCI-S)
社会科学・人文学分野の会議録(CPCI-SSH)
Thomson Reuters
Essential Science Indicators (ESI)[2000-2010]
Thomson Reuters
Derwent Wrold Patents Index(DWPISM)
Thomson Reuters
Derwent Patents Citation Index (DPCI)
(独)科学技術振興機構(JST)
JDreamII
JST Plus
JMEDPlus
JST7580
JSTChina
(独)科学技術振興機構(JST)
J-GLOBAL
使用したテクノロジー
J-GLOBAL API, Cytoscape Web
の変化をG o o g l e M a p s上に表示させたもので,論文
のデータとG o o g l e M a p sサービスをマッシュアップ
した例である。
使用したテクノロジー
amCharts, Google Mapsサービス, Cytoscape, Cytoscape Web, MCODE plugins
ナビゲーションコントロールの上下左右のコント
ロールを使用して地図上を移動し,世界各国の論文
3.1 データ&ランキング
数を見ることができる。グラフにカーソルを持って
データ&ランキングのコーナーでは,ハイライト,
世界の論文,世界の特許,J S Tがファンディングした
研究者,国際共同研究の状況,Activeな研究者,科学
いくと,情報ウインドウが開き,詳細な論文数も表
示される。
ま た,2011年 の ハ イ ラ イ ト と し て,「 中 国 の 台
頭」と題して,Thomson Reuters「Essential Science
技術 A ward等を掲載している。
分析結果のデータはすべてCSV形式でダウンロード
I n d i c a t o r s(2000-2010)
」に収録された2001年から
2010年までのアジアの国注1)のT O P1%の論文数を分
可能である。
図4は,世界の論文を2001年から2005年の5年間と
2006年から2010年の5年間の2期に分けてその論文数
野別に集計したものを見ることができる(図5)
。
ホームページ内のテキストボックスで分野を選択
1,000以上
10,000以上
1,000未満
出典 : Thomson
Reuters
“Web
of Science” を元に, JSTforesight”により,情報事業で集計
“J-GLOBAL foresight” により, 情報事業で集計
出典:Thomson
Reuters
“Web of
Science”を元に,JST“J-GLOBAL
図4 世界の論文数
図4 世界の論文数
643
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中国
日本
出典 : Thomson Reuters “Essential Science Indicators (2000-2010)” を元に, JST “J-GLOBAL foresight”
出典:Thomson
Reuters “Essential Science Indicators (2000-2010)”を元に,
JST“J-GLOBAL foresight”により,情報事業で集計
図5 アジア各国のTOP1%論文数
により, 情報事業で集計
すると,その分野の論文数を見ることが可能である。
具現化」と「知の創造」という軸で2次元空間に展開
サイエンス等の分野の論文数において,中国の躍進
一度サイエンスの場へと立ち戻り,その成果を参照
が目覚しい。
し,テクノロジーとサイエンスを丁寧につなげるこ
図5 アジア各国のTOP1%論文数
2000年の半ば過ぎから,化学,工学,コンピューター
している。既存のテクノロジー開発に行き詰まると,
また,その背景にある研究者数,開発費のデータ
についても取得可能である。
とによって,ブレークスルーが起こり,イノベーショ
ンが創出される。
世界の論文数だけでなく,世界の特許数も表示し
イノベーションダイヤグラムにJ-GLOBAL foresight
ている。これにより,一目で世界の科学や技術の動
の機能である引用分析,テクノロジーリンケージ等
向を確認することが可能となる。
を埋め込み包括的に把握し,発展を可視化しようと
する試みが図6である。
3.2 JST指標(テクノロジーリンケージ,イノベー
ションフロント,テクノロジーフロント)
エンスとテクノロジーをつなぎ,イノベーションの
J S Tはイノベーションの創造に貢献することを目指
ブレークスルーを生起するイノベーションプロセス
す機関である。イノベーションの創造を推進するた
をエビデンスベースでとらえようとすると,例えば
めには,イノベーションがどのように生成されてい
特許と論文のリンケージを見る必要がある。
るか,そのプロセスを分析することが必要である。
特許審査官の引用文献のうち,特許と論文の割合
山口は,イノベーション生成プロセスは,
「知の創造」
により,任意の特許が科学の影響が強いか,技術の
と「知の具現化」という2つの知的な営みの連鎖プロ
影響が強いかを分析するサイエンスリンケージとい
10)
。また,イノベーション
う指標がある。サイエンスリンケージでは,特許審
生成プロセスをイノベーションダイヤグラムとして
査官に引用されている文献が特許か非特許文献(論
可視化している。イノベーションプロセスを,「知の
文)かを判別する。
セスであると考えている
644
既存のテクノロジーがサイエンスを参照し,サイ
J-GLOBAL foresightの構築について
�S�:イノベーション���������
特許
特許
ファンディング
A* (イノベーション)
�の���
引用分析
特許
特許
ファンディング
A’ (イノベーション)
マッピング:キーワード
サイエンスリンケージ
技術の発展史
特許
特許
A (既存のテクノロジー)
インプット・アウトプット
データベースのリンケージ
テクノロジーリンケージ
(特許~論文)
ネットワーク分析
S (既存のサイエンス)
��ークス�ー
テクノロジーリンケージ
(特許~論文)
共鳴場
P (サイエンスの発展)
Foresight
Foresight
論文
論文
論文
論文
ファンディング
ファンディング
引用分析
論文
論文
マッピング:キーワード
�の��
研究発展史
図6 イノベーションダイヤグラムとJ-GLOBAL foresight
論文の被引用回数が高いほど特許審査官による被
論文�特許のリンケージ�������2005-2009
8
引用回数が高いとは必ずしも言えない。図7中の「生
生殖系列に分化可能な誘導多能性幹細胞の作製
特
許
審
査
官
に
よ
る
年
平
均
被
引
用
回
数
7
メタボリックシンドローム
殖系列に分化可能な誘導多能性幹細胞の作製」は,
6
定義付けられた因子による成人ヒト線維芽細胞
由来の多能性幹細胞の誘導
5
JSTが戦略的創造研究推進事業(CREST)でファンディ
4
ングした京都大学の山中伸弥氏の論文 “G e n e r a t i o n
3
of germline-competent induced pluripotent stem
2
Cancer statistics, 2007
c e l l s” で,特許審査官の引用が最も多い論文であり,
1
Cancer statistics, 2006
0
0
100
200
300
400
500
600
700
800
900
1,000
論文の年平均被引用回数
出典:Thomson Reuters “Essential Science Indicators (2005-2009)”および“Derwent Innovation Index”のデータを元に,
出典 : Thomson
Reuters “Essential Science Indicators (2005-2009)” および
JST“J-GLOBAL
foresight”により,情報事業で集計
“Derwent Innovations Index” の デ ー タ を 元 に, JST “J-GLOBAL foresight”
により, 情報事業で集計
図7 テクノロジーリンケージ
図7 テクノロジーリンケージ
技術への貢献度の高い論文と言える。
Thomson Reuters社では,論文と論文の共引用(参
考文献として一緒に引用されること)分析により,
非常にインパクトの高い論文をリサーチフロントと
して,Science Watchにおいて公開している11)。
J S Tが提唱するテクノロジーリンケージは,特許審
その手法を活用して,J S Tでは,特許から共引用さ
査官の引用文献のうち,非特許文献(論文)を文献デー
れているT O P1%の論文をクラスター化し,技術に影
タベースと書誌マッチングすることによって,テク
響を与える論文,イノベーション創出に近い論文と
ノロジーリンケージを導出している。
して,可視化している。技術に影響を与えている論
図7は,2005年から2009年に発表された臨床医学
文を
「イノベーションフロント」
と命名した。イノベー
分野の論文を対象に,X軸は論文の年平均被引用回数
ションフロント導出の方法論は,以下の通りである
をY軸は特許審査官による年平均被引用回数を示した
ものである。特許の引用については,ファミリーカ
ウント数注2)である。
(図8)。
ま ずT h o m s o n R e u t e r s社 のE s s e n t i a l S c i e n c e
I n d i c a t o r sの論文(各分野において被引用回数が
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JST指標:イノベーションフロント
特許に共引用される論文に注目したイノベーションフロント
特許に共引用される論文に注目したイノベーションフロント
������
共引用文����
��ー���
被引用TOP1%
(ESI)
���ー�
(イノベーションフロント)
���ー�
(イノベーションフロント)
共引用3
論文
○○
共引用
関係
論文
△△
論文
××
共引用
関係
共引用
関係
論文
■■
共引用1
共引用2
引用
特許D
特許C
特許A
特許F
特許B
特許E
D������ ������P������ I�����D������ P�������C��������I����
図8 イノベーションフロントの導出法
T O P1%の高被引用度論文)の中から出版年が2005年
から2010年までの論文を対象に,特許から共引用さ
れている論文のペアのうち,以下の式で導出されるN
が0.3以上のものを抽出する。
Ν = F(A, B)
イエンス系の論文が圧倒的に多いことがわかる。
また,図9のノードの大きさは,論文の被引用回数
を示し,上から1列目の左から1番目のクラスター 1
は8論文から構成され,論文の被引用回数は全部で
F(A)×F(B)
F(A, B) >= 2
2,704,特許からの被引用回数は67ファミリーであ
F(A):論文Aの特許からの引用数
る。M i c r o R N Aについてのクラスターである。2番目
F(A,B):論文AとBが同一の特許から引用されている
はクラスター 2でinduced pluripotent stem cells(iPS
細胞)についてのクラスターで,同じく8論文から構
回数(共引用数)
注3)
抽出された論文のペアをCytoscape
にロードし,
成され,論文の被引用回数は4,713,95ファミリー特
Cytoscapeのプラグイン機能で,クラスター分析を可
許から引用されている。クラスター 2には,JSTがファ
能にするMCODEを使用して,クラスタリングしたも
ンディングしている山中伸弥氏の論文が含まれてい
のが図9である。結果,113本の論文から構成された
る。
23個のクラスターが生成された。
図10は,113本 の 論 文 が 掲 載 さ れ た 雑 誌 で,
図9は, ス タ ン ド ア ロ ン のC y t o s c a p eで 表 示 し
たデータだが,J-GLOBAL foresightのWeb上では,
『S c i e n c e』
『N a t u r e』『N e w E n g l a n d J o u r n a l o f
Cytoscape Webを使用している。ユーザーがノード
M e d i c i n e』の順に多い。どの雑誌もインパクトファ
をクリックすると,論文の書誌がW e b上で表示され
クターが高い雑誌である。
る。また,
Thomson Reuters社Web of Scienceのレコー
また分野を見てみると,臨床医学が半分以上を占
め,次に生物学・生化学,分子生物学・遺伝学と続く(図
11)
。
646
このように,特許に引用された論文は,ライフサ
ドに対するリンクも設定している11)。
リサーチフロントがサイエンスの構造を見ること
ができるのに対し,イノベーションフロントは,テ
J-GLOBAL foresightの構築について
�ノ�ー��ン��ン�
オープンソースであるCytoscapeを使用
・ノードの大きさは論文の被引用回数に比例
•ノードをクリックすると論文の書誌データを表示
・ノード表示:分野(変更可能)
・ノードの位置,ノード間の距離に意味はない
出典 : Thomson Reuters “Essential Science Indicators (2005-2009)” および “Derwent Innovations Index” のデータを元に,
JST “J-GLOBAL foresight” により, 情報事業で集計
図9 イノベーションフロント
14
70
12
60
10
8
50
40
6
30
4
20
2
10
出典:Thomson
Reuters
“Essential
Science Indicators
(2005-2009)”および“Derwent
Innovation
Index”
出典
: Thomson
Reuters
“Essential
Science
Indicators (2005-2009)”
および
のデータを元に,JST“J-GLOBAL foresight”により,情報事業で集計
“Derwent Innovations Index” の デ ー タ を 元 に, JST “J-GLOBAL foresight”
により, 情報事業で集計
図10 イノベーションフロントを構成する論文の掲載雑誌
工
学
理
学
物
域
複
合
領
学
材
料
科
疫
学
免
化
学
伝
学
・遺
生
物
学
分
子
生
物
学
・生
学
化
学
0
臨
床
医
SC
IE
NC
E
NA
NE
TU
W
RE
EN
GL
J
J
ME
CL
D
IN
IN
VE
ST
NA
CE
T
BI
P
LL
OT
NA
EC
TL
HN
AC
OL
AN
AD
GE
SC
W
IU
CH
SA
EM
IN
T
NA
ED
IT
T
M
ET
CE
H
LL
OD
ST
S
EM
CE
LL
ST
EM
CE
LL
S
0
出典:Thomson
Reuters
“Essential
Science Indicators
(2005-2009)”および“Derwent
Innovation および
Index”
出典
: Thomson
Reuters
“Essential
Science
Indicators (2005-2009)”
のデータを元に,JST“J-GLOBAL foresight”により,情報事業で集計
“Derwent Innovations Index” の デ ー タ を 元 に, JST “J-GLOBAL foresight”
により, 情報事業で集計
図10 イノベーションフロントを構成する論文の掲載雑誌
図11 イノベーションフロントを構成する分野別論文数
図11 イノベーションフロントを構成する分野別論文数
クノロジーに影響を与えているサイエンスの構造を
とほぼ同様である(図12)。T h o m s o n R e u t e r s社の
見ることができる。
Derwent Innovations Indexの特許のうち被引用回数
テクノロジーの構造は,テクノロジーフロントで
T O P1%の高被引用度特許を優先権出願年が2004年か
見ることができ,方法論はイノベーションフロント
ら2009年までを対象に,特許から共引用されている
647
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JST指標:テクノロジーフロント
共引用される特許に注目したテクノロジーフロント
共引用される特許に注目したテクノロジーフロント
���ー�
�テクノロジーフロント�
���ー�
�テクノロジーフロント�
共引用3
特許
○○
������
共引用特許���
��ー���
特許
Derwent World Patents Index
共引用
関係
特許
△△
特許
××
共引用
関係
共引用
関係
特許
■■
共引用1
共引用2
引用
特許C
特許A
特許D
特許F
特許B
特許E
Derwent World Patents Index�Derwent Patents C�tat�on Index
図12 テクノロジーフロントの導出法
ものを導出した。その中から以下の式で導出されるN
が0.3以上のものを抽出する。
Ν = F(A, B)
F(A)×F(B)
3.3 分析ツール
分析ツールは,J-GLOBALの研究者情報,文献情報,
特許情報,科学技術用語情報,化学物質情報等を対
F(A, B) >= 2
象に検索式を入力し,その結果を可視化できる機能
Fは引用数,A,Bは特許を表している。
を搭載している。
ここではバイオテクノロジー分野の特許をI P Cコー
図14は,文献情報を対象に「山中伸弥」で検索し,
ド注4)を使用して導出後分析した。Nが0.3以上の論文
導出された文献の著者,著者所属,キーワード,資料,
のペアをCytoscapeにロードし,Cytoscapeのプラグ
分類等を表示した例である。文献のタイトルをクリッ
イン機能のMCODEを使用して,クラスタリングした
クすると,J-GLOBALにリンクバック可能であり,類
ものが,図13である。
似度クラスタリング,共起度クラスタリング,頻度
その結果,825本の特許から構成された171個のク
グラフ等を選択することによって,選択したものに
ラスターが生成された。クラスター 1とクラスター 2
応じ,可視化することができる。図の例は,導出さ
は,それぞれ285ファミリー,165ファミリーから引
れた文献20件のタイトルをテキストマイニングし,
用されている特許のクラスターである。それぞれ肝
切り出された用語と著者の共起関係を可視化したも
機能に関するものと,アポトーシスに関連する特許
のである。ノードの大きさは,出現回数(=文献数)
から構成されている。
を表している。山中伸弥氏とともに出現する研究者
イノベーションフロントと同じように,ノードをク
リックすると,特許の書誌事項がW e b上で表示され
る。また,Thomson Reuters社Derwent Innovations
Indexのレコードに対するリンクも設定している。
で最も多いのは,高橋和利氏,科学技術用語は「i P S
細胞」である。
表示された図から,i P Sに関して「知の創造」およ
び「知の具現化」のハブとなっている研究者は誰な
のかを見ることができる。
648
J-GLOBAL foresightの構築について
���ster � ���ster �
テクノロジーフロント
バイオテクノロジー分野
���ster ���
出典 :“Derwent
“Derwent
Innovations
Index” のデータを元に, JST “J-GLOBAL
foresight” により, 情報事業で集計
出典:
Innovation
Index”のデータを元に,JST“J-GLOBAL
foresight”により,情報事業で集計
図13 テクノロジーフロント
4. おわりに
J-GLOBAL foresightは,客観性の高いデータ(ハー
ドデータ)の検索,あるいは計量分析結果を政策決
定者や研究者,企業の方々に提示し,エビデンスに
基づいた政策・経営戦略立案や研究者の高度な分析
に活用されることを期待して構築している。
同時にファンディングをはじめとするJ S Tの事業成
果のイノベーション創出への効果を明らかにするこ
とを目指している。
またご紹介したように科学が技術とイノベーショ
図14 分析ツール
図14
ンへ与える影響を表す指標として,テクノロジーリ
ンケージとイノベーションフロント等,J S T独自の新
なお,J-GLOBAL foresightでは,キーワードはタイ
しい指標の研究開発についても進め,今後公開して
トルから切り出された語が使用される。人手で付与
いく予定である。さらに,J-GLOBAL foresightは,
「実
したキーワードを用いた高度な主題分析には,J S Tが
験サイト」として,利用者の皆様から広くご意見を
提供する有料サービスであるAnVi seersを使用するこ
いただき,皆様とともにサイトを進化させていくこ
とが有効である12)。
とを考えている。
第4期科学技術基本計画で指摘されているように科
649
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学技術とイノベーションには,東日本大震災からの
た分析結果をサイトで公開することも可能である。
復興とわが国の経済成長の牽引が求められている。
ユーザーがデータを見ながら,その因果関係を見極
このためには,単に研究活動だけでなく,適切な資
め,機関の研究戦略等に使用していただくこともで
源配分と成果の活用,そして国民の理解が不可欠で
きる。J-GLOBAL foresightが,将来の経営戦略等の一
ある。また,エビデンスに基づいた戦略も多くの機
翼を担えればと願っている。
関が必要としている。ご要望があれば,それに応じ
本文の注
注1) アジアの国とは,以下のページの国とした。
外務省地域別インデックス(アジア)
. http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/asia.html
注2) 特許ファミリーとは,異なる国によって付与された特許のセットである。異なる地理的地域をカバー
する,単一の発明に対するすべての対応出願である。
Derwent World Patents Indexでは,
世界各国で行われた同一の発明に対する特許出願を特許ファミリー
構造にまとめ,特許の状況を追跡し,さまざまな国際特許発行機関からのすべての最新情報に索引付
けされている。
Derwent Innovations Indexのヘルプ. http://images.webofknowledge.com/WOK48B5/help/ja/DII/h_
glossary.html, (accessed 2011-11-18).
注3) Cytoscapeはオープンソースであり,以下のサイトからダウンロード可能である。
Cytoscape. http://www.cytoscape.org/, (accessed 2011-10-11).
注4) バイオテクノロジー分野の特許は,以下のIPCコードが付与されているものとした。
A01H1/00, A01H4/00, A61K38/00, A61K39/00, A61K48/00, C02F3/34, C07G(11/00,13/00,15/00), C07K(4
/00,14/00,16/00,17/00,19/00), C12M, C12N, C12P, C12Q, C12S, G01N27/327, G01N33/(53*,54*,55*,57*,6
8,74,76,78,88,92).
OECD. Compendium of Patent Statistics. 2008.
参考文献
1) 山本清. やさしい経済学 研究成果を政策形成に活かす. 日本経済新聞. 2011, 朝刊.
2) 答申「科学技術に関する基本政策について」見直し案(パブリックコメント募集文書).h t t p : / / w w w8.
cao.go.jp/cstp/pubcomme/kihon4_shinsai/honbun1.pdf, (accessed 2011-08-08).
3) Obama, Barack. “Memorandum for the Heads of Executive Department and Agencies”. White House.
http://www.whitehouse.gov/the_press_office/Transparency_and_Open_Government/, (accessed 201108-08).
4) Lakhani, Karim R.; Austin, Robert D.; Yi, Yumi. Data.gov. Harvard Business School. 2010-05-13.
5) Data-gov Wiki. http://data-gov.tw.rpi.edu/wiki, (accessed 2011-08-08).
6) DATA.GOV. http://www.data.gov/, (accessed 2011-08-08).
7) “経済産業省オープンガバメント推進サイト”. 経済産業省. http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/e-meti/
opengov.html, (accessed 2011-08-08).
650
J-GLOBAL foresightの構築について
8) 治部眞里. 未来をとらえる科学とは フォーサイトを俯瞰する. 情報管理. 2011, vol. 54, no. 4, p. 200-210.
9) amCharts. http://www.amcharts.com/, (accessed 2011-11-22).
10) 山口栄一. イノベーション 破壊と共鳴. NTT出版, 2006, 312p.
11) “Research Front Methodology”. ScienceWatch.com. http://sciencewatch.com/about/met/rfmethodology/, (accessed 2011-08-08).
12) AnVi seers. http://pr.jst.go.jp/anviseers/, (accessed 2011-08-08).
Author Abstract
Japan Science and Technology Agency (hereinafter, JST) is in the process of building knowledge infrastructure
by means of linking accumulated information assets to a variety of databases. It does not aim to develop
knowledge data infrastructure based on proprietary format, but on an international standard format. JST is also
in the process of creating the “J-GLOBAL foresight” in order to mash up a variety of data such as results and
indices of bibliometric analysis as well as of patent analysis derived from the knowledge infrastructure with
applications like Google Maps and facilitate the visualization of business information. This will contribute to
help companies and institutions formulate business strategy based on the obtained information in the future.
The former aims to be the bibliographic information version of the DATA.GOV which discloses government
data of the United States, while the latter seeks to be the Data-gov Wiki version which provides demonstration
by mashing up the governmental data with applications such as Google Maps.
Key words
bibliometric analysis, patent analysis, foresight, J-GLOBAL, DATA.GOV, Data-gov Wiki,science and
technology, innovation
651
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特許文献に記載の塩基配列およびアミノ
酸配列に関する諸問題
Issues on DNA & amino acid sequences disclosed in patent applications
三原 健治1
MIHARA Kenji1
1 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 メディカルゲノム専攻 バイオ知財コース(〒277-8562 千葉県柏市柏の葉5-1-5
新領域生命棟B17)Tel : 04-7136-5524 E-mail : [email protected]
1 Course of Intellectual Property in Biosciences, Department of Medical Genome Sciences, Graduate School of Frontier
Sciences, The University of Tokyo (Bioscience Bldg. #B-17 5-1-5 Kashiwanoha Kashiwa-shi, Chiba 277-8562)
原稿受理(2011-10-16)
情報管理 54(10), 652-662, doi: 10.1241/johokanri.54.652 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.652)
著者抄録
ゲノムを丸ごと解析できるようになった現在において,D N A 配列やアミノ酸配列に関する情報は年々増加の一途をた
どっている。特許出願についても配列に関する膨大な情報が蓄積されており,配列データの蓄積方法に加えて,蓄積
されたデータを検索等に利用する仕組みも必要である。本稿では上記の配列データの蓄積および検索への利用に関し
て,以下の 4 つの問題点,すなわち(1)塩基数またはアミノ酸数の少ない配列の問題,(2)塩基数またはアミノ酸数
の多い配列,並びに配列数の多い出願の問題,(3)同じ配列が重複して登録される問題,(4)特許出願における配列
表のフォーマットに関して,配列表の X M L 化に伴う問題を取り上げ,それぞれについて考察するとともに,最後に配
列データの信頼性についても考察した。
キーワード
バイオテクノロジー,特許,配列,DNA,アミノ酸,三極,検索,XML
1. はじめに
特許出願の明細書は,特許法第1条に「この法律は,
発明の保護及び利用を図ることにより,発明を奨励
バイオテクノロジーに関連する特許出願には,特
652
し,もつて産業の発達に寄与することを目的とする」
定の塩基配列を有する遺伝子や特定のアミノ酸配列
とその目的が記載されているように,特許権として
を有するタンパク質に特徴のある発明が記載される
「保護」されるべき権利書としての側面と,技術内容
ことが多い。遺伝子やタンパク質を特定するための
を公開して「利用」する形態である技術文献として
最も基本的な方法として,特許審査基準には,塩基
の側面とがある。後者は一般の学術論文と同じ側面
配列またはアミノ酸配列で特定して記載することが
ではあるが,新しい配列が特許文献に掲載された場
できるとされている1)。
合,その配列情報を世の中に提供するとともにそれ
特許文献に記載の塩基配列およびアミノ酸配列に関する諸問題
表1 配列を含む国内特許文献数の推移注4)
を検索等に利用する仕組みが必要である。
5,000
4,500
塩基配列またはアミノ酸配列が記載された特許出
4,000
願が日本国特許庁に出願された場合は通常,当該出
広域ファセット「Z N A」が付与された特許出願につ
いては配列コードデータの作成が行われ 注2),特許
庁内のデータベースに蓄積される。その後,当該配
3,000
2,500
2,000
1,500
1,000
500
0
1970
1972
1974
1976
1978
1980
1982
1984
1986
1988
1990
1992
1994
1996
1998
2000
2002
2004
2006
2008
2010
ト「Z N A」注1) が付与され,公報上に掲載される。
文献数
願に配列が記載されていることを示す広域ファセッ
3,500
列を含む特許出願が公開されると,配列データが日
本DNAデータバンク(DNA Database Bank of Japan:
公開年
図2 配列を含む国内特許文献数の推移注4)
D D B J) に 送 ら れ,D D B J, エ ン ブ ル(E u r o p e a n
Molecular Biology Laboratory: EMBL)およびジェン
ドライン2)」には,特許出願における配列表の取り扱
バンク(G e n B a n k)の三大データバンクが管理する
いの国際標準であるS T .253)に準拠した説明がなされ
国際塩基配列データベース(International Nucleotide
ている。ガイドラインには「配列」が定義されてお
Sequence Databases: INSD)の中に取り込まれる仕組
り,
「配列」とは(a)4以上のアミノ酸からなる,枝
みになっている(図1)。
分かれのない直鎖状または環状のアミノ酸配列,あ
図2は,広域ファセット「Z N A」でヒットする国内
るいは(b)10以上の塩基からなる,枝分かれのない
特許文献数の経年推移を示す。1990年頃から配列を
直鎖状または環状の塩基配列,であるとされている。
伴う特許出願が増加しているのがわかる。これはゲ
また,「塩基」および「アミノ酸」もそれぞれ定義が
ノムプロジェクトをはじめとする遺伝子の配列決定
なされており,A,T,G,C(塩基)やMet,Ala(ア
(シークエンス)技術や遺伝子解析技術の進展が影響
ミノ酸)といった一般的なものだけでなく,その修
していると考えられる。
飾された誘導体等の化合物も含まれることになって
配列を含む特許出願については,日本に出願され
いる他,塩基配列としてポリAやポリGのみからなる
たものについてはすべてZ N Aが付与されたものであ
配列には上記ガイドラインが適用されないという規
る,と言いたいところではあるが,実際には異なる。
則や,アミノ酸配列のうち天然のL体ではないD体の
その理由はZ N Aを付与する基準にある。「塩基配列又
アミノ酸が含まれる配列にも上記ガイドラインが適
はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイ
用されないといった規則が存在する。
ところが,ガイドラインにさまざまな規則が設け
られているものの,バイオインフォマティクスによ
特許データ
JPO
論文データ
るIT化の進展により,配列に関する情報が爆発的に増
えており,必ずしも現在の運用が通用しなくなって
いる。配列情報の増大に伴う課題については既に指
NIG(DDBJ)
摘されているところであり,データベースの整備や
INSD
EBI(EMBL)
NCBI(GenBank)
EPO
配列データの蓄積の在り方等についての調査研究も
論文データ
論文データ
特許データ
特許データ
図1 配列データの三極交換注3)
USPTO
行われている4)。
本稿では,特許文献に記載する配列に関して以下
の2章から5章の4つの問題について解説することで,
図1 配列データの三極交換注3)
653
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2004/035628号注6)には,配列番号42として,Met(メ
その取り扱いについて考察してみたい。
2. 塩基数またはアミノ酸数の少ない配列
の問題
チオニン)のみのアミノ酸が記載されている。これ
はもはや配列とは呼ばないのではないかと思われる
(図4)。
さらに,ペプチド誘導体の出願でかつ構造式で表
「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成
現されているため,一目見ただけでは4個以上のアミ
のためのガイドライン」によると,例外はあるもの
ノ酸または核酸の配列か否かが判別できないケース
の基本的には4個以上のアミノ酸または10個以上の
もある。例えば,特開平9-3095号公報 注7) の請求項
塩基で構成される配列については配列表を提出しな
1をみてみよう(図5)
。左から,N -ジメチルバリン,
ければならないとされている。ただ,アミノ酸が3個
バリンの後,γ-アミノ酸が2つ結合した計4つのアミ
以下または塩基が9個以下の場合,ガイドライン上は
ノ酸であるペプチドである。これに関して,「確定さ
配列表を提出する必要はないが,提出してはいけな
れた配列をもつ,4個以下のアミノ酸を含有するペプ
いとは記載されていない。現実に,特許出願に多数
チド;その誘導体のうち,擬ペプチド結合を少なく
の配列が記載されており,その中にアミノ酸が3個以
とも1個含有するもの」のうち,「すくなくとも1個の
下または塩基が9個以下のものが含まれている場合で
γ-アミノ酸が含まれているもの」を示すC07K5/027
も,配列表として提出されている場合が存在する。
のF I注8)が付与されており,合わせて広域ファセット
例えば,特表2011-500092号公報 注5) には,塩基が6
「Z N A」が付与されている。しかしながら,配列表は
つしかない配列が配列表として出願され,その特許
存在しないようである。
出願の公開後にD D B Jにその配列データが送付されて
いる(図3)
。
ま た, 日 本 へ の 出 願 で は な い が, 国 際 公 開 第
図4 アミノ酸1個を含む配列表の例
(出典:WIPOホームページ,枠部が配列番号42)
図3 アミノ酸1個を含む配列表の例(出典:WIPOホームページ,枠部が配列
図3 塩基数が6の配列を含む配列表の例
(出典:IPDL,枠部は配列番号1)
図5 ペプチド誘導体の例(出典:IPDL)
図4 ペプチド誘導体の例(出典:IPDL)
654
塩基数が6の配列を含む配列表の例(出典:IPDL,枠部は配列番号1)
特許文献に記載の塩基配列およびアミノ酸配列に関する諸問題
通常,塩基配列やアミノ酸配列のデータベースへ
genome shotgunによりクローニングし,その全塩基
の登録に関しては,アミノ酸が3個以下または塩基が
配列を明らかにしたものである。配列表を除いても明
9個以下では情報としての価値が低く,検索の用をな
細書自体が1,412頁あり,さらに配列表には67,274もの
さないと思われる。一般的に検索対象としては構造
配列が記載されている。
遺伝子のような数百の塩基を有するオーソドックス
ま た, 特 許 出 願 の 中 で 最 大 長 の 配 列 で あ っ て,
な配列を想定していると考えられ,どこまで短い配
D D B Jに登録されている配列には,特開2003-284572
列を登録して検索の際に意味のあるものとなるかは,
号公報(アクセッション番号:H V098644)がある。
一概に線引きができず,非常に難しい問題である。
この出願には,明細書自体は41頁ではあるが,塩基
実際に,プローブやプライマー,ペプチド等の短い
数が902万5,608塩基の配列が登録されている。また,
配列をクエリとして用いて検索する際には,通常の
この出願には対応外国出願(パテントファミリー)
BLASTやFASTA等の検索アルゴリズムを使うことは少
があり,E P1852508A2についてはアクセッション番
注9)を使うことも多い。
号FB300382でEPO経由でEMBLに,US7630836B2につ
実際に,特許庁が公表しているバイオテクノロジー
いてはアクセッション番号GV586860でUSPTO経由で
なく,
STNのREGISTRYファイル
5)
分野における三極サーチガイドブック第2版
には,
GenBankに,
それぞれ登録されたものと考えられる注11)。
「相同性検索をする必要がない場合(プローブやエピ
特開2003-284572号公報のトップページにもあるよう
トープのように比較的短い配列に多い)
:R E G I S T R Y
に,長大な配列を含む出願に関しては,その配列デー
(S T N)において,部分配列検索を行うことが有効で
タをCD-ROMの形で格納しており,公報には「公開・
ある」と記載されている。それは,ある構造遺伝子
登録公報長大データCD-ROM」として,該当するCD-
によってコードされる数百アミノ酸程度で構成され
ROMの番号(15(2003)-003(006))が記載されている(図
るアミノ酸配列のサーチと,図5に示したペプチドの
6)
。
サーチでは,そのサーチ戦略がまったく異なるから
上記の例は配列長に関するものであるが,配列
ではないだろうか。確かに漏れのないデータベース
の構築は非常に重要なことであるが,データベース
を使う側,すなわち検索のための工夫も必要ではな
いかと思われる。
3. 塩基数またはアミノ酸数の多い配列,
並びに配列数の多い出願の問題
近年,全ゲノム解析をはじめ,生物の遺伝子体系
やその転写,翻訳産物の網羅的な解析が進んでいる。
情報爆発とまでいわれるように,配列に関する情報
が溢れているといっても過言ではない。では,その
ようなゲノム自体を特許出願する場合,どのような
ことが起こるだろうか。
例えば,特開2005-176602号公報を見てみよう注10)。
この発明は,糸状菌であるAspergillus oryzaeをwhole
図6 特開2003-284572号公報のトップページの一部抜粋
(出典:IPDL,枠部が長大データの存在を示す)
図5 特開2003-284572号公報のトップページの一部抜
655
IPDL,枠部が長大データの存在を示す)
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数の多い出願の例としては,U S P T Oに出願された
合,USPTOおよびEPOのそれぞれの出願において配列
US2005/0244851A1があり,実に610万2,149配列が登
データが登録され,それぞれGenBank,EMBLに配列
録されている 注12)。これらの配列を閲覧するために
データが送付される。そうなると,JPO, EPO, USPTO
は,配列番号ごとに閲覧する方法と,圧縮ファイル
の三極特許庁のすべてに配列を伴う出願があった場
としてダウンロードする方法がある(図7)。ちなみに,
合に,図1に示したように塩基配列・アミノ酸配列の
上記出願を圧縮ファイルとしてダウンロードした時
三大データバンク(DDBJ/EMBL/GenBank)において
点でその容量が100メガバイトを超えていた。
それぞれデータ交換が行われているので,同じ配列
もちろん,このような長大な配列があると閲覧す
データが異なる登録番号として蓄積されることにな
るだけでも大変で,配列をすべて掲載する意味があ
る。実際に,3章で述べたD D B Jに登録されている特
まりないと思われるため,各国特許庁はコードデー
許出願の中で最大長の配列(特開2003-284572号公報
タとして別途保存し,媒体での提供やダウンロード
(アクセッション番号:HV098644)
,EP1852508A2(ア
での対応をしているようである。ただ,上記した出
クセッション番号:FB300382)およびUS7630836B2(ア
願についてはいずれも長大データではあるものの,
クセッション番号:GV586860)
)
がまさにそうである。
次世代のシークエンサーの活躍やメタゲノム解析と
今後,データ量がますます増大していく可能性が
いった複数種のゲノムを用いた解析など,1本のゲノ
高い中で,同じ配列については重複を排除すること
ムにとどまらない情報量のさらなる拡大が予想され
がデータベースへ格納すべき容量を節約する上でも
る。今後,メガを超えてギガレベルの容量を有する
重要ではないかと思われる。さらに,検索する側に
配列が出願される可能性もまったく否定できない。
おいても同じ配列を有するパテントファミリーが検
次の重複排除の問題とも絡むが,このような長大デー
索結果として表示されると,欲しい結果が見られな
タの取り扱いについては今後検討していくべき課題
い場合が出てくる。例えば,50件の結果の表示にお
の1つになるだろう。
いて,クエリと100%同一の配列を有する本願のパテ
4. 同じ配列が重複して登録される問題
ントファミリーまたはそれに非常に近い系列が49件
表示されたらどうだろう。これに対する考え方とし
て,少なくともPCTルートで各国の国内段階に移行す
日本国内だけの特許出願であれば,当該出願に記
ることで形成されるパテントファミリーや,パリルー
載の配列データがJPOのデータベースに格納され,出
トで同じ出願を優先権主張の基礎としている(同じ
願公開後にD D B Jに送付される。一方,国際特許出
優先権主張の効果を享受している)パテントファミ
願(P C T出願)の場合は,国際段階を経て国内段階
リー(このようなファミリーはシンプルパテントファ
で各国に移行する際に配列データももちろん移行す
ミリーとも呼ばれている)については,まったく同
るわけで,例えばJ P Oを受理官庁として出願したP C T
一の配列が記載されている可能性が高い。もちろん
出願が,U S P T OおよびE P Oの国内段階に移行した場
優先権主張の基礎出願時に記載の配列が本願出願時
注13)
図7 US2005/0244851号明細書の配列表に関する記載(出典:USPTOホームページ)
656
特許文献に記載の塩基配列およびアミノ酸配列に関する諸問題
に削除されている場合には注意が必要であるが,パ
く,注目する配列が「いつ」出願されたかが非常に
テントファミリー同士で100%同一の配列が記載され
わかりにくくなる。継続出願の過程が非常に長期に
ているものについてはアクセッション番号を一本化
わたり,多数の継続出願(50件以上連続している等)
するか,少なくともデータ管理上1つの配列に紐付け
がなされると検索結果も非常に冗長になるので,米
するようにして,重複を排除することができると考
国のパテントファミリーについては別途同一の配列
えられる。
でまとめて1つの結果として表示するといった方策が
ところで,特許出願については日本や欧州は先願
考えられる。あるいは,そのヒットした配列を含む
主義であり,先に出願したものに権利が与えられる
米国のパテントファミリーをすべてまとめて1つの結
という考え方をとっている注14)。もちろん,配列に関
果として表示するだけでも検索結果の冗長な部分が
しても例外なく,一刻も早く出願することが重要で
省かれ,その解析は随分と楽になるだろう。
ある。そうすると,特定の配列について,特許法第
米 国 の パ テ ン ト フ ァ ミ リ ー の 例 と し て,
29条の2および特許法39条を判断基準とする先行技術
W O99/14328A2( 出 願 日:1998年9月16日 ) を 見 て
調査注15) を行う場合に,誰がいつ「最初に」注目す
みよう。図9に優先権主張に関する情報を示したが,
る配列を出願の明細書に記載したかが重要になって
1997年9月17日から11月25日までの約2か月の間に,
くる。さらに調査の対象となる出願が優先権主張を
種々の異なる配列を含む実に50件もの仮出願をして
伴う場合には,特許法第29条の2の判断をする際に優
おり,最終的にこの50件をまとめて優先権主張の基
先権主張の基礎出願にその配列が記載されているか
礎出願として1998年9月16日にP C T出願したものであ
否かを確認する必要がある(図8)。
る。このような出願は,もちろん先に述べたとおり
また,特に米国については検討が必要である。米
一刻も早く特許出願した結果であると考えられるが,
国には(一部)継続出願制度があり,継続出願の過
いつどの配列が最初に仮出願されたかを見つけるだ
程において配列を追加して出願してくるケースもあ
けでも大変な労力を要する注16)。
る。このような場合には,当然ながら同じパテント
もちろんこうした配列情報の重複を排除すること
ファミリー構成する出願であれば記載されている配
も重要である一方で,データベースを充実させるこ
列もすべて同じであるとは単純には解釈できず,継
とが検索において非常に重要であるのは言うまでも
続出願中にも米国において公開公報や特許公報が文
ない。これまでJ P O,E P OおよびU S P T Oの三極特許
献として発行され,検索データベースにおいてヒッ
庁について論じてきたが,2008年からは韓国特許庁
トするため,検索結果が非常に冗長になるだけでな
(Korean Intellectual Property Office: KIPO)が受理し
た特許出願に含まれ,公開可能となった配列データ
をDDBJが受け取り,EMBL,GenBankとの三極交換ス
配列Aの記載あり
調査対象
出願
配列Aの記載あり
優先日
キームに乗ることとなった。今後,こうした三極以
外の特許庁からの配列データを交換することによる
出願日
特許における配列データベースの充実も期待される。
公開が必要
発明者・出願人は異なる
先願
優先日
配列Aが記載され
ているか確認必要
出願日
公知日
配列Aの記載あり 配列Aの記載あり
→ サーチで発見
図8 配列を伴う出願における特許法第29条の2の判断
5. 配列表のXML注17)化に伴う問題
J P Oは1990年から始まった世界初のオンライン出
願をはじめとして,特許出願書類に関しては先んじ
657
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図9 多数の配列を優先権主張の基礎としている例(出典:WIPOホームページ,優先権データの部分を枠で示す)
て電子化を進めてきた。出願書類フォーマットの
およびS T .26(X M L)間のフォーマット変換を可能に
X M L化に関するW I P O標準S T.36注18)が2005年に達成
するコンバータを開発し,2011年にWIPO標準に先ん
される前の2003年7月にこれに準拠する形で対応して
じてホームページにて公表している7)。三極特許庁
いる。
は,2011年の終わりまでにこの配列表のX M L標準に
ただ,この標準化される書類の中身については,
WIPO標準ST.36の項目において配列表は含まれていな
いる。JPOがこの配列に関するXML標準を受け付ける
い。配列表については,別途W I P O標準S T .25注18)に
時期については不明である。
基づいた書類を作成する必要がある。しかしながら,
このような配列表のフォーマットを変換する際に
配列表についても,S T .25のフラットファイルよりも
注意すべきことは,変換により情報量が変動するお
拡張性のあるX M L標準を採用すべきだという意見が
それがあることである。その情報が本来必要なもの
あった。
であるかどうかについて十分に検討する必要があ
その後,S T .25のX M L標準(後にS T .26と呼ばれる
る。配列表のXML化についても当初,ST.25からST.26
ことになる)に関して,EPO主導の元,そのDTD注19)
に変換するに際し,タグ<300>の情報が欠落すると
が作成され,配列表に関するWIPO標準ST.25との互換
いう問題が生じた。タグ<300>は文献に関する情報
性および特許出願に関するWIPO標準ST.36との互換性
であり,特許庁の「塩基配列又はアミノ酸配列を含
が担保できるとのことから,2008年の三極/ W I P O
む明細書等の作成のためのガイドライン」にその様
6)
。E P Oは
式および記載例が示されている8)。すなわち,配列表
BiSSAP(Biological Sequence Submission Application
に載っている配列が既に公知であり,論文等の文献
f o r P a t e n t s)と呼ばれるS T .25(フラットファイル)
に記載されている場合には,その文献に関する情報
標準作業部会において合意が得られている
658
関してW I P Oにおける採択プロセスに載せたいとして
特許文献に記載の塩基配列およびアミノ酸配列に関する諸問題
を記載できるという任意項目である。使用頻度はそ
研究成果としての学術論文とともに,特許の重要
んなに多くないということではあるが,最終的には
性も年々認識されているところでもあり,特許出願
当該情報も残すような仕様とすることで互換性を維
の配列についても今後,三大データバンクである
持している。
DDBJ/EMBL/GenBankと共同して,その問題解決にあ
6. おわりに
たる必要性が生じてくるのではないだろうか。
7. 謝辞
これまで見てきたとおり,特許出願には実にさま
ざまな配列が含まれている。配列として登録すべき
本研究の内容は主に,筆者がJPOに審査官として在
かどうか迷うくらいの短い配列,あまりにも非常に
籍していた際の経験に基づいています。すべての見
長い配列および膨大な数の配列を含むものがある。
解は筆者の個人的な視点によるものであり,特許庁
また,データベース管理上,パテントファミリー間
としての公式な見解ではありません。本稿を執筆す
で重複して登録されるケースも少なくない。もちろ
るにあたり多くの知見をいただいたJPOの関係者に心
ん,これは1つの庁で誤って登録がなされなかった時
から感謝申し上げます。
のための保険と考えることもできるかもしれないが,
配列情報が溢れている近年においてはその整理も必
要になってくるだろう。さらに,配列に関する特許
出願のX M L化の問題についてもここ数年努力が続け
られている。
特許出願における配列については,方式要件を満
たせば出願人から提出されたものを基本的に受け入
れており,学術論文に記載されている配列やD D B J等
で従事しているアノテータがチェックした配列とは
異なり技術的なチェックがまったく入っていない。
このことから,特許出願に記載の配列については技
術的な意味合いが薄いと感じられてもおかしくはな
い。それを端的に表すものとして,D D B Jに登録され
ている特許出願の配列情報(塩基配列に対するC D S,
sig_peptide,mat_peptide,misc_featureといったア
ノテーション情報)については,論文等の配列情報
はFEATURESと呼ばれる配列を特徴づける項目に格納
される一方で,特許の配列情報に関してはCOMMENT
と呼ばれる項目にデータが格納されている事実があ
る(図10)
。また,GenBankに登録されるUSPTOから
の配列データについても同様に,特許の配列データ
については生物学的な解析を行わず,形式的に受け
入れているという注20)。
図10 特許配列データのDDBJへの登録例
(出典:DDBJホームページ,枠部がアノテーション情報)
659
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本文の注
注1) ファセットは,国際特許分類(International Patent Classification: IPC)とは異なる観点で分野横断的
に検索することを可能とする目的で作られた日本独自の分類記号である。このうち,通常ファセット
は適用範囲が1つのセクションに限定されるのに対して,広域ファセットはI P Cの複数のセクションを
適用範囲とする。「Z N A」はI P Cの全範囲,すなわちすべての技術分野において適用され,核酸/アミ
ノ酸配列に関するものに付与される広域ファセットの1つである。広域ファセットとしては他にも
「ZCC
(コンビナトリケミストリー関連技術)
」
「ZTD(生体分子の立体構造)
」等が存在する。
注2) 配列コードデータの作成については,特許庁からの受託事業として財団法人 工業所有権協力センター
が行っている。
,NIGは国立遺伝学研究所(National Institute of
注3) 図1中,JPOは日本国特許庁(Japan Patent Office)
Genetics)を,EPOは欧州特許庁(European Patent Office)
,EBIは欧州バイオインフォマティクス
研究所(European Bioinformatics Institute)を,USPTOは米国特許商標庁(United States Patent
and Trademark Office),NCBIは国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology
Information)をそれぞれ指す。
注4) 特許電子図書館(Industrial Property Digital Library: IPDL)における特許分類検索を用いて,1年ごと
に広域ファセット「ZNA」を検索式として検索し,
ヒット件数をグラフ化した(2011年9月13日検索)
。
注5) この公報は,DDBJのホームページの中のARSA(All-round Retrieval of Sequence and Annotation,
http://arsa.ddbj.nig.ac.jp/)を用いて,DDBJ Advanced Searchの中でpat(特許)divisionを指定し,さ
らに配列長を9以下に指定して検索を行い,出力された結果(32,160件)の1つである(2011年9月8日
検索)。
注6) この公報は,DDBJのホームページの中のARSAを用いて,
DADを指定したCross Searchの中で,
pat(特許)
divisionを指定し,さらに配列長を1に指定して検索を行い,
出力された結果(21件)の1つである(2011
年9月8日検索)。
注7) この公報は,IPDLの特許分類検索において,C07K5/00*ZNAで検索を行い,出力された結果(1,416件)
の1つである(2011年9月8日検索)。
注8) File Indexの略称。IPCを元にさらに展開した日本独自の特許分類。IPCのグループ数(約7万項目)に
比較して2.5倍以上(約19万項目)を有する。
注9) STN(the Scientific and Technical Information Network)によって提供されているファイルの1つで,
有機,無機の物質および塩基,アミノ酸配列を含む膨大な化学物質情報が蓄積されたデータベースで
ある。
注10) この公報は,IPDLの公報テキスト検索において,公報全文で「配列番号:100000」で検索を行い,出
力された結果(1件)である(2011年9月8日検索)
。
注11) 日米欧のこれらの公報は,DDBJのホームページの中のARSAを用いて,DDBJ Advanced Searchの中
でp a t(特許)d i v i s i o nを指定し,さらに配列長を900万以上に指定して検索を行い,出力された結
果(3件)のそれぞれに相当する(2011年9月12日検索)
。なお,対応欧州出願については正確には,
EP1262562A2が対応する欧州の原出願であって,
EP1852508A2はEP1262562A2の分割出願に相当する。
注12) USPTOのホームページの中のPSIPS(Publication Site for Issued and Published Sequences,http://
seqdata.uspto.gov/)を用いて,By Date Rangeで1年ずつ区切りながら,配列数の最も大きいものを
抽出した(2011年9月8日検索)。
注13) USPTOにおける特許審査手続マニュアル(Manual of Patent Examining Procedure(MPEP)
)の2400
Biotechnologyには,2435 Publishing of Patents and Patent Application Publications with Lengthy
660
特許文献に記載の塩基配列およびアミノ酸配列に関する諸問題
Sequence Listingsとして,少なくとも600kb(60万塩基)を超える配列データ(打ち出すと約300頁に
わたるもの)については電子データとして管理する旨が記載されている。
http://www.uspto.gov/web/offices/pac/mpep/documents/2400_2435.htm#sect2435, (accessed 201109-16).
注14) 米国においても先願主義の導入については議論がなされ,2011年9月8日に先願主義の導入を含む特許
改革法案が上院本会議で再可決され,2011年9月16日にオバマ大統領の署名により法案が成立した。
注15) ここでは出願時に既に公開されて公知であった文献ではなく,調査対象の特許出願以前の他の特許出
願であって,当該調査対象の特許出願時において公開されていない特許出願を調査する場合を指して
いる。特許・実用新案審査基準 第I I部 特許要件 第3章(特許法第29条の2)および第4章(特許法
第39条)を参照のこと。
注16) W O99/14328A2には,配列はすべて図面として記載してあるだけで配列表がなく,そのコードデー
タもWIPOのホームページ(http://www.wipo.int/pctdb/en/sequences/)から入手することができ
なかった(2011年9月16日検索)。また,対応する日本出願(特表2001-516580号公報)や欧州出願
(E P1027434A2)を見ても配列表を入手することができなかった。欧州出願については2007年12月14
日付けでのExamination Reportにおいて,配列表が含まれていない旨,審査官から指摘を受けている。
注17) Extensible Markup Languageの略称。文書やデータの意味や構造を記述するためのマークアップ言語
の1つ。X M Lにより統一的な記法を用いながら独自の意味や構造を持ったマークアップ言語を作成す
ることができる。
注18) 特許情報,意匠および商標に関して,国際的な情報交換等を見据えて産業財産権の世界における国際
的な標準技術(国際標準)を定めており,WIPOにおいてST.n(
「n」は数字)という形式で管理されて
いる。ST.36は出願から公開までの一連のプロセスにおける特許情報をXMLで交換するための標準であ
り,ST.25は配列表のフォーマットに関する(XMLでない)標準である。
注19) Document Type Definition(文書型定義)
の略称。XMLのようなマークアップ言語において,
文書構造
(文
書型)を定義するためのスキーマ言語の1つである。
注20) 一方,EPOについては,バイオ分野の審査官はEBIが開発した検索データベースや検索ツールを使用し
ており,EPOとEBIは密接に連絡を取り合っている。EBIにはEPO審査官のための特許に関する検索に指
向したシステム開発を行う部署が存在する。
参考文献
1) 特許庁. “第Ⅶ部 特定技術分野の審査基準 第2章 生物関連発明”. 特許・実用新案審査基準. p. 1-2.
2) 特許庁. “第Ⅶ部 特定技術分野の審査基準 第2章 生物関連発明 付録3 塩基配列又はアミノ酸配列を含
む明細書等の作成のためのガイドライン”. 特許・実用新案審査基準.
3) World Intellectual Property Organization. “HANDBOOK ON INDUSTRIAL PROPERTY INFORMATION AND
DOCUMENTATION, STANDARD ST.25, STANDARD FOR THE PRESENTATION OF NUCLEOTIDE AND AMINO
ACID SEQUENCE LISTINGS IN PATENT APPLICATIONS”. World Intellectual Property Organization. http://
www.wipo.int/standards/en/pdf/03-25-01.pdf, (accessed 2011-09-16).
4) 知的財産研究所. バイオテクノロジー分野におけるサーチ手法に関する調査研究. 知財研紀要. 2001, p. 8899. http://www.iip.or.jp/summary/pdf/detail00j/12_09.pdf, (accessed 2011-09-16).
5) 特許庁. バイオテクノロジー分野における三極サーチガイドブック. 第2版. p. 13. http://www.jpo.go.jp/
torikumi/kokusai/kokusai3/pdf/search_guidebook_vers_2.pdf, (accessed 2011-09-16).
6) Technology and Data Standards Area Working Group (TDSA). “TDSA Meeting Minutes 2008”. Trilateral
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Co-operation. p. 13. http://www.trilateral.net/projects/it/standards/tdsa2008.pdf, (accessed 2011-09-16).
7) European Patent Office. “Sequence submission tools”. European Patent Office. http://www.epo.org/
applying/online-services/online-filing/auxiliary/bissap.html, (accessed 2011-09-16).
8) 特許庁. “第Ⅶ部 特定技術分野の審査基準 第2章 生物関連発明 付録3 塩基配列又はアミノ酸配列を含
む明細書等の作成のためのガイドライン”. 特許・実用新案審査基準. p. 16(様式), p. 31(記載例)
Author Abstract
Information concerning DNA and amino acid sequences is increasing explosively year by year with
development of analytical methods using whole genome sequences from lots of species including human. As
for patent applications, enormous sequence data are stored into patent database, and it would be necessary
to establish effective way to store the sequence data and well-utilization for sequence search. In this paper,
four issues concerning sequences in patent applications were picked up and discussed. 1. Registration of
short sequences, 2. Registration of long sequences and huge number of sequence, 3. Redundant sequence
database, 4. Sequence data submission standards (XML). Finally, credibility of sequence data in patent
applications is also discussed.
Key words
biotechnology, patent, sequence, DNA, amino acid, trilateral, prior art search, XML
662
統計情報活用への招待
連載
統計情報活用への招待
第7回 就業・賃金の公的統計
Series: Guide to effective use of statistics
Part 7: Official statistics on employment and wages
浅田 昭司1
ASADA Shoji1
1 データ工房(〒153-0043 東京都目黒区東山1-13-15)E-mail : [email protected]
1 DATA・LABO (1-13-15 Higashiyama Meguro-ku, Tokyo 153-0043)
情報管理 54(10), 663-673, doi: 10.1241/johokanri.54.663 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.663)
1. 就業・賃金の主要統計
力調査」などを解説する。企業側から見た雇用につ
いては,厚生労働省の「雇用動向調査」を中心に解
前回は,家計の公的統計をご紹介したが,今回は
説する。それぞれの統計から読み取れる主なデータ
家計収入の最も主要な柱である賃金とそれを得るた
項目を表2に示したので,この分野の統計情報を利用
めの就業についての公的統計を紹介する。表1は今回
される際にご参照いただきたい。
取り上げる統計の一覧である。賃金の統計では,構
賃金や就業に関する統計は,ビジネスにおいて自
造を詳細に調査した厚生労働省の「賃金構造基本統
社の労働条件を決める際に,同産業,同職種,同地域,
計調査」と時系列的な変化を調査した厚生労働省の
同規模の企業の状況を参考にする上でよく活用され
「毎月勤労統計調査」を中心に解説する。就業につい
ては,構造を詳細に調査した総務省の「就業構造基
表1
本調査」と時系列的変化を調査した総務省の「労働
作成開始年 周期
2. 主要統計の概説
2.1 就業構造基本調査(総務省)
表1 就業・賃金の主要統計一覧
調査内容/統計名
ている。
作成機関
就業
2.1.1 調査の概要
国民の就業・不就業の状態を調査し,あわせて就
就業構造基本調査
労働力調査
昭和31年
昭和22年
5年
月
総務省
総務省
賃金構造基本統計調査
毎月勤労統計調査
税務統計から見た民間給与の
実態
昭和23年
大正12年
年
月
厚生労働省
厚生労働省
である。昭和31年に第1回の調査を行い,その後ほぼ
昭和24年
年2回
国税庁
3年ごとに実施されてきた。昭和30年代は,高度経済
雇用動向調査
就労条件総合調査
昭和39年
昭和41年
年
年
厚生労働省
厚生労働省
賃金
雇用
業に関する意識,就業異動の実態をも把握するもの
成長の時期であり,労働力不足が問題となっていた。
そこで,働いていない人を把握して就業の希望があ
663
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表2
表2 就業・賃金の統計からわかるデータ項目の比較表
調査からわかること
サンプル数
賃金構造
就業構造 労働力調査 労働力調査
基本統計
基本調査 (基本集計) (詳細集計)
調査
税務統計
毎月勤労 から見た 雇用動向 就労条件
統計調査 民間給与
調査
総合調査
の実態
約45万世帯 約4万世帯 約1万世帯 約150万人 本文参照
就業者数
役職別労働者数
就業者平均年齢
単身赴任者数
転勤者数・配置転換者数
入職・離職者数
転職者数
失業者数・失業率
フレックスタイム制の採用率
有給休暇の取得率
夏季休暇の日数
福利厚生費
業種別・規模別・年齢別賃金
初任給額
役職別賃金
規模別・地域別平均賃金
月別賃金の変化率
収入階級別世帯数
本業からの所得階級別の就業者数
○
○
○
○
○
○
○
約2万
事業所
○
約1万4千
事業所
約6千
事業所
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
る人がどの程度いるかをつかむ目的で,調査が始め
られた。昭和57年以降は5年に1回となった。
調査対象の選定に当たっては,国勢調査の調査区
○
○
産業中分類に続いて小分類まで把握している。
(2)収入階級別世帯数
賃金・給料のほか,農業収入,事業収入,家賃・地代,
から約30,000調査区を選定し,調査員が全世帯の名
利子・配当,恩給・年金,雇用保険を含めた収入階
簿を作成する。さらに,その調査区内に居住する世
級別の世帯数を調べている。ただし,財産の売却,
帯のうち約450,000世帯を名簿から選定する2段抽出
預貯金の引き出し,相続,贈与,退職金など一時的
法で行い,その世帯に居住する15歳以上の者全員約
な収入はここには含まれない。
100万人を調査サンプルとしている。調査区の選定が
25分の1,そのうちの世帯の抽出が4分の1であること
から,全体の100分の1の抽出率となる。
職業,産業,収入,従業上の呼称,新規就業の理由,
転職の希望の有無,副業の希望の有無,理由別退職
者数など就業に関する基本的な事項を客観的な数字
とともに意識まで含めて調査している。
(3)本業からの所得階級別の就業者数
世帯の調査では上記のさまざまな収入の種類をと
らえているが,就業者に限っては,本業からの所得
階級別の数がわかる。自営業者については,売り上
げから必要経費を差し引いたものである。
(4)嘱託,派遣社員,パート,アルバイトの数
勤め先での呼称によって分類した雇用形態別の雇
用者数をとらえている。ほかに,ある季節だけ仕事
2.1.2 統計からわかること
(1)職業別・産業別の就業者数
職業として,専門的・技術的職業,管理的職業,
る内職者の数もわかる。
表3は,雇用形態別の雇用者数について,平成19年
事務従事者,販売従事者,サービス職業従事者,技
と平成14年の調査結果の比較を示した。平成19年時
能工・採掘・製造・建設作業者および労務作業者等
点では,男性の派遣社員,パートの増加が目立つ。
の大分類から始まって小分類に至るまで詳細に分け
た就業者数がわかる。産業は,日本産業分類に従って,
食料品・飲料・たばこ製造業,通信業,医療業など
664
をする季節労働者の数,家庭で内職(賃仕事)をす
(5)家族従業者の数
個人商店や農家などで,自分の家族の経営する事
業を手伝っている人のことで,原則的には無給の人
統計情報活用への招待
表3 従業上の地位,雇用形態,男女,調査年別有業者
数(平成19年と平成14年の比較)
表3 従業上の地位,雇用形態,男女,調査年別有業者数(平成19年と平成14年の比較)
有 業 者 数
Engaged in work
男女 総 数
Both sexes
男
Male
女
Female
調査年 平 成 19 年 平 成 14 年 平 成 19 年 平 成 14 年 平 成 19 年 平 成 14 年
総数
雇用者
会社などの役員
会社などの役員を除く雇用者
正規の職員・従業員
パート
アルバイト
労働者派遣事業所の派遣社員
契約社員
嘱託
その他 総務省「就業構造基本調査」より抜粋
65,977,500
57,274,200
4,011,700
53,262,500
34,324,200
8,855,000
4,080,000
1,607,500
2,254,700
1,058,500
1,042,900
65,009,300
54,732,500
3,895,000
50,837,500
34,557,000
7,824,300
4,237,400
720,900
2,477,300
946,300
38,174,800
32,814,000
3,079,100
29,735,000
23,798,700
915,000
2,058,600
609,300
1,163,300
658,200
506,300
をいうが,小遣い程度の収入のある人も家族従業者
として扱っている。
(6)学歴別人口
教育の程度についての調査で在学者・卒業者に区
分しているが,就業者のみならず15歳以上の総数を
調べているので,学歴別人口としてとらえられる。
(7)新規就業の理由
なぜ,就業したかの理由として,学校を卒業した
から,収入を得たかったから,失業したから,余暇
ができたからなど別の数がわかる。
(8)追加就業希望者数
現在持っている仕事を続けながら,そのほかにも
仕事をしたいと思っている人の数がわかる。自分で
38,034,100
32,201,200
2,956,600
29,244,700
24,412,200
628,200
2,096,000
203,600
1,308,500
544,000
27,802,700
24,460,200
932,700
23,527,500
10,525,500
7,940,000
2,021,300
998,200
1,091,500
400,400
536,600
増 減 率 (%) Increase rate
総 数
男
女
26,975,300
22,531,300
938,500
21,592,800
10,144,900
7,196,000
2,141,400
517,200
1,168,800
402,300
1.5
4.6
3.0
4.8
-0.7
13.2
-3.7
123.0
-9.0
10.2
0.4
1.9
4.1
1.7
-2.5
45.6
-1.8
199.2
-11.1
-6.9
3.1
8.6
-0.6
9.0
3.8
10.3
-5.6
93.0
-6.6
33.4
とができる。
(12)副業を持っている人の数
本業の所得別や週間就業時間別に副業のある人の
数がわかる。
(13)定年退職者,結婚退職者,育児退職者の数
1年前には,仕事をしていたが,現在は仕事をして
いない人のことを離職者としている。その離職理由
別の数が把握されている。家族介護のため,倒産の
ため等の理由もわかる。
(14)共働き世帯の数
夫が有業の世帯で,妻も有業である世帯数がわか
る。妻の年齢別,末子の年齢別,核家族世帯か,雇
用者か自営業者かなどがつかめる。
事業をしたい,パート,アルバイトをしたいなどの
内訳がわかる。
(9)転職希望の有無
2.1.3 読む上での注意点
次項に紹介する総務省の「労働力調査」は,毎月
現在の仕事を辞めて他の仕事に変わりたいと思っ
行われている調査であり,月末の1週間の就業・不就
ている人の数がわかる。その理由として,一時的に
業の状態を把握しているものでアクチュアル方式と
就いた仕事だから,収入が少ないから,時間的・肉
呼ばれている。それに対して,
「就業構造基本調査」
は,
体的に負担が大きいから,知識や技能を生かしたい
普段の就業・不就業の状態を把握しているものでユー
からなど別の数がつかめる。
ジュアル方式と呼ばれている。普段は働いていない
(10)就業者に占める転職経験者の率
有業者のうち入職就業者(前職のない人)と転職
就業者の内訳がわかる。
が,調査期間の1週間,アルバイトなどでたまたま働
いている人は,労働力調査では就業になるが,就業
構造基本調査では,不就業になる。
(11)脱サラ志向者の数
現在の従業上の地位が雇用者で,転職を希望して
おり,仕事の形態として自分で事業をしたい人の数
をとらえており,これを脱サラ志向者の数と見るこ
2.2 労働力調査(総務省)
2.2.1 調査の概要
わが国の15歳以上人口について,月々の就業状態・
665
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就業時間・産業・職業等の就業状況,失業・求職の
状況等の実態を把握しているものである。昭和21年9
月から試験的に始まり,昭和22年7月から本格的な調
査が実施された。
び全数調査である「国勢調査」でも調べている。
(2)失業率
図1からもわかるように,労働力人口と就業者数の
差が,完全失業者数であり,一般に失業率とは,労
国勢調査の約100万調査区から約2,900調査区を選
働力人口に占める完全失業者数の割合である。言い
定し,約40,000世帯を標本とした調査であり,その
換えると,完全失業者とは,図2のように,就業が可
世帯員のうち15歳以上の者約100,000人について就業
能であり,就業を希望しており,調査期間中に仕事
状況を聞いている。毎月月末現在の状況を調べてお
をしていないという条件にかなう人で,しかもその
り,就業していたかどうかは末日までの1週間の状態
調査時点で,仕事を探しているかあるいは求職活動
を聞いている。
の結果を待っている人のことである。例として,図3
2か月間続けて同じ世帯を調査する。したがって実
際に調査票に記入する世帯は,年間で240,000世帯と
なる。調査員は,調査週間の始まる前3日以内に,選
定された住戸を訪問し,調査票を配布,記入依頼,
記入説明を行う。そして,調査週間の終了後3日以内
にわが国における失業率の過去10年間の年平均の推
移を示した。
(3)地域別の失業率
地域別には統計理論に裏付けられた数値として発
表しているが,県別に表章できるようには標本設計
に調査世帯を再び訪問し,記入内容を検査の上,取
り集める。
なお,年に1回行っていた「労働力調査特別調査」は,
平成14年より「労働力調査」に統合した。約40,000
労働力人口
完全失業者
仕事に就いていないが仕事を探している
15歳以上人口
世帯対象の調査結果は,基本集計として毎月公表し
非労働力人口
ているが,そのうち調査項目が加えられた約10,000
世帯については毎月調査しているものの詳細集計と
家事
通学
その他(乳幼児,老齢者など)
図1 労働力人口と非労働力人口
して四半期平均,年平均の値を公表している。5年に
り,調査項目も準じている。
就業が可能である 図1
就業を希望している
調査期間中仕事をしていない
仕事を探している あるいは求職活動
の結果を待っている
2.2.2 統計からわかること
注)塗りつぶした枠内の概念が相当する
1回の「就業構造基本調査」を補う役目も果たしてお
(1)就業者数と労働力人口
図2 完全失業者とは
人口を,労働の状態によって図1のように分けてい
図2 完全失業者とは
る。就業者数と労働力人口の違いは,調査期間に仕
% 6.0
事をしている人が就業者であり,失業して仕事を探
5.0
している人まで含めた数字が労働力人口である。つ
失
業 3.0
率
まり,仕事をする意欲があって,いつでも仕事に就
ける状態にある潜在的な人まで含めた数と言える。
なお,労働力人口比率とは,15歳以上人口に占める
労働力人口のことである。
就業者の数は総務省の「就業構造基本調査」およ
666
主に仕事
家事のほか仕事
通学のかたわら仕事
休業者
就業者
5.0
5.4
5.3
4.7
4.0
4.4
5.1
5.1
21年
22年
4.1
3.9
4.0
2.0
1.0
0.0
13年
14年
15年
16年
17年 18年
19年
総務省「労働力調査」より作成
図3 失業率の推移
図3
20年
統計情報活用への招待
していない。標本数が少ないため結果精度を十分に
する労働力調査の結果によるが,イギリス,ドイツ,
確保できず,参考統計として年平均の試算値を発表
フランスは,失業給付登録者数,職業紹介機関の登
しているのみである。
録者数,
労働力調査結果などによるものである。また,
(4)転職希望者,追加就業希望者の数
肝心の分母となる労働力人口の範囲は,日本,イギ
産業別,職業別,男女別に転職希望,追加就業希
リス,フランスは,全労働力人口だが,韓国,アメ
望(副業,内職等)の有無を調べている。転職希望率,
リカ,カナダは,軍人を除く労働力人口であるがゆ
追加就業希望率も就業者数を分母として計算されて
えに,分母が小さくなり,失業率は高めに表れる。
いる。
(5)主婦の就業者数
2.3 賃金構造基本統計調査(賃金センサス)(厚
有配偶の女子の年代別の就業者数が明らかになっ
生労働省)
ている。女子については,有配偶,未婚,死別・離
2.3.1 調査の概要
別の年代別の集計結果を表章している。一般に主婦
主要産業に雇用される常用労働者について,その
という概念はあいまいだが,夫がいる女性とすれば
賃金の実態を労働者の種類,職種,性,年齢,学歴,
有配偶の女子としてとらえることができる。
勤続年数,経験年数等別に明らかにする調査である。
(6)就業時間
1週間で何時間働いているかがわかる。主婦,パー
トタイム労働者等も含めた数字である。
(7)雇用者数の規模別の就業者数
常用労働者とは,期間を定めずに,あるいは1か月を
超える期間を定めて雇われている人のことである。
調査は,昭和23年から毎年実施している。当初は
職種別の賃金水準を把握するのが目的であった。昭
雇用者の規模が,1人,2 ~ 4人,5 ~ 9人,10 ~ 29
和30年代後半に入って,構造的に調べることにウエ
人,30 ~ 99人,100 ~ 499人,500 ~ 999人,1,000人
イトが置かれるようになり,構造プラス職種の分析
以上という区切りで就業者数を把握している。
がされるようになった。
調査の対象は,日本標準産業分類の,農業・林業・
2.2.3 読む上での注意点
水産業を除く14大産業について,常用労働者5人以上
労働力調査でよく利用されるデータである完全失
の民営事業所および10人以上の国営,公営企業であ
業率は,現数値と季節調整値の両方が公表されてい
る。総務省の「事業所・企業統計調査報告」を母集
る。季節調整値というのは,月ごとの数値から季節
団情報として,無作為に抽出した全国の約78,000事
変動による影響分をできるだけ差し引くために加工
業所と,その従業員約150万人の労働者の実態を調査
された数値である。季節変動というのは,自然環境
している。
や中元,歳暮,入学,帰省といった社会的慣習・制
調査に当たっては,全国にある労働基準監督署を
度によって生ずる現象のことである。海外の主要国
通じて,抽出事業所に「事業所票」
「個人票」の2種
の失業率については,「主要国の失業率」と題して韓
類の調査票を配布する。調査時期は7月1日から31日
国,アメリカ,カナダ,イギリス,フランス,ドイ
で,6月分の給与について,記入してもらい,8月中
ツなど32か国を紹介している。
旬までに記入済みの調査票が厚生労働省に送られて
海外の主要国と比較する場合には,数値の把握方
くる。
法,労働力の範囲が多少異なるので,その点をわき
前述の「就業構造基本調査」「労働力調査」は世帯
まえて読む必要がある。失業者の把握方法では,韓
側からの調査であるのに対し,「賃金構造基本統計調
国,アメリカ,カナダは,日本と同様に,毎月実施
査」および後述の「毎月勤労統計調査」は事業者側
667
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からの調査である。
2.3.3 読む上での注意点
給与の概念は,基本給に,諸手当が加わった所定
2.3.2 統計からわかること
内給与,それに超過労働分の給与が加わった決まっ
(1)産業別賃金
て支給する給与,そして特別に支払われた給与を加
日本標準産業分類の中分類別の賃金がわかる。
(2)学歴別賃金
えて現金給与総額となる(図4)。
調査対象の職種は,産業構造などの変化をタイム
中卒,高卒,高専・短大卒,大卒の4分類でわかる。
(3)役職別賃金・役職者数
リーに把握すべく,随時見直している。見直しに当
たっては,国勢調査で明らかにされる職種別人口な
部長,課長,係長,非役職別に調べている。労働
どを参考に決める。時代に合わなくなった職種を対
者数も調べているので,部長の数を把握することも
象から外し,増加している職種を追加する。例えば,
できる。ただし,この調査は,常用労働者100人以上
横編みメリヤス工などいくつかを落とし,自然科学
の企業のみが対象である。
研究者や大学教授などを追加する等である。
(4)職種別賃金
百貨店店員,プリント配線工,自動車外交販売員,
娯楽接客員など110あまりの職種別の賃金が性,年齢,
2.4 毎月勤労統計調査(厚生労働省)
2.4.1 調査の概要
全就業者の8割あまりを占める雇用労働者の賃金,
経験年数別に調べられている。
労働時間,雇用の全国的な変動と県別の変動を,名
(5)パートタイム労働者の賃金
時間当たり賃金,年間賞与額,労働者数などがわ
前が示すとおり毎月とらえている調査である。大正
12年7月に開始された「職工賃銀毎月調査」「鉱夫賃
かる。
銀毎月調査」に端を発し,昭和19年に毎月勤労統計
(6)初任給
学歴別,産業別,性別,事務系・技術系別の新規
調査が内閣統計局によって開始され,戦後厚生労働
学卒者の初任給を調べている。初任給階級別の労働
省に引き継がれ現在に至っている歴史の古い調査で
者数も表章している。表4で見ると,ここ数年初任給
ある。
この調査は全国調査,地方調査,特別調査に分か
額はほとんど上昇していない。
れている。全国調査は,常用労働者5人以上の事業
(7)県別の動向
県別の産業別,企業規模別,性別,年齢別賃金が
所を対象にしているが,30人以上規模の事業所と5
わかる。
(8)小規模企業の実態
現 金 給 与 総 額
決まって支給する給与
従業員5 ~ 9人の小規模企業については別に集計さ
れている。したがって,企業規模計は10人以上の企
所定内給与
基本給
業集計値である。
諸手当
(家族手当等)
表4
超過労働
(残業手当等)
図4 給与の概念
図4 給与の概念
表4 初任給額の推移(大学卒,男女計)
14年
198.5
15年
198.1
16年
195.0
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」より抜粋
668
17年
193.9
特別に支払われた給与
(ボーナス,結婚手当等)
18年
196.3
19年
195.8
20年
198.7
21年
198.8
22年
197.4
(千円)
23年
202.0
統計情報活用への招待
~ 29人規模の事業所の2つの調査から成っている。
30人以上の規模の事業所は,安定性があり,事務的
金給与総額は下降線をたどっている。
(2)産業別の労働時間
にも整備されているので,調査事業所を抽出して通
残業時間も含めた1人平均月間の労働時間がわか
信調査を実施している。サンプル数は約16,000であ
る。総実労働時間と所定外労働時間の2つの数字があ
る。これに対して,5 ~ 29人規模の事業所は,新設,
るが,前者は残業時間を含めたもの,後者は残業時
廃止などの変動が多く,かつ事務的にも整備が不十
間のみのものである。
分である。そこで,一定数の調査区を地域標本とし
て抽出し,その中からさらに調査事業所を抽出して
統計調査員が実地調査をするという方法を取ってい
る。サンプル数は約15,600である。一方,地方調査は,
県別の変動を明らかにする目的で,常用雇用者規模5
人以上の事業所について,全国調査と同じ方法で行っ
ている。ただし,全国調査の標本に地方調査のみの
標本を加える方法を取っている。サンプル数は,5 ~
29人規模の事業所,30人以上規模の事業所それぞれ
に約5,000サンプルを上乗せする。特別調査は,常用
労働者1 ~ 4人規模の事業所における動向を明らかに
(3)一般労働者,パートタイム労働者の出勤日数
就業形態別,産業別の1人平均月間出勤日数が月別
にわかる。
(4)月間の就職・離職の動向
月間の異動率として,産業別に入職率,離職率が,
以下の計算から算出される。
入職率=月間の増加労働者数/前月末労働者数×
100
離職率=月間の減少労働者数/前月末労働者数×
100
(5)産業別の労働者の数
するために年1回実施されている調査である。サンプ
12月末現在の産業中分類の男女別常用労働者数が
ル数は約25,000である。労働者個人ごとに調査して
わかる。毎月の統計では明らかにされていない。た
いるので,年齢階級別,勤続年数階級別,給与階級
だし,1か月以内の期間に限って雇われていても,前
別などの結果が得られる。約150,000人の住込者につ
2か月にそれぞれ18日以上雇われた人は入る。また,
いての実態もわかる。
役員や事業主の家族のうち,常勤で毎月給与が支払
われている人も含まれる。
2.4.2 統計からわかること
(6)夏,冬のボーナスの額
(1)産業別の給与
産業別,事業所規模別にわかる。統計では特別に
産業中分類ごとの1人当たりの月別の額がわかる。
支払われた給与として表章されているが,その大部
産業中分類のほか,特掲産業として,75の産業小分
分がボーナスである。したがって,6月,12月の値が
類の業種の額がわかる。統計では,現金給与額と表
突出している。
示されているが,これは所得税,社会保険料,組合費,
(7)平均給与の金額別の事業所の数
購買代金などを差し引く前の実際に受け取った給与
産業大分類別の1人月間決まって支給する給与の階
額のことである。残業代,ボーナス,手当などがす
級別の事業所数が調べられている。9月時点の調査の
表5
べて含まれたものである。表5で見ると,ここ数年現
みであり,事業所規模が30人以上の企業が対象であ
表5 現金給与総額の指数(5人以上の事業所,平成17年平均を100としたもの)
13年
103.9
14年
100.9
15年
100.1
16年
99.4
17年
100.0
18年
100.2
19年
99.2
20年
98.9
21年
95.1
22年
95.7
厚生労働省「毎月勤労統計調査」より抜粋
669
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る。
(8)県別の調査概要
地方調査として,県別の賃金,労働時間,雇用動
向が調べられている。
る。
調査票には,
「事業所用の調査票」と「給与所得者
用の調査票」があるが,いずれも標本対象の事業所
が記入を行っており,個々の給与所得者は記入して
いない。
2.4.3 読む上での注意点
統計からわかることは,給与所得者の総人数,平
抽出替えを行う1月については,従来の標本と,新
均給与,平均年齢,平均勤続年数,年末調整を行っ
しい標本の両方の調査をしている。そのギャップに
た者の数と扶養人員,配偶者特別控除,保険料控除
ついて,指数および伸び率の値を前回抽出替えを行っ
の適用を受けた人の数などである。
た年月まで遡って修正するためである。これをギャッ
プ修正と呼んでいる。ただし修正するのは指数およ
2.6 雇用動向調査(厚生労働省)
び伸び率で,実数のほうは修正しない。そのため,
2.6.1 調査の概要
実数から計算した伸び率と公表値の伸び率とは合わ
ない。
また,パートタイム労働者の定義は,常用労働者
のうち,1日の所定労働時間が一般の労働者より短い
主要産業における雇用労働力の入職や離職といっ
た流動状況を明らかにするために,上期(1 ~ 6月)
,
下期(7 ~ 12月)に分けて,年2回実施されている調
査である。
かあるいは,1日の所定労働時間は一般の労働者と同
昭和23年に「雇用状態調査」が一度実施された。
じとしても1週の所定労働日数が一般の労働者よりも
その後,昭和27年から「労働異動調査」が,昭和31
短い者のことである。総務省では呼称で分けている
年から「失業者帰趨調査」がそれぞれ昭和38年まで,
が,「毎月勤労統計調査」では労働時間・日数で分け
継続して行われていた。しかし,その両者は,いず
ている。
れも産業,規模などの範囲に制約があり,限られた
労働者数は,総務省の「労働力調査」とは数値が
ものであった。そこで昭和39年より,両者を発展的
異なる。「労働力調査」は世帯調査であるのに対し,
に拡大整備した「雇用動向調査」が始まったもので
この調査は事業所調査であり,さらに事業所規模5人
ある。
以上を対象にしているということもあり,同数には
ならない。
調査対象は,日本産業分類の16大産業の常用労働
者5人以上を雇用する民営,公営,国営の事業所であ
り,無作為に抽出した約14,000の事業所をサンプル
2.5 税務統計から見た民間給与の実態(国税庁)
民間給与の実態を明らかにし,租税収入の見積も
その事業所に入職した者のうちから一定の方法で
りなどに役立てるものである。昭和24年から調査が
抽出した約100,000人と,離職した約110,000人につ
始まり毎年実施している。
いて調査している。
従業員1人から5,000人以上の事業所まで幅広く調
査している唯一の統計調査である。標本の抽出は,
調査は,上期は7月1日から31日の間で行い,下期
は1月16日から2月15日までの間で行っている。
標本事業所を従業員数によって層別し,それぞれの
調査の実施は,公共職業安定所を通じて公共職業
抽出率で約20,000か所の事業所を抽出する。次に標
安定所の職員と統計調査員が各事業所に当たり,実
本対象の事業所の給与台帳を基にして,一定の抽出
地自計,実地他計の方法で調査票に記入している。
率により標本給与所得者を約256,000人抽出してい
670
としている。
統計情報活用への招待
2.6.2 統計でわかること
(1)就業形態別の入職者数
(10)転職入職者が前職を辞めた理由
能力・個性・資格が生かせず,仕事の内容に興味
一般労働者,パートタイム労働者という就業形態
が持てない,会社の将来性が不安,給与など収入が
別の男女別入職者数がわかる。産業別,企業規模別
少ない,労働条件が悪い,人間関係が好ましくなかっ
にもわかる。
た,定年,契約期間の満了,結婚・出産・育児・介護,
(2)職歴別入職者数
新規学卒者か,一般未就業者か,転職入職者かと
いった区別で数値がつかめる。新規入職者は学歴別
にわかる。県別,年齢階級別にもわかる。
(3)地域間移動の状況
北関東,南関東,東海,京阪神,北九州などの13
区分で入職前と入職後の地域がわかる。
(4)企業規模間,産業間の転職入職者の状況
より大きい規模へ移動したか,同一規模か,より
小さい規模かといった規模間の動きがわかる。また,
産業間の移動がわかるので,二次産業から三次産業
へ移動している割合などがつかめる。
会社都合といった転職理由別の入職者数がわかる。
(11)離職期間別の入職者数
離職していた期間として,14日以下,1か月未満,
3か月未満,6か月未満,1年未満別の入職者数がわか
る。
(12)県内移動入職者数,他県からの流入者数,他県
への流出者数
県内の移動,県外の移動(同一地域内,他地域)
といった別の動向がわかる。
(13)学歴別の離職者の数
新規学卒者と,一般とに分けて,学歴別の離職者
数がわかる。
(5)転職入職者の賃金変動幅
前の職に比べて,3割,1割以上の増加,1割未満の
2.6.3 読む上での注意点
増加,変わらない,1割未満の減少,1割,3割以上
雇用動向調査は,労働市場における入職,離職の
の減少という7段階別の割合が年齢別に集計されてい
移動状況を明らかにするものだが,入職率と離職率
る。
の合計を延べ労働移動率と呼んでいる。この推移は
(6)勤続期間別の離職者の状況
6か月,1年,2年,5年,10年未満,10年以上別の
勤続期間別の離職者の状況がわかる。
ほぼ景気の山谷を追いかける動きとなっている。経
済活動が活発になると,移動率も高くなる傾向にあ
る。景気の変化を裏付けるデータとしても役立つ。
(7)離職理由別の離職者の数
契約期間満了,経営上の都合,定年,本人の責任,
結婚等(結婚,出産・育児,介護別),死亡・傷病といっ
た離職理由別の数がわかる。
(8)入職経路別の入職者数
2.7 就労条件総合調査(厚生労働省)
調査の内容は,主要産業における民間企業の賃金
制度,労働時間制度,労働費用,福祉施設・制度,退
職給付制度等について総合的に調査したものであ
安定所(ハローワーク,パートバンク,人材銀行
る。従来,別個に実施してきた「給与構成調査」
「賃
等),学校,広告,縁故,前の会社からの紹介,出向,
金制度調査」
「労働時間制度調査」を昭和41年に統合
出向復帰といった経路別の入職者数がわかる。就職
し,
「賃金労働時間制度総合調査」として昭和58年ま
情報誌は,広告に分類している。
で実施してきたものである。そして,昭和59年に「労
(9)就業の動機別の入職者数
主な生活収入,家計の補助,生活水準の向上,余
暇の活用などの動機別の入職者数がわかる。
働者福祉施設制度等調査」と統合し,現在の内容と
なった。平成12年より調査対象期日を12月末日現在
から翌年1月1日現在に変更し,名称を「就労条件総
671
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合調査」に改称するとともに名称に調査年を付与す
の給与が,現在25万円で,ボーナスが年間100万円と
ることとなった。
いうのが,他社と比べてどの程度の位置にあるかを
本社の従業員数が30人以上の民営企業から産業,
知る場合には,表6のような統計が役立つ。学歴別に
規模別に層化して抽出した約6,000企業をサンプルと
みる,課長とか,係長といった役職別にみる,職種
している。
別にみるなどの側面からの確認も統計から可能であ
る。
3. 就業・賃金に関する統計の活用事例
3.2 新たな労務管理制度採用の検討のための参考
データの入手
ビジネスにおいて,統計が活用されるのは,自社
の賃金,労働時間が同業界,同地域,同規模,同職
人口構造の高齢化に伴い,企業において定年年齢
種と比べて標準的水準であるか,また極端にかけ離
を引き上げるように政府から働きかけが行われてい
れていないかを確認するケースが多い。また,自社
る。
の労務管理上問題となっている事柄が,世間一般的
例えば,情報通信業の企業において,自社ではま
なものなのか,あるいは自社独特のものなのかを確
だ再雇用の最高年齢を64歳としている企業があった
認し,問題解決に乗り出す際の参考データとするケー
として,65歳にまで高めるべきかどうかの検討材料
スもある。
に,表7のような統計データが活用される。
統計データは,会社側,従業者側双方において活
次回は,分野別のテーマとして,土地・住宅・建
用され,労使協定の討議の場でも用いられる。
築物の公的統計の中から主要な統計について,調査
3.1 自社の賃金水準の確認
の概要,統計からわかること,活用方法などをご紹
例えば,愛知県で食料品製造業を営む企業で,従
介する予定である。
業員規模が500人だとした場合,30代前半の男子社員
表6 愛知県の食料品製造業の年齢階級別給与額
表6 愛知県の食料品製造業の年齢階級別給与額
都道府県
産業
愛知
食料品製造業
企業規模
区分
年齢
男
~19歳
20~24歳
25~29歳
30~34歳
35~39歳
40~44歳
45~49歳
50~54歳
55~59歳
60~64歳
65~69歳
100~999人
所定内
実労働
時間数
勤続
年数
超過
実労働
時間数
年間賞与そ 労働者数
の他特別給
与額
所定内
給与額
歳
年
時間
時間
千円
千円
千円
十人
42.2
19.1
22.6
27.2
33.1
37.2
41.5
47.2
52.2
57.3
61.8
66.8
12.9
1.0
2.7
5.2
9.4
12.8
14.4
18.5
15.9
20.4
18.6
13.2
166
170
169
159
165
167
166
171
162
168
163
163
23
26
37
23
32
29
22
21
13
15
22
7
321.0
190.1
247.2
265.0
319.4
347.2
303.3
378.3
384.5
397.0
254.3
173.6
276.3
160.0
187.4
224.1
253.6
283.3
258.3
337.6
347.9
360.6
220.3
165.8
1076.4
216.2
565.4
724.4
986.1
1340.6
819.2
1707.4
1269.8
1422.9
842.1
255.9
1 299
79
124
123
137
127
53
185
147
197
98
29
厚生労働省「平成22年 賃金構造基本統計調査」より抜粋
672
きまって
支給す
る現金
給与額
統計情報活用への招待
表7 定年後の措置,産業・企業規模,最高雇用年齢階級
別企業数割合
表7 定年後の措置,産業・企業規模,最高雇用年齢階級別企業数割合
定年後の措置,産業・企業規模
一律定年制で
定年後の制度が
ある企業1)
最高雇用年齢を
定めている企業2)
63歳
64歳
65歳
(単位:%)
66歳
以上
(再掲)
65歳
以上
最高雇用
年齢を定
めていな
い企業
再雇用制度のみ
調
査
産
業
計
電 気 ・ ガ ス ・ 熱 供 給 ・ 水 道 業
情
報
通
信
業
[ 68.5]
[ 93.1]
[ 74.2]
100.0
100.0
100.0
81.6
94.8
88.8
(100.0)
(100.0)
(100.0)
(
(
(
6.1)
6.9)
9.6)
(
(
(
2.1)
0.7)
5.2)
( 88.7)
( 89.9)
( 83.7)
(
(
(
3.1)
2.5)
1.5)
( 91.8)
( 92.4)
( 85.2)
18.4
5.2
11.2
注1) [ ]内の数値は,一律定年制を定めている企業のうち,定年後の措置がある企業数割合である。
2)( )内の数値は,最高雇用年齢を定めている企業に対する割合である。
厚生労働省「平成22年 就労条件総合調査」より抜粋
673
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What I expect from information professionals
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情報管理 54(10), 674-675, doi: 10.1241/johokanri.54.674 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.674)
はじめに
私は,1995年6月より2002年11月まで,7年半,医
薬品の研究所の情報部門で特許検索や文献検索に従
るようになって便利になった半面,インフォプロ側
から言えばユーザーのニーズが見えにくくなって
いった時代でもありました。
事していました。その後,医薬品の臨床開発部門で
安全性情報を収集,評価する部署へ異動して現在に
至っています。
ユーザーの立場になって
新しい職場に異動して1年ぐらい経過したころ,自
今回,原稿依頼を受けました,インフォプロの方々
分で検索する必要があり,コマンド検索をしたこと
にユーザーの視点から要望を書くということは,過
があります。せっかく苦労して覚えた検索式の立て
去の自分に対して「天に唾する」ような企画で少々
方やインフォプロ時代には苦もなく使いこなしてい
書きづらいのですが,当時の反省をこめて,現役の
たはずの複雑な検索のノウハウを,あっと言う間に
インフォプロの皆様のご参考になることが書ければ
忘れてしまっていることに気がついて愕然としたこ
と思っています。
とを覚えています。
新しいデータベースの内容も,週に1回は確認して
インフォプロ時代
いるようなものならいざ知らず,1年に1回しか使用
1995年に異動してきた当時はインフォプロという
しないものはなかなか使いこなせません。業務と関
しゃれた言葉もなく,サーチャーという言葉で自分
係ないデータベースであれば,そもそも最初から覚
たちの仕事を表現していました。ちょうどインター
えることを諦めている自分がおります。
ネットが普及しはじめ,MEDLINEが無料化しPubMed
元インフォプロにはあるまじき記述に見えるかも
として公開され,インフォプロを取り巻く環境が徐々
しれません。しかし,業務に関わるシステムがいく
に変化していったころです。
つも導入される時代になりました。正直いって覚え
オンライン検索をユーザーに開放しようと,一般
ていられるコンピューター操作にも限度がありま
ユーザー向けの説明会を開催したりしていましたが,
す。自分にとっては情報検索システムもいくつもあ
一部のコアな方を除けば,なかなか利用は進みませ
るシステムのうちの1つになっているのが現実です。
んでした。やがて複雑なコマンドを覚えなくてもユー
ザーが検索できるシステムや電子ジャーナル等が普
及してきました。ユーザーが図書室等にわざわざ来
なくても,自分のパソコンでなんでも情報収集でき
674
インフォプロの方々に望むこと
以下の3つの視点でまとめてみました。
リレーエッセー ●インフォプロってなんだ?
(1)ユーザーの背景を知ってほしい
大文字の「AND」を用いた時と小文字の「and」を用
ユーザーの個々の検索ニーズは,表面的には多種
いた時とでは検索結果が異なっていたことがありま
多様に見えますが,ユーザーの所属する組織の方針,
した。一般ユーザーは,検証まではしないものです。
所属する業界の動向や法改正に左右されていること
インフォプロはこのような検索システム上の問題に
が多いものです。企業内のインフォプロであれば,
気がつきやすい立場にあります。検索結果に影響を
普段からユーザーが所属する組織の基本方針等の動
及ぼすような不具合があるようであれば,ユーザー
向を把握してほしいですし,業界紙等にも目を通し
に積極的に情報提供するとともに,ベンダーに対し
ておいていただきたいです。また,調査依頼の際には,
て,ユーザーの代弁者として声をあげていただきた
必ずその調査の真の目的を把握することを怠らない
いと思います。また,検索画面のレイアウトが度々
でほしいと思います。
変更になるのは,たまにしか使用しないユーザーに
そのような地道な努力をすることで,ユーザーの
とっては不安感を覚えるものです。公開後の変更が
ちょっとしたコメントから,ユーザーが真に求める
少なくなるように,公開前のβテストの機会があれ
調査につなげることができるのだと信じています。
ば積極的に参加していただきたいと思います。
(2)ユーザーにアピールしてほしい
インフォプロの所属する組織がトータルでどのよ
最後に
うな「場」や「サービス」を提供するのか?インフォ
インターネットの普及期という変化のある時期に
プロの部署はどのようなことが得意で,どのような
インフォプロの仕事に携われたことは貴重な経験を
ことが不得手なのか?ということを一般ユーザーに
させていただいたのだなと,今改めて感じています。
も伝えていただきたいと思います。
インフォプロの仕事は,今後も時代の変化や環境
インフォプロの職場内では議論しているでしょう
の変化によって変わっていくでしょう。しかし,口
し,組織の上位職に対しては,予算や人員確保の際
コミであろうが,紙に書いてあろうが,電子媒体で
に必要なアピールをしているはずです。一般ユーザー
あろうが,あらゆる仕事の駆動力になる「情報」の
に対しては個々のサービスの使用方法の説明会等は
本質が変わらないのと同様に,ユーザーの情報ニー
頻繁に開催されていますが,全体像のアピールはあ
ズに答える,ユーザーの情報入手環境を整備すると
まり意識されていないと感じています。
いう「インフォプロ」の本質はなんら変わることは
(3)ユーザーの代弁者であってほしい
ないと信じています。成果が数字等で表現しづらい
企業内のインフォプロは,有料無料,電子情報な
業務ではありますが,企業の屋台骨を支える重要な
のか冊子体なのかを問わず,情報入手の手段に精通
仕事の1つであります。これからの時代を担うイン
していてほしいと思います。以前,あるシステムで
フォプロの方々のご健闘をお祈りしております。
675
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グローバ ル 戦 略 の 中での 特 許 情 報 利 用
世界知的所有権機関事務局長補 高 木 善 幸
情報管理 54(10), 676-679, doi: 10.1241/johokanri.54.676 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.676)
1. 目的的・戦略的に情報を検索する時代
文献データベースも,特許情報と同じくらいの情報
量があり,重要である。技術分野によっては,先行
昨年2回にわたり,最近の特許情報を取り巻く変化
技術の大半が非特許文献である。しかし,特許情報
として多言語検索への対応の必要性,さらにW I P Oで
検索とシームレスに検索できるデータベースやツー
取り組んでいるグローバルな知財インフラとグロー
ルができていないので,この点での発展が望まれる。
バルデータベースの構築についてのビジョンを紹介
他方,会社情報データベースには,技術情報が反
した。今回は,新年のスタートにあたり,今後の展
映されていない(最近知財報告を決算期に添付する
望として,グローバル化の中での知的財産情報担当
企業が出てきたが)。特許情報は,この点で,非常に
者とサーチャーの役割について提言する。
ユニークなデータベースであり,経営戦略に技術情
特許情報の普及という点では,この10年,3極特許
報からの分析が生かせる可能性がある。
庁を中心として,無償で特許情報を検索できるデジ
最近,技術力や知的財産を主な理由としてグロー
タルライブラリーが充実したため,ずいぶん進展し
バルな企業統合が進んでいるし,オープンイノベー
た。検索ツールも充実している。しかし,これらの
ションやクラウドソーシング注1)の広がりで技術の売
情報があふれてくると,何をどのように検索するか
買の市場も拡大している。このようなグローバルで
という戦術に凝るあまり,そもそも検索した結果を
知的なものへのシフトに対応して,特許情報の経済
どう分析して利用するかという戦略を,忘れかけて
的価値や経営戦略観点からの価値が増している。
いないであろうか。そのためには,当たり前のこと
今後数年以内に,中国は年間特許出願件数が200万
だが,
(1)どの視点から検索し,(2)どのように分
件となる。このインパクトを考えてみなくてはいけ
析して付加価値を付け,(3)最終的に戦略的決定に
ない。今でさえ,
グローバル標準指向の技術分野では,
役立つように,どのように利用するかの3段階が重要
熾烈な特許抗争が起きている。次世代の成長分野で
である。
あるスマートフォンで勝敗を決するプラットフォー
ム戦争において,グーグルがモトローラを買収する
2. 企業や機関の戦略と連携させる情報検索の視点
のは,アンドロイドを,モトローラの持つ約25,000
件の特許(出願中の約8,000件を含む)で武装し,他
特許情報は,イノベーションの指標として最も信
頼のおける網羅的なデータベースである。科学技術
のプラットフォームを攻撃するためである注2)。
物騒な表現で記述しているが,今後のグローバル
本稿で意見にわたるところは筆者個人の見解であり,必ずしもWIPOの公式見解ではありません。
676
視点 ●グローバル戦略の中での特許情報利用
な経済であらゆる企業が知的財産を重要な競争手段
4. 次の戦略的行動や判断に利用できるか
と考えている時代に,国内市場で停戦協定を結べる
ような平和な時は終わった。不毛な特許戦争かもし
特許情報は出願の副産物として作られ,技術開示
れないが,巻き込まれる企業は評論家のように座視
は社会への貢献となるので,一定期間の独占権を与
して批判している余裕はない。イノベーションが要
えることとバランスしていると説明されている。法
の時代に,戦略的に利用できる知的財産を有してい
律的説明はそれで結構であるが,ビジネス戦略から
るか否かは死活問題である。「ライセンスや権利行使
は,もう1つの視点が重要である。それは,競業他社
に有効な特許取得を目指す」というのが,究極の目
との関係で,検索される立場にも立つということで
標であり,特許情報利用もこの延長線上にある。
ある。グローバルな競争の中で,追いつ,追われつ
の立場となっているのであれば,自社の創成する特
3. 分析と付加価値
許情報が世界の競業者や潜在的パートナーにどのよ
うに利用・悪用されるのかにも配慮すべき時代であ
薄利多売で繁栄を目指す企業は別として,イノベー
ションで勝ち残ることを戦略としている企業は,い
る。次の例はどのような示唆を与えてくれるであろ
うか。
わゆる「オンリーワン」を目指して,特許情報を利
ファブレス企業注3)や研究開発に特化したイノベー
用する必要がある。他社がすでに行っていることと
ション企業が増えてきている。これらの企業は,知
似た重複開発を避けようというのが,オンリーワン
的財産が唯一の資産であり,特許戦略や特許情報検
への第一歩である。中小企業などでは特許情報を見
索も,ある意味で究極の将来像を示していると言え
る余裕はなく,かなりの無駄な試行錯誤が繰り返さ
る。米国の通信情報関連多国籍企業Q u a l c o m mは,
れているに違いない。また,何がコアの技術かを把
PCT(Patent Cooperation Treaty)の利用を伸ばして
握していないために,海外進出の際に,みすみす技
おり,4月にP C T設立以来,総計で200万件目の出願
術を流出させてしまうリスクがある。一昔前は国内
を行った1)。この企業は,ファブレス企業で,技術戦
でハリネズミのように閉じていればよかったが,縮
略や特許戦略は,経営戦略そのものである。特許情
小閉塞では展望がない。とはいっても,一日は24時
報の意味は,検索だけでなく,権利行使が容易でな
間しかない。たまにしか特許情報を利用しない中小
い国々で,どのように知的資産(知的財産プラス「人
企業にも,もっと,簡便で手っ取り早い分析方法に
財」)を守るか,トレードシークレットの保護や技術
よって特許情報を利用してもらうことが今後の課題
のブラックボックス化との関連で,特許情報をどこ
である。
までどのように開示するか,という価値連鎖末端の
経営戦略や研究開発計画のための戦略的特許情報
局面を考えての戦略が重要となっている注4)。
利用は,言うは易く,行うのは難しい。大企業でも,
明確な戦略をもって特許情報を利用しようとしてい
5. グローバルな時代への対応:多言語
る企業はまだ少ない。欧州の著名な電機メーカーは,
経営・ビジネス戦略の中で明確に知財を位置づけて
第1回の稿で紹介したように,特許情報検索の近年
おり,
「戦略目的的」特許情報戦略が徹底している。
の挑戦的課題の1つに言語の障壁がある。最近,E P O
情報検索の分析は,結果を受けて「それで,どうする」
(European Patent Office)とグーグルの機械翻訳にお
の選択肢が浮かび上がってくる視点で,当初からの
ける協力が話題となったが,機械翻訳技術は日進月
検索を目的化し,分析する必要がある。
歩である。
677
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WIPOは一足早く一般向けのGoogle Translate API
企業の研究開発拠点としてアジアの次の注目都市
を利用していて,PATENTSCOPEの検索をする過程で
は,ブラジルのリオデジャネイロである。2010年6
字数制限があるものの,Google Translateが利用で
月,I B Mはここに基礎研究センターを開設した2)。新
き,フルテキストの一部がたちどころに多言語で読
興国市場向けの製品開発を現地で行い,新興国の優
める。日本語にセットしておけば,欧米中韓などの
秀な研究者を確保するという企業戦略に,情報検索
特許文献が日本語で読める。もちろん完璧な翻訳で
者の対応も機敏であることが必要である。わが国の
はないが,何が書かれているかはわかるのでスクリー
企業で新興国の特許情報を検索しているところは少
ニングには十分である。
ないであろうが,これからは重要である。現在新興
機械翻訳の利便性や,どのプロセスでこれを使う
国では特許情報のデジタル化を進めているところで
かという研究も進んでいくであろう。要約,特許ク
ある。W I P Oは,ベトナム,フィリピンおよびイン
レームおよび書誌的情報の検索の組み合わせのパ
ドネシアに技術協力を行い,デジタル化された特許
ターンも変わっていくであろうし,この変化による
情報(書誌的情報だけでなく全文情報が目標)を,
特許情報の価値の軽重と検索戦略の工夫が一層重要
PATENTSCOPEに順次収録し検索できるようにしてい
となるであろう。今後は,要約以上にクレームの翻
る。
訳が検索価値として高くなってくるであろう。大切
「海外の情報」というようなウチとソトの峻別では,
なことは,原語による検索を優先するべきであると
対応が遅れる。グローバルな情報を対象としないと
いうことである。情報漏れは誤訳よりも重大である。
日本の情報や日本語抄訳に加工された情報では情報
漏れのリスクが高いことは,繰り返し述べてきた。
6. 新興国シフト:中華専利・一瀉千里
しかし新興国の情報は,情報の存在自体が未整備で
ある。過渡期においては,現地の検索者を訓練する
中国には発明特許と同じくらい実用や意匠の特許
支援などを含めて,グローバルな人材やネットワー
があるが,要約や翻訳の欠如で検索が困難である。
クの形成など,先進国ではこれまで政府や他の機関
中国の知財庁は意匠をイメージ機械検索ソフト注5)で
に任せてきたことも,現地とのパートナーシップを
あたりをつけている。それぐらい件数が多いという
強化して進めていく必要があろう。
ことである。同じような実用・意匠特許が登録され
中国は,あらゆる面で桁違いのスピードとスケー
ているかもしれないからである。韓国は3次元の意匠
ルで変化が起こっている。中国の特許戦略や特許情
明細書を採用し始めた。動く意匠がコンピューター
画面で表示される。世界初である。権利行使にあたっ
て,差し止めが見た目に簡単で手っ取り早いのは意
匠である。スティーブ・ジョブズがアップル製品の
デザインにこだわった理由を忘れてはいけない。こ
れも,情報検索にあたって,新技術への対応を迫ら
れる例である。
中国からベトナムやインドネシアなどのA S E A N
諸国,インドやバングラデシュ等の南アジアへの
日本企業の海外進出が加速化している。グローバル
678
執筆者略歴
高木 善幸(たかぎ よしゆき)
WIPO Assistant Director General(世界知的所有権機
関事務局長補)
1979年,京都大学工学部修士課程を中退,特許庁に
入庁。審査官,ウルグアイラウンド知的財産交渉官,外
務省ジュネーブ代表部一等書記官などを経て,1994年,
WIPO工業所有権情報部長に就任。WIPOで,部長,執行
役部長などを歴任して,2009年から5年の任期で,世界
の知財情報インフラを構築・統合する戦略目標達成を担
当する現職に任命された。
視点 ●グローバル戦略の中での特許情報利用
報利用には,これまでの常識は通用しないことが多
興国よりもいち早く準拠してきた。無視できない存
いであろう。件数が多いだけでなく,言語の障壁も
在から,中心となる国に変わったのである。中国で
ある。訴訟,ライセンス慣行,権利行使実態など,
展開する企業の戦略もしっかりしたものでなければ
海外企業にはわからないことも多い。中国は,国家
生き残れない。
戦略として知的財産を重視し国際ルールにも他の新
本文の注
注1) W e bサイトの利用などで,不特定多数の人や企業に,サービス業務や新製品開発などの仕事を委託す
るビジネス形態のことをいう。
注2) 「スマホをめぐる特許戦争の不毛」(編集委員 西條都夫)日本経済新聞電子版,2011年8月31日,お
よびこの記事で引用された『The Economist』誌記事 “Intellectual Property: Inventive warfare” 201108-20(http://www.economist.com/node/21526385)を参照。
注3) 工場を持たず,アイデアや研究開発成果を他の企業にライセンスして,製造を委託することにより,
製品を調達して販売する企業のことをいう。
注4) この企業の周到な特許戦略の一部は,技術標準を特許で固めているケーススタディとして『T h e
Invisible Edge』Mark Blaxill and Ralph Eckardt共著(邦訳は『インビジブル・エッジ―その知財が勝敗
を分ける』文藝春秋)の第3章と4章に詳述されている。
注5) 画像を検索できるソフトは,まず,映画産業などで開発されたが,その後,他の分野でも普及してきた。
中国で使用されているソフトの詳細は不明であるが,おそらく,商用に開発された画像認識検索ソフ
トをベースとしたものと思われる。
参考文献
1) “International Patent System Marks Two Millionth Filing - U.S. Mobile Technology Innovator, Qualcomm,
files Landmark Application”. WIPO. http://www.wipo.int//pressroom/en/articles/2011/article_0013.html,
(accessed 2011-11-25).
2) 井上英明. 米IBM,ブラジルに九つめの基礎研究所を開設. 日経コンピュータ誌. 2010-06-09. http://itpro.
nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20100609/348965/, (accessed 2011-11-25).
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Random walk for a half century
ҹӃҐҰ˾
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༴పࠦ
30-15年前:アイデア倒れのシステム
名和小太郎
情報管理 54(10), 680-682, doi: 10.1241/johokanri.54.680 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.680)
1985年,筑波科学博覧会が開催された。だが1980
国の家庭に光ファイバーを引き込み,そのうえに個
年代の初頭は第2次石油危機の直後で,産業界はやや
人向けの画像を流す,という趣向だった。私はその
白けた感じであった。これを懸念した技術者出身の
特別部会のメンバーだったので,家庭に壁一杯の巨
財界人Yさんが,私設の応援団を組織し,とにかく政
大スクリ-ンを置き,常時接続できるように定額制
府館の概念設計だけでもしておこう,ついては手伝
にしたら,と提案した。科学博でできなかったこと
え,といってきた。なぜ私にかといえば,私がYさん
を少しでも実現できないか,と思ったから。だが,
の腹心AさんとGUIDE/SHARE(『情報管理』54巻3号
当時,巨大スクリーンも常時接続も,用語すらなかっ
本欄)で仲が良かったためである。
た,かと思う。事務局のスタッフはこの委員,なに
すでに著名人――小松左京氏など――をメンバー
を言っているのか,と不審な顔をしていた。
とする公的な委員会は発足しており,私たちの役割
はそこから投げられてくる奇想天外なアイデアの実
現可能性をチェックすることであった。
その一つに,政府館のなかに,大都会の喧騒,炎
天下の砂漠,極地のブリザードなどを実体験できる
1980年代には「第5世代コンピュータ」つまり「人
工知能」というバズ用語があった。私もこの流れに
便乗しようと考えた。だが,私はこの分野に不案内
だったので,同僚のYさんにその仕事を頼んだ。
人工環境を作ろう,というアイデアがあった。この
人工知能のビジネス機会はどこにあるのか。Yさ
アイデアを実現するためには,膨大なエネルギーが
んは後継者不足が予測される産業分野にあるだろう,
必要となり,中規模の火力発電所を建設しなければ,
と判断した。私たちはその分野を農業と見定め,篤
という試算も出た。だが,石油危機のあとなので,
農家のノウハウを組み込んだ人工知能を組み立てる
それは不見識なことだった。といって,太陽光発電
こととした。C大学のK先生にご指導を願い,まず,
はまだ開発初期でもあり,そのコストだけで政府館
トマト栽培用のシステムを開発した。
の予算を超過してしまうと見積もられた。
反響は思わぬところからあった。それはペレスト
じゃあ,人工的な仮想空間を作ってみたら。こん
ロイカが始まったソビエト連邦からであった。Yさん
な代替案が上の委員会から降ってきた。話を聞いて
はモスクワへ飛んだ。だが,実のある結論を得るこ
みると,それは,いまにして思えば,グーグルのス
とはできなかった。Yさんは,相手が自由諸国の企業
トリート・ビューそのものだった。おそるべき先見
であれば,技術の輸出入についてそれなりの経験を
性であった。だが,当時,私たちはその先見性を具
持っていたのだが。
体化する技術的手段を持たなかった。
科学博の5年後,民営化後のN T TはV I & P(V i s u a l ,
Intelligent and Personal)構想を発表した。それは全
680
1980年代後半,政府税調から呼び出しがあった。
なにかと聞けば,納税者番号制度の概念設計をせよ,
ランダム・ウォーク半世紀 ●30-15年前:アイデア倒れのシステム
ということであった。この制度は1980年にいったん
にあった。
制定されたが,施行延期のあげく,1985年に廃止に
私たちは,このために必要な手順,要員数,コピー
なっていた。政府税調は再挑戦を試みたのであった。
機数を算出し,それを紙ベースのファイルを持つ全
なぜ私に声がかかったのか当惑した。たぶん,金
自治体にわたって積算してみた。それは膨大な作業
融業界とも情報通信業界とも関係がない,したがっ
量にはなったが,
不可能なことではない,
と判断した。
て利益相反がないはず,と相手方は考えたのだろう。
第2の課題についてはどうであったか。銀行から国
このシステムの狙いは,第1に全国民に番号を付け
税庁へのデータの移送は,それがリアルタイムであ
ること,第2に全国民の金融取引データをコピーし,
ろうと,期末のバッチ処理であろうと,双方の組織
それを銀行から国税庁へと悉皆に移すことであった。
に膨大な計算量を求めるものであった。
第1の課題については,これをゼロから組み立てる
あれこれあったが,私たちは,この変換作業に必
ことはせず,既存の番号システムを流用することと
要なコストを算出した。その結果は,その後,政府
した。この点,国民はすでにたくさんの番号――健
税調の案として,
多くの関係者から引用された。だが,
康保険,運転免許など――を与えられていた。それ
その後,このファイル変換は実行されないままに今
らのなかでもっとも有望視されたのは,年金と住民
日にいたっている。利害関係者の思惑が交差し,あ
登録に関するものであった。
わせて個人データ保護の論議が高まったためだろう。
まず,年金番号はどうか。これは整備こそされて
はいたものの,共済年金,厚生年金,国民年金など,
1992年,国連は環境サミットを開催した。この機
複数のシステムとして併存していた。問題は,これ
会に省エネルギーのシステムを考えてみないか,こ
らのシステムを渡り歩き,1人で複数の番号を持って
う国立環境研究所のNさんから声がかかった。このと
いる個人がいること,加えて,その番号の名寄せは
き,私は新聞の電子化はできないかというテーマを
年金受給開始年齢の60歳に行われること,この2点に
立て,それを若い知人の別のNさんと検討してみるこ
あった。この制度を流用するのであれば,この名寄
とにした。
せを,たとえば18歳まで遡行しなければならない。
これは困難な作業,と私は考えた。
住民記録――住民基本台帳――のほうはどうか。
こちらは,悉皆性は年金番号よりはるかに高かった。
したがって,そのファイルが電子化されていれば,
紙の新聞を廃止すれば,紙の原料,新聞用紙,新
聞それ自体の輸送エネルギーを減らすことができ
る。加えて,製紙と印刷のエネルギーも省くことが
できる。ここに焦点を絞った。
ただし,この時代,パソコン通信は未成熟であり,
それを,ある時点でコピーし,それを全自治体にわ
すべての家庭にパソコンがあり,すべての家庭に広
たってマージすればよかった。
帯域の通信路がつながっているわけでもなかった。
だが,こちらにも問題はあった。当時,自治体は
私たちは,この状況を踏まえ,新聞をファックスに
約3,300あったが,そのすべての住民記録が電子化さ
替えたらどうか,と目標を低くした。加えて,その
れているわけではなかった。紙ベースのファイルを
情報送信量を新聞の半分とした。どの購読者も新聞
持つ自治体が残っていた。最大の紙ベースのファイ
の全面を読んではいない,経済欄のみ,三面記事のみ,
ルを持つ自治体は東京の大田区,その人口は60万人
という購読法もあるだろう,と判断したからである。
であった。したがって,問題は,この巨大な紙のファ
とすると,紙は半分になるが,ファックス装置を
イルを金曜の夜から月曜の朝までのあいだに,納税
駆動するためのエネルギーは増える。その兼ね合い
者番号用の別ファイルとしてコピーできるかどうか,
を試算することにした。
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問題が3つあった。その第1は,電話会社のネット
した。あれこれやりとりしているうちに1995年の大
ワークがこの新しい負荷に耐えるか,ということに
震災に襲われ,この話は沙汰やみになってしまった。
あった。これは時差をつけて送信することで解決す
いまの言葉を使えば,私は情報通信の「特区」を提
ることができた。
案していたことになる。
第2の問題は,電力供給がこの負荷に耐えるか,に
あった。試算の結果,朝刊は可,夕刊は不可,とい
おなじ時代,K政令指定都市から,市立の試験研究
うことが分かった。朝刊は電力需要の低い夜間に送
施設群の再編をやりたい。ついては手伝え,と言っ
ることができるが,夕刊は需要のピークに重なって
てきた。私は市民シンクタンクを設立してみたら,
送られるからであった。
と提案した。廃棄物のリサイクル,交通渋滞,大深
第3の問題は,収入の半分を広告に頼っている新聞
度地下の開発など,すでに市民生活に影響を持つ課
のビジネス・モデルとどのように折り合いをつける
題が放置されていた。その解決に市民の参加を求め
のかにあった。この時代,現在のグーグル型ビジネス・
たら。その拠点を作りたい。これが真意であった。
モデルなど,私たちには思いも及ばなかった。とい
うことで,この提案は試算したのみで放棄された。
じつは,事前の別の調査で,この市には退役した
元研究者が多数おり,そのベテランたちがボランティ
アでなにかしたい,という意欲を持っていることを
1990年代の前半,兵庫県からS市にマルチメディア
知っていた。
開発用の共同施設を作るので意見を聞きたい,といっ
どうしてこんな調査ができたかといえば,学会名
てきた。現地を訪れると,いわゆる箱モノの相談だっ
簿を収集し,そのうちK市に居住する人を対象にアン
た。私は,この機会にタックス・ヘイブンならぬメディ
ケートをとることができたからである。当時,個人
ア・ヘイブンを作ってみたら,と提案してみた。
情報保護法はまだなかった。
すでに,通信分野には通信料金を低額にしてデー
だが,構想を立てるにはモデルが必要,それがな
タ・センターを海外から引き寄せる国があり,ここ
ければ説得力に欠ける。私たちは,そのモデルを滋
をデータ・ヘイブンと称していた。私はこの発想を
賀県立琵琶湖研究所に求めた。この研究所では,女
より拡げてみたらどうか,と提案した。まず,ここ
性のK研究員が地元住民を巻き込み,汚染された琵琶
に掛かる電話,ここから掛ける電話について,全国
湖の再生に努力していた。そのノウハウを借りるこ
にわたって市内料金とする,と。つぎに,このセンター
ととした。
の参加者のあいだでは著作権フリーにする。つまり,
互いにコピー自由とする,と。
この提案に県と市の担当者は半信半疑の反応を示
私たちの提案は店晒しになった。だが,モデルを
示してくれたKさんは,いま,県知事として活躍して
いる。
参考資料
a) 名和小太郎. 納税者番号制度に関する思考実験. ビジネス・コミュニケーション. 1988, vol. 25, no. 10.
b) 名和小太郎, 中里卓治. 省資源未来型新聞の提案. 環境研究. 1992, no. 86, p. 74-81.
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過去からのメディア論 ●「ビクトリア朝のインターネット」の戦争と平和
SeeingÊcurrentÊmediaÊretrospectively
過去
からの
メディア論
「ビクトリア朝のインターネット」の
戦争と平和
大谷卓史(吉備国際大学国際環境経営学部)
情報管理 54(10), 683-686, doi: 10.1241/johokanri.54.683 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.683)
本連載は,テクノロジーやメディアの歴史を通し
て,現在や将来に対する洞察と示唆を得ることが目
的である。最初にその方法論めいたことを記す。
テクノロジーやメディアの過去を知る意義は,お
そらく2つある。
りしがち」1)である。
現代風に言うならば,ビジネス雑誌の戦国時代や
幕末の武将・英傑の特集を読んで,英雄を気取るよ
うになるだけでは,歴史を学ぶ意味がないというこ
とだ。また,
社会・経済状況もまったく変わってしまっ
第1に,現在私たちが見ているテクノロジーやメ
ているのに,過去にうまくいったからと言って,歴
ディアがどのように生まれ,現在の姿になるまで展
史的人物が行った方法をそのまままねるのもよくな
開してきたか見ることで,その現在の姿をよりよく,
い。それはきっとうまくいかないだろう。
そして相対化して理解できることだ。私たちが自明
ここはやはりデカルトが言っているように,
「慎重
の前提と考えてきたテクノロジーや社会・制度が歴
に読むなら歴史は判断力を養う助けとなる」2)という
史的に形成されてきたと知ることで,それらテクノ
程度にとどめるべきだろう。倫理学者のマッキンタ
ロジーやメディアについての理解を深め,現在を反
イアが指摘しているように,西洋では伝統的に,政
省することで,よりよい将来を構想することができ
治家の教育の上では歴史や過去の政治家の事績を学
るだろう。技術史や歴史社会学を背景とするメディ
ぶことが有効だと考えられてきた3)。これも,1つと
ア論はこのようなアプローチをとることが多い。
して同じことがない状況の中で,過去の大政治家た
第2に,私たちが現在目にしているテクノロジーや
ちが道徳的・政治的判断力をいかに働かせたかを学
メディアの直接の起源をたどるのではなく,その置
ぶことが目的だった。ただし,このような教育が可
かれた社会的・経済的状況や人々のテクノロジーに
能だったのは,ギリシア・ローマ以来の文化的・道
対する欲望や期待が類比しているテクノロジーやメ
徳的連続性を信じる社会の中で,政治的・道徳的伝
ディアを考察することを通じて,現代のテクノロジー
統を1つにしていると信じられたからこそだったのか
やメディアをさらに深く理解するという歴史の使い
もしれない。
方もある。
この連載では,メディアやテクノロジーの歴史に
第2の方法は前者と比べると,思考・想像の喚起力
ついて,第1と第2のアプローチを組み合わせて,メ
が大きいとはいえ,使い方が難しい。デカルトが『方
ディアやテクノロジーの現在と将来について何らか
法序説』の中で書いているように,歴史をそのまま
の示唆を得ることを目的としている。ただし,メディ
鵜呑みにすると,「…歴史から得た模範によって自分
アもテクノロジーも単なる物質的な技術や論理的要
の行動を律する人々は,われわれの物語に出てくる
素(ソフトウェア)ではなく,何らかの社会的要素
騎士のようなとっぴなふるまいにおちいったり,自
と絡み合って存在しているのであるから,その歴史
分の力をこえたもくろみを心にいだくようになった
的アナロジーは物質的・論理的なものにとどまらな
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い。あるテクノロジーが与えた社会的インパクトや,
が発展させたものである。前者は,針の回転によっ
あるメディアが社会的に受容されるプロセスが現代
てアルファベットや数字を指す板を情報表現に用い
のテクノロジーやメディアに類似しているという観
ていたため,それぞれの針につながる多数の電線を
点から,連載の中で取り上げることもあるだろう(例
使って信号を伝える必要があった。一方,後者は,1
えば,経営学者のD.スパー 4) は,新しい技術の社
本の電線だけで「トン」(・)と「ツー」(-)とい
会的受容のプロセスを説明するため,羅針盤とイン
う2つの信号でアルファベットや数字を表現し,伝送
ターネットを同じ俎上に載せている)。
できた。回路が単純になるという点だけでも,モー
このように,方法論と言ってもかなり緩いもので
スの方式には有利さがあったのである9)。
はあるが,過去からメディアやテクノロジーの現在
イギリス政府はクックらの発明を相手にしなかっ
と将来を照らし出し,何らかの洞察や示唆を得よう
たため,彼らはグレートウェスタン鉄道に働きかけ,
というのが,本連載のもくろみである。うまく読者
クックらの技術は鉄道電信に用いられることにな
のお役に立てれば(仕事の合間や無聊のときを慰め
る。モースは米国政府に働きかけ補助金を獲得して,
る読み物としてでも役立てば)幸いだ。
ボルティモア・ワシントン間に第1号の電信線を敷設
5)
第1回目は,
「ビクトリア朝のインターネット」 と
することに成功する。通信システムは参加者が技術
も呼ばれる電信技術を取り上げる。電信の原語であ
標準を守る必要があるので,政府採用のほうが標準
るTelegraphという言葉は,18世紀フランスでシャッ
化には有利だったと経営学者のスパーはいう10)。
プ兄弟によって発明され,ナポレオンが活用した,
視覚的に情報を伝える腕木通信に由来する。
国家が独占した視覚的に情報を伝えるテレグラフ
とは違い,電信は商業通信や庶民の緊急通信にも使
テレグラフと呼ばれた腕木通信は,肘で腕を曲げ
われたものの,やはり軍事や安全保障と深く結びつ
たような形に長い棒1本と短い棒2本を組み合わせて,
いていた。これが各国政府がやがて電信に深い関心
その形を符号化し,アルファベットと数字を表すよ
を抱くようになった理由である。
うにした技術だ。イギリスでは,これを改良して,6
クリミア戦争(1853-1856)に際しては,イギリス
つのシャッターをつくって,これがそれぞれ開いて
がフランスと共同でトリポリまで敷設した電信線が
いるか閉まっているかによって64通りの情報を表現
活用された11)。日本では,1869年に東京・横浜間に
できるテレグラフを開発した6),7)。
電信が開通し,1873年には東京・長崎線が開通した。
これらのテレグラフは,国家が独占する技術であっ
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この電信線は,九州で起きた佐賀の乱,神風連の変,
た。これは莫大なコストがかかったためである。腕
西南戦争の際に,中央と前線との連絡に活用された。
木やシャッターの状態と符号は中継所に配置された
佐賀の乱では江藤新平ら首謀者の処刑が逮捕後早々
要員が目視で確認して解読する必要があった。この
に行われたことが,それを知らせる電報の記録から
ようなシステムを構築し,維持できるのは国家だけ
生々しく伝わってくる12)。
であった。当然用途は軍事用途だった。ナポレオン
国際的な電信網を確立するためには,共通の技術
が許した軍事以外の用途は,富くじの当たり番号の
仕様や手順を決める必要があるが,初期の電信は国
発表だけだった。高速にフランス全土に伝えること
境で切れていた。ここは人間同士がメッセージを伝
で,
富くじ詐欺を防ぐことができると考えたからだ8)。
達する必要があった。これは国ごとに電信の技術仕
電気を利用する実用的なテレグラフ,つまり電信
様が異なるという技術的問題であると同時に,政治
は,イギリスでは商人・技術者のクックと物理学者
的・軍事的問題で,機微・機密に触れるメッセージ
のホイートストン,アメリカでは画家出身のモース
の流出と謀略的な情報の流入を恐れていたためであ
過去からのメディア論 ●「ビクトリア朝のインターネット」の戦争と平和
る。また,国家のメッセージの検閲のため,暗号に
た。人々を隔てるあらゆる境界――国籍や民族,富
よる通信も禁じられていた10),13)。
が目に見えず,場違いのものになっていった。その
その一方で,19世紀には,電信によるコミュニケー
ために,ケンブリッジの物理学者も東京の債券トレー
ションが距離を廃絶し諸国民を近づけることによっ
ダーも遠く離れたインドの村の学生も,メキシコの
て,諸国民の間で相互理解が進み,平和が達成され
デパートの店長も,ざわざわと唸るような1つの会話
るという理想も喧伝された。電信によって同一の
へと引き込まれ,時間も空間も1本の光の糸へと収束
ニュースを世界各国の人間がほぼ同時に新聞紙上で
していった」15)。
読むことで,経験が共有され,共感が生まれると考
える人々もいた。
電信という「ビクトリア朝のインターネット」注1)
の技術イメージが平和と結びついていたことは,あ
1881年に掲載された『サイエンティフィック・ア
らためて振り返って初めて見出されるものだ。国と
メリカン』の「電信の道徳的影響」と題された記事
国が情報技術を駆使して戦うサイバー戦争のイメー
では,電信によって伝えられるニュースによって,
「文
ジが明確化する現代,私たちのインターネットも,
明世界の人々が1つの家族として共通の病床の周りに
戦争と平和の両義的イメージを背負いつつある。
集まり,大陸を横断し海底を伝わる電気パルスとと
もに流通する希望に満ちた,あるいは警告を含んだ
ニュース速報として,希望と恐れが斉唱となって高
く低く世界を振動させる…」という詩情豊かな幻想
が描かれている14)。
この幻想は,2000年代後半,グーグル本社を訪問
した人々が感じるものと似ている。グーグル本社に
は巨大なフラットパネル・ディスプレイに地球が投
影され,グーグルでまさに検索する入力があった地
球の場所がきらきらと輝くようプログラムされてい
る。このデモンストレーションを見た,当時大統領
候補の1人だったバラク・オバマは,次のように自叙
伝に書いている。
「イメージは催眠術をかけられたように魅力的で,
機械的というよりも有機的で,まるで加速しつつあ
執筆者略歴
大谷 卓史(おおたに たくし)
1967年千葉県生まれ。千葉大学文学部,同大学院
修士課程修了後,技術系出版社勤務。東京大学大学
院工学系研究科先端学際工学専攻在学中にテクニカ
ルライター・サイエンスライターとして活動。現在,
吉備国際大学国際環境経営学部准教授。
る進化の過程の初期段階を見ているかのようであっ
本文の注
注1) Tom Standage『The Victorian Internet』
(Berkeley Books, 1999)は,本稿公刊時には,服部桂訳『ヴィ
クトリア朝時代のインターネット』(NT T出版)として発売されているはずである。なお,同時に同じ
著者の19世紀のチェス指し人形の数奇な運命と人工知能への人類への夢を扱った『The Turk』
(Walker
& Company, 2002)も,服部桂訳『謎のチェス指し人形「ターク」
』
(NTT出版)として同時刊行。
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参考文献
1) Descartes, Rene. “方法序説”. 方法序説・情念論. 野田又男訳 .中央公論社, 1974, p. 14. 原著名Discours de la
Methode, 1637.
2) Descartes, Rene. “方法序説”. 方法序説・情念論. 野田又男訳. 中央公論社, 1974, p. 12. 原著名Discours de la
Methode, 1637.
3) MacIntyre, Alasdair. 美徳なき時代. 篠崎栄訳. みすず書房, 1993. 原著名After Virtue: A Study in Moral
Theory. 2nd Edition, University of Notre Dame Press, 1984.
4) Spar, Deborah L. Ruling the Waves: From the Compass to the Internet, a History of Business and Politics
along the Technological Frontier. Harcourt, 2001.
5) Standage, Tom. The Victorian Internet: The Remarkable Story of the Telegraph and the Nineteenth
Century's On-line Pioneers. Berkeley Books, 1999.
6) 中野明. 腕木通信 ナポレオンが見たインターネットの夜明け. 朝日新聞社, 2003.
7) Standage, Tom. The Victorian Internet: The Remarkable Story of the Telegraph and the Nineteenth
Century's On-line Pioneers. Berkeley Books, 1999, p. 6-17.
8) Standage, Tom. The Victorian Internet: The Remarkable Story of the Telegraph and the Nineteenth
Century's On-line Pioneers. Berkeley Books, 1999, p. 14-17.
9) Standage, Tom. The Victorian Internet: The Remarkable Story of the Telegraph and the Nineteenth
Century's On-line Pioneers. Berkeley Books, 1999, p. 22-40.
10) Spar, Deborah L. Ruling the Waves: From the Compass to the Internet, a History of Business and Politics
along the Technological Frontier. Harcourt, 2001, p. 78-86.
11) Standage, Tom. The Victorian Internet: The Remarkable Story of the Telegraph and the Nineteenth
Century's On-line Pioneers. Berkeley Books, 1999, p. 154-158.
12) 大塚虎之助. 極秘電報に見る戦争と平和 日本電信情報史. 増田民男監修. 熊本出版文化会館, 2002, 493p.
13) 名和小太郎. 情報セキュリティ 理念と歴史. みすず書房, 2005, 320p.
14) Standage, Tom. The Victorian Internet: The Remarkable Story of the Telegraph and the Nineteenth
Century's On-line Pioneers. Berkeley Books, 1999, p. 262.
15) Obama, Barack. The Audacity of Hope: Thoughts on Reclaiming the American Dream. Crown, 2006, p.
140-141.
686
集会報告 ●Meeting
2011年ダブリンコアとメタデータの応用に関する
国際会議(DC2011)
に参加して
場 所
日 程
20 11 年 9月2 1日( 水 )∼ 2 3日( 金 )
主 催
場 所
オランダ王 立 図 書 館(オランダ)
講 師
主 催
Du b l i n C o r e M e tad ata Ini ti ati v e
情報管理 54(10), 687-690, doi: 10.1241/johokanri.54.687 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.687)
1. 会議の概要
「2011年ダブリンコアとメタデータの応用に関する
国際会議(DC2011)」が,9月21日(水)から23日(金)
の期間にオランダ王立図書館で開催された。この会
議は,ダブリンコアのみならず,広くメタデータに
関する研究発表や意見交換を行う場として毎年開催
されている。11回目を迎える今回は,「メタデータの
調和:記述言語間の連携」をテーマとして開催され,
メタデータスキーマや標準間の協調・協働や,近年
セマンティックウェブに基づく新しいデータ提供・
共有の方法として注目を集めるLinked Dataに関する
写真1 会議オープニング
取り組みについて,講演や論文発表等が行われた。
36か国から170名の参加者があり,日本からは筆者を
含め,計7名が参加した。
21日 は プ レ カ ン フ ァ レ ン ス で, ダ ブ リ ン コ ア,
2. 基調講演
22日には,かつてDublin Core Metadata Initiative
(D C M I)で各種標準策定に関わり,現在はG o o g l e
Linked Data,SKOS(Simple Knowledge Organization
にソフトウェアエンジニアとして在籍するM i k a e l
S y s t e m)に関する基本事項を講義するチュートリア
N i l s s o n氏 か ら「 メ タ デ ー タ の 調 和 」
(M e t a d a t a
ルと語彙に関する特別セッションが平行して開催さ
H a r m o n i z a t i o n)をテーマとした基調講演が行われ
れた。22日と23日には,本会議が開催され,両日の
た。多様なメタデータスキーマや標準が存在し,複
午前中に基調講演が計2本,論文発表が計11本行われ
合的に使用される現在においては,個別のスキーマ
た。午後には,プロジェクト報告,各タスクフォー
や標準間で都度対応付け(マッピング)を行うこと
スによるワークショップ,会期中にテーマを設定す
により,メタデータの共有を進めることが困難になっ
る「アンカンファレンス(Unconference)」と呼ばれ
てきている。N i l s s o n氏は,個別にマッピングを定義
るセッションが同時並行で開催された。
するというような「一定の方法」により,意味の同
本稿では,筆者の参加したイベントを中心に,会
議の概要について報告する。
一性を損なわない形で,システム間でメタデータ交
換を行えることを「メタデータの相互運用性」と定
義し,それとは別の概念として「メタデータの調和」
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があるとした。
「メタデータの調和」とは,複数のメ
るが,情報資源のメタデータに関する情報(メタデー
タデータスキーマや標準を複合的に用いて記述した
タの提供者・ステータス・更新日等)を記述するた
メタデータが,システム間の交換方法に関わらず,
めの枠組みについては定義していない。こうした状
意味の同一性を損なわない形で共有されることであ
況を受けて,2年前に韓国で開催されたDC2009で「メ
り,このような「調和」をもたらすためには,
「意味」
タデータの来歴情報(provenance)に関するタスク
のレベルにおいて,個々の標準やスキーマが共通の
グループ」が立ち上がり,メタデータに関する情報
コアとなるモデルへ対応付けされることが必要とな
を記述するためのモデルについて検討を進めること
るということであった。
になった。今回の会議では,このグループによる検
23日には,フランスのポンピドゥーセンターで
討結果として,D C M I抽象モデルを一部拡張するとい
ヴァーチャル・ミュージアムのプロジェクトマネー
う記述モデルが提案された。当タスクグループのワー
ジャーを務めるEmmanuelle Bermes氏から「図書館・
クショップにおいても,本件について議論がなされ
文書館・博物館のためのLinked Dataに向けて」と題
た。
する基調講演があった。図書館・文書館・博物館が
・
「セマンティックウェブにおけるマッピングの再考」
Linked Dataの形式でデータ提供を進め,それぞれの
セマンティックウェブを基盤とした環境では,メ
データをリンクしてつなぎ合わせていくことにより,
タデータスキーマ間のマッピングを1対1で規定す
ユーザーにとってより有益な情報環境が構築できる
る方法から,メタデータ記述に使用する語彙間の関
ことや,ユーザー目線からLinked Dataのサービスを
係性(上位・下位・等価等)を定義する語彙マッピ
提供することが重要であることなどが説かれた。
ングという方法へと,重点が移ってきていることが
述べられた。語彙マッピングの方法としては,ロー
3. 論文発表,プロジェクト報告
「分析と実践1・2」「マッピングと連携」「L i n k e d
Metadata Terms)に対応付けする「ハブアンドスポー
D a t aの世界へ」というテーマで,21・22日の午前に
ク方式」が推奨されるということであり,その実例
計11本の論文発表と質疑応答が行われた。論文発表
として,英国情報システム合同委員会(JISC)等によ
には,以下のようなものがあった。
り開発された「Vocabulary Mapping Framework」が
・「メタデータスキーマの適切な選択・複合・使用
紹介された。
を支援するためのアーカイブ用メタデータ標準の
・
「Linked Data提供のためのシソーラス間のリンク付
ファセット分析」
け」
アーカイブ用メタデータ標準の記述要素の特徴を
A G R O V O C(国際連合食糧農業機関(FA O)が維
メタデータの「ライフサイクル」という観点から分
持管理し,L i n k e d D a t aの形式でも提供している統
析するとともに,各ライフサイクルから派生するタ
制語彙集)を米国議会図書館件名標目表(Library of
スクと5W1Hの組み合わせから,適切なメタデータス
Congress Subject Headings: LCSH)やEUROVOC(EU
キーマの選択・適用を可能とするモデルを提案する
で維持管理する議会関連の統制語彙集)等と機械的
という発表であった。
にリンク付けするという内容の研究発表である。一
・
「メタデータの来歴情報を記述するためのDCMI抽象
般的なマッチングのアルゴリズムを使用してリンク
モデルの拡張」
付けをし,専門家が評価をしたところ,9割強の割合
D C M Iでは,情報資源に関する情報(タイトル・作
で正しくリンク付けされたとのことであった。
成者等)を記述するための語彙や枠組みを定めてい
688
カ ル な 独 自 語 彙 を 汎 用 的 な 語 彙( 例 え ば,D C M I
・「地理オントロジーと件名標目をリンク付けするた
集会報告 ●Meeting
めの言語非依存の手法」
ンコア・メタデータの形式でエンコードする取り組
「細目付き件名」(例:アメリカ合衆国- -外国関係- -
みや,イリノイ大学図書館で実施された,音楽資料
日本- -歴史- -1945-)に含まれる地理に関する語を抽
のメタデータを「書誌レコードの機能要件(Functional
出し,地理に関するオントロジーであるGeoNameの
Requirements for Bibliographic Records: FRBR)
」のモ
対応する語彙に機械的にリンク付けを行うという研
デルに基づき表現するというプロジェクト「V/FRBR」
究発表であった。細目付き件名は,一定の規則のもと,
について報告があった。
主標目に細目を連結して構成されるものであるが,
R D Fとして表現する場合,1つの語彙に一続きの文字
列として記述するのが一般的である。この方法では,
4. ワークショップ
22日開催のD C M I / R D Aタスクグループによるワー
連結された主標目と細目が単に文字列として記録さ
クショップ,23日開催の来歴情報に関するタスクグ
れるだけであり,コンピューターが自動的に連結規
ループによるワークショップにそれぞれ参加をした。
則を解読して,細目付き件名の意味を推論すること
D C M I / R D Aタスクグループによるワークショップ
は難しい。細目付き件名の機械可読性を高める取り
は,図書館アプリケーション・プロファイル(Library
組みの1つとして,興味深い研究であった。
Application Profile:DC-Lib)のタスクグループによ
・「EuropeanaにおけるLinked Data提供のパイロット
るワークショップと合同で開催された。DCMI/RDAタ
プロジェクト」
スクグループの近況報告のほか,D C - L i bの対象範囲
メタデータ記述にEuropeana Data Model(EDM)
を「図書館」に限定せず,「文化遺産関連機関」に拡
を使用し,HTTPスキームにより参照解決可能なURIを
張すること等について議論があった。
記述対象リソースに付与したこと,Linked Data形式
来歴情報に関するタスクグループによるワーク
によるデータ提供にあたっては,データプロバイダー
ショップでは,論文発表された来歴情報の記述モデ
が参加を選択できるようにしたことについて説明が
ルに関して議論がなされた。その結果,来歴情報
あった。
のようなメタデータそのものに関する情報を抽象
プロジェクト報告は,22・23日午後に計9本の発表
モデルに沿いつつどのように記述するかを示す勧告
があり,そのうち「メタデータの透明性」と「レガシー
(R e c o m m e n d a t i o n)と記述に使用する語彙定義を
データの新しい側面」をテーマとする発表に参加し
それぞれドキュメントとしてとりまとめること,今
た。平成22年度の総務省・新I C T利活用サービス創出
後の進め方について顧問会議の助言を受けることに
支援事業の「メタデータ情報基盤構築事業」に関す
なった。
る報告では,メタデータの相互運用性と利用性の高
度化を目的として,記述語彙や記述規則の登録・共
有を可能にしたメタデータレジストリ「Meta Bridge」
5. おわりに
D C2011では,メタデータに関する研究者や実務者
を開発したほか,メタデータ設計の指針として「メ
が一堂に会し,現状の問題点や今後の展望に関して
タデータ情報共有のためのガイドライン」を整備し
闊達な意見交換が行われた。また,近年急速に進み
たことについて説明があった。
つつあるLinked Data形式によるデータ提供について
そのほか,「英米目録規則第2版(Anglo-American
さまざまな実践例が共有された場となった。
C a t a l o g u i n g R u l e s 2n d e d : A A C R2)」の後継とな
2011年7月,10年 に わ た りD C M Iを 率 い て き た
る新しい目録規則である「資料の記述とアクセス
Makx Dekkers氏からStuart Sutton氏にCEOが交代し
(Resource Description and Access: RDA)」をダブリ
たが,クロージング・セッションでは,両氏と当会
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情報管理
JOHO KANRI
2012
vol.54 no.10
Journal of Information Processing and Management
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http://johokanri.jp/
議の準備に関わったヨーロッパ図書館の職員に花束
が贈呈され,ねぎらいの拍手が湧き起こった。最後
は,来年の会場であるマレーシアのプロモーション
ビデオとともに幕が引かれた。D C2012は,マレーシ
アのサラワク州クチンで,「Knowledge Technology
Week」のイベントの1つとして,PRICAI(Pacific Rim
International Conference on Artificial Intelligence)
,
PRIMA(Principles and Practice of Multi-Agent
Systems)等の情報技術関連の会議と合同で開催され
る予定である。
(国立国会図書館 電子情報部
電子情報流通課 佐藤良)
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写真2 Knowledge Technology Weekの広報用パネル
この本!おすすめします ●商品化したメディアの不調
岩 澤 聡 (国立国会図書館 関西館)
商品化したメディアの不調
情報管理 54(10), 691-693, doi: 10.1241/johokanri.54.691 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.691)
メディアの世界における近年のめまぐるしいテク
本書は第一講から第八講までで構成されているが,
ノロジーの進歩には,とうの昔にまったくついてい
その第一講は,
(メディアとは直接関わらないが)キャ
けなくなっている。スマートフォンや電子書籍端末
リア教育論がテーマである。ここで著者は,
「天職」
(英
など目新しいデバイスが続々登場しているが,一方
語の “vocation” あるいは “calling”)とは,個人の適
で,新聞やテレビなどの従来型のメディアが日々発
性や「やりたいこと」に基づいて決めるものではなく,
信するコンテンツは十年一日のようで,なにやら好
他律的に与えられるもの,すなわち「自分が果たす
対照に思える。
べき仕事を見出すというのは,本質的に受動的経験」
今回,私が取り上げるのは,以下の新書である。
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であると説く。著者は,その具体例として,もとも
と「子供嫌い」であると思っていた自分が,子ども
『街場のメディア論』内田樹
光文社(光文社新書),2010年,777円(税込)
を持った途端に「雷撃にうたれるように」壮絶な父
性愛に目覚めたという個人的な実体験を引いており,
なかなか説得力がある。
第二講から,個別のメディアに対する批判が展開
される。
まずテレビについて,あまりに多くのステークホ
ルダーが関与するビッグビジネスとなったことで,
「つつがなく放送する」ことそれ自体が自己目的化し
てしまったという「テレビの本態的な脆弱性」が述
べられる。著者は,問題は,テレビ放送を担う当事
者たち自身に,テレビというメディアのもろさ・弱
点についての自覚が希薄であり,「テレビが存続しな
ければならないことの挙証責任は自分たちにはない
http://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334035778
と思っている」ことであると論じる。
また,新聞が,テレビ番組のクオリティを俎上に
本書は,著者が神戸女学院大学で2007年に行った
載せたテレビ批判を行わないことを取り上げ,新聞
「メディアと知」と題する連続講義がベースとなって
が立場上,テレビ批判をしにくいという諸般の事情
いる。さまざまな考えるヒントや示唆が詰まった好
はわかるが,「うまく俎上に載せられない」というこ
著である。
とと「そんな問題はないかのようにふるまう」とい
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情報管理
JOHO KANRI
2012
vol.54 no.10
Journal of Information Processing and Management
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January
うのは別のことであり,前者は「単なる知性の不調」
らえる見方の蔓延は,出版においても例外ではない。
であるが,後者は「おのれの知的不調の隠蔽」であ
そのことが,典型的に現れるのは,昨今の著作権に
ると戒める。
関する議論である。著者は,「著作権について論じて
この「知性の不調」に対する「気付きの欠如」さ
いる人の多くが問題にしているのは,実際には「本
らには「隠蔽」が,本書におけるメディア批判のキー
を読む人」ではなく,
「本を買う人」
」であり,
「だか
ワードとなっていると思われる。そして,このよう
ら,「無料で自分の本を読む人間」は自分の固有の財
な知性の不調と結びついているのが,おそらく,メ
物を「盗んでいる」ように見え」てしまうが,「それ
ディアが生み出し,発信するコンテンツを「商品」
はかなり倒錯的な考え方」に思われると論じる。
としかとらえようとしない態度である。
著者にとっては,
「本を書くという行為は,読者に
メディアが商品であるとすれば,生産者は可能な
対する贈り物(贈与)である」と位置付けられる。
限り低いコスト(コンテンツの製作費・製作努力)で,
そして,あらゆる贈与がそうであるように,それを
最大限の成果(視聴率や発行部数)を得ようとする
受け取ることで恩恵に浴し「ありがたい」と思う人
ために,必然的に消費者に迎合することとなる。
間が出現した時に,初めて書かれたものに価値が生
著者は,また,メディアが「庶民の代表」という
じるのであって,価値が最初から作品に内在してい
顔付きをして,思考停止的に「弱者の立場」を採り
るわけではない,と主張する。著者は,著作権をな
続けることで,一貫して「クレーマー」の増加に加
いがしろにするのではなく,著作権の価値を十分に
担し,ひいては医療や教育の崩壊に深くコミットし
認めた上で,「それに価値を賦与するのは読者や聴衆
てきたとも主張する。例えば,医療事故に際しては,
や観客のほう」であり,ただ,市場という流通シス
「メディアは患者サイドからの「告発」を選択的に報
道し,病院側の「言い訳」についてはあらわに不信
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テムにおいて書物の価値が「順序の狂った形で構造
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化されている」に過ぎない,と述べるのである。
そうだとすれば,ものを書く人間にとっては,代
を示すというのが報道の「定型」になっている」
。
小泉内閣の構造改革政策以来,行政が「市場原理
価を受け取るか否か以前に,ひとりでも多くの人間
主義」という考え方を医療にも適用し,患者が消費
が自分の作品に接する機会を持ち,ひとりでも多く
者として容赦なくふるまうことによって医療サービ
の読み手がそこに何らかの価値を見出してくれるこ
スの水準が向上するというイデオロギーを主導した
とが,最も望ましいことであるはずである。
本書の圧巻は,電子書籍の優位性と弱点について
のに対し,
「メディアはこのイデオロギーの普及に積
極的に加担した」というのが著者の主張である。
の議論である。
著者によれば,電子書籍のメリットは,絶版本,
著者は,さらに,医療制度や教育制度は「社会的
共通資本」として,政権交代や市場の需給関係など
稀覯本など「「紙ベースの出版ビジネスでは利益が出
でコロコロと変わっては困るもの,いわば惰性的な
ない本」を再びリーダブルな状態に甦らせたこと」
システムであるべきであると主張する。ところが,
であり,「これまで読者として認知されなかった人た
そのような変化の余地が小さいものは,メディアに
ちを読者として認知した こと」が「電子書籍の最大
とっては存在しないも同然であり,それがゆえに,
の功績」であると論じる。言うまでもなく,コンテ
容易に変わらない医療制度や教育制度に対してメ
ンツ自体の価格や検索の容易さ,入手の迅速さの観
ディアのバッシングが集中するのだ,とする議論は
点からも,紙と比較して電子書籍の「商品」として
大変興味深いものである。
の優位性は明らかであろう。
メディアを単に「商品」としての側面からのみと
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一方で,電子書籍の,紙媒体に対する最大の弱点
この本!おすすめします ●商品化したメディアの不調
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は「電子書籍は書棚に配架することができない 」こ
はほめられたことではないが,たとえ投げつけられ
とであるという。
ても,結局は教化的な機能を果たしうるのが「書物」
「僕たちは「今読みたい本」を買うわけではあ
りません。そうではなくて,「いずれ読まねばな
らぬ本」を買うのです。それらの「いずれ読ま
というものであろう。
本書はまぎれもなく私にとっての贈与であった。
(引用文の傍点は,原文の通り)
ねばならぬ本」を「読みたい」と実感し,
「読める」
だけのリテラシーを備えた,そんな「十分に知
性的・情緒的に成熟を果たした自分」にいつか
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はなりたいという欲望 が僕たちをある種の書物
を書棚に配架する行動へ向かわせるのです」
。
ここに書かれているのは,書物の機能は,必ずし
も読者の「今この時点の」消費者としてのニーズを
満たすことではなく,購入され,書棚に配架される
ことによって,購入した者に対し「未来のいつかに
向かって」教化的な力を及ぼすことであるという思
執筆者略歴
想である。たしかに,電子書籍がそのような機能を
岩澤 聡(いわさわ さとし)
担いうるとは想像しがたい。
神奈川県横浜市生まれ。東京大学文学部ロシア語ロシ
ア文学科卒。1985年4月,国立国会図書館入館。以後,同
この部分を読みながら,私は,おそらく高校の現
館で閲覧サービス,レファレンス,国会サービス等の各
代国語の教科書で読んだと記憶するある文章を,ふ
部門に勤務。この間,1993年4月から2年間,日本科学技
いに思い出していた。それは,若き日の作家高橋和
巳が,下宿の部屋で書棚に置かれた『論語』を手にとっ
て読むたびに,反発を覚えては,何度も部屋の壁に
術情報センター(JICST)に出向。2009年4月から関西館
文献提供課長。
おもな著作:
「英国BLDSCの灰色文献収集提供体制」『情
報の科学と技術』vol. 41,no. 12,1991年,「ロシアの科
学技術情報機関の現状」『情報管理』vol. 38,no. 7,1995
投げつけたという話である1)。その書物は,いつしか
年(共著),『新現代図書館学講座9 専門資料論』東京書
作家にとって,机辺に置いて手放すことのできない
籍,1998年(共著),
「韓国の親環境農業」『レファレンス』
大事な書物となる。もちろん,本を投げつけること
no. 644,2004年
参考文献
1) 高橋和巳. “論語-私の古典”. さわやかな朝がゆの味―高橋和巳コレクション5. 河出書房新社, 1996.
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JOHO KANRI
2012
vol.54 no.10
Journal of Information Processing and Management
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January
情報管理 54(10), 694-697, doi: 10.1241/johokanri.54.694 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.694)
ケンブリッジ大学出版局が論文のレンタルを
開始
学 術 ジ ャ ー ナ ル の 論 文 を 貸 し 出 す サ ー ビ ス は,
source=at&utm_medium=en)(accessed 2011-12-09).
オバマ大統領が連邦記録のデジタルアーカイ
ブ改善を命令
2009年の10月にD e e p D y v e社が開始しているが,今
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度はケンブリッジ大学出版局(Cambridge University
オバマ大統領は2011年11月28日発表の覚書で,政
P r e s s : C U P)が,出版する査読ジャーナル約280誌
府機関に対して,デジタルベースの記録管理システ
の論文を貸し出すサービス「Article Rental」を開始
ムをより幅広く利用するよう命じた。声明の中で
し た。3.99ポ ン ド / 5.99ド ル / 4.49ユ ー ロ( 約465
大統領は,現在の連邦記録管理システムが,紙や
円~約520円)を支払うと,1論文(P D Fフォーマッ
ファイリングキャビネットを使った時代遅れのア
ト)をオンラインで24時間の間,読むことができ
プローチに基づいていると指摘し,
「今回の措置は
る。C U Pによれば,購入するよりも86%節約になる
プロセスをデジタル時代へと駆り立て,それによ
計算である。ただし,その論文をダウンロード,プ
り米国国民は,連邦政府の決定や行動についての明
リント,あるいはコピーペーストすることはできな
快で正確な情報にアクセスできるようになる」と述
い。DeepDyve社のサービスも,同様の条件だが,1
べた。新しい計画の目的は,政府の記録を国立公文
論文0.99ドル払うか,毎月一定額を支払う月決めプ
書館・記録管理局(National Archives and Records
ラン(決められた数の論文に7日~無期限にアクセス
Administration: NARA)に移すことにより,国民か
可)がある点に大きな違いがある。サービスの対象は,
らのアクセスを改善することにある。大統領の指示
論文を短期間にしか必要としない学生や,機関に所
は,もっとW e b 2.0フォーマットで人々が情報にア
属していないため論文のタイトルや抄録しか読むこ
クセスできるよう,開かれた状態へと政府を駆り立
とのできない研究者とされる。
「Article Rental」
は当面,
てることであるとPaul Wester主任記録担当官は語っ
C U P所蔵の100誌の論文を対象とし,携帯機器での利
た。N A R Aには毎年4億7,000万ページのデジタル記録
用も予定している。Chronicle of Higher Education紙
が加えられ,現在124テラバイトのデータが蓄積され
は,T w i t t e rにはこのサービスに対しては,歓迎の声
ている。将来は政府機関のすべての永久的な電子記
よりも「24時間で蒸発してしまうような論文を誰が
録のための中心的リポジトリとなる予定である。し
読むのか?」といった懐疑の意見が多く寄せられて
かし,近年デジタル化の遅れと数億ドルの予算超過
いると指摘している。
の問題が生じているとして,2011年1月に米国会計検
(http://journals.cambridge.org/action/
査院(Government Accountability Office)からの非
displaySpecialPage?pageId=3172)(http://chronicle.
難を受けている。オバマ大統領は,記録管理プログ
com/blogs/wiredcampus/cambridge-u-press-would-
ラムを改善し,最終的には記録管理のコストを削減
like-to-rent-you-an-article/34500?sid=at&utm_
するための計画草案を4か月以内に提出するよう,政
情報界のトピックス ●Topics of the information community
府機関の長に求めた。なお,議会図書館(Library of
Association)は,その方針を支持している。
Congress)が集めたデータは254テラバイトに達して
(http://overdriveblogs.com/library/2011/11/21/
いる。
penguin-library-ebook-update/)(http://
(http://www.whitehouse.gov/the-press-office/
overdriveblogs.com/library/2011/11/23/penguin-
2011/11/28/presidential-memorandum-managing-
ebook-titles-for-lending-to-kindle-restored/)(http://
government-records)(accessed 2011-12-09).
ala.org/ala/newspresscenter/news/pr.cfm?id=8649)
ペンギングループが新刊電子書籍の貸出を禁
止
(http://www.thedigitalshift.com/2011/11/ebooks/
penguin-restores-kindle-lending-but-still-notproviding-digital-editions-of-new-titles/)(accessed
2011-12-09).
2011年11月21日 突 然 に, 大 手 出 版 社 ペ ン ギ ン グ
ループ(米国)が,著作権のセキュリティーをめぐ
米オンライン著作権法案に反対の動き
る懸念から,新刊電子書籍の貸出を今後は認めない
とする声明を発表し,図書館を驚かせた。OverDrive
米国のインターネット企業9社は2011年11月16日
社は,前の週にペンギングループから,図書館への
(米国時間)
,オンライン著作権法案「S t o p O n l i n e
電子書籍貸出の条件を見直している間,図書館での
Piracy Act(SOPA)
」に反対する公開書簡を共同で発
新刊電子書籍の利用を停止し,各図書館カタログに
表した。同書簡に署名したのは,Google,Twitter,
掲載されているペンギン電子書籍にアクセスするた
Facebook,AOL,eBay,LinkedIn,Mozilla,Yahoo!,
めの「Get for Kindle」機能も無効にするよう指示さ
Zyngaの9社。SOPA法案は,著作権を侵害しているサ
れたとのことである。その結果,K i n d l eを持つ図書
イトを削除することを目的とするもの。この公開書
館利用者は,ペンギン電子書籍をまったく借り出す
簡は,「著作権侵害を行っている海外の「悪徳」W e b
ことができなくなってしまった。翌日,米国図書館
サイトと戦うためのさらなる手段を与える」という
協会(American Library Association)は,この決定
同法案の目的には賛同するが,法律を順守している
を批判する声明を発表し,「A m a z o nの間に争点があ
インターネット企業などに訴訟や検閲,技術的負担
るのなら,ペンギンは直接A m a z o nと交渉すべきで
などのリスクをもたらすと指摘し,「悪徳」サイトを
あり,解決のために図書館を人質にとるべきではな
狙い撃ちにする方法を検討するよう求めている。同
い」と主張した。その翌日の11月23日に,OverDrive
法案については,政府などがインターネットサービ
社から,「Get for Kindle」機能が復活し,新刊を除く
スプロバイダーに対して違反サイトのブロックを命
ペンギン電子書籍の利用が2011年末まで可能になっ
令できるようになり,事実上の「検閲」に当たると
たとの発表がなされた。それまでの間に,OverDrive
して,インターネット企業や電子フロンティア財団
社とペンギンの懸念について検討が行われることに
(Electronic Frontier Foundation)などが反対してい
なる。ペンギンも同日に声明を発表して,作者の著
る。下院で同法案の公聴会が実施された16日を「米
作権のセキュリティーに関する懸念が解決されるま
国検閲の日」(American Censorship Day)と名付け,
では,米国の図書館に対する新刊電子書籍の供給を
反対キャンペーンを展開している。
保留することを明らかにした。米国に倣い,ペンギ
(http://www.protectinnovation.com/downloads/
ングループ(英国)も英国の図書館に対して同様の
letter.pdf)(http://judiciary.house.gov/hearings/pdf/
措置をとることを決め,英国出版社協会(Publishers
112%20HR%203261.pdf)(http://americancensorship.
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情報管理
JOHO KANRI
2012
vol.54 no.10
Journal of Information Processing and Management
http://johokanri.jp/
January
org/)(accessed 2011-12-09).
若手社会人,「SNSで勤務先公開」が4割
ノワイヤの電子状態の第一原理計算」で,次世代半
導体の基幹材料として注目されているシリコン・ナ
ノワイヤ材料の電子状態を計算した。日本のグルー
プによるゴードン・ベル賞最高性能賞受賞は2004年
人事総合ソリューション企業のレジェンダ・コー
の地球シミュレーターによる研究以来。
ポレーションは2011年11月24日,入社1,2年目の社
(http://pr.fujitsu.com/jp/news/2011/11/14-1.html)
会人を対象とした,SNS利用に関する意識調査の結果
(http://pr.fujitsu.com/jp/news/2011/11/18.html)
を発表した。回答者の約3割がF a c e b o o kを利用して
(accessed 2011-12-09).
おり,そのうち約4割はプロフィルに勤務先を公開し
ていると答えた。一方,回答者の所属企業で,SNSの
ノルウェー・アイスランドとの特許ハイウェ
利用ルール規定がある企業は17%にとどまった。回
イ開始
答者の6割以上は,会社による利用ルール規定に賛成
している。その理由としては,「発言によってはコン
特 許 庁 は2011年11月30日, ノ ル ウ ェ ー 産 業 財 産
プライアンス違反や職務規程違反に問われることが
庁およびアイスランド特許庁との間で特許審査ハイ
あるため」
「どこまで発言してよいのか,規定を作っ
ウェイ(PPH)の試行を開始することで合意したと発
て線引きをした方がいい」などのコメントがあった。
表した。12月1日から利用できる。これにより,日本
(http://www.leggenda.co.jp/news/press/
がPPHを締結した国・機関は19になった。
20111124-01.html)(accessed 2011-12-09).
(http://www.meti.go.jp/press/2011/11/20111130005/
「京」が世界一に,学会賞も受賞
富士通は2011年11月14日,京速コンピューター「京
20111130005.pdf)(accessed 2011-12-09).
Penguin USA,個人作家向け電子出版SNSを開
始
(けい)
」が同日公開された第38回T O P500リストにお
いて世界最高速と認定されたと発表した。「京」は富
米国の出版社Penguin USAは2011年11月15日,個
士通と理化学研究所(理研)が共同で開発している
人作家向けの電子出版SNSサイト「Book Country」を
スーパーコンピューター。ベンチマークプログラム
開始した。フィクション作品の電子書籍を出版した
「LINPACK」が示した演算回数は10,510テラフロップ
い個人作家が無料で登録でき,ジャンル別のコミュ
スで,2位の天河1A号(中国)の2,566テラフロップ
ニティー内での交流のほか,プロ編集者による「ノ
スの約4倍を記録している。「京」は2011年6月の第37
ウハウ」の提供などもある。同時に有償サービスと
回でも第1位を獲得している。T O P500リストは世界
して作品を電子書籍・紙書籍化することもできる。
最速のコンピューターシステム上位500を定期的にラ
米大手出版社で個人作家向け出版サービスへの参入
ンク付け・評価するプロジェクトで,1993年の発足
は初めて。
以降年2回の発表を行っている。
(http://www.bookcountry.com/)(accessed 2011-12-
11月17日には,理研と筑波大学,東京大学,富士
通による「京」を用いた研究論文が,米国計算機学
会の「ゴードン・ベル賞」の最高性能賞を受賞した。
受賞論文は,
「
「京」による100,000原子シリコン・ナ
696
09).
情報界のトピックス ●Topics of the information community
大英図書館,19世紀からの新聞記事アーカイ
米欧が電子書籍業界への独禁法調査開始
ブを公開
欧州委員会は2011年12月6日,複数の出版社によ
大 英 図 書 館 は2011年11月29日,19世 紀 前 半 以
る電子書籍の価格設定がE U競争法に違反する疑いが
降の新聞記事アーカイブ「T h e B r i t i s h N e w s p a p e r
あるとして正式な調査を開始したと発表した。対象
Archive」を公開した。同図書館が所蔵する新聞コレ
となったHachette Livre,Harper Collins,Simon &
クションをスキャン・O C R処理しており,キーワー
Schuster,Penguin,Verlagsgruppeの5社が,Apple
ドや新聞名,発行地域で検索し,紙面イメージを閲
の「iBookstore」での「エージェンシーモデル」を利
覧できるようになっている。検索は無料だが,閲覧
用して価格操作したことが違法なカルテルにあたる
は有償で,無制限に利用できる12か月サブスクリプ
としている。一方,米司法省も12月7日,反トラスト
ション(79.95ポンド(約9,700円))のほか,利用ペー
法違反の疑いで電子書籍業界を調査していることを
ジ数に制限がある30日パッケージ(29.9ポンド(約
明らかにしている。
3,700円)),2日パッケージ(6.95ポンド(約850円)
)
(http://ec.europa.eu/ireland/press_office/news_
がある。現在は300万ページ以上が利用でき,今後10
of_the_day/anti-trust-proceedings-sale-of-ebooks_
年間で4,000万ページを電子化するとしている。サイ
en.htm)(http://www.justice.gov/iso/opa/atr/
トでは,1815年の「ワーテルローの戦い」について
testimony/2011/at-testimony-111207.html)(accessed
の記事がサンプルとして公開されている。
2011-12-09).
(http://www.britishnewspaperarchive.co.uk/)
(accessed 2011-12-09).
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情報管理
JOHO KANRI
2012
vol.54 no.10
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January
■明けましておめでとうございます。喪に服してい
る方々も多いなか,手放しで喜べる年明けとは言え
ませんが,新たな年が始まりました。『情報管理』
誌は,今月,55年目の歩みを始めます。五十周年
記念号をお届けしたのをつい昨日のように感じてお
ります。
■昨年,世相を1字で示す「今年の漢字」に「絆」
が選ばれました。未曽有の震災をはじめ辛いことの
多かった昨年は,人と人とがつながり助け合うこと
の大切さを痛感した年でもありました。情報の世界
においても,多くの人々が公開したデータを共有
し,つなげて新たな価値を生み出す“LOD(Linked
Open Data)”と呼ばれる活動が盛んになってきま
した。キーワードは「オープン」
「リンク=絆」です。
■本誌11月号では,S c i N e t Sをご紹介しましたが,
今号では,L O Dにおいて重要な役割を担う識別子
O R C I Dを取り上げました。図書館情報専門職教育
の話題は,国際的流動性の視点に立った記事です。
企業図書館の移転統合という現実にどう対応したか
という,貴重な事例紹介も掲載しました。
■今月から,「過去からのメディア論」と題して新
たな連載エッセーが始まります。毎回のテーマは,
メディアやテクノロジーの歴史を通して現在や将来
についての示唆を得ることを意図して選んでいただ
きます。過去に学ぶ新連載,ご期待ください。
■連載32回を迎えた「インフォプロってなんだ?」
は,今回から副題を「私がインフォプロに期待する
こと」として,ユーザーの視点からご執筆いただき
ます。今回はご自身もインフォプロとしての経験を
お持ちの方に,ユーザーの視点で書いていただきま
した。副題は変わりますが第1回ではなく,第32回
としてお届けします。ご了承ください。
■アルフォンス・デーケン氏(上智大学名誉教授)
によれば,ドイツには「ユーモアとは,『にもかか
わらず』笑うことである」という格言があるそうで
す。たくさんの困難な課題がある「にもかかわらず」,
人と人の絆と,情報技術が可能にするL O Dの活動
が,課題解決の頼もしい助けとなることを信じて,
笑顔で新年を迎えたいと思います。本年もご愛読を
よろしくお願いいたします。
(KM)
『情報管理』誌では,国の内外から広く投稿原稿を受け付けています。日ごろのご研鑽の成果を執筆
されて,本誌に発表されることをお待ちしております。
□次号予定
●法律事務所における法情報統括部門「ロー・ライブラリアン」の役割
●企業資料の保存と活用:山一證券資料を中心に
●国立国会図書館におけるデジタルアーカイブ構築:知の共有を目指して
●Project Next-L Enju 日本初のオープンソース統合図書館システムの開発と現状
●統計情報活用への招待:第8回 住宅・建築物・土地の公的統計
情報
管理
JOHO KANRI
Journal of Information Processing and Management
科学技術振興機構
vol.54 no.10 January 2012
●編集委員会
<委員長>水野充(科学技術振興機構)
<編集委員>
小河邦雄
(大正製薬㈱)
・気谷陽子
(筑波大学附属図書館)
・
小林良子(㈱日本能率協会総合研究所)・清水美都子(㈶
日本特許情報機構)・青山幸太・安部耕造・木村美実子・
國岡崇生・栗本達児・黒田明子・黒田雅子・佐藤恵子・土
屋江里・火口正芳・日高真子・矢口学・余頃祐介(以上科
学技術振興機構)
2012年1月1日発行(月刊)
年間購読定価 本体 ¥13,650(税込)
1部定価
本体 ¥1,260(税込)
編集・発行
独立行政法人 科学技術振興機構
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
「情報管理」編集事務局
Tel. 03(5214)8406 Fax. 03(5214)8470
E-mail: joho-kan jst.go.jp
http://johokanri.jp/
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JOHO KANRI Editorial Office, JST, P.O.Box 2, Kojimachi Tokyo 102-8666 JAPAN
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