ISSN 0386-7889 No. interview 個人情報保護委員会・堀部政男委員長に訊く 208 2016.3 March special issue サイバーセキュリティ技術の最新動向 topics 「近畿地区電気教育研究会主催工事担任者教育研究セミナー」に参加して info 1 2 情報法制研究会「第3回シンポジウム」の概要 電気通信主任技術者定期講習を終えて challenge 長野県長野工業高等学校 国家試験「工事担任者試験」に向けての取組 trend 欧州におけるICT産業の潮流 欧州モバイル市場で進展するM&A Japan Data Communications Association CONTENTS foreword 2016.3 March No.208 ─────────────────────────────────────────── 1 技術の変化と社会の変化 一般財団法人日本データ通信協会 interview 理事長 齊藤 忠夫 ─────────────────────────────────────────── 2 個人情報保護委員会・堀部政男委員長に訊く 個人情報保護委員会委員長、一橋大学名誉教授 【聞き手】一般財団法人日本データ通信協会 堀部 政男 井手 康彦 専務理事 special issue ───────────────────────────────────────── 8 サイバーセキュリティ技術の最新動向 一般財団法人日本データ通信協会 topics 佐藤 晴樹 テレコムアイザック推進会議 ───────────────────────────────────────────── 16 「近畿地区電気教育研究会主催工事担任者教育研究セミナー」に参加して 一般財団法人日本データ通信協会 info 電気通信国家試験センター 所長 大蔵 啓 ────────────────────────────────────────────── 18 ❶情報法制研究会「第3回シンポジウム」 の概要 ── 18 一般財団法人日本データ通信協会 Pマーク審査部 担当部長 清水 政幸 ❷電気通信主任技術者定期講習を終えて ── 21 一般財団法人日本データ通信協会 事業推進部 部長 飯田 秀男 challenge ────────────────────────────────────────── 24 国家試験「工事担任者試験」 に向けての取組 「基礎力」 「実践力」 「人間力」を鍛え、 産業界に貢献できる工業人の輩出を目指す ●長野県長野工業高等学校 trend 欧州における ICT 産業の潮流 ─────────────────────────────── 26 欧州モバイル市場で進展する M&A 一般財団法人マルチメディア振興センター 電波利用調査部 研究主幹 飯塚 留美 report ───────────────────────────────────────────── 30 1. 総務部 2. 迷惑メール相談センター 3. P マーク審査部 4. タイムビジネス部 5. 電気通信国家試験センター 6. 人材研修部 7. テレコム・アイザック部 ※本誌に記載されている会社名・製品名・サービス名等は、TM、® 等が付されていない場合でも、一般に各社の商標、登録商標または製品名です。 本誌はこれら各社の権利を尊重いたします。 foreword 技術の変化と社会の変化 一般財団法人日本データ通信協会 理事長 齊藤 忠夫 インフラストラクチャは社会を形成する基本であり、道路、河川など多様な社会基盤 を形成する。社会に生活する人々は、その運用について共通の理解を持ち、社会を形成す る。日本データ通信協会は専門家についても、一般人についても情報通信インフラストラ クチャに関する共通の理解を形成し、その円滑な運用と発展を支援する努力をしている。 情報通信インフラストラクチャは技術によって形成され、技術進歩によって大幅に変化 している。その変化は特に最近の半世紀で急激であり、社会の多くの人々がインフラスト ラクチャの進歩を理解してその成果を享受できるようにするには努力が必要である。 情報通信インフラストラクチャは 20 世紀前半まではコストが高い技術に依存し、これ を有効に活用するためにはサービスの独占供給が有利であった。独占供給を守るために 19 世紀から 20 世紀にかけて国による独占を保証する法制度が作られた。しかし、20 世紀 中ごろの技術進歩によって、コストは大幅に低下した。これを生かすために、多様な事業 体が通信サービスを提供できるようにする法制度改革が行われたのが、通信自由化である。 データ通信協会の最初の業務は 10 年以上に渡るその準備であった。サービスの民営化の ためには提供者である事業体の設立は重要であるが、同時に社会がサービスを理解し、新 しいサービス提供形態を理解し支援していただくことが求められた。 それから 4 分の 1 世紀、通信サービスの世界的コスト低下は顕著である。コストの大幅 な低下は通信に多様なインパクトを与えた。世界中の情報を距離の意識なしに集められる のは社会の国際化にとって大きな利点である。同時に、電話詐欺のような犯罪もコスト低 下を悪用して広がっている。通信の悪用が広がった今日、通信の秘密のようなルールの適 用も、改めて考えなければならない問題となっている。 技術の進歩によって情報も多様に集められ活用されるようになった。集められる情報の 集合体もインフラストラクチャとなる。情報によって個人を特定できる場合もある。個人 情報の悪用の弊害を防止するために、情報の目的外使用を禁止する原則が 20 世紀末から 一般化している。しかし活用技術の進歩は急速であり、計画された使い方以外にも個人情 報から生み出される情報が社会的に重要になる事例も多様である。自動車の運行情報は経 路案内のために収集されるが、事故時には救急車の派遣に使われ、地震のような天災の際 には道路管理者が道路の状態を把握する情報にもなる。こうした人命にかかわる有用な活 用の中にも初期には想定されておらず、緊急事態が発生した後の工夫で、活用できるよう になることも少なくない。目的外使用に関する規制にもゆとりを持った適用が求められて いる。 技術の急速な変化が続く限り、法制度の時代遅れは続くことになる。今後とも情報技術 の発展は多様化し、これを生かすことが国際競争にもなっている。法制度の精神を、技術 の進歩の中で適切に理解し、技術を国民のために生かすことに努力が求められている。こ れもまた 21 世紀に求められるインフラストラクチャの社会的理解ではあるまいか。 日本データ通信 No.208 1 foreword interview インタビュー 個人情報保護委員会・堀部政男委員長に訊く 今年 1 月 1 日に新たに個人情報保護政策の要とな る新組織、「個人情報保護委員会」が発足しました。個 人情報保護委員会は、「行政手続における特定の個人 を識別するための番号の利用等に関する法律」 (マイナ ンバー法)に基づいて 2014 年 1 月に発足した「特定 個人情報保護委員会」を、昨年 9 月 9 日に改正された 個人情報保護法によって改組してできあがった委員会 です。我が国で初めて組織されたプライバシーや個人 情報保護のための委員会は、これまで消費者庁が所管 ●個人情報保護委員会委員長 一橋大学名誉教授 していた個人情報保護をめぐる制度設計の仕事を引き 堀部 政 男 継いだうえに、各省庁がそれぞれの事業分野で個別に 1962年東京大学大学院修士課程(基礎法学)修了。東京大 行ってきた事業者の監督を一手に引き受け、日本の個 学助手、一橋大学教授、法学部長等を経て1997年3月に一橋 人情報保護にまつわるさまざまな活動を牽引していき プロフィール》 大学退官。1997年4月から中央大学法学部教授。2004年4 ます。 月から2007年3月まで中央大学法科大学院教授。我が国のプ ライバシー研究の権威として、数々の制度構築にかかわってきた この重要な委員会の委員長に就任したのが、プライ (プライバシーマーク制度もその一つ) 。 2015年6月、 プライバシー分野で優れた功績を挙げた者に贈ら バシー研究の世界では日本のみならず国際的に知名度 れる国際的に権威ある賞「ルイス・D・ブランダイス・プライバシー の高い一橋大学名誉教授の堀部政男氏です。 賞」 (2012年創設) を受賞。 新しい個人情報保護委員会の船出にあたって、委員 2014年1月より特定個人情報保護委員会委員長、2016年1月 より個人情報保護委員会委員長。 長はどのような抱負をおもちなのか。堀部委員長に電 電公社の利用明細導入検討以来ご指導をいただいてき た、いわば教え子の日本データ通信協会専務理事の井 手康彦が、「特定」の文字がとれた出来立てのほやほや の委員会に堀部委員長を訪れ、お話をお聞きしました (対談日:1 月 15 日、敬称略)。 井手 【聞き手】 ●一般財団法人日本データ通信協会 専務理事 独立性の高い、いわゆる 3 条委員会として個人情報 保護委員会が発足しました。委員長ご就任、おめでと うございます。 井手 康 彦 《プロフィール》 堀部 ありがとうございます。以前から提唱してきた、独 1977年 日本電信電話公社入社 1982年 経済企画庁国民生活局 (国民生活審議会事務局) 出向 立性の高いデータ保護機関が関係者のご尽力で実現 1984年 総裁室文書課法規係長 (電話利用明細書検討) し、その初代の委員長を拝命したことを誇りに思いま 1997年7月 NTTコミュニケーションズ (株) 法務部門長 す。その崇高な任務を全うすべく日夜奮闘しています。 2003年2月 同社法人営業本部企画部長 2006年6月 NTTソフトウェア(株)取締役経営推進本部長 2012年6月 NTTアドバンステクノロジ(株)取締役総務部長 2015年6月 (一財) 日本データ通信協会専務理事 日本データ通信 No.208 2 interview interview 表1 新個人情報保護法政令または委員会規則 この個人情報保護委員会は、2014 年 条 項 号 2 1 月 1 日に設置された特定個人情報保護 委員会を改組したもので、今年 1 月 1 日 定義 前身の特定個人情報保護委員会は、特 定個人情報(マイナンバーをその内容に 3 政令 4 政令 17 2 適正な取得 どれひとつとってもたいへんな仕事だと 思いますが、さらに、委員会には新しい 3 規則 オプトアウト変更事項に関する公表・届出方法 規則 委員会の公表事項 規則 外国の認定、 個人情報保護体制の基準 25 1 規則 提供者の記録事項 2 規則 記録の保存期間 26 1 規則 提供を受ける者の確認事項 3 規則 提供を受ける者の記録事項 4 規則 記録の保存期間 開示 28 2 政令 開示方法 開示等の請求等に 応じる手続 32 3 政令 開示等の請求等に応じる手続 36 1 規則 匿名加工方法 2 規則 安全管理措置の基準 3 規則 匿名加工情報に含まれる個人に関する情報の公表事項 24 第三者提供を受ける際の 確認等 匿名加工情報の作成等 4 匿名加工情報の提供 りますね。 37 務とされている事務を遂行し、また、多 政令 政令 3 政令 4 政令 5 政令 6 政令 権限の委任 委任規定 7 政令 認定 47 2 政令 廃止の届出 50 1 政令 廃止の届出に関する事項 53 2 規則 指針の届出事項 3 規則 指針の公表事項 政令 地方公共団体への委任 くの規定で委員会規則に委ねられている 個人情報保護指針 事項について規則を制定することになり 地方公共団体が処理する 77 事務 ます。さらに、各種ガイドラインなどの 第三者提供に伴う公表事項 第三者提供に伴う公表事項 2 を行うことに加えて、昨年 9 月 9 日公布 の改正個人情報保護法で委員会の所掌事 規則 規則 44 1 堀部 個人情報保護委員会は、特定個人情報 の適正な取扱いについて監視・監督など 匿名加工情報データベース等 要配慮個人情報を公開できる者 4 第三者提供の制限 個人情報保護法に基づく保護の仕組みを 具体的にしていくことが重要な役割にな 政令 規則 要配慮個人情報を取得できる者 第三者提供に係る 記録の作成 マイナンバーは世間の注目度も高く、 要配慮個人情報 「個人情報データベース等」の除外規定 オプトアウトに関する公表・届出方法 特定個人情報保護評価指針の作成・公表、 たと自負しています。 容 政令 委員会規則・ガイドラインなどの策定、 み、着実に 2 年間の活動実績を積んでき 内 個人識別符号 規則 外国にある第三者への 提供の制限 これらの積極的な周知活動などに取り組 5 6 23 2 含む個人情報)の保護を図るため、各種 井手 政令 10 に設置されました。 政令・規則 2 認定の申請に関する事項 出所:堀部政男「情報通信の進展とプライバシー・個人情報保護の展開」 (別冊 NBL / No.153「情報通信法制の論点分析」 (2015 年) 所収) 策定にも取り組みます。 委員会規則については、表(表 1)をご覧頂きたいの 井手 ですが、改正個人情報保護法の全面施行に向けて、さ たいへんな数ですね。組織としてはゼロからのス タートですからたいへんですね。 まざまな委員会規則の検討に当たっていかなければな 堀部 りません(図 1、図 2) 。 組織としてはゼロからのスタートですが、個人情報 保護法についての従来の蓄積を踏まえることができ これはたいへんな仕事で、改正個人情報保護法の全 るものもあります。例えば、個人情報保護法第 7 条の 面施行の前までに、委員会規則約 17 本を制定します。 基本方針はその一つです。その第 7 条では、 「政府は、 パブリックコメントの手続をとりますので、その期間 個人情報の保護に関する施策の総合的かつ一体的な推 も考えなければなりません。政令は、内閣によって制 進を図るため、個人情報の保護に関する基本方針を定 定されるものですが、内容面で委員会規則と密接な関 めなければならない」とされていますが、歴史的に見 連性があります。 ると、2003 年個人情報保護法では当初は「内閣総理大 日本データ通信 No.208 3 interview 図1 臣は、国民生活審議会の 意見を聴いて、基本方針 の案を作成し、閣議の決 定を求めなければならな い」 (第 3 項)となっていま した。2009 年に消費者委 員会が設置されてからは、 「国民生活審議会」が「消費 者委員会」になっていまし た。改正個人情報保護法 で は、「 内 閣 総 理 大 臣 は、 個人情報保護委員会が作 成した基本方針の案につ いて閣議の決定を求めな ければならない」というよ うに、個人情報保護委員 図2 個人情報保護委員会の役割 会が基本方針の案を作成 す る こ と に な り ま し た。 これは、 「個人情報の保護 に関する施策の推進に関 する基本的な方向」、 「国 が講ずべき個人情報保護 のための措置に関する事 項」など 8 つの事項につい て方針を作成することが 求められています。 新たに検討するものが 多 い の で す が、 例 え ば、 改正個人情報保護法で設 けられた「匿名加工情報」 に つ い て は、 第 36 条 第 1 出所:個人情報保護委員会ホームページ 項で「個人情報取扱事業者 は、匿名加工情報(匿名加工情報データベース等を構 い、当該個人情報を加工しなければならない」と規定 成するものに限る。以下同じ。 )を作成するときは、特 されていますように、匿名加工情報について個人情報 定の個人を識別すること及びその作成に用いる個人情 保護委員会規則で定めるものがいくつかあります。 報を復元することができないようにするために必要な 井手 ものとして個人情報保護委員会規則で定める基準に従 日本データ通信 No.208 法律には、個人識別符号を全部削除したり、記述の 一部を削除したりして、元の情報を復元できないよう 4 interview interview にしたものが匿名加工情報だと書かれていますが、具 から、それを防止するために必要になってきました。 体的に何をどこまでやれば匿名加工情報としての取扱 個人情報保護委員会としては、事業者に対し、報告や いが認められるのか、今のところ我々には皆目見当が 資料の提出を求め,または立入検査を行うこと(第 40 つきません。 条)が容易になります。不正防止のためにも是非理解 していただきたいと思います。 いろいろな考え方があり、技術の専門家からは暗 井手 号化で解決できる部分もあるような話も聞こえてき ませんね。 ます。 堀部 法律と現実との折り合いをつけるのは容易ではあり 堀部 匿名加工情報は、ビッグデータ作成の基礎になりま トレーサビリティについては事業者にとって過度な すので、個人情報保護委員会規則がどのようなものに 負担にならないように工夫することが重要であると考 なるのかという問い合わせが多数きています。しかし、 えています。 井手 委員会規則は、これからその内容を検討していきます 従来は省庁別だった個人情報のガイドラインのすべ から、まだどのようなものになるかは明らかではあり てを個人情報保護委員会で面倒を見ることになります ません。 か? 堀部 暗号化でどこまでのことができるかは、今後の議論 現在各省庁が定めているガイドラインは約 40 本あ を待たなければなりません。そもそも、暗号を施した ります。これをどうするかの議論はこれからです。こ 情報は「個人情報」ではないと解釈しますと、暗号化ひ れまで省庁別にガイドラインが存在していたのは、そ とつで「個人情報」でなくなり、個人情報保護法の適用 れぞれの事業分野ごとに固有の問題や必要性があるか の対象外になります。そうなると、個人情報を取り扱 らにほかなりません。そこをどうしていくか、これま う事業者である「個人情報取扱事業者」は存在しなくな での経緯も踏まえてよく議論をしていかなければなり ります。 ません。いくつかの省庁のガイドラインづくりにかか 井手 議論の一端を伺うだけで、匿名加工情報の議論が一 わりまたガイドラインの共通化の議論もしてきた経験 筋縄ではいかないことが想像できます。 堀部 を生かします。 匿名加工情報を含めて、個々の議論や規則制定を委 井手 私ども日本データ通信協会は、認定個人情報保護団 員会の組織の中でどのように進めていくか。省庁であ 体の認定第 1 号として、電気通信事業における認定個 れば、審議会や研究会などの仕組みを使って有識者の 人情報保護団体の業務を行ってきました。 意見を求めるという手法がありますが、個人情報保護 認定個人情報保護団体は、個人情報の適正な取扱い 委員会は合議制ですし、専門委員を置くことができる の確保のために、この法律の規定の趣旨に沿った指針 ことから、そうした制度を活用して、議論を進めてい を作成し、公表するよう努めなければならないと業界 くことも考えられます。 ごとの個人情報保護指針の作成が必要です。このあた 井手 匿名加工情報に加えて、トレーサビリティの義務 りについて、すでにお考えはありますか? が入ってきたことも産業界では話題になっています。 堀部 認定個人情報保護団体については、2003 年個人情 過剰な規制にならないか心配する向きもあるようで 報保護法で一定の要件を定め、また、主務大臣が認定 すが。 基準を設けたりしてきました。認定個人情報保護団体 トレーサビリティの確保(第三者提供に係る確認及 の会長を務めたこともあります。民間事業者の自主的 び記録の作成義務、改正法第 25 条・第 26 条)は、個 な対応を法的に担保するもので、その役割はますます 人情報が不正の手段で入手されたり、流出した個人情 重要になってくると考えます。そのような経験を踏ま 報が取得され、転々流通するということがあったこと えて運用にあたっていきたいと思います。 堀部 日本データ通信 No.208 5 interview 井手 新しい個人情報保護法では、認定個人情報保護団体 が個人情報保護指針を定めるにあたって、「消費者の 意見を代表するものその他の関係者の意見を聴いて」 いくことを求めていますので、そのあたりは工夫が必 要になりそうだと考えています。 堀部 そこは重要な部分です。最近、新しいガバナンスの あり方として「マルチステークホルダー・プロセス(多 様な利害関係者の参加による合意形成) 」が重視される ようになってきました。個人情報の利活用の議論の中 でも、異なる立場に立つ人たちが意見を述べ合うこと の意義が語られるようになっており、個人情報保護法 のこの部分も、そうした考え方を取り入れた結果です。 個人情報保護委員会の構成を考えてみても、さまざま な専門分野の委員が合議で議論を行う仕組みになって 問題が出てくれば、法律に則って対応するというこ おり、これなどもマルチステークホルダーの原則を反 とになります。個人情報保護委員会には立入検査権が 映していると言えるのではないかと思います。 認められましたので、必要があれば、実際に関係者の 井手 委員会にはさまざまな専門家が集まってくるのです ところに出向いて、プロセスを確認し、それでよかっ ね。事務局はどれくらいの規模になるのでしょうか? たかどうかを判断するというケースも出てくると考え 堀部 明らかになっているところでは、個人情報保護委 ています。 員会の事務局定員は、2016 年 1 月の発足時、52 名、 井手 マイナンバーについても詐欺や漏えいなど、最初か 2017 年度には 78 名にまで増員が見込まれています。 ら多くのニュースが世間を賑わしました。マイナン また、これに加えて専門的な事項の調査を行う政策調 バーに限らず、続々と新しい問題が生じる可能性があ 査員をお願いしていますし、一定期間業務を担当して ります。 堀部 いただく期間業務職員も採用しています。例えば、弁 マイナンバーでこれまでに生じてきた問題について 護士、税理士など専門職の方々、セキュリティなどの は、それぞれ適切に対応してきたと考えます。これか 専門知識を持つ方々が参画しており、それぞれ重要な らも、多くの問題に対応しなければなりません。委員 役割を果たしています。 会としてやるべきことは非常に多く、関係者の協力が 井手 大きな意味を持っています。 これから、どんな風にお仕事をなさっていくお考え ですか? 堀部 すでにお話したとおり、これから多くの規則やガイ 井手 国際関係はどうなっていますか。 堀部 マイナンバーを含むこともあり得ますが、個人情報 ドラインをつくっていくわけですが、どれも難しい課 は、今日、瞬時にして地球を駆け巡ります。地球上の 題を抱えており、思いどおりにできるというものでも どこかで問題が生じた場合に、各国のデータ保護機関 ありません。従来の経験からしましても、あらゆる問 は、その解決のために互いに協力する必要があります。 題について満足のいく答えを出すことは困難です。 そのような国際協力は、個人情報保護委員会の所掌事 務の一つです(第 52 条第 6 号)。日本で個人情報保護 そこで、問題が出てくる際に、個々の問題ごとに、 具体例の中で解決策を見出すべく努力していかなけれ 委員会ができることについては、昨年の 9 月に個人情 ばならないと思っています。 報保護法が改正されてから、情報発信してきました。 日本データ通信 No.208 6 interview interview 今年の 1 月に入ってからは、委員長名でアドレスがわ Protection & Privacy Commissioners)が始めて国 かっている 20 以上のデータ保護機関に書簡を送りま 際会議を開いたのが 1979 年のことですが、その 37 回 した。日本で独立性の高いデータ保護機関が 1 月 1 日 目の会議が昨年 10 月にアムステルダムで開催されま に設置され、私が初代の委員長に就任したこと、個人 した。このときのことは、日本データ通信協会が主催 情報保護委員会の権限、今後の国際協力などを伝えま する「情報法制研究会第 2 回シンポジウム」 (平成 27 年 した。返事をいただくことを意図していませんでした 12 月 5 日開催、於:一橋記念講堂)でも少し話をさせ が、少なからぬデータ保護・プライバシー・コミッショ ていただきました。 ナーから書簡をいただきました。日本に個人情報保護 最近は、非公開セッション(closed session)と公開 委員会が設置されたことを高く評価するとともに、国 セッション(open session)に明確に分けて開催されて 際協力への期待を表明しています。 います。私は、この間、20 回程度はこの会議の公開セッ また、個人的に知り合いのプライバシーの専門家に ションに一研究者として参加してきたのですが、独立 も別途メールを出しました。1980 年の OECD プライ 委員会がない日本には正式なメンバーとしての参加資 バシー・ガイドラインなどをまとめ、この分野ではカ 格がありませんでした。2005 年 4 月 1 日に個人情報保 リスマ的存在である、オーストラリアの裁判官であっ 護法が全面施行されてからも関係機関はオブザーバー たマイケル(Michael)― 公式文書などでは、マイケ 参加の手続をとってきませんでした。そのような状況 ル・カービィ閣下(The Hon. Michael Kirby)と表記 でしたので、オブザーバー参加するように進言してき されます ― が Dear Masao というファーストネー ました。2007 年に内閣府がオブザーバー参加の手続 ムの書出しで、激励のメールをくれましたし、専門家 をとり、2009 年に消費者庁ができてからは同庁がオ は大きな期待を寄せてきています。 ブザーバー参加するようになりました。2014 年 1 月 1 井手 そのようなデータ保護機関はどのようにして実現し 日に特定個人情報保護委員会が誕生し、その年からオ ましたか。 ブザーバー参加してきています。 日本でも 1980 年代後半からさまざまな委員会や研 井手 これからは様子が変わってきそうですね。 究会が立ち上がり、議論が行われてきました。私は 堀部 会議に参加するためには、個人情報保護委員会につ 堀部 1988 年の「行政機関電子計算機処理個人情報保護法」 いて説明する文書を作成し、提出しなければなりませ に始まって、「個人情報保護法」 、 「行政機関個人情報 ん。その申請がどう評価されるかは、今の時点ではわ 保護法」 、 「独立行政法人等個人情報保護法」 (いずれも かりませんが、法律上は要件を満たしていると思いま 2003 年制定)、昨年の改正個人情報保護法など、個人 すので、日本が正式メンバーとして承認される道筋が 情報保護に関連する国のすべての法律の立法過程の一 見えてきたといってよいでしょう。 端にかかわってきました。これまでも折に触れてその この世界で国際的に認められ、存在感を得ることは 必要性を訴えてきましたが、マイナンバー法で特定個 重要な意味を持ちます。そのためにも、個人情報保護 人情報保護委員会の設置が定められるまで独立委員会 委員会がしっかりと成果を上げ、情報発信力を常に高 は設立されませんでした。 めていくことが重要となってきます。 井手 先生としても感慨ひとしおの部分はおありになるの 井手 でしょうね。 堀部 情報保護委員会の発足によって、国際的な舞台でも 我が国の発言力が高まり、国内の事業者監督がよりス そのとおりです。データ保護機関の国際的な会議で ムーズになるよう、いまから期待しています。本日は ある国際データ保護プライバシー・コミッショナー お忙しい中、貴重なお時間を頂き、誠にありがとうご 会議(ICDPPC: International Conference of Data ざいました。 日本データ通信 No.208 7 interview special issue 特集 サイバーセキュリティ技術の最新動向 一般財団法人日本データ通信協会 テレコムアイザック推進会議 佐藤 晴樹 近年、サイバーセキュリティ攻撃の巧妙化、甚大化が進んでいます。本稿では、 2011 年〜 2015 年にかけて発生した多くのサイバーセキュリティ事案をテレコム・ アイザック推進会議での対応を交えて解説し、最近のサイバーセキュリティ攻撃の 実態について明らかにしていきます。 1 Telecom-ISAC Japan とは Telecom-ISAC Japan(テレコム・アイザック推進会議) バーとして主要 SIer やセキュリティベンダの方々、また、 は、通信事業者が提供している商用サービスの安全かつ オブザーバーとして総務省や NICT、JAIPA、TCA など 安心な運用の確立を目的に、2002 年 7 月、日本で最初の の通信関連の主要団体にも参加して頂いています。 ISAC(Information Sharing and Analysis Center)と 図 1 で、なぜ事業者単独ではネットワークを守ること して発足しました。この組織では、テレコム通信事業者を ができなくなってきたのか、事業者間の協調対処の必要 含む会員が関連情報を共有分析し、業界横断的な問題に対 性、つまり私たちのような組織がなぜ必要になってきたの してタイムリーな対策をとる場を提供する活動を行ってお かについて、DNS-Amp 攻撃への対処を例に説明します。 り、サイバー脅威か らネットワークを守 図1 大規模攻撃に対する事業者間の協調対処の必要性 るために、単独では 手に負えない大規模 なサイバー脅威に共 同で立ち向かう「互 助会型」の通信事業 者連携を実現してい ます。言い換えると、 ビジネス競合関係に ある国内大手 ISP が 会社の壁を越えて協 力・連携するための 会費会員制の民間組 織です。 現在の会員企業数 は 20 社で、他には、 アライアンスメン 日本データ通信 No.208 8 special issue special issue DNS amp 攻撃は、分散 図2 Telecom-ISAC JapanのWG/SiGの設置状況 反射型サービス不能攻撃 (Distributed reflection D e n i a l o f S e t v i c e: の一種で、キャッ DrDoS) シュ DNS 機能を有する ブロードバンドルータ や公開されている DNS キャッシュサーバを踏み 台にして、悪意あるユー ザの送信したデータを増 幅して攻撃対象サーバに 送り攻撃します。従って、 図の右側で解説している とおり、DNS キャッシュ サーバの管理者はこのよ うな攻撃に加担しないよ う、DNS サ ー バ の サ ー また、Telecom-ISAC Japan では、図 2 に示すように、 ビスの提供範囲を適切に設定し、本来目的(当該サービス の提供)のためだけに応答を返すよう、事業者間で協調し、 ISP・通信業界の問題解決に向けた 11 のワーキンググルー 対処を行う必要が出てくるのです。 プ(WG)と 1 つの SiG(Special interest Group)を設置し 図3 ネットワーク脅威の変遷とWG活動 日本データ通信 No.208 9 special issue て活動しています。このうち 図4 マルウェア感染経路の変遷 図 2 の 4-1 か ら 4-3 の WG に ついては、国の政策に合わ せて私たちの活動を進めて い く た め に 設 置 さ れ た WG であり、自らの課題解決に 止まらない分野の活動も実 施しています。 次 に、 図 3 に 2000 年 か ら現在に至るまで、どんな ネットワーク脅威を受けて きたか、またその脅威に対 し て 私 た ち Telecom-ISAC Japan は ど の よ う な 活 動 を 行ってきたのかを時系列で 整 理 し た 結 果 を 示 し ま す。 2000 年に DoS 攻撃が始まり 2002 年には DDoS 攻撃が出 近年は、Web 感染型やメール感染型に変化してきてい 現、2008 年になるとボットネットを使うことが主流とな ます。 り、2014 年になると DrDoS 攻撃へ進化しています。また、 このような変遷に合わせて、私たちの活動内容も変化 最近では DDoS-as-a-Service というサービスも出現する しています。具体的には、総務省支援の下、2006 年から ようになってきました。 2011 年は Cyber Clean Center(ボット対策プロジェク マルウェア感染経路についても、その変遷を図 4 にまと ト) 、2009 年から 2012 年は RDB(マルウェア配布等危害 めています。従来はネットワーク感染型が主流でしたが、 サイト回避システムの実証実験) 、2011 年から 2016 年は 図5 日本におけるマルウェア感染率 日本データ通信 No.208 10 special issue special issue PRACTICE(国際連携によるサイバー攻撃予知・即応シ 撃を予知・即応できる仕組みの必要性が指摘されています。 ステムの実証実験) 、2013 年からは ACTIVE(マルウェ さらに、サイバー攻撃は国境を越えて行われますが、現行 ア感染防止・駆除の取り組み)という活動を展開してきま 法制度下では国外のサイバー攻撃を止めることは難しいの した。その結果、図 5 に示すように、日本におけるマルウェ が現状です。こうした中、様々なレベル(事業者間、業界、 ア感染率は低下しており、諸外国に比べても特に低い水準 官民、国際)での連携の必要性が提起されていますが、具 となっています。 体的にどのような情報をどのレベルでどのように共有し、 どのような連携をするのが効果的であるかについては、ま このように、これまでの取り組みの成果は確実に上がっ ていますが、これで十分というわけではありません。何故 だ検討すべき課題が多く残されています。そのため、まず、 なら、様々なサイバー攻撃手法は日々開発され、防御側の 様々なサイバー攻撃を把握し、情報を共有するという基本 対応は既存の対策だけでは難しくなっているからです。ま に立ち返った取組みが今後も非常に重要です。 た、サイバー攻撃被害を最小限に留めるため、サイバー攻 2 サイバー攻撃に関する動向 次に、近年のサイバーセキュリティ関連トピックスを 示威行為」では、以前は、国家/組織など特定サイトへの 図 6 に紹介します。ここでは「金銭」 「情報漏洩」 「破壊・示 個別攻撃が中心でしたが、今ではアノニマスによるイスラ 威行為」 「その他」の 4 つのカテゴリに分けてまとめてあり ム国および日本国内機関への攻撃など、サイバーといいな ます。 「金銭」では、2011 年からフィッシングサイトが流 がらもリアルな戦争の攻撃手段に近い形でも利用される状 行し始め、2014 年になると不正送金マルウェアを使った 況になって来ています。 ここで、実際のマルウェアの具体例をいくつか紹介し 犯罪が多発するようになりました。また、 「情報漏洩」 「破壊・ 図6 近年のサイバーセキュリティ関連トピックス (2011年〜2015年) 日本データ通信 No.208 11 special issue ます。まず、図 7 は 2012 年に 図7 [2012〜2013年]偽画面表示機能持つマルウェア 登場した偽画面表示機能を 持 つ マ ル ウ ェ ア で す。Zeus/ SpyEye 等と呼ばれる偽画面表 示を行うマルウェアを利用し た、ネットバンキング不正送 金の犯行手口で、本マルウェ ア自体が被害者の端末上で偽 画面表示を行い、感染被害者 に認証情報等を入力させるも のです。ユーザがアクセスす るサイトの URL 自体は正規の ものであるため、従来のフィッ シングサイトと比較して判別 図8 [2014年]高度なボットネットを活用した組織的攻撃が発生 図9 分業化によるランサムウェアの増加 が困難です。2013 年に入ると、 Citadel と呼ばれるマルウェア も 登 場 し ま し た。Citadel の 解析報告では、攻撃対象が全 て国内金融機関であったこと から、日本を標的としたマル ウェアによる攻撃の本格化が 裏付けられました。こうした 状況になったことから、2013 年に入るとネットバンキング 不正送金による被害が急増し、 2013 年 1 〜 7 月の間に 398 件、 約 3 億 6 千万円に上り、過去最 悪の被害となりました。 続 い て、2014 年 に な る と、 高度なボットネットを活用し た組織的攻撃が発生するよう になりました(図 8)。インター ネットバンキング不正送金を 行うマルウェア「Game Over Zeus」が世界的に蔓延、日本国 内でも推定約 20 万台の端末が 感染しました。セキュリティ 対策(遮断行為等)に対して強 い耐性を持つ P2P 通信を利用 したボットネットを使用しており、背後には高度な技術を ロポール) は、協力国の法執行機関と連携した大規模なボッ 有する組織的な犯行グループが存在していました。本対策 トネットテイクダウン作戦を展開。日本国内では警察庁の として、米国連邦捜査局(FBI) 及び欧州刑事警察機構(ユー 要請のもと、総務省・Telecom-ISAC Japan が協力し、 日本データ通信 No.208 12 special issue special issue 会員 ISP と連携してユーザへの注意喚起・駆除活動を行い 下がることでの運用者(素人や学生等)の増加についても懸 ました。 念されています。 そして、2015 年には日本を狙ったネットバンキング系 一方、「情報漏洩」では、2013 年、SNS/ 旅行予約 / 販売 マルウェア「SHIZ/shifu」出現について、セキュリティベ サイトなど多くの会員サイトを標的とした不正ログイン攻 ンダ数社から発表されました。このマルウェアの特徴と 撃が多発しました。その攻撃被害拡大の背景として、ユー して、他のマルウェアのソースコード流用や、悪質なア ザの ID/ パスワード情報使い回しを悪用した「リスト型攻 イデア(機能)の取込み等により、今まで猛威を振るった 撃」手法を多く使われたことが挙げられます。各セキュリ 悪質な機能が数多く搭載されており、作成者の技術力の ティ機関はユーザに対してパスワード使い回しや推測容易 高さが注目されています。また、2015 年 10 月には、この なパスワードの危険性に関する注意喚起を広く行っていま マルウェアの感染拡大を目的とした見分けづらい巧妙な偽 すが、ユーザの利便性やリテラシーに大きく関わる事項で 装メール(実在する企業からの請求書や注文確認、FAX 受 もあり、抜本的な問題解決が難しいのが現状です。そのた 信通知等)が 2 万通以上確認されたことに対して、トレン め、一部のサイトでは独自に二段階認証を採用し、サイト ドマイクロ社より注意喚起が行われています。 側の認証機能をより強化する等の対応を行うサイトも増え このほか、2015 年は、分業化(図 9) によるランサムウェ ています。また、2015 年には、日本年金機構から個人情 アが増加したという報告が McAfee の脅威レポートで行わ 報が流出しました。この事案では、複数回に渡るサイバー れています。特に「CTBLocker」が急速に広がったことが 攻撃(標的型メール)により、約 30 台の端末がマルウェア 指摘されており、その背景には従来とは異なる展開戦略(ラ に感染し、流出した個人情報は約 125 万件(約 101 万人分) ンサムウェア開発者と運用(攻撃)者による分業化)の採用 にも上りました。 が関連していると見られています。つまり、開発者と運用 「破壊」に関しては、2014 年 5 〜 7 月頃、主要な複数の 者で分業することで、開発者の逮捕のリスクが下がり、攻 ISP において DNS サーバを原因とする大規模な通信障害 撃全体としても効率化が可能となるのです。また、攻撃成 が多発しました(図 10)。この障害は各 ISP 社の DNS サー 功時の支払い手段を Bitcoin に限定し、Tor を経由するこ バを標的とした攻撃であったと見られています。従来から とで匿名性も向上させる工夫も行われています。こういっ の主流である DNS リフレクション攻撃は DNS サーバの た傾向は別のランサムウェア(Tox 等)でも見られており、 先にいるターゲット(被害ユーザ)へ大量トラフィックを 今後、分業した各々の手法の巧妙化や、参入のハードルが 送り込む攻撃ですが、今回の攻撃はドメイン名検索が NG 図10 [2014年]主要ISP等におけるDNSサーバ障害の多発 日本データ通信 No.208 13 special issue となるような特殊な DNS クエリを大量に送り込むことで とから、当時発生していた香港反政府デモとの関連で同社 「DNS サーバ自体のリソースを枯渇」させることが目的で サイトへの攻撃意図があったと見る向きもあります。 あった様子です。攻撃者の目的に関しては未だ不明です 「 そ の 他 」 で は、SSL3.0 プ ロ ト コ ル の 脆 弱 性 や、 仮 が、一説としては、使用された検索ドメインが「appledaily. 想化プラットフォームに利用されているエミュレータ 「QEMU」の脆弱性の発覚が挙げられます。 (香港メディア、蘋果日報のドメイン名)であったこ com」 3 Telecom-ISAC Japan の主な取組み Telecom-ISAC Japan のおもな取組みにつ 図11 ACTIVEプロジェクトの取組み いて以下に紹介していきましょう。 ❶ ACTIVE によるポットネットテイクダウン 作戦への参画 ACTIVE ( Advanced Cyber Threats response InitiatiVE)は、前述したように ISP などの事業者によって、約 3000 万人のインター ネットユーザーを対象に、マルウェア感染防 止・駆除の実証実験を行う官民連携プロジェク トです(図 11) 。2013 年 11 月 か ら 開 始 し、 現 在 図12 VAWTRAKボットネットテイクダウン作戦への参画 ISP12 社が参画中です。 総合的なマルウェア感染 対策を官民連携で実施す るのは世界初の試みであ り、将来的には国際連携 も視野に入れています。 また、このようなユー ザへの注意喚起スキーム を活用し、米国連邦捜査 局(FBI)及び欧州刑事警 察機構(ユーロポール)が 中心となり、協力国の法 執行機関と連携した大規 模なボットネットテイク ダウン作戦や警視庁によ る日本独自の試みである VAWTRAK ボットネットテイクダウン作戦において、そ み台にされていたことから、Telecom-ISAC Japan 会員 れらマルウェアの感染ユーザへの注意喚起・駆除依頼を行 ISP の一部へ被害サイト側から対処要請の連絡を受け、会 うことで、その成果の達成に大きく貢献しました (図 12)。 員のアクセスライン事業名との密な連携を実現し約半年で ❷リフレクション攻輩(SSDP) 対応に関する取組み 数十万台の対処を行いました。未確認情報ですが、一部の DoS 攻撃対応に関する取組みとしては、2014 年 8 月、 観測では日本→米国への攻撃が最大 50 Gbps だったとの 米国ゲーム系ホスティング会社 NFO 社が SSDP リフレク 情報もありました。SSDP プロトコルは、本来ユーザ宅内 ション攻撃され、攻撃の一部は日本国内の SSDP 機器を踏 のローカル環境にて使用される通信ですが、BB ルータに 日本データ通信 No.208 14 special issue special issue 脆弱性があった場合、図 図13 SSDPリフレクション攻撃の仕組み 13 に示すようにインター ネット側からの通信に対 しても(本来は行うべき でない)応答を返してし まいます。攻撃者はこれ を利用し、当該ルータを 踏み台として被害サイト に対する DoS 攻撃を行う ことが可能になります。 ❸不正プロキシサーバ業者 摘発と脆弱性保有ブロー ドバンドルータ問題 この問題では、プロキ シ業者は被害ユーザの ブロードバンドルータへ不正アクセスしてアカウントを ❹ IP 電話不正利用問題 詐取し、その情報を利用して ISP へインターネット接続 最後に、IP 電話不正利用問題に対する取り組みについ (PPPoE 認証)することで、被害ユーザになりすまし、不 て説明します。2015 年 6 月 12 日、総務省をはじめとする 正に回線を接続します。このような手口で回線を大量に確 関係各所より IP 電話不正利用に関する注意喚起が行われ 保したインフラを構築し、「プロキシサービス」として提 ました。不正の手法自体は 2013 年度に発生した事象と大 供、海外の攻撃者は同サービスを利用し、身元隠匿を図っ 差はありませんが、今回の特徴は、特定企業(レカム社)が販 た上で、ネットバンキングによる不正送金等を実施してい 売する製品を利用するユーザに被害が集中している点でし ました。こうした脅威に対し我々は 2012 年 7 月より、数 た。不正利用時の発信先はアフリカや東欧諸国が多く、こ 回にわたり本ブロードバンドルータの脆弱性について注意 れは国際電話を受けた側、事業者も情報料の一部を受け取 喚起を実施し、ファームウェア更新等の対策実施をユーザ れる電話会社の料金精算の仕組みを悪用しているものと見 側へ促しましたが、効果は限定的なものでした。そのため、 られています。 2013 年 6 月からは、該当製品の所在を把握するネットワー また、本件については、多くの報道がなされたこともあ ク調査を独自に実施し、ユーザに、より積極的な対策の実 り、総務省からユーザの保護に関する要請文が出されまし 施を促す活動を展開しています。さらに会員 ISP と連携し た。本要請文の骨子を検討した同省の研究会の委員にも て警察側の捜査へも協力し、事件全貌の解明、犯行グルー 我々のメンバーが参加しており、その検討においても貢献 プの摘発に貢献しています。 しています。 4 サイバー攻撃対策の課題と今後の展望 ここまで述べてきたサイバー攻撃とその現状から、 「ユー 省庁・通信事業者:DNS 以外の通信ブロックなど、通秘・ ザ」 「メーカー」 「省庁・通信事業者」それぞれが解決すべき ガイドラインの更なる見直し 課題を挙げると次のようになります。 IoT 時代を見据えた NW デバイスのセキュリティの在り ユーザ: セキュリティリテラシの向上、セキュリティ基 方に関する製造事業者側との意見交換、ガイドラインの策 本動作の徹底(ソフトウェアアップデート・ウィ 定など、Telecom-ISAC Japan は通信事業者の立場から ルス対策ソフト等) 国内の安心安全なインターネット環境確保に、今後も貢献 メーカー:ユーザに依存しないパッチリリース、強制自動 していきます。 アップデートの必要性 日本データ通信 No.208 15 special issue topics 「近畿地区電気教育研究会主催 工事担任者教育研究セミナー」に 参加して 一般財団法人日本データ通信協会 電気通信国家試験センター 所長 大蔵 啓 平成 28 年 1 月 6 日に奈良県立王寺工業高等 学校において、 「近畿地区電気教育研究会主催工 事担任者教育研究セミナー」が開催されました。 同研究会会員校等(電気・電子・情報系学科を有 する高等学校)23 校から工事担任者資格取得 のため生徒を指導されている 44 名の先生方が 参加されました。 セミナーは、第一部では「工事担任者教育講演 会」として 3 氏による講演がありました。また、 第二部では「工事担任者指導者研修会」として「電 気通信工事担任者の会」講師による受験指導方法 開催校(王寺工高実習棟) の講演が行われました。参加された先生方は、内容が 充実しており工事担任者試験指導に向けて多くの指針 入って大きく変容し、社会の大きさと安定性に直接関 を得ることができた等高い関心を持った様子でした。 わるようになった。近年、通信技術の発展により 1980 年代の通信自由化、さらには、2000 年代の移動体通信 第一部での講演模様を以下に紹介します。 やブロードバンドへの進化・発展につながった。 通信コストが高価であった時代には、通信主体は通 「人類社会の基礎としての通信」の講演概要 信の前に相互に信頼関係を持った人の間で行われた。 齊藤 忠夫 氏 しかし、近年では通信コストの大幅な低下により、見 ホモサピエンスは、25 万年前に地球に現れた言語能 ず知らずの人と通信する機会が増加している。この場 力を持つ唯一の生物である。人類の世界的な展開はそ 合には受信した情報を扱う際に、その通信が信頼でき の能力を生かして可能になった。文字も 5500 年の歴史 る通信かどうかを確認する必要があり、そのために通 を持ち知識交流の基礎となっている。電気通信技術は 信サービスは受信者を支援することが求められる。 講師:(一般財団法人)日本データ通信協会理事長 200 年の歴史しかないが、人類の知識交流能力を高める 通信技術はなお大きく変化し、今後も社会の発展に 大きな影響を与える。通信技術の向上は社会発展の基 のに、大きな役割を果たした。 人はコミュニケーションを通して信頼できる相手を 本である。同時に技術の進歩を社会的に見て、社会の 選択し社会を形成するが、その社会の安定性はその中 安定性を向上するために十分な情報を伝達できている で築かれる信頼関係に依存する。通信技術は 21 世紀に のかにも、常に注意を払わなければならない。 日本データ通信 No.208 16 topics 年 12 月現在 1 年から 3 年までの資格取得者は、DD 第三 種 79 名、DD 第一種 13 名及び AI・DD 総合種 3 名と成 果を上げました。1 年次全員受験の取り組で、合格時期 の早期化による上位資格への挑戦、家庭学習の習慣付 けによる学習習慣の定着、2、3 年次に学習する内容の 予習による学習意欲の向上があげられます。 「株式会社きんでん人材開発部の概要 と人材育成」の講演概要 講師:株式会社きんでん人材開発部 副部長 齊藤理事長講演風景 「工事担任者試験 DD 第三種資格取得 の取組」の講演概要 講師:京都府立工業高等学校 電子コミュニケーション科 教諭 溝口 翔太 先生 木下 靖浩 氏 当社は、昭和 19 年創立、大阪市に本店を、また、国 内 102 か所、海外 8 か所に事業所・事務所の他、研究所、 研修施設を設置し社員約 7,000 名を擁する総合設備エ ンジニアリング企業です。人材開発部は、本店組織の 一部門として、兵庫県西宮市に「きんでん学園」をまた、 本校は、京都府福知山市に所在する京都府立では唯 千葉県印西市に「人材開発センター」を設置し、社員及 一の単独工業高校で、機械プランニング科、生産シス びグループ会社・協力会社社員の資質の向上と能力開 テム科、電気エネルギー科、電子コミュニケーション科、 発を行う人材育成の統括部署です。3 年毎に「中期人材 情報システム科の 5 科が設置され約 540 名の生徒が学ん 育成計画」を示し、現在は「自らが情熱を持って、より良 でいます。 い仕事、より付加価値のある仕事を追求出来る人材」を 電子コミュニケーション科は、電気・電子・通信技 求める人物像とし、人材開発部と各本部が連携し、人 術の基礎知識・技術を学習する学科で、工事担任者資 材育成を行なっています。また、新入社員教育は、全 格の他、情報技術検定、計算技術検定、デジタル技術 寮制の下「心を磨き、技を練り、身体を鍛える」という 検定、工業英検、品質管理検定、基礎製図検定、陸上・ 三位一体の方針により、 「態度堂々、動作きびきび、言 海上特殊無線技士等の資格取得にチャレンジしてい 語はきはき」を教育訓として、躾教育や技術・技能の付 ます。 与も含めた専門教育等を 1 年〜 1 年半、実施しています。 工事担任者資格取得のため、平成 24 年度からは学科 当社では、若手社員の技術・技能のレベル向上のため、 全体での資格取得の支援体制を整備し、1 年次全員が第 技能五輪に積極的に挑戦しています。結果は全国大会 2 回目の試験に挑戦しています。具体的には、①資格内 では、 「電工職種」 (昭和 40 年から連続出場)で、これま 容を意識した授業の実施、②夏季休業を利用した家庭 でに金 19 名、銀 39 名、銅 34 名等、また、 「情報ネットワー 学習、③放課後の時間を利用した全体学習、④ e- ラン ク施工職種」 (平成 17 年から連続出場) で、これまでに金 ニングシステム(情報システム科との共同運用により、 4 名、銀 9 名、銅 8 名等の成績を収め、また、国際大会 過去の試験問題をデータべース化し類題の一括表示が では、 「電工職種」 (昭和 37 年から出場)で、これまでに できるようにする等工夫し、生徒が自由時間に利用す 金 7 名、銅 2 名等、また、 「情報ネットワーク施工職種」 (平 ることが可能)を活用した自習を行っており、また、1 年 成 25 年から出場)で、これまでに金 2 名の成績を収めま 次では全体学習がない日の放課後を利用した技術分野 した。 以上の内容の講演があり、最後に、平成 27 年 8 月に の学習、授業時間を利用した小テストを実施し、知識 の定着を図っています。 ブラジル・サンパウロで開催された、国際大会での「情 この結果、1 年次の DD 第三種試験では、本年度受験 者数 36 名中合格者 14 名、科目合格者 19 名、また、昨 日本データ通信 No.208 報ネットワーク施工職種」で金を受賞した同社若手社員 の競技模様がビデオで紹介されました。 17 topics info 1 情報法制研究会「第3回シンポジウム」の概要 一般財団法人日本データ通信協会 P マーク審査部 担当部長 清水 政幸 一般財団法人日本データ通信協会では、昨年来開催しているシンポジウムに引き続き、情報法制研究会第 3 回シンポジウムを「個人情報保護法制を巡る諸課題」と題して、昨年 12 月 5 日(土)午後、一橋大学一橋講堂 にて開催いたしました。 堀部政男一橋大学名誉教授の基調講演の後、個人情報保護に関連する最新情報として、各分野で活躍して いる発表者からタイムリーな講演がありましたので、その概要を報告します。なお、紙面の都合で本稿では 講演の概要を記載しますので、詳細は下記のサイトをご覧ください。講演者の許可を得た範囲で講演資料及 び講演模様の動画を掲載しています。 http://www.dekyo.or.jp/kenkyukai/ 表1 第3回シンポジウム プログラム 「ICDPPC の昨日・今日・明日」 基調講演 堀部 政男 一橋大学名誉教授(特定個人情報保護委員会 委員長) 報告 1 「個人情報保護法制を取り巻く最新状況 ゲノム法の検討動向」 鈴木 正朝 新潟大学 法学部教授 「欧米セーフハーバーに係る十分性認定無効判決に関する動向 及び我が国プライバシー外交への影響」 報告 2 板倉 陽一郎 弁護士・ひかり総合法律事務所 報告 3 「小規模自治体におけるマイナンバー対応」 大田 裕章 弁護士(全国町村会 総務部 法務支援室) 報告 4 「個人情報保護法改正に対する民間団体としての評価・懸念点」 吉田 元永 一般社団法人 電子情報技術産業協会 個人データ保護専門委員会 委員長 「もうひとつのマイナンバー『医療等 ID』に関する議論」 報告 5 ─ 医療等分野における個人情報の利活用と保護の課題 ─ 松本 泰 セコム株式会社 IS 研究所 プラットフォームディビジョン マネージャー 会場 日本データ通信 No.208 18 info 1 「ICDPPC の昨日・今日・明日」 1 基調講演: プライバシーや個人情報保護の問題を考えるに当たっては、グローバルな視点で論じる ことが必要です。今回はグローバルな視点の重要性の一端に論及するために、1979 年以 降毎年開催されているデータ保護・プライバシー・コミッショナー国際会議(ICDPPC) について紹介します。 データ保護・プライバシー・コミッショナーとは、法令に基づく公的機関で、自主性・ 独立性を保障され、調査権等の権限を有する監視機関であって、そのような監視機関等が 相互の情報交換の場として、国際会議を開くようになりました。この会議は日本で開催さ れたことがありません。その理由は、日本には当時、民間部門を対象とした個人情報保護 法はありませんでしたし、1988 年の行政機関電子計算機処理個人情報保護法でも独立の 監視機関は設けられなかったことにあります。 このように、個人情報保護における世界の大きな流れと日本のそれとは差異が見られま 堀部 政男 氏 す。2015 年 10 月に第 37 回 ICDPPC が、アムステルダムで開催されました。日本がいつ の段階で ICDPPC のメンバーになるか分かりませんが、2016 年 1 月に個人情報保護委員 会が発足しますので、日本として申請するかを検討していきたいと思っています。 2 個人情報保護法制を巡る諸課題 「個人情報保護法制を取り巻く最新状況 ゲノム法の検討動向」 現行個人情報保護法や今回の改正法も医療分野については、 個別立法で対応することを予定していました。従って、「個人 情報識別符号」 「要配慮個人情報」等を「遺伝情報」にそのまま適 用した場合は、医療等の研究、創薬事業等への影響は甚大にな ります。医療安全の確保、ドナー等本人のプライバシー保護、 遺伝子創薬等産業振興などを目標として特別法を制定すること が重要であり、そのための基本論点を提案します。 鈴木 正朝 氏 「欧米セーフハーバーに係る十分性認定無効判決に関する動向及び我が国プライバシー外交への影響」 日米欧では、個人情報保護制度や個人情報の移転規制が異 なっており、10 月 6 日に欧米セーフハーバー認定が無効になっ たとのニュースが流れました。十分性認定無効判決の内容や欧 州委員会など関係各所の反応などから、我が国プライバシー外 交への影響としては、十分性認定の基準として欧州委員会基本 憲章に照らして本質的に同等であることが示されたことから、 我が国の個人情報保護法には行政機関等の監督権限が無いの で、EU からは十分な保護水準を確保している国とは認められ ないと考えられます。 板倉 陽一郎 氏 日本データ通信 No.208 19 info 1 「小規模自治体におけるマイナンバー対応」 全国町村会では、平成 26 年 11 月に法務支援室を設置し、特定個人情報保護条例(モデル条例)及び施工規 則・様式(モデル施工規則)を公表してきました。全国 928 の各町村では、特定個人情報保護評価(PIA)の実 施、数多くの条例や規程の整備、個人番号を使ったシステムの改修を実施してきました。また、通知カード・ 個人番号カードに関する事務も始めています。 「個人情報保護改正に対する民間団体としての評価・懸念点」 個人情報保護法改正について、電子情報産業の民間団体の立場から評価と懸念点について報告します。ま ず、法改正については、①消費者の信頼性向上、②国際的な調和、③善良な事業者にとって過度な負担とな らない制度を期待しています。個人情報保護委員会には、保護と利活用のバランスがとれた判断・運用を期 待しています。また、政令で定めることとしている個人識別符号や要配慮個人情報の範囲が、過度に拡大し ないよう要望します。グローバル化への対応については、個人情報保護が十分な国・地域、事業者の体制を 早く示していただき、グローバルに活動している日系企業に過重な負担を課すことが無いようにして欲しい と思います。 「もうひとつのマイナンバー『医療等 ID』に関する議論」 マイナンバー以上に社会的インパクト、意義が大きいものに「(仮称)医療等 ID」がありますので、これに 関する論点 ・ 課題、個人情報保護法との関係について報告します。医療等 ID の利用範囲は、医療機関等に 限定する狭い範囲から、社会保障分野全体をカバーする広い範囲までが考えられますが、最適な範囲を選択 する必要があります。また、社会保障分野では非常に広く多くのステークホルダーが存在していることも課 題です。また、医療等 ID に関する今後の論点 ・ 課題として、改正個人情報保護法における医療情報の取扱 いが不明確なこと、マイナンバー法との関係、ゲノム情報の取扱いなどがあると考えています。 当日は約 200 名の参加者からも活発な意見が出され盛況のうちに閉会し、プログラム終了後の懇親会には約 90 名が参加 し、有意義な意見交換ができました。次回の情報法制研究会第 4 回シンポジウムは 6 月 12 日を予定しています。 日本データ通信 No.208 20 info 1 info 2 電気通信主任技術者定期講習を終えて 一般財団法人日本データ通信協会 事業推進部 部長 飯田 秀男 電気通信主任技術者定期講習制度がスタートした平成 27 年度の講習は、12 月 16 日に伝送交換技術・線路技術の各 10 回(計 20 回)の全日程を予定どおり終了しました。 この約 1 年前の平成 26 年 11 月に、登録講習機関となるべく準備を始め、テキストの検討・執筆・校正・製本、講師の確保・ 交渉契約・総務省届出・講師勉強会の実施、会場の選定・確保、講習実施の公示、受付システムの検討・構築、修了考査問 題の作成・検証・印刷等々の準備作業を実施の中、7 月の講習開始までの期日は迫り、そして、過ぎていきました。 本年度の講習では、朝の交通機関によるトラブルには遭遇しなかったものの、8 月の福岡では、講習会場を直撃する大型 台風が通り抜けて始発から交通機関が動かない事態や、9 月の東京では東日本で河川が氾濫する台風に見舞われ、いずれも 電気通信主任技術者の方が所属する会社の設備の復旧のために参加できないという事態もありました。講師の方だけでなく、 受講者にも前日・前々日から講習会場付近に宿泊するなどご苦労をおかけしました。 「台風の日などは延期にすればよいのでは?」と言う声も頂きましたが、前日や前々日から遠方地より来られておられる方 もいらっしゃることを説明し、 「中止にならなくて良かったですね」とのお言葉もいただきました。 平成 27 年の講習を振返り、取りまとめました。 日本データ通信協会は平成 27 年 1 月 16 日 に電気通信主任技術者講習の登録講習機関と して総務省に登録され、同年 3 月に講習計画 を公示、同年 4 月より受付を開始しました。 同年 7 月に第 1 回目の講習を東京で開始して 以降、12 月までに東京・大阪・福岡・名古 屋の地域で伝送交換技術と線路技術の講習を それぞれ 10 回を実施しました。 講習テキスト 講習風景 1 受講者 受講者は 1,105 名で、全体の 1 割ほどが非選任の受講者でした(図 1)。 年齢は、表 1 の通り平均年齢が 50 歳ですが、65 歳以上の割合も 1 割と、 図1 受講者内訳 非選任127名 7名 高齢の方も多く目につきました。 表1 受講者の年齢 (歳) 平 均 最年少 最年長 選 任 50.3 25 83 非選任 47.6 28 76 日本データ通信 No.208 21 受講者 1,105名 選任978名 info 2 本講習では、電気通信主任技術者資格者証を取得していて選任されていない方でも受講することが可能で、修了者には選 任されている方と同等の修了証を発行しています。将来、選任される予定の方や、知識向上のためにも受講されることをお 勧めしています。選任後も有効期限内は受講の必要がありません。 2 選任事業者(複数選任) 講習修了者は総務省への報告事項となっており、あわせて選任している電気通信事業者の名称も報告事項となっています。 そのため選任している電気通信事業者を確認する作業があります。同じ会社でも名称が不統一であったり、年度途中で会社 名が変更されるなどなかなか大変でした。登録事業者は 300 事業者以上あり今回の受講事業者はこの内の約 75% ほどでした。 また、届出事業者の中で選任しているのは 50 事業者ほどありました。 選任受講者の中には 40 名が 1 社からではなく複数の事業者から選任されている方がおりました(40 人で延べ 102 社から選 任を受けており、県間を跨る選任も 15 名 30 社ほどありました)。 また、この講習は資格者証の種類ごとに、受講する必要があります。この両方を兼任されている方の比率は伝送交換技術 者で 35.8% と約 3 分の 1 ほどでした。 3 修了考査 修了考査の合格率は 97% で、不合格者は 34 名でした。不合格者数は伝送交換技術より線路技術の方が若干ですが高い値 でした。また、平均年齢は 64 歳で 64 歳以上の方が 19 名とかなり高齢といえます。 省令では「修了考査は、講義の終了後に行い、受講者が講義の内容を十分に理解しているかどうか的確に把握できるもの であること」とあります。しかし、1 日の短時間の講義ですので、全てを記憶することは大変なことと言えます。修了考査は 表2 実施回別正解率 (単位:%) 実施回 第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回 第9回 第 10 回 全 体 伝送交換 89.1 88.0 80.8 88.1 88.9 86.1 88.2 87.3 88.9 92.6 88.1 線路技術 86.5 87.7 78.5 85.7 90.1 88.5 84.0 84.0 89.7 85.5 85.9 図2 修了考査全体の得点分布 0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 14.0 16.0 18.0 20.0% 30 29 28 27 26 25 24 23 22 21 20 修了考査風景 21点以上合格 伝交 19 線路 18 17 16 [点]15 日本データ通信 No.208 22 info 2 講義で説明したところを 40 分間 30 問、○×式で回答する方式をとっています。また、合格基準は講義にも集中できるよう、 70% 以上、つまり 30 問中 9 問間違えても合格を基準としました。 出題者は「落とすことが目的ではない」ので、いわゆる「ひっかけ」の問題を作らないように配意して、正解率が 85% 〜 90% の問題となるように作成しています。もちろん、時間があれば、全問正解となるような問題です。 なお、各回の正解率は表 2 の通りでした。受講者の全体的な正解率は、伝送交換技術 88.1%、線路技術 85.9%、と想定通 りでした。また、得点分布については図 2 の通り 1 〜 3 問程度不正解の方が最も多い結果でした。 4 講習修了者・修了証の発行 平成 28 年 1 月末の講習修了者は 1,092 名と、講習を受けた方々が全員講習修了とはなりませんでした。 講義にすべて出席し、修了考査に合格した講習修了者には、修了証に次回の受講の期限を記載して発行するとともに、総 務省への報告を行っています。次回の受講の期限は「講習の行わた日の属する月の翌月の 1 日から起算して 3 年以内」となり、 例えば第 1 回の講習修了者は平成 30 年 7 月 31 日までに受講することとなります。 「7 月は忙しいし、6 月以前は講習が無い から、10 月にしよう」 と、言うことはできないので、注意が必要です。 5 その他 検討段階から、講習を 1 日で実施するのは受講者にかなりの負担となるとしていましたが、やはり受講者の年齢層も高く、 セキュリティ等の知識が少ない方には負担が大きかったようで、テキストの事前配布や講習日数の拡大の要望がありました。 また、今回は電子情報通信学会から推薦いただいた方々を講師としてセキュリティの講義をしていただきましたが、もっ とゆっくり講義を聞きたいとの要望も多くありました。 告示により講義時間は 5 時間 40 分と定められており、修了考査や昼休み、講義科目間の休憩を入れると、9 時から 17 時 の講習となりますが、久しく講義等を受けていないし、60 分も拘束されることもないので 90 分授業は長く、60 分に 1 回は 少なくとも休憩が欲しいなど、集中力を欠かない工夫の要望がありました。 会場の都合や準備の不慣れで夏の屋外で開場時刻までお待たせすることもありましたが、改善できたのではないかと思い ます。また、交通機関の乱れを事前に考慮するなど講習を受ける方の危機管理も素晴らしく、遅刻などは有りませんでした。 講習申込・変更・受講料の受け取りなどについては、まだまだ、多くの改善の余地があります。ただ、改善には制約も多 く今後の課題となっています。 6 今後 電気通信主任技術者には、日々発展し続ける技術や拡大する新たな利用者ニーズに対応して、ますます高度な知識と対応 が求められており、経営者への助言など、現場における設備管理の監督責任者として、電気通信事業者の設備管理体制の中 核を担う極めて重要な役割となり、その活躍が期待されています。 受講者の方々に満足して頂き、電気通信事業がより安全・安心なものとして発展するよう、この講習をより良いものにし ていきたいと思います。 ●お問い合わせ 協会:電気通信主任技術者講習担当 Tel.03-5907-7575(平日 10 時〜 16 時) HP:http://www.dekyo.or.jp/jinzai/ 日本データ通信 No.208 23 info 2 challenge 国家試験「工事担任者試験」に向けての取組 「基礎力」 「実践力」 「人間力」を鍛え、 産業界に貢献できる工業人の輩出を目指す 長野県長野工業高等学校 校長 森本 克則 学校紹介 本校は、今年で創立 97 年目を迎えた歴史と伝統を誇る 工業系の専門高校です。校訓として 『至誠努力』 を掲げ、知・ 徳・体の調和を目指して文武両道の教育を実践し、創立以 来 29,000 名を超える卒業生を輩出しております。 全日制に 7 学科、定時制に 2 学科があり、生徒総数 883 名(平成 27 年 5 月 1 日現在)が学んでいます。工業の『もの づくり』をもって、自ら学び考え行動できる人材の育成を 実践しています。進路先は就職約 6 割、進学約 4 割となっ ており、進学の実績も高く、毎年、国公立大学に合格者を 輩出しています。そのため就職にも進学にも対応できる教 校舎正面 育課程を組んでいます。 ばす」という考え方のもと選択科目を導入し、弾力的な教 育課程を組み、更に上級学校を目指す生徒には進学への道 「資格取得」への取り組み も開いています。また、資格取得を奨励し、 (公益社団法人) 全国工業高等学校長協会のジュニアマイスター表彰にも毎 本校では、工業としての基礎基本を定着させ、時代の進 年多くの受賞者を輩出しております。 展にあわせた柔軟な考えを持った教育を行う必要があり、 企業連携・大学連携を実践し、教育力を高めています。就 生徒指導的な考え方では、 「3 つの力」の養成を徹底して 職者の多くは地元の長野市を中心とした北信地区の企業に います。第1に「基礎力」の定着です。それは学力の基礎と 就職して、地元の産業界を支えています。「伸びる力を伸 ともに社会で通用する人としての基礎を高めることです。 挨拶をする。期限を守る。整理、整頓、清掃、清潔、躾の いわゆる産業界の 5S をしっかり身につけられるように指 導しています。 第 2 は「実践力」を高めることです。基礎力とともに、応 用することを身につけ、 「実際のものづくり」を学びます。 これを養うために、先に述べました企業や大学との連携お よびインターンシップを積極的に行います。そして、こ れまで学習したしたことがどのように応用されるのかを知 り、基礎力があらゆる分野へと活用されていくことを学び ます。 校舎全景 日本データ通信 No.208 24 challenge 第3は 「人間力」 です。企業連携や大学連携、クラブ活動、 電気科は、2008 年度から資格取得の指導を本格的に始 生徒会活動、日々の高校生活のなかで自分の考えを述べた め、早朝と放課後に補習を行って、第 2 種電気工事士では り、他人の考えを聞いて自分なりに考えたり、グループで 1 年生の 6 月からの受験体制を取るなどの取り組みを実践 考え方をまとめたりと、言語活動の充実を意識的に実践し、 し、第 1 種電気工事士、第 3 種電気主任技術者、工事担任者 コミュニケーション能力を鍛え、柔軟な対応力、論理的な (DD 第 3 種、AI 第 3 種)乙種危険物取扱者、第2級陸上特 思考力、粘り強い行動力等の伸長を目指し、総合的な人間 殊無線技士など毎年多くの合格者を出し実績を残していま 力を高めます。 す。そして地元の産業界からも高い評価をいただいており 本校では、分掌上に「資格検定委員会」を古くから設置し、 ます。 各学科の資格取得を連携・推進しています。 電気科 3 年 久保 耕平 電気科 3 年 綿貫 朔也 電気科 3 年 古田 舜弥 私 が 取 得 し た 資 格 は DD 第 3 種 で 私は今回、DD 第 3 種を取得しまし 私 が DD 第 3 種 を 取 得 し た 理 由 は す。この資格を取得した理由の一つは た。私は普段の生活でよくインター 「工業高校を卒業するのであれば、現 ジュニアマイスター顕彰のためという ネットを利用しており、DD 第 3 種は 代で生活にとても身近でなくてはなら のもありました。しかし、一番の理由 そのインターネットについての知識を ないものの一つのインターネットの通 は、現代社会に欠かせないデジタル通 深める、いい機会だと思いました。 信技術を少しでも理解することができ 信の技術に僅かでも触れたい、という 取得に向けて行った勉強の中で、イ たら。」と考えたからです。試験の内容 ものでした。この資格を取得するにあ ンターネット回線の工事に必要な知識 の勉強が終わるにつれ、「私たちが気 たって、電気科の授業ではあまり触れ の多さとその知識を使えるようにする 軽に使っているインターネットはいろ ない分野ということもあり、学習に苦 難しさがとてもよく分かりました。し いろな決まり事があって、すべてが 労しました。 かし、同時にインターネットが私達の それに沿って動作し、これらがないと その苦労のおかげか自分に合った勉 生活においてどれだけ必要なものかを もっと複雑になってしまうのか。」と思 強方法を見つけることができたので、 学ぶこともできました。これから、よ いました。それと同時に「インターネッ それを活かし、情報通信に限らず様々 り情報通信の分野は発展していくもの トは技術の結晶だ。」 と思いました。 な資格取得に挑戦していきたいと思っ と思います。 ています。 今後は、さらに知識を高めるために 私は、地元の通信工事会社に内定を いただくことができました。これから DD 第 1 種や AI 第 1 種を取得し、社会 に貢献できるように頑張りたいです。 日本データ通信 No.208 25 challenge DD 第 1 種や AI 第 1 種にも挑戦してい きです。 trend 欧州モバイル市場で進展する M&A 一般財団法人マルチメディア振興センター 電波利用調査部 研究主幹 飯塚 留美 事業者としての 3UK を排除しかねない可能性が指摘され、 ─ はじめに ─ グローバルモバイルサプライヤーズ協会(Global mobile また、英国モバイル市場のプレーヤーが 5 社から 4 社とな Suppliers Association:GSA)が 2015 年 10 月に発表した ることによって、3 強(EE、O2 UK、Vodafone)1 弱(3 報告書によると、2015 年第 2 四半期現在、世界の LTE 加 UK) の体制が強まりかねないとの懸念が示されました。 入者数は 7 億 5,500 万となっています。そのうち欧州地域 また、審査において、Orange UK と T-Mobile UK の合 の LTE 加入者シェアは 15.9%と、北米地域の 26.2%に対 併によって両者が保有する 1800MHz 帯の連続する周波数 して約 10 ポイントも差が開いています。LTE で米国に遅 の合計が 60MHz 幅となり、他の競争事業者に比べて著し れをとっている欧州としては、いかに投資コストを抑えな く周波数が集中する点が指摘されました。中長期的に見れ がら効率的かつ迅速にインフラ整備(ルーラル地域のカバ ば、1800MHz 帯は LTE 技術による次世代モバイルデータ レッジ拡大や容量の拡充)を行っていくかが課題となって サービスの提供に適しているため、新規参入事業者に対し います。その手段の一つが企業結合(M&A)となっており、 て 60MHz 幅の一部を割り当てることが適当であるとの見 欧州モバイル市場は、いわゆる水平統合と称される M&A 解が示されました。 が増え、4 社体制から 3 社体制への移行が進みつつありま 欧州委員会が示したこれらの競争上の懸念に対処す す。加えて、垂直統合と称される、モバイルとケーブルテ る た め、Orange UK と T-Mobile UK は、 公 正 競 争 の 維 レビや、モバイルと固定ブロードバンドの M&A も進展し 持 を 保 証 す る た め、3 UK と の RAN 共 用 合 意 を 修 正 し、 ています。本稿では、欧州で繰り広げられている M&A の 1800MHz 帯の 30MHz 幅の返上を申し出ました。欧州委 最新動向について紹介します。 員会は、両者が申し出たこれらの問題解消措置が、競争上 の懸念を払拭するものとして結論付け、2010 年 3 月 1 日、 3 UK との RAN 共用合意の修正と、1800MHz 帯の 25%(2 1 水平統合の先駆け 15MHz) を放棄することを条件に、合併を承認しました 3。 欧州において水平統合の先駆けとなったのが、英国での 本 決 定 に は 英 公 正 取 引 庁(Office of Fair Trading: Orange UK と T-Mobile UK の M&A(現在の EE)です。仏 OFT)と英通信庁(Office of Communications:Ofcom) Orange 傘下の Orange UK と独 Deutsche Telekom 傘下の が深く関与しており、欧州委員会が上記二つの条件を課 T-Mobile UK の合併に合意した両社は、 「EU 合併規則(EU したことによって、OFT は英競争委員会(Competition 1 Merger Regulation) 」 に従って、2010 年 1 月 11 日に欧州 4 Commission) への審査実施請求を取り下げました。なお、 委員会に合併申請を行いました。最終的に、欧州委員会は、 本合併によって放出された 1800MHz 帯の 30MHz 幅は、 エンドユーザ向けのモバイル電気通信サービス市場、公衆 2012 年 8 月に 3 UK へ無料で売却されました 5。 モバイル電話に係るアクセスおよび発呼の卸売市場、並び に国際ローミングの卸売市場および関連市場において、競 2 4社体制から3社体制への移行 争を疎外するような直接的な影響はないと判断しました。 しかし、欧州委員会による審査の過程において、当初申 欧州モバイル市場において、4 社体制から 3 社体制への 請された取引内容に盛り込まれていた、モバイルブロードバ 移行の契機となったのがオーストリアです。2012 年に、3 ンドネットワークリミテッド(Mobile Broadband Network Austria(加入者シェア第 4 位)による Orange Austria(同 2 Ltd: MBNL) における 3 UK との無線アクセスネットワー 第 3 位)の買収が、欧州委員会によって承認されました。3 ク(Radio Access Network:RAN)共用合意では、競争 Austria は、基地局の一部売却や MVNO への一定量のネッ 1 2 3 4 5 http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/ALL/?uri=CELEX:32004R0139 EE(先の T-Mobile UK) と 3 UK が、両社の 3G ネットワークインフラ共用を目的に、2007 年に設立したジョイントベンチャー。 http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=IP/10/208&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en OFT と競争委員会は 2014 年 4 月 1 日に統合され、新たに発足した執行機関である競争市場庁 (Competition and Markets Authority:CMA) に業務が移管された。 http://www.ispreview.co.uk/index.php/2012/08/three-uk-to-buy-4g-friendly-1800mhz-spectrum-from-everything-everywhere.html 日本データ通信 No.208 26 trend トワーク容量の提供など、競争を阻害しないことを担保 最大手の TeliaSonera に、Tele2 Norway(同第 3 位)を売 するための問題解消措置を提示し、承認を得ることに成 却することで 2014 年 7 月に合意しました。ノルウェーの 功しました。3 は、アイルランドでも、2013 年 6 月に O2 規制当局は、全国事業者が 3 社から 2 社へ減少することに Ireland(加入者シェア第 2 位)の買収で合意、2014 年 5 月 対して、競争圧力の低下による料金の高騰やサービス品質 に MVNO へのネットワーク開放等を条件に、欧州委員会 の低下を懸念ましたが、Tele2 のネットワーク設備や周波 の承認を得ました。 数資産、また顧客基盤を第 4 位の ICE(加入者シェア 3.5%) へ売却することなどを含む問題解消措置の実施を条件に、 4 社体制から 3 社体制への移行はドイツにも波及しま 2015 年 2 月に承認しました。 した。Telefonica Deutschland(加入者シェア第 4 位)は 2013 年 10 月に E-Plus(同第 3 位)の買収で合意し、MVNO デンマークでは 2014 年 12 月、Telenor(加入者シェア へのネットワーク開放や周波数・設備資産の売却等を条件 第 2 位)と TeliaSonera(同第 3 位)が合併し、新たな合弁 に、2014 年 7 月に欧州委員会の承認を獲得、同年 10 月に 会社を折半して設立することで合意しました。この合併 取引を完了しました。この M&A 案件に関連し、ドイツの が承認された場合、最大手の TDC を追い抜きデンマーク メルケル首相は 2014 年 5 月、欧州域内における電気通信 第 1 位の事業者になるはずでした。欧州委員会は 2015 年 事業者間の統合を支持する発言をしていました。 4 月に詳細な審査を開始しましたが、料金の高騰やイノ ベーションの低下を懸念し、同年 6 月に本合併案について ノルウェーでは、スウェーデンの通信グループ Tele2 が、 異議を唱えました。これを受けて両社は同年 8 月に、合併 NetCom(加入者シェア第 2 位)を傘下に持つスウェーデン 表1 欧州モバイル市場における水平統合型の主なM&A 国 英 国 関係事業者 T-Mobile と Orange の合併 (現 EE) 合併・買収合意 合併・買収承認 2010 年 1 月 2010 年 3 月 問題解消措置等 1800MHz 帯の 2 15MHz の返上 (2012 年 8 月に 3 へ無料で売却) 等 オーストリア 3 の Orange 買収 2012 年 2 月 2012 年 12 月 基地局の一部売却や、MVNO へのネットワーク開放等 アイルランド 3 の O2 買収 2013 年 6 月 2014 年 5 月 MVNO へのネットワーク開放等 ドイツ Telefonica の E-Plus 買収 2013 年 7 月 2014 年 7 月 ネットワーク設備資産の一部売却、MVNO へのネットワーク開 放等 ノルウェー TeliaSonera の Tele2 買収 2014 年 7 月 2015 年 2 月 Tele2 の周波数・ネットワーク設備資産の ICE への売却等 デンマーク Telenor と TeliaSonera の合併 2014 年 12 月 3 の O2 買収 2015 年 3 月 2016 年 3 月 に判断 3 と Wind の合併 2015 年 8 月 − 2015 年 9 月 英 国 イタリア 11 日 に 当 事 者 新規事業者への 2100MHz 帯の 2 ブロックの売却、全体のネッ が合併申請取り トワーク容量の 15%までの開放等 下げ 2015 年 9 月 11 日に合併申請提出 − 出所:各種資料に基づき作成 日本データ通信 No.208 27 trend 承認を得るために、周波数の売却や競争事業者へのネッ Vodafone は 2013 年 6 月、ドイツのケーブルテレビ最大 6 トワーク開放等を含む問題解消措置を提示した ほか、合 手 Kabel Deutschland を買収することを発表し、固定電話、 弁会社のインフラ事業会社の株式 40%を新規参入者に売 携帯電話、ケーブルテレビ、ブロードバンドのクワッドプ 却し、その新規参入者に Telenor のプリペイド事業部門 レイサービスを拡大する方針を示しました。これに対して (契約数は約 14 万から 15 万)を処分することを申し出まし 欧州委員会は 2013 年 9 月、両社の事業分野の重複が少な 7 た 。欧州委員会による最終的な判断は、2015 年 10 月 7 く、合併による競争上の懸念はないとして承認しました。 日までに発表される予定でしたが、承認を得るのは困難と また、Vodafone はスペインでも、2014 年 4 月にケーブル 判断し、Telenor と TeliaSonera は合併申請を 2015 年 9 月 テレビ大手 ONO を買収することで合意し、同年 7 月に欧 に取り下げました。 州委員会の承認を獲得しました。 フ ラ ン ス で は、 メ デ ィ ア コ ン グ ロ マ リ ッ ト で あ る 英国では、2015 年 3 月に、3 UK(加入者シェア第 4 位) の親会社である香港 Hutchison Whampoa が 92 億 5,000 Vivendi グループが業績不振の続く携帯子会社 SFR(加 万ポンドで O2 UK(同第 1 位)を買収することで合意しま 入者シェア第 2 位)の分離を 2013 年 11 月に正式に決定 した。欧州委員会は 2015 年 10 月、M&A の結果として、 したことを受けて、フランス唯一のケーブルテレビ大手 料金の値上げ、サービス選択肢の減少、イノベーションに Numericable や携帯第 3 位の Bouygues Telecom が、SFR 向けた投資の手控えが生じる恐れがないか等を見極めるた 買収に名乗りをあげていました。最終的に Vivendi グルー めに、詳細調査を開始しました。O2 UK を買収する前に プは、FTTx およびクワッドプレイサービスの展開が可能 ネットワーク容量の一部を売却すること等の厳しい条件を であること、モバイル市場における独占の懸念が少ないこ 課すことが検討されているようですが、最終的な判断は と等を理由に、Numericable の親会社 Altice へ売却するこ 2016 年 3 月 16 日までに下される予定です。 とで 2014 年 4 月に合意し、同年 11 月に取引が完了しまし イタリアでは、2015 年 8 月に、3 Italia(加入者シェア た。この M&A 案件では、経済・生産復興・デジタル化担 第 4 位)の親会社 Hutchison と Wind(同第 3 位)の親会社 当相が、モバイル市場における 4 社体制から 3 社体制への であるロシアの VimpelCom が、出資比率 50%ずつの合弁 移行を容認し、Bouygues による SFR 買収を支持していた 会社(218 億ユーロ規模)を設立し、両社の通信事業を統合 一方で、欧州委員会は携帯事業者間の M&A には反対する 8 姿勢を見せていました。 することを発表しました 。これに対してイタリア政府は スペインでは、Orange が固定事業の強化に動いてお 2015 年 9 月、両社の合併に対して拒否権を発動しないこ り、Telefonica と Vodafone とのバンドルサービス競争に と表明しています。 なお、フランスでは 2016 年 1 月、Orange(加入者シェ 向け、固定通信事業者の Jazztel を買収することで 2014 年 ア第 1 位)による Bouygues Telecom(同第 3 位)の買収交 9 月に合意しまし。欧州委員会は、本買収によって両社の 渉が再開され、承認を得るために競合事業者への資産売却 事業分野が重複している固定インターネットアクセスの 等をめぐる検討が進められていると報じられています。 小売市場において競争圧力が低下する等の懸念を表明し、 2014 年 12 月に買収計画について詳細調査を開始するこ とを発表しました。最終的に欧州委員会は、2015 年 6 月、 3 垂直統合の進展 FTTH 網の一部譲渡や、それを譲り受けた事業者への携帯 欧州では、モバイル市場における水平統合に加えて、垂 ネットワークのアクセス提供等を含む条件を課すことに よって、本買収案を承認しました。 直統合と称されるモバイルとケーブルテレビの M&A や、 モバイルと固定ブロードバンドの M&A も進みつつありま 英国では、固定通信最大手の BT グループが、法人向け す。その契機となっているのが、1,800 億米ドルに及ぶ 等のモバイルサービスを充実させるため、O2 UK(加入 Verizon Wireless 株の売却利益を元手に、欧州域内のケー 者シェア第 1 位)または EE(同第 2 位)を買収するとの見方 ブル会社の買収攻勢を強めている英 Vodafone グループ が強まっていましたが、BT グループは 2014 年 12 月、EE です。 の親会社である独 Deutsche Telekom と仏 Orange との間 6 7 8 http://www.reuters.com/article/2015/08/14/telenor-ma-teliasonera-eu-idUSL5N10P1WQ20150814 http://www.reuters.com/article/2015/09/07/teliasonera-ma-telenor-eu-idUSL5N11D3QJ20150907 http://www.vimpelcom.com/en/Media-center/Press-releases/2015/CK-Hutchison-and-VimpelCom-to-form-joint-venture-of-their-telecoms-businesses-in-Italy/ 日本データ通信 No.208 28 trend 表2 欧州モバイル市場をめぐる垂直統合型の主なM&A 国 買収企業 被買収企業 買収合意 承 認 ドイツ Vodafone Kabel Deutschland 2013 年 6 月 2013 年 9 月 スペイン Vodafone ONO 2014 年 3 月 2014 年 7 月 フランス Numericable SFR 2014 年 4 月 2014 年 11 月 スペイン Orange Jazztel 2014 年 9 月 2015 年 6 月 英 国 BT EE 2015 年 2 月 2016 年 1 月 出所:各種資料に基づき作成 で EE 買収に向けて独占交渉を開始し、2015 年 2 月に EE ンフラ会社として MBNL を設立し、Vodafone と O2 UK のモバイル事業を 125 億ポンドで買収することを正式に も 2012 年 発表しました。英競争市場庁(Competition and Markets Infrastructure Ltd)を設立しました。フランスでも SFR と Authority: CMA)は、BT グループによる本買収の申請を Bouygues Telecom が一部の地域で RAN 共用を行うため 受け、「2002 年企業法(Enterprise Act 2002) 」に基づく詳 に合弁会社を設立することで合意し、2014 年 9 月に仏規 細調査を 2015 年 5 月に開始しました。本案件における調 制当局の承認を得ました。上述したような水平統合型の 査のポイントは、MVNO に提供される卸売アクセスサー M&A は、こうしたインフラ共用の延長線上で展開されて ビスおよび通話発信サービス(Call Origination Service) 、 きたと位置付けることができます。また、垂直統合型の 並びに MNO に提供される光ファイバのバックホールサー M&A の進展は、欧州市場がバンドルサービスを中心とし ビスの各市場における競争圧力の低下について検証するこ た競争環境へと移行していることを示しており、モバイル とでした。CMA は、詳細調査の結果、① BT が事業展開 をサービスの基軸とした固定ブロードバンドや有料テレビ している市場は固定サービス市場(通話、ブロードバンド、 とのバンドルサービスの提供が MNO にとって必須になっ 有料テレビ)である一方、EE は携帯サービス市場であるこ ていることがわかります。 に CTIL(Cornerstone Telecommunications 移動通信事業者の業界団体 GSMA(GSM Association) とから、両社のサービスが同一市場で重複することは限定 的であると考えられること、② BT が EE をはじめ O2 UK、 は、欧州モバイル市場における携帯事業者間の M&A につ 3 UK、Vodafone UK に対してバックホールサービスを提 いて、次世代通信網への設備投資インセンティブをもたら 供する一方、EE は Virgin Media をはじめ他事業者に卸売 し、サービス品質の向上を促すとして容認する姿勢を示し 携帯サービスを提供していることから、両社の合併が競 ています。しかし、消費者保護の観点から、市場が寡占化 争事業者に不利益を生じさせる可能性は低いと結論付け、 する恐れがある場合には、一定の歯止めをかけるための規 2016 年 1 月に本合併案を承認しました。 制措置、いわゆる問題解消措置を講じることで、市場の競 争促進や事業者間の公正競争を担保することが不可欠であ ると強調しています。 ─ おわりに ─ 欧州では、リーマンショック以降の景気低迷等でインフ 2014 年 11 月に欧州委員会の競争当局の委員長に就任し ラ設備投資が手控えられ、通信サービス市場は停滞傾向に た Margrethe Vestager 氏は、前任者の Joaquín Almunia ありました。そこで、インフラの重複投資を避け、効率的 氏に比べると、企業の M&A に対して厳しい姿勢で臨むと かつ迅速に 3G や LTE を全国展開するために、基地局サイ されており、英国における 3 UK の O2 UK 買収が承認され トや RAN 等のインフラ設備を複数の事業者で使用するイ るかどうかが、今後の欧州モバイル市場をめぐる業界再編 ンフラ共用が認められてきた経緯があります。例えば英 の行方を左右すると見られています。 国では、T-Mobile UK(現在の EE)と 3 UK が 2007 年にイ 日本データ通信 No.208 29 trend report Report 1 総務部 ●「総務省における情報通信政策の最新動向」 をテーマとして 日本データ通信協会 第 39 回 ICT セミナーを開催 日 時:平成 28 年 3 月 11 日(金) 午後 1 時 15 分〜午後 4 時 35 分 会 場:ベルサール神保町 講演テーマと講師 1. 「情報通信ネットワークをめぐる最近の政策動向」 総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部 電気通信技術システム課長 塩崎 充博 氏 2. (仮) 「電気通信サービスに関する消費者行政の最近の動向」 総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部 消費者行政課長 湯本 博信 氏 3. (仮) 「総務省における情報セキュリティ政策の最新動向」 総務省 Report 2 情報流通行政局 情報流通振興課 情報セキュリティ対策室長 大森 一顕 氏 迷惑メール相談センター ● 2016 年版「撃退!迷惑メール」 「撃退!チェーンメール」を配布します 迷惑メール相談センターでは、ホームページで迷惑メール・チェーンメール対策資料として「撃退!迷惑メール(迷惑メー ル対策 BOOK) 」 、 「撃退!チェーンメール (チェーンメール対策 BOOK)」の無償配布を受付けています。 「撃退!迷惑メール」は、迷惑メールを受け取らないための工夫や受け取ってしまった場合の適切な対処法などをわかりや すく説明するとともに、急速に普及しているスマートフォンのセキュリティやインターネットを利用する際の注意点なども 紹介しています。 「撃退!チェーンメール」は、チェーンメールの実態などを詳細に説明するとともに転送してはいけない理由をわかりやす く解説しています。 どちらも配布は無償です。お申し込みは、次の迷惑メール相談センターホームページでお願いいたします。 http://www.dekyo.or.jp/soudan/ Report 3 Pマーク審査部 ●プライバシー(P) マーク認定事業者が 1,193 社になりました(平成 28 年 2 月 5 日現在) 認定事業者一覧は、P マーク審査部のホームページよりご覧ください。 http://www.dekyo.or.jp/pmark/ninteijigyousha/a.html Report 4 タイムビジネス部 ● 寺田倉庫株式会社の時刻認証業務を新規認定 寺田倉庫株式会社の時刻認証業務(テラダタイムスタンプサービス)を平成 27 年 12 月 22 日付けで新規認定しました。 認定番号は SD0007(1)、認定期間は平成 27 年 12 月 22 日から平成 29 年 12 月 21 日までです。 日本データ通信 No.208 30 report Report 電気通信国家試験センター 5 ● 電気通信主任技術者試験(27 年度第 2 回) の実施結果 平成 27 年度第 2 回電気通信主任技術者試験 (1 月 24 日実施) の結果が 2 月 15 日に発表されました。今回試験の受験者数は、 4,164 名で、そのうち 827 名が合格(合格率 19.9%)しました。合格率については、前回試験(平成 27 年度第 1 回)に対し、 同率となっています。 なお、次回試験(平成 28 年度第 1 回・7 月実施予定)の申請受付は、4 月 1 日からですが、受験申請書用紙類は 3 月から頒 布します。 Report 6 人材研修部 ●工事担任者養成課程 eLPIT(エルピット) 総受講者数は、11,614 名になりました。(平成 28 年 1 月 21 日現在) 今後の開講予定 平成 28 年 4 月 1 日、11 日、21 日 平成 28 年 5 月 2 日、11 日、23 日 e LPIT 受講申込みは、e LPIT ホームページをご覧ください。 http://www.elpit.dekyo.or.jp/elpit/ Report 7 テレコム・アイザック部 ● 平成 27 年度サイバー攻撃対応演習開催 今年度のサイバー攻撃対応演習を 1 月 19 日に東京で開催いたしました。 テレコム・アイザック推進会議の会員企業および重要インフラ企業 19 組織 222 名(昨年度 15 組織 174 名)が参加し、サイ バー攻撃発生時の事業者間の連携、対応の課題を確認しました。 日本データ通信 No.208 31 report 編集後記 今年は庚申の年にありがちな、世の中が騒がしいことでいっぱいです。株価は大幅な上げ 下げを繰り返し、なかなか安定しないようです。しかしながら、相変わらず元気なのは、仕 事などの一線を退かれたシニア層の方々ではないでしょうか? 時間や場所などに縛られず、 勝手気ままな旅をキャンピングカーで楽しまれるシニア層キャンパーが益々増えているよう です。国内でのキャンピングカー保有台数は 2005 年の約 5 万台から 2014 年には約 9 万台へ と増加し、売上額も 2014 年に約 322 億円を記録したそうです。お隣の国でもアウトドアブー ムでキャンプレジャーが流行していると聞きますが、昨今、高齢運転者の自動車事故も増え 続けていることから、シニアキャンパーの皆様方も焦らずのんびりとした安全・快適な車旅 を心がけて頂きたいものです。 安全・快適と言えば、私たちのネットワーク社会でも安心で快適な環境を守るため、個人 情報保護の新たな推進体制やサイバーセキュリティ対策などに関心が高まっています。3 月 号機関誌では、これらの話題を中心に電気通信主任技術者など情報通信の資格取得を目指し て頑張っている高校生達の取り組みを紹介し、また、欧州における ICT 産業の動向に関する 話題を掲載しています。 5 月号(No.209)では、一般社団法人 情報通信設備協会の大木会長に当協会の井手専務理 事がインタビューさせて頂きます。また、3 月の ICT セミナーから総務省の ICT 政策に関す る講演概要、欧州又は ASEAN の ICT 産業の最新動向を取り上げる予定です。 (吉) 日本データ通信【通巻 208 号】 [禁無断転載] 発行所:一般財団法人日本データ通信協会 発行人:井手 康彦 平成 28 年 3 月発行 〒 170-8585 東京都豊島区巣鴨 2-11-1 巣鴨室町ビル 6F・7F ☎ 03-5907-5139 © 2016 Japan Data Communications Association 制作協力:株式会社スペック/EDIX/QUARTER 印刷製本:三美印刷株式会社 一般財団法人日本 データ通 信 協 会 http://www.dekyo.or.jp/
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