韓国の「産業技術の流出防止及び 保護に関する法律」の紹介

韓国の「産業技術の流出防止及び
保護に関する法律」の紹介
張 睿暎*
設立したことは, M&A を通じた技術流出が
Ⅰ.はじめに
問題になった代表的な事例である。ビオイグ
ループは韓国に投資する代わりにハイディス
経済のグローバル化が進むなかで,知的財
技術を活用し 2005 年中国に5世代 LCD パネ
産権はすなわち国家の競争力であり,各国は
ル工場を建てた。そのため,ビオイグループ
自国の先端産業技術の保護を強化する傾向に
がハイディスを買い取った目的は最初から事
ある。しかし,製品・データ・人を介して技
業育成よりは技術と人材の引抜きにあったと
術が流出する契機は次第に増大していて,そ
いう非難があった 2。
1
の重要性に比例して営業秘密 や技術の流出
の問題も深刻になっている。
また,2005 年の中国上海自動車による韓
国雙龍自動車の合併も技術流出が問題になっ
各国は不正競争防止関連法制を通じて営業
た事例である。上海自動車は雙龍自動車を引
秘密を保護している。韓国では 1991年 12月
き取りながら,「全職員の雇用承継・国内生
に不正競争防止法に営業秘密保護条項が挿入
産設備・販売・ AS 網の維持および拡張・経
された。1998年 12月には,「不正競争防止お
営の自律保障および雙龍自動車ブランドの維
よび営業秘密保護に関する法律(以下不競
持」を約束した。しかし同年,上海自動車が
法)」に法律の名称を変え,民事救済および
エンジン制作技術の移転要求を雙龍自動車が
刑事処罰を強化した。2004 年1月の改正で
断ると,上海自動車は雙龍自動車の経営陣を
は保護範囲および侵害主体を拡大し,未遂・
順次解任するなど摩擦を起こした。2006年
予備・陰謀を処罰,非親告罪への転換など,
8月に雙龍自動車労働組合は会社の構造調整
営業秘密保護を大幅に強化した。しかし,こ
計画と上海自動車との技術協力計画(L プロ
のような営業秘密保護の強化にも関わらず,
ジェクト)に反発してストライキを敢行した。
M&A など企業同士の合意の上での先端技術
の国外流出など,既存の不競法では取り締ま
れない技術流出が増えるようになり,営業秘
密保護法とは別個の対策が必要であるという
声が高まった。
例えば,2003 年に中国ビオイグループが
韓国現代電子(現ハイニックス半導体)の
LCD 部門を引取ってビオイ・ハイディスを
その過程で組合は,雙龍自動車の核心技術が
* 早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程,
早稲田大学 21世紀 COE《企業と法創造》研
究所・研究助手
上海自動車を通じて中国に流出されたと暴露
した。現在韓国国家情報院 3 により技術流出
があったかが捜査されている 4。
国家情報院付属の産業機密保護センター 5
によると,国家情報院は 2003年から 2006年
の間,総計 92件の産業技術の海外流出を摘
発したという。国内産業技術の海外流出は,
2003 年には6件に過ぎなかったが,2004年
には 26件,2005年には 29件,2006年には 31
件と,毎年増加しているという。技術流出に
285 ―
― よる損害を金額に換算すると 2003年には 13
立・施行することを規定している(第5条)10。
兆ウォン,2004年には 32 兆ウォン,2005年
基本計画は産業資源部長官が実施の主体に
には 35 兆ウォン,2006年には 16 兆ウォンと,
なって,産業技術の流出防止及び保護に関す
総計 96 兆ウォンにも及ぶと推定されている。
る基本目標と段階別目標,推進方向と具体的
このように産業流出の不法な流出は該当企
な推進方案,教育や国際協力に関する事項を
業の問題だけではなく,国内の産業,国家の
含む内容を決めなければならない(第5条第
安全とも関係する重要な事案であるという認
3項)。
識から,韓国では 2006 年,国家の産業技術
また,国家・企業・研究機関・大学など,
を保護するための「産業技術の流出防止及び
産業技術の研究開発関連機関は,研究開発者
保護に関する法律」(法律第 8062号,2006年
などの適切な処遇に心がけ,産業技術と知識
10月 27日公布,2007 年4月 28 日施行)が制
の拡散が制約されないように努力する義務が
定された。
あり(第3条第2項),国民も,産業技術の
流出防止に対する関心と認識,職業倫理意識
Ⅱ.韓国の「産業技術の流出防止及び保
護に関する法律」
を培養する義務がある(第3条第3項)とし
ている。産業技術の流出防止と保護を国家と
国民の責務として規定しながら,国内産業技
1.法律の内容
6
術の保護と育成が,外国との競争における重
¸ 法の目的と他法との関係
要な要素であるという認識を示している。
その成立過程での議論でも明らかであるよ
うに,本法はその目的を,「産業技術の不正
º 産業技術と国家核心技術
な流出を防止し,産業技術を保護することに
本法は,産業技術と国家核心技術,また国
よって国内産業の競争力を強化し,国家の安
家が関与している国家研究開発事業を区別 11
全保障と国民経済の発展を図ること」である
している。
7
「産業技術」とは,「製品または役務の開
としている(第1条 )。
この法律は,不正競争防止法で取り締まれ
発・生産・普及および使用に必要な諸般方法
ない技術流出行為を防止するために成立した
ないし技術法上の情報の中で,関係中央行政
ものであるが,第4条 8 で,「他の法律に特別
機関の長が所管分野の産業競争力を高めるた
な規定がある場合を除いては,この法に従う」
めに,法令の規定により指定・告知・公告す
としているので,不競法との関係においては,
る技術」としながら,その具体例として,①
一般の営業秘密は不競法により保護し,本法
国内開発の独創的な技術で,先進国と競争で
により特別に指定された国家核心技術や産業
きる技術,②既存製品の原価節減や性能また
技術は本法により保護すると解釈される。
は品質を顕著に改善できる技術,③技術的・
経済的波及効果は大きく,国家技術力向上と
¹ 国家および国民の責務
対外競争力強化に役立つ技術を挙げている
法律は産業技術の流出防止と保護のための
(第2条1項)。
国家,関連機関,国民の責務を規定してい
また,「国家核心技術」とは「国内外市場
9
で占める技術的・経済的価値は高く,または
まず,国家は産業技術の流出防止と保護に
関連産業の成長潜在力が高く,海外へ流出さ
必要な総合的な施策を樹立・推進する義務が
れる場合に国家の安全保障および国民経済の
あるとし(第3条第1項),具体的には産業技
発展に重大な悪影響をきたすおそれのある産
術の流出防止及び保護に関する基本計画を樹
業技術」と定義し(第2条2項),第9条で
る 。
286 ―
― は,国家核心技術の指定・変更および解除等
12
に関する内容を規定している 。
れら機関を対象に説明会などを開催するとい
う。
国家核心技術を定める際には,「当該技術
また,国家核心技術の輸出等にも制約があ
が国家安保および国民経済に及ぼす波及効果,
り(第 11条 14),国家核心技術を保有した対
関連製品の国内市場占有率,該当分野の研究
象機関が,該当国家核心技術を外国企業など
動向及び技術拡散との調和などを総合的に考
に売却・移転の方法で輸出する場合には,事
慮」しなければならないとし,再度この法律
前に産業資源部長官の承認を得なければなら
が国家経済発展を重要な目的としていること
ない(第 11条第1項)。承認を得ず,または
を示している。ただし,あまりにも広い範囲
不正な方法で承認を得て国家核心技術を輸出
の技術を国家核心技術として指定すると,企
した場合には,情報捜査機関の調査や委員会
業活動を過度に制限することになり,自由な
の審議を経て,該当国家核心技術の輸出中
市場経済を害する恐れもあるという意見を考
止・輸出禁止・現状復帰等が命じられる(第
慮して,「必要最小限の範囲で選定しなけれ
11条第7項)。
また,技術流出事実が発見された場合,も
ばならない」と再確認している(第9条第3
しくは流出の危険がある場合には直ちに侵害
項)。
2007年8月,国務総理主宰の第 1 回産業技
の申告をする義務を規定 15 し,実質的に非親
術保護委員会が開催され,7つの分野の 40
告罪にしている。ここで言う情報機関とは大
の技術を国家核心技術として指定・保護する
統領直属機関である「国家情報院」のことで,
「国家核心技術指定案」が審議・確定され,
国家情報院では産業スパイの取り締まりなど
産業資源部長官の名義で告示された。情報通
産業保安活動に力を入れている。2003年 10
信分野は情報通信部,宇宙・原子力分野は科
月には産業機密保護センターを設立し,産業
学技術部,自動車・造船・鉄鋼・電気電子分
スパイの捜索と事前予防活動を積極的に行っ
野は産業資源部,鉄道分野は建設交通部が主
ている。センターでは企業と研究所の要請が
軸になり,関連業界と研究機関が参加する専
ある場合,産業保安教育やコンサルティング
門委員会の協議過程を経て,個別の指定対象
を通じて保安管理の定着を支援し,海外進出
技術を選定した。関係部処から指定対象技術
企業を対象に現地の保安管理情報を提供する
の通報を受けた産業資源部は,実務委員会を
産業保安セミナを出張支援する。また産業ス
通じて,関係部処との協議および調停作業を
パイ申告電話(111 番)とインターネット
終え,国務総理が委員長である産業技術保護
ホームページ(http://www.nisc.go.kr /)を
委員会で審議し,承認を受けた。
通じて産業機密保護関連の相談および各種情
報資料を作成・支援している 16。
» 国家核心技術の保護措置
¼ 産業技術保護委員会
このようにして確定した国家核心技術を保
有・管理している企業や研究機関等の対象機
第7条 17 では,産業技術の流出防止及び保
関には,保護区域の設定・出入り許可または
護に関する基本計画や施行計画の樹立・施行,
出入りの際の携帯品検査など国家核心技術の
第8条の保護指針の制定・修正,第9条の国
流出を防止するための基盤構築に必要な措置
家核心技術の指定・変更および解除,第 11
をする義務が生じる(第 10条 13)。産業資源
条の国家核心技術の輸出等に関する事項を審
部産業技術政策チームによると,第 10条に
議するために,国務総理の所属下に,産業技
よる保護措置を取る義務の生じる企業または
術保護委員会を設けることを規定している。
研究所は 60 にも及ぶと把握されていて,こ
287 ―
― ½ 侵害行為の禁止と罰則
という意見もある。しかし,不正な目的を証
第 14 条では,窃取・詐欺・脅迫その他の
明できない時や特許などを取得する前の段階
不正な方法で対象機関の産業技術を取得・使
の営業秘密や産業技術の場合,既存の法律で
用・公開する行為,または重大な過失で前記
は対応できなかったという問題がある。
行為が介入されたことを知らずに,その産業
また,海外研究所および多国籍企業の研究
技術を取得・使用および公開する行為,事前
センター誘致に障害になるという懸念もある。
承認を得ず,または不正な方法で承認を得て
国内企業から経歴社員をスカウトすると人材
国家核心技術の輸出を推進する行為など,産
引抜きによる技術流出で被訴される危険があ
業技術の流出および侵害行為を禁止してい
るうえ,研究成果を本国で共有することがで
る 18。
きなくなるので,海外企業は韓国国内に研究
本条を違反した場合には,5年以下の懲役,
または5億ウォン以下の罰金に処され,それ
センターなどを設立することを忌避すること
になるということである。
が外国での使用目的だった場合は7年以下の
研究開発者の頭の中の知識の移動までも統
懲役,または7億ウォン以下の罰金と加重処
制することで,大学・政府関連研究所・大企
罰される。ただし,第 14条第4号のように
業研究所出身の開発人力の技術ベンチャー起
「重大な過失」で知らなかった場合には,3
業が制限され,研究開発人力の保護装置がな
年以下の懲役,または3億ウォン以下の罰金
く,優秀な人材が海外に流出してしまうとい
と軽減される。また,未遂犯の処罰,財産の
う懸念もある。それは中長期的には技術拡散
没収,懲役と罰金の併科も規定している 19。
の低下で中小企業のイノベーション力量が弱
20
その他,予備または陰謀の処罰(第 37 条 ),
化され,結果的に国家全体のイノベーション
法人の両罰規定(第 38 条 21),過料(第 38 条 22)
を阻害するおそれがあるということである。
も規定されている。
これは一理のある指摘で,本法律の適用の際
には,過度な制限を止揚し,国家全体のイノ
2.本法への批判
ベーションの奨励を考慮しなければならない
本法の成立前から,施行1年を迎える現在
と思われる。
に至るまで,本法の問題点を指摘する様々な
意見がある。
このような問題提起に対しては肯定意見も
あるが,逆に法律をもっと強化すべきである
代表的なのが,既存法律の部分的な改正で
という意見もある。現在の規定では,国家核
も十分保護が可能であるという意見である。
心技術の輸出のための承認・事前申告対象の
今まで摘発された技術流出は「不正競争防止
範囲は狭く,一部の技術しか保護されないと
および営業秘密保護に関する法律」
,「情報通
いうのと,技術流出犯に対する処罰が,既存
信網利用促進および情報保護に関する法律」,
の不競法とほとんど同じであり,技術流出に
そして「刑法」で処罰が可能であったのに,
よる被害規模に比べて低いというのである。
新しい法律を作るのは,科学技術部・産業資
過激な意見では,技術流出犯罪に限っては監
源部・情報通信部に散在している関連法を集
聴までを合法化すべきというのもある。現在,
めて,産業資源部に統括させるための部処利
韓国国会には国家核心技術流出のおそれのあ
己主義であるという非難もあった。また,技
る国内企業の M&A や合作を政府が源泉禁止
術に関する保護は基本的には知的財産権によ
できることや,処罰を強化する内容の改正案
る保護で十分であり,技術が流出されて特許
が発議されている状況である。
が侵害された場合,特許紛争と損害賠償請求
を通じて企業の間で解決するのが原則である
288 ―
― 示の回避の可能性)と,憲法 37条(刑事被
Ⅲ.日本法への示唆点
告人は刑事事件においては公開裁判を受ける
権利を有する)との関係,④営業秘密侵害罪
韓国の技術流出防止法は,既存の不競法で
は取り締まれなかった技術流出を取り締まる
が親告罪となっている点,⑤不正競争目的の
立証が困難な点などが挙げられている。
目的で成立したわけだが,その究極的な目的
「経済のグローバル化が進展する中で,我
は「産業技術を保護することによって国内産
が国の製造業が競争力を維持・強化していく
業の競争力を強化し,国家の安全保障と国民
ためには。絶え間ない技術革新を図るととも
経済の発展を図ること」である。ただし,反
に,意図せざる技術の流出を防止することが
対意見でも指摘されているように,過度な規
重要 26」という指摘や,「知的財産の重要性
制により,国家全体のイノベーションを阻害
が特許や商標だけではなく,企業のノウハウ
する結果になってはならないだろう。
や営業秘密のような部分に移ってきている。
経済のグローバル化が進むなかで,技術管
労働者の技能等をどう守るかが今後の国家戦
理の重要性はいうまでもない。増加する
略である 27」という政府の立場からも分かる
M&A を通じて,企業における技術・ノウハ
ウが移転する可能性にも十分留意する必要が
ある。
日本は 2002年の「知的財産戦略大綱」を
はじめに,知的財産を戦略的に創造・保護・
活用して付加価値の高い経済・社会システム
を構築することの力を入れている。不正競争
防止法では営業秘密の侵害を不正競争行為と
し,数次の改正により営業秘密・秘密保持命
令違反罪に係わる刑罰を強化している 23。
しかし,2007年の(株)デンソーの中国
人技術者による製品設計データ持ち出し事
件 24 などをきっかけに,「情報」の持ち出し
に対する何らかの規制が必要ではないかとい
う声があがった。現行の不競法では不正競争
目的の立証が困難という評価もある。
政府の産業構造審議会・知的財産政策部
会・技術情報の保護等の在り方に関する小委
員会(平成 19 年6月から)では,技術情報
の流出により国家の安全が驚かされる場合も
あれば,企業が財産的損害を被る場合もある
としながら,デンソー事件は氷山の一角とみ
て技術流出に対する危機感を表明している 25。
不競法に関する論点としては,①指針に基
づく社内管理の再徹底の必要性,②不正開示
行為のない不正な技術情報の取得への対応,
③公開される刑事裁判について(技術情報開
ように,自国の先端技術の海外への流出防止
に関して今後日本でももっと議論が進むと思
われる。その際には,韓国の技術流出防止法
が大いに参考になると思われるので紹介する
次第である。
289 ―
― 注
1 「営業秘密」とは,「秘密として管理され
ている生産方法,販売方法その他の事業活動
に有用な技術上又は営業上の情報であって,
公然と知られていないもの」をいう。(日本
不正競争防止法第2条4項)。1)アクセス
制限をしている,または客観的に秘密である
と認識しているなどの秘密管理性,2)事業
活動に有用な情報であるとの有用性,3)保
有者の管理課以外では一般に入手不可能とい
う3つを要件としている。
2 Money Today 新聞2007年11月22日付
3 韓 国 国 家 情 報 院 ( National Intelligence
Service) http://www.nis.go.kr
4 Herald 経済 新聞2008年3月6日付
5 産業機密保護センター(National Industrial Security Center)http://www.nisc.go.kr
6 本法は,本文で紹介する条項以外に下記の
内容を含め,第6章第 39条と附則で構成さ
れている。第 12条(国家研究開発事業の保
護管理),第 13条(改善勧告),第 16条(産
業技術保護協会の設立等),第 17条(産業技
術保護のための実態調査),第 18条(国際協
力),第 19条(産業技術保護教育),第 20条
(産業保安技術の開発支援等),第 21条(産
業技術保護の褒賞及び保護等),第 22条(対
象機関等に対する支援),第 23条(産業技術
紛争調停委員会),第 24条(調停部),第 25
条(委員の除斥・忌避・回避),第 26条(紛
争の調停),第 27条(資料の要請等),第 28
条(調停の効力),第 29条(調停の拒否およ
び中止),第 30条(調停の手続き等),第 31
条(準用法律),第 32条(手数料),第 33条
(権限の委任・委託),第 34条(秘密維持義
務),第 35 条(罰則適用における公務員擬
制)
7 第1条(目的)この法は産業技術の不正な
流出を防止し,産業技術を保護することに
よって国内産業の競争力を強化し,国家の安
全保障と国民経済の発展を図ることを目的と
する。
8 第4条(他の法律との関係)産業技術の流
出防止および保護に関しては,他の法律に特
別な規定がある場合を除いては,この法に従
う。
9 第3条(国家等の責務)①国家は産業技術
の流出防止と保護に必要な総合的な施策を樹
立・推進しなければならない。
② 国家・企業・研究機関および大学など,
産業技術の開発・普及及び活用に関連する
すべての機関は,この法の適用において産
業技術の研究開発者など関連従事者たちが,
不当な処遇と善意の被害を受けないように
し,産業技術および知識の拡散と活用が制
約されないように努力しなければならない。
③ すべての国民は産業技術の流出防止に対
する関心と認識を高め,各自の職業倫理意
識を培養するために努力しなければならな
い。
10 第5条(基本計画及び施行)
① 産業資源部長官は産業技術の流出防止及
び保護に関する基本計画(以下「基本計画」
という)を樹立・施行しなければならない。
② 産業資源部長官は基本計画を樹立する際
に,予め関係中央行政機関の長と協議した
後,第7条の規定による産業技術保護委員
会の審議を経なければならない。
③ 基本計画には次の事項が含まれていなけ
ればならない。
1.産業技術の流出防止及び保護に関する基
本目標と推進方向
2.産業技術の流出防止及び保護に関する段
階別目標と推進方案
3.産業技術の流出防止及び保護に対する広
報と教育に関する事項
4.産業技術の流出防止及び保護の基盤構築
に関する事項
290 ―
― 5.産業技術の流出防止及び保護のための技
術の研究開発に関する事項
6.産業技術の流出防止及び保護に関する情
報の収集・分析・加工と普及に関する事項
7.産業技術の流出防止及び保護のための国
際協力に関する事項
8.その他産業技術の流出防止及び保護のた
めに必要な事項
④ 産業資源部長官は基本計画の樹立のため
に関係中央行政機関の長及び産業技術を保
有下企業・研究機関・専門機関・大学など
(以下「対象機関」という)の長に,必要
な資料の提出を要請できる。この場合,要
請を受けた機関の長は特別な事情がない限
りこれに協力しなければならない。
11 第2条(定義)この法で使用する用語の定
義は次のようである。
1.「産業技術」とは,製品または役務の開
発・生産・普及および使用に必要な諸般方
ないし技術法上の情報の中で,関係中央行
政機関の長が所管分野の産業競争力を高め
るために,法令の規定により指定・告知・
公告する技術で,次のいずれかに該当する
ものとする。
ア.国内で開発された独創的な技術で,先
進国と同等または優秀で産業化が可能な
技術
イ.既存製品の原価節減や性能または品質
の顕著に改善できる技術
ウ.技術的・経済的波及効果は大きく,国
家技術力向上と対外競争力強化に役立つ
技術
エ.上記の産業技術を応用または活用する
技術
2.「国家核心技術」とは国内外市場で占め
る技術的・経済的価値は高く,または関連
産業の成長潜在力が高く,海外へ流出され
る場合に国家の安全保障および国民経済の
発展に重大な悪影響をきたすおそれのある
産業技術で,第9条の規定により指定され
た産業技術をいう。
3.「国家研究開発事業」とは,「科学技術基
本法」第 11条の規定により,関係中央行
政機関の長が推進する研究開発事業をいう。
12 第9条(国家核心技術の指定・変更および
解除等)
① 産業資源部長官は関係中央行政機関の長
からその所管の国家核心技術として指定さ
れるべき対象技術(以下この条では「指定
対象技術」という)の通報を受け,産業技
術保護委員会の審議を経て国家核心技術と
して指定することができる。
② 関係中央行政機関の長は指定対象技術を
選定するにあたって当該技術が国家安保お
よび国民経済に及ぼす波及効果,関連製品
の国内市場声優率,街頭分野の研究動向及
び技術拡散との調和などを総合的に考慮し
て必要最小限の範囲で選定しなければなら
ない。
③ 産業資源部長官は関係中央行政機関の長
からその所管の国家核心技術の範囲または
内容の変更や指定解除の要請を受けた場合
は委員会の審議を経て変更または解除でき
る。
④ 産業資源部長官は第1項の規定により国
家核心技術を指定するか第3項の規定によ
り国家核心技術の範囲または内容を変更ま
たは指定解除する場合にはこれを告示しな
ければならない。
⑤ 委員会は第1項及び第3項の規定により
国家核心技術の指定・変更・解除の審議を
するにあたって,指定対象技術を保有・管
理する企業など利害関係人の要請がある場
合には,大統領令の定めに従って意見を陳
述する機会を与えなければならない。?
⑥ 第1項及び第3項の規定による国家核心
技術の指定・変更および解除の基準・手続
きその他必要な事項は大統領令で決める。
13 第 10条(国家核心技術の保護措置)①国
家核心技術を保有・管理している対象機関の
長は保護区域の設定・出入り許可または出入
りの際の携帯品検査など国家核心技術の流出
を防止するための基盤構築に必要な措置をし
なければならない。
② 第1項の規定による措置に関して必要な
事項は大統領令に定める。
14 第 11条(国家核心技術の輸出等 14)①国
家から研究開発費の支援を受けて開発した国
家核心技術を保有した対象機関が,該当国家
核心技術を外国企業などに売却または移転の
方法で輸出(以下「国家核心技術の輸出」と
いう)しようとする場合には,産業資源部長
官の承認を得なければならない。
⑦ 産業資源部長官は国家核心技術を保有し
た対象期間が第1項の規定による承認を得
ず,または不正な方法で承認を得て国家核
心技術を輸出した場合,または第4項の規
定二よる申告対象の国家核心技術を申告せ
ずまたは虚位に申告して輸出した場合には,
情報捜査機関の長に沿うサを依頼し,調査
結果を委員気に報告したあと,委員会の審
議を経て,該当国家核心技術の輸出中止・
291 ―
― 輸出禁止・現状復帰等の措置を命ずること
ができる。
15 第 15条(産業技術の侵害申告等)①国家
核心技術及び国家研究開発事業で開発した産
業技術を保有した対象機関の長は第 14条各
号のいずれかに該当する行為が発生するおそ
れがあるか発生した時には,直ちにその事実
を産業資源部長官及び情報機関の長に申告し
なければならなく,必要な措置を要請できる。
② 産業資源部長官及び情報機関の長は第1
項の規定による要請を受けた場合にはその
必要な措置をしなければならない。
16 国家情報院はその他,民官の間の円滑な情
報交流と協力を通じた共同対応システムを構
築するために,企業・研究所・協会などを対
象に電子・情報通信・生命工学・化学・機械
の4分野の 85ヵ企業が参加する「産業保安
協議会」を運営している。特に企業の保安シ
ステム構築のためには最高経営者の産業法案
に対する関心が大事であると認識し,2006年
11月にはサムスン電子など国内 12社の主要
企業の経営者が参加する「産業保安 CEO 協
議会」を創立し,民官の共同体制による技術
保護を強化している。
17 第7条(産業技術保護委員会の設置など)
① 産業技術の流出防止及び保護に関する次
の各号の事項を審議するために,国務総理
の所属下に,産業技術保護委員会(以下
「委員会」という)を設ける。
1.基本計画の樹立・施行に関する事項
2.施行計画の樹立・施行に関する事項
3.第8条の規定による保護指針の制定・修
正および保安に関する事項
4.第9条の規定による国家核心技術の指
定・変更および解除に関する事項
5.第 11条の規定による国家核心技術の輸
出等に関する事項
6.対象期間が遂行する国家研究開発事業の
保護実態調査に関する事項
7.その他の産業技術の流出防止及び保護の
ために必要なもので大統領令で定める事項
② 委員会は委員長 1人を含む 25人以内の委
員で構成する。この場合,委員の中には第
3条第3号の規定に該当する者が5人以上
含まれなければならない。
③ 委員長は国務総理が,副委員長は学技術
部長官が務め,委員は次の各号のものにな
る。
1.関係中央行政機関の長で,大統領令で定
める者
2.産業技術の流出防止業務を遂行する情報
捜査機関の長
3.産業技術の流出防止及び保護に関する学
識と経験が豊富な者で委員長が委嘱する者
④ 委員会に幹事委員 1人を置き,産業資源
部長官を幹事委員とする。
⑤ 委員会が審議する案件をあらかじめ検討
し大統領令の定めにより委員会が委任した
事項を処理するために,委員会に実務委員
会または分野別専門委員会を置くことがで
きる。
⑥ その他の委員会・実務委員会および分野
別委員会の構成・運営などに関して必要な
事項は大統領令で定める。
18 第 14条(産業技術の流出および侵害行為
の禁止)何者も次に挙げる行為をしてはなら
ない。
① 窃取・欺き・脅迫その他の不正な方法で
対象機関の産業技術を取得する行為または
その取得した産業技術を使用または公開
(秘密を維持しながら特定人に知らせるこ
とを含む)する行為
② 第 34条の規定または対象機関との契約
により産業技術に対する秘密維持義務のあ
る者がその産業技術を窃取・欺き・脅迫そ
の他の不正な方法で流出する行為,または
その流出した産業技術を使用または公開し
たり,第三者に使用させる行為
③ 第1号または第2号の規定に該当する行
為が介入されたことを知りながらその産業
技術を取得・使用および公開するか,産業
技術を取得した後に,その産業技術に対し
て第1号または2号の規定に該当する行為
が介入された事実を知りながらその産業技
術を使用または公開する行為
④ 第1号または第2号の規定に該当する行
為が介入されたことを重大な過失で知らず
に,その産業技術を取得・使用および公開
するか,産業技術を取得した後に,その産
業技術に対して第1号または2号の規定に
該当する行為が介入された事実を重大な過
失で知らずにその産業技術を使用または公
開する行為
⑤ 第 11条第1項の規定による承認を得て
ないか,または不正な方法で承認を得て国
家核心技術の輸出を推進する行為
⑥ 第 11条第5項または第7項の規定によ
る産業資源部長官の命令を履行しない行為
19 第 36条(罰則)①産業技術を外国で使用
するか使用させる目的で第 14条各号(第4
号を除く)のいずれかの行為をした者は,7
年以下の懲役,または7億ウォン以下の罰金
292 ―
― に処する。
② 第 14条各号(第4号を除く)のいずれ
かの行為をした者は5年以下の懲役,また
は5億ウォン以下の罰金に処する。
③ 第 14条第4号に該当する行為をした者
は3年以下の懲役,または3億ウォン以下
の罰金に処する。
④ 第1項ないし3項の罪を犯した者が,そ
の犯罪行為により得た財産は没収する。た
だし,その全部または一部を没収できない
場合は,その価額を追徴する。
⑤ 第 34条の規定を違反しで秘密を漏えい
した者は5年以下の懲役,または 10年以
下の資格停止,または 5,000万ウォン以下
の罰金に処する。
⑥ 第1項及び2項の未遂犯は処罰する。
⑦ 第1項ないし3項の懲役と罰金は併科で
きる。
20 第 37条(予備・陰謀)①第 36条第1項の
罪を犯す目的で予備または陰謀した者は3年
以下の懲役,または3億ウォン以下の罰金に
処する。
② 第 36条第2項の罪を犯す目的で予備ま
たは陰謀した者は 2年以下の懲役,または
2億ウォン以下の罰金に処する。
21 第 38条(両罰規定)法人の代表者や法人,
または個人の代理人・使用人その他従業員が,
その法人または個人の業務に関して第 36条
第1項ないし3項に該当する犯罪行為をした
場合には,行為者を罰する以外に,その法人
または個人に対しても各該当項の罰金を科す
る。
22 第 38条(過料)①以下の各号のいずれか
に該当する者は1千万ウォン以下の過料に科
する。
1.第 15条第1項の規定による産業技術の
侵害申告をしなかった者
2.第 17条第2項の規定を違反して関連資
料を提出しなかったか,虚位に提出した者
② 第1項の規定による過料は大統領令が定
めることのより産業資源部長官が賦課・徴
収する。
③ 第2項の規定による過料の処分に不服す
る者は,おの処分を告知された日から 30
日以内に産業資源部長官に異議を申し立て
ることができる。
④ 第2項の規定による過料の処分をうけた
者が,第3項の規定により意義を申し立て
た場合には,産業資源美長官は直ちに管轄
裁判所にそれを通報しなければならない。
通報を受けた管轄裁判所は「非訟事件手続
法」による過料の裁判を受ける。
⑤ 第3項の規定による期間内に異議を申し
立てず過料を納付しなかった場合には,国
税滞納処分の例に従い,これを徴収する。
23 また,技術情報や経営情報などの権利化さ
れない有用な秘密情報の管理を目的とする
「営業秘密管理指針(平成 15年1月 30日策定,
平成17年10月12日改正)
」と,知的財産保護
の弱い地域における意図せざる技術流出防止
を目的とする「技術流出防止指針(平成 15
年3月 14日策定)」を策定し,企業が社内に
おいて直ちに参照・応用出来るように公開し
ている。技術流出防止指針における「技術情
報」と営業秘密管理指針における営業秘密は
包含関係であり,前者は後者に含まれる。
24 (株)デンソーの中国人技術者を社有パソ
コンの横領の容疑で逮捕したが,処分保留で
釈放された。法適用に関しては,刑法の横領
罪に関しては,パソコンの「持ち出しは研究
のためであった」とする供述を覆せず,また,
横領したパソコンの価格が約6万円と低額で,
すでに返還していることから,起訴猶予処分
を決定した。不競法の営業秘密侵害に関して
は,不正競争目的があったかという動機の証
明や,データの受け渡し(使用・開示)が
あったかどうかの解明ができず適用できな
かったという。((株)デンソーウェブページ,
中部読売新聞平成19年4月7日・25日付)
25 そして具体的な検討事項として,①企業な
どにおける技術情報監視の現状,②現在の技
術情報の法的保護の有効性(不競法の有効性)
,
③それぞれの流出ルートに対する国や企業の
対策のあり方などを挙げている。
26 「2007年版ものづくり白書」
27 北畑経済産業事務次官,産経新聞平成 19
年7月4日付
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