デジタル写真測量からみた 300 万画素デジタルスチルカメラの精度検証

デジタル写真測量からみた 300 万画素デジタルスチルカメラの精度検証
東京電機大学
理工学部
○中田
近津研究室
隆司
近津博文
1. は じ め に
写真測量におけるアナログからデジタルへの変化はフィルムから CCD センサへの変遷であり、フィ
ルムの現像およびプリントという従来のフィルムカメラでは避けられなかった時間的損失が解消され
リアルタイムな画像取得が可能となった。
最近ではセンサ技術の飛躍的な発展により、CCD センサの高解像度化が進み、現在 300 万画素を超
える多種・多様な高解像度 CCD センサを搭載した民生用デジタルスチルカメラが各社で生産・発売さ
れている。また、エプソン CP-900Z(ハイピクト方式)
、ビクター GC-X1(ピクセルシフト方式)、フ
ジフィルム FinePix4700Z(ハニカム信号処理方式)、リコー RDC-7(エンハンスメント方式)等は各
社独自の技術により、本来の画素数よりも高解像度な画質表現を可能にしたものであり、写真測量学的
見地からは興味のもたれるカメラである。
今後 CCD センサの高解像度化はさらに進むものと推測されるが、本研究では現在の一般市場で最も
主流となっている 300 万画素デジタルスチルカメラのイメージセンシングへの応用の可能性を学術的
に検証することを目的として、12 機種のデジタルスチルカメラを対象にテストターゲットを利用して精
度検証を行った。
2. 実 験
2.1
デジタルスチルカメラ
本研究では 300 万画素デジタルスチルカメラのイメージセンシングへの応用の可能性を検討するた
めに、図 1 に示す 12 機種(31 万画素から 610 万画素のデジタルスチルカメラ)のデジタルスチルカメ
ラを用いて実験を行った。
(a) IXY DIGITAL
(Canon)
(b) CP-900Z
(EPSON)
(c) FinePix 700
(FUJI FILM)
(d) FinePix 4700Z
(FUJI FILM)
(e) Q-M100V
(Konica)
(f) C-2000ZOOM
(OLYMPUS)
(g) C-3030ZOOM
(OLYMPUS)
(h) DC-3
(RICOH)
(i) RDC-7
(RICOH)
(j) GC-X1
(Victor)
(k) FinePix S1 Pro
(FUJI FILM)
(l) DCS560
(Kodak)
図1
デジタルスチルカメラ
2.2
レンズディストーション
本研究ではデジタルスチルカメラにおけるレンズディストーションの影響を検討するために、レンズ
歪みを考慮しない場合、する場合についてキャリブレーションを行い、各補正項目での精度を検証する。
表 1 は本研究で用いたレンズディストーションモデルである。
表1
レンズディストーションモデル
モデル No.
補正項目
レンズディストーション補正式
0
補正なし
1
放射方向わい曲歪み (3次多項式)
dx=k 1 r x
2
dy=k 1 r y
2
放射方向わい曲歪み(5次多項式)
dx=k 1 r x+k 2 r x
2
4
dy=k 1 r y+k 2 r y
3
放射および接線方向わい曲歪み
2
2
4
2
2
2
dx=k 1 r x+k 2 (r +2x )+k 3 2xy
2
2
2
dy=k 1 r y+k 3 (r +2y )+k 2 2xy
dx,dy:補正量, k 1∼ k 3 : 歪み係数, x,y: 画像座標, r 2 =x 2 +y 2
2.3
実験概要
本研究では 12 機種のデジタルスチルカメラに対して、撮影モードごとにテストターゲットのステレ
オ撮影を 5 回ずつ行った。その後、すべてのステレオペアに対し 4 種類(表1)のレンズディストーシ
ョンモデルを用いて、カメラキャリブレーションを行った。つぎに、4 種類のレンズディストーション
モデルによって得られたカメラキャリブレーションの標定要素を用いて、テストターゲット上の検証点
に対する 3 次元座標を算出し,撮影モードごとに得られた 5 回の精度の平均値を用いて検証を行った。
なお、基線比については約 0.34(基線長/撮影高度)に設定した。
本研究では図 2 のように、テストターゲット上の黒丸 42 点のうち均等に選んだ 9 点を基準点、その
他の 33 点を検証点とした。なお、テストターゲットにおける黒丸の中心座標(平面及び高さ)は公称
値±0.5mm の精度で作成されているのに対し、平面座標は東京都立産業技術研究所にて精密測定の結果
±0.01mm の精度を得た。したがって、本研究では平面座標に着目して精度検証を行うこととした。テ
ストターゲットについては、中央 2 列の高さ:Z が 20mm と 50mm の 2 種類を使用した。図2にテス
トターゲットの概要を示す。なお、ここでのキャリブレーションはバンドル調整法を用いた。
○:基準点
Z
●:検証点
図2
テストターゲット
3. 実 験 結 果
本研究で得られた結果から、画素数と各補正項目での平面座標に対する精度(検証点に対する平均二
乗誤差:σxy )の関係を図 3、図4に示す。この結果から放射方向わい曲歪み(モデル 1)で十分な精
度が得られたことがわかる。また、画素数と精度の関係を検討するために、レンズディストーションモ
デル 1 での画素数と精度の関係を図 5、図6に示す。この結果から画素数の増加に伴い精度は向上する
ものの、画素数が 300 万画素相当以上では大きな変化がみられず、約±0.05mm の精度であることがわ
かる。
(a) IXY DIGITAL
(b) CP-900Z
(c) FinePix 700
(d) FinePix 4700Z
(e) Q-M100V
(f) C-2000ZOOM
(g) C-3030ZOOM
(h) DC-3
(i) RDC-7
(j) GC-X1
(k) FinePix S1 Pro
(l) DCS560
0.15
0.14
0.13
óxy(mm)
0.12
0.11
0.10
0.09
0.16
0.14
0.13
0.12
0.11
0.10
0.09
0.08
0.08
0.07
0.07
0.06
0.06
0.05
0.05
0.04
(a) IXY DIGITAL
(b) CP-900Z
(c) FinePix 700
(d) FinePix 4700Z
(e) Q-M100V
(f) C-2000ZOOM
(g) C-3030ZOOM
(h) DC-3
(i) RDC-7
(j) GC-X1
(k) FinePix S1 Pro
(l) DCS560
0.15
óxy(mm)
0.16
0.04
0
1
0
3
2
1
Model No.
図3
レンズディストーションと精度
(Z = 2 0 m m )
0.09
0.08
0.07
0.08
0.07
0.06
0.05
0.04
0.04
図5
4.
0.09
0.05
1.00
2.00
3.00
4.00
5.00
6
Number of Pixel (×10 )
6.00
画 素 数 と 精 度 (Z =20mm )
7.00
8.00
(a) IXY DIGITAL
(b) CP-900Z
(c) FinePix 700
(d) FinePix 4700Z
(e) Q-M100V
(f) C-2000ZOOM
(g) C-3030ZOOM
(h) DC-3
(i) RDC-7
(j) GC-X1
(k) FinePix S1 Pro
(l) DCS560
0.10
0.06
0.03
レンズディストーションと精度
(Z = 5 0 m m )
0.11
óxy (mm)
0.10
óxy (mm)
図4
(a) IXY DIGITAL
(b) CP-900Z
(c) FinePix 700
(d) FinePix 4700Z
(e) Q-M100V
(f) C-2000ZOOM
(g) C-3030ZOOM
(h) DC-3
(i) RDC-7
(j) GC-X1
(k) FinePix S1 Pro
(l) DCS560
0.11
0.00
3
2
Model No.
0.03
0.00
1.00
2.00
3.00
4.00
5.006
6.00
7.00
8.00
Number of Pixel (×10 )
図6
画 素 数 と 精 度 (Z =50mm )
結論
本研究では、民生用 300 万画素デジタルスチルカメラのイメージセンシングへの応用性を検討するた
めに、12 機種のデジタルスチルカメラを用いて精度検証を行った。その結果、レンズディストーション
の補正に関しては従来から明らかのように放射方向わい曲歪み(3 次多項式)のみの補正で十分であっ
た。また、精度に関しては画素数の増加に伴い向上するものの 300 万画素相当以上においては大きな変
化はなく、ほぼ同等の精度となった。これらの結果より、民生用 300 万画素デジタルスチルカメラはイ
メージセンシングの発展に十分に寄与しうるものと期待される。
5.
応用事例と課題
本研究の応用例として、民生用 300 万画素デジタルスチルカメラで実際の建築物を撮影し、3 次元計
測を行った結果を以下に示す。
今回の例では民生用デジタルスチルカメラ
エプソン CP-900Z(334 万画素)を使用して、国指定重
要文化財「高麗家住宅:埼玉県入間郡日高市新堀」をステレオ撮影した。撮影により得られたステレオ
画像から、3 次元座標を算出し、以下のようなワイヤーフレーム(図 7)、テクスチャマッピング(図 8)
を作成することができた。
しかしながら、民生用 300 万画素デジタルスチルカメラのイメージセンシング分野への実用化のため
には、さらにキャリブレーションの自動化、図化ソフト、モデリングソフトの開発が課題である。
図7
図8
高麗家ワイヤーフレーム
高麗家テクスチャマッピング
参考文献
・
解析写真測量委員会編、解析写真測量、日本写真測量学会発行、1983
・
動体計測研究会編、イメージセンシング、日本測量協会発行、1997
・
山田展弘、近津博文、穴井哲治;CMOS カメラのデジタルフォトグラメトリーへの利用について、
写真測量学会平成9年度秋季学術講演会発表論文集、pp.51-54、1997