思考力強化マガジン 「Power of Thinking」という名称には「思考が生み出す結果の力 強さ・レベルの高さ」という想いを込めています。また、本マガジンが「思考力強 化」の「パワースポット」となることを願い命名しました。 This Weeks Contents ◆今週のご挨拶・・・2 ◆フィットネスビジネスの視点・・・3~5 ◆P・O・T「フィットネス業界編(出題)」・・・6 「数値管理に関心がない新入社員のAトレーナー」 ◆P・O・T「業界外編(回答)」・・・7~17 「もし、あなたが書店の営業責任者だったら? 」 ◆今週の一冊等 ・・・18~19 今週のご挨拶 「日常的な日々」 から脱却しよう! (株)フィットネスビズ 代表取締役CEO 遠藤 一佳 こんにちは。遠藤です。大変ありがたいことに、企業様の社員研修に呼んでいた だく機会が多くなりました。その際、私の役割の1つに「社外」という立場から 発言するということがあります。もっとも、そのことを「強く要求」されている わけではありませんが、私自身は、日頃、社内の方々が言わないことや、言いづ らいことを「平然と言う」ようにしています。何故なら、そうしないと、脳の中 の「日頃と違う回路」が使われないからです。私はこのことが「極めて重要」だ と思っています。「成長」というのは、必ず「混乱の後」に起きます。読者の皆 さまも有識者の話を聞いた後や、良書を読んだ後に頭の中が混乱する経験をお持 ちかと思います。これは「異なる価値情報」が入ったからです。それにより、日 頃とまったく違う「回路」が使われたために、脳が混乱しているのです。しかし、 その混乱は時間経過ともに「希望」や「確信」に変わっていきます。 (私は脳の 専門家ではありませんが)おそらく、脳の中で何か新しいことが起こっているの だと思います。 日常的な日々というのは、災害等がないという観点においては「幸せである」と いえます。しかし、日常的な毎日に「新しい刺激」はありません。もちろん、仕 事をしていれば、その中で企画を考えたり、問題を解決したりすることはありま す。だとしても、その大半は「必要性があるからやっていること」であり、「今 までの回路を使って対処しているに過ぎない」と思います。そうではなく、 「本」、「人」、「経験」の3分野において、自ら「新しい経験」にアクセスす べきです。口でどれだけ「成長したい」と言っても、家と会社を往復している限 り、絶対に「成長」はありません。私は「日常的な日々」とは「表面的な日々」 と言い換えて差し支えないと思います。「成長」を目指すのであれば、もっと 「新しい回路」を使いまくるべきです。それは「日常の外」にあります。本マガ ジン読者の方は「刺激」を求めて「外」に出てください! 2 フィットネスビジネスの視点 2泊3日 週末断食 プリンスホテルは東京都内などの3つのホテルで2泊3日の「週末断食プラン」の実施を発 表しました。シェフが医師や栄養士を考えた専用の飲み物を用意し、気軽に断食に挑戦で きる機会を提供します。 ●正しい訴求方法なら、フィットネスクラブでも販売すべき 本マガジンでも触れたことがありますが、フィットネス業界でも「断食」を販売し ているクラブがあります。私は「腸内環境」の観点からも「断食そのもの」には賛 成です。しかし、「断食で減量できる」、「断食で体脂肪が減る」と訴求するとな れば、話は別です。これは「健康ビジネスの見本であるべきフィットネスクラブ」 として「正しくない売り方」であり、直ちに止めるべきであるとも提言しました。 私が支配人等であれば、絶対に拒否します。まぁ、その話は重複させないとして、 本プランは新高輪や箱根のプリンスホテルで行われるということです。せっかく 「箱根プリンスホテル」に宿泊するのに、そこで「断食をする」という「変わった ニーズ」がどこまであるのかは疑問ですが、むしろ、「2泊3日の週末断食」など は、正しい見識に基づき、フィットネスクラブが積極的に導入すべき商品だと思い ます。特段、ホテルなどで監禁しなくても、ネットやメールで助言や激励をすれ ば、高い効果が期待できると思います。 ●「1日3食」元気の味方 同じ時期、「1日3食」が「健康維持にはもっとも良い」という記事も掲載されて いました。肥満、ホルモンバランス、血糖値コントロール、体内時計などなどの観 点からも、その優位性が示されています。私がお薦めしている「なぜ、これは健康 にいいのか」の小林教授(順天堂大学医学部)も腸内環境の観点から「1日3食」 を推奨しています。昨今は、「食べ方」に関する情報が溢れています。「1日1食 でいい」、「朝食は不要である」、「糖質を制限せよ」・・。どれも、それなりの 肩書がある人が主張するから、読者は信じます。同時に迷います。これらに対し て、フィットネスクラブ、いや、皆さまのクラブは「公式見解」を用意しているで しょうか?AさんとBさんでアドバイス内容が違うなどというのは「あってはなら ないこと」です。さらに言えば、スタッフは「正しい食事」をしているのでしょう か?「朝ご飯は抜いています」なんていう学生アルバイトが、平気で「トレー ナー」を名乗り、したり顔で「食事のアドバイス」をしているということはありま せんか? フィットネス業界というところは、現場に無知な多くの経営陣が、こういうことを 放置してきたのです。「運動だけ」でなく、「食事」にも言及しなければ、私達の 仕事の未来は良くなりません。それを変革するのは読者の皆さまです。 FitnessBiz All Rights Reserved 3 フィットネスビジネスの視点 洗う時間 「半分」の洗剤 花王は汚れを素早く落とす洗剤の新しい技術を開発しました。洗浄にかかる時間を従来品 の半分に短縮した衣料用液体洗剤を8月に販売します。洗濯1回あたりの電力使用量も1 9~56%削減します。 ●「時間は半分」で価格は「値上げ」 新商品は従来品の改良版として発売しますが、価格は本体が400円前後、詰め替 え用が350円前後と、従来品より「50円程度」高く設定しています。これは極 めて重要な観点です。例えば、フィットネスクラブの会費設定で、「従来は4時間 使えましたが、2時間にします。で、会費は値上げします」と言ったら暴動が起こ るでしょう。セミナー等でも同じです。従来、「1時間1万円」のセミナーが「3 0分2万円」にしたら参加者は不満を感じます。では、何故、花王の新商品はそれ が許されるのでしょうか?POT本編のようになってしまいますが、考えてみてく ださい。 あなたの回答 理由は「時短」が「ニーズ」だからです。そして、この「ニーズ」を有す顧客層を 特定できるからです。実際、花王は本商品の「売り」を「時短」とし、5割が夜間 に洗濯をしているという「働く女性」をメインターゲットとしています。「働く女 性」からすれば「自分の時間」が増えるわけですから、「喜んで」とまではいいま せんが、何の問題もなく「値上げ」を受け入れると思います。このように「ニー ズ」から考えれば、価格は上げられるのです。それに引き換え、フィットネス業界 の「価格政策」はどうでしょうか?石油が高騰すると値上げする、会員数が集まら ないと値下げする。そこに「顧客ニーズ」はありません。「使える時間が少ないか ら安い」、「使える回数が少ないから安い」というのも、もはや実に安直な発想だ と思います。では、この「時短」をフィットネスクラブに応用することはできない でしょうか?昼間の主婦層と、夜のOL層の「時間感覚」は同じでしょうか?夜の 時間帯に3時間も4時間も滞在する人がいるのでしょうか?そう考えた時にスタジ オプログラムは昼も夜も「同じ時間数」で良いのでしょうか?ジムのプログラムは どうでしょうか?これまでも、私はこの観点を多くの場所で進言しています。読者 の皆さまも「新商品のヒント」が浮かんだのではないでしょうか? 4 フィットネスビジネスの視点 100円コーヒー 販売4割増 セブンイレブンジャパンは2013年度の「入れたてコーヒー」の販売目標を引き上げます。 当初目標の4割増の450億円~480億円に上方修正し、店頭での試飲などの販売促進 を強化します。 ● 「消費者ニーズを取り込み競合を制す」セブンの商魂 過日、セブンイレブンへ行ったところ、お気に入りのブラックコーヒーが棚から消 えていました。単なる売上不振かもしれませんが、もしかすると本施策の影響なの かもしれません。ご存じの通り、「入れたてコーヒー」はレジでカップを受け取り、 あとは自分でコーヒーを入れるセルフ式です。コンビニはサンドイッチやスイーツ などコーヒーとの相性がいい食品の品揃えが豊富で、これに100円でマクドナル ド等と同等のコーヒーがセットできるなら「お得感」があります。それにしても、 「消費者ニーズを取り込み」、かつ「同業他社(コンビニ各社)」だけではない周 縁市場に勝負を挑んでいくセブンイレブンの商魂は凄まじいと思います。コンビニ の店舗数がこれだけ増えても飽和感が少ないのは、リーディングカンパニーである セブンイレブンの企業姿勢にあることは間違いないと思います。 ● 「販売増」のチャンスはいくらでもある! このドリンクの「+100円買い」はフィットネスクラブでも参考になるものです。 私たちがJV方式で運営しているクラブでは来館者の15~20%がプロテインド リンクを飲んで帰ります。最近は「カーブスプロテイン」が有名ですが、私たちの クラブも所謂ビルダーではない「普通の方々」が対象です。「サンドイッチ等と コーヒー」と同様に「筋トレとプロテイン」はお似合いです。何故なら、多くのお 客さまが「若返りたい」、「老化したくない」、「あの頃に戻りたい」という潜在 的なニーズを持って、フィットネスクラブに通っているからです。その「解決」と なる基本栄養素は「たんぱく質」以外には考えられません。その効果効能をスタッ フが正しく情報発信できれば、来館した方全員が飲んで帰ってもおかしくないと私 は考えています。5月の勉強会で話したばかりですが、このようにニーズから考え れば、「売上の芽」はいくらでもあるのです。コーヒーに抹茶カフェやカフェオレ があるように、プロテインでもダイエット、若返り、関節炎対策などなど、様々な 商品展開が考えられます。「ジュースバー」のようなイメージで、トレーニング後 に「お気に入りのドリンク」が飲めれば、お客さまのフィットネスライフはより充 実したものになるのではないでしょうか。「在籍減」に悩んでいるクラブも数多い と思いますが、それは「消費者ニーズの取り込み」に真剣さが足りないからです。 「販売増」のチャンスはいくらでもあります! 5 P・O・T 「フィットネス業界編(出題)」 「数値管理に関心がない新入社員のAトレーナー」 ●今週のテーマ し 「数値管理に関心がない新入社員のAトレーナー」 B支配人は困っています。何故なら、4月から店舗に配 属されたAトレーナーに「数値管理の仕事」を担当させ ようとしたところ、「私はトレーナーとして、お客さま に成果を提供するために、この仕事を選びました。この ことは入社面接でも社長にお伝えし、『当社には君のよ うな顧客視点の考え方が必要だ』と言っていただきまし た。4月の新入社員研修でもそのように激励されたばか りです。なので現場業務を中心にやらせていただきたい です」と言われてしまったからです。もちろん、「これ は業務命令だ」と言うことは簡単ですが、B支配人は 「社長に評価いただいている」と言われたのことも多少、 気になっています。では、今回の問題です。上司にも部 下にも存在感を示せない「イエスマン役職者」に成り下 がりたくない方は、しっかり論理構成してください。 あなたがB支配人だったら、どのような観点で 数値管理業務の必要性をAトレーナーに説明しますか? また、「対社長」はどのように対応しますか? Aトレーナーが社長に直接抗議しても大丈夫ですか? この2軸で最適な方法を考えてください。 FitnessBiz All Rights Reserved 6 P・O・T 「業界外編(回答)」 「もし、あなたが書店の営業責任者だったら?」 今週のテーマは書店、 「もし、あなたが書店の営業責任者だったらどうする?」 今週は書店をピックアップしてみます。ご存知の通り、リアル店舗としての書店の数は年々減少 をしています。ある出版社が昨年に行った調査によれば、全国自治体の17%にあたる317市 町村で「書店がゼロ」となっているようです。これは書店の不毛地帯が少しずつ広がっている様 を示したものだと思いますね。皆さまも「あそこにあった本屋が、いつの間にか無くなっちゃっ た」という経験があるのではないでしょうか。無論、ここに絡んでいるのは書店だけではなく、そ の上流にある出版業界も同様で、長らく出版不況と言われている通りです。2011年の書籍・ 雑誌をあわせた販売金額は約1兆、8,000億円となっていますが、これは15年前の1998年 比でいえば約3割減の数字ですね。残念ながら、それだけ市場規模も縮小をしているということ です。雑誌では休刊が相次ぎ、直近の6年は創刊よりも休刊が上回る状態が続いていることも あって、雑誌数も少なくなっているのが現状ですね。ここ5年で見れば月刊誌・週刊誌の点数は 約1割減というとことです。その他、リアル店舗の書店に影響を与えているもののひとつが電子 書籍の存在ですね。まだまだ売上規模は小さいものの、着実に利用者と売上金額を伸ばして いるのが現実です。これらの状況を受けて書店では再編も進みはしましたが、それが決定的な 有効打として生き残りを保証するものにもなってはいないでしょう。それではいつも通り、ここか らシンキングですね。今回のお題は「もし、あなたが書店の営業責任者だったら」です。長らく出 版不況が続き、リアル店舗の書店では姿を消すお店が少なくないなか、今後はどのようにして 生き残りを図っていくでしょうか。来週までに自分なりの回答を考えてみましょう! FitnessBiz All Rights Reserved 7 P・O・T 「業界外編(回答)」 「もし、あなたが書店の営業責任者だったら?」 問題解決:回答編 今回のテーマは書店、 「もし、あなたが書店の営業責任者だったらどうする?」 先週の出題編で立てた問いは「もし、あなたが書店の営業責任者だったら?」です。あれから1 週間が経過しましたが、読者の皆さまはそれぞれに自分なりの解にまで到達することができた でしょうか。普段、馴染みのない業界だからこそ、何かしらの解を導くためには自分のアタマを 使いゼロベースで思考することが求められます。それは大変なことではありますが、同時に自 分の思考力を鍛えるうえでは良いトレーニングにもなりえます。筋トレ同様に思考もオールアウ トを繰り返せば、ビルドアップされたビジネス脳に近づくと思います。 今週のポイント ☑ 提案力を高める ☑ 意図した「理由づくり」 ☑ サブスクリプションコマースの導入 今週はこれら3点を念頭に置きながら、問題解決に向けた流れを見ていきま しょう! 以降で私なりの回答を示しますが、それが必ずしも正解や絶対解というものではありません。 ひとつの例として捉えていただき、それぞれの思考を深める契機として活用してもらえればと思 います。 FitnessBiz All Rights Reserved 8 P・O・T 「業界外編(回答)」 「もし、あなたが書店の営業責任者だったら?」 現状認識 まずは現状認識から始めていきましょう。書籍・雑誌等の出版物における推定販売金額は201 2年には1兆8,000億円割れをして、1兆7,398億円にまで減少をしています。これで2005 年から8年連続での売上減となりました。2兆5,000億円を超えていた1998年比で言えば、 市場規模は3割以上も縮小したことになります。そしていまだ下げ止まりの様子も見せていない だけに、置かれている状況は厳しいものがあると言えるでしょう。出版物の推定販売金額の推 移は以下の通りです。 (単位:兆円) 出版物(書籍・雑誌)の推定販売金額 3.00 2.50 2.00 1.50 販売金額 1.00 0.50 0.00 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 今回のテーマである書店は基本的に委託販売制度を取っています。これは書籍取次企業から 配本されたものを店舗に並べ、販売した書籍や雑誌売上の2割程度が粗利となり、売れなかっ た本については無償返品をするといった形ですね。委託販売制度によって書店は在庫を抱え るリスクはありませんが、その代わりに粗利益率は低くなります。そのため、一定の販売数量 FitnessBiz All Rights Reserved 9 P・O・T 「業界外編(回答)」 「もし、あなたが書店の営業責任者だったら?」 を確保することができなければ、粗利から賃料や人件費を拠出して利益を残していくことは難し くなりますね。そのようななか、書籍・雑誌の販売では価格が一定に保たれているので、リアル の書店間における価格競争というものは現状では起こりえません。このような状況で書店を選 ぶ意思決定要因になりえるのは、品揃えとアクセスといったものが中心になってきます。なかで も品揃えが占める意味合いはことのほか大きいですね。「自分が買いたい書籍や雑誌がある のか」、「自分の興味・関心に沿うジャンルで比較検討するだけの十分な選択肢が用意されて いるのか」はリアルな店舗を持つ書店では、来店における決め手にもなります。昨今は個人の 価値観・嗜好が多様化している時代で、その個々が望む品揃えを満たそうと思えば、書店は必 然的にある程度の規模を必要としてきます。そんなこともあって、現在はある程度の店舗規模 で品揃えが豊富、そしてアクセスの良い書店に集約されつつあり、そこに漏れた書店の閉店が 続いている状況だと思います。ただ、これら一定規模を備えた書店であっても、書籍・雑誌の販 売減少という大きなトレンドの影響は不可避です。この書籍販売の不振における要因としては 「行動様式の変化」「代替材の存在」「販売チャネルの変化」の3点が挙げられます。以降ではこ れら3点について説明をしていきます。 書店にとってのマイナス要因 書籍販売、書店にとってマイナス影響を与えているもののひとつが行動様式の変化ですね。こ れは様々なアンケート調査を見ても明らかですが、本を読む習慣を持つ人が減少しているのは 間違いありません。その背景として大きいのはパソコンやスマートフォン、タブレットなどのパー ソナルモバイル端末の普及とネットワーク社会になったことでしょう。これはスマートフォン以前 の携帯電話時代でも同じことですが、ここに要する時間や依存度は加速度的に高まっていると 感じます。これは電車内などの光景ひとつをとってみても、かつてのそれとは様変わりをしたこ とがよく分かると思いますね。1人の人間が持つ時間は1日24時間の有限ですから、従来に比 べてこれらにかける時間が平均的に増えたのであれば、その代わりとして必ず何か削られて FitnessBiz All Rights Reserved 10 P・O・T 「業界外編(回答)」 「もし、あなたが書店の営業責任者だったら?」 いくものが出てくるのは道理ですね。その最たるものが読書だと言えるかもしれません。またこ れらの状況に関連して、情報伝達はより映像的になったし、インターフェースは直感的になって きたのは顕著でしょう。映像の場合は活字と違って受動的な姿勢でも、ある程度は情報をイン プットすることが出来るし、比較的容易にその意味合いを掴むことができるメリットがあります。 ただ、その一方で主体的に情報を得るような行動が失われる可能性はあるし、物事を深く掘り 下げたり、行間を読むといった点は薄れていくとも思えます。また直観的なインターフェースは 操作性が高いし右脳的で、それによってストレスフリーな状態に近づいたことは確かですが、一 方で左脳的な論理構造で物事を捉える機会が減少している感は否めないでしょう。こういった 行動様式の変化、その積み重ねによって文字としての情報のインプットや、物事を論理的に捉 えることが嫌気されやすくなってきた点が、読書を遠ざけている一因になっているようにも感じ ます。続いては代替材の存在ですね。ネット社会になり、誰もが簡単に発信者にもなれる環境 が出来上がったことでCGM(Consumer Generated Media:消費者生成メディア)は急速に発達 をしました。これはブログ然り、各種ソーシャルメディア然りですね。そのことによって必ずしも雑 誌のようなメディアが発信する情報でなくとも、楽しむことができるコンテンツ、自分の要件を満 たすようなコンテンツから、直接的に情報を得ることができるようになりました。この動きによっ てもっとも影響を受けるのは雑誌でしょう。分かりやすい例で言えば、レシピ本などを買わずと もネット検索をすれば参考になるレシピは山ほど出てきます。クックパッドのようなレシピサイト もユーザーからの投稿によって成り立っているものですから、これだって一種のCGMですし ね。最近では人気ブロガ―のレシピを書籍化する動きも増えていて、もはや「個人発」「ネット 発」の状況が出てきたことが、雑誌などメディア情報の優位性が崩れてきた証しでもあると思い ます。またCGMなどの利点としては発信者が受け手と同じ個人であるため、その等身大な内 容から親近感が得られ、コミュニケーションにも双方向性があるところでしょう。先のようなレシ ピに限らず、ファッションのコーディネートやメイク術などを発信する個人のアカウントが多くのア クセスを集めていますが、その裏側では雑誌などの魅力が薄れていく要因にもなるわけです。 その他、雑誌などでネットに置きかえられやすいものはスポーツ関連の情報誌ですね。かつて FitnessBiz All Rights Reserved 11 P・O・T 「業界外編(回答)」 「もし、あなたが書店の営業責任者だったら?」 ネット以前の時代では国内スポーツの結果や海外情報などを網羅するにはこのような情報誌 が役に立ちましたが、今ではその必要性が薄れています。情報の速報性という部分では紙媒 体はネットに太刀打ちできませんからね。特に試合の速報といった面では情報誌を買う意味合 いはほとんどなくなっていると言ってよいでしょう。ネットが普及する以前であれば、週刊などで タイムリーに情報を提供していた雑誌にも意味はありましたが、今となってはその優位性が完 全に崩れ去っているのが実情だと思います。また紙媒体の雑誌であれば記載できる情報量に は限りがありますが、ネットならそれは無制限に近くなります。速報性があり、情報量は無尽蔵、 これでは情報誌としての紙媒体である雑誌が苦しくなるのも必然でしょう。これらのような代替 材の存在が雑誌などの販売減につながっているのは間違いないと思います。最後は販売チャ ネルの変化です。ここで最も大きいのは周知のようにネット通販が拡大していることですね。昨 年12月にはネット消費が単月では初めて1兆円を超えたとの報道がありましたが、これは書籍 だけに限らず様々な商品・サービスで販売チャネルがネットに置きかえられているメガトレンドで す。書籍や雑誌という商品自体は事業者間で全く同じものを扱っているわけで、そこには何ら 差別化は効きませんからね。先ほどの来店に関する意思決定要因として挙げた品揃えとアクセ スで言えば、大型倉庫で管理をするネット書店は品揃え場豊富だし、アクセスは実質無効化さ れ、その代わりに配送による手元に届くまでのタイムラグがこれに該当しますが、そこには大き な障害は感じません。例えばアマゾンなら品切れはほとんどないですし、注文翌日には手元に 届く利便性がありますから、これら販売チャネルの変化におけるマイナス影響は不可避だと思 います。加えてもうひとつの変化が電子書籍市場でしょう。昨年の2012年は電子書籍元年 (実際は何度目かの・・・)と位置付けられ、以前からあったプレイヤーに加えて、楽天やアマゾ ンの電子書籍端末も日本市場に投入され、ハード的な環境としては概ね出揃った感があります。 現在の出版市場に比べればまだまだ市場規模は小さいものの、電子書籍市場も着実に成長を していて2013年には900億円超になると見込まれています。電子書籍の場合は製本された ものに比べて平均的に20%程度の割引をしているので、先の数字は紙媒体に換算すると1,1 00億円程度の売上にはなっているでしょう。著作者などは電子化されても作品が流通 FitnessBiz All Rights Reserved 12 P・O・T 「業界外編(回答)」 「もし、あなたが書店の営業責任者だったら?」 すれば売上は得られるし、なかには独自にレーベルを立ち上げている方もいますから、その場 合は利益率が従来よりも良くなるかもしれないぐらいで、その影響度はある程度コントロールで きるものだと思います。対してリアル店舗を持つ書店の場合は、販売チャネルの変化における マイナス影響を最も強く受ける当事者になってしまいます。おそらく今後もこの傾向は続くでしょ うから、これもまた書店にとっての逆風要因のひとつと言えるでしょう。ここまでに説明してきた 「行動様式の変化」や「代替材の存在」、そして「販売チャネルの変化」といったものが現在、書 店を苦境に追い込んでいる大きな要因だと捉えています。以降では具体的なこれらを前提にし て、私なりの解決策を示していきます。 提案力を高める これまでにも再三述べたように、書籍や雑誌というものは事業者間で同じ商品を扱っているの で、それ自体で差別化を図ることは不可能です。そのため、そこに何ら手を加えるようなアク ションがなければ、状況としてその場に来る人以外はそのお店から買う理由がなく、競合の他 店舗や他のチャネルからの販売へ流れてしまうでしょう。その波に抗って生き残りを考えるので あれば、まずは「そのお店から買う理由」を提供者側が意図して作る必要があります。そこに関 係するものでリアル店舗である書店に求めたい要素が提案力です。まず読書にあたっては「何 を読んだら良いかが分からない」と悩んでいる人もいるでしょうし、「買ってはみたものの、面白く ない(よく分からなかった)」という人もあるでしょう。こういった方々へ何のアプローチもなされな ければ、読書が縁遠いものになってしまうことは容易に想像できるでしょう。そのためには書店 からの主体的なアプローチとしての提案力は必須でしょう。書籍の購入にあたっては新聞や雑 誌、交通媒体における広告を見て、「この本は面白そうだな」と思って書店に足を運ぶ人もいる でしょうし、何らかの書評を見て「読んでみようかな」と思う人もいるでしょう。このメルマガでも末 尾ではお勧め本を紹介しているし、それによって書籍を購入された読者の方もいるかと思いま す。これらはみな広告主や発信者の提案によって行動が促進された結果によるものです。 FitnessBiz All Rights Reserved 13 P・O・T 「業界外編(回答)」 「もし、あなたが書店の営業責任者だったら?」 もちろん、ここにおける提案というのは何でも良いというものではなく、それが意味ある提案であ る必要があります。読書という行為を見たときに、その目的は2つに大別されるでしょう。1つは 「趣味の読書」であり、もう1つは「課題解決・学びの読書」です。もう少しだけ細分化すると、趣 味の読書では「趣味に対して目的性のある実用的な読書」と「時間消費的な趣味の読書」にな ると思います。一方の課題解決・学びの読書では「自己啓発の読書」と「具体的なスキル習得 のための読書」ということになるでしょう。これらのなかに、個々が置かれた状況に応じたニーズ というものがあるわけです。それに対してマッチングの高い提案ができるかどうか、それがポイ ントだと思います。そこで言えば、リアル店舗としての書店には「博覧強記である本のソムリエ」 的な存在があっても良いと感じますね。その人間が個々の要望に応じて最適なモノをお勧めす る、といったイメージです。このような人を介して双方向のコミュニケーションによって生み出され る提供価値は、リアル店舗を持つ書店としての強みになるはずです。そこでお勧めされた本に よって良質な書籍との出会いがあり、そこから何かを得ることができたなら、また再来店をしてく れる可能性は高まるでしょう。少なくとも、書籍のことで聞きたいことがあったり、何か迷ってい る時には、そのソムリエのことがアタマに浮かぶことでしょう。このような「そのお店であることの 理由作り」を意図してやっていくことが必要だと思います。大手書店チェーンのサイトなどを見る と週間のランキングなどは紹介されていますが、書評サービスのようなものを提供しているとこ ろは見当たらないし、小さな書店になればなおさらですね。ランキングは「今は、こんな本が売 れていますよ」というものだからそれはあっても良いのですが、私は書評のようにもっと読書へ といざなうアプローチがあって然るべきだと思います。出来れば日次で絶えず情報を発信する ぐらいが良いですね。まずは「ちょっと立ち読み」でも良いから書店に足を運び、書籍を手にとっ てもらえるようなことも含めた理由作りを積極展開することが、リアル店舗にとってのひとつの課 題だと思います。 FitnessBiz All Rights Reserved 14 P・O・T 「業界外編(回答)」 「もし、あなたが書店の営業責任者だったら?」 理由作り 複数の選択肢がある中から、そのお店を選んでもらう必要があるならば前述した通りの「意図し た理由作り」が必要です。商品そのもので違いを生み出すことができる場合には、そこに差別 化要素と固有性が生まれるから、それが望ましいでしょう。ただ、今回の例である書店のように 扱っている商品そのもので差別化ができない場合は、他の要素でそのような状況を作り上げて いく必要が出てきます。これは簡単なことではありませんが「選ばれる存在」を目指すなら、そ れは必須でしょう。フィットネスクラブに話を移すと、ここでの問いは「あなたのクラブは選ばれる 理由作りが出来ているでしょうか」ということになるでしょう。この機に改めて再考をしてみるのも 良いと思います。 サブスクリプションコマースを活用 前述した「本のソムリエ的存在」を作ることができれば、次はその存在を梃子にして定期的な売 上が立つ仕組みを考えることですね。私はサブスクリプションコマースのような形を取るのが良 いと思いますね。最近はネット通販でもこのような形で販売するサービスが少しずつ増えてきて います。このような形式については以前にブログでも触れたので読者のみなさまもご存知の方 が多いでしょう。念のため簡単に説明をしておくと、サブスクリプションコマースとは毎月一定金 額を支払うと、好みの商品やセレクトされた商品が定期的に自宅へ届くという定期購入型サー ビスのことです。例えばファッションに関連するサービスでは、毎月の決められた予算とあらか じめヒアリングをした個人の嗜好に応じて、デザイナーがコーディネートした商品を自宅に届け てくれる、といった感じです。サブスクリプションコマースというと何か目新しい概念のように感じ るかもしれませんが、このような定期購入型のサービス自体は以前からも存在していたもので す。私たちの周りの分かりやすい例で言えば、頒布会などがそれに当たります。よくあるのは FitnessBiz All Rights Reserved 15 P・O・T 「業界外編(回答)」 「もし、あなたが書店の営業責任者だったら?」 「ワイン頒布会」や「チーズ頒布会」といったものですね。ワイン頒布会なら、例えば毎月15,0 00円を支払うと、あらかじめ設定された期間(半年や1年など)において毎月1回、ソムリエがセ レクトした一般にはなかなか出回らないワインを自宅に届けてくれる、こんな感じです。このよう な予算設定をした定期購読型のセレクトサービスを読書の世界に持ち込んではどうか、という のが私の考えですね。例えば月額の予算は3,000円、5,000円、10,000円、20,000円 程度のコース設定があれば良いでしょう。もちろん登録にあたっては事前にユーザーの興味が あるジャンルのヒアリングや、これまでの読書歴を確認しておき、個人にあったセレクトを行う際 の参考にすれば良いと思います。ジャンルについては「リーダーシップ」や「マネジメント」、 「マーケティング」といった具体的スキルの領域から、「最近話題の1冊」とか「ソムリエの一押 し」、「笑える1冊」なんて感じで幾つものジャンルを用意して、予算に応じて自分が好みのジャ ンルをいくつか選ぶ、といった感じでしょうかね。あとは毎月届けた本に対する評価をWEB上で フィードバックしてもらえば、より個人にあったセレクトができるようにもなるでしょう。このような 定期型サービスの良さは購入の手間が省けること、定期サービスなので読書や勉強の習慣を 作りやすいこと、そして客観的なレコメンドによって自分の知識の裾野が広がっていくことなど が挙げられます。特に習慣化と裾野の広がりは大きな意味があると思います。「考える」という 行為を見た時に、その方向性は掘り下げて考える縦方向と、何か組合せて発想したり応用を考 える横方向への展開に二分されます。この横方向での思考展開では、自分が持っている知識 の裾野と思考の展開力は概ね比例するといってよいでしょう。その意味で知識の裾野を拡大し て視野を広げていくのは有用なことだし、それを習慣化するのは大きいように感じますね。この ようなサブスクリプションコマースを導入し、定期的な売上を確保する取り組みも出来るでしょう。 仕組化で計算できる売上を作る サブスクリプションコマースのようなサービスを導入するメリットのひとつはサービスの利用者数 FitnessBiz All Rights Reserved 16 P・O・T 「業界外編(回答)」 「もし、あなたが書店の営業責任者だったら?」 と単価に応じて先々まで毎月のように計算できる売上が立つことでしょう。書店の場合は日銭 ビジネスで日次の数字を追いかけることが必須なわけですが、そこに定期的な売上が上乗せさ れるようになり、構造的に安定度が増す形になりますからね。また定期サービスの利用者が増 えれば、それだけロイヤリティの高い固定客を抱えることにもなりますので、その意味において も大きいでしょう。フィットネスクラブの場合は既に月会費制度をとっているために、月初の会員 数でその月の売上は計算できますが、別途このようなサブスクリプションコマースを応用して追 加サービスをする余地はあるでしょう。もちろん、それによって単価は上がりますからね。私たち フィットネスクラブにおいて、どのような応用ができるかを考えてみてはどうでしょうか。 FitnessBiz All Rights Reserved 17 今週の一冊 ・ローマ法王に米を食べさせた男 過疎の村を救った スーパー公務員は何をしたか? ・高野 誠鮮 (著) ・講談社 ★本書のリンク先は「Power of Thinking」の配信 メール内に貼り付けてありますので、そちらよりお買 い求めください。リンク先ページはAmazon.co.jpです のでご安心ください。 まずは本書の「1ページ目」に出てくる、以下をお読みください。 「最近の会社員、とくに大企業に勤めている人は、公務員化しているようです。いざ新し いプロジェクトを始めようとすると、失敗することを恐れて初めの一歩が踏み出せず、前 例ばかりに縛られていい知恵も出てこない。そして何より誰も責任を取りたがらない。そ のくせ会議は何回も何十回も開き、分厚い立派な企画書を作りたがる。たとえば天井の電 球が切れていたとする。それをみんなで下から見て、あーだこーだ騒いだところで灯りは つきますか?誰かが電球を取り替えないと明るくはならないのです」 これってどうですか?フィットネス業界って大手を中心に「こういう体質」でなないです かね?「公務員化」、「何十回の会議」、「分厚い企画書」。すべて「昭和の仕事ぶり」 であり、「時代遅れ」、「時代錯誤」の象徴です。読者の皆さまは自社がこういう状態な ら「変革するか」、「見切りをつけるか」をはっきりすべきだと思います。と、このよう に言われている著者の高野誠鮮氏は「公務員」です。しかも「霞が関官僚」、「高級官 僚」ではなく、石川県羽昨市神子原地区という「能登半島の付け根(本書記載のまま)」 にある市役所の「農林水産課ふるさと振興係」の「課長補佐」です。要するに「特段の役 職者」ではありません。この「神子原地区」はかつて1000人以上いた人口が半減し、 65歳以上の人が50%を超えるという「限界集落」だったのですが、高野氏の「行動」 が地域を変えます。その1つの大きな成果として、「神子原米」が「ローマ法王ご用達 米」になるという凄いことが起きます。そのために行ったことの数々が本書に記されてい ます。これぞ、私のいう「個の時代」です。高野氏は言われます。「成功と失敗は紙一重 だけど、やるとやらないは雲泥の差」と。高野氏は還暦近く。読者の皆さまは大いに刺激 を受けてください! 最後に補足を。前号の冒頭挨拶で高野氏の言葉を引用し「可能性の無視は最大の罪悪」と 書きましたが、正確には「可能性の無視は最大の悪策」です。が、私にこの言葉を教えて くださった方ともども、「罪悪」の方がしっくりくるということで「罪悪」と表記してい ます。あしからず。 FitnessBiz All Rights Reserved 18 INFORMATION! ●ともに学ぶ仲間をご紹介ください! 「ともに学び」、「ともに成長する」仲間をご紹介ください。「毎月1名」で結構 です。以下のような方が周囲にいらっしゃったら、是非、本マガジンの購読をお薦 めください。「思考力強化」という「武器の輪」を拡げていきましょう! ・やる気はあるが、論理が弱い ・期待されているが、伸び悩んでいる ・向学心はあるが、周囲が学ぶ環境になっていない などなど。よろしくお願いいたします。 ご購読のお申込みはこちら http://www.fitness-biz.net/powerofthinking/index.html ●テーマを募集しています! 思考力強化マガジン 「Power of Thinking」 では、皆さまが 取り上げてほしいと思われるテーマを募集しています。回数に限りがありますので、 すべてを取り上げることはできませんが、私達も皆さまが「何に困っているのか」 をより正確に知りたいと思っています。業界内、業界外、どちらでも結構です。以 下の代表アドレスにご希望内容をお送りください。なお、その際は「テーマを取り 上げてほしい理由」を簡単に記してください。よろしくお願いいたします。 テーマ送信アドレスはこちら [email protected] ■ご意見、ご感想、ご質問、どんな些細なことでも結構ですので、何でもメールを ください。一行のメールから人生が変わることもあります。また、取り上げてほし い話題、ご質問などもお待ちしております。 ■本メルマガに掲載している記事やデータなどは、(株)フィットネスビス(以下 当社)の著作物で、各国著作権法、条約およびその他の法律で保護されています。 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