写真技術を応用した、タッチパネル用 薄型両面センサーフィルムの開発

第48回 日本化学工業協会技術賞 技術特別賞
写真技術を応用した、タッチパネル用
薄型両面センサーフィルムの開発
富士フイルム株式会社
内容
1.背景
2.開発技術の内容
3.社会貢献度
4.今後の展開
1.背景
タッチパネルセンサーには、主にITO(酸化インジウム錫)
が使用されているが、ITOには、以下の課題がある
■ ITOの課題
1.高いシート抵抗に起因し、大サイズパネルでは応答時間
が長くかかる
→ 低抵抗化が必要
2.原材料インジウムはレアメタルであり、供給リスクがある
インジウム化合物は特定化学物質で、環境リスクがある
→ 供給安定化、環境安全性向上が必要
3.折り曲げ時に膜が壊れやすい
→ フレキシブル化が必要
これらの問題を解決する新しいセンサーが期待されている
1.背景 : 低抵抗化の必要性
タッチ検出の原理
パネル面をm×n個の 「セル」 に分割
Ym
全てのマス目で電気信号の入力/出力を行う
・ ・ ・ ・
パネル面にタッチすると、そのセルの電荷が変化する
A
A
上側電極
ΔCm
Y3
静電容量:
Y2
V
Y1
X1 X2 X3
・ ・ ・ X7 ・ ・ ・
Xn
(※)マス目数は、
スマートフォン : 約200セル
12インチ画面 : 約1600セル
Cm
+ + + +
V
+ + + +
下側電極
※指のタッチにより、電極の電荷が変化する
入力信号
出力(検出)信号
指の無い時
指でタッチ
メッシュ形態では、
表裏パターンの交点がマス目に相当
0.1msぐらい
出力信号が変化し、タッチした事がわかる
1.背景 : 低抵抗化の必要性
信号検出(応答性)に対する電極抵抗の影響
強度
出力(検出)信号
入力信号
高抵抗
低抵抗
時定数: 小
時定数: 大
・大画面対応(検出点数が増える)
・ペン対応(接触面積小さく、容量変化小さい)
・応答速度アップ(スキャンレートアップ)には、
時定数が小さいこと(低抵抗)が必要
抵抗が大きいとデータ取り込み
(センシング)に時間がかかる
時間
スマートフォン 領域
タブレット PC 領域
ノート PC 領域
電子白板領域
ITOフィルム
(150~100Ω/□)
ITOガラス
(~50Ω/□)
高
低
抵抗
1.背景 : モジュールプロセスでの課題
ITOフィルムを使ったモジュールプロセス
スパッタ
センサーメーカー
ITO フィルム
パターニング
周辺配線
ITO フィルム
パターニング
周辺配線
モジュールメーカー
貼合
異方導電フィルム
カバー材貼合
フレキシブル PCB
カバーガラス
カバーフィルム
タッチモジュール
セット
メーカー
駆動 IC
真空系、ロール毎のバッチ処理
で生産性向上が難しい
タッチパネルモジュール
カバーガラス
銀ペースト印刷位置精度が
狭額縁化のネックとなる
光学粘着材
貼合わせ位置の調整が困難
(特に大画面対応で問題)
タッチパネルセンサー
フレキシブルプリント
配線板
駆動ICへ
複数のメーカー/工程にまたがり、
生産プロセスが複雑
異方導電フィルム
(ACF)
液晶画面
プロセス統合可能な材料が必要
内容
1.背景
2.開発技術の内容
3.社会貢献度
4.今後の展開
2.開発技術の内容 : 低抵抗化
EXCLEAR
★ ITOのスパッタ×レジストエッチング製法に比べ、高生産性のプロセス
★ 導電性をもたない写真銀画像を高密度化し、銀ペースト同等の導電性を付与
★ メッシュパターニングにより導電性と透明性を両立
支持体
支持体
支持体
ハロゲン化銀塗布
露光
現像
従来白黒写真画像
100
∞
銀箔
銀粉
銀ペースト
EXCLEAR
体積抵抗(μΩcm)
1000
100
EXCLEAR
10
銀ペースト
フィルムの透過率 (%)
支持体
支持体
定着
メッシュパターニング
95
90
EXCLEAR
ITO Film
85
80
75
70
1
0
5
10
銀密度(g/cm3)
15
0.1
1
10
シート抵抗 (Ω/□)
100
1000
2.開発技術の内容 : メッシュの視認性低減
★ 銀色調制御技術によりメッシュの視認性を低減し、画質を向上させた
入射光
反射光
正反射
入射光
入射光
正反射光
反射光
入射光
散乱光
散乱光
支持体・下層
基板
拡散・減衰光
拡散光 等
EXCLEAR
支持体・下層
基板
従来のメタルメッシュ
メタルメッシュの光散乱の模式図
EXCLEAR (化学現像)
メッシュが
視認され難い
物理現像
メッシュが
視認され易い
写真の色調 → 現像処理で銀色調を制御
2.開発技術の内容 : 画質と抵抗の両立
良
(視認され難い)
スマートフォン 領域
画質
(視認され難さ)
タブレット PC 領域
ノート PC 領域
電子白板領域
悪
(視認され易い)
高
ITOフィルム
低
抵抗
ITOガラス
(150~100Ω/□)
EXCLEAR
★ EXCLEARの低抵抗、高画質が認められ、タブレット、ノートPCの
複数メーカーに採用され、シェア拡大が進んでいる。
2.開発技術の内容 : プロセス統合
スパッタ
センサーメーカー
ITO フィルム
パターニング
周辺配線
ITO フィルム
パターニング
周辺配線
モジュールメーカー
貼合
異方導電フィルム
カバー材貼合
フレキシブル PCB
カバーガラス
カバーフィルム
タッチモジュール
セット
メーカー
駆動 IC
EXCLEAR (一括形成)
★ センサーと引き出し配線の一括形成
★ センサーのモノシート化、薄膜化
ITO
EXCLEAR
2シートラミネーション
ITO
+
50μmPET
25μmPET ITO
+
OCA(50μm)
+
センサー電極
(銀メッシュ)
開発中
従来
50μmPET
モノシート
OCA(50μm)
ITO
150μm
38μmPET
引き出し配線
(銀ライン)
Ag
+
25μmPET ITO
100μm
Ag
38μm
★ センサーモノシート化、
センサーと引き出し配線の一括形成
によるプロセス統合・簡略化
内容
1.背景
2.開発技術の内容
3.社会貢献度
4.今後の展開
3.社会貢献度 : タッチパネル市場規模
2兆8021億円
9856億円
タッチパネルモジュール市場は約3兆円、
うちフィルム型は約1兆円市場(右図)。
非ITOフィルムは2年間で2.3倍に成長見込み
で、EXCLEARはここに貢献していく。
1兆8165億円
出典 : 2015タッチパネルと構成部材市場の
将来展望 (株式会社 富士経済)
見込み
2766万㎡
3760万㎡
172万㎡
400万㎡
2年間で
非ITOフィルムは
2.3 倍に成長
出典 : 2015年版静電容量式タッチパネル・部材市場の徹底分析 (株式会社 矢野経済研究所)
3.社会貢献度 : プロセスでの貢献
〇 環境負荷低減にも配慮した“グリーン・サスティナブル技術“
 供給懸念のあるインジウム、特定化学物質に指定された
インジウム化合物を含まない
 写真処理を応用したプロセスから成り、社内の銀回収
システムにより、材料の銀をムダなく使用
 部材点数を減らし、ロスを削減
貼り合せ工程不要化とフィルム数削減(3枚→1枚)
周辺配線工程と銀ペースト不要化
〇 プロセス統合、簡略化によりモデル設計負荷軽減に貢献!
内容
1.背景
2.開発技術の内容
3.社会貢献度
4.今後の展開
4.今後の展開 : フレキシブルセンサー
10000
EXCLEAR
抵抗値変化 (Ω/Ω0)
Others ITO(1)
Others ITO(2)
1000
100
10
導電フィルム成形例
1
1
10
100
1000
屈曲回数
EXCLEARの屈曲性
10000
抵抗値変化 (Ω/Ω0)
EXCLEAR
1000
ITO
100
曲面EL照明への応用例
10
<新規センサー用途への応用>
フレキシブル性、延伸性に優れた特性を
活かした、フレキシブルセンサー、3D
センサー等への展開が期待されている。
1
0
5
10
15
20
25
30
延伸率 (%)
EXCLEARの延伸性
35
40
まとめ
■ タッチパネルセンサー ITO(酸化インジウム錫)の課題であった、
低抵抗化 ・インジウムフリー(供給安定性)・フレキシブル性向上
に対応した銀メッシュセンサーフィルム(EXCLEAR)を開発し、
実用化した。
■ タッチパネルモジュールの市場規模は約3兆円、うちフィルム型は
約1兆円市場。 また、非ITOフィルムは2014年→2016年で2.3倍
に成長見込み、EXCLEARはここに貢献していく。 EXCLEAR
によるプロセス統合・簡略化により、モジュールや駆動ICの設計
自由度向上を実現し、採用が進んでいる。
■ EXCLEARは、環境負荷低減に配慮したグリーン・サスティナブル
材料である(特定化学物質を含まない、銀回収システムによって
材料の銀を無駄なく使用、貼り合せ工程や周辺配線工程を不要化
し、部材点数を削減)。
■ フレキシブル性を生かしたフレキシブルセンサー、3Dセンサー等、
今後の伸長分野への展開も期待されている。