地球温暖化に伴う地下水の塩水化解析技術

地球温暖化に伴う 地下水の塩水化解析技術
■研究背景・目的
地球温暖化による海面上昇は、沿岸域の地下水を塩水化させることとなり、農業用水などの揚水が困難
になる可能性が高い。さらに温暖化による集中豪雨の増加は地下水涵養量の減少を招き、間接的ではある
が地下水位の低下をもたらす。この結果、上記と同様に地下水の塩水化を引き起こす可能性がある。
地下水の塩水化を防止する方法としては、人工的な
人工構築物
による制御
遮水壁の構築などによるハード的な方法と取水量を抑
制する(最適化する)といったソフト的な方法があげ
深井戸による淡水注入
地下遮水壁の構築
られる。このうちハード的な手法としては地下ダムの
建設や人工涵養などが代表的手法として挙げられる。
地下水涵養の強化
塩水化対策技術
このような背景のもとに、弊社では沿岸域において
埋立による陸地拡大
今後も永続的に地下水が利用できるように、地下水塩
水化対策技術を確立することを目的として、数値解析
取水技術
による制御
と室内実験を組み合わせた検討や揚水量の最適化手法
の確立に取り組んでいる。
最適化した取水計画
塩水化対策技術
■塩水化対策技術の検討
(1)地下水遮水壁の構築
地下ダムは水理的基盤まで遮水壁を挿入して塩水侵入を阻止する「塩水侵入阻止型」と、水理的な基盤
まで遮水壁を挿入しないが海岸部の地下水を堰き止めて地下水位を上昇させ、塩水侵入を阻止する「地下
水流出抑制型」に分類される。塩水侵入阻止型による検討を対象として、遮水壁構築後の効果を把握する
ため、室内模型実験と数値解析による検討を行った。その結果、地下遮水壁の構築により侵入していた淡
水側の塩水が徐々に塩水側に排除され、淡水域が拡大する効果が認められた。
5h
15h
10h
5h
15h
10h
20h
20h
地下ダム構築による効果(左:室内実験結果、右:数値解析結果)
日本工営株式 会社
技術本部 中央研究所
〒300-1259 茨城県つくば市稲荷原 2304
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2805AJ
地球温暖化に伴う
地下水の塩水化解析技術
(2)深井戸などによる淡水注入
深井戸による淡水注入は、淡水の地下水位(ポテンシャル)を上げることにより、塩水侵入を阻
止することを狙った対策である。なお、注入位置を表層部にすると雨水浸透などによる涵養量強化
対策と同等となる。淡水注入手法の効果を把握するため、室内実験と数値解析を行った。淡水の注
入により塩水楔は少量ではあるが後退し、塩水楔近傍で淡水を注入することが最も効果的であるこ
とが判明した。なお、遮水壁に比べるとその効果は低く、表層付近の注入(雨水浸透)は、塩水侵
入対策としてみると効果が低かった。
塩水楔の先端での注入が
効果的である
0.3
22
20
0.25
Z-Direction(m)
18
16
0.2
14
12
0.15
10
0.1
8
6
0.05
4
2
0.05
0.1
0.15
0.2
0.25
0.3
0.35
0.4
0.45
0.5
0.55
0.6
X-Direction(m)
淡水注入による効果(左:室内実験・数値解析結果、右:最適注入位置の検討結果)
(3)揚水量の最適化
上記の2例はハード的な手法を用いた対策であるが、予め塩水化が生じることを想定して、個々
の井戸のみで検討している最適取水量を地域で最適化して、総利用量を最大にすることも一案とし
て考えられる。ここでは、遺伝的アルゴリズムと焼きなまし法を組み合わせた多目的最適化手法に
より、塩水阻止型の遮水壁の高さ毎の取水量と水質との関係を検討した。予測結果をみると温暖化
により取水量・水質は現況に比べ、減少・悪化することになるが、基盤から高さ 30m 以上に遮水壁
を構築することができれば、現況と同等の水質で取水をすることができると予想された。
2.0
1.8
Σ濃度(X1000mg/l)
1.6
遮水壁の高さ10m
遮水壁の高さ30m
遮水壁の高さ50m
遮水壁の高さ70m
遮水壁の高さ80m
遮水壁の高さ90m
現況
1.4
1.2
1.0
水
揚
遮水壁
海面上昇
0.8
淡水
0.6
高さを変更
0.4
0.2
0.0
-1.0E-04
塩水
-1.5E-04
-2.0E-04
-2.5E-04
1/(Σ揚水量)
-3.0E-04
-3.5E-04
遮水壁の高さおよび地下水取水量と水質の関係
温暖化による塩水化対策はハード面、ソフト面を組み合わせ対応することにより、その影響を軽
減できる。これには、室内実験と数値解析を組み合わせた検討が有効である。