ギャグアニメ理解過程に影響する要因の検討 梶井 直親 (法政大学大学院人文科学研究科) キーワード:アニメ理解,イベントインデックスモデル,ギャグアニメ Study of Factors Influencing on Process of Comedy Anime Comprehension Naochika KAJII (Graduate School of Humanities, Hosei Univ.) Key Words: Anime Comprehension, Event-Indexing model, Comedy Anime 問 題 と 目 的 梶井(2012a,2012b)は,イベントインデックスモデル(EI モ デル)(Zwaan, Magliano & Graesser, 1995)の枠組を用いて, アニメ理解に,どのような要因が影響を及ぼしているかにつ いて検討した。具体的には,EI モデルにおいて物語理解に 影響を与えることが示唆されている,5 つの状況的次元(時 間,空間,登場人物,登場人物の目標,因果関係)が,アニ メ理解にも影響を与えているかについて,反応時間を従属変 数として実験を行った。この反応時間は,アニメのカットが 終わった時から,次のカットを見るためにパソコンのキーを 押すまでの時間を,1 カットごとにとったものである。また カットとは 1 つのカメラで撮った,ひとつながりの映像のこ とである。実験の結果,ストーリーアニメ(梶井,2012a)では 時間次元の変化が,ギャグアニメ(梶井,2012b)では因果次元 の変化が,反応時間の増加に有意な影響をもたらすことが示 された。つまり,アニメのジャンルによって,影響を及ぼす 状況的次元が異なることが明らかとなった。 しかしながら,ストーリーアニメの材料は,全体で 1 つの 物語であった(梶井,2012a)。一方,ギャグアニメ(梶井, 2012b) の材料は,複数の 2 分前後の短い物語で構成されて いた。そのため,結果の不一致はアニメのジャンルの相違に よるものか,材料に含まれる物語の数の相違,つまり物語の 構成によるものなのかが明らかではない。そこで本研究で は,アニメのジャンルと物語の構成のどちらの要因がアニメ 理解過程に影響するかを検討する。そのため,全体で 1 つの 物語であるギャグアニメの材料を使用し,梶井(2012a,b)と 同様の手続きを用いた実験を行う。 方 法 参加者 日本語を母国語とする大学生,大学院生 38 名(男性 12 名,女性 26 名)。年齢は 19 歳 2 か月から 25 歳 5 か月で, 平均年齢は 21 歳 5 か月であった。 手続き 映像はカットごとに区切った。1つのカットの映像 刺激の再生が止まった後,スペースキーを押すことで,次の カットの映像刺激が再生されるようにした。映像刺激が止ま ってからスペースキーを押すまでの時間を,反応時間として 計測した。この時間が,他のカットよりも長いカットにおい て,状況モデルが更新されると考えられる。参加者には,1 つのカットの映像刺激の再生が止まった時,続きが見たいと 思ったらスペースキーを押すように教示した。 材料分析 映像刺激は「フルメタル・パニック?ふもっふ」 を使用した。刺激の長さは 16 分 24 秒であり,カット数は 176 カットであった。状況的次元は Zwaan, Langston, & Graesser (1995)の 5 次元の全てを採用した。変化の有無の 判定は第三者と個別で行い,判定が食い違った箇所は合議で 判定を決定した。一致率はそれぞれ,時間次元は 90.0%,空 間次元は 94.3%,登場人物次元は 83.4%,目標次元は 81.9%, 因果次元は 83.5%であった。また,状況的次元以外に反応時 間に影響すると考えられる変数として,カットの長さ,カッ トの系列位置,BGM の開 Table1 ギャグアニメでの反応時間 始,BGM の終了を補助的 の重回帰分析 変数として加えた。以上 の説明変数のうち,カッ 変数 β VIF n トの長さ,カットの系列 時間 23 n.s. .130 1.65 位置以外の変数は全て 49 n.s. 空間 -.030 1.48 52 n.s. 1,0 でコード化した。 登場人物 .032 1.42 86 n.s. 結 果 目標 .085 1.43 37 * .182 1.45 反応時間を従属変数と 因果関係 し,状況的次元の変化と -.122 1.07 n.s. 補助的変数を独立変数と 長さ 系列位置 .129 1.04 † した重回帰分析を行っ 14 * BGM開始 .174 1.09 た。その結果を Table1 14 * .164 1.05 に示した。共線性に問題 BGM終了 のある変数(VIF>2)はな .138 R2 かった。重回帰式は有意 † p <.10, * p <.05, ** p <.01, であった(F(9,166)=4.12 *** p <.001 p<.001)。説明変数のう ち,因果関係の変化, BGM の開始,BGM の終了の標準偏回帰係数が有意であった。 また,系列位置のそれも有意傾向であった。これらの変数の 標準偏回帰係数は正の方向であった。つまり,因果関係の変 化,BGM の開始,BGM の終了があるカットでは反応時間が増 加することが示された。 考 察 分析の結果,物語の構成が同じである,ストーリーアニメ とギャグアニメとでは,アニメ理解に影響する変数におい て,相違点と共通点があることが明らかとなった。 相違点としては,ギャグアニメにおいてのみ,状況的次元 のうち因果関係の変化が,反応時間に有意な影響を及ぼすこ とが示唆された。この結果は,同じアニメジャンルで,物語 の構成が異なる梶井(2012b)の結果とほぼ同様である。因果 関係の変化は,ギャグのオチにあたっている。そのため,物 語の構成にかかわりなく,ギャグアニメにおいては,因果関 係の変化が更新に影響したと考えられる。 一方,BGM の終了は両アニメジャンルとも反応時間に有意 に影響を与えていた。BGM は 1 つの出来事が終了する時に終 了することが多い。そのため,BGM の終了によって,出来事 の終了を感知し,状況モデルが更新された可能性がある。今 後,両アニメジャンルにおいて影響がみられた BGM の効果の 詳細について検討すべきであろう。 主 な 引 用 文 献 梶井 直親 (2012a). 状況的次元の連続性破綻におけるアニ メ視聴理解への影響 日本認知心理学会第 10 回大会発表 論文集,45. 梶井 直親 (2012b). 状況的次元の連続性破綻におけるアニ メ視聴理解への影響(2) 日本心理学会第 76 回大会発表 論文集,840.
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