11月号 - ジュンク堂書店

I S S N 0914−3157
2013年 月5日発行
︵毎月1回5日発行︶
通巻 号
昭和 年7月 日第三種郵便物認可
ほんのしるべ
420
11
61
15
2013 .
11月号
世界の本屋さん
vol.23
フィンランド・ヘルシンキ
アカテーミネン書店
ヘルシンキ一番のデパート、ストック
レファレンスがある。一階左翼に一〇〇
者対象である。一階には五箇所のレジと
幼児コミックが漫画で、コミックは年長
ノセ事務所
能勢
仁
マンの隣にあるのがアカテーミネン書店
ルトという喫茶室であった。このティー
坪の雑誌、新聞売場があった。日本の新
ル ー ム の 家 具 が 北 欧 家 具 で、 デ ザ イ ン、
である。この店は、世界的に有名な建築
地下一階、
地上三階の大書店である。二・
色調が素晴らしかった。教育国にふさわ
聞は無かった。二階の突き当たり奥はア
三階は吹きぬけで、一階に太陽光が差し
家アールドの作品である。建物を見るだ
込 ん で 温 か み の あ る 売 場 に な っ て い る。
OECDによる学習到達度調査で学力世
しく、二階に教科書売場四十坪があった。
けで楽しい。
一階中央の一等地に十五坪くらいの四角
発見した。二十二ユーロと十五ユーロで
二階の地図売場で、京都、東京の地図を
界一のフィンランドらしく、小学生教科
い広場があり、ソファー、ベンチが置かれ、
建築に負けず商品も素晴らしい。一階
あ っ た。 地 下 売 場 は 文 具 の 総 合 展 示 で、
書、 問 題 集 が 売 場 の 半 分 を 占 め て い た。
は新刊、文芸、ペーパーバックス、ミス
伊東屋を感じさせた。
多くの人が休み、読書し、談笑している
テリー、MANGA、コミック、こども
風景に、余裕の民族性を感じてしまう。
の 本 で あ る。 漫 画 は 今 や 世 界 語 で あ る。
(表紙題字・陳舜臣)
11 月
くらかけ山の雪
友一人なく
たゞわがほのかにうちのぞみ
かすかなのぞみを托するものは
世界の本屋さん
月
著書を語る
○ ﹁那覇の市場で古本屋
﹁書標﹂歳時記
11 23
会
科
科
学 コ ン ピ ュ ー
学
学
医
タ
書
1
ひょっこり始めた︿ウララ﹀の日々﹂ 宇田
智子
2
書標・書評
﹃吉田知子選集Ⅱ 日常的隣人﹄ほか
然
特集
読む人ぞ、知る
今月のおすすめ
社
自
人 文 科 学
文 学 ・ 文 芸
術
文 庫 ・ 新 書
芸
用
書
地 図 ・ 旅 行 書
実
童
書
語 学 ・ 辞 典
児
往復書簡をはじめませんか
コミックフロアより
読者から
インフォメーション
本屋うらばなし
﹁人が生まれ育つ場所﹂の書店
※表示価格はすべて税込価格です。
−1−
麻を着
けらをまとひ
汗にまみれた村人たちや
全くも見知らぬ人の
その人たちに
たまゆらひらめく
﹃宮澤賢治詩集﹄︵思潮社︶より
24 23 21 19 17 14
4
6
25 23 22 20 18 16
31 30 28 26
499
著書を語る
○
︱︱
ひょっこり始めた︿ウララ﹀の日々﹄
ひと昔前は、県産本は沖縄県内の売上だけで採算がとれてい
﹃那覇の市場で古本屋
たそうです。しかし出版不況はとうぜん沖縄にも及んでいて、
宇田
智子
沖縄は那覇の第一牧志公設市場の向かいで、小さな古本屋を
店に並ばないような本を置くのが売りでもあるし、なんといっ
そこで頼りにするのはやはりジュンク堂書店です。ほかの書
ません。まずは書店に置いてもらわなければ。
の沖縄ファンや本好きな人になんとかアピールしなければなり
今は県外の書店にも積極的に販促しています。この本も、県外
始めました。﹁市場の古本屋ウララ﹂といいます。十一月十一
日でちょうど二年です。
古本屋になるまで、私はジュンク堂書店で働いていました。
池袋本店で七年、那覇店で二年。ジュンク堂に入社し、仕事を
するうちに沖縄に興味をもつようになって那覇店開店のときに
異動し、なぜかそこを辞めて古本屋を始めてしまいました。
も期待しました。
ても元・職場。少しは優遇してくれるだろうと、出版社ともど
ボーダーインクの人に言われて、何枚か下書きしました。﹁こ
このいきさつと、古本屋になってからのあれこれを書いたの
が﹃那覇の市場で古本屋
ひょっこり始めた︿ウララ﹀の日々﹄
です。今年の七月に、那覇の出版社﹁ボーダーインク﹂から出
間の本なんて置けるか、と怒られるんじゃないか。いや、ジュ
ジュンク堂向けの新刊案内に直筆メッセージを書いてよ、と
してもらいました。本誌﹁書標﹂の﹁本屋うらばなし﹂に掲載
んにちは﹂? ﹁お久しぶりです﹂? 今さらなんだ、辞めた人
本にも書いたとおり、沖縄の出版社の本︵=沖縄県産本︶を
された、那覇店開店についての原稿も入っています。
も。妄想はだんだん悪いほうに傾き、不安になってきました。
FAXを送ると、次々に注文が返ってきました。知っている
ンク堂の人は心が広いから面白がってくれるにちがいない。で
人の名前もあります。﹁楽しみにしています﹂と書き添えられ
県外の書店に流通させるのは簡単なことではありません。書店
のがふつうですが、沖縄県産本は取引条件や送料の関係で﹁買
たものもあります。思いがけず大胆な数字を書いてくれた店、
業界では本を見計らいで注文し、売れ残りは出版社に返品する
切、返品不可﹂です。不良在庫になるリスクがあるので、沖縄
精いっぱいの数を入れてくれた店。それぞれの注文から気持ち
県産本を置けるのは大型書店か、よほど気概のある本屋だけと
いうことになります。
−2−
499
んとしました。注文書がこんなにあたたかいものだったなんて。
が伝わってくるようで︵これも妄想かもしれませんが︶、じー
らえることがうれしく、注文すれば全国どこでも買える本の流
なくても買ってもらえます。﹁買う﹂という行動を起こしても
県外の分は船に載せて東京の取次に送ると、そこから全国の書
した。県内の書店には出版社の人が自ら車で持っていきます。
本は全国の書店で活動してくれているのです。書店に本が並ぶ
んいました。私が市場中央通りの店にただ座っているあいだも、
れました。本を見て初めて店のことを知ったという人もたくさ
球陽堂書房で、TSUTAYAで買ったという人が店に来てく
県内でも、ジュンク堂書店那覇店で、リブロで、宮脇書店で、
通システムをありがたく思いました。
店に運ばれます。今はまだここにしかない本が、十日もすれば
いよいよ本ができて、真っ先に自分の店に納品してもらいま
私はいつも書きなぐっていたのに、と反省もしました。
北海道の店にも並ぶ。いったいどんな反応があるだろう。つま
ことの宣伝効果を、身をもって思い知りました。
人がいることを願っています。
がいるように、本が並ぶ書店でこの本を見つけて開いてくれる
店が連なる商店街で小さな古本屋を目にとめて入ってくる人
らなくてがっかりされないかしら。売れなかったらどうしよう。
またもや悪い妄想に取りつかれて、本の完成もすなおに喜べま
金曜日の午前中に那覇港を出た本たちは、月曜の夜には東京
−3−
せんでした。
の一部の店に到着しました。少しずつ、受けとってくれた人の
声が聞こえてきました。たくさん仕入れたからがんばって売る
よという元同僚、なんでまた沖縄で古本屋なんて始めたのかと
思っていたけど少しだけ理解できた気がするという友人、沖縄
あるとき店に届いた封筒には懐かしい人の名前がありまし
に興味があって手にしたという見知らぬ人。
た。かつてお世話になった出版社の方で、私が沖縄に来てから
は音信が途絶えていました。たまたま書店で見つけました、古
本屋を始めたことも知らなかったけれどお元気そうで何よりで
す。これからも市場に人通りが絶えませんように。以前と変わ
店を始めたときも遠くの人たちからたくさん励ましてもらい
らずやさしい口調で書かれていました。
ましたが、いつか沖縄に行きたいです、という言葉で終わって
しまうのがもどかしくもありました。それが、本なら沖縄に来
『那覇の市場で古本屋』
ボーダーインク・1,680 円
そんな吉田知子の世界を堪能したあとに
とのある北海道の湧別川沿いの地域に郵便
桂 子 は、 父 の 転 勤 で 中 学 時 代 を 過 ご し た こ
東京での会社勤めや男との生活に疲れた
今 作 は 中 編 小 説 と 言 っ て い い 分 量 だ が、 ス
は、巻末に町田康による問いが待っている。
配 達 員 の 職 を 得 て 生 活 の 場 を 移 す。 極 力 シ
リムにまとまった佳作。
表題作﹁日常的隣人﹂を読んで答える問いな
もう後戻りはできないような気さえする。だ
﹃吉田知子選集Ⅱ
日常的隣人﹄
のだが、これがまたなんとも興味深くこの短
が、その感覚は負の感覚ではなく心地いい。
景文館書店・一五七五円
常 的 母 娘、 日 常 的 夫 婦、 日 常 的 隣 人 な ど、
合 わ せ て 十 一 編 か ら な る こ の 短 編 集。 日
非とも堪能していただきたい。
た経歴などはひとまずおいてこの文学を是
で 芥 川 賞 を 受 賞 し て い る の だ が、 そ う い っ
い と 切 に 思 う。 一 九 七 〇 年 に﹃ 無 明 長 夜 ﹄
い方がいたら是非ともこの本で知ってほし
吉 田 知 子 を 知 っ て い る だ ろ う か。 知 ら な
きずりこもうとしているように感じられるの
る。吉田氏と町田氏がタッグを組んで話に引
何度も読んでこの答えでいいのか?と自問す
るような生易しい問いではないので、何度も
えだしたら止まらない。一朝一夕で答えがで
た無限の想像の可能性を膨らませてくれ、考
る。答えなるものは載っておらず、それがま
編をより楽しませてくれる一役をかってい
二 人 の 性 の 成 行 き を、 あ た か も 北 海 道 の 自
臭 い 人 間 関 係 を 描 く こ と を 回 避 し な が ら、
さ れ ず 謎 め い た ま ま。 物 語 は そ う い っ た 泥
抱える諸々の問題も後半になるまでは明か
葛 藤 に つ い て は あ ま り 語 ら れ な い。 和 彦 の
関 係 を 深 め て ゆ く。 桂 子 の 東 京 で の 生 活 や
水力発電所の管理をしている和彦と出会い
ン プ ル な 生 活 を 送 っ て い た が、 住 み 込 み で
は 長 々 と 説 明 し た り は し な い。 小 説 の ラ ス
トに配された、嵐が地域を直撃した後のシー
デビューこそ五十三歳と遅まきながら、そ
ンは、目の覚めるような美しさだ。
村上春樹へのロングインタビューなど印象に
−4−
吉田知子著
あらゆる人間関係の中で生じる出来事の話
然 の 一 点 景 で あ る か の よ う に、 情 念 を そ ぎ
落 と し て 描 く。 こ れ は お そ ら く か な り 意 図
だが、それが愉しいのだ。
的 に 行 っ て い る の だ ろ う。
﹁絵に描いたよう
新潮社・一四七〇円
な、 ど こ か で 聞 い た こ と の あ る 話 ﹂ を 著 者
選 集 Ⅲ ま で 刊 行 す る 予 定 と の こ と で、 い
松家仁之著
﹃沈むフランシス﹄
まから楽しみで仕方ない。
︵羊︶
で、 そ の 一 編 一 編 が ユ ー モ ア に 溢 れ て い て
面 白 い。 そ の リ ズ ミ カ ル な 話 運 び や 話 の 可
笑しさはまるで落語をきいているかのよう。
しかしこの非日常的に思えるような可笑し
な 話 だ が、 逆 に こ う い っ た あ り え な い 可 笑
しさで溢れているのが日常生活なのかもし
デ ビ ュ ー 作﹃ 火 山 の ふ も と で ﹄ が 鮮 烈 な
れ ま で に 新 潮 社 の 編 集 者 と し て ク レ ス ト・
印 象 を 残 し た 著 者 の 第 二 作。 前 作 は 建 築 設
計事務所を舞台に、建築設計にまつわるディ
ブックス創刊、
﹃考える人﹄創刊、他に﹃考える
そしてそんな面白く可笑しい話なのだが、
れない、そんなことも思わせてくれる。
不穏な香りが漂い、少し違和感があるような
テ ィ ー ル、 浅 間 山 周 辺 の 自 然 描 写、 人 の 動
人﹄二〇一〇年夏号で﹃1Q
﹄を完結させた
しこりみたいなものも最後に残してくれる。
作 や 表 情 な ど が 丹 念 に 描 か れ、 読 み 応 え 十
分 の 本 格 長 編 小 説 だ っ た。 そ れ に 比 べ る と
それがなんとも不思議で、そこが作者独特の
ものだと思うのだが、一旦嵌ってしまったら
84
骸 を 弔 い、 念 仏 を 唱 え る。 念 仏 は 生 者 の た
やがて証券取引所の壁を乗り越えたアル
着実に旧来の相場師たちを淘汰していった。
ゴ リ ズ ム は、 ハ ー ド ウ ェ ア の 進 歩 に よ り、
残る仕事もされてきた。これからの新人にし
膨大なデータをものすごいスピードで渉猟
めのもので、心から仏の名を呼んで願えば、
どんな者にでも救いの手を差し伸べてくれ
す る 能 力 を 手 に す る 一 方、 ゲ ー ム 理 論 な ど
て円熟の作家としての仕事が楽しみだ。︵賀︶
る。 そ う 人 々 に 説 き、 市 司 の 衛 士 に 何 度 追
の 成 果 を 貪 欲 に 取 り 込 ん で い く。 ヒ ッ ト 曲
﹃捨ててこそ空也﹄
い払われても市の通路を歩きまわって乞食
を見出し、テロとの戦いに動員され、スポー
し て 接 客 効 率 を 上 げ、 遂 に は 恋 人 選 び も 代
し、 た だ ひ た す ら に 南 無 阿 弥 陀 仏 と つ ぶ や
行 す る よ う に な る。 製 薬、 医 療 の 世 界 で も
く。 そ の 姿 に 人 々 は 自 然 と 掌 を 合 わ せ る よ
平安の世を必死に生きる人々の姿が鮮明に
力を発揮し、弁護士の仕事も楽々とこなす。
梓澤
要著
新潮社・二一〇〇円
空也上人といわれて私が真っ先に思い浮か
描かれているからこそ、空也が民の為に涙を
べたのは、表紙にも使用されている空也上人
字が阿弥陀仏となって現れたという口承を基
流す姿が心を打ち、この世の苦しみから彼ら
処 理 速 度、 コ ス ト、 正 確 さ で 人 間 を 足 元 に
ツ 選 手 を ス カ ウ ト し、 人 間 を カ テ ゴ ラ イ ズ
に作られたこの像は有名で、見たことのある
も 寄 せ 付 け な い ア ル ゴ リ ズ ム は、 多 く の 仕
うになっていく。
人は多いだろう。しかしその生涯については
を救いたいという気持ちが痛いほど伝わって
事の現場で、人間にとって代わっていった。
像だった。彼が唱えた念仏はその一文字一文
伝説の類が多い。市の聖と呼ばれた空也とは
くる。人は誰でも皆、救われなければならな
る 仏 法 を 探 し た。 そ し て 彼 の 辿 り 着 い た 答
め に 仏 法 を 学 び、 民 も 貴 顕 も 等 し く 救 わ れ
の が、 一 九 六 九 年。 本 能 と 勘 と 研 ぎ 澄 ま さ
をウォールストリートに最初に持ち込んだ
トデータを取り込んだ﹁ブラックボックス﹂
ト ー マ ス・ ピ ー タ ー フ ィ ー が、 マ ー ケ ッ
KADOKAWA・一六八〇円
で あ ろ う こ と を 危 惧 す る。 ア ル ゴ リ ズ ム に
のかけがえの無さ﹂に到達することはない
させられているのではないか?
創 造 的 営 為 が 妨 げ ら れ、 創 造 的 進 化 が 停 止
た と し て も、 否 そ う で あ る が 故 に、 人 間 の
ズムが膨大なデータを正確に素早く渉猟し
だ が、 ぼ く は 思 う の だ。 い か に ア ル ゴ リ
ムが世界を支配﹂しているようにも見える。
示 に 従 う よ う に な り、 す で に﹁ ア ル ゴ リ ズ
そして今や人々は喜んでアルゴリズムの指
いったいどんな人物だったのか。
︵S︶
﹃ アルゴリズムが世界を支配する﹄
いう一人の男の姿がここにあった。
い。その一心でひたむきに戦い続けた空也と
私が感じたのは、何よりも民のことを想っ
て い た 人 な ん だ と い う こ と だ。 天 皇 の 子 と
し て 生 ま れ な が ら も、 母 の 身 分 の 為 に 疎 ま
れ、 結 果 身 分 を 捨 て 孤 児 と し て 民 衆 の 中 で
え は、﹁ 大 乗 の 深 義 は 空 な り ﹂
、すべては空
れた腕で稼いできたトレーダーたちの反発
は、﹁死の自覚﹂はありえない。
クリストファー・スタイナー著
と 悟 る こ と で し か、 苦 し み か ら 逃 れ る す べ
に 会 い な が ら、 ピ ー タ ー フ ィ ー の ア ル ゴ リ
生 き る こ と を 選 ぶ。 そ こ で 見 た 民 の 暮 ら し
はないということだった。
ズ ム は、 そ の ず ば 抜 け た 計 算 能 力 に よ っ て
の 悲 惨 さ か ら、 苦 し ん で い る 人 々 を 救 う た
そこから彼は自らの沙弥名を﹁空也﹂とし、
︵フ︶
そして何より、アルゴリズムは決して﹁個
生 涯 名 乗 り 続 け た。 民 の 為 に 井 戸 を 掘 り、
−5−
多くの埋もれた絶版本の中から、再び
前月号・前編のご紹介
世に送り出したい本を復刊するため、一
れて出会ったんです。それでたまた
ま詩人のブログを見ていたら絶版に
すが、これは島田さんが考えられたので
︱﹃さよならのあとで﹄は空白が多いで
なりましたって。
荻野さんと、夏葉社の島田さん。本特集
人で出版社を立ち上げた、景文館書店の
の前編ではお二人の出版社を立ち上げた
すか。
そうです。でも最初出来た時、あま
島
りに空白が多くて自分でもびっくり
経緯、作品や人との出会い、価格・部数
の設定等をお話しして頂きました。では、
インタビュー後編をお読みください。
︱ 夏 葉 社 の 最 近 の 刊 行 物﹃ は や く 家 へ
ク受けたんです。
りに白ページが多くて途中でショッ
ならないんですが、本になるとあま
したんです。ゲラで見ていると気に
帰りたい﹄はどんな経緯で作られたの
−6−
インタビュー後編
ですか。
これを作るのに二年以上かかった。
作 っ て る 途 中 に 大 震 災 が 起 こ っ て、
それでイラストとかを入れて優しい
感じにするのがいやで、もっとひり
ひ り し た も の に し た く て、本 当 は
もっとイラストがあったんですが思
荻
好きな詩じゃないとやれない事で
すね。
い切ってどんどん取ったんですよね。
島
﹃さよならのあとで﹄を作ろうと思っ
て色々と類書を、詩とイラストでし
作品を一篇でも多く入れる為には
二 段 組 に し て 文 字 を 小 さ く す れ ば、
いた時にデザイナーさんが教えてく
かも﹁死﹂を取り扱った本を探して
『はやく家へ帰りたい』
読んでもらうことができるので、こ
もっとたくさんの小説を同じ値段で
るとかはあります。
しょうがない。でも、白い頁を入れ
にはしてないです。半端になっても
景文館さんは、デザイナーさんにお
島
願いしているんですか。
思います。
で、入れっぱなしにしているんだと
それは無くすとかえって高くなるの
荻
最後のほうで三ページくらい白い頁
だ け が 入 っ て る 本 と か あ り ま す が、
れ で い い の か な と や っ ぱ り 考 え る。
﹃さよならのあとで﹄は空白のペー
ジもお金がかかっていて印刷したの
とコストは同じなんです。
島
印 刷 代 は 印 刷 機 を 使 う 台 数 な の で、
文字数は関係ないんです。十六ペー
ジ の 倍 数 が 基 本 な ん で。 一 二 八、
一 四 四、 一 六 〇、一 七 六、一 九 二、
荻
あ、自分で。
島
装丁もですか。
荻
はい。
!
島
すごい
︱この写真もご自分で撮られたのですか。
はい。これは、鉄道の駅の青信号の
荻
写真なんです。聞かないと何だか分
からないと思いますけど。
︱作品とは関係があるのですか。
荻
直接はないですが、僕のイメージで
す。そんなに明るい話じゃないので、
黒をベースにしつつ、でも危険とか
そういうんじゃなくて、希望とか人
間 の お か し み と か、 た だ 暗 い だ け
じ ゃ な い と 僕 は 思 っ て い る の で、
ちょっときれいな色の光も入れた
かった。
島田さんは最初からデザイナーさ
んにお願いしたんですか。
島
デザイナーさんです。
︱イメージみたいなものをデザイナーさ
んに伝えてですか。
島
そうです。僕は細かい事ができない
性格なので、プロに任せた方がいい
かなと。今も変わらずどっちにしよ
うかってA案とB案があったら、自
−7−
二〇八、二二四、二四〇ページ⋮⋮
ごとに値段が変わっていく。
荻
その単位だと、切りが良くて無駄が
少ないって事です。ほとんどの本が
十六とか八で割り切れるページ数で
出来ているはずです。もちろん半端
な数字でも作れますけど。
島
安くしようと思ったら、二四一ペー
ジだったら一ページを削るってこと
ですね。目次に四ページ使いたくて
も三ページにするとか。
でも、そこに合わせることを最優先
荻
『吉田知子選集1
脳天壊了』
分で決めずにデザイナーさんに決め
てくださいって。特に
﹃冬の本﹄
や
﹃本
︱文字を読み取るソフトの存在を知って
荻
よりプロのやり方ですね。僕は自分
で 文 字 入 力 し て い る の で。 そ れ を
分で InDesign
︵レイアウトソフト︶
を買って勉強して、直しだけはデザ
いて、あえて手入力を選んだのですか。
島
もちろんあります。細かい修正を出
すのが心情的に辛くなったんで、自
イナーさんの所に行って自分で直し
に流しこんでいます。
InDesign
うになってからは、僕の仕事はコー
ています。
屋図鑑﹄のような違う企画をやるよ
ディネーターというか、最初の一投
荻
そうですね。元の本には送り仮名の
不統一等も多くて、そういう部分も
だけやって、
後はプロの人たちにやっ
荻
直しましたよってデザイナーさんに
島
そうです。あと原稿では、赤字が最
味で手入力の方が良いのかなと、そ
るんですが、それに気づくという意
かった。著者校正もしてもらってい
できれば自分で発見して修正した
初のゲラから五十カ所とか平気であ
の時点では判断しました。
法で十四貫と書いてあった箇所を
−8−
報告するんですか。
るんです。復刊といえども、OCR
等は入っているのですか。
︱吉田知子作品の復刊では文章の手直し
︵文字を読み取るソフト︶で原稿を
読み取るんです。
荻
コピーを取ってその後に文字情報を
読み取る。
五十キロに直したり、著者の判断で
荻
あります。ワンフレーズ削ったとか
付け加えたとか。重量単位で、尺貫
ですよ、でも十%は間違う。それは
島
そう。それで九十%くらいは読むん
形だけで間違うので、極端な話﹁ぼ
︱本の流通は、書店と出版社が直接商品
汽車を電車に直したりとか。
とお金をやり取りする﹁直接取引︵以下
くは﹂が﹁ぽくは﹂になったり。そ
ラを校正者使って、自分で読んでつ
荻
プロに頼んだ方が良い点と、こうい
ぶすんです。
ういう自分の入力だと間違えないゲ
ありませんか。
うところはちょっと、みたいな点は
てもらう方がやりやすいですね。
『冬の本』
『本屋図鑑』
﹁ 直 ﹂︶ と、﹁ 取 次︵ 書 籍 問 屋 ︶ 経 由 ﹂ の
円の本を今後出したい時に、直だと
所で販売してくれないと売れない本
本いいなと思って、ちゃんとした場
ことは年に一回あるかないかだと思
だと思うんですよ。小さい本屋さん
うんです。その出会いにかけるって
送料で赤字になるケースも出てくる
代や印税を引いて、送料で二九〇円
い う の で も な い 気 が す る ん で す。
二つがあり、お二人とも取り次ぎ経由を
払って返品されてきたら⋮⋮。それ
オートマチックに売れる本だってあ
で棚に一冊差してあっても、売れる
島
単純に手間がかかるからですね。発
は本屋さんにとっても仕入れにくい
んです。七〇〇円の本だと一冊売れ
送はなんとかできますが、請求とか
本になると思うんです。
て五〇〇円弱の売上でそこから印刷
はね。あと例えば個人書店とかに直
選ばれてますがその理由は。
接請求をするっていうのが申し訳な
間もありますけど、心情的にも辛い
大していこうって会社は意欲的に直
真ん中ってやりづらいんですよ。拡
島
直 っ て 本 当 に 零 細 か 大 き く や る か、
くれて、初めて売れると思う。
こういう本だからこの棚で販売して
ると思うんです。でもそういう本で
ので。例えば三冊の請求を立てて期
改めて思いましたけど、荻野さん
の 本 っ て 商 売 気 が な い で す よ ね。
は な い ん で す よ ね。 書 店 員 さ ん が、
日 を 過 ぎ て も 払 っ て な か っ た ら、
で や っ て る ん だ と 思 う ん で す け ど、
くて。お金払ってくださいとか。手
払ってくださいって、言いたくない
僕は大きくしたいわけでもないので。
島
実際にこの間も、ウララさん︵沖縄
じ に な る の が い や だ な っ て。 た だ、
を言って良く見せようとしている感
うか分からないのに、大げさなこと
だけれども、読者にとって待望かど
荻
﹁待望の﹂とかそういうの入れたく
なかったんです。僕にとっては待望
跡の復刊﹂とか。
もっと、帯に派手に、﹁衝撃の﹂﹁奇
じゃないですか。
ちゃうと思うんです。いつ送るって
荻 一人ではとりあえず、僕には無理で
す。本屋さんに、取引先に迷惑かけ
直のお店が増えると、管理もそれだ
島
言ったけど間に合わなかったりとか。
荻
僕もそれできないですね。
け複雑になるので。それで、ああ今
うかなとか、でも仕事に集中したい
の古書店︶に送るのをすっかり忘れ
日は請求の電話しようかな、やめよ
なって葛藤が一日の中であって仕事
分かりにくいという点については反
ついて知らない人にとって、内容が
吉田さんやロジェ・カイヨワの本に
てて。古書店とは直なので。
僕の本も景文館さんの本も一緒だと
島
思うんですけど、書店員さんがこの
の妨げになる。僕は直でお願いして
いるお店もけっこうあるので。
あと例えば、一冊八〇〇円・七〇〇
荻
−9−
省もしています。
島田さんは本屋さんで働いたこと
ありますか。
島
ない。働きたいけど、週一日とかで
は無理ですよね。
い時に本屋さんって楽しいなって気
減する気がするんです。そうじゃな
本を買う場所だとしたら、魅力が半
刷りで利益が出るようになっている。
をつくって、それで二刷り三刷り四
あります。それだけお金をかけて本
りでは利益が出ないと聞いたことが
事情について知らない。どういう風
も 吉 田 さ ん の 本 を 静 岡 の﹁ 水 曜 文
力って半減してしまう気がする。僕
でも本屋さんがネットに追いつけ
追い越せってなると、本屋さんの魅
手を育てて世に送り出している出版
のを目指すしかないし、新しい書き
くだらない品質だ﹂と思われないも
純に﹁買ったけど価格に見合わない
荻
ど こ と か 誰 っ て い う の は な い で す。
大工の仕事と同じで製造業だから単
︱荻野さんはいかがですか。
がするんです。この本を買いに行く、
そ れ が す ぐ 見 つ か ら な い、 不 便 だ。
じゃあ、みんなネットで買えばいい
に紹介して新刊案内したら良いの
庫﹂って古本屋さんで見て、なんだ
社は全て偉いですよね。
じゃないかって。
か、内容を伝える為にどういうやり
これはと、すごいなって。出会いと
荻
僕もないんです。だから販売現場の
方だと良いのかが分からない。
読むことを繋げたいというか、そん
︱お二人が目標としてる出版社、編集者
な気が最近すごくする。
はおられますか。
売 る、 読 者 に 伝 え る っ て ど ん な イ
島
荻野さんの本を作るところはなんと
なく想像できるんですけど、それを
好きだから、という部分を離れて、
プロとして、作る側は内容をより早
く正しくお伝えするべきだし、売る
するのが筋じゃないですか。でも刊
側はより良い商品を見つける努力を
行点数が多いから、お互いにそれを
ネットと違って検索候補が出ないか
結 構 衝 撃 を 受 け た の が、 誰 か の ツ
島
イートで、書店の店頭の検索機って
十年売れる本を作ることを目標にし
間がかかっても、
いい本作って、
五年、
ら⋮⋮。その為には最初はお金や時
冊、 ゆ く ゆ く は 年 一 冊 に 出 来 た
産の冊数をもっと減らしたい。年二
島
福音館書店とか。僕は作る冊数、年
きゃっていう感じですか。
もう少し努力して届けていかな
イメージなんでしょうか。それとも、
がっている人はたくさんいるという
メ ー ジ で す か。 自 分 の よ う に 面 白
らすごいストレスって書いてあっ
たい。たとえば、某出版社って初刷
やりきれていないと思うんです。
て、すごく考えさせられた。本屋さ
荻
過去にどれも売れてこなかった作品
という現実があるので、売る努力を
んって検索機で買おうと思っていた
− 10 −
ます。
しなければいけない事は理解してい
とをやろうと思って。
があって。紙の書籍だからできるこ
な。意地になってやってみたところ
きたくらいで、電子書籍元年みたい
という情熱から、実際に出版を続けてい
ですが、
出版社を始めた﹁これを作りたい﹂
に刊行され、また刊行されつつあるわけ
︱お二人とも、当初目標だった本はすで
ら、﹁ や れ る ﹂ と い う と こ ろ は あ り
与えられる内容だと思っているか
じゃなくてもっと多くの人に感動を
こら辺がいい感じなのか。ほどよい
に払ってもらうことになるので、ど
いですけど、それってそのまま読者
くさい本になる⋮⋮、うまく言えな
わりすぎた造本って、ちょっと面倒
と急にウソくさいものになる。こだ
してやろうとしたけど、やりすぎる
雑貨みたいに、ものを作るみたいに
今はちょっと迷いつつあって。昔は
そこはこれからもずっとこだわっ
て や っ て い こ う と 思 う ん で す け ど、
ら書いてくださった人に対して申し
さないという事です。会社を潰した
絶版にしない、出版社そのものも潰
ので、出版社として版を切らさない、
なんて八十四人の人に書いて頂いた
のを出し続けたい。あと、﹃冬の本﹄
けるからには、クオリティの高いも
少し出版社として責任を持って、続
島
昔は情熱で出して、売れなくてもい
いやって感じでしたけど、今はもう
く中で心境はどのように変化しましたか。
ただ、若干現実を無視して、この
芸術に感動した自分の気持ちを優先
ます。
感じでやれたら⋮⋮。
で作っているので、それは自分だけ
︱それが売れたりするんです。
す。
僕も、常識からすると売れないとい
島
われている本を作っているつもりで
﹁ こ の 本 は 売 れ な い か も し れ な い。 け れ
そう思わせてくれる本は実際に販売して
を必ずはずしたり質感を確かめます。一
事に思っている人もいます。僕はカバー
︱でもそういう造本の細かいところを大
どんな本を作っていくおつもりですか。
︱荻野さんは、吉田知子選集全巻刊行後、
訳ない。復刊を許可してくださった
みると、結構売れたりする。常識からす
冊の本には色々と仕掛けや意図があるの
僕よりも、書店員さんの方がたく
ンが高じてということなんです。
何度も言うようですが、僕の場合は
荻
出版社をやりたいというよりは、
ファ
たくさんの人に迷惑がかかるので。
ると売れない本だけど、それを求めてい
で、それをあまさず楽しみたい。
ど、 い い 作 品 だ か ら 読 ん で も ら い た い ﹂
る読者は、想像以上にいると思います。
見てる人とか。
あ業界の人だなって思います。奥付
書店でそういうお客さん見ると、あ
島
夏葉社さんの本は装丁のこだわりも強い
ですよね。
僕が﹃レンブラントの帽子﹄を出し
島
た時が、ちょうどiPADが入って
− 11 −
る人がもしいたら伝えたいんです
と思う。出版社をやろうと思ってい
能とか持っている人がいっぱいいる
り出版社を始めるための知識とか技
ンク堂で働いている人の中には僕よ
るだけ﹁何でもいいから書いてくだ
し。人に原稿を依頼する時にはでき
にそれが書物の果たしてきたことだ
たいと思っています。というかまさ
方っていうものに触れる機会を作り
僕は、こういう普通の人よりも鋭
い感覚を持っている人の考え方、見
集者ですが︱作家のすごさが分かる
く読めば︱一番じっくり読むのは編
で、じっくり読めば、何十回も細か
当に良いものって急いで読まない
に直接伝えたい事などがあれば教えてく
が、僕がやっていることは、会社で
さい﹂じゃなくて、﹁このテーマで、
か ﹂ と い う 依 頼 を し て、﹁ 今 ま で こ
か ! って。
は ず で す。 こ う い う 文 章 を 書 く の
ゆっくり読むとより多くのものが
返ってくるものが、いい本なんです。
上林の原稿は何十回読んでもいい原
稿だと思いましたよ。
町田さんには解説じゃなくて、問題
で き な い 表 現 の 仕 方 を し て い ま す。
ないし、その指摘のやり方も僕には
たいと思ってます。まあ、すべての
分なりに考え抜いてからお願いし
さが出るにはどうすればいいかを自
を依頼する場合は、その書き手の良
荻
復刊も考えてはいます。ただ、執筆
合もあるんじゃないかなということ。
目指した方が、仕事が面白くなる場
と言われる関係になってしまう事を
店の誰さんの意見の方が信用できる﹂
ら直接﹁版元の編集者よりも何々書
島
復刊はもうやらない?
うのが理想です。
だな﹂って思われて引き受けてもら
頼はなかったけど、これは面白そう
ういうテーマで書いてくれという依
島
上 林 暁 と か を 十 回、 二 十 回 読 む と、
作家ってすごいなと思うんです。本
ださい。
きちっと仕事できてる人だったらみ
こういうものを書いてくれません
さん本を読んでいると思うし、ジュ
んなやれるはずです。
島
できると思いますよ。
荻
優れた書き手の感性って、それが文
章になった時に教えてくれることが
いっぱいあります。例えば、町田康
さんが示唆する、吉田知子作品の読
を書いて下さいってお願いしたんで
販売現場から制作現場にまで関与し
荻
書店員に対しては、良識の範囲内で、
出版社なんかに気兼ねなく、著者か
すけど、町田さんにはそういう依頼
編集者が考えることだと思うんで
解ポイントは、僕には絶対指摘でき
の方が、吉田知子作品に対するコメ
すが。もちろん忙しい著者が応じて
ていくことに興味がある人に限りま
すけど。
︱最後に、作り手として、書店員や読者
ントとして良いはずだと考えたわけ
です。期待した以上のものが返って
きたと僕は思っています。
− 12 −
さんのお勧めの本を紹介し、この企画を
た景文館書店の荻野さん・夏葉社の島田
最後に、今回特集し協力して頂きまし
きないのです。
読者に対しては、弊社書籍につい
てもしも﹁収録作品は面白いのに造
くれるかは分かりませんけど。
本がだめだ、価格が高い、作品のよ
終えさせていただきます。
ん
音羽館の日々と仕事﹄︵本の雑誌社・
広瀬洋一著・一五七五円︶
今年の九月に、お世話になっている古
本 屋 さ ん、 音 羽 館 さ ん の 本 が 出 ま し た。
ぼ く は、 会 社 を 経 営 す る と い う よ り も、
お店をやっているような気持ちで、仕事
を し た い と 思 っ て い ま す。﹃ 西 荻 窪 の 古
の人生を左右するような本は、出版社の
本はたくさんあります。その中で読者
︽読む人ぞ、知る︾の特集を終えて
と 金 の た め に 次 々 と 殺 し に 手 を 染 め る。
女の素質は開花し、純朴だった新助は愛
ちをする。芸者や遊女に憧れるお艶の悪
お艶が奉公人の新助をそそのかして駈落
いわゆる毒婦もの。駿河屋の一人娘・
だ と 思 い ま す よ ﹂。 そ ん な ふ う に、 読 者
前の本を気に入ってくれたなら、お好き
し い 本 を つ く り ま し た。 ど う で し ょ う。
﹁個人の実感﹂を大切にしているお店。﹁新
気 軽 に 入 っ て こ れ る お 店。 そ れ で い て、
本好きの雰囲気をもちながら、だれもが
つの理想がある、そんな気がしてきます。
本屋さん﹄を読んでいると、ここにひと
大小、著者の知名度、絶版・既刊に関わ
﹃ 春 琴 抄 ﹄ や﹃ 痴 人 の 愛 ﹄ よ り も 欲 望 の
に話しかけるような気持ちで、出版社を
公文庫・谷崎潤一郎著・五六〇円︶
景文館書店・荻野さん﹃お艶殺し﹄︵中
さを引き出していない﹂と思ってい
る方がいたら、それは作家の責任で
はなく僕の責任に属することなので
すみません、と。
︱お二人の情熱が読者に届いたからこ
そ、この企画は実現できました。出版業
を志す人だけではなく、我々書店員にも
勇気付けられるメッセージを頂きまし
た。本日は、本当にありがとうございま
らず数多く存在し、また埋もれてもいま
種類が通俗的で展開が早いので、時間が
した。
す。﹁ い い 本 ﹂ と の 出 会 い は 新 た な 本 と
ないときでも谷崎のマゾヒスチックな世
丸善ラゾーナ川崎店・石川︶
︵吉祥寺店・川合+ 続けられたら、と思っています。
界を素早く楽しむことができる。
夏葉社・島田さん﹃西荻窪の古本屋さ
の出会いを呼ぶだけではなく、人との出
︽ 読 む 人 ぞ、 知 る ︾ こ の 景 色 の 感 動 は
まずなにより、読まないと知ることがで
− 13 −
『西荻窪の古本屋さん
音羽館の日々と仕事』
会いも呼びます。
『お艶殺し』
劣化国家
社 会 科 学
ニーアル・ファーガソン著
英国BBCの権威あるラジオ番組で放
送された講義を書籍化。著者は英国で最
も評価の高い歴史学者の一人と評されて
いる、ハーバード大学歴史学教授。
欧米諸国、特に、英国や米国が、リー
通に生活をしていた人々がリストラ等の
通じて描かれたアメリカの格差社会。普
となる。
が逮捕され、ある日突然﹁犯罪者の息子﹂
非常にリアリティがある。主人公の父親
ある時代に突入したことがわかり、その
し、誰もが冤罪に巻き込まれる可能性が
ITは使い方によっては便利だ。しか
理由で没落し、困窮し、ホームレスへ転
る。取材時に撮影された写真の一部も掲
落していった様子を丹念に描写してい
載されており、かつての繁栄の面影を残
現実を知っておくためにも是非読んでお
一六五九円
しながら、荒廃した風景とその中で暮ら
技術評論社
きたい一冊。
二五二〇円
す人々の表情は悲哀に満ちている。
ダイヤモンド社
夜の経済学
ストの飯田泰之による、
﹃週刊SPA ! ﹄
本書は、評論家の荻上チキとエコノミ
荻上チキ・飯田泰之著
いる原因を多角的に分析している。若干
連 載﹁ チ キ ー ー ダ ! ﹂ の 夜 の 経 済 学 シ
マンショックに翻弄され、衰退に陥って
英国びいきで欧米諸国中心の内容である
化などの諸問題にも言及され、日本経済
ら、生活保護受給者の増加や若者の貧困
らの議論は働く女性側の経済的事情か
明白に暴いている。後半に入ると、これ
で公に語られなかった風俗業界の実体を
春システムの統計を独自に集め、これま
場価格、テレクラや出会い喫茶などの売
タイトルの通り、風俗業界の職種や相
リーズをまとめた共著である。
もしも遠隔操作で
家族が犯罪者に
仕立てられたら
情報セキュリティに詳しい著者が、小
一三六五円
説仕立てで、最新のネット犯罪の恐ろし
扶桑社
全体の問題を浮き彫りにしている。
て 実 際 に 起 き た 事 件 を 題 材 に し て い て、
さを教えてくれる。去年から今年にかけ
一田和樹著
ものの、テンポよく持論が展開されてい
一六八〇円
る。日本人にとっては他山の石として受
け取れる。
東洋経済新報社
繁栄からこぼれ落ちた
もうひとつのアメリカ
デール・マハリッジ著
マイケル・ウィリアムソン写真
ピューリツァー賞を受賞した二人の
ジャーナリストによる、三十年の取材を
− 14 −
社会科学
言える化
クロネコの恩返し
日経BPビジョナリー経営研究所編
ところ有益なのかという、多くの人が持
吉本佳生著
二五二〇円
つ根本的な疑問が分析されている。
ダイヤモンド社
もはや宅急便は私たちの日常に欠かせ
ヤマト福祉財団は東日本大震災後、宅
ない手段の一つだ。社会インフラといっ
﹃ ス タ バ で は グ ラ ン デ を 買 え ! ﹄︵ ち
急便一個につき十円、全部で一四二億円
小さくても強い企業を目指し業績を伸ば
てもいいくらいである。民間企業であり
を連発する著者の最新作。今回は身近な
くま文庫・七一四円︶等、ベストセラー
遠藤
功著
﹃見える化﹄︵東洋経済新
報社・一六八〇円︶などで有名な経営コ
してきた。若手社員が自由に企画提案や
ながら公共性も併せ持つヤマトは、身を
統計数字の読み方・使い方を指南する。
ンサルタントの著者が、赤城乳業をとり
意見を言える環境、スローガンの遊び心、
削って復興に協力した。農業・漁業をは
もの額を被災地に寄付した。本書にはそ
古い社宅を営業本部として再利用すると
じ め、 様 々 な 産 業 で ヤ マ ト の 寄 付 が 役
携 帯 電 話 や イ ン タ ー ネ ッ ト の 普 及 で、
あげる。今や国民的アイス、ガリガリ君
いうコスト意識等、様々な角度から赤城
経済社会の情報化がどんどん進んでい
データ分析って
こうやるんだ !
実況講義
乳業的な、独自のらしさを分析し、それ
立 っ た 事 例 を 数 多 く 紹 介。﹁ サ ー ビ ス が
る。学生のころ数学が苦手で、いま仕事
の全容が書かれている。
が成功の要因だと論じている。柱である
先、利益は後﹂、﹁世のため人のため﹂の
の中での統計学に困っているビジネスマ
− 15 −
の製造元だ。正社員三百数十人、規模は
看板商品にこだわって成長を続けてきた
企業精神が伝わってきて、読むと心あた
読むときに陥りやすい落とし穴に気づく
ンの方は多いはず。本書では、データを
たまる一冊。
一四七〇円
コツを詳細に解説。データの扱いに上達
者はアドバイス。株式投資や格差社会と
するためには、とにかく数をこなせと著
いった身の回りのテーマでも例をあげて
マッキンゼー
本書は、いまや広く世に知られた巨大
一六八〇円
コンサルティング・ファーム﹁マッキン
ダイヤモンド社
いて、とても役立つ一冊。
を左右してきたマッキンゼーは、結局の
書籍である。アメリカ資本主義そのもの
と問題点などを包括的に語った初めての
ゼー﹂の生い立ちから変遷、内幕、功績
ダフ・マクドナルド著
日経BP社
そのプロセスには、他より優れた一芸で
一四七〇円
頑張っている異業種の方々にも参考にな
る点が多いと思われる。
潮出版社
社会科学
コンピュータ
入門
Clojure
ニコラ モ
・ ドリック、安部重成著
著者の並びから訳本のようにも見える
おいしい
平山
尚著
前著﹃ゲームプログラマになる前に覚
が、
プログラムはこうして作られる
えておきたい技術﹄︵同社・四七二五円︶
人開発者の共著による書き下ろし。 LISP
系の関数型プログラミング言語である
そう ! というレベルの初心者でも本書
拡大。プログラミングってなんだか面白
から本格的なメインディッシュまでずら
。その開発レシピをフレンチの
Clojure
コースに見立て、気軽に取り組める前菜
にほれ込んだ外国人と日本
Clojure
は、セガの新人教育カリキュラムから生
アンドリュー・S・タネンバウム、
を読みながら順に作っていくことで、簡
まれた本だった。本書では対象をさらに
デイビッド・J・ウエザロール著
コンピュータネットワーク
第五版
水野忠則他訳
り と 並 ぶ。 今 が 旬 の お い し い
の教科書
Sass
二九一九円
、
Clojure
単な落ち物パズルゲームが出来上がるよ
一九八○年の初版以来、ネットワーク
製作者のための
Web
インプレスジャパン
この機にぜひ習得を。
二九四○円
の 解 説 書 と し て は こ れ が 初 と な る の で、
さ れ て お り、 こ れ か ら の
デザイン
Web
の 必 須 ス キ ル と い わ れ て い る Sass
。紙
効 率 や 保 守 性 の 向 上 が 見 込 め る。 LINE
やクックパッドなどの大手企業でも導入
では使えないプログラム的な機能
CSS
を盛り込んだのが特徴で、コーディング
は CSS
を拡張したメタ言語。
Sass
変数や演算、コードの再利用といった
平澤
隆・森田
壮著
技術評論社
熱いうちに召し上がれ。
一八九○円
バッドデータハンドブック
秀和システム
うに書かれている。
の発展にともなって改訂を重ねてきた名
著、待望の第五版。根幹をなす技術から
など最近話題の領域まで網羅する
IPv6
が、そのぶん分厚く手強い。しかし本書
著
Q.Ethan McCallum
磯
蘭水監訳
笹井崇司訳
大 量 の デ ー タ を 取 り 扱 お う と す れ ば、
を読みきったとき、ネットワーク全体を
見渡すことができるだけの確かな力が身
その中に潜む壊れたデータの量も自ずと
増える。壊れ方やその原因も様々だ。そ
八四○○円
についているだろう。
日経BP社
んなバッドデータの数々と、どのように
向き合っていけばいいのか。データサイ
エンティストをはじめ経済学者やアメリ
カ統計学会フェローと、多彩な専門家た
二九四○円
ちによる十九の対処法。ビッグデータ時
ジ
・ ャパン
代に必携の一冊だ。
オライリー
− 16 −
コンピュータ
自 然 科 学
手塚治虫の昆虫博覧会
疾風のごとく駆け抜けた
RIAの住宅づくり
グロピウスを師にもつ山口文象が
RIA住宅の会編
一九五〇年代初めに設立したRIA︵建
現在は大規模な都市開発を手掛ける事
築綜合研究所︶。
務所だが、設立当初は大量の戸建て住宅
設計業務のシステム化だった。そしてそ
手塚治虫著
小林準治解説
手塚治虫といえば漫画家。鉄腕アトム、
れはコンピュータを利用した設計提案へ
を設計していた。大量設計を支えたのは、
とある弁当屋の統計技師
ブラックジャック、リボンの騎士などな
ど を 思 い 浮 か べ る 人 が ほ と ん ど だ ろ う。
りの十一本が収められ、魅力的な構成に
エッセイ、ファンタジー童話とよりすぐ
手 塚 流 に 描 い て い る。 マ ン ガ を は じ め、
敬 愛 す る フ ァ ー ブ ル 先 生 の 昆 虫 解 説 を、
本 書 は 手 塚 治 虫 版 フ ァ ー ブ ル 昆 虫 記。
ま っ た と い う 社 会 人 や 学 生 の 方 に 最 適。
は縁が無かった、習ったけれど忘れてし
いく。ストーリー仕立てなので、統計と
方法論、また応用について解き明かして
指して活躍するなかで、統計の基礎概念、
顧客であるお弁当屋さんの売上向上を目
主 人 公 の デ ー タ サ イ エ ン テ ィ ス ト が、
し社会のなかでの建築の可能性のため
在ではほとんど忘れ去られている。しか
築家にはそれなりに注目されたもの、現
年代の大量設計の研究成果は、当時の建
RIAが行った一九五〇年代から六〇
手建築家の評論によって明らかにする。
Aの取り組みを中心メンバーの証言、若
本書は、その知られざる建築集団RI
と発展する。
データ分析のはじめかた
なっている。このユニークな昆虫解説を
また、内容について復習できるようにサ
石田基広著
その一方で、治虫氏は大の昆虫好きであ
読 め ば、 昆 虫 マ ニ ア に な れ る と 同 時 に、
のかもしれない。
彰国社
二一〇〇円
− 17 −
ることでも有名だ。
治虫氏のいつもと一味異なる一面が見ら
に、半世紀を過ぎた二〇一〇年代におい
一三六五円
やすくなり、統計の初歩の初歩を学べる
一冊である。
共立出版
てこそ新たなかたちで活かされるべきな
ポートサイトも用意されている。
一六八〇円
データ分析の目的や方法をイメージし
れるという、手塚ファンの方にも嬉しく
ておいしい一冊だ。
さて、ペンネームである﹁治虫﹂の由
いそっぷ社
さっそく探しにいこう。
来 を、 あ な た は 知 っ て い る だ ろ う か?
自然科学
医
学
書
ず広く一般に読んでもらいたい内容と
のとれた明確な指摘は、精神科医に限ら
改善した事例などを紹介している。また、
発した著者らが研究し、開発した経緯や
ローチである。この介入アプローチを開
が収録されている。そして、この新しい
介入アプローチに必要な確認シートなど
なっている。
二一〇〇円
の 実 践 に 役 立 つ だ け で な く、﹁ 支 援 困 難
講談社
事例﹂と呼ばれる、関係性づくりが困難
アプローチは高齢者虐待に関する援助職
精神医学を混乱させる
で支援を受ける動機付けの低い事例にも
︿正常﹀を救え
DSM︲5への警告
役立つ一冊である。
瀬谷出版
目でみる妊娠と出産
馬場一憲編
本書は、看護師や助産師を目指す学生
二六二五円
アレン・フランセス著
大野裕監修
青木
創訳
精 神 疾 患 の 分 類 と 診 断 の 基 準 と し て、
米国のみならず世界各国で用いられてい
高齢者虐待にどう向き合うか
るマニュアル、DSM。その最新版DS
M ︲5 が 二 〇 一 三 年 五 月 に 発 表 さ れ た。
安心づくり安全探しアプローチ開発
近 年、 わ が 国 で の 高 齢 者 増 加 に 伴 い、
構成で、産科領域の必要な事項を網羅し
﹁ 胎 児・ 新 生 児 ﹂﹁ 母 体 ﹂﹁ 分 娩 ﹂ の 三 部
さんが産科の教科書的に使えるようにと
高齢者虐待も増加している。その原因は
副田あけみ編著
改訂されたDSM︲5の新たな基準によ
使用の促進等のリスクを感じ、危機感を
る、診断のインフレの助長、薬の過剰な
抱 い た 著 者 ア レ ン・ フ ラ ン セ ス 博 士 が、
たものである。分かりやすいイラストと
んだことにより、一般の方にも産科や新
臨床で使えるデータをふんだんに盛り込
生児のことを分かりやすく書かれてい
介護によるストレスや知識不足、周囲の
高齢者虐待の増加につれ、それに対応
る。また、実際の産科臨床現場で働く産
安全でまっとうな精神医学に立ち返るた
する行政職員や地域包括支援センター職
婦人科医、初期研修医、助産師や看護師
配慮不足など様々である。
員、介護支援専門員たちが苦慮するケー
め の ロ ー ド マ ッ プ を 示 し つ つ、﹁ 正 常 ﹂
スが増えている。このような事態に対し
を救いだすべく緊急提言として世に発し
新たな指標が登場する時にありがち
にとっても役に立つものになっている。
たのが本書である。
な、苛烈で一方的な批判というわけでは
新しく開発された介入アプローチは、自
三九九〇円
決してなく、かつて二十年間にわたって
らを振り返り解決に導く解決志向アプ
文光堂
DSMにかかわってきた著者のバランス
− 18 −
医学書
美の約束
ヴィンフリート・メニングハウス著
こ と だ。 進 化 論、 フ ロ イ ト の 精 神 分 析、
の進化論という観点から美を捉えている
の美学の書籍と異なるのは、ダーウィン
学について論じたものである。だが、他
ラストも的確で分かりやすい。子どもが
ど簡潔にまとめられている。マンガのイ
ルに絞り、具体的なのにこれ以上ないほ
大人の意見の合わせ方など、五つのルー
型の子育て法。子どもの誉め方、導き方、
てほしい姿﹂に焦点を当てる、解決志向
﹁してはいけないこと﹂ではなく﹁なっ
フィンランド式
叱らない子育て
ベン・ファーマン著
そしてカント哲学。これらの諸要素が混
自己肯定感を保って伸びるために、本書
タイトルからも分かる通り、本書は美
アノスミア
じり合うことで、本書は他の美学研究書
人 文 科 学
わたしが嗅覚を失ってから
とり戻すまでの物語
とは一線を画すユニークな一冊に仕上
本書はシェフ見習いだった著者が交通
モリー・バーンバウム著
一三六五円
方﹀はその人の心によってどうしても色
の仏教教理のひとつが﹁人の︿ものの見
国家の戦争はその重層的な民族構成に
まで紆余曲折と大量の血を要した。国民
し、ユーゴスラヴィア連邦の崩壊に至る
は特に東部戦線においてその火種を残
未完の戦争と言われる第一次世界大戦
も既に十一冊を数えることとなった。
﹁レクチャー第一次世界大戦を考える﹂
野村真理著
隣人が敵国人になる日
ダイヤモンド社
のルールを参考にしてみては?
五〇四〇円
がっているといえよう。
現代思潮新社
唯識入門
仏 教 と い え ば 空 海 や 最 澄、 親 鸞 な ど、
多川俊映著
各宗派のスターの名前が思い浮かぶ。そ
づけられてしまう﹂という唯識の考え方
よってガリツィアの民に多大な困難をも
んな彼らの思想を基礎づくるインド伝来
である。大変難解であると言われる唯識
一六八〇円
たらし、まさに隣人が敵国人となってゆ
人文書院
くのである。
の思想が平易に親しみやすく解かれてお
二一〇〇円
り、仏教の根底に近づくのに最適な一冊。
春秋社
− 19 −
事故に遭って嗅覚を失い、そして回復す
るまでの物語である。嗅覚は視覚や聴覚
と較べれば普段あまり意識することのな
い感覚のように感じるが、本書を読めば
その重要性を再認識できるだろう。小林
二五二〇円
剛史氏による丁寧な解説も嬉しい。
勁草書房
人文科学
文学・文芸
検察側の罪人
雫井脩介著
社会の不正や罪を許さない法の番人で
ある、検察官たちを主役にした長編。
己の信念、正義に従い、ひとりの男は
少し僕なりにまとめてみると、こんな感
じだ。
闇 を 漂 う 複 数 の 連 結 胞 人 た ち が、
つつ損液に汚染された隣接胞人を煤収
多胞人からの融詞を受け、利液を増やし
の殺人事件の容疑者名が、新たな殺人事
司のもとを去る。迷宮入りとなった過去
とドライブしてゆく。
イラストがまたトリップをバッドな方へ
そして著者本人による悪夢のような細密
どうですか? ぞわぞわしませんか?
し、遮断胞人と変化せしめる⋮⋮。
件の関係者の中にあった。そのことが事
道を踏み外し、ひとりの男は尊敬した上
武田百合子のアルミニュームの弁当
件を担当する検察官たちの人生を変えて
アンソロジーお弁当。
箱の思い出にはじまり、友達のお弁当が
阿川佐和子他著
気 に な る 向 田 邦 子。 吉 村 昭 の 駅 弁 話 な
︵おそらくは︶数千年といったスケー
く 別 世 界 の 作 品 と 思 わ れ る そ れ ぞ れ は、
含む四つの短篇が収録されているが、全
創元SF 短編賞を受賞した表題作を
いく⋮⋮。
正義を信じる検事は何を誤ったの
ど な ど、 七 章 か ら な る お 弁 当 エ ッ セ イ
四十一篇。
必ずしも正義が勝つわけではない世
ルで描かれたひとつの宇宙の話なの
か?
だ。⋮⋮と、巻末の解説で知ったことは
第 一 章 の﹁ 記 憶 の な か の お 弁 当 ﹂ は、
の 中 で あ が く 男 た ち の 姿、 読 み ご た え
お弁当が母親の思い出とどうしても重な
あり。
少し読み始めて尻込みしたあなた、ど
内緒だ。
た の か ! ﹂ 感 は ハ ン パ あ り ま せ ん。 今
い。その後解説を読んだ時の﹁そうだっ
ずに素の状態で頑張って読み通して下さ
うか勇気を出して、出来れば解説は読ま
日本SFの超新星。いや、これはもう
一八九〇円
り、郷愁を誘う。昭和のあの時代、お弁
皆勤の徒
文藝春秋
当に冷凍食品なんて入っていなかった
のだ !
個 人 的 に は、﹃ わ た し の 献 立 日 記 ﹄ を
彷彿とさせる沢村貞子の重箱のお弁当
世界レベルだ。これは本物。何が起こっ
酉島伝法著
鹿児島で隣の席の友人が食べていたとい
年最大の収穫でした。
と、向田邦子が小学生のころ、転校先の
うつぼ漬けと白米だけのお弁当︵人様の
てるのかわからないまま、強烈な造語と
一八九〇円
お弁当はなんてったっておいしそうに見
異形の生命たちからじゅわりと滲み出る
東京創元社
ようなトリップ感でぐいぐいと読んでし
まう。凄まじい中毒性。その造語感覚を
えるものだ︶がベスト。これも一つの立
一六八〇円
派な﹁食べる文学﹂と断言できる !
パルコ出版
− 20 −
文学 ・ 文芸
文庫・新書
銀座ナイルレストラン物語
七人の鬼ごっこ
ものを信じてるの?という目線を感じな
ラング? そんなものはいない、そんな
フイハイ? ケンモン? ペシャクパ
出る。
この電話がつながらなかったら死のう。
三津田信三著
﹁ だ ぁ ー れ ま さ ん が ぁ、 こ ぉ ー ろ し
がらも、高野秀行は衝動のように現地に
て、本を読んで、あたかも知った風な気
んてわからない。多くの人がテレビを見
みなければ、本当のところどうなのかな
飛 ぶ︵ テ ン ト も 忘 れ て ︶。 実 際 に 探 し て
たぁ⋮⋮⋮⋮﹂
電話口からきこえる子どもの声。けれ
毎夜、一人ずつ友人に電話をかけ、つ
になって終わらせてしまうことを、終わ
ど周りに子どもなど、いない。
ながらなければ首をくくる、という自分
らせずに考えてみる、ということはすご
日本初のインド料理専門店はどうして
勝手な自殺ゲームをはじめた男の電話を
いことだな、と思う。現地に赴き、現地
水野仁輔著
受けた者たちが、次々と謎の死を遂げて
できたのか。
それは一人のインド人留学生が、京都
いく。
未知の動物を探すという、その衝動は純
の 人 々 の 話 を 聞 き、 ジ ャ ン グ ル を 歩 き、
帝国大学へやってきたことから始まった。
罪を忘れた子どもたちを、鬼は許さず、
凶獣ペシャクパラングとはいかなるもの
か。そしてそれを信じ、または意識する
こともなく生きる現地の人々の暮らしや
七六七円
まだまだ世の中、知らないことでいっ
思想はどのようなものか。
ぱいだ。
講談社文庫
− 21 −
戦後の混乱期にオープンした本格インド
料理店﹁ナイルレストラン﹂。
傷つかないために、生きていくために
八四〇円
粋な幼な子のようなのだが、検証しよう
忘れてしまった幼い日の出来事を、忘れ
ベトナムの猿人フイハイや奄美大島の
しずかに、ゆっくりと追いかける。
身近でない時代、レストランの経営を維
妖怪ケンモン、そしてアフガニスタンの
まだ日本ではインドという国があまり
持することは並大抵のことではなかった。
ることのできない鬼が追いかけてくる。
光文社文庫
アジア未知動物紀行
帯の﹁そんなもん、いるかよ﹂という
高野秀行著
言葉。表紙には達観したような目線をく
れる、草を食むヤギ。それでも彼は旅に
とする姿勢は冷静そのものだ。
二代目のG.
M.ナイル氏を中心にゆか
ホラー要素満載ながら、ミステリーと
五八〇円
しても読者を楽しませてくれる一冊。
りの人々へのインタビューを通して、﹁東
京カリ∼番長﹂の活動でおなじみの水野
仁輔氏が、混乱の時代を確固たる信念を
もって生きた初代の波乱万丈の人生、そ
の思いを受け継いだ二代目の苦労、そし
小学館文庫
らではの視点で描く。
トランへの思いを、カレーを愛する氏な
て三代目へと受け継がれるであろうレス
文庫・新書
芸
石田徹也ノート
術
のだろうか。
求龍堂
三一五〇円
世界でいちばん
貧しくて美しいオーケストラ
トリシア・タンストール著
ベネズエラの音楽教育プログラム﹁エ
原賀真紀子訳
ル・ シ ス テ マ ﹂
。子供たちを犯罪から守
奏することにより、暮らしを豊かなもの
るため、無償で楽器を提供し、音楽を演
にするという理念で活動している団体で
ある。本書は、﹁エル・システマの奇跡﹂
を、
石田徹也著
二〇〇五年、三十一歳と
いう若さで死去した現代画家・石田徹也
日常生活をシュールに切り取り、独特
がけ、国内外で高い評価を受ける映画監
きだし﹂
﹁ヒミズ﹂
﹁希望の国﹂などを手
最新作﹁地獄でなぜ悪い﹂や﹁愛のむ
てくれることを信じて。
が、一人でも多くの子供たちを幸せにし
今後も広がり続けるであろうこの活動
含む世界三十ヶ国以上で行われている。
たもの。現在、エル・システマは日本を
ターボ・ドゥダメルの軌跡を通して述べ
ベ ネ ズ エ ラ が 生 ん だ 天 才 指 揮 者・ グ ス
の作品集である。
悪魔のDNA︱︱園子温
の画風で現代社会を鋭く、時にユーモラ
スに風刺したような作品の数々は、見れ
本 書 に は、 生 前 石 田 徹 也 氏 が 残 し た
督・ 園 子 温。 そ の 過 激 で 濃 厚 な 作 品 は、
速水由紀子著
五十冊以上にものぼる、アイデアや自身
一体どのようにして生まれたのだろうか。
ば見るほどその奥深い世界に引き込まれ
の言葉、自身が見た夢などを書いた直筆
本書では、園子温監督がたどった映画
ていくかのようである。
ノ ー ト の 一 部 も 収 録 さ れ て い る。 ま た、
さながらの、激しく突き抜けた半生が記
一八九〇円
完成した作品の脇には、その作品の下絵
一四七〇円
東洋経済新報社
や原案なども収められており、作品の制
されている。
祥伝社
く一冊であることは間違いない。
い。しかし、本書が鬼才・園子温を紐解
凡人では理解ができないのかもしれな
その嘘のような本当の人生は、やはり
作趣旨や、作品表現の深みや広がりをよ
り感じることができる手がかりとなって
石田徹也氏がこの世を去って八年。も
いる。
しも彼が生きていたならば、果たして今
のこの世の中を一体どのように表現する
− 22 −
芸術
る著者、芦田氏。
﹁美﹂の世界で半世紀あ
フリカまでの旅が一気に描かれる。
ラシア大陸横断、そしてヨーロッパ・ア
團十郎さんについて。話題は多岐にわた
行本化された。母について、
料理について、
出版された文庫に新たな一章を加えて単
出した決断とは?
つあったが⋮⋮。旅の中で最後に夫婦が
にする〟という出発当初の夢は実現しつ
道 に 乗 り 始 め た 事 に よ り、
〝旅を暮らし
著者のルポライターとしての仕事が軌
まり現役であり続ける者の視点が詰まっ
り、日本を代表するファッションデザイ
ている本著。一九九八年に徳間書店より
ナーの素顔を見ることができる。
実
用
書
地図・旅行書
﹁美に対する私の感性を、これほど的確
東京近郊駅前旅行
怪しい駅懐かしい駅
おいしいセルビー
トッド・セルビー著
に表現する言葉はない﹂と著者はタイト
一七八五円
ウェブサイト﹁ The Selby
﹂をご存知
だろうか。セルビー氏は部屋やアトリエ、
ルについて述べる。芦田氏の感性のかた
かしいと感じること。希望の出口までが
長谷川裕著
村上
健絵
いつもは下車しない駅で、なんだか懐
ミシマ社
厨房など、様々な人々の居場所を写して
まりを手にとってみてはいかがだろうか。
一六八〇円
新しい世界を覗く感覚だ。
KADOKAWA
遠く、途中薄暗がりの通路で怪しい気配
職のまま日本を旅立ち、定住と移住を繰
旅の中を生き続けたい。結婚直後、無
二 癖 も あ る 駅 を 取 り あ げ 紹 介 し て い る。
を変えてきた。本書はそういった一癖も
の立地条件や時に大人の事情で姿カタチ
経過しているものも多く、各々の駅はそ
− 23 −
くれる。
バックグラウンドは多様であり、
セルビー氏の撮る整理されたキッチン
に捕われ、何も見なかったことにするこ
や 美 し い 食 材 の 写 真 か ら は、﹁ 食 ﹂ と い
さらば、遊牧夫婦
終わりなき旅の終わり
と。こんな経験、誰しも一度はあるだろ
う魔力にとりつかれた人々の衝動や欲望
近藤雄生著
う。ちなみに私は度々ある。
を垣間見ることができる。これら魅力的
な写真の数々と、セルビー氏による料理
﹃ 遊 牧 夫 婦 ﹄﹃ 中 国 で お 尻 を 手 術。﹄ に
り返しながら世界を巡って暮らした夫婦
随所に見られる村上さんの挿絵も、懐か
一六八〇円
最終巻となる本作では、中国滞在中に
草思社
しさに一役買っていて見所の一つだ。
ドに始まり、二度目の大移動となるユー
訪れた北朝鮮での緊張感溢れるエピソー
の旅も、ついに完結 !
東京に存在する駅は開設から百年以上
職人の言葉と直筆の文字を是非ご覧頂き
続く、遊牧夫婦シリーズ第三弾。
二四一五円
たい。
め、企業ユニフォームも多くデザインす
年間美智子妃殿下の専任デザイナーを務
中原淳一に師事し、一九六六年から十
芦田
淳著
髭のそり残し
グラフィック社
実用書/地図・旅行書
語学・辞典
英語はもっと句動詞で話そう
日向清人著
ても重要なことだ。
語研
一六八〇円
韓国語が上達する手帳
英語を使うときに句動詞を知らないと
なかなか大変だ。句動詞は英語を英語ら
HANA韓国語教育研究会編
に使われている。本書は、四〇〇の句動
合わせでも違う意味になり、それが普通
様な意味がある。文脈によって同じ組み
冊で始められること。入門者は日本語の
徴はどのレベルの人でも今日からこの一
手帳を書くための本もあるが、本書の特
し そ う と 感 じ る 人 も 多 い か も し れ な い。
韓国語で手帳をつけるのは途中で挫折
しくする大きな要素といえる。簡単な一
詞に対応する一語動詞のアルファベット
般動詞と副詞、前置詞の組み合わせで多
英単語をいくらたくさん覚えても、実
五十音をハングルで書くところから始め
英語を850語で
使えるようにしよう
際に使えなければ役に立たない。この本
順に配列する辞書形式になっている。
基本的な易しい語を組み合わせて言え
につければ、その内容をくだいて、ごく
語を知らなくても、この八五〇語さえ身
たとえば、モノの名前や事柄を表す英
展開している。
る、という小英語体系の実用的な方法を
八五〇語で日常的なことは何でも言え
があり、これがわかると他の句動詞理解
の側に句動詞の意味を決めるニュアンス
スの解説。句動詞の動詞部分よりも副詞
句動詞の意味につながる副詞のニュアン
として知っているほうがいい。二つ目に、
からないという人も、フォーマルな表現
る。句動詞は知っているが一語動詞がわ
詞と句動詞の相互言い換えが簡単にわか
ところを三つあげる。一つ目は、一語動
本書の特徴のうち、大事だと思われる
語で手帳を書いていくことができる。
く記載されており、それらを参考に韓国
く使う単語や表現・文法など分かりやす
ついてくるだろう。
えた文法で書いていけば作文能力も身に
はなく、その日にあったことを学習で覚
で書いてみる。中級者以上は予定だけで
て、慣れてきたら予定など単語を韓国語
相沢佳子著
では、まずベーシック・イングリッシュ
なくても
の助けになる。最後に三つ目、句動詞の
強勢の表示。アクセントを置くところが
知ることができて面白い。
わる韓国のコラムがあり、文化や気候を
マンスリーのページにはその月にまつ
巻末付録には五十音表から祝祭日、よ
で な く not very warm
lukewarm
でちゃんとわかってもらえる。このよう
わからないと、リスニングをする際聞き
る。 具 体 的 に は 犬 小 屋 の kennel
を知ら
で十分だし、生ぬる
doghouse
いも
なシンプルな表現方法を考案したオグデ
HANA
上達をめざそう。
一六八〇円
毎日見る手帳で無理なく楽しく韓国語
ンの経歴や、その魅力を知ることができ、
伝わりにくい。英語で話し、聞くにはと
取りにくいし、スピーキングの時相手に
六七二円
英語好きにおすすめの一冊。
文芸社
− 24 −
語学・辞典
種類の氷
親の離婚を受け止めようとしたり、ク
知った二人は謎解きに夢中になります。
ラスでいじめにあっていたり、現実には
エレン・ブライアン・オベッド文
様々な問題があって、図書館で過ごす時
間が二人にとってとても大切でかけが
バーバラ・マクリントック絵
えのないものへとなっていきます。月森
福本友美子訳
バケツの中にまくをはったようにうす
和をめぐる謎解きもおもしろく、二人と
書
い氷︱初氷をみつけたら、まもなく冬の
一緒に読者もどんどんひきこまれ、最後
童
それぞれの場面で登場する氷には呼び
到来です。
の結末には温かな気持ちで胸がいっぱい
児
長田
弘さく
山村浩二え
﹁ん﹂、この一文字でこんなにも表現が
名のような名前がついていて、子どもの
です。
講談社
ん
できるなんて、日本語は奥が深いと感じ
頃の冬の楽しい思い出といっしょに季節
一三六五円
させられます。思わず笑ってしまうよう
が少しずつ春に向かっていることを感じ
光のうつしえ
ることができます。暖かくなり氷が溶け
十二歳の希未は灯籠流しの夜、祖母ほ
朽木
祥著
どの年齢の婦人に声をかけられます。﹁あ
親。原爆投下された一九四五年八月六日
する美術の先生、仏壇の前で涙を流す母
なたはおいくつ?﹂と。校庭をスケッチ
一二六〇円
た。冬という季節を楽しみたいと感じさ
ほるぷ出版
せられる本です。
を心待ちにするような気持ちになりまし
てしまった時は淋しいような、また来年
な﹁ん﹂の入ったやわらかい文とシンプ
一二六〇円
ルで表情豊かな絵が楽しい絵本です。
講談社
ばばばあちゃんの
クリスマスかざり
さとうわきこ作
その物語と共に文化祭の作品作りをしま
から生活が一変し、人々はそれぞれの物
おなじみ﹁ばばばあちゃんの絵本﹂シ
す。祖父母も戦後生まれの人たちになり
語をもって生きていました。希未たちは
小学生の准一と佳澄は二人とも同じミ
つつある今、戦争の伝え方に変化が出て
ふたり
ステリー作家、月森和の大ファンである
きたと思います。著者のヒロシマを伝え
福田隆浩著
ています。室内用の紙工作の飾りだけで
ことを知り、次第に距離を縮めていきま
リーズ最新刊で、今回はクリスマスの飾
なく、キャンドルを用いたお庭のクリス
す。この作家が実はこっそり別名義で作
りつけのアイディアがたくさん紹介され
マス飾りもあり、さっそく作ってみたい
一三六五円
ものばかり。クリスマスが待ち遠しくな
講談社
る三作目の作品です。
れまでの既刊本に隠されていることを
品を出していて、しかもそのヒントがこ
九四五円
− 25 −
12
る一冊。
福音館書店
児童書
いう謳い文句に惹かれて、﹁イッツ・ソー・
の﹁ビリー・ホリデイのように歌う﹂と
な っ た 時 は ニ ュ ー ヨ ー ク の 路 上 で し た。
ドラッグが隣り合わせで、九三年に亡く
極端に嫌った彼女の繊細な一面と、一方
持されながらも、聴衆の前で歌うことを
で自分の才能を信じて疑わなかった確固
ボブ・ディランやフレッド・ニールに支
年︶というファースト・アルバムを手に
ハード・トゥ・テル・フーズ・ゴーイン
したのがきっかけでした。しかし、何度
たる一面とが紹介されています。
グ・トゥ・ラブ・ユー・ザ・ベスト﹂︵六九
か聴いてはみたものの、年齢不詳のしゃ
がれた声でカバー曲ばかり歌う彼女の声
は、奇妙な浮遊感があって捉えどころが
なく、すんなりとその世界に入り込むこ
それなのに、考えごとをして眠れなく
冬に近づいている今日この頃、いかがお
雪虫の季節ですね。一雨ごとに着実に
といてくれ﹂とでもいいたげな乾いた歌
ろ が な い と 放 り 出 し た ボ ー カ ル。﹁ ほ っ
自分の中に入ってきたのです。捉えどこ
い出して聴いてみると、今度はストンと
は、﹁イン・マイ・オウン・タイム﹂︵七一
消えてゆきました。セカンド・アルバム
アルバムを残して、メジャーシーンから
カレン・ダルトンは、三年間で二枚の
トックとコロラドを中心に音楽活動をし
トの最後に﹁イン・マイ・オウン・タイ
Dが発売されたのですが、ライナーノー
− 26 −
とが出来ませんでした。
過ごしでしょうか。私は雪が降る前のツ
声 が、 十 数 年 後 の 私 に そ っ と 寄 り 添 う。
年︶。こちらは二曲目にパーシー・スレッ
なってしまった数年前のある夜、ふと思
ンとした空気の匂いが大好きなのです
真夜中のなんとも不思議な体験でした。
ベタな歌詞を突き放すような歌いっぷり
ジの﹁男が女を愛する時﹂が入っており、
拝啓
岩本茂之さま
が、北海道の冬、お店の関西勢にはどう
そんな感想はさておき、カレン・ダル
にも人気が無いのが残念です。
岩 本 さ ん は 寒 く な り か け の こ の 季 節、
トンの人生は、山崎まどか著﹃イノセン
ていた彼女の人生は、常にアルコールと
昨年、デビュー前の音源をまとめたC
聴きやすい選曲になっています。
初めてCDを購入したのは十五年ほど
七〇年代から八〇年代にかけてウッドス
前。輸入盤についていたボブ・ディラン
シンガー、カレン・ダルトン︵一九三七
20
∼九三年︶が無性に聴きたくなります。
が痛快で、ファースト・アルバムよりも
は寒さに負けじと冬枯れた声のフォーク
どんな音楽を聴いて過ごしますか? 私
『イノセント・ガールズ』
(アスペクト・1,523 円)
トガールズ
人の最低で最高の人生﹄
︵ ア ス ペ ク ト ︶ で 読 む こ と が で き ま す。
第3回
ター、
ジュディ・シル︵一九四四∼七九年︶
フォルニア出身のシンガーソングライ
そんな旅の最中に出会ったのが、カリ
イラム・レコードで将来を期待されなが
そうそうたるシンガーが籍を置いたアサ
ロ ン シ ュ タ ッ ト、 ト ム・ ウ ェ イ ツ ⋮⋮。
グルス、ジョニ・ミッチェル、リンダ・
に し た ﹂。 ジ ャ ク ソ ン・ ブ ラ ウ ン、 イ ー
囁 き と 呼 ば れ る 歌 声 で 神 に 救 い を 求 め、
のデビュー盤﹁ジュディ・シル﹂
︵七一年︶
ら、不発に終わったジュディは、麻薬の
人間のもろさを暴いて神への裏切りを歌
で す。 当 時 の﹁ ミ ュ ー ジ ッ ク・ ラ イ フ ﹂
過剰摂取により三十五歳の若さで急逝し
に出ると、まちの中古レコード屋を探し
誌 を 開 く と、
﹁ キ ャ ロ ル・ キ ン グ よ り 数
ました。
ム ﹂ の 和 訳 が 載 っ て い ま し た。〝 私 の 生
敬具
聞き流していた私にとって、その意味は
倍良いのだ﹂と絶賛︵ただし﹁藤田まこ
ちゃうんです。
先日、札幌の円山公園界隈で雪虫を見
とと宍戸錠をたして二で割ったような顔
き て い る 間 に 〟。 何 も 考 え ず に 輸 入 盤 を
ました。目を凝らすと、あちこちにいる
。その波
つき﹂という紹介はひどい ! ︶
拝復
菊地貴子さま
▶▶往・菊地▶
◀復・岩本◀◀
胸を衝くものでした。
わ、いるわ。もうタイヤ交換の季節が来
乱の生涯はカレン以上かもしれません。
以前、新宿ゴールデン街の素敵な某N
カ レ ン・ ダ ル ト ン、 い い で す ね。 冬
にも絶望的な人生なんです。でもあの︿ブ
ちゃんでお酒を飲んでいたら、どこかで
− 27 −
たのかと思うと本当に頭が痛いです。
アナログ盤、大好きなんです。宮崎駿
チッ、チリチリ⋮⋮﹀の音に続いて聴こ
聴 い た こ と の あ る 歌 が 流 れ て き ま し た。
父親と兄の死、再婚した母親は酒浸り
監督の﹁風立ちぬ﹂が話題になりました
感化院の教会で出会った音楽が救いの手
え て く る 歌 声 は、 ま る で 天 使 の よ う !
なんとジュディの﹁ザッツ・ザ・スピリッ
で虐待、家出、麻薬⋮⋮。麻薬を手に入
が、ユーミンの﹁ひこうき雲﹂が流れる
ムボンでした。遙か時を隔てて海を渡っ
ト﹂! 歌っているのはニッポンのクラ
の寂しい田舎道で彼女が振り返る﹁イン・
直前の、レコードに針を落とした時の︿ブ
を 差 し 伸 べ て く れ た ん で す。︿ ブ チ ッ、
て 歌 い 継 が れ る ジ ュ デ ィ の 生 き た 証 し。
れるため、売春、強盗を繰り返し感化院
チッ、チリチリ⋮⋮﹀の音、いやぁ泣き
チリチリ⋮⋮﹀の音の向こう側から人間
その夜の熱燗はひときわ心に染み入りま
マ イ・ オ ウ ン・ タ イ ム ﹂︵ 七 一 年 ︶ の ア
ました。アナログ盤の音って何であんな
音楽評論家・天辰保文さんは﹃ゴール
の生きる意味を投げかけてくれました。
した。
へ。希望などこれっぽっちもないあまり
に ぬ く も り を 感 じ さ せ る ん で し ょ う か。
ド・ ラ ッ シ ュ の あ と で ﹄︵ 音 楽 出 版 社 ︶
ナ ロ グ 盤、 昔、 ジ ャ ケ 買 い し ち ゃ い ま
そしてジャケットも含めてそのすべてが
の 中 で こ う 書 い て い ま す。﹁ ミ ツ バ チ の
した。
作品だと感じます。だから音楽をダウン
敬具
ロードで買うことなんてできないし、旅
『ゴールド・ラッシュのあとで』
(音楽出版社・1,890 円)
ン ス タ ー﹄︵ 小 学 館・ 二 六 二 五 円 ︶ が 書
ます。十数年前、松本大洋﹃GOGOモ
に連載された後、単行本として刊行され
漫画というものは、通常コミック雑誌
パーの店員たちの恋模様︵実話︶の漫画
て い た り、 自 身 の ブ ロ グ で 近 所 の ス ー
ラムを書いたり、料理雑誌で連載を持っ
も描いていますが、おしゃれな雑誌でコ
谷直角の作品。渋谷直角という人は漫画
コミック
フロアより
き下ろしで発表された際には、異例と表
が気になった方は是非お試しあれ。ちな
みに本作は著者がイベントなどで手売り
していたコピー本が基になっています。
﹁中国人漫画家が命がけで描いた﹂﹁当
局に知られたら、消されるかも﹂など物
騒な言葉が表紙に並ぶ﹃中国のヤバい正
を掲載したりと、とらえどころのない作
体﹄︵大洋図書・一一〇三円︶。著者の孫
現されていました。しかし昨今では、書
漫画原作者としても﹃へっポコ ! ﹄
︵角
向文は中国の杭州生まれ、中国国内の日
家です。
川書店・石川勝也画・品切れ︶という奇
本の下請企業で働きながら漫画を描いて
き下ろしや雑誌連載を経ていない漫画は
珍しくなくなりました。今回はそのよう
怪なギャグ漫画を刊行していますが、本
て い ま す。 サ ブ カ ル﹃ 漫 画 家 残 酷 物 語 ﹄
ど棘を感じるタイトルの短編が収録され
歌詞ばかりアップするブロガーの恋﹂な
楽 園 ﹂﹁ 空 の 写 真 と バ ン プ オ ブ チ キ ン の
芸人を基本認めていないお笑いマニアの
表題作の他にも﹁ダウンタウン以外の
会社を設立することになった日本人アニ
井上純一著・九九八円︶や中国でアニメ
性の﹃中国嫁日記﹄︵エンターブレイン・
までにも中国人女性と結婚した日本人男
としての視点で取り上げています。これ
問題、教育、環境、司法などを一中国人
ル、反日デモやウイグル地区などの国境
本作では中国の食品問題や不動産バブ
います。
作はタイトルでおわかりになる通り、輪
といった内容で、サブカル好きの心をズ
をかけて変わった漫画です。
タズタに切り裂く短編集です。タイトル
な漫画を紹介いたします。
『中国のヤバい正体』
﹃ カ フ ェ で よ く か か っ て い るJ P
-O
P のボサノヴァカバーを歌う女の一生﹄
− 28 −
―第6回―
︵ 扶 桑 社・ 一 一 五 五 円 ︶ は ラ イ タ ー の 渋
『カフェでよくかかっている J-POP の
ボサノヴァカバーを歌う女の一生』
メ ー タ ー の﹃ な ん で 私 が 中 国 に ﹄︵ イ ー
ストプレス・日野トミー著・一〇五〇円︶
など、中国を描いたエッセイコミックは
ありましたが、本作は現在も中国で生活
する中国人による漫画です。
なかなか国外には伝わってこない恐ろ
しいエピソードの数々、なかでも食品問
題 は 深 刻 で す。 下 水 溝 オ イ ル に プ ラ ス
あります。
に雑誌に掲載されたものを並べて掲載し
ているページです。応募した後に編集者
からの指導を受けて、格段に読みやすく
なっている掲載バージョンに、著者が手
探り状態で漫画の書き方を身につけてゆ
﹃ 失 踪 日 記 ﹄︵ イ ー ス ト プ レ ス・
く様が伝わってきます。
一一九七円︶で自身のホームレス生活を
プレス・一〇五〇円︶は、アニメ化され
アルコール依存症治療のための入院生活
た続編﹃失踪日記2
︵イー
アル中病棟﹄
ストプレス・一三六五円︶。タイトル通り、
描いた吾妻ひでおが、八年ぶりに刊行し
た育児エッセイ漫画﹃ママはぽよぽよザ
が描かれています。前述の﹃こんな私が
チック製食品、偽卵など恐ろしい食品用
で生きる著者らですが﹁中国人の胃腸は
マンガ家に ﹄のように、本作にも﹁そ
の目的はというと、日本の漫画雑誌で﹁パ
かいくぐっています。そこまでする著者
を隠して中国のネット警察の監視の目を
利用するなどの数々の苦労を重ね、身元
来ません。そこで著者は海外サーバーを
スしたり、サービスを利用することは出
トーリーものの少女漫画を描いていまし
週刊マーガレット。第一子出産まではス
である著者ですが、デビューは集英社の
ています。現在では元祖エッセイ漫画家
の構想を練り始めるところまでが描かれ
に﹃ マ マ は ぽ よ ぽ よ ザ ウ ル ス が お 好 き ﹄
描き始めるところから、第二子の妊娠中
活動の代わりに漫画賞に投稿する作品を
デザイン学校に通っていた著者が就職
が書店員としての腕の見せ所でもあるの
供することが大切になってきます。そこ
ので、店頭での読者と作品の出会いを提
は、その分人の目に触れる機会が少ない
ます。
ル依存症の恐ろしさを雄弁に物語ってい
ような、線がヨレヨレのもので、アルコー
院中に描いた絵は、漫画家とは思えない
の頃描いた絵﹂が収録されています。入
ンチラ全開の漫画﹂を連載することなの
で、今後も努力してゆきたいと思います。
﹄︵イースト
宇宙一﹂と笑い飛ばしてしまう剛胆さも
ウ ル ス が お 好 き ﹄︵ 幻 冬 舎・ 全 四 巻 各
﹃こんな私がマンガ家に
備えています。また著者はインターネッ
一二六〇円︶で知られる漫画家・青沼貴
です。なんとも親しみのわくエピソード
た。本作の特筆すべき部分は、デビュー
雑誌に掲載されていない作品というの
であり、同時に表現の自由がない中国で
︵池袋本店
飯澤︶
語の数々。そんな食品汚染まみれの社会
ト で 中 国 国 外 の 情 報 を 収 集 し て い ま す。
子の﹁マンガ家半生を描いた﹂作品。
!?
作の原稿の漫画賞に応募したものと実際
く、通常は自由に海外のサイトにアクセ
中国のネット検閲と規制は世界一厳し
『こんな私がマンガ家に !?』
生きる息苦しさも感じるエピソードでも
− 29 −
!?
ク レ ッ ト と い う 薄 い 本 だ が、 そ ん な 私 に 出 版 業 界 が い
書店をめぐる業界話にも相当の興味がある。本書はブッ
か が 最 大 の 関 心 事 で あ る が、 そ れ に 関 連 し て 出 版 社 や
読書が趣味の私は新しくどんな本が出版されている
﹃書籍文化の未来 ︱ 電子本か印刷本か﹄
ることで本の中味︵知識︶を構造化できる﹂のがよい。
久 的 に 保 存 で き る。 著 者 が い う よ う に﹁ ペ ー ジ を め く
と し て の 多 様 性 が 豊 か で、 置 く 場 所 は 取 ら れ る が 半 永
一方印刷本は読みやすく用紙や頁の余白装丁など本
関
博之
本 の 共 存 ﹂ を は か る 努 力 を す る こ と だ と 結 論 付 け る。
著者は電子本を否定するのではなく、﹁電子本と印刷
副 題 に あ る よ う に、 本 書 は 電 子 本 と 印 刷 本 を 比 較 し
そ れ に は 読 者 の 存 在 が 重 要 で、 読 者 の 本 の 読 み 方 が 一
まどんな状況に置かれているかを色々教えてくれた。
な が ら 論 じ て い る と こ ろ が 一 番 の 読 み ど こ ろ で あ る。
つの重要な要素になるという。
︵岩波ブックレット・赤木昭夫著・本体五二五円︶
*﹃書籍文化の未来︱電子本か印刷本か﹄
︵七十七歳
無職︶
電 子 本 は 中 味 を 販 売 す る の で は な く﹁ 中 身 の 使 用 を 許
可 す る ラ イ セ ン ス 契 約 ﹂ な の で 所 有 感 が 薄 い。 ま た 中
身 の 存 在 感 も 希 薄。 読 み づ ら い の で 読 む 速 度 が 印 刷 本
よ り 二 十% か ら 三 十% 低 下 す る。 そ し て リ ー ダ ー の 物
理 的 寿 命 か ら 電 子 本 の 寿 命 は 五 ∼ 十 年 だ と い う。 こ れ
で は、 入 手 が 容 易 で 保 存 場 所 を 取 ら ず 容 易 な 検 索 や マ
ル チ メ デ ィ ア の 可 能 性 な ど の 利 点︵ 付 加 価 値 ︶ を あ げ
られても、私には手を出しにくい。
− 30 −
II N
N FF O
O RR M
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A TT II O
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N
旭 川 店
大宮髙島屋店
京都朝日会館店
☎(048)640 3111
☎(075)253 6460
☎(078)
854 5551
〔営業時間〕10時∼ 19時半 〔営業時間〕10時∼ 21時
〔営業時間〕10時∼ 20時
〔営業時間〕10時∼ 21時
☎(0166)26 1120
MARUZEN &ジュンク堂書店
札 幌 店
池袋本店
三宮駅前店
大阪本店
☎(03)5956 6111
神戸住吉店
☎(078)
252 0777
☎(06)4799 1090
☎(011)223 1911 〔営業時間〕月 ∼ 土 10時 〔営業時間〕10時∼ 21時 〔営業時間〕10時∼ 21時
〔営業時間〕10時∼ 21時
弘前中三店
☎(0172)34 3131
〔営業時間〕午前10時∼
午後7時
∼ 23時、日祝
10時∼ 22時
MARUZEN &ジュンク堂書店
梅 田 店
プレスセンター店
☎(03)3502 2600
〔営業時間〕10時∼ 20時
☎(06)6292 7383
〔営業時間〕10時∼ 22時
梅田ヒルトンプラザ店
MARUZEN &ジュンク堂書店
秋 田 店
☎(018)884 1370
〔営業時間〕10時∼ 20時
盛 岡 店
☎(019)601 6161
〔営業時間〕10時∼ 21時
仙台本店
☎(022)716 4511
〔営業時間〕10時∼ 20時
仙台 TR 店
☎(022)265 5656
〔営業時間〕10時∼ 21時
仙台ロフト店
渋 谷 店
☎(06)6343 8444
☎(03)5456 2111 〔営業時間〕11時∼ 22時
〔営業時間〕10時∼ 21時
吉祥寺店
天満橋店
☎(06)6920 3730
☎(0422)28 5333 〔営業時間〕10時∼ 21時
〔営業時間〕10時∼ 21時
上本町店
藤 沢 店
☎(0466)52 1211
〔営業時間〕10時∼ 21時
〔営業時間〕10時∼ 20時
☎(06)6635 5330
新静岡店
☎(054)275 2777 〔営業時間〕10時∼ 21時
〔営業時間〕10時∼ 21時
岡島甲府店
〔営業時間〕月∼土10時半∼
(055)231 0606
20 時半、日祝 ☎
10時∼ 20時半 〔営業時間〕10時∼ 19時
☎(052)249 5592
〔営業時間〕10時∼ 21時
〔営業時間〕10時半∼ 20時
☎(06)4396 4771
〔営業時間〕10時∼ 21時
〔営業時間〕10時∼ 19時
〔営業時間〕10時∼ 21時
松戸伊勢丹店
☎(06)6626 2151
〔営業時間〕10時∼ 20時
西 宮 店
☎(052)589 6321
〔営業時間〕10時∼ 21時
姫 路 店
☎(079)
221 8280
〔営業時間〕10時∼ 21時
岡 山 店
☎(086)
236 1877
〔営業時間〕10時∼ 21時
広島駅前店
☎(082)
568 3000
松 山 店
☎(089)
915 0075
福 岡 店
☎(092)
738 3322
〔営業時間〕10時∼ 21時
近鉄あべのハルカス店
名古屋店
☎(024)927 0440
舞 子 店
☎(078)
787 1250
〔営業時間〕10時∼ 21時
難 波 店
ロフト名古屋店
新 潟 店
☎(025)374 4411
〔営業時間〕10時∼ 21時
〔営業時間〕10時∼ 21時
千日前店
MARUZEN &ジュンク堂書店
☎(022)726 5660
郡 山 店
☎(06)6771 1005
三 宮 店
☎(078)
392 1001
☎(0798)68 6300
〔営業時間〕10時∼ 21時
京 都 店
芦 屋 店
大 分 店
☎(097)
536 8181
〔営業時間〕10時∼ 20時
鹿児島店
☎(099)
216 8838
〔営業時間〕10時∼ 20時
那 覇 店
☎(047)308 5111
☎(075)252 0101
☎(0797)31 7440
☎(098)
860 7175
〔営業時間〕10時∼ 21時
〔営業時間〕10時∼ 21時
〔営業時間〕10時∼ 20時
〔営業時間〕10時∼ 22時
営業時間は変更する場合がございます。ご了承ください。
定休日については、お手数をおかけしますが弊社 HP または直接各店までお問い合わせ下さい。
− 31 −
本にまつわるエッセイ、など本に関するもの。最近読んでおも
☆読者の皆様の投稿を募集しています。最近読まれた本の感想文、
しろかった本、感動した本、考えさせられた本を教えて下さい。
四〇〇字∼六〇〇字程度で、おすすめの本のタイトル、出版社、
掲載分には二千円の図書カードを差し上げます。なお、原稿はお
い つ も﹁ 書 標 ﹂ を ご 愛 読 い た だ き ま し て
ありがとうございます。本誌定期購読料は
以下の通りです。
定期購読料
年間一二〇〇円︵送料込︶
現金書留もしくは八十円切手十五枚で
お申し込み先
│
ジュンク堂書店ジュンク特急便係
東京都豊島区南池袋二 一五 五
五九五六 六一〇〇
五九五六 六一二〇
〇三
│
編集後記
│
住所、氏名、年齢、職業を明記の上、お送り下さい。
〒
│
〇三
FAX TEL
返しいたしませんのでご了承下さい。
│
ジュンク堂書店﹁書標﹂編集室係
東京都豊島区南池袋二 一五 五
│
│
│
http://www.junkudo.co.jp/
パソコンから
携帯・MOBILE から
mobile QR コード
す。ご期待下さい。
いう企画をご紹介する予定で
している﹁愛書家の楽園﹂と
す。池袋本店一階で毎月展開
ページが来月号から変わりま
今号まで掲載してきた特集
http://www.junkudo.co.jp/
mobile/
︵茉︶
− 32 −
☆尚、本誌掲載と同時に、ホームページにも掲載させていただきます。
〒
1710022
ᛩ
Ⓜ
൐
㓸
1710022
いているような書店を探してはよく通うように
しでも多くの種類の本、みたことのない本を置
﹁そこで育つ若者が自分の人生を考える契機﹂
を抱かせるもの﹂でもあり、とくに先に書いた
残した先人とその集積としての知への畏敬の念
は、書店員になってからです。
﹁教科書販売店﹂だったということを知ったの
そ の 書 店 が 経 営 的 に は 安 定 し や す い、 地 域 の
見 え な い、 私 に と っ て 不 思 議 な 書 店 で し た。
く、 繁 盛 し て い な い は ず な の に 苦 し そ う に も
書 店 で し た が、 お 店 の 人 は 朗 ら か で 感 じ も よ
にはまったく繁盛しているようには見えない
す ら し て い な い、 当 時 小 学 生 だ っ た の 私 の 目
ス で、 最 新 刊 や ベ ス ト セ ラ ー は ほ と ん ど 入 荷
で す。 主 に 置 か れ て い た の は 雑 誌 や コ ミ ッ ク
ました。十坪程度のいわゆる﹁町の本屋さん﹂
ん で お り、 店 の す ぐ 隣 に は 小 さ な 書 店 が あ り
ま し た。 父 の 実 家 は 地 元 商 店 街 で パ ン 屋 を 営
私は人口十万人のとある地方都市に生まれ
まいます。
﹁紙の本をしっかりとそろえて売る
ことを考える﹁契機﹂そのものがなくなってし
育つ若者が﹁本を読んで勉強したい﹂といった
そろえてちゃんとした書店﹂がないと、そこで
く人が生まれ育つ場所に﹁紙の本をしっかりと
であれ﹁ナショナルチェーン﹂であれ、とにか
﹁ 町 の 本 屋 さ ん ﹂ で あ れ﹁ 少 し 大 き な 書 店 ﹂
いい刺激として聞いていたものです。
していて、それはそれで今の私の職につながる
していたんだけどね﹂などと露骨な不満を漏ら
や池袋には大きな本屋があって専門書も充実
屋に読みたい本はまず置いてないなあ⋮⋮新宿
てきた私の親などは、当時から﹁この辺りの本
が、学生時代を東京で過ごし、その後地元に戻っ
というほかになかったとつくづく感じています
できる環境にあったこと自体﹁運がよかった﹂
てしまったのかもしれません。
街がすでに﹁人が生まれ育つ場所﹂でなくなっ
が な く な っ て し ま っ て い ま す。 その地元商店
い し て し ま い ま し た。 い ま や 商 店 街 そ の も の
子も孫も継がなかった実家のパン屋も店じま
の 本 屋 さ ん ﹂ は 店 じ ま い し て し ま い ま し た。
な も の と な っ た に 違 い な く、 先 に 書 い た﹁ 町
教科書販売店の安定的な売上ももはや不安定
無頓着であるものです。
は と も か く、 未 知 の も の を 喪 失 す る こ と に は
若 者 な ど い ま せ ん。 人 は、 既 知 の も の の 喪 失
まった ! ﹂とわざわざ考えいたる読書嫌いの
て も﹁ 本 を 糧 に 将 来 を 考 え る 契 機 を 逃 し て し
素朴に思うことのできる読書好きの若者はい
書 店 に 出 会 え ず﹁ も っ と 本 を 読 み た い な ﹂ と
る と い う こ と に 他 な り ま せ ん。 ち ゃ ん と し た
通 は そ の よ う な﹁ 契 機 ﹂ に つ い て 無 自 覚 で あ
さ ら に 肝 心 な の は、 当 事 者 で あ る 若 者 が 普
の演出には絶対に欠かせないものなのです。
なりました。そんな若い好奇心を満たしてくれ
るような﹁少し大きな書店﹂の存在はそれだけ
身近にそのような﹁町の本屋さん﹂は存在し
ちゃんとした書店﹂が備え持つ、本がずらっと
﹁人が生まれ育つ場所﹂
の書店
ていたものの、それが多様な書籍と巡り合う機
ならんでいるあの﹁迫力﹂は、
﹁それらを書き
でも本当にありがたく、またそこに行くことが
会にはなりえませんでしたから、中学生になり
TEL TEL
高校生になって行動範囲が広がるころには、少
653- 6500013 0021
0
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一〇〇一
五二一二
私が地元を離れる頃は少子化も著しくなり
0
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︵苞︶
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二〇一三年十一月五日発行
﹁書
﹂ 第 号
ほんのしるべ
頒価五十円︵本体四十八円︶
標
編集・発行人
工
藤
恭
孝
神戸市中央区三宮町一の六の十八
︵〇七八︶三九二
発 行 所
㈱ジュンク堂書店 〒
印 刷 所
︵〇七八︶五七五
㈱七
旺
社
〒 神戸市長田区一番町二丁目一
420
0
0
0
│
│
0
年7月 日第三種郵便物認可
月5日
毎月1回
5日発行
通巻第 号
ほんのしるべ﹂ 昭和
2013年
﹁書標 11
61
15
420
頒 価 五十円︵本体
四十八円︶
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携帯からは http://www.junkudo.co.jp/mobile/